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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-04
(45)【発行日】2023-09-12
(54)【発明の名称】液晶ポリエステル樹脂組成物及び成形品
(51)【国際特許分類】
   C08L 67/04 20060101AFI20230905BHJP
   C08K 7/14 20060101ALI20230905BHJP
   C08K 7/10 20060101ALI20230905BHJP
   C08K 7/06 20060101ALI20230905BHJP
【FI】
C08L67/04
C08K7/14
C08K7/10
C08K7/06
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020555586
(86)(22)【出願日】2019-11-07
(86)【国際出願番号】 JP2019043690
(87)【国際公開番号】W WO2020095997
(87)【国際公開日】2020-05-14
【審査請求日】2022-05-16
(31)【優先権主張番号】P 2018211192
(32)【優先日】2018-11-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002093
【氏名又は名称】住友化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100196058
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 彰雄
(74)【代理人】
【識別番号】100126664
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 慎吾
(74)【代理人】
【識別番号】100153763
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 広之
(72)【発明者】
【氏名】田村 翼
(72)【発明者】
【氏名】原 節幸
【審査官】藤原 研司
(56)【参考文献】
【文献】特開平03-059066(JP,A)
【文献】特開平09-176377(JP,A)
【文献】特開平10-025402(JP,A)
【文献】特開平11-080517(JP,A)
【文献】特開2006-117731(JP,A)
【文献】特開2009-256415(JP,A)
【文献】特開2009-256416(JP,A)
【文献】特開2013-103968(JP,A)
【文献】特表2015-532353(JP,A)
【文献】特開2009-191088(JP,A)
【文献】特開2005-290370(JP,A)
【文献】特開2001-207054(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 67/00-67/08
C08K 3/00-13/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)成分:液晶ポリエステル、
(B)成分:ガラス繊維、
(C)成分:前記(B)成分とは異なる繊維状無機充填材、を必須成分とし、
前記(A)成分は、下記式(1)で表される繰り返し単位(1)を有し、
前記繰返し単位(1)の含有量は、全繰返し単位の合計量に対して30モル%以上であり、
前記(B)成分の単繊維径が5μm以上17μm以下であり、
前記(C)成分は、炭素繊維又はウイスカーであり、
前記(C)成分の数平均繊維径が0.4μm以上50μm以下であり、
前記(B)成分及び前記(C)成分を合わせた全繊維状充填材の数平均繊維長が40μm以上80μm以下であり、
前記(A)成分100質量部に対する前記(B)成分の配合量が、50質量部以上90質量部以下であり、
前記(A)成分100質量部に対する前記(C)成分の配合量が、1質量部以上40質量部以下であって、下記条件(1)及び条件(2)を満たす、液晶ポリエステル樹脂組成物。
条件(1):流動開始温度から+20℃以上30℃以下の温度範囲に含まれる任意の測定温度において、ISO 11443に準拠し、せん断速度1000s-1の条件下で測定した溶融粘度が、40Pa・s以上70Pa・s以下である。
条件(2):前記測定温度において、ISO 11443に準拠し、せん断速度12000s-1の条件下で測定した溶融粘度が、0.1Pa・s以上10Pa・s以下である。
(1)-O-Ar-CO-
(Arは、フェニレン基、ナフチレン基またはビフェニリレン基を表す。
Arで表される前記基にある水素原子は、それぞれ独立に、ハロゲン原子、アルキル基またはアリール基で置換されていてもよい。)
【請求項2】
前記条件(1)により測定される溶融粘度と、前記条件(2)により測定される溶融粘度の比((1)/(2))が、5.0を超える、請求項1に記載の液晶ポリエステル樹脂組成物。
【請求項3】
前記流動開始温度は320℃以上330℃以下であって、前記測定温度は350℃である、請求項1又は2に記載の液晶ポリエステル樹脂組成物。
【請求項4】
前記(C)成分がワラストナイトである、請求項1~のいずれか1項に記載の液晶ポリエステル樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1~のいずれか1項に記載の液晶ポリエステル樹脂組成物を形成材料とする成形品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶ポリエステル樹脂組成物及び成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶ポリエステルは、流動性、耐熱性および寸法精度が高い材料であることが知られ、各種の成形品の形成材料として用いられている。成形品を成形する際、通常、液晶ポリエステルは、各種の充填材を含有させた液晶ポリエステル樹脂組成物として用いられている。充填材は、各成形品の要求特性(例えば、機械強度)に応じて選択される。
【0003】
液晶ポリエステルを形成材料とする成形品は、電子機器の部品として用いられている電子機器の小型化に伴い、各部品も小型化・薄肉化が進んでいる。例えば、従来1.0mm程度の肉厚を有していた部品が、小型化要求に応じて、0.3mm厚程度にまで薄肉化されることがある。
