(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-05
(45)【発行日】2023-09-13
(54)【発明の名称】搬送装置、成膜装置及び制御方法
(51)【国際特許分類】
C23C 14/56 20060101AFI20230906BHJP
H10K 50/10 20230101ALI20230906BHJP
H05B 33/10 20060101ALI20230906BHJP
B65H 5/06 20060101ALI20230906BHJP
B65G 43/00 20060101ALI20230906BHJP
【FI】
C23C14/56 G
H05B33/14 A
H05B33/10
B65H5/06 J
B65G43/00 D
(21)【出願番号】P 2021018396
(22)【出願日】2021-02-08
【審査請求日】2021-11-29
(73)【特許権者】
【識別番号】591065413
【氏名又は名称】キヤノントッキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003281
【氏名又は名称】弁理士法人大塚国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】川崎 剛史
【審査官】今井 淳一
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-183042(JP,A)
【文献】特開2000-085955(JP,A)
【文献】特開2014-141706(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/56
H10K 50/10
H05B 33/10
B65H 5/06
B65G 43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板を搬送する第一のローラ群と、
前記基板の搬送方向で前記第一のローラ群の下流側に前記第一のローラ群に対して連続的に配置され、前記基板を搬送する第二のローラ群と、
前記第一のローラ群及び前記第二のローラ群を制御する制御手段と、
を備えた搬送装置であって、
前記制御手段は、
前記第一のローラ群が第一の搬送速度で前記基板を搬送している途中で、前記第一のローラ群及び前記第二のローラ群の搬送速度を前記第一の搬送速度より速い第二の搬送速度に変更する場合、変更前後の搬送速度差に応じた速度プロファイルで前記第一のローラ群及び前記第二のローラ群を加速制御し、
前記搬送速度差が所定速度未満の場合は、前記第一のローラ群の速度プロファイルと同じ速度プロファイルで前記第二のローラ群を加速制御し、
前記搬送速度差が前記所定速度以上の場合は、前記第一のローラ群の速度プロファイルよりも加速が急な速度プロファイルで前記第二のローラ群を加速制御する、
ことを特徴とする搬送装置。
【請求項2】
基板を搬送する第一のローラ群と、
前記基板の搬送方向で前記第一のローラ群の下流側に前記第一のローラ群に対して連続的に配置され、前記基板を搬送する第二のローラ群と、
前記第一のローラ群及び前記第二のローラ群を制御する制御手段と、
を備えた搬送装置であって、
前記制御手段は、
前記第一のローラ群が第一の搬送速度で前記基板を搬送している途中で、前記第一のローラ群及び前記第二のローラ群の搬送速度を前記第一の搬送速度より遅い第二の搬送速度に変更する場合、変更前後の搬送速度差に応じた速度プロファイルで前記第一のローラ群及び前記第二のローラ群を減速制御し、
前記搬送速度差が所定速度未満の場合は、前記第一のローラ群の速度プロファイルと同じ速度プロファイルで前記第二のローラ群を減速制御し、
前記搬送速度差が前記所定速度以上の場合は、前記第一のローラ群の速度プロファイルよりも減速が急な速度プロファイルで前記第二のローラ群を減速制御する、
ことを特徴とする搬送装置。
【請求項3】
請求項
1に記載の搬送装置であって、
前記制御手段は、前記搬送速度差と前記速度プロファイルとの対応関係を示すテーブルに基づいて前記第一のローラ群及び前記第二のローラ群を加速制御する、
ことを特徴とする搬送装置。
【請求項4】
請求項
2に記載の搬送装置であって、
前記制御手段は、前記搬送速度差と前記速度プロファイルとの対応関係を示すテーブルに基づいて前記第一のローラ群及び前記第二のローラ群を減速制御する、
ことを特徴とする搬送装置。
【請求項5】
請求項1乃至請求項
4のいずれか一項に記載の搬送装置であって、
前記第一のローラ群及び前記第二のローラ群の搬送速度の、オペレータによる指示を受け付ける受付手段を備える、
ことを特徴とする搬送装置。
【請求項6】
請求項1乃至請求項
5のいずれか一項に記載の搬送装置であって、
前記第一のローラ群は同期的に回転し、
前記第二のローラ群は同期的に回転する、
ことを特徴とする搬送装置。
【請求項7】
請求項1乃至請求項
6のいずれか一項に記載の搬送装置と、
