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  • 特許-重合体ラテックスの製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-04
(45)【発行日】2023-09-12
(54)【発明の名称】重合体ラテックスの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08J 3/02 20060101AFI20230905BHJP
【FI】
C08J3/02 Z
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020539439
(86)(22)【出願日】2019-08-26
(86)【国際出願番号】 JP2019033270
(87)【国際公開番号】W WO2020045339
(87)【国際公開日】2020-03-05
【審査請求日】2022-08-09
(31)【優先権主張番号】P 2018160490
(32)【優先日】2018-08-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000229117
【氏名又は名称】日本ゼオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000486
【氏名又は名称】弁理士法人とこしえ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 吉隆
(72)【発明者】
【氏名】小出村 順司
【審査官】加賀 直人
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/159534(WO,A1)
【文献】特開昭62-257902(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 3/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
容器内で、重合体が有機溶媒に溶解または分散してなる重合体の溶液または分散液と、乳化剤の水溶液とを混合することで得られた乳化液から、有機溶媒を留去する工程を備える重合体ラテックスの製造方法であって、
前記乳化液からの前記有機溶媒の留去を、有機溶媒の気化による、容器内部の圧力上昇を利用して加圧状態を保つことで、ゲージ圧で0.02MPa以上の圧力条件に調整された容器中において行う重合体ラテックスの製造方法。
【請求項2】
有機溶媒を留去する前の前記乳化液中の有機溶媒の含有割合が、30~60重量%である請求項1に記載の重合体ラテックスの製造方法。
【請求項3】
前記乳化液からの前記有機溶媒の留去を、ゲージ圧で0.02~0.18MPaの圧力条件に調整された容器中において行う請求項1または2に記載の重合体ラテックスの製造方法。
【請求項4】
前記乳化液からの前記有機溶媒の留去を、前記有機溶媒の沸点以上の温度にて行う請求項1~3のいずれかに記載の重合体ラテックスの製造方法。
【請求項5】
前記有機溶媒が、シクロヘキサン、ノルマルヘキサン、シクロペンタンおよびノルマルペンタンから選択される有機溶媒である請求項1~4のいずれかに記載の重合体ラテックスの製造方法。
【請求項6】
前記有機溶媒の留去を、前記容器に備えられたジャケット中に、圧力調整されたスチームを投入する方法によって加熱することにより行う請求項1~5のいずれかに記載の重合体ラテックスの製造方法。
【請求項7】
前記重合体が、合成ポリイソプレンおよび/またはスチレン-イソプレン-スチレン共重合体である請求項1~6のいずれかに記載の重合体ラテックスの製造方法。
【請求項8】
有機溶媒を留去する前の前記乳化液中における、前記乳化剤の含有量が、前記重合体100重量部に対して、0.1~30重量部である請求項1~7のいずれかに記載の重合体ラテックスの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、重合体ラテックスの製造方法に関し、さらに詳しくは、高い収率を実現しながら、短時間での製造が可能となる重合体ラテックスの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、天然ゴムや合成ゴムのラテックスを含有するラテックス組成物をディップ成形して得られるディップ成形体などの膜成形体は、乳首、風船、手袋、バルーン、サック等として好適に用いられている。
【0003】
たとえば、特許文献1では、合成ゴムのラテックスを製造するための方法として、合成ゴムが有機溶媒に溶解してなる合成ゴムの溶液と、乳化剤の水溶液とを、混合することで乳化液を得て、得られた乳化液に対して、減圧条件下で、有機溶媒の沸点よりも高い温度にて加熱することで、有機溶媒の除去を行う方法が開示されている。しかしながら、この特許文献1の技術では、有機溶媒の除去に時間が掛かり、そのため生産性に劣るという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第5260738号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、高い収率を実現しながら、短時間での製造が可能となる重合体ラテックスの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者等は、上記課題を解決すべく鋭意研究した結果、重合体が有機溶媒に溶解または分散してなる重合体の溶液または分散液と、乳化剤の水溶液とを混合することで得られた乳化液から、有機溶媒を留去する際に、乳化液からの有機溶媒の留去を、ゲージ圧で0.02MPa以上の圧力条件に調整された容器中において行うことにより、上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0007】