【0004】
このような薄肉の部品は破損しやすい。そのため、部品の薄肉化に際しては、破損が抑制された部品(成形品)、換言すれば機械強度を向上させた成形品が求められる。従来、機械強度を向上させた成形品の形成材料としては、充填材として繊維状充填材を用いた液晶ポリエステル樹脂組成物が知られている(特許文献1)。
【0005】
また、例えば特許文献2には、熱可塑性樹脂と、繊維状結晶が凝集してなる凝集粒子とを含む熱可塑性樹脂組成物が記載されている。特許文献2では、熱可塑性樹脂として、液晶高分子が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平8-231832号公報
【文献】特開2010-215905号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
部品を薄肉化すると、特に、薄肉部分のウエルド強度が低下しやすくなる。特許文献1に記載の従来の樹脂組成物を用いて得られた薄肉の成形品は、ウエルド強度が低く、改善の余地があった。
特許文献2に記載の熱可塑性樹脂組成物は、成形体を成形したときのウエルドの発生防止を目的とし、ウエルドラインが観察されない成形体を製造できたことが記載されている。
一方で、複雑な形状の成形品や、薄肉の成形品を製造しようとする場合には、ウエルドの発生を完全に防止することが困難な場合がある。特許文献2に記載の技術においては、ウエルド強度向上の観点から十分に改良の余地があった。
【0008】
本発明は従来よりも薄肉におけるウエルド強度が高い成形品を製造可能な液晶ポリエステル樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本実施形態に係る液晶ポリエステル樹脂組成物は、(A)成分:液晶ポリエステル、(B)成分:ガラス繊維、(C)成分:前記(B)成分とは異なる繊維状無機充填材、を必須成分とし、前記(A)成分100質量部に対する前記(B)成分の配合量が、50質量部以上90質量部以下であり、前記(A)成分100質量部に対する前記(C)成分の配合量が、1質量部以上40質量部以下であって、下記条件(1)及び条件(2)を満たす液晶ポリエステル樹脂組成物である。
条件(1):流動開始温度から+20℃以上30℃以下の温度範囲に含まれる任意の測定温度において、ISO 11443に準拠し、せん断速度1000sec-1の条件下で測定した溶融粘度が、40Pa・s以上70Pa・s以下である。
条件(2):前記測定温度において、ISO 11443に準拠し、せん断速度12000sec-1の条件下で測定した溶融粘度が、0.1Pa・s以上10Pa・s以下である。
【0010】
本実施形態に係る液晶ポリエステル樹脂組成物は、好ましくは、前記条件(1)により測定される溶融粘度と、前記条件(2)により測定される溶融粘度の比((1)/(2))が、5.0を超える液晶ポリエステル樹脂組成物である。
【0011】
本実施形態に係る液晶ポリエステル樹脂組成物は、好ましくは、前記(B)成分及び前記(C)成分を合わせた全繊維状充填材の数平均繊維長が40μm以上80μm以下である、液晶ポリエステル樹脂組成物である。
【0012】
本実施形態において好ましくは、条件(1)における流動開始温度は320℃以上330℃以下であって、測定温度は350℃である。
【0013】
本実施形態に係る液晶ポリエステル樹脂組成物は、好ましくは、(C)成分がワラストナイトである、液晶ポリエステル樹脂組成物である。
【0014】
本実施形態に係る成形品は、上述の液晶ポリエステル樹脂組成物を形成材料とする成形品である。
さらに、本発明は以下の態様を含む。
本実施形態に係る液晶ポリエステル樹脂組成物は、(A)成分:液晶ポリエステル、(B)成分:ガラス繊維、(C)成分:前記(B)成分とは異なる繊維状無機充填材、を必須成分とし、前記(A)成分100質量部に対する前記(B)成分の配合量が、50質量部以上90質量部以下であり、前記(A)成分100質量部に対する前記(C)成分の配合量が、1質量部以上40質量部以下であって、下記条件(1)及び条件(2)を満たす液晶ポリエステル樹脂組成物である。
条件(1):流動開始温度から+20℃以上30℃以下の温度範囲に含まれる任意の測定温度において、ISO 11443に準拠し、せん断速度1000s-1の条件下で測定した溶融粘度が、40Pa・s以上70Pa・s以下である。
条件(2):前記測定温度において、ISO 11443に準拠し、せん断速度12000s-1の条件下で測定した溶融粘度が、0.1Pa・s以上10Pa・s以下である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、従来よりも薄肉化され、ウエルド強度が高い成形品を製造可能な液晶ポリエステル樹脂組成物、および、従来よりも薄肉化され、ウエルド強度が高い成形品を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明を適用した場合の、樹脂の流動状態を説明するための模式図である。
図2】実施例において製造した成形品の上面図である。
図3】ウエルド強度試験の試験方法を説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
<液晶ポリエステル樹脂組成物>
本実施形態の液晶ポリエステル樹脂組成物は、下記(A)成分、(B)成分及び(C)成分を含有する。以降、「液晶ポリエステル樹脂組成物」を「樹脂組成物」と省略して記載する場合がある。
(A)成分:液晶ポリエステル。
(B)成分:ガラス繊維。
(C)成分:(B)成分とは異なる繊維状無機充填材。
【0018】
本実施形態において、「液晶ポリエステル樹脂組成物」は通常、(A)成分、(B)成分原料、(C)成分原料、及び必要に応じて用いられる他の成分を溶融混練して製造した樹脂組成物を意味する。本実施形態の液晶ポリエステル樹脂組成物としては、例えばペレット状の液晶ポリエステル樹脂組成物が挙げられる。
以下、本実施形態の液晶ポリエステル樹脂組成物を構成する各成分について説明する。
【0019】
≪液晶ポリエステル:(A)成分≫
