(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-04
(45)【発行日】2023-09-12
(54)【発明の名称】微小構造体の移載用基板およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/02 20060101AFI20230905BHJP
【FI】
H01L21/02 A
H01L21/02 C
(21)【出願番号】P 2020085108
(22)【出願日】2020-05-14
【審査請求日】2022-05-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002240
【氏名又は名称】弁理士法人英明国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】上田 修平
(72)【発明者】
【氏名】竹内 正樹
(72)【発明者】
【氏名】山崎 裕之
(72)【発明者】
【氏名】塚田 健斗
【審査官】正山 旭
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-047106(JP,A)
【文献】特開2013-237583(JP,A)
【文献】特開2017-163138(JP,A)
【文献】特開2015-184622(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0091348(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
合成石英ガラス基板と、その表面上に設けられたシリコーン粘着剤層とを備える微小構造体の移載用基板であって、
前記基板の表面が、刻印を有し、
この刻印を覆うように前記シリコーン粘着剤層が設けられている微小構造体の移載用基板。
【請求項2】
前記合成石英ガラス基板が、その表面および裏面における6.01mm×6.01mmの領域について、白色干渉計によりピクセル数1240×1240で測定して得られる空間周波数1mm
-1以上におけるパワースペクトル密度が、10
12nm
4以下である請求項1記載の微小構造体の移載用基板。
【請求項3】
前記合成石英ガラス基板の裏面の面粗度(Ra)が、0.05μm以下である請求項1または2記載の微小構造体の移載用基板。
【請求項4】
前記刻印が、深さ3~25μm、ドットサイズ20~200μmのレーザーマークである請求項1~3のいずれか1項記載の微小構造体の移載用基板。
【請求項5】
合成石英ガラス基板の表面に刻印を設けて刻印を有する合成石英ガラス基板を得る工程、および
前記刻印を有する合成石英ガラス基板の表面上にシリコーン粘着剤層を設ける工程を有する請求項1~4のいずれか1項記載の微小構造体の移載用基板の製造方法。
【請求項6】
前記シリコーン粘着剤層を設ける工程が、刻印を有する合成石英ガラス基板の表面上にシリコーン粘着剤組成物を塗布した後、硬化させる工程である請求項5記載の微小構造体の移載用基板の製造方法。
【請求項7】
前記シリコーン粘着剤層を設ける工程が、刻印を有する合成石英ガラス基板の表面上にシリコーン粘着剤組成物の硬化物を貼り合せる工程である請求項5記載の微小構造体の移載用基板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微小構造体の移載用基板およびその製造方法に関し、さらに詳述すると、マイクロ発光ダイオード(以下、「マイクロLED」ともいう。)等の微小構造体の移載用基板に識別用レーザーが刻印された基板およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、スマートフォン、液晶ディスプレイ、車載部品等に代表されるようなエレクトロニクス機器には、高性能化のみならず、省スペース化、省エネルギー化も求められ、それと同時に搭載される電気電子部品も益々小型化・微細化し、その組立工程も年々複雑化している。
【0003】
特許文献1では、微細化した素子、例えばマイクロLED等の微小構造体の移載において、一枚のドナー基板に微小構造体を仮固定した状態で、工程数の増加なしに微小構造体の移載を精度よく、効率的に行うことができる微小構造体の移載方法および微小構造体が提案されている。
【0004】
