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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-05
(45)【発行日】2023-09-13
(54)【発明の名称】医薬組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/135 20060101AFI20230906BHJP
   A61J 1/05 20060101ALI20230906BHJP
   A61K 9/08 20060101ALI20230906BHJP
   A61K 9/06 20060101ALI20230906BHJP
   A61P 37/08 20060101ALI20230906BHJP
【FI】
A61K31/135
A61J1/05 311
A61K9/08
A61K9/06
A61P37/08
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2018177430
(22)【出願日】2018-09-21
(65)【公開番号】P2020045321
(43)【公開日】2020-03-26
【審査請求日】2021-08-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000186588
【氏名又は名称】小林製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124431
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 順也
(74)【代理人】
【識別番号】100174160
【弁理士】
【氏名又は名称】水谷 馨也
(74)【代理人】
【識別番号】100175651
【弁理士】
【氏名又は名称】迫田 恭子
(72)【発明者】
【氏名】松岡 彩加
【審査官】鶴見 秀紀
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-028124(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00-31/80
A61J 1/00-1/22
A61K 9/00-9/72
A61P 37/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジフェンヒドラミン及び/又はその塩を含有し、
内壁が直鎖状低密度ポリエチレンで構成された容器に収容されており、
前記直鎖状低密度ポリエチレンの側鎖の炭素数が4である、医薬組成物。
【請求項2】
前記直鎖状低密度ポリエチレンの密度が0.932~0.940g/cm3である、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
液剤又はジェル剤である、請求項1又は2に記載の医薬組成物。
【請求項4】
ジフェンヒドラミン及び/又はその塩を含有する医薬組成物においてジフェンヒドラミン及び/又はその塩の減量を抑制する方法であって、
前記医薬組成物を、内壁が直鎖状低密度ポリエチレンで構成され且つ前記直鎖状低密度ポリエチレンの側鎖の炭素数が4である容器に収容する、減量抑制方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ジフェンヒドラミン類の減量が抑制された医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ジフェンヒドラミン塩酸塩等のジフェンヒドラミン類は、皮膚の痒みなどのアレルギー症状を引き起こすヒスタミンの作用を抑制し得ることが知られ、抗ヒスタミン剤として医薬品又は医薬部外品の皮膚外用剤に配合して用いられている。例えば、特許文献1には、有効成分として、吉草酸酢酸プレドニゾロンと、ジフェンヒドラミン及びその塩類等の抗ヒスタミン剤とを含む、湿疹、皮膚炎、虫さされ、かゆみ、あせも、かぶれ及びじんましん等に対する治療効果を有する皮膚外用剤が開示されている。
【0003】