液晶ポリエステル樹脂組成物に含まれる液晶ポリエステルは、溶融状態で液晶性を示すポリエステルであり、450℃以下の温度で溶融する性質を有することが好ましい。なお、液晶ポリエステルは、液晶ポリエステルアミドであってもよいし、液晶ポリエステルエーテルであってもよいし、液晶ポリエステルカーボネートであってもよいし、液晶ポリエステルイミドであってもよい。液晶ポリエステルは、原料モノマーとして芳香族化合物のみを用いてなる全芳香族液晶ポリエステルであることが好ましい。
【0020】
液晶ポリエステルの典型的な例としては、以下が挙げられる。
1)(i)芳香族ヒドロキシカルボン酸と、(ii)芳香族ジカルボン酸と、(iii)芳香族ジオール、芳香族ヒドロキシアミン及び芳香族ジアミンからなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物と、を重合(重縮合)させて得られる重合体。
2)複数種の芳香族ヒドロキシカルボン酸を重合させて得られる重合体。
3)(i)芳香族ジカルボン酸と、(ii)芳香族ジオール、芳香族ヒドロキシアミン及び芳香族ジアミンからなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物と、を重合させて得られる重合体。
4)(i)ポリエチレンテレフタレート等のポリエステルと、(ii)芳香族ヒドロキシカルボン酸と、を重合させて得られる重合体。
【0021】
ここで、液晶ポリエステルの原料モノマーである芳香族ヒドロキシカルボン酸、芳香族ジカルボン酸、芳香族ジオール、芳香族ヒドロキシアミンおよび芳香族ジアミンは、それぞれ独立に、その一部または全部に代えて、その重合可能な誘導体が用いられてもよい。
【0022】
芳香族ヒドロキシカルボン酸および芳香族ジカルボン酸のようなカルボキシ基を有する化合物の重合可能な誘導体の例としては、
(a)カルボキシ基をアルコキシカルボニル基またはアリールオキシカルボニル基に変換して得られるエステル、
(b)カルボキシ基をハロホルミル基に変換して得られる酸ハロゲン化物、および
(c)カルボキシ基をアシルオキシカルボニル基に変換して得られる酸無水物、が挙げられる。
【0023】
芳香族ヒドロキシカルボン酸、芳香族ジオールおよび芳香族ヒドロキシアミンのようなヒドロキシ基を有する化合物の重合可能な誘導体の例としては、ヒドロキシ基をアシル化してアシルオキシル基に変換して得られるアシル化物が挙げられる。
【0024】
芳香族ヒドロキシアミンおよび芳香族ジアミンのようなアミノ基を有する化合物の重合可能な誘導体の例としては、アミノ基をアシル化してアシルアミノ基に変換して得られるアシル化物が挙げられる。
【0025】
液晶ポリエステルは、下記式(1)で表される繰返し単位を有することが好ましく、繰返し単位(1)と、下記式(2)で表される繰返し単位と、下記式(3)で表される繰返し単位とを有することがより好ましい。
以下、下記式(1)で表される繰返し単位を「繰返し単位(1)」ということがある。
また、下記式(2)で表される繰返し単位を「繰返し単位(2)」ということがある。
また、下記式(3)で表される繰返し単位を「繰返し単位(3)」ということがある。
【0026】
(1)-O-Ar-CO-
(2)-CO-Ar-CO-
(3)-X-Ar-Y-
(Arは、フェニレン基、ナフチレン基またはビフェニリレン基を表す。
ArおよびArは、それぞれ独立に、フェニレン基、ナフチレン基、ビフェニリレン基または下記式(4)で表される基を表す。
XおよびYは、それぞれ独立に、酸素原子またはイミノ基(-NH-)を表す。
Ar、ArまたはArで表される前記基にある水素原子は、それぞれ独立に、ハロゲン原子、アルキル基またはアリール基で置換されていてもよい。)
【0027】
(4)-Ar-Z-Ar
(ArおよびArは、それぞれ独立に、フェニレン基またはナフチレン基を表す。
Zは、酸素原子、硫黄原子、カルボニル基、スルホニル基またはアルキリデン基を表す。)
【0028】
Ar、ArまたはArで表される基に含まれる水素原子を置換可能なハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子およびヨウ素原子が挙げられる。
【0029】
Ar、ArまたはArで表される基に含まれる水素原子を置換可能なアルキル基の例としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、s-ブチル基、t-ブチル基、n-ヘキシル基、2-エチルヘキシル基、n-オクチル基およびn-デシル基が挙げられる。アルキル基の炭素数は、通常1~10である。
【0030】
Ar、ArまたはArで表される基に含まれる水素原子を置換可能なアリール基の例としては、フェニル基、o-トリル基、m-トリル基、p-トリル基、1-ナフチル基および2-ナフチル基が挙げられる。アリール基の炭素数は、通常6~20である。
【0031】
Ar、ArまたはArで表される基に含まれる水素原子がハロゲン原子、アルキル基またはアリール基で置換されている場合、ハロゲン原子、アルキル基またはアリール基の数は、Ar、ArまたはArで表される前記基毎に、それぞれ独立に、通常2個以下であり、好ましくは1個以下である。
【0032】
Zで表されるアルキリデン基の例としては、メチレン基、エチリデン基、イソプロピリデン基、n-ブチリデン基および2-エチルヘキシリデン基が挙げられる。アルキリデン基の炭素数は通常1~10である。
【0033】
繰返し単位(1)は、芳香族ヒドロキシカルボン酸に由来する繰返し単位である。
繰返し単位(1)としては、Arがp-フェニレン基である繰返し単位が好ましい。
Arがp-フェニレン基である繰返し単位は、p-ヒドロキシ安息香酸に由来する繰返し単位である。
【0034】
繰り返し単位(1)のその他の例としては、Arが2,6-ナフチレン基である繰り返し単位が挙げられる。Arが2,6-ナフチレン基である繰り返し単位は、6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸に由来する繰り返し単位である。
【0035】
なお、本明細書において「由来」とは、原料モノマーが重合するために、重合に寄与する官能基の化学構造が変化し、その他の構造変化を生じないことを意味する。
【0036】
