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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-05
(45)【発行日】2023-09-13
(54)【発明の名称】温熱治療用の医療機器
(51)【国際特許分類】
   A61F 7/03 20060101AFI20230906BHJP
【FI】
A61F7/08 334H
A61F7/08 334P
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2018248612
(22)【出願日】2018-12-28
(65)【公開番号】P2020108423
(43)【公開日】2020-07-16
【審査請求日】2021-11-19
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000186588
【氏名又は名称】小林製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124431
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 順也
(72)【発明者】
【氏名】中林 孝太
(72)【発明者】
【氏名】丸山 哲也
【審査官】小林 睦
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-276317(JP,A)
【文献】実開平06-075437(JP,U)
【文献】特表2004-512141(JP,A)
【文献】国際公開第2006/006658(WO,A1)
【文献】国際公開第95/017864(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F 7/03
A61F 7/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
足底部の少なくとも一部に配設して使用される温熱治療用の医療機器であり、
足底部に伝える熱を発生させる発熱部と、
前記発熱部を収容し、少なくとも一方の面に透湿性シートを含む収容体と、を有し、
前記発熱部が還元鉄粉を含む粉末状の発熱性組成物のみで構成され、且つ
前記透湿性シートの透湿度が300~1200g/m2・dayである、
温熱治療用の医療機器。
【請求項2】
前記発熱性組成物が、更に酸化促進剤及び水を含む、請求項1に記載の温熱治療用の医療機器。
【請求項3】
前記透湿性シートが、細孔を有する通気性樹脂層と繊維基材との積層シートである、請求項1又は2に記載の温熱治療用の医療機器。
【請求項4】
前記収容体の一方の面に粘着層が設けられている、請求項1~3のいずれかに記載の温熱治療用の医療機器。
【請求項5】
体全体に対して温熱効果を付与するために使用される、請求項1~4のいずれかに記載の温熱治療用の医療機器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電力源を使用せずに全身に温熱効果を付与できる温熱治療用の医療機器に関する。
【背景技術】
【0002】
温熱効果とは、人体に熱源によるエネルギーを与えて身体を温める効果であり、それにより血行の促進、疲労感の改善、筋肉のコリの改善、胃腸の働きの活発化等の治療効果がもたらされることが分かっている。従来、温熱効果を付与するための温熱治療用の医療機器が種々開発されている(例えば、特許文献1等)。
【0003】
しかしながら、従来の温熱治療用の医療機器では、電力源を必要とされるものが多数であり、利便性や汎用性に欠けるという欠点がある。また、従来の温熱治療用の医療機器では、身体に対して局所的に温熱効果を付与できるに止まり、体全体に対して温熱効果を付与する効果が乏しいという欠点もある。
【0004】
近年、温熱効果を全身に及ぼすことにより、温熱による治療効果を向上させ、更には免疫賦活効果も向上させ得るという知見が見出されている。しかしながら、体全体に対して温熱効果を付与するには、入浴等の利便性に欠ける手段をとらざるをえないのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2009-26867号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、電力源を使用せずに全身に温熱効果を付与できる温熱治療用の医療機器を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、前記課題を解決すべく鋭意検討を行ったところ、酸化性金属として還元鉄粉を含む発熱部を使用し、これを透湿度が300~1200g/m2・dayである透湿性シートを含む収容体に収容した温熱治療用の医療機器を足底部の少なくとも一部に配設して使用することにより、体全体に温熱効果が付与され、足底部のみならず、手、足、肩等の全身において血行が促進されることを見出した。本発明は、かかる知見に基づいて、更に検討を重ねることにより完成したものである。