また、製造ラインを流れる基板を管理するために、レーザーを用いて基板に直接文字や数字を刻印することが一般に行われており、例えば、非特許文献1では、基板へのレーザー刻印の基準が定められている。この刻印は、その情報を読み取ることで、品質管理や、出荷後の製品の使用頻度、消耗度合い等を管理するためにも有用であり、広く採用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【非特許文献】
【0006】
【文献】SEMI T7 0303 2次元マトリクスコードシンボルの両面研磨ウェーハ裏面マーキングの仕様,North American Traceability Committee,2003年3月発行
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1に記載の粘着剤層を備える微小構造体の移載用基板では、刻印後に樹脂を貼り合わせる、またはコーティングすることから、基板に刻印を入れる場合、基板裏面に入れることが通常であるが、基板裏面は、汚れや刻印周辺の盛り上がり部の接触による傷などがつきやすく、刻印の読み取りが安定的に継続できない場合があった。
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、刻印を有するマイクロLED等の微小構造体の移載用基板において、読み取り装置での刻印の認識エラーが発生しにくく、その読み取りが安定的に継続できる微小構造体の移載用基板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意検討を行った結果、基板表面に刻印を有し、その上にシリコーン粘着剤層を備える微小構造体の移載用合成石英ガラス基板によって、上記課題を解決し得ることを見出し、本発明を完成した。
【0010】
すなわち、本発明は、
1. 合成石英ガラス基板と、その表面上に設けられたシリコーン粘着剤層とを備える微小構造体の移載用基板であって、
前記基板の表面が、刻印を有する微小構造体の移載用基板、
2. 前記合成石英ガラス基板が、その表面および裏面における6.01mm×6.01mmの領域について、白色干渉計によりピクセル数1240×1240で測定して得られる空間周波数1mm-1以上におけるパワースペクトル密度が、1012nm4以下である1の微小構造体の移載用基板、
3. 前記合成石英ガラス基板の裏面の面粗度(Ra)が、0.05μm以下である1または2の微小構造体の移載用基板、
4. 前記刻印が、深さ3~25μm、ドットサイズ20~200μmのレーザーマークである1~3のいずれかの微小構造体の移載用基板、
5. 合成石英ガラス基板の表面に刻印を設けて刻印を有する合成石英ガラス基板を得る工程、および
前記刻印を有する合成石英ガラス基板の表面上にシリコーン粘着剤層を設ける工程を有する1~4のいずれかの微小構造体の移載用基板の製造方法、
6. 前記シリコーン粘着剤層を設ける工程が、刻印を有する合成石英ガラス基板の表面上にシリコーン粘着剤組成物を塗布した後、硬化させる工程である5の微小構造体の移載用基板の製造方法、
7. 前記シリコーン粘着剤層を設ける工程が、刻印を有する合成石英ガラス基板の表面上にシリコーン粘着剤組成物の硬化物を貼り合せる工程である5の微小構造体の移載用基板の製造方法
を提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明の微小構造体の移載用基板は、基板表面に刻印が施されているため、刻印部への汚れや傷の発生が抑えられる結果、刻印の安定的な読み取りが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の第1実施形態に係る微小構造体の移載用基板を示す図であり、(A)は側面図、(B)は上面図である。
【
図2】本発明の第2実施形態に係る微小構造体の移載用基板を示す図であり、(A)は側面図、(B)は上面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明について、さらに詳細に説明する。
〔1〕微小構造体の移載用基板
本発明の微小構造体の移載用基板は、例えば、
図1に示される第1実施形態、および
図2に示される第2実施形態のように、合成石英ガラス基板10と、その表面11上に設けられたシリコーン粘着剤層20とを備え、基板10の表面11に、刻印12が施されたものである。
本発明において、移載用基板の基材には、微小構造体を移載する際の位置ずれを抑制し、移載の精度を高める点から、熱膨張係数が低い材料である合成石英ガラス基板を使用することが必要である。
