(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-04
(45)【発行日】2023-09-12
(54)【発明の名称】光学フィルタおよび撮像装置
(51)【国際特許分類】
G02B 5/22 20060101AFI20230905BHJP
G02B 5/28 20060101ALI20230905BHJP
G02B 5/26 20060101ALI20230905BHJP
C09B 57/00 20060101ALI20230905BHJP
【FI】
G02B5/22
G02B5/28
G02B5/26
C09B57/00 X
(21)【出願番号】P 2021512148
(86)(22)【出願日】2020-03-31
(86)【国際出願番号】 JP2020014814
(87)【国際公開番号】W WO2020204025
(87)【国際公開日】2020-10-08
【審査請求日】2022-08-04
(31)【優先権主張番号】P 2019071316
(32)【優先日】2019-04-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】塩野 和彦
(72)【発明者】
【氏名】中山 元志
(72)【発明者】
【氏名】山田 さゆり
(72)【発明者】
【氏名】島田 拓郎
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 真澄
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 文
(72)【発明者】
【氏名】横手 辰郎
【審査官】横川 美穂
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/158461(WO,A1)
【文献】国際公開第2013/038938(WO,A1)
【文献】特開2017-146506(JP,A)
【文献】国際公開第2019/049884(WO,A1)
【文献】特開2018-028605(JP,A)
【文献】国際公開第2015/022892(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/151344(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 5/20-5/28
C09B 57/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス転移温度が200℃以上であり、厚み100μmのときの波長350~1100nmの分光透過率曲線において波長350~450nmの平均内部透過率が95%以上かつ波長400~450nmの最小内部透過率が97%以上である樹脂(P)を含有する樹脂基材と、
前記樹脂基材の少なくとも一方の主面上に配置され、ポリイミド樹脂および脂環式エポキシ樹脂の少なくとも一方を含む外部樹脂層と、
前記外部樹脂層がポリイミド樹脂を含む場合に、前記樹脂基材と前記外部樹脂層の間に配置されるシクロオレフィン樹脂を含む中間樹脂層と、
前記樹脂基材の両方の主面側に最外層として配置される誘電体多層膜と、
を有する光学フィルタであって、
前記誘電体多層膜の少なくとも一方は近赤外線反射層であり、
前記外部樹脂層および前記中間樹脂層の少なくとも一方は近赤外線吸収色素(A)を含有し、
前記近赤外線吸収色素(A)は、前記近赤外線吸収色素(A)を含有する樹脂層が含有する樹脂中で測定される波長400~1200nmの分光透過率曲線において、最大吸収波長λ
max(A)TRが800~1200nmの波長領域にあり、
前記光学フィルタ中の樹脂を含む部材の合計厚みに対する、ガラス転移温度が200℃以上の樹脂を含有する部材の合計厚みの割合が85%以上であることを特徴とする光学フィルタ。
【請求項2】
前記外部樹脂層が前記樹脂基材の両方の主面上に配置される請求項1記載の光学フィルタ。
【請求項3】
前記樹脂(P)は、ポリイミド樹脂およびポリカーボネート樹脂から選ばれる少なくとも1種を含み、前記光学フィルタ中の樹脂を含む部材の合計厚みに対する、ガラス転移温度が200℃以上の樹脂を含有する部材の合計厚みの割合が90%以上である請求項1または2記載の光学フィルタ。
【請求項4】
前記近赤外線吸収色素(A)は、前記近赤外線吸収色素(A)を含有する樹脂層が含有する樹脂中で測定される波長400~1200nmの分光透過率曲線における最大吸収波長λ
max(A)TRでの光の内部透過率を10%としたときの波長435~480nmの光の平均内部透過率をT
AVE435-480(A)TR、および波長490~560nmの光の平均内部透過率をT
AVE490-560(A)TRとし、
前記近赤外線吸収色素(A)をジクロロメタンに溶解させて測定される波長400~1200nmの分光透過率曲線における最大吸収波長λ
max(A)DCMでの光の透過率を10%としたときの波長435~480nmの光の平均透過率をT
AVE435-480(A)DCM、および波長490~560nmの光の平均透過率をT
AVE490-560(A)DCMとしたときに、
|T
AVE435-480(A)DCM-T
AVE435-480(A)TR|が5%以下、かつ|T
AVE490-560(A)DCM-T
AVE490-560(A)TR|が5%以下である請求項1~3のいずれか1項記載の光学フィルタ。
【請求項5】
前記近赤外線吸収色素(A)は、前記近赤外線吸収色素(A)を含有する樹脂層が含有する樹脂中で測定される波長400~1200nmの分光透過率曲線における最大吸収波長λ
max(A)TRでの光の内部透過率を10%としたときの波長435~480nmの光の平均内部透過率T
AVE435-480(A)TRが88%以上、波長490~560nmの光の平均内部透過率T
AVE490-560(A)TRが88%以上、波長435nmの光の内部透過率T
435(A)TRが88.1%以上、波長550nmの光の内部透過率T
550(A)TRが79.4%以上かつ波長700nmの光の内部透過率T
700(A)TRが79.4%以上である請求項1~4のいずれか1項記載の光学フィルタ。
【請求項6】
前記近赤外線吸収色素(A)は、スクアリリウム色素およびジケトピロロピロール色素から選ばれる少なくとも1種を含む請求項1~5のいずれか1項記載の光学フィルタ。
【請求項7】
前記近赤外線吸収色素(A)は、下式(ASi)で示される化合物、下式(ASii)で示される化合物、下式(ASiii)で示される化合物および下式(AD)で示される化合物から選ばれる少なくとも1種を含む請求項1~6のいずれか1項記載の光学フィルタ。
【化1】
ただし、式(ASi)および(ASii)中の記号は以下のとおりである。
R
161は、それぞれ独立して、炭素数3~20の分岐アルキル基、炭素数13~20の直鎖アルキル基である。
Y
3は、それぞれ独立して、C-R
179またはNである。
R
162~R
167およびR
171~R
179は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、スルホ基、ヒドロキシ基、シアノ基、ニトロ基、カルボキシル基、リン酸基、-NR
112R
113基、-NHSO
2R
114基、-NHCOR
115基、-SR
116基、-SO
2R
117基、-OSO
2R
118基、炭素数1~20のアルキル基、炭素数1~20のアルコキシ基、炭素数1~12のハロゲン置換アルキル基、炭素数3~14のシクロアルキル基、炭素数6~14のアリール基、または員数が3~14の複素環基である。
R
112~R
118は、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1~20のアルキル基、炭素数1~20のアルコキシ基、炭素数1~12のハロゲン置換アルキル基、炭素数3~14のシクロアルキル基、炭素数6~14のアリール基、または員数が3~14の複素環基である。
【化2】
ただし、式(ASiii)中、R
11~R
14は、それぞれ独立して、置換基を有してもよく、炭素-炭素原子間に不飽和結合または酸素原子を含んでよいアルキル基、アルコキシ基、アリール基またはアルアリール基であり、R
15およびR
16は、それぞれ独立して、置換基を有してもよく、アリール基、炭素-炭素原子間に不飽和結合、酸素原子、脂環または芳香環を含んでよいアルキル基またはアルコキシ基であるか、または、R
15およびR
16が互いに連結して窒素原子とともに員数が5~10のシクロヘテロ環を形成し、前記シクロヘテロ環は置換基を有してもよい。
【化3】
ただし、式(AD)中、R
201~R
218は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、スルホ基、ヒドロキシ基、シアノ基、ニトロ基、カルボキシル基、リン酸基、-NR
219R
220基、-NHSO
2R
221基、-NHCOR
222基、-SR
223基、-SO
2R
224基、-OSO
2R
225基、炭素数1~20のアルキル基、炭素数1~20のアルコキシ基、炭素数1~12のハロゲン置換アルキル基、炭素数3~14のシクロアルキル基、炭素数6~14のアリール基、または員数が3~14の複素環基である。
R
219~R
225は、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1~20のアルキル基、炭素数1~20のアルコキシ基、炭素数1~12のハロゲン置換アルキル基、炭素数3~14のシクロアルキル基、炭素数6~14のアリール基、または員数が3~14の複素環基である。Phはフェニル基を示す。
【請求項8】
前記外部樹脂層および前記中間樹脂層の少なくとも一方は、近赤外線吸収色素(B)を含有し、
前記近赤外線吸収色素(B)は、前記近赤外線吸収色素(B)を含有する樹脂層が含有する樹脂中で測定される波長400~1200nmの分光透過率曲線において、最大吸収波長λ
max(B)TRが680~760nmの波長領域にある請求項1~7のいずれか1項記載の光学フィルタ。
【請求項9】
前記外部樹脂層はポリイミド樹脂と前記近赤外線吸収色素(B)を含み、前記中間樹脂層は前記近赤外線吸収色素(A)を含む請求項8記載の光学フィルタ。
【請求項10】
前記近赤外線吸収色素(B)を含む樹脂層は、
波長400~1200nmの分光透過率曲線において、最大吸収波長より短波長側で内部透過率が20%となる波長λ
SH20%が650~700nmの波長領域にあり、
波長435~480の光の平均内部透過率が90%以上であり、
波長490~560nmの光の平均内部透過率が90%以上であり、かつ、
波長λ
SH20%と、最大吸収波長より短波長側で内部透過率が70%となる波長λ
SH70%との波長差λ
SH20%-λ
SH70%が55nm以下であり、
下式(I)で示される化合物および下式(II)で示される化合物から選ばれる少なくとも1種を含む請求項8または9記載の光学フィルタ。
【化4】
ただし、式(I)中の記号は以下のとおりである。
R
24およびR
26は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、水酸基、炭素数1~20のアルキル基、炭素数1~20のアルコキシ基、炭素数1~10のアシルオキシ基、炭素数6~11のアリール基、置換基を有していてもよく炭素原子間に酸素原子を有していてもよい炭素数7~18のアルアリール基、-NR
27R
28(R
27およびR
28は、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1~20のアルキル基、-C(=O)-R
29(R
29は、水素原子、ハロゲン原子、水酸基、置換基を有していてもよく、炭素原子間に不飽和結合、酸素原子、飽和もしくは不飽和の環構造を含んでよい炭素数1~25の炭化水素基)、-NHR
30、または、-SO
2-R
30(R
30は、それぞれ1つ以上の水素原子がハロゲン原子、水酸基、カルボキシ基、スルホ基、またはシアノ基で置換されていてもよく、炭素原子間に不飽和結合、酸素原子、飽和もしくは不飽和の環構造を含んでよい炭素数1~25の炭化水素基)を示す。)、または、下記式(S)で示される基(R
41、R
42は、独立して、水素原子、ハロゲン原子、または炭素数1~10のアルキル基もしくは炭素数1~10のアルコキシ基を示す。kは2または3である。)を示す。
【化5】
R
21とR
22、R
22とR
25、およびR
21とR
23は、互いに連結して窒素原子と共に員数が5または6のそれぞれ複素環A、複素環B、および複素環Cを形成してもよい。
複素環Aが形成される場合のR
21とR
22は、これらが結合した2価の基-Q-として、水素原子が炭素数1~6のアルキル基、炭素数6~10のアリール基または置換基を有していてもよい炭素数1~10のアシルオキシ基で置換されてもよいアルキレン基、またはアルキレンオキシ基を示す。
複素環Bが形成される場合のR
22とR
25、および複素環Cが形成される場合のR
21とR
23は、これらが結合したそれぞれ2価の基-X
1-Y
1-および-X
2-Y
2-(窒素に結合する側がX
1およびX
2)として、X
1およびX
2がそれぞれ下記式(1x)または(2x)で示される基であり、Y
1およびY
2がそれぞれ下記式(1y)~(5y)から選ばれるいずれかで示される基である。X
1およびX
2が、それぞれ下記式(2x)で示される基の場合、Y
1およびY
2はそれぞれ単結合であってもよく、その場合、炭素原子間に酸素原子を有してもよい。
【化6】
式(1x)中、4個のZは、それぞれ独立して水素原子、水酸基、炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基、または-NR
38R
39(R
38およびR
39は、それぞれ独立して、水素原子または炭素数1~20のアルキル基を示す)を示す。R
31~R
36はそれぞれ独立して水素原子、炭素数1~6のアルキル基または炭素数6~10のアリール基を示す。R
37は炭素数1~6のアルキル基または炭素数6~10のアリール基を示す。
R
27、R
28、R
29、R
31~R
37、複素環を形成していない場合のR
21~R
23、およびR
25は、これらのうちの他のいずれかと互いに結合して5員環または6員環を形成してもよい。R
31とR
36、R
31とR
37は直接結合してもよい。
複素環を形成していない場合の、R
21、R
22、R
23およびR
25は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、水酸基、炭素数1~20のアルキル基、炭素数1~20のアルコキシ基、炭素数1~10のアシルオキシ基、炭素数6~11のアリール基、または、置換基を有していてもよく炭素原子間に酸素原子を有していてもよい炭素数7~18のアルアリール基を示す。
【化7】
ただし、式(II)中の記号は以下のとおりである。
環Zは、それぞれ独立して、ヘテロ原子を環中に0~3個有する5員環または6員環であり、環Zが有する水素原子は置換されていてもよい。
R
1とR
2、R
2とR
3、およびR
1と環Zを構成する炭素原子またはヘテロ原子は、互いに連結して窒素原子とともにそれぞれヘテロ環A1、ヘテロ環B1およびヘテロ環C1を形成していてもよく、その場合、ヘテロ環A1、ヘテロ環B1およびヘテロ環C1が有する水素原子は置換されていてもよい。ヘテロ環を形成していない場合のR
1およびR
2は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、または、炭素原子間に不飽和結合、ヘテロ原子、飽和もしくは不飽和の環構造を含んでよく、置換基を有してもよい炭化水素基を示す。R
4およびヘテロ環を形成していない場合のR
3は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、または炭素原子間にヘテロ原子を含んでもよく、置換基を有してもよいアルキル基もしくはアルコキシ基を示す。
【請求項11】
前記光学フィルタ中の樹脂を含む部材全体としての光学特性が(i-1)~(i-5)の全てを満足する、請求項1~10のいずれか1項記載の光学フィルタ。
(i-1)630~750nmの波長領域に光の内部透過率が20%を示す波長がある。(i-2)800~1200nmの波長領域に光の内部透過率が50%以下になる波長がある。
(i-3)波長450nmの吸光度/800~1200nmの波長領域における最大吸光度≦0.075。
(i-4)波長500nmの吸光度/800~1200nmの波長領域における最大吸光度≦0.065。
(i-5)波長700nmの吸光度/800~1200nmの波長領域における最大吸光度≧1.00。
【請求項12】
下記(I-1)~(I-5)の全ての要件を満足する請求項1~11のいずれか1項に記載の光学フィルタ。
(I-1)入射角0度における435~480nmの波長領域の光の平均透過率が82%以上である。
(I-2)入射角0度における490~560nmの波長領域の光の平均透過率が82%以上である。
(I-3)入射角0度における光の透過率において、波長領域600~700nmに透過率が20%となる波長が存在する。
(I-4)入射角0度において600~700nmの波長領域で光の透過率が20%を示す波長λ
0°-20%と入射角30度において600~700nmの波長領域で光の透過率が20%を示す波長λ
30°-20%の差が5nm以下である。
(I-5)入射角0度および入射角30度のいずれにおいても、前記近赤外線吸収色素(A)の最大吸収波長λ
max(A)TR±10nmの波長領域における最小ODが4.0以上である。
【請求項13】
請求項1~12のいずれか1項に記載の光学フィルタを備える撮像装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可視波長領域の光を透過し、近赤外波長領域の光を遮断する光学フィルタおよび該光学フィルタを備えた撮像装置に関する。
【背景技術】
【0002】
固体撮像素子を用いた撮像装置には、色調を良好に再現し鮮明な画像を得るため、可視域の光(以下「可視光」ともいう)を透過し近赤外域の光(以下「近赤外光」ともいう)を遮断する光学フィルタが用いられる。該光学フィルタとしては、ガラス基材上に、近赤外光吸収色素と樹脂を含む吸収層と、近赤外光を遮断する誘電体多層膜からなる反射層とを設けた近赤外光カットフィルタが知られている。
【0003】
近年、撮像装置の小型化や軽量化に伴い、ガラス基材を用いない近赤外光カットフィルタが求められるようになった。例えば、特許文献1には、近赤外光吸収剤を含む透明樹脂フィルムと誘電体多層膜で構成される近赤外光カットフィルタが記載されている。