また、抗ヒスタミン剤は、皮膚外用剤の他にも、眼科用組成物に配合して用いられている。特許文献2には、pHを中性領域にして、1回の使用で使い捨てるタイプのポリエチレンまたはポリプロピレン等のプラスチックス製の容器に抗ヒスタミン剤、血管収縮剤および消炎・収斂剤からなる群より選択される少なくとも1種を含有する点眼剤を保存した場合、ガラス製容器に比べて該成分が吸着し、目的とした効果が得られない場合があることが記載されており、この課題を解決する手段として、液剤のpHを5~6という極めて限られた範囲内に調整した場合に限り、1回の使用で使い捨てるタイプの上記プラスチックス製の容器に抗ヒスタミン剤等を含む液剤を充填しても、これらが容器に吸着することが抑制されることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2002-356430号公報
【文献】特開2002-249445号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
抗ヒスタミン剤のプラスチック製容器への吸着抑制の問題の解決策としては、上述のとおり、pHを極めて限られた範囲内に調整するという、製剤処方の設計を工夫する手法が採られてきた。しかしながら、そのような手法で抗ヒスタミン剤の吸着を抑制し減量抑制効果を得たとしても、処方設計が制限されるため、多様な処方設計には対応することができない。
【0006】
本発明は、医薬組成物中に抗ヒスタミン剤であるジフェンヒドラミン及び/又はその塩(以下において、「ジフェンヒドラミン類」とも記載する。)を含む場合において、医薬組成物中のジフェンヒドラミン類の減量を抑制するための手法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、鋭意検討を行ったところ、ジフェンヒドラミン類を含有する医薬組成物に接触する容器面を特定の樹脂で構成することで、ジフェンヒドラミン類の減量を抑制できることを見出した。本発明は、この知見に基づいて更に検討を重ねることにより完成したものである。
【0008】
即ち、本発明は、下記に掲げる態様の発明を提供する。
項1. ジフェンヒドラミン及び/又はその塩を含有し、
内壁が直鎖状低密度ポリエチレンで構成された容器に収容されており、
前記直鎖状低密度ポリエチレンの側鎖の炭素数が4以下である、医薬組成物。
項2. 前記直鎖状低密度ポリエチレンの密度が0.932~0.940g/cm3
項3. 液剤又はジェル剤である、項1又は2に記載の医薬組成物。
項4. ジフェンヒドラミン及び/又はその塩を含有する医薬組成物においてジフェンヒドラミン及び/又はその塩の減量を抑制する方法であって、
前記医薬組成物を、内壁が直鎖状低密度ポリエチレンで構成され且つ前記直鎖状低密度ポリエチレンの側鎖の炭素数が4以下である容器に収容する、減量抑制方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明の医薬組成物は、内壁が直鎖状低密度ポリエチレンで構成され且つ前記直鎖状低密度ポリエチレンの側鎖の炭素数が4以下である容器に収容されることによって、配合されているジフェンヒドラミン類の減量を抑制することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
1.医薬組成物
本発明の医薬組成物は、ジフェンヒドラミン類を含有し、内壁が特定の樹脂で構成された容器に収容されていることを特徴とする。以下、発明の医薬組成物について詳述する。
【0011】
ジフェンヒドラミン及び/又はその塩
本発明の医薬組成物は、ジフェンヒドラミン及び/又はその塩を含有する。ジフェンヒドラミンは、抗ヒスタミン作用があることが知られている公知の薬剤である。ジフェンヒドラミン類は、医薬組成物の容器内壁を構成するポリエチレン系樹脂に吸着されやすく、特に、医薬組成物が流動性の高い液剤やジェル剤の場合には容器内壁との接触頻度が高いことからより顕著に吸着される。しかしながら、本発明によれば、ジフェンヒドラミン類の吸着が抑制され、医薬組成物中のジフェンヒドラミン類の減量を抑制することができる。
【0012】
ジフェンヒドラミンの塩としては、薬学的に許容されるものである限り特に制限されないが、具体的には、塩酸塩、クエン酸塩、コハク酸塩、酒石酸塩、フマル酸塩、マレイン酸塩、サリチル酸塩、ジフェニルジスルホン酸塩、タンニン酸塩、ラウリル硫酸塩、硫酸塩等の酸付加塩が挙げられる。これらの塩は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0013】
本発明の医薬組成物において、ジフェンヒドラミン及びその塩の中から1種を選択して使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0014】
