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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-04
(45)【発行日】2023-09-12
(54)【発明の名称】注射デバイス
(51)【国際特許分類】
   A61M 5/24 20060101AFI20230905BHJP
   A61M 5/20 20060101ALI20230905BHJP
【FI】
A61M5/24 540
A61M5/20
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2020529270
(86)(22)【出願日】2018-11-30
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-02-15
(86)【国際出願番号】 EP2018083179
(87)【国際公開番号】W WO2019106162
(87)【国際公開日】2019-06-06
【審査請求日】2021-11-18
(31)【優先権主張番号】17306674.7
(32)【優先日】2017-12-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】504456798
【氏名又は名称】サノフイ
【氏名又は名称原語表記】SANOFI
(74)【代理人】
【識別番号】100127926
【弁理士】
【氏名又は名称】結田 純次
(74)【代理人】
【識別番号】100140132
【弁理士】
【氏名又は名称】竹林 則幸
(72)【発明者】
【氏名】ベアーテ・フランケ
(72)【発明者】
【氏名】マティーアス・ラウ
(72)【発明者】
【氏名】ティム・グレーサー
【審査官】中村 一雄
(56)【参考文献】
【文献】特表2013-544166(JP,A)
【文献】特開平02-243163(JP,A)
【文献】特表2016-526460(JP,A)
【文献】英国特許出願公告第00836278(GB,A)
【文献】国際公開第2017/089284(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 5/24
A61M 5/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
注射デバイスであって:
ロック部分を有するスロットを含むハウジングと、
針、針が取り付けられた内側部材、スロット係合部分、およびユーザが把持することができるようハウジングの外部に配設された外側部材を含む針ユニットであって、スロット係合部分は、内側部材からハウジングのスロットを通って外側部材まで延び、針ユニットは、ハウジングに対する針ユニットの動きがスロットによって制限されるようにハウジング内に可動に取り付けられた、針ユニットと、
ハウジング内に取り付けられ、薬剤用のリザーバを有し、注射デバイスの使用前にリザーバが針から封止されている、カートリッジと
を含み、
ここで、ハウジングのスロットは、針ユニットの外側部材の回転により、スロット係合部分をロック部分から外して移動させるように配置され、それにより、針ユニットをカートリッジと係合するように移動させて、針をリザーバと流体連通させることができる、
前記注射デバイス。
【請求項2】
ハウジングのスロットは、針ユニットが回転された後、針ユニットがカートリッジに向かって移動するのを可能にする移動部分をさらに含む、請求項1に記載の注射デバイス。
【請求項3】
針ユニットをカートリッジに向けて付勢するように配置されたばねをさらに含む、請求項2に記載の注射デバイス。
【請求項4】
スロットのロック部分は、移動部分に対して傾斜しており、ばねは、針ユニットをロック位置に付勢するように配置されており、ロック位置は、移動部分から離れたロック部分の端部にある、請求項3に記載の注射デバイス。
【請求項5】
スロットは、針ユニットをカートリッジから離さなければ針ユニットを回転させることができないように配置される、請求項1~4のいずれか1項に記載の注射デバイス。
【請求項6】
ハウジングのスロットは、ハウジングの端部まで延び、スロットは、針ユニットがハウジングから外れるのを防止するように配置された保持部材を含む、請求項1~5のいずれか1項に記載の注射デバイス。
【請求項7】
ハウジングの遠位端から突出するようにハウジングに摺動可能に取り付けられたニードルスリーブをさらに含む、請求項1~6のいずれか1項に記載の注射デバイス。
【請求項8】
ニードルスリーブはスロットを含み、針ユニットのスロット係合部分は、ニードルスリーブのスロットと係合する、請求項7に記載の注射デバイス。
【請求項9】
ニードルスリーブのスロットは、ハウジングのスロットの移動部分に対応する移動部分を含み、針ユニットの回転後に、ニードルスリーブとは関係なく針ユニットを移動させることを可能にする、請求項8に記載の注射デバイス。
【請求項10】
ニードルスリーブは、ハウジング内に摺動可能に取り付けられ、ニードルスリーブは、ニードルスリーブまたはハウジングのいずれかに存在する制限部材と、ニードルスリーブまたはハウジングの他方にある溝との係合により、ハウジングに対して回転するのを妨げられる、請求項7~9のいずれか1項に記載の注射デバイス。
【請求項11】
プランジャと、該プランジャをリザーバ内に付勢して薬剤を投薬するように配置されたばねとをさらに含み、該デバイスの使用前にプランジャを予荷重された状態で保つためにキャッチが配置され、ニードルスリーブは、ハウジング内に移動するときにキャッチを解放するように構成される、請求項7~10のいずれか1項に記載の注射デバイス。
【請求項12】
針ユニットの外側部材は、ハウジングの全周にわたって延びていない、請求項1~11のいずれか1項に記載の注射デバイス。
【請求項13】
カートリッジは、リザーバ内に配設された薬剤を含む、請求項1~12のいずれか1項に記載の注射デバイス。
【請求項14】
注射デバイスを使用する方法であって、該注射デバイスは、ハウジングと、針、およびハウジングの外部に配設された外側部材を有する針ユニットと、薬剤用のリザーバを有するカートリッジとを含み、注射デバイスの使用前、リザーバは針から封止されており、
該方法は:
針ユニットの外側部材を把持する工程と、
ハウジングに対して針ユニットの外側部材を回転させる工程と、
針がリザーバと流体連通するように、針ユニットをカートリッジと係合させるように移動させる工程と
を含む前記方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薬剤用の注射デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