【0008】
即ち、本発明は、下記に掲げる態様の発明を提供する。
項1. 足底部の少なくとも一部に配設して使用される温熱治療用の医療機器であり、
足底部に伝える熱を発生させる発熱部と、
前記発熱部を収容し、少なくとも一方の面に透湿性シートを含む収容体と、を有し、
前記発熱部が還元鉄粉を含み、且つ
前記透湿性シートの透湿度が300~1200g/m2・dayである、
温熱治療用の医療機器。
項2. 発熱部が、更に酸化促進剤及び水を含む、項1に記載の温熱治療用の医療機器。
項3. 前記透湿性シートが、細孔を有する通気性樹脂層と繊維基材との積層シートである、項1又は2に記載の温熱治療用の医療機器。
項4. 前記収容体の一方の面に粘着層が設けられている、項1~3のいずれかに記載の温熱治療用の医療機器。
項5. 体全体に対して温熱効果を付与するために使用される、項1~4のいずれかに記載の温熱治療用の医療機器。
【発明の効果】
【0009】
本発明の温熱治療用の医療機器によれば、足底部に適用することによって、手、足、肩等の血行の促進が可能になっており、体全体に温熱効果を付与でき、全身の冷え性改善、むくみ改善、疲労回復、筋肉の痛み緩和、関節痛の緩和、免疫向上、筋肉のコリほぐし等が可能になる。また、本発明の温熱治療用の医療機器は、温熱効果を付与するのに電力源を必要としないため、利便性や汎用性の点でも優れている。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明で使用される収容体の一態様について平面視した概略図である。
図2】Aは、試験例で使用した透湿性シートと非透湿性シートを平面視した概略図である。Bは、試験例で製造した温熱治療用の医療機器を平面視した概略図である。
図3】Aは、試験例で使用した貼り付け用サンプルを温熱治療用の医療機器側から平面視した概略図である。Bは、試験例で使用した貼り付け用サンプルを両面テープ側から平面視した概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の温熱治療用の医療機器は、足底部の少なくとも一部に配設して使用される温熱治療用の医療機器であり、足底部に伝える熱を発生させる発熱部と、前記発熱部を収容し、少なくとも一方の面に透湿性シートを含む収容体とを有し、前記発熱部が還元鉄粉を含み、且つ前記透湿性シートの透湿度が300~1200g/m2・dayであることを特徴とする。以下、本発明の温熱治療用の医療機器について詳述する。
【0012】
[発熱部]
本発明の温熱治療用の医療機器では、足底部に伝える熱を発生させるために、還元鉄粉を含む発熱部を有する。酸素との接触によって酸化熱を発生させる被酸化性金属として還元鉄粉を選択し、且つ後述する特定の透湿性を有する収容体を使用することによって、足底部の少なくとも一部に配設して使用すると、全身に温熱効果を付与することが可能になる。
【0013】
本発明において、「発熱部」とは、足底部に伝える熱を発生させる部位であり、被酸化性金属と必要に応じて配合される他の成分を含む発熱性組成物によって構成される。
【0014】
還元鉄粉とは、酸化鉄や鉄塩等の鉄化合物を水素等で還元して作製した粉末状の鉄である。
【0015】
本発明で使用される還元鉄粉の粒子径の範囲については、特に制限されないが、例えば、10μm超800μm以下が挙げられる。全身への温熱効果をより一層向上させるという観点から、還元鉄粉の粒子径として、好ましくは10μm超500μm以下、更に好ましくは10μm超300μm以下が挙げられる。本発明において、還元鉄粉の粒子径の範囲は、日本工業規格「JIS 8815-1994 ふるい分け試験方法通則」に規定されている方法に従って求められる値である。
【0016】
本発明で使用される還元鉄粉の見掛密度については、特に制限されないが、例えば、1.0~4.0g/cm2、好ましくは1.5~4.0g/cm2、更に好ましくは2.0~4.0g/cm2が挙げられる。本発明において、見掛密度は、日本工業規格「JIS Z 2504:2012 金属粉-見掛密度測定方法」に規定されている方法に従って求められる値である。
【0017】
