(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-04
(45)【発行日】2023-09-12
(54)【発明の名称】アルコールの製造方法及び触媒
(51)【国際特許分類】
C07C 29/149 20060101AFI20230905BHJP
C07C 31/20 20060101ALI20230905BHJP
C07C 59/01 20060101ALI20230905BHJP
C07C 51/377 20060101ALI20230905BHJP
B01J 23/36 20060101ALI20230905BHJP
C07B 61/00 20060101ALN20230905BHJP
【FI】
C07C29/149
C07C31/20 Z
C07C59/01
C07C51/377
B01J23/36 Z
C07B61/00 300
(21)【出願番号】P 2020532378
(86)(22)【出願日】2019-07-22
(86)【国際出願番号】 JP2019028633
(87)【国際公開番号】W WO2020022256
(87)【国際公開日】2020-01-30
【審査請求日】2022-01-17
(31)【優先権主張番号】P 2018137792
(32)【優先日】2018-07-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086911
【氏名又は名称】重野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100144967
【氏名又は名称】重野 隆之
(72)【発明者】
【氏名】松尾 武士
(72)【発明者】
【氏名】吉川 由美子
(72)【発明者】
【氏名】坂本 尚之
(72)【発明者】
【氏名】青島 敬之
【審査官】前田 憲彦
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-048349(JP,A)
【文献】特開2015-074619(JP,A)
【文献】特開2001-046874(JP,A)
【文献】特開2001-046873(JP,A)
【文献】特開平11-199530(JP,A)
【文献】特開平08-245444(JP,A)
【文献】特表2005-537327(JP,A)
【文献】特表2006-505399(JP,A)
【文献】特表2013-508326(JP,A)
【文献】特表2016-500697(JP,A)
【文献】特表2002-501817(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 29/
C07C 31/
C07C 59/
C07C 51/
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルボン酸、カルボン酸エステル、無水カルボン酸、およびアルデヒドから選ばれる1種以上の化合物からアルコールを製造するアルコールの製造方法において、平均原子価が4以下であるレニウムを含有
し、鉄ならびにニッケルを除く周期表第8~10族の金属の含有量が、レニウム原子に対する原子質量比で0.2未満である金属成分が、酸化ジルコニウムを含有する担体に担持された触媒を用いて
水素ガス存在下アルコールを製造することを特徴とするアルコールの製造方法。
【請求項2】
前記担体が、少なくとも単斜晶および/または正方晶の酸化ジルコニウムを含有することを特徴とする請求項1に記載のアルコールの製造方法。
【請求項3】
前記担体が、少なくとも単斜晶の酸化ジルコニウムを含有することを特徴とする請求項2に記載のアルコールの製造方法。
【請求項4】
前記担体が、更に正方晶の酸化ジルコニウムを含有する担体であって、単斜晶の酸化ジルコニウムに対する正方晶の酸化ジルコニウムの含有割合が質量比で3以下であることを特徴とする請求項3に記載のアルコールの製造方法。
【請求項5】
前記担体が酸化ジルコニウムであることを特徴とする請求項1~請求項4のいずれかに記載のアルコールの製造方法。
【請求項6】
前記担体の比表面積が30m
2/g以上であることを特徴とする請求項1~請求項5のいずれかに記載のアルコールの製造方法。
【請求項7】
前記金属成分が、第2成分として、周期表第3周期以降の第13~15族に属する元素の1種又は2種以上を含有することを特徴とする請求項1~請求項6のいずれかに記載のアルコールの製造方法。
【請求項8】
前記金属成分中のレニウム元素に対する前記第2成分の元素の質量比が0.1以上、3以下であることを特徴とする請求項7に記載のアルコールの製造方法。
【請求項9】
前記金属成分が前記第2成分の元素としてゲルマニウムを含有することを特徴とする請求項7又は請求項8に記載のアルコールの製造方法。
【請求項10】
酸化ジルコニウムを含有する担体に、レニウムを含有する金属成分が担持された触媒であって、前記レニウムの平均原子価が4以下であ
り、該金属成分中の鉄ならびにニッケルを除く周期表第8~10族の金属の含有量が、レニウム原子に対する原子質量比で0.2未満であることを特徴とする
カルボン酸、カルボン酸エステル、無水カルボン酸、およびアルデヒドから選ばれる1種以上の化合物の
水素ガスを用いた水素化によるアルコールの製造用触媒。
【請求項11】
前記担体が、少なくとも単斜晶および/または正方晶の酸化ジルコニウムを含有することを特徴とする請求項10に記載のカルボニル化合物の水素化によるアルコールの製造用触媒。
【請求項12】
前記担体が、少なくとも単斜晶の酸化ジルコニウムを含有することを特徴とする請求項11に記載のカルボニル化合物の水素化によるアルコールの製造用触媒。
【請求項13】
前記酸化ジルコニウム中の単斜晶の酸化ジルコニウムに対する正方晶の酸化ジルコニウムの含有割合が質量比で3以下であることを特徴とする請求項12に記載のカルボニル化合物の水素化によるアルコールの製造用触媒。
【請求項14】
前記担体が酸化ジルコニウムであることを特徴とする請求項10~請求項13のいずれかに記載のカルボニル化合物の水素化によるアルコールの製造用触媒。
【請求項15】
前記担体の比表面積が30m
2/g以上であることを特徴とする請求項10~請求項14のいずれかに記載のカルボニル化合物の水素化によるアルコールの製造用触媒。
【請求項16】
前記金属成分が、第2成分として、周期表第3周期以降の第13~15族に属する元素の1種又は2種以上を含有することを特徴とする請求項10~請求項15のいずれかに記載のカルボニル化合物の水素化によるアルコールの製造用触媒。
【請求項17】
前記金属成分中のレニウム元素に対する前記第2成分の元素の質量比が0.1以上、3以下であることを特徴とする請求項16に記載のカルボニル化合物の水素化によるアルコールの製造用触媒。
【請求項18】
前記金属成分が前記第2成分の元素としてゲルマニウムを含有することを特徴とする請求項16又は請求項17に記載のカルボニル化合物の水素化によるアルコールの製造用触媒。
【請求項19】
平均原子価が4以下のレニウムを含む金属成分
であって、該金属成分中の鉄ならびにニッケルを除く周期表第8~10族の金属の含有量が、レニウム原子に対する原子質量比で0.2未満である金属成分が酸化ジルコニウムを含有する担体に担持された触媒の製造方法であって、以下の工程を経て該触媒を製造することを特徴とする
カルボン酸、カルボン酸エステル、無水カルボン酸、およびアルデヒドから選ばれる1種以上の化合物の水素ガスを用いた水素化によるアルコールの製造用触媒の製造方法。
(i)前記担体に、前記金属成分を担持させる工程
(ii)得られた金属担持物を還元性気体により還元処理する工程
(iii)前記還元処理後に酸化する工程
【請求項20】
前記担体が少なくとも単斜晶および/または正方晶の酸化ジルコニウムを含有することを特徴とする請求項19に記載の触媒の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カルボニル化合物の水素化によるアルコールの製造方法に関する。本発明はまた、カルボニル化合物の水素化触媒、すなわち、カルボニル化合物の水素化によるアルコールの製造用触媒として有用な触媒及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
カルボニル化合物を水素化して対応するアルコールを製造する方法は古くから知られている。例えば、有機カルボン酸からアルコールを製造する方法としては、カルボン酸を予め低級アルコールでエステル化した後、Adkins触媒(銅クロマイト系触媒)で還元する方法が一般的に使用されている。
【0003】
銅系触媒を用いたアルコールの製造は、一般に200気圧以上の水素圧といった過酷な条件下で行われる。このため、アルコール製造時に多大なエネルギーを消費する上に、設備上の制約が多い不経済なプロセスとなる。
銅系触媒では、有機カルボン酸を直接還元することができず、カルボン酸を一旦カルボン酸エステルに転換して還元しなければならない。このため、目的のアルコールを製造する上では多段の反応プロセスを経由し、煩雑なプロセスになる。
【0004】
また、2段でアルコールを製造する方法では、例えば、原料として多価カルボン酸を用いた際に、カルボン酸官能基の一部をアルコール官能基に変換したヒドロキシカルボン酸を選択的に製造することは極めて困難となる。
【0005】
これに対して、カルボン酸を一段で直接水素化(還元)し、対応するアルコールを高選択的に製造する方法は経済的に有利なプロセスとなる。原料として多価カルボン酸を用いた際に反応条件を適切に制御すれば、対応するヒドロキシカルボン酸を選択的に製造することも可能となる。
【0006】
このようなプロセスに使用される触媒としては、周期表第8~10族に属する貴金属を触媒活性成分とする各種の金属担持触媒が提案されている。
例えば、担体にパラジウム及びレニウムを担持させ、これを水素等で還元処理した触媒(例えば、特許文献1及び非特許文献1)や、担体にルテニウム及びスズを担持させ、これを水素等で還元処理した触媒(例えば、特許文献2及び3)が提案されている。
【0007】
これらの触媒はカルボン酸及び/又はカルボン酸エステルの還元において、高い反応活性及び反応選択率を示す、良好な触媒である。その他、この種の触媒として、ランタン及びパラジウムを含むコバルト系触媒(例えば、特許文献4)を用いた特定のカルボン酸の水素化反応も提案されている。
【0008】
これに対して、高価な周期表第8~10族に属する貴金属を使用しない触媒も提案されている。例えば、レニウムを触媒成分とする触媒が古くから報告されている(例えば、非特許文献2)。特定のカルボン酸の水素化反応において、スズを含むレニウム系触媒も提案されている(例えば、特許文献5)。
【0009】
近年、より温和な反応条件下で目的とするアルコールを選択的に製造する方法として、レニウムを触媒活性成分とする金属担持触媒を用いた製造方法が報告されている(例えば、非特許文献3及び4)。レニウムを触媒活性成分とする触媒においては、非特許文献4のSupporting Informationに記載のように、有意な触媒活性を示す担体としては、酸化チタンが特異的に有効であることが報告されている。
【0010】
しかし、レニウムを触媒活性成分とする触媒は、いずれも貴金属を用いた触媒に比べ触媒活性が劣る。このため、担持金属として周期表第8~10族に属する貴金属と組み合わせたり、担体に周期表第9族に属するコバルトを使用する手法が一般的である(例えば、特許文献6、7、8、及び9、非特許文献5)。
【0011】
【文献】特開昭63-218636号公報
【文献】特開2000-007596号公報
【文献】特開2001-157841号公報
【文献】特開昭63-301845号公報
【文献】特開平4-99753号公報
【文献】特開平6-116182号公報
【文献】特表2002-501817号公報
【文献】特表2016-500697号公報
【文献】特開平7-118187号公報
【0012】
【文献】Topics in Catalysis 55 (2012) 466-473
