(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-04
(45)【発行日】2023-09-12
(54)【発明の名称】イソプレン系重合体ラテックス組成物
(51)【国際特許分類】
C08L 9/10 20060101AFI20230905BHJP
C08L 11/02 20060101ALI20230905BHJP
C08K 3/22 20060101ALI20230905BHJP
【FI】
C08L9/10
C08L11/02
C08K3/22
(21)【出願番号】P 2020565609
(86)(22)【出願日】2019-11-26
(86)【国際出願番号】 JP2019046125
(87)【国際公開番号】W WO2020144955
(87)【国際公開日】2020-07-16
【審査請求日】2022-08-22
(31)【優先権主張番号】P 2019002653
(32)【優先日】2019-01-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】株式会社レゾナック
(74)【代理人】
【識別番号】110001070
【氏名又は名称】弁理士法人エスエス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小川 真広
(72)【発明者】
【氏名】村田 智映
(72)【発明者】
【氏名】尾川 展子
(72)【発明者】
【氏名】上條 正直
【審査官】中落 臣諭
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2011/065524(WO,A1)
【文献】国際公開第2012/137663(WO,A1)
【文献】特開2004-210993(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L1/00-101/14
C08K3/00-13/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
クロロプレン重合体ラテックス(A)、イソプレン重合体ラテックス(B)及び乳化剤(C)を含み、前記クロロプレン重合体ラテックス中のクロロプレン重合体粒子のZ平均粒子径が180nm以上300nm未満で、テトラヒドロフラン不溶分率が80~99質量%であり、前記クロロプレン重合体ラテックス(A)は、(1)クロロプレン(A-1)と2,3-ジクロロ-1,3-ブタジエン(A-2-1)との共重合体ラテックス、または(2)クロロプレン(A-1)と2,3-ジクロロ-1,3-ブタジエン(A-2-1)と他の単量体(A-2-2)との共重合体ラテックスであり、前記共重合体は単量体成分クロロプレン(A-1)と2,3-ジクロロ-1,3-ブタジエン(A-2-1)との合計100質量%に対して、2,3-ジクロロ-1,3-ブタジエン(A-2-1)の割合を5.0~30.0質量%として共重合したものであることを特徴とするイソプレン系重合体ラテックス組成物。
【請求項2】
金属酸化物(D)、架橋促進剤(E)及び酸化防止剤(F)
から選ばれる少なくとも1種を含む請求項1に記載のイソプレン系重合体ラテックス組成物。
【請求項3】
乳化剤(C)が、アニオン界面活性剤である請求項1に記載のイソプレン系重合体ラテックス組成物。
【請求項4】
乳化剤(C)が、ロジン酸をロジン酸に対して過剰量の水酸化ナトリウム及び/または水酸化カリウムによりけん化したロジン酸石鹸を含む請求項1に記載のイソプレン系重合体ラテックス組成物。
【請求項5】
イソプレン系重合体ラテックス組成物の固形分100質量部に対して、乳化剤(C)を1.0~30.0質量部、金属酸化物(D)を0.1~20.0質量部、架橋促進剤(E)を0.1~10.0質量部、酸化防止剤(F)を0.1~10.0質量部の割合で含む請求項
2に記載のイソプレン系重合体ラテックス組成物。
【請求項6】
クロロプレン重合体ラテックス(A)の固形分と、イソプレン重合体ラテックス(B)の固形分の質量比が50:50~1:99である、請求項1~5のいずれかに記載のイソプレン系重合体ラテックス組成物。
【請求項7】
前記クロロプレン重合体ラテックスの膜形成速度が0.15mm/min以上0.50mm/min以下である請求項1~6のいずれかに記載のイソプレン系重合体ラテックス組成物。
【請求項8】
クロロプレン重合体ラテックスの膜形成速度が、配合するイソプレン重合体ラテックスの膜形成速度に対して41%以上である請求項1~7のいずれかに記載のイソプレン系重合体ラテックス組成物。
【請求項9】
クロロプレン重合体ラテックスのpHが10.5以上14.0以下である請求項1~8のいずれかに記載のイソプレン系重合体ラテックス組成物。
【請求項10】
イソプレン重合体ラテックス中のイソプレン重合体粒子のZ平均粒子径が300nm以上1000nm以下である請求項1~9のいずれかに記載のイソプレン系重合体ラテックス組成物。
【請求項11】
請求項1~10のいずれかに記載のイソプレン系重合体ラテックス組成物を浸漬法により硬化させた浸漬製品。
【請求項12】
前記浸漬製品が使い捨てゴム手袋である請求項11に記載の浸漬製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クロロプレン重合体ラテックスとイソプレン重合体ラテックスを含むイソプレン系重合体ラテックス組成物に関する。本発明のイソプレン系重合体ラテックス重合体組成物は、浸漬法による成形品の製造工程において成形型を繰り返し浸漬しても前記組成物中の両重合体ラテックスの比率等が維持され、複数回浸漬した際に得られる成形物の物性、例えば医療手袋等の架橋後の物性の低下のない品質の製品を得ることができる。
