(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-04
(45)【発行日】2023-09-12
(54)【発明の名称】コアシェル複合体及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C22C 1/00 20230101AFI20230905BHJP
B22F 1/18 20220101ALI20230905BHJP
【FI】
C22C1/00 N
B22F1/18
(21)【出願番号】P 2019030027
(22)【出願日】2019-02-22
【審査請求日】2022-01-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(72)【発明者】
【氏名】宮澤 篤史
【審査官】岡田 隆介
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-095151(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2006/0150770(US,A1)
【文献】特開昭55-053017(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0333774(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 1/00
H01M 4/00-4/62
B22F 1/18
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機酸化物、セラミックス及び鉱物から成る群より選ばれる少なくとも1種の耐熱性材料を含み剛性を有するコア部と、このコア部の全部又は一部を包囲し水素吸放出性金属を含む少なくとも1層のシェル部
、及び、上記シェル部のうちの最外層の外側に、水素ガス透過性と耐熱性を併有する耐熱性水素透過殻層を備えたコアシェル複合体であって、
上記コア部に含まれる耐熱性材料は、
ジルコニアであることを特徴とするコアシェル複合体。
【請求項2】
上記水素吸放出性金属が、水素吸蔵合金を構成できる構成金属又は水素吸蔵合金から成る請求項1に記載のコアシェル複合体。
【請求項3】
上記水素吸放出性金属が、水素吸蔵合金を構成できる2種以上の構成金属又は2種以上の水素吸蔵合金から成り、これら2種以上の構成金属又は水素吸蔵合金がそれぞれ別層のシェル部を構成している請求項1
又は2に記載のコアシェル複合体。
【請求項4】
融点の低い上記構成金属又は上記水素吸蔵合金を含むシェル部が、上記コア部と融点の高い上記構成金属若しくは上記水素吸蔵合金から成るシェル部とで挟持されるか、又は融点の高い上記構成金属若しくは上記水素吸蔵合金から成るシェル部同士で挟持されている請求項
3に記載のコアシェル複合体。
【請求項5】
上記水素吸蔵合金を構成する構成金属が、チタン(Ti)、マンガン(Mn)、ジルコニウム(Zr)、ニッケル(Ni)、バナジウム(V)、ランタン(La)、パラジウム(Pd)、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、コバルト(Co)、銅(Cu)、鉄(Fe)、銀(Ag)、ロジウム(Rh)及びアルミニウム(Al)から成る群より選ばれた少なくとも1種の元素であるか、当該元素を含む合金である請求項
2~
4のいずれ1つの項に記載のコアシェル複合体。
【請求項6】
請求項1~
5のいずれか1つの項に記載のコアシェル複合体を製造するに当たり、
非酸化雰囲気下の蒸着によって、上記シェル部を上記コア部に被覆することを特徴とするコアシェル複合体の製造方法。
【請求項7】
上記蒸着をスパッタリングにより行い、
上記シェル部が複数層の場合、この複数層の各層に対応するターゲットの変更を窒素気流下で行うか、又は上記ターゲット変更後のスパッタリング開始前にアルゴンボンバリングを行う請求項
6に記載のコアシェル複合体の製造方法。
【請求項8】
上記コアシェル複合体は、上記最外層のシェル部の外側に、水素ガス透過性と耐熱性を併有する耐熱性水素透過殻層を備え、
この耐熱性水素透過殻層を、上記最外層のシェル部に含まれる水素吸放出性金属の酸化による酸化被膜の生成、又はメッキにより形成する請求項
6又は
7に記載のコアシェル複合体の製造方法。