カートリッジ式注射デバイス、例えば、カートリッジ式自動注射器は、典型的には、薬剤を含む封止されたカートリッジと、最初はカートリッジから分離されている針とを有する。注射デバイスの使用前に、カートリッジと針とが組み合わされて、針がカートリッジを穿孔する。次いで、プランジャをカートリッジ内に移動させて、針を通して薬剤を投薬してユーザに注射することができる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明の目的は、最初は針から封止されている薬剤用のリザーバを有するカートリッジと、使用前にカートリッジ内のリザーバと流体連通するように針を移動させるための機構とを有する有利な注射デバイスを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明によれば、注射デバイスであって:
ロック部分を有するスロットを含むハウジングと、
針、針が取り付けられた内側部材、スロット係合部分、およびハウジングの外部に配設された外側部材を含む針ユニットであって、スロット係合部分は、内側部材からハウジングのスロットを通ってハウジングの外側部材まで延び、針ユニットは、ハウジングに対する針ユニットの動きがスロットによって制限されるようにハウジング内に可動に取り付けられた、針ユニットと、
ハウジング内に取り付けられ、薬剤用のリザーバを有し、注射デバイスの使用前にリザーバが針から封止されている、カートリッジと
を含み、
ここで、ハウジングのスロットは、針ユニットの外側部材の回転により、スロット係合部分をロック部分から外して移動させるように配置され、それにより、針ユニットをカートリッジと係合するように移動させて、針をリザーバと流体連通させることができる、
注射デバイスが提供される。
【0005】
ハウジングのスロットは、針ユニットが回転された後、針ユニットがカートリッジに向けて移動できるようにする移動部分をさらに含む。
【0006】
いくつかの実施形態では、注射デバイスは長手方向軸を有し、カートリッジおよび針は、針がカートリッジから軸方向に離間されるように長手方向軸と位置合わせされる。これらの例では、スロットの移動部分は軸方向に延びる。
【0007】
注射デバイスは、針ユニットをカートリッジに向けて付勢するように配置されたばねをさらに含む。ばねは、針ユニットの回転後に、カートリッジと係合するように針ユニットを移動させるように配置される。
【0008】
スロットのロック部分は、移動部分に対して傾斜しており、ばねは、移動部分から離れたロック部分の端部に、針ユニットをロック位置に付勢するように配置される。いくつかの例では、スロットは、針ユニットをカートリッジから離さなければ針ユニットを回転させることができないように配置される。このようにすると、ロック位置は安定し、ユーザは、針ユニットを回転させてスロット係合部分をスロットの移動部分に移動させるために、ばねの力の少なくとも一部を克服しなければならない。
【0009】
ハウジングのスロットは、ハウジングの端部まで延び、スロットは、針ユニットがハウジングから外れるのを防止するように配置された保持部材を含む。
【0010】
いくつかの例では、注射デバイスは、ハウジングの遠位端から突出するようにハウジングに摺動可能に取り付けられたニードルスリーブをさらに含む。
【0011】
ニードルスリーブはスロットを含み、針ユニットのスロット係合部分は、ニードルスリーブのスロットと係合する。
【0012】
ニードルスリーブのスロットは、ハウジングのスロットの移動部分に対応する移動部分を含み、針ユニットの回転後に、ニードルスリーブとは関係なく針ユニットを移動させることを可能にする。
【0013】
ニードルスリーブは、ハウジング内に摺動可能に取り付けられ、制限部材は、ニードルスリーブがハウジングに対して回転するのを妨げる。制限部材は、ハウジングに対するニードルスリーブの回転を妨げるために溝と係合する。一例では、ニードルスリーブは制限部材を含み、ハウジングは溝を含む。別の例では、ハウジングは制限部材を含み、ニードルスリーブは溝を含む。
【0014】
いくつかの例では、注射デバイスは、プランジャと、プランジャをリザーバ内に付勢して薬剤を投薬するように配置されたばねとをさらに含む。デバイスの使用前にプランジャを予荷重された状態で保つためにキャッチが配置される。ニードルスリーブは、ハウジング内に移動するときに、キャッチを解放するように構成される。
【0015】
針ユニットの外側部材は、1つまたはそれ以上の独立したセクションを含む。
【0016】
カートリッジは、リザーバ内に配設された薬剤を含む。
【0017】
また、本発明の別の態様によれば、注射デバイスを使用する方法であって、注射デバイスは、ハウジングと、針、およびハウジングの外部に配設された外側部材を有する針ユニットと、薬剤用のリザーバを有するカートリッジとを含み、注射デバイスの使用前、リザーバは針から封止されており、
方法は:
ハウジングに対して針ユニットの外側部材を回転させる工程と、
針がリザーバと流体連通させるように、針ユニットをカートリッジと係合するように移動させる工程と、
を含む方法が提供される。
【0018】
本発明のこれらおよび他の態様は、以下に述べる実施形態を参照すれば明らかになり、解明されよう。
【0019】
ここで、本発明の実施形態を、添付の図面を参照して単なる例として述べる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1A】本発明を具現化する注射デバイス、および取外し可能なキャップの概略側面図である。
図1B】ハウジングからキャップを取り外した、図1Aの注射デバイスの概略側面図である。
図2】注射デバイスの断面図である。
図3A】初期位置における図2の注射デバイスの針端部の断面図である。
図3B】針ユニットとカートリッジとが組み合わされた後の図2の注射デバイスの針端部の断面図である。
図3C】注射中の図2の注射デバイスの針端部の断面図である。
図4A】注射デバイスのハウジングの様々なスロットの概略図である。
図4B】注射デバイスのハウジングの様々なスロットの概略図である。
図4C】注射デバイスのハウジングの様々なスロットの概略図である。
図5A】注射デバイスの動作を例示する図である。
図5B】注射デバイスの動作を例示する図である。
図5C】注射デバイスの動作を例示する図である。
