(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-05
(45)【発行日】2023-09-13
(54)【発明の名称】フォトクロミック性接着組成物およびフォトクロミック光学物品
(51)【国際特許分類】
C09J 175/04 20060101AFI20230906BHJP
C09J 11/06 20060101ALI20230906BHJP
G02C 7/10 20060101ALI20230906BHJP
【FI】
C09J175/04
C09J11/06
G02C7/10
(21)【出願番号】P 2019237232
(22)【出願日】2019-12-26
【審査請求日】2022-07-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000003182
【氏名又は名称】株式会社トクヤマ
(72)【発明者】
【氏名】野口 誉夫
(72)【発明者】
【氏名】森 力宏
(72)【発明者】
【氏名】百田 潤二
【審査官】橋本 栄和
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/154901(WO,A1)
【文献】特開2017-19973(JP,A)
【文献】国際公開第2018/003998(WO,A1)
【文献】特表2010-536983(JP,A)
【文献】特開2018-185475(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09J 175/04
C09J 11/06
G02C 7/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)フォトクロミック化合物、(B1)分子内にイソ(チオ)シアネート基を2個以上有するポリイソ(チオ)シアネート化合物、(B2)分子内に水酸基及びチオール基から選ばれる活性水素含有基を2個以上有するポリ(チ)オール化合物、(B3)分子内に水酸基及びチオール基から選ばれる活性水素含有基を1個有するモノ(チ)オール化合物、及び(C)分子量200以下の液状有機化合物を含んでなるフォトクロミック性接着組成物。
【請求項2】
さらに(B4)軸分子と該軸分子を包接する複数の環状分子とからなる複合分子構造を有し、環状分子がイソ(チオ)シアネート基、又は水酸基及びチオール基から選ばれる活性水素含有基を有するポリロタキサンモノマーを含むことを特徴とする請求項1に記載のフォトクロミック性接着組成物。
【請求項3】
(C)分子量200以下の液状有機化合物の配合量が、(B1)分子内にイソ(チオ)シアネート基を2個以上有するポリイソ(チオ)シアネート化合物、(B2)分子内に水酸基及びチオール基から選ばれる活性水素含有基を2個以上有するポリ(チ)オール化合物、(B3)分子内に水酸基及びチオール基から選ばれる活性水素含有基を1個有するモノ(チ)オール化合物、及び(B4)軸分子と該軸分子を包接する複数の環状分子とからなる複合分子構造を有し、環状分子がイソ(チオ)シアネート基、又は水酸基及びチオール基から選ばれる活性水素含有基を有するポリロタキサンモノマーの合計100質量部に対して、0.1~30質量部であることを特徴とする請求項1または請求項2のいずれ一つに記載のフォトクロミック性接着組成物。
【請求項4】
一対の光学物品用プレートを、ウレタン樹脂を含む接着層で接合してなるフォトクロミック光学物品であって、前記ウレタン樹脂を含む接着層が、(A)フォトクロミック化合物、(B1)分子内にイソ(チオ)シアネート基を2個以上有するポリイソ(チオ)シアネート化合物、(B2)分子内に水酸基及びチオール基から選ばれる活性水素含有基を2個以上有するポリ(チ)オール化合物、(B3)分子内に水酸基及びチオール基から選ばれる活性水素含有基を1個有するモノ(チ)オール化合物、及び(C)分子量200以下の液状有機化合物を含むフォトクロミック性接着組成物を硬化して得られる接着層であることを特徴とするフォトクロミック光学物品。
【請求項5】
片方の光学物品用プレートに、(A)フォトクロミック化合物、(B1)分子内にイソ(チオ)シアネート基を2個以上有するポリイソ(チオ)シアネート化合物、(B2)分子内に水酸基及びチオール基から選ばれる活性水素含有基を2個以上有するポリ(チ)オール化合物、(B3)分子内に水酸基及びチオール基から選ばれる活性水素含有基を1個有するモノ(チ)オール化合物、及び(C)分子量200以下の液状有機化合物を含むフォトクロミック性接着組成物を塗布し、前記フォトクロミック性接着組成物を塗布した面上に、他方の光学物品用プレートを重ねて配置した後、前記フォトクロミック性接着組成物を硬化して、一対の光学物品用プレートを接合するフォトクロミック光学物品を製造する方法。
【請求項6】
所定の隙間を有するように配置した一対の光学物品用プレートの隙間に、(A)フォトクロミック化合物、(B1)分子内にイソ(チオ)シアネート基を2個以上有するポリイソ(チオ)シアネート化合物、(B2)分子内に水酸基及びチオール基から選ばれる活性水素含有基を2個以上有するポリ(チ)オール化合物、(B3)分子内に水酸基及びチオール基から選ばれる活性水素含有基を1個有するモノ(チ)オール化合物、及び(C)分子量200以下の液状有機化合物を含むフォトクロミック性接着組成物を注入した後、フォトクロミック性接着組成物を硬化して、一対の光学物品用プレートを接合するフォトクロミック光学物品を製造する方法。
【請求項7】
請求項4または請求項5のいずれか一つに記載のフォトクロミック光学物品を製造する方法において、一対の光学物品用プレート間に塗布あるいは注入したフォトクロミック性接着組成物が、密閉されていないことを特徴とするフォトクロミック光学物品を製造する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フォトクロミック性接着組成物および該組成物を硬化して得られる接着層を介して一対の光学物品用プレートを接合したフォトクロミック光学物品及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、米国を中心として、防眩性を有するサングラスにフォトクロミック特性を付与したフォトクロミックサングラスが急速に人気を得ている。このフォトクロミックサングラスは、周囲の明るさ(紫外線量)に応じてレンズの透過率が変化するため、防眩性を調節することができる。
【0003】
このようなフォトクロミックサングラスの製造方法としては、例えば、重合性組成物中にフォトクロミック化合物を配合したフォトクロミック重合性組成物をレンズ形状に成型する方法;フォトクロミック重合性組成物を接着剤として使用し、一対のレンズを接合する方法;等が知られている(例えば、特許文献1~4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2014/136804号
【文献】特開2007-138186号公報
【文献】特開2012-052091号公報
【文献】特開平01-033154号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、フォトクロミック重合性組成物をレンズ形状に成型する製造方法では、得られる発色濃度や退色速度といったフォトクロミック特性の耐久性が十分ではなく、長時間太陽光に暴露されるような環境下で使用するとフォトクロミック特性が劣化しやすかった。
【0006】
一方、フォトクロミック重合性組成物を接着剤として使用し、一対のレンズを接合する製造方法は、フォトクロミック重合性組成物をレンズ形状に成型する製造方法に比べて、フォトクロミック特性の耐久性を改善し得るが、一対のレンズの接合強度や接着層の耐久性に課題があった。
【0007】
そこで本発明者らは、フォトクロミック化合物を含む特定の組成を有する接着剤組成物を用いて一対の光学物品を接合したフォトクロミック光学物品により、一対の光学物品の接合強度や接着層の耐久性が十分であり、フォトクロミック特性の耐久性が改善されたフォトクロミック光学物品を提案している(国際出願PCT/JP2019/015319)。
【0008】
しかしながら、この方法でも、近年要求される更なる高度なフォトクロミック特性の向上という点で改善の余地があった。
【0009】
本発明は、このような従来の状況に鑑みてなされたものであり、一対の光学物品用プレート間の密着性に優れ、且つ、優れたフォトクロミック特性を発揮させることができるフォトクロミック性接着組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するため、フォトクロミック性接着組成物の組成について鋭意検討した。その結果、フォトクロミック性接着組成物として特定のモノマーと特定の化合物とを使用した場合に、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明のフォトクロミック性接着組成物は、(A)フォトクロミック化合物、(B1)分子内にイソ(チオ)シアネート基を2個以上有するポリイソ(チオ)シアネート化合物、(B2)分子内に水酸基及びチオール基から選ばれる活性水素含有基を2個以上有するポリ(チ)オール化合物、(B3)分子内に水酸基及びチオール基から選ばれる活性水素含有基を1個有するモノ(チ)オール化合物、及び(C)分子量200以下の液状有機化合物を含むものである。
【0012】
また、本発明のフォトクロミック光学物品は、一対の光学物品用プレートを、ウレタン樹脂を含む接着層で接合してなるフォトクロミック光学物品であって、前記ウレタン樹脂を含む接着層が、(A)フォトクロミック化合物、(B1)分子内にイソ(チオ)シアネート基を2個以上有するポリイソ(チオ)シアネート化合物、(B2)分子内に水酸基及びチオール基から選ばれる活性水素含有基を2個以上有するポリ(チ)オール化合物、(B3)分子内に水酸基及びチオール基から選ばれる活性水素含有基を1個有するモノ(チ)オール化合物、及び(C)分子量200以下の液状有機化合物を含むフォトクロミック性接着組成物を硬化して得られる接着層であることを特徴とするものである。
【0013】
さらに、本発明のフォトクロミック光学物品の製造方法は、片方の光学物品用プレートに、(A)フォトクロミック化合物、(B1)分子内にイソ(チオ)シアネート基を2個以上有するポリイソ(チオ)シアネート化合物、(B2)分子内に水酸基及びチオール基から選ばれる活性水素含有基を2個以上有するポリ(チ)オール化合物、(B3)分子内に水酸基及びチオール基から選ばれる活性水素含有基を1個有するモノ(チ)オール化合物、及び(C)分子量200以下の液状有機化合物を含むフォトクロミック性接着組成物を塗布し、前記フォトクロミック性接着組成物を塗布した面上に、他方の光学物品用プレートを重ねて配置した後、前記フォトクロミック性接着組成物を硬化して、一対の光学物品用プレートを接合することによりフォトクロミック光学物品を製造するものである。
【0014】
また、本発明のフォトクロミック光学物品の製造方法は、所定の隙間を有するように配置した一対の光学物品用プレートの隙間に、(A)フォトクロミック化合物、(B1)分子内にイソ(チオ)シアネート基を2個以上有するポリイソ(チオ)シアネート化合物、(B2)分子内に水酸基及びチオール基から選ばれる活性水素含有基を2個以上有するポリ(チ)オール化合物、(B3)分子内に水酸基及びチオール基から選ばれる活性水素含有基を1個有するモノ(チ)オール化合物、及び(C)分子量200以下の液状有機化合物を含むフォトクロミック性接着組成物を注入した後、フォトクロミック性接着組成物を硬化して、一対の光学物品用プレートを接合することによりフォトクロミック光学物品を製造するものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、一対の光学物品用プレート間の密着性に優れ、且つ、優れたフォトクロミック特性を発揮できるフォトクロミック光学物品、及びその製造方法を提供することができる。特に、フォトクロミック性接着組成物として(C)分子量200以下の液状有機化合物を含むことで、フォトクロミック性をより一層向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本実施形態に係るフォトクロミック光学物品の一態様を示す断面図である。
【
図2】ポリロタキサンモノマーの分子構造を示す概略図である。
【
図3】実施例における配合量、発色濃度、退色速度を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
<フォトクロミック性接着組成物>
本発明のフォトクロミック性接着組成物は、前記したとおり、
(A)フォトクロミック化合物(以下、「(A)成分」ともいう。)、
(B1)分子内にイソ(チオ)シアネート基を2個以上有するポリイソ(チオ)シアネート化合物(以下、「(B1)成分」又は「(B1)ポリイソ(チオ)シアネート化合物」ともいう。)、
(B2)分子内に水酸基及びチオール基から選ばれる活性水素含有基を2個以上有するポリ(チ)オール化合物(以下、「(B2)成分」又は「(B2)ポリ(チ)オール化合物」ともいう。)
(B3)分子内に水酸基及びチオール基から選ばれる活性水素含有基を1個有するモノ(チ)オール化合物(以下、単に「(B3)成分」又は「(B3)モノ(チ)オール化合物」ともいう。)
必要に応じて配合される(B4)軸分子と該軸分子を包接する複数の環状分子とからなる複合分子構造を有し、環状分子がイソ(チオ)シアネート基、又は水酸基及びチオール基から選ばれる活性水素含有基を有するポリロタキサンモノマー(以下、「(B4)成分」又は「(B4)ポリロタキサンモノマー」ともいう。)、及び
