(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-05
(45)【発行日】2023-09-13
(54)【発明の名称】培養方法
(51)【国際特許分類】
C12N 1/00 20060101AFI20230906BHJP
C12M 1/00 20060101ALN20230906BHJP
【FI】
C12N1/00 A
C12M1/00 C
(21)【出願番号】P 2019111807
(22)【出願日】2019-06-17
【審査請求日】2022-01-05
(73)【特許権者】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000241500
【氏名又は名称】トヨタ紡織株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000497
【氏名又は名称】弁理士法人グランダム特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】竹内 昌治
(72)【発明者】
【氏名】酒井 香苗
【審査官】林 康子
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-261339(JP,A)
【文献】特開2005-224123(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0147768(US,A1)
【文献】特開2007-111023(JP,A)
【文献】特開2000-197479(JP,A)
【文献】国際公開第2009/034927(WO,A1)
【文献】特開2015-136318(JP,A)
【文献】特開2005-027598(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 1/00
C12M 1/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に、相互に独立した複数のウェルを有する板状のマイクロチャンバーを用いた微生物の培養方法であって、
ゲル化温度が5℃以上20℃以下のアガロースが含有された液体培地と、前記微生物と、を混合して混合物を得る工程と、
前記表面を上にした状態で、前記アガロースの前記ゲル化温度よりも高い温度
である30℃~37℃の前記混合物を前記ウェルに内包する工程と、
前記ウェルに前記混合物が内包された前記マイクロチャンバーを所定温度範囲で保温する工程と、を備え、
前記ウェルの平面形状は、円形であり、
前記円形の径は350μm~650μmであ
り、
前記マイクロチャンバーは、親水化処理されている、培養方法。
【請求項2】
前記マイクロチャンバーは、シリコーン樹脂製であり、O
2
アッシャーによる前記親水化処理がされている、請求項1に記載の培養方法。
【請求項3】
前記液体培地における前記アガロースの濃度は、0.1%(w/v)~3.0%(w/v)である、請求項1又は2に記載の培養方法。
【請求項4】
前記混合物を前記ウェルに内包する際には、ガラス板によって前記混合物のゾルを前記ウェルに押し込み、前記ガラス板を透して前記混合物の内包状態を確認する、請求項1~3のいずれか1項に記載の培養方法。
【請求項5】
前記ガラス板は、ピラニア溶液を用いたピラニア洗浄がなされている、請求項4に記載の培養方法。
【請求項6】
前記ウェルの底面は、フラットとされ、
前記微生物の培養状態を確認する際には、前記マイクロチャンバーの裏面側から、前記底面に存在する前記微生物を観察することで確認する、請求項1~
5のいずれか1項に記載の培養方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、培養方法に関する。
【背景技術】
【0002】
微生物の培養方法として、例えば、以下の方法が知られている(非特許文献1~3参照)。
非特許文献1では、微生物としての放線菌をディープウェルプレートにて培養方法が開示されている。
非特許文献2では、微生物としてのコウジカビをフッ素系オイル内に培地と共に内包して培養する培養方法が開示されている。この培養方法では、Water in oilマイクロドロップレット(油中液滴)が用いられている。
非特許文献3では、小さな穴の形成された板状のデバイスを半透膜で挟み込んだ状態とし、周りの環境中の栄養素を取り込んで培養する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】S.Siebenberg et al.Journal of Bioscience and Bioengineering 2010.109 (3).230-234