図5D】注射デバイスの動作を例示する図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本明細書に記載の薬物送達デバイスは、患者に薬剤を注射するように構成される。例えば、送達は、皮下、筋肉内、または静脈内である。そのようなデバイスは、患者または看護師や医師などの介護者が操作することができ、様々なタイプの安全シリンジ、ペン型注射器、または自動注射器を含むことができる。デバイスは、使用前には封止されているアンプルへの穿孔を必要とするカートリッジベースのシステムを含むことができる。これらの様々なデバイスによって送達される薬剤の体積は、約0.5ml~約2mlの範囲であり得る。さらに別のデバイスは、大容量デバイス(「LVD」)またはパッチポンプを含むことができ、ある期間(例えば、約5、15、30、60、または120分間)にわたって患者の皮膚に付着して、「大きい」体積の薬剤(通常、約2ml~約10ml)を送達するように構成される。
【0022】
また、特定の薬剤と組み合わせて、本明細書に記載のデバイスは、所要の仕様の範囲内で動作するようにカスタマイズされる。例えば、デバイスは、特定の期間内(例えば、自動注射器の場合には約3~約20秒、LVDの場合には約10分~約60分)に薬剤を注射するようにカスタマイズされる。他の仕様には、低レベルもしくは最小レベルの不快感、または人的要因、保存寿命、使用期限、生体適合性、環境への配慮などに関連する特定の条件が含まれる。そのようなばらつきは、例えば約3cP~約50cPの粘度の範囲内の薬物など、様々な要因により生じる可能性がある。したがって、薬物送達デバイスは、サイズが約25~約31ゲージの範囲の中空針を含むことが多い。一般的なサイズは、17および29ゲージである。
【0023】
本明細書に記載の送達デバイスは、1つまたはそれ以上の自動機能を含むこともできる。例えば、針とカートリッジとの組合せ、針挿入、薬剤注射、および針後退のうちの1つまたはそれ以上を自動化することができる。1つまたはそれ以上の自動化工程のためのエネルギーは、1つまたはそれ以上のエネルギー源によって提供することができる。エネルギー源は、例えば、機械的、空気圧的、化学的、または電気的エネルギーを含む。例えば、機械的エネルギー源としては、エネルギーを蓄積または解放するためのばね、てこ、エラストマー、または他の機械的機構が挙げられる。1つまたはそれ以上のエネルギー源を単一のデバイスに組み合わせることができる。デバイスは、エネルギーをデバイスの1つまたはそれ以上の構成要素の動きに変換するためのギア、バルブ、または他の機構をさらに含むことができる。
【0024】
自動注射器の1つまたはそれ以上の自動機能は、それぞれ起動機構によって起動される。そのような起動機構としては、アクチュエータ、例えば、ボタン、レバー、ニードルスリーブ、または他の起動構成要素のうちの1つまたはそれ以上が挙げられる。自動機能の起動は、ワンステップまたはマルチステップのプロセスである。すなわち、ユーザは、自動機能を引き起こすために、1つまたはそれ以上の起動構成要素を起動させる必要がある。例えば、ワンステッププロセスにおいて、ユーザは、薬剤の注射を引き起こすために、自分の身体にニードルスリーブを押し当てる。他のデバイスは、自動機能のマルチステップ起動を必要とする。例えば、ユーザは、注射を引き起こすために、ボタンを押し下げて、ニードルシールドを後退させる必要がある。
【0025】
さらに、1つの自動機能の起動により、1つまたはそれ以上の後続の自動機能が起動され、それにより起動シーケンスを形成する。例えば、第1の自動機能の起動が、針とカートリッジとの組合せ、針挿入、薬剤注射、および針後退のうちの少なくとも2つを起動させる。また、いくつかのデバイスは、1つまたはそれ以上の自動機能を生じさせるために特定の工程シーケンスを必要とする。他のデバイスは、一連の独立した工程で動作する。
【0026】
いくつかの送達デバイスは、安全シリンジ、ペン型注射器、または自動注射器の1つまたはそれ以上の機能を含むことができる。例えば、送達デバイスは、(自動注射器において通常見られるような)薬剤を自動的に注射するように構成された機械的エネルギー源と、(ペン型注射器において通常見られるような)用量設定機構とを含むことができる。
【0027】
本開示のいくつかの実施形態によれば、例示的な薬物送達デバイス10が、図1Aおよび1Bに示されている。上述したデバイス10は、患者の体内に薬剤を注射するように構成される。デバイス10は、典型的には注射すべき薬剤を含むリザーバを画成するカートリッジを含むハウジング11と、送達プロセスの1つまたはそれ以上の工程を容易にするために必要とされる構成要素とを含む。
【0028】
デバイス10は、ハウジング11に取外し可能に取り付けることができるキャップ12も含むことができる。通常、ユーザは、キャップ12をハウジング11から取り外さないと、デバイス10を操作することができない。
【0029】
図示されるように、ハウジング11は、実質的に円筒形であり、長手方向軸A-Aに沿って実質的に一定の直径を有する。ハウジング11は、遠位領域Dおよび近位領域Pを有する。「遠位」という用語は、注射部位に比較的近い場所を表し、「近位」という用語は、注射部位から比較的遠い場所を表す。
【0030】
デバイス10はニードルスリーブ19も含むことができ、ニードルスリーブ19は、ハウジング11に対するスリーブ19の動きを可能にするようにハウジング11に連結される。例えば、スリーブ19は、長手方向軸A-Aに平行な長手方向で移動することができる。具体的には、近位方向のスリーブ19の動きは、針17がハウジング11の遠位領域Dから延びることを可能にする。
【0031】
針17の挿入は、いくつかの機構によって行うことができる。例えば、針17は、ハウジング11に対して固定されて位置し、最初は、延ばされたニードルスリーブ19内に位置することがある。スリーブ19の遠位端を患者の身体に当て、ハウジング11を遠位方向に移動させることによるスリーブ19の近位運動が、針17の遠位端を露出させる。そのような相対運動により、針17の遠位端が患者の体内に延びることができる。そのような挿入は、患者がハウジング11をスリーブ19に対して手で動かすことによって針17が手動で挿入されるので、「手動」挿入と呼ばれる。
【0032】
別の挿入形態は「自動」であり、針17がハウジング11に対して移動する。そのような挿入は、スリーブ19の動きによって、または例えばボタン13など別の起動形態によってトリガすることができる。図1Aおよび1Bに示されるように、ボタン13は、ハウジング11の近位端に位置する。しかし、他の実施形態では、ボタン13は、ハウジング11の側面に位置させることができる。
【0033】
他の手動または自動機能は、薬物注射もしくは針後退、またはそれら両方を含むことができる。注射は、栓またはピストン14がカートリッジ18のリザーバ内の近位位置からより遠位の位置に移動されて、カートリッジ18から針17を通して薬剤を押し出すプロセスである。いくつかの実施形態では、デバイス10が起動される前に、駆動ばね(図示せず)は圧縮されている。駆動ばねの近位端は、ハウジング11の近位領域P内に固定することができ、駆動ばねの遠位端は、ピストン14の近位面に圧縮力を加えるように構成することができる。起動後、駆動ばねに蓄積されたエネルギーの少なくとも一部を、ピストン14の近位面に加えることができる。この圧縮力は、ピストン14に作用して、ピストンを遠位方向に移動させることができる。そのような遠位運動は、カートリッジ18内の液体薬剤を圧縮するように作用し、液体薬剤を針17から押し出す。