【0004】
また、特許文献2には、樹脂シートと赤外線を反射する無機多層膜である光学多層膜を有し、樹脂シートは600~800nmの波長域に吸収極大を有する色素を含有する樹脂層と支持体フィルムとからなる光選択透過フィルタが記載されている。特許文献2においては、樹脂層と支持体フィルムには、フッ素化芳香族ポリマー、ポリ(アミド)イミド樹脂、ポリアミド樹脂、アラミド樹脂およびポリシクロオレフィン樹脂等が用いられている。
【0005】
一方、誘電体多層膜を有する光学フィルタは、近赤外光の長波長域において高入射角で入射する光の透過率が高くなる領域が現れる光漏れ等の問題が知られている。そこで、例えば、特許文献3には、波長650~760nmに吸収極大を有する色素と波長1050~1200nmに吸収極大を有する色素を含む透明樹脂層と誘電体多層膜を有する光学フィルタが記載されている。特許文献3には、透明樹脂層が、透明樹脂基板と該透明樹脂基板の主面に形成される上記色素を含む樹脂層とからなる構成が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】国際公開第2014/192714号
【文献】日本国特開2013-228759号公報
【文献】国際公開第2018/043564号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1や特許文献2の赤外線吸収フィルタでは、透明樹脂フィルム自体の吸収に起因して、可視透過率に優れる光学フィルタを提供しにくい。特許文献1や特許文献2の赤外線吸収フィルタには、長波長域の近赤外光を吸収する色素が用いられていないが、長波長域の光漏れの問題を解決するために、長波長域の近赤外光を吸収する色素を用いた場合においても、同様に透明樹脂フィルム自体の吸収に起因して可視透過率に優れる光学フィルタを提供しにくいと想定された。また、同様に特許文献3の光学フィルタにおいても、透明樹脂フィルム自体の吸収に起因して必ずしも可視透過率に優れる光学フィルタを提供できていない。
【0008】
さらに、これらの光学フィルタにおいては、誘電体多層膜と樹脂層が接する構成であるが、両者の密着性が十分でなかったり、樹脂層の耐熱性が十分でなく熱による変形等が問題になったりすることがあった。
【0009】
本発明は、樹脂材料に近赤外線吸収色素を含有させた樹脂層と、樹脂基材と、さらに誘電体多層膜とを組み合わせた近赤外光カットフィルタにおいて、可視光の高い透過性および、近赤外光、特に長波長域における近赤外光の高い遮蔽性を有するとともに、樹脂層と誘電体多層膜の密着性に優れ、かつ熱変形が抑制されて耐熱性に優れる光学フィルタ、および該光学フィルタを用いた色再現性および耐熱性に優れる撮像装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一態様に係る光学フィルタは、
ガラス転移温度が200℃以上であり、厚み100μmのときの波長350~1100nmの分光透過率曲線において波長350~450nmの平均内部透過率が95%以上かつ波長400~450nmの最小内部透過率が97%以上である樹脂(P)を含有する樹脂基材と、
前記樹脂基材の少なくとも一方の主面上に配置され、ポリイミド樹脂および脂環式エポキシ樹脂の少なくとも一方を含む外部樹脂層と、
前記外部樹脂層がポリイミド樹脂を含む場合に、前記樹脂基材と前記外部樹脂層の間に配置されるシクロオレフィン樹脂を含む中間樹脂層と、
前記樹脂基材の両方の主面側に最外層として配置される誘電体多層膜と
を有する光学フィルタであって、
前記誘電体多層膜の少なくとも一方は近赤外線反射層であり、
前記外部樹脂層および前記中間樹脂層の少なくとも一方は近赤外線吸収色素(A)を含有し、
前記近赤外線吸収色素(A)は、前記近赤外線吸収色素(A)を含有する樹脂層が含有する樹脂中で測定される波長400~1200nmの分光透過率曲線において、最大吸収波長λmax(A)TRが800~1200nmの波長領域にあり、
前記光学フィルタ中の樹脂を含む部材の合計厚みに対する、ガラス転移温度が200℃以上の樹脂を含有する部材の合計厚みの割合が85%以上であることを特徴とする。
【0011】
本発明はまた、本発明の光学フィルタを備えた撮像装置を提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、樹脂材料に近赤外線吸収色素を含有させた樹脂層と、樹脂基材と、さらに誘電体多層膜とを組み合わせた近赤外光カットフィルタにおいて、可視光の高い透過性および、近赤外光、特に長波長域における近赤外光の高い遮蔽性を有するとともに、樹脂層と誘電体多層膜の密着性に優れ、かつ熱変形が抑制されて耐熱性に優れる光学フィルタおよび該光学フィルタを用いた色再現性および耐熱性に優れる撮像装置が提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は一実施形態の光学フィルタの一例を概略的に示す断面図である。
【
図2】
図2は一実施形態の光学フィルタの別の一例を概略的に示す断面図である。
【
図3】
図3は実施例の光学フィルタの分光透過率曲線を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
本明細書において、近赤外線吸収色素を「NIR色素」、紫外線吸収色素を「UV色素」と略記することもある。
【0015】
本明細書において、式(I)で示される化合物を化合物(I)という。他の式で表される化合物も同様である。化合物(I)からなる色素を色素(I)ともいい、他の色素についても同様である。例えば、後述の式(Asi)で示される化合物を化合物(Asi)といい、該化合物からなる色素を色素(Asi)ともいう。また、例えば、式(1x)で表される基を基(1x)とも記し、他の式で表される基も同様である。
【0016】
本明細書において、内部透過率とは、実測透過率/(100-反射率)の式で示される、実測透過率から界面反射の影響を引いて得られる透過率である。本明細書において、樹脂基材の透過率、外部樹脂層や中間樹脂層等の色素が樹脂に含有される場合を含む樹脂層の透過率の分光は、「透過率」と記載されている場合も全て「内部透過率」である。一方、色素をジクロロメタン等の溶媒に溶解して測定される透過率、誘電体多層膜を有する光学フィルタの透過率は、実測透過率である。
【0017】
本明細書において、特定の波長域について、透過率が例えば90%以上とは、その全波長領域において透過率が90%を下回らない、すなわちその波長領域において最小透過率が90%以上であることをいう。同様に、特定の波長域について、透過率が例えば1%以下とは、その全波長領域において透過率が1%を超えない、すなわちその波長領域において最大透過率が1%以下であることをいう。内部透過率においても同様である。特定の波長域における平均透過率および平均内部透過率は、該波長域の1nm毎の透過率および内部透過率の相加平均である。
本明細書において、数値範囲を表す「~」では、上下限を含む。
【0018】
<光学フィルタ>
本発明の一実施形態の光学フィルタ(以下、「本フィルタ」ともいう)は、下記構成の樹脂基材と、該樹脂基材の少なくとも一方の主面上に配置されるポリイミド樹脂または脂環式エポキシ樹脂を含む外部樹脂層と、外部樹脂層がポリイミド樹脂を含む場合に、該樹脂基材と該外部樹脂層の間に配置されるシクロオレフィン樹脂を含む中間樹脂層と、該樹脂基材の両方の主面側に最外層として配置される誘電体多層膜とを有し、該誘電体多層膜の少なくとも一方は近赤外線反射層であり、所定の樹脂層に特定の光学特性を有するNIR色素(A)を含有する。
【0019】
本フィルタにおける樹脂基材は、ガラス転移温度が200℃以上である樹脂(P)を主成分とする。樹脂(P)は、厚み100μmのときの波長350~1100nmの分光透過率曲線において、波長350~450nmの平均内部透過率が95%以上かつ波長400~450nmの最小内部透過率が97%以上である。
【0020】
本フィルタにおいて、前記外部樹脂層および前記中間樹脂層の少なくとも一方はNIR色素(A)を含有する。NIR色素(A)は、該NIR色素(A)を含有する樹脂層が含有する樹脂中で測定される波長400~1200nmの分光透過率曲線において、最大吸収波長λmax(A)TRが800~1200nmの波長領域にある。
【0021】
本フィルタは、外部樹脂層が脂環式エポキシ樹脂を含む場合、樹脂基材と外部樹脂層の間にシクロオレフィン樹脂を含む中間樹脂層を有しても有しなくてもよい。本フィルタが、脂環式エポキシ樹脂を含む外部樹脂層を有する場合、NIR色素(A)は、外部樹脂層に含有されてもよく、中間樹脂層に含有されてもよい。NIR色素(A)は、必要に応じて、外部樹脂層と中間樹脂層の両方に含有されてもよい。
【0022】
本フィルタは、外部樹脂層がポリイミド樹脂を含む場合、樹脂基材と外部樹脂層の間にシクロオレフィン樹脂を含む中間樹脂層が配置される。この場合、NIR色素(A)は、中間樹脂層に含有される。
【0023】
上記各構成要素を含む本フィルタにおいて、樹脂を含む部材の合計厚みに対する、ガラス転移温度が200℃以上の樹脂を含有する部材の合計厚みの割合は、85%以上である。ここで、樹脂を含む部材には、樹脂基材、外部樹脂層および中間樹脂層が含まれる。ガラス転移温度が200℃以上の樹脂を含有する部材には、樹脂基材が含まれる。外部樹脂層および中間樹脂層は、ガラス転移温度が200℃以上の樹脂を含有する場合と、含有しない場合がある。
【0024】
例えば、本フィルタが樹脂を含む部材として、樹脂基材、外部樹脂層および中間樹脂層のみを含む場合であって、樹脂基材のみがガラス転移温度が200℃以上の樹脂を含有する場合、樹脂基材、外部樹脂層および中間樹脂層の合計厚みに対する、樹脂基材の厚みの割合が85%以上となる。
【0025】
本フィルタは、樹脂基材が樹脂(P)を主成分とすること、NIR色素(A)を特定の樹脂層に含有させることで、可視光の高い透過性および、近赤外光、特に長波長域における近赤外光の高い遮蔽性を達成できる。本フィルタにおいて、誘電体多層膜の、少なくとも一方は近赤外線反射層である。該構成において、特定の樹脂層がNIR色素(A)を含有することで、本フィルタは誘電体多層膜の長波長域の光漏れを改善し、近赤外光の高い遮蔽性を達成できる。
【0026】
本フィルタにおいては、外部樹脂層を上記構成とすることで外部樹脂層と誘電体多層膜は密着性に優れる。さらに、ガラス転移温度が200℃以上の樹脂を含有する樹脂部材の厚みを上記範囲にしたことで、熱変形が抑制されて耐熱性に優れる光学フィルタが提供できる。また、本フィルタにおいては、熱変形が抑制されることで、誘電体多層膜が樹脂部材に接して形成される場合であっても、その剥離を抑制できる。
【0027】
本フィルタはさらに、以下の光学特性を有するNIR色素(B)を含有するのが好ましい。NIR色素(B)は、例えば、外部樹脂層または中間樹脂層に含有される。なお、必要に応じて、NIR色素(B)を樹脂基材に含有させてもよい。NIR色素(B)は、該NIR色素(B)を含有する樹脂層が含有する樹脂中で測定される波長400~1200nmの分光透過率曲線において、最大吸収波長λmax(B)TRが680~760nmの波長領域にある。
【0028】
本フィルタは、NIR色素(B)を含有することで、誘電体多層膜が有する入射角依存性による影響を小さくできる。NIR色素(A)とNIR色素(B)は、上記条件を満たせば、同一の樹脂層に含有させてもよい。本フィルタの設計の自由度の観点からNIR色素(A)とNIR色素(B)は異なる樹脂層に含有させるのが好ましい。
【0029】
図面を用いて本フィルタの構成例について説明する。
図1および
図2は、一実施形態の光学フィルタの一例および別の一例を概略的に示す断面図である。本フィルタは、外部樹脂層を樹脂基材の一方の主面上に有してもよく、両主面上に有してもよい。外部樹脂層がポリイミド樹脂を含む場合、樹脂基材と外部樹脂層の間に中間樹脂層が設けられる。外部樹脂層が脂環式エポキシ樹脂を含む場合、該中間樹脂層の配設は任意である。
【0030】
図1に示す光学フィルタ10Aは、樹脂基材1の一方の主面Sa上に中間樹脂層4および外部樹脂層2をその順に有する例であり、
図2に示す光学フィルタ10Bは、樹脂基材1の一方の主面Sa上に第1の中間樹脂層4aおよび第1の外部樹脂層2aをその順に有し、さらに他方の主面Sb上に第2の中間樹脂層4bおよび第2の外部樹脂層2bをその順に有する例である。なお、「樹脂基材1の一方の主面Sa(上または上方)に特定の層を有する」とは、樹脂基材1の主面Saに接触して該層が備わる場合に限らず、樹脂基材1と該層との間に、別の機能層が備わる場合も含む。
【0031】
図1に示す光学フィルタ10Aは、互いに対向する第1の主面Saと第2の主面Sbを有する樹脂基材1と、樹脂基材1の第1の主面Sa上にその順に配置されるに中間樹脂層4および外部樹脂層2と、樹脂基材1の第1の主面Sa上の外部樹脂層2の上に最外層として配置される第1の誘電体多層膜3aおよび樹脂基材1の第2の主面Sb上に最外層として配置される第2の誘電体多層膜3bと、を有する。
【0032】
光学フィルタ10Aにおいて、樹脂基材1は樹脂(P)を主成分とする。中間樹脂層4および外部樹脂層2は、それぞれ上記特定の樹脂を含み、樹脂の種類に応じて上記の規定に即して、少なくとも一方の樹脂層にNIR色素(A)を含有する。なお、外部樹脂層2が脂環式エポキシ樹脂を含む樹脂層である場合、光学フィルタ10Aは中間樹脂層4を有しなくてもよい。
【0033】
光学フィルタ10Aは、好ましい態様において、中間樹脂層4および外部樹脂層2の少なくとも一方にNIR色素(B)を含有する。その場合、中間樹脂層4がNIR色素(A)を含有し、外部樹脂層2がNIR色素(B)を含有するのが好ましい。中間樹脂層4および外部樹脂層2はその少なくとも一方が、近赤外線以外の波長領域の光を吸収する色素、例えばUV色素を含有してもよい。
【0034】
光学フィルタ10Aにおいて、第1の誘電体多層膜3aおよび第2の誘電体多層膜3bは、いずれか一方が近赤外線反射層である。他方は近赤外線反射層であってもなくてもよい。近赤外線反射層以外の誘電体多層膜としては、反射防止層、近赤外光および可視光以外の波長領域を反射する反射層等が挙げられる。近赤外線反射層は、近赤外光および可視光以外の波長領域を反射してもよい。
【0035】
第1の誘電体多層膜3aおよび第2の誘電体多層膜3bは同一でも異なってもよい。例えば、第1の誘電体多層膜3aおよび第2の誘電体多層膜3bは、いずれも、近紫外光および近赤外光を反射し、可視光を透過する特性を有する近赤外線反射層であって、第1の誘電体多層膜3aが、近紫外光と第1の近赤外域の光を反射し、第2の誘電体多層膜3bが、近紫外光と第2の近赤外域の光を反射する構成でもよい。
【0036】
図2に示す光学フィルタ10Bは、互いに対向する第1の主面Saと第2の主面Sbを有する樹脂基材1と、樹脂基材1の第1の主面Sa上にその順に配置される第1の中間樹脂層4aと第1の外部樹脂層2aおよび樹脂基材1の第2の主面Sb上にその順に配置される第2の中間樹脂層4bおよび第2の外部樹脂層2bと、樹脂基材1の第1の主面Sa上の第1の外部樹脂層2a上に最外層として配置される第1の誘電体多層膜3aおよび樹脂基材1の第2の主面Sb上の第2の外部樹脂層2b上に最外層として配置される第2の誘電体多層膜3bと、を有する。
【0037】
光学フィルタ10Bにおいて、樹脂基材1は樹脂(P)を主成分とする。第1の誘電体多層膜3aおよび第2の誘電体多層膜3bは、光学フィルタ10Aと同様の構成とできる。光学フィルタ10Bにおいて、第1の外部樹脂層2aが脂環式エポキシ樹脂を含む樹脂層である場合、第1の中間樹脂層4aの配設は任意である。同様に、第2の外部樹脂層2bが脂環式エポキシ樹脂を含む樹脂層である場合、第2の中間樹脂層4bの配設は任意である。
【0038】
光学フィルタ10Bは、第1の中間樹脂層4a、第2の中間樹脂層4b、ならびに、脂環式エポキシ樹脂を含む場合の第1の外部樹脂層2aおよび第2の外部樹脂層2bの少なくとも1つの樹脂層にNIR色素(A)を含有する。光学フィルタ10Bが、NIR色素(B)を含有する場合、NIR色素(B)は、第1の中間樹脂層4a、第2の中間樹脂層4b、第1の外部樹脂層2aおよび第2の外部樹脂層2bから選ばれる少なくとも1つの樹脂層に含有される。第1の中間樹脂層4aおよび第2の中間樹脂層4bは同一でも異なってもよい。同様に、第1の外部樹脂層2aおよび第2の外部樹脂層2bは同一でも異なってもよい。
【0039】
光学フィルタ10Bが、NIR色素(A)およびNIR色素(B)の両方を含む場合、第1の中間樹脂層4aまたは第2の中間樹脂層4bがNIR色素(A)を含有し、第1の外部樹脂層2aまたは第2の外部樹脂層2bがNIR色素(B)を含有するのが好ましい。これらの4つの樹脂層はその少なくとも1つが、近赤外線以外の波長領域の光を吸収する色素、例えばUV色素を含有してもよい。
【0040】
本フィルタにおいて、樹脂を含む部材の合計厚みに対する、ガラス転移温度が200℃以上の樹脂を含有する部材の合計厚みの割合は、85%以上である。光学フィルタ10Aにおいて、樹脂を含む部材は、樹脂基材1、中間樹脂層4および外部樹脂層2であり、それぞれの厚みをT1、T4およびT2で示す。樹脂を含む部材の合計厚みTt=T1+T4+T2である。光学フィルタ10Aにおいて、樹脂基材1のみがガラス転移温度が200℃以上の樹脂を含有する部材である場合、T1/Tt×100[%]≧85%である。
【0041】
光学フィルタ10Bにおいて、樹脂を含む部材は、樹脂基材1、第1の中間樹脂層4a、第1の外部樹脂層2a、第2の中間樹脂層4bおよび第2の外部樹脂層2b、であり、それぞれの厚みをT1、T4a、T2a、T4b、T2bで示す。樹脂を含む部材の合計厚みTt=T1+T4a+T2a+T4b+T2bである。光学フィルタ10Bにおいて、樹脂基材1のみがガラス転移温度が200℃以上の樹脂を含有する部材である場合、T1/Tt×100[%]≧85%である。
【0042】
本フィルタにおいて、樹脂を含む部材の合計厚みに対する、ガラス転移温度が200℃以上の樹脂を含有する部材の合計厚みの割合は、90%以上が好ましく、92%以上がより好ましく、93%以上がさらに好ましく、96%以上が特に好ましい。
【0043】
以下、本フィルタを構成する、樹脂基材、中間樹脂層、外部樹脂層および誘電体多層膜について説明する。
【0044】
[樹脂基材]
樹脂基材は、ガラス転移温度(以下、「Tg」ともいう。)が200℃以上であり、下記所定の光学特性を有する樹脂(P)を主成分とする。