繰返し単位(2)は、芳香族ジカルボン酸に由来する繰返し単位である。繰返し単位(2)としては、Arがp-フェニレン基である繰返し単位、Arがm-フェニレン基である繰返し単位、Arが2,6-ナフチレン基である繰返し単位、およびArがジフェニルエ-テル-4,4’-ジイル基である繰返し単位が好ましい。
【0037】
Arがp-フェニレン基である繰返し単位は、テレフタル酸に由来する繰返し単位である。
Arがm-フェニレン基である繰返し単位は、イソフタル酸に由来する繰返し単位である。
Arが2,6-ナフチレン基である繰返し単位は、2,6-ナフタレンジカルボン酸に由来する繰返し単位である。
Arがジフェニルエ-テル-4,4’-ジイル基である繰返し単位は、ジフェニルエ-テル-4,4’-ジカルボン酸に由来する繰返し単位である。
【0038】
繰返し単位(3)は、芳香族ジオール、芳香族ヒドロキシルアミンまたは芳香族ジアミンに由来する繰返し単位である。繰返し単位(3)としては、Arがp-フェニレン基である繰返し単位、およびArが4,4’-ビフェニリレン基である繰返し単位が好ましい。
【0039】
Arがp-フェニレン基である繰返し単位は、ヒドロキノン、p-アミノフェノールまたはp-フェニレンジアミンに由来する繰返し単位である。
Arが4,4’-ビフェニリレン基である繰返し単位は、4,4’-ジヒドロキシビフェニル、4-アミノ-4’-ヒドロキシビフェニルまたは4,4’-ジアミノビフェニルに由来する繰返し単位である。
【0040】
繰返し単位(1)の含有量は、全繰返し単位の合計量に対して、通常30モル%以上、好ましくは30~80モル%、より好ましくは40~70モル%、さらに好ましくは45~65モル%である。
【0041】
なお、本明細書において、「全繰返し単位の合計量」とは、液晶ポリエステルを構成する各繰返し単位の質量を各繰返し単位の式量で割ることにより、各繰返し単位の物質量相当量(モル)を求め、得られた物質量相当量を合計した値を指す。
【0042】
繰返し単位(2)の含有量は、全繰返し単位の合計量に対して、通常35モル%以下、好ましくは10モル%以上35モル%、より好ましくは15モル%以上30モル%以下、さらに好ましくは17.5モル%以上27.5モル%以下である。
【0043】
繰返し単位(3)の含有量は、全繰返し単位の合計量に対して、通常35モル%以下、好ましくは10モル%以上35モル%以下、より好ましくは15モル%以上30モル%以下、さらに好ましくは17.5モル%以上27.5モル%以下である。
【0044】
繰返し単位(1)の含有量が多いほど、溶融流動性や耐熱性や強度・剛性が向上し易いが、あまり多いと、溶融温度や溶融粘度が高くなり易く、成形に必要な温度が高くなり易い。
【0045】
繰返し単位(2)の含有量と繰返し単位(3)の含有量との割合は、[繰返し単位(2)の含有量]/[繰返し単位(3)の含有量](モル/モル)で表して、通常0.9/1~1/0.9、好ましくは0.95/1~1/0.95、より好ましくは0.98/1~1/0.98である。
【0046】
なお、液晶ポリエステルは、繰返し単位(1)~(3)を、それぞれ独立に、2種以上有してもよい。また、液晶ポリエステルは、繰返し単位(1)~(3)以外の繰返し単位を有してもよいが、その含有量は、全繰返し単位の合計量に対して、通常10モル%以下、好ましくは5モル%以下である。
【0047】
液晶ポリエステルは、繰返し単位(3)として、XおよびYがそれぞれ酸素原子である繰返し単位を有すること、すなわち、芳香族ジオールに由来する繰返し単位を有することが好ましく、XおよびYがそれぞれ酸素原子である繰返し単位のみを有するとより好ましい。
液晶ポリエステルが芳香族ジオールに由来する繰返し単位を有すると、液晶ポリエステルの溶融粘度が低くなり易いため好ましい。
【0048】
液晶ポリエステルは、流動開始温度が、通常270℃以上、好ましくは270℃以上400℃以下であり、より好ましくは280℃以上380℃以下であり、290℃以上350℃以下が特に好ましく、320℃以上330℃以下が殊更好ましい。流動開始温度が高いほど強度が向上し易い。
【0049】
なお、流動開始温度は、フロー温度または流動温度とも呼ばれる。液晶ポリエステルの流動開始温度は、レオメーターを用いて、9.8MPaの荷重下、4℃/分の速度で昇温しながら、液晶ポリエステルを溶融させ、内径1mmおよび長さ10mmのノズルから押し出すときに、4800Pa・s(48000ポイズ)の粘度を示す温度である。液晶ポリエステルの流動開始温度は、液晶ポリエステルの分子量の目安となる(小出直之編、「液晶ポリマー-合成・成形・応用-」、株式会社シーエムシー、1987年6月5日、p.95参照)。
【0050】
本実施形態で用いられる液晶ポリエステルは、公知の重縮合法や開環重合法などにより製造することができる。本実施形態で用いられる液晶ポリエステルは、構成する繰り返し単位に対応する原料モノマーを溶融重合させ、得られた重合物を固相重合することにより製造することができる。これにより、強度が高い高分子量の液晶ポリエステルを操作性良く製造することができる。
【0051】
溶融重合は、触媒の存在下に行ってもよい。この触媒の例としては、酢酸マグネシウム、酢酸第一錫、テトラブチルチタネート、酢酸鉛、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、三酸化アンチモンなどの金属化合物や、4-(ジメチルアミノ)ピリジン、1-メチルイミダゾールなどの含窒素複素環式化合物が挙げられる。なかでも、含窒素複素環式化合物が好ましく用いられる。
【0052】
≪ガラス繊維:(B)成分≫
本実施形態の樹脂組成物は、(B)成分を含む。(B)成分は、ガラス繊維である。(B)成分は、(B)成分原料と他の成分とを溶融混練して、樹脂組成物中に存在させることができる。かかる溶融混練の際には、(B)成分原料が破断することが知られている。
換言すれば(B)成分原料は溶融混練に用いる成分である。(B)成分原料の繊維径は、溶融混練の前後で実質的に変化しない。以下、(B)成分原料について説明する。
【0053】
(B)成分原料としては、例えば、長繊維タイプのチョップドガラス繊維、短繊維タイプのミルドガラス繊維が挙げられる。(B)成分原料の製造方法は特に限定されず、公知の方法が使用できる。本実施形態においては、(B)成分原料はチョップドガラス繊維が好ましい。(B)成分原料は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用して使用することもできる。