【0034】
注射後、針17は、スリーブ19またはハウジング11内に後退させることができる。後退は、ユーザが患者の身体からデバイス10を取り外す際にスリーブ19が遠位方向に移動するときに生じる。これは、針17がハウジング11に対して固定されて位置したままである場合に生じる。スリーブ19の遠位端が針17の遠位端を越えて移動し、針17が覆われると、スリーブ19をロックすることができる。そのようなロックは、ハウジング11に対するスリーブ19の近位運動をロックすることを含むことができる。
【0035】
針17がハウジング11に対して移動される場合、別の形態の針後退が生じる。そのような動きは、ハウジング11内のカートリッジ18がハウジング11に対して近位方向に移動される場合に生じる。この近位運動は、遠位領域Dに位置した収縮ばね(図示せず)を使用することによって実現することができる。圧縮された収縮ばねは、起動されるとき、カートリッジ18を近位方向に移動させるのに十分な力をカートリッジ18に供給することができる。十分な後退後、ロッキング機構を用いて、針17とハウジング11との相対運動をロックすることができる。さらに、必要に応じて、ボタン13、またはデバイス10の他の構成要素をロックすることができる。
【0036】
図2は、ハウジング21、カートリッジ22、および針ユニット23を有する例示的な注射デバイス20を例示する。注射デバイス20は、例示のように、ピストン24と、ピストン駆動機構25と、最初はキャップ27によって覆われているニードルスリーブ26とをさらに含む。
【0037】
カートリッジ22は、薬剤を含むリザーバ28を画成し、ハウジング21内部に取り付けられる。カートリッジ22の遠位端Dは、エンドキャップ29によって封止される。ハウジング21のカートリッジ取付部分(cartridge mounting portion)30が、カートリッジ22を支持する。
【0038】
図2に示されるように、初期状態では、針ユニット23の針31は、カートリッジ22の遠位端でエンドキャップ29から離間されている。注射デバイス20の使用前または使用中、針ユニット23は、カートリッジ22の遠位端と係合するように移動されて、針31がカートリッジ22のエンドキャップ30を穿孔する。このようにして、以下でさらに説明するように、リザーバ28から針31を通して薬剤を排出することができる。
【0039】
図2に例示される初期状態では、ピストン24は、カートリッジ22内のリザーバ28の近位端に配設され、ピストン駆動機構25は、ハウジング21の近位端に配設される。ピストン駆動機構25は、ばね32、プランジャ33、およびキャッチ34を含む。ばね32は、使用中にリザーバ28から薬剤を排出するために、プランジャ33をピストン24に対して付勢してカートリッジ22に押し込むように配置される。例示のように、使用前の初期位置では、ばね32はキャッチ34によって圧縮状態に保たれている。具体的には、キャッチ34はプランジャ33を保持し、プランジャ33は、ばね32を圧縮状態で保って、ピストン24に力が加えられないようにしている。
【0040】
以下でさらに説明するように、注射デバイス20は、アクチュエータによって作動され、この例では、ハウジング21内で摺動可能であり、ハウジング21の遠位端から突出するニードルスリーブ26によって作動される。このようにして、使用中、ニードルスリーブ26がユーザの皮膚に当てられ、注射デバイス20が、ハウジング21を保持しながらユーザの皮膚に向けて押され、これにより、ニードルスリーブ26が近位方向へハウジング21内に移動される。
【0041】
ニードルスリーブ26は、近位方向へハウジング21内に移動すると、キャッチ34を解放するように作用する。キャッチ34が解放されたとき、ばね32は、プランジャ33をピストン24に対して付勢してリザーバ28に押し込む。
【0042】
図2に例示されるように、キャッチ34は、プランジャ33およびばね32を取り囲む管状要素35を含む。管状要素35は、プランジャ33の凹部37と係合する突起部36を含み、図2に例示される位置で、プランジャ33は、突起部36および凹部37によって遠位方向への移動を妨げられる。
【0043】
ニードルスリーブ26が近位方向へハウジング21内に移動されるとき、ニードルスリーブ26の端部が管状要素35と係合し、管状要素35を注射デバイス20の軸Aの周りで回転させる。この回転により、突起部36が凹部37から係合解除され、それによりプランジャ33を解放し、次いでプランジャは、ばね32の力の下でリザーバ28内に移動する。
【0044】
一例では、管状要素35と係合するニードルスリーブ26の端部は、回転を引き起こすために管状要素35の突起部と係合する面取り(すなわち、傾斜した縁部)を含む。他の例では、管状要素35が、回転を引き起こすためにニードルスリーブ26の突起部と係合される面取り(すなわち、傾斜した縁部)を含む。
【0045】
他の例では、キャッチ34が、プランジャ33と係合する突起部を含むアームを含む。この場合、ニードルスリーブ26は、アームを持ち上げることによりアームを偏向させて、突起部を凹部から係合解除し、それによりプランジャ33を解放する。
【0046】
使用前または使用中、針ユニット23は、キャッチ34が解放される前にカートリッジ22と組み合わされる。以下で説明するように、針ユニット23を回転させると、針ユニット23がハウジング21内で軸方向に移動してカートリッジ22と係合し、その後、ニードルスリーブ26が近位方向に移動するとき、キャッチ34が解放され、プランジャ33が針31を通して薬剤の送達を開始する。
【0047】
図3Aは、使用前の注射デバイス20の初期状態を例示する。例示のように、ハウジング21は、遠位端が管状であり、針ユニット23は、ハウジング21に取り付けられている。特に、針ユニット23は、針31が取り付けられる内側部材38と、ハウジング21の外周面に配設される外側部材39と、ハウジング21のスロット41を通って延びて内側部材38を外側部材39に接合するスロット係合部分40とを含む。
【0048】
ハウジング21は、1つのスロット41または複数のスロット、例えば2つ、3つ、または4つのスロットを含む。針ユニット23は、同数のスロット係合部分40を含み、したがって、各スロット41に対して1つのスロット係合部分40が存在する。針ユニット23の外側部材39は、スロット係合部分40の端部に接合される独立した部材である。このようにすると、外側部材39は、必ずしもハウジング21の全周にわたって延びる必要はなく、ユーザが作動させることができる1つまたはそれ以上のボタンでよい。