本発明の医薬組成物におけるジフェンヒドラミン類の配合量は特に限定されず、付与すべき薬効に応じて適宜決定することができるが、例えば0.01~5重量%が挙げられる。本発明の医薬組成物は、ジフェンヒドラミン類の減量が良好に抑制されており、例えば40℃30日間保存後におけるジフェンヒドラミン類の含有量を、保存前における含有量の99.1重量%超に維持することができるため、ジフェンヒドラミン類の配合量が少ない医薬組成物である場合であっても、ジフェンヒドラミン類によってもたらされる効果の減弱を良好に抑制することができる。このような観点から、本発明の医薬組成物におけるジフェンヒドラミン類の配合量は、好ましくは0.1~3重量%、より好ましくは0.1~2重量%が挙げられる。
【0015】
その他の成分
本発明の医薬組成物は、前述する成分の他に、必要に応じて、他の薬理成分を含んでもよい。このような薬理成分としては、例えば、抗ヒスタミン剤(マレイン酸クロルフェニラミン等)、局所麻酔剤(リドカイン(及び/又はその塩)、ジブカイン、プロカイン、テトラカイン、ブピパカイン、メピパカイン、クロロプロカイン、プロパラカイン、メプリルカイン又はこれらの塩、安息香酸アルキルエステル(例えばアミノ安息香酸エチル、塩酸パラブチルアミノ安息香酸ジエチルアミノエチル)、オルソカイン、オキセサゼイン、オキシポリエントキシデカン、ロートエキス、ペルカミンパーゼ、テシットデシチン等)、抗炎症剤(グリチルレチン酸、グリチルレチン酸塩、アラントイン、サリチル酸、サリチル酸グリコール、サリチル酸メチル、インドメタシン、フェルビナク、ジクロフェナクナトリウム、ロキソプロフェンナトリウム等)、殺菌剤(塩化ベンザルコニウム、塩化デカリニウム、塩化ベンゼトニウム、塩化セチルピリジニウム、イソプロピルメチルフェノール、塩酸クロルヘキシジン、グルコン酸クロルヘキシジン、アンモニア水、スルファジアジン、乳酸、フェノール等)、鎮痒剤(クロタミトン、チアントール等)、皮膚保護剤(コロジオン、ヒマシ油等)、血行促進成分(ノニル酸ワニリルアミド、ニコチン酸ベンジルエステル、カプサイシン、トウガラシエキス等)、清涼化剤(メントール、カンフル等)、ビタミン類(ビタミンA,B,C,D等)、ムコ多糖類(コンドロイチン硫酸ナトリウム、ヒアルロン酸等)等が挙げられる。
【0016】
本発明においては、これらの薬理成分の中でも、イソプロピルメチルフェノールとリドカイン及び/又はその塩(以下において、「リドカイン類」とも記載する。)とについては、ジフェンヒドラミン類と同様にそれらの減量を良好に抑制できる。従って、本発明の医薬組成物は、イソプロピルメチルフェノール及びリドカイン類の少なくともいずれかを更に含むことが好ましく、イソプロピルメチルフェノール及びリドカイン類の両方を含むことがより好ましい。
【0017】
本発明の医薬組成物にイソプロピルメチルフェノールを配合する場合、イソプロピルメチルフェノールの配合量としては特に限定されず、付与すべき薬効に応じて適宜決定することができるが、例えば0.01~0.5重量%が挙げられる。本発明の医薬組成物は、例えば40℃30日間保存後におけるイソプロピルメチルフェノールの含有量を、保存前における含有量の99.1重量%超に維持することができるため、イソプロピルメチルフェノールの配合量が少ない医薬組成物である場合であっても、イソプロピルメチルフェノールによってもたらされる効果の減弱を良好に抑制することができる。このような観点から、本発明の医薬組成物におけるイソプロピルメチルフェノールの配合量は、好ましくは0.03~0.3重量%、より好ましくは0.05~0.2重量%が挙げられる。
【0018】
本発明の医薬組成物にリドカイン類を配合する場合、リドカイン類の配合量としては特に限定されず、付与すべき薬効に応じて適宜決定することができるが、例えば0.01~10重量%が挙げられる。本発明の医薬組成物は、例えば40℃30日間保存後におけるリドカイン類の含有量を、保存前における含有量の99.1重量%超に維持することができるため、リドカイン類の配合量が少ない医薬組成物である場合であっても、リドカイン類によってもたらされる効果の減弱を良好に抑制することができる。このような観点から、本発明の医薬組成物におけるリドカイン類の配合量は、好ましくは0.1~5重量%、より好ましくは0.5~3重量%が挙げられる。
【0019】
