(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-04
(45)【発行日】2023-09-12
(54)【発明の名称】対向型X線複合ミラー
(51)【国際特許分類】
G21K 1/06 20060101AFI20230905BHJP
【FI】
G21K1/06 B
G21K1/06 M
(21)【出願番号】P 2019147194
(22)【出願日】2019-08-09
【審査請求日】2022-07-08
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成29年度 国立研究開発法人科学技術振興機構、研究成果展開事業 研究成果最適展開支援プログラム 産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】396007188
【氏名又は名称】株式会社ジェイテックコーポレーション
(73)【特許権者】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(72)【発明者】
【氏名】松山 智至
(72)【発明者】
【氏名】山田 純平
(72)【発明者】
【氏名】一井 愛雄
(72)【発明者】
【氏名】岡田 浩巳
【審査官】鳥居 祐樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-026294(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G21K 1/06
G21K 5/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1次元のX線反射面を二つ以上備え、X線の斜入射光学系に用いるX線複合ミラーであって、
ミラー基板が少なくとも2つ以上存在し、
前記各ミラー基板の1面の一部に、凹型、凸型の何れか一方、若しくは両方の形状の1次元のX線反射面を有するとともに、当該反射面と同一側の前記ミラー基板の面の一部に、平面領域を有し、
前記ミラー基板の平面領域の少なくとも一部を基準にして、別のミラー基板の相対配置を決定し、少なくとも二つの反射面が対向していることを特徴とする対向型X線複合ミラー。
【請求項2】
前記各ミラー基板のX線反射面の形状プロファイルと平面領域の形状プロファイルはそれぞれn次多項式で表され、
前記
各ミラー基板のX線反射面が、楕円、放物、双曲の何れかの形状を有し、当該反射面の形状プロファイル
が、多項式Y=Fn(x)(
項数nは1、2、・・・n、xはX線進行方向の座標、基板裏面をゼロとする)で表わされ、
前記
各ミラー基板の平面領域の形状プロファイルが、略Y=+An(
項数nは1、2、・・・n、基板裏面をゼロとする)で表され、
各ミラー基板においてAn≧Fn(x)となっている、請求項1記載の対向型X線複合ミラー。
【請求項3】
2つのミラー基板が互いに向かい合う配置で、かつ、平面領域が対向し、一部で接触する配置であって、
(A1-F1(x))+(A2-F2(x))=Z(x)
で表わされるZ(x)の値は、X線ビームのサイズと、入射角で決められる設計値であるとともに、当該設計値からの誤差が±5μm以内である、請求項2記載の対向型X線複合ミラー。
【請求項4】
前記ミラー基板の平面領域の一部が、向かい合う位置に配置されている、請求項1~3何れか1項に記載の対向型X線複合ミラー。
【請求項5】
前記ミラー基板の平面領域の一部が、接触している、請求項1~4何れか1項に記載の対向型X線複合ミラー。
【請求項6】
前記ミラー基板の、X線進行方向に対しての右手側、左手側両側面と、X線反射面との直角度が100秒以下である、請求項1~5何れか1項に記載の対向型X線複合ミラー。
【請求項7】
前記ミラー基板の、X線進行方向に対しての右手側、左手側両側面の平行度が100秒以下である、請求項1~6何れか1項に記載の対向型X線複合ミラー。
【請求項8】
前記反射面の理想形状からの形状誤差が、1mm以上有効長さまでの空間周波数領域で、0.1nmRMS以上、2nmRMS以下である、請求項1~7何れか1項に記載の対向型X線複合ミラー。
【請求項9】