【0045】
Tgは、DSC測定(Differential Scanning Calorimetry)により求められる。樹脂基材が樹脂(P)を主成分とするとは、樹脂基材における、樹脂(P)の割合が90質量%以上であることをいう。樹脂基材は、Tgおよび可視光の高透過性の観点から樹脂(P)の割合が95質量%以上であることが好ましく、樹脂(P)からなることが特に好ましい。
【0046】
樹脂(P)のTgは200℃以上であれば、樹脂基材は、熱や応力による変形が生じにくく、本フィルタにおいて誘電体多層膜の密着性に優れる。Tgは、210℃以上が好ましく、220℃以上がより好ましい。Tgの上限は特にないが、成形加工性等の観点から、樹脂(P)のTgは400℃以下が好ましい。
【0047】
樹脂(P)が有する所定の光学特性とは、厚み100μmのときの波長350~1100nmの分光透過率曲線において以下の(T-1)および(T-2)の要件を満足する特性である。
(T-1)波長350~450nmの平均内部透過率(以下、「T350-450ave(TR)」で示す。)が95%以上である。
(T-2)波長400~450nmの最小内部透過率(以下、「T400-450min(TR)」で示す。)が97%以上である。
【0048】
樹脂(P)は、厚み100μmのときの波長350~1100nmの分光透過率曲線において、(T-1)および(T-2)に加えて、以下の(T-3)の要件を満足することが好ましい。
(T-3)波長500nm以下の領域で内部透過率が90%となる波長(以下、「λuv90」で示す。)が350nm以下である。
【0049】
樹脂(P)が(T-1)および(T-2)の要件を満たせば、本フィルタは高い可視光透過率を有する。樹脂(P)がさらに(T-3)の要件を満たすことで、本フィルタにおいてより高い可視光透過率が得られる。
【0050】
樹脂(P)において、T350-450ave(TR)は97%以上が好ましく、98%以上がより好ましい。T400-450min(TR)は、97.5%以上が好ましく、98%以上がより好ましい。λuv90は、340nm以下が好ましい。
【0051】
樹脂(P)は上記Tgおよび所定の光学特性の要件を満たせば、種類は特に制限されない。上記要件を満たすポリイミド樹脂およびポリカーボネート樹脂から選ばれる1種以上が好ましい。
【0052】
樹脂(P)における好ましいTgは樹脂により異なる。ポリイミド樹脂においてTgは、200~400℃が好ましく、200~350℃がより好ましい。ポリカーボネート樹脂においてTgは、200~300℃が好ましく、200~250℃がより好ましい。
【0053】
樹脂(P)は、ポリイミド樹脂およびポリカーボネート樹脂から選ばれる少なくとも1種を含み、樹脂(P)は、T350-450ave(TR)が98%以上であり、T400-450min(TR)が98%以上であり、λuv90が340nm以下であるのが好ましい。
【0054】
樹脂(P)としてのポリイミド樹脂としては、例えば、日本国特開2013-223759号公報、または国際公開第2013/146460号に記載された公知の透明性ポリイミド化合物のうち、上記樹脂(P)の要件を満足する樹脂が挙げられる。
【0055】
具体的な構造としては、例えば、テトラカルボン酸またはその二無水物とジアミンを重縮合(イミド結合)して得られる一般的な透明性ポリイミドの構造が挙げられ、より具体的には、下記式(TR-1)で示されるポリイミド樹脂(TR-1)が挙げられる。
【0056】
【0057】
式(TR-1)中、R51は、環状構造、非環状構造、または環状構造と非環状構造を有する炭素数4~10の4価の基である。R52は、脂肪族炭化水素基、脂環族炭化水素基、芳香族炭化水素基、およびオルガノシロキサン基からなる群より選ばれる少なくとも1種の基を有する、炭素数2~39の2価の基であり、R52の主鎖には-O-、-SO2-、-CO-、-CH2-、-C(CH3)2-、-C2H4O-、および-S-からなる群から選ばれる少なくとも1種の基が介在していてもよい。n1は繰り返し単位であることを示す。n1は求められる物性に応じて適宜調整される。
【0058】
式(TR-1)における好ましいR51としてはシクロヘキサン、シクロペンタン、シクロブタン、ビシクロペンタン、ビシクロオクタンおよびこれらの立体異性体から4個の水素原子を除いて形成される4価の基が挙げられる。より具体的には、下記構造式で表される4価の基が挙げられる。
【0059】
【0060】
樹脂(P)として使用可能な市販のポリイミド樹脂フィルムとして、ネオプリム(登録商標)L-3G30(三菱ガス化学(株)製、商品名)(このポリイミド樹脂フィルムには、シリカが含まれていてもよい)等が挙げられる。樹脂(P)はポリイミド樹脂のワニスから作製してもよく、使用可能なポリイミド樹脂ワニスとしてはネオプリム(登録商標)C-3G30(三菱ガス化学(株)製、商品名)があげられる。
【0061】
樹脂(P)としてのポリカーボネート樹脂としては、例えば、日本国特開2001-296423号公報に記載された公知の透明性ポリカーボネート化合物のうち、上記樹脂(P)の要件を満足する樹脂が挙げられる。
【0062】
上記樹脂(P)の要件を満足し得るポリカーボネート樹脂としては、例えば、ビスフェノール構造のジオール成分とカーボネート形成成分、例えば、ホスゲン類、ジフェニルカーボネート等のカーボネート類を用いて重合させて得られる一般的な透明性ポリカーボネート樹脂の構造が挙げられる。より具体的には、下記式(TR-2)で示されるポリカーボネート樹脂(TR-2)が挙げられる。式(TR-2)は、[]で囲まれる2つの単位の共重合体および/またはブレンド体を示す。
【0063】
【0064】
上記式(TR-2)において、R61~R68はそれぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子または炭素数1~6の一価炭化水素基である。R69~R76はそれぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子または炭素数1~22の一価炭化水素基である。R60は下記構造式で示される2価の基である。
【0065】
【0066】
Rはそれぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子または炭素数1~22の一価炭化水素基であり、R’はそれぞれ独立に炭素数1~20の2価炭化水素基であり、Arは炭素数6~10のアリール基である。n2およびn3は共重合体および/またはブレンド体中の各単位のモル%である。n2は30~90モル%であり、n3は70~10モル%である。
【0067】
樹脂(P)として使用可能な市販のポリカーボネート樹脂として、PURE-ACE(登録商標)M5(帝人(株)製、商品名)、同S5(帝人(株)製、商品名)等が挙げられる。
【0068】
樹脂基材は、樹脂(P)を主成分とする。樹脂基材は、本発明の効果を損なわない範囲で、例えば、10質量%以下の範囲で、必要に応じて、任意成分を含有してもよい。任意成分としては、密着性付与剤、レベリング剤、帯電防止剤、熱安定剤、光安定剤、酸化防止剤、分散剤、難燃剤、滑剤、可塑剤等が挙げられる。
【0069】
なお、樹脂(P)を主成分とする樹脂基材は、樹脂(P)と同様に、Tgが200℃以上であり、厚み100μmのときの波長350~1100nmの分光透過率曲線において、波長350~450nmの平均内部透過率が95%以上であり、波長400~450nmの最小内部透過率が97%以上であるのが好ましく、上記分光透過率曲線において、波長500nm以下の領域で内部透過率が90%となる波長が350nm以下であるのがより好ましい。樹脂基材は、波長350~450nmの平均内部透過率および波長400~450nmの最小内部透過率が98%以上であり、波長500nm以下の領域で内部透過率が90%となる波長が340nm以下であるのがさらに好ましい。また、Tgおよび上記光学特性のより好ましい態様も樹脂(P)と同様にできる。
【0070】
樹脂基材の厚みは、樹脂を含む部材の合計厚みに対するTgが200℃以上の樹脂を含有する部材の合計厚みの割合が85%以上であるという本フィルタの要件(以下、「樹脂部材の厚みの割合の要件」ともいう。)を満足した上で、20μm以上110μm以下が好ましい。樹脂基材の厚みは、20μm以上であれば、本フィルタの強度が十分としやすく、110μm以下であれば本フィルタが高い可視光透過性を確保しやすい。樹脂基材の厚みは、40μm以上が好ましく、60μm以上がより好ましい。樹脂基材の厚みは、100μm以下が好ましく、90μm以下がより好ましい。
【0071】
樹脂基材は、例えば、以下の方法で製造できる。樹脂基材は、樹脂(P)、または樹脂(P)と任意成分の混合物を溶融押出してフィルム状に成形して製造できる。また、樹脂(P)および必要に応じて任意成分を溶媒に溶解させ、塗工液を調製し、これを樹脂基材作製用の剥離性の基材に所望の厚さに塗工し乾燥させ、さらに、必要に応じて硬化させた後、樹脂基材を基材から剥離して、製造できる。
【0072】
塗工液に用いる溶媒は、樹脂(P)を安定に分散できる分散媒または溶解できる溶媒であればよい。塗工液は、微小な泡によるボイド、異物等の付着による凹み、乾燥工程でのはじき等の改善のため界面活性剤を含んでもよい。さらに、塗工液の塗工には、例えば、浸漬コーティング法、キャストコーティング法、ダイコート法またはスピンコート法等を使用できる。
【0073】
[外部樹脂層]
外部樹脂層は、ポリイミド樹脂または脂環式エポキシ樹脂を含む。外部樹脂層はこれらの樹脂を含むことで誘電体多層膜との密着性に優れる。誘電体多層膜の密着性の観点から、本フィルタは外部樹脂層を樹脂基材の両方の主面上に有することが好ましい。
【0074】
外部樹脂層が含有する樹脂は、ポリイミド樹脂と脂環式エポキシ樹脂のいずれか一方であっても両方であってもよい。通常はいずれか一方が含有される。これらの樹脂は、外部樹脂層における樹脂成分の主成分として含有され、該樹脂成分中の含有量は90質量%以上が好ましく、95質量%がより好ましく、100%が特に好ましい。
【0075】
外部樹脂層は、例えば、樹脂成分以外に、本フィルタの設計や含有する樹脂の種類に応じて、NIR色素(A)やNIR色素(B)等の色素を後述の割合で含有する。外部樹脂層は、さらに、本発明の効果を損なわない範囲で、例えば、10質量%以下の範囲で、密着性付与剤、レベリング剤、帯電防止剤、熱安定剤、光安定剤、酸化防止剤、分散剤、難燃剤、滑剤、可塑剤等を任意に含有してもよい。
【0076】
外部樹脂層が含有する樹脂がポリイミド樹脂の場合、樹脂基材の場合と同様に本フィルタの形状安定性の観点から、ポリイミド樹脂のTgは200℃以上が好ましく、250℃以上がより好ましい。これによりさらに本フィルタにおいて誘電体多層膜の密着性が向上する。Tgの上限は特にないが、成形加工性等の観点から、ポリイミド樹脂のTgは400℃以下が好ましい。外部樹脂層は、色素を含有する場合、上記樹脂のTgが200℃以上であれば、高温使用において色素の光学特性を維持する耐熱性に優れる。
【0077】
ポリイミド樹脂としては、樹脂基材における樹脂(P)として説明したポリイミド樹脂、特には、ポリイミド樹脂(TR-1)が好ましい。外部樹脂層に使用可能な市販のポリイミド樹脂として、ワニスの形態で得られる、ネオプリム(登録商標)C-3650(三菱ガス化学(株)製、商品名)、同C-3G30(三菱ガス化学(株)製、商品名)、同C-3450(三菱ガス化学(株)製、商品名)、同P500(三菱ガス化学(株)製、商品名)、JL-20(新日本理化製、商品名)等が挙げられる。なお、これらのポリイミド樹脂のワニスには、シリカが含まれていてもよい。
【0078】
外部樹脂層が含有する樹脂がポリイミド樹脂の場合は、中間樹脂層がNIR色素(A)を含有する。この場合において、本フィルタがさらにNIR色素(B)を含有する場合には、外部樹脂層がNIR色素(B)を含有するのが好ましい。外部樹脂層に用いるポリイミド樹脂は、NIR色素(B)を溶解したときの光学特性が後述の所定の要件を満足することが好ましい。
【0079】
外部樹脂層に用いる脂環式エポキシ樹脂としては、例えば、脂環式エポキシ化合物を硬化触媒により硬化して得られる脂環式エポキシ樹脂が挙げられる。脂環式エポキシ樹脂のTgは100℃以上が好ましく、120℃以上がより好ましい。
【0080】
脂環式エポキシ樹脂としては、例えば、日本国特開2017-149896号公報に記載された、脂環式エポキシ化合物と硬化触媒とメルカプト基含有化合物を含む組成物を硬化して得られる脂環式エポキシ樹脂が透明性、密着性の観点から好ましい。カチオン硬化性のエポキシ基はアクリル基、メタクリル基、ビニル基等のラジカル硬化性のものよりも重合時の収縮が小さく、フィルムを反らせにくいという観点からも好ましい。以下、日本国特開2017-149896号公報に記載された脂環式エポキシ樹脂を例に説明するが、本フィルタに用いる脂環式エポキシ樹脂はこれに限定されない。
【0081】
脂環式エポキシ化合物とは、脂環式エポキシ基を有する化合物である。脂環式エポキシ化合物としては、エポキシ化合物のエポキシ環をアルコールで開環重合させたものが好ましい。
【0082】
具体例としては、アルコールのビニルシクロヘキセンジエポキシド付加物、アルコールの3,4-エポキシシクロヘキサンカルボン酸-3’,4’-エポキシシクロヘキシルメチル付加物、アルコールのアジピン酸ビス3,4-エポキシシクロヘキシルメチル付加物、アルコールのジシクロペンタジエンジエポキシド付加物、アルコールのε-カプロラクトン変性ビス(3,4-エポキシシクロヘキシルメチル)-4,5-エポキシシクロヘキサン-1,2-ジカルボン酸付加物、アルコールのε-カプロラクトン変性テトラ(3,4-エポキシシクロヘキシルメチル)ブタン-テトラカルボン酸付加物、アルコールのジペンテンジオキシド付加物、アルコールの1,4-シクロオクタジエンジエポキシド付加物、アルコールのビス(2,3-エポキシシクロペンチル)エーテル付加物などが挙げられ、これらは、1種または2種類以上併せて用いることができる。
【0083】
脂環式エポキシ化合物の中でも、アルコールのビニルシクロヘキセンジエポキシドの付加物が好ましく、2,2-ビス(ヒドロキシメチル)-1-ブタノールのビニルシクロヘキセンジエポキシド付加物がより好ましく、特に好ましくは2,2-ビス(ヒドロキシメチル)-1-ブタノールの1,2-エポキシ-4-(2-オキシラニル)シクロヘキサン付加物である。
【0084】
脂環式エポキシ化合物は、公知の方法により製造することができ、市販品を用いることもできる。市販品としては、例えば、セロキサイド(登録商標)2021P、セロキサイド(登録商標)2081、EHPE3150(以上、ダイセル社製)等が挙げられ、中でも2,2-ビス(ヒドロキシメチル)-1-ブタノールの1,2-エポキシ-4-(2-オキシラニル)シクロヘキサン付加物であるEHPE3150(重量平均分子量:2400)が好ましい。
【0085】
硬化触媒は、脂環式エポキシ化合物の種類等に応じて適宜選択すればよい。硬化触媒としては、通常使用されるものでよく、例えば、熱硬化を行う場合は、熱潜在性カチオン硬化触媒、熱潜在性ラジカル硬化触媒、酸無水物系触媒、フェノール系触媒、アミン系触媒等を挙げることができる。硬化触媒として特に好ましくは、カチオン硬化触媒である。
【0086】
カチオン硬化触媒は、ホウ素化合物と芳香族フッ素化合物を含むルイス酸が好ましい。このようなルイス酸として具体的には、例えば、トリス(ペンタフルオロフェニル)ボラン、ビス(ペンタフルオロフェニル)フェニルボラン、ペンタフルオロフェニル-ジフェニルボラン、トリス(4-フルオロフェニル)ボラン等が好ましい。これらの中でも、硬化物の耐熱性、耐湿熱性、耐温度衝撃性等を向上できる点で、トリス(ペンタフルオロフェニル)ボラン、ビス(ペンタフルオロフェニル)フェニルボランがより好ましい。
【0087】
カチオン硬化触媒の含有量は、脂環式エポキシ化合物とカチオン硬化触媒の総量100質量部中、0.01~10質量部とすることが好適である。これにより、硬化速度がより高められ、生産性をより向上できるとともに、硬化時や加熱時、使用時等に着色するおそれをより抑制することができる。より好ましくは0.05質量部以上、さらに好ましくは0.1質量部以上、特に好ましくは0.2質量部以上であり、また、より好ましくは5質量部以下、さらに好ましくは3質量部以下、特に好ましくは2質量部以下である。
【0088】
メルカプト基含有化合物は、硬化物の可視光透過性の向上、および接着性の向上に寄与するとされる。メルカプト基含有化合物としては、メルカプト基含有シランカップリング剤が挙げられ、アルコキシ基を有するメルカプト基含有シランカップリング剤が好ましい。メルカプト基含有シランカップリング剤としては、メトキシ基を有するメルカプト基含有シランカップリング剤がさらに好ましい。また、メルカプト基含有シランカップリング剤は、鎖状(好ましくは環構造を有しない直鎖状)であることが好ましい。
【0089】
メルカプト基含有シランカップリング剤としては、例えば、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリエトキシシラン、3-メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン等を挙げることができ、この中でも3-メルカプトプロピルトリメトキシシランは、入手し易く、樹脂組成物中での相溶性が高く、ガラス基板に対して高い接着性を発現するため好ましい。メルカプト基含有シランカップリング剤は、単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0090】
メルカプト基含有シランカップリング剤の配合割合としては、脂環式エポキシ化合物100質量部に対して、0.1質量部以上25質量部以下であることが好ましく、より好ましくは2質量部以上20質量部以下であり、さらに好ましくは3質量部以上20質量部以下であり、特に好ましくは7質量部以上18質量部以下であり、最も好ましくは10質量部以上15質量部以下である。メルカプト基含有シランカップリング剤の配合割合を上記範囲内とすることで耐熱性、密着性を高めることができる。
【0091】