前述する成分の他に、必要に応じて、医薬組成物等に通常使用される他の基剤や添加剤を含んでもよい。このような基材や添加剤としては、薬学的に許容されることを限度として特に制限されないが、例えば、水、低級アルコール(例えば、イソプロパノール)、多価アルコール(グリセリン、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、1,3-ブチレングリコール等)等の水性基剤;油類(オリーブ油、サフラワー油、大豆油、つばき油、とうもろこし油、なたね油、ひまわり油、綿実油、落花生油、ラード、スクワラン、魚油等)、鉱物油(流動パラフィン、パラフィン、ゲル化炭化水素、ワセリン等)、ワックス類・ロウ類(ミツロウ、カルナウバロウ、キャンデリラロウ、セレシン、ライスワックス、マイクロクリスタリンワックス等)、エステル油(ミリスチン酸イソプロピル、アジピン酸イソプロピル、セバシン酸ジエチル、セバシン酸イソプロピル、パルミチン酸イソプロピル、パルミチン酸セチル、オレイン酸エチル等)、脂肪酸アルキルエステル、脂肪酸(ステアリン酸、オレイン酸、パルミチン酸、ベヘン酸、リノール酸、ラノリン等)、脂肪酸エステル(パルミチン酸セチル、パルミチン酸イソプロピル、リノール酸エチル等)、高級アルコール(ステアリルアルコール、セタノール、ベヘニルアルコール、ミリスチルアルコール、オレイルアルコール、ヘキサデシルアルコール、ラノリンアルコール等)、コレステロール、トリ2-エチルヘキサン酸グリセリル、2-エチルヘキサン酸セチル、シリコーンオイル(ジメチルポリシロキサン、環状シリコーン等)等の油性基剤;含水二酸化ケイ素、軽質無水ケイ酸、水酸化アルミニウムゲル、合成ケイ酸アルミニウム、ケイ酸マグネシウム等の流動性促進剤(滑沢剤);POE(10~50モル)フィトステロールエーテル、POE(10~50モル)ジヒドロコレステロールエーテル、POE(10~50モル)2-オクチルドデシルエーテル、POE(10~50モル)デシルテトラデシルエーテル、POE(10~50モル)オレイルエーテル、POE(2~50モル)セチルエーテル、POE(5~50モル)ベヘニルエーテル、POE(5~30モル)ポリオキシプロピレン(5~30モル)2-デシルテトラデシルエーテル、POE(10~50モル)ポリオキシプロピレン(2~30モル)セチルエーテルなどのポリオキシエチレンアルキルエーテル、これらのリン酸・リン酸塩(POEセチルエーテルリン酸ナトリウムなど)、POE(20~60モル)ソルビタンモノオレート、POE(10~60モル)ソルビタンモノイソステアレート、POE(10~80モル)グリセリルモノイソステアレート、POE(10~30モル)グリセリルモノステアレート、POE(20~100モル)・ポリオキシプロピレン変性シリコーン、POE・アルキル変性シリコーン、モノラウリン酸ポリエチレングリコール、モノパルミチン酸ポリエチレングリコール、モノステアリン酸ポリエチレングリコール、ジラウリン酸ポリエチレングリコール、ジパルミチン酸ポリエチレングリコール、ジステアリン酸ポリエチレングリコール、ジオレイン酸ポリエチレングリコール、ジリシノレイン酸ポリエチレングリコール、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油(5~100)、ポリソルベート(20~85)、グリセリン脂肪酸エステル(モノステアリン酸グリセリン等)、水素添加大豆リン脂質、水素添加ラノリンアルコール等の界面活性剤;清涼化剤(メントール、カンフル、ボルネオール、ハッカ水、ハッカ油等)、防腐剤(パラオキシ安息香酸メチル、パラオキシ安息香酸プロピル、安息香酸、安息香酸ナトリウム、ソルビン酸等)、着香剤(シトラール、1,8-シオネール、シトロネラール、ファルネソール等)、着色剤(タール色素(褐色201号、青色201号、黄色4号、黄色403号等)、カカオ色素、クロロフィル、酸化アルミニウム等)、粘稠剤(カルボキシビニルポリマー、ヒプロメロース、ポリビニルピロリドン、アルギン酸ナトリウム、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、キサンタンガム、カラギーナン等)、pH調整剤(リン酸、リン酸二水素ナトリウム、リン酸水素ナトリウム、塩酸、クエン酸、クエン酸ナトリウム、コハク酸、酒石酸、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、トリエタノールアミン、トリイソプロパノールアミン等)、湿潤剤(dl-ピロリドンカルボン酸ナトリウム液、D-ソルビトール液、マクロゴール等)、安定化剤(ジブチルヒドロキシトルエン、ブチルヒドロキシアニソール、エデト酸ナトリウム、メタリン酸ナトリウム、L-アルギニン、L-アスパラギン酸、DL-アラニン、グリシン、エリソルビン酸ナトリウム、没食子酸プロピル、亜硫酸ナトリウム、二酸化硫黄、クロロゲン酸、カテキン、ローズマリー抽出物等)、酸化防止剤、紫外線吸収剤、キレート剤、粘着剤、緩衝剤、溶解補助剤、可溶化剤、保存剤等の添加剤が挙げられる。