(以下、「(B1)成分」、「(B2)成分」、「(B3)成分」および必要に応じて配合される「(B4)成分」を総称して「(B)成分」ともいう。)
C)分子量200以下の液状有機化合物(以下、「(C)成分」ともいう。)
を含む組成物である。
【0018】
本明細書において、「イソ(チオ)シアネート基」とは、「イソシアネート基」及び「イソチオシアネート基」の両者を意味する。
【0019】
「分子内にイソ(チオ)シアネート基を2個以上有する」とは、「分子内にイソシアネート基を2個以上有すること」、「分子内にイソチオシアネート基を2個以上有すること」、又は「分子内にイソシアネート基及びイソチオシアネート基を有し、それらの基の合計が2個以上であること」を意味する。
【0020】
また、「分子内に水酸基及びチオール基から選ばれる活性水素含有基を2個以上有する」とは、「分子内に水酸基を2個以上有すること」、「分子内にチオール基を2個以上有すること」、又は「分子内に水酸基及びチオール基を有し、それらの基の合計が2個以上であること」を意味する。
【0021】
「(チ)オール」とは、「オール(OH)」及び「チオール(SH)」の両者を意味する。
【0022】
以下、各成分について説明する。
[(A)フォトクロミック化合物]
(A)フォトクロミック化合物としては、例えば、フルギド化合物、クロメン化合物、スピロオキサジン化合物等が知られており、本発明においては、これらのフォトクロミック化合物を何ら制限なく使用できる。これらは、1種類を単独で使用してもよく、2種類以上を併用してもよい。フルギド化合物、クロメン化合物、及びスピロオキサジン化合物としては、例えば、特開平2-28154号公報、特開昭62-288830号公報、国際公開第94/22850号、国際公開第96/14596号等に記載されている化合物が挙げられる。
【0023】
その中でも、優れたフォトクロミック作用を示す化合物として、例えば、特開2001-114775号公報、特開2001-031670号公報、特開2001-011067号公報、特開2001-011066号公報、特開2000-347346号公報、特開2000-344762号公報、特開2000-344761号公報、特開2000-327676号公報、特開2000-327675号公報、特開2000-256347号公報、特開2000-229976号公報、特開2000-229975号公報、特開2000-229974号公報、特開2000-229973号公報、特開2000-229972号公報、特開2000-219687号公報、特開2000-219686号公報、特開2000-219685号公報、特開平11-322739号公報、特開平11-286484号公報、特開平11-279171号公報、特開平10-298176号公報、特開平09-218301号公報、特開平09-124645号公報、特開平08-295690号公報、特開平08-176139号公報、特開平08-157467号公報、米国特許第5645767号明細書、米国特許第5658501号明細書、米国特許第5961892号明細書、米国特許第6296785号明細書、特許第4424981号公報、特許第4424962号公報、国際公開第2009/136668号、国際公開第2008/023828号、特許第4369754号公報、特許第4301621号公報、特許第4256985号公報、国際公開第2007/086532号、特開2009-120536号公報、特開2009-67754号公報、特開2009-67680号公報、特開2009-57300号公報、特許第4195615号公報、特許第4158881号公報、特許第4157245号公報、特許第4157239号公報、特許第4157227号公報、特許第4118458号公報、特開2008-74832号公報、特許第3982770号公報、特許第3801386号公報、国際公開第2005/028465号、国際公開第2003/042203号、特開2005-289812号公報、特開2005-289870号公報、特開2005-112772号公報、特許第3522189号公報、国際公開第2002/090342号、特許第3471073号公報、特開2003-277381号公報、国際公開第2001/060811号、国際公開第2000/071544号、国際公開第2005/028465号、国際公開第2011/16582号、国際公開第2011/034202号、国際公開第2012/121414号、国際公開第2013/042800号、特許第6031035号公報等に開示されているクロメン化合物が好適に用いられる。
【0024】
これらのクロメン化合物の中でも、発色濃度、初期着色、耐久性、退色速度等のフォトクロミック特性の観点から、インデノ〔2,1-f〕ナフト〔1,2-b〕ピラン骨格を有するクロメン化合物を1種類以上用いることが好ましい。これらのクロメン化合物の中でも、分子量540以上の化合物は、発色濃度及び退色速度に特に優れるため好適である。
【0025】
以下に、本発明において特に好適に使用される分子量が540以上のインデノ〔2,1-f〕ナフト〔1,2-b〕ピラン骨格を有するクロメン化合物の例を示す。
【0026】
【0027】
【0028】
【0029】
【0030】
また、(A)成分としては、分子量300以上の長鎖の基、特にポリシロキサン鎖、ポリオキシアルキレン鎖、ポリエステル鎖、ポリエステルポリエーテル鎖等の分子鎖を置換基として有するクロメン化合物の中から、任意のものを適宜選択して使用することもできる。分子量300以上の分子鎖は高分子量であるため、クロメン化合物を製造する際に、1種類の分子鎖ではなく、複数種類の分子鎖を有するものとなる場合がある。その場合、該分子鎖の分子量は、複数種類のものの平均値(数平均分子量)が上記の規定の範囲となればよい。この分子量は、クロメン化合物の製造時の原料の種類により確認することもでき、NMR、IR、質量分析等の公知の手段により製造物から確認することもできる。
【0031】
クロメン化合物が分子量300以上の分子鎖を有することにより、ウレタン樹脂を含む接着層中においても高度なフォトクロミック特性を発揮できると考えられる。該分子鎖の分子量は、フォトクロミック特性、クロメン化合物の配合量、及びクロメン化合物自体の生産性を考慮すると、300~25000であることが好ましく、400~20000であることがより好ましく、440~15000であることがさらに好ましく、500~10000であることが特に好ましい。
【0032】
クロメン化合物が分子量300以上の分子鎖を有する場合、該分子鎖の数は、クロメン化合物1分子に対して0.5個以上となることが好ましい。すなわち、該分子鎖の数が最も少なくなる場合であっても、2つのクロメン化合物を該分子鎖で結合するような構造となることが好ましい。該分子鎖の数の上限は、分子鎖の分子量との兼ね合い、フォトクロミック特性等を考慮すると、4個以下が好ましく、2個以下がより好ましく、1個であることがさらに好ましい。
【0033】
また、クロメン化合物は、フォトクロミック特性を発揮する分子構造が、光の照射によって分子の一部が開裂して発色し、開裂した箇所が再結合することにより退色するものが好ましい。したがって、クロメン化合物が可逆的に発色及び退色を繰り返すためには、開裂及び再結合が起こる際に分子の動きを妨げない自由空間が存在すること(分子の自由度)が重要となる。このような分子構造を有する化合物の場合、特に、該分子鎖の効果が発揮されるものと考えられる。
【0034】
分子量300以上の分子鎖を有するクロメン化合物としては、例えば、国際公開第2000/015630号、国際公開第2004/041961号、国際公開第2005/105874号、国際公開第2005/105875号、国際公開第2006/022825号、国際公開第2009/146509号、国際公開第2010/20770号、国際公開第2012/121414号、国際公開第2012/149599号、国際公開第2012/162725号、国際公開第2012/176918号、国際公開第2013/078086号、国際公開第2019/013249号、特願2018-079303号、特願2018-136374号等に記載される化合物が挙げられる。
【0035】
以下に分子量300以上の分子鎖を有するクロメン化合物の例を示す。
【0036】
【0037】
(A)成分の配合割合は、目的に応じて適宜設定すればよく、(B)成分100質量部に対して、0.01~10質量部とすることが好ましく、0.05~5質量部とすることがより好ましく、0.1~3質量部とすることがさらに好ましい。
【0038】
[(B1)ポリイソ(チオ)シアネート化合物]
((B1)成分;ポリイソシアネート化合物)
ポリイソ(チオ)シアネート化合物のうちポリイソシアネート化合物としては、脂肪族イソシアネート化合物、脂環族イソシアネート化合物、芳香族イソシアネート化合物、含硫黄脂肪族イソシアネート化合物、脂肪族スルフィド系イソシアネート化合物、芳香族スルフィド系イソシアネート化合物、脂肪族スルホン系イソシアネート化合物、芳香族スルホン系イソシアネート化合物、スルホン酸エステル系イソシアネート化合物、芳香族スルホン酸アミド系イソシアネート化合物、含硫黄複素環イソシアネート化合物等が挙げられる。
【0039】
これらの中でも、一対の光学物品用プレート間の密着性が高く、透明性及び機械強度に優れたフォトクロミック光学物品を形成するのに好適な化合物としては、下記式(I)~(VI)で表される化合物が挙げられる。
【0040】
((B1)成分;下記式(I)(アルキレン基を有するポリイソシアネート化合物))
【0041】
【0042】
(式中、R100は、炭素数1~10のアルキレン基を示し、アルキレン基の鎖中の炭素原子の一部が硫黄原子に置換されていてもよい。)
R100としてのアルキレン基は、直鎖状であっても分岐鎖状であってもよい。アルキレン基の中でも、ペンタメチレン基、ヘキサメチレン基、ヘプタメチレン基、又はオクタメチレン基である直鎖状の基;ペンタメチレン基、ヘキサメチレン基、ヘプタメチレン基、又はオクタメチレン基の水素原子の一部がメチル基に置換された分岐鎖状の基;が好ましい。また、炭素原子の一部が硫黄原子に置換されたアルキレン基としては、-CH2CH2SCH2CH2SCH2CH2-が好ましい。
【0043】
上記式(I)で表される化合物の具体例としては、ペンタメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、ヘプタメチレンジイソシアネート、オクタメチレンジイソシアネート、2,4,4-トリメチルヘキサンメチレンジイソシアネート、1,2-ビス(2-イソシアナ-トエチルチオ)エタン等が挙げられる。これらの化合物は、1種類を単独で使用してもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0044】
((B1)成分;下記式(II)(ベンゼン環を有するポリイソシアネート化合物)又は下記式(III)(シクロヘキサン環を有するポリイソシアネート化合物))
【0045】
【0046】
【0047】
(式中、R101は、それぞれ独立に、水素原子又は炭素数1~4のアルキル基を示す。R102は、炭素数1~4のアルキル基を示し、複数の基が存在する場合には、それぞれ同一であっても異なっていてもよい。a100は、2又は3を示し、b100は、0~4の整数を示し、c100は、0~4の整数を示す。)
上記式(II)で表される化合物と上記式(III)で表される化合物とは、前者がベンゼン環を有する化合物であるのに対し、後者はシクロヘキサン環を有する化合物である点で異なる。
【0048】
R101としてのアルキル基は、直鎖状であっても分岐鎖状であってもよい。中でも、R101は、水素原子、メチル基、又はエチル基であることが好ましい。
【0049】
R102としてのアルキル基は、直鎖状であっても分岐鎖状であってもよい。中でも、R102は、水素原子、メチル基、又はエチル基であることが好ましい。
【0050】
上記式(II)又は上記式(III)で表される化合物の具体例としては、イソホロンジイソシアネート、キシレンジイソシアネート(o-,m-,p-)、2,4-トリレンジイソシアネート、2,6-トリレンジイソシアネート、1,4-ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン、1,3-ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン(異性体混合物)等が挙げられる。これらの化合物は、1種類を単独で使用してもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0051】
((B1)成分;下記式(IV)(2個のベンゼン環を有するポリイソシアネート化合物)又は下記式(V)(2個のシクロヘキサン環を有するポリイソシアネート化合物))
【0052】
【0053】
【0054】
(式中、R103は、それぞれ独立に、水素原子又は炭素数1~4のアルキル基を示す。d100は、0~4の整数を示す。)
上記式(IV)で表される化合物と上記式(V)で表される化合物とは、前者が2個のベンゼン環を有する化合物であるのに対し、後者は2個のシクロヘキサン環を有する化合物である点で異なる。
【0055】
R103としてのアルキル基は、直鎖状であっても分岐鎖状であってもよい。中でも、R103は、水素原子、メチル基、又はエチル基であることが好ましい。
【0056】
上記式(IV)又は上記式(V)で表される化合物の具体例としては、4,4'-ジフェニルメタンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタン-4,4'-ジイソシアネート等が挙げられる。これらの化合物は、1種類を単独で使用してもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0057】