すなわち、本発明によれば、重合体が有機溶媒に溶解または分散してなる重合体の溶液または分散液と、乳化剤の水溶液とを混合することで得られた乳化液から、有機溶媒を留去する工程を備える重合体ラテックスの製造方法であって、
前記乳化液からの前記有機溶媒の留去を、ゲージ圧で0.02MPa以上の圧力条件に調整された容器中において行う重合体ラテックスの製造方法が提供される。
【0008】
本発明の重合体ラテックスの製造方法において、有機溶媒を留去する前の前記乳化液中の有機溶媒の含有割合が、30~60重量%であることが好ましい。
本発明の重合体ラテックスの製造方法において、前記乳化液からの前記有機溶媒の留去を、ゲージ圧で0.02~0.18MPaの圧力条件に調整された容器中において行うことが好ましい。
本発明の重合体ラテックスの製造方法において、前記乳化液からの前記有機溶媒の留去を、前記有機溶媒の沸点以上の温度にて行うことが好ましい。
本発明の重合体ラテックスの製造方法において、前記有機溶媒が、シクロヘキサン、ノルマルヘキサン、シクロペンタンおよびノルマルペンタンから選択される有機溶媒であることが好ましい。
本発明の重合体ラテックスの製造方法において、前記有機溶媒の留去を、前記容器に備えられたジャケット中に、圧力調整されたスチームを投入する方法によって加熱することにより行うことが好ましい。
本発明の重合体ラテックスの製造方法において、前記重合体が、合成ポリイソプレンおよび/またはスチレン-イソプレン-スチレン共重合体であることが好ましい。
本発明の重合体ラテックスの製造方法において、有機溶媒を留去する前の前記乳化液中における、前記乳化剤の含有量が、前記重合体100重量部に対して、0.1~30重量部であることが好ましい。
【発明の効果】
【0009】
本発明の重合体ラテックスの製造方法によれば、高い収率を実現しながら、短時間での製造が可能とすることができ、これにより生産性の向上が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、本発明の重合体ラテックスの製造方法に用いられる乳化装置の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の重合体ラテックスの製造方法は、
重合体が有機溶媒に溶解または分散してなる重合体の溶液または分散液と、乳化剤の水溶液とを混合することで得られた乳化液から、有機溶媒を留去する工程を備え、
前記乳化液からの前記有機溶媒の留去を、ゲージ圧で0.02MPa以上の圧力条件に調整された容器中において行うものである。
【0012】
<乳化液>
本発明の製造方法で用いる、乳化液は、重合体が有機溶媒に溶解または分散してなる重合体の溶液または分散液と、乳化剤の水溶液とを混合することで得られるものである。
【0013】
重合体の溶液または分散液は、重合体が有機溶媒中に溶解または分散してなる溶液または分散液であればよく、特に限定されない。
【0014】
重合体としては、特に限定されず、種々の重合体を制限なく用いることができるが、たとえば、天然ゴム;合成ポリブタジエン、合成ポリイソプレン、合成ポリクロロプレン等の共役ジエン単量体の単独重合体もしくは共重合体;スチレン-ブタジエン共重合体、スチレン-イソプレン共重合体、スチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体、アクリロニトリル-ブタジエン共重合体、アクリロニトリル-イソプレン共重合体、アクリロニトリル-ブタジエン-イソプレン共重合体、ブチルアクリレート-ブタジエン共重合体等の共役ジエン単量体とこれと共重合可能な他の単量体との共重合体;アクリレート系(共)重合体等が挙げられる。これらのなかでも、本発明の製造方法を適用した場合における効果がより高いという観点より、天然ゴム、合成ポリイソプレン、スチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体が好ましく、合成ポリイソプレン、スチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体がより好ましい。
【0015】
以下、本発明の製造方法で用いる重合体の溶液または分散液を構成する重合体が、合成ポリイソプレンおよび/またはスチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体である場合を例示するが、本発明の製造方法で用いる重合体の溶液または分散液は、これら合成ポリイソプレンおよび/またはスチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体の溶液または分散液に、何ら限定されるものではない。
【0016】
合成ポリイソプレンは、イソプレンの単独重合体であってもよいし、イソプレンと共重合可能な他のエチレン性不飽和単量体とを共重合したものであってもよい。合成ポリイソプレン中のイソプレン単位の含有量は、柔軟で、引張強度に優れるディップ成形体などの膜成形体が得られやすいことから、全単量体単位に対して、好ましくは70重量%以上、より好ましくは90重量%以上、さらに好ましくは95重量%以上、特に好ましくは100重量%(イソプレンの単独重合体)である。