【文献】Journal of Organic Chemistry 24 (1959) 1847-1854
【文献】Journal of Catalysis 328 (2015) 197-207
【文献】Chemistry A European Journal 23 (2017) 1001-1006
【文献】ACS Catalysis 5 (2015) 7034-7047
【0013】
従来の水素化触媒のうち、周期表第8~10族に属する貴金属を触媒活性成分とする触媒は、高価な貴金属を使用する為に触媒製造コストの高騰を招くだけではなく、一般に、副反応が起こりやすく、反応選択性が低くなる課題がある。この副反応としては、脱炭酸を伴う減炭素反応や生成物の脱水ならびに水素化に伴う脱官能基化反応、原料のカルボン酸と生成物のアルコールとのエステル化反応などがある。
【0014】
例えば、レニウムを含有するパラジウム金属担持触媒では、非特許文献1で示されるように、レニウムの添加によりコハク酸からその水素化物であるブタンジオールへの触媒反応速度が向上するが、同時に前記の副反応が併発するために生成物の生産性が劣るばかりでなく精製コストが高騰する。また、その触媒活性も依然不充分である。
【0015】
特許文献2及び3で提案されているような周期表第8~10族に属する貴金属に加えてスズ等の触媒成分を添加した触媒では、スズ等の添加により反応選択性を向上させる手法がとられるが、これらの触媒成分の添加は、触媒活性を低下させてしまう。このため、例えば、白金のような高価な貴金属を更に多量に使用する必要が生じ、触媒製造コストが高騰する。
【0016】
レニウムを触媒活性主成分とし、酸化チタンを担体とする触媒は、高価な貴金属を使用しない点では、経済性に優れたプロセスが構築できる可能性がある。
しかし、公知のレニウム担持酸化チタン触媒は、空気や酸素等の酸化性ガスに接触させると触媒失活が著しく、取り扱い困難な触媒であるといった課題がある。
すなわち、レニウムを触媒活性成分とする公知の触媒には以下の課題がある。
1) 工業プロセスにおいては触媒充填や再生時に触媒失活が起こりやすく、その取り扱い操作が煩雑になる。失活された触媒成分を含有する触媒は、貴金属を使用する触媒系に比べて低活性となり生産性が損なわれる。
2) 高原子価のレニウム種の高いルイス酸性により、原料のカルボン酸と生成物のアルコールとのエステル化反応が進行し易くなる。
3) 特に反応後期において、生成するアルコールの脱水ならびに水素化により脱官能基化反応が顕著になって目的生成物であるアルコールの選択性が著しく低下してしまう。
【発明の概要】
【0017】
本発明は、レニウムを触媒活性成分とする金属担持触媒であって、以下の特長を有する高活性レニウム担持触媒及びその製造方法と、この触媒を用いたアルコールの製造方法を提供することを目的とする。
i) 前記の種々の副反応を十分に抑制し、カルボニル化合物の水素化反応により目的とするアルコールを高収率、高選択的に製造することができる。
ii) 空気下で取り扱い可能な取り扱い操作性ならびに経済性に優れる。
【0018】
本発明者らは、レニウムを酸化ジルコニウム担体に担持させた特定の触媒が、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
即ち、本発明は以下を要旨とする。
【0019】
[1] カルボニル化合物からアルコールを製造するアルコールの製造方法において、平均原子価が4以下であるレニウムを含有する金属成分が、酸化ジルコニウムを含有する担体に担持された触媒を用いてアルコールを製造することを特徴とするアルコールの製造方法。
【0020】
[2] 前記担体が、少なくとも単斜晶および/または正方晶の酸化ジルコニウムを含有することを特徴とする[1]に記載のアルコールの製造方法。
【0021】
[3] 前記担体が、少なくとも単斜晶の酸化ジルコニウムを含有することを特徴とする[2]に記載のアルコールの製造方法。
【0022】
[4] 前記担体が、更に正方晶の酸化ジルコニウムを含有する担体であって、単斜晶の酸化ジルコニウムに対する正方晶の酸化ジルコニウムの含有割合が質量比で3以下であることを特徴とする[3]に記載のアルコールの製造方法。
【0023】
[5] 前記担体が酸化ジルコニウムであることを特徴とする[1]~[4]のいずれかに記載のアルコールの製造方法。
【0024】
[6] 前記担体の比表面積が30m2/g以上であることを特徴とする[1]~[5]のいずれかに記載のアルコールの製造方法。
【0025】
[7] 前記金属成分が、第2成分として、周期表第3周期以降の第13~15族に属する元素の1種又は2種以上を含有することを特徴とする[1]~[6]のいずれかに記載のアルコールの製造方法。
【0026】
[8] 前記金属成分中のレニウム元素に対する前記第2成分の元素の質量比が0.1以上、3以下であることを特徴とする[7]に記載のアルコールの製造方法。
【0027】
[9] 前記金属成分が前記第2成分の元素としてゲルマニウムを含有することを特徴とする[7]又は[8]に記載のアルコールの製造方法。
【0028】
[10] 酸化ジルコニウムを含有する担体に、レニウムを含有する金属成分が担持された触媒であって、前記レニウムの平均原子価が4以下であることを特徴とするカルボニル化合物の水素化によるアルコールの製造用触媒。
【0029】
[11] 前記担体が、少なくとも単斜晶および/または正方晶の酸化ジルコニウムを含有することを特徴とする[10]に記載のカルボニル化合物の水素化によるアルコールの製造用触媒。
【0030】
[12] 前記担体が、少なくとも単斜晶の酸化ジルコニウムを含有することを特徴とする[11]に記載のカルボニル化合物の水素化によるアルコールの製造用触媒。
【0031】
[13] 前記酸化ジルコニウム中の単斜晶の酸化ジルコニウムに対する正方晶の酸化ジルコニウムの含有割合が質量比で3以下であることを特徴とする[12]に記載のカルボニル化合物の水素化によるアルコールの製造用触媒。
【0032】
[14] 前記担体が酸化ジルコニウムであることを特徴とする[10]~[13]のいずれかに記載のカルボニル化合物の水素化によるアルコールの製造用触媒。
【0033】
[15] 前記担体の比表面積が30m2/g以上であることを特徴とする[10]~[14]のいずれかに記載のカルボニル化合物の水素化によるアルコールの製造用触媒。
【0034】
[16] 前記金属成分が、第2成分として、周期表第3周期以降の第13~15族に属する元素の1種又は2種以上を含有することを特徴とする[10]~[15]のいずれかに記載のカルボニル化合物の水素化によるアルコールの製造用触媒。
【0035】
[17] 前記金属成分中のレニウム元素に対する前記第2成分の元素の質量比が0.1以上、3以下であることを特徴とする[16]に記載のカルボニル化合物の水素化によるアルコールの製造用触媒。
【0036】
[18] 前記金属成分が前記第2成分の元素としてゲルマニウムを含有することを特徴とする[16]又は[17]に記載のカルボニル化合物の水素化によるアルコールの製造用触媒。
【0037】
[19] 平均原子価が4以下のレニウムを含む金属成分が酸化ジルコニウムを含有する担体に担持された触媒の製造方法であって、以下の工程を経て該触媒を製造することを特徴とする触媒の製造方法。
(i)前記担体に、前記金属成分を担持させる工程
(ii)得られた金属担持物を還元性気体により還元処理する工程
(iii)前記還元処理後に酸化する工程
【0038】
[20] 前記担体が少なくとも単斜晶および/または正方晶の酸化ジルコニウムを含有することを特徴とする[19]に記載の触媒の製造方法。
【発明の効果】
【0039】
本発明によれば、レニウムを触媒活性成分とする金属成分が酸化ジルコニウムを含有する担体に担持させた特定の高活性触媒を用いることにより、カルボニル化合物の水素化において、種々の副反応を十分に抑制して高収率かつ高選択的でアルコールを製造することができる。
【0040】
本発明の触媒により、本質的に周期表第8~10族の貴金属類を使用せずとも、従来のレニウム触媒の課題であった触媒活性の向上を図ることができる。また、本発明の触媒により、原料のカルボン酸と生成物のアルコールとのエステル化反応や、特に反応後期に顕著に併発する生成アルコールの脱水ならびに水素化による脱官能基化反応等の副反応を高度に抑制したカルボニル化合物からのアルコールの製造が可能となる。特に、この優位性は、触媒を水素等の還元性気体により還元処理した後、酸素や空気等で酸化安定化処理を行った触媒において顕著である。
【0041】
本発明の触媒は、酸化安定化処理された場合、空気下での取り扱いが可能な触媒となり、触媒活性ならびに反応選択性に優れるとともに触媒の輸送や保管、アルコール製造時の触媒の反応器への充填や再生等の操作性に優れた触媒となる。
本発明の触媒によれば、原料として多価カルボン酸を用いた際に、カルボン酸官能基の一部をアルコール官能基に変換したヒドロキシカルボン酸を高選択的に製造することも可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0042】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。以下に記載する構成要件の説明は、本発明の実施態様の一例(代表例)であり、本発明はこれらの内容に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0043】
本発明において、担体に担持させて用いる触媒成分(レニウム、アルミニウム、ガリウム、インジウム、ケイ素、ゲルマニウム、スズ、アンチモン及びビスマス等の周期表の第3周期以降の第13~15族に属する元素、及び、その他必要に応じ用いる周期表第8~10族のルテニウム等の金属等)を総称して「金属成分」ということがある。
【0044】
本発明において、周期表とは、長周期型周期表(Nomenclature of Inorganic Chemistry IUPAC Recommendations 2005)を意味するものとする。
【0045】
金属成分を担体に担持したものを「金属担持物」ということがある。
【0046】
金属担持物を還元処理したものを「金属担持触媒」ということがある。
【0047】
本発明において、担体に担持された金属成分は、触媒中に含まれる金属成分を意味するものとする。
【0048】
触媒中のレニウム原子の含有量は、例えば、公知のICP質量分析法(ICP-MS:Inductively Coupled Plasma Mass Spectrometry)、ICP発光分析法(ICP-AES:Inductively Coupled Plasma Atomic Emission Spectrometry)、原子吸光分析法(AAS:Atomic Absorption Spectrometry)、或いは、蛍光X線分析法(XRF:X-ray Fluorescence Analysis)等の分析方法を用いて決定される。
前三者に関しては、分析を行う際に試料の溶液化の前処理を組み合わせて行う。
これらの分析方法は、定量分析を行う元素やその濃度、求められる精度により適切な分析方法が異なるため、特に限定はされない。
本発明においては、ICP発光分析法、原子吸光分析法ならびにそれらの併用により触媒中のレニウム原子の定量分析を行い、レニウム原子の含有量を決定する。
【0049】
本発明において、“重量%”と“質量%”とは同義である。 “元素”と“原子”とは同義である。
【0050】
本発明の触媒は、カルボニル化合物からアルコールを製造する際の水素化触媒として使用される。
本発明において、カルボニル化合物とは炭素-酸素二重結合(C=O)を有する化合物と定義される。
アルコールとは該カルボニル化合物がアルコール官能基(OH)に変換された化合物と定義される。
よって、本発明においては、原料となるカルボニル化合物が炭素-酸素二重結合を複数有する場合には、少なくともその一つがアルコール官能基に変換された化合物はアルコールと定義される。
【0051】
[本発明の触媒]