【文献】T. Beneyton et al.Scientific Reports 2016. 7.27223
【文献】D.Nichols et al.Applied and Environmental Microbiology 2010. 76(8).2445-2450
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、従来の培養方法は、複数のサンプル(微生物)を培養する場合に、複数のサンプルの各々が独立した状態で培養する方法としては、実際には、必ずしも十分とは言えず、新たな培養方法が切望されていた。
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、複数のサンプルを各々が独立した状態で培養可能な新たな培養方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、新規な微生物の培養方法を開発した。
そして、この方法によれば、従来法による問題点を解決でき、複数のサンプルを各々が独立した状態で培養できるということを見いだした。この成果に基づいて、次の発明を提供する。
【0006】
〔1〕表面に、相互に独立した複数のウェルを有する板状のマイクロチャンバーを用いた微生物の培養方法であって、
ゲル化温度が5℃以上20℃以下のアガロースが含有された液体培地と、前記微生物と、を混合して混合物を得る工程と、
前記表面を上にした状態で、前記アガロースの前記ゲル化温度よりも高い温度の前記混合物を前記ウェルに内包する工程と、
前記ウェルに前記混合物が内包された前記マイクロチャンバーを所定温度範囲で保温する工程と、を備える、培養方法。
【発明の効果】
【0007】
本開示の微生物の培養方法では、相互に独立した複数のウェルを有する板状のマイクロチャンバーを用いる。微生物は、アガロースともに、ウェル内に内包された状態で、培養される。複数のウェルは、相互に独立しているから、各々のウェルに内包された微生物同士は、混ざることなく、独立した状態で培養できる。
また、液体培地には、ゲル化温度が5℃以上20℃以下のアガロースが含有されている。よって、混合物を、微生物が死滅しない温度まで温めてゾルとすることができ、このゾルをウェルに入れることができるから、混合物をウェルに入れ易くなる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】マイクロチャンバーの一例を示す斜視図である。
【
図10】培養時間20時間のウェルの観察像である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
ここで、本開示の望ましい例を示す。
〔2〕前記混合物を前記ウェルに内包する際には、板部材によって前記混合物のゾルを前記ウェルに押し込む、〔1〕に記載の培養方法。
板部材によって混合物のゾルをウェルに押し込むことで、ウェルに混合物を十分に内包することができる。
〔3〕前記ウェルの底面は、フラットとされ、
前記微生物の培養状態を確認する際には、前記マイクロチャンバーの裏面側から、前記底面に存在する前記微生物を観察することで確認する、〔1〕又は〔2〕に記載の培養方法。
表面側から微生物を観察する場合には、微生物を含んだ混合物の表面に凹凸が存在するため、観察しにくい場合がある。本構成では、マイクロチャンバーの裏面側から、フラットな底面に存在する微生物を観察するから、観察が容易である。
【0010】
以下、本開示を詳しく説明する。なお、"x~y"という範囲を示す表記は、特に断りが無い限り、当該範囲にxとyが入るものとする。
【0011】
1.微生物13の培養方法の各用語の説明
本開示の微生物13の培養方法は、表面3Aに、相互に独立した複数のウェル1を有する板状のマイクロチャンバー3を用いる。微生物13の培養方法は、ゲル化温度が5℃以上20℃以下のアガロースが含有された液体培地11と、微生物13と、を混合して混合物15を得る工程と、表面3Aを上にした状態で、混合物15をウェル1に内包する工程と、ウェル1に混合物15が内包されたマイクロチャンバー3を所定温度範囲で保温する工程と、を備える。
【0012】
(1)微生物13
微生物13の種類は、特に限定されない。微生物13としては、例えば、放線菌、大腸菌(Escherichia coli)、及び枯草菌(Bacillus subtilis)等の細菌、カビ及び酵母等の真菌、ラン藻(Cyanobacteria)等の微細藻類、ラビリンチュラ類(Labyrinthulea)等が挙げられる。
【0013】
(2)マイクロチャンバー3
マイクロチャンバー3は、表面3Aに複数の窪みたるウェル1を有する板状部材である。