【0020】
これらの基剤や添加剤の中でも、粘稠剤を配合する場合、本発明の医薬組成物中の粘稠剤の含有量としては、例えば0.1~5重量%が挙げられる。本発明の医薬組成物は、ジフェンヒドラミン類の吸着抑制によりその量が良好に抑制されるため、ジェル剤のように流動性が高く容器内壁との接触頻度が高い態様であっても、ジフェンヒドラミン類の減量を良好に抑制することができる。このような観点から、本発明の医薬組成物中に粘稠剤を配合する場合、その配合量としては比較的少量であることが好ましく、例えば0.1~2重量%がより好ましく挙げられる。さらに、同様の観点で、本発明の医薬組成物中に粘稠剤を配合する場合には、さらに流動性促進剤を配合させることが好ましい。流動性促進剤を配合する場合、本発明の医薬組成物中の流動性促進剤の含有量としては、例えば0.1~10重量%、好ましくは1~5重量%が挙げられる。
【0021】
本発明の医薬組成物のpH(25℃)は、例えば6.5~7.5、好ましくは7.0~7.5、より好ましくは7.1~7.5に調整される。
【0022】
性状・製剤形態等
本発明の医薬組成物の性状としては特に限定されず、液状組成物、ゲル状組成物、乳化組成物等が挙げられる。本発明の医薬組成物は、ジフェンヒドラミン類の吸着抑制によりその量が良好に抑制されるため、流動性が高く容器内壁との接触頻度が高い態様であっても、ジフェンヒドラミン類の減量を良好に抑制することができる。このような観点から、本発明の医薬組成物の性状としては、好ましくは、液状組成物、ゲル状組成物が挙げられる。
【0023】
本発明の医薬組成物の製剤形態については特に制限されず、例えば、液剤(例えば、ローション剤、乳液剤)、ジェル剤、軟膏剤、クリーム剤等が挙げられる。この中でも、上述と同様の観点から、流動性が高い液剤及びジェル剤が好ましく挙げられる。
【0024】
容器
本発明の医薬組成物が収容される容器は、医薬組成物が接触する容器内壁が直鎖状低密度ポリエチレン(以下、「LLDPE」とも記載する。)で構成されている。LLDPEは低密度のため、ジフェンヒドラミン類を吸着しやすい。しかしながら、本発明の医薬組成物は、容器にLLDPEを用いているにもかかわらず、ジフェンヒドラミン類の吸着を抑制し、その減量を良好に抑制することができる。
【0025】
本発明の医薬組成物が収容される容器において、LLDPEの側鎖の炭素数は4以下である。LLDPEの側鎖の炭素数が4を上回ると、ジフェンヒドラミン類の減量抑制効果を得ることができない。LLDPEの炭素数の範囲の下限としては特に限定されないが、例えば2以上が挙げられ、好ましくは3以上が挙げられる。
【0026】
本発明において、LLDPEの密度は、0.910~0.940g/cm3である。LLDPEの密度は、JIS K7112:1999 水中置換法(A法)、25℃の条件で測定した値である。ジフェンヒドラミン類の減量抑制効果を一層良好に得る観点からは、LLDPEの密度は0.932~0.940g/cm3であることがより好ましい。
【0027】
LLDPEは、Ziegler触媒、メタロセン触媒等のシングルサイト系触媒を用いて、エチレンとα-オレフィンとを共重合することにより得ることができる。LLDPEの側鎖の炭素数の制御は、共重合するα-オレフィンの炭素数を調整することによって行うことができる。また、LLDPEの密度の制御は、共重合するα-オレフィンの種類及び/又は量を調整することによって行うことができる。
【0028】
