(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-04
(45)【発行日】2023-09-12
(54)【発明の名称】ケトンの製造方法
(51)【国際特許分類】
C07C 45/00 20060101AFI20230905BHJP
A01M 23/00 20060101ALI20230905BHJP
A01N 35/02 20060101ALI20230905BHJP
A01P 19/00 20060101ALI20230905BHJP
C07C 49/04 20060101ALI20230905BHJP
C07B 61/00 20060101ALN20230905BHJP
C07C 29/40 20060101ALN20230905BHJP
C07C 33/03 20060101ALN20230905BHJP
C07C 45/72 20060101ALN20230905BHJP
C07C 47/21 20060101ALN20230905BHJP
【FI】
C07C45/00
A01M23/00
A01N35/02
A01P19/00
C07C49/04 A
C07B61/00 300
C07C29/40
C07C33/03
C07C45/72
C07C47/21
(21)【出願番号】P 2020530907
(86)(22)【出願日】2019-05-15
(86)【国際出願番号】 JP2019019245
(87)【国際公開番号】W WO2020017135
(87)【国際公開日】2020-01-23
【審査請求日】2022-01-12
(31)【優先権主張番号】P 2018134855
(32)【優先日】2018-07-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】311002067
【氏名又は名称】JNC株式会社
(72)【発明者】
【氏名】川島 正敏
【審査官】鳥居 福代
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-057108(JP,A)
【文献】特開平09-059201(JP,A)
【文献】特表2014-514252(JP,A)
【文献】特開2011-219395(JP,A)
【文献】COBURN,E.R.,ORGANIC SYNTHESIS,1955年,Coll.Vol.3,pp.696-697,DOI:10.15227/orgsyn.027.0065
【文献】CHERKAOUI,H. et al.,TETRAHEDRON,2001年,57,pp.2379-2383
【文献】TAKACS,S. et al.,ANGEW.CHEM.INT.ED.,2016年,55,pp.6062-6066,DOI:10.1002/anie.201511864
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 29/40
C07C 33/03
C07C 45/00
C07C 45/72
C07C 47/21
C07C 49/04
A01M 23/00
A01N 35/02
A01P 19/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の3つの段階からなる、式(3)で表されるケトンの混合物を製造する方法であり、このケトンの混合物が、ドブネズミ(Rattus norvegicus)の性フェロモンを構成する主要ケトン5種である3-エチル-2-ペンタノン、2-ヘプタノン、4-ヘプタノン、3-エチル-2-ヘプタノン、および4-ノナノンをすべて含む混合物である、ケトンの製造方法。
(1)アセトアルデヒドとブチルアルデヒドのアルドール縮合によりα,β-不飽和アルデヒドを得る第一段階;
(2)第一段階で得られる式(1)で表されるα,β-不飽和アルデヒドの一つ以上と、アルキル剤を反応させ、式(2)で表されるアリルアルコール類を得る第二段階;
(3)第二段階で得られる式(2)で表されるアリルアルコール類を、式(3)で表されるケトンへ異性化させる第三段階。
第一段階;
(1)
第二段階;
(1) (2)
第三段階;
(
2) (3)
式(1)~(3)において、R
1はメチルまたはプロピルであり、R
2は水素またはエチルであり、R
3はメチル、プロピル、またはペンチルである。
【請求項2】
第三段階で用いる金属触媒の金属が、ルテニウム、ロジウム、イリジウム、パラジウム、および鉄のいずれか一つ以上である請求項1に記載のケトンの製造方法。
【請求項3】
第二段階で用いるアルキル化剤が、R
3MgXで表されるグリニャール試薬である請求項1または2に記載のケトンの製造方法。
ここで、R
3はメチル、プロピル、またはペンチルであり、Xがハロゲンである。
【請求項4】
グリニャール試薬であるR
3MgXのR
3が、メチルまたはプロピルである請求項3に記載のケトンの製造方法。
【請求項5】
第三段階で用いる金属触媒の金属が、ルテニウムまたはロジウムである請求項1~4のいずれか1項に記載の
ケトンの製造方法。
【請求項6】
2-ペンタノン、3-エチル-4-ヘプタノン、および5-エチル-4-ノナノンを分離除去しない請求項1~5のいずれか1項に記載のケトンの製造方法。
【請求項7】
雄のドブネズミ(Rattus norvegicus)の性フェロモンを構成する主要
ケトン5
種として、3-エチル-2-ペンタノン、2-ヘプタノン、4-ヘプタノン、3-エチル-2-ヘプタノン、および4-ノナノンを含有し、かつ希釈剤として、2-ペンタノン、3-エチル-4-ヘプタノン、および5-エチル-4-ノナノンを含有する、請求項1~6のいずれか1項に記載のケトンの製造方法で製造されたドブネズミ(Rattus norvegicus)の性フェロモンを含有する誘引剤組成物。