((B1)成分;下記式(VI)(ノルボルナン環を有するポリイソシアネート化合物))
【0058】
【0059】
(式中、R104は、それぞれ独立に、水素原子又は炭素数1~4のアルキル基を示す。e100は、0~4の整数を示す。)
R104としてのアルキル基は、直鎖状であっても分岐鎖状であってもよい。中でも、R104は、水素原子、メチル基、又はエチル基であることが好ましい。
【0060】
上記式(VI)で表される化合物の具体例としては、ノルボルナンジイソシアネート、2,5-ビス(イソシアネートメチル)-ビシクロ〔2,2,1〕-ヘプタン、2,6-ビス(イソシアネートメチル)-ビシクロ〔2,2,1〕-ヘプタン等が挙げられる。これらの化合物は、1種類を単独で使用してもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0061】
また、上記ポリイソシアネートのハロゲン置換体、アルキル置換体、アルコキシ置換体、又はニトロ置換体や、多価アルコールとのプレポリマー型変性体、カルボジイミド変性体、ウレア変性体、ビウレット変性体、ダイマー化又はトリマー化反応生成物等も使用できる。
【0062】
((B1)成分;ポリイソチオシアネート化合物)
ポリイソ(チオ)シアネート化合物のうちポリイソチオシアネート化合物としては、上記式(I)~(VI)で表されるポリイソシアネート化合物において、イソシアネート基をイソチオシアネート基に置き換えた化合物が挙げられる。より具体的には、脂肪族イソチオシアネート化合物、脂環族イソチオシアネート化合物、芳香族イソチオシアネート化合物、含複素環イソチオシアネート化合物、含硫黄脂肪族イソチオシアネート化合物、含硫黄芳香族イソチオシアネート化合物、含硫黄複素環イソチオシアネート化合物等が挙げられる。
【0063】
脂肪族イソチオシアネート化合物としては、1,2-ジイソチオシアネートエタン、1,3-ジイソチオシアネートプロパン、1,4-ジイソチオシアネートブタン、1,6-ジイソチオシアネートヘキサン、p-フェニレンジイソプロピリデンジイソチオシアネート等が挙げられる。
【0064】
脂環族イソチオシアネート化合物としては、シクロヘキシルイソチオシアネート、シクロヘキサンジイソチオシアネート、2,4-ビス(イソチオシアナトメチル)ノルボルナン、2,5-ビス(イソチオシアナトメチル)ノルボルナン、3,4-ビス(イソチオシアナトメチル)ノルボルナン、3,5-ビス(イソチオシアナトメチル)ノルボルナン等が挙げられる。
【0065】
芳香族イソチオシアネート化合物としては、フェニルイソチオシアネート、1,2-ジイソチオシアネートベンゼン、1,3-ジイソチオシアネートベンゼン、1,4-ジイソチオシアネートベンゼン、2,4-ジイソチオシアネートトルエン、2,5-ジイソチオシアネートm-キシレン、4,4’-ジイソチオシアネート1,1’-ビフェニル、1,1’-メチレンビス(4-イソチオシアネートベンゼン)、1,1’-メチレンビス(4-イソチオシアネート2-メチルベンゼン)、1,1’-メチレンビス(4-イソチオシアネート3-メチルベンゼン)、1,1’-(1,2-エタンジイル)ビス(4-イソチオシアネートベンゼン)、4,4’-ジイソチオシアネートベンゾフェノン、4,4’-ジイソチオシアネート3,3’-ジメチルベンゾフェノン、ベンズアニリド-3,4’-ジイソチオシアネート、ジフェニルエーテル-4,4’-ジイソチオシアネート、ジフェニルアミン-4,4’-ジイソチオシアネート等が挙げられる。
【0066】
含複素環イソチオシアネート化合物としては、2,4,6-トリイソチオシアネート1,3,5-トリアジン等が挙げられる。
【0067】
カルボニルイソチオシアネート化合物としては、ヘキサンジオイルジイソチオシアネート、ノナンジオイルジイソチオシアネート、カルボニックジイソチオシアネート、1,3-ベンゼンジカルボニルジイソチオシアネート、1,4-ベンゼンジカルボニルジイソチオシアネート、(2,2’-ビピリジン)-4,4’-ジカルボニルジイソチオシアネート等が挙げられる。
【0068】
さらに、イソチオシアネート基の硫黄原子の他に、少なくとも1個の硫黄原子を有する多官能イソチオシアネート化合物も使用することができる。このような多官能イソチオシアネート化合物としては、含硫脂肪族イソチオシアネート化合物、含硫芳香族イソチオシアネート化合物、含硫複素環イソチオシアネート化合物等が挙げられる。
【0069】
含硫脂肪族イソチオシアネート化合物としては、チオビス(3-イソチオシアネートプロパン)、チオビス(2-イソチオシアネートエタン)、ジチオビス(2-イソチオシアネートエタン)等が挙げられる。
【0070】
含硫芳香族イソチオシアネート化合物としては、1-イソチオシアネート4-{(2-イソチオシアネート)スルホニル}ベンゼン、チオビス(4-イソチオシアネートベンゼン)、スルホニルビス(4-イソチオシアネートベンゼン)、スルフィニルビス(4-イソチオシアネートベンゼン)、ジチオビス(4-イソチオシアネートベンゼン)、4-イソチオシアネート1-{(4-イソチオシアネートフェニル)スルホニル}-2-メトキシ-ベンゼン、4-メチル-3-イソチオシアネートベンゼンスルホニル-4’-イソチオシアネートフェニルエステル、4-メチル-3-イソチオシアネートベンゼンスルホニルアニリド-3’-メチル-4’-イソチオシアネート等が挙げられる。
【0071】
含硫複素環イソチオシアネート化合物としては、チオフェン-2,5-ジイソチオシアネート、1,4-ジチアン-2,5-ジイソチオシアネート等が挙げられる。
【0072】
((B1)成分;イソシアネート基及びイソチオシアネート基を有する化合物)
ポリイソ(チオ)シアネート化合物のうち、イソシアネート基及びイソチオシアネート基の両方の基を有する化合物としては、例えば、上記具体例のポリイソシアネート化合物において、少なくとも1つのイソシアネート基をイソチオシアネート基に置き換えた化合物や、上記具体例のポリイソチオシアネート化合物において、少なくとも1つのイソチオシアネート基をイソシアネート基に置き換えた化合物が挙げられる。
【0073】
((B1)成分の好ましい例)
(B1)ポリイソ(チオ)シアネート化合物の中でも、ウレタン樹脂を含む接着層の均一性を考慮すると、分子内のイソ(チオ)シアネート基の数が2~6個の化合物が好ましく、2~4個の化合物がより好ましく、2個の化合物がさら好ましい。具体例としては、ペンタメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、ヘプタメチレンジイソシアネート、オクタメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ノルボルナンジイソシアネート、2,5-ビス(イソシアネートメチル)-ビシクロ〔2,2,1〕-ヘプタン、2,6-ビス(イソシアネートメチル)-ビシクロ〔2,2,1〕-ヘプタン、1,2-ビス(2-イソシアナ-トエチルチオ)エタン、キシレンジイソシアネート(o-,m-,p-)、2,4-トリレンジイソシアネート、2,6-トリレンジイソシアネート、1,3-ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン(異性体混合物)、4,4'-ジフェニルメタンジイソシアネート等が挙げられる。これらの中でも、ウレタン樹脂を含む接着層の耐侯性等の耐久性及びフォトクロミック特性、並びにウレタン樹脂を含む接着層を形成する際の操作性の観点から、イソホロンジイソシアネート、ノルボルナンジイソシアネート、及び1,3-ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン(異性体混合物)が特に好ましい。これらの化合物は、1種類を単独で使用してもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0074】
[(B2)ポリ(チ)オール化合物]
本発明のフォトクロミック性接着組成物は、(B2)ポリ(チ)オール化合物を原料とする。ポリ(チ)オール化合物のうちポリオール化合物としては、2~6個の水酸基を有する脂肪族ポリオール化合物、芳香族ポリオール化合物等が挙げられる。ポリ(チ)オール化合物の中でも、透明性及び機械強度に優れたフォトクロミック光学物品を形成するのに好適な化合物としては、下記式(VII)~(IX)、(XI)~(XIII)、(XV)~(XIX)で表される化合物が挙げられる。
【0075】
((B2)成分;下記式(VII)(アルキレン基等を有するポリ(チ)オール化合物))
【0076】
【0077】
(式中、B100は、炭素数2~30のアルキレン基又はアルケニル基を示す。R105は、それぞれ独立に、水酸基又はチオール基を示す。)
B100としてのアルキレン基又はアルケニル基は、直鎖状であっても分岐鎖状であってもよい。中でも、B100は、炭素数2~15の直鎖状のアルキレン基であることが好ましい。
【0078】
上記式(VII)で表される化合物の具体例としては、ポリエチレンポリオール(炭素数2~15)、1,10-デカンジチオール、1,8-オクタンジチオール等が挙げられる。これらの化合物は、1種類を単独で使用してもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0079】
((B2)成分;下記式(VIII)(2個以上のエーテル結合を有するポリ(チ)オール化合物)又は下記式(IX)(エステル結合を有するポリ(チ)オール化合物))
【0080】
【0081】
【0082】
[式中、D100は、炭素数2~15のアルキレン基又はアルケニル基を示す。R106は、それぞれ独立に、水素原子又は下記式(X):
【0083】
【0084】
(式中、R107は、炭素数1~6のアルキレン基を示す。)
で表される基を示す。I100は平均値であって、1~100の数を示す。]
D100としてのアルキレン基又はアルケニル基は、直鎖状であっても分岐鎖状であってもよい。中でも、D100は、炭素数2~6の直鎖状のアルキレン基であることが好ましい。
【0085】
R107としてのアルキレン基は、直鎖状であっても分岐鎖状であってもよい。中でも、R107は、メチレン基、エチレン基、トリメチレン基、又はプロピレン基であることが好ましい。
【0086】
上記式(VIII)又は上記式(IX)で表される化合物の具体例としては、ポリエチレングリコール(I100=1~100)、ポリカプロラクトンポリオール(I100=1~100)、テトラエチレングリコールビス(3-メルカプトプロピオネート)、1,4-ブタンジオールビス(3-メルカプトプロピオネート)、1,6-ヘキサンジオールビス(3-メルカプトプロピオネート)等が挙げられる。これらの化合物は、1種類を単独で使用してもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0087】
((B2)成分;下記式(XI)(カーボネートポリオール化合物))
【0088】
【0089】
(式中、E100及びE100’は、それぞれ独立に、炭素数2~15のアルキレン基を示す。g100は平均値であって、1~20の数を示す。)
E100及びE100’としてのアルキレン基は、直鎖状であっても分岐鎖状であってもよい。中でも、E100及びE100’は、トリメチレン基、テトラメチレン基、ペンタメチレン基、ヘキサメチレン基、オクタメチレン基、ノナメチレン基、ドデカメチレン基、ペンタデカメチレン基、1-メチルトリエチレン基、1-エチルトリエチレン基、又は1-イソプロピルトリエチレン基であることが好ましい。
【0090】
上記式(XI)で表される化合物の具体例としては、ポリカーボネートポリオール(E100及びE100’がそれぞれペンタメチレン基及びヘキサメチレン基、g100=4~10)等が挙げられる。これらの化合物は、1種類を単独で使用してもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0091】
((B2)成分;下記式(XII)(多官能ポリオール化合物))
【0092】
【0093】
(式中、R108は、炭素数1~6のアルキル基を示し、複数の基が存在する場合には、それぞれ同一であっても異なっていてもよい。R109は、それぞれ独立に、水素原子又は上記式(X)で表される基を示す。R110は、それぞれ独立に、水素原子、メチル基、又はエチルを示す。o100は、0~2の整数を示し、q100は、2~4の整数を示し、o100+q100=4である。p100は、0~10の整数を示し、r100は、1~6の整数を示す。)
R108としてのアルキル基は、直鎖状であっても分岐鎖状であってもよい。中でも、R108は、メチル基、エチル基、トリメチル基、又はプロピル基であることが好ましい。
【0094】
上記式(XII)で表される化合物の具体例としては、ジトリメチロールプロパン、トリメチロールプロパントリポリオキシエチレンエーテル(例えば、日本乳化剤株式会社製TMP-30)、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、トリメチロールプロパントリス(3-メルカプトプロピオネート)、ペンタエリスリトールテトラキス(3-メルカプトプロピオネート)、トリメチロールプロパントリス(3-メルカプトブチレート)、トリメチロールプロパントリメルカプトアセタート等が挙げられる。これらの化合物は、1種類を単独で使用してもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0095】
((B2)成分;下記式(XIII)(エーテル結合を有するポリオール化合物))
