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特許7343865樹脂改質剤の製造方法、樹脂改質剤及び複合材料
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-05
(45)【発行日】2023-09-13
(54)【発明の名称】樹脂改質剤の製造方法、樹脂改質剤及び複合材料
(51)【国際特許分類】
   C08F 251/02 20060101AFI20230906BHJP
   C08F 2/44 20060101ALI20230906BHJP
   C08B 15/06 20060101ALI20230906BHJP
【FI】
C08F251/02
C08F2/44 C
C08B15/06
【請求項の数】 17
(21)【出願番号】P 2021504902
(86)(22)【出願日】2020-02-26
(86)【国際出願番号】 JP2020007662
(87)【国際公開番号】W WO2020184177
(87)【国際公開日】2020-09-17
【審査請求日】2022-09-15
(31)【優先権主張番号】P 2019044803
(32)【優先日】2019-03-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2019213680
(32)【優先日】2019-11-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成30年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、未来社会創造事業「表面修飾CNF/樹脂均一マスターバッチ開発」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000003034
【氏名又は名称】東亞合成株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】神谷 大介
(72)【発明者】
【氏名】後藤 彰宏
(72)【発明者】
【氏名】中野 駿
(72)【発明者】
【氏名】松木 詩路士
(72)【発明者】
【氏名】藤澤 秀次
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 継之
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 涼
【審査官】中落 臣諭
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-052888(JP,A)
【文献】特開2018-044098(JP,A)
【文献】特開2016-155897(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F2/00-301/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルロースナノファイバーの存在下でエチレン性不飽和単量体を重合させる工程を含み、前記セルロースナノファイバーはアミン又は四級アンモニウム塩化合物と反応させた状態であり、
前記重合の方法は乳化重合又は懸濁重合である、
樹脂改質剤の製造方法。
【請求項2】
前記樹脂改質剤は粒子状である、請求項1に記載の樹脂改質剤の製造方法。
【請求項3】
前記重合は乳化剤を使用しないで行われる、請求項1又は請求項2に記載の樹脂改質剤の製造方法。
【請求項4】
前記エチレン性不飽和単量体のうち官能基を有するエチレン性不飽和単量体の割合が5モル%以下である、請求項1~請求項のいずれか1項に記載の樹脂改質剤の製造方法。
【請求項5】
前記セルロースナノファイバーとして、セルロース系原料を多価カルボン酸と反応させて得られる多価カルボン酸変性セルロースを解繊して得られるものを使用する、請求項1~請求項のいずれか1項に記載の樹脂改質剤の製造方法。
【請求項6】
前記多価カルボン酸が、ジカルボン酸、トリカルボン酸、テトラカルボン酸及びヘキサカルボン酸からなる群から選択される少なくとも1種を含む、請求項に記載の樹脂改質剤の製造方法。
【請求項7】
前記多価カルボン酸がクエン酸を含む、請求項又は請求項に記載の樹脂改質剤の製造方法。
【請求項8】
前記セルロースナノファイバーはピペリジン骨格を有する化合物を使用しないで得られる、請求項1~請求項のいずれか1項に記載の樹脂改質剤の製造方法。
【請求項9】
アミン又は四級アンモニウム塩化合物と反応させたセルロースナノファイバーと、エチレン性不飽和単量体の重合体とを含む、樹脂改質剤であって、
前記樹脂改質剤は、対象の樹脂と混合して用いられる、樹脂改質剤。
【請求項10】
アミン又は四級アンモニウム塩化合物と反応させたセルロースナノファイバーと、エチレン性不飽和単量体の重合体とを含む、樹脂改質剤であって、
前記重合体が、乳化重合又は懸濁重合によるものである、樹脂改質剤。
【請求項11】
前記セルロースナノファイバーは、セルロース系原料を多価カルボン酸と反応させて得られる多価カルボン酸変性セルロースを解繊して得られたものである、請求項9又は請求項10に記載の樹脂改質剤。
【請求項12】
粒子状である、請求項~請求項11のいずれか1項に記載の樹脂改質剤。
【請求項13】
前記エチレン性不飽和単量体の重合体を構成する構造単位中の官能基を有する構造単位の割合が5モル%以下である、請求項~請求項12のいずれか1項に記載の樹脂改質剤。
【請求項14】
前記エチレン性不飽和単量体の重合体の重量平均分子量は5000~300万である、請求項~請求項13のいずれか1項に記載の樹脂改質剤。
【請求項15】
前記セルロースナノファイバー100質量部に対する前記エチレン性不飽和単量体の重合体の量は5質量部~1000質量部である、請求項~請求項14のいずれか1項に記載の樹脂改質剤。
【請求項16】
請求項~請求項15のいずれか1項に記載の樹脂改質剤と、樹脂とを含む複合材料。
【請求項17】
前記樹脂は、前記樹脂改質剤に含まれる成分と同一の成分、又は前記樹脂改質剤と親和性の良いセグメント若しくは官能基を含む、請求項16に記載の複合材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂改質剤の製造方法、樹脂改質剤及び複合材料に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、軽量かつ強度に優れる材料として、補強材を配合して強度を高めた樹脂材料が広く用いられている。補強材としては、炭素繊維やガラス繊維等が一般に使用されている。しかしながら、どちらも燃え難い材料であるためサーマルリサイクルに不向きであるとの問題を有している。また、炭素繊維については価格が高い、ガラス繊維については重いとの問題も有している。
【0003】
そこで近年、植物繊維を樹脂の補強材として使用する研究が進められている。植物繊維は、人工的に合成するのではなく、植物由来の繊維をほぐして使用される。植物繊維は、燃焼の際に灰分として殆ど残らないため、焼却炉内の灰分の処理や、埋立て処理等の問題が生じない。このため近年、植物繊維を樹脂の補強材として利用する研究が進められており、特に植物繊維をナノレベルにまで解繊したセルロースナノファイバーの利用が研究されている。