【請求項8】
請求項7に記載されたドブネズミの性フェロモン含有する誘引剤組成物を利用するトラップ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、雄のドブネズミ(Rattus norvegicus)の性フェロモンの成分であるケトンの製造方法である。
【背景技術】
【0002】
雄のドブネズミ(Rattus norvegicus)の性フェロモンとして、2つのピペラジン類の他に、3-エチル-2-ペンタノン、3-エチル-2-ヘプタノン、2-ヘプタノン、4-ヘプタノン、2-オクタノン、4-ノナノン、および2-ウンデカノンの7つのケトンが報告されている(非特許文献1)。これらのケトンの合成法として、3-エチル-2-ヘプタノンは、3-エチル-2-ヘプタノールのクロム酸酸化(非特許文献2)、N-メトキシ-N-メチル-2-エチルヘキサン酸アミドとメチルグリニャール試薬との反応(非特許文献1、3)、2-エチルヘキサナールとメチルホウ素化合物との反応(非特許文献4)やトリメチルシリルジアゾメタンとの反応(非特許文献5)により合成されている。3-エチル-2-ペンタノンの合成法としては、N-メトキシ-N-メチル-2-エチルブタン酸アミドとメチルグリニャール試薬との反応(非特許文献1、6)、3-エチル-2-ペンタノールのPCC酸化(非特許文献7)、2-エチルブチロニトリルとメチルリチウムとの反応(非特許文献8)、3-エチル-2-ペンテンの硫酸鉄による水和反応(非特許文献9)などが報告されている。2-ヘプタノンの合成法としては、2-ヘプタノールの酸化反応(非特許文献10、11、12、13)、1-ヘプチンの水和反応(非特許文献13、14)、3-ヘプテン-2-オンの水添反応(非特許文献15)、1-ヘプテンの酸化反応(非特許文献16)、2-アミノヘプタンの酸化的脱アミノ化反応(非特許文献17)、ヘキサン酸塩化物とメチルグリニャール試薬の鉄触媒反応(非特許文献18)。4-ヒドロキシ-4-メチル-1-ノネンの熱分解反応(非特許文献19)などの方法が報告されている。4-ノナノンは、2-ノネン-4-オールの鉄触媒による異性化反応(非特許文献20)やロジウムやルテニウム触媒による異性化反応(非特許文献20)による方法が報告されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】Angew. Chem. Int. Ed., 55, 6062 (2016).
【文献】Chemosphere, 80, 813 (2010).
【文献】J. Natural Products, 69, 863 (2006).
【文献】Tetrahedron Lett., 30 5643 (1989).
【文献】Synthesis, 228 (1988).
【文献】Angew. Chem. Int. Ed., 56, 6646 (2017).
【文献】Organic Reactions, 53, No pp. given (1998).
【文献】Tetrahedron Lett., 31, 353 (1990).
【文献】Tetrahedron, 40, 1469 (1984).
【文献】Organometallics, 37, 584 (2018)
【文献】RSC Advances, 6, 63717 (2016).
【文献】e-EROS Encyclopedia of Reagents for Organic Synthesis, 1 (2001).
【文献】e-EROS Encyclopedia of Reagents for Organic Synthesis, 1 (2011).
【文献】J. Mol. Catal. A: Chemical, 425, 283 (2016).
【文献】Catalysis Science & Technology, 6, 1921 (2016).
【文献】Chem. -Eur. J., 22, 4738 (2016).
【文献】Rasayan J. of Chemistry, 3, 16 (2010).
【文献】Synlett, 383 (2010).
【文献】J. Mol. Catal. A: Chemical, 161, 239 (2000).
【文献】J. Chem. Technol. Biotechnol., 48, 483 (1990).
【文献】Tetrahedron, 57, 2379 (2001)
【文献】Eur. J. Org. Chem., 3141 (2001)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来技術を用いて、雄のドブネズミ(Rattus norvegicus)の性フェロモンの放散量の多いケトン5種(3-エチル-2-ペンタノン、3-エチル-2-ヘプタノン、2-ヘプタノン、4-ヘプタノン、4-ノナノン)を製造するためには、例えばカルボン酸からN-メトキシ-N-メチルカルボン酸アミドへ変換し、メチルあるいはプロピルグリニャール試薬と反応させる2段階の反応では、対応する4種類のカルボン酸が入手容易と仮定しても、合計9種類の反応が必要となる煩雑な方法となり、工業的に実施するには大きな問題となる。
【課題を解決するための手段】
【0005】