【0096】
【0097】
[式中、F100は、それぞれ独立に、炭素数1~6のアルキル基、又は下記式(XIV):
【0098】
【0099】
(式中、R111は、水素原子又は上記式(X)で表される基を示す。R112は、それぞれ独立に、水素原子、メチル基、又はエチル基を示す。s100は、0~10の整数を示し、t100は、1~6の整数を示す。)
で表される基を示す。ただし、少なくとも2個のF100は、上記式(XIV)で表される基である。]
F100は、その少なくとも2個が上記式(XIV)で表される基である。それ以外の基としては、炭素数1~6のアルキル基が挙げられる。F100としてのアルキル基は、直鎖状であっても分岐鎖状であってもよい。中でも、F100は、メチル基、エチル基、トリメチル基、又はプロピル基であることが好ましい。
【0100】
上記式(XIII)で表される化合物の具体例としては、ジトリメチロールプロパン、ジペンタエリスリト-ルヘキサキス(3-メルカプトプロピオネート)等が挙げられる。これらの化合物は、1種類を単独で使用してもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0101】
((B2)成分;下記式(XV)(2個の水酸基を有するポリオール化合物))
【0102】
【0103】
(式中、R113は、炭素数1~30のアルキル基又はアルケニル基を示す。)
R113としてのアルキル基又はアルケニル基は、直鎖状であっても分岐鎖状であってもよい。上記式(XV)で表される化合物は、脂肪酸とグリセリンとの縮合反応から得ることができるため、R113としては、脂肪酸のアルキル部位又はアルケニル部位が挙げられる。脂肪酸としては、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、ペンタデシル酸、パルミチン酸、マルガリン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、アラキジン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸等が挙げられる。
【0104】
上記式(XV)で表される化合物の具体例としては、モノオレイン酸グリセリル(例えば、東京化成工業株式会社製モノオレイン)、モノエライジン、モノリノール酸グリセリル、モノベヘン酸グリセリル等が挙げられる。これらの化合物は、1種類を単独で使用してもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0105】
((B2)成分;下記式(XVI)(多官能ポリチオール化合物))
【0106】
【0107】
(式中、R114は、水素原子、炭素数1~6のアルキル基、又は炭素数1~6のアルキル基の鎖中の炭素原子の一部が-S-結合となる基を示し、複数の基が存在する場合には、それぞれ同一であっても異なっていてもよい。R115は、炭素数1~10のアルキレン基、炭素数1~10のアルキレン基の鎖中の炭素原子の一部が-S-結合となる基、又はこれらの基の水素原子の一部がチオール基で置換された基を示し、複数の基が存在する場合には、それぞれ同一であっても異なっていてもよい。u100は、2~4の整数を示し、v100は、0~2の整数を示す。)
R114としてのアルキル基は、直鎖状であっても分岐鎖状であってもよい。中でも、R114は、水素原子、メチル基、又はエチル基であることが好ましい。炭素数1~6のアルキル基の鎖中の炭素原子の一部が-S-結合となる基としては、-CH2SCH3等が挙げられる。
【0108】
R115としてのアルキレン基は、直鎖状であっても分岐鎖状であってもよい。中でも、R115は、メチレン基、エチレン基、トリメチレン基、又はプロピレン基であることが好ましい。また、炭素数1~10のアルキレン基の鎖中の炭素原子の一部が-S-結合となる基としては、-CH2S-、-CH2CH2S-、-CH2CH2CH2S-等が挙げられる。さらに、炭素数1~10のアルキレン基等の水素原子の一部がチオール基で置換された基としては、-CH2SCH(SCH2SH)-等が挙げられる。
【0109】
上記式(XVI)で表される化合物の具体例としては、1,2-ビス[(2-メルカプトエチル)チオ]-3-メルカプトプロパン、2,2-ビス(メルカプトメチル)-1,4-ブタンジチオール、4-メルカプトメチル-1,8-ジメルカプト-3,6-ジチアオクタン、1,1,1,1-テトラキス(メルカプトメチル)メタン、1,1,3,3-テトラキス(メルカプトメチルチオ)プロパン、1,1,2,2-テトラキス(メルカプトメチルチオ)エタン等が挙げられる。これらの化合物は、1種類を単独で使用してもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0110】
((B2)成分;下記式(XVII)(環状ポリチオール化合物))
【0111】
【0112】
(式中、R116は、メチレン基又は硫黄原子を示す。ただし、少なくとも2個のR116は硫黄原子である。R117は、炭素数1~6のアルキレン基、又は炭素数1~6のアルキレン基の鎖中の炭素原子の一部が-S-結合となる基を示す。)
R117としてのアルキレン基は、直鎖状であっても分岐鎖状であってもよい。中でも、R117は、メチレン基、エチレン基、トリメチレン基、又はプロピレン基であることが好ましい。また、炭素数1~6のアルキレン基の鎖中の炭素原子の一部が-S-結合となる基としては、-CH2S-、-CH2CH2S-等が挙げられる。
【0113】
上記式(XVII)で表される化合物の具体例としては、2,5-ビス(メルカプトメチル)-1,4-ジチアン、4,6-ビス(メルカプトメチルチオ)-1,3-ジチアン等が挙げられる。これらの化合物は、1種類を単独で使用してもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0114】
((B2)成分;下記式(XVIII)(ベンゼン環を有するポリチオール化合物))
【0115】
【0116】
(式中、R118は、それぞれ独立に、炭素数1~6のアルキレン基、又は炭素数1~6のアルキレン基の鎖中の炭素原子の一部が-S-結合となる基を示す。w100は、2又は3を示す。)
R118としてのアルキレン基は、直鎖状であっても分岐鎖状であってもよい。中でも、R118は、メチレン基、エチレン基、トリメチレン基、又はプロピレン基であることが好ましい。また、炭素数1~6のアルキレン基の鎖中の炭素原子の一部が-S-結合となる基としては、-CH2CH2CH2SCH2-、-CH2CH2SCH2-、-CH2SCH2-等が挙げられる。
【0117】
上記式(XVIII)で表される化合物の具体例としては、1,4-ビス(メルカプトプロピルチオメチル)ベンゼン等が挙げられる。これらの化合物は、1種類を単独で使用してもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0118】
((B2)成分;下記式(XIX)(トリアジン環を有するポリ(チ)オール化合物))
【0119】
【化24】
[式中、R
119は、それぞれ独立に、炭素数1~6のアルキル基、又は下記式(XX):
【0120】
【化25】
(式中、R
120及びR
121は、それぞれ独立に、炭素数1~6のアルキレン基を示す。R
122は、酸素原子又は硫黄原子を示す。)
で表される基を示す。ただし、少なくとも2個のR
119は、上記式(XX)で表される基である。]
R
120及びR
121としてのアルキレン基は、直鎖状であっても分岐鎖状であってもよい。中でも、R
120及びR
121は、メチレン基、エチレン基、トリメチレン基、又はプロピレン基であることが好ましい。
【0121】
上記式(XIX)で表される化合物の具体例としては、2-メルカプトメタノ-ル、トリス-{(3-メルカプトプロピオニルオキシ)-エチル}-イソシアヌレ-ト等が挙げられる。これらの化合物は、1種類を単独で使用してもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0122】
また、上記式(VII)~(IX)、(XI)~(XIII)、(XV)~(XIX)で表される化合物以外に好ましいポリオール化合物としては、グリセリン、ジグリセリン、ソルビトール、及びこれらとポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリブチレングリコール等とを反応させた誘導体が挙げられる。
【0123】
((B2)成分の好ましい例)
(B2)ポリ(チ)オール化合物の中でも、得られるフォトクロミック光学物品のフォトクロミック特性を考慮すると、分子内に水酸基及びチオール基から選ばれる活性水素含有基を2~6個有する化合物が好ましく、活性水素含有基を4~6個有する化合物がより好ましい。活性水素含有基を3個有する化合物の具体例としては、トリメチロールプロパン、トリメチロールプロパントリス(3-メルカプトプロピオネート)、トリメチロールプロパントリス(3-メルカプトブチレート)、トリメチロールプロパントリメルカプトアセタート、1,2-ビス[(2-メルカプトエチル)チオ]-3-メルカプトプロパン、トリス-{(3-メルカプトプロピオニルオキシ)-エチル}-イソシアヌレ-ト等が挙げられる。また、活性水素含有基を4~6個有する化合物の具体例としては、ペンタエリスリトール、ペンタエリスリトールテトラキス(3-メルカプトプロピオネート)、ジペンタエリスリトールヘキサキス(3-メルカプトプロピオネート)、1,1,1,1-テトラキス(メルカプトメチル)メタン、1,1,3,3-テトラキス(メルカプトメチルチオ)プロパン、1,1,2,2-テトラキス(メルカプトメチルチオ)エタン等が挙げられる。これらの化合物は、1種類を単独で使用してもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0124】
[(B3)成分;モノ(チ)オール化合物]
本発明において、(B1)成分、(B2)成分に加えて、(B3)モノ(チ)オール化合物を用いることが重要である。(B3)成分を用いることで、ウレタン樹脂を含む接着層の密着性が向上するとともに、フォトクロミック光学物品の発色濃度や退色速度といったフォトクロミック特性が向上する傾向にある。フォトクロミック特性が向上する理由は明確ではないが、次のように推測される。(B1)成分と(B2)成分とを反応させると、(チオ)ウレタン結合を有する網目状構造の剛直な硬化体が得られる。さらに(B3)成分を配合すると、片末端フリーな構造を有するモノ(チ)オール化合物が網目状構造に取り込まれるため、モノ(チ)オール化合物の周辺にフレキシブルな空間(ソフトセグメント)が形成される。その結果、この空間近傍に存在するフォトクロミック化合物の可逆的な構造変化がより速やかに生じるようになり、発色濃度や退色速度といったフォトクロミック特性が向上すると考えられる。
【0125】
さらに、(B3)成分は、水酸基又はチオール基を1個しか有さないため、水素結合がポリ(チ)オール化合物よりも少ない。その結果、フォトクロミック性接着組成物の粘度を減少させることが可能であり、フォトクロミック光学物品を製造する際のハンドリング性が向上すると考えられる。
【0126】
モノ(チ)オール化合物のうちモノオール化合物としては、ポリオキシエチレンモノアルキルエーテル、ポリオキシプロピレンモノアルキルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンモノアルキルエーテル、ポリエチレングリコールモノオレイルエーテル、ポリオキシエチレンオレエート、ポリエチレングリコールモノラウラート、ポリエチレングリコ-ルモノステアラート、ポリエチレングリコ-ルモノ-4-オクチルフェニルエーテル、直鎖状のポリオキシエチレンアルキルエーテル(ポリエチレングリコールモノメチルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレン-2-エチルヘキシルエーテル、ポリオキシエチレントリデシルエーテル、ポリオキシエチレンセチルエーテル、ポリオキシエチレンステアリルエーテル等)、炭素数5~30の直鎖状又は分岐鎖状の飽和アルキルアルコ-ル等が挙げられる。
【0127】
モノ(チ)オール化合物のうちモノチオール化合物としては、3-メトキシブチルチオグリコレ-ト、2-エチルヘキシルチオグリコレ-ト、2-メルカプトエチルオクタン酸エステル、3-メルカプトプロピオン酸-3-メトキシブチル、3-メルカプトプロピオン酸エチル、3-メルカプトプロピオン酸-2-オクチル、n-オクチル-3-メルカプトプロピオネート、メチル-3-メルカプトプロピオネート、トリデシル-3-メルカプトプロピオネート、ステアリル-3-メルカプトプロピオネート、炭素数5~30の直鎖状又は分岐鎖状の飽和又は不飽和アルキルチオール等が挙げられる。
【0128】
これらのモノ(チ)オール化合物の中でも、少量の添加で、密着性及びフォトクロミック特性を向上することができる点から、ポリオキシエチレンモノアルキルエーテル、ポリオキシプロピレンモノアルキルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンモノアルキルエーテル、ポリエチレングリコールモノオレイルエーテル、ポリオキシエチレンオレエート、ポリエチレングリコールモノラウラート、ポリエチレングリコ-ルモノステアラート、ポリエチレングリコ-ルモノ-4-オクチルフェニルエーテル、直鎖状のポリオキシエチレンアルキルエーテル(ポリエチレングリコールモノメチルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレン-2-エチルヘキシルエーテル、ポリオキシエチレントリデシルエーテル、ポリオキシエチレンセチルエーテル、ポリオキシエチレンステアリルエーテル等)、炭素数5~30の直鎖状又は分岐鎖状の飽和アルキルアルコ-ル、3-メルカプトプロピオン酸-2-オクチル、n-オクチル-3-メルカプトプロピオネート、メチル-3-メルカプトプロピオネート、トリデシル-3-メルカプトプロピオネート、ステアリル-3-メルカプトプロピオネート、又は炭素数5~30の直鎖状又は分岐鎖状の飽和又は不飽和アルキルチオールが好ましい。これらの化合物は、1種類を単独で使用してもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0129】