【0004】
セルロースナノファイバーは親水性の官能基を多数有するため樹脂との親和性が低く、そのまま樹脂と混練しても十分な補強効果が得られない等の問題が指摘されている。
【0005】
これらの問題を解決するための方策として、セルロースナノファイバーを樹脂に直接混合するのではなく、樹脂粒子の表面にセルロースナノファイバーが存在する状態で樹脂に混合する方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2013-014741号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載された発明では、セルロースナノファイバー、樹脂粒子及び液媒体を含むエマルションを調製し、液媒体を乾燥させてセルロースナノファイバーが表面に存在する樹脂粒子を得ているが、この手法ではセルロースナノファイバーの樹脂粒子に対する結合強度が充分でなく、樹脂と混練しても樹脂中にセルロースナノファイバーが均一に分散できずに改質効果が充分に発揮されないおそれがある。
本発明は上記事情に鑑み、樹脂の改質効果に優れる樹脂改質剤の製造方法、樹脂改質剤及び樹脂改質剤を含む複合材料を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するための手段には、下記の実施態様が含まれる。
<1>セルロースナノファイバーの存在下でエチレン性不飽和単量体を重合させる工程を含み、前記セルロースナノファイバーはアミン又は四級アンモニウム塩化合物と反応させた状態である、樹脂改質剤の製造方法。
<2>前記樹脂改質剤は粒子状である、<1>に記載の樹脂改質剤の製造方法。
<3>前記重合の方法は乳化重合又は懸濁重合である、<1>又は<2>に記載の樹脂改質剤の製造方法。
<4>前記重合は乳化剤を使用しないで行われる、<1>~<3>のいずれか1項に記載の樹脂改質剤の製造方法。
<5>前記エチレン性不飽和単量体のうち官能基を有するエチレン性不飽和単量体の割合が5モル%以下である、<1>~<4>のいずれか1項に記載の樹脂改質剤の製造方法。
<6>前記セルロースナノファイバーとして、セルロース系原料を有効塩素濃度が14質量%~43質量%の次亜塩素酸又はその塩を酸化剤として用いて得られる酸化セルロースを解繊して得られるものを使用する、<1>~<5>のいずれか1項に記載の樹脂改質剤の製造方法。
<7>前記セルロースナノファイバーとして、セルロース系原料を多価カルボン酸と反応させて得られる多価カルボン酸変性セルロースを解繊して得られるものを使用する、<1>~<5>のいずれか1項に記載の樹脂改質剤の製造方法。
<8>前記多価カルボン酸が、ジカルボン酸、トリカルボン酸、テトラカルボン酸及びヘキサカルボン酸からなる群から選択される少なくとも1種を含む、<7>に記載の樹脂改質剤の製造方法。
<9>前記多価カルボン酸がクエン酸を含む、<7>又は<8>に記載の樹脂改質剤の製造方法。
<10>前記酸化セルロースはピペリジン骨格を有する化合物を使用しないで得られる、<1>~<9>のいずれか1項に記載の樹脂改質剤の製造方法。
<11>アミン又は四級アンモニウム塩化合物と反応させたセルロースナノファイバーと、エチレン性不飽和単量体の重合体とを含む、樹脂改質剤。
<12>前記セルロースナノファイバーは、セルロース系原料を有効塩素濃度が14質量%~43質量%の次亜塩素酸又はその塩を酸化剤として用いて得られる酸化セルロースを解繊して得られたものである、<11>に記載の樹脂改質剤。
<13>前記セルロースナノファイバーは、セルロース系原料を多価カルボン酸と反応させて得られる多価カルボン酸変性セルロースを解繊して得られたものである、<11>に記載の樹脂改質剤。
<14>粒子状である、<11>~<13>のいずれか1項に記載の樹脂改質剤。
<15>前記エチレン性不飽和単量体の重合体を構成する構造単位中の官能基を有する構造単位の割合が5モル%以下である、<11>~<14>のいずれか1項に記載の樹脂改質剤。
<16>前記エチレン性不飽和単量体の重合体の重量平均分子量は5000~300万である、<11>~<15>のいずれか1項に記載の樹脂改質剤。
<17>前記セルロースナノファイバー100質量部に対する前記エチレン性不飽和単量体の重合体の量は5質量部~1000質量部である、<11>~<16>のいずれか1項に記載の樹脂改質剤。
<18><11>~<17>のいずれか1項に記載の樹脂改質剤と、樹脂とを含む複合材料。
<19>前記樹脂は、前記樹脂改質剤に含まれる成分と同一の成分、又は前記樹脂改質剤と親和性の良いセグメント若しくは官能基を含む、<18>に記載の複合材料。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、樹脂の改質効果に優れる樹脂改質剤の製造方法、樹脂改質剤及び樹脂改質剤を含む複合材料が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。但し、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。以下の実施形態において、その構成要素(要素ステップ等も含む)は、特に明示した場合を除き、必須ではない。数値及びその範囲についても同様であり、本発明を制限するものではない。
本開示において「工程」との語には、他の工程から独立した工程に加え、他の工程と明確に区別できない場合であってもその工程の目的が達成されれば、当該工程も含まれる。
本開示において「~」を用いて示された数値範囲には、「~」の前後に記載される数値がそれぞれ最小値及び最大値として含まれる。
本開示中に段階的に記載されている数値範囲において、一つの数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。また、本開示中に記載されている数値範囲において、その数値範囲の上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
本開示において各成分は該当する物質を複数種含んでいてもよい。組成物中に各成分に該当する物質が複数種存在する場合、各成分の含有率又は含有量は、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数種の物質の合計の含有率又は含有量を意味する。
本開示において各成分に該当する粒子は複数種含んでいてもよい。組成物中に各成分に該当する粒子が複数種存在する場合、各成分の粒子径は、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数種の粒子の混合物についての値を意味する。
本開示において「(メタ)アクリル」はアクリル及びメタクリルの少なくとも一方を意味し、「(メタ)アクリレート」はアクリレート及びメタクリレートの少なくとも一方を意味する。
【0011】
<樹脂改質剤の製造方法>
本発明の樹脂改質剤の製造方法は、セルロースナノファイバーの存在下でエチレン性不飽和単量体を重合させる工程を含み、前記セルロースナノファイバーはアミン又は四級アンモニウム塩化合物と反応させた状態である。
【0012】
上記方法により製造される樹脂改質剤は、樹脂の改質効果に優れている。その理由は必ずしも明らかではないが、下記のように推測される。