【請求項9】
上記コアシェル複合体は、上記最外層のシェル部の外側に、水素ガス透過性と耐熱性を併有する耐熱性水素透過殻層を備え、
この耐熱性水素透過殻層を、酸化物ターゲット又は炭化物ターゲットを用いたスパッタリングにより形成する請求項
6又は
7に記載のコアシェル複合体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、コアシェル複合体及びその製造方法に係り、更に詳細には、水素吸放出能を有し、熱履歴に対して所期性能が劣化し難いコアシェル複合体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、水素を可逆的に吸収・放出する水素吸蔵合金が知られており(例えば、特許文献1参照。)、水素ガス貯蔵装置、水素ガス生成装置及び各種二次電池などへの応用が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、粉粒体状の水素吸蔵合金の性状や性能については未だ検討の余地がある。本発明者が検討を加えた結果、このような粉粒体状の水素吸蔵合金を高温下で繰り返し使用すると、性能劣化を引き起こすことを知見した。
【0005】
本開示は、上述のような知見に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、熱履歴に対して所期の水素吸放出能等が劣化し難いコアシェル複合体及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示においては、耐熱性を有する所定のコア部と水素吸放出能を有するシェル部を組み合わせたコアシェル複合体により、上記目的が達成できることを見出した。
【0007】
即ち、本開示に係るコアシェル複合体は、無機酸化物、セラミックス及び鉱物から成る群より選ばれる少なくとも1種の耐熱性材料を含み剛性を有するコア部と、このコア部の全部又は一部を包囲し水素吸放出性金属を含む少なくとも1層のシェル部を備えたコアシェル複合体であって、
上記コア部に含まれる耐熱性材料は、その融点が上記シェル部に含まれる水素吸放出性金属のうちの最も高いものの融点よりも高いことを特徴とする。
【0008】
本開示のコアシェル複合体の好適形態は、上記シェル部のうちの最外層の外側に、水素ガス透過性と耐熱性を併有する耐熱性水素透過殻層を備える。
【0009】
本開示のコアシェル複合体の他の好適形態は、上記水素吸放出性金属が、水素吸蔵合金を構成できる構成金属又は水素吸蔵合金から成る。
【0010】
本開示のコアシェル複合体の他の好適形態は、上記水素吸放出性金属が、水素吸蔵合金を構成できる2種以上の構成金属又は2種以上の水素吸蔵合金から成り、これら2種以上の構成金属又は水素吸蔵合金がそれぞれ別層のシェル部を構成している。
【0011】
本開示のコアシェル複合体の他の好適形態は、融点の低い上記構成金属又は上記水素吸蔵合金を含むシェル部が、上記コア部と融点の高い上記構成金属若しくは上記水素吸蔵合金から成るシェル部とで挟持されるか、又は融点の高い上記構成金属若しくは上記水素吸蔵合金から成るシェル部同士で挟持されている。
【0012】
本開示のコアシェル複合体の他の好適形態は、上記水素吸蔵合金を構成する構成金属が、チタン(Ti)、マンガン(Mn)、ジルコニウム(Zr)、ニッケル(Ni)、バナジウム(V)、ランタン(La)、パラジウム(Pd)、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、コバルト(Co)、銅(Cu)、鉄(Fe)、銀(Ag)、ロジウム(Rh)及びアルミニウム(Al)から成る群より選ばれる少なくとも1種の元素であるか、当該元素を含む合金である。
【0013】
一方、本開示のコアシェル複合体の製造方法は、上述のようなコアシェル複合体を製造するに当たり、
非酸化雰囲気下の蒸着によって、上記シェル部を上記コア部に被覆することを特徴とする。
【0014】
また、本開示のコアシェル複合体の製造方法の好適形態は、上記蒸着をスパッタリングにより行い、
上記シェル部が複数層の場合、この複数層の各層の形成に使用するターゲットを窒素気流下等の不活性雰囲気下で変更する、又は各層を形成するスパッタリング開始前の逆スパッタ等、試料表面の酸化被膜層の除去を行う。
【0015】