外部樹脂層に含有される樹脂が脂環式エポキシ樹脂の場合、外部樹脂層がNIR色素(A)を含有することがある。この場合、脂環式エポキシ樹脂は、NIR色素(A)を溶解したときの光学特性が後述の所定の要件を満足することが好ましい。本フィルタは、外部樹脂層が脂環式エポキシ樹脂を含有する場合であっても、中間樹脂層を有する場合がある。その場合には、NIR色素(A)は中間樹脂層が含有するのが好ましい。この場合において、本フィルタがさらにNIR色素(B)を含有する場合には、外部樹脂層がNIR色素(B)を含有するのが好ましい。外部樹脂層に用いる脂環式エポキシ樹脂は、NIR色素(B)を溶解したときの光学特性が後述の所定の要件を満足することが好ましい。
【0092】
外部樹脂層は、例えば、色素を含有する場合は色素と、外部樹脂層が含有する樹脂またはその原料成分と、さらに各種任意成分を、溶媒に溶解または分散させて塗工液を調製し、これを基材に塗工し乾燥させ、さらに必要に応じて硬化させて形成できる。上記基材は、本フィルタに含まれる樹脂基材に必要に応じて中間樹脂層を形成したものでもよいし、外部樹脂層を形成する際にのみ使用する剥離性の基材でもよい。また、溶媒は、安定に分散できる分散媒または溶解できる溶媒であればよい。
【0093】
また、塗工液は、微小な泡によるボイド、異物等の付着による凹み、乾燥工程でのはじき等の改善のため界面活性剤を含んでもよい。さらに、塗工液の塗工には、例えば、浸漬コーティング法、キャストコーティング法、ダイコート法またはスピンコート法等を使用できる。上記塗工液を基材上に塗工後、乾燥させることにより外部樹脂層が形成される。また、塗工液が脂環式エポキシ樹脂のように樹脂の原料成分を含有する場合、さらに熱硬化、光硬化等の硬化処理を行う。
【0094】
また、外部樹脂層は、押出成形によりフィルム状に製造可能でもあり、このフィルムを樹脂基材上に他の部材、例えば、中間樹脂層とともに積層し熱圧着等により一体化させてもよい。
【0095】
外部樹脂層の厚みは、本フィルタにおける樹脂部材の厚みの割合の要件を満足した上で、0.25μm以上12μm以下が好ましい。外部樹脂層の厚みは、0.25μm以上であれば、誘電体多層膜との密着性を十分とでき、12μm以下であれば本フィルタが高い可視光透過性を有する。
【0096】
外部樹脂層の厚みは、0.4μm以上が好ましく、0.6μm以上がより好ましい。外部樹脂層の厚みは、5μm以下が好ましく、2μm以下がより好ましい。なお、
図2に示す光学フィルタ10Bのように外部樹脂層を2層有する場合、外部樹脂層の厚みは、合計で12μm以下が好ましく、5μm以下がより好ましく、3μm以下がさらに好ましい。この場合の各外部樹脂層の厚みは、例えば、1.5μm以下が好ましく、1.4μm以下がより好ましい。
【0097】
[中間樹脂層]
中間樹脂層はシクロオレフィン樹脂を含む樹脂層である。本フィルタの外部樹脂層がポリイミド樹脂を含む樹脂層の場合、中間樹脂層は必須の層である。本フィルタの外部樹脂層が脂環式エポキシ樹脂を含む樹脂層の場合、中間樹脂層は任意の層であり、設けられるのが好ましい層である。
【0098】
本フィルタにおいて外部樹脂層がポリイミド樹脂を含む場合、中間樹脂層がNIR色素(A)を含有する。本フィルタにおいて外部樹脂層が脂環式エポキシ樹脂を含む場合に、中間樹脂層を有する場合は、NIR色素(A)は中間樹脂層に含有されることが好ましい。中間樹脂層はNIR色素(B)やUV色素等のNIR色素(A)以外の色素を含有してもよい。
【0099】
中間樹脂層が含有するシクロオレフィン樹脂によれば、NIR色素(A)を溶解したときの光学特性が後述の所定の要件を容易に満足できる。
【0100】
中間樹脂層が含有するシクロオレフィン樹脂は、中間樹脂層における樹脂成分の主成分として含有され、該樹脂成分中の含有量は90質量%以上が好ましく、95質量%がより好ましく、100質量%が特に好ましい。なお、シクロオレフィン樹脂のTgは130℃以上が好ましく、140℃以上がより好ましい。
【0101】
中間樹脂層は、例えば、樹脂成分以外に、本フィルタの設計や含有する樹脂の種類に応じて、NIR色素(A)やNIR色素(B)等の色素を後述の割合で含有する。中間樹脂層は、さらに、本発明の効果を損なわない範囲で、例えば、10質量%以下の範囲で、密着性付与剤、レベリング剤、帯電防止剤、熱安定剤、光安定剤、酸化防止剤、分散剤、難燃剤、滑剤、可塑剤等を任意に含有してもよい。
【0102】
中間樹脂層が含有するシクロオレフィン樹脂は、公知の方法で製造できる。または、以下の市販品のシクロオレフィン樹脂を中間樹脂層に用いてもよい。
【0103】
シクロオレフィン樹脂の市販品としては、ARTON(登録商標)F4520(JSR社製、商品名)、ZEONEX(登録商標)K26R、F52R、T62R、ZEONOR(登録商標)1020R、1060R(いずれも日本ゼオン社製、商品名)、APEL(登録商標)APL5014DP,APL6015T(いずれも三井化学社製、商品名)等が挙げられる。
【0104】
中間樹脂層は、例えば、NIR色素(A)等の色素と、シクロオレフィン樹脂と、さらに各種任意成分とを、溶媒に溶解または分散させて塗工液を調製し、これを基材に塗工し乾燥させて形成できる。上記基材は、本フィルタに含まれる樹脂基材でもよいし、中間樹脂層を形成する際にのみ使用する剥離性の基材でもよい。また、溶媒は、安定に分散できる分散媒または溶解できる溶媒であればよい。具体的な、形成方法は、外部樹脂層と同様にできる。
【0105】
中間樹脂層の厚みは、本フィルタにおける樹脂部材の厚みの割合の要件を満足した上で、0.25μm以上12μm以下が好ましい。中間樹脂層の厚みは、0.25μm以上であれば、本フィルタにおける近赤外光の遮蔽性を十分とでき、12μm以下であれば本フィルタが高い可視光透過性を有する。
【0106】
中間樹脂層の厚みは、0.4μm以上が好ましく、0.6μm以上がより好ましい。中間樹脂層の厚みは、5μm以下が好ましく、2μm以下がより好ましい。なお、
図2に示す光学フィルタ10Bのように中間樹脂層を2層有する場合、中間樹脂層の厚みは、合計で12μm以下が好ましく、5μm以下がより好ましく、3μm以下がさらに好ましい。この場合の各中間樹脂層の厚みは、例えば、1.5μm以下が好ましく、1.4μm以下がより好ましい。
【0107】
(NIR色素(A))
本フィルタにおいて、外部樹脂層および中間樹脂層の少なくとも一方はNIR色素(A)を含有する。NIR色素(A)は、NIR色素(A)を含有する樹脂層が含有する樹脂中で測定される波長400~1200nmの分光透過率曲線において、最大吸収波長λmax(A)TRが800~1200nmの波長領域にある。
【0108】
NIR色素(A)は、NIR色素(A)を含有する樹脂層が含有する樹脂中で測定される波長400~1200nmの分光透過率曲線における最大吸収波長λmax(A)TRでの光の内部透過率を10%としたときの波長435~480nmの光の平均内部透過率をTAVE435-480(A)TR、および波長490~560nmの光の平均内部透過率をTAVE490-560(A)TRとし、
NIR色素(A)をジクロロメタン(DCM)に溶解させて測定される波長400~1200nmの分光透過率曲線における最大吸収波長λmax(A)DCMでの光の透過率を10%としたときの波長435~480nmの光の平均透過率をTAVE435-480(A)DCM、および波長490~560nmの光の平均透過率をTAVE490-560(A)DCMとしたときに、
|TAVE435-480(A)DCM-TAVE435-480(A)TR|が5%以下、かつ|TAVE490-560(A)DCM-TAVE490-560(A)TR|が5%以下であることが好ましい。
【0109】
NIR色素(A)が上記特性を有することで、NIR色素(A)がDCM中で有する光学特性が樹脂中でも同様に発揮できる。|TAVE435-480(A)DCM-TAVE435-480(A)TR|および|TAVE490-560(A)DCM-TAVE490-560(A)TR|は、4%以下がより好ましく、3%以下がさらに好ましい。
【0110】
また、NIR色素(A)は、NIR色素(A)を含有する樹脂層が含有する樹脂中で測定される波長400~1200nmの分光透過率曲線における最大吸収波長λmax(A)TRでの光の内部透過率を10%としたときの波長435~480nmの光の平均内部透過率TAVE435-480(A)TRが88%以上、波長490~560nmの光の平均内部透過率TAVE490-560(A)TRが88%以上、波長435nmの光の内部透過率T435(A)TRが88.1%以上、波長550nmの光の内部透過率T550(A)TRが79.4%以上かつ波長700nmの光の内部透過率T700(A)TRが79.4%以上であることが好ましい。
【0111】
TAVE435-480(A)TRは90%以上がより好ましく、91%以上がさらに好ましい。
TAVE490-560(A)TRは90%以上がより好ましく、91%以上がさらに好ましい。
T435(A)TRは90%以上がより好ましく、91%以上がさらに好ましい。
T550(A)TRは90%以上がより好ましく、91%以上がさらに好ましい。
T700(A)TRは80%以上がより好ましく、85%以上がさらに好ましい。
【0112】
NIR色素(A)として、具体的には、上記λmax(A)TRの要件を満足するスクアリリウム色素およびジケトピロロピロール色素から選ばれる少なくとも1種が好ましい。NIR色素(A)として用いられるスクアリリウム色素としては、下式(ASi)で示される化合物、下式(ASii)で示される化合物、下式(ASiii)で示される化合物が挙げられる。ジケトピロロピロール色素としては、後述の式(AD)で示される化合物が挙げられる。
【0113】
【0114】
【0115】
ただし、式(ASi)~(ASiii)中の記号は以下のとおりである。
なお、式(ASi)~(ASiii)において、スクアリリウム環の左右に結合する環構造が有する基について同じ符号を用いているが、これらは独立して、以下の基または原子である。すなわち、構造式の左右における同じ符号は同じ基または原子であってもよく、異なる基または原子であってもよい。
式(ASi)~(ASiii)は、それぞれ共鳴構造の1つを示すものであり、化合物(ASi)~(ASiii)にはそれぞれ他の共鳴構造も含まれる。
【0116】
式(ASi)中、R161は、それぞれ独立して、炭素数3~20の分岐アルキル基、炭素数13~20の直鎖アルキル基である。R161は、樹脂や溶媒への溶解性の観点から、炭素数8~20の分岐アルキル基が好ましく、炭素数16~20の直鎖アルキル基がより好ましい。R161は、樹脂中での高透過率維持の観点から炭素数8~20の分岐アルキル基がより好ましい。
【0117】
式(ASii)中、Y3はC-R179またはNである。
式(ASi)および式(ASii)中、R162~R167およびR171~R179は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、スルホ基、ヒドロキシ基、シアノ基、ニトロ基、カルボキシル基、リン酸基、-NR112R113基、-NHSO2R114基、-NHCOR115基、-SR116基、-SO2R117基、-OSO2R118基、炭素数1~20のアルキル基またはアルコキシ基、炭素数1~12のハロゲン置換アルキル基、炭素数3~14のシクロアルキル基、炭素数6~14のアリール基、もしくは員数が3~14の複素環基である。
【0118】
員数が3~14の複素環基としては、ヘテロ原子として、N、OおよびSから選ばれる少なくとも1種を含む複素環基が挙げられる。R171は、樹脂や溶媒への溶解性の観点から、炭素数8~20の直鎖アルキル基および炭素数8~20の分岐アルキル基が好ましい。R171は、樹脂中での高透過率維持の観点から炭素数16~20の分岐アルキル基がより好ましい。R162~R167およびR172~R178は、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1~20のアルキル基またはアルコキシ基、-NHSO2R114基、-NHCOR115基が好ましく、水素原子、炭素数1~20のアルコキシ基、-NHCOR115基がより好ましい。R179は、水素原子、炭素数1~20のアルキル基またはアルコキシ基が好ましく、水素原子、炭素数1~8のアルキル基またはアルコキシ基がより好ましい。
【0119】
R112~R118は、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1~20のアルキル基またはアルコキシ基、炭素数1~12のハロゲン置換アルキル基、炭素数3~14のシクロアルキル基、炭素数6~14のアリール基、もしくは員数が3~14の複素環基である。ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等が挙げられ、フッ素原子および塩素原子が好ましい。
【0120】
R112~R118は、それぞれ独立して、炭素数1~20のアルキル基またはアルコキシ基が好ましく、炭素数3~16のアルキル基またはアルコキシ基がより好ましい。
【0121】
上記式(ASi)および式(ASii)の説明において、特に断りのないアルキル基およびアルコキシ基のアルキル基は直鎖であってもよく、分岐構造や飽和環構造を含んでもよい。アリール基は芳香族化合物が有する芳香環、例えば、ベンゼン環、ナフタレン環、ビフェニル、フラン環、チオフェン環、ピロール環等を構成する炭素原子を介して結合する基をいう。ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等が挙げられ、フッ素原子および塩素原子が好ましい。
【0122】
式(ASiii)中、R11~R14は、それぞれ独立して、置換基を有してもよく、炭素-炭素原子間に不飽和結合または酸素原子を含んでよいアルキル基、アルコキシ基、アリール基またはアルアリール基であり、R15およびR16は、それぞれ独立して、置換基を有してもよく、アリール基、炭素-炭素原子間に不飽和結合、酸素原子、脂環または芳香環を含んでよいアルキル基またはアルコキシ基であるか、または、R15およびR16が互いに連結して窒素原子とともに員数が5~10のシクロヘテロ環を形成し、前記シクロヘテロ環は置換基を有してもよい。
【0123】
色素(ASiii)は、分子構造の中央にスクアリリウム骨格を有し、スクアリリウム骨格の左右に各1個のシクロペンタジチオフェン環が結合している。シクロペンタジチオフェン環は、スクアリリウム骨格とは反対側のチオフェン環が、窒素含有置換基である-NR15R16を有する構造である。スクアリリウム骨格の左右のR11~R16は、異なってもよいが、合成が容易な点から同じが好ましい。
【0124】
R11~R14における置換基としては、ハロゲン原子、水酸基、カルボキシ基、スルホ基、シアノ基、アミノ基、N-置換アミノ基、ニトロ基、アルコキシカルボニル基、カルバモイル基、N-置換カルバモイル基、イミド基、炭素数1~10のアルコキシ基が挙げられる。R11~R14がアリール基またはアルアリール基の場合、置換基は、芳香環に結合する水素原子またはこれらが有するアルキル基の水素原子を置換する基であり、前記置換基の他にさらにアリール基を含む。
【0125】
R11~R14がアルキル基またはアルコキシ基の場合、炭素数は1~20が好ましく、1~15がより好ましく、1~12がさらに好ましい。R11~R14がアリール基の場合、炭素数は6~20が好ましく、6~17がより好ましく、6~14がさらに好ましい。R11~R14がアルアリール基の場合、炭素数は7~20が好ましく、7~18がより好ましく、7~15がさらに好ましい。R11~R14が置換基を有する場合、炭素数は置換基の炭素数を含む炭素数である。
【0126】
R11は、光安定性の観点から、水素原子または炭素数1~12のアルキル基が好ましく、水素原子が特に好ましい。
【0127】
R12およびR13は、可視光透過性や、耐光性や、溶媒への溶解性の観点からは、炭素-炭素原子間に酸素原子を含んでよい炭素数1~20の直鎖状、分岐鎖状または環状のアルキル基が好ましい。アルキル基の炭素数は、直鎖状の場合、1~12がより好ましく、分岐鎖状の場合、3~10がより好ましく、環状の場合、5~10がより好ましい。R12およびR13は、基1a~基5a、および基1d~基9dから選ばれる基がさらに好ましく、基1a、基3a、または基5dが特に好ましい。
【0128】
【0129】
R12およびR13は、耐熱性や、耐光性や、吸収波長の長波長化の点からは、1~5個の置換基を有してもよいフェニル基または、1~7個の置換基を有してもよいナフチル基または、炭素数5~10の環状アルキル基が好ましい。フェニル基およびナフチル基の水素原子を置換してもよい置換基としては、炭素-炭素原子間に不飽和結合または酸素原子を含んでよい、炭素数1~12のアルキル基、炭素数1~12のアルコキシ基、またはアルキルアミノ基(アルキル基の炭素数は1~12)が挙げられる。フェニル基およびナフチル基は、非置換または、水素原子が1~3個置換されているのが好ましく、置換基としては、メチル基、ターシャリーブチル基、ジメチルアミノ基、メトキシ基等が好ましい。
【0130】
1~5個の置換基を有してもよいフェニル基として、具体的には、基P1~基P9が挙げられる。
【0131】
【0132】
1~7個の置換基を有してもよいナフチル基として、具体的には、基N1~基N9が挙げられる。
【0133】
【0134】
R12およびR13は、具体的には、メチル素、フェニル基、ナフチル基、トルイル基、3,5-ジ-ターシャリーブチルフェニル基、シクロヘキシル基、イソプロピル基、2-エチルヘキシル基等が好ましく、フェニル基、シクロヘキシル基、イソプロピル基が特に好ましい。
【0135】
R14は、可視光透過性や、溶媒への溶解性の点からは、R12およびR13と同様に、炭素-炭素原子間に酸素原子を含んでよい炭素数1~20の直鎖状、分岐鎖状または環状のアルキル基が好ましい。アルキル基の炭素数は、直鎖状の場合、1~12がより好ましく、分岐鎖状の場合、3~10がより好ましく、環状の場合、5~10がより好ましい。R14は、例えば、基1d~基15dから選ばれる基がさらに好ましく、基1dが特に好ましい。
【0136】
R14は、製造容易性の観点から、水素原子または炭素数1~8のアルキル基が好ましく、水素原子が特に好ましい。
【0137】
R15およびR16は、それぞれ独立して、置換基を有してもよく、アリール基、炭素-炭素原子間に不飽和結合、酸素原子、脂環または芳香環を含んでよいアルキル基またはアルコキシ基である。R15およびR16は、互いに連結して窒素原子とともに員数が5~10のシクロヘテロ環を形成してもよく、その場合、シクロヘテロ環に結合する水素原子は置換基で置換されていてもよい。
【0138】