また、(B3)成分は、フォトクロミック特性をより向上させる観点から、分子量100以上の化合物が好ましく、分子量150以上の化合物がより好ましい。フォトクロミック性接着組成物のハンドリング性をより向上させるため、フォトクロミック性接着組成物の粘度を下げる目的で、低分子量(低粘度)の(B3)成分と高分子量(高粘度)の(B3)成分とを混合させることも効果的である。
【0130】
(B3)成分の含有割合は、(B1)成分、(B2)成分、及び(B3)成分の合計量を100質量部とした場合に、2~40質量部であることが好ましく、5~15質量部であることがより好ましい。(B3)成分の含有割合を2質量部以上とすることにより、密着性及びフォトクロミック特性がより向上する傾向にある。また、(B3)成分の含有割合を40質量部以下とすることにより、ウレタン樹脂を含む接着層の耐熱性等の耐久性低下が抑えられる傾向にある。
[(B1)成分、(B2)成分、及び(B3)成分の配合割合]
ウレタン樹脂を含む接着層の密着性及びフォトクロミック特性をより向上させる観点から、(B1)成分、(B2)成分、及び(B3)成分を以下の配合割合で硬化して得られるものであることが好ましい。すなわち(B1)成分におけるイソ(チオ)シアネート基の総モル数をn1とし、(B2)成分における活性水素含有基の総モル数をn2とし、(B3)成分における活性水素含有基の総モル数をn3としたとき、n1:(n2+n3)=0.9~1.5:1であることが好ましく、1.0~1.15:1であることがより好ましい。また、n2:n3=1~300:1であることが好ましく、3~50:1であることがより好ましい。質量換算すれば、(B1)成分、(B2)成分、及び(B3)成分の合計100質量部に対し、(B1)成分が20~74質量部、(B2)成分が21~75質量部、(B3)成分が2~40質量部であることが好ましく、(B1)成分が35~64質量部、(B2)成分が29~59質量部、(B3)成分が5~15質量部であることがより好ましい。
【0131】
本発明において、(B1)成分、(B2)成分、及び(B3)成分は必須であるが、その他イソ(チオ)シアネート基又は活性水素含有基を有するモノマーをさらに配合してもよい。その他イソ(チオ)シアネート基又は活性水素含有基を有するモノマーの中でも、(B4)軸分子と該軸分子を包接する複数の環状分子とからなる複合分子構造を有し、環状分子がイソ(チオ)シアネート基、又は水酸基及びチオール基から選ばれる活性水素含有基を有するポリロタキサンモノマーを含むことが好ましい。
【0132】
(B4)成分を含むことで、ウレタン樹脂を含む接着層の密着性がより向上するとともに、フォトクロミック光学物品のフォトクロミック特性がより向上する傾向にある。その理由は明確ではないが、次のように推測される。すなわち、(B4)成分が(B1)成分及び(B2)成分の少なくとも一方の化合物と反応することで、ウレタン樹脂を含む接着層に柔軟性が付与され、光学物品用プレートへの密着性が向上すると考えられる。また、(B4)成分の周辺にフォトクロミック化合物が存在することにより、フォトクロミック化合物が分散された状態で均質に保持され、優れたフォトクロミック性を持続して発現させることができると考えられる。
【0133】
以下、(B4)成分について説明する。
【0134】
[(B4)成分;ポリロタキサンモノマー]
図2に示すように、ポリロタキサンモノマー10は、鎖状の軸分子20と環状分子30とから形成されている複合分子構造を有する。より具体的には、鎖状の軸分子20を複数の環状分子30が包接しており、環状分子30が有する環の内部を軸分子20が貫通した構造を有する。環状分子30は、軸分子20上を自由にスライドし得るが、軸分子20の両端には嵩高い末端基40が形成されており、環状分子30の軸分子20からの脱落が防止されている。このように、ポリロタキサンモノマー10が有している環状分子30は、軸分子20上をスライド可能であるため、ウレタン樹脂を含む接着層を形成した際に外部からの局所的な圧力等を緩和し易くなり、ウレタン樹脂を含む接着層と光学物品用プレートとの間の密着性を向上させることが可能である。なお、
図2に示すポリロタキサンモノマー10において、環状分子30が有する環には、側鎖50が導入されている。
【0135】
なお、ポリロタキサンモノマーは公知の化合物であり、国際公開第2015/068798号等に記載の方法で合成することができる。
【0136】
((B4)成分;軸分子)
軸分子の鎖状部分としては、環状分子が有する環を貫通し得るものであれば特に制限されず、直鎖状であっても分岐鎖状であってもよい。この鎖状部分は、一般にはポリマーにより形成される。軸分子の鎖状部分を形成する好適なポリマーとしては、ポリエチレングリコール、ポリイソプレン、ポリイソブチレン、ポリブタジエン、ポリプロピレングリコール、ポリテトラヒドロフラン、ポリジメチルシロキサン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリビニルアルコール、ポリビニルメチルエーテル等が挙げられる。
【0137】
また、鎖状部分の両端に形成される嵩高い末端基としては、軸分子からの環状分子の脱離を防ぐ基であれば特に制限されない。具体例としては、アダマンチル基、トリチル基、フルオレセイニル基、ジニトロフェニル基、ピレニル基等を挙げられ、導入のし易さ等の点からアダマンチル基が好ましい。
【0138】
軸分子の質量平均分子量(Mw)は、特に制限されるものではないが、1000~100000の範囲が好ましく、5000~80000の範囲がより好ましく、10000~50000の範囲がさらに好ましい。軸分子の質量平均分子量(Mw)が1000以上であることにより、環状分子の可動性が向上する傾向にある。また、軸分子の質量平均分子量(Mw)が100000以下であることにより、他の成分との相溶性が向上する傾向にある。
【0139】
((B4)成分;環状分子)
環状分子は、軸分子を包接し得る大きさの環を有するものである。このような環としては、例えば、シクロデキストリン環、クラウンエーテル環、ベンゾクラウン環、ジベンゾクラウン環、ジシクロヘキサノクラウン環等が挙げられ、シクロデキストリン環が好ましい。シクロデキストリン環には、α体(環内径:0.45~0.6nm)、β体(環内径:0.6~0.8nm)、及びγ体(環内径:0.8~0.95nm)があり、α-シクロデキストリン環が好ましい。
【0140】
1つの軸分子には複数個の環状分子が包接している。軸分子1つ当たりに包接し得る環状分子の最大包接数を1.0としたとき、環状分子の包接数は、一般に0.001~0.6の範囲であり、0.002~0.5の範囲が好ましく、0.003~0.4の範囲がより好ましい。
【0141】
1つの軸分子に対する環状分子の最大包接数は、軸分子の長さ、及び環状分子が有する環の厚みから算出することができる。例えば、軸分子の鎖状部分がポリエチレングリコ-ルで形成され、環状分子が有する環がα-シクロデキストリン環である場合を例にとると、次のようにして最大包接数が算出される。すなわち、ポリエチレングリコ-ルの繰り返し単位[-CH2-CH2O-]の2つ分がα-シクロデキストリン環1つの厚みに近似される。したがって、このポリエチレングリコ-ルの分子量から繰り返し単位数を算出し、この繰り返し単位数の1/2が環状分子の最大包接数として求められる。この最大包接数を1.0とし、環状分子の包接数が上述した範囲に調整されることとなる。
【0142】
((B4)成分;側鎖)
環状分子が有する環には、側鎖が導入されていてもよい。このような側鎖が導入されていると、(B4)ポリロタキサンモノマーに疑似架橋構造を形成し得る。これにより、ウレタン樹脂を含む接着層に柔軟性を付与することができ、光学物品用プレートとの密着性を向上させることができる。
【0143】
側鎖は、炭素数3~20の有機基の繰り返し単位により形成されていることが好ましい。側鎖の質量平均分子量(Mw)は、特に制限されるものではないが、200~10000の範囲が好ましく、250~8000の範囲がより好ましく、300~5000の範囲がさらに好ましく、300~1500の範囲が特に好ましい。側鎖の質量平均分子量(Mw)が200以上であることにより、疑似架橋構造が形成され易くなる傾向にある。また、側鎖の質量平均分子量(Mw)が10000以下であることにより、フォトクロミック性接着組成物の粘度上昇が抑えられ、フォトクロミック光学物品を製造する際のハンドリング性が良好になる傾向にある。
【0144】
上記の側鎖は、環状分子の環が有する官能基(例えば、水酸基)を利用し、この官能基を修飾することによって導入し得る。例えば、α-シクロデキストリン環は、官能基として18個の水酸基を有しており、この水酸基を介して側鎖を導入し得る。すなわち、1つのα-シクロデキストリン環に対しては最大で18個の側鎖を導入することができる。上述した側鎖の機能を十分に発揮させるためには、環が有する全官能基数の6%以上、とくには30%以上が側鎖で修飾されていることが好ましい。なお、α-シクロデキストリン環の18個の水酸基のうちの9個に側鎖が結合している場合、その修飾度は50%となる。
【0145】
上記の側鎖(有機鎖)は、直鎖状であっても分枝鎖状であってもよい。開環重合;ラジカル重合;カチオン重合;アニオン重合;原子移動ラジカル重合、RAFT重合、NMP重合等のリビングラジカル重合;などを利用し、環状分子が有する環に適宜の化合物を反応させることによって、適宜の大きさの側鎖を導入することができる。例えば、開環重合により、環状ラクトン、環状エーテル、環状アセタール、環状アミン、環状カーボネート、環状イミノエーテル、環状チオカーボネート等の環状化合物に由来する側鎖を導入することができる。これらの中でも、入手が容易であり、反応性が高く、大きさ(分子量)の調整が容易であるという観点から、環状エーテル、環状シロキサン、環状ラクトン、環状カーボネートを用いることが好ましい。好適な環状化合物の具体例は、国際公開第2015/068798号等に記載されている。中でも、環状化合物としては、環状ラクトン及び環状カーボネートが好ましく、ε-カプロラクトン、α-アセチル-γ-ブチロラクトン、α-メチル-γ-ブチロラクトン、γ-バレロラクトン、γ-ブチロラクトン等のラクトンがより好ましく、ε-カプロラクトンがさらに好ましい。
【0146】
なお、開環重合により環状化合物を反応させて側鎖を導入する場合、環に結合している官能基(例えば、水酸基)は反応性に乏しく、立体障害等により大きな分子を直接反応させることが困難な場合がある。このような場合には、例えば、プロピレンオキシド等の低分子化合物を官能基と反応させてヒドロキシプロピル化を行い、反応性に富んだ官能基(水酸基)を導入した後、上述した環状化合物を用いた開環重合により側鎖を導入するという手段を採用することができる。なお、このプロピレンオキシド等の低分子化合物も側鎖と見なすことができる。
【0147】
上記のとおり、(B4)ポリロタキサンモノマーには、開環重合により側鎖を導入することができるが、当然のことながら、公知のその他の方法及び化合物で側鎖を導入することも可能である。
【0148】
((B4)成分;イソ(チオ)シアネート基又は活性水素含有基)
本発明において環状分子には、水酸基及びチオール基から選ばれる活性水素含有基、又はイソ(チオ)シアネート基を有する。この活性水素含有基又はイソ(チオ)シアネート基は、密着性及びフォトクロミック特性の観点から、上記した側鎖(特に、側鎖の末端)に導入されていることが好ましい。中でも、(B4)ポリロタキサンモノマー自体の生産性を考慮すると、側鎖に水酸基を有するものが好ましい。
【0149】
((B4)成分の好ましい例)
(B4)ポリロタキサンモノマーの中でも、両端にアダマンチル基が結合しているポリエチレングリコ-ルを軸分子とし、α-シクロデキストリン環を環状分子とし、さらに、ポリカプロラクトンにより該環に末端が水酸基である側鎖が導入されているものが好ましい。
[(B1)成分、(B2)成分、(B3)成分、及び(B4)成分の配合割合]
(B4)成分を用いる場合、密着性及びフォトクロミック特性がより向上するが、(B4)成分が多すぎると、粘度上昇によるハンドリング性の課題が生じ得る。一方、(B4)成分が少なすぎると密着性及びフォトクロミック特性への寄与が少ない。(B4)成分を含む場合の配合割合は、(B1)成分、(B2)成分、(B3)成分、及び(B4)成分の合計100質量部に対し、(B1)成分が20~74質量部、(B2)成分が20~74質量部、(B3)成分が2~40質量部、(B4)成分が1~30質量部であることが好ましく、(B1)成分が35~64質量部、(B2)成分が26~59質量部、(B3)成分が5~25質量部、(B4)成分が2~9質量部であることがより好ましい。
【0150】
本発明においては、フォトクロミック光学物品のフォトクロミック特性や、耐久性、密着性に鑑み、(B1)成分、(B2)成分、(B3)成分、及び(B4)成分の配合割合を適宜調節することができる。
【0151】