本発明において、発熱部における還元鉄粉の含有量としては、例えば、20~80重量%、好ましくは25~70重量%、更に好ましくは30~60重量%が挙げられる。
【0018】
また、本発明において、発熱部には、酸素の保持や、還元鉄粉への酸素供給の促進のために酸化促進剤が含まれていてもよい。酸化促進剤の種類については、酸素の保持及び還元鉄粉への酸素の供給が可能であることを限度として特に制限されないが、例えば、活性炭、カーボンブラック、アセチレンブラック、竹炭、木炭、コーヒーカス炭、黒鉛、石炭、椰子殻炭、暦青炭、泥炭、亜炭等の炭素材料が挙げられる。これらの酸化促進剤は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0019】
これらの酸化促進剤の中でも、好ましくは活性炭、カーボンブラック、竹炭、木炭、コーヒーカス炭、更に好ましくは活性炭が挙げられる。
【0020】
酸化促進剤の形状については、特に制限されないが、発熱効率の観点からは、好ましくは粉末状、粒状又は繊維状、更に好ましくは粉末状が挙げられる。
【0021】
発熱部に酸化促進剤を含有させる場合、発熱部における酸化促進剤の含有量については、特に制限されないが、例えば、1~30重量%、好ましく3~25重量%、更に好ましくは5~23重量%が挙げられる。
【0022】
また、発熱部には、還元鉄粉の酸化反応を促進させるために水が含まれていることが好ましい。水については、蒸留水、イオン交換水、純水、超純水、水道水、工業用水等のいずれを使用してもよい。
【0023】
発熱部に水を含有させる場合、発熱部における水の含有量については、特に制限されないが、例えば、5~50重量%、好ましく10~40重量%、更に好ましくは15~35重量%が挙げられる。
【0024】
また、発熱部には、水を保持させて酸化反応場に水を効率的に供給するために保水剤を含んでいてもよい。保水剤の種類については、特に制限されないが、例えば、バーミキュライト(蛭石)、パーライト、ケイ酸カルシウム、ケイ酸マグネシウム、カオリン、タルク、スメクタイト、マイカ、ベントナイト、炭酸カルシウム、シリカゲル、アルミナ、ゼオライト、二酸化珪素、珪藻土等の無機多孔質物質;パルプ、木粉(おがくず)、綿、デンプン類、セルロース類等の有機物;ポリアクリル酸系樹脂、ポリスルホン酸系樹脂、無水マレイン酸系樹脂、ポリアクリルアミド系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、ポリエチレンオキシド系樹脂、ポリアスパラギン酸系樹脂、ポリグルタミン酸系樹脂、ポリアルギン酸系樹脂等の吸水性樹脂等が挙げられる。これらの保水剤は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0025】
これらの保水剤の中でも、好ましくはバーミキュライト、ポリアクリル酸系樹脂、木粉、パルプ;更に好ましくはバーミキュライト、ポリアクリル酸系樹脂が挙げられる。また、保水剤として無機多孔質物質を使用する場合には、発熱性組成物中で空気の流路を確保することも可能になる。
【0026】
発熱部に保水剤を含有させる場合、発熱部における保水剤の含有量については、その含有量については、特に制限されないが、例えば、1~20重量%、好ましくは3~15重量%、更に好ましくは3~7重量%が挙げられる。
【0027】
また、発熱部には、還元鉄粉の酸化反応を促進させるために水溶性塩類を含んでいてもよい。水溶性塩類の種類については、特に制限されないが、例えば、アルカリ金属(ナトリウム、カリウム等)、アルカリ土類金属(カルシウム、マグネシウム等)、又は重金属(鉄、銅、アルミニウム、亜鉛、ニッケル、銀、バリウム等)の硫酸塩、炭酸水素塩、塩化物若しくは水酸化物等が挙げられる。これらの水溶性塩類の中でも、導電性、化学的安定性等の観点から、好ましくは塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、塩化鉄(第1、第2)等の塩化物、更に好ましくは塩化ナトリウムなどが挙げられる。これらの水溶性塩類は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0028】
発熱部に水溶性塩類を含有させる場合、発熱部における水溶性塩類の含有量については、その含有量については、特に制限されないが、例えば、0.1~10重量%、好ましくは0.5~7重量%、更に好ましくは0.5~5重量%が挙げられる。
【0029】
発熱部には、更に必要に応じて、還元鉄粉以外の被酸化金属、金属イオン封鎖剤、香料、増粘剤、賦形剤、界面活性剤、水素発生抑制剤等が他の添加剤が含まれていてもよい。