用いられる合成石英ガラス基板の形状は特に制限されるものではなく、例えば、第1実施形態で用いられる円板(
図1(B)参照)、第2実施形態で用いられる角板(
図2(B)参照)等、使用する状況に応じて適宜な形状を採用することができる。
また、合成石英ガラス基板のサイズについても特に制限はされないが、例えば、円板形状(例えば、
図1)であれば3mm~300mmφ、角板形状(例えば、
図2)であれば対角長さ3mm~300mm等を採用できる。
さらに、厚みについても特に制限はされないが、素子移載の際の撓み抑制の観点から、0.5mm~5.0mmが好ましく、1mm~3mmがより好ましい。
【0014】
本発明において、合成石英ガラス基板の表面の平坦度は、特に制限はされないが、移載の精度を高める観点から、SORI≦10μmが好ましく、SORI≦5μmがより好ましく、SORI≦2μmがより一層好ましい。
厚みのばらつきも特に制限はされないが、同様の観点から、10μm以下が好ましく、5μm以下がより好ましく、1μm以下がより一層好ましい。
なお、平坦度SORIは、SEMIで定義されている指標である。また、平坦度および厚みのばらつきは、光干渉式フラットネス測定器、またはレーザー変位計等によって測定できる。
【0015】
また、上記合成石英ガラス基板の表面は、微小構造体の移載精度を維持する観点から、6.01mm×6.01mmの領域について、白色干渉計によりピクセル数1240×1240で測定して得られる空間周波数1mm-1以上におけるパワースペクトル密度が、1012nm4以下であることが好ましい。特に、例えば、微小構造体がマイクロLEDの場合には微小構造体間の距離を考慮すると、6.01mm×6.01mmの領域について、白色干渉計によりピクセル数1240×1240で測定して得られる空間周波数10mm-1以上50mm-1以下におけるパワースペクトル密度が、109nm4以下であることが好ましい。
さらに、合成石英ガラス基板の裏面の面粗度(Ra)は、特に制限はされないが、0.05μm以下が好ましく、0.01μm以下がより好ましい。このような範囲とすることで、透明性が確保しやすくなり、読み取り装置による読み取りエラーを発生させる可能性を低減できる。
【0016】
本発明の微小構造体の移載用基板は、微小構造体を精度よく仮固定させるため、合成石英ガラス基板とその表面上に設けられたシリコーン粘着剤層を合わせて考慮した積層体の厚みばらつきの精度も重要である。
この積層体の厚みばらつきは、特に制限はされないが、12μm以下が好ましく、6μm以下がより好ましく、2μm以下がより一層好ましい。
【0017】
本発明の微小構造体の移載用基板上のシリコーン粘着剤層は、下記(A)~(D)成分を含有し、非架橋性のオルガノポリシロキサンレジンを含まない紫外線硬化型シリコーン粘着剤組成物から形成されることが好ましい。
このような組成物を用いることで、瞬時に粘着可能であり、かつ、剥離の際にいわゆる接着剤残りのない剥離が可能であるため、精度よく微小構造体を移載しやすくなる。
【0018】
(A)下記一般式(1)で示される基を1分子中に2個有するオルガノポリシロキサン:100質量部、
【化1】
(式中、R
1は、互いに独立して炭素原子数1~20の一価炭化水素基、好ましくは、脂肪族不飽和基を除く、炭素原子数1~10、より好ましくは1~8の一価炭化水素基を表し、R
2は、酸素原子または炭素原子数1~20、好ましくは1~10、より好ましくは1~5のアルキレン基を表し、R
3は、互いに独立して、アクリロイルオキシアルキル基、メタクリロイルオキシアルキル基、アクリロイルオキシアルキルオキシ基、またはメタクリロイルオキシアルキルオキシ基を表し、pは、0≦p≦10を満たす数を表し、aは、1≦a≦3を満たす数を表す。)
(B)シロキサン構造を含まない単官能(メタ)アクリレート化合物:1~200質量部、
(C)(a)下記一般式(2)
【化2】
(式中、R
1、R
2、R
3、aおよびpは、上記と同じ意味を表す。)
で示される単位、(b)R
4
3SiO
1/2単位(式中、R
4は、炭素原子数1~10の一価炭化水素基を表す。)および(c)SiO
4/2単位からなり、(a)単位および(b)単位の合計と(c)単位とのモル比が0.4~1.2:1の範囲にあるオルガノポリシロキサンレジン:1~1,000質量部、および
(D)光重合開始剤:0.01~20質量部
【0019】