【0017】
イソプレンと共重合可能な他のエチレン性不飽和単量体としては、たとえば、ブタジエン、クロロプレン、1,3-ペンタジエン等のイソプレン以外の共役ジエン単量体;アクリロニトリル、メタクリロニトリル、フマロニトリル、α-クロロアクリロニトリル等のエチレン性不飽和ニトリル単量体;スチレン、アルキルスチレン等のビニル芳香族単量体;(メタ)アクリル酸メチル(「アクリル酸メチルおよび/またはメタクリル酸メチル」の意味であり、以下、(メタ)アクリル酸エチルなども同様。)、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸-2-エチルヘキシル等のエチレン性不飽和カルボン酸エステル単量体;などが挙げられる。これらのイソプレンと共重合可能な他のエチレン性不飽和単量体は、1種単独でも、複数種を併用してもよい。
【0018】
合成ポリイソプレンは、従来公知の方法、たとえばトリアルキルアルミニウム-四塩化チタンからなるチーグラー系重合触媒やn-ブチルリチウム、sec-ブチルリチウムなどのアルキルリチウム重合触媒を用いて、有機溶媒中で、イソプレンと、必要に応じて用いられる共重合可能な他のエチレン性不飽和単量体とを溶液重合することで、合成ポリイソプレンが有機溶媒に溶解してなる、合成ポリイソプレンの溶液として得ることできる。なお、溶液重合により得られた合成ポリイソプレンの溶液は、乳化工程において、そのまま用いてもよいが、溶液重合により得られた溶液から固形の合成ポリイソプレンを取り出した後、有機溶媒に溶解して、用いてもよい。
【0019】
また、重合に用いる有機溶媒としては、たとえば、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素溶媒;シクロペンタン、シクロペンテン、シクロヘキサン、シクロヘキセン等の脂環族炭化水素溶媒;ブタン、ノルマルペンタン、ノルマルヘキサン、ヘプタン等の脂肪族炭化水素溶媒;塩化メチレン、クロロホルム、二塩化エチレン等のハロゲン化炭化水素溶媒;等を好適に挙げることができる。なお、溶液重合により得られた溶液から固形の合成ポリイソプレンを取り出した後、再度、有機溶媒に溶解する場合にも、これらの有機溶媒を好適に用いることができる。
【0020】
合成ポリイソプレン中のイソプレン単位としては、イソプレンの結合状態により、シス結合単位、トランス結合単位、1,2-ビニル結合単位、3,4-ビニル結合単位の4種類が存在する。得られるディップ成形体などの膜成形体の引張強度向上の観点から、合成ポリイソプレンに含まれるイソプレン単位中のシス結合単位の含有割合は、全イソプレン単位に対して、好ましくは70重量%以上、より好ましくは90重量%以上、さらに好ましくは95重量%以上である。
【0021】
合成ポリイソプレンの重量平均分子量は、ゲル・パーミーエーション・クロマトグラフィー分析による標準ポリスチレン換算で、好ましくは10,000~5,000,000、より好ましくは500,000~5,000,000、さらに好ましくは800,000~3,000,000である。合成ポリイソプレンの重量平均分子量を上記範囲とすることにより、ディップ成形体などの膜成形体とした場合における、得られる膜成形体の引張強度が向上するとともに、合成ポリイソプレンラテックスが製造しやすくなる傾向がある。
【0022】
合成ポリイソプレンのポリマー・ムーニー粘度(ML1+4、100℃)は、好ましくは50~80、より好ましくは60~80、さらに好ましくは70~80である。
【0023】
スチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体は、スチレンとイソプレンのブロック共重合体である。スチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体中のスチレン単位とイソプレン単位の含有割合は、特に限定されないが、「スチレン単位:イソプレン単位」の重量比で、通常1:99~90:10、好ましくは3:97~70:30、より好ましくは5:95~50:50、さらに好ましくは10:90~30:70の範囲である。
【0024】
スチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体は、従来公知の方法、たとえばトリアルキルアルミニウム-四塩化チタンからなるチーグラー系重合触媒やn-ブチルリチウム、sec-ブチルリチウムなどのアルキルリチウム重合触媒を用いて、有機溶媒中で、イソプレンとスチレンとをブロック共重合することで、スチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体が有機溶媒に溶解してなる、スチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体の溶液として得ることができる。なお、ブロック共重合により得られたスチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体の溶液は、乳化工程において、そのまま用いてもよいが、ブロック共重合により得られた溶液から固形のスチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体を取り出した後、有機溶媒に溶解して、用いてもよい。また、重合に用いる有機溶媒としては、上記した合成イソプレンと同様のものが挙げられる。
【0025】
スチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体中に含まれるイソプレン単位中のシス結合単位の含有割合は、得られるディップ成形体などの膜成形体の引張強度向上の観点から、全イソプレン単位に対して、好ましくは90重量%以上、より好ましくは95重量%以上、さらに好ましくは98重量%以上である。
【0026】
スチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体の重量平均分子量は、ゲル・パーミーエーション・クロマトグラフィー分析による標準ポリスチレン換算で、好ましくは10,000~1,000,000、より好ましくは50,000~500,000、さらに好ましくは100,000~300,000である。スチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体の重量平均分子量を上記範囲とすることにより、ディップ成形体などの膜成形体とした場合における、得られる膜成形体の引張強度が向上するとともに、スチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体ラテックスが製造しやすくなる傾向がある。
【0027】
スチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体のポリマー・ムーニー粘度(ML1+4、100℃)は、好ましくは50~80、より好ましくは60~80、さらに好ましくは70~80である。
【0028】
本発明の製造方法で用いる、重合体の溶液または分散液中における、重合体の含有割合は、特に限定されないが、好ましくは3~30重量%、より好ましくは5~20重量%、さらに好ましくは7~15重量%である。
【0029】
本発明の製造方法で用いる、乳化剤の水溶液を構成する、乳化剤としては、特に限定されないが、アニオン性乳化剤を好ましく用いることができる。アニオン性乳化剤としては、たとえば、ラウリン酸ナトリウム、ミリスチン酸カリウム、パルミチン酸ナトリウム、オレイン酸カリウム、リノレン酸ナトリウム、ロジン酸ナトリウム、ロジン酸カリウム等の脂肪酸塩;ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸カリウム、デシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、デシルベンゼンスルホン酸カリウム、セチルベンゼンスルホン酸ナトリウム、セチルベンゼンスルホン酸カリウム等のアルキルベンゼンスルホン酸塩;ジ(2-エチルヘキシル)スルホコハク酸ナトリウム、ジ(2-エチルヘキシル)スルホコハク酸カリウム、ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム等のアルキルスルホコハク酸塩;ラウリル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸カリウム等のアルキル硫酸エステル塩;ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸カリウム等のポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル塩;ラウリルリン酸ナトリウム、ラウリルリン酸カリウム等のモノアルキルリン酸塩;等が挙げられる。
【0030】
これらアニオン性乳化剤の中でも、脂肪酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルスルホコハク酸塩、アルキル硫酸エステル塩およびポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル塩が好ましく、得られる重合体ラテックス中における凝集物の発生をより適切に防止することができ、得られる重合体ラテックスの安定性をより高めることができるという観点より、脂肪酸塩およびアルキルベンゼンスルホン酸塩がより好ましく、脂肪酸塩がさらに好ましく、ロジン酸ナトリウム、ロジン酸カリウムが特に好ましい。また、脂肪酸塩と、アルキルベンゼンスルホン酸塩とを組み合わせて用いることも好ましい。
【0031】
本発明の製造方法で用いる、乳化剤の水溶液中における、乳化剤の含有割合は、特に限定されないが、好ましくは0.1~5重量%、より好ましくは0.3~3重量%、さらに好ましくは0.5~2重量%である。
【0032】
そして、本発明の製造方法においては、このような重合体が有機溶媒に溶解または分散してなる重合体の溶液または分散液と、乳化剤の水溶液とを、混合装置に供給し、混合することで、乳化液を得ることができる。乳化液を得る際には、重合体の溶液または分散液と、乳化剤の水溶液とを、混合装置に連続的に供給し、連続的に乳化液を得るような態様とすることが好ましい。
【0033】
ここで、図1は、本発明の重合体ラテックスの製造方法に用いられる乳化装置の一例を示す図である。図1に示すように、図1に示す乳化装置は、重合体用タンク10と、乳化剤用タンク20と、混合装置30と、貯留タンク40と、留去用配管60と、コンデンサ70と、有機溶媒回収タンク80とを備えている。
【0034】
以下においては、本発明で用いる乳化液の製造方法について、図1を参照しながら説明を行うが、図1に示す乳化装置を用いる態様に特に限定されるものではない。
【0035】
すなわち、図1を参照して説明すると、重合体用タンク10から重合体の溶液または分散液を、乳化剤用タンク20から乳化剤の水溶液を、それぞれ連続的に混合装置30に送り、これにより混合装置30内にて、重合体の溶液または分散液と、乳化剤の水溶液とを連続的に混合することで、連続的に乳化液を得ることができる。そして、図1に示す乳化装置においては、このようにして連続的に得られる乳化液を、貯留タンク40に連続的に供給するものである。