【0049】
針ユニット23は、注射デバイス20の長手方向軸Aの周りを回転することができ、かつハウジング21内で軸方向に移動できるように、ハウジング21に取り付けられる。カートリッジ22は、ハウジング21内に固定されるようにハウジング21に取り付けられる。特に、例示のように、ハウジング21は、カートリッジ22の少なくとも一部を取り囲み、カートリッジを所定の位置に保持するカートリッジ取付部分30を含む。例示される例では、カートリッジ取付部分30は、カートリッジ22の遠位端を取り囲む。
【0050】
さらに、例示のように、ニードルスリーブ26は、ハウジング21の遠位端に摺動可能に取り付けられる。ニードルスリーブ26は、軸方向に摺動できるが回転はできないように取り付けられる。例えば、ニードルスリーブ26は、ハウジング21の内面の溝と係合して、軸方向摺動を可能にするが回転はできないようにする制限部材を含む。代替として、ニードルスリーブ26は溝を含み、ハウジング21は、溝と係合して軸方向摺動を可能にするが回転はできないようにする制限部材を含む。さらに、ニードルスリーブ26および/またはハウジング21は、ニードルスリーブ26がハウジング21から外れる(すなわち、図3Aに示される位置から遠位方向に移動する)のを防止する突起部を含む。
【0051】
また、ニードルスリーブ26はスロット(図3Aには図示せず)を含み、スロットを通って、針ユニット23のスロット係合部分40が延びる。ニードルスリーブ26のスロットは、ハウジング21のスロット41に対応する。
【0052】
例示のように、ばね42は、針ユニット23とニードルスリーブ26との間に配設され、針ユニット23とニードルスリーブ26とを付勢して離し、ニードルスリーブ26は、ハウジング21から離れる遠位方向に付勢され、針ユニット23は、カートリッジ22に向けて近位方向に付勢される。
【0053】
ハウジング21のスロット41の様々な例が、図4A~4Cに例示されている。これらの例では、スロット41は、ロック部分43および移動部分44を含む。例示のように、針ユニット(23、図3Aを参照)のスロット係合部分40がスロット41のロック部分43に位置しており、ばね(42、図3Aを参照)が針ユニット(23、図3Aを参照)を近位方向に付勢している状態のとき、スロット係合部分40は、移動部分44から遠いロック部分43の端部に付勢される。したがって、ハウジング21に対する針ユニット(23、図3A参照)の位置は「ロック」される。
【0054】
図3Aおよび図4A~4Cを参照すると、ハウジング21に対する針ユニット23の回転により、針ユニット23のスロット係合部分40が、ロック部分43から外れて移動部分44に移動され、ばね42が針ユニット23をハウジング21に対して近位方向に移動させる。
【0055】
図示されるように、スロット41の移動部分44は、遠位端と近位端との間で、注射デバイス20の軸Aに平行な方向に延びる。ロック部分43は、移動部分44に対して傾斜している。ロック部分43と移動部分44とが成す角度は、ロック部分43と移動部分44との両方の遠位端に頂点45が画成されるような角度である。このようにすると、針ユニット23のスロット係合部分40をロック部分43から移動部分44に移動させる、すなわち針ユニット23を「ロック解除」するために、針ユニット23を遠位方向に少し移動させ、回転させなければならない。
【0056】
図4Aの例では、スロット41は、ハウジング21の遠位端に延びる部分46も含む。図4Bの例では、スロット41に保持部材47が配設されて、ハウジング21の遠位端まで延びるスロット41の部分46に針ユニット23のスロット係合部分40が入るのを防止する。それにより、保持部材47は、針ユニット23がハウジング21から外れるのを防止する。代替として、図4Cに例示されるように、スロット41は、ハウジング21の遠位端まで延びる部分を含まない。この例では、スロット41は、ロック部分43および移動部分44のみを含む。
【0057】
ニードルスリーブ26のスロット(48、図3Bおよび3Cを参照)は、ハウジング21のスロット41に対応する。具体的には、スロット41、48はどちらもロック部分43および移動部分44を含み、これらの部分が互いに位置合わせされる。このようにすると、ハウジング21に対する針ユニット23の回転および軸方向運動は、ニードルスリーブ26とは無関係であり、したがって、ニードルスリーブ26は、針ユニット23がカートリッジ22と係合するように移動される間、同じ位置に留まることができる。
【0058】
図3Aに例示される初期状態では、ばね42は圧縮されており、構成要素は、ハウジング23のスロット41およびニードルスリーブ26のスロット48により、この状態で保持される。特に、この初期状態では、ばね42は、針ユニット23のスロット係合部分40をハウジング21のスロット41内部のロック位置に付勢しており、また、スロット係合部分40をニードルスリーブ26のスロット48内部のロック位置に付勢している。
【0059】
針ユニット23は、針ユニット23の外側部材39を把持し、ハウジング21に対して針ユニット23を回転させることにより、ユーザによって回転される。これは、針ユニット23のスロット係合部分40を、ロック部分43から外してスロット41の移動部分44に移動させる。また、針ユニット23の回転は、スロット係合部分40をニードルスリーブ26のスロット48の移動部分に移動させる。
【0060】
これにより、ばね42は、針ユニット23を近位方向に移動させることができるようになる。図3Bは、針ユニット23が回転された後の針ユニット23およびニードルスリーブ26の位置を例示する。図示されるように、針ユニット23は近位方向に移動し、カートリッジ22と係合している。特に、針31は、カートリッジ22の端部キャップ29を穿孔しており、針31はリザーバ28と流体連通し、針31を通してカートリッジ22から薬剤を送達することができる。
【0061】
図3Bに例示されるように、スロット係合部分40は、ハウジング21のスロット41に沿って移動するのと同時に、ニードルスリーブ26のスロット48に沿って移動するので、ニードルスリーブ26は、図3Aの初期位置と同じ位置にある。したがって、針ユニット23の回転後、針ユニット23は、カートリッジ22と係合するように移動し、ニードルスリーブ26は同じ位置に留まる(すなわち、ハウジング21の遠位端から突出している)。
【0062】