【0054】
(B)成分原料の種類としては、E-ガラス、A-ガラス、C-ガラス、D-ガラス、AR-ガラス、R-ガラス、Sガラスまたはこれらの混合物などが挙げられる。中でもE-ガラスは強度に優れ、かつ入手がしやすいため、好ましく用いられる。
【0055】
(B)成分原料としては、酸化ケイ素の含有量が(B)成分原料の総質量に対して50質量%以上80質量%以下のガラス繊維、または52質量%以上60質量%以下のガラス繊維であってよい。
【0056】
(B)成分原料は、必要に応じてシラン系カップリング剤またはチタン系カップリング剤などのカップリング剤で処理されたガラス繊維であってもよい。
【0057】
(B)成分原料は、集束剤で処理されたガラス繊維であってもよい。集束剤としてはウレタン樹脂、アクリル樹脂、エチレン/酢酸ビニル共重合体などの熱可塑性樹脂や、エポキシ樹脂などの熱硬化性樹脂などが挙げられる。
【0058】
(B)成分原料の数平均繊維長は、20μm以上6000μm以下であることが好ましい。(B)成分原料の数平均繊維長は、1000μm以上であることがより好ましく、2000μm以上であることがさらに好ましい。(B)成分原料の数平均繊維長は、5000μm以下であることがより好ましく、4500μm以下であることがさらに好ましい。
上記上限値及び下限値は任意に組み合わせることができる。組み合わせの例としては、1000μm以上5000μm以下、2000μm以上4500μm以下が挙げられる。
(B)成分原料の数平均繊維長が上記下限値以上である場合、得られる成形品を十分に補強することができる。また、(B)成分の数平均繊維長が上記上限値以下である場合、製造時の(B)成分原料の取り扱いが容易となる。
【0059】
(B)成分原料の単繊維径は、5μm以上17μm以下であることが好ましい。(B)成分原料の単繊維径が5μm以上である場合、得られる成形品を十分に補強することができる。また、(B)成分原料の繊維径が17μm以下である場合、液晶ポリエステル樹脂組成物の溶融流動性を高めることができる。ここで、「単繊維径」とは、(B)成分原料の単繊維の繊維直径を意味する。
【0060】
((B)成分原料の数平均繊維長および単繊維径の測定方法)
本明細書において「(B)成分原料の数平均繊維長」とは、特に断りのない限り、JIS R3420「7.8 チョップドストランドの長さ」に記載の方法で測定された値を意味する。
また、本明細書において「(B)成分原料の単繊維径」とは、特に断りのない限り、JIS R3420「7.6 単繊維直径」に記載の方法のうち、「A法」で測定された値を意味する。
【0061】
本実施形態においては、(A)成分100質量部に対する(B)成分の配合量が、50質量部以上90質量部以下であり、好ましくは70質量分以上90質量部以下である。本実施形態においては、(B)成分の配合量が上記範囲内であることにより、超薄肉の成形品を製造した場合にも、非ウエルド部に比したウエルド部の強度の低下を抑制することができる。本実施形態においては、(B)成分の配合量を多くすると、非ウエルド部の強度を向上させることができる。
ここで、超薄肉とは、0.5mm以下、好ましくは0.3mm以下の肉厚を意味する。
【0062】
≪(B)成分とは異なる繊維状無機充填材:(C)成分≫
(C)成分は、前記(B)成分とは異なる繊維状充填剤である。(C)成分は、(C)成分原料と他の成分とを溶融混練して、樹脂組成物中に存在させることができる。かかる溶融混練の際には、(C)成分原料が変形することが知られている。変形の例としては破断が挙げられる。換言すれば(C)成分原料は溶融混練に用いる成分である。(C)成分原料の繊維径は、溶融混練の前後で実質的に変化しない。以下、(C)成分原料について説明する。
【0063】
(C)成分原料としては、前記(B)成分原料と、数平均繊維長が異なる繊維状無機充填材であることが好ましい。(B)成分原料と、(C)成分原料との数平均繊維長の差が5μm以上であることが好ましい。
【0064】
本実施形態においては、(B)成分原料の方が(C)成分原料よりも数平均繊維長が長くてもよく、(C)成分原料の方が(B)成分原料よりも数平均繊維長が長くてもよい。
本実施形態に用いる(C)成分原料は、(B)成分原料よりも数平均繊維長が短い繊維状無機充填材であることが好ましい。
【0065】
本実施形態において、(C)成分原料としては、炭素繊維、シリカ繊維、アルミナ繊維、シリカアルミナ繊維等のセラミック繊維、ステンレス繊維等の金属繊維、ウイスカー等が挙げられる。これらの中でも炭素繊維又はウイスカーが好ましい。
炭素繊維の市販品としては、東レ株式会社製「トレカ(登録商標)」、三菱ケミカル株式会社製「パイロフィル(登録商標)」、「ダイアリード(登録商標)」、帝人株式会社製「テナックス(登録商標)」、日本グラファイトファイバー株式会社製「GRANOC(登録商標)」、大阪ガスケミカル株式会社製「ドナカーボ(登録商標)」、クレハ株式会社製「クレカ(登録商標)」が挙げられる。
【0066】
ウイスカーとしては、チタン酸カリウムウイスカー、チタン酸バリウムウイスカー、ホウ酸アルミニウムウイスカー、窒化ケイ素ウイスカー、ケイ酸カルシウムウィスカー等が挙げられる。
ケイ酸カルシウムウイスカーとしては、ワラストナイト、ゾノトライト、トバモライト,ジャイロライトが挙げられる。
本実施形態においては、(C)成分原料はワラストナイト、チタン酸カリウムウイスカー又はホウ酸アルミニウムウイスカーであることが好ましく、中でも入手のしやすさや経済性の観点からワラストナイトがより好ましい。
チタン酸カリウムウイスカーの市販品としては、大塚化学社製の「ティスモD」、「ティスモN」が挙げられる。
ホウ酸アルミニウムウイスカーの市販品としては、四国化成工業社製の「アルボレックスG」「アルボレックスY」が挙げられる。
【0067】
本実施形態に用いるワラストナイトは、繊維状ワラストナイトであってもよく、粒状ワラストナイトであってもよい。繊維状ワラストナイトとは、アスペクト比が3以上であるワラストナイトである。粒状ワラストナイトとは、アスペクト比が3未満のワラストナイトである。ここでアスペクト比とは、「(C)成分原料の数平均繊維長/(C)成分原料の数平均繊維径」である。