【背景技術】
【0002】
クロロプレン重合体は塩素を含有する結晶性の高分子ゴムであり、各種ゴムの中でも耐薬品性や耐熱性、耐候性など様々な物性値においてバランスが良好であり、手袋製品をはじめとした幅広い用途に使用されている。
しかしながら、クロロプレン重合体の架橋では一般に120~130℃の高温条件が必要であり、天然ゴムやイソプレン重合体など架橋温度が100~110℃のゴムと比べて架橋時のエネルギー効率が悪い。また、クロロプレン重合体を100~110℃で架橋を行った場合には、未架橋部分が多く残り、破断強度の大幅な低下が起こる。そのため手袋をはじめとした製品を浸漬法で製造する上で生産性や架橋物性の向上が求められている。
【0003】
クロロプレン重合体に対して、天然ゴムや100~110℃の温度で架橋可能なイソプレンゴムなどの合成ゴムをブレンドして様々な力学物性を向上させる方法が知られている。
しかし、クロロプレン重合体と他のゴムとブレンドした組成物に対して浸漬操作を複数回行うと、ゴムの種類により膜形成速度が異なるために、ブレンド組成物中のゴム成分の割合が変化し、得られる成形物の力学物性が安定しないという問題がある。
【0004】
例えば、特表2017-508840号公報(特許文献1)には、40~60質量%のクロロプレンゴムに対して40~60質量%のイソプレンゴムを含み、ジフェニルグアニジンを含まない組成物を用いることにより、破断強度が18~25MPaの手袋製品が得られることが開示されている。特許文献1では一度の浸漬で得られた架橋成形物の力学物性のみを記載し、浸漬を複数回操作後に得られる架橋成形物が同等の力学物性を示すかどうかについては言及していない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特表2017-508840号公報(米国特許第10253170号)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記の問題点に鑑みて、浸漬工程において、クロロプレン重合体ラテックスとイソプレン重合体ラテックスを含む組成物(本明細書では、イソプレン系重合体ラテックス組成物という。)の品質を維持し、かつ上記組成物へ浸漬型を複数回浸漬して得られる成形物の架橋物性を低下させないイソプレン系重合体ラテックス組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記の課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、クロロプレン重合体ラテックスとイソプレン重合体ラテックスの膜形成速度の違いに着目し、クロロプレン重合体のZ平均粒子径を特定範囲に調整することにより、浸漬操作を複数回行った場合においても得られるゴム成形物の品質が損なわないことを見出し本発明に至った。
すなわち、本発明は、以下のイソプレン系重合体ラテックス組成物及び浸漬製品に関する。
[1]クロロプレン重合体ラテックス(A)、イソプレン重合体ラテックス(B)及び乳化剤(C)を含み、前記クロロプレン重合体ラテックス中のクロロプレン重合体粒子のZ平均粒子径が180nm以上300nm未満で、テトラヒドロフラン不溶分率が80~99質量%であり、前記クロロプレン重合体ラテックス(A)は、(1)クロロプレン(A-1)と2,3-ジクロロ-1,3-ブタジエン(A-2-1)との共重合体ラテックス、または(2)クロロプレン(A-1)と2,3-ジクロロ-1,3-ブタジエン(A-2-1)と他の単量体(A-2-2)との共重合体ラテックスであり、前記共重合体は単量体成分クロロプレン(A-1)と2,3-ジクロロ-1,3-ブタジエン(A-2-1)との合計100質量%に対して、2,3-ジクロロ-1,3-ブタジエン(A-2-1)の割合を5.0~30.0質量%として共重合したものであることを特徴とするイソプレン系重合体ラテックス組成物。
[2]金属酸化物(D)、架橋促進剤(E)及び酸化防止剤(F)の少なくとも1種を含む前項1に記載のイソプレン系重合体ラテックス組成物。
[3]乳化剤(C)が、アニオン界面活性剤である前項1に記載のイソプレン系重合体ラテックス組成物。
[4]乳化剤(C)が、ロジン酸をロジン酸に対して過剰量の水酸化ナトリウム及び/または水酸化カリウムによりけん化したロジン酸石鹸を含む前項1に記載のイソプレン系重合体ラテックス組成物。
[5]イソプレン系重合体ラテックス組成物の固形分100質量部に対して、乳化剤(C)を1.0~30.0質量部、金属酸化物(D)を0.1~20.0質量部、架橋促進剤(E)を0.1~10.0質量部、酸化防止剤(F)を0.1~10.0質量部の割合で含む前項2~4のいずれかに記載のイソプレン系重合体ラテックス組成物。
[6] クロロプレン重合体ラテックス(A)の固形分と、イソプレン重合体ラテックス(B)の固形分の質量比が50:50~1:99である、前項1~5のいずれかに記載のイソプレン系重合体ラテックス組成物。
[7]前記クロロプレン重合体ラテックスの膜形成速度が0.15mm/min以上0.50mm/min以下である前項1~6のいずれかに記載のイソプレン系重合体ラテックス組成物。