上記R1の炭素原子数1~20の一価炭化水素基は、直鎖、分岐、環状のいずれでもよく、その具体例としては、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、tert-ブチル、n-ヘキシル、シクロヘキシル、n-オクチル、2-エチルヘキシル、n-デシル基等のアルキル基;ビニル、アリル(2-プロペニル)、1-プロペニル、イソプロペニル、ブテニル基等のアルケニル基;フェニル、トリル、キシリル、ナフチル基等のアリール基;ベンジル、フェニルエチル、フェニルプロピル基等のアラルキル基などが挙げられる。
また、これら一価炭化水素基の炭素原子に結合した水素原子の一部または全部は、その他の置換基で置換されていてもよく、その具体例としては、クロロメチル、ブロモエチル、トリフルオロプロピル基等のハロゲン置換炭化水素基や、シアノエチル基等のシアノ置換炭化水素基などが挙げられる。
これらの中でも、R1としては、炭素原子数1~5のアルキル基、フェニル基が好ましく、メチル基、エチル基、フェニル基がより好ましい。
【0020】
また、R2の炭素原子数1~20のアルキレン基は、直鎖、分岐、環状のいずれでもよく、その具体例としては、メチレン、エチレン、プロピレン、トリメチレン、テトラメチレン、イソブチレン、ペンタメチレン、ヘキサメチレン、シクロへキシレン、ヘプタメチレン、オクタメチレン、ノナメチレン、デシレン基等が挙げられる。
これらの中でも、R2としては、酸素原子、メチレン、エチレン、トリメチレン基が好ましく、酸素原子またはエチレン基がより好ましい。
【0021】
さらに、R3のアクリロイルオキシアルキル基、メタクリロイルオキシアルキル基、アクリロイルオキシアルキルオキシ基、またはメタクリロイルオキシアルキルオキシ基におけるアルキル(アルキレン)基の炭素数としては、特に限定されるものではないが、1~10が好ましく、1~5がより好ましい。これらアルキル基の具体例としては、上記R1で例示した基のうち、炭素原子数1~10のものが挙げられる。
R3の具体例としては、下記式で示されるものが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0022】
【化3】
(式中、bは、1≦b≦4を満たす数を表し、R
5は、炭素原子数1~10のアルキレン基を表す。)
【0023】
上記pは、0≦p≦10を満たす数を表すが、0または1が好ましく、aは、1≦a≦3を満たす数を表すが、1または2が好ましい。
【0024】
(A)成分のオルガノポリシロキサン分子中における上記一般式(1)で示される基の結合位置は、分子鎖末端であっても、分子鎖非末端(すなわち、分子鎖途中または分子鎖側鎖)であっても、あるいはこれらの両方であってもよいが、柔軟性の面では末端のみに存在することが好ましい。
【0025】
(A)成分のオルガノポリシロキサン分子中において、上記一般式(1)で示される基以外のケイ素原子に結合した有機基は、例えば、上記R1と同様の基が挙げられ、特に、脂肪族不飽和基を除く炭素数1~12、好ましくは1~10の一価炭化水素基が好ましい。
これらの具体例としては、上記R1で例示した基と同様のものが挙げられるが、合成の簡便さから、アルキル基、アリール基、ハロゲン化アルキル基が好ましく、メチル基、フェニル基、トリフルオロプロピル基がより好ましい。
【0026】
また、(A)成分の分子構造は、基本的に、主鎖がジオルガノシロキサン単位の繰り返しからなる直鎖状または分岐鎖状(主鎖の一部に分岐を有する直鎖状を含む)であり、特に、分子鎖両末端が上記一般式(1)で示される基で封鎖された直鎖状のジオルガノポリシロキサンが好ましい。
(A)成分は、これらの分子構造を有する単一の重合体、これらの分子構造からなる共重合体、またはこれらの重合体の2種以上の混合物であってもよい。
【0027】
(B)成分のシロキサン構造を含まない単官能(メタ)アクリレート化合物(B)の具体例としては、イソアミルアクリレート、ラウリルアクリレート、ステアリルアクリレート、エトキシ-ジエチレングリコールアクリレート、メトキシ-トリエチレングリコールアクリレート、2-エチルヘキシル-ジグリコールアクリレート、フェノキシエチルアクリレート、フェノキシジエチレングリコールアクリレート、テトラヒドロフルフリルアクリレート、イソボルニルアクリレート等が挙げられ、これらは単独で用いても2種以上混合して用いてもよい。
これらの中でも、特にイソボルニルアクリレートが好ましい。
【0028】
