(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-05
(45)【発行日】2023-09-13
(54)【発明の名称】セメント組成物
(51)【国際特許分類】
C04B 7/52 20060101AFI20230906BHJP
C04B 22/10 20060101ALI20230906BHJP
C04B 22/14 20060101ALI20230906BHJP
【FI】
C04B7/52
C04B22/10
C04B22/14 B
(21)【出願番号】P 2020003493
(22)【出願日】2020-01-14
【審査請求日】2022-06-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000003182
【氏名又は名称】株式会社トクヤマ
(72)【発明者】
【氏名】国居 新
(72)【発明者】
【氏名】堀田 卓秀
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 真司
(72)【発明者】
【氏名】中村 明則
【審査官】永田 史泰
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-131416(JP,A)
【文献】特開2019-172497(JP,A)
【文献】特開2017-61400(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B7/00-32/02
C04B40/00-40/06
C04B103/00-111/94
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セメントクリンカー、無水石膏と二水石膏との双方を含む石膏、及び石灰石を、石膏の割合がSO
3換算で1.5質量%以上4.0質量%以下、石灰石の割合がCO
2換算で0.2質量%以上4.5質量%以下、
前記石膏において、無水石膏と二水石膏の比(SO
3
換算質量比)が1.0:1.0となるように混合・粉砕することを特徴とするセメント組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は新規なセメント組成物に関する。詳しくは、長期間保管した場合にも偽凝結を抑制することが可能なセメント組成物を提供するものである。
【背景技術】
【0002】
ポルトランドセメントは、エーライト(3CaO・SiO2)、ビーライト(2CaO・SiO2)、アルミネート(3CaO・Al2O3)、フェライト(4CaO・Al2O3・Fe2O3)を含む鉱物と、石膏とを主成分とする水硬性組成物であり、前記鉱物よりなるセメントクリンカーと石膏とを混合・粉砕することで製造され、モルタルやコンクリートの原料として広く使用されている。
【0003】
このようなポルトランドセメントに代表されるセメント組成物では、注水直後にあたかも凝結したように固まる「偽凝結」と呼ばれる品質異常が発生し、混練において、上記凝結状態を解消するための手間が余計にかかってしまうという問題がある。
【0004】
上記偽凝結は、セメント製造に使用された二水石膏が粉砕時の発熱などにより半水石膏に変化し、この半水石膏が原因で発生し、また、石膏として、理論上半水石膏を生じることが無い無水石膏を単独で用いたセメント組成物においても、数日間高温で貯蔵すると使用時に偽凝結が発生することもあり、偽凝結の原因が二水石膏の半水化だけではないことが報告されている(特許文献1参照)。このような状況において、上記特許文献1には、偽凝結を防止する手段として、石膏として無水石膏と二水石膏との双方を併用することが提案されている。
【0005】
上記組成により偽凝結をある程度防止することは出来るが、セメント組成物をより長期間保管した場合には偽凝結が発生するようになり、かかる問題を十分に防止することが困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで本発明は、従来よりも長期間保管した場合でも偽凝結を確実に防止できるセメント組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは鋭意検討を行った結果、前記セメントクリンカーに由来する鉱物と石膏よりなる組成において、石灰石の添加が、偽凝結の抑制に効果があるという知見を得た。そして、上記石膏として無水石膏と二水石膏の双方を含有する組成を選択することにより、上記石灰石による偽凝結防止効果が著しく向上し、より長期間保管した場合にも偽凝結を確実に防止できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、石膏をSO3換算で1.5質量%以上4.0質量%以下、石灰石をCO2換算で0.2質量%以上4.5質量%以下含有し、前記石膏は無水石膏と二水石膏との双方を含有することを特徴とするセメント組成物である。
【0010】
前記石灰石の含有量は、CO2換算で0.4質量%以上2.2質量%以下であることが好ましい。
【0011】
また、本発明によれば、セメントクリンカー、無水石膏と二水石膏との双方を含む石膏、及び石灰石を、石膏の割合がSO3換算で1.5質量%以上4.0質量%以下、石灰石の割合がCO2換算で0.2質量%以上4.5質量%以下となるように混合・粉砕することを特徴とするセメント組成物の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0012】