本開示のコアシェル複合体の製造方法の他の好適形態は、上記コアシェル複合体は、上記最外層のシェル部の外側に、水素ガス透過性と耐熱性を併有する耐熱性水素透過殻層を備え、
この耐熱性水素透過殻層を、上記最外層のシェル部に含まれる水素吸放出性金属の酸化による酸化被膜の生成、又はメッキにより形成する。
【0016】
本開示のコアシェル複合体の製造方法のさらに他の好適形態は、上記コアシェル複合体は、上記最外層のシェル部の外側に、水素ガス透過性と耐熱性を併有する耐熱性水素透過殻層を備え、
この耐熱性水素透過殻層を、酸化物ターゲット又は炭化物ターゲットを用いたスパッタリングにより形成する。
【発明の効果】
【0017】
本開示によれば、熱履歴に対して所期の水素吸放出能等が劣化し難いコアシェル複合体及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本開示のコアシェル複合体の一実施形態を示す断面図である。
【
図2】本開示のコアシェル複合体の他の実施形態を示す断面図である。
【
図3】本開示のコアシェル複合体のさらに他の実施形態を示す断面図である。
【
図4】実施例1のコアシェル複合体(全体)のSEM写真である。
【
図5】実施例1のコアシェル複合体(部分表面)のSEM写真である。
【
図6】実施例1のコアシェル複合体(部分断面)のSEM写真である。
【
図7】本開示のコアシェル複合体の一例の部分断面を示すSEM写真である。
【
図8】海島構造を有するコアシェル複合体の一例を示す断面図である。
【
図9】凹凸層構造を有するコアシェル複合体の一例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本開示のコアシェル複合体について説明する。
上述のように、本開示のコアシェル複合体は、コア部と、このコア部の全部又は一部を包囲する少なくとも1層のシェル部を備えたコアシェル複合体である。
このコアシェル複合体では、耐熱性材料がコア部に含まれ、且つ水素吸放出性金属がシェル部に含まれるが、耐熱性材料の融点は1層又は複数層のシェル部に含まれる水素吸放出性金属のうちの最も高いものの融点よりも高い。
【0020】
(実施形態1)
本実施形態のコアシェル複合体は、コア部と複数層のシェル部を備えているコアシェル複合体である。
図1は、本開示のコアシェル複合体の一実施形態を概念的に示す断面図である。
同図に示すコアシェル複合体1は、コア部10と、第1シェル部20と、第2シェル部21を備えており、コア部10はその全面を第1シェル部20によって包囲されている。また、コアシェル複合体1においては、第1シェル部20はその全面を第2シェル部21によって包囲されている。
コアシェル複合体1において、コア部10はZrO
2、第1シェル部20はNi、第2シェル部21はAlから構成されているが、これらの融点は高い方からZrO
2(約2,715℃)、Ni(約1,455℃)、Al(約660.3℃)の順である。
【0021】
コアシェル複合体1において、コア部10は、耐熱性材料を含み、耐熱性と剛性を有し、コアシェル複合体1が熱履歴に対してほぼ一定の形状を維持することを可能にしている。
具体的には、コア部10は、常温近傍から所望の温度近傍(例えば、目的とする処理温度や反応温度の近傍)において、その初期形状を維持できるとともに、自発的に曲がる、捻れるなどの変形を生じない程度の硬さを有する。
【0022】
一方、シェル部は、本実施形態に係るコアシェル複合体1では第1シェル部20と第2シェル部21との2層で構成されており、第1シェル部と第2シェル部とは、それぞれ異なる水素吸放出性金属を含む。コアシェル複合体1において、シェル部は水素吸放出性金属の一例である水素吸蔵合金を構成できる構成金属(Al,Ni)を含み水素吸放出能を有する。
本実施形態において、シェル部の各層の厚みはコア部の大きさに対して十分に薄ければよく、10nm以上1μm以下、好ましくは50nm以上800nm以下であることが例示でき、また、シェル部全体の厚みとして、10nm以上2μm以下、好ましくは50nm以上1.5μm以下、より好ましくは200nm以上1μm以下が例示できる。
本実施形態では、熱処理を施すことにより、第1シェル部と第2シェル部との界面の一部又は全部に水素吸蔵合金が形成されてもよく、コアシェル複合体1においては、第1シェル部20と第2シェル部21との界面の一部又は全部にNi-Al系の水素吸蔵合金が形成されてもよい。