(C)成分におけるR4の炭素原子数1~10の一価炭化水素基の具体例としては、上記R1で例示した基のうち、炭素原子数1~10のものが挙げられるが、中でもメチル、エチル、n-プロピル、n-ブチル基等の炭素原子数1~5のアルキル基;フェニル、トリル基等の炭素原子数6~10のアリール基が好ましく、メチル基、エチル基、フェニル基がより好ましい。
なお、上記R4の一価炭化水素基も、R1と同様に、炭素原子に結合した水素原子の一部または全部が、上述したその他の置換基で置換されていてもよい。
【0029】
(D)成分の光重合開始剤の具体例としては、2,2-ジエトキシアセトフェノン、2,2-ジメトキシ-1,2-ジフェニルエタン-1-オン(BASF製Irgacure 651)、1-ヒドロキシ-シクロヘキシル-フェニル-ケトン(BASF製Irgacure 184)、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニル-プロパン-1-オン(BASF製Irgacure 1173)、2-ヒドロキシ-1-{4-[4-(2-ヒドロキシ-2-メチル-プロピオニル)-ベンジル]-フェニル}-2-メチル-プロパン-1-オン(BASF製Irgacure 127)、フェニルグリオキシリックアシッドメチルエステル(BASF製Irgacure MBF)、2-メチル-1-[4-(メチルチオ)フェニル]-2-モルフォリノプロパン-1-オン(BASF製Irgacure 907)、2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-モルフォリノフェニル)-1-ブタノン(BASF製Irgacure 369)、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニルフォスフィンオキサイド(BASF製Irgacure 819)、2,4,6-トリメチルベンゾイル-ジフェニル-フォスフィンオキサイド(BASF製Irgacure TPO)等が挙げられ、これらは単独で用いても、2種以上組み合わせて用いてもよい。
これらの中でも、(A)成分との相溶性の観点から、2,2-ジエトキシアセトフェノン、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニル-プロパン-1-オン(BASF製Irgacure 1173)、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニルフォスフィンオキサイド(BASF製Irgacure 819)、2,4,6-トリメチルベンゾイル-ジフェニル-フォスフィンオキサイド(BASF製Irgacure TPO)が好ましい。
【0030】
なお、本発明では、上述した紫外線硬化型シリコーン粘着剤組成物に加え、熱硬化型シリコーン粘着剤組成物を用いることもでき、その具体例としては、信越化学工業(株)製のSIMシリーズ、特に硬化時間の観点から、SIM-360や、STPシリーズ等のシリコーン系ゴム組成物などが挙げられる。
【0031】
シリコーン粘着剤層の厚さは、特に制限されないが、成型性や平坦性の観点から、1~100μmが好ましく、10~30μmがより好ましく、15~25μmがより一層好ましい。
シリコーン粘着剤層の形状は、平坦な形状や、素子サイズおよび素子間隔に合わせて凹凸等の突起状表面を有する形状であってもよい。
例えば、凸状構造を有するシリコーン粘着剤層の場合は、その大きさや配列は、移送対象の微小構造体の大きさや所望の配置に合わせて設計可能である。凸状構造の上面は平坦であり、また、その面形状に制限はなく、円形、楕円形、四角形等が挙げられる。四角形等の場合、エッジに丸みをつけても問題ない。凸状構造の上面の幅は、特に制限はされないが、0.1μm~1cmが好ましく、1μm~1mmがより好ましい。
【0032】
また、凸状構造の側面の形態にも制限はなく、垂直面、斜面等を問わない。凸状構造の高さは、1~100μmが好ましく、10~30μmがより好ましい。空間を隔てて隣り合う凸状構造同士のピッチ距離は、0.1μm~10cmが好ましく、1μm~1mmがより好ましい。
なお、シリコーン粘着剤層の大きさは、合成石英ガラス基板の表面に収まれば特に制限はなく、例えば、合成石英ガラス基板と同一の大きさでもよい。
【0033】
既に述べたとおり、本発明の微小構造体の移載用基板に用いる合成石英ガラス基板表面には、刻印が施される。合成石英ガラス基板の表面上に、文字や2次元コードを刻印する場合には、CO2レーザーが一般的に用いられるが、本発明でも、同様の手法で刻印(レーザーマーク)を施すことができる。