そこで、ブチルアルデヒドとアセトアルデヒドとのアルドール縮合により生成する4種のα,β-不飽和アルデヒドにメチルグリニャール試薬を反応させ、得られる4種のアリルアルコール類を異性化させるだけで、雄のドブネズミ(Rattus norvegicus)の性フェロモンを構成する放散量の多いケトン5種の内、3種(3-エチル-2-ペンタノン、3-エチル-2-ヘプタノン、2-ヘプタノン)を含むケトンの混合物を得ることができる。また、同じ4種のアルデヒドに、メチルグリニャール試薬に代えてプロピルグリニャール試薬を反応させ、同様に異性化させるだけで、残りの性フェロモン2種(4-ヘプタノン、4-ノナノン)を含むケトンの混合物を得ることができ、すなわちブチルアルデヒドとアセトアルデヒドとのアルドール縮合により生成する4種のα,β-不飽和アルデヒドにメチルグリニャール試薬とプロピルグリニャール試薬の混合物を反応させ、得られるアリルアルコール類を異性化させるだけで、性フェロモンを構成する放散量の多いケトン5種をすべて含むケトンの混合物が得られることを見出し、本発明を完成した。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、ブチルアルデヒドとアセトアルデヒドとのアルドール縮合により生成する4種のα,β-不飽和アルデヒドにメチルグリニャール試薬およびプロピルグリニャール試薬を反応させ、得られるアリルアルコール類を異性化させるだけで、雄のドブネズミの性フェロモンを構成する放散量の多い主要ケトン5種を、安価で入手容易なアルデヒドから、わずか3段階で簡便に製造し、提供できる。副生物である3種のケトンは希釈剤として機能するため廃棄物が発生せず、環境にやさしい製造方法である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本発明は、以下[1]~[6]などで構成される。
[1]
以下の、3つの段階からなる、式(3)で表されるケトンンの製造方法。
(1)アセトアルデヒドとブチルアルデヒドのアルドール縮合により、式(1)で表されるα,β-不飽和アルデヒドを得る第一段階;
(2)第一段階で得られる式(1)で表されるα,β-不飽和アルデヒドの一つ以上と、アルキル剤を反応させ、式(2)で表されるアリルアルコール類を得る第二段階;
(3)第二段階で得られる式(2)で表されるアリルアルコール類を、式(3)で表されるケトンへ異性化させる第三段階。
【0008】
第一段階;
第二段階;
第三段階;
式(1)~(3)において、R
1はメチルまたはプロピルであり、R
2は水素またはエチルであり、R
3は、メチル、プロピル、またはペンチルである。
【0009】
[2]
第三段階で用いる金属触媒の金属が、ルテニウム、ロジウム、イリジウム、パラジウム、および鉄のいずれか一つ以上である項[1]に記載のケトンの製造方法。
【0010】
[3]
第二段階で用いるアルキル化剤が、R3MgXで表されるグリニャール試薬である項[1]または[2]に記載のケトンの製造方法。
ここで、R3は、メチル、プロピル、またはペンチルであり、Xがハロゲンである。
【0011】
[4]
グリニャール試薬であるR3MgXのR3が、メチルまたはプロピルである項[3]に記載のケトンの製造方法。
【0012】
[5]
第三段階で用いる金属触媒の金属が、ルテニウムまたはロジウムである項[1]~[4]のいずれか1項に記載のケトンの製造方法。
【0013】
[6]
2-ペンタノン、3-エチル-4-ヘプタノン、および5-エチル-4-ノナノンのいずれか一つ以上を分離除去しない項[1]~[5]のいずれか1項に記載のケトンの製造方法
【0014】
[7]
2-ペンタノン、3-エチル-4-ヘプタノン、および5-エチル-4-ノナノンのいずれか一つ以上を含有する項[1]~[6]のいずれか1項に記載のケトンの製造方法で製造されたドブネズミ(Rattus norvegicus)の性フェロモンを含有する誘引剤組成物。
【0015】
[8]
項[7]に記載されたドブネズミ(Rattus norvegicus)の性フェロモン含有する誘引剤組成物を利用するトラップ。
【0016】
本発明の雄のドブネズミ(Rattus norvegicus)の性フェロモンの成分であるケトン製造方法となる、3つの段階を説明する。
<第一段階>
第一段階のアセトアルデヒドとブチルアルデヒドから、アルドール縮合により4種のα,β-不飽和アルデヒド(2-ブテナール、2-エチル-2-ブテナール、2-ヘキセナール、および2-エチル-2-ヘキセナール)が得られる。例えば、既知の方法(特開平9-59201、特開平9-57108、国際公開20122/116775号、特開2011-219395、など)に従って得ることができる。
R
1はメチルまたはプロピルであり、R
2は水素またはエチルである。
【0017】
第一段階は、塩基触媒アルドール反応である第一工程と、アルドール反応生成物のβ-ヒドロキシアルデヒドの酸触媒脱水反応である第二工程とからなる。
[第一工程]
第一工程に用いられる塩基触媒としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、水酸化バリウムなどのアルカリ金属またはアルカリ土類金属の水酸化物、酸化バリウム、酸化カルシウム、酸化マグネシウムなどのアルカリ土類金属の酸化物、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸カルシウムなどのアルカリ金属またはアルカリ土類金属の炭酸塩、メトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、ナトリウムt-ブトキシド、カリウムt-ブトキシドなどのアルコキシド、1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]-7-ウンデセン、1,5-ジアザビシクロ[4.3.0]-5-ノネンなどの縮合複素環式化合物、ピリジン、プロリン、ピペリジン、ピロリジン、モルホリン、N-メチルピペラジン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジイソプロピルアミン、ジシクロヘキシルアミンなどの有機塩基、およびこれらの有機塩基と酢酸、フェノール、カテコールなどのブレンステッド酸との混合物などが好ましく用いられる。好ましくは-30℃~100℃、より好ましくは0~50℃である。原料の添加形態に特に制限はない。第一工程で選択する反応の種類や反応条件によって生成する4種のα,β-不飽和アルデヒドの生成比は異なり、最終的な雄のドブネズミの性フェロモンの構成ケトンの比を選択することができる。