前記反射面と平面領域の境界は、スロープで繋がっている、請求項1~8何れか1項に記載の対向型X線複合ミラー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、対向型X線複合ミラーに係わり、更に詳しくはX線の斜入射光学系に用いる対向型X線複合ミラーに関するものである。
【背景技術】
【0002】
楕円形状を使ったX線ミラーはKirkpatric-Baez(KB)ミラーとして、現在多くの放射光施設で使用されていて、微小な集光径が得られるだけでなく、他の集光光学系と比べて光の集光効率も高いことが特徴である(非特許文献1)。また、色収差がないことも特徴となっていて、エネルギーが変わっても焦点位置が変わらないので、イメージング用途にも利用が可能である。
【0003】
例えば、多くの放射光施設では、
図6(a)に示すように、一対の楕円ミラー101、102を垂直と水平に配置(KBミラー配置)したX線集光光学系や、
図6(b)に示すように、一対の楕円ミラー101,102と一対の双曲ミラー103,104をそれぞれKBミラー配置したX線結像光学系が使用されているが、垂直方向と水平方向においてX線ビームに対して片側だけで用いられる。
【0004】
しかし、近年、集光光学系・結像光学系では、より多くの光を集めるため、両側にミラーを対向して配置することが提案されつつある(
図7参照)。
図7(a)は、二対の楕円ミラー105,105、楕円ミラー106,106をKBミラー配置とした集光光学系で、それぞれ対向する楕円ミラー105,105及び楕円ミラー106,106は同形であり、これにより光量を増大させることができる。また、
図7(b)は、二対の凹面ミラー107,108・凸面ミラー109,110を光軸方向にずらせて対向させるように配置した結像光学系である(特許文献1、非特許文献2)。ここで、凹面ミラー107,108は楕円ミラー、凸面ミラー109,110は双曲ミラーで構成されている。これによって光学系の主面を試料側へシフトでき、光学系全体をコンパクト化できる。この
図7(b)の結像光学系を用いることで、放射光施設のような大規模な施設でなくても数10nm程度の微細構造を拡大して観察できるようになっている。
【0005】
これまでは、対向する一対のミラーは、(1)ステージ上に別々に組み付けて実現するか、(2)基板に接着によって固定した上でステージに組み付けて実現していた。しかし,(1)の手法は、非常に高精度なアライメント技術が必要であり、使い勝手と長時間安定性、振動の問題が懸念される。(2)の手法は、接着によるアライメント変化や形状変形が懸念されるうえ、接着剤は高真空下では使用不可であり、メンテナンスの度にミラーを剥離しなければならないという問題もある。どちらの場合も、対向するミラーを100nm、10μradの精度で測定できる特殊な計測器を必要とし、これは非常に困難である。
【0006】
尚、一枚のミラー基板に、楕円ミラーと双曲ミラーを作り込んだ一次元ウォルターミラーは提供されている(特許文献2)。1枚のミラーに楕円ミラーと双曲ミラーが作り込まれているので、各々1枚ずつ別々の場合と比較してミラーのアライメント調整が格段にしやすくなっているが、イメージング用として使う場合、その拡大倍率が限られているという課題が残っていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】国際公開WO2017/051890号公報
【文献】特開2014-006457号公報
【非特許文献】
【0008】
【文献】Satoshi Matsuyama,et.al, Scientific Reports, 7:46358, (2017).
【文献】Jumpei Yamada,et.al, Applied Optics, Vol.56,No.4, p.967 (2017).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ミラーの反射面が対向する光学系は、前述のように優れた特性を備えているが、ミラーは向かい合った形状のため、1枚ずつ別々に作ることが必要である。そして、それらのミラーの相対位置を精度よくアライメント調整する必要があるが、その調整には放射光のX線を利用することを必要とし、上述した特殊な計測機を用いるか,調整後にミラーをUV硬化樹脂で固定化させるなどの手段が必要である。しかし、UV硬化樹脂による固定では接着剤の硬化収縮やUV照射による温度ドリフトの影響がでてしまうので、高い精度を要求する場合には難しい一面があった。