(B4)成分がイソ(チオ)シアネート基を有する場合、(B1)成分におけるイソ(チオ)シアネート基の総モル数をn1とし、(B2)成分における活性水素含有基の総モル数をn2とし、(B3)成分における活性水素含有基の総モル数をn3とし、(B4)成分におけるイソ(チオ)シアネート基の総モル数をn4としたとき、(n1+n4):(n2+n3)=0.9~1.5:1であることが好ましく、1.0~1.15:1であることがより好ましい。
【0152】
また、(B4)成分が活性水素含有基を有する場合、(B1)成分におけるイソ(チオ)シアネート基の総モル数をn1とし、(B2)成分における活性水素含有基の総モル数をn2とし、(B3)成分における活性水素含有基の総モル数をn3とし、(B4)成分における活性水素含有基の総モル数をn4としたとき、n1:(n2+n3+n4)=0.9~1.5:1であることが好ましく、1.0~1.15:1であることがより好ましい。この場合、n2:n3:n4=1~300:1:0.05~10であることが好ましく、3~50:1:0.10~2であることがより好ましい。なお、n4は、(B4)成分が有する全活性水素含有基のモル数である。すなわち、(B4)成分の側鎖が有する活性水素含有基だけではなく、例えば、環状分子が有する活性水素含有基の合計のモル数がn4に該当する。
【0153】
[(C)分子量200以下の液状有機化合物]
本発明において用いられる分子量200以下の液状有機化合物としては、活性水素含有基を有さない公知の液状有機化合物が何ら制限なく使用でき、その中でも分子量が50以上200以下の液状有機化合物が好適である。なお、活性水素含有基を有する液状有機化合物は、(B1)成分と反応し、本発明の効果を阻害する恐れがあるため好適でない。
【0154】
これら液状有機化合物の具体的な例としては、ヘキサン、へプタン、オクタン、トルエン、キシレン等の炭化水素系化合物、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン等のケトン系化合物、テトラヒドロフラン、エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル等のエーテル系化合物、その他ジクロロメタン、クロロホルム、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド等が挙げられ、これら液状有機化合物を用いることにより、発色濃度や退色速度といったフォトクロミック特性を向上させことができる。
【0155】
上記の中でも、本発明においては、外観不良をおこさず、光学物品用プレートとの密着性を低下させないことを勘案すると、沸点が65~150℃の範囲のものが好適であり、さらにその中でも、シクロヘキサン、ヘプタン、オクタン、トルエン等炭化水素系化合物及びメチルエチルケトン、ジエチルケトン、ジエチレングリコールジメチルエーテルが特に好適に用いられる。
【0156】
((C)成分の配合割合)
(C)成分の配合割合は、硬化後のウレタン樹脂を含む接着層の外観を損なわない範囲で適宜設定される。具体的には、(B)成分100質量部に対して、0.1~30質量部が好ましく、0.5~10質量部がさらに好ましく、特には1~5質量部の範囲が好ましい。
【0157】
[(D)硬化促進剤]
本発明において、フォトクロミック性接着組成物に、硬化を促進する目的で、(D)硬化促進剤(以下、「(D)成分」ともいう。)をさらに含有していてもよい。
【0158】
(D)成分としては、フォトクロミック性接着組成物の硬化を速やかに促進させるために、活性水素含有基とイソ(チオ)シアネート基との反応に有効な、ウレタン用又はウレア用反応触媒、縮合剤等を使用することができる。
【0159】
((D)成分;ウレタン用又はウレア用反応触媒)
ウレタン用又はウレア用反応触媒は、ポリイソ(チア)シアネートと、ポリオール又はポリチオールとの反応によるポリ(チオ)ウレタン結合生成において用いられる。ウレタン用又はウレア用反応触媒としては、3級アミン類及びこれらに対応する無機又は有機塩類、ホスフィン類、4級アンモニウム塩類、4級ホスホニウム塩類、ルイス酸類、有機スルホン酸類等が挙げられる。これらの反応触媒は、1種類を単独で使用してもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0160】
3級アミン類としては、トリエチルアミン、トリ-n-プロピルアミン、トリイソプロピルアミン、トリ-n-ブチルアミン、トリイソブチルアミン、トリエチルアミン、ヘキサメチレンテトラミン、N,N-ジメチルオクチルアミン、N,N,N’,N’-テトラメチル-1,6-ジアミノヘキサン、4,4’-トリメチレンビス(1-メチルピペリジン)、1,8-ジアザビシクロ-(5,4,0)-7-ウンデセン等が挙げられる。
【0161】
ホスフィン類としては、トリメチルホスフィン、トリエチルホスフィン、トリ-n-プロピルホスフィ、トリイソプロピルホスフィン、トリ-n-ブチルホスフィン、トリフェニルホスフィン、トリベンジルホスフィン、1,2-ビス(ジフェニルホスフィノ)エタン、1,2-ビス(ジメチルホスフィノ)エタン等が挙げられる。
【0162】
4級アンモニウム塩類としては、テトラメチルアンモニウムブロマイド、テトラブチルアンモニウムクロライド、テトラブチルアンモニウムブロマイド等が挙げられる。
【0163】
4級ホスホニウム塩類としては、テトラメチルホスホニウムブロマイド、テトラブチルホスホニウムクロライド、テトラブチルホスホニウムブロマイド等が挙げられる。
【0164】
ルイス酸類としては、トリフェニルアルミニウム、ジメチルスズジクロライド、ジメチルスズビス(イソオクチルチオグリコレート)、ジブチルスズジクロライド、ジブチルチンジラウレ-ト、ジブチルスズマレエート、ジブチルスズマレエートポリマー、ジブチルスズジリシノレート、ジブチルスズビス(ドデシルメルカプチド)、ジブチルスズビス(イソオクチルチオグリコレート)、ジオクチルスズジクロライド、ジオクチルスズマレエート、ジオクチルスズマレエートポリマー、ジオクチルスズビス(ブチルマレエート)、ジオクチルスズジラウレート、ジオクチルスズジリシノレート、ジオクチルスズジオレエート、ジオクチルスズジ(6-ヒドロキシ)カプロエート、ジオクチルスズビス(イソオクチルチオグリコレート)、ジドデシルスズジリシノレート、又は各種金属塩(例えば、オレイン酸銅、アセチルアセトン酸銅、アセチルアセトン酸鉄、ナフテン酸鉄、乳酸鉄、クエン酸鉄、グルコン酸鉄、オクタン酸カリウム、チタン酸2-エチルヘキシル等の塩)等が挙げられる。
【0165】
有機スルホン酸類としては、メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸等が挙げられる。
【0166】
なお、選択する上述の化合物の種類により触媒活性が高すぎる場合は、例えば、3級アミン類とルイス酸類とを混合して用いることにより触媒活性を抑えることが可能である。
【0167】
((D)成分;縮合剤)
縮合剤としては、塩化水素、臭化水素、硫酸、リン酸等の無機酸;p-トルエンスルホン酸、カンファースルホン酸等の有機酸;アンバーライト(製品名)、アンバーリスト(製品名)等の酸性イオン交換樹脂;ジシクロヘキシルカルボジイミド、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノピロリル)-カルボジイミド等のカルボジイミド;などが挙げられる。これらの縮合剤は、1種類を単独で使用してもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0168】
((D)成分の配合割合)
(D)成分の配合割合は、いわゆる触媒量でよい。例えば、(B)成分100質量部に対して、0.001~10質量部程度、特には0.01~5質量部程度の範囲でよい。
[その他の配合成分]
上記フォトクロミック性接着組成物には、本発明の効果を損なわない範囲で、公知の各種添加剤、例えば、紫外線吸収剤、帯電防止剤、赤外線吸収剤、紫外線安定剤、酸化防止剤、着色防止剤、蛍光染料、染料、顔料、香料、界面活性剤、可塑剤、溶剤、レベリング剤、硬化調整剤(例えば、t-ドデシルメルカプタン等のチオール類)を配合することができる。
【0169】
上記各種添加剤の配合割合は、本発明の効果を阻害しない範囲で適宜設定される。具体的には、フォトクロミック性接着組成物100質量部に対して、各種添加剤の合計量が0.001~10質量部の範囲となることが好ましい。
【0170】
各種添加剤の中でも紫外線安定剤は、フォトクロミック化合物の耐久性を向上させることができるために好適である。このような紫外線安定剤としては、ヒンダードアミン光安定剤、ヒンダードフェノール酸化防止剤、イオウ系酸化防止剤等が挙げられる。特に好適な紫外線安定剤としては、ビス(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジル)セバケート;アデカスタブ LA-52、LA-57、LA-62、LA-63、LA-67、LA-77、LA-82、LA-87(以上、株式会社ADEKA製);2,6-ジ-t-ブチル-4-メチル-フェノール、エチレンビス(オキシエチレン)ビス[3-(5-t-ブチル-4-ヒドロキシ-m-トリル)プロピオネート];IRGANOX 1010、1035、1075、1098、1135、1141、1222、1330、1425、1520、259、3114、3790、5057、565;Tinuvin249、123、144、171、292、5100、770D、765、XT55FB、PA144、622SF(以上、BASF社製)等が挙げられる。
【0171】
紫外線安定剤の配合割合は、本発明の効果を阻害しない範囲で適宜設定される。具体的には、(B)成分100質量部に対して、0.001~10質量部であることが好ましく、0.01~1質量部であることがより好ましい。特にヒンダードアミン光安定剤を用いる場合、フォトクロミック化合物の種類によって耐久性の向上効果に差がある結果、調整された発色色調の色ズレが生じないようにするため、上記範囲の中で、(A)フォトクロミック化合物1モル当たり0.5~30モル、より好ましくは1~20モル、さらに好ましくは2~15モルの量とするのが好ましい。
【0172】
また、帯電防止性剤としては、アルカリ金属又はアルカリ土類金属塩、4級アンモニウム塩、界面活性剤(非イオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、及び両性界面活性剤)、イオン性液体(常温で液体として存在し、陽イオン及び陰イオンの対で存在する塩)等が挙げられる。
【0173】
アルカリ金属又はアルカリ土類金属塩としては、アルカリ金属(リチウム、ナトリウム、カリウム等)又はアルカリ土類金属(マグネシウム、カルシウム等)と、有機酸[炭素数1~7のモノ又はジカルボン酸(ギ酸、酢酸、プロピオン酸、シュウ酸、コハク酸等)、炭素数1~7のスルホン酸(メタンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸等)、チオシアン酸等]との塩;アルカリ金属又はアルカリ土類金属と、無機酸[ハロゲン化水素酸(塩酸及び臭化水素酸等)、過塩素酸、硫酸、硝酸、リン酸等]との塩;などが挙げられる。
【0174】
4級アンモニウム塩としては、アミジニウム(1-エチル-3-メチルイミダゾリウム等)又はグアニジウム(2-ジメチルアミノ-1,3,4-トリメチルイミダゾリニウム等)と、上記有機酸又は上記無機酸との塩等が挙げられる。
【0175】
界面活性剤としては、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、脂肪酸アルカノールアミド、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、アルキルグリコシド、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、高級脂肪酸塩(石けん)、α-スルホ脂肪酸メチルエステル塩、直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキル硫酸エステル塩、アルキルエーテル硫酸エステル塩、(モノ)アルキルリン酸エステル塩、α-オレフィンスルホン酸塩、アルカンスルホン酸塩、アルキルトリメチルアンモニウム塩、ジアルキルジメチルアンモニウム塩、アルキルジメチルベンジルアンモニウム塩、N-メチルビスヒドロキエチルアミン脂、肪酸エステル塩酸塩、アルキルアミノ脂肪酸塩、アルキルベタイン、アルキルアミンオキシド等が挙げられる。
【0176】
イオン性液体としては、1,3-エチルメチルイミダゾリウムビストリフルオロメタンスルホンイミド、1,3-エチルメチルイミダゾリウムテトラフルオロボレート、1-エチルピリジニウムビストリフルオロメタンスルホンイミド、1-エチルピリジニウムテトラフルオロボレート、1-エチルピリジニウムヘキサフルオロフォスフェート、1-メチルピラゾリウムビストリフルオロメタンスルホンイミド等が挙げられる。
【0177】
添加剤の中でも、波長550~600nmの範囲に吸収ピークを有する色素は、防眩性を向上させる観点から有用である。該色素としては、ニトロ系化合物、アゾ系化合物、アントラキノン系化合物、スレン系化合物、ポルフィリン系化合物、希土類金属化合物等が挙げられる。その中でも、防眩性と視認性との兼ね合いから、ポルフィリン系化合物及び希土類系化合物が好ましく、ウレタン樹脂を含む接着層における分散安定性の観点から、ポルフィリン系化合物がより好ましい。
【0178】