【0023】
コアシェル複合体1において、コア部10に含まれる耐熱性材料ZrO2の融点は、上記の構成金属のうち融点が高いもの(Ni)の融点よりも高いため、たとえ第1シェル部20と第2シェル部21が部分的に融解することがあっても、コア部10は初期形状を維持し、この結果、コアシェル複合体1の形状、特にマクロ的な形状は初期形状を維持し得る。
【0024】
かかる初期形状の維持により、コアシェル複合体における表面積(具体的には反応表面積など)の低減を抑制でき、熱履歴に対して水素吸放出能などの性能の低下を長期に亘って抑制することができる。コアシェル複合体が粉粒体状をなす場合、当該効果が顕著になる。
粉粒体状のコアシェル複合体を、粉粒体の集合体としてマクロ的に観察すれば、本実施形態のコアシェル複合体は、熱履歴に対して粒度分布の変化が少ない粉粒集合体を提供するものであり、これらが使用される処理や操作に繰り返し効果の均一性を提供するものである。
【0025】
コアシェル複合体1においては、外側に位置する第2シェル部にAlが、その内側に位置する第1シェル部にNiとなっている。このようにAlが第2シェル部として外側に位置する場合であっても、コアシェル複合体1が曝される温度がAlの融点付近であれば、コアシェル複合体1の初期形状は維持可能である。
さらに、仮に外側に位置する第2シェル部がNiであり、その内側に位置する第1シェル部がAlである場合、第1シェル部の融点よりも第2シェル部の融点が高くなり、さらにNiよりもコア部10のZrO2の融点が高いので、コアシェル複合体1がAlの融点よりもかなり高い温度に曝されても、コアシェル複合体1の初期形状がより維持されやすくなる。
【0026】
(実施形態2)
次に、本開示のコアシェル複合体の他の実施形態を示す。
本実施形態のコアシェル複合体は、実施形態1と同様な構造を有するコアシェル複合体であって、なおかつ、シェル部のうちの最外層の外側に耐熱性水素透過殻層を備える。
図2は、本実施形態のコアシェル複合体を概念的に示す断面図である。同図に示すコアシェル複合体2は、実施形態1と同様の構造を有しているが、シェル部のうちの最外層に相当する第2シェル部21の外側に、耐熱性水素透過殻層を備えている。なお、
図2は、それぞれ、第1シェル層をNiが、第2シェル層をAlが構成しているが、本実施形態のコアシェル部材が耐熱性水素透過殻層を備える場合、第1シェル層をNiが、第2シェル層をAlが構成する等、最外層のシェル層の融点が、コア部側に位置しているシェル層の融点より低い構成であってもよい。
本実施形態において、耐熱性水素透過殻層(以下、「殻層」ともいう。)は水素ガス透過性を有し、かつ、その融点がシェル部のうちの最外層の融点よりも高いものであればよい。コアシェル複合体2において、上記の殻層30は、融点が約2,072℃のAl
2O
3から構成されており、上述のような耐熱性と水素ガス透過性を有する。殻層の融点は、コア部の融点以下であればよい。
【0027】
コアシェル複合体2においては、上述のような耐熱性水素透過殻層30を有するので、このコアシェル複合体2を、第2シェル部21を構成するAlの融点よりも高い温度に曝しても、十分な耐熱性と剛性を有するコア部10と殻層30とで第1及び第2シェル部を挟持して固定することになる。当該作用がコアシェル複合体2の初期形状が変化しがたい理由の一つと考えられる。よって、本実施形態のコアシェル複合体では、第1シェル部を構成する金属の融点よりも第2シェル部を構成する金属の融点が低くてもよく、シェル部のうちの最外層の外側に殻層を有するため、上述の初期形状維持による優れた効果を得ることができる。
また、殻層30は水素ガス透過性を有するので、第1シェル部20と第2シェル部21との界面に生成したNi-Al系の水素吸蔵合金の機能が実質的に損なわれることがない。
殻層30の厚さは殻層が水素ガス透過性を示す厚さであればよく、10nm以上1μm以下、好ましくは50nm以上300nm以下が例示できる。
【0028】
(実施形態3)
次に、本開示のコアシェル複合体のさらに他の実施形態を示す。
本実施形態のコアシェル複合体は、実施形態1と同様な構造を有するコアシェル複合体であって、なおかつ、シェル部が3層以上、好ましくは3層以上6層以下、より好ましくは3層以上5層以下、で構成される。シェル部を構成する各層は、少なくとも、これと接する層に含まれる水素放出性金属と異なる水素放出性金属を含む。さらに、本実施形態のコアシェル複合体は、シェル部のうちの最外層の外側に耐熱性水素透過殻層を備えていてもよい。