【0030】
発熱部として使用される発熱性組成物は、前述する成分を所定量混合することにより調製することができる。発熱部として使用される発熱性組成物の調製は、酸素存在下で行ってもよいが、減圧下又は不活性ガス雰囲気下で調製することが好ましい。
【0031】
本発明の温熱治療用の医療機器において、収容体1個当たりに収容される発熱部の量については、足底部に適用可能な範囲内で適宜設定すればよいが、例えば、5~30g、好ましくは10~20g、更に好ましくは12~18gが挙げられる。
【0032】
[収容体]
本発明の温熱治療用の医療機器は、発熱部を収容するための収容体を有する。本発明の温熱治療用の医療機器において、収容体は、使用時に発熱部に酸素や水蒸気を供給するために、少なくとも一方の面に透湿度が300~1200g/m2・dayである透湿性シートを有している。このように特定の透湿度の透湿性シートを有する収容体と、還元鉄粉を含む発熱部とを併用することによって、足底部に適用しても、全身に対して温熱効果を付与することが可能になる。
【0033】
本発明で使用される透湿性シートの透湿度については、300~1200g/m2・dayであればよいが、全身への温熱効果をより一層向上させるという観点から、当該透湿性シートの透湿度として、好ましくは650~1200g/m2・day、更に好ましくは680~1150g/m2・day、特に好ましくは700~1100g/m2・dayが挙げられる。本発明において、透湿度は、日本工業規格「JIS Z0208-1975 防湿包装材料の透湿度試験方法(カップ法)に規定されている方法で温度40℃、湿度90%RHの条件下で測定される値である。
【0034】
透湿性シートの素材については、前記透湿度を具備できることを限度として特に制限されないが、少なくとも、通気性樹脂層(細孔を有する樹脂層)によって形成されていることが好ましく、使用感を向上させるという観点から、通気性樹脂層と繊維基材との積層シートであることが更に好ましい。通気性樹脂層と繊維基材との積層シートは、収容体の内部から外部に向けて、通気性樹脂層及び繊維基材がこの順で積層されていればよい。
【0035】
通気性樹脂層の構成樹脂については、特に制限されないが、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-酢酸ビニル共重合体、ポリエチレンテレフタレート、ポリアクリロニトリル、エチレン-ビニルアルコール共重合体、ポリアミド、ポリウレタン、ポリスチレン、ポリビニルアルコール、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリカーボネート等が挙げられる。これらの樹脂の中でも、好ましくはポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン酢酸ビニル共重合体が挙げられる。
【0036】
また、通気性樹脂層は、通気性を確保するための細孔が設けられている樹脂フィルムであればよい。樹脂フィルムに設けられる細孔の形状、大きさ及び数については、収容体に備えさせるべき透湿度に応じて適宜設定すればよい。
【0037】
通気性樹脂層の厚さについては、透湿性シートの層構成等に応じて適宜設定すればよいが、例えば、15~150μm、好ましくは30~100μm、更に好ましくは50~80μmが挙げられる。
【0038】
透湿性シートに使用される繊維基材としては、具体的には、不織布、織布が挙げられる。使用感等の観点から、好ましくは不織布が挙げられる。繊維基材232の素材については、特に制限されないが、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ナイロン、ポリプロピレン、ポリエチレン、ビニロン、レーヨン、アクリル、アセテート、ポリ塩化ビニル等の合成繊維;綿、麻、絹、紙等の天然繊維;これらの混合繊維等が挙げられる。これらの素材の中でも、使用感を高めるという観点から、好ましくはポリエチレンテレフタレート、ナイロン、ポリプロピレン、更に好ましくはポリエチレンテレフタレート、ナイロンが挙げられる。
【0039】
繊維基材の目付けについては、透湿性シートの層構成等に応じて適宜設定すればよいが、例えば、1~100g/m2、好ましくは5~70g/m2、更に好ましくは10~50g/m2が挙げられる。
【0040】
通気性樹脂層と繊維基材の積層は、ドライラミネート、押出ラミネート、熱ラミネート等の公知のラミネート方法によって行うことができる。
【0041】