R15およびR16における置換基としては、R11~R14における置換基と同様の置換基が挙げられる。R15およびR16がアルアリール基の場合、これらが有するアルキル基はさらにアリール基で置換されていてもよい。
【0139】
R15およびR16は、芳香環を有する基であってもよく、芳香環を有しない基であってもよい。R15およびR16が、芳香環を有する場合、耐熱性や、吸収波長の長波長化の点で好ましい。R15およびR16が、芳香環を有しない場合、耐光性や、製造容易性や、溶媒への溶解性の点で好ましい。
【0140】
R15およびR16がアリール基の場合、アリール基としては、R1およびR2で挙げたものと同じものを例示できる。
【0141】
R15およびR16が、アルキル基またはアルコキシ基の場合、炭素数は1~20が好ましく、1~12がより好ましく、1~10がさらに好ましい。R15およびR16は、可視光透過性や、溶媒への溶解性の点からは、R12およびR13と同様に、炭素-炭素原子間に酸素原子を含んでよい炭素数3~20の直鎖状、分岐鎖状または環状のアルキル基が好ましい。アルキル基の炭素数は、直鎖状の場合、3~12がより好ましく、分岐鎖状の場合、3~10がより好ましく、環状の場合、5~10がより好ましい。R15およびR16が置換基を有する場合、炭素数は置換基の炭素数を含む炭素数である。R15およびR16は、例えば、基1d~基15dから選ばれる基がさらに好ましく、基1dが特に好ましい。
【0142】
R15およびR16が互いに連結して窒素原子とともにシクロヘテロ環を形成する態様は、化合物2のR5およびR6と同じ態様が挙げられ、好ましい態様も同じである。
【0143】
色素(ASiii)において、R11~R16のうち、R12、R13、R15およびR16から選ばれる2以上、より好ましくは3以上、さらに好ましくは4つの全てが、炭素-炭素原子間に酸素原子を含んでよい炭素数3~20の直鎖状または分岐鎖状のアルキル基が好ましい。それにより、化合物は、可視光透過性や、溶媒への溶解性に優れる。
【0144】
式(ASi)で示される化合物としては、より具体的には、各骨格に結合する原子または基が、以下の表1、2に示される化合物が挙げられる。なお、表1は、R161~R167における原子または基の31種類の組合せにS-1~S-31の番号を付した表である。表1中、-C4H9等のアルキル基は全て直鎖のアルキル基である。
【0145】
表2は、色素(ASi)に分類される色素(ASi-1)~色素(ASi-496)において、スクアリリウム環の右側と左側のR161~R167がそれぞれS-1~S-31のいずれの組合せを有するかを示す表である。表2に示す色素(ASi-1)~色素(ASi-31)は、R161~R167の組合せが式の左右で同一の対象構造の化合物である。色素(ASi-32)~色素(ASi-496)は、R161~R167の組合せが式の左右で異なる非対象の構造の化合物である。
【0146】
表2中の色素(ASi-32)~色素(ASi-61)は、右側のR161~R167の組合せがS-1であり、左側のR161~R167の組合せがS-2~S-31のいずれかである色素をまとめて示したものである。右がS-1である色素(ASi)において、左がS-2の場合を色素(ASi-32)、左がS-3の場合を色素(ASi-33)、左がS-4の場合を色素(ASi-34)というようにR161~R167の組合せ番号の順に、色素番号を1ずつ増やすように採番した。他の場合も同様である。なお、色素(ASi-32)は、右がS-1であり左がS-2である構造と、右がS-2であり左がS-1である構造の両方を含む。
【0147】
【0148】
【0149】
色素(ASi)の中でも、左右対称の色素(ASi)として、色素(ASi-1)、色素(ASi-2)、色素(ASi-3)、色素(ASi-19)、色素(ASi-22)、色素(ASi-24)、色素(ASi-25)、色素(ASi-28)、色素(ASi-31)等が好ましく、色素(ASi-1)、色素(ASi-19)、色素(ASi-22)、色素(ASi-25)、色素(ASi-31)等がより好ましい。
【0150】
色素(ASi)の中でも、左右非対称の色素(ASi)として、左右の組合せがS-19と、S-24、S-25、およびS-28のいずれかの組合せである色素(ASi-423)、色素(ASi-424)、色素(ASi-427)、S-22と、S-31の組合せである色素(ASi-460)、S-24と、S-25およびS-28のいずれかの組合せである色素(ASi-469)、色素(ASi-472)等が好ましい。
【0151】
式(ASii)で示される化合物としては、より具体的には、各骨格に結合する原子または基が、以下の表3に示される化合物が挙げられる。表3に示す全ての化合物において、R171~R178およびY3は式の左右で同一である。表3中、-C4H9等のアルキル基は全て直鎖のアルキル基である。
【0152】
【0153】
色素(ASii)としては、これらの中でも、色素(ASii-1)~色素(ASii-8)、色素(ASii-10)、色素(ASii-15)~色素(ASii-17)等が好ましく、色素(ASii-8)、色素(ASii-15)~色素(ASii-17)等がより好ましい。
【0154】
なお、色素(ASi)および色素(ASii)は、例えば、 European Journal of Medical Chemistry, 54 647, (2012)、さらに色素(ASii)については、Org. Lett. 18, 5232 (2016)に記載された方法でスクアリリウム環の両側に導入する化合物を製造し、該
化合物を、例えば、Organic Letters, 8, 111, (2006)に記載された方法でスクアリン酸の対角線上の2箇所に導入することで製造可能である。また、非対称型の構造については、Dyes and Pigments, 141, 457,(2017)に記載の方法で製造可能である。
【0155】
色素(ASiii)としては、より具体的には、R11~R16が、以下の表4に示される化合物が挙げられる。表4に示す全ての化合物において、R11~R16は、スクアリリウム骨格の左右で全て同一である。表4中、CnH2n+1(nは3以上の整数)で示されるアルキル基は、直鎖のアルキル基を示す。
【0156】
【0157】
色素(ASiii)のうちでも、耐光性を高く維持できる点からは、色素(ASiii-3)、色素(ASiii-8)、色素(ASiii-10)、色素(ASiii-13)、色素(ASiii-14)、色素(ASiii-15)が好ましい。また、溶媒への溶解性の点からは、色素(ASiii-1)、色素(ASiii-2)、色素(ASiii-3)、色素(ASiii-5)、色素(ASiii-7)、色素(ASiii-8)、色素(ASiii-10)、色素(ASiii-12)、色素(ASiii-13)、色素(ASiii-17)が好ましい。合成が容易な点からは、色素(ASiii-1)、色素(ASiii-5)、色素(ASiii-6)、色素(ASiii-9)、色素(ASiii-16)が好ましい。
【0158】
色素(ASiii)は、中央のスクアリリウム骨格から両端のアミノ基(-NR15R16)まで炭素-炭素原子の二重結合が4つ以上あることにより、π共役構造が大きくなるので、近赤外光の長波長側に高い吸収特性を有する。また、余計なベンゼン環を含まないので、可視光、とくに可視光の中でも短波長側の青色透過率が高い。さらに、色素(ASiii)は、R15とR16が窒素原子に芳香環が直接結合するような構成ではない場合、R15とR16が直結するアミノ基からシクロペンタジチオフェン環への電子供与性が強くなり、短波長側の可視光透過率が高くなり、かつ、より長波長側の近赤外光に高い吸収特性を発現する点で好ましい。
【0159】
色素(ASiii)は、例えば、3,4-ジヒドロキシ-3-シクロブテン-1,2-ジオン(スクアリン酸)と、スクアリン酸と結合して式(ASiii)に示す構造を形成可能なアミノ基末端を有するシクロペンタジチオフェン誘導体とを反応させて製造できる。例えば、色素(ASiii)が左右対称の構造である場合、スクアリン酸1当量に対して上記範囲で所望の構造のシクロペンタジチオフェン誘導体2当量を反応させればよい。
【0160】
NIR色素(A)として用いられるジケトピロロピロール色素としては、式(AD)で示される化合物が挙げられる。
【0161】
【0162】
ただし、式(AD)中、R201~R218は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、スルホ基、ヒドロキシ基、シアノ基、ニトロ基、カルボキシル基、リン酸基、-NR219R220基、-NHSO2R221基、-NHCOR222基、-SR223基、-SO2R224基、-OSO2R225基、炭素数1~20のアルキル基またはアルコキシ基、炭素数1~12のハロゲン置換アルキル基、炭素数3~14のシクロアルキル基、炭素数6~14のアリール基、もしくは員数が3~14の複素環基である。
R219~R225は、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1~20のアルキル基またはアルコキシ基、炭素数1~12のハロゲン置換アルキル基、炭素数3~14のシクロアルキル基、炭素数6~14のアリール基、もしくは員数が3~14の複素環基である。Phはフェニル基を示す。
【0163】
色素(AD)において、R201~R218は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1~20のアルキル基またはアルコキシ基、炭素数1~12のハロゲン置換アルキル基が好ましい。R201、R204、R205およびR208は水素原子が好ましく、R202、R203、R206およびR207はそれぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1~20のアルキル基またはアルコキシ基が好ましい。
【0164】
R209、R213、R214およびR218は水素原子が好ましく、R210~R212、R215~R217はそれぞれ独立して、水素原子、炭素数1~20のアルキル基またはアルコキシ基が好ましく、R210~R212のうちの少なくとも1つ、R215~R217のうちの少なくとも1つは、炭素数1~20のアルコキシ基が好ましい。
【0165】
ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等が挙げられ、フッ素原子および塩素原子が好ましく、塩素原子が特に好ましい。アルコキシ基としては、分岐のアルキル基を有するものが好ましい。
【0166】
式(AD)で示される化合物としては、より具体的には、各骨格に結合する原子または基が、以下の表5に示される化合物が挙げられる。
【0167】
【0168】
色素(AD)としては、これらの中でも、樹脂への溶解性の観点で色素(AD-1)、(AD-2)、(AD-4)等が好ましい。色素(AD)は、公知の方法、例えば、国際公開第2016/031810号に記載の方法で製造可能である。
【0169】
NIR色素(A)は、1種の化合物からなってもよく、2種以上の化合物からなってもよい。2種以上の化合物からなる場合は、個々の化合物がNIR色素(A)の性質を必ずしも有する必要はなく、混合物として、NIR色素(A)の性質を有すればよい。
【0170】
脂環式エポキシ樹脂を含む外部樹脂層またはシクロオレフィン樹脂を含む中間樹脂層におけるNIR色素(A)の含有量は、樹脂層の厚みによるが、NIR遮蔽性および溶解性の観点から、脂環式エポキシ樹脂またはシクロオレフィン樹脂100質量部に対して、0.1~20質量部が好ましく、1~20質量部がより好ましい。NIR色素(A)を含有する樹脂層の厚みが5μm以下の場合には、該樹脂層におけるNIR色素(A)の含有量は、脂環式エポキシ樹脂またはシクロオレフィン樹脂100質量部に対して、5~20質量部が好ましく、5~15質量部がより好ましい。
【0171】
(NIR色素(B))
本フィルタは、NIR色素(A)に加えてNIR色素(B)を含有することが好ましい。NIR色素(B)は、NIR色素(B)を含有する樹脂層が含有する樹脂中で測定される波長400~1200nmの分光透過率曲線において、最大吸収波長λmax(B)TRが680~760nmの波長領域にある。NIR色素(B)を含有する樹脂層は、外部樹脂層であっても中間樹脂層であってもよく、必要に応じて樹脂基材であってもよい。NIR色素(B)は、好ましくは、NIR色素(A)を含有する樹脂層とは異なる樹脂層に含有される。
【0172】
NIR色素(B)を含む樹脂層は、波長400~1200nmの分光透過率曲線において、最大吸収波長より短波長側で内部透過率が20%となる波長λSH20%が650~700nmの波長領域にあり、波長435~480の光の平均内部透過率TAVE435-480TR(B)が90%以上、波長490~560nmの光の平均内部透過率TAVE490-560TR(B)が90%以上、かつ、波長λSH20%と、最大吸収波長より短波長側で内部透過率が70%となる波長λSH70%との波長差λSH20%-λSH70%が55nm以下であることが好ましい。
【0173】
λSH20%は650~690nmにあるのがより好ましく、650~680nmにあるのがさらに好ましい。
TAVE435-480TR(B)は90.5%以上がより好ましく、91%以上がさらに好ましい。
TAVE490-560TR(B)は93%以上がより好ましく、95%以上がさらに好ましい。
λSH20%-λSH70%は53nm以下がより好ましく、51nm以下がさらに好ましい。
【0174】
NIR色素(B)として、具体的には、上記λmax(B)TRの要件を満足するスクアリリウム色素が挙げられる。NIR色素(B)として、より具体的には、下式(I)または式(II)で表されるスクアリリウム色素が好ましい。
【0175】
【0176】
ただし、式(I)中の記号は以下のとおりである。
R24およびR26は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、水酸基、炭素数1~20のアルキル基、炭素数1~20のアルキル基アルコキシ基、炭素数1~10のアシルオキシ基、炭素数6~11のアリール基、置換基を有していてもよく炭素原子間に酸素原子を有していてもよい炭素数7~18のアルアリール基、-NR27R28(R27およびR28は、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1~20のアルキル基、-C(=O)-R29(R29は、水素原子、ハロゲン原子、水酸基、置換基を有していてもよく、炭素原子間に不飽和結合、酸素原子、飽和もしくは不飽和の環構造を含んでよい炭素数1~25の炭化水素基)、-NHR30、または、-SO2-R30(R30は、それぞれ1つ以上の水素原子がハロゲン原子、水酸基、カルボキシ基、スルホ基、またはシアノ基で置換されていてもよく、炭素原子間に不飽和結合、酸素原子、飽和もしくは不飽和の環構造を含んでよい炭素数1~25の炭化水素基)を示す。)、または、下記式(S)で示される基(R41、R42は、独立して、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1~10のアルキル基、または炭素数1~10のアルコキシ基を示す。kは2または3である。)を示す。
【0177】
【0178】
R21とR22、R22とR25、およびR21とR23は、互いに連結して窒素原子と共に員数が5または6のそれぞれ複素環A、複素環B、および複素環Cを形成してもよい。
【0179】
複素環Aが形成される場合のR21とR22は、これらが結合した2価の基-Q-として、水素原子が炭素数1~6のアルキル基、炭素数6~10のアリール基または置換基を有していてもよい炭素数1~10のアシルオキシ基で置換されてもよいアルキレン基、またはアルキレンオキシ基を示す。
【0180】
複素環Bが形成される場合のR22とR25、および複素環Cが形成される場合のR21とR23は、これらが結合したそれぞれ2価の基-X1-Y1-および-X2-Y2-(窒素に結合する側がX1およびX2)として、X1およびX2がそれぞれ下記式(1x)または(2x)で示される基であり、Y1およびY2がそれぞれ下記式(1y)~(5y)から選ばれるいずれかで示される基である。X1およびX2が、それぞれ下記式(2x)で示される基の場合、Y1およびY2はそれぞれ単結合であってもよく、その場合、炭素原子間に酸素原子を有してもよい。
【0181】
【0182】
式(1x)中、4個のZは、それぞれ独立して水素原子、水酸基、炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基、または-NR38R39(R38およびR39は、それぞれ独立して、水素原子または炭素数1~20のアルキル基を示す)を示す。R31~R36はそれぞれ独立して水素原子、炭素数1~6のアルキル基または炭素数6~10のアリール基を、R37は炭素数1~6のアルキル基または炭素数6~10のアリール基を示す。
【0183】
R27、R28、R29、R31~R37、複素環を形成していない場合のR21~R23、およびR25は、これらのうちの他のいずれかと互いに結合して5員環または6員環を形成してもよい。R31とR36、R31とR37は直接結合してもよい。
【0184】
複素環を形成していない場合の、R21、R22、R23およびR25は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、水酸基、炭素数1~20のアルキル基、炭素数1~20のアルコキシ基、炭素数1~10のアシルオキシ基、炭素数6~11のアリール基、または、置換基を有していてもよく炭素原子間に酸素原子を有していてもよい炭素数7~18のアルアリール基を示す。
【0185】
なお、式(I)において、特に断りのない限り、炭化水素基はアルキル基、アリール基、またはアルアリール基である。特に断りのない限り、アルキル基および、アルコキシ基、アリール基またはアルアリール基におけるアルキル部分は、直鎖状、分岐鎖状、環状またはこれらの構造を組み合わせた構造でもよい。以下の他の式におけるアルキル基、アルコキシ基、アリール基、アルアリール基においても、同様である。式(I)において、R29における置換基としては、ハロゲン原子、水酸基、カルボキシ基、スルホ基、シアノ基、炭素数1~6のアシルオキシ基が挙げられる。R29を除いて「置換基を有してもよい」という場合の置換基としては、ハロゲン原子または炭素数1~15のアルコキシ基が例示できる。ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等が挙げられ、フッ素原子および塩素原子が好ましい。