2次元コードにおいて、刻印するドットの深さやドットサイズ(径)には、特に制限はないが、ドットの深さは3~25μmが好ましく、5~15μmがより好ましく、ドットサイズは20~200μmが好ましく、30~180μmがより好ましい。
一方、文字の場合にも、その深さやサイズには特に制限はないが、文字の深さは3~25μmが好ましく、5~15μmがより好ましく、文字のサイズは1000~1600μmが好ましい。
このような範囲とすることで、合成石英ガラス基板の表面にシリコーン粘着剤層を設けた際に、刻印の周辺部に気泡等を巻き込みにくくなり、刻印を読み取る際に不具合を起こしにくくなる。
【0034】
なお、刻印を読み取る方法は、公知の手法から適宜選択して用いることができる。その一例としては、一般的なドットマトリクスを読み取る装置、いわゆる2次元コードリーダーが挙げられる。具体的には、(株)キーエンス製の2Dコードリーダー(SR-2000)等が挙げられるが、2次元コードは様々な規格があり、それぞれの規格に適したコードリーダーを選べばよい。また、文字の場合は、目視で行う場合と読み取り装置で行う場合がある。
【0035】
〔2〕微小構造体の移載用基板の製造方法
本発明で用いられる合成石英ガラス基板は、常法により製造することができる。具体的には、酸水素火炎中にシラン化合物を導入し、加水分解反応により合成石英のインゴットが得られ、得られたインゴットをスライスし、面取り、両面ラップ、両面研磨、洗浄を行い、合成石英ガラス基板が得られる。
この際、上述した、合成石英ガラス基板の平坦度や厚みばらつき、表面のパワースペクトル密度を好適な値にするためには、例えば、一般的なラップ研削後、硬度が70以上(Shore A)の硬質な研磨パッドを、適切なダイヤモンドペレットキャリアで研磨パッド表面の平坦度を平らに修正した後、酸化セリウム、またはコロイダルシリカのスラリーにて研磨することで実現できる。
【0036】
次に、得られた合成石英ガラス基板のシリコーン粘着剤層を設ける表面に、文字や2次元コード等の刻印を施す。
刻印を施す方法としては、上述したようにCO2レーザーを用いることができる。CO2レーザーの具体例としては、(株)キーエンスのレーザーマーカー(ML-Z9600/9650)が挙げられるが、この装置に限定されるものではない。
CO2レーザーでは、スキャン回数、出力強度、スキャンスピード等が主に設定でき、これらを調整することで、所望の刻印の深さやサイズの刻印を得ることができる。例えば、大きい出力および遅いスキャンスピードで刻印を施すと、深く掘れた刻印が得られるが、刻印した文字の周辺またはドットの周辺には盛り上がり(デブリ)が発生してしまい、基板の汚れや接触による傷の原因になる。レーザーの条件を調整することにより、この盛り上がりをある程度抑制することは可能であるが、確実に平坦化することは難しい。また、機械的な研磨等によりこの盛り上がりを除去し、確実に平坦化することはできるものの、工程が増えることによるコストアップにつながってしまう。
【0037】
続いて、得られた表面に刻印を有する合成石英ガラス基板の表面にシリコーン粘着剤層を設ける。
シリコーン粘着剤層の形成方法としては、未硬化のシリコーン粘着剤組成物を基板表面上に直接塗布して硬化させる方法と、シリコーン粘着剤組成物のシート状硬化物を基板表面上に貼り合せる方法が挙げられる。
シリコーン粘着剤組成物としては、上述したように、紫外線硬化型のシリコーン粘着剤組成物用いても、熱硬化型のシリコーン粘着剤組成物を用いてもよい。
【0038】
基板の表面上に、シリコーン粘着剤組成物を直接塗布して硬化させる方法では、シリコーン粘着剤組成物を基板表面上に塗布後、紫外線照射や加熱により硬化させることで微小構造体の移載用基板を得ることができる。
塗布方法としては、例えば、スピンコーター、コンマコーター、リップコーター、ロールコーター、ダイコーター、ナイフコーター、ブレードコーター、ロッドコーター、キスコーター、グラビアコーター、スクリーン塗工、浸漬塗工、キャスト塗工等の公知の塗工方法から適宜選択して用いることができるが、スピンコーターを用いることが好ましい。
スピンコーターを用いる場合、シリコーン粘着剤組成物をスピンコーティングにより、好ましくは1~100μm、より好ましくは10~30μm、より一層好ましくは15~25μmの厚みになるようにコーティングした後、好ましくは、20~200℃にて、5~90分間加熱炉に入れて硬化させる、または紫外線を照射して硬化させることで、シリコーン粘着剤層を得ることができる。