[8]クロロプレン重合体ラテックスの膜形成速度が、配合するイソプレン重合体ラテックスの膜形成速度に対して41%以上である前項1~7のいずれかに記載のイソプレン系重合体ラテックス組成物。
[9]クロロプレン重合体ラテックスのpHが10.5以上14.0以下である前項1~8のいずれかに記載のイソプレン系重合体ラテックス組成物。
[10]イソプレン重合体ラテックス中のイソプレン重合体粒子のZ平均粒子径が300nm以上1000nm以下である前項1~9のいずれかに記載のイソプレン系重合体ラテックス組成物。
[11]前項1~10のいずれかに記載のイソプレン系重合体ラテックス組成物を浸漬法により硬化させた浸漬製品。
[12]前記浸漬製品が使い捨てゴム手袋である前項11に記載の浸漬製品。
【発明の効果】
【0008】
本発明のイソプレン系重合体ラテックス組成物によれば、浸漬法で成形型を繰返し浸漬しても、組成物の品質が維持され、浸漬製品である成形物の架橋特性が維持され安定した性能の成形製品を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態を詳細に説明する。
本発明のイソプレン系重合体ラテックス組成物は、クロロプレン重合体ラテックス(A)、イソプレン重合体ラテックス(B)及び乳化剤(C)を含み、前記クロロプレン重合体ラテックス中のクロロプレン重合体のZ平均粒子径が180nm以上300nm未満であることを特徴とする。
本発明のイソプレン系重合体ラテックス組成物は、金属酸化物(D)、架橋促進剤(E)及び酸化防止剤(F)の少なくとも1種を含んでもよい。
以下、本発明のイソプレン系重合体ラテックス組成物の配合成分の実施形態、及びクロロプレン重合体のZ平均粒子径について詳細に説明する。
【0010】
本発明に係るイソプレン系重合体ラテックス組成物は重合体ラテックス成分として、特定構造のクロロプレン重合体ラテックスとイソプレン重合体ラテックスを含む。
クロロプレン重合体ラテックス(A):
本明細書において、特定構造のクロロプレン重合体ラテックス(A)とは、(1)クロロプレン(A-1)と2,3-ジクロロ-1,3-ブタジエン(A-2-1)との共重合体ラテックス、または(2)クロロプレン(A-1)と2,3-ジクロロ-1,3-ブタジエン(A-2-1)と他の単量体(A-2-2)との共重合体ラテックスを意味する。
【0011】
共重合体の単量体成分としての2,3-ジクロロ-1,3-ブタジエン(A-2-1)の割合は、2-クロロ-1,3-ブタジエン(クロロプレン)(A-1)及び2,3-ジクロロ-1,3-ブタジエン(A-2-1)の合計100質量部に対して5.0~30.0質量部であり、7.0~24.0質量部が好ましく、8.5~15.0質量部がより好ましい。(A-2-1)の割合が5.0質量部以上の場合に柔軟性の経時安定性の改良が良好となり、30.0質量部以下の場合に重合体の結晶化が抑制され、柔軟性が良好となる。
【0012】
共重合可能な他の単量体成分(A-2-2)としては、1-クロロ-1,3-ブタジエン、ブタジエン、イソプレン、スチレン、アクリロニトリル、アクリル酸及びそのエステル類、メタクリル酸及びそのエステル類等が挙げられる。その割合は、2-クロロ-1,3-ブタジエン(クロロプレン)(A-1)100質量部に対して、0.1~20.0質量部が好ましく、0.5~15.0質量部がより好ましく、1.0~10.0質量部が更に好ましい。必要に応じて2種類以上用いても構わない。(A-1)100質量部に対して(A-2-2)を20.0質量部以下にすることで、浸漬製品の引張強度や伸びの他に、柔軟性の経時安定性を良好に保つことができる。
【0013】
クロロプレン重合体ラテックス(A)の重合方法:
クロロプレン重合体ラテックス(A)の重合方法は乳化重合を採用することができ、工業的には特に水乳化重合が好ましい。
【0014】
クロロプレン重合体ラテックス(A)の重合に用いる乳化剤(C):
乳化剤(C)としては、アニオン界面活性剤が好ましい。アニオン界面活性剤としては、例えば、不均化ロジン酸のアルカリ金属塩、ドデシルベンゼンスルホン酸塩(ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム塩、ドデシルベンゼンスルホン酸トリエタノールアミン塩など)、ジフェニルエーテルスルホン酸塩(ジフェニルエーテルスルホン酸ナトリウム塩、ジフェニルエーテルスルホン酸アンモニウム塩など)、ナフタレンスルホン酸塩(β-ナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物のナトリウム塩など)、脂肪酸アルカリ金属塩(ラウリン酸カリウムなど)、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルスルホン酸塩(ポリオキシエチレンアルキルエーテルスルホン酸ナトリウムなど)が挙げられる。これらの中でも、凝固操作の簡便性から、通常のロジン酸石鹸が好ましく用いられる。特に着色安定性の観点から不均化ロジン酸のナトリウムやカリウム塩が好ましい。
【0015】
乳化剤(C)の使用量としては、イソプレン系重合体ラテックス中の固形分100質量部に対して、好ましくは1.0~30.0質量部であり、より好ましくは2.0~20.0質量部、更に好ましくは3.0~10.0質量部が好ましい。1.0質量部以上で安定した乳化を行うことができ、良好な重合発熱制御、凝集物の生成抑制や良好な製品外観などを得ることができる。また機械安定性が向上しクロロプレン重合体との混和時に凝集物の生成を抑えることができる。