本発明の触媒(以下、「本触媒」ということがある。)は、平均原子価が4以下であるレニウムを含有する金属成分が、酸化ジルコニウムを含有する担体に担持されてなることを特徴とする。
【0052】
本触媒は、通常、レニウムを含有する金属成分を担持させた金属担持物を、還元性気体により還元処理した後、好ましくは酸化安定化処理して得られる。
【0053】
<金属成分>
本触媒に担持された金属成分は、レニウムを含有していればよく、レニウム以外のその他の金属成分については特段制限されない。
【0054】
本触媒に担持されたレニウムは、通常、原子価の異なるレニウムの混合物として存在する。この原子価の異なるレニウムが酸化ジルコニウムに担持されている触媒であることが本発明の好ましい態様の一つである。本触媒において、この原子価の異なる総レニウムに対して、3価以下の低原子価のレニウムの総含有量が、所定値以上であることが好ましく、この割合は、好ましくは30モル%以上、より好ましくは40モル%以上、更に好ましくは50モル%以上、特に好ましくは60モル%以上、とりわけ好ましくは70モル%以上である。原子価の異なる総レニウムに対する3価以下の低原子価のレニウムの総含有量の上限は特に制限されず、100モル%以下であり、取り扱い容易性からは90モル%以下であることが好ましい場合がある。
【0055】
本触媒中のレニウム原子の平均原子価は、通常4以下、より好ましくは3以下、さらに好ましくは2以下である。本触媒中のレニウム原子の平均原子価は、通常0.0以上、より好ましい態様の一つが原子価の異なるレニウムの混合物である理由から、好ましくは0.0を超え、より好ましくは0.1以上、更に好ましくは0.2以上、特に好ましくは0.3以上であり、その中でも0.4以上、より好ましくは0.5以上である。
【0056】
本触媒中の原子価の異なる総レニウムに対する3価以下の低原子価のレニウムの総含有量の割合を制御して、レニウム原子の平均原子価を上記範囲内に適切に制御することにより、カルボニル化合物の水素化触媒反応において十分な触媒活性を発現させることができる。これにより、反応器サイズの増大等を防ぐとともに、原料のカルボン酸と生成物のアルコールとのエステル化反応や、特に反応後期に顕著に併発する生成アルコールの脱水ならびに水素化による脱官能基化反応等の副反応を抑制したカルボニル化合物からのアルコールの製造が可能となる。
【0057】
原子価の異なるレニウムの存在ならびにその含有量比は、通常、X線光電子分光法(XPS:X-ray photoelectron spectroscopy)により決定される。
レニウム原子の平均原子価は、通常、X線吸収端近傍構造(XANES:X-ray absorption near-edge structure)スペクトルから決定される。
【0058】
低原子価のレニウムを含有する成分(以下、レニウム成分ということがある。)が担持された金属担持触媒、すなわち3価以下の低原子価のレニウムの総含有量の割合を制御して、レニウム原子の平均原子価を4以下に制御した金属担持触媒を用いると触媒活性が高く、また反応選択性が向上する理由は、以下の通り推察される。
低原子価のレニウム成分は、還元能力が高いために触媒活性種となるヒドリド種が生成しやすく、水素化触媒能が高まるとともに、レニウム特有のルイス酸性が低下するために、原料のカルボン酸と生成物のアルコールとのエステル化反応や、生成アルコールの脱水反応が起こりにくくなる。
レニウム成分を、酸化ジルコニウムを含有する担体、その中でも特定の晶系の酸化ジルコニウム、特に単斜晶の酸化ジルコニウムを含有する担体へ担持させると、後述する担持レニウム種と担体との相互作用により、担体上の低原子価のレニウム成分が顕著に安定化される。
このような相互作用の観点から、本発明においては、酸化ジルコニウムと特定の平均原子価のレニウム成分との組み合わせが触媒を設計する上で重要となる。
【0059】
本触媒におけるレニウムの担持量は、特段制限されるものではないが、本触媒の総質量に対するレニウム原子の質量割合で、通常0.5質量%以上、好ましくは1質量%以上、より好ましくは3質量%以上、通常30質量%以下、好ましくは20質量%以下、より好ましくは10質量%以下、更に好ましくは8質量%以下である。
レニウムの担持量を上記範囲内に制御することで、本触媒中のレニウムの平均原子価を4以下に制御しやすく、また、原子価の異なるレニウムの質量比を上記の好ましい量比に制御しやすくなる理由から、十分な触媒活性を発現させることができ、反応器サイズの増大等を防ぐことができる一方で、担持したレニウムの凝集による脱炭酸に伴う減炭素反応や生成物の脱水ならびに水素化に伴う脱官能基化反応、原料のカルボン酸と生成物のアルコールとのエステル化反応といった副反応を抑制することができ、反応選択性をより向上させることができる。
レニウムの担持量を前記上限以下とすることで、本触媒中の原子価の異なる総レニウムの平均原子価を4以下に制御でき、また、原子価の異なるレニウムの質量比を上記の好ましい量比に制御しやすくなるばかりでなく、レニウム担持量の増加による触媒コストの高騰を回避することができる。
【0060】
本触媒に担持された金属成分は、レニウムを第1成分として含み、その他の金属成分を第2成分として含むものであってもよい。この場合、第2成分の金属成分としては、周期律表の第3周期以降の第13~15族に属する元素が挙げられる。具体的には、アルミニウム、ガリウム、インジウム、ケイ素、ゲルマニウム、スズ、アンチモン及びビスマスよりなる群から選ばれる1種又は2種以上が挙げられる。この中でも、好ましくはケイ素、インジウム、ゲルマニウム及びスズよりなる群から選ばれる1種又は2種以上であり、より好ましくはゲルマニウム及び/又はスズ、更に好ましくはゲルマニウムである。
【0061】
レニウムと第2成分とを組み合わせる際のレニウム原子に対する第2成分の原子の質量比は、特段の制限はないが、第2成分の効果を得やすくするために通常0.1以上、好ましくは0.5以上で、通常10以下、好ましくは5以下、より好ましくは3以下、特に好ましくは2以下である。
【0062】
担体に複数の金属成分が担持された場合の担持金属原子の質量比は、上記の触媒中の担持金属の金属含有量の分析方法に説明した通り、触媒中に含まれる金属成分を基に算出すればよい。例えば、レニウム原子及び第2成分の原子の質量比は、上記の触媒中の担持金属の金属含有量の分析方法に説明した通り、公知のICP質量分析法(ICP-MS:Inductively Coupled Plasma Mass Spectrometry)、ICP発光分析法(ICP-AES:Inductively Coupled Plasma Atomic Emission Spectrometry)、原子吸光分析法(AAS:Atomic Absorption Spectrometry)、或いは、蛍光X線分析法(XRF:X-ray Fluorescence Analysis)等の分析方法により測定し、該質量比を決定することができる。この計算においては、第2成分、すなわち周期律表の第3周期以降の第13~15族に属する原子に相当する元素のうち、不純物とみなされるものを外して計算してよい。
【0063】
本触媒が第2成分を含有する場合において、第2成分の種類やレニウムに対する担持量比を前記のように適正に選択すると、本触媒中の原子価の異なる総レニウムの平均原子価を4以下に制御しやすく、また、原子価の異なるレニウムの質量比を上記の好ましい量比に制御しやすくなり、原料のカルボン酸と生成物のアルコールとのエステル化反応や、特に反応後期に顕著に併発する生成アルコールの脱水ならびに水素化による脱官能基化反応等の副反応をより効果的に抑制できる傾向がある。このような効果は、水素等の還元性気体により還元処理した後、酸素や空気等で酸化安定化処理された触媒において顕著となる。このため、酸化安定化処理により空気下での取り扱いが可能となるなど、触媒の輸送や保管、アルコール製造時の触媒の反応器への導入等の操作性に優れた触媒となる場合がある。
【0064】
レニウムに対して第2成分を組み合わせることにより、副反応を抑制して反応選択性を向上しやすくなる理由の詳細は明らかではないが、以下の通り推察される。
第2成分の添加により、水素化触媒活性成分となるレニウムの電子状態をカルボニル官能基の還元反応に適した低原子価状態、すなわち、触媒中のレニウムの平均原子価を4以下に制御できるとともに、反応基質の第2成分への親和性により触媒表面上への吸着力が向上し、また、触媒表面上での反応基質の吸着配向性が高度に制御される。
【0065】
本発明の触媒は、レニウムと第2成分以外に、本発明の触媒を用いた還元反応等の反応に悪影響を及ぼさない限り、必要に応じて、更にその他の金属成分を第3成分として含んでいてもよい。
【0066】
その他の金属成分としては、鉄ならびにニッケルを除く周期表第8~10族に属する金属成分が挙げられる。例えば水素化触媒能を示すルテニウム、コバルト、ロジウム、イリジウム、パラジウム及び白金の金属種から選ばれる少なくとも1種の金属が挙げられる。
【0067】
触媒調製および/又は反応中に、SSや、SUS等の材質からなる金属製反応容器の腐食により鉄やニッケル等の金属が溶出して触媒中に混入する場合がある。
これらの溶出金属が触媒上に析出して触媒中に含有される場合、該金属は本発明の触媒中の金属成分として定義されない。この場合、触媒中に鉄以外に、SUS製の反応容器の溶出であれば、以下の金属が材質に応じて特定量比で触媒中に微量検出される。
【0068】
例えば、SUS201からの混入であれば、ニッケル、クロム、マンガンが、鉄と共に特定量比で検出される。
SUS202からの混入であれば、ニッケル、クロム、マンガンが、鉄と共に特定量比で検出される。
SUS301からの混入であれば、ニッケル、クロムが、鉄と共に特定量比で検出される。
SUS302からの混入であれば、ニッケル、クロムが、鉄と共に特定量比で検出される。
SUS303からの混入であれば、ニッケル、クロム、モリブデンが、鉄と共に特定量比で検出される。
SUS304からの混入であれば、ニッケル、クロムが、鉄と共に特定量比で検出される。
SUS305からの混入であれば、ニッケル、クロムが、鉄と共に特定量比で検出される。
SUS316からの混入であれば、ニッケル、クロム、モリブデンが、鉄と共に特定量比で検出される。
SUS317からの混入であれば、ニッケル、クロム、モリブデンが、鉄と共に特定量比で検出される。
SUS329J1からの混入であれば、ニッケル、クロム、モリブデンが、鉄と共に特定量比で検出される。
SUS403からの混入であれば、クロムが、鉄と共に特定量比で検出される。
SUS405からの混入であれば、クロム、アルミニウムが、鉄と共に特定量比で検出される。
SUS420からの混入であれば、クロムが、鉄と共に特定量比で検出される。
SUS430からの混入であれば、クロムが、鉄と共に特定量比で検出される。
SUS430LXからの混入であれば、クロム、チタン又はニオブが、鉄と共に特定量比で検出される。
SUS630からの混入であれば、ニッケル、クロム、銅、ニオブが、鉄と共に特定量比で検出される。
【0069】
SSやSUS等の反応容器の腐食により本触媒中に鉄やニッケル等の金属が溶出して混入した場合、本触媒中の金属成分の含有量とは、鉄の含有量ならびに反応容器の材質に応じて決定される特定量比の前記の金属含有量を除した量とする。特に反応容器から混入したと推定される金属種の量が少ない場合には、当該金属を触媒中の金属成分の含有量の計算の際に存在しないものとして扱ってよい。
【0070】
本触媒には、第3成分として、周期表第8~10族以外のその他の族の金属成分が含有されてもよい。このような金属成分としては、銀、金、モリブデン、タングステン、アルミニウム、及びホウ素等の金属種から選ばれる少なくとも1種の金属が挙げられる。ここでいう金属種には、半金属も含むものとする。
【0071】
これらの第3成分の中では、ルテニウム、コバルト、ロジウム、イリジウム、パラジウム、白金、金、モリブデン、及びタングステンから選ばれる少なくとも1種の金属が好ましく、中でもルテニウム、コバルト、ロジウム、イリジウム、パラジウム、白金、モリブデン、及びタングステンから選ばれる少なくとも1種の金属がより好ましく、更には、ルテニウム、イリジウム、パラジウム及び白金から選ばれる少なくとも1種の金属が特に好ましく、その中でも、ルテニウムが特に好ましい。