【0036】
この際に、重合体の溶液または分散液および乳化剤の水溶液を、連続的に混合装置30に送る際における、これらの供給割合は、特に限定されないが、重合体の乳化をより適切に進行させることができるという観点より、「重合体の溶液または分散液:乳化剤の水溶液」の体積比で、好ましくは1:2~1:0.3、より好ましくは1:1.5~1:0.5、より好ましくは1:1~1:0.7である。
【0037】
重合体用タンク10および乳化剤用タンク20から、重合体の溶液または分散液および乳化剤の水溶液を、連続的に混合装置30に送る方法としては、特に限定されないが、重合体の溶液または分散液および乳化剤の水溶液を、ポンプにより、直接、混合装置30に送るような態様としてもよいし、あるいは、混合装置30の上流側に、ラインミキサーなどの予備混合装置を備えるような構成とし、予備混合装置により予備混合を行い、予備混合された状態にて、混合装置30に送るような態様としてもよい。
【0038】
混合装置30としては、特に限定されないが、連続的に混合を行うことができるような混合装置が好ましく、たとえば、商品名「TKパイプラインホモミキサー」(特殊機化工業社製)、商品名「コロイドミル」(神鋼パンテック社製)、商品名「スラッシャー」(日本コークス工業社製)、商品名「トリゴナル湿式微粉砕機」(三井三池化工機社製)、商品名「キャビトロン」(ユーロテック社製)、商品名「マイルダー」(太平洋機工社製)、商品名「ファインフローミル」(太平洋機工社製)等を用いることができる。なお、混合装置30による混合操作の条件は、特に限定されず、所望の分散状態になるように、処理温度、処理時間などを適宜選定すればよい。
【0039】
重合体の溶液または分散液と、乳化剤の水溶液とを、連続的に混合装置30に送って混合する際における、重合体の溶液または分散液、および乳化剤の水溶液の温度は特に限定されないが、乳化を良好に行うことができるという観点より、好ましくは20~100℃であり、より好ましくは40~90℃、さらに好ましくは60~80℃である。なお、これらを混合する際の温度は、混合温度が所望の温度となるように、重合体の溶液または分散液を重合体用タンク10に貯留する際における温度、および乳化剤の水溶液を乳化剤用タンク20に貯留する際における温度を、それぞれ調整することにより制御すればよい。たとえば、60℃の重合体の溶液または分散液と、60℃の乳化剤の水溶液とを、混合装置30で混合する場合には、重合体の溶液または分散液を重合体用タンク10に貯留する際における温度を60℃とし、乳化剤の水溶液を乳化剤用タンク20に貯留する際における温度を60℃とすればよい。
【0040】
なお、本発明の製造方法において用いる乳化液中の有機溶媒の含有割合は、乳化液を構成する全成分100重量%に対して、通常、30~60重量%であり、好ましくは35~60重量%、より好ましくは37~50重量%である。
【0041】
また、本発明の製造方法において用いる乳化液中の乳化剤の含有量は、重合体100重量部に対して、通常、0.1~30重量部、好ましくは1~20重量部、より好ましくは3~15重量部である。
【0042】
<有機溶媒留去工程>
本発明の製造方法においては、上記のようにして、重合体が有機溶媒に溶解または分散してなる重合体の溶液または分散液と、乳化剤の水溶液とを混合することで得られる乳化液から、有機溶媒を留去(除去)する有機溶媒留去工程を備える。
そして、本発明の製造方法においては、このような有機溶媒留去工程における、乳化液からの有機溶媒の留去(除去)を、ゲージ圧で0.02MPa以上の圧力条件に調整された容器中において行うものである。
【0043】
以下においては、本発明の製造方法の有機溶媒留去工程の具体的な態様について、図1を参照しながら説明を行うが、本発明は、図1に示す乳化装置を用いる態様に特に限定されるものではない。
【0044】
すなわち、図1を参照し、本発明の製造方法の有機溶媒留去工程の具体的な態様について説明すると、有機溶媒留去工程においては、混合装置30から送られ、貯留タンク40に貯留されている乳化液について、貯留タンク40内の圧力を、ゲージ圧で0.02MPa以上の加圧条件に制御した状態にて、乳化液中に含まれる有機溶媒を留去するものである。
【0045】
ここで、貯留タンク40は、攪拌羽根50を備え、さらに、その外側には、スチームを流通させるためのジャケット(不図示)を備えている。また、貯留タンク40の上方には、留去用配管60と、留去用配管60に接続されたコンデンサ70とを備えている。
【0046】
そして、本発明の製造方法の有機溶媒留去工程においては、次のようにして、貯留タンク40内の圧力の調整および有機溶媒の留去が行われるものである。すなわち、本発明の製造方法の有機溶媒留去工程においては、貯留タンク40、留去用配管60およびコンデンサ70からなる系を、外気から密閉した密閉系を保った状態とし、攪拌羽根50にて乳化液の攪拌を行いながら、貯留タンク40の外側に備えられたジャケットに、圧力調整されたスチームを連続的に投入することで、貯留タンク40に貯留されている乳化液を加温する。そして、加温された乳化液中から、有機溶媒が気化(蒸発あるいは沸騰)することで、貯留タンク40内の圧力が上昇し、これにより、貯留タンク40内部が加圧状態となる。一方で、加温された乳化液中から気化した有機溶媒のうち一部は、留去用配管60を通って、コンデンサ70により冷却され、有機溶媒回収タンク80に回収される。