【0013】
上記方法で製造される樹脂改質剤は、セルロースナノファイバーがアミン又は四級アンモニウム塩化合物と反応させた状態である。このため、樹脂改質材に含まれるセルロースナノファイバーと改質対象の樹脂との親和性が高く、優れた改質効果が発揮されると考えられる。
さらに上記方法では、セルロースナノファイバーの存在下でエチレン性不飽和単量体を重合させて樹脂改質剤を製造する。このため、セルロースナノファイバーの少なくとも一部がエチレン性不飽和単量体の重合体と複合化している(例えば、重合体の粒子の内部に入り込んでいる)と考えられる。その結果、改質対象の樹脂中にセルロースナノファイバーが良好に分散し、優れた改質効果が発揮されると考えられる。
【0014】
本発明の方法において、セルロースナノファイバーをアミン又は四級アンモニウム塩化合物と反応させる時期(タイミング)は特に制限されない。例えば、あらかじめアミン又は四級アンモニウム塩化合物と反応させたセルロースナノファイバーの存在下でエチレン性不飽和単量体を重合させてもよく、セルロースナノファイバーの存在下でエチレン性不飽和単量体を重合させた後にセルロースナノファイバーをアミン又は四級アンモニウム塩化合物と反応させてもよく、セルロースナノファイバーの存在下でエチレン性不飽和単量体を重合中にセルロースナノファイバーをアミン又は四級アンモニウム塩化合物と反応させてもよい。
【0015】
あらかじめアミン又は四級アンモニウム塩化合物と反応させたセルロースナノファイバーを用いた場合には、セルロースナノファイバーの存在下でのエチレン性不飽和単量体との乳化や分散が容易になり、重合が安定する点で有利な場合がある。セルロースナノファイバーの存在下でエチレン性不飽和単量体を重合させた後にセルロースナノファイバーをアミン又は四級アンモニウム塩化合物と反応させた場合には、余剰なアミン又は四級アンモニウム塩化合物を除去し易い点で有利な場合がある。
【0016】
樹脂への分散性の観点からは、本発明の方法で製造される樹脂改質剤は粒子状であることが好ましい。樹脂改質剤が粒子状である場合の粒子径は、特に制限されない。例えば、0.01μm~100μmの範囲であってもよい。ある実施態様では、樹脂改質剤の粒子径は0.1μm未満であってもよい。樹脂改質剤の粒子径は、実施例に記載した方法で測定される。
【0017】
(セルロースナノファイバー)
本発明の方法で使用するセルロースナノファイバーは、セルロース系原料から得られる材料であれば特に制限されない。セルロース系原料は、セルロースを主体とした材料であれば特に限定はなく、例えば、パルプ、天然セルロース、再生セルロース、セルロース原料を機械的処理することで解重合した微細セルロース等が挙げられる。なお、セルロース系原料として、パルプを原料とする結晶セルロースなどの市販品をそのまま使用することができる。セルロース系原料は、後述する方法で使用する酸化剤を浸透しやすくするためにアルカリ処理等の化学処理を行ってもよい。
【0018】
セルロースナノファイバーの繊維長は特に制限されないが、好ましくは10nm~5000nmであり、より好ましくは50nm~2000nmである。さらに好ましくは100nm~700nmである。
セルロースナノファイバーの繊維長が5000nm以下であると、樹脂と混合した際の粘度が高くなりすぎず均一に混合しやすい。繊維長が10nm以上であると、複合材料の補強効果が充分に得られる。
セルロースナノファイバーの繊維径は特に制限されないが、好ましくは1nm~100nmであり、より好ましくは3nm~10nmである。
【0019】
セルロース系原料からセルロースナノファイバーを得る方法は、特に制限されない。例えば、セルロース系原料を、触媒としての2,2,6,6-テトラメチル-1-ピペリジン-N-オキシラジカル(以下、TEMPOという)等のピペリジン骨格を有する化合物の存在下に、酸化剤である次亜塩素酸ナトリウムで酸化処理する方法が知られている。
【0020】
環境又は人体に対する影響を低減する観点からは、セルロースナノファイバーはピペリジン骨格を有する化合物を使用しないで製造されることが好ましい。
ピペリジン骨格を有する化合物を使用しないでセルロースナノファイバーを製造する方法としては、(1)有効塩素濃度が14質量%~43質量%である次亜塩素酸又はその塩を酸化剤として用いてセルロース系原料を酸化させて酸化セルロースを得た後、これを解繊してセルロースナノファイバーを製造する方法、及び(2)セルロース系原料を多価カルボン酸と反応させて多価カルボン酸変性セルロースを得た後、これを解繊してセルロースナノファイバーを製造する方法が挙げられる。
【0021】
(1)の方法において、酸化剤として使用する次亜塩素酸又はその塩中の有効塩素濃度は、14質量%~43質量%であり、16質量%~43質量%であることが好ましく、18質量%~43質量%であることがさらに好ましい。
有効塩素濃度が43質量%以下の次亜塩素酸又はその塩は、自己分解が進行しにくく、取り扱いが容易である。
【0022】
次亜塩素酸又はその塩における有効塩素濃度はよく知られた概念であり、以下のように定義される。次亜塩素酸は水溶液として存在する弱酸であり、次亜塩素酸塩は結晶水をもった固体として存在することは出来るが、潮解性をもち、非常に不安定な物質であり、一般に水溶液として取り扱う。例えば、次亜塩素酸塩である次亜塩素酸ナトリウムは溶液中にしか存在しないため、次亜塩素酸ナトリウムの濃度ではなく、溶液中の有効塩素量を測定する。
次亜塩素酸ナトリウムの分解により生成する2価の酸素原子の酸化力が1価の塩素の2原子当量に相当するため、次亜塩素酸ナトリウム(NaClO)の結合塩素原子は、非結合塩素(Cl)の2原子と同じ酸化力を持っている。したがって、有効塩素=2×(NaClO 中の塩素)となる。
【0023】
具体的な有効塩素濃度の測定は、試料を精秤し、水、ヨウ化カリウム、酢酸を加えて放置し、遊離したヨウ素についてデンプン水溶液を指示薬としてチオ硫酸ナトリウム溶液で滴定することで行われる。
【0024】
本発明における次亜塩素酸又はその塩としては、次亜塩素酸水、次亜塩素酸ナトリウム、次亜塩素酸カリウム、次亜塩素酸カルシウム、次亜塩素酸アンモニウム等が挙げられる。これらの中でも、取り扱いやすさの点から、次亜塩素酸ナトリウムが好ましい。
【0025】
以下、次亜塩素酸又はその塩として次亜塩素酸ナトリウムを酸化剤として用いた場合のセルロースナノファイバーを製造する方法について説明する。
次亜塩素酸ナトリウム水溶液の有効塩素濃度を14質量%~43質量%に調整する方法としては、有効塩素濃度が14質量%より低い次亜塩素酸ナトリウム水溶液を濃縮する方法、有効塩素濃度が約43質量%である次亜塩素酸ナトリウム5水和物結晶をそのまま、又は水で希釈して調整する方法等がある。これらの中でも、次亜塩素酸ナトリウム5水和物を用いて、酸化剤としての有効塩素濃度に調整することが、自己分解が少ない(すなわち、有効塩素濃度の低下が少ない)ために好ましい。
【0026】
次亜塩素酸ナトリウム水溶液の使用量は、酸化反応が促進する範囲で選択できる。
セルロース系原料と次亜塩素酸ナトリウム水溶液の混合方法は特に限定はないが、操作の容易さの面から、次亜塩素酸ナトリウム水溶液にセルロース系原料を加えて混合させることが好ましい。