マイクロチャンバー3の材質は、特に限定されない。材質としては、例えば、シリコーン樹脂が好適に用いられる。シリコーン樹脂としては、特に制限されないが、ポリジメチルシロキサン(PDMS)、ポリメチルフェニルシロキサン、ポリメチルハイドロジェンシロキサン、ポリメチルメトキシシロキサン、ポリメチルビニルシロキサン等が好ましい。これらのシリコーン樹脂は1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。ポリジメチルシロキサン(PDMS)は、透明であり、マイクロチャンバー3の裏面3B側から、ウェル1内の微生物13の培養状態を容易に確認できるから、特に好ましい。
【0014】
マイクロチャンバー3の平面形状及び大きさは、特に限定されない。
マイクロチャンバー3の平面形状は、例えば矩形状、円形等を採用することができる。
マイクロチャンバー3の大きさは、その平面形状が矩形状の場合には、取扱い性及び生産性の観点から、5mm×10mm以上が好ましく、7mm×12mm以上がより好ましく、10mm×15mm以上が更に好ましい。他方、マイクロチャンバー3の大きさは、取扱い性及び生産性の観点から、35mm×40mm以下が好ましく、33mm×38mm以下がより好ましく、25mm×30mm以下が更に好ましい。これらの観点から、マイクロチャンバー3の大きさは、その平面形状が矩形状の場合には、5mm×10mm~35mm×40mmが好ましく、7mm×12mm~33mm×38mmがより好ましく、10mm×15mm~25mm×30mmが更に好ましい。
【0015】
マイクロチャンバー3の厚みt1(
図2参照)は、特に限定されない。
マイクロチャンバー3の厚みt1は、ウェル1の深さ1Cを十分に確保する観点から、350μm以上が好ましく、400μm以上がより好ましく、450μm以上が更に好ましい。他方、マイクロチャンバー3の厚みt1は、取扱い性及び生産性の観点から、650μm以下が好ましく、600μm以下がより好ましく、550μm以下が更に好ましい。これらの観点から、マイクロチャンバー3の厚みt1は、350μm~650μmが好ましく、400μm~600μmより好ましく、450μm~550μmが更に好ましい。
【0016】
マイクロチャンバー3は、ウェル1内に微生物13と液体培地11の混合物15をスムーズに内包できるという観点から、親水化処理されていることが好ましい。親水化処理は、特に限定されないが、例えば、O2アッシャーによる親水化処理が好適に採用される。
【0017】
(3)ウェル1
ウェル1の平面形状及び大きさは、特に限定されない。
ウェル1の平面形状は、例えば円形、矩形等を採用することができる。ウェル1の平面形状は、ウェル1内に混合物15をスムーズに内包できるという観点から、円形が好ましい。
ウェル1の大きさは、その平面形状が円形の場合には、微生物13の培養空間を十分に確保する観点から、径1A(
図2参照)は350μm以上が好ましく、400μm以上がより好ましく、450μm以上が更に好ましい。他方、ウェル1の大きさは、より多くのサンプルを同時に評価するという観点から、径1Aは650μm以下が好ましく、600μm以下がより好ましく、550μm以下が更に好ましい。これらの観点から、ウェル1の大きさは、その平面形状が円形の場合には、径1Aは350μm~650μmが好ましく、400μm~600μmより好ましく、450μm~550μmが更に好ましい。
【0018】
ウェル間距離1B(
図2参照)は、特に限定されない。
ウェル間距離1Bは、各ウェル1内の微生物13をそれぞれ独立した環境で培養する観点から、100μm以上が好ましく、120μm以上がより好ましく、150μm以上が更に好ましい。他方、ウェル間距離1Bは、より多くの微生物13を同時に培養するという観点から、300μm以下が好ましく、280μm以下がより好ましく、250μm以下が更に好ましい。これらの観点から、ウェル間距離1Bは、100μm~300μmが好ましく、120μm~280μmより好ましく、150μm~250μmが更に好ましい。
なお、ウェル間距離1Bは、隣接するウェル1を仕切る壁の厚みに相当する。
【0019】
ウェル1の深さ1C(
図2参照)は、特に限定されない。
ウェル1の深さ1Cは、ウェル1内に微生物13の培養空間を十分に確保する観点から、40μm~160μmが好ましく、60μm~140μmより好ましく、80μm~120μmが更に好ましい。なお、ウェル1の深さ1Cが、一定でない場合には、本明細書では、ウェル1の深さ1Cは、最も深い場所における値を採用する。
【0020】
ウェル1が形成された部分のマイクロチャンバー3の厚みt2(