【0010】
そこで、本発明が前述の状況に鑑み、解決しようとするところは、ミラー同士を調整するのにかかる時間を大幅に短縮し、特殊計測機やX線のビームを用いずともアライメントが完了した状態で対向型X線複合ミラーを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、前述の課題解決のために、以下に示す対向型X線複合ミラーを構成した。
【0012】
(1)
1次元のX線反射面を二つ以上備え、X線の斜入射光学系に用いるX線複合ミラーであって、
ミラー基板が少なくとも2つ以上存在し、
前記各ミラー基板の1面の一部に、凹型、凸型の何れか一方、若しくは両方の形状の1次元のX線反射面を有するとともに、当該反射面と同一側の前記ミラー基板の面の一部に、平面領域を有し、
前記ミラー基板の平面領域の少なくとも一部を基準にして、別のミラー基板の相対配置を決定し、少なくとも二つの反射面が対向していることを特徴とする対向型X線複合ミラー。
【0013】
(2)
前記各ミラー基板のX線反射面の形状プロファイルと平面領域の形状プロファイルはそれぞれn次多項式で表され、
前記各ミラー基板のX線反射面が、楕円、放物、双曲の何れかの形状を有し、当該反射面の形状プロファイルが、多項式Y=Fn(x)(項数nは1、2、・・・n、xはX線進行方向の座標、基板裏面をゼロとする)で表わされ、
前記各ミラー基板の平面領域の形状プロファイルが、略Y=+An(項数nは1、2、・・・n、基板裏面をゼロとする)で表され、
各ミラー基板においてAn≧Fn(x)となっている、(1)記載の対向型X線複合ミラー。
【0014】
(3)
2つのミラー基板が互いに向かい合う配置で、かつ、平面領域が対向し、一部で接触する配置であって、
(A1-F1(x))+(A2-F2(x))=Z(x)
で表わされるZ(x)の値は、X線ビームのサイズと、入射角で決められる設計値であるとともに、当該設計値からの誤差が±5μm以内である、(2)記載の対向型X線複合ミラー。
【0015】
(4)
前記ミラー基板の平面領域の一部が、向かい合う位置に配置されている、(1)~(3)何れか1に記載の対向型X線複合ミラー。
【0016】
(5)
前記ミラー基板の平面領域の一部が、接触している、(1)~(4)何れか1に記載の対向型X線複合ミラー。
【0017】
(6)
前記ミラー基板の、X線進行方向に対しての右手側、左手側両側面と、X線反射面との直角度が100秒以下である、(1)~(5)何れか1に記載の対向型X線複合ミラー。
【0018】
(7)
前記ミラー基板の、X線進行方向に対しての右手側、左手側両側面の平行度が100秒以下である、(1)~(6)何れか1に記載の対向型X線複合ミラー。
【0019】
(8)
前記反射面の理想形状からの形状誤差が、1mm以上有効長さまでの空間周波数領域で、0.1nmRMS以上、2nmRMS以下である、(1)~(7)何れか1に記載の対向型X線複合ミラー。
【0020】
(9)
前記反射面と平面領域の境界は、スロープで繋がっている、(1)~(8)何れか1に記載の対向型X線複合ミラー。
【発明の効果】
【0021】
本発明の対向型X線複合ミラーによれば、X線を反射させる反射面の隣に平面領域を有し、反射面と平面領域の相対形状を正確に作製したミラー基板を少なくとも2つ用い、対向する二つのミラー基板の平面領域を用いて相対位置を正確に位置決めすることにより、少なくとも二つの反射面を正確に対向させることが可能となる。ミラー基板の同一面側に反射面と平面領域とがあるので、高精度な干渉計や3次元計測機の適用範囲内であり,計測・加工を繰り返すことで、相対形状を正確に作り込むことができる。また、ミラー基板の平面領域同士は接着する必要はなく、弱い力で抑えるだけで充分である。これによってメンテナンスが非常に簡単になるとともに、接着剤・グリスが不要なため高真空下で使用可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本発明の対向型X線複合ミラーAの第1実施形態を示す斜視図である。
【
図3】本発明の対向型X線複合ミラーBの第2実施形態を示す斜視図である。
【
図5】第2実施形態の対向型X線複合ミラーBの具体例を示す斜視図である。