【0072】
本触媒中に含まれる第3成分の含有量は、鉄ならびにニッケルを除く希少で高価な周期表第8~10族の金属に関しては、レニウム原子に対する原子質量比で、通常0.2未満、好ましくは0.15以下、より好ましくは0.1以下、さらに好ましくは0.1未満、最も好ましくは0.0である。
即ち、本発明の触媒は、鉄ならびにニッケルを除く希少で高価な周期表第8~10族の金属は実質含まないことが好ましい。
【0073】
第3成分の含有量を上記のように適切に制御することにより、カルボニル化合物の水素化触媒反応において、反応選択性が向上し、触媒製造コストを低減できる場合がある。
【0074】
周期表第8~10族の貴金属以外の上記第3成分の金属の本触媒中の含有量は、レニウム原子に対する原子質量比で、通常10以下、好ましくは5以下、より好ましくは1以下、更に好ましくは0.5以下である。これら追加的な金属成分の適切な組み合わせならびに適切な含有量の選択により、高い選択性を保持したまま高い触媒活性を得ることができる場合がある。
【0075】
触媒の活性ならびに反応選択性等を一層向上させるために、本触媒は、アルカリ金属元素であるリチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム及びセシウムよりなる群から選ばれる1種又は2種以上や、アルカリ土類金属元素であるマグネシウム、カルシウム、ストロンチウム及びバリウムよりなる群から選ばれる1種又は2種以上、ハロゲン元素であるフッ素、塩素、臭素及びヨウ素よりなる群から選ばれる1種又は2種以上の元素の化合物を、前述の金属成分と共に触媒に添加して用いることもできる。その場合において、これらの添加成分とレニウム成分との比率については特に制限はない。
【0076】
<担体>
本触媒は、その担体中に、酸化ジルコニウムを含むことを特徴とし、含有される酸化ジルコニウムは、好ましくは、単斜晶や正方晶の酸化ジルコニウム、またはこれらの混合物であり、より好ましくは単斜晶の酸化ジルコニウムである。
【0077】
一般に酸化ジルコニウムは、非晶質(安定に存在し得る温度:250~430℃)、準安定正方晶(同温度:430~650℃)、単斜晶(同温度:650~1000℃)、安定正方晶(同温度:1000~1900℃)、立方晶(同温度:1900~2715℃)の形態で存在しうることが知られている。
また、酸化ジルコニウム担体の比表面積は、より高温で、長時間焼成した担体ほど小さくなる傾向がある。
【0078】
一般的に、金属担持触媒の高い触媒活性を発現する為には、より比表面積の大きな担体を適用するのが好ましい。この観点からすると、高い触媒活性を発現させる為には、担体として採用する酸化ジルコニウムとしては、非晶質の酸化ジルコニウム、準安定正方晶の酸化ジルコニウム、単斜晶の酸化ジルコニウム、正方晶の酸化ジルコニウム、立方晶の酸化ジルコニウムの順で好ましい。
しかしながら、本触媒は、結晶性の酸化ジルコニウムを含有することが好ましく、特に単斜晶および/または正方晶の酸化ジルコニウムが含有することが好ましく、その中でも単斜晶の酸化ジルコニウムが含有されていることが好ましい。
【0079】
本触媒のより好ましい態様においては、担体として、単斜晶の酸化ジルコニウムが含有されていれば特に制限はなく、単斜晶以外に準安定正方晶、安定正方晶、ならびに立方晶のいずれかが含まれていてもよい。以降、準安定正方晶および安定正方晶を総称して、正方晶という。
本触媒を調製するための担体原料としては、水酸化ジルコニウム、オキシ水酸化ジルコニウム、塩化ジルコニウム、オキシ塩化ジルコニウム、硫酸ジルコニウム、酢酸ジルコニウム、オキシ酢酸ジルコニウム、またはこれらの混合物が挙げられる。本触媒の結晶性酸化ジルコニウムは、別途調製した非晶質の酸化ジルコニウム、単斜晶の酸化ジルコニウム、正方晶の酸化ジルコニウムなどから誘導してもよく、これら担体原料に通常の方法で金属を担持して、その後加熱して好ましい結晶系の担体へ誘導してもよい。
【0080】
本発明の効果を損なわない範囲で担体中に酸化ジルコニウム以外の物質が含まれていてもよいが、本触媒の担体は、好ましくは、担体を製造する上で除去不可避な不純物を除いて酸化ジルコニウムよりなることが好ましい。複数種の結晶系の酸化ジルコニウムを担体として用いる場合には、前記のように高温での焼成が必要となる。また、比表面積の観点から立方晶の酸化ジルコニウムの含有量は低いことが好ましい。したがって、複数の結晶系の酸化ジルコニウムを担体とする場合は、単斜晶の酸化ジルコニウムと正方晶の酸化ジルコニウムとの組み合わせが好ましい。
【0081】
本触媒のより好ましい態様においては、単斜晶の酸化ジルコニウムが含まれる為、この場合の単斜晶の酸化ジルコニウムに対する正方晶の酸化ジルコニウムの質量比は、通常5以下、好ましくは4以下、より好ましくは3以下、更に好ましくは2以下、特に好ましくは1以下、とりわけ好ましくは0.4以下である。
正方晶の酸化ジルコニウムを含有しない単斜晶の酸化ジルコニウムは本触媒の特に好ましい態様の一つである。
【0082】
単斜晶の酸化ジルコニウムに対する正方晶の酸化ジルコニウムの質量比は、X線回折測定などにより決定される。例えば、Cu-Kα線を用いた正方晶の酸化ジルコニウムに特徴的な30°±0.5°にあるピーク強度と、単斜晶のジルコニウムに特徴的な28.2°±0.5°にあるピーク強度から後述する手法を用いて算出することができる。
【0083】
前記の通り、触媒中の担体として、単斜晶の酸化ジルコニウムの適用及び/又は正方晶の酸化ジルコニウムの単斜晶の酸化ジルコニウムに対する質量比を前記範囲内に制御すると、本触媒中の平均原子価を4以下に制御しやすく、また原子価の異なるレニウムの質量比を上記の好ましい量比に制御しやすくなる理由から、カルボニル化合物の水素化触媒反応において水素化触媒活性能を著しく向上させることができ、好ましい。この場合、本触媒は、特定の酸化ジルコニウム担体との組み合わせにより高い触媒活性を示すとともに空気下での取り扱いが可能となり、触媒の輸送や保管、アルコール製造時の触媒の反応器への導入等の操作性に優れた触媒となる。
【0084】
このように結晶性の酸化ジルコニウム、特に好ましくは単斜晶の酸化ジルコニウムが含有される担体上にレニウム成分が担持されると、カルボニル化合物の水素化触媒反応において水素化触媒活性能が著しく向上される理由は、以下の通り推察される。
結晶性の酸化ジルコニウムは、最表面の安定構造(結晶面)によりレニウム成分-酸化ジルコニウム間の相互作用により低原子価のレニウム原子が安定化され、また高分散化されるために、触媒中のレニウムの平均原子価を4以下に制御しやすく、また原子価の異なるレニウムの質量比を上記の好ましい量比に制御しやすくなる。特に単斜晶の酸化ジルコニウムの場合は、異なる他の晶系の酸化ジルコニウムに比べて、よりレニウム成分-酸化ジルコニウム間の相互作用により低原子価のレニウム原子が安定化され、また高分散化される。これにより、水素化触媒活性成分となるレニウム原子の電子状態をカルボニル官能基の還元反応に適した、上記のレニウムの平均原子価が4以下の低原子価に安定化することができる。その結果、低原子価のレニウム原子の含有量をより多く、高分散化された状態で存在させることができる。更には、低原子価レニウム原子の凝集や耐酸化性を向上させることができる。これらの理由から上記の効果が発現される。
【0085】
本発明に係る酸化ジルコニウム含有担体は、下記イナート担体と組み合わせて用いてもよい。イナート担体を組み合わせて用いる場合の組み合わせや混合比率については特に制限はないが、本発明で用いる担体は、酸化ジルコニウムを主体とすることが好ましい。ここで、主体とするとは、担体の総質量に対する質量割合が、通常50質量%以上、好ましくは70質量%以上、より好ましくは90~100質量%であることを意味する。
【0086】
イナート担体とは、触媒活性金属となる鉄、ルテニウム、コバルト、ロジウム、イリジウム、ニッケル、パラジウム、白金、銅、及び亜鉛の群から選ばれる周期表第8~12族の金属やクロム、ならびにレニウムを実質的に含有しない担体と定義される。使用する担体中にこれらの金属が過剰に含有されると、カルボニル化合物の水素化反応において、担体上に触媒活性部位が生成してしまい、原料のカルボン酸と生成物のアルコールとのエステル化反応や生成アルコールの脱水ならびに水素化による脱官能基化反応等の副反応等の併発により反応選択性に影響を与える可能性がある。このため、担体はこれらの触媒活性金属を実質的に含まないことが好ましい。
【0087】
本発明において、前記触媒活性金属を実質的に含有しない担体とは、担体の総質量に対するこれらの金属の含有量が5質量%以下、好ましくは1質量%以下、より好ましくは0.1質量%以下であることを意味する。担体中の該金属の含有量は、触媒中の担持金属の金属含有量の分析と同様に公知のICP質量分析法(ICP-MS:Inductively Coupled Plasma Mass Spectrometry)、ICP発光分析法(ICP-AES:Inductively Coupled Plasma Atomic Emission Spectrometry)、原子吸光分析法(AAS:Atomic Absorption Spectrometry)、或いは、蛍光X線分析法(XRF:X-ray Fluorescence Analysis)等の分析方法により測定し、決定することができる。
【0088】
酸化ジルコニウムと組み合わせることができる他のイナート担体としては、例えば、グラファイ卜、活性炭、炭化ケイ素、窒化ケイ素、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、酸化ホウ素、酸化アルミニウム(アルミナ)、酸化ケイ素(シリカ)、酸化チタン、酸化ランタン、酸化セリウム、酸化イットリウム、酸化ハフニウム、酸化ニオブ、ケイ酸マグネシウム、ケイ酸カルシウム、アルミン酸マグネシウム、アルミン酸カルシウム、アルミノシリケ一ト、アルミノシリコホスフエート、アルミノホスフエ一ト、リン酸マグネシウム、リン酸カルシウム、リン酸ストロンチウム、水酸化アパタイト(ヒドロキシリン酸カルシウム)、塩化アパタイト、フッ化アパタイト、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、炭酸バリウム等の1種又は2種以上が挙げられる。
これらの担体は1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。2種以上を組み合わせて用いる場合の組み合わせや混合比率については特に制限はなく、個々の化合物の混合物、複合化合物、又は複塩のような形態で用いることができる。
【0089】
本発明において用いられる担体の比表面積は、好ましくは30m2/g以上、より好ましくは40m2/g以上、更に好ましくは50m2/g以上で、好ましくは500m2/g以下、より好ましくは350m2/g以下である。担体の比表面積は大きい程、触媒中の異なる原子価のレニウムの平均原子価を4以下に制御しやすく、また原子価の異なるレニウムの質量比を上記の好ましい量比に制御しやすく、触媒活性が高いため、より比表面積が大きな担体が好適に使用される。この観点からは、準安定正方晶の酸化ジルコニウムと単斜晶の酸化ジルコニウムの組み合わせが好ましい場合がある。
担体の比表面積は、一般に、窒素吸着量を測定し、BET式で算出した値である。
【0090】
このように、本発明においては、カルボニル化合物の水素化触媒反応において水素化触媒活性能が本質的に高い単斜晶の酸化ジルコニウムの含有量と使用する酸化ジルコニウムの比表面積とのバランスを如何に制御するかが重要となる場合がある。