【0027】
酸化反応における反応温度は15℃~40℃であることが好ましく、20℃~35℃であることがさらに好ましい。酸化反応を効率よく進めるために、反応系のpHを7~14に維持することが好ましく、10~14に維持することがさらに好ましい。pHを調整するために、水酸化ナトリウムなどのアルカリ剤、塩酸等の酸を添加してもよい。
酸化反応の反応時間は、酸化の進行の程度に従って設定することができるが、例えば、15分~6時間程度反応させることが好ましい。
【0028】
酸化反応では、セルロース系原料中の1級水酸基が酸化されてカルボキシル基に変化し、酸化セルロースが生成する。酸化セルロース中のカルボキシル基量は特に限定されないが、次工程で酸化セルロースを解繊してセルロースナノファイバーを製造するに際し、酸化セルロース1g当たりのカルボキシル基量が、0.1mmol/g~3.0mmol/gであることが好ましく、0.2mmol/g~1.0mmol/gであることがさらに好ましい。また、前記酸化反応は、2段階に分けて実施してもよい。
【0029】
酸化セルロース中のカルボキシル基量は、次の方法で測定することができる。
酸化セルロースの0.5質量%スラリーに純水を加えて60mlに調製し、0.1M塩酸水溶液を加えて、pHを2.5に調整する。その後、0.05Nの水酸化ナトリウム水溶液を滴下して、pHが11になるまで電気伝導度を測定し、電気伝導度の変化が穏やかな弱酸の中和段階において消費された水酸化ナトリウム量(a)から、下記式を用いて算出する。
カルボキシル基量(mmol/g酸化セルロース)=a(ml)×0.05/酸化セルロース質量(g)
【0030】
次いで、上記工程で得られた酸化セルロースを解繊してナノ化することでセルロースナノファイバーを製造する。
酸化セルロースを解繊する方法は、特に制限されない。例えば、溶媒中でスターラーなどを用いた撹拌により行ってもよい。解繊時間の短縮の観点からは、機械的解繊を行ってもよい。
【0031】
機械的解繊の方法は、特に限定されない。例えば、スクリュー型ミキサー、パドルミキサー、ディスパー型ミキサー、タービン型ミキサー、高速回転下でのホモミキサー、高圧ホモジナイザー、超高圧ホモジナイザー、二重円筒型ホモジナイザー、超音波ホモジナイザー、水流対抗衝突型分散機、ビーター、ディスク型リファイナー、コニカル型リファイナー、ダブルディスク型リファイナー、グラインダー、一軸又は多軸混錬機などの公知の装置を用いて行ってもよく、これらの装置を2種以上組み合せて行ってもよい。
【0032】
酸化セルロースの解繊は、溶媒中で行うことが好ましい。解繊処理に使用する溶媒としては、特に制限されない。溶媒としては水及び有機溶剤が挙げられ、有機溶剤としてはアルコール溶媒、エーテル溶媒、ケトン溶媒、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、アセトニトリル等が挙げられる。
酸化セルロースの解繊が容易となること、環境に優しく取り扱いが容易であることから、溶媒としては水を用いることが好ましい。
有機溶剤を用いる場合は、除去の容易さとセルロースの解繊し易さからアセトニトリルが好ましく用いられる。溶媒は1種のみを使用しても2種以上を併用してもよい。
【0033】
(2)の方法において、使用される多価カルボン酸としては、100℃~200℃の温度条件下においてセルロース系原料を構成するセルロースの水酸基と脱水縮合して付加され、かつ、この温度条件下において容易に熱分解したり脱水縮合しないものであればどのようなものでも使用できる。
【0034】
使用可能な多価カルボン酸としては、2個以上のカルボキシル基を有する化合物(ジカルボン酸、トリカルボン酸、テトラカルボン酸、ヘキサカルボン酸等)が挙げられ、1種のみを用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。使用する多価カルボン酸の種類は、生産されるセルロースナノファイバーの使用目的等に応じて適宜選択できる。
ジカルボン酸として具体的には、シュウ酸、リンゴ酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、マレイン酸、マロン酸、コハク酸、フタル酸、酒石酸、イタコン酸、シトラコン酸などが挙げられる。
トリカルボン酸として具体的には、クエン酸、アコニット酸、トリメリット酸、ニトリロ三酢酸などが挙げられる。
テトラカルボン酸として具体的には、エチレンテトラカルボン酸、1,2,3,4-ブタンテトラカルボン酸、ナフタレンテトラカルボン酸、ベンゼン-1,2,4,5-テトラカルボン酸などが挙げられる。
ヘキサカルボン酸として具体的には、メリト酸、1,2,3,4,5,6-シクロヘキサンヘキサカルボン酸などが挙げられる。
【0035】
多価カルボン酸は脂肪族カルボン酸であっても芳香族カルボン酸であってもよい。反応性に優れる点、及び、多価カルボン酸変性セルロースと樹脂との相溶性の観点からは脂肪族カルボン酸が好ましく、反応性に特に優れる点、及び、多くのカルボキシル基を導入できる観点からはクエン酸がより好ましい。
【0036】
多価カルボン酸をセルロース系原料と反応させる方法は特に制限されない。例えば、多価カルボン酸を無水物又は水和物の状態でセルロース系原料に添加してもよく、水溶液の状態でセルロース系原料に添加してもよい。反応は、100℃~200℃の温度条件下で行うことが好ましい。
多価カルボン酸をセルロース系原料と反応させる際には、スクロール、ホスフィン酸ナトリウム等の触媒を用いてもよい。
【0037】
セルロース系原料と反応させる多価カルボン酸の量は、質量基準で、セルロース系原料の1倍~50倍であることが好ましく、1倍~10倍であることがより好ましい。
セルロース系原料にはリグニンが含まれているが、多価カルボン酸変性セルロースに含まれるリグニンは少ないことが好ましい。多価カルボン酸の量がセルロース系原料の1倍以上であると、リグニンが可溶化されやすくなり、リグニンを効率よく分離することができる。このため、セルロース中のリグニン量が低減して解繊処理を効率よく行うことができる。
【0038】
セルロース系原料に多価カルボン酸を反応させて得られる多価カルボン酸変性セルロースを解繊することで、セルロースナノファイバーが得られる。
多価カルボン酸変性セルロースを解繊する方法は特に制限されない。例えば、上記の酸化セルロースを解繊する方法と同様の方法により行ってもよい。
【0039】
本発明の方法では、アミン又は四級アンモニウム塩化合物と反応させたセルロースナノファイバーを使用する。アミン又は四級アンモニウム塩化合物がセルロースナノファイバーの表面のカルボキシル基と反応することで、セルロースナノファイバーの疎水性が向上し、エチレン不飽和単量体及び樹脂に対する親和性が向上する。
【0040】
さらに、アミン又は四級アンモニウム塩化合物と反応させたセルロースナノファイバーは、エチレン不飽和単量体を重合させる工程において分散剤として機能する。これにより、エチレン不飽和単量体を重合させる工程での乳化剤の使用を省略することが出来る。乳化剤を使用しないことは、得られた樹脂改質剤の乾燥時に起泡が生じず作業性の面で有利である。
【0041】