【0068】
本実施形態においては、繊維状のワラストナイトが好ましく、アスペクト比は3以上20以下がより好ましく、5以上15以下がさらに好ましく、10以上13以下が特に好ましい。アスペクト比がこのような範囲である繊維状ワラストナイトを用いると、薄肉の成形品のウエルド強度が向上する。
【0069】
ワラストナイトとしては、特に限定されず、例えば、公知のワラストナイトを用いることができる。ワラストナイトは、1種単独で使用してもよく、アスペクト比、(C)成分原料の数平均繊維長、(C)成分原料の数平均繊維径等が異なる2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0070】
(C)成分原料の数平均繊維長は1μm以上が好ましく、3μm以上がより好ましく、5μm以上が特に好ましく、10μm以上が殊更好ましい。また、10000μm以下が好ましく、500μm以下がより好ましく、300μm以下が更に好ましく、150μm以下がより更に好ましく、60μm以下が殊更好ましい。
上記上限値及び下限値は任意に組み合わせることができる。
組み合わせの例としては、1μm以上10000μm以下、3μm以上500μm以下、5μm以上300μm以下、10μm以上150μm以下、10μm以上60μm以下が挙げられる。
【0071】
(C)成分原料の数平均繊維径は0.4μm以上が好ましく、0.7μm以上がより好ましく、1μm以上が更に好ましく、3μm以上がより更に好ましく、4μm以上が殊更好ましい。また、50μm以下が好ましく、10μm以下がより好ましく、8μm以下が更に好ましく、5μm以下が殊更好ましい。。
上記上限値及び下限値は任意に組み合わせることができる。
組み合わせの例としては、0.4μm以上50μm以下、0.4μm以上10μm以下、0.4μm以上8μm以下、0.7μm以上8μm以下が挙げられる。
【0072】
・(C)成分原料の数平均繊維長と数平均繊維径の測定方法
(C)成分原料の数平均繊維長と数平均繊維径は、顕微鏡を用いて(C)成分原料の長さおよび径を100本観察し、平均値を算出することによって求められる。
【0073】
本実施形態においては、(A)成分100質量部に対する(C)成分の配合量が、1質量部以上40質量部以下である。(C)成分の配合量が上記範囲であることにより、超薄肉の成形品を製造した場合にも、ウエルド強度を向上させることができる。(C)成分の当該配合量は、好ましくは5質量部以上40質量部以下である。
【0074】
本実施形態においては、前記(B)成分及び前記(C)成分を合わせた全繊維状充填材の数平均繊維長は、数平均繊維長が40μm以上80μm以下であることが好ましく、45μm以上79μm以下がより好ましく、48μm以上78μm以下が特に好ましい。
ここで、「前記(B)成分及び前記(C)成分を合わせた全繊維状充填材の数平均繊維長」とは、溶融混練後の液晶ポリエステル樹脂組成物、又は液晶ポリエステル樹脂組成物を成形した成形品に含まれる全繊維状充填材の数平均繊維長を意味する。
【0075】
前記(B)成分及び前記(C)成分を合わせた全繊維状充填材の数平均繊維長が上記の範囲であると、超薄肉の成形品を製造した場合にも機械強度を維持できる。
【0076】
(全繊維状充填材の数平均繊維長の測定方法)
全繊維状充填材の測定方法について説明する。
まず、本実施形態の液晶ポリエステル樹脂組成物5gをマッフル炉(ヤマト科学株式会社製、「FP410」)にて空気雰囲気下において600℃で4時間加熱して樹脂を除去し、繊維状充填材を含む灰化残渣を得る。
灰化残渣0.3gを50mLの純水に投入し、分散性を良くするために界面活性剤(例えば、0.5体積%のmicro-90(シグマ アルドリッチ ジャパン合同会社製)水溶液)を加え、混合液を得る。
得られた混合液は5分間超音波分散させて、灰化残渣に含まれる繊維状充填材を溶液中に均一に分散させた試料液を得る。超音波分散には、機器名:ULTRA SONIC CLEANER NS200-60(株式会社日本精機製作所製)等が使用できる。超音波強度は、例えば30kHzで実施すればよい。
【0077】
次に、得られた試料液を5mL採取し、サンプルカップに入れ、純水にて5倍に希釈し、サンプル液を得る。下記条件下で粒子形状画像解析装置(株式会社セイシン企業製の「PITA-3」)を用い、得られたサンプル液をフローセルに通過させて、液中を移動する繊維状充填材を1個ずつ撮像する。なお、この測定方法においては、測定開始時点から積算した全繊維状充填材の個数が30000個に達した時点を測定終了時点とする。
【0078】
[条件]
測定個数:30000個
分散溶媒:水
分散条件:キャリア液1およびキャリア液2としてmicro-90の0.5体積%水溶液を用いる。
サンプル液速度:4.17μL/秒
キャリア液1速度:500μL/秒
キャリア液2速度:500.33μL/秒
観察倍率:対物10倍
調光フィルタ::拡散PL
【0079】
得られた画像を二値化処理し、処理後の画像における繊維状充填材の外接矩形長径を測定し30000個の外接矩形長径の値の平均値を、全繊維状充填材の数平均繊維長とする。
【0080】
≪任意成分≫
本実施形態の液晶ポリエステル樹脂組成物は、任意成分として計量安定剤、離型剤、酸化防止剤、熱安定剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、界面活性剤、難燃剤及び着色剤等の添加剤を含んでいてもよい。
【0081】
本実施形態の液晶ポリエステル樹脂組成物は、(A)成分、(B)成分原料、(C)成分原料、および必要に応じて用いられる他の成分を、押出機を用いて溶融混練して、ペレット化することができる。
【0082】
本実施形態の液晶ポリエステル樹脂組成物は、下記条件(1)及び(2)を満たす。
条件(1):流動開始温度から+20℃以上30℃以下の温度範囲に含まれる任意の測定温度において、ISO 11443に準拠し、せん断速度1000s-1の条件下で測定した溶融粘度は40Pa・s以上70Pa・s以下であり、45Pa・s以上70Pa・s以下が好ましく、50Pa・s以上70Pa・s以下がより好ましく、60Pa・s以上70Pa・s以下が特に好ましい。