図2参照)、すなわち、ウェル1の底面1Dから裏面3Bまでの距離は、特に限定されない。マイクロチャンバー3の厚みt2は、マイクロチャンバー3の裏面3B側から、ウェル1内の微生物13の培養状態を観察する場合には、マイクロチャンバー3を透して観察し易いという観点から、600μm以下が好ましく、500μm以下がより好ましい。他方、マイクロチャンバー3の厚みt2は、ウェル1の底面1Dが破れることを防止する観点から、300μm以上が好ましく、350μm以上がより好ましくい。これらの観点から、マイクロチャンバー3の厚みt2は、300μm~600μmが好ましく、350μm~500μmより好ましい。なお、厚みt2が、一定でない場合には、本明細書では、厚みt2は、最も厚い(最も大きい)場所における値を採用する。
ウェル1の底面1Dは、フラット(平坦)であることが望ましい。底面1Dフラットであると、マイクロチャンバー3の裏面3B側から、底面1D付近の微生物13を観察する際に、ピントが合わせやすく、観察し易い。
【0021】
1つのマイクロチャンバー3におけるウェル1の個数は、特に限定されず、マイクロチャンバー3の大きさ等に応じて適宜選択される。
例えば、20mm×25mmの面積当たり、100個~10000個とすることできる。
【0022】
(4)液体培地11
液体培地11には、ゲル化温度(ゲル化点)が5℃以上20℃以下のアガロースが含有されている。このアガロースは、ゲル化温度が低く、低融点アガロースとも呼ばれている。なお、ゲル化温度は、アガロース水溶液が冷却するにつれてゲルを形成する温度を意味する。
液体培地11におけるアガロースの濃度は、特に限定されない。
アガロースの濃度は、蒸発防止の観点から、0.1%(w/v)以上が好ましく、0.5%(w/v)以上がより好ましく、0.7%(w/v)以上が更に好ましい。他方、混合物15の流動性を十分に確保して、混合物15をウェル1へスムーズに内包するという操作性の観点から、3.0%(w/v)以下が好ましく、2.0%(w/v)以下がより好ましく、1.5%(w/v)以下が更に好ましい。これらの観点から、アガロースの濃度は、0.1%(w/v)~3.0%(w/v)が好ましく、0.5%(w/v)~2.0%(w/v)より好ましく、0.7%(w/v)~1.5%(w/v)が更に好ましい。
【0023】
また、液体培地11には、通常、炭素源、窒素源が含まれている。炭素源としては、グルコース、フラクトース、キシロース、サッカロース、マルトース、可溶性デンプン、糖蜜、グリセロール、マンニトール等の一般的に使用されているものが、いずれも使用できるが、これらに限られるものではない。窒素源としては、酵母エキス、麦芽エキス、ペプトン、肉エキス、カザミノ酸、コーンスティープリカー、大豆タンパク、脱脂大豆、綿実カス等の天然窒素源の他に、尿素等の有機窒素源、並びに硝酸ナトリウム、硝酸アンモニウム、硫酸アンモニウム等の無機窒素源を用いることができる。
この他、必要に応じリン酸塩、硫酸マグネシウム、硫酸鉄、硫酸銅等の無機塩及びビタミン等も微量栄養源として使用できる。これらの培地成分は微生物13の生育を害しない濃度であれば特に制限はない。炭素源の含有量は0.1%~10%(w/v)が好ましい。窒素源の含有量は0.1%~5%(w/v)が好ましい。
液体培地11のpHは4~10であることが好ましく、5~9がより好ましい。
【0024】
2.微生物13の培養方法の各工程の説明
(1)混合工程
混合工程では、
図3に例示されるように、液体培地11と微生物13とを混合して混合物15を得る。
液体培地11と微生物13の混合割合は特に限定されない。微生物13の培養状態を観察し易くするという観点から、混合物15の微生物13の濁度(OD)が0.05~0.15になるように混合割合を調整することが好ましく、0.08~0.12になるように混合割合を調整することがより好ましい。
【0025】
本明細書における「濁度」は、微生物13の増殖を培養液(ここでは、微生物13が含有された液体培地11たる混合物15)の濁り具合(培養液中の菌体量)で測定する、最も一般的な簡便で迅速な測定法である。光を培養液に当て、その透過光がどのくらい散乱、及び吸収によって阻まれるかを測定する。微生物13は微粒子であるため、微生物13の量と培養液の濁度とは比例関係にある。濁度は、例えば、以下のようにして測定される。
【0026】
波長660nmの単波長の光を培養液に入射し、透過光を分光光度計により測定する。ここで入射光と透過光の強さを、それぞれI0、I、透過層の厚みをL、吸光度をτとし、次式によって求めた吸光度を培養液の濁度(OD)と定義する。
【0027】
【0028】
(2)内包工程
内包工程では、表面3Aを上にした状態で、アガロースのゲル化温度よりも高い温度の混合物15をウェル1に内包する(
図4参照)。
アガロースのゲル化温度よりも高い温度は、微生物13を死滅させずに、混合物15をゾルにするという観点から、20℃~40℃が好ましく、30℃~37℃がより好ましい。