図3は、本実施形態のコアシェル複合体を概念的に示す断面図である。同図において、本実施形態のコアシェル複合体3は、構成金属Alから成る第1シェル部20及び第3シェル部22、並びに構成金属Niから成る第2シェル部21を有し、第2シェル部は、第1シェル部及び第3シェル部に挟持されている。なお、
図3に示してはいないが、コアシェル複合体3は、本実施形態2と同様に、第3シェル部22の外側に耐熱性水素透過殻層を備えていてもよい。
【0029】
コアシェル複合体3は、水素吸蔵合金を構成できる構成金属(Ni,Al)のうちの、融点が高い方の構成金属Niから成る第1及び第3シェル部20と22で、融点が低い方の構成金属から成る第2シェル部21を挟持する構造を有している。
よって、コアシェル複合体3は、第2シェル部が融解する程度の熱処理を施されても、初期形状を維持することができる。
【0030】
なお、コアシェル複合体3のように、融点の低い構成金属を融点の高い構成金属で挟持する等、最外層のシェル部が融点の高い金属を含むことにより、両構成金属の合金化・マイグレーションを促進することができ、所望の水素吸蔵合金を効率よく生成させることができるようになる。
【0031】
<材質、形状、他の構造等>
次に、以上に説明したコアシェル複合体を構成するコア部やシェル部の材質及び性能等につき説明する。
【0032】
コア部には、無機酸化物、セラミックス又は鉱物、及びこれら任意の組み合わせに係る耐熱性材料が含まれるが、具体的には、ジルコニア(ZrO2)、アルミナ(Al2O3)、シリカ(SiO2)、炭化ケイ素及びゼオライトなどを挙げることができ、好ましくはジルコニア、アルミナ及びシリカから成る群より選ばれる1種以上、より好ましくはジルコニア及びシリカの少なくともいずれかが挙げられる。
コア部に含まれるジルコニアは、好ましくは安定化ジルコニアであり、より好ましくはイットリア(Y2O3)、カルシア(CaO)、セリア(CeO2)及びマグネシア(MgO)からなる群より選ばれる1種以上で安定化されたジルコニアであり、さらに好ましくはイットリアで安定化されたジルコニアである。
コア部の強度向上の観点から、イットリアで安定化されたジルコニアのイットリア含有量は、ジルコニア及びイットリアの合計に対するイットリアとして2mol%以上6mol%以下、好ましくは2mol%以上4mol%以下である。ジルコニアの結晶相は、正方晶を主相とするジルコニアであることが好ましい。
操作性の観点から、コア部は、圧縮強度が100MPa以上1200MPa以下であると、好ましくは850MPa以上1100MPa以下であることが例示できる。
【0033】
シェル部に含まれる水素吸放出性金属は、水素ガスを吸収及び放出できる金属を意味するが、いわゆる水素吸蔵合金を構成できる1種又は複数種の元素(構成金属)、1種又は複数種の水素吸蔵合金がこれに相当する。
【0034】
上記の構成金属としては、チタン(Ti)、マンガン(Mn)、ジルコニウム(Zr)、ニッケル(Ni)、バナジウム(V)、パラジウム(Pd)、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、コバルト(Co)、鉄(Fe)、銀(Ag)、ロジウム(Rh)又はアルミニウム(Al)、及びこれらの任意の組み合わせに係る元素、当該元素又は混合元素を含む合金を例示することができる、好ましくはチタン、マンガン、ジルコニウム、ニッケル、マグネシウム、カルシウム、コバルト及びアルミニウムからなる群より選ばれる1種以上であり、より好ましくはニッケル及びアルミニウムから成る群より選ばれる1種以上であり、より好ましくはニッケル及びアルミニウムの少なくともいずれかである。
上記の水素吸蔵合金としては、従来公知のものを示すことができ、例えばカルシウム、パラジウム、マグネシウム、バナジウム及びチタンから成る群より選ばれる1種以上と、鉄とを含む合金を例示することができる。さらに、六方晶もしくは立方晶を有し、希土類元素などを含むAB5型もしくはラーベス相を有するAB2型と呼ばれる水素吸蔵合金を例示することができる。
【0035】