【
図6】従来例を示し、(a)はKBミラー配置の集光光学系を示す説明図、(b)はAKBミラー配置の結像光学系を示す説明図である。
【
図7】従来例を示し、(a)対向する二対の楕円ミラーをKBミラー配置とした集光光学系を示す説明図、(b)は二つの楕円凹面ミラーと二つの双曲凸面ミラーをKBミラー配置としたコンパクト結像光学系を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
次に、添付図面に示した実施形態に基づき、本発明を更に詳細に説明する。
図1及び
図2は本発明の対向型X線複合ミラーAの第1実施形態を示し、
図3及び
図4は本発明の対向型X線複合ミラーBの第2実施形態を示し、図中符号1は第1のミラー基板、2は第2のミラー基板をそれぞれ示している。尚、本実施形態では、ミラー基板の数が2つの場合を示しているが、3つ以上であっても構わない。
【0024】
本発明は、1次元のX線反射面3,5を二つ以上備え、X線の斜入射光学系に用いるX線複合ミラーであって、ミラー基板1,2が少なくとも2つ以上存在し、前記各ミラー基板1,2の1面の一部に、凹型、凸型の何れか一方、若しくは両方の形状の1次元のX線反射面3,5を有するとともに、当該反射面3,5と同一側の前記ミラー基板1,2の面の一部に、平面領域4,6を有し、前記ミラー基板1の平面領域4の少なくとも一部を基準にして、別のミラー基板2の相対配置を決定し、少なくとも二つの反射面3,5が対向していることを特徴とする。
【0025】
前記ミラー基板1の平面領域4の少なくとも一部を基準にして、別のミラー基板2の相対配置を決定する方法として、前記ミラー基板1,2の平面領域4,6の一部が、向かい合う位置に配置されていることが必要であり、そして前記ミラー基板1,2の平面領域4,6の一部を接触させるように配置する。
【0026】
ここで、前記各ミラー基板1,2の1面の一部に、X線反射面3,5を有するとともに、当該反射面3,5と同一側の前記ミラー基板1,2の面の一部に、平面領域4,6を有するとは、平面領域4,6の法線と、反射面3,5の特定部位、例えば中央部位の法線とが同じ向きになることを意味する。
【0027】
言い換えれば、前記各ミラー基板1,2のX線反射面3,5の形状プロファイルと平面領域4,6の形状プロファイルはそれぞれn次多項式で表され、
前記ミラー基板1,2のX線反射面3,5の一次元形状が、楕円、放物、双曲の何れかの形状を有し、当該反射面3,5の形状プロファイルがそれぞれ、多項式
Y=Fn(x)
(項数nは1、2、・・・n、xはX線進行方向の座標、基板裏面7,8をゼロとする)
で表わされ、
前記ミラー基板1,2の平面領域4,6の形状プロファイルがそれぞれ、略
Y=+An
(項数nは1、2、・・・n、基板裏面7,8をゼロとする)
で表されることと同じ意味である。
【0028】
更に、前記各ミラー基板1,2の平面領域4,6を互いに接触させた状態で、前記反射面3,5の間にX線を入射させる間隙を設ける必要があることから、
An≧Fn(x)
となっていることが要求される。つまり、前記ミラー基板1,2の裏面7,8を基準として前記反射面3,5は、平面領域4,6より低い位置にあることが要求される。
【0029】
それぞれのミラー基板1,2が、An≧Fn(x)を満足すれば、平面領域4,6同士を合わせたときに、x軸方向から見て反射面3,5の間に隙間ができる。仮に、一方のミラー基板1の反射面3が楕円、もう一方のミラー基板2の反射面5が双曲とし、ミラー基板1の反射面3より平面領域4が低いと、もう一方のミラー基板2の平面領域6の高さを反射面5より更に高くすることが必要になる。この場合、二つのミラー基板1,2を重ねる際に、平面領域6と楕円反射面3、平面領域4と反射面5の双曲部の傾斜部で接触する可能性もあり、組み付け作業に手間が掛かり、また加工も大変になる。
【0030】
更に、2つのミラー基板1,2が互いに向かい合う配置で、かつ、平面領域4,6が対向し、一部で接触する配置であって、
(A1-F1(x))+(A2-F2(x))=Z(x)
で表わされるZ(x)の値は、X線ビームのサイズと、入射角で決められる設計値であるとともに、当該設計値からの誤差が±5μm以内であることが好ましい。誤差が±5μmを超えると要求される精度を確保できない。
【0031】