上述の例では、ニードルスリーブ26のスロット48はまた、針ユニット23が回転されるまで、ニードルスリーブ26が近位方向に移動する(プランジャ33を解放する;図2を参照)のを妨げる。すなわち、スロット係合部分40とニードルスリーブ26のスロット48との間のロック位置は、針ユニット23が回転されてスロット係合部分40をニードルスリーブ26のスロット48の移動部分に移動させるまで、ハウジング21へのニードルスリーブ26の動きを妨げる。したがって、針ユニット23が回転されて、針ユニット23とカートリッジ22とが係合するまで、キャッチ(34、図2を参照)およびプランジャ(33、図2を参照)を解放することはできない。
【0063】
図3A~3Cに例示されているように、針ユニット23は、針ユニット23がカートリッジ22と係合するように移動するときにカートリッジ22と係合するロック部材49をさらに含む。特に、針ユニット23は、ハウジング21のカートリッジ取付部分30と係合するスナップロック部材(snap-lock part)49を有する。したがって、針ユニット23が図3Bに例示されている位置に到達すると、針ユニット23は、カートリッジ取付部分30に「ロック」され、カートリッジ22に対してロックされる。
【0064】
スナップロック部材49は、1対の可撓性アームを含み、各アームが端部にキャッチ50を有する。キャッチ50は、カートリッジ22の近傍で、ハウジング21のカートリッジ取付部分30の部材51に掛止するように適用される。代替として、キャッチ50は、カートリッジ22の近傍で、例えばカートリッジ取付部分30でハウジング21に位置する凹部に掛止するように適用される。代替として、キャッチ50は、カートリッジ22自体のキャッチまたは凹部に掛止するように適用される。
【0065】
その後、注射デバイス20は、ニードルスリーブ26の遠位端をユーザの皮膚に押し当て、それによりニードルスリーブ26が近位方向へハウジング21内に移動して針31を露出させることによって使用される。また、図2を参照して述べたように、ニードルスリーブ26のそのような軸方向近位運動は、キャッチ34を解放し、プランジャ33による薬剤の送達を開始する。
【0066】
注射デバイス20の動作が、図5A~5Dを参照して例示されている。
【0067】
図5Aは、注射デバイス20の初期状態を示し、キャップ27がニードルスリーブ26を覆い、針31がカートリッジ22から離間されている。図示されるように、針ユニット23の内側部材38のロック部材49は、ハウジング21のカートリッジ取付部分30の一部と接触しており、針ユニット23がカートリッジ22に向けて移動されるときに針ユニット23を案内するように作用する。
【0068】
この状態では、針ユニット23のスロット係合部分40は、ハウジング21のスロット40のロック部分(43、図4A~4Cを参照)およびニードルスリーブ26のスロット(48、図3Bおよび3Cを参照)のロック部分に配設され、それにより、針ユニット23の位置は、ハウジング21およびカートリッジ22に対してロックされる。さらに、ニードルスリーブ26のスロット(48、図3Bおよび3Cを参照)は、ニードルスリーブ26がハウジング21に対して近位方向に移動するのを妨げる。
【0069】
キャップ27が取り外されたとき、針ユニット23の外側部材39を使用して針ユニット23を回転させることができる。図5Bは、針ユニット23が回転される前の注射デバイス20を示し、図5Cは、針ユニット23が回転された後の注射デバイス20を示す。針ユニット23の回転により、針ユニット23のスロット係合部分40が、ハウジング21のスロット41の移動部分44およびニードルスリーブ26のスロット48の移動部分に移動する。したがって、針ユニット23は、ハウジング21およびニードルスリーブ26に対して軸方向に自由に移動でき、ばね42は、図5Cに示されるように、カートリッジ22と係合するように針ユニット23を押す。
【0070】
図5Cの状態では、針31は、カートリッジ22の端部キャップ29を穿孔しており、リザーバ28と流体連通している。ロック部材49は、針ユニット23をハウジング21のカートリッジ取付部分30にロックしている。ここで、注射デバイス20は、針31を通して薬剤を投薬することができる。
【0071】
図5Dに示されるように、注射プロセスを開始するために、ニードルスリーブ26は、ユーザの皮膚に押し当てられて、近位方向へハウジング21内に移動し、それにより針31を露出させ、針31がユーザの皮膚を穿孔する。また、先に説明したように、近位方向へのニードルスリーブ26の動きは、キャッチ(34、図2を参照)を係合解除し、プランジャ(33、図2を参照)を解放し、それにより、ばね(32、図2を参照)がプランジャ(33、図2を参照)をカートリッジ22に押し込み、針31を通して薬剤を投薬する。ニードルスリーブ26が近位方向に移動するとき、ニードルスリーブ26のスロット48は、ニードルスリーブ26が針ユニット23とは関係なく移動できるようにし、針ユニット23は、カートリッジ22でのその係合位置に留まる。
【0072】
注射プロセスが完了し、注射デバイス20がユーザの皮膚から取り外されると、ばね42は、ニードルスリーブ26を付勢して伸長位置(図5C)に戻し、したがって針31は再び覆われる。
【0073】
様々な例において、注射デバイス20は、ニードルスリーブ26を含まない。これらの例では、ユーザが、針ユニット23を回転させ、軸方向に動かしてカートリッジ22と係合させ、次いで、異なるアクチュエータによって、例えば針31が皮膚に挿入された後にユーザが押すボタンまたはレバーによって注射プロセス(すなわち、キャッチ34の解放。図2を参照)を実施することができる。これらの例では、ばね42は省かれる。いくつかの例では、代替のばねを設けることができ、ハウジング21と針ユニット23との間で作用して、使用前に針ユニット23のスロット係合部分40をハウジング21のスロット41のロック部分43に付勢し、針ユニット23の回転後に針ユニット23を付勢してカートリッジ22と係合させる。他の例では、ばねは設けられておらず、ユーザは、針ユニット23を回転させ、次いで針ユニット23をカートリッジ22へ摺動することによって、針ユニット23を手動で移動させてカートリッジ22と係合させる。
【0074】
さらに、プランジャ33は、図2に例示されているようにばね32によって駆動されないことを理解されたい。例えば、プランジャ33を手動で操作して、針ユニット23の回転後、ユーザがプランジャ33をカートリッジ22に押し込む。代替として、針ユニット23の回転後にプランジャ33をカートリッジ22内に移動させるために、モータまたはリニアドライブ機構(linear drive mechanism)が提供される。
【0075】
用語「薬物」または「薬剤」は、本明細書において同意語として使用され、1つまたはそれ以上の医薬品有効成分または薬学的に許容されるその塩もしくは溶媒和物と、場合により、薬学的に許容される担体とを含む医薬製剤を示す。医薬品有効成分(「API」)とは、最も広範な言い方で、ヒトまたは動物に生物学的影響を及ぼす化学構造のことである。薬理学では、薬物または薬剤が、疾患の処置、治療、予防、または診断に使用され、またはそれとは別に、身体的または精神的健康を向上させるために使用される。薬物または薬剤は、限られた継続期間、または慢性疾患では定期的に、使用される。