【0186】
【0187】
ただし、式(II)中の記号は以下のとおりである。
環Zは、それぞれ独立して、ヘテロ原子を環中に0~3個有する5員環または6員環であり、環Zが有する水素原子は置換されていてもよい。水素原子が置換される場合、置換基としては、ハロゲン原子、または、置換基を有してもよい炭素数1~10のアルキル基が挙げられる。
【0188】
R1とR2、R2とR3、およびR1と環Zを構成する炭素原子またはヘテロ原子は、互いに連結して窒素原子とともにそれぞれヘテロ環A1、ヘテロ環B1およびヘテロ環C1を形成していてもよく、その場合、ヘテロ環A1、ヘテロ環B1およびヘテロ環C1が有する水素原子は置換されていてもよい。水素原子が置換される場合、置換基としては、ハロゲン原子、または、置換基を有してもよい炭素数1~15のアルキル基が挙げられる。
ヘテロ環を形成していない場合のR1およびR2は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、または、炭素原子間に不飽和結合、ヘテロ原子、飽和もしくは不飽和の環構造を含んでよく、置換基を有してもよい炭化水素基を示す。R4およびヘテロ環を形成していない場合のR3は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、または炭素原子間にヘテロ原子を含んでもよく、置換基を有してもよいアルキル基もしくはアルコキシ基を示す。
【0189】
式(II)において、炭化水素基の炭素数は1~15が挙げられる。アルキル基もしくはアルコキシ基の炭素数は1~10が挙げられる。式(II)において、「置換基を有してもよい」という場合の置換基としては、ハロゲン原子または炭素数1~10のアルコキシ基が例示できる。ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等が挙げられ、フッ素原子および塩素原子が好ましい。
【0190】
化合物(I)としては、例えば、式(I-1)~(I-4)のいずれかで示される化合物が挙げられる。
【0191】
【0192】
ただし、式(I-1)~式(I-4)中の記号は、式(I)における同記号の各規定と同じであり、好ましい態様も同様である。
【0193】
化合物(I-1)~(I-4)のうちでも、NIR色素(B)としては、これを含有する樹脂層の可視光透過率を高くできる観点から化合物(I-1)~(I-3)が好ましく、化合物(I-1)が特に好ましい。
【0194】
化合物(I-1)において、X1としては、基(2x)が好ましく、Y1としては、単結合または基(1y)が好ましい。この場合、R31~R36としては、水素原子または炭素数1~3のアルキル基が好ましく、水素原子またはメチル基がより好ましい。なお、-Y1-X1-として、具体的には、式(11-1)~(12-3)で示される2価の有機基が挙げられる。
【0195】
-C(CH3)2-CH(CH3)- …(11-1)
-C(CH3)2-CH2- …(11-2)
-C(CH3)2-CH(C2H5)- …(11-3)
-C(CH3)2-C(CH3)(nC3H7)- …(11-4)
-C(CH3)2-CH2-CH2- …(12-1)
-C(CH3)2-CH2-CH(CH3)- …(12-2)
-C(CH3)2-CH(CH3)-CH2- …(12-3)
【0196】
また、化合物(I-1)において、R21は、溶解性、耐熱性、さらに分光透過率曲線における可視域と近赤外域の境界付近の変化の急峻性の観点から、独立して、式(4-1)または式(4-2)で示される基がより好ましい。
【0197】
【0198】
式(4-1)および式(4-2)中、R81~R85は、独立して、水素原子、ハロゲン原子、または炭素数1~4のアルキル基を示す。
【0199】
化合物(I-1)において、R24は-NR27R28が好ましい。-NR27R28としては、NIR色素(B)と組み合わせる樹脂や樹脂基材上に樹脂層を形成する際に用いる溶媒への溶解性の観点から、-NH-C(=O)-R29が好ましい。化合物(I-1)において、R24が-NH-C(=O)-R29の化合物を式(I-11)に示す。
【0200】
【0201】
化合物(I-11)における、R23およびR26は、独立して、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1~6のアルキル基、または炭素数1~6のアルコキシ基が好ましく、いずれも水素原子がより好ましい。
【0202】
化合物(I-11)において、R29としては、置換基を有していてもよい炭素数1~20のアルキル基、置換基を有していてもよい炭素数6~10のアリール基、または置換基を有していてもよく、炭素原子間に酸素原子を有していてもよい炭素数7~18のアルアリール基が好ましい。置換基としては、フッ素原子等のハロゲン原子、水酸基、カルボキシ基、スルホ基、シアノ基、炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のフロロアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基、炭素数1~6のアシルオキシ基等が挙げられる。
【0203】
R29としては、水素原子、ハロゲン原子、水酸基、炭素数1~20のアルキル基、炭素数1~20のアルコキシ基、炭素数1~10のアシルオキシ基、炭素数6~11のアリール基、または、置換基を有していてもよく炭素原子間に酸素原子を有していてもよい炭素数7~18のアルアリール基が好ましい。
【0204】
R29としては、フッ素原子で置換されてもよい直鎖状、分岐鎖状、環状の炭素数1~17のアルキル基、炭素数1~6のフロロアルキル基および/または炭素数1~6のアルコキシ基で置換されてもよいフェニル基、および炭素原子間に酸素原子を有していてもよい炭素数7~18の、末端に炭素数1~6のフッ素原子で置換されていてもよいアルキル基および/または、炭素数1~6のアルコキシ基で置換されてもよいフェニル基を有するアルアリール基から選ばれる基が好ましい。
【0205】
R29としては、独立して1つ以上の水素原子がハロゲン原子、水酸基、カルボキシ基、スルホ基、またはシアノ基で置換されていてもよく、炭素原子間に不飽和結合、酸素原子、飽和もしくは不飽和の環構造を含んでよい、少なくとも1以上の分岐を有する炭素数5~25の炭化水素基である基も好ましく使用できる。このようなR29としては、例えば、下記式(11a)、(11b)、(12a)~(12e)、(13a)~(13e)で示される基が挙げられる。
【0206】
【0207】
【0208】
化合物(I-11)としては、より具体的に、以下の表6に示す化合物が挙げられる。なお、表6において、基(11-1)を(11-1)と示す。他の基についても同様である。以下の他の表においても基の表示は同様である。また、表6に示す化合物は、いずれもスクアリリウム骨格の左右において各記号の意味は同一である。以下の他の表に示すスクアリリウム色素においても同様である。
【0209】
【0210】
化合物(I-1)において、R24は、可視光の透過率、特に波長430~550nmの光の透過率を高める観点から、-NH-SO2-R30が好ましい。化合物(I-1)において、R24が-NH-SO2-R30の化合物を式(I-12)に示す。
【0211】
【0212】
化合物(I-12)における、R23およびR26は、独立して、水素原子、ハロゲン原子、または炭素数1~6のアルキル基もしくは炭素数1~6のアルコキシ基が好ましく、いずれも水素原子がより好ましい。
【0213】
化合物(I-12)において、R30は耐光性の点から、独立して、分岐を有してもよい炭素数1~12のアルキル基、分岐を有してもよい炭素数1~12のアルコキシ基、または不飽和の環構造を有する炭素数6~16の炭化水素基が好ましい。不飽和の環構造としては、ベンゼン、トルエン、キシレン、フラン、ベンゾフラン等が挙げられる。R30は、独立して、分岐を有してもよい炭素数1~12のアルキル基もしくは分岐を有してもよい炭素数1~12のアルコキシ基がより好ましい。なお、R30を示す各基において、水素原子の一部または全部がハロゲン原子、特にはフッ素原子に置換されていてもよい。なお、水素原子のフッ素原子への置換は、色素(I-12)を含有する樹脂層と樹脂基材との密着性が落ちない程度とする。
【0214】
不飽和の環構造を有するR30として具体的には、下記式(P2)、(P3)、(P7)、(P8)、(P10)~(P13)で示される基が挙げられる。
【0215】
【0216】
化合物(I-12)としては、より具体的に、以下の表7に示す化合物が挙げられる。
【0217】
【0218】
化合物(II)としては、例えば、式(II-1)~(II-3)のいずれかで示される化合物が挙げられる。
【0219】
【0220】
ただし、式(II-1)、式(II-2)中、R1およびR2は、それぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、または、置換基を有してもよい炭素数1~15のアルキル基を示し、R3~R6はそれぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、または、置換基を有してもよい炭素数1~10のアルキル基を示す。
【0221】
ただし、式(II-3)中、R1、R4、およびR9~R12は、それぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、または、置換基を有してもよい炭素数1~15のアルキル基を示し、R7およびR8はそれぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、または、置換基を有してもよい炭素数1~5のアルキル基を示す。
【0222】
化合物(II-1)および化合物(II-2)におけるR1およびR2は、樹脂への溶解性、可視光透過性等の観点から、独立して、炭素数1~15のアルキル基が好ましく、炭素数7~15のアルキル基がより好ましく、R1とR2の少なくとも一方が、炭素数7~15の分岐鎖を有するアルキル基がさらに好ましく、R1とR2の両方が炭素数8~15の分岐鎖を有するアルキル基が特に好ましい。
【0223】
R3は、樹脂への溶解性、可視光透過性等の観点から、独立して、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1~3のアルキル基が好ましく、水素原子、ハロゲン原子、メチル基がより好ましい。R4は、可視域と近赤外域の境界付近の変化の急峻性の観点から、水素原子、ハロゲン原子が好ましく、水素原子がとくに好ましい。化合物(II-1)におけるR5および化合物(II-2)におけるR6は、独立して、水素原子、ハロゲン原子、ハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数1~5のアルキル基が好ましく、水素原子、ハロゲン原子、メチル基がより好ましい。
【0224】
化合物(II-1)および化合物(II-2)としては、より具体的に、それぞれ以下の表8および表9に示す化合物が挙げられる。表8および表9において、-C8H17、-C4H9、-C6H13は、直鎖のオクチル基、ブチル基、ヘキシル基をそれぞれ示す。
【0225】
【0226】
【0227】
化合物(II-3)におけるR1は、樹脂への溶解性、可視光透過性等の観点から、独立して、炭素数1~15のアルキル基が好ましく、炭素数1~10のアルキル基がより好ましく、エチル基、イソプロピル基が特に好ましい。
【0228】
R4は、可視光透過性、合成容易性の観点から、水素原子、ハロゲン原子が好ましく、水素原子が特に好ましい。R7およびR8は、独立して、水素原子、ハロゲン原子、ハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数1~5のアルキル基が好ましく、水素原子、ハロゲン原子、メチル基がより好ましい。
【0229】
R9~R12は、独立して、水素原子、ハロゲン原子、ハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数1~5のアルキル基が好ましい。-CR9R10-CR11R12-として、上記基(11-1)~(11-3)または、以下の式(11-5)で示される2価の有機基が挙げられる。
-C(CH3)(CH2-CH(CH3)2)-CH(CH3)-…(11-5)
【0230】
化合物(II-3)としては、より具体的に、以下の表10に示す化合物が挙げられる。
【0231】
【0232】
NIR色素(B)としては、これらの中でも、樹脂や溶媒への溶解性、可視透過性の点から、色素(I-11)および色素(I-12)が好ましく、表6に示す色素(I-11)および表7に示す色素(I-12)がより好ましい。さらに、これらの中でも、色素(I-11-7)、色素(I-11-20)、色素(I-12-2)、色素(I-12-9)、色素(I-12-15)等が好ましい。
【0233】
NIR色素(B)は、1種の化合物からなってもよく、2種以上の化合物からなってもよい。2種以上の化合物からなる場合は、個々の化合物がNIR色素(B)の性質を必ずしも有する必要はなく、混合物として、NIR色素(B)の性質を有すればよい。
【0234】
化合物(I)および化合物(II)は、それぞれ公知の方法で、製造できる。化合物(I)について、化合物(I-11)は、例えば、米国特許第5,543,086号明細書に記載された方法で製造できる。化合物(I-12)は、例えば、米国特許出願公開第2014/0061505号明細書、国際公開第2014/088063号に記載された方法で製造可能である。化合物(II)については、国際公開第2017/135359号に記載された方法で製造可能である。
【0235】
NIR色素(B)を含有する外部樹脂層または中間樹脂層におけるNIR色素(B)の含有量は、樹脂層の厚みによるが、NIR遮蔽性および溶解性の観点から、該層が含有する樹脂100質量部に対して、0.1~20質量部が好ましく、1~20質量部がより好ましい。NIR色素(B)を含有する樹脂層の厚みが5μm以下の場合には、該樹脂層におけるNIR色素(B)の含有量は、樹脂100質量部に対して、5~20質量部が好ましく、5~15質量部がより好ましい。
【0236】
外部樹脂層または中間樹脂層はNIR色素に加えて、本発明の効果を損なわない範囲でNIR色素以外の色素、例えばUV色素を含有してもよい。
【0237】
(UV色素)
外部樹脂層または中間樹脂層が任意に含有するUV色素としては、下記(iii-1)の要件を満足するUV色素(U)が好ましい。
【0238】
(iii-1)ジクロロメタンに溶解して測定される波長350~1100nmの分光透過率曲線において、最大吸収波長λmax(U)DCMが380~420nmの波長領域にある。UV色素(U)の最大吸収波長λmax(U)DCMは、波長380~415nmにあるとより好ましく、波長390~410nmにあるとさらに好ましい。
【0239】
UV色素(U)の具体例としては、オキサゾール色素、メロシアニン色素、シアニン色素、ナフタルイミド色素、オキサジアゾール色素、オキサジン色素、オキサゾリジン色素、ナフタル酸色素、スチリル色素、アントラセン色素、環状カルボニル色素、トリアゾール色素等が挙げられる。この中でも、オキサゾール色素、メロシアニン色素が好ましく、メロシアニン色素がより好ましい。UV色素(U)は、外部樹脂層または中間樹脂層に1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0240】
UV色素(U)は、さらに、下記(iii-2)の要件を満足することが好ましい。
(iii-2)ジクロロメタンに最大吸収波長λmax(u)DCMにおける透過率が1%となるように含有させて測定される、波長350~1100nmの分光透過率曲線において、波長435~500nmの平均透過率(以下、「T435-500ave(u)DCM」で示す。)が94%以上であり、かつ、波長500~600nmの平均透過率(以下、「T500-600ave(u)DCM」で示す。)が94%以上である。
【0241】
T435-500ave(u)DCMは、95%以上が好ましく、96%以上がより好ましい。T500-600ave(u)DCMは、95%以上が好ましく、96%以上がより好ましい。
【0242】
NIR色素(A)、好ましくはNIR色素(A)およびNIR色素(B)とともに、(iii-1)と(iii-2)を満足するUV色素(U)を使用すれば、本フィルタにおいて、可視光の高い透過率と良好なNIR遮蔽特性およびUV遮蔽特性を達成できる。
【0243】
UV色素(U)としては、特に、式(M)で示されるメロシアニン色素が好ましい。
【0244】
【0245】
式(M)中、Yは、置換もしくは非置換のメチレン基または酸素原子を示す。置換されたメチレン基の置換基としては、ハロゲン原子、および炭素数1~10のアルキル基またはアルコキシ基が挙げられ、好ましくは炭素数1~10のアルキル基またはアルコキシ基である。Yが置換もしくは非置換のメチレン基の場合、非置換のメチレン基または水素原子の1つが炭素数1~4のアルキル基で置換されたメチレン基が好ましく、非置換のメチレン基が特に好ましい。
【0246】
Q1は、置換または非置換の炭素数1~12の1価の炭化水素基を表す。Q1が、置換された炭化水素基である場合の置換基としては、アルコキシ基、アシル基、アシルオキシ基、シアノ基、ジアルキルアミノ基または塩素原子が好ましい。上記アルコキシ基、アシル基、アシルオキシ基およびジアルキルアミノ基の炭素数は1~6が好ましい。
【0247】
上記の置換基を有しないQ1として具体的には、水素原子の一部が脂肪族環、芳香族環もしくはアルケニル基で置換されていてもよい炭素数1~12のアルキル基、水素原子の一部が芳香族環、アルキル基もしくはアルケニル基で置換されていてもよい炭素数3~8のシクロアルキル基、および水素原子の一部が脂肪族環、アルキル基もしくはアルケニル基で置換されていてもよい炭素数6~12のアリール基が好ましい。
【0248】
Q1が非置換のアルキル基である場合、そのアルキル基は直鎖状であっても、分岐状であってもよく、その炭素数は1~6がより好ましい。
【0249】
Q1が、水素原子の一部が脂肪族環、芳香族環もしくはアルケニル基で置換された炭素数1~12のアルキル基である場合、炭素数3~6のシクロアルキル基を有する炭素数1~4のアルキル基、フェニル基で置換された炭素数1~4のアルキル基がより好ましく、フェニル基で置換された炭素数1または2のアルキル基が特に好ましい。なお、アルケニル基で置換されたアルキル基とは、全体としてアルケニル基であるが1、2位間に不飽和結合を有しないものを意味し、例えばアリル基や3-ブテニル基等をいう。