さらに、耐熱性水素透過殻層に含まれる材料としては、コア部と同様の無機酸化物、セラミックス及び鉱物を挙げることができるが、金属酸化物及びセラミックスなどが好適であり、好ましくはジルコニア、アルミナ及びシリカから成る群より選ばれる1種以上、より好ましくはジルコニア及びアルミナの少なくともいずれかである。
【0036】
上述の実施形態では、個々のコアシェル複合体の形状として球形を例示して説明したが、コアシェル複合体やコア部、シェル部などの形状としては必ずしも球形や中空球形状に限定されるものではない。
球形以外に、楕円球形や鱗片状、柱状、板状、多面体状、円板状、錐状などを例示することができ、これら形状の選定は、コアシェル複合体への意図する処理や操作、コアシェル複合体の用途などに応じて適宜に選択することができる。マクロ的には、これらが集合した粉粒体状であってもよい。また、所望反応におけるコアシェル複合体の充填密度などに応じて選択することができ、充填密度として1g/cm3以上8g/cm3以下、好ましくは2g/cm3以上7g/cm3以下が例示できる。
【0037】
また、シェル部がコア部の一部や他のシェル部の一部を包囲する構造であっても、本開示の効果は得られる。
さらに、シェル部に含まれる水素吸放出性金属については、上述の通り、複数種を使用することができ、例えば、2種以上の上記構成金属や水素吸蔵合金がそれぞれ別層のシェル部を構成するように使用することができる(実施形態1~3参照)。
但し、これら2種以上の構成金属などで1層のシェル部を構成することも可能であり、本実施形態のコアシェル複合体を、例えばNiとAlが混在するシェル部を有するコアシェル複合体とすることができる。
【0038】
上記の場合、典型的には、第1シェル部からなるスポットと第2シェル部からなるスポットがコア部上に存在する、いわば海島構造(
図8参照)を採ることができる。
図8は、ZrO
2からなるコア部の一部に、第1シェル部としてNiからなるスポット(Niスポット)、及び第2シェル部としてAlからなるスポット(Alスポット)を有するコアシェル複合体である。この場合、コア部上における第1シェル部からなるスポットと第2シェル部からなるスポットの占有比率も適宜変更することができ、該占有比率として1:9から9:1、好ましくは2:8から8:2が例示できる。
また、第1シェル部からなるスポットと第2シェル部からなるスポットとには高低差(凹凸など)があってよい(
図9参照)。
本実施形態においては、コア部の表面の一部が露出していてもよいが、コア部の表面は、少なくともいずれかのシェル部で覆われていることが好ましく、コア部の表面が露出していない方が好ましい。
【0039】
<コアシェル複合体の製造方法>
次に、本開示のコアシェル複合体の製造方法について説明する。
本開示のコアシェル複合体の製造方法は、以上に説明したようなコアシェル複合体を製造する方法である。非酸化雰囲気下の蒸着によって、シェル部をコア部に被覆する処理を行い、コアシェル複合体を製造する。
【0040】
ここで、非酸化雰囲気下とは、実質的に酸化が進行しない雰囲気であり、具体的には、酸素不存在下、すなわち酸素が実質的に存在しない状態が挙げられる。非酸化雰囲気は、好ましくは不活性雰囲気又は真空雰囲気であり、より好ましくは真空雰囲気である。10-7Torr前後の減圧下や、アルゴンガスなどの不活性ガスが僅かに注入されている状態がさらに好ましい。このようなドライプロセスによる蒸着を適用することにより、酸素の混入を効果的に防止でき、純度の高い成膜を行うことができる。
【0041】
蒸着としてはCVDやPVD、好ましくはスパッタリングを例示できる。
スパッタリングを適用する場合、シェル部が複数層の場合、この複数層の各層に対応するターゲットの変更を窒素気流下で行うか、又は上記ターゲット変更後のスパッタリング開始前に逆スパッタリングを行うことが好ましい。
かかる処理によって、酸化を抑制でき、シェル部の構成金属などの間に酸化被膜が形成されるのを十分に抑制でき、且つ酸化被膜が生成されても効果的に除去できる。
【0042】
本開示のコアシェル複合体において、最外層のシェル部の外側に耐熱性水素透過殻層を設ける場合、耐熱性水素透過殻層を、表面処理、上記最外層のシェル部に含まれる水素吸放出性金属の酸化による酸化被膜の生成、又はメッキにより形成することが可能である。
溶液成分などを調整することにより、所望の酸化被膜を形成することができる。また、メッキによれば印加電圧や時間の調整により所望膜厚を実現し易い。