本発明で使用される収容体は、少なくとも一方の面に前記透湿性シートを含んでいればよい。本発明で使用される収容体は、足底部側に配される面と、それとは反対側に配される面の2つ面を有する形状であることが好ましいが、このように2つ面を有する形状にする場合、全面が前記透湿性シートで形成されていてもよく、また一方の面が前記透湿性シートで、他方の面が低透湿度のシート(以下、「非透湿性シート」と表記することがある)によって形成されていてもよい。
【0042】
前記非透湿性シートの透湿度については、例えば10g/m2・day以下、好ましくは5g/m2・day以下、より好ましくは2g/m2・day以下、更に好ましくは1g/m2・day以下、特に好ましくは0g/m2・dayが挙げられる。
【0043】
非透湿性シートの素材については、特に制限されないが、好ましくは、細孔が設けられていない樹脂シートが挙げられる。非透湿性シートを構成する樹脂シートの構成樹脂については、特に制限されないが、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-酢酸ビニル共重合体、ポリエチレンテレフタレート、ポリアクリロニトリル、エチレン-ビニルアルコール共重合体、ポリアミド、ポリウレタン、ポリスチレン、ポリビニルアルコール、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリカーボネート等が挙げられる。これらの樹脂の中でも、好ましくはポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン酢酸ビニル共重合体が挙げられる。
【0044】
非透湿性シートを構成する樹脂シートの厚さについては、非透湿性シートの層構成等に応じて適宜設定すればよいが、例えば、115~250μm、好ましくは130~200μm、更に好ましくは150~180μmが挙げられる。
【0045】
また、非透湿性シートは、必要に応じて、細孔が設けられていない樹脂シートに繊維基材が積層されていてもよい。非透湿性シートにおいて使用される繊維基材の素材や目付等については、前記透湿質性シートで例示したものと同様である。
【0046】
また、収容体の一方の面には、使用時に足底部に固定できるように粘着層が設けられていることが好ましい。収容体において、両面とも前記透湿性シートで形成されている場合には、一方の透湿性シートの表面に粘着層が設けられていればよく、また一方の面が透湿性シート、他方の面が非透湿性シートで形成されている場合には、非透湿性シートの表面に粘着層が設けられていればよい。
【0047】
粘着層は、収容体の一方の面の全面に設けられていてもよいが、収容体の一方の面に部分的に設けられていてもよい。
【0048】
粘着層は、粘着剤を使用して形成できる。粘着剤とは、油剤やその他の溶媒等の存在下で粘着性を示すポリマー(粘着性ポリマー)を含み、当該粘着性ポリマーが油剤やその他の溶媒等に分散又は溶解されて、粘着性を呈している組成物である。粘着剤に含まれる粘着性ポリマーの種類や組成は、公知であり、本発明では、従来の使い捨てカイロの粘着層に使用されている粘着剤を使用することができる。粘着剤の種類としては、具体的には、ゴム系粘着剤、アクリル系粘着剤、シリコーン系粘着剤、ウレタン系粘着剤等が挙げられる。
【0049】
粘着層の塗布量については、例えば、5~40g/m2、好ましくは10~30g/m2、更に好ましくは15~25g/m2が挙げられる。
【0050】
また、収容体の一方の面に粘着層を設ける場合には、粘着層の外側表面には、離型可能な離型層が設けられていてもよい。離型層が設けられている場合には、保存中の粘着層の乾燥防止、粘着層の粘着による取扱性の低下の防止等を図ることができる。
【0051】
離型層としては、ポリエチレンテレフタラート、ポリアクリロ二トリル、エチレン-ビニルアルコール共重合体、ポリプロピレン等の樹脂フィルム;シリコーン加工等の離型性付与加工を施した紙等が挙げられる。また、離型層として樹脂フィルムを使用する場合であっても、シリコーン加工等の離型性付与加工が施されていてもよい。
【0052】
収容体は、足底部側に配される面と、それとは反対側に配される面の2つ面からなる形状である場合、前記透湿性シート2枚、又は前記透湿性シート1枚と前記非透湿性シート1枚を、発熱部を収容する領域の周囲を張り合わせることによって形成される。
【0053】
前記透湿性シート2枚、又は前記透湿性シート1枚と前記非透湿性シート1枚を張り合わせる手法については、特に制限されないが、例えば、前記透湿性シート又は非透湿性シートに熱溶着性樹脂が使用されている場合は当該熱融着性樹脂を利用して端部を熱溶着(ヒートシール)させてもよく、また接着剤を使用して端部を張り合わせてもよい。