【0018】
[第二工程]
第二工程は、β-ヒドロキシアルデヒドの酸触媒脱水反応であり、酸触媒としては、塩酸、硫酸、過塩素酸、リン酸などの鉱酸、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、イソ酪酸、吉草酸、イソ吉草酸、ピバル酸、カプロン酸、オクタン酸、安息香酸、シュウ酸、トリクロロ酢酸などのカルボン酸、p-トルエンスルホン酸、メタンスルホン酸などのスルホン酸などが用いられる。好ましくは飽和脂肪族カルボン酸である。反応は加熱により促進され、好ましくは100℃に加熱し、目的物のα,β-不飽和アルデヒドを水との共沸により、反応液から分離し、蒸留により精製される。
【0019】
後に続く第二段階において、グリニャール試薬としてメチルグリニャール試薬のみを使用し、α,β-不飽和アルデヒドの中に、2-ブテナールを含める必要がない場合は、第一段階の第二工程において、もっとも沸点の低い2-ブテナールのみを蒸留により分離除去しておいてもよい。また、この第二段階において、グリニャール試薬としてプロピルグリニャール試薬のみを使用し、α,β-不飽和アルデヒドの中に、2-エチル-2-ヘキセナールを含める必要がない場合は、第一段階の第二工程において、もっとも沸点の高い2-エチル-2-ヘキセナールのみを蒸留により分離除去しておいてもよい。またグリニャール試薬としてメチルグリニャール試薬とプロピルグリニャール試薬の両方を用いる場合は、4種のα,β-不飽和アルデヒドのすべてが必要であるため、第一段階の第二工程において水分除去を行うための蒸留だけでよい、あるいは第三段階の最終目的物のケトンの構成比を調整するために、α,β-不飽和アルデヒドの構成比を調整するための精留を行うこともできる。また必要に応じ、4種のα,β-不飽和アルデヒドをすべて分留し、第二段階以降の反応を個別に行い、最終目的物のケトンの段階でフェロモン用に構成比を調整することもできる。
【0020】
下記表1に、α,β-不飽和アルデヒドとグリニャール試薬から生成するケトンを示した。A-1、B-2、D-2の枠に示したそれぞれ2-ペンタノン、3-エチル-3-ヘプタノン、5-エチル-4-ノナノンであるケトンは、ドブネズミ(Rattus norvegicus)のフェロモンとしての報告はこれまでにはない。2-ペンタノン(A-1)は、当該性フェロモンの他のケトンと構造は似ているが、分子がより小さく、3-エチル-4-ヘプタノン(B-2)および5-エチル-4-ノナノン(D-2)も、当該フェロモンのケトンと構造は似てはいるが、分子がより大きい。弱い活性を有したり、活性を阻害するためには、少なくとも炭素数が同じで置換基や官能基の分子内配置が似ている必要があり、ジアステレオマーや鏡像体の関係にあることが通常であることは、フェロモンの構造活性相関に関する研究(化学と教育,50,194-197(2002)、Molecules,10,1023-1047(2005))などで明らかにされている。従って、2-ペンタノン、3-エチル-4-ヘプタノン、5-エチル-4-ノナノンを蒸留などによって分離するために必要なエネルギーを使う必要はないだけでなく、これらのケトンは構造的に当該フェロモンのケトンとの相溶性が高く、希釈剤としての機能を持つため、新たに別途希釈剤を添加する必要はない。
【0021】
【0022】
<第二段階>
第二段階の目的物であるアリルアルコール類は、既知の方法(Tetrahedron, 57, 2379 (2001)など)に準じて、第一段階で得られるα,β-不飽和アルデヒドにアルキル化試剤を反応させて得ることができる。アルキル化試剤としては、グリニャール試薬、アルキルリチウムなどの求核性が強く、1,2-付加を起こしやすいものが好ましく、経済的にはグリニャール試薬が更に好ましく、メチルグリニャール試薬あるいはプロピルグリニャール試薬を反応させて得ることができる。
【0023】
メチルグリニャール試薬あるいはプロピルグリニャール試薬のハロゲンは、塩素、臭素、ヨウ素のいずれでもよく、グリニャール試薬の溶媒としては、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、2-メチルテトラヒドロフラン、シクロプロピルメチルエーテル、メチルt-ブチルエーテルなどのいずれでもよく、その濃度は、好ましくは1~3mol/Lである。グリニャール試薬の溶液に用いられる溶媒以外に反応溶媒を用いる必要はないが、温度制御や攪拌制御の点で有機溶媒を使用してもよく、グリニャール試薬に用いられる溶媒以外にもトルエンなどのグリニャール試薬と反応しない溶媒を使用することもできる。原料の添加順序に制限はない。
【0024】
反応温度は、通常は-80℃から溶媒沸点までであり、グリニャール試薬あるいはα,β-不飽和アルデヒドの滴下時は、好ましくは-30℃~10℃であり、滴下後の熟成のために室温から溶媒沸点まで加熱してもよい。
転化率、選択率はともにほぼ100%であるため、反応終了後、常法により単離し、精製することなくそのまま第三段階の反応に使用できる。
【0025】
<第三段階>