最も好ましい酸化ジルコニウムの態様は、比表面積の大きな単斜晶の酸化ジルコニウムとなるが、単斜晶の酸化ジルコニウムを調製する上では、比較的高温で、調製条件によっては長時間の焼成が必要となる理由から、比表面積が低下するため、最適な酸化ジルコニウムを調製することは難しいこともある。その為、本発明においては、上記の単斜晶の酸化ジルコニウムの含有量と酸化ジルコニウムの比表面積とを上記範囲内に適切に制御することで、カルボニル化合物の水素化触媒反応において水素化触媒活性能を著しく向上させることができる場合がある。
【0091】
上記の好適な比表面積の担体を用いた本触媒の比表面積は、酸化ジルコニウムやそれと組み合わせる担体種に依存するため、特に限定されないが、好ましくは30m2/g以上、より好ましくは40m2/g以上、更に好ましくは50m2/g以上で、好ましくは500m2/g以下、より好ましくは350m2/g以下である。触媒の比表面積は大きい程、触媒活性が高いため、より比表面積が大きな触媒が好適に使用される。触媒の比表面積は、窒素吸着量を測定し、BET式で算出した値である。
【0092】
本発明において用いられる担体の形状、担体の大きさは特に限定されるものではないが、その形状を球状に換算した場合、平均粒子径は通常0.1μm以上、好ましくは1μm以上、より好ましくは5μm以上、更に好ましくは50μm以上で、通常5mm以下、好ましくは4mm以下である。担体の粒子径は、JIS規格 JIS Z8815(1994年)に記載の篩分け試験方法で測定する。担体の形状が球状ではない場合は、その担体の体積を求め、同一の体積の球状粒子の直径として換算するものとする。平均粒子径を上記範囲とすることにより、単位質量当たりの活性が高く、さらに取り扱いやすい触媒となる。
【0093】
本触媒を使用する反応が、完全混合型反応の場合は、担体の平均粒子径は、通常0.1μm以上、好ましくは1μm以上、より好ましくは5μm以上、更に好ましくは50μm以上、通常3mm以下、好ましくは2mm以下である。担体の平均粒子径は、小さいほど得られる触媒の単位質量あたりの活性が高くなる点で好ましい。担体の平均粒子径を前記下限値以上とすることにより反応液と触媒の分離が容易になるため好ましい。
【0094】
本触媒を使用する反応が固定床反応の場合は、担体の平均粒子径は、通常0.5mm以上、5mm以下、好ましくは4mm以下、より好ましくは3mm以下である。担体の平均粒子径を前記下限値以上とすることにより、運転時の差圧の発生を回避できる。担体の平均粒子径を前記上限値以下とすることにより、反応活性を高く保つことができる。
【0095】
本発明において使用する担体は、該当する市販品をそのまま用いても良い。
【0096】
酸化ジルコニウムは、オキシ塩化ジルコニウム、オキシ硝酸ジルコニウム、ジルコニウムプロポキシドなどのジルコニウム化合物を加水分解するか、またはアンモニア水等で中和し、先ず水酸化ジルコニウムまたは非晶質の酸化ジルコニウム水和物を得、続いて空気中で焼成することにより調製される。
【0097】
焼成温度は、通常450℃以上、好ましくは500℃以上、より好ましくは550℃以上、更に好ましくは600℃以上、特に好ましくは650℃以上で、通常2500℃以下、好ましくは1900℃以下、より好ましくは1000℃以下である。このような温度範囲で焼成することにより、本発明に好ましい結晶相を容易に生成させることができ、かつ焼成温度が高すぎることに起因する酸化ジルコニウムの表面積の減少を防ぐとともに、単斜晶の酸化ジルコニウムの含有量の低下も防ぐことができる。
【0098】
焼成時間は、焼成温度に依存する為、その下限は特に限定されないが、通常1時間以上、好ましくは3時間以上である。焼成時間の上限についても特に限定されないが、通常100時間以下、好ましくは50時間以下、より好ましくは10時間以下である。
【0099】
[本触媒の製造方法]
本触媒の製造方法は、通常、以下の工程を有する。
(i)担体に、前記金属成分を担持させる工程(以下、「金属担持工程」という。)
(ii)得られた金属担持物を還元性気体により還元処理する工程(以下、「還元処理工程」という。)
(iii)前記還元処理後に酸化する工程(以下、「酸化安定化工程」という。)
以下、工程毎に順に説明する。
【0100】
<(i)金属担持工程>
金属担持工程は、上記した担体に、上記の金属成分を必要量担持させ、金属担持物を得る工程である。金属成分の担持方法は特に限定されず公知の方法を用いることができる。担持の際には、上記金属成分の原料となる各種金属含有化合物の溶液又は分散液を用いることができる。
【0101】
担体への金属成分の担持方法は、特に限定されるものではないが、通常各種の含浸法が適用できる。例えば、以下の方法などが挙げられる。
金属イオンの担体への吸着力を利用して飽和吸着量以下の金属イオンを吸着させる吸着法。
飽和吸着量以上の溶液を浸し過剰の溶液を取り除く平衡吸着法。
担体の細孔容積と同じ溶液を添加して全て担体に吸着させるポアフィリング法。
担体の吸水量に見合うまで溶液を加え、担体表面が均一に濡れた状態かつ過剰な溶液が存在しない状態で終了するincipient wetness法、担体に含浸させ撹拌しながら溶媒を蒸発させる蒸発乾固法。
担体を乾燥状態にして溶液を吹き付ける噴霧法。
【0102】
この中でも、ポアフィリング法、incipient wetness法、蒸発乾固法、噴霧法が好ましく、ポアフィリング法、incipient wetness法、蒸発乾固法がより好ましい。
これらの調製方法を採用することにより、レニウムと、必要に応じて、前述の第2成分、更には前記の第3成分やその他金属成分が比較的均一に分散した状態で担体に担持させることができる。
【0103】
用いるレニウム金属含有化合物としては、特に限定されるものではなく、担持方法により適宜選択することができる。例えば、塩化物、臭化物、ヨウ化物等のハロゲン化物、硝酸塩、硫酸塩などの鉱酸塩、金属水酸化物、金属酸化物、金属含有アンモニウム塩、酢酸塩、金属アルコキシド等の有機基含有化合物、金属錯体等を用いることができる。この中では、ハロゲン化物、鉱酸塩、金属水酸化物、金属酸化物、金属含有アンモニウム塩、有機基含有化合物が好ましく、ハロゲン化物、鉱酸塩、金属酸化物、金属含有アンモニウム塩、有機基含有化合物がより好ましい。これらは1種を単独で又は2種以上を必要量組み合わせて用いることができる。
【0104】
レニウム金属含有化合物を担体に担持する際、各種溶媒を用いて金属含有化合物を溶解、又は分散して、各種担持方法に用いることができる。用いる溶媒の種類は、金属含有化合物を溶解又は分散することができ、後に実施する金属担持物の焼成及び水素還元、さらには本触媒を用いた水素化反応に悪影響を及ぼさなければ特に限定されるものではない。溶媒としては例えばアセトン等のケトン溶媒、メタノール、エタノール等のアルコール溶媒、テトラヒドロフラン、エチレングリコールジメチルエーテル等のエーテル溶媒、水等が用いられる。これらは単独で用いても、混合溶媒として用いてもよい。これらの中では、安価であり、上記金属含有化合物原料の溶解度が高いため、水が好ましく用いられる。
【0105】
レニウム金属含有化合物を溶解又は分散する際、溶媒以外に、各種の添加剤を加えてもよい。例えば、特開平10-15388号公報に記載のように、カルボン酸及び/又はカルボニル化合物溶液を添加することで、担体に担持させた際、担体上での各金属成分の分散性を改良することができる。
【0106】
金属担持物は、必要に応じて乾燥してもよく、以下の理由から、乾燥してから、必要に応じて焼成後、還元処理工程に供することが好ましい。即ち、金属担持物を未乾燥で後続する還元処理を実施した場合、触媒中のレニウムの平均原子価を4以下に制御することが困難となり、得られる触媒の反応活性が低くなる場合がある。
【0107】
金属担持物の乾燥方法は、特に限定はされず、担持時に使用した溶媒等が除去されればよく、通常はガス流通下、或いは減圧下で行なう。この場合、流通させるガスは空気であっても窒素ガスやアルゴンガス等の不活性ガスでもよい。
【0108】
乾燥時の圧力は、特に限定はされないが、通常、常圧、又は減圧条件である。乾燥時の温度は、特に限定はされないが、通常300℃以下、好ましくは250℃以下、より好ましくは200℃以下で、通常80℃以上である。
【0109】
金属担持物の乾燥後は、必要に応じて焼成を行ってもよい。焼成を行うことで、触媒中のレニウムの平均原子価を4以下に制御することが容易となり、触媒活性が高く、且つ反応選択性に優れた触媒を製造することができる場合が多い。焼成は、通常、空気中で行えばよい。焼成は、例えば、空気流通下に、所定の温度で所定時間加熱することで実施される。焼成は、窒素等の不活性ガスで希釈したガスあるいは不活性ガス流通下で行ってもよい。
【0110】
焼成時の温度は、特に限定はされないが、通常100℃以上、好ましくは250℃以上、より好ましくは400℃以上で、通常1000℃以下、好ましくは700℃以下、より好ましくは600℃以下である。
焼成時間は焼成温度によっても異なるが、通常30分以上、好ましくは1時間以上、より好ましくは2時間以上で、通常40時間以下、好ましくは30時間以下、より好ましくは10時間以下である。
【0111】
<(ii)還元処理工程>
前記金属担持物は、通常、還元性気体により還元処理する。還元処理としては、公知の液相還元、気相還元が用いられる。
【0112】
還元処理工程に用いられる還元性気体は、還元性を有するものであれば特に限定されるものではないが、例えば、水素、メタノール、ヒドラジン等が用いられ、好ましくは水素である。
【0113】
還元性気体として水素含有ガスを用いる場合、水素含有ガスの水素濃度は、特に限定されるものではなく、100体積%であっても、不活性ガスで希釈されていても良い。ここで言う不活性ガスとは金属担持物、又は水素ガスと反応しないガスであり、窒素ガス、アルゴンガス、水蒸気等が挙げられるが、通常窒素ガスが用いられる。
【0114】
不活性ガスで希釈された還元性気体(水素含有ガス)の水素濃度は、全気体成分に対し、通常5体積%以上、好ましくは15体積%以上、より好ましくは30体積%以上、更に好ましくは50体積%以上である。還元初期に低水素濃度の水素含有ガスを使用して、その後徐々に水素濃度を上げて使用しても良い。
【0115】
還元処理に必要とされる時間は、処理する金属担持物等の量や、使用する装置等によって異なるが、通常7分以上、好ましくは15分以上、より好ましく30分以上であり、通常40時間以下、好ましくは30時間以下、より好ましくは10時間以下である。
還元処理時の温度は、通常100℃以上、好ましくは200℃以上、より好ましくは250℃以上で、通常700℃以下、好ましくは600℃以下、より好ましくは500℃以下である。
還元処理温度を適切な範囲に調整することにより、カルボニル化合物の水素化触媒反応に適した上記のレニウムの原子価を制御することが容易となり、平均原子価4以下のレニウム担持触媒とすることができる。また触媒中の原子価の異なるレニウムの質量比を上記の好ましい量比に制御することができる。さらに担持金属の焼結等を防ぎ、得られる触媒の活性を高く維持できる。
【0116】
還元処理時の還元性気体は、反応器中に密閉して用いても、反応器中を流通させて用いてもよいが、反応器中を流通させることが好ましい。還元性気体を流通させることにより局所的な還元性気体欠乏状態を回避することができる。用いる原料によっては、還元処理により反応器中に水や塩化アンモニウム等が副生し、これら副生成物が、還元処理前の金属担持物や、還元処理された金属担持触媒へ悪影響を及ぼす場合がある。還元性気体を流通させることで、これらの副生成物を反応系外に排出することができる。
【0117】
還元処理に必要とされる還元性気体の量は、本発明の目的を満たす限りにおいて特に限定されるものではなく、使用する装置や、還元時の反応器の大きさや還元性気体の流通方法、触媒を流動させる方法等に応じて、適宜設定することができる。
【0118】
還元処理後の金属担持触媒の大きさは特に限定されるものではないが、基本的に上記した担体の大きさと同じである。
【0119】
好ましい還元処理の態様として、固定床で還元性気体を金属担持物に通過させる方法、トレイ又はベルト上に静置させた金属担持物に還元性気体を流通させる方法、流動している金属担持物中に還元性気体を流通させる方法等が挙げられる。