30.0質量部以下で残留した乳化剤が少なく低粘着性の重合体が得られ、部品成形時に鋳型(フォーマー)の良好な剥離ができ、良好な加工性と操作性が得られる。また良好な製品の色調が得られる。
なお、乳化剤は2種類以上を組み合わせて使用してもよい。
【0016】
クロロプレン重合体ラテックス(A)の重合に用いる重合開始剤:
一般的なラジカル重合開始剤を使用可能であり、特に制限はない。乳化重合で使用される重合開始剤の具体例としては、過酸化ベンゾイル、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム等の有機あるいは無機の過酸化物、アゾビスイソブチロニトリル等のアゾ化合物が好ましい。アントラキノンスルホン酸塩や亜硫酸カリウム、亜硫酸ナトリウムなどの助触媒を適時併用することができる。ラジカル重合開始剤や助触媒は、2種類以上を組み合わせて使用しても良い。
【0017】
クロロプレン重合体ラテックス(A)の重合に用いる重合停止剤:
クロロプレン重合体ラテックス(A)の重合の停止に用いる停止剤としては一般的なものでよく、特に制限はない。具体例としては、フェノチアジン、パラ-t-ブチルカテコール、ハイドロキノン、ハイドロキノンモノメチルエーテル、ジエチルヒドロキシルアミン等が好ましい。重合停止剤は、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。
【0018】
クロロプレン重合体ラテックス(A)の重合転化率:
クロロプレン重合体ラテックス(A)の重合転化率は、65%以上が好ましく、70%以上がより好ましく、74%以上が更に好ましい。重合転化率が65%以上である場合は、固形分中のテトラヒドロフラン不溶分量が十分に存在し、クロロプレン重合体単独及びイソプレン重合体とのブレンド成形時に良好な架橋フィルムの物性を得られる。
【0019】
クロロプレン重合体粒子のZ平均粒子径:
本発明においては、イソプレン系重合体ラテックス組成物の主要重合体成分であるクロロプレン重合体のZ平均粒子径を特定範囲(180nm以上300nm未満)に調整することにより、繰り返し浸漬工程を実施するイソプレン系重合体ラテックス組成物の品質を維持し、かつ浸漬型を複数回浸漬して得られる成形物の架橋物性を低下させないイソプレン系重合体ラテックス組成物を得ることができる。
【0020】
本明細書においては、クロロプレン重合体ラテックス(A)中に含まれるクロロプレン重合体粒子のZ平均粒子径は、ラテックスを純水にて0.1質量%まで希釈した溶液を動的光散乱光度計(Malvern Panalytical Ltd製ZETASIZER(登録商標)Nano―S)にて測定する。ロジン酸石鹸を乳化剤としたアニオン系クロロプレン重合体ラテックスのZ平均粒子径は通常148~320nmであるが、本発明ではクロロプレン重合体のZ平均粒子径を単量体質量部に対するロジン酸量及び各種の乳化剤量によって、180nm以上300nm未満、好ましくは190nm以上280nm未満、さらに好ましくは200nm以上260nm未満に制御する。
【0021】
本発明の目的となるZ平均粒子径を得るためには、クロロプレン重合体ラテックス(A)を構成する単量体合計100質量部に対しロジン酸石鹸の原料となるロジン酸を1.8~3.4質量部添加することが望ましい。
Z平均粒子径が180nm以上で、クロロプレン重合体ラテックス(A)からの脱塩酸が抑制されクロロプレン重合体ラテックス(A)の安定性が得られ、凝集物が発生しにくくなる。また、300nm以下で乳化時のロジン酸石鹸の量が得られるため良好な乳化が得られ、良好な重合発熱制御、凝集物の生成抑制や良好な製品外観が得られる。
クロロプレン重合体ラテックス(A)中に含まれる重合体のZ平均粒子径を調整する方法として、重合開始時の乳化剤の量を調整する方法がある。一般的に同一の乳化剤を用いる場合においては、重合開始時の乳化剤濃度が少ないほどZ平均粒子径は大きくなる。例えば、ロジン酸石鹸中のロジン酸量を単量体100質量部に対し3.4質量部とし、重合転化率を90%以上にすることでZ平均粒子径は150nmとなるが、ロジン酸量を2.5質量部とし同様に重合転化率を90%にした場合ではZ平均粒子径は200nmとなる。粒子径の制御方法は例示したものに限られず、乳化剤の種類を変更する、単量体を追加添加するなど上記の例と異なる方法でZ平均粒子径を調整することも可能である。
【0022】
クロロプレン重合体ラテックス(A)のテトラヒドロフラン不溶分率:
クロロプレン重合体ラテックス(A)のテトラヒドロフラン不溶分率は80~99質量%が好ましく、88~95質量%がさらに好ましい。80質量%未満では、架橋速度の低下及び破断強度の低下によって成形時の鋳型からの剥離が困難となるため好ましくない。またイソプレン重合体とのブレンド成形物の破断強度が悪化する。99質量%より大きい場合には重合体が脆くなり、柔軟性を始め、破断強度、引張伸びが悪化する。
【0023】
テトラヒドロフラン不溶分率は、以下の方法で評価する。
クロロプレン重合体ラテックス1gをテトラヒドロフラン100mLに滴下して、24時間晩振とうした後、遠心分離機((株)コクサン社製冷却高速遠心機H-9R)を用いて14000rpm、60分間遠心分離を行い、上澄みの溶解相を得る。100℃、1時間かけて溶解相を蒸発・乾固させて、乾固物の質量を測定する。
テトラヒドロフラン不溶分量(%)