第三段階のアリルアルコール類からケトンへの異性化反応は、既知の方法(Eur. J. Org. Chem., 3141 (2001)、Tetrahedron, 57, 2379 (2001)、J. Am. Chem. Soc., 128, 1360 (2006)、Chem. Commun., 232 (2004)、Organometallics, 18, 4230 (1999)、J. Organomet. Chem., 650, 1 (2002)、Organometallics, 29, 2166 (2010)、Chem. Rev., 103, 27 (2003)など)に準じて行うことができる。
【0026】
触媒としては、第6族元素から第10属元素までの金属または金属化合物が使用でき、具体的には、Cr、Mo、W、Mn、Re、Fe、Ru、Os、Rh、Ir、Ni、Pdなどの金属または金属化合物が挙げられる。更に好ましくは、Fe、Ru、Rh、Ir、Pdの金属または金属化合物が好ましく、以下のものが具体的に挙げられるが、これらに限定されない。
【0027】
Ru触媒としては、RuCl3、Ru(acetylacetonato)3、Ru(η5-C5H5)2Cl、RuCl2(PPh3)2、RuClH(PPh3)3、RuClMe(PPh3)3、RuClPh(PPh3)3、RuH2(PPh3)3、RuMe2(PPh3)3、RuPh2(PPh3)3、RuH2(Pn-Bu3)4、[RuCl(PPh3)3]PF6、RuH2(PPh3)4、RuH4(PPh3)3、[HRu3(CO)11]K、Pr4NRuO4、およびこれらとBis(diphenylphosphino)methane、1,2-Bis(diphenylphosphino)ethane、1,2-Bis(dicyclohexylphosphino)ethane、1,3-Bis(diphenylphosphino)propane、1,4-Bis(diphenylphosphino)butane、1,4-Bis(diisopropylphosphino)butane、2,2’-Bis(diphenylphosphino)-1,1’-binaphthyl、1,2-Bis(diphenylphosphino)benzene、cis-1,2-Bis(diphenylphosphino)ethene、Ph3P、1,10-phenanthrolineなどの配位子との錯体、およびこれらとp-toluenesulfonic acidなどのブレンステッド酸との組み合わせ、Ru3O(OCOCH3)7、Ru(H2O)6(O3SCF3)2、Ru(H2O)6(O3STolyl)2、Ru(η5-C5H5)(PPh3)2Cl、Ru(indenyl)(PPh3)2Cl、[Ru(η5-C5H5)(p-cymene)]PF6、[{Ru(η3:η3-2,7-dimethylocta-2,6-diene-1,8-diyl)(μ-Cl)Cl}2]、[{Ru(η6-p-cymene)(μ-Cl)Cl}2]、[Ru(η5-C9H7)Cl(PPh3)2]2、[Ru(η5-C5H5)Cl(PPh3)2]2、[Ru(η3:η3-2,7-dimethylocta-2,6-diene-1,8-diyl)Cl2(CO)]、[Ru(η3:η3-2,7- dimethylocta-2,6-diene-1,8-diyl)Cl2(PPh3)]、[Ru(η3:η3-2,7- dimethylocta-2,6-diene-1,8-diyl)Cl2(Pi-Pr3)]、[Ru(η3:η3-2,7- dimethylocta-2,6-diene-1,8-diyl)Cl2(P(OMe)3)]、[Ru(η3:η3-2,7- dimethylocta-2,6-diene-1,8-diyl)Cl2(CNt-Bu)]、[Ru(η3:η3-2,7- dimethylocta-2,6-diene-1,8-diyl)Cl2(NH2Ph)]、[Ru(η3:η3-2,7- dimethylocta-2,6-diene-1,8-diyl)Cl2(NCMe)]、[Ru(η3:η3-2,7- dimethylocta-2,6-diene-1,8-diyl)Cl(NCMe)2]SbF6、RuCl(PPh3)3
+PF6
-、Ru(CO)3(PPh3)2などが挙げられる。
【0028】
Rh触媒としては、RhCl3、Rh2(SO4)3、[Rh(η2:η2-1,5-cyclooctadiene)2]Cl、[Rh(η2:η2-1,5-cyclooctadiene)2]ClO4、[Rh(η2:η2-1,5-cyclooctadiene)2]BF4、およびこれらとTris(m-sulfophenyl)phosphane、Di(sulfophenylphosphanyl)butane、Sulfonated (2S,4S)-(-)-2,4-bis(diphenylphosphanyl)pentane、Sulfonated (S,S)-1,2-bis(diphenylphosphanylmethyl)cyclobutane、1,2-Bis(diphenylphosphino)ethane、1,2-Bis(dicyclohexylphosphino)ethane、1,3-Bis(diphenylphosphino)propane、1,4-Bis(diphenylphosphino)butane、1,4-Bis(diisopropylphosphino)butane、2,2’-Bis(diphenylphosphino)-1,1’-binaphthylなどの配位子との錯体、Rh(CO)Cl2、RhH[P(OPh)3]4、[Rh[P(OPh)3]4]ClO4、Rh[P(OPh)3]3[P(OPh)2(OC6H4))、Rh(acetylacetonato)(CO)(tris(2-cyanoethyl)phosphine、RhH(PPh3)3、RhMe(PPh3)3、RhPh(PPh3)3、RhPhCO(PPh3)2、RhHCO(PPh3)2、RhHCO(PPh3)3、Rh(PPh3)3