【0039】
なお、上記各塗布法によって、表面に刻印を有する合成石英ガラス基板の表面上にシリコーン粘着剤組成物を塗布後、プレス成型やコンプレッション成型等を行いながら硬化させることで、平坦性が高く、良好な厚みばらつきを有する微小構造体の移載用基板を得ることもできる。
【0040】
一方、表面に刻印を有する合成石英ガラス基板の表面上にシリコーン粘着剤組成物のシート状硬化物を貼り合せる方法では、シリコーン粘着剤組成物をシート状に成型後、合成石英ガラス基板に貼り合せることで微小構造体の移載用基板を得ることができる。
シリコーン粘着剤組成物をシート状に成型する方法としては、例えば、ロール成形、プレス成型、トランスファー成型、コンプレッション成型等が挙げられる。
なお、シート状硬化物は、ホコリ等の付着防止や硬化時の酸素阻害抑制のために、プラスチックフィルムに挟み込む形で成型することが好ましい。また、得られたシート状硬化物が所望よりも大きい場合、所望の大きさにカットしてもよい。
【0041】
さらに、シート状硬化物と表面に刻印を有する合成石英ガラス基板との密着性を上げるため、これらのいずれか、または両方の貼り合せ面にプラズマ処理、エキシマ処理、化学処理等を施してもよく、それらの貼り合せ強度を向上させるために、粘着剤・接着剤等を使用してもよい。粘着剤・接着剤の具体例としては、シリコーン系、アクリル系、エポキシ系等が挙げられる。
貼り合せ方法としては、ロール貼り合せや真空プレス等を用いることができる。
加熱硬化型や紫外線硬化型のシリコーン粘着剤組成物を硬化させる条件としては、用いるシリコーン粘着剤組成物に応じて、適宜設定することができる。
【0042】
以上のようにして得られた微小構造体の移載用基板は、例えば、マイクロLEDディスプレイの素子等の微小構造体の移載に適用することができる。
本発明の微小構造体の移載用基板を用いた微小構造体の移載は、例えば、以下の手法で行うことができる。
すなわち、供給基板の一方の面に形成された複数の微小構造体と、本発明の微小構造体の移載用基板に備えられているシリコーン粘着剤層とを貼り合わせ、供給基板から複数の微小構造体の一部または全部を分離して、シリコーン粘着剤層が備えられている微小構造体の移載用基板へ移送することにより、複数の微小構造体が仮固定された移載用基板が得られる。
このようにして得られた、複数の微小構造体が仮固定された移載用基板を、次の工程に供するべく別の移載用基板に貼り合わせて、上記と同様に移載する。貼り合わせにより素子を移載するには、シリコーン樹脂間の粘着力の差を利用したり、レーザーアブレーションを使ったり、レーザーリフトオフ等の手法を用いることができる。
【実施例】
【0043】
以下、実施例および比較例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0044】
[実施例1]
外径150mmφの円板形状で、厚み1.0mmの合成石英ガラス基板を製造した。この合成石英ガラス基板の表裏面の任意の6.01mm×6.01mmの領域について、白色干渉計(Nexview NX2、Zygo Corporation製、以下同様)によりピクセル数1240×1240で測定したところ、得られる空間周波数1mm
-1以上におけるパワースペクトル密度は、10
12nm
4以下であった。また、表裏面の面粗度(Ra)を原子間力顕微鏡(NX20、Park SYSTEMS社製、以下同様)によって測定したところ、0.01μmであった。
図1に示されるように、この合成石英ガラス基板10の表面11に、レーザーマーカー(ML-Z9600/9650、(株)キーエンス製、以下同様)を使用して刻印12を施した。この刻印12は、SEMI T7 0303に規定されている2次元マトリクスコードシンボルであり、合成石英ガラス基板10の表面11のエッジより1mmの位置に形成した。刻印12のドットの内容は「20010012A1D6」とした。刻印12の形成に用いたレーザーの条件は、出力強度70%、スキャンスピード100mm/sec、スキャン回数2回、セルサイズ0.115mmとした。
このような条件で得られた刻印12のドットマトリクスの深さを触針式うねり計(サーフコムNEX041、(株)東京精密製、以下同様)で測定したところ、深さ20μmであった。また、顕微鏡でそのドットサイズを測定したところ、直径100μmφの円状であった。
【0045】