混合物15をウェル1に内包する際には、ウェル1に混合物15を十分に内包するという観点から、板部材17で混合物15をウェル1に押し込むことが好ましい(
図4(A)(B)参照)。
板部材17としては、特に限定されないが、例えば、ガラス板を採用することができる。ガラス板を用いることで、ガラス板を透して混合物15の内包状態(充填状態)を容易に確認できる。ガラス板は、ピラニア溶液を用いたピラニア洗浄によって、有機物等を除去したものが好ましい。なお、ピラニア溶液は、硫酸と過酸化水素の混合物である。
混合物15をウェル1に内包した後に、混合物15の上面15Aの上に、水16を添加してもよい(
図4(C)(D)参照)。このように水16を添加することで、保温工程における混合物15の乾燥が抑制される。
【0029】
(3)保温工程
保温工程では、ウェル1に混合物15が内包されたマイクロチャンバー3を所定温度範囲で保温する(
図5参照)。
所定温度範囲とは、微生物13の種類に応じて適宜選択され、微生物13の培養に適した温度範囲である。例えば、放線菌の場合には25℃~30℃である。
保温に際しては、例えば、恒温槽19が用いられる(
図5参照)。
なお、所定温度範囲で保温する時間は、特に限定されず、微生物13に応じて適宜変更できる。保温時間は、好ましくは2時間~10日間であり、より好ましくは10時間~7日である。
【0030】
(4)生育状態の確認
本開示の培養方法では、微生物13の生育状態の確認を行ってもよい。例えば、
図6に示すように倒立型顕微鏡のステージ21の上に、マイクロチャンバー3を置いて、マイクロチャンバー3の下側から、すなわち
図6の矢印の方向から観察して、微生物13の生育状態の確認ができる。
【0031】
3.本実施形態の効果
本開示の微生物13の培養方法によれば、相互に独立した複数のウェル1を有する板状のマイクロチャンバー3を用いる。微生物13は、アガロースともに、ウェル内に内包された状態で、培養される。複数のウェル1は、相互に独立しているから、各々のウェル1に内包された微生物13同士は、混ざることなく、独立した状態で培養できる。
【実施例】
【0032】
以下、実施例により更に具体的に説明する。
【0033】
1.マイクロチャンバー3の作製
(1)マイクロチャンバー鋳型の作製
2.5インチのシリコンウエハに、SU8-50(レジスト、日本化薬社製)を1mL載せた。SU8-50中の気泡を除去した後、スピンコーターで回転数1000rpmとすることで、シリコンウエハにSU8-50を塗布した。SU8-50を塗布したシリコンウエハに対して、65℃15分の加熱、95℃40分の加熱、放冷一時間(40℃以下まで冷ます)を順に実施した。その後、SU8-50を塗布したシリコンウエハの上に、マイクロチャンバーをパターニングしたクロムマスク(鋳型)を被せ、マスクアライナーで19秒露光した。そして、65℃2分、95℃15分のポストベイクをした後、SU8 developer とイソプロピルアルコールでシリコンウエハを洗浄し現像することで、高さ100μmのSU8のマイクロチャンバー鋳型を作製した。
【0034】
(2)マイクロチャンバー3の作製
PDMS主剤と硬化剤を10:1で混合し、脱気した溶液5gを、SU8のマイクロチャンバー鋳型に流し込み、1時間真空引きした後、75℃で2時間硬化させた。固まったPDMSからSU8の鋳型を除去することで、PDMS製のマイクロチャンバー3(寸法20mm×25mm)を得た。
ウェル1の平面形状は、円形(径:500μm)とした。ウェル1の深さ1Cは100μmであり、ウェル間距離1Bは200μmであり、ウェル数は500であった。
【0035】
2.微生物13の培養
液体培地11としては、以下の組成のものを用いた。なお、アガロースとして、A2576-Agarose(Ultra-low Gelling Temperature, molecular biology grade、Sigma-Aldrich、gel point≦20℃)を用いた。
微生物13としては、放線菌を用いた。
液体培地11と微生物13を混合して混合物15とした(
図3参照)。この際、混合物15における放線菌(微生物13)の濁度(OD)が0.1になるように、液体培地11と放線菌(微生物13)を混合した。
混合物15は、28℃で保温した。
<培地組成>
酵母エキス:4g
麦芽エキス:10g
グルコース:4g
蒸留水:1L
pH:7.3
アガロース濃度:1%(w/v)
【0036】
PDMS製マイクロチャンバー3をO
2アッシャーで親水化処理した(125W、10sec)。
ウェル1が形成された表面3Aを上にしたマイクロチャンバー3に、ゾル状態の混合物15を載せた。ピラニア洗浄したガラス板(板部材17)をマイクロチャンバー3の表面3Aに押しつけて、混合物15を加圧し、混合物15をウェル1内に内包させた(