セルロースナノファイバーと反応させるアミンは特に制限されず、1級、2級及び3級のいずれであってもよい。アミン又は四級アンモニウム塩化合物の窒素原子に結合している炭化水素基又は芳香族基の炭素数(窒素原子に炭化水素基又は芳香族基が2つ以上結合している場合は、その合計炭素数)は特に制限されず、炭素数1~100の間から選択してもよい。
アミンとしては、エチレンオキサイド/プロピレンオキサイド(EO/PO)共重合部等のポリアルキレンオキサイド構造を有するものを用いてもよい。
セルロースナノファイバーに充分な疎水性を付与する観点からは、炭素数は3以上であることが好ましく、5以上であることがより好ましい。
【0042】
セルロースナノファイバーと反応させる四級アンモニウム塩化合物は特に制限されない。四級アンモニウム塩化合物として具体的には、テトラブチルアンモニウム水酸化物等の四級アンモニウム水酸化物、テトラブチルアンモニウム塩化物等の四級アンモニウム塩化物、テトラブチルアンモニウム臭化物等の四級アンモニウム臭化物、テトラブチルアンモニウムヨウ化物等の四級アンモニウムヨウ化物などが考えられる。
【0043】
(エチレン性不飽和単量体)
本発明の方法で使用するエチレン性不飽和単量体の種類は特に制限されず、所望の粒子特性、改質対象の樹脂の種類等に応じて選択できる。エチレン性不飽和単量体は、1種のみを用いても2種以上を組み合わせてもよい。
【0044】
エチレン性不飽和単量体として具体的には、(メタ)アクリル酸、アルキル(メタ)アクリレート、アルキレングリコール(メタ)アクリレート、(メタ)アクリロニトリル、ハロゲン化ビニル、マレイン酸イミド、フェニルマレイミド、(メタ)アクリルアミド、スチレン、α-メチルスチレン、酢酸ビニル等が挙げられる。これらの中でも、アルキル(メタ)アクリレート及びスチレンからなる群より選択される少なくとも一種が好ましい。
【0045】
アルキル(メタ)アクリレートとしては、アルキル部分の炭素数が1~10のものが挙げられる。アルキル部分は直鎖状、分岐状、環状のいずれであってもよく、無置換であっても置換基を有していてもよい。
【0046】
エチレン性不飽和単量体はカルボキシル基、水酸基、エポキシ基、アミノ基、アミド基、シアノ基等の官能基を有していてもよい。これらの官能基を有することでセルロースナノファイバーに対する親和性が高められる。一方、乳化や分散が困難になり重合が不安定になるのを避ける観点からは、これらの官能基を有するエチレン性不飽和単量体の割合は、エチレン性不飽和単量体全体の5モル%以下であることが好ましく、3モル%以下であることがより好ましく、1モル%以下であることがさらに好ましい。
【0047】
エチレン性不飽和単量体の重合体の重量平均分子量は、特に制限されない。例えば、5000~300万であってもよい。粒子重合体の重量平均分子量が5000以上であると樹脂の強度低下が抑制され、粒子の重量平均分子量が300万以下であると粒子が樹脂中で溶融しやすく充分な改質効果が得られる傾向にある。
エチレン性不飽和単量体の重合体の重量平均分子量は、実施例に記載した方法で測定される。
【0048】
改質対象の樹脂に対する親和性の観点からは、エチレン性不飽和単量体の重合体を構成する構造単位中の官能基を有する構造単位の割合が5モル%以下であることが好ましく、3モル%以下であることがより好ましく、1モル%以下であることがさらに好ましい。
【0049】
セルロースナノファイバーの存在下でエチレン性不飽和単量体を重合させる方法は、特に制限されない。粒子状の樹脂改質剤を得る観点からは、乳化重合、懸濁重合又はピッカリングエマルション重合が好ましい。
【0050】
セルロースナノファイバーの存在下でエチレン性不飽和単量体を乳化重合又は懸濁重合により重合させる方法としては、水等の溶媒中にセルロースナノファイバーとエチレン性不飽和単量体を分散させ、重合開始剤を添加した状態で加熱する方法が挙げられる。
【0051】
エチレン性不飽和単量体の重合に用いる重合開始剤としては、過硫酸塩、有機過酸化物、アゾ化合物等の一般的な重合開始剤を使用することができるが、重合反応率及び生産性に優れる点で過硫酸塩が好ましく、得られた樹脂が耐水性に優れる点で過硫酸アンモニウムがより好ましい。
【0052】
過硫酸塩としては、過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウムなどが挙げられる。
有機過酸化物としては、t-ブチルヒドロペルオキシド、クメンヒドロペルオキシド、ジクミルペルオキシド、ベンゾイルペルオキシド、ラウロイルペルオキシド、カプロイルペルオキシド、ジ-i-プロピルペルオキシジカルボナト、ジ-2-エチルヘキシルペルオキシジカルボナト、t-ブチルペルオキシビバラト、2,2-ビス(4,4-ジ-t-ブチルペルオキシシクロヘキシル)プロパン、2,2-ビス(4,4-ジ-t-アミルペルオキシシクロヘキシル)プロパン、2,2-ビス(4,4-ジ-t-オクチルペルオキシシクロヘキシル)プロパン、2,2-ビス(4,4-ジ-α-クミルペルオキシシクロヘキシル)プロパン、2,2-ビス(4,4-ジ-t-ブチルペルオキシシクロヘキシル)ブタン、2,2-ビス(4,4-ジ-t-オクチルペルオキシシクロヘキシル)ブタン等が挙げられる。
アゾ化合物としては、2,2’-アゾビス-2,4-ジメチルバレロニトリル、2,2’-アゾビス-i-ブチルニトリル、2,2’-アゾビス-4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル等が挙げられる。
上記の過硫酸塩や過酸化物は、還元剤である亜硫酸水素ナトリウムやアスコルビン酸ナトリウムと組み合わせて、レドックス系重合開始剤としてもよい。
【0053】
重合反応時の温度は、特に制限されない。例えば、30℃~180℃の範囲であることが好ましく、50℃~150℃の範囲であることがより好ましい。
【0054】
セルロースナノファイバーの存在下でエチレン性不飽和単量体を重合させる際のセルロースナノファイバーとエチレン性不飽和単量体の割合は、特に制限されない。例えば、セルロースナノファイバー100質量部に対するエチレン性不飽和単量体の量を5質量部~1000質量部としてもよく、10質量部~100質量部としてもよい。
【0055】
エチレン性不飽和単量体の重合反応に使用した溶媒は除去してもよく、除去しなくてもよい。また、上記方法で得られた樹脂改質剤は重合反応に使用した溶媒を除去した後に別の溶媒に分散させて用いてもよい。
【0056】
上記方法で得られた樹脂改質剤は、そのままの状態で用いても、所望の形状(粉末状、ビーズ状、ペレット状等)に成形してもよい。
【0057】
<樹脂改質剤>
本発明の樹脂改質剤は、アミン又は四級アンモニウム塩化合物と反応させたセルロースナノファイバーと、エチレン性不飽和単量体の重合体と、を含む。
上記樹脂改質剤は、樹脂の改質効果に優れている。その理由は必ずしも明らかではないが、下記のように推測される。
【0058】
上記樹脂改質剤は、セルロースナノファイバーとしてアミン又は四級アンモニウム塩化合物と反応させたものを含む。このため、セルロースナノファイバーと樹脂との親和性が高く、優れた改質効果が発揮されると考えられる。