ここで、X線を対象とするので、前記反射面3,5の理想形状からの形状誤差が、1mm以上有効長さまでの空間周波数領域で、0.1nmRMS以上、2nmRMS以下であることが要求される。
【0032】
通常、前記ミラー基板1,2は、シリコン単結晶体や石英ガラスの直方体状基板材料を用いて製造される。具体的には、前記ミラー基板1,2は、それぞれ基板材料の裏面7,8を基準として平面領域4,6と反射面3,5を、機械研磨等や切削等による粗加工の後、EEM(Elastic Emission Machining)、CARE(Catalyst Referred Etching、触媒表面基準エッチング法)、PCVM(Plasma Chemical Vaporization Machining)等の精密加工法によって精度良く加工して製造する。同一の基板材料に、その裏面を基準として一面に反射面と平面領域を作り込むので、反射面と平面領域の相対関係の精度を100nm、10μradにすることは容易である。
【0033】
EEMは、微粒子の懸濁液中に被加工物を配置し、被加工物の表面に沿った剪断流を作ることで、被加工物表面に付着した微粒子を剪断流により除去する際に、微粒子に結合した表面原子も除去されるという加工原理で、P-V値:1nmを実現している加工法である。
【0034】
CAREは、触媒機能を持つパッド(PtやNi等の触媒を成膜)を対象上で超純水を加工液として動かすことで表面上の凸部のみ化学的に除去し、様々な材料を原子スケールで平坦化するもので、P-V値:0.7nmを実現可能な究極的な加工法である。
【0035】
PCVMは、1気圧という高圧力のプラズマを用いた化学エッチングにより、高能率且つ無歪の加工を実現した加工法で、機械加工では困難な非球面形状も簡単に作成可能であり、プラズマを発生する電極の形状によって加工物表面の必要な場所のみを数値制御で加工することが可能である。
【0036】
前記ミラー基板1の、X線進行方向Pに対しての右手側、左手側両側面9,10と、X線反射面3との直角度が100秒以下であることが要求される。同様に、前記ミラー基板2の、X線進行方向Pに対しての右手側、左手側両側面11,12と、X線反射面5との直角度が100秒以下であることが要求される。前記ミラー基板1,2の側面は、アライメント調整時に基準となることが多いので高い精度が要求される。ここで、直角度が100秒を超えると要求される精度が確保できない。
【0037】
また、前記ミラー基板1の、X線進行方向Pに対しての右手側、左手側両側面9,10の平行度が100秒以下であることが要求される。同様に、前記ミラー基板2の、X線進行方向Pに対しての右手側、左手側両側面11,12の平行度が100秒以下であることが要求される。前記ミラー基板1,2の側面は、アライメント調整時に基準となることが多いので高い精度が要求される。ここで、平行度が100秒を超えると要求される精度が確保できない。
【0038】
前記ミラー基板1の両側面9,10に対する反射面3との直角度や、両側面9,10の平行度は重要である。同様に、前記ミラー基板2の両側面11,12に対する反射面5との直角度や、両側面11,12の平行度は重要である。その理由は、前記ミラー基板1,2の平面領域4,6を接触させて重ね合わせた状態で、ミラーマニピュレータの基準面に両側面10,12を接触させて位置決めするからである。尚、前記ミラー基板1,2の平面領域4,6を接触させて反射面3,5の相対位置を精度良く調整した後、その状態を何らかの固定手段で固定しておくことが望ましい。それには、ミラー基板1,2の変形を許容する程度の外部応力を加えて固定する、あるいはUV硬化樹脂で接合端部を固定する等の固定手段がある。
【0039】
図1及び
図2に示した第1実施形態の対向型X線複合ミラーAは、第1のミラー基板1の反射面3と第2のミラー基板2の反射面5が、共に一次元楕円形であり、完全に対向する位置に設けられている。つまり、ミラー基板1の一面で、X線進行方向Pに沿って左右一側に反射面3を、他側に平面領域4を形成している。同様に、ミラー基板2の一面で、X線進行方向Pに沿って左右一側に反射面5を、他側に平面領域6を形成している。そして、前記ミラー基板1の平面領域4と前記前記ミラー基板2の平面領域6を完全に重なった状態で接触させて、反射面3と反射面5が対面した状態の対向型X線複合ミラーAとする。