+PF6
-、Rh(-O3S(C6H4)CH2C(CH2PPh2)3)(η2:η2-1,5-cyclooctadiene)、RhH(PPh3)4、[Rh(η2:η2-1,5-cyclooctadiene)2]BF4、RhCl(PPh3)3、RhClCO(PPh3)2、Rh(2,2,6,6-tetramethylpiperidine)などが挙げられる。
【0029】
Pd触媒としては、PdCl2、Pd/C、Pd/polymer、Pd2(dba)3、Pd(dba)2、およびこれらとBis(diphenylphosphino)methane、1,2-Bis(diphenylphosphino)ethane、1,2-Bis(dicyclohexylphosphino)ethane、1,3-Bis(diphenylphosphino)propane、1,4-Bis(diphenylphosphino)butane、1,4-Bis(diisopropylphosphino)butane、2,2’-Bis(diphenylphosphino)-1,1'-binaphthyl、1,2-Bis(diphenylphosphino)benzene、cis-1,2-Bis(diphenylphosphino)ethene、Ph3P、n-Bu3P、t-Bu3P、Tricyclohexylphosphine、1,10-phenanthrolineなどの配位子との錯体などが挙げられる。
【0030】
Fe触媒としては、Fe(CO)5、Fe2(CO)9、Fe3(CO)12、Fe2(CO)9などが挙げられる。
Ni触媒としては、Ni(C2H4)(POTolyl3)2、Ni(η2:η2-1,5-cyclooctadiene)2などが挙げられる。
Ir触媒としては、IrCl3、[(η2:η2-1,5-cyclooctadiene)Ir(PMePh2)2]PF6、[Ir(CO)(PPh3)2]ClO4、[Ir(η2:η2-1,5-cyclooctadiene)(PhCN)(PPh3)]ClO4などが挙げられる。
Co触媒としては、HCo(CO)4などが挙げられる。
【0031】
Os触媒としては、H2Os3(CO)12、[P(CH2CH2PPh2)3OsH(N2)][BPh4]、[P(CH2CH2PPh2)3OsH(η-OCMe2)][BPh4]などが挙げられる。
Pt触媒としては、trans-[PtH(PR3)2(Me2CO)]Xなどが挙げられる。
Mo触媒としては、trans-[Mo(N2)2(1,2-bis(diphenylphosphino)ethane)2]、MoH4(1,2-bis(diphenylphosphino)ethane)2などが挙げられる。
Cr触媒としては、Cr(CO)3(naphthalene)などが挙げられる。
【0032】
これらの触媒に添加して、系内で活性な触媒を生成させるための添加物として、n-ブチルリチウム、リチウムジイソプロピルアミド、メチルマグネシウムブロミド、フェニルマグネシウムブロミド、メチルリチウム、フェニルリチウム、リチウムテトラメチルピペリジド、カリウムt-ブトキシド、ナトリウムt-ブトキシド、炭酸カリウム、炭酸セシウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、ヘキサフルオロリン酸アンモニウム、ヘキサフルオロリン酸トリエチルアンモニウム、ヘキサフルオロリン酸銀、トリエチルアミン、トリイソプロピルホスフィン、トリシクロヘキシルホスフィン、トリフェニルホスフィン、1,10-フェナントロリン、p-トルエンスルホン酸などを挙げることができる。
【0033】
反応溶媒は、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、1,4-ジオキサン、メタノール、エタノール、トルエン、キシレン、メシチレン、水、ジクロロエタン、ジクロロメタン、アセトン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタンなどを用いることができるほか、無溶媒でも行える。反応温度は、好ましくは室温から反応溶媒還流温度までである。反応時間は、通常数十分間~数十時間であり、原料のアリルアルコール類の嵩高さに大きく依存し、嵩高いほど時間が長くなる。具体的には、カルボニルの位置の比較では2-ヘプタノンは4-ヘプタノンより、炭素数の比較では4-ヘプタノンは4-ノナノンより、置換基の有無の比較では2-ヘプタノンは3-エチル-2-ヘプタノンより、また同じ炭素数で構造の違いの比較では2-ヘプタノンは3-エチル-2-ペンタノンより、それぞれ生成速度が速い。また触媒の活性が高いほど反応時間は短くなる。
【実施例】
【0034】
次に、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明は、これらの例によって、なんら限定されるものではない。
生成物は、ガスクロマトグラフィーで分析を行い、組成比を面積百分率にて算出した。測定条件は以下の通りである。
【0035】
GC装置:島津製作所GC-2014
カラム:Agilent J&W GCカラム DB-1ms(L60m×φ0.250mm、D:0.25μm)
カラム温度:50℃(5分保持)→10℃/min→250℃(5分保持)
インジェクション温度:280℃
キャリヤーガス:純ヘリウム G1
検出器:水素炎イオン化検出器(FID)
【0036】
GC-MS装置:島津製作所GC-2010、GCMS-TQ8040
カラム:Agilent J&W GCカラム DB-5ms(L30m×φ0.250mm、D:0.25μm)