【0250】
好ましいQ1は、水素原子の一部がシクロアルキル基またはフェニル基で置換されていてもよい炭素数1~6のアルキル基である。特に好ましいQ1は炭素数1~6のアルキル基であり、具体的には、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、t-ブチル基等が挙げられる。
【0251】
Q2~Q5は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1~10のアルキル基、または炭素数1~10のアルコキシ基を表す。アルキル基およびアルコキシ基の炭素数は1~6が好ましく、1~4がより好ましい。
【0252】
Q2およびQ3は、少なくとも一方が、アルキル基が好ましく、いずれもアルキル基がより好ましい。Q2またはQ3がアルキル基でない場合は、水素原子がより好ましい。Q2およびQ3は、いずれも炭素数1~6のアルキル基が特に好ましい。
【0253】
Q4およびQ5は、少なくとも一方が、水素原子が好ましく、いずれも水素原子がより好ましい。Q4またはQ5が水素原子でない場合は、炭素数1~6のアルキル基が好ましい。
【0254】
Zは、式(Z1)~(Z5)で表される2価の基のいずれかを表す。
【0255】
【0256】
式(Z1)~(Z5)において、Q8~Q19は、それぞれ独立に置換または非置換の炭素数1~12の1価の炭化水素基を表す。これらが、置換された炭化水素基である場合の置換基としては、Q1における置換基と同様の置換基が挙げられ、好ましい態様も同様である。Q8~Q19が置換基を有しない炭化水素基である場合、置換基を有しないQ1と同様の態様が挙げられる。
【0257】
式(Z1)において、Q8およびQ9は異なる基であってもよいが、同一の基が好ましい。Q8およびQ9が非置換のアルキル基である場合、そのアルキル基は直鎖状であっても、分岐状であってもよく、その炭素数は1~6がより好ましい。
【0258】
好ましいQ8およびQ9は、いずれも、水素原子の一部がシクロアルキル基またはフェニル基で置換されていてもよい炭素数1~6のアルキル基である。特に好ましいQ8およびQ9は、いずれも、炭素数1~6のアルキル基であり、具体的には、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、t-ブチル基等が挙げられる。
【0259】
式(Z2)において、Q10とQ11は、いずれも、炭素数1~6のアルキル基がより好ましく、それらは同一のアルキル基が特に好ましい。
【0260】
式(Z3)において、Q12およびQ15は、いずれも水素原子であるか、置換基を有しない炭素数1~6のアルキル基が好ましい。同じ炭素原子に結合した2つの基であるQ13とQ14は、いずれも水素原子であるか、いずれも炭素数1~6のアルキル基が好ましい。式(Z4)における、同じ炭素原子に結合した2つの基Q16とQ17およびQ18とQ19は、いずれも水素原子であるか、いずれも炭素数1~6のアルキル基が好ましい。
【0261】
式(M)で表される化合物としては、Yが酸素原子であり、Zが基(Z1)または基(Z2)である化合物、および、Yが非置換のメチレン基であり、Zが基(Z1)または基(Z5)である化合物が好ましい。
【0262】
色素(M)の具体例としては、より具体的に、以下の表11に示す化合物が挙げられる。なお、表11において-C3H7はn-プロピル基を示す。
【0263】
【0264】
UV色素(U)としては、これらの中でも、樹脂や溶媒への溶解性、可視透過性、特には(iii-2)を満足できる等の点から、色素(M-1)、色素(M-2)、色素(M-5)、色素(M-6)等が好ましい。なお、化合物(M)は公知の方法で製造できる。
【0265】
UV色素(U)は、1種の化合物からなってもよく、2種以上の化合物からなってもよい。2種以上の化合物からなる場合は、個々の化合物がUV色素(U)の性質を必ずしも有する必要はなく、混合物として、UV色素(U)の性質を有すればよい。
【0266】
UV色素(U)を含有する外部樹脂層または中間樹脂層におけるUV色素(U)の含有量は、樹脂層の厚みによるが、UV遮蔽性および溶解性の観点から、該層が含有する樹脂100質量部に対して、0.01~20質量部が好ましく、0.05~20質量部がより好ましく、0.1~20質量部がさらに好ましい。なお、外部樹脂層または中間樹脂層はUV色素(U)に加えて、本発明の効果を損なわない範囲でその他のUV色素を含有してもよい。
【0267】
本フィルタは、樹脂を含む部材全体としての光学特性が(i-1)~(i-5)の全てを満足する、すなわち本フィルタから誘電体多層膜を除いた状態で測定される光学特性が(i-1)~(i-5)の全てを満足するのが好ましい。これにより、本フィルタは、可視光の高い透過性および近赤外光の高い遮蔽性を有する。
【0268】
具体的には、
図1に示す光学フィルタ10Aであれば、樹脂基材1の一方の主面に中間樹脂層4および外部樹脂層2が積層された構成、
図2に示す光学フィルタ10Bであれば、樹脂基材1の両方の主面に第1の中間樹脂層4a、第1の外部樹脂層2aおよび第2の中間樹脂層4b、第2の外部樹脂層2bがそれぞれ積層された構成において測定される光学特性が(i-1)~(i-5)を満足するのが好ましい。なお、これらの光学特性は入射角0度における光学特性である。
【0269】
(i-1)630~750nmの波長領域に光の内部透過率が20%を示す波長がある。該波長は、650~690nmの波長領域にあることが好ましく、650~680nmの波長領域にあることがより好ましい。
(i-2)800~1200nmの波長領域に光の内部透過率が50%以下になる波長がある。該波長は、800~900nmの波長領域にあることが好ましく、800~870nmの波長領域にあることがより好ましい。
(i-3)波長450nmの吸光度/800~1200nmの波長領域における最大吸光度≦0.075。波長450nmの吸光度/800~1200nmの波長領域における最大吸光度は、0.07以下が好ましく、0.06以下がより好ましい。
(i-4)波長500nmの吸光度/800~1200nmの波長領域における最大吸光度≦0.065。波長500nmの吸光度/800~1200nmの波長領域における最大吸光度は、0.06以下が好ましく、0.05以下がより好ましい。
(i-5)波長700nmの吸光度/800~1200nmの波長領域における最大吸光度≧1.00。波長700nmの吸光度/800~1200nmの波長領域における最大吸光度は、1.5以上が好ましく、1.6以上がより好ましい。
【0270】
[誘電体多層膜]
図1の光学フィルタ10Aおよび
図2の光学フィルタ10Bに示されるように、本フィルタは、両側の主面が誘電体多層膜で構成される。本フィルタにおいて、誘電体多層膜の少なくとも一方はNIR反射層として設計される。本フィルタは、樹脂基材、中間樹脂層および外部樹脂層が上記構成を有することで熱や応力による変形が生じにくく、これにより樹脂基材または外部樹脂層からの誘電体多層膜の剥離が十分に抑制されている。さらに、外部樹脂層が含有する樹脂の特性により、外部樹脂層上の誘電体多層膜の剥離が十分に抑制されている。
【0271】
本フィルタにおいて、NIR色素(A)を含む色素は、上記規定にしたがって中間樹脂層および/または外部樹脂層に含有される。以下の説明において、本フィルタが中間樹脂層を有しない場合の外部樹脂層、または本フィルタが外部樹脂層と中間樹脂層を有する場合の外部樹脂層と中間樹脂層が積層された樹脂層を、吸収層ともいう。
【0272】
NIR反射層は、近赤外域の光を遮蔽するように設計された誘電体多層膜である。NIR反射層としては、例えば、可視光を透過し、吸収層の遮光域以外の近赤外域の光を主に反射する波長選択性を有する。なお、NIR反射層の反射領域は、吸収層の近赤外域における遮光領域を含んでもよい。NIR反射層は、NIR反射特性に限らず、近赤外域以外の波長域の光、例えば、近紫外域をさらに遮断する仕様に適宜設計してよい。
【0273】
本フィルタにおいて、吸収層とNIR反射層は以下の関係を有することが好ましい。吸収層は、入射角0度の光に対する近赤外域の吸収領域における透過率が20%を示す波長の短波長側の波長λABIRSHT20-0°が、650~720nmの波長領域に有ることが好ましい。そして、λABIRSHT20-0°は、NIR反射層において入射角0度の光に対して近赤外域の反射領域における透過率が20%を示す短波長側の波長λREIRSHT20-0°との関係が(iv-1)を満足することが好ましい。
(iv-1)λABIRSHT20-0°+30nm≦λREIRSHT20-0°≦790nm
【0274】
NIR反射層は、さらに(iv-2)を満足することが好ましい。
(iv-2)λREIRSHT20-0°からλREIRSHT20-0°+300nmまでの波長領域の光における平均透過率が10%以下である。
【0275】
本フィルタは、吸収層が、NIR色素(A)を含有することでNIR反射層による高い角度で入射した光に対する光漏れを吸収し、高い近赤外光遮蔽性を有する。本フィルタは、好ましい態様において、吸収層がNIR色素(B)を含有することで、NIR反射層による高い角度で入射した光に対するNIR反射層の入射角依存性を抑制できる。特に、可視光域と近赤外域の境界におけるNIR反射層の入射角依存性を抑制できる。
【0276】
本フィルタにおいて、吸収層がUV色素(U)をさらに含有し、NIR反射層が近紫外域をさらに遮断する仕様に設計されている場合、吸収層とNIR反射層は以下の関係を有することが好ましい。
【0277】
吸収層は、入射角0度の光に対する近紫外域の吸収領域における透過率が20%を示す波長の長波長側の波長λABUVLO20-0°が、395~420nmの波長領域に有ることが好ましい。また、NIR反射層において入射角0度の光に対する近紫外域の反射領域における透過率が20%を示す長波長側の波長λREUVLO20-0°は、390~420nmの波長領域に有ることが好ましい。
【0278】
NIR反射層は、低屈折率の誘電体膜(低屈折率膜)と高屈折率の誘電体膜(高屈折率膜)とを交互に積層した誘電体多層膜から構成される。高屈折率膜は、好ましくは、屈折率が1.6以上であり、より好ましくは2.2~2.5である。高屈折率膜の材料としては、例えばTa2O5、TiO2、Nb2O5が挙げられる。これらのうち、成膜性、屈折率等における再現性、安定性等の点から、TiO2が好ましい。
【0279】
一方、低屈折率膜は、好ましくは、屈折率1.6未満であり、より好ましくは1.45以上1.55未満である。低屈折率膜の材料としては、例えばSiO2、SiOxNy等が挙げられる。成膜性における再現性、安定性、経済性等の点から、SiO2が好ましい。
【0280】
さらに、NIR反射層は、透過域と遮光域の境界波長領域で透過率が急峻に変化することが好ましい。この目的のためには、NIR反射層を構成する誘電体多層膜の合計積層数は、15層以上が好ましく、25層以上がより好ましく、30層以上がさらに好ましい。ただし、合計積層数が多くなると、反り等が発生したり、膜厚が増加したりするため、合計積層数は100層以下が好ましく、75層以下がより好ましく、60層以下がより一層好ましい。また、誘電体多層膜の膜厚は、2~10μmが好ましい。
【0281】
誘電体多層膜の合計積層数や膜厚が上記範囲内であれば、NIR反射層は小型化の要件を満たし、高い生産性を維持しながら入射角依存性を抑制できる。また、誘電体多層膜の形成には、例えば、CVD法、スパッタリング法、真空蒸着法等の真空成膜プロセスや、スプレー法、ディップ法等の湿式成膜プロセス等を使用できる。
【0282】
NIR反射層は、1層(1群の誘電体多層膜)で所定の光学特性を与えたり、2層で所定の光学特性を与えたりしてもよい。
図1に示す光学フィルタ10Aを例に説明すると、光学フィルタ10Aが有する第1の誘電体多層膜3aおよび第2の誘電体多層膜3bは、一方がNIR反射層の場合、他方はNIR反射層、近赤外域以外の反射域を有する反射層、または反射防止層である。
【0283】
第1の誘電体多層膜3aまたは第2の誘電体多層膜3bが、近赤外域以外の反射域を有する反射層または反射防止層である場合も、該誘電体多層膜は、上記NIR反射層と同様に、低屈折率膜と高屈折率膜の交互の積層構造が所望の反射特性を与えるように適宜設計されて、作製される。
【0284】
第1の誘電体多層膜3aおよび第2の誘電体多層膜3bの両方がNIR反射層の場合、各NIR反射層は同じ構成でも異なる構成でもよい。NIR反射層を2層有する場合、通常、2層は反射帯域が異なるように構成される。
【0285】
2層のNIR反射層を設ける場合、例えば、一方を近赤外域のうち短波長帯の光を遮蔽するNIR反射層とし、他方を該近赤外域の長波長帯および近紫外域の両領域の光を遮蔽するNIR反射層としてもよい。
【0286】
本フィルタは、他の構成要素として、例えば、特定の波長域の光の透過と吸収を制御する無機微粒子等による吸収を与える構成要素(層)などを備えてもよい。無機微粒子の具体例としては、ITO(Indium Tin Oxides)、ATO(Antimony-doped Tin Oxides)、タングステン酸セシウム、ホウ化ランタン等が挙げられる。ITO微粒子、タングステン酸セシウム微粒子は、可視光の透過率が高く、かつ1200nmを超える赤外波長領域の広範囲に光吸収性を有するため、かかる赤外光の遮蔽性を必要とする場合に使用できる。
【0287】
本フィルタは、可視光の高い透過性および、近赤外光、特に長波長域における近赤外光の高い遮蔽性を有するとともに、樹脂層と誘電体多層膜の密着性に優れ、かつ熱変形が抑制されて耐熱性に優れる光学フィルタである。
【0288】
本フィルタは、光学特性においては、具体的には以下の(I-1)~(I-5)の全ての要件を満足することが好ましい。
【0289】
(I-1)入射角0度における435~480nmの波長領域の光の平均透過率T435-480ave0が82%以上である。T435-480ave0は、82.5%以上がより好ましい。
(I-2)入射角0度における490~560nmの波長領域の光の平均透過率T490-560ave0が82%以上である。T490-560ave0は、83.5%以上がより好ましい。
【0290】
(I-3)入射角0度における光の透過率において、波長領域600~700nmに透過率が20%となる波長が存在する。透過率が20%となる波長が存在する波長領域は650~690nmがより好ましく、660~680nmがさらに好ましい。
(I-4)入射角0度において600~700nmの波長領域で光の透過率が20%を示す波長λ0°-20%と入射角30度において600~700nmの波長領域で光の透過率が20%を示す波長λ30°-20%の差|λ0°-20%-λ30°-20%|が5nm以下である。|λ0°-20%-λ30°-20%|は、4nm以下がより好ましく、3nm以下がさらに好ましい。
(I-5)入射角0度および入射角30度のいずれにおいても、前記近赤外線吸収色素(A)の最大吸収波長λmax(A)TR±10nmの波長領域における最小ODが4.0以上である。該最小ODは、4.5以上が好ましい。
【0291】
本フィルタは、例えば、デジタルスチルカメラ等の撮像装置に使用した場合に、色再現性に優れるとともに、該色再現性の耐熱性に優れる撮像装置を提供できる。また、好ましい態様の本フィルタにおいて、誘電体多層膜の剥離が抑制されることで耐久性に優れた撮像装置を提供できる。本フィルタを用いた撮像装置は、固体撮像素子と、撮像レンズと、本フィルタとを備える。本フィルタは、例えば、撮像レンズと固体撮像素子との間に配置されたり、撮像装置の固体撮像素子、撮像レンズ等に粘着剤層を介して直接貼着されたりして使用できる。
【実施例】
【0292】
次に、本発明を実施例によりさらに具体的に説明する。以下の各光学特性の測定には、紫外可視分光光度計((株)日立ハイテクノロジーズ社製、U-4100形)を用いた。
【0293】
[樹脂基材用の樹脂の評価]
表12に示す市販品の樹脂フィルムを用いて、入射角5度における波長350~1100nmの分光透過率曲線および分光反射率曲線を得た。得られた透過率および反射率を用いて、厚み100μmに換算した、波長350~450nmの平均内部透過率T350-450ave(TR)、および波長400~450nmの最小内部透過率T400-450min(TR)を求めた。
【0294】
結果を各樹脂フィルムの商品名、厚み、樹脂の種類、製造元、Tgとともに表12に示す。表12中、ネオプリム、PURE-ACE、テオネックス、ZeonorFilmは登録商標である。以下の記載においては、登録商標を省略して、符号のみを示す。「M5-80」、「S5-100」は、PURE-ACE(登録商標)M5の80μm厚フィルム、同S5の100μm厚フィルムを示す。以下において「M5-80」は同様の意味である。樹脂の種類は以下の略号を用いた。PIはポリイミド樹脂、PCはポリカーボネート樹脂、PETはポリエチレンテレフタレート樹脂、PENはポリエチレンナフタレート樹脂、COPはシクロオレフィン樹脂である。
【0295】
【0296】
表12から、ポリイミド樹脂のL-3G30、ポリカーボネート樹脂のM5-80、S5-100が、本フィルタの樹脂基材における樹脂(P)として適用可能であるとわかる。
【0297】
[NIR色素(A)含有樹脂層の作製、評価]
以下のNIR色素(A)および樹脂を用いて樹脂層を作製して光学特性を測定し、NIR色素(A)と樹脂を組み合わせた樹脂層の本フィルタへの適用性を評価した。
【0298】
(NIR色素(A))
スクアリリウム色素として、色素(ASi-22)および色素(ASiii-5)、ジケトピロロピロール色素として色素(AD-1)を常法により合成して用いた。
【0299】
(樹脂)
NIR色素(A)含有樹脂層作製用の樹脂として以下の市販品を準備した。
・ARTON(登録商標)F4520(JSR社製、商品名、以下「F4520」で示す。)、シクロオレフィン樹脂、Tg:162℃
・OKP-850(大阪ガスケミカル(株)製、商品名)、ポリエチレンテレフタレート樹脂、Tg:150℃
・ネオプリム(登録商標)C-3G30(三菱ガス化学(株)製、商品名、以下「C-3G30」で示す。)、ポリイミド樹脂を含有するワニス、含有するポリイミド樹脂のTg:320℃
・FPC-0220(三菱ガス化学(株)製、商品名)、ポリカーボネート樹脂、Tg:186℃