希土類金属化合物としては、アクアヒドロキシ(1-フェニル1,3-ブタンジオナト)ネオジム、アクアヒドロキシ(フェナシルフェニルケトナト)ネオジム、アクアヒドロキシ(1-フェニル-2-メチル-1,3-ブタンジオナト)ネオジム、アクアヒドロキシ(1-チオフェニル-1,3-ブタンジオナト)ネオジム、アクアヒドロキシ(1-フェニル1,3-ブタンジオナト)エルビウム、アクアヒドロキシ(1-フェニル1,3-ブタンジオナト)ホロニウム等の錯体が挙げられる。
【0179】
ポルフィリン系化合物は、ポルフィリン骨格に種々の置換基を有していてもよい化合物であり、例えば、特開平5-194616号公報、特開平5-195446号公報、特開2003-105218号公報、特開2008-134618号公報、特開2013-61653号公報、特開2015-180942号公報、国際公開第2012/020570号、特許第5626081号公報、特許第5619472号公報、特許第5778109号公報等に記載されている化合物を好適に使用することができる。
【0180】
本発明のフォトクロミック性接着組成物の粘度は、製造方法等種々の条件に合わせて適宜設定すればよい。例えば、後述する一方の光学物品用プレート上にフォトクロミック性接着組成物を塗布し、その上に他方の光学物品用プレートを配置した後、フォトクロミック性接着組成物を硬化してウレタン樹脂を含む接着層で接合させる場合、硬化前にフォトクロミック性接着組成物が流出する虞があり、この流出を抑制するために、フォトクロミック性接着組成物の25℃における粘度を100mPa・s以上にすることが好ましい。
【0181】
<フォトクロミック光学物品>
本発明のフォトクロミック光学物品は、一対の光学物品用プレートを、前記した(A)成分、(B1)成分、(B2)成分、(B3)成分、(C)成分、並びに必要に応じて配合される(B4)成分を含むフォトクロミック性接着組成物を硬化して得られるウレタン樹脂を含む接着層で接合してなるものである。
【0182】
本発明のフォトクロミック光学物品の一態様を
図1に示す。
図1に示すフォトクロミック光学物品1は、光学物品用プレート2と光学物品用プレート4とが、ウレタン樹脂を含む接着層3を介して接合した構造を有する。なお、
図1は概略図であり、本発明のフォトクロミック光学物品の形状はこの例に限定されない。
【0183】
以下、本発明のフォトクロミック光学物品の各構成について詳細に説明する。
【0184】
[光学物品用プレート]
光学物品用プレートの材質としては、光学物品、例えばレンズ等に使用されるものであれば特に制限されず、無機材料であっても有機材料であってもよい。
【0185】
無機材料としては、汎用的なソーダガラス、フリントガラス、クラウンガラス等のガラス材料が挙げられる。これらのガラス材料の中でも、クラウンガラスが好ましい。ガラス材料は、化学的に強化されたガラス材料であってもよく、UV吸収特性を有するガラス材料であってもよい。ガラス材料の屈折率は特に制限されないが、1.5~2.1であることが好ましく、1.5~1.9であることがより好ましい。
【0186】
また、有機材料としては、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、セルロース樹脂、ポリアミド樹脂、アリル樹脂、(メタ)アクリル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリウレタンウレア樹脂、ポリチオウレタン樹脂、ポリチオエポキシ樹脂、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、ポリオレフィン樹脂等が挙げられる。なお、「(メタ)アクリル樹脂」とは、「アクリル樹脂」及び「メタクリル樹脂」の両者を意味する。
【0187】
後述するウレタン樹脂を含む接着層は、特に無機材料からなる光学物品用プレートへの密着性が非常によい。また、無機材料は、有機材料に比べてガスバリア性に優れるためフォトクロミック化合物の光酸化劣化を抑制することもできる。このため、本発明のフォトクロミック光学物品は、無機材料からなる光学物品用プレートを使用する場合に特に優れた効果を発揮する。
【0188】
前記光学物品用プレートは一対で使用されるものであり、本発明のフォトクロミック光学物品を眼鏡レンズとする場合には、眼に近い側(内側)の光学物品用プレートと、目から遠く、屋外では太陽光がより照射される側(外側)の光学物品用プレートとの組み合わせとなる。
【0189】
たとえば、光学物品用プレートの材質がガラス材料である場合、外側の光学物品用プレートには、フォトクロミック特性を十分に発揮させるため、UV吸収特性が弱いガラス材料を使用することが好ましい。具体的には、波長380nmの光の透過率が50%以上であるガラス材料を使用することが好ましい。また、外側の光学物品用プレートには、耐衝撃性の観点から、化学的に強化されたガラス材料を使用してもよい。
【0190】
一方、内側の光学物品用プレートには、紫外線から眼を保護するため、UV吸収特性が強いガラス材料を使用することが好ましい。具体的には、波長400nmの光の透過率が10%以下であるガラス材料を使用することが好ましい。特に、本発明のフォトクロミック光学物品が度数矯正用の眼鏡レンズである場合、フォトクロミック光学物品の薄型化及び軽量化の観点から、内側の光学物品用プレートには、屈折率1.6以上のガラス材料を使用することが好ましい。
【0191】
光学物品用プレートの厚みは特に制限されず、用途に応じて適宜選択すればよい。度付きでないサングラスを作製する場合には、厚みが1.5mm以下の光学物品用プレートを使用することができ、軽量化の観点から、厚みが1.0mm以下の光学物品用プレートを使用することが好ましい。また、近視用の度付きレンズを作製する場合には、例えば、外側の光学物品用プレートの中心の厚みが1.0mm以下であり、内側の光学物品用プレートの少なくとも一部が1.0mmよりも厚いことが好適であり、10~20mm程度の適当な厚みの光学物品用プレートを使用することもできる。また、遠視用の度付きレンズを作製する場合には、例えば、外側の光学物品用プレートの中心の厚みが20mm以下であり、内側の光学物品用プレートの少なくとも一部が1.0mmよりも厚いことが好適であり、10~20mm程度の適当な厚みの光学物品用プレートを使用することもできる。バイフォーカルレンズ、累進レンズ等を作製する場合においても、上記と同様にして適宜使用する光学物品用プレートの厚みを選択することができる。度付きレンズを作製する場合においては、内側の光学物品用プレートの凹面側を必要に応じて研磨することにより、使用者の視力に応じて度数を調整することが可能となる。
【0192】
中でも、本発明のフォトクロミック光学物品は、少なくとも一方の光学物品用プレートの厚みが1.5mm以下、特に1.0mm以下である場合に優れた効果を発揮する。光学物品用プレートの厚みの下限は、例えば、0.1mmである。本発明のフォトクロミック光学物品は、少なくとも一方の光学物品用プレートの厚みが0.1~1.5mmであることが好ましく、0.5~1.0mmであることがより好ましい。なお、一方の光学物品用プレートの厚みが0.1~1.5mmである場合、他方の光学物品用プレートは同じ厚みであってもよいし、異なる厚みであってもよい、異なる厚みである場合、その厚みは特に制限されず、10~20mmであってもよい。
【0193】
光学物品用プレートの形状は特に制限されず、所望とする用途に応じた形状(平面状、曲面状等)の光学物品用プレートを使用すればよい。ただし、曲面状の光学物品用プレートを使用する場合、接合面の曲率半径が同一のプレートを用いて接合すると、一般に中心厚に対して端部の厚さが薄くなる。従って、曲面状のプレートを使用する場合は接着層の厚さが均一になる様に光学設計された曲面状の光学物品用プレートを用いるのが好ましい。
【0194】
[ウレタン樹脂を含む接着層の厚み]
本発明のフォトクロミック光学物品は、接着層が上記したフォトクロミック性接着組成物を硬化したウレタン樹脂を含んでいるため密着性がよく、且つ、ウレタン樹脂を含む接着層中に分散した(A)フォトクロミック化合物が優れたフォトクロミック特性を発揮する。そのため、ウレタン樹脂を含む接着層は、薄くても優れた効果を発揮できる。
【0195】
操作性及び優れた効果を勘案すると、ウレタン樹脂を含む接着層の厚みは、0.02~0.8mmが好ましく、0.03~0.5mmがより好ましく、0.05~0.2mmがさらに好ましい。ウレタン樹脂を含む接着層の厚みを0.02mm以上とすることにより、密着性が向上するとともに、膜厚が均一となり易く、発色時の濃度ムラ等が抑えられる傾向にある。また、ウレタン樹脂を含む接着層の厚みを0.8mm以下とすることにより、端部からの劣化により耐久性が低下するのを抑制できる傾向にある。たとえば、本発明のフォトクロミック光学物品をサングラスとして使用する場合には、強度の観点から、光学物品用プレートの厚みを0.1~1.5mm程度に維持する必要があるが、デザイン上の観点からフォトクロミック光学物品の総厚を抑制するため、ウレタン樹脂を含む接着層の厚みは0.8mm以下であることが好ましい。
【0196】
[フォトクロミック光学物品の総厚]
本発明のフォトクロミック光学物品は、一対の光学物品用プレートを、ウレタン樹脂を含む接着層で接合してなるものであり、この構成から得られるフォトクロミック光学物品の好ましい総厚は、目的に応じて異なる。例えば、眼鏡レンズ用途であれば、度付きでないサングラス用途と度付きレンズ用途とで異なる。
【0197】
本発明のフォトクロミック光学物品を眼鏡レンズとする場合には、眼に近い側(内側)の光学物品用プレートと、目から遠く、屋外では太陽光がより照射される側(外側)の光学物品用プレートとの組み合わせとなる。
【0198】
度付きでないサングラス用途の場合には、外側及び内側の光学物品用プレートの厚みは、1.5mm以下であることが好ましく、1.0mm以下であることがより好ましい。また、ウレタン樹脂を含む接着層の厚みは、0.8mm以下であることが好ましく、0.05~0.2mmであることがより好ましい。したがって、度付きでないサングラス用途の場合のフォトクロミック光学物品の総厚は、3.8mm以下であることが好ましく、2.2mm以下であることがより好ましい。
【0199】
また、度付きレンズ用途の場合には、外側の光学物品用プレートの厚みは、1.5mm以下であることが好ましく、1.0mm以下であることがより好ましい。一方、内側の光学物品用プレートとしては、10~20mm程度の適当な厚みのものを使用してもよく、使用者の視力に応じて凹面を研磨して使用すればよい。また、ウレタン樹脂を含む接着層の厚みは、0.8mm以下であることが好ましく、0.05~0.2mmであることがより好ましい。したがって、度付きレンズ用途の場合のフォトクロミック光学物品の総厚は、22.3mm以下であることが好ましく、11.2mm以下であることがより好ましい。ただし、度付きレンズ用途の場合には、最終的な研磨後のフォトクロミック光学物品の中心厚は、2.5mm以下であることが好ましい。
【0200】
<フォトクロミック光学物品の製造方法>
本発明のフォトクロミック光学物品の製造方法は、特に制限されるものではなく、公知の方法を適宜組み合わせて用いればよい。
【0201】
本発明においてには、以下の方法を好適に採用することができる。まず、(A)成分、(B1)成分、(B2)成分、(B3)成分、(C)成分、並びに必要に応じて配合される(B4)成分及びその他の成分を含有するフォトクロミック性接着組成物を調整する。次いで、得られたフォトクロミック性接着組成物を一方の光学物品用プレート上に塗布してフォトクロミック性接着組成物層を形成した後、このフォトクロミック性接着組成物層を挟み込むように他方の光学物品用プレートを所定の間隔となるように重ねて配置し、その後、フォトクロミック性接着組成物を硬化してウレタン樹脂を含む接着層とすることによって一対の光学物品用プレートを接合して、本発明に係るフォトクロミック光学物品を製造することができる。
【0202】
この方法においては、他方の光学物品用プレートを重ねて配置する際に、隙間を調整することにより、ウレタン樹脂を含む接着層の厚みを調整することができる。
【0203】
また、比較的薄い光学物品用プレートを、ウレタン樹脂を含む接着層で接合する場合には、以下の方法を採用することが好ましい。まず、(A)成分、(B1)成分、(B2)成分、(B3)成分、(C)成分、並びに必要に応じて配合される(B4)成分及びその他の成分を含有するフォトクロミック性接着組成物を調製する。次いで、一対の光学物品用プレートを所定の隙間を有するように配置する。そして、所定の隙間を有するように配置した一対の光学物品用プレート間の隙間に前記フォトクロミック性接着組成物を注入した後、フォトクロミック性接着組成物を硬化してウレタン樹脂を含む接着層とすることによって一対の光学物品用プレートを接合して、本発明のフォトクロミック光学物品を製造することができる。
【0204】
この方法においては、一対の光学物品用プレート間の所定の隙間を有するように配置する際に、厚み調整することにより、ウレタン樹脂を含む接着層の厚みを調整することができる。その際、若干の硬化収縮等を考慮して、一対の光学物品用プレート間の隙間を調整することが好ましい。
【0205】
上記の場合、隙間を調整する方法として、エストラマーガスケット、粘着性テープ、スペーサ等で間隔を調整することもできる。
【0206】
また、いずれの方法を採用する場合でも、硬化前に十分に脱泡することが好適であり、そのため、硬化前に一対の光学物品用プレート間に塗布したフォトクロミック性接着組成物が、密閉されていない状態であることが好適である。
【0207】