={1-[(テトラヒドロフラン溶解分量)/(クロロプレン共重合体ラテックス1g中の固形分量)]}×100
なお固形分は、実施例に記載の方法で測定する。
【0024】
クロロプレン重合体ラテックスのpHは、25℃において、好ましくは10.5以上14.0以下、より好ましくは11.5以上13.9以下、さらに好ましくは12.5以上13.8以下である。この範囲であれば乳化剤であるアニオン性界面活性剤が安定であり、凝集物の生成が抑制でき好ましい。
クロロプレン重合体ラテックスのブルックフィールド粘度は、好ましくは5.0mPa・s以上90.0mPa・s以下、より好ましくは6.0mPa・s以上60.0mPa・s以下、さらに好ましくは9.0mPa・s以上40.0mPa・s以である。クロロプレン重合体ラテックスのブルックフィールド粘度90.0mPa・s以下であれば、粘度が適正で取り扱いが容易であり好ましい。クロロプレン重合体ラテックスのブルックフィールド粘度5.0mPa・s以上ではラテックス内への配合添加剤(架橋剤、架橋促進剤、防腐剤など)の拡散速度が速く、熟成時間が短く好ましい。
クロロプレン重合体の重量平均分子量Mwは、好ましくは300000~3000000であり、より好ましくは500000~2500000であり、更に好ましくは700000~2000000である。重量平均分子量Mwが300000以上であれば、良好な架橋時の破断強度が得られ好ましい。重量平均分子量Mwが2000000以下であれば、架橋フィルムが硬化しにくく、良好な硬さが得られ好ましい。
【0025】
イソプレン重合体ラテックス(B):
本発明に使用するイソプレン重合体ラテックス(B)を構成するイソプレン重合体は特に限定されず、イソプレン単量体の単独重合体でも、イソプレン単量体を主要単量体成分としイソプレンと共重合可能な他の単量体との共重合体でもよい。
イソプレンと共重合可能な他の単量体としては、例えば1,3-ブタジエン、スチレン、クロロプレン、メタクリル酸、メタクリル酸メチル、アクリル酸、アクリル酸メチル、アクリロニトリル、アクリルアミド、塩化ビニル、酢酸ビニル、N―ビニルピロリドン、塩化ビニリデン、フッ化ビニリデンが挙げられる。
【0026】
イソプレン重合体の重量平均分子量Mwは、好ましくは500000~5000000であり、より好ましくは550000~4500000であり、更に好ましくは600000~4000000である。重量平均分子量Mwが500000以上であれば、良好な架橋時の破断強度が得られ好ましい。重量平均分子量Mwが5000000以下であれば、架橋フィルムが硬化しにくく、良好な硬さが得られ好ましい。
【0027】
イソプレン重合体ラテックスのテトラヒドロフラン不溶分率は、0質量%~30質量%であり、好ましくは0質量%~25質量%であり、より好ましくは0質量%~20質量%である。テトラヒドロフラン不溶分率がこの範囲であれば、架橋剤との反応部位の数が適正であり、良好な架橋速度が得られ、また架橋後の力学物性に優れ好ましい。
【0028】
イソプレン重合体ラテックスのpHは、25℃において、好ましくは9.0~13.0であり、より好ましくは9.5~12.5であり、更に好ましくは10.0~12.0である。この範囲であれば乳化剤であるアニオン性界面活性剤が安定であり、凝集物の生成が抑制でき好ましい。
【0029】
イソプレン重合体ラテックスのブルックフィールド粘度は、好ましくは20~100mPa・sであり、より好ましくは25~95mPa・sであり、更に好ましくは25~90mPa・sである。イソプレン重合体ラテックスのブルックフィールド粘度が100以下であれば、粘度が適正で取り扱いが容易であり好ましい。イソプレン重合体ラテックスのブルックフィールド粘度が20mPa・s以上であれば、ラテックス内への配合添加剤(架橋剤、架橋促進剤、防腐剤など)の拡散速度が速く、熟成時間が短く好ましい。
【0030】
本発明のイソプレン系重合体ラテックス組成物では、クロロプレン重合体ラテックスとイソプレン重合体ラテックスとをブレンドする前に、両重合体ラテックスに対して金属酸化物(D)、架橋促進剤(E)、及び酸化防止剤(F)から選ばれる少なくとも1種、好ましくは3種を添加することが好ましい。これらの添加により、充分な引張強度と柔軟性を持った浸漬製品を形成可能なイソプレン系重合体ラテックス組成物が得られる。ここで添加する成分のうち、水に不溶であったり、ラテックスのコロイド状態を不安定化させたりするものは、予め水分散体を作製してから各共重合体ラテックスに添加する。
【0031】
金属酸化物(D):
クロロプレン重合体は、一般に酸素による劣化を受けやすいため、受酸や酸化防止の目的で金属酸化物を配合することが好ましい。金属酸化物としては、特に制限は無く、具体的には酸化亜鉛、二酸化鉛、四酸化三鉛等が挙げられる。これらは2種以上を併用して用いることもできる。また、下記の架橋促進剤と併用することによりさらに効果的に架橋を行うこともできる。これらの金属酸化物の添加量は両重合体ラテックスの固形分100質量部に対してそれぞれ0.1~20.0質量部が好ましく、0.5~15.0質量部がより好ましく、1.0~10.0質量部が更に好ましい。金属酸化物の添加量は、0.1質量部以上で十分な架橋速度が得られる。20.0質量部以下で良好な架橋が得られ、スコーチが発生しにくい。また、重合体ラテックスの組成物のコロイド安定性が良くなり、沈降などの問題が発生しにくくなる。
【0032】