条件(2):前記測定温度において、ISO 11443に準拠し、せん断速度12000s-1の条件下で測定した溶融粘度が、0.1Pa・s以上10Pa・s以下であり、1Pa・s以上10Pa・s以下が好ましく、5Pa・s以上10Pa・s以下がより好ましく、7Pa・s以上10Pa・s以下が特に好ましい。
【0083】
本実施形態の液晶ポリエステル樹脂組成物は、液晶ポリエステル(A)、ガラス繊維(B)、および、前記(B)成分とは異なる繊維状無機充填剤(C)の種類と量を適宜選定して用いることにより、溶融粘度のせん断速度依存性を高めた組成物として得ることができる。
【0084】
本実施形態において好ましくは、前記流動開始温度は320℃以上330℃以下であって、前記測定温度は350℃である。溶融粘度を測定する場合には、本実施形態の樹脂組成物を、120℃で3時間以上乾燥させたのちに測定することが好ましい。
【0085】
図1(A)に、従来の樹脂組成物を溶融させた溶融樹脂1の先端の模式図を示す。符号21~26に示す矢印は、溶融樹脂を示す。また、各矢印の長さは、溶融樹脂の流速を示す。金型内壁側の溶融樹脂21及び溶融樹脂22は、金型内側を流れる溶融樹脂23及び溶融樹脂24よりも遅く、先端20に対応する位置を流れる溶融樹脂25及び溶融樹脂26が最も速い。溶融樹脂の流速にこのような差が生じることにより、溶融樹脂の先端20は凸形状となる。
【0086】
図1(B)に、本実施形態の樹脂組成物を溶融させた溶融樹脂30Aの先端の模式図を示す。符号31~36に示す矢印は、溶融樹脂を示す。本実施形態の樹脂組成物は、溶融粘度のせん断速度依存性が高いため、図1(A)の従来の樹脂組成物よりも、金型内壁側と金型内側との溶融樹脂の流速の差が大きく、溶融樹脂の先端の凸形状がより鋭くなっていると考えられる。
【0087】
そして、より鋭い凸形状の先端同士が衝突すると、溶融樹脂はその先端同士が相互に入り込んで界面が乱れると推察される。界面が乱れることにより、溶融樹脂の先端同士の接触面積が増加する。これにより、ウエルド強度が向上すると考えられる。
【0088】
本実施形態においては、条件(1)により測定される溶融粘度と、条件(2)により測定される溶融粘度の比((1)/(2))は、5.0を超えることが好ましく、5.1以上がより好ましく、5.2以上がさらに好ましい。上限値に関しては、通常は50であり、20であることが好ましく、18であることがより好ましく、17が殊更好ましい。溶融粘度の比がこの範囲にあると、金型内壁側付近を流れる溶融樹脂と、金型内側付近を流れる溶融樹脂とで流速の差を拡大できると考えられる。
比((1)/(2))の上限値及び下限値は、任意に組み合わせることができる。組み合わせの例としては、5.0を超え50以下、5.1以上20以下、5.2以上18以下が挙げられる。
【0089】
<成形品>
本実施形態の成形品は通常、電気・電子機器における筐体内装部品等として用いられる射出成形品である。電気・電子機器としては、カメラ、パソコン、携帯電話、スマートフォン、タブレット、プリンター、プロジェクターなどが挙げられる。このような電気・電子機器における筐体内装部品としては、コネクタ、カメラモジュール、送風ファンまたはプリンター向けの定着部品が挙げられる。
【0090】
本実施形態の成形品は、厚みが0.3mm以下の超薄肉部を有する成形品であることが好ましい。成形品の厚さとは、成形品の一面から他面までの厚さを意味する。
【実施例
【0091】
以下、実施例により本発明の効果を更に詳細に説明する。液晶ポリエステルの分析および特性評価は以下に記載される方法により行った。
【0092】
<(A)成分:液晶ポリエステル(LCP)の製造>
攪拌装置、トルクメータ、窒素ガス導入管、温度計及び還流冷却器を備えた反応機に、4-ヒドロキシ安息香酸994.5g(7.2モル)、テレフタル酸272.1g(1.64モル)、イソフタル酸126.6g(0.76モル)、4,4’-ジヒドロキシビフェニル446.9g(2.4モル)及び無水酢酸1347.6g(13.2モル)を仕込み、触媒として1-メチルイミダゾールを0.2g添加し、反応器内を十分に窒素ガスで置換した。
【0093】
その後、窒素ガス気流下で攪拌しながら、室温から150℃まで30分かけて昇温し、同温度を保持して30分間還流させた。
次いで、1-メチルイミダゾール2.4gを加え、副生酢酸と未反応の無水酢酸を留去しながら、150℃から320℃まで2時間50分かけて昇温し、320℃で30分保持した後、内容物を取り出し、これを室温まで冷却した。
【0094】
得られた固形物を、粉砕機で粒径0.1mm以上1mm以下に粉砕後、窒素雰囲気下、室温から250℃まで1時間かけて昇温し、250℃から295℃まで5時間かけて昇温し、295℃で3時間保持することにより、固相重合を行った。固相重合後、冷却して、粉末状の液晶ポリエステル(LCP)を得た。得られた液晶ポリエステルの流動開始温度は312℃であった。
【0095】
<(B)成分:ガラス繊維>
(B)成分原料として、日東紡績株式会社製のチョップドガラス繊維(CS 3J-260S(単繊維径11μm、数平均繊維長3mm))を使用した。
【0096】
<(C)成分:繊維状無機充填材>
(C)成分原料として、NYCO Minerals社製のワラストナイト(NYGLOS 4W(数平均繊維長50μm、数平均繊維径4.5μm))を使用した。表1~表3中、「(C)成分」と記載した場合には、NYCO Minerals社製のワラストナイト(NYGLOS 4W(数平均繊維長50μm、数平均繊維径4.5μm))を使用したことを意味する。
表4中の、「(C)-1」は、(C)成分として、チタン酸カリウムウイスカー(製品名:ティスモD、大塚化学株式会社製、数平均繊維長15μm、数平均繊維径0.45μm)を使用したことを意味する。
表4中の、「(C)-2」は、(C)成分として、炭素繊維(製品名:TR06NL、三菱ケミカル社製、数平均繊維長6mm、数平均繊維径7.0μm)を使用したことを意味する。
表4中の、「(C)-3」は、(C)成分として、ホウ酸アルミニウムウイスカー(製品名:アルポレックスY、四国化成工業株式会社製、数平均繊維長20μm、数平均繊維径0.75μm)を使用したことを意味する。
【0097】
上記(A)成分、(B)成分原料、(C)成分原料を表1~4に示す各割合で、あらかじめヘンシェルミキサーを用いて混合した後、株式会社池貝製の同方向2軸押出機(PCM-30)を用いて、330℃で溶融混練し、ペレット状の液晶ポリエステル樹脂組成物を得た。なお、比較例18の割合で混合した混合物はペレット状に造粒することができなかった。