なお、上記の耐熱性水素透過殻層の形成は、酸化物ターゲット又は炭化物ターゲットを用いたスパッタリングにより形成することも可能である。
【実施例】
【0043】
以下、本開示に係るコアシェル複合体を実施例及び比較例により更に詳細に説明するが、本開示はこれら実施例に限定されるものではない。
【0044】
(実施例1)
東ソー製のジルコニアビーズ(商品名TZ-B30)をコアとして用い、これにスパッタリングによりNiシェル層とAlシェル層を順次被覆し、ほぼ球形をなす本例のコアシェル複合体を得た。スパッタリングは、ジルコニアビーズを配置したチャンバーを脱気し真空雰囲気とした。その後、Niターゲットを用いてNiシェル層を被覆した後、窒素流通下でターゲットを交換し、Alターゲットを用いてAlシェル層を被覆した。
使用したジルコニアビーズの性状等は下記の通りである。
組成:3mol%Y2O3含有ZrO2焼結体
圧縮強度:1050MPa
形態:球状
また、集合体(粉粒体)としてのジルコニアビーズの性状等は以下の通りである。
充填密度:3.50g/cm3
粒径分布:95%以上が20~38μm
【0045】
得られたコアシェル複合体は電界放射型電子顕微鏡(装置名:JMS-7600F、日本電子社製)を使用し、加速電圧5kVで、表面及び断面を観察した。得られたSEM写真を
図4~
図6に示す。
図4は全体、
図5は部分表面、
図6は部分断面を示している。
また、得られたコアシェル複合体を樹脂包埋した後に切断して得られた切断面を電界放射型電子顕微鏡(装置名:JEM-2100F、日本電子社製)を使用し、加速電圧200kVで観察し、また、エネルギー分散型X線分析機(装置名:JED-2300T、日本電子社製)を使用して断面の元素分析を行い、シェル層の厚みを求めた。本実施例のコアシェル複合体において、Niシェル層の厚みは約100nmで、Alシェル層の厚みは約700nmであった。
【0046】
(実施例2-1及び2-2)
実施例1のコアシェル複合体のAlシェル層の表面を酸化させることにより、Alシェル層の外側に、最外殻層としてAl
2O
3層を形成し、
図2に示したような各例のコアシェル複合体を得た。この際、Al
2O
3層の厚みを実施例2-1では80nm、実施例2-2では200nmとした。
なお、これらのコアシェル複合体において、ZrO
2コアの粒径は約30μm、Niシェア層の厚みは約100nm、Alシェル層の厚みは約700nmである。
参考のため、このようなAl
2O
3最外殻層を備えるコアシェル複合体の部分断面SEM写真を
図7に示す。
【0047】
(比較例1)
粒径30μm未満、99.8%試薬グレードのアルミニウム粉を本例の粒体とした。
【0048】
<性能評価>
[耐凝固性]
各例の粉体試料を1g秤取し、これを窒素雰囲気中5℃/分の昇温速度で700℃まで加熱し、1時間保持した後の各粉体試料の状態を観察した。但し、実施例1のコアシェル複合体については、ZrO2直径が30μm、Niシェル層厚さが100nm、Alシェル層厚さが700nmのものを用いた。得られた結果を表1に示す。
【0049】
【0050】
表1に示すように、本開示に属する実施例2-1及び2-2は粉体同士の凝固が発生せず、優れた耐熱性を示した。なお、実施例1については、部分的な凝固が見られたが実使用に問題の無いレベルであった。
これに対し、比較例1は凝固が激しく表面積の低減を招く状態であった。
【0051】
以上、本開示を若干の実施形態及び実施例によって説明したが、本開示はこれらに限定されるものではなく、本開示の要旨の範囲内で種々の変形が可能である。
例えば、実施形態や実施例では、ほぼ球形をなす粉体を例に採って説明したが、鱗片状や楕円球状のものであってもよい。コアシェル複合体を構成するコア部やシェル部、最外殻層の材質やその融点などは、目的とする反応や処理に応じて適宜に変更することができる。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本開示によれば、熱履歴に対して性能が劣化し難い水素吸放出材料が提供されるので、本開示のコアシェル複合体は耐久性が要求される分野や用途、例えば自動車やエネルギー貯蔵装置向け電源において特に有用である。
【符号の説明】
【0053】
1,2,3 コアシェル複合体
10 コア部
20 第1シェル部
21 第2シェル部
22 第3シェル部
30 殻層