本発明のセメント組成物によれば、長期間保管した後であっても、混練時における偽凝結の発生を確実に防止できるため、効率よく、安定して混練作業を実施することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(セメント組成物)
本発明のセメント組成物は、石膏をSO3換算で1.5質量%以上4.0質量%以下、石灰石をCO2換算で0.2質量%以上4.5質量%以下の割合で含有し、前記石膏は無水石膏と二水石膏との双方を含有するものである。
【0014】
本発明のセメント組成物において、石膏の配合量は、SO3換算で1.5質量%以上4.0質量%以下であり、好ましくは1.8質量%以上3.8質量%以下、より好ましくは2.5質量%以上3.5質量%以下である。石膏量が前記範囲より少ない場合には、強度が不十分となってしまい、前記範囲より多い場合には膨張が大きくなってしまう。前記石膏としては、無水石膏と二水石膏の双方を含有することにより偽凝結を抑制することが出来る。
【0015】
また、上記石膏は、無水石膏単独でも、二水石膏単独でも、石灰石との作用による偽凝結防止効果を十分に発揮することができず、セメント組成物中に両者が共存することが必要である。但し、存在が確認できる範囲であれば、その存在割合は特に制限されない。また、前記石膏は、一部半水石膏を含んでいてもよい。
【0016】
本発明のセメント組成物は、石灰石をCO2換算で0.2質量%以上4.5質量%以下の割合で含有する。石灰石を含有することで、無水石膏と二水石膏との作用により、長期間保管しても偽凝結が発生しにくくなる。上記石灰石の作用により偽凝結が抑制される原因は明確には分かっていないが、上記の3成分を共存させることにより、偽凝結の主な原因となる半水石膏の作用が阻害されることで偽凝結が抑制されると推察される。
【0017】
本発明のセメント組成物中の石灰石の配合量は、CO2換算で0.2質量%以上4.5質量%以下であり、0.4質量%以上2.5質量%以下であることがより好ましい。石灰石の配合量が前記範囲より少ない場合、偽凝結抑制の効果が十分に得られない。石灰石の配合量が前記範囲より多い場合、セメントの強度が低下してしまう傾向にある。
【0018】
本発明のセメント組成物は、鉱物として、エーライト(3CaO・SiO2)、ビーライト(2CaO・SiO2)、アルミネート(3CaO・Al2O3)、フェライト(4CaO・Al2O3・Fe2O3)を含むことが一般的である。これらの鉱物はセメントクリンカーに由来する成分であり、後述するセメント組成物の製造工程において、セメントクリンカー、石膏、石灰石などの成分を混合・粉砕することによって、これらの鉱物がセメント組成物中に含有されることとなる。
【0019】
また、本発明のセメント組成物においては、これら以外の鉱物あるいは化合物を、本発明の効果を阻害しない範囲で使用することもできる。
【0020】
本発明のセメント組成物のブレーン比表面積は特に限定されず、一般的な値とすれば良い。一般的なポルトランドセメントでは2500~5000cm2/g程度であるが、ブレーン比表面積を3300cm2/g以上、特には4000cm2/g以上と高くした場合、セメント組成物の硬化性を制御するために石膏量を多く配合する必要があり、偽凝結が発生しやすくなるため、本発明の効果が顕著に表れて好ましい形態であると言える。なお、ブレーン比表面積は、JISR5201:2015に記載の方法で測定すれば良い。
【0021】
本発明のセメント組成物は、一般的なポルトランドセメントとして使用することが出来、例えば普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、超早強ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、低熱ポルトランドセメント、高炉セメント、フライアッシュセメントなどとして使用することが出来、その中でも、ブレーン比表面積が高い、早強ポルトランドセメントや超早強ポルトランドセメントとして使用することが好ましい。
【0022】
(セメント組成物の製造方法)
本発明においては、セメントクリンカーと前記した所定量の石膏、石灰石を混合・粉砕することで、偽凝結が抑制されたセメント組成物を調製可能である。すなわち、セメントクリンカー、無水石膏と二水石膏との双方を含む石膏、及び石灰石を、石膏の割合がSO3換算で1.5質量%以上4.0質量%以下、石灰石の割合がCO2換算で0.2質量%以上4.5質量%以下となるように混合・粉砕することで、偽凝結が抑制されたセメント組成物を調製できる。ここで、「混合・粉砕する」とは、粉砕完了時の混合が完了していれば良いことを意味し、具体的に粉砕機に供給する前にセメントクリンカー、石膏、石灰石を混合しておいても良く、セメントクリンカー、石膏、石灰石を各々粉砕機へ供給し、粉砕機の中で混合しつつ粉砕しても良い。
【0023】
また、前記石膏として配合される無水石膏と二水石膏の比(SO3換算質量比)は特に限定されるものではないが、偽凝結を抑制しやすいことから、1.0:2.0~2.0:1.0であることが好ましく、1.0:1.5~1.5:1.0であることがより好ましい。
【0024】