【0076】
以下に説明されるように、薬物または薬剤は、1つまたはそれ以上の疾患を処置するための、様々なタイプの製剤の少なくとも1つのAPI、またはその組合せを含むことができる。APIの例としては、分子量が500Da以下である低分子;ポリペプチド、ペプチド、およびタンパク質(例えばホルモン、成長因子、抗体、抗体フラグメント、および酵素);炭水化物および多糖類;ならびに核酸、二本鎖または一本鎖DNA(裸およびcDNAを含む)、RNA、アンチセンスDNAおよびRNAなどのアンチセンス核酸、低分子干渉RNA(siRNA)、リボザイム、遺伝子、およびオリゴヌクレオチドが含まれ得る。核酸は、ベクター、プラスミド、またはリポソームなどの分子送達システムに組み込まれる。1つまたはそれ以上の薬物の混合物もまた企図される。
【0077】
薬物または薬剤は、薬物送達デバイスで使用するように適用された主要パッケージまたは「薬物容器」内に含まれる。薬物容器は、例えば、カートリッジ、シリンジ、リザーバ、または1つもしくはそれ以上の薬物の保存(例えば短期または長期保存)に適したチャンバを提供するように構成された他の固体もしくは可撓性の容器とすることができる。例えば、場合によって、チャンバは、少なくとも1日(例えば1日から少なくとも30日まで)の間薬物を収納するように設計される。場合によって、チャンバは、約1ヶ月から約2年の間薬物を保存するように設計される。保存は、室温(例えば約20℃)または冷蔵温度(例えば約-4℃から約4℃まで)で行うことができる。場合によって、薬物容器は、投与予定の医薬製剤の2つまたはそれ以上の成分(例えばAPIおよび希釈剤、または2つの異なるタイプの薬物)を別々に、各チャンバに1つずつ保存するように構成された二重チャンバカートリッジとすることができ、またはこれを含むことができる。そのような場合、二重チャンバカートリッジの2つのチャンバは、ヒトまたは動物の体内に投薬する前、および/または投薬中に2つまたはそれ以上の成分間で混合することを可能にするように構成される。例えば、2つのチャンバは、これらが(例えば2つのチャンバ間の導管によって)互いに流体連通し、所望の場合、投薬の前にユーザによって2つの成分を混合することを可能にするように構成される。代替的に、またはこれに加えて、2つのチャンバは、成分がヒトまたは動物の体内に投薬されているときに混合することを可能にするように構成される。
【0078】
本明細書において説明される薬物送達デバイス内に含まれる薬物または薬剤は、数多くの異なるタイプの医学的障害の処置および/または予防に使用される。障害の例としては、例えば、糖尿病、または糖尿病性網膜症などの糖尿病に伴う合併症、深部静脈血栓塞栓症または肺血栓塞栓症などの血栓塞栓症が含まれる。障害の別の例としては、急性冠症候群(ACS)、狭心症、心筋梗塞、がん、黄斑変性症、炎症、枯草熱、アテローム性動脈硬化症および/または関節リウマチがある。APIおよび薬物の例としては、例えば、それだけには限らないが、ハンドブックのRote Liste 2014、主グループ12(抗糖尿病薬物)または主グループ86(腫瘍薬物)、およびMerck Index、第15版などに記載されているものがある。
【0079】
1型もしくは2型の糖尿病、または1型もしくは2型の糖尿病に伴う合併症の処置および/または予防のためのAPIの例としては、インスリン、例えばヒトインスリン、またはヒトインスリン類似体もしくは誘導体、グルカゴン様ペプチド(GLP-1)、GLP-1類似体もしくはGLP-1受容体アゴニスト、またはその類似体もしくは誘導体、ジペプチジルペプチダーゼ-4(DPP4)阻害剤、または薬学的に許容されるその塩もしくは溶媒和物、またはそれらの任意の混合物が含まれる。本明細書において使用される用語「類似体」および「誘導体」は、天然のペプチドの構造、例えばヒトのインスリンの構造から、天然のペプチド中に見出される少なくとも1つのアミノ酸残基を欠失させるおよび/もしくは交換することによって、ならびに/または少なくとも1つのアミノ酸残基を付加することによって式上で得られる分子構造を有するポリペプチドを指す。付加および/または交換されるアミノ酸残基は、コード可能なアミノ酸残基、または他の天然の残基もしくは完全に合成によるアミノ酸残基とすることができる。インスリン類似体は「インスリン受容体リガンド」とも呼ばれる。特に、用語「誘導体」は、1つまたはそれ以上の有機置換基(例えば、脂肪酸)が1つまたはそれ以上のアミノ酸に結合している、天然のペプチドの構造、例えばヒトのインスリンの構造から式上で得られる分子構造を有するポリペプチドを指す。場合により、天然のペプチド中に見出される1つまたはそれ以上のアミノ酸が、欠失され、かつ/もしくはコード不可能なアミノ酸を含む他のアミノ酸によって置換されていてもよく、または、コード不可能なアミノ酸を含むアミノ酸が、天然のペプチドに付加されていてもよい。
【0080】
インスリン類似体の例としては、Gly(A21),Arg(B31),Arg(B32)ヒトインスリン(インスリングラルギン);Lys(B3),Glu(B29)ヒトインスリン(インスリングルリジン);Lys(B28),Pro(B29)ヒトインスリン(インスリンリスプロ);Asp(B28)ヒトインスリン(インスリンアスパルト);B28位におけるプロリンがAsp、Lys、Leu、Val、またはAlaで置き換えられており、B29位において、LysがProで置換されているヒトインスリン;Ala(B26)ヒトインスリン;Des(B28-B30)ヒトインスリン;Des(B27)ヒトインスリンおよびDes(B30)ヒトインスリンがある。
【0081】
インスリン誘導体の例としては、例えば、B29-N-ミリストイル-des(B30)ヒトインスリン;Lys(B29)(N-テトラデカノイル)-des(B30)ヒトインスリン(インスリンデテミル、Levemir(登録商標))、B29-N-パルミトイル-des(B30)ヒトインスリン;B29-N-ミリストイルヒトインスリン;B29-N-パルミトイルヒトインスリン;B28-N-ミリストイルLysB28ProB29ヒトインスリン;B28-N-パルミトイル-LysB28ProB29ヒトインスリン;B30-N-ミリストイル-ThrB29LysB30ヒトインスリン;B30-N-パルミトイル-ThrB29LysB30ヒトインスリン;B29-N-(N-パルミトイル-γ-グルタミル)-des(B30)ヒトインスリン;B29-N-ω-カルボキシヘプタデカノイル-γ-L-グルタミル-des(B30)ヒトインスリン(インスリンデグルデク、Tresiba(登録商標))、B29-N-(N-リトコリル-γ-グルタミル)-des(B30)ヒトインスリン;B29-N-(ω-カルボキシヘプタデカノイル)-des(B30)ヒトインスリン、およびB29-N-(ω-カルボキシヘプタデカノイル)ヒトインスリンがある。