本発明のイソプレン系重合体ラテックス組成物では、架橋剤としては一般的な架橋剤が使用可能であり特に制限はない。架橋剤としては、硫黄、硫黄化合物、有機過酸化物等が使用可能である。これらは2種以上を併用して用いることもできる。
【0033】
架橋促進剤(E):
本発明では、架橋促進剤を使用することが好ましい。架橋促進剤としては、イソプレン系重合体ラテックスの架橋に一般に用いられるチウラム系、ジチオカーバメート系、チオウレア系、グアニジン系の架橋促進剤が使用できるが、チウラム系のものが好ましい。チウラム系の架橋促進剤としては、テトラエチルチウラムジスルフィド、テトラブチルチウラムジスルフィドなどが挙げられる。ジチオカーバメート系の架橋促進剤としては、ジブチルジチオカルバミン酸ナトリウム、ジブチルジチオカルバミン酸亜鉛、ジエチルジチオカルバミン酸亜鉛などが挙げられる。チオウレア系の架橋促進剤としては、エチレンチオウレア、ジエチルチオウレア、トリメチルチオウレア、N,N’-ジフェニルチオウレアなどが挙げられ、特にN,N’-ジフェニルチオウレアが好ましい。グアニジン系の架橋促進剤としては、ジフェニルグアニジン、ジオルトトルイルグアニジンなどが挙げられる。また架橋促進剤は上記に挙げたものの2種以上を併用してもよい。これらの架橋促進剤の添加量は両ラテックスの固形分100質量部に対してそれぞれ0.1~10.0質量部が好ましく、0.2~7.0質量部がより好ましく、0.3~5.0質量部が更に好ましい。架橋促進剤の添加量は、0.1質量部以上で十分な促進効果が得られ、10.0質量部以下で良好な架橋速度が得られ、スコーチしにくく架橋の管理がしやすく、架橋後の引張特性などの機械的物性が良好なものが得られる。
【0034】
架橋促進剤だけで架橋が不十分な場合に、架橋剤を併用するのが通常である。架橋剤としては、硫黄系架橋剤(粉末硫黄、表面処理硫黄、沈降硫黄、コロイド硫黄、不溶性硫黄)、過酸化物系架橋剤(ジ-t-ブチルペルオキシド、クメンヒドロペルオキシド、ビス(α,α-ジメチルベンジル)ペルオキシド、ベンゾイルペルオキシド、t-ブチルパーベンゾエート、2,2-ジt-ブチルペルオキシブタン、アゾビスイソブチロニトリル)が好ましく、硫黄が特に好ましい。架橋剤の添加量は両ラテックスの固形分100質量部に対してそれぞれ0.1~7.0質量部が好ましく、0.2~5.0質量部がより好ましく、0.3~3.0質量部が更に好ましい。0.1質量部以上で十分な促進効果が得られ、逆に7.0質量部以下で良好な架橋速度が得られ、スコーチしにくく架橋の管理がしやすく、架橋後の耐熱性が良好なものが得られ、ブリードも発生しにくい。
【0035】
酸化防止剤(F):
酸化防止剤については、極限の耐熱性を要求される場合、耐熱性付与目的の酸化防止剤(耐熱老防)と耐オゾン酸化防止剤(オゾン老防)を用いることが必要であり、両者を併用することが好ましい。耐熱老防としては、オクチル化ジフェニルアミン、p-(p-トルエン-スルホニルアミド)ジフェニルアミンや4,4’-ビス(α,α-ジメチルベンジル)ジフェニルアミンなどのジフェニルアミン系が耐熱性だけでなく、耐汚染性(変色などの移行)も少ないので好ましく使用される。オゾン老防としては、N,N’-ジフェニル-p-フェニレンジアミン(DPPD)やN-イソプロピル-N’-フェニル-p-フェニレンジアミン(IPPD)が好ましく使用される。しかし、通常、医療用手袋など外観、特に色調や衛生性を重視される場合には、ヒンダードフェノール系酸化防止剤が好ましく使用される。酸化防止剤の添加量は両ラテックスの固形分100質量部に対して、それぞれ0.1~10.0質量部が好ましく、0.2~7.0質量部がより好ましく、0.3~5.0質量部であることが更に好ましい。酸化防止剤の添加量が0.1質量部以上では、十分な酸化防止効果が得られ、10.0質量部以下では、良好な架橋が得られ、色調が変化しない等好ましい。
【0036】
イソプレン系重合体ラテックス組成物の調製:
浸漬法により成形品を製造する前にクロロプレン重合体ラテックスとイソプレン重合体ラテックスとを混合してイソプレン系重合体ラテックス組成物を調製する。
本発明においては、クロロプレン重合体ラテックスとイソプレン重合体ラテックスのほかに、本発明の目的を損なわない量で、他の重合体ラテックスを含んでもよい。他の重合体ラテックスとしては、アクリロニトリル-ブタジエンゴムラテックス、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレンラテックス、アクリル酸エステルラテックス、メタクリル酸エステルラテックススチレン-ブタジエンゴムラテックス及びクロロスルホン化ポリエチレンラテックスや天然ゴムラテックス等が挙げられる。
【0037】
本発明のイソプレン系重合体ラテックス組成物における、クロロプレン重合体ラテックス(A)及びイソプレン重合体ラテックス(B)の配合割合は、クロロプレン重合体ラテックスの固形分とイソプレン重合体ラテックスの固形分の質量比換算で、(A):(B)が50:50~1:99であり、より好ましくは30:70~1:99であり、更に好ましくは15:85~5:95である。前記の範囲内であれば、良好な破断強度を得ることができる。
【0038】
膜形成速度:
本発明では、重合体ラテックス(クロロプレン重合体ラテックス、イソプレン重合体ラテックスあるいはイソプレン系重合体ラテックス組成物)の膜形成速度とは、30質量%硝酸カルシウム水溶液を凝固液として付着させた型をラテックスに60秒浸漬させたあと、得られたゴム成形品を70℃で30分乾燥させた乾燥ゴム成形品の膜厚から下記の式に基づいて評価する。