上記したフォトクロミック性接着組成物を硬化する方法は、特に制限されるものではなく、公知の方法を採用できる。中でも、空気炉等での加熱により硬化を行うことが好ましい。熱硬化させる場合には、高度な性状(平滑性等)のウレタン樹脂を含む接着層を形成するために、硬化温度の制御を行うことが好ましい。この温度条件は、硬化促進剤の種類及び量によって影響を受けるため一概に限定はできないが、一般的に比較的低温で硬化を開始し、ゆっくりと温度を上げていく方法が好適である。ただし、本発明においては、ウレタン樹脂を含む接着層が薄くても優れた効果を発揮するため、比較的短時間で厳密な温度制御を行わなくとも、フォトクロミック性接着組成物を硬化できる。なお、最適な硬化条件は、使用する材料等によっても異なるため、硬化時間、硬化温度等の条件は、予備実験を行い、最適値を決定しておくことが好ましい。たとえば、90℃以上の温度を採用した場合には、2時間以下の硬化時間で硬化を完結することもできる。
【0208】
また、上記した一方の光学物品用プレート上にフォトクロミック性接着組成物を塗布し、その上に他方の光学物品用プレートを配置した後、フォトクロミック性接着組成物を硬化する場合には、得られるウレタン樹脂を含む接着層の膜厚が不均一とならないように、90℃未満の温度でウレタン樹脂を含む接着層の厚みが均一となるような硬化時間で硬化すればよい。
【0209】
<その他>
本発明のフォトクロミック光学物品には、本発明の効果を損なわない範囲で、他層、例えば、偏光特性を付与する目的で、偏光フィルムをさらに積層することも可能である。偏光フィルムの位置は特に制限されず、フォトクロミック光学物品の外側、フォトクロミック光学物品内の光学物品用プレートとウレタン樹脂を含む接着層との間、或いはウレタン樹脂を含む接着層内のいずれに積層してもよいが、接着性の観点からウレタン樹脂を含む接着層内に埋設する方法が好ましい。
【0210】
偏光フィルムの積層方法も特に制限されず、公知の方法を採用すればよい。例えば、一対の光学物品用プレート間にフォトクロミック性接着組成物を注入する際に、光学物品用プレートとフォトクロミック性接着組成物との間、又はフォトクロミック性接着組成物内に偏光フィルムを配置し、その後、フォトクロミック性接着組成物を硬化することにより、積層する方法が挙げられる。
【0211】
偏光フィルムとしては、市販の偏光フィルムを利用することができる。
【0212】
偏光フィルムの厚みは、20~100μmのものが好適に使用できる。偏光フィルムは、例えば、ヨウ素、二色性染料等の二色性物質で染色されたポリビニルアルコールが延伸されてなるものである。
【0213】
偏光フィルムに含まれる二色性染料としては、市販の二色性染料が制限なく使用できる。例えば、アゾ系、アントラキノン系等の染料が挙げられる。具体的には、クロランチンファストレッド(C.I.28160)、コンゴーレッド(C.I.22120)、ブリリアントブルーB(C.I.24410)、ベンゾパープリン(C.I.23500)、クロラゾールブラックBH(C.I.22590)、ダイレクトブルー2B(C.I.22610)、ジアミングリーン(C.I.30295)、クリソフェニン(C.I.24895)、シリウスイエロー(C.I.29000)、ダイレクトファーストレッド(C.I.23630)、アシドブラック(C.I.20470)、ダイレクトスカイブルー(C.I.24400)、ソロフェニルブルー4GL(C.I.34200)、ダイレクトコッパーブルー2B(C.I.24185)、ニッポンブリリアントヴァイオレットBKconc(C.I.27885)等が挙げられる。これらの二色性染料の中から目的に応じて2色以上の色素を選択して用いることもできる。なお、括弧内には、有機合成協会編「新版 染料便覧」(丸善株式会社、1970年)に記載のColour Index No.を示した。
【0214】
上述したフォトクロミック性接着組成物を使用すれば、視感透過率が10~60%、偏光度が70.0~99.9である偏光フィルムであっても、強固に接合することができる。
【0215】
偏光フィルムは、その機能及び接着性を高めるため、セルローストリアセテートフィルムが両面に積層されているものであってもよい。セルローストリアセテートフィルムの厚みは、20~200μmであることが好ましく、20~100μmであることがより好ましい。
【0216】
なお、偏光フィルムに含まれる水分量の調整や、偏光フィルムの寸法安定性のために、本発明のフォトクロミック光学物品を製造する前に、偏光フィルムに40~100℃、5秒~30分程度の加熱処理を実施してもよい。
【実施例】
【0217】
以下、実施例及び比較例を用いて本発明を詳細に説明するが、本発明は本実施例に限定されるものではない。実施例及び比較例において、上記の各成分及びフォトクロミック特性の評価方法等は、以下のとおりである。
【0218】
<(A)フォトクロミック化合物>
PC1:下記式で表される化合物
【0219】
【0220】
<(B1)ポリイソ(チオ)シアネート化合物>
H6XDI:1,3-ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン(異性体混合物)
<(B2)ポリ(チ)オール化合物>
PEMP:ペンタエリスリトールテトラキス(3-メルカプトプロピオネート)
<(B3)モノ(チ)オール化合物>
PGME10:ポリエチレングリコールモノオレイルエーテル(n≒10)
STMP:ステアリル-3-メルカプトプロピオネート
<(B4)ポリロタキサンモノマー>
RX-1:国際公開第2015/068798号等に記載の方法で合成されたポリロタキサンモノマー。
【0221】
<(C)分子量200以下の液状有機化合物>
n-Hex:ノルマルヘキサン
c-Hex:シクロヘキサン
n-Hep:ノルマルへプタン
n-Oct:ノルマルオクタン
Tol :トルエン
Xyl :キシレン
MEK :メチルエチルケトン
DEK :ジエチルケトン
MeOH :メタノール
TBA :tert-ブチルアルコール
3-メトキシプロパノール
アセトン
酢酸エチル
THF :テトラヒドロフラン
ジクロロメタン
クロロホルム
DMF :ジメチルホルムアミド
DMSO :ジメチルスルホキシド
エチレングリコールジメチルエーテル
ジエチレングリコールジメチルエーテル
トリエチレングリコールジメチルエーテル
【0222】
<(D)硬化促進剤>
[ウレタン用又はウレア用反応触媒]
D1:ジメチルジクロル錫
<その他の配合成分>
[安定剤]
HP:エチレンビス(オキシエチレン)ビス[3-(5-tert-ブチル-4-ヒドロキシ-m-トリル)プロピオネート]
【0223】
<実施例1>
下記処方により、各成分を混合してフォトクロミック性接着組成物を調製した。ここで、(B1)成分のポリイソシアネート化合物のイソ(チオ)シアネート基の総モル数と(B2~B4)成分の活性水素含有基の総モル数の比n1:(n2+n3+n4)=1.05:1である。
処方;
(A)フォトクロミック化合物:PC1 1.86質量部
(B1)ポリイソ(チオ)シアネート化合物:H6XDI 37質量部
(B2)ポリ(チ)オール化合物:PEMP 37質量部
(B3)モノ(チ)オール化合物:PGME10 4質量部
(B3)モノ(チ)オール化合物:STMP 18質量部
(B4)ロタキサンモノマー:RX-1 4質量部
(C) 分子量200以下の液状有機化合物:n-Hex 5質量部
(D) 硬化促進剤:D1 0.05質量部
安定剤:HP 0.3質量部
【0224】
上記のフォトクロミック性接着組成物を用い、下記の方法でフォトクロミック光学物品を製造した。まず、調整したフォトクロミック性接着組成物を十分に脱泡した後、1.0mm厚、6カーブ、φ70mmのソーダガラス製の光学物品用プレートの凹面に、該フォトクロミック性接着組成物を、得られるウレタン樹脂を含む接着層の厚みが0.8mmになるように塗布した。次いで、もう1枚の1.0mm厚、6カーブ、φ70mmのソーダガラス製の光学物品用プレートの凸面を、前記したフォトクロミック性接着組成物を塗布した光学物品用プレートのフォトクロミック性接着組成物を塗布した面と接するように、所定の間隔で設置した。
【0225】
次いで、50℃に加温した空気炉内に30分間放置した後に、昇温して120℃で1時間加熱してフォトクロミック性接着組成物を硬化することにより、フォトクロミック光学物品を得た。
【0226】
得られたフォトクロミック光学物品について、以下のようにして、外観、最大吸収波長、発色濃度、退色速度の各評価を行った。評価結果を下記表1及び表2に示した。
【0227】
〔評価項目〕
(1)外観:硬化後のフォトクロミック光学物品を正面から目視で観察した。特に、ウレタン樹脂を含む接着層の端部に発生する蒸発痕と思われる放射状の筋の長さについて次の基準で評価した。
1:1mm未満
2:1mm以上5mm未満
3:5mm以上
【0228】
(2)密着性試験:密着性は研磨による剥がれを指標とした。得られたフォトクロミック光学物品を、タクボ精機製作所製玉摺機ECOM6を用いて、φ50mmになるまで研磨し続け、外観を評価した。玉摺りを実施したフォトクロミック光学物品を正面から目視で観察し、以下の基準で評価した。なお、剥がれの大きさは、透明性が失われている部分の大きさを指標とした。
1;目視で、剥がれが確認できないもの。
2;目視で、1mm未満の剥がれが確認できるもの。
3;目視で、1mm以上の剥がれが確認できるもの。
【0229】
(3)最大吸収波長(λmax):(株)大塚電子工業製の分光光度計(瞬間マルチチャンネルフォトディテクタ-MCPD1000)により求めた発色後の最大吸収波長である。該最大吸収波長は発色時の色調に関係する。
【0230】
(4)発色濃度{ε(300)-ε(0)}:最大吸収波長における、300秒間光照射した後の吸光度{ε(300)}と光照射前の吸光度ε(0)との差。この値が高いほどフォトクロミック性が優れているといえる。
【0231】
(5)退色速度〔t1/2(sec.)〕:120秒間光照射後、光の照射を止めたときに、試料の最大吸収波長における吸光度が{ε(120)-ε(0)}の1/2まで低下するのに要する時間。この時間が短いほどフォトクロミック性が優れているといえる。
【0232】
<実施例2~15>
分子量200以下の液状有機化合物としてc-Hex(実施例2)、n-Hep(実施例3)、n-Oct(実施例4)、Tol(実施例5)、Xyl(実施例6)MEK(実施例7)、DEK(実施例8)、アセトン(実施例9)、ジクロロメタン(実施例10)、DMF(実施例11)、DMSO(実施例12)、エチレングリコールジメチルエーテル(実施例13)、ジエチレングリコールジメチルエーテル(実施例14)、トリエチレングリコールジメチルエーテル(実施例15)を用いた以外は、実施例1と同様な方法でフォトクロミック光学物品を製造し、評価を行った。評価結果を表1に示した。
【0233】
<実施例16~24>
分子量200以下の液状有機化合物としてTolを用い、その配合量を0.5質量部(実施例16)、1質量部(実施例17)、2質量部(実施例18)、3質量部(実施例19)、4質量部(実施例20)、10質量部(実施例21)、15質量部(実施例22)、30質量部(実施例23)、50質量部(実施例24)としたこと以外は、実施例1と同様な方法でフォトクロミック光学物品を製造し、評価を行った。評価結果を表2及び
図3に示した。
【0234】
<比較例1>
分子量200以下の液状有機化合物を用いないこと以外は、実施例1と同様な方法でフォトクロミック光学物品を製造し、評価を行った。
【0235】
【0236】
【0237】
表1の結果から明らかなように、分子量200以下の液状有機化合物を使用するとフォトクロミック性(発色濃度ならびに退色速度)がより向上することが分かる。理由は定かではないが、分子量200以下の液状有機化合物が、ウレタン樹脂中に構成されているソフトセグメント部分に含まれることで、ソフトセグメントがより柔軟になり、フォトクロミック化合物の可逆的な構造変化がより速やかに生じるようになると推測している。
【0238】
また、表1の結果から明らかなように、沸点が比較的低いアセトン、ジクロロメタンを使用すると蒸発に起因すると思われる放射状の筋が残り、外観品位が低下する傾向となった。一方、沸点が高いDMF、DMSO、ジエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテルを使用すると密着性が低下する傾向となった。この理由も定かではないが、接着層と光学物品用プレートとの界面に沸点が高い分子量200以下の液状有機化合物が残存してしまうため、密着性が低下すると推測している。
【0239】
また、分子量200以下の液状有機化合物の配合量について、トルエン(Tol)の場合で例示すると、表2及び
図3の結果から、フォトクロミック性の向上はTol量4質量部で飽和し、一方、Tol量30質量部以上になると、ウレタン樹脂を含む接着層端部にTolの蒸発に起因すると思われる放射状の筋が残って外観品位が低下する傾向となった。
【0240】
分子量200以下の液状有機化合物を一定量以上配合した場合に外観品位が低下する理由は定かではないが、ウレタン樹脂中に構成されているソフトセグメント部分が含むことができる分子量200以下の液状有機化合物量に限度があり、限度を超えた量は硬化中に光学物品用プレート間のフォトクロミック性接着組成物部分(ウレタン樹脂を含む接着層部分)端部から蒸発していく際、フォトクロミック性接着組成物部分(ウレタン樹脂を含む接着層部分)端部の硬化を促進してしまうため、結果としてウレタン樹脂を含む接着層端部に放射状の筋が残りやすくなってしまうものと推測している。
【符号の説明】
【0241】
1 :フォトクロミック光学物品
2 :光学物品用プレート
3 :ウレタン樹脂を含む接着層
4 :光学物品用プレート
10:ポリロタキサンモノマー
20:軸分子
30:環状分子
40:嵩高い末端基
50:側鎖