なお、二水石膏は粉砕時、或いは保管中に一部が半水石膏へと変化し、上記割合が変化することがあるが、本発明のセメント組成物においては、前記したように両者が存在していれば、石灰石添加による偽凝結防止効果が発揮され、特に、セメント組成物を製造する際の配合割合を、前記割合とすることにより、上記効果を一層発揮することができる。
【0025】
本発明で用いられるセメントクリンカーは、特に制限されるものではなく、公知の組成よりなるものであれば良く、一般には前記の鉱物(エーライト、ビーライト、アルミネート、フェライト)を含むものである。前記鉱物を含むセメントクリンカーを具体的に例示すれば、普通、早強、超早強、中庸熱、低熱等の各種ポルトランドセメント用クリンカー、及び、高炉セメント用クリンカー、フライアッシュセメント用クリンカーなどの混合系セメント用クリンカー等が好適に使用される。
【0026】
粉砕に用いる粉砕機としては、特に限定されるものではなく、セメント製造設備で用いられる粉砕機として公知のものを適宜使用することが可能である。代表的な粉砕機を例示すれば、連続式のチューブミル、竪型ローラーミル等、及びバッチ式のボールミル、ポットミル、ディスクミル等が挙げられる。
【0027】
前記粉砕機へのセメントクリンカー、石膏、石灰石の供給方法としては、連続式のチューブミルであればベルトコンベヤ等で所定の割合で連続的に供給する方法、バッチ式のボールミルであれば所定の割合で供給後、粉砕を行う方法が挙げられる。
【0028】
また、本発明における前記セメントクリンカー、石膏、石灰石の粉砕条件は、特に制限なく、粉砕機のサイズや、粉砕に供する混合物の使用量、得られるセメント組成物のブレーン比表面積等を勘案して適宜行えばよい。
【0029】
粉砕する際の温度についても、得られるセメント組成物の品質に影響がなければ特に制限されず、粉砕装置の能力や、セメントクリンカーの温度等を勘案して適宜決定すればよい。前記セメントクリンカー及び石膏の混合物を粉砕する際の温度としては、粉砕装置にもよるが、室温~150℃の範囲で行うのが一般的である。
【実施例】
【0030】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に制限されるものではない。各試験方法は以下のとおりである。
【0031】
<偽凝結試験方法>
偽凝結試験には、JISR5201:2015に定める偽凝結試験装置を用いる。偽凝結試験装置は、ビカー針装置と称される装置であり、それは滑り棒を上下動可能に保持したスタンドからなるものであり、このスタンドには、試料であるセメントペーストを載せる台(底板)がある。そして、滑り棒には、偽凝結試験用の標準棒が装着される。
【0032】
偽凝結試験を実施するに当たっては、まず標準軟度のセメントペーストを作る必要がある。その製造は以下のとおりに行う。セメント500gを混練用の鉢に入れ、標準軟度を得るに必要と思われる量の水を注ぎ、3分間十分に練り混ぜた後、セメントペースト容器に採り、過剰のセメントペーストを除き表面を平滑にする。このペースト中にビカー針装置に装着した標準棒を徐々に降下させ、標準棒の先端と底板との間隔が6±1mmになったセメントペーストを標準軟度セメントペーストとする。偽凝結となるセメントは、標準軟度を得るに必要な水量が増加するので注意を要する。
【0033】
偽凝結試験は標準軟度セメントペーストにビカー針装置に装着した標準棒を徐々に降下させ、標準棒がペースト表面から侵入した深さを、ペースト練り混ぜ終了後から5分後に測定する。上記侵入度が15mm以下のとき、偽凝結であると判断する。
【0034】
<実施例1>
焼成用ロータリーキルンの窯前に設置されたグレートクーラーより、早強ポルトランドセメント用クリンカー(以下、単に、クリンカーともいう)を取り出し、ジョークラッシャーにより約5mm未満に粗粉砕し、粗粉クリンカーを得た。この粗粉クリンカー1866gに、無水石膏を51g、二水石膏を65g、石灰石を18g加えて、混合物を調製した。
【0035】
上記混合物に粉砕助剤を適量添加し、内容積約10Lのポットミルにてブレーン比表面積が4600cm2/g(±50cm2/g)まで粉砕してセメント組成物を得た。セメント組成物の組成を表1に示す。
【0036】
上記操作を繰り返し、セメント組成物を4kg製造した。このセメント組成物を二水石膏が半水化するのに十分な温度である100℃の乾燥機内で貯蔵し、貯蔵日数が7日及び10日経過したとき、偽凝結試験に必要な分のセメントを取り出して、試験を実施した。結果を表2に示す。
【0037】
<実施例2~4、比較例1、2>
セメント組成物の組成及びブレーン比表面積を表1に示す通りに変更した以外は、実施例1と同様にセメント組成物を調製し、偽凝結試験を行った。評価結果を表2に示す。
【0038】
【0039】
【0040】
評価結果について、石膏として二水石膏と無水石膏の双方を含有し、且つ石灰石をCO2換算で0.2質量%以上4.5質量%以下含有した実施例1~4のセメント組成物は、10日間保管した時点で偽凝結が発生していなかった。一方、石膏として二水石膏と無水石膏の双方を含有するが、石灰石を含有しない比較例1のセメント組成物は、10日間保管した時点で偽凝結が発生した。石灰石を含有するが石膏として二水石膏のみを含有し無水石膏を含有していない比較例2は、7日間保管した時点で偽凝結が発生した。以上の結果から、石膏として二水石膏と無水石膏の双方を含有し、且つ石灰石をCO2換算で0.2質量%以上4.5質量%以下含有したセメント組成物は、長期間保管した場合でも偽凝結を十分に防止できると言える。