【0120】
<(iii)酸化安定化工程>
本触媒の製造においては、好ましくは、前記金属担持物を還元して得られた金属担持触媒に対し、酸化状態を制御する酸化安定化処理を行なう。酸化安定化処理を行うことより、活性及び選択性に優れ、且つ空気中で取り扱い可能な触媒を製造することができる。
【0121】
酸化安定化の方法は、特に限定はされないが、以下の方法などが挙げられる。
水を添加する方法又は水に投入する方法。
不活性ガスで希釈された低酸素濃度のガスで酸化安定化する方法。
二酸化炭素で安定化する方法。
中でも水を添加する方法又は水に投入する方法、低酸素濃度のガスで酸化安定化する方法が好ましく、低酸素濃度のガスで酸化安定化する方法がより好ましく、特に低酸素濃度ガスの流通下で酸化安定化することが好ましい。
【0122】
低酸素濃度のガスで酸化安定化するときの初期酸素濃度は、特に限定はされないが、この酸化安定化開始時の酸素濃度は、通常0.2体積%以上、好ましくは0.5体積%以上、通常10体積%以下、好ましくは8体積%以下、さらに好ましくは7体積%以下とする。酸化安定化開始時の酸素濃度を適切な範囲に調整することにより、カルボニル化合物の水素化によるアルコールの製造用触媒反応に適した上記のレニウムの原子価を制御すること、また触媒中の原子価の異なるレニウムの質量比を上記の好ましい量比に制御することができる。
【0123】
低酸素濃度のガスを調製するためには、空気を前記の不活性ガスで希釈するのが好ましい。希釈に用いる不活性ガスとしては窒素ガスが好ましい。
【0124】
低酸素濃度のガスで酸化安定化する方法としては、固定床で低酸素濃度のガスを触媒に通過させる方法、トレイ又はベルト上に静置させた触媒に低酸素濃度ガスを流通させる方法、流動している触媒中に低酸素濃度のガスを流通させる方法が挙げられる。
【0125】
金属担持触媒上の担持金属の分散性が良好であるほど酸化安定化が急激に進行し、かつ多量の酸素が反応するので、固定床で低酸素濃度のガスを触媒に通過させる方法、流動している触媒中に低酸素濃度のガスを流通させる方法が好ましい。
【0126】
本触媒の製造方法は、本触媒が製造できる限り、上記の製造方法に限定されない。本触媒が製造できる限り、公知の他の工程を組み合わせてもよい。
【0127】
[本触媒を用いたアルコールの製造]
本触媒は、カルボニル化合物の還元反応(水素化)用の触媒として好適である。カルボニル化合物を本触媒により処理することによりアルコールを製造することができる。
【0128】
本触媒を用いた還元反応の好ましい態様として、例えば、ケトン、アルデヒド、カルボン酸、カルボン酸エステル、カルボン酸アミド、カルボン酸ハロゲン化物、及び、無水カルボン酸よりなる群より選ばれる少なくとも1種のカルボニル化合物を還元して、前記化合物から誘導されるアルコールを得る工程を有するアルコールの製造方法が挙げられる。本触媒は、特にこれらの化合物の中でカルボン酸を直接還元してアルコールを製造できる特徴がある。
【0129】
還元反応の対象とするカルボニル化合物としては、工業的に容易に入手しうる任意のものを用いることができる。具体的には、カルボン酸及び/又はカルボン酸エステルとしては、酢酸、酪酸、デカン酸、ラウリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、ステアリン酸、パルミチン酸等の脂肪族鎖状モノカルボン酸類、シクロヘキサンカルボン酸、ナフテン酸、シクロペンタンカルボン酸等の脂肪族環状モノカルボン酸類、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、メチルコハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、セバシン酸、シクロヘキサンジカルボン酸、1,2,4-ブタントリカルボン酸、1,3,4-シクロヘキサントリカルボン酸、ビシクロヘキシルジカルボン酸、デカヒドロナフタレンジカルボン酸等の脂肪族ポリカルボン酸類、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、トリメシン酸等の芳香族カルボン酸類、フランカルボン酸、フランジカルボン酸等のフラン骨格を有するカルボン酸類等、ならびにこれらのメチルエステル、エチルエステル、プロピルエステル、ブチルエステル、カルボン酸から還元されて得られるアルコールとのエステル等のカルボン酸エステルやγ-ブチロラクトン、δ-バレロラクトン、ε-カプロラクトン等のラクトン等が挙げられる。
【0130】
カルボン酸アミドとしては、上記カルボン酸のメチルアミド、エチルアミド等が挙げられる。
カルボン酸ハロゲン化物としては、上記カルボン酸の塩化物、臭化物等が挙げられる。
無水カルボン酸としては、無水酢酸、無水コハク酸、無水マレイン酸、無水フタル酸等が挙げられる。
【0131】
アルデヒド、ケトンとしては、ベンズアルデヒド、プロピオンアルデヒド、アセトアルデヒド、3-ヒドロキシプロピオンアルデヒド、フルフラール、ヒドロキシメチルフルフラール、アセトン、ベンゾフェノン、グルコース、キシロース、ラクトース、フルクトース等が挙げられる。
【0132】
これらのカルボン酸、カルボン酸エステル、カルボン酸アミド、カルボン酸ハロゲン化物、及び/又は無水カルボン酸を形成するカルボン酸としては、特に限定はされないが、好ましくは鎖状又は環状の飽和脂肪族カルボン酸であり、より好ましくはカルボキシル基以外の炭素数が20以下のカルボン酸であり、より好ましくは炭素数が14以下のカルボン酸である。
【0133】
本発明においては、特に限定されないが、還元反応の対象とする前記のカルボニル化合物の中では、原料としての入手のし易さから、カルボン酸、カルボン酸エステル、無水カルボン酸、アルデヒドが好ましく、その中でも、カルボン酸、カルボン酸エステル、無水カルボン酸、アルデヒドが好ましく、特にカルボン酸、カルボン酸エステル、その中でもカルボン酸が特に好ましい。
【0134】
カルボン酸としては、ジカルボン酸であることが好ましく、さらに好ましくは、カルボキシル基以外の炭素数が20以下であり、下記式(1)で表されるジカルボン酸が挙げられる。
HOOC-R1-COOH (1)
(式中、R1は、置換基を有していても良い、置換基以外の炭素数が1~20である脂肪族もしくは脂環式の炭化水素基を表す。)
【0135】
本触媒は、上記のジカルボン酸等の多価カルボン酸から対応するヒドロキシカルボン酸や多価アルコールへ高選択的且つ高収率に変換できる特徴も有する。この場合、用いる触媒や反応圧力や反応温度、原料の滞留時間等の製造条件を適切に選択することによりヒドロキシカルボン酸と多価アルコールとの生成比率を制御することも可能である。
【0136】
その他の特に好ましいカルボニル化合物としては、バイオマス資源から誘導されるフラン骨格を有するフランジカルボン酸等のカルボン酸ならびにフルフラールやヒドロキシメチルフルフラール等のアルデヒドが挙げられる。
【0137】
本触媒を用いた還元反応は、液相であっても、気相であっても実施できるが、液相で実施することが好ましい。本触媒を用いた液相での還元反応は無溶媒で行なっても、溶媒の存在下でも行なうこともできるが、通常は溶媒の存在下で行われる。
【0138】
溶媒としては、通常、水、メタノールやエタノールなどの低級アルコール類、反応生成物のアルコール類、テトラヒドロフラン、ジオキサン、エチレングリコールジメチルエーテルなどのエーテル類、ヘキサン、デカリン、メチルシクロヘキサンなどの炭化水素類などの溶媒を使用することができる。これらの溶媒は単独で用いても、2種類以上を混合して用いることもできる。
【0139】
特にカルボニル化合物を還元する際には、溶解性等の理由から水溶媒を用いるのが好ましい場合がある。
溶媒の使用量は特に限定されないが、原料となるカルボニル化合物に対して通常0.1~20質量倍程度であり、好ましくは0.5~10質量倍、より好ましくは1~10質量倍程度である。
【0140】
本触媒を用いた還元反応は、通常、水素ガス加圧下で行われる。反応温度は通常100~300℃、好ましくは120~250℃である。反応圧力は通常1~30MPaG、好ましくは1~25MPaG、より好ましくは3~25MPaGである。
【0141】
本触媒を用いた還元反応で得られた生成物は、反応終了後、生成物の物性に依存するが、通常、溶媒留去手法、溶媒留去後有機溶媒で抽出する手法、蒸留手法、昇華手法、晶析手法、クロマト手法等により回収することができる。
取り扱い温度条件下で生成物が液体の場合は、蒸留手法により生成物を精製しながら回収する方法が好ましい。
取り扱い温度条件下で生成物が固体の場合は、晶析手法により生成物の精製を行いながら回収する方法が好ましい。
得られた固体生成物を洗浄により精製する手法は好ましい態様である。
【実施例】
【0142】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り以下の実施例に限定されるものではない。
【0143】
<Reの平均原子価の分析方法>
金属担持触媒中のレニウム原子の平均原子価は、Re LIII吸収端におけるX線吸収端近傍構造(XANES:X-ray absorption near-edge structure)スペクトルから算出した。XANESスペクトルのピーク位置を一次微分が0になるエネルギー位置として定義して、Re、ReO2、ReO3のピーク位置を一次関数で近似することでピーク位置と価数の関係式を導出し、触媒試料のXANESピーク位置から価数を算出した。Re LIII吸収端XANESスペクトルは、Si(111)二結晶分光器を用いて透過法で測定した。
【0144】
<比表面積の分析方法>
比表面積は、大倉理研社製、全自動比表面積測定装置「AMS-1000」を用いて、
前処理として200℃で10分脱気した後、窒素吸着による1点法BET表面積測定法により測定した。
【0145】
<単斜晶の酸化ジルコニウムに対する正方晶の酸化ジルコニウムの質量比の決定方法>
単斜晶の酸化ジルコニウムに対する正方晶の酸化ジルコニウムの質量比は、X線回折測定で観察された以下のピークの強度比をから算出した。
正方晶の酸化ジルコニウム試料、単斜晶の酸化ジルコニウム試料、正方晶の酸化ジルコニウムと単斜晶の酸化ジルコニウムを1:1で混合した試料、正方晶の酸化ジルコニウムと単斜晶の酸化ジルコニウムを1:2で混合した試料、正方晶の酸化ジルコニウムと単斜晶の酸化ジルコニウムを2:1で混合した試料の、正方晶相ピークの強度(約30°での2θピーク)/単斜晶相ピークの強度(約28.2°での2θピーク)を二次関数で近似することで、正方晶相ピークの強度(約30°での2θピーク)/単斜晶相ピークの強度(約28.2°での2θピーク)と単斜晶の酸化ジルコニウムに対する正方晶の酸化ジルコニウムの質量比の関係式を導出した。この関係式を用いて触媒試料の正方晶相ピークの強度(約30°での2θピーク)/単斜晶相ピークの強度(約28.2°での2θピーク)から、単斜晶の酸化ジルコニウムに対する正方晶の酸化ジルコニウムの質量比を算出した。
X線回折は、BRUKER社製、D2 PHASERを用いて、直径20mm、深さ0.2mmのサンプルホルダーに試料を入れ、以下の条件で行った。
・X線(Cu)出力:30kv10mA
・サンプル回転数:15rpm/min
・測定範囲:3°~50°
・ステップ幅:0.02°
・計数時間:0.05sec/ステップ
・発散スリット:0.4mm
・ソラースリット:2.5
・エアスキャッターシンク:1mm
【0146】
<実施例I-1-A>
過レニウム酸アンモニウムを水に溶解し、担体として単斜晶で比表面積97m2/gの酸化ジルコニウム(Saint-Gobain社製)を加え、室温で1時間撹拌した。次いで、エバポレーターを用いて水を除去した後、100℃で3時間乾燥した。その後、縦型焼成管に入れ、空気を流通させながら、500℃で3時間焼成処理を行った。得られた固体を別の縦型焼成管に入れ、水素ガスを流通させながら500℃で30分還元処理を行った。その後、30℃まで冷却して、アルゴンガスで置換して回収し、5%レニウム/酸化ジルコニウム触媒(触媒の総質量に対するレニウムの担持量が5質量%の触媒)を得た。この触媒の比表面積は91m2/gであり、触媒中のReの平均原子価は4.4、即ち、「4」であり、触媒中の酸化ジルコニウムは単斜晶であった。すなわち、酸化ジルコニウムの正方晶相ピークの強度(約30°での2θピーク)/単斜晶相ピークの強度(約28.2°での2θピーク)は0であり、単斜晶の酸化ジルコニウムに対する正方晶の酸化ジルコニウムの質量比(以下「正方晶/単斜晶比」と称す。)は0であった。