得られた刻印付き合成石英ガラス基板10について、超音波純水洗浄を行った後、乾燥させた。
別途、液状の加熱硬化型シリコーン粘着剤組成物の主剤(STP-204、信越化学工業(株))製)と硬化剤(STP-204(CAT)、信越化学工業(株)製)を100:10(質量比)で混合した後、刻印を有する表面側にスピンコーターを用いて2500rpm×2分にて塗布した。その後、ホットプレートで150℃×5分、さらにオーブンで150℃×25分間加熱硬化させてシリコーン粘着剤層20を設け、微小構造体の移載用基板1を得た。
【0046】
作製した微小構造体の移載用基板1の裏側(シリコーン粘着剤層20が設けられていない側)から、2次元読み取りリーダ((株)キーエンス製の2Dコードリーダー、SR-2000、以下同様)を用い、刻印12のドットマトリクスを読み取ったところ、「20010012A1D6」と正しく読み取ることができた。また、微小構造体の移載用基板1の表側のシリコーン粘着剤層20の上から同様に刻印12のドットマトリクスを読み取ったところ、「20010012A1D6」と正しく読み取ることができた。
さらに、サファイア基板上にエピ成長させ、アイソレーションして得られたLED素子を樹脂側貼り付けて、レーザーリフトオフで転写したところ、素子は確実に転写した。10000回素子の移載を行った後に、上記と同様にドットマトリクスを読み取ったところ、「20010012A1D6」と正しく読み取ることができた。続けてさらに10000回素子の移載を行った後に、上記と同様にドットマトリクスを読み取ったところ、「20010012A1D6」と正しく読み取ることができた。
【0047】
[比較例1]
外径150mmφの円板形状で、厚み1.0mmの合成石英ガラス基板を製造した。この合成石英ガラス基板の表裏面の任意の6.01mm×6.01mmの領域について、白色干渉計によりピクセル数1240×1240で測定したところ、得られる空間周波数1mm-1以上におけるパワースペクトル密度が、1012nm4以下であった。また、表裏面の面粗度(Ra)を原子間力顕微鏡によって測定したところ、0.01μmであった。
【0048】
この合成石英ガラス基板の裏面にレーザーマーカーを使用して刻印を行った。刻印は、SEMI T7 0303に規定されている2次元マトリクスコードシンボルであり、合成石英ガラス基板の表面のエッジより1mmの位置に刻印した。刻印したドットの内容は「20010012A1D6」とした。刻印するレーザーの条件は、出力強度70%、スキャンスピード100mm/sec、スキャン回数2回、セルサイズ0.115mmとした。
このような条件で刻印し、得られたドットマトリクスの深さを触針式うねり計で測定したところ、深さ20μmであった。また、顕微鏡でドットサイズを測定したところ、直径100μmφの円状であった。
【0049】
得られた刻印付き合成石英ガラス基板について、超音波純水洗浄を行った後、乾燥させた。
別途、実施例1と同様の加熱硬化型シリコーン粘着剤組成物(主剤/硬化剤=100/10)を、刻印を有する表面側にスピンコーターを用いて2500rpm×2分にて塗布した。その後、ホットプレートで150℃×5分、さらにオーブンで150℃×25分間加熱硬化させてシリコーン粘着剤層を設け、微小構造体の移載用基板を得た。
【0050】
作製した微小構造体の移載用基板の裏側(シリコーン粘着剤層が設けられていない側)から、2次元読み取りリーダを用いて、刻印のドットマトリクスを読み取ったところ、「20010012A1D6」と正しく読み取ることができた。また、微小構造体の移載用基板の表側のシリコーン粘着剤層の上から同様に刻印のドットマトリクスを読み取ったところ、「20010012A1D6」と正しく読み取ることができた。
さらに、サファイア基板上にエピ成長させ、アイソレーションして得られたLED素子を樹脂側に貼り付けて、レーザーリフトオフで転写したところ、素子は確実に転写した。10000回素子の移載を行った後に、上記と同様にドットマトリクスを読み取ったところ、基板の表側のシリコーン粘着剤層の上からも、基板の裏側からも「20010012A1D6」と正しく読み取ることができなかった。基板を素子の移載に使用する過程で、裏面に設けられた刻印への汚れの付着やデブリによる傷等により、刻印の読み取りができなかったと推察される。
【符号の説明】
【0051】
1,2 微小構造体の移載用基板
10 合成石英ガラス基板
11 合成石英ガラス基板の表面
12 刻印
20 シリコーン粘着剤層