【0098】
<液晶ポリエステル樹脂組成物の流動開始温度の測定方法>
フローテスター(株式会社島津製作所「CFT-500型」)を用いて、120℃で3時間乾燥させた後の液晶ポリエステル樹脂組成物ペレット約2gを、内径1mm及び長さ10mmのノズルを有するダイを取り付けたシリンダーに充填し、9.8MPaの荷重下、4℃/分の速度で昇温しながら、液晶ポリエステルを溶融させ、ノズルから押し出し、4800Pa・s(48000ポイズ)の粘度を示す温度を測定した。
【0099】
<溶融粘度の測定>
液晶ポリエステル樹脂組成物の溶融粘度測定は、キャピラリーレオメーター(東洋精機株式会社製「キャピログラフ1D」)を用いた。キャピラリーは1.0mmΦ×10mmを用いた。120℃で3時間乾燥させたペレット状の液晶ポリエステル樹脂組成物20gを350℃に設定したシリンダーに入れ、ISO 11443に準拠し、せん断速度1000s-1、および12000s-1における溶融粘度を測定した。
【0100】
<ウエルド曲げ強度の測定>
・試験片
図2にウエルド曲げ強度試験に用いた試験片Sの上面図を示す。試験片Sはペレット状の液晶ポリエステル樹脂組成物を射出成形機(ファナック株式会社製「ROBOSHOTS-2000i 30B」)を用いて成形した成形品である。
【0101】
・・試験片S
試験片Sの寸法は、L:35mm、L、L:5mm、L:25mm、L:20mm、L、L:5mm、L:10mmとした。L×Lの部分には樹脂組成物は存在しない。試験片Sの厚みはLに示す範囲の厚みが0.3mmである。Lに示す範囲の厚みが0.5mmである。Lに示す範囲は傾斜状となっている。
試験片Sは符号Gに示す位置から樹脂組成物を注入して形成した。試験片Sは、符号Wに示す位置にウエルドラインが形成されていた。
【0102】
試験片Sから、ウエルド部の曲げ強度試験に使用する試験片S1、非ウエルド部の曲げ強度試験に使用する試験片S2を、それぞれ切り出した。切り出し部位は、図2の点線でそれぞれ囲まれる部位である。
【0103】
・・試験片S1
試験片S1の作製においては、試験片S1の長軸方向の中央にウエルドラインが位置するように切り出し位置を調整した。試験片S1の形状は長方形とした。
切り出し範囲は、A10×Aとした。試験片S1の短軸の長さは、実質的にLと等しく5mmであり、長軸の長さは15mmとした。
【0104】
・・試験片S2
試験片S2の作製においては、図3に示す試験片S1の代わりに試験片S2を支持台42に載置したとき、L40の間にウエルドラインを含まないように切り出し位置を調整した。試験片S2の形状は長方形とした。
切り出し範囲は、A12×A11とした。試験片S2の短軸の長さは、実質的にLと等しく5mmであり、長軸の長さは15mmとした。
【0105】
・曲げ強度試験
図3を用い、曲げ強度試験の試験方法を説明する。ウエルド曲げ強度試験は、下記の使用機器を用い、支点間距離L40が5mmである支持台42に試験片S1を載置し、圧子を符号40に示す方向に試験速度2mm/minで移動させて力をかけ、3点曲げ試験により実施した。圧子は先端半径R=0.5mmであり、測定時にウエルド部へ荷重がかかるように圧子とウエルド部が重なるように試験片S1を配置した。非ウエルド部の曲げ強度試験は、試験片S2について上記と同一条件で3点曲げ試験を行った。
(使用機器)
精密荷重測定器MODEL-1605 II VL、アイコーエンジニアリング株式会社製。
【0106】
ウエルド部の曲げ強度に対する、非ウエルド部の曲げ強度の保持率を算出した。例えば実施例1では、保持率は下記のように計算した。
保持率(%)=50/155 ×100
=32%
以降の実施例及び比較例についても同様に計算した。
【0107】
<全繊維状充填材の数平均繊維長の測定方法>
液晶ポリエステル樹脂組成物ペレット5gをマッフル炉(ヤマト科学株式会社製、「FP410」)にて空気雰囲気下において600℃で4時間加熱して樹脂を除去し、繊維状充填材を含む灰化残渣を得た。灰化残渣0.3gを50mLの純水に投入し、界面活性剤として、0.5体積%のmicro-90(シグマ アルドリッチ ジャパン合同会社製)水溶液を加え、混合液を得た。得られた混合液は5分間、超音波分散させて、灰化残渣に含まれる繊維状充填剤が溶液中に均一に分散した試料液を調製した。超音波分散には、機器名:ULTRA SONIC CLEANER NS200-60(株式会社日本精機製作所製)を用いた。超音波強度は30kHzとした。
【0108】
次に、得られた試料液を、ピペットで5mLサンプルカップに入れ、純水にて5倍に希釈し、サンプル液を得た。下記条件下で粒子形状画像解析装置(株式会社セイシン企業製の「PITA-3」)を用い、得られたサンプル液をフローセルに通過させて、液中を移動する繊維状充填材を1個ずつ撮像した。なお、測定開始時点から積算した全繊維状充填材の個数が30000個に達した時点を測定終了時点とした。
【0109】
[条件]
測定個数:30000個
分散溶媒:水
分散条件:キャリア液1およびキャリア液2としてmicro-90の0.5体積%水溶液を用いる。
サンプル液速度:4.17μL/秒
キャリア液1速度:500μL/秒
キャリア液2速度:500.33μL/秒
観察倍率:対物10倍
調光フィルタ::拡散PL
【0110】
得られた画像を二値化処理し、処理後の画像における繊維状充填材成分の外接矩形長径を測定し30000個の外接矩形長径の値の平均値を、全繊維状充填材成分の数平均繊維長とした。
【0111】
【表1】
【0112】
【表2】
【0113】
【表3】
【0114】
上記表1に示すように、本発明を適用した実施例1~4は、ウエルド曲げ強度に対する、非ウエルド曲げ強度の保持率がいずれも30%以上であり、超薄肉の成形品を製造した場合にもウエルド強度が高いことが確認できた。これに対し、本発明を適用しない比較例1~18は、保持率がいずれも25%以下であった。
【0115】
【表4】
【0116】
上記表4に示すように、本発明を適用した実施例5~7は、ウエルド曲げ強度に対する、非ウエルド曲げ強度の保持率がいずれも比較例19~21よりも高く、超薄肉の成形品を製造した場合にもウエルド強度が高いことが確認できた。
図1
図2
図3