【0047】
本発明の製造方法の有機溶媒留去工程においては、このような有機溶媒の気化による、貯留タンク40内部の圧力上昇を利用し、加圧状態を保った状態にて、有機溶媒の留去を行うものである。具体的には、貯留タンク40内部の圧力を、0.02MPa(ゲージ圧)以上の加圧条件に保った状態にて、有機溶媒の留去を行うものである。有機溶媒留去工程における、貯留タンク40内部の圧力の上限は、特に限定されないが、設備上の観点より、好ましくは0.18MPa(ゲージ圧)以下である。有機溶媒留去工程においては、貯留タンク40内部の圧力を、0.05~0.09MPa(ゲージ圧)の加圧条件に保った状態にて、有機溶媒の留去を行うことが好ましく、0.07~0.09MPa(ゲージ圧)の加圧条件に保った状態にて、有機溶媒の留去を行うことがより好ましい。なお、有機溶媒留去工程における、貯留タンク40内部の圧力は、たとえば、貯留タンク40に貯留されている乳化液を加温する際の加温温度などにより調整することができる。たとえば、加温温度を高くするほど、加圧力を高くすることができる。
【0048】
本発明の製造方法の有機溶媒留去工程によれば、このような0.02MPa(ゲージ圧)以上の加圧条件にて、有機溶媒の留去を行うものであり、加圧条件にて留去を行うことで、乳化液に含まれる有機溶媒の留去を、高い収率を実現しながら、短時間で行うことができるものである。特に、本発明者等が検討したところ、有機溶媒の留去は、減圧条件で行われることが一般的であるところ、逆に、0.02MPa(ゲージ圧)以上の加圧条件とすることにより、有機溶媒の留去に要する時間が短くなることを見出し、このような知見に基づいて、0.02MPa(ゲージ圧)以上の加圧条件にて、有機溶媒の留去を行うものである。
【0049】
加えて、本発明の製造方法の有機溶媒留去工程によれば、0.02MPa(ゲージ圧)以上の加圧条件とすることにより、液面の発泡を抑えることができるものであり、これにより、貯留タンク40の容積に対し、好ましくは50~85容積%、より好ましくは55~85容積%、さらに好ましくは70~85容積%と、比較的多く乳化液を貯留させ、一度の操作における処理量を比較的多くした場合でも、発泡により乳化液の一部がコンデンサ70内に流入してしまい歩留まりを低下させるという不具合を有効に抑制することができるものである。そして、これにより、生産性の向上を図ることができるものである。
【0050】
さらに、本発明の製造方法の有機溶媒留去工程によれば、0.02MPa(ゲージ圧)以上の加圧条件であるため、貯留タンク40内部には、気化した有機溶媒が充満した状態となり、これにより、有機溶媒の留去中においては、貯留タンク40の壁面をウエットな状態に保つことができるものである。そのため、貯留タンク40の壁面に、乳化液が付着した場合でも、乳化液が固化して重合体成分が付着したままとなってしまうことを有効に抑制することでき、これにより、貯留タンク40の壁面に重合体成分が付着したままとなってしまうことに起因する、歩留まりの低下を抑制でき、ひいては、高い収率を実現できるものである。
【0051】
0.02MPa(ゲージ圧)以上の加圧条件にて有機溶媒の留去を行う際における、貯留タンク40に貯留されている乳化液を加温するための加温温度としては、特に限定されず、所望の加圧力に応じた温度とすればよいが、乳化液に含まれる有機溶媒(すなわち、重合体の溶液または分散液に由来する有機溶媒)の大気圧下における沸点Tbに対して、沸点Tb以上の温度とすることが好ましく、Tb+1~Tb+35℃の範囲とすることが好ましく、Tb+5~Tb+35℃の範囲とすることがより好ましく、Tb+10~Tb+30℃の範囲とすることがさらに好ましい。なお、乳化液に2種以上の有機溶媒が含まれる場合には、含有量の多い方の有機溶媒の沸点を基準に、加温温度を設定すればよい。加温温度を上記範囲とすることにより、有機溶媒留去工程における、貯留タンク40内部の加圧力を適切に制御することができる。なお、加温温度は、貯留タンク40の外側に備えられたジャケットに投入する、スチームの流通量や流通速度を調整することで、適宜調整することができる。
【0052】
なお、有機溶媒留去工程における、貯留タンク40内部の加圧力は、ゲージ圧で上記範囲とすればよいが、絶対圧で、好ましくは0.1213~0.2813MPa、より好ましくは0.1513~0.1913MPa、さらに好ましくは0.1713~0.1913MPaである。
【0053】
また、有機溶媒留去工程においては、上記加圧力を保つために、貯留タンク40、留去用配管60およびコンデンサ70からなる系を、外気から密閉した密閉系を保った状態として、有機溶媒の留去を行うことが好ましいが、その一方で、貯留タンク40の加温開始直後においては、貯留タンク40内に含まれている空気を除去することを目的として、コンデンサ70の上部に接続された圧力弁を開放し、空気を除去してもよい。そして、この際には、貯留タンク40内に含まれている空気の除去が完了し、コンデンサ70による有機溶媒の液化が確認された後に、圧力弁を閉じて、密閉系とすることが望ましい。
【0054】
あるいは、有機溶媒留去工程における、貯留タンク40内の加圧力は、加温温度により調整すればよいが、加温温度による調整に加えて、コンデンサ70の上部に接続された圧力弁により調整する方法を併用してもよい。
【0055】