カラム温度:50℃→10℃/min→250℃(10分保持)
インジェクション温度:250℃
キャリヤーガス:純ヘリウム G1
GC検出器:水素炎イオン化検出器(FID)
GC検出器温度:320℃
イオン源:EI
イオン源温度:200℃
インターフェース温度:230℃
測定モード:Q3スキャン
m/e=30~500
【0037】
<実施例1>(第一段階)
窒素雰囲気下、特開平9-59201の実施例1に従ってブチルアルデヒドとアセトアルデヒドのアルドール縮合を行い、生成した4種のα,β-不飽和アルデヒド(2-ブテナール、2-エチル-2-ブテナール、2-ヘキセナール、2-エチル-2-ヘキセナール)の混合物を得、2-ブテナールだけを蒸留で除去し、2-エチル-2-ブテナール、2-ヘキセナール、2-エチル-2-ヘキセナールの混合物を、35.5:44.7:19.7の比率で得た。
【0038】
<実施例2>(第二段階)
窒素雰囲気下、フラスコに1mol/Lのメチルマグネシウムブロミドのテトラヒドロフラン溶液(60ml)を入れ、-15℃に冷却した。その中へ0℃を超えないように、実施例1で得た2-エチル-2-ブテナール、2-ヘキセナール、2-エチル-2-ヘキセナールの混合物(5.95g、35:45:20)を20分かけて滴下した後、室温まで昇温させながら1時間攪拌した。氷浴で冷却し、飽和塩化アンモニウム水溶液で反応を停止させた。t-ブチルメチルエーテルで抽出し、有機層を飽和食塩水で洗浄後、無水硫酸ナトリウムで乾燥、ろ過し、ろ液を25℃で減圧下にエバポレーターで濃縮し、3-エチル-3-ペンテン-2-オール、3-ヘプテン-2-オール、3-エチル-3-ヘプテン-2-オールの混合物(6.11g)を、45:37:18の比率で得た。
【0039】
<実施例3>(第三段階)
窒素雰囲気下、フラスコに実施例2で得た3-エチル-3-ペンテン-2-オール、3-ヘプテン-2-オール、3-エチル-3-ヘプテン-2-オールの混合物(1.0g、45:37:18)を入れ、テトラヒドロフラン(8.7ml)、炭酸セシウム(57mg)、トリス(トリフェニルホスフィン)ルテニウム(II)ジクロリド(84mg)を入れ、21時間加熱還流させ、3-エチル-3-ペンテン-2-オールから3-エチル-2-ペンタノンが52%、3-ヘプテン-2-オールから2-ヘプタノンが95%、3-エチル-3-ヘプテン-2-オールから3-エチル-2-ヘプタノンが41%、それぞれ生成したことを確認した。
【0040】
<実施例4>(第二段階)
窒素雰囲気下、フラスコに1mol/Lのメチルマグネシウムブロミドのテトラヒドロフラン溶液(53ml)を入れ、-15℃に冷却した。その中へ0℃を超えないように、2-エチル-2-ブテナール(5.0g)を20分間かけて滴下した。氷冷下で30分間攪拌した後、飽和塩化アンモニウム水溶液を加えて、t-ブチルメチルエーテルで抽出した。有機層を飽和食塩水で洗浄し、硫酸ナトリウムで乾燥、濾過し、濾液を減圧下、25℃で濃縮し、3-エチル-3-ペンテン-2-オール(5.7g)を得た。
【0041】
<実施例5>(第三段階)
窒素雰囲気下、フラスコに、実施例4で得た、3-エチル-3-ペンテン-2-オール(1.0g)、テトラヒドロフラン(8.8ml)、炭酸カリウム(12mg)、トリス(トリフェニルホスフィン)ルテニウム(II)ジクロリド(84mg)を入れ、加熱還流32時間行った。転化率82%、選択率70%で3-エチル-2-ペンタノンが生成したことを確認した。
【0042】
<実施例6>(第二段階)
窒素雰囲気下、フラスコに1mol/Lのメチルマグネシウムブロミドのテトラヒドロフラン溶液(64ml)を入れ、-15℃に冷却した。その中へ0℃を超えないように、2-ヘキセナール(6.0g)を20分間かけて滴下した。冷却バスを外し、室温まで昇温しながら1時間攪拌した。再度氷冷した後、飽和塩化アンモニウム水溶液を加えて、t-ブチルメチルエーテルで抽出した。有機層を飽和食塩水で洗浄し、硫酸ナトリウムで乾燥、濾過し、濾液を減圧下、25℃で濃縮し、3-ヘプテン-2-オール(7.0g)を得た。
【0043】
<実施例7>(第三段階)
窒素雰囲気下、フラスコに、実施例6で得た、3-ヘプテン-2-オール(1.0g)、テトラヒドロフラン(8.8ml)、炭酸カリウム(48mg)、トリス(トリフェニルホスフィン)ルテニウム(II)ジクロリド(168mg)を入れ、加熱還流11時間行った。転化率100%、選択率100%で2-ヘプタノンが生成したことを確認した。
【0044】
<実施例8>(第二段階)
窒素雰囲気下、フラスコに1mol/Lのメチルマグネシウムブロミドのテトラヒドロフラン溶液(50ml)を入れ、-15℃に冷却した。その中へ0℃を超えないように、2-エチル-2-ヘキセナール(6.0g)を20分間かけて滴下した。冷却バスを外し、室温まで昇温させながら1時間攪拌した。再度氷冷した後、飽和塩化アンモニウム水溶液を加えて、t-ブチルメチルエーテルで抽出した。有機層を飽和食塩水で洗浄し、硫酸ナトリウムで乾燥、濾過し、濾液を減圧下、25℃で濃縮し、3-エチル-3-ヘプテン-2-オール(6.8g)を得た。
【0045】
<実施例9>(第三段階)
窒素雰囲気下、フラスコに、3-エチル-3-ヘプテン-2-オール(1.0g)、テトラヒドロフラン(3.5ml)、水(3.5ml)、炭酸カリウム(19mg)、トリス(トリフェニルホスフィン)ルテニウム(II)ジクロリド(67mg)を入れ、加熱還流23時間行った。転化率99%、選択率96%で3-エチル-2-ヘプタノンが生成したことを確認した。
【0046】
<実施例10>(第二段階)