【0147】
70mL高圧反応器に上記方法で調製した触媒100mg、セバシン酸500mg、水2gとスターラーチップを入れ、窒素置換した後、室温で水素ガスを7MPaG導入し、220℃で7.5時間水素化反応を行った。220℃での反応圧力は13MPaGであった。
反応後、室温に冷却した後脱圧し、反応液をガスクロマトグラフィーを用いて分析したところ、反応のモル収率は、1,10-デカンジオールが49.8%、10-ヒドロキシデカン酸が6.9%であり、副生成物(1-ノナノール、1-デカノール、1-ノナン酸、1-デカン酸)/目的成分(1,10-デカンジオール、10-ヒドロキシデカン酸)のモル比は0.12であった。以下で定義される触媒活性指標(以下、「触媒活性指標I」と称す。)は53.2であった。
【0148】
<触媒活性指標I>
「1,10-デカンジオールの収率」+「10-ヒドロキシデカン酸(1,10-デカンジオールの反応中間体)の収率の1/2」
【0149】
<実施例I-1-B>
実施例I-1-Aで調製した触媒を、空気下、40℃で1時間処理することで、空気安定化した5%レニウム/酸化ジルコニウム触媒を調製した。この触媒の比表面積は91m2/gであり、触媒中の酸化ジルコニウムは単斜晶であった。すなわち、酸化ジルコニウムの正方晶相ピークの強度(約30°での2θピーク)/単斜晶相ピークの強度(約28.2°での2θピーク)は0であり、正方晶/単斜晶比は0であった。
【0150】
この触媒を用いて実施例I-1-Aと同条件下で水素化反応を行ったところ、反応のモル収率は、1,10-デカンジオールが42.1%、10-ヒドロキシデカン酸が11.6%であり、副生成物(1-ノナノール、1-デカノール、1-ノナン酸、1-デカン酸)/目的成分(1,10-デカンジオール、10-ヒドロキシデカン酸)のモル比は0.13であった。触媒活性指標Iは47.9であった。
【0151】
<参考例I-1-A>
水酸化ジルコニウムZr(OH)4・nH2O(第一稀元素化学工業(株)製)を縦型焼成管に入れ、空気を流通させながら、500℃で4時間焼成処理を行い、単斜晶と正方晶の質量比率が37:63で、比表面積40m2/gの酸化ジルコニウムを得た。
実施例I-1-Aにおいて、担体に上記酸化ジルコニウムを用いた以外は、実施例I-1-Aと同様にして5%レニウム/酸化ジルコニウム触媒を得た。触媒の比表面積は43m2/gであり、触媒中の酸化ジルコニウムの正方晶相ピークの強度(約30°での2θピーク)/単斜晶相ピークの強度(約28.2°での2θピーク)は1.7であり、正方晶/単斜晶比は1.1であった。
【0152】
この触媒を用いて実施例I-1-Aと同条件下で水素化反応を行ったところ、反応のモル収率は、1,10-デカンジオールが10.5%、10-ヒドロキシデカン酸が40.2%であり、副生成物(1-ノナノール、1-デカノール、1-ノナン酸、1-デカン酸)/目的成分(1,10-デカンジオール、10-ヒドロキシデカン酸)のモル比は0.03であった。触媒活性指標Iは30.6であった。
【0153】
<参考例I-1-B>
参考例I-1-Aで調製した触媒を、空気下、40℃で1時間処理することで、空気安定化した5%レニウム/酸化ジルコニウム触媒を調製した。この触媒の比表面積は43m2/gであり、触媒中の酸化ジルコニウムの正方晶相ピークの強度(約30°での2θピーク)/単斜晶相ピークの強度(約28.2°での2θピーク)は1.7であり、正方晶/単斜晶比は1.1であった。
【0154】
この触媒を用いて実施例I-1-Aと同条件下で水素化反応を行ったところ、反応のモル収率は、1,10-デカンジオールが7.4%、10-ヒドロキシデカン酸が36.5%であり、副生成物(1-ノナノール、1-デカノール、1-ノナン酸、1-デカン酸)/目的成分(1,10-デカンジオール、10-ヒドロキシデカン酸)のモル比は0.03であった。触媒活性指標Iは25.7であった。
【0155】
<実施例I-2-A>
実施例I-1-Aにおいて、金属原料として過レニウム酸アンモニウムとテトラエトキシゲルマニウム(IV)を用いた以外は、実施例I-1-Aと同様の触媒調製手法を用いて5%レニウム・5%ゲルマニウム/酸化ジルコニウム触媒を調製した。この触媒の比表面積は96m2/gであり、触媒中のReの平均原子価は0であり、触媒中の酸化ジルコニウムは単斜晶であった。すなわち、触媒中の酸化ジルコニウムの正方晶相ピークの強度(約30°での2θピーク)/単斜晶相ピークの強度(約28.2°での2θピーク)は0であり、正方晶/単斜晶比は0であった。
【0156】
この触媒を用いて実施例I-1-Aと同条件下で水素化反応を行ったところ、反応のモル収率は、1,10-デカンジオールが36.3%、10-ヒドロキシデカン酸が19.6%であり、副生成物(1-ノナノール、1-デカノール、1-ノナン酸、1-デカン酸)/目的成分(1,10-デカンジオール、10-ヒドロキシデカン酸)のモル比は0.005であった。触媒活性指標Iは46.1であった。
【0157】
<実施例I-2-B>
実施例I-2-Aで調製した触媒を、空気下、40℃で1時間処理することで、空気安定化した5%レニウム・5%ゲルマニウム/酸化ジルコニウム触媒を調製した。この触媒の比表面積は96m2/gであり、触媒中のReの平均原子価は0.4であり、触媒中の酸化ジルコニウムは単斜晶であった。すなわち、触媒中の酸化ジルコニウムの正方晶相ピークの強度(約30°での2θピーク)/単斜晶相ピークの強度(約28.2°での2θピーク)は0であり、正方晶/単斜晶比は0であった。
【0158】
この触媒を用いて実施例I-1-Aと同条件下で水素化反応を行ったところ、反応のモル収率は、1,10-デカンジオールが23.4%、10-ヒドロキシデカン酸が44.6%であり、副生成物(1-ノナノール、1-デカノール、1-ノナン酸、1-デカン酸)/目的成分(1,10-デカンジオール、10-ヒドロキシデカン酸)のモル比は0.006であった。触媒活性指標Iは45.7であった。
【0159】
<比較例I-1-A>
実施例I-1-Aにおいて、担体に比表面積308m2/gの酸化チタン(触媒学会参照触媒。JRC-TIO-14,石原産業(株)製)を用いた以外は、実施例I-1-Aと同様の触媒調製手法を用いて5%レニウム/酸化チタン触媒を調製した。この触媒の比表面積は66m2/gであり、触媒中のReの平均原子価は4.6であった。触媒中には酸化ジルコニウムは含有されていなかった。
【0160】
この触媒を用いて実施例I-1-Aと同条件下で水素化反応を行ったところ、反応のモル収率は、1,10-デカンジオールが94.4%、10-ヒドロキシデカン酸が0.5%であり、副生成物(1-ノナノール、1-デカノール、1-ノナン酸、1-デカン酸)/目的成分(1,10-デカンジオール、10-ヒドロキシデカン酸)のモル比は0.02であった。触媒活性指標Iは94.7であった。
【0161】
<比較例I-1-B>
比較例I-1-Aにおいて、還元処理後に冷却して、アルゴン置換した後、25℃で1時間、6体積%酸素/窒素ガスの流通により表面を安定化させる処理を行ったこと以外は、比較例I-1-Aと同様の触媒調製手法を用いて5%レニウム/酸化チタン触媒を調製した。触媒中には酸化ジルコニウムは含有されていなかった。
【0162】
この触媒を用いて実施例I-1-Aと同条件下で水素化反応を行ったところ、反応のモル収率は、1,10-デカンジオールが0.1%、10-ヒドロキシデカン酸が20.0%であり、副生成物(1-ノナノール、1-デカノール、1-ノナン酸、1-デカン酸)/目的成分(1,10-デカンジオール、10-ヒドロキシデカン酸)のモル比は0.06であった。触媒活性指標Iは10.1であった。
【0163】
<参考例I-2-A>
実施例I-1-Aにおいて、担体として正方晶で比表面積168m2/gの酸化ジルコニウム(Saint-Gobain社製、純度94%)を用いた以外は、実施例I-1-Aと同様の触媒調製手法を用いて5%レニウム/酸化ジルコニウム触媒を調製した。この触媒の比表面積は155m2/gであり、触媒中の酸化ジルコニウムは正方晶であった。すなわち、触媒中の酸化ジルコニウムの正方晶相ピークの強度(約30°での2θピーク)/単斜晶相ピークの強度(約28.2°での2θピーク)は∞であり、正方晶/単斜晶比は∞であった。
【0164】
この触媒を用いて実施例I-1-Aと同条件下で水素化反応を行ったところ、反応のモル収率は、1,10-デカンジオールが6.1%、10-ヒドロキシデカン酸が33.7%であり、副生成物(1-ノナノール、1-デカノール、1-ノナン酸、1-デカン酸)/目的成分(1,10-デカンジオール、10-ヒドロキシデカン酸)のモル比は0.02であった。触媒活性指標Iは22.9であった。
【0165】
<参考例I-2-B>
参考例I-2-Aで調製した触媒を、空気下、40℃で1時間処理することで、空気安定化した5%レニウム/酸化ジルコニウム触媒を調製した。この触媒の比表面積は155m2/gであり、触媒中の酸化ジルコニウムは正方晶であった。すなわち、触媒中の酸化ジルコニウムの正方晶相ピークの強度(約30°での2θピーク)/単斜晶相ピークの強度(約28.2°での2θピーク)は∞であり、正方晶/単斜晶比は∞であった。
【0166】
この触媒を用いて実施例I-1-Aと同条件下で水素化反応を行ったところ、反応のモル収率は、1,10-デカンジオールが7.7%、10-ヒドロキシデカン酸が38.0%であり、副生成物(1-ノナノール、1-デカノール、1-ノナン酸、1-デカン酸)/目的成分(1,10-デカンジオール、10-ヒドロキシデカン酸)のモル比は0.07であった。触媒活性指標Iは26.7であった。
【0167】
<参考例I-3>
実施例I-1-Aにおいて、金属原料として過レニウム酸アンモニウムとテトラエトキシゲルマニウム(IV)、塩化ルテニウム(III)を用いた以外は、実施例I-1-Aと同様の触媒調製手法を用いて5%レニウム・5%ゲルマニウム・0.5%ルテニウム/酸化ジルコニウム触媒を調製した。この触媒の比表面積は90m2/gであり、触媒中の酸化ジルコニウムは単斜晶であった。すなわち、触媒中の酸化ジルコニウムの正方晶相ピークの強度(約30°での2θピーク)/単斜晶相ピークの強度(約28.2°での2θピーク)は0であり、正方晶/単斜晶比は0であった。
【0168】
この触媒を用いて実施例I-1-Aと同条件下で水素化反応を行ったところ、反応のモル収率は、1,10-デカンジオールが31.0%、10-ヒドロキシデカン酸が39.3%であり、副生成物(1-ノナノール、1-デカノール、1-ノナン酸、1-デカン酸)/目的成分(1,10-デカンジオール、10-ヒドロキシデカン酸)のモル比は0.01であった。触媒活性指標Iは50.6であった。
【0169】
<参考例I-4>
実施例I-1-Aにおいて、金属原料として過レニウム酸アンモニウムとテトラエトキシゲルマニウム(IV)、塩化ルテニウム(III)を用いた以外は、実施例I-1-Aと同様の触媒調製手法を用いて5%レニウム・5%ゲルマニウム・5%ルテニウム/酸化ジルコニウム触媒を調製した。この触媒の比表面積は95m2/gであり、触媒中の酸化ジルコニウムは単斜晶であった。すなわち、触媒中の酸化ジルコニウムの正方晶相ピークの強度(約30°での2θピーク)/単斜晶相ピークの強度(約28.2°での2θピーク)は0であり、正方晶/単斜晶比は0であった。
【0170】
この触媒を用いて実施例I-1-Aと同条件下で水素化反応を行ったところ、反応のモル収率は、1,10-デカンジオールが11.4%、10-ヒドロキシデカン酸が37.3%であり、副生成物(1-ノナノール、1-デカノール、1-ノナン酸、1-デカン酸)/目的成分(1,10-デカンジオール、10-ヒドロキシデカン酸)のモル比は0.02であった。触媒活性指標Iは30.0であった。