本発明の製造方法において、有機溶媒留去工程における、0.02MPa(ゲージ圧)以上の加圧条件での、乳化液からの有機溶媒の留去は、乳化液中の重合体100重量%に対する、乳化液中の有機溶媒の含有量が、好ましくは500重量ppm以下、より好ましくは100重量ppm以下となるまで行うことが好ましい。なお、本発明の製造方法においては、乳化液からの有機溶媒の留去を、0.02MPa(ゲージ圧)以上の加圧条件で行うものであるが、たとえば、乳化液中の重合体100重量%に対する、乳化液中の有機溶媒の含有量が、好ましくは1重量%以下程度まで低減されるまで、0.02MPa(ゲージ圧)以上の加圧条件での有機溶媒の留去を行った後、減圧条件での有機溶媒の留去を組み合わせて行ってもよい。この場合には、コンデンサ70の下流側に減圧ポンプを接続し、減圧ポンプにより減圧されるような態様とすればよい。
【0056】
以上のようにして、本発明の製造方法によれば、重合体ラテックスを得ることができる。なお、このようにして得られる重合体ラテックスには、ラテックスの分野で通常配合される、pH調整剤、消泡剤、防腐剤、キレート化剤、酸素捕捉剤、分散剤、老化防止剤等の添加剤を配合してもよい。
【0057】
pH調整剤としては、たとえば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどのアルカリ金属の水酸化物;炭酸ナトリウム、炭酸カリウムなどのアルカリ金属の炭酸塩;炭酸水素ナトリウムなどのアルカリ金属の炭酸水素塩;アンモニア;トリメチルアミン、トリエタノールアミンなどの有機アミン化合物;等が挙げられるが、アルカリ金属の水酸化物またはアンモニアが好ましい。
【0058】
また、必要に応じ、重合体ラテックスの固形分濃度を上げるために、遠心分離による濃縮操作を行ってもよい。
【0059】
本発明の製造方法により製造される重合体ラテックスの体積平均粒子径は、好ましくは0.1~10μm、より好ましくは0.5~3μm、さらに好ましくは1~2μmである。体積平均粒子径を上記範囲とすることにより、ラテックス粘度が適度なものとなり取り扱いやすくなるとともに、重合体ラテックスを貯蔵した際に、ラテックス表面に皮膜が生成することを抑制できる。
【0060】
本発明の製造方法により製造される重合体ラテックスの固形分濃度は、好ましくは30~70重量%、より好ましくは40~70重量%である。固形分濃度を上記範囲とすることにより、重合体ラテックスを貯蔵した際における重合体粒子の分離を抑制することができるとともに、重合体粒子同士が凝集して粗大凝集物が発生することを抑制できる。
【0061】
このようにして得られる本発明の重合体ラテックスは、たとえば、架橋剤などの各種添加剤などを配合することで、ラテックス組成物とすることができ、該ラテックス組成物は、ディップ成形体などの膜成形体を得るために用いられる他、接着剤用途などにも用いることができる。
【実施例
【0062】
以下、本発明を、さらに詳細な実施例に基づき説明するが、本発明は、これら実施例に限定されない。なお、以下において、「部」は、特に断りのない限り重量基準である。また、試験、評価は下記によった。
【0063】
<実施例1>
(合成ポリイソプレンのノルマルヘキサン溶液(a)の調製)
合成ポリイソプレン(商品名「Nipol IR2200L(R)」 、日本ゼオン社製)をノルマルヘキサン(沸点:69℃)と混合し、攪拌しながら温度を60℃に昇温して溶解し、合成ポリイソプレン濃度15重量%である、合成ポリイソプレンのノルマルヘキサン溶液(a)を調製した。
【0064】
(乳化剤水溶液(b1)の調製)
脂肪酸系乳化剤としてのロジン酸カリウムを、温度60℃で水と混合することにより、ロジン酸カリウム濃度1.2重量%である、乳化剤水溶液(b1)を調製した。
【0065】
(合成ポリイソプレンラテックスの製造)
そして、上記にて調製した合成ポリイソプレンのノルマルヘキサン溶液(a)および乳化剤水溶液(b1)を用い、図1に示す乳化装置を使用して、合成ポリイソプレンラテックスの製造を行った。
【0066】
具体的には、重合体用タンク10に、上記にて調製した合成ポリイソプレンのノルマルヘキサン溶液(a)を60℃に加温した状態で貯留させ、また、乳化剤用タンク20に、上記にて調製した乳化剤水溶液(b1)を60℃に加温した状態で貯留させて、これらを、「合成ポリイソプレン」:「乳化剤」の重量比で10:1となるように、予備混合装置としてのラインミキサーにて予備混合を行った後に、混合装置30に連続的に供給することで、乳化液(乳化液中の、ノルマルヘキサンの割合は37.7重量%)を連続的に得て、得られた乳化液を、混合装置30との接続配管以外のバルブを閉とされ、密閉状態とされた貯留タンク40に連続的に排出させた。混合装置30としては、ホモジナイザー(商品名「マイルダー」、太平洋機工社製)を使用した。また、混合装置30から乳化液が排出される以前の、密閉状態の貯留タンク40の圧力は、0MPa(ゲージ圧)であった。
【0067】
次いで、貯留タンク40内における乳化液の量が、貯留タンク40の容積に対し、56容積%の量となった時点で、混合装置30から貯留タンク40への乳化液の移送を停止し、混合装置30との接続配管のバルブを閉とし、攪拌羽根50による攪拌を開始した後、貯留タンク40の外側に備えられたジャケット(不図示)に、スチームを流すことにより、乳化液の加温を開始した。また、加温開始時には、コンデンサ70の上部に接続された圧力弁を開放し、貯留タンク40内の空気を除去し、コンデンサ70によるノルマルヘキサン蒸気の凝集が確認された後に、圧力弁を閉めて、貯留タンク40、留去用配管60およびコンデンサ70からなる系を、外気から密閉した密閉系とした。本実施例においては、スチームによる加温により、乳化液の温度は85℃まで上昇させ、乳化液の温度が85℃に達した時点での貯留タンク40内部の圧力は0.08MPa(ゲージ圧)であった。