・SP3810(帝人(株)製、商品名)、ポリカーボネート樹脂、Tg:150℃
・PLEXIMID8817(ダイセルエボニック社製、商品名)、アクリルイミド樹脂、軟化点:170℃
・BR50(三菱レイヨン(株)製、商品名)、アクリル樹脂、Tg:105℃
【0300】
樹脂の種類は上記と同様の略号を用いた。また、アクリルイミド樹脂についてはAI、アクリル樹脂についてはAPを用いた。
【0301】
(1-1)ジクロロメタン中の光学特性
NIR色素(A)をジクロロメタン(表中、「DCM」で示す。)に溶解し、波長400~1200nmの分光透過率曲線を測定した。波長400~1200nm中の最大吸収波長λmax(A)DCMおよび該最大吸収波長における透過率が10%となるように含有させて測定される、波長435~480nmの光の平均透過率TAVE435-480(A)DCM、および波長490~560nmの光の平均透過率TAVE490-560(A)DCMを求めた。結果を色素(ASi-22)については表13、色素(ASiii-5)については表14、色素(AD-1)については表15に示す。
【0302】
(1-2)樹脂中の光学特性
NIR色素(A)を表13~15に示す樹脂とシクロヘキサノンに溶解し塗工液を得た。NIR色素(A)の含有割合は樹脂100質量部に対して7.5質量部とした。得られた塗工液をガラス板(D263;SCHOTT製、以下、ガラス板は全てD263;SCHOTT製を用いた。)上に塗布し、乾燥して膜厚1.0μmのNIR色素(A)含有樹脂層を得た。入射角5度における波長400~1200nmのNIR色素(A)含有樹脂層付きガラス板の分光透過率曲線および分光反射率曲線を測定した。同様にガラス板の分光透過率曲線および分光反射率曲線を測定した。これらを用いてNIR色素(A)含有樹脂層の分光内部透過率曲線を得た。
【0303】
得られた分光内部透過率曲線から、最大吸収波長λmax(A)TR、該最大吸収波長λmax(A)TRでの光の内部透過率が10%である場合の、波長435~480nmの光の平均内部透過率TAVE435-480(A)TR、波長490~560nmの光の平均内部透過率TAVE490-560(A)TR、波長435nmの光の内部透過率T435(A)TR、波長550nmの光の内部透過率T550(A)TR、および波長700nmの光の内部透過率T700(A)TRを求めた。結果を表13~15に示す。
【0304】
なお、表13~15の光学特性の項目欄はDCMと樹脂に共通しているため、項目欄には、光学特性の略称をその末尾のDCMとTRを省略して記載した。
【0305】
さらに、上記(1-1)と(1-2)の結果から、|TAVE435-480(A)DCM-TAVE435-480(A)TR|および|TAVE490-560(A)DCM-TAVE490-560(A)TR|を算出し、表13~15に示した。
【0306】
【0307】
【0308】
【0309】
表13~15によれば、NIR色素(A)は可視光の吸収が少ない色素であり、該色素をシクロオレフィン樹脂に含有させた樹脂層では、その特性が維持されて可視光透過率が高いことがわかる。ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリイミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、アクリルイミド樹脂、アクリル樹脂を用いた場合、NIR色素(A)を含有する樹脂層は、シクロオレフィン樹脂を用いた場合に比べて高い可視光透過率が得られないことがわかる。
【0310】
(1-3)NIR色素(A)含有樹脂層の耐光性
NIR色素(A)として、色素(ASiii-5)を用い、樹脂としてF4520およびC-3G30をそれぞれ用いて、上記(1-2)と同様にして2種類の塗工液を調製した。
【0311】
得られた塗工液を、誘電体多層膜(赤外光および紫外光を反射するUVIR反射層;後述の例1で用いたのと同様のUVIR反射層1)付きガラス板のUVIR反射層を有しない主面上に塗布し、乾燥して膜厚1.0μmのNIR色素(A)含有樹脂層を作製した。NIR色素(A)含有樹脂層上に、誘電体多層膜(NIR色素(A)含有樹脂層からSiO2とTiO2を交互に積層した厚み3.25μm反射防止層)を成膜して、耐光性試験用の光学サンプルとした。
【0312】
得られた光学サンプルについて、スガ試験機株式会社製スーパーキセノンウエザーメーターを用いて耐光性試験を行った。すなわち、光学サンプルをスーパーキセノンウエザーメーターに投入し、300~2450nmの波長帯域で積算光量として80000J/mm2になるように照射する耐光性試験を行った。試験前の最大吸収波長λmax(A)TRにおける、耐光性試験の前後の吸光度(ABS)から以下の式により色素の残存率を算出した。
色素の残存率=試験後の吸光度/試験前の吸光度
【0313】
【0314】
[外部樹脂層の作製、評価]
NIR色素(B)として色素(I-12-15)を用い、樹脂として脂環式エポキシ樹脂、C-3G30、SP3810、およびF4520を用いて樹脂層を作製して、誘電体多層膜との密着性および光学特性を測定し、NIR色素(B)と樹脂を組み合わせた樹脂層の本フィルタの外部樹脂層への適用性を評価した。
【0315】
(2-1)密着性評価サンプルの作製および密着性評価)
ガラス板上にNIR色素(B)含有樹脂層および誘電体多層膜をその順に有する密着性評価サンプルを作製し密着性を評価した。
【0316】
脂環式エポキシ樹脂を用いた樹脂層は、日本国特開2017-149896号公報に記載される方法にしたがって作製した。まず、EHPE3150(ダイセル社製、商品名)をトルエン溶媒で希釈して固形分濃度28.5質量%のモノマー溶液を作製し、該モノマー溶液に樹脂成分(EHPE3150)に対して7.5質量%になるように色素(I-12-15)を添加した。色素を含む調合液に添加剤として3-メルカプトプロピルトリメトキシシランおよび硬化触媒としてトリス(ペンタフルオロフェニル)ボランを、それぞれ樹脂成分に対して10質量%、および2.5質量%になるように添加して塗工液とした。得られた塗工液を用いてガラス板上に厚み1.0μmのNIR色素(B)含有樹脂層を形成した。塗工液の硬化条件は、160℃、1時間であった。
【0317】
C-3G30、SP3810およびF4520については、上記(1-2)において、NIR色素(A)をNIR色素(B)に代えた以外は同様にして、ガラス板上に厚み1.0μmのNIR色素(B)含有樹脂層を形成した。
【0318】
NIR色素(B)含有樹脂層上に、誘電体多層膜(NIR色素(B)含有樹脂層からSiO2とTiO2を交互に積層した厚み3.25μm反射防止層)を成膜して、密着性評価用のサンプルとした。該サンプルの反射防止層上にセロハンテープを貼付し、クロスカット法(JIS K5600)により評価を行った。クロスカット100マスのうち剥がれが5以下の場合を「○」、6以上の場合を「×」とした。
【0319】
脂環式エポキシ樹脂、C-3G30(ポリイミド樹脂)を用いた場合については、○の評価が得られた。SP3810(ポリカーボネート樹脂)、F4520(シクロオレフィン樹脂)を用いた場合については、評価は×であった。
【0320】
(2-2)光学特性評価サンプルの作製および評価
脂環式エポキシ樹脂およびC-3G30(ポリイミド樹脂)を用いて、上記(2-1)と同様にして、ガラス板上にNIR色素(B)含有樹脂層を形成して光学特性評価サンプルとした。該サンプルを用いて、上記(1-2)と同様にしてNIR色素(B)含有樹脂層の分光内部透過率曲線を得た。さらに、NIR色素(B)の最大吸収波長λmax(B)TRの短波長側で内部透過率が20%となる波長λSH20%が665nmとなるよう
に規格化した。
【0321】
得られた分光内部透過率曲線から、最大吸収波長λmax(B)TR、該最大吸収波長λmax(A)TRでの光の内部透過率が10%である場合の、波長435~480nmの光の平均内部透過率TAVE435-480(B)TR、波長490~560nmの光の平均内部透過率TAVE490-560(B)TR、λmax(B)TRより短波長側で内部透過率が20%となる波長λSH20%、70%となる波長λSH70%、λSH20%-λSH70%を求めた。結果を表17に示す。
【0322】
【0323】
上記結果から脂環式エポキシ樹脂またはポリイミド樹脂を含有する外部樹脂層を用いることで、誘電体多層膜の密着性に優れる光学フィルタの作製が可能であることがわかる。さらに、脂環式エポキシ樹脂もしくはポリイミド樹脂中にNIR色素(B)を添加して外部樹脂層を形成すれば、TAVE435-480(B)TRおよびTAVE490-560(B)TRは高く維持され、所望の波長帯域(650~700nm)にλSH20%を有し、λSH20%-λSH70%が55nm以下と急峻性に優れるNIR色素(B)含有樹脂層が得られることがわかる。
【0324】
[樹脂部材の光学特性評価]
図2に示す光学フィルタ10Bにおいて、第1の誘電体多層膜3aおよび第2の誘電体多層膜3bを有しない以下の構成例1~10の樹脂部材について、光学特性を評価した。
【0325】
樹脂基材1として、ポリカーボネート樹脂フィルムであるM5-80を用いた。第1の外部樹脂層2aおよび第2の外部樹脂層2bとして、以下の(1A)または(1B)の樹脂層を用いた。
【0326】
(1A)上記(2-1)と同様に形成したNIR色素(B)として色素(I-12-15)、樹脂として脂環式エポキシ樹脂を含む樹脂層。
(1B)上記(2-1)と同様に形成したNIR色素(B)として色素(I-12-15)、樹脂としてC-3G30(ポリイミド樹脂)を含む樹脂層。
【0327】
上記2種類の構成に対して、第1の中間樹脂層4aおよび第2の中間樹脂層4bとして、それぞれ以下の(2A)~(2E)のいずれかの樹脂層を用いた以下の表18に示す構成例1~10の樹脂部材について光学特性を測定した。結果を表18に示す。
【0328】
光学特性として、具体的には、内部透過率が20%を示す波長(λT20%)、800~1200nmの波長領域で内部透過率が50%を示す波長(λT50%)、波長450nmの吸光度/800~1200nmの波長領域における最大吸光度(ABS450/ABSmax800-1200)、波長500nmの吸光度/800~1200nmの波長領域における最大吸光度(ABS500/ABSmax800-1200)、波長700nmの吸光度/800~1200nmの波長領域における最大吸光度(ABS700/ABSmax800-1200)を評価した。なお、上記光学特性の測定においては、内部透過率が20%となる波長λT20%が664nmとなるように規格化した。
【0329】
(2A)上記(1-2)で示したのと同様の方法で形成したNIR色素(A)として色素(ASi-22)を用い、樹脂としてF4520(シクロオレフィン樹脂)を用いた樹脂層。
(2B)上記(1-2)で示したのと同様の方法で形成したNIR色素(A)として色素(ASiii-5)を用い、樹脂としてF4520を用いた樹脂層。
(2C)上記(1-2)で示したのと同様の方法で形成したNIR色素(A)として色素(AD-1)を用い、樹脂としてF4520を用いた樹脂層。
(2D)上記(1-2)で示したのと同様の方法で形成したNIR色素(A)として色素(ASi-22)を用い、樹脂としてOKP-850(ポリエチレンテレフタレート樹脂)を用いた樹脂層。
(2E)上記(1-2)で示したのと同様の方法で形成したNIR色素(A)として色素(AD-1)を用い、樹脂としてSP3810(ポリカーボネート樹脂)を用いた樹脂層。
【0330】
【0331】
上記構成において、樹脂基材、外部樹脂層、中間樹脂層が本フィルタの構成である構成例1~3、6~8においては、光学特性は好ましい範囲内にある。一方、中間樹脂層について本フィルタの構成の範囲外の樹脂を用いた(2D)、(2E)を有する構成例4、5、9、10の場合、ABS450/ABSmax800-1200およびABS500/ABSmax800-1200のすくなくとも一方が好ましい範囲とならない。
【0332】
[光学フィルタの作製、評価]
(例1)
図2に示す光学フィルタ10Bと同様の構成の光学フィルタを以下のとおり製造し評価した。
【0333】
樹脂基材1としてポリカーボネート樹脂フィルムであるM5-80を用いた。第1の外部樹脂層2aおよび第2の外部樹脂層2bとして、上記(1B)の樹脂層を、第1の中間樹脂層4aおよび第2の中間樹脂層4bとして、上記(2B)の樹脂層をそれぞれ用いた。
【0334】
樹脂基材1上の第1の外部樹脂層2a上に第1の誘電体多層膜3aとして、蒸着によりTiO2膜とSiO2膜を交互に積層した、厚み3.25μmの反射防止層(以下、「AR層1」という。)を成膜した。
【0335】
樹脂基材1上の第2の外部樹脂層2b上に第2の誘電体多層膜3bとして、蒸着によりTiO2膜とSiO2膜を交互に積層した、厚み6.7μmの誘電体多層膜からなり、入射角と各波長域における透過率の関係が表19に示されるNIR反射層を形成した。なお、該NIR反射層は、近赤外域に加えて近紫外域をさらに遮断する特性を有する反射層であり、以下「UVIR反射層1」と表記する。表19において、R420-650は、表19中の各入射角の光における、420~650nmの波長領域の光の最大反射率[%]を示す。λREIRSHT20は、反射層において表19中の各入射角の光に対して近赤外域側で透過率が20%を示す短波長側の波長を、λREUVLO20は、反射層において表19中の各入射角の光に対して350~500nmの範囲で透過率が20%を示す長波長側の波長を示す。
【0336】
【0337】
(評価)
(1)光学特性
図3に得られた光学フィルタの入射角0度および入射角30度における波長400~1200nmの分光透過率曲線を示す。得られた分光透過率曲線から、以下の光学特性を評価した。結果を表20に示す。
(a)入射角0度における435~480nmの波長領域の光の平均透過率T
AVE435-480。
(b)入射角0度における490~560nmの波長領域の光の平均透過率T
AVE490-560。
(c)入射角0度における光の透過率において、波長領域600~700nmで透過率が20%となる波長λ
20%。
(d)入射角0度において600~700nmの波長領域で光の透過率が20%を示す波長λ
0°-20%と入射角30度において600~700nmの波長領域で光の透過率が20%を示す波長λ
30°-20%の差。
(e)入射角0度および入射角30度において、NIR色素(A)の最大吸収波長λ
max(A)TR±10nmの波長領域におけるODの最小値。
【0338】
【0339】
なお、例1の光学フィルタの構成において、外部樹脂層2a、2bおよび中間樹脂層4a、4bを有しない以外は同じ構成の光学フィルタについて、入射角0度および入射角30度において、888~908nmの波長範囲のODを求めた。該波長範囲における最小ODは入射角0度では4.52であり、入射角30度では3.64であった。
【0340】
表20からわかるように、例1の光学フィルタは、NIR色素(A)を含有することで、該色素の最大吸収波長±10nmの範囲でODが上昇しており、かつ可視光の透過率を高く維持することができている。
【0341】
(2)耐熱性(反り)および密着性
耐熱性(反り)および密着性の評価においては、表21に示す構成A~Cのサンプルを作製した。なお、サンプルのサイズは76cm×76cmとした。
【0342】
構成Aは、例1の光学フィルタにおいて、外部樹脂層2a、2bおよび中間樹脂層4a、4bがそれぞれNIR色素(B)およびNIR色素(A)を含有しない構成であり、かつ各樹脂層の厚みを表21に示す値に調整した構成である。
【0343】
構成Bおよび構成Cは、樹脂基材1として、シクロオレフィン樹脂フィルムであるZF-16を用いた。構成Bは樹脂層として、樹脂基材1の両主面上にF4520を用いて形成された厚み1.0μmの色素を含有しない樹脂層のみを有する構成であり、構成Cは樹脂層として、樹脂基材1の両主面上にC-3G30を用いて形成された厚み1.0μmの色素を含有しない樹脂層のみを有する構成である。なお、構成Bおよび構成Cにおいては、最外層として、例1の光学フィルタと同様のAR層1およびUVIR層1を有する。
【0344】
表21に各構成における、樹脂部材全体の厚みに対するTg200℃以上の樹脂を含む部材の合計厚みの割合[%]を示した。構成Aのみが本フィルタの要件を満たしていることがわかる。
【0345】
(密着性評価)
上記外部樹脂層の作製、評価の(2-1)に示す方法と同様の方法で、AR層1の密着性について、クロスカット法(JIS K5600)により評価を行った。クロスカット100マスのうち剥がれが5以下の場合を「○」、6以上の場合を「×」とした。結果を表21に示す。
【0346】
(反り評価)
上記構成A~Cのサンプルについて、150℃の恒温槽に3分間放置した後の反り量を測定した。サンプルの中央部が水平面に接するように水平面にサンプルを置いて測定されるサンプル端部の水平面からの距離を反り量として定義した。サンプルの全外周における反り量の最大値を評価に用いた。最大反り量が10mm以下の場合を「○」、10mmを超える場合を「×」とした。結果を表21に示す。
【0347】
【0348】
表21から、樹脂部材全体の厚みに対するTg200℃以上の樹脂を含む部材の合計厚みの割合[%]が少ないと熱による変形(反り)が生じやすく、光学フィルタとした際に反りやすいことがわかる。また、誘電体多層膜に接する樹脂層が、ポリイミド樹脂または脂環式エポキシ樹脂以外の樹脂で形成される場合、誘電体多層膜の剥がれに懸念が生じる。
【0349】
本発明を詳細にまた特定の実施態様を参照して説明したが、本発明の精神と範囲を逸脱することなく様々な変更や修正を加えることができることは当業者にとって明らかである。本出願は2019年4月3日出願の日本特許出願(特願2019-071316)に基づくものであり、その内容はここに参照として取り込まれる。
【産業上の利用可能性】
【0350】
本発明の光学フィルタは、樹脂材料に近赤外線吸収色素を含有させた樹脂層と樹脂基材に、さらに誘電体多層膜を組み合わせた近赤外光カットフィルタにおいて、可視光の高い透過性および、近赤外光、特に長波長域における近赤外光の高い遮蔽性を有するとともに、樹脂層と誘電体多層膜の密着性に優れ、かつ熱変形が抑制されて耐熱性に優れるので、近年、高性能化、小型化が進むデジタルスチルカメラ等の撮像装置等の用途に有用である。
【符号の説明】
【0351】
10A,10B…光学フィルタ、1…樹脂基材、2,2a,2b…外部樹脂層、3a,3b…誘電体多層膜、4,4a,4b…中間樹脂層。