【0171】
以上の結果を表1にまとめて示す。
【0172】
【0173】
以上の実施例と比較例の結果から以下のことが分かる。
実施例I-1-AならびにI-1-Bと比較例I-1-AならびにI-1-Bとの比較から、公知の酸化チタン担体系触媒に比べて、酸化ジルコニウム担体系触媒は、酸化安定化による活性低下が著しく小さい。これによりレニウム/酸化ジルコニウム触媒は空気下での取り扱いが可能な工業触媒として有利な触媒となることが分かる。
また、実施例ならびに比較例の反応結果から以下のことが分かる。
レニウム/酸化ジルコニウム触媒の中では、単斜晶の酸化ジルコニウムの含有量が多い程、単位面積当たりの触媒活性が向上する。さらに、このレニウム/酸化ジルコニウム系触媒に担持金属として周期表の第3周期以降の第13~15族に属する元素を共存させると反応選択性を著しく向上させることができる。
【0174】
これらの結果から、単斜晶の酸化ジルコニウムをより多く含有するレニウム系担持触媒を使用すると、カルボン酸の水素化反応の触媒活性が高まる上に、空気下での取り扱い可能な取り扱い操作性に優れた触媒となることが判った。
【0175】
このような特性を示す本触媒はカルボニル化合物から直接アルコールを合成するための工業触媒としての価値が極めて高い。
【0176】
<実施例II-1>
過レニウム酸アンモニウムを水に溶解し、担体として単斜晶で比表面積97m2/gの酸化ジルコニウム(Saint-Gobain社製)を加え、室温で1時間撹拌した。次いで、エバポレーターを用いて水を除去した後、100℃で3時間乾燥した。その後、縦型焼成管に入れ、空気を流通させながら、500℃で3時間焼成処理を行った。得られた固体を別の縦型焼成管に入れ、水素ガスを流通させながら500℃で30分還元処理を行った。その後、30℃まで冷却して、アルゴンガスで置換して回収し、5%レニウム/酸化ジルコニウム触媒(触媒の総質量に対するレニウムの担持量が5質量%の触媒)を得た。この触媒の比表面積は91m2/gであり、触媒中の酸化ジルコニウムは単斜晶であった。この触媒中のReの平均原子価はは、4.4、即ち「4」であった。
【0177】
70mL高圧反応器に上記方法で調製した触媒100mg、セバシン酸500mg、水2gとスターラーチップを入れ、窒素置換した後、室温で水素ガスを7MPaG導入し、220℃で3時間水素化反応を行った。220℃での反応圧力は13MPaGであった。
反応後、室温に冷却した後脱圧し、反応液をガスクロマトグラフィーを用いて分析したところ、反応のモル収率は、1,10-デカンジオールが8.2%、10-ヒドロキシデカン酸が41.4%であり、副生成物(1-ノナノール、1-デカノール、1-ノナン酸、1-デカン酸)/目的成分(1,10-デカンジオール、10-ヒドロキシデカン酸)のモル比は0.073であった。以下で定義されるレニウム担持量あたりの触媒活性指標(以下、「触媒活性指標II」と称す。)は5.8であった。
【0178】
<レニウム担持量あたりの触媒活性指標II>
(「1,10-デカンジオールの収率」+「10-ヒドロキシデカン酸(1,10-デカンジオールの反応中間体)の収率の1/2」)/触媒中のレニウム担持量(質量%)
【0179】
<実施例II-2>
実施例II-1において、金属原料として過レニウム酸アンモニウムとテトラエトキシゲルマニウム(IV)を用いた以外は、実施例II-1と同様の触媒調製手法を用いて5%レニウム・1%ゲルマニウム/酸化ジルコニウム触媒を調製した。この触媒中の酸化ジルコニウムは単斜晶で、触媒中のReの平均原子価は2.7、即ち「3」であった。
【0180】
この触媒を用いて実施例II-1と同条件下で水素化反応を行ったところ、反応のモル収率は、1,10-デカンジオールが13.0%、10-ヒドロキシデカン酸が55.9%であり、副生成物(1-ノナノール、1-デカノール、1-ノナン酸、1-デカン酸)/目的成分(1,10-デカンジオール、10-ヒドロキシデカン酸)のモル比は0.009であった。触媒活性指標IIは8.2であった。
【0181】
<実施例II-3>
実施例II-2において、金属原料である過レニウム酸アンモニウムとテトラエトキシゲルマニウム(IV)の重量を変えた以外は、実施例II-2と同様の触媒調製手法を用いて5%レニウム・3%ゲルマニウム/酸化ジルコニウム触媒を調製した。この触媒中の酸化ジルコニウムは単斜晶で、触媒中のReの平均原子価は0.5、即ち「1」であった。
【0182】
この触媒を用いて実施例II-1と同条件下で水素化反応を行ったところ、反応のモル収率は、1,10-デカンジオールが30.4%、10-ヒドロキシデカン酸が47.6%であり、副生成物(1-ノナノール、1-デカノール、1-ノナン酸、1-デカン酸)/目的成分(1,10-デカンジオール、10-ヒドロキシデカン酸)のモル比は0.001であった。触媒活性指標IIは10.9であった。
【0183】
<実施例II-4>
実施例II-2において、金属原料である過レニウム酸アンモニウムとテトラエトキシゲルマニウム(IV)の重量を変えた以外は、実施例II-2と同様の触媒調製手法を用いて5%レニウム・5%ゲルマニウム/酸化ジルコニウム触媒を調製した。この触媒の比表面積は96m2/gで、触媒中の酸化ジルコニウムは単斜晶で、レニウムの平均価数は0であった。
【0184】
この触媒を用いて実施例II-1と同条件下で水素化反応を行ったところ、反応のモル収率は、1,10-デカンジオールが15.6%、10-ヒドロキシデカン酸が66.2%であり、副生成物(1-ノナノール、1-デカノール、1-ノナン酸、1-デカン酸)/目的成分(1,10-デカンジオール、10-ヒドロキシデカン酸)のモル比は0.001であった。触媒活性指標IIは9.7であった。
【0185】
<実施例II-5>
実施例II-1において、金属原料である過レニウム酸アンモニウムの重量を変えた以外は、実施例II-1と同様の触媒調製手法を用いて10%レニウム/酸化ジルコニウム触媒を調製した。この触媒中の酸化ジルコニウムは単斜晶で、触媒中のReの平均原子価は2.0、即ち「2」であった。
【0186】
この触媒を用いて実施例II-1と同条件下で水素化反応を行ったところ、反応のモル収率は、1,10-デカンジオールが51.7%、10-ヒドロキシデカン酸が8.0%であり、副生成物(1-ノナノール、1-デカノール、1-ノナン酸、1-デカン酸)/目的成分(1,10-デカンジオール、10-ヒドロキシデカン酸)のモル比は0.038であった。触媒活性指標IIは5.6であった。
【0187】
<実施例II-6>
実施例II-2において、金属原料である過レニウム酸アンモニウムとテトラエトキシゲルマニウム(IV)の重量を変えた以外は、実施例II-2と同様の触媒調製手法を用いて10%レニウム・2%ゲルマニウム/酸化ジルコニウム触媒を調製した。この触媒中の酸化ジルコニウムは単斜晶で、触媒中のReの平均原子価は1.5、即ち「2」であった。
【0188】
この触媒を用いて実施例II-1と同条件下で水素化反応を行ったところ、反応のモル収率は、1,10-デカンジオールが49.9%、10-ヒドロキシデカン酸が18.4%であり、副生成物(1-ノナノール、1-デカノール、1-ノナン酸、1-デカン酸)/目的成分(1,10-デカンジオール、10-ヒドロキシデカン酸)のモル比は0.010であった。触媒活性指標IIは5.9であった。
【0189】
<実施例II-7>
実施例II-1において、金属原料である過レニウム酸アンモニウムの重量を変えた以外は、実施例II-1と同様の触媒調製手法を用いて15%レニウム/酸化ジルコニウム触媒を調製した。この触媒中の酸化ジルコニウムは単斜晶で、触媒中のReの平均原子価は、4.4、即ち「4」であった。
【0190】
この触媒を用いて実施例II-1と同条件下で水素化反応を行ったところ、反応のモル収率は、1,10-デカンジオールが30.3%、10-ヒドロキシデカン酸が34.6%であり、副生成物(1-ノナノール、1-デカノール、1-ノナン酸、1-デカン酸)/目的成分(1,10-デカンジオール、10-ヒドロキシデカン酸)のモル比は0.032であった。触媒活性指標IIは3.2であった。
【0191】
<比較例II-1>
過レニウム酸アンモニウムを水に溶解し、担体として単斜晶で比表面積97m2/gの酸化ジルコニウム(Saint-Gobain社製)を加え、室温で1時間撹拌した。次いで、エバポレーターを用いて水を除去した後、100℃で3時間乾燥した。その後、縦型焼成管に入れ、空気を流通させながら、500℃で3時間焼成処理を行い、空気焼成した5%レニウム/酸化ジルコニウム触媒を得た。この触媒中の酸化ジルコニウムは単斜晶で、触媒中のReの平均原子価は7であった。
【0192】
この触媒を用いて実施例II-1と同条件下で水素化反応を行ったところ、反応のモル収率は、1,10-デカンジオールが1.1%、10-ヒドロキシデカン酸が5.6%であり、副生成物(1-ノナノール、1-デカノール、1-ノナン酸、1-デカン酸)/目的成分(1,10-デカンジオール、10-ヒドロキシデカン酸)のモル比は0.086であった。触媒活性指標IIは0.8であった。
【0193】
<比較例II-2>
過レニウム酸アンモニウムを水に溶解し、担体として正方晶で比表面積168m2/gの酸化ジルコニウム(Saint-Gobain社製、純度94%)を加え、室温で1時間撹拌した。次いで、エバポレーターを用いて水を除去した後、100℃で3時間乾燥した。その後、縦型焼成管に入れ、空気を流通させながら、500℃で3時間焼成処理を行い、空気焼成した5%レニウム/酸化ジルコニウム触媒を得た。この触媒中の酸化ジルコニウムは正方晶で、触媒中のReの平均原子価は7であった。
【0194】
この触媒を用いて実施例II-1と同条件下で水素化反応を行ったところ、反応のモル収率は、1,10-デカンジオールが0.9%、10-ヒドロキシデカン酸が5.3%であり、副生成物(1-ノナノール、1-デカノール、1-ノナン酸、1-デカン酸)/目的成分(1,10-デカンジオール、10-ヒドロキシデカン酸)のモル比は0.106であった。触媒活性指標IIは0.7であった。
【0195】
以上の結果を表2にまとめて示す。
【0196】
【0197】
以上の実施例と比較例の結果から以下のことが分かる。
実施例II-1~7と比較例II-1との比較から、平均原子価が4以下であるレニウムを含有する金属成分が、酸化ジルコニウムを含有する担体に担持された触媒を使用すると、カルボン酸の水素化反応において、レニウム担持質量%あたりの1,10-デカンジオールと10-ヒドロキシデカン酸の生成量の総量が増加することが分かった。ここで、1,10-デカンジオールと10-ヒドロキシデカン酸との生成量の総量を触媒活性の指標とする理由は、10-ヒドロキシデカン酸は1,10-デカンジオール生成物の反応中間体と見做され、反応時間を更に伸ばすことにより1,10-デカンジオールに誘導される為である。この顕著な水素化触媒活性の向上は、アルコールの製造コストの低減に貢献するものである。
これらの結果から、平均原子価が4以下であるレニウムを含有する金属成分が、酸化ジルコニウムを含有する担体に担持された触媒が、カルボン酸の水素化反応の触媒活性に優れた触媒となることが判った。
このような特性を示す本触媒はカルボニル化合物から直接アルコールを合成するための工業触媒としての価値が極めて高い。
【0198】
本発明を特定の態様を用いて詳細に説明したが、本発明の意図と範囲を離れることなく様々な変更が可能であることは当業者に明らかである。
本出願は、2018年7月23日付で出願された日本特許出願2018-137792に基づいており、その全体が引用により援用される。
【産業上の利用可能性】
【0199】
本触媒は、カルボニル化合物から直接アルコールを合成するための触媒として工業的に有用である。本触媒によれば、目的とするアルコールを高活性且つ高選択的に製造できる。本触媒は、空気下で取り扱い可能な取り扱い操作性に優れ、生成物の精製コストや触媒の製造コストの高騰を低減できる。このようなことから、本触媒の工業的価値は極めて高い。