【0082】
GLP-1、GLP-1類似体およびGLP-1受容体アゴニストの例としては、例えば、リキシセナチド(Lyxumia(登録商標))、エキセナチド(エキセンディン-4、Dyetta(登録商標)、Bydureon(登録商標)、アメリカドクトカゲの唾液腺によって産生される39アミノ酸ペプチド)、リラグルチド(Victoza(登録商標))、セマグルチド、タスポグルチド、アルビグルチド(Syncria(登録商標))、デュラグルチド(Trulicity(登録商標))、rエキセンディン-4、CJC-1134-PC、PB-1023、TTP-054、ラングレナチド/HM-11260C、CM-3、GLP-1エリゲン(Eligen)、ORMD-0901、NN-9924、NN-9926、NN-9927、ノデキセン(Nodexen)、ビアドール(Viador)-GLP-1、CVX-096、ZYOG-1、ZYD-1、GSK-2374697、DA-3091、MAR-701、MAR709、ZP-2929、ZP-3022、TT-401、BHM-034、MOD-6030、CAM-2036、DA-15864、ARI-2651、ARI-2255、エキセナチド-XTENおよびグルカゴン-Xtenがある。
【0083】
オリゴヌクレオチドの例としては、例えば:家族性高コレステロール血症の処置のためのコレステロール低下アンチセンス治療薬である、ミポメルセンナトリウム(Kynamro(登録商標))がある。
【0084】
DPP4阻害剤の例としては、ビルダグリプチン、シタグリプチン、デナグリプチン、サキサグリプチン、ベルベリンがある。
【0085】
ホルモンの例としては、ゴナドトロピン(フォリトロピン、ルトロピン、コリオンゴナドトロピン、メノトロピン)、ソマトロピン(ソマトロピン)、デスモプレシン、テルリプレシン、ゴナドレリン、トリプトレリン、ロイプロレリン、ブセレリン、ナファレリン、およびゴセレリンなどの、脳下垂体ホルモンまたは視床下部ホルモンまたは調節性活性ペプチドおよびそれらのアンタゴニストが含まれる。
【0086】
多糖類の例としては、グルコサミノグリカン、ヒアルロン酸、ヘパリン、低分子量ヘパリン、もしくは超低分子量ヘパリン、またはそれらの誘導体、または上述の多糖類の硫酸化形態、例えば、ポリ硫酸化形態、および/または、薬学的に許容されるそれらの塩が含まれる。ポリ硫酸化低分子量ヘパリンの薬学的に許容される塩の例としては、エノキサパリンナトリウムがある。ヒアルロン酸誘導体の例としては、ハイランG-F20(Synvisc(登録商標))、ヒアルロン酸ナトリウムがある。
【0087】
本明細書において使用する用語「抗体」は、免疫グロブリン分子またはその抗原結合部分を指す。免疫グロブリン分子の抗原結合部分の例には、抗原を結合する能力を保持するF(ab)およびF(ab’)2フラグメントが含まれる。抗体は、ポリクローナル、モノクローナル、組換え型、キメラ型、非免疫型またはヒト化、完全ヒト型、非ヒト型(例えばネズミ)、または一本鎖抗体とすることができる。いくつかの実施形態では、抗体はエフェクター機能を有し、補体を固定することができる。いくつかの実施形態では、抗体は、Fc受容体と結合する能力が低く、または結合することはできない。例えば、抗体は、アイソタイプもしくはサブタイプ、抗体フラグメントまたは変異体とすることができ、これはFc受容体との結合を支持せず、例えば、突然変異した、または欠失したFc受容体結合領域を有する。用語の抗体はまた、四価二重特異性タンデム免疫グロブリン(TBTI)および/または交差結合領域の配向性を有する二重可変領域抗体様結合タンパク質(CODV)に基づく抗体結合分子を含む。
【0088】
用語「フラグメント」または「抗体フラグメント」は、全長抗体ポリペプチドを含まないが、抗原と結合することができる全長抗体ポリペプチドの少なくとも一部分を依然として含む、抗体ポリペプチド分子(例えば、抗体重鎖および/または軽鎖ポリペプチド)由来のポリペプチドを指す。抗体フラグメントは、全長抗体ポリペプチドの切断された部分を含むことができるが、この用語はそのような切断されたフラグメントに限定されない。本発明に有用である抗体フラグメントは、例えば、Fabフラグメント、F(ab’)2フラグメント、scFv(一本鎖Fv)フラグメント、直鎖抗体、単一特異性抗体フラグメント、または二重特異性、三重特異性、四重特異性および多重特異性抗体(例えば、ダイアボディ、トリアボディ、テトラボディ)などの多重特異性抗体フラグメント、一価抗体フラグメント、または二価、三価、四価および多価抗体などの多価抗体フラグメント、ミニボディ、キレート組換え抗体、トリボディまたはバイボディ、イントラボディ、ナノボディ、小モジュラー免疫薬(SMIP)、結合ドメイン免疫グロブリン融合タンパク質、ラクダ化抗体、およびVHH含有抗体を含む。抗原結合抗体フラグメントのさらなる例が当技術分野で知られている。
【0089】
用語「相補性決定領域」または「CDR」は、特異的抗原認識を仲介する役割を主に担う重鎖および軽鎖両方のポリペプチドの可変領域内の短いポリペプチド配列を指す。用語「フレームワーク領域」は、CDR配列ではなく、CDR配列の正しい位置決めを維持して抗原結合を可能にする役割を主に担う重鎖および軽鎖両方のポリペプチドの可変領域内のアミノ酸配列を指す。フレームワーク領域自体は、通常、当技術分野で知られているように、抗原結合に直接的に関与しないが、特定の抗体のフレームワーク領域内の特定の残基が、抗原結合に直接的に関与することができ、またはCDR内の1つまたはそれ以上のアミノ酸が抗原と相互作用する能力に影響を与えることができる。
【0090】
抗体の例としては、アンチPCSK-9mAb(例えばアリロクマブ)、アンチIL-6mAb(例えばサリルマブ)、およびアンチIL-4mAb(例えばデュピルマブ)がある。
【0091】
本明細書において説明される任意のAPIの薬学的に許容される塩もまた、薬物送達デバイスにおける薬物または薬剤の使用に企図される。薬学的に許容される塩は、例えば酸付加塩および塩基性塩である。
【0092】
本発明の全範囲および精神から逸脱することなく、本明細書で述べたAPI、製剤、装置、方法、システム、および実施形態の様々な構成要素の修正(追加および/または削除)を行うことができることを当業者は理解されよう。本発明は、そのような修正およびすべての等価物を包含する。
図1A
図1B
図2
図3A
図3B
図3C
図4A
図4B
図4C
図5A
図5B
図5C
図5D