本発明の医薬組成物が収容される容器においては、その内壁面が上述のLLDPEで構成されていればよく、容器壁は単層構造であってもよいし複層構造であってもよい。複層構造である場合は、容器の最内層を構成する樹脂が、上述のLLDPEであればよい。好ましい複層構造の具体例としては、外層側から内層側へ順に、LLDPE層、基材層、バリア層、LLDPE層がこの順に積層された構造が挙げられる。各層は互いに直接的に積層していてもよいし、他の層を介して間接的に積層されていてもよい。他の層としては、接着剤層や機能性層が挙げられる。基材層を構成する材料としては、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル樹脂が挙げられ、バリア層を構成する材料としては、アルミニウム等の金属が挙げられる。また、最外層のLLDPE層は、最内層のLLDPEと共に熱溶着層としても機能し得る。さらに、容器はボトルであってもよいし、チューブであってもよいが、好ましくはチューブが挙げられる。
【0029】
使用方法
本発明の医薬組成物は、外用医薬品として使用することができ、殺菌を要する部位、好ましくは皮膚の部位へ塗布することにより使用することができる。塗布においては、容器から医薬組成物を指等に取って適用してもよいし、容器から直接噴霧により適用してもよい。殺菌を要する部位としては、かゆみ、かぶれ、湿疹、虫さされ、皮ふ炎、じんましん、あせも、ただれ、しもやけ等の皮膚症状が挙げられる。
【0030】
2.減量抑制方法
上述のとおり、内壁が直鎖状低密度ポリエチレンで構成され且つ前記直鎖状低密度ポリエチレンの側鎖の炭素数が4以下である容器は、ジフェンヒドラミン類を含有する医薬組成物においてジフェンヒドラミン類の減量を抑制することができる。従って、更に、本発明はジフェンヒドラミン類を含有する医薬組成物においてジフェンヒドラミン類の減量を抑制する方法を提供する。具体的には、本発明の減量抑制方法は、医薬組成物を、内壁が直鎖状低密度ポリエチレンで構成され且つ前記直鎖状低密度ポリエチレンの側鎖の炭素数が4以下である容器に収容することを特徴とする。本発明の減量抑制方法において、医薬組成物に使用される成分の種類や配合量、医薬組成物の性状・製剤形態、使用方法、医薬組成物を収容すべき容器等については、前記「1.医薬組成物」の欄に記載の通りである。
【実施例
【0031】
以下に実施例を示して本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0032】
試験例1
1.容器に充填された医薬組成物(液剤)の調製
表1に示す組成の医薬組成物(液剤)を調製した。液剤のpH(25℃)は7.3であった。
【0033】
【表1】
【0034】
調製した医薬組成物を、LLDPE層を最内層に有するラミネートチューブに充填した。ラミネートチューブは、外層側から内層側へ順に、LLDPE層、ポリエチレンテレフタレート層、アルミニウム層、接着剤層、LLDPE層が積層された複層構造を有し、最外層であるLLDPE層と最内層であるLLDPE層とが熱溶着されている。本試験例では、LLDPE層が異なる7種のラミネートチューブ、具体的には、ラミネートチューブA(武内プレス工業株式会社製)、ラミネートチューブB(関西チューブ株式会社製)、ラミネートチューブC(武内プレス工業株式会社製)、ラミネートチューブD(武内プレス工業株式会社製)、ラミネートチューブE(武内プレス工業株式会社製)、ラミネートチューブF(関西チューブ株式会社製)を用意した。それぞれのラミネートチューブにおける最内層を構成するLLDPEの側鎖の炭素数及び密度は、表2~4に示す通りである。
【0035】
2.減量測定試験
医薬組成物が充填された容器を、40℃条件下で30日保存した。保存後の医薬組成物中の薬理成分の減量の程度を、以下の方法で測定した。
【0036】
(1)保存後の実施例、比較例及び参考例の医薬組成物(試料)の約0.5gをとって秤量し、エタノール(95)/ラウリル硫酸ナトリウム溶液(9:1(体積比))を加えて正確に50mLとした。この液をよく振り混ぜ、超音波照射し、試料溶液を得た。
【0037】
(2)別途、定量用ジフェンヒドラミン約0.5gをとって秤量し、エタノール(95)を加えて正確に50mLとし、ジフェンヒドラミン標準原液を得た。
(3)定量用リドカインをデシケーター(減圧、シリカゲル)で24時間乾燥し、その約1gをとって秤量し、エタノール(95)を加えて正確に50mLとし、リドカイン標準原液を得た。
(4)定量用イソプロピルメチルフェノール約0.5gをとって秤量し、エタノール(95)を加えて正確に50mLとし、イソプロピルメチルフェノール標準原液を得た。
【0038】
(5)ジフェンヒドラミン標準原液5mL、リドカイン標準原液5mL、イソプロピルメチルフェノール標準原液5mLをそれぞれ正確に量り、エタノール(95)を加えて正確に50mLとし、標準溶液を得た。