窒素雰囲気下、フラスコに1mol/Lのプロピルマグネシウムブロミドのテトラヒドロフラン溶液(78ml)を入れ、-10℃に冷却した。その中へ5℃を超えないように、2-ブテナール(5.0g)を20分間かけて滴下した。冷却バスを外し、室温まで昇温させながら1時間攪拌した。再度氷冷した後、飽和塩化アンモニウム水溶液を加えて、t-ブチルメチルエーテルで抽出した。有機層を飽和食塩水で洗浄し、硫酸ナトリウムで乾燥、濾過し、濾液を減圧下、25℃で濃縮し、2-ヘプテン-4-オール(8.1g)を得た。
【0047】
<実施例11>(第三段階)
窒素雰囲気下、フラスコに、2-ヘプテン-4-オール(1.0g)、テトラヒドロフラン(8ml)、炭酸カリウム(25mg)、トリス(トリフェニルホスフィン)ルテニウム(II)ジクロリド(84mg)を入れ、加熱還流40時間行った。転化率77%、選択率80%で4-ヘプタノンが生成したことを確認した。
【0048】
<実施例12>(第二段階)
窒素雰囲気下、フラスコに1mol/Lのプロピルマグネシウムブロミドのテトラヒドロフラン溶液(56ml)を入れ、-10℃に冷却した。その中へ5℃を超えないように、2-ヘキセナール(5.0g)を20分間かけて滴下した。冷却バスを外し、室温まで昇温させながら1時間攪拌した。再度氷冷した後、飽和塩化アンモニウム水溶液を加えて、t-ブチルメチルエーテルで抽出した。有機層を飽和食塩水で洗浄し、硫酸ナトリウムで乾燥、濾過し、濾液を減圧下、25℃で濃縮し、5-ノネン-4-オール(7.1g)を得た。
【0049】
<実施例13>(第三段階)
窒素雰囲気下、フラスコに、5-ノネン-4-オール(1.0g)、テトラヒドロフラン(7ml)、炭酸カリウム(19mg)、トリス(トリフェニルホスフィン)ルテニウム(II)ジクロリド(67mg)を入れ、加熱還流40時間行った。転化率80%、選択率64%で4-ノナノンが生成したことを確認した。
【0050】
<実施例14>(第二段階)
窒素雰囲気下、フラスコに1mol/Lのメチルマグネシウムブロミドのテトラヒドロフラン溶液(25ml)および1mol/Lのプロピルマグネシウムブロミドのテトラヒドロフラン溶液(25ml)を入れ、-15℃に冷却した。その中へ特開平9-59201の実施例1に従ってブチルアルデヒドとアセトアルデヒドのアルドール縮合から得た4種のα,β-不飽和アルデヒド(2-ブテナール、2-エチル-2-ブテナール、2-ヘキセナール、2-エチル-2-ヘキセナール)の混合物(32:22:30:15)を、5℃を超えないように、20分間かけて滴下した。冷却バスを外し、室温まで昇温させながら1時間攪拌した。再度氷冷した後、飽和塩化アンモニウム水溶液を加えて、t-ブチルメチルエーテルで抽出した。有機層を飽和食塩水で洗浄し、硫酸ナトリウムで乾燥、ろ過し、濾液を減圧下、25℃で濃縮し、3-ペンテン-2-オール、3-ヘプテン-2-オール、2-ヘプテン-4-オール、3-エチル-3-ペンテン-2-オール、3-エチル-3-ヘプテン-2-オール、3-エチル-2-ヘプテン-4-オール、5-ノネン-4-オール、5-エチル-5-ノネン-4-オールの混合物(GC保持時間順、12:13:24:6.5:5.5:13:17:9、但し、2-ヘプテン-4-オールと3-エチル-3-ペンテン-2-オールのピークは完全分離しなかったため、計算値を用いた)を得たことを、GC-MSにより確認した。
【0051】
<実施例15>(第三段階)
窒素雰囲気下、フラスコに、実施例14で得た、3-ペンテン-2-オール、3-ヘプテン-2-オール、2-ヘプテン-4-オール、3-エチル-3-ペンテン-2-オール、3-エチル-3-ヘプテン-2-オール、3-エチル-2-ヘプテン-4-オール、5-ノネン-4-オール、5-エチル-5-ノネン-4-オールの混合物(1.0g)、テトラヒドロフラン(8ml)、炭酸セシウム(104mg)、 (2,6,10-ドデカトリエン-1,12-ジイル)ルテニウム(II)ジクロリド(53mg)を入れ、加熱還流20時間行った。転化率84%、選択率94%で目的のケトンが生成したことをGC-MSにより確認した。それぞれの転化率を括弧内に示した。
2-ペンタノン(転化率93%)、3-エチル-2-ペンタノン(転化率97%)、4-ヘプタノン(転化率99%)、2-ヘプタノン(転化率91%)、3-エチル-4-ヘプタノン(転化率58%)、3-エチル-2-ヘプタノン(転化率89%)、4-ノナノン(転化率97%)、5-エチル-4-ノナノン(転化率46%)。
【0052】
<実施例16>(第三段階)
窒素雰囲気下、フラスコに、実施例14で得た、3-ペンテン-2-オール、3-ヘプテン-2-オール、2-ヘプテン-4-オール、3-エチル-3-ペンテン-2-オール、3-エチル-3-ヘプテン-2-オール、3-エチル-2-ヘプテン-4-オール、5-ノネン-4-オール、5-エチル-5-ノネン-4-オールの混合物(1.0g)、テトラヒドロフラン(8ml)、炭酸カリウム(73mg)、トリス(トリフェニルホスフィン)ロジウム(I)クロリド(243mg)を入れ、加熱還流3時間行った。
転化率100%、選択率94%で2-ペンタノン、3-エチル-2-ペンタノン、4-ヘプタノン、2-ヘプタノン、3-エチル-4-ヘプタノン、3-エチル-2-ヘプタノン、4-ノナノン、5-エチル-4-ノナノンの混合物(GC保持時間順、10:9:22:12:14:6:18:9)が生成したことをGC-MSにより確認した。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明の製造方法によれば、雄のドブネズミ(Rattus norvegicus)の性フェロモンを構成する主要5成分のケトンを、ブチルアルデヒドとアセトアルデヒドのアルドール縮合に続けてアルキル化と異性化を行わせることにより簡便に製造でき、誘引剤組成物として提供できる。