前記搬送装置によって搬送されている基板に成膜を行う蒸発源と、を備える、
ことを特徴とする成膜装置。
【請求項8】
基板を搬送する第一のローラ群と、
前記基板の搬送方向で前記第一のローラ群の下流側に前記第一のローラ群に対して連続的に配置され、前記基板を搬送する第二のローラ群と、
を制御する制御方法であって、
前記第一のローラ群が第一の搬送速度で前記基板を搬送している途中で、前記第一のローラ群及び前記第二のローラ群の搬送速度を前記第一の搬送速度より速い第二の搬送速度に変更する場合、変更前後の搬送速度差に応じた速度プロファイルで前記第一のローラ群及び前記第二のローラ群を加速制御し、
前記搬送速度差が所定速度未満の場合は、前記第一のローラ群の速度プロファイルと同じ速度プロファイルで前記第二のローラ群を加速制御し、
前記搬送速度差が前記所定速度以上の場合は、前記第一のローラ群の速度プロファイルよりも加速が急な速度プロファイルで前記第二のローラ群を加速制御する、
ことを特徴とする制御方法。
【請求項9】
基板を搬送する第一のローラ群と、
前記基板の搬送方向で前記第一のローラ群の下流側に前記第一のローラ群に対して連続的に配置され、前記基板を搬送する第二のローラ群と、
を制御する制御方法であって、
前記第一のローラ群が第一の搬送速度で前記基板を搬送している途中で、前記第一のローラ群及び前記第二のローラ群の搬送速度を前記第一の搬送速度より遅い第二の搬送速度に変更する場合、変更前後の搬送速度差に応じた速度プロファイルで前記第一のローラ群及び前記第二のローラ群を減速制御し、
前記搬送速度差が所定速度未満の場合は、前記第一のローラ群の速度プロファイルと同じ速度プロファイルで前記第二のローラ群を減速制御し、
前記搬送速度差が前記所定速度以上の場合は、前記第一のローラ群の速度プロファイルよりも減速が急な速度プロファイルで前記第二のローラ群を減速制御する、
ことを特徴とする制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基板の搬送技術に関する。
【背景技術】
【0002】
有機ELディスプレイ等の製造において、基板を搬送するためにローラコンベアを用いた技術が知られている(例えば特許文献1)。多数のローラの制御は、所定のエリア単位で行われる。特許文献1の装置ではチャンバ単位でローラ群が制御される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一のローラ群から他のローラ群へ基板が乗り移る際、ローラ群間の搬送速度差が大きいと、基板とローラとの間にスリップが生じる。これは基板に傷をつけたり、搬送精度を低下させる要因となる。よって、各ローラ群の搬送速度は基本的に一定に制御されるが、製造設備の状況によって加減速が必要となる場合があり、ローラ群間の搬送速度差が大きくなる場合がある。
【0005】
本発明は、ローラ群間の搬送速度差の発生を抑制しつつ、搬送速度の加速又は減速が可能な技術を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によれば、
基板を搬送する第一のローラ群と、
前記基板の搬送方向で前記第一のローラ群の下流側に前記第一のローラ群に対して連続的に配置され、前記基板を搬送する第二のローラ群と、
前記第一のローラ群及び前記第二のローラ群を制御する制御手段と、
を備えた搬送装置であって、
前記制御手段は、
前記第一のローラ群が第一の搬送速度で前記基板を搬送している途中で、前記第一のローラ群及び前記第二のローラ群の搬送速度を前記第一の搬送速度より速い第二の搬送速度に変更する場合、変更前後の搬送速度差に応じた速度プロファイルで前記第一のローラ群及び前記第二のローラ群を加速制御し、
前記搬送速度差が所定速度未満の場合は、前記第一のローラ群の速度プロファイルと同じ速度プロファイルで前記第二のローラ群を加速制御し、
前記搬送速度差が前記所定速度以上の場合は、前記第一のローラ群の速度プロファイルよりも加速が急な速度プロファイルで前記第二のローラ群を加速制御する、
ことを特徴とする搬送装置が提供される。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、ローラ群間の搬送速度差の発生を抑制しつつ、搬送速度の加速又は減速が可能な技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図3】(A)~(C)は速度プロファイルの例を示す図。
【
図4】(A)は速度プロファイルの例を示す図、(B)はPLCの処理例を示すフローチャート。
【
図5】(A)及び(B)は搬送速度差と速度プロファイルとの対応関係を示すテーブルの例を示す図。
【
図6】(A)は搬送速度の変更タイミングの例を示す図、(B)及び(C)は速度プロファイルの例を示す図。
【