膜形成速度(mm/min)=乾燥ゴム成形品の膜厚(mm)/浸漬時間(min)
【0039】
クロロプレン重合体ラテックスの膜形成速度は0.15mm/min以上0.50mm/min以下が好ましく、0.18mm/min以上0.44mm/min以下がより好ましく、更に好ましくは0.20mm/min以上0.30mm/min以下である。0.15mm/min以上であればイソプレン重合体ラテックスの膜形成速度との速度差が小さくブレンド組成物中の組成が変化せず、組成比が変化せずに膜形成することができる。0.50mm/min以下ではクロロプレン重合体ラテックスのZ平均粒子径が良好な範囲であり、良好な乳化を得られる。
また、クロロプレン重合体ラテックスの膜形成速度は、配合するイソプレン重合体ラテックスの膜形成速度に対して41%以上であることが好ましく、42%以上であることがより好ましく、43%以上であることが更に好ましい。
【実施例】
【0040】
下記に実施例及び比較例を挙げて本発明を説明するが、以下の例により本発明はなんら限定されるものではない。
【0041】
実施例1
クロロプレン重合体ラテックス及びその組成物の調製:
内容積5リットルの反応器を使用して、2-クロロ-1,3-ブタジエン(クロロプレン)1.83kg(東京化成工業株式会社製)、2,3-ジクロロ-1,3-ブタジエン(東京化成工業株式会社製)0.17kg及び純水1.12kg、ロジン酸(荒川化学工業株式会社製、R-300)34g、20質量%水酸化カリウム水溶液(富士フイルム和光純薬株式会社製特級品)106.6g、β-ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物のナトリウム塩(花王株式会社製)24g、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム(花王株式会社製、ネオペレックス(登録商標)G-15)6.0gを仕込み、乳化させ、ロジン酸をロジン石鹸にした後、過硫酸カリウム(富士フイルム和光純薬株式会社製一級品)を開始剤として用い、窒素ガス雰囲気下、初期温度40℃で5時間重合を行った。重合転化率が88%以上であることを確認したところで重合を停止した。次いで、未反応の単量体を水蒸気蒸留にて除去し、クロロプレン重合体ラテックス(A)を得た。pHは13.7であり、GPCで測定したポリスチレン換算のMwは139万であり、動的光散乱光度計で測定したクロロプレン重合体ラテックス(A)中のクロロプレン重合体のZ平均粒子径は190nmであり、テトラヒドロフラン不溶分率は94.1%、固形分率は52.9%、ブルックフィールド粘度は18mPa・sであった。
上記で得られたクロロプレン重合体ラテックス(A)に対して、表1に示す配合(前記ラテックスの乾燥固形100質量部に対する質量部)で、酸化亜鉛分散体、架橋促進剤及びフェノール系酸化防止分散体を加え混合してクロロプレン重合体ラテックス組成物を作製した。このクロロプレン重合体ラテックス組成物の膜形成速度は0.21mm/minであった。
【0042】
上記の重合転化率は以下の方法で求めた。
重合後のラテックスを採集し、141℃、30分乾燥後の固形分から、重合転化率を計算した。固形分及び重合転化率は下記式にて求めた。
重合後固形分率(質量%)
=[(141℃、30分間乾燥後の質量)/(乾燥前のラテックス質量)]×100
重合転化率[%]=[(ポリマー生成量/クロロプレン単量体仕込み量)]×100
ここで、ポリマー生成量は、重合後固形分からポリマー以外の固形分を差し引いて求めた。ポリマー以外の固形分は141℃条件において揮発しない成分を重合原料仕込み量から算出した。
【0043】
ラテックス中の重合体粒子のZ平均粒子径は、ラテックスを純水で0.01~0.1質量%まで希釈した溶液を動的光散乱光度計(Malvern Panalytical Ltd製ZETASIZER(登録商標)Nano―S)にて測定して求めた。
【0044】
イソプレン重合体ラテックス組成物の調製:
イソプレン重合体ラテックス(B)としてクレイトンポリマージャパン株式会社製Cariflex(登録商標)IR0401SUを用いた。このラテックス中のイソプレン重合体のZ平均粒子径は680nmであった。このイソプレン重合体ラテックス(B)に対して、表2に示す配合(前記ラテックスの乾燥固形100質量部に対する質量部)で、酸化亜鉛分散体、架橋促進剤、架橋剤(硫黄水分散体)及びフェノール系酸化防止分散体を加え混合してイソプレン重合体ラテックス組成物を作製した。pHは11.3であり、GPCで測定したポリスチレン換算のMwは318万であり、このイソプレン重合体ラテックス(B)の膜形成速度は0.44mm/minであった。
【0045】
イソプレン系重合体ラテックス組成物(クロロプレン重合体ラテックス(A)とイソプレン重合体ラテックス(B)の混合物)の作製:
上記の両重合体ラテックスを、乾燥固体の質量部換算で、クロロプレン重合体ラテックス:イソプレン重合体ラテックス=10:90の割合でスリーワンモータ(登録商標)付きの撹拌槽に仕込み、23℃、300rpmにて5分間撹拌し、混合均一化した。撹拌を終えた組成物を20℃で24時間静置し熟成した。このイソプレン系重合体ラテックス組成物は成形型を浸漬する前に、スリーワンモータ(登録商標)付きの撹拌槽に仕込み、23℃、300rpmにて5分間撹拌して使用した。