【0040】
この第1実施形態の対向型X線複合ミラーAを一対用いてダブルKBミラーを構成し、あるいは二対用いてダブルAKBミラーを構成することで、シングルミラーを使う場合より集める光を4倍にできる。
【0041】
図3及び
図4に示した第2実施形態の対向型X線複合ミラーBは、第1のミラー基板1の反射面3は一次元楕円形であり、第2のミラー基板2の反射面5は一次元双曲形である。ミラー基板1の一面で、X線進行方向Pに沿って左右一側に平面領域4を形成し、X線進行方向Pの他側で上流側(X線源側)の略半分の領域に反射面3を形成している。一方、ミラー基板2の一面で、X線進行方向Pに沿って左右一側に平面領域6を形成し、X線進行方向Pの他側で下流側(受光部側)の略半分の領域に反射面5を形成している。そして、前記ミラー基板1の平面領域4と前記前記ミラー基板2の平面領域6を完全に重なった状態で接触させて、反射面3と反射面5が対向しているが、X線進行方向Pの上流側と下流側にずれた位置にある状態の対向型X線複合ミラーBとする。尚、前記ミラー基板1の平面領域4と前記前記ミラー基板2の平面領域6の一部のみが接触した状態でも構わない。
【0042】
この第2実施形態の対向型X線複合ミラーBを用いれば、主面の位置を試料側に移動でき、コンパクト結像光学系を構成することが可能になる。更に、二対の対向型X線複合ミラーBをKBミラー配置にした結像光学系を構成することも可能であり、4つの反射面があってもミラーのアライメント調整が容易になる。
【0043】
本発明で「対向」とは、第1実施形態のように反射面3と反射面5が完全に対面する場合と、第2実施形態のように反射面3と反射面5がX線進行方向Pの上流側と下流側にずれる場合、しかもそのずれ方は反射面3と反射面5がX線進行方向Pに対して一部重なる状態と完全に離れた状態を含む広い概念である。
【0044】
また、2つ以上のミラー基板を組む合わせる場合には、一つのミラー基板の平面領域に、複数のミラー基板の平面領域を接触させて、各反射面の相対位置を精度良く決定する。
【0045】
図5は、第2実施形態の対向型X線複合ミラーBの具体例である。この場合、ミラー基板1の一面で、X線進行方向Pに沿って左右一側に平面領域4を形成し、X線進行方向Pの他側で上流側の略半分の領域に反射面3を形成するとともに、下流側に非反射面領域13を連続形成している。一方、ミラー基板2の一面で、X線進行方向Pに沿って左右一側に平面領域6を形成し、X線進行方向Pの他側で下流側の略半分の領域に反射面5を形成するとともに、上流側に非反射面領域14を連続形成している。また、前記ミラー基板1の前記反射面3と平面領域4の境界は、スロープ15で繋がっている。同様に、前記ミラー基板2の前記反射面5と平面領域6の境界は、スロープ16で繋がっている。尚、本実施形態では、前記ミラー基板1のスロープ15は、平面領域4と非反射面領域13の境界にも連続的に延びている。同様に、前記ミラー基板2のスロープ16は、平面領域6と非反射面領域14の境界にも連続的に延びている。
【0046】
また、他の製造方法として、先ず基板材料の一面で、X線進行方向Pに沿って左右一側に平面領域を形成し、X線進行方向Pの他側を上流側領域と下流側領域に二分し、上流側領域に第1の反射面を作り込み、下流側領域に第2の反射面を作り込む。それから、平面領域と第1の反射面及び第2の反射面の形状及び相対位置が所定の精度になった後に、基板材料をX線進行方向Pに対して直角に切断し、第1の反射面を有する第1のミラー基板と、第2の反射面を有する第2のミラー基板に分離しても良い。
【0047】
本発明では、前記ミラー基板1の反射面3と前記ミラー基板2の反射面5の形状は限定されず、様々な形状及び凸面と凹面の組み合わせがあり得る。
【符号の説明】
【0048】
A 第1実施形態の対向型X線複合ミラー
B 第2実施形態の対向型X線複合ミラー
1 第1のミラー基板
2 第2のミラー基板
3 反射面
4 平面領域
5 反射面
6 平面領域
7 裏面
8 裏面
9 側面
10 側面
11 側面
12 側面
13 非反射面領域
14 非反射面領域
15 スロープ
16 スロープ
101,102 楕円ミラー
103,104 双曲ミラー
105 楕円ミラー
106 楕円ミラー
107,108 凹面ミラー
109,110 凸面ミラー