そして、本実施例においては、乳化液の温度が85℃、貯留タンク40内部の圧力が0.08MPa(ゲージ圧)の条件にて、乳化液中のノルマルヘキサンの留去を継続した。
【0068】
なお、ノルマルヘキサンの留去に際しては、コンデンサ70により回収されたノルマルヘキサンの量を1時間ごとに測定し、乳化液中のノルマルヘキサンの含有量が、乳化液中の合成ポリイソプレン100重量%に対して、100重量ppm以下となったと判断された時点で、ノルマルヘキサンの留去が完了したと判定し、ノルマルヘキサンの加圧条件下による留去を終了した。実施例1においては、コンデンサ70においてノルマルヘキサン蒸気の凝集の開始が確認されてから、ノルマルヘキサンの留去が終了するまでの時間である有機溶媒留去時間は、9時間であった(後述する実施例1~4、比較例1,2においても同様にして、有機溶媒留去時間を測定した。)。また、この間における、貯留タンク40内の、乳化液の発泡による泡面高さを観察したところ、最も高い時で、貯留タンク容積の72%の高さ(最大泡面高さ:72%)であった。さらに、実施例1においては、ノルマルヘキサンの留去が終了した後において、貯留タンク40の壁面に付着した合成ポリイソプレンの割合は、乳化液に含まれている合成ポリイソプレンの全量100重量%に対し、1.3重量%であり、得られた合成ポリイソプレンラテックスの体積平均粒径は1.09μmであった。
【0069】
<実施例2>
貯留タンク40内でのノルマルヘキサンの留去を行う際における、スチームによる加温による、乳化液の加温温度を85℃から78℃に変更した以外は、実施例1と同様にして、乳化液からのノルマルヘキサンの留去を行った。なお、実施例2において、乳化液の温度を78℃とした際における、貯留タンク40内部の圧力は0.06MPa(ゲージ圧)であった。結果を表1に示す。
【0070】
<実施例3>
ノルマルヘキサンの代わりに、ノルマルペンタン(沸点:36℃)を使用するとともに、貯留タンク40内でのノルマルペンタンの留去を行う際における、スチームによる加温による、乳化液の加温温度を85℃から67℃に変更した以外は、実施例1と同様にして、乳化液からのノルマルペンタンの留去を行った。なお、実施例3において、乳化液の温度を67℃とした際における、貯留タンク40内部の圧力は0.04MPa(ゲージ圧)であった。結果を表1に示す。
【0071】
<実施例4>
合成ポリイソプレインの代わりに、スチレン-イソプレン-スチレン共重合体(商品名「Quintac 3620」、日本ゼオン社製、表1中、「SIS」と記載。)を使用し、ノルマルヘキサンの代わりにシクロヘキサン(沸点:80℃)を使用した以外は、実施例1と同様にして、乳化液を得るとともに、貯留タンク40内でのシクロヘキサンの留去を行う際における、スチームによる加温による、乳化液の加温温度を85℃から82℃に変更した以外は、実施例1と同様にして、乳化液からのシクロヘキサンの留去を行った。なお、実施例4において、乳化液の温度を82℃とした際における、貯留タンク40内部の圧力は0.07MPa(ゲージ圧)であった。結果を表1に示す。
【0072】
<比較例1>
貯留タンク40内でのノルマルヘキサンの留去を行う際における、スチームによる加温による、乳化液の加温温度を85℃から60℃に変更し、かつ、貯留タンク40内の圧力を-0.02MPa(ゲージ圧)の減圧条件下とした以外は、実施例1と同様にして、乳化液からのノルマルヘキサンの留去を行った。なお、比較例1においては、コンデンサ70の下流側に、減圧ポンプを接続し、減圧ポンプにより減圧することで、貯留タンク40内の圧力を-0.02MPa(ゲージ圧)に調整した。結果を表1に示す。
【0073】
<比較例2>
ノルマルヘキサンの代わりにシクロヘキサンを使用した以外は、実施例1と同様にして、乳化液を得るとともに、貯留タンク40内でのシクロヘキサンの留去を行う際における、スチームによる加温による、乳化液の加温温度を85℃から86℃に変更し、かつ、貯留タンク40内の圧力を-0.02MPa(ゲージ圧)の減圧条件下とした以外は、実施例1と同様にして、乳化液からのシクロヘキサンの留去を行った。なお、比較例2においては、コンデンサ70の下流側に、減圧ポンプを接続し、減圧ポンプにより減圧することで、貯留タンク40内の圧力を-0.02MPa(ゲージ圧)に調整した。比較例2においては、乳化液の泡立ちが激しく、乳化液の一部が、留去用配管60を通って、コンデンサ70まで進入してしまい、シクロヘキサンの留去を継続的に行うことができなかった。
【0074】
【表1】
【0075】
表1に示すように、貯留タンク40内の圧力を0.02MPa(ゲージ圧)以上の加圧状態として、乳化液から有機溶媒の留去を行った場合には、重合体のタンク40の壁面への付着を少なく抑えながら、有機溶媒留去時間を短くすることができ、そのため、高い収率を実現しながら、短時間での製造が可能であった(実施例1~4)。
【0076】
一方、温度60℃にて、貯留タンク40内の圧力を減圧することで、乳化液から有機溶媒の留去を行った場合には、最大泡面高さが90容積%と高くなるとともに、有機溶媒留去時間が長くなり、さらには、重合体のタンク40の壁面への付着も多くなる結果となった(比較例1)。
また、温度を86℃まで上げ、貯留タンク40内の圧力を減圧することで、乳化液から有機溶媒の留去を行った場合には、乳化液の泡立ちが激しく、乳化液の一部が、貯留タンク40からコンデンサ70内に進入してしまい(最大泡面高さが100%を超え)、有機溶媒の留去を継続的に行うことができなかった(比較例2)。
図1