【0046】
比較例1:
比較用クロロプレン重合体ラテックス及びその組成物の調製:
内容積5リットルの反応器を使用して、2-クロロ-1,3-ブタジエン(クロロプレン)1.65kg、2,3-ジクロロ-1,3-ブタジエン0.15kg及び純水1.45kg、ロジン酸(荒川化学工業株式会社製、R-300)77g、20質量%水酸化カリウム水溶液102.6g、25質量%水酸化ナトリウム水溶液18.7g、β-ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物のナトリウム塩9.5g、n-ドデシルメルカプタン1.08gを仕込み、乳化させ、ロジン酸をロジン石鹸にした後、過硫酸カリウムを開始剤として用い、窒素ガス雰囲気下、初期温度40℃で重合を行った。重合転化率が88%以上であることを確認したところで重合を停止した。次いで未反応の単量体を水蒸気蒸留にて除去し、クロロプレン共重合体ラテックスを得た。クロロプレン重合体ラテックス中のクロロプレン重合体のZ平均粒子径は130nmであり、テトラヒドロフラン不溶分率は37.2%、固形分率は50.5%、ブルックフィールド粘度は16mPa・sであった。
上記の得られたクロロプレン重合体ラテックスに対して、表1に示す配合(前記ラテックスの乾燥固形100質量部に対する質量部)で、酸化亜鉛分散体、架橋促進剤及びフェノール系酸化防止分散体を加え混合してクロロプレン重合体ラテックス組成物を作製した。
実施例1と同じイソプレン重合体ラテックスを用い、実施例1と同様の方法でブレンド組成物及びブレンド成形物を作製した。このクロロプレン重合体ラテックス組成物の膜形成速度は0.18mm/minであった。
【0047】
浸漬フィルムの作製と架橋;
下記方法にて実施例1及び比較例1のイソプレン系重合体ラテックス組成物から浸漬フィルムを作製した。
浸漬フィルムの型として縦200mm、横100mm、厚さ5mmのセラミック製の板を利用した。30質量%硝酸カルシウム水溶液を凝固液として型全面を凝固液に浸漬し、型を引き揚げた後に40℃のオーブンで5分間乾燥させた。ここまでの作業を10枚の型に対して行った。
イソプレン系重合体ラテックス組成物400gに、10枚の型を順に浸漬、引き上げ、合計10枚のフィルムを形成した(これを1枚目に作製したサンプル~10枚目に作製したサンプルとする)。得られたフィルムを70℃のオーブンで30分乾燥させた。次いでオーブンにて、110℃で30分加熱し架橋した。20℃で放冷した後、型から切り出し架橋されたフィルムを得た。
【0048】
架橋後物性の評価:
架橋後のシートをJIS―K6251―2017に定める6号ダンベルで切断し、試験片を得た。試験片の厚みは0.15~0.25mmとした。
【0049】
引張試験:
架橋後及び熱老化(110℃、16時間)後の引張試験はJIS―K6251―2017に準じた方法で行い。本試験により、室温における100%伸張時のモデュラス(M100)、300%伸張時のモデュラス(M300)、500%伸張時のモデュラス(M500)、引張強さ(TB)、伸び(EB)を測定した。また、下記の式により引張強さ(TB)保持率を求めた。
TB保持率(%)=
(X枚目に作製したサンプルのTB)/(1枚目に作製したサンプルのTB)×100
【0050】
粘度:
試験体を300mLのポリプロピレン製ビーカーに入れ、内部の気泡が完全にない状態とする。JIS K7117-1:1999に示すB型粘度計を用い、連続した測定で測定値が5%以内となった結果の2回目の粘度を記録粘度とする。
機器:BROOKFIELD社 粘度計 DV-E LVDVE115、
スピンドル:No.1スピンドル、
回転数:60rpm、
温度:20℃。
【0051】
テトラヒドロフラン不溶分率:
イソプレン系重合体ラテックス1g(水分量;35~65質量%)をテトラヒドロフラン100mlに滴下して、ヤマト科学株式会社製シェーカー(SA300)にて10時間振とうした後、遠心分離機(株式会社コクサン製、H-9R)にて14,000rpm、60分間かけ、上澄みの溶解相を分離し、100℃で1時間かけてテトラヒドロフランを蒸発・乾固させて、溶解分量を計算して差引き、テトラヒドロフラン不溶分率(質量%)とした。
【0052】
分子量:
上記ゲル含有量測定時遠心分離後の上澄みの溶解相を分離し、テトラヒドロフランで希釈して、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー法)により、ポリスチレン換算の分子量測定を行い、重量平均分子量(Mw)を測定した。
GPCの測定条件は、GPC測定装置として株式会社島津製作所製LC-20AD、検出器として株式会社島津製作所製RID-10A(示差屈折率検出器)を使用し、カラムの種類を、アジレント・テクノロジー株式会社製PLgel 10μm MiniMIX―B、溶離液テトラヒドロフラン(関東化学、HPLC用)、カラム温度;40℃、流出速度;0.4ml/分とした。
【0053】
pH:
pHの測定は卓上型pHメータ F-71(株式会社堀場製作所製)を用いて、試料温度25℃で測定した。
【0054】
【0055】
【0056】
【0057】
【0058】
表4から、クロロプレン重合体のZ平均粒子径が小さい比較例1では、浸漬回数が増えるほど1回目に対するTb保持率が低下しており、クロロプレン系重合体組成物の組成が変化して、一定の特性を維持した浸漬製品が得られないことが分かる。