さらに上記樹脂改質剤は、エチレン性不飽和単量体の重合体を含む。このため、セルロースナノファイバーの少なくとも一部がエチレン性不飽和単量体の重合体と複合化している(例えば、重合体の粒子の内部に入り込んでいる)と考えられる。その結果、改質対象の樹脂中にセルロースナノファイバーが良好に分散し、優れた改質効果が発揮されると考えられる。
【0059】
樹脂への分散性の観点からは、樹脂改質剤は粒子状であることが好ましい。樹脂改質剤が粒子状である場合の粒子径は、特に制限されない。例えば、0.01μm~100μmの範囲であってもよい。ある実施態様では、樹脂改質剤の粒子径は0.1μm未満であってもよい。
【0060】
樹脂改質剤及びこれに含まれる各成分の詳細及び好ましい態様は、上述した樹脂改質剤の製造方法で製造される樹脂改質剤及び対応する成分の詳細及び好ましい態様と同様であってもよい。
【0061】
環境又は人体に対する影響を低減する観点からは、樹脂改質剤中のTEMPO等のピペリジン骨格を有する化合物の含有率は小さいほど好ましい。例えば、0.01ppm以下であることが好ましく、実質的に含まれないことがより好ましい。
【0062】
エチレン性不飽和単量体の重合体の原料となるエチレン性不飽和単量体は、特に制限されず、上述したものから選択してもよい。エチレン性不飽和単量体の重合体は、1種の単量体から形成される単独重合体であっても2種以上の単量体から形成される共重合体であってもよい。
【0063】
エチレン性不飽和単量体の重合体の重量平均分子量は、特に制限されない。例えば、5000~300万であってもよく、10000~150万であってもよい。粒子の重量平均分子量が5000以上であると樹脂改質剤の添加による樹脂の強度低下が抑制される傾向にあり、粒子の重量平均分子量が300万以下であると樹脂改質剤が樹脂中で溶融しやすく充分な改質効果が得られる傾向にある。
【0064】
樹脂改質剤におけるセルロースナノファイバーとエチレン性不飽和単量体の重合体の割合は、特に制限されない。例えば、セルロースナノファイバー100質量部に対するエチレン性不飽和単量体の重合体の量を5質量部~150質量部としてもよく、10質量部~100質量部としてもよい。
【0065】
樹脂改質剤を用いて樹脂を改質する方法は、特に制限されない。例えば、改質対象の樹脂を溶融又は軟化させた状態で樹脂改質剤を添加してもよい。樹脂改質剤の添加量は特に制限されない。例えば、樹脂100質量部に対する添加量を0.1質量部~10質量部としてもよい。
【0066】
<複合材料>
本発明の複合材料は、上述した樹脂改質剤と、樹脂とを含む複合材料である。
【0067】
複合材料に含まれる樹脂の種類は特に制限されず、熱可塑性樹脂、熱可塑性エラストマー等の成形可能な樹脂が挙げられる。
熱可塑性樹脂としては、ABS(アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン)樹脂、アクリル樹脂、ポリオレフィン、ポリエステル、ポリウレタン、ポリスチレン、ポリアミド、ポリ塩化ビニル、ポリカーボネート等が挙げられる。
熱可塑性エラストマーとしては、オレフィン系エラストマー、スチレン系エラストマー、ポリアミド系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、ポリウレタン系エラストマー等が挙げられる。
【0068】
複合材料に含まれる樹脂は、樹脂改質剤に含まれる成分と同一の成分、又は樹脂改質剤と親和性の良いセグメント若しくは官能基を含むことが好ましい。特に、樹脂改質剤に含まれる成分と同一の成分または親和性の良いセグメントがポリマーアロイ構造となっていると、衝撃吸収性などの効果が付与されることから好ましい。樹脂改質剤と混合される樹脂との親和性が悪いと得られた複合材料の分散性が低下して複合材料の外観が悪化したり、破断応力や破断伸びが低下する場合がある。
【0069】
複合材料に含まれる樹脂改質剤の量は、特に制限されない。例えば、樹脂100質量部に対する樹脂改質剤の量を0.1質量部~10質量部としてもよい。
【実施例
【0070】
以下、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0071】
<セルロースナノファイバーAの作製>
有効塩素濃度が43質量%である次亜塩素酸Na5水和物結晶(500g)と純水(1035.7g)とを混合して、有効塩素濃度が14質量%である溶液を調製した。この溶液を30℃に加温し、スターラーで撹拌しながら、パルプ(セオラスFD-101、旭化成ケミカルズ株式会社、平均粒子径50μm、カルボキシル基量0.03mmol/g)35gを添加し、さらに30℃に維持しながら30分間スターラーで撹拌した後、純水100gを添加した。次いで0.1μmPTFEメンブランフィルターにより吸引濾過し、酸化セルロースを得た。得られた酸化セルロースを超音波ホモジナイザーにて10分間解繊処理し、1.3質量%のセルロースナノファイバーAを含む分散液を調製した。
【0072】
<セルロースナノファイバーBの作製>
溶液の有効塩素濃度を30質量%とした以外はセルロースナノファイバーAと同様にして、セルロースナノファイバーBを含む分散液を調製した。
【0073】
<セルロースナノファイバーCの作製>
溶液の有効塩素濃度を43質量%とした以外はセルロースナノファイバーAと同様にして、セルロースナノファイバーCを含む分散液を調製した。
【0074】
<セルロースナノファイバーDの作製>
溶液の有効塩素濃度を12質量%とした以外はセルロースナノファイバーAと同様にして濾過したところ、濾過上物のカルボキシル基量が0.07mmol/gであり酸化が進んでいなかったため、解繊処理を行わなかった。
【0075】
<セルロースナノファイバーEの作製>
パルプ(セオラスFD-101)35gを純水2800gに添加し、撹拌した。これにTEMPOを0.44g、臭化ナトリウムを4.4g、次亜塩素酸ナトリウムを10g(有効塩素濃度12質量%)それぞれ添加した。0.5M水酸化ナトリウムでpHを10.5に維持しながら酸化反応を実施し、酸化反応に伴うpH低下がほぼ停止した時点で反応終了とした。得られた酸化セルロースを純水で洗浄後、酸化セルロースの含有率が1質量%となるように純水を加えて超音波ホモジナイザーで解繊処理し、1.3質量%のセルロースナノファイバーEを含む分散液を調製した。
【0076】
<セルロースナノファイバーFの作製>
クエン酸無水物(10g)を純水(20g)で溶解し、クエン酸水溶液を調製した。この液をスターラーで撹拌しながら、針葉樹クラフトパルプ(1g)を加え、25℃で1時間撹拌した。それをオーブンにて空気下で105℃、8時間加熱して水分を除去した。得られた乾燥物を乳鉢で粉砕し、500μm篩で分級した。得られた篩下分をオーブンにて空気下で130℃、8時間加熱した。得られた加熱物を純水に分散した後、0.1μmPTFEメンブランフィルターにより吸引ろ過した。次いで純水で洗浄して、クエン酸変性セルロースH型を得た。得られたクエン酸変性セルロースH型を0.1M-水酸化ナトリウム水溶液(150g)に加え、25℃で40分間撹拌し、0.1μmPTFEメンブランフィルターにより吸引ろ過し、次いで純水で洗浄し、クエン酸変性セルロースNa型を得た。クエン酸変性セルロースNa型の濃度が1質量%になるように純水を加え、ヒールッシャー製超音波ホモジナイザー「UP-400S」にてCYCLE0.5、AMPLITUDE50の条件で解繊することで、クエン酸変性セルロースナノファイバーを含む分散液を調製した。