【0054】
収容体の形状については、足底部の少なくとも一部に配設できるように設定されていればよく、適用する足底部の部位に応じて適宜設定すればよい。例えば、足の指の裏の一部から指の裏の付け根部分にわたって配設する場合であれば、図1に示すように、平面視形状が、直線状の端辺から一方の方向に伸びて他方の端辺が円形になっている形状が挙げられる。また、収容体の一形態として略扁平状が挙げられるが、収容体において足底部側に配される面は、足底部の形状に追従するように凹部や凸部等が設けられていてもよい。
【0055】
収容体において前記発熱部を収容する部分の面積(平面視した場合に、発熱部が収容されている部分の面積)としては、例えば、20~180cm2、好ましくは30~70cm2、更に好ましくは35~60cm2が挙げられる。
【0056】
[包装形態]
本発明の温熱治療用の医療機器は、酸素バリア性を有する包装材に包装され、空気と接触しない状態で提供される。使用時に足底部の少なくとも一部に配設することにより、発熱部が空気と接触し、発熱が開始する。
【0057】
[使用方法]
本発明の温熱治療用の医療機器は、足底部の少なくとも一部に配設して使用される。本発明の温熱治療用の医療機器は、足底部の少なくとも一部に対して局所的に適用することにより、手、足、肩等の全身に対して温熱効果を付与することができる。また、本発明の温熱治療用の医療機器は、全身に対して温熱効果を付与できるので、全身の血行促進、冷え性の改善、疲労感の改善、筋肉のコリの改善、胃腸の働きの活発化、免疫賦活化等の目的で使用できる。
【0058】
本発明の温熱治療用の医療機器は、足底部に皮膚に直接固定して使用してもよく、また靴下をはいた状態で足底部に固定して使用してもよく。また、本発明の温熱治療用の医療機器は、靴やスリッパの中敷きに固定し、当該靴やスリッパを履くことによって使用することもできる。
【0059】
本発明の温熱治療用の医療機器が適用される足底部の部位については、特に制限されず、例えば、足指の裏、足指の裏の付け根、土踏まず、短小趾屈筋部分、踵等が挙げられる。また、本発明の温熱治療用の医療機器は、足底部の少なくとも一部に配設されるように設計されていればよく、例えば、足底部の一部と共に、足の指の表部分や足の甲の少なくとも一部にも配設されるように設計されていてもよい。全身への温熱効果をより一層向上させるという観点から、本発明の温熱治療用の医療機器が配設される足底部の部位として、好ましくは、少なくとも足指の裏の付け根部分、更に好ましくは足指の裏の少なくとも一部と足指の裏の付け根部分、特に好ましくは、足の中指の先端から0~1cm程度の部位から踵側に向かって9~20cm程度までの領域の足底部が挙げられる。
【実施例
【0060】
以下に、実施例等を挙げて、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらによって何ら限定されるものではない。
1.温熱治療用の医療機器の調製
表1に示す各透湿度の透湿性シートA~Fを準備した。各透湿性シートの形状は、図2のAに示す通りである。なお、各透湿性シートの透湿度は、日本工業規格「JIS Z0208-1975 防湿包装材料の透湿度試験方法(カップ法)に規定されている方法で温度40℃、湿度90%RHの条件下で測定した。なお、準備した透湿性シートA~Fは、いずれも、ポリエチレンテレフタレート製のスパンレース不織布(目付30g/m2)と細孔が設けられたポリエチレンフィルム(厚み60μm)がドライラミネートによって接着されている積層シートであり、透湿度は、ポリエチレンフィルムの細孔の大きさと数で制御されている。
【表1】
【0061】
また、透湿度が0g/m2・dayである非透湿性シート(厚み159μm)を準備した。非透湿性シートの形状は、図2のAに示す通りである。当該非透湿性シートの一方面に、粘着剤を21g/m2となるように塗布した後に、離型シートを積層させた。
【0062】
また、別途、表2に示す各種鉄粉を準備した。なお、鉄粉Aは、鉄粉(「MR2」、(同和鉄粉工業株式会社製)を目開き180μmのメッシュによって分級し、当該メッシュに残った鉄粉を回収することにより調製した。鉄粉Bは、鉄粉(「MR2」、(同和鉄粉工業株式会社製)を目開き45μmのメッシュによって分級し、当該メッシュを通過した鉄粉を回収することにより調製した。鉄粉Cは、鉄粉(「80AF」、(株式会社神戸製鋼所製)を使用した。鉄粉Dは、鉄粉(「80AF」、(株式会社神戸製鋼所製)を目開き180μmのメッシュによって分級し、当該メッシュに残った鉄粉を回収することにより調製した。なお、見掛密度は、日本工業規格「JIS Z 2504:2012 金属粉-見掛密度測定方法」に規定されている方法によって測定した。