図4(A)(B)参照)。
その後、ガラス板(板部材17)を除去し、混合物15の上面15Aの上に、水16(蒸留水)を添加した(
図4(C)(D)参照)。
そして、ウェル1に混合物15が内包されたマイクロチャンバー3を28℃で静置して、放線菌(微生物13)を培養した(
図5参照)。
培養時間が、0時間、20時間、7日のときに、倒立型顕微鏡を用いてマイクロチャンバー3のウェル1に内包された放線菌(微生物13)の生育状態を確認した(
図6参照)。
【0037】
3.評価結果
図7,8に、培養時間0時間のウェル1の観察像を示す。
図9,10に、培養時間20時間のウェル1の観察像を示す。培養時間0時間の観察像と、培養時間20時間の観察像を比較すると、培養時間20時間では、樹状に菌糸が生育していることが分かる。培養時間20時間においても、菌糸は、ウェル1内で成長しており、ウェル1外には侵出していないことが分かる。
図11に、培養時間7日のウェル1の観察像を示す。培養時間7日でも、樹状に菌糸が生育していることが分かった。すなわち、
図11中、丸い破線で囲んだエリアに菌糸の集合体が観察された。このように、培養時間7日においても、菌糸は、ウェル1内で成長しており、ウェル1外には侵出していないことが分かった。よって、本実施例の培養方法では、7日という長期間においても、区画された微小空間内で微生物13を長期間(数日間)、培養できることが確認された。
なお、非特許文献2のWater in oilマイクロドロップレット(油中液滴)法では、菌糸が伸びて32時間後には、マイクロドロップレットを破壊するため、区画された微小空間内で微生物13を長期間(数日間)、培養できない。
また、非特許文献3のIChip法では、区画した微生物13が生産する化合物が半透膜を透過して他の微生物に影響を与えるため、各微生物13を独立した環境で培養できない。この方法で、化合物の漏出を防ぐために、環境中(土壌中等)から取り出してデバイスを使うと、培地が乾燥してしまうため、長期間の培養ができない。
本実施例の培養方法は、非特許文献2のWater in oilマイクロドロップレット(油中液滴)法や、非特許文献3のIChip法の欠点がなく、本実施例の培養方法は、区画された微小空間内で微生物13を独立した状態で長期間(数日間)、培養できる。
【0038】
4.実施例の効果
本実施例の培養方法によれば、微生物13は、アガロースともに、ウェル1内に内包された状態で、培養される。複数のウェル1は、相互に独立しているから、各々のウェル1に内包された微生物13同士は、混ざることなく、独立した状態で培養できる。よって、この培養方法は、Water in oilマイクロドロップレット(油中液滴)法の欠点、すなわち、区画外への微生物13の侵出という欠点がない。また、この培養方法は、IChip法(非特許文献3)の欠点、すなわち、区画外への化合物の侵出という欠点がない。
本実施例の培養方法によれば、寸法20mm×25mmのマイクロチャンバー3で、500ウェルを配置している。本実施例の培養方法では、このように多数のウェル1を有するマイクロチャンバー3を用いるから、従来法よりも多くのサンプルの培養が可能となる。例えば、従来法が96サンプルしか同時に培養できないとすると、本実施例の培養方法によれば、約5倍多くのサンプルを同時に培養可能である。
【0039】
前述の例は単に説明を目的とするものでしかなく、本発明を限定するものと解釈されるものではない。本発明を典型的な実施形態の例を挙げて説明したが、本発明の記述及び図示において使用された文言は、限定的な文言ではなく説明的及び例示的なものであると理解される。ここで詳述したように、その形態において本発明の範囲又は本質から逸脱することなく、添付の特許請求の範囲内で変更が可能である。ここでは、本発明の詳述に特定の構造、材料及び実施例を参照したが、本発明をここにおける開示事項に限定することを意図するものではなく、むしろ、本発明は添付の特許請求の範囲内における、機能的に同等の構造、方法、使用の全てに及ぶものとする。
【0040】
本発明は上記で詳述した実施形態に限定されず、本発明の請求項に示した範囲で様々な変形又は変更が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明の培養方法は、多検体の微生物の培養に有用である。
【符号の説明】
【0042】
1 …ウェル
1A …径
1B …ウェル間距離
1C …深さ
1D …底面
3 …マイクロチャンバー
3A …表面
3B …裏面
11 …液体培地
13 …微生物
15 …混合物
15A…上面
16 …水
17 …板部材
19 …恒温槽
21 …ステージ
t1 …厚み
t2 …厚み