【0077】
作製したセルロースナノファイバー(CNF)の物性を表1及び表2に示す。セルロースナノファイバーEのTEMPO残存量を測定したところ、1ppmであった。セルロースナノファイバーA~Dでは、TEMPO残存は検出されなかった。なお、TEMPO残存量はESR(電子スピン共鳴法、例えば、e-scan:Bruker Biospin製)により評価した。
【0078】
【表1】


【表2】

【0079】
<実施例1>
セルロースナノファイバーAを含む分散液36.9gに0.5M塩酸0.52gを添加して撹拌し、セルロースナノファイバーAを沈殿させた。ここにモノドデシルアミン0.034g(エタノール5gを含む、以下同様)と純水4.13gを加えて撹拌、濾過、純水10gで洗浄しながら濾過をこの順に実施して、セルロースナノファイバーAをアミンと反応させた。
【0080】
アミンと反応させたセルロースナノファイバーAの含有率が1.2質量%となるように純水を加え、エチレン不飽和単量体としてスチレン(St)、重合開始剤として過硫酸アンモニウム(APS)を加えた。これを超音波で分散した後に窒素雰囲気とし、撹拌しながら70℃で4時間加熱して重合させた。その後、加熱しながら真空乾燥して、セルロースナノファイバーとエチレン不飽和単量体の重合体とを含む粒子状の樹脂改質剤を得た。材料の配合量を表3に示す。
【0081】
<実施例2>
重合開始剤を過硫酸アンモニウムから2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)に変更したこと以外は実施例1と同様にして、セルロースナノファイバーとエチレン不飽和単量体の重合体とを含む粒子状の樹脂改質剤を得た。材料の配合量を表3に示す。
【0082】
<実施例3>
セルロースナノファイバーAをセルロースナノファイバーEに変更したこと以外は実施例1と同様にして、セルロースナノファイバーとエチレン不飽和単量体の重合体とを含む粒子状の樹脂改質剤を得た。材料の配合量を表3に示す。
【0083】
<実施例4>
セルロースナノファイバーAをセルロースナノファイバーBに変更したことと、スチレンをメタクリル酸イソブチル(IBMA)に変更したこと以外は実施例1と同様にして、セルロースナノファイバーとエチレン不飽和単量体の重合体とを含む粒子状の樹脂改質剤を得た。材料の配合量を表3に示す。
【0084】
<実施例5>
セルロースナノファイバーAをセルロースナノファイバーCに変更したこと以外は実施例1と同様にして、セルロースナノファイバーとエチレン不飽和単量体の重合体とを含む粒子状の樹脂改質剤を得た。材料の配合量を表3に示す。
【0085】
<実施例6>
アミンをモノドデシルアミンからトリドデシルアミンに変更したことと、スチレンをメタクリル酸イソブチル(IBMA)に変更したこと以外は実施例1と同様にして、セルロースナノファイバーとエチレン不飽和単量体の重合体とを含む粒子状の樹脂改質剤を得た。材料の配合量を表3に示す。
【0086】
<実施例7>
セルロースナノファイバーAをセルロースナノファイバーBに変更したことと、アミンをモノドデシルアミンからテトラブチルアンモニウムヒドロキシド(TBAH)に変更したことと、スチレンをメタクリル酸イソブチル(IBMA)に変更したこと以外は実施例1と同様にして、セルロースナノファイバーとエチレン不飽和単量体の重合体とを含む粒子状の樹脂改質剤を得た。材料の配合量を表3に示す。
【0087】
<実施例8>
セルロースナノファイバーAをセルロースナノファイバーEに変更したことと、スチレンをメタクリル酸イソブチル(IBMA)に変更したことと、乳化剤としてドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム(DBSS)を使用したこと以外は実施例1と同様にして、セルロースナノファイバーとエチレン不飽和単量体の重合体とを含む粒子状の樹脂改質剤を得た。材料の配合量を表3に示す。
【0088】
<実施例9>
セルロースナノファイバーBを含む分散液36.9gに0.5M塩酸0.68gを添加して撹拌し、セルロースナノファイバーBを沈殿させた。ここにn-プロピルアミン0.014gと純水4.13gを加えて撹拌、濾過、純水10gで洗浄しながら濾過をこの順に実施して、セルロースナノファイバーBをアミンと反応させた。材料の配合量を表3に示す。
【0089】
アミンと反応させたセルロースナノファイバーBの含有率が1.2質量%となるように純水を加え、エチレン不飽和単量体としてスチレン(St)、重合開始剤として過硫酸アンモニウム(APS)を加えた。これを超音波で分散した後に窒素雰囲気とし、撹拌しながら70℃で4時間加熱して重合させた。その後、加熱しながら真空乾燥して、セルロースナノファイバーとエチレン不飽和単量体の重合体とを含む粒子状の樹脂改質剤を得た。材料の配合量を表3に示す。
【0090】
<実施例10>
IMBAの量を変更したことと重合の際に連鎖移動剤としてドデシルメルカプタン(DM)を使用したこと以外は実施例4と同様にして、セルロースナノファイバーとエチレン不飽和単量体の重合体とを含む粒子状の樹脂改質剤を得た。材料の配合量を表3に示す。
【0091】
<実施例11>
IMBAの量を変更したこと以外は実施例4と同様にして、セルロースナノファイバーとエチレン不飽和単量体の重合体とを含む粒子状の樹脂改質剤を得た。材料の配合量を表3に示す。
【0092】
<実施例12>
単量体として用いるスチレンの配合量を変更したこと以外は実施例1と同様にして、セルロースナノファイバーとエチレン不飽和単量体の重合体とを含む粒子状の樹脂改質剤を得た。材料の配合量を表3に示す。
【0093】
<実施例13>
実施例13では実施例1~12と異なり、セルロースナノファイバーの存在下でエチレン不飽和単量体を重合させた後に、セルロースナノファイバーをアミンと反応させた。
セルロースナノファイバーAに3.1gの純水を加えた後、エチレン不飽和単量体としてスチレン(St)0.48g、重合開始剤として1質量%の過硫酸アンモニウム(APS)0.13gを加えた。これを超音波で分散した後に窒素雰囲気とし、撹拌しながら70℃で4時間加熱して重合させた。
この分散液に0.5M塩酸0.52gを添加して撹拌した。ここにモノドデシルアミン0.034g(エタノール5gを含む)を加えて撹拌、濾過、純水10gで洗浄しながらの濾過をこの順番で実施して、セルロースナノファイバーAをアミンと反応させた。その後、加熱しながら真空乾燥して、セルロースナノファイバーとエチレン不飽和単量体の重合体とを含む粒子状の樹脂改質剤を得た。材料の配合量を表4に示す。
【0094】
<実施例14>
セルロースナノファイバーAをセルロースナノファイバーFに変更したこと以外は実施例1と同様にして、セルロースナノファイバーとエチレン不飽和単量体の重合体とを含む粒子状の樹脂改質剤を得た。材料の配合量を表5に示す。
【0095】
<実施例15>
セルロースナノファイバーAをセルロースナノファイバーFに変更したことと単量体として用いるスチレンの配合量を変更したこと以外は実施例1と同様にして、セルロースナノファイバーとエチレン不飽和単量体の重合体とを含む粒子状の樹脂改質剤を得た。材料の配合量を表5に示す。