(6)試料溶液及び標準溶液をそれぞれ15μL正確にとり、後述の条件で液体クロマトグラフィーにより測定を行い、ジフェンヒドラミンのピーク面積ATa(試料溶液から)及びASa(標準溶液から)、リドカインのピーク面積ATb(試料溶液から)及びASb(標準溶液から)、イソプロピルメチルフェノールのピーク面積ATc(試料溶液から)及びASc(標準溶液から)を求めた。
【0039】
(7)以下の計算式に基づいて、試料溶液中のそれぞれの薬理成分の初期値(調製時に配合した量)に対する量(%)を算出した。
【0040】
(a)試料溶液中のジフェンヒドラミンの初期値(調製時に配合した量)に対する量(%)
=(定量用ジフェンヒドラミンの秤量値(g))×1/10×1/10×(ATa/ASa)×1/(試料の秤量値(g))×100/(試料100g中のジフェンヒドラミン配合量(g))×100
【0041】
(b)試料溶液中のリドカインの初期値(調製時に配合した量)に対する量(%)
=(定量用リドカインの秤量値(g))×1/10×1/10×(ATb/ASb)×1/(試料の秤量値(g))×100/(試料100g中のリドカイン配合量(g))×100
【0042】
(c)試料溶液中のイソプロピルメチルフェノールの初期値(調製時に配合した量)に対する量(%)
=(定量用イソプロピルメチルフェノールの秤量値(g))×1/20×1/10×(ATc/ASc)×1/(試料の秤量値(g))×100/(試料100g中のイソプロピルメチルフェノール配合量(g))×100
【0043】
(測定条件)
検出器:紫外吸光光度計(測定波長220nm)
カラム:内径4.6mm、長さ15cmのステンレス管に5μmの液体クロマトグラフィー用オクタデシルシリル化シリカゲルを充填した。(具体的には、Inertsil ODS-3 5μm、4.6mm×150mm)
カラム温度:約30℃、一定温度
移動相:ラウリル硫酸ナトリウム溶液/アセトニトリル混液(13:12(体積比))
流量:ジフェンヒドラミンの保持時間が約17分になるように調整した。
【0044】
3.減量抑制の評価
上記(7)で得られた、試料溶液中のそれぞれの薬理成分の初期値(調製時に配合した量)に対する量(重量%)を、以下の基準に基づいて分類し、-6~+5までスコア化した。スコアが大きいほど、薬理成分の減量抑制の程度が高いことを示す。
+5 99.9%超
+4 99.7%超99.9%以下
+3 99.5%超99.7%以下
+2 99.3%超99.5%以下
+1 99.1%超99.3%以下
-1 98.9%超99.1%以下
-2 98.7%超98.9%以下
-3 98.5%超98.7%以下
-4 98.3%超98.5%以下
-5 98.1%超98.3%以下
-6 98.1%以下
【0045】
4.結果
減量抑制のスコアを表2~4に示す。比較例1~8に示すように、側鎖の炭素数が6又は8のLLDPEに接触した状態で保存された医薬組成物においては、ジフェンヒドラミンをはじめ、イソプロピルメチルフェノール及びリドカインの減量が顕著に認められた。これに対して、実施例1~7に示すように、側鎖の炭素数が4のLLDPEに接触した状態で保存された医薬組成物においては、ジフェンヒドラミンの減量が顕著に抑制された。イソプロピルメチルフェノール及びリドカインについても、同様に、減量が顕著に抑制された。さらに、実施例1~6に示すように、側鎖の炭素数が4であり且つ密度が0.932~0.940g/cm3であるLLDPEに接触した状態で保存された医薬組成物においては、ジフェンヒドラミンの減量が極めて顕著に抑制された。また、イソプロピルメチルフェノール及びリドカインについても、同様に、減量が極めて顕著に抑制された。
【0046】
【表2】
【0047】
【表3】
【0048】
【表4】
【0049】
試験例2
表5に示す処方例1~3の医薬組成物(ジェル剤)を調製した。ジェル剤のpH(25℃)は7.3であった。試験例1で用いたラミネートチューブA、ラミネートチューブB又はラミネートチューブCに充填し、試験例1と同様の条件で保存した。その結果、処方例1~3の医薬組成物は、いずれのラミネートチューブに充填した場合も、ジフェンヒドラミンをはじめとする薬理成分の減量が顕著に抑制されており、また、ラミネートチューブA又はラミネートチューブBに充填した場合の方が薬理成分の減量がより顕著に抑制されていた。
【0050】
【表5】