【表2】
【0063】
前記各鉄粉を使用して、表3に示す組成の発熱性組成物を調製し、発熱体として使用した。透湿性シートの不織布側と非透湿性シートに積層させた粘着層が、それぞれ外側になるように配して、調製した発熱体13gを、前記透湿性シートと前記非透湿性シートで挟持させた。その状態で、平面視で図2のBのようになるように両シートの周縁部(幅0.5cm)を熱溶着し、収容部に発熱体が収容されてなる温熱治療用の医療機器を製造した(図2のBにおいて周囲を囲む黒線部が熱融着させた周縁部である)。なお、製造した温熱治療用の医療機器の収容体において、発熱部を収容する部分の面積(平面視した場合に、発熱部が収容されている部分の面積)は57cm2である。
【0064】
【表3】
【0065】
製造した温熱治療用の医療機器は、素早く、ガス非透過性の密封袋に収容して密封した。なお、製造した温熱治療用の医療機器において、透湿性シートと発熱体で使用した鉄粉の組み合わせは、表4に示す通りである。
【0066】
2.全身に対する温熱効果の評価
(1)貼り付け用サンプルの調製
市販の新品の靴下(構成素材:ポリエステル53重量%、ナイロン42重量%、及びポリウレタン5重量%)の足底部位を切り取って、長方形(縦10cm、横8cm)の下布を得た。当該下地の一方の面に、前記で得られた温熱治療用の医療機器の粘着層側を張り合わせた。更に、当該下地の他方の面の両端に2本の両面テープを張り合わせて、貼り付け用サンプルを得た。図4のAに、貼り付け用サンプルを温熱治療用の医療機器側から平面視した図を示し、図4のBに、貼り付け用サンプルを両面テープ側から平面視した図を示す。
【0067】
(3)温熱効果の測定
29歳の男性1名を被験者として、以下の方法で血流量の測定を行った。先ず、測定室内を温度20℃、湿度30%RHに設定し、温度及び湿度が安定するのを確認するため、約1時間部屋を放置した。次いで、靴下と海水パンツのみを着用している被験者を測定室に入室させ、靴下を脱いだ状態にして30分間の馴化後、足(右足のくるぶし部分)、手(右手の甲部分)、及び肩(右肩の背面部分)の血流(貼付前の血流)をドップラー血流計(株式会社インテグラル製「PeriScan」)で測定した(貼付前の血流量)。次いで、図4のAに示す頂点Xの部分が、左足裏の中指の先端から1cm踵よりの部分になるようにして、頂点Xが指側、端辺Yが踵側になるように、両面テープを介して、貼り付け用サンプルを足裏の指裏から付け根の領域に貼り合わせて、60分間その状態を維持した。
【0068】
貼り付け用サンプルを足底部に貼り合わせてから60分間経過した後に、足(右足のくるぶし部分)、手(右手の甲部分)、及び肩(右肩の背面部分)の血流(貼付後の血流)をドップラー血流計で測定した。貼付後の血流の値から貼付前の血流の値を差し引くことにより、使用後の血流の変化量を算出した。
【0069】
また、同じ被験者で、貼り付け用サンプルの貼付部位を左足裏の踵に変更して、同様の方法で血流の測定を行った。なお、貼り付け用サンプルを左足裏の踵に貼り合わせる場合には、図4のAに示す頂点Xが踵の頂点側、端辺Yが足指側に配されるにした。
【0070】
更に、同じ被験者で、貼り付け用サンプルの貼付部位を左肩に変更して、同様の方法で血流の測定を行った。なお、貼り付け用サンプルを左肩に貼り合わせる場合には、図4のAに示す頂点Xが左肩の首側、端辺Yが左腕側に配されるにした。
【0071】
3.結果
結果を表4に示す。還元鉄を含む発熱体と、透湿度が300~1200g/m2・dayである透湿性シートを使用した温熱治療用の医療機器では、足底部に適用すると、手、足、及び肩の全体の血流量の増加が認められ、全身に対して優れた温熱効果を付与できていた(実施例1~4)。とりわけ、透湿度が650~1200g/m2・dayである透湿性シートを使用した温熱治療用の医療機器では、全身に及ぼす温熱効果が卓越していた(実施例1~3)。これに対して、未還元鉄を含む発熱体を使用した場合には、透湿性シートの透湿度にかかわらず、足底部に適用すると、手や足の血流量が増加していなかった(比較例1~5)。また、還元鉄を含む発熱体と、透湿度が300~1200g/m2・dayである透湿性シートを使用した温熱治療用の医療機器でも、肩に適用すると、手の血流量を増大させることはできず、全身に温熱効果を付与することはできなかった。
【0072】
【表4】
【符号の説明】
【0073】
1 収容体
11 収容体において発熱体を収容する収容部
12 収容体において張り合わせ部分を構成する端部(シール部)
図1
図2
図3