【0096】
<実施例16>
セルロースナノファイバーAをセルロースナノファイバーFに変更したことと単量体として用いるスチレンの配合量を変更したこと以外は実施例1と同様にして、セルロースナノファイバーとエチレン不飽和単量体の重合体とを含む粒子状の樹脂改質剤を得た。材料の配合量を表5に示す。
【0097】
<実施例17>
セルロースナノファイバーAをセルロースナノファイバーFに変更したことと、アミンをモノドデシルアミンからテトラブチルアンモニウムヒドロキシド(TBAH)に変更したこと以外は実施例1と同様にして、セルロースナノファイバーとエチレン不飽和単量体の重合体とを含む粒子状の樹脂改質剤を得た。材料の配合量を表5に示す。
【0098】
<実施例18>
セルロースナノファイバーAをセルロースナノファイバーFに変更したことと、スチレンをメタクリル酸イソブチル(IBMA)に変更したことと以外は実施例1と同様にして、セルロースナノファイバーとエチレン不飽和単量体の重合体とを含む粒子状の樹脂改質剤を得た。材料の配合量を表5に示す。
【0099】
<比較例1>
セルロースナノファイバーをアミンと反応させなかったこと以外は実施例3と同様にして、セルロースナノファイバーとエチレン不飽和単量体の重合体とを含む粒子状の樹脂改質剤を得た。材料の配合量を表5に示す。
【0100】
<比較例2>
セルロースナノファイバーをアミンと反応させなかったことと、スチレンをメタクリル酸イソブチル(IBMA)に変更したこと以外は実施例3と同様にして、セルロースナノファイバーとエチレン不飽和単量体の重合体とを含む粒子状の樹脂改質剤を得た。材料の配合量を表5に示す。
【0101】
<比較例3>
セルロースナノファイバーをアミンと反応させなかったことと、スチレンをメタクリル酸イソブチル(IBMA)に変更したことと、乳化剤としてドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム(DBSS)を使用したこと以外は実施例3と同様にして、セルロースナノファイバーとエチレン不飽和単量体の重合体とを含む粒子状の樹脂改質剤を得た。材料の配合量を表5に示す。
【0102】
<比較例4>
セルロースナノファイバーBを含む分散液36.9gに0.5M塩酸0.68gを添加して撹拌し、セルロースナノファイバーBを沈殿させた。ここにモノドデシルアミン0.044gと純水4.13gを加えて撹拌、濾過、純水10gで洗浄しながら濾過をこの順に実施して、セルロースナノファイバーBをアミンと反応させた。その後、エチレン性不飽和単量体の重合は行わずに樹脂改質剤とした。材料の配合量を表5に示す。
【0103】
<比較例5>
セルロースナノファイバーBをそのまま樹脂改質剤とした。
【0104】
【表3】

【0105】
【表4】

【0106】
【表5】

【0107】
<顕微鏡観察>
実施例で得られた樹脂改質剤を電子顕微鏡で観察したところ、セルロースナノファイバーの少なくとも一部がエチレン不飽和単量体の重合体に入り込んでいる状態の粒子状であった。
【0108】
<粒子径の測定>
樹脂改質剤の粒子径は、レーザー回折式粒度分布計(たとえば、マイクロトラックMT3000II、マイクロトラック・ベル製)を用いて測定する。具体的には、セルロースナノファイバーとエチレン不飽和単量体の重合体とを含む樹脂改質剤をイオン交換水で適当な濃度に調整した後、粒度分布からメディアン径を測定し、これを粒子径とする。粒子の屈折率はすべて1.5とする。結果を表6に示す。
【0109】
<重量平均分子量(Mw)の測定>
エチレン性不飽和単量体の重合体の重量平均分子量は、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー、例えば、HLC-8220、東ソー製)を用いて測定する。具体的には、セルロースナノファイバーとエチレン不飽和単量体の重合体とを含む樹脂改質剤に適切な溶媒を加えて重合体を溶解させる。その後、0.45μmのフィルターを用いてろ過し、得られた液に対しポリスチレン換算により測定を行う。結果を表6に示す。
【0110】
<評価>
実施例及び比較例で得た樹脂改質剤を、成形可能な樹脂であるABS樹脂(テクノUMG株式会社製、品番ABS130)に全体の1質量%(セルロースナノファイバー換算)となる量で添加した。具体的には、樹脂改質剤とABS樹脂のペレットとをカップ内で混合した後、プラストミルを用いて加熱混練した。混練温度は160℃とし、混練時間は9分間とした。その後、加圧機を用いて180℃で2分間加圧し、混練物を平板状とした。圧力は最初の1分を10MPa、次の1分を15MPaとした。得られた平板状の混練物を用いてJIS K 6251:2010に規定する3号ダンベル(厚さ1mm)形状の試験片を作製した。同様に、樹脂改質剤を添加していないABS樹脂を用いて試験片を作製した。
【0111】
(分散性の評価)
試験片を目視で観察し、樹脂改質剤の分散不良による斑点、凹凸、筋などが観察されない場合を○、明らかに観察される場合を×とした。結果を表6に示す。
【0112】
(破断応力の評価)
試験片を用いてJIS K 6251:2010に規定する引張応力試験(引張速度5mm/分)を行い、破断応力(MPa)と破断伸び(mm)を測定した。
破断応力については、樹脂改質剤を添加していないABS樹脂の試験片の測定値を1としたときの測定値が1.05以上となった場合を〇、1を超え1.05未満となった場合を△、1以下となった場合を×として評価した。結果を表6に示す。
破断伸びについては、樹脂改質剤を添加していないABS樹脂の試験片の測定値を1としたときの測定値が0.8以上となった場合を〇、0.6を超え0.8未満となった場合を△、0.6以下となった場合を×として評価した。結果を表6に示す。
【0113】
【表6】
【0114】
表6に示すように、アミン又は四級アンモニウム塩化合物と反応させたセルロースナノファイバーの存在下でエチレン性不飽和単量体を重合させて得られた実施例の樹脂改質剤を添加したABS樹脂は、破断応力及び破断伸びのいずれも良好な評価結果が得られた。
さらに、評価に用いた樹脂改質剤と成形可能な樹脂とが混合された複合材料において、セルロースナノファイバーを四級アンモニウム塩化合物と反応させたものは他の実施例に比べて着色が少ないことが目視で確認された。
セルロースナノファイバーをアミン又は四級アンモニウム塩化合物と反応させないで得られた比較例1、3の樹脂改質剤を添加したABS樹脂は、破断伸びが著しく低下した。
セルロースナノファイバーの存在下でエチレン性不飽和単量体を重合させていない比較例4、5の樹脂改質剤は、ABS樹脂への分散性に劣り、破断応力と破断伸びがいずれも著しく低下した。
【0115】
エチレン性不飽和単量体としてIBMAを使用し、乳化剤を使用しなかった比較例2はIBMAの凝集が生じて樹脂改質剤が得られなかったため、ABS樹脂を用いた評価を行うことができなかった。
IBMAを分散させるために乳化剤を使用した比較例3は、重合反応は進んだが粒子を乾燥する際に起泡が生じた。これに対し、アミン又は四級アンモニウム塩化合物と反応させたセルロースナノファイバーを用いた実施例4では、セルロースナノファイバーが分散剤として機能することで、乳化剤を使用しなくてもIBMAが凝集せずに樹脂改質剤を得ることができた。