図8】(A)は有機EL表示装置の全体図、(B)は1画素の断面構造を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、添付図面を参照して実施形態を詳しく説明する。尚、以下の実施形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。実施形態には複数の特徴が記載されているが、これらの複数の特徴の全てが発明に必須のものとは限らず、また、複数の特徴は任意に組み合わせられてもよい。さらに、添付図面においては、同一若しくは同様の構成に同一の参照番号を付し、重複した説明は省略する。
【0010】
<第一実施形態>
<成膜装置の概要>
図1は本発明の一実施形態に係る搬送装置2を適用した成膜装置1及びその制御装置4の模式図である。本実施形態では、本発明の適用例として成膜装置を例示するが、本発明は他の装置における基板の搬送にも適用可能である。なお、各図において矢印X及びYは互いに直交する水平方向を示し、矢印Zは垂直方向(鉛直方向)を示す。成膜装置1は、搬送装置2と、複数の蒸着装置3と、を含む。複数の蒸着装置3はX方向に並べて配置されており、搬送装置2はこれら蒸着装置3の上方に配置されている。
【0011】
搬送装置2は、搬送ユニット2A~2Eを備える。搬送ユニット2A~2EはX方向に並べて配置されており、基板7をX方向に搬送する。本実施形態の場合、基板7は、キャリア9によってマスク8と共に搬送される。搬送ユニット2B~2Dは、各蒸着装置3に対応してソースチャンバ3aと連通するように設けられており、蒸着装置3による成膜中に基板7を搬送する。
【0012】
搬送ユニット2A、2Eは搬送速度調整基準となるユニットである。成膜装置1では、基本的に基板7は一定の速度で搬送される。しかし、成膜装置1を含む製造設備の状況に応じて基板7の搬送速度を変更する場合がある。基板7の搬送速度を変更する場合、搬送ユニット2A、2Eで加減速を行い、その下流側の搬送ユニットは上流側の搬送速度に従う。例えば、搬送ユニット2Aにおいて基板7の搬送速度を変更すると、搬送ユニット2A~2Eは変更後の搬送速度で基板7を搬送する。
【0013】
各搬送ユニット2A~2Eは、使用時に真空に維持される搬送室を内部に形成する搬送チャンバ2aを備える。搬送チャンバ2aのX方向の一端部には搬入口2cが、他端部には搬出口2dが設けられており、基板7は、搬入口2cから搬送チャンバ2a内に搬入され、搬出口2dから外部へ搬出される。搬入口2a及び搬出口2dにはゲートバルブを設けてもよい。搬送ユニット2Aには上流側の装置(不図示)から基板7が搬入され、搬送ユニット2Eは下流側の装置(不図示)へ基板7を搬出する。
【0014】
搬送ユニット2A~2Eは、ローラ群RG1~RG5を備える。各ローラ群RG1~RG5は、X方向に配列された複数の搬送ローラ2bで構成されている。この搬送ローラ2bの列は、Y方向に離間して二列配置されている。各搬送ローラ2bはY方向の回転軸周りに回転する。基板7(キャリア9)は、二列の搬送ローラ2bに、そのY方向の両端部が載置され、搬送ローラ2bの回転によってX方向に水平姿勢で搬送される。
【0015】
ローラ群RG1~RG5のうち、ローラ群RG1は最上流側に位置している。ローラ群RG2はローラ群RG1の下流側にローラ群RG1に対して連続的に配置されている。ローラ群RG3はローラ群RG2の下流側にローラ群RG2に対して連続的に配置されている。ローラ群RG4はローラ群RG3の下流側にローラ群RG3に対して連続的に配置されている。ローラ群RG5はローラ群RG4の下流側にローラ群RG4に対して連続的に配置されている。
【0016】
各蒸着装置3は、使用時に真空に維持される内部空間を形成するソースチャンバ3aを備える。ソースチャンバ3aは、上部に開口部が形成された箱型を有しており、開口部を介して、搬送ユニット2B~2Dの搬送チャンバ2aとソースチャンバ3aの内部空間とが連通している。蒸着装置3は上方に蒸着物質3cを放出する蒸着源3bを備える。本実施形態の蒸着源6はいわゆるラインソースであり、搬送装置2での処理対象物の搬送方向(X方向)と交差する方向(本実施形態では搬送方向と直交するY方向)に延設されている。蒸着源6は、蒸着物質6aの原材料を収容する坩堝や、坩堝を加熱するヒータ等を備え、原材料を加熱してその蒸気である蒸着物質3cを搬送チャンバ2aへ放出する。
【0017】
成膜装置1は、搬送装置2により処理対象物を搬送しながら(搬送工程)、蒸着装置3により基板7に蒸着物質を蒸着する(蒸着工程)、成膜方法を実行可能な、インライン型の成膜装置である。成膜装置1は、例えば、表示装置(フラットパネルディスプレイなど)や薄膜太陽電池、有機光電変換素子(有機薄膜撮像素子)等の電子デバイスや、光学部材等を製造する、電子デバイスの製造方法を実行する製造装置に適用可能である。基板7はマスク8と共にX方向に搬送され、基板7の下側に位置するマスク8を通して蒸着物質3cを基板7に蒸着することにより、所定のパターンの蒸着物質の薄膜を基板7に形成することができる。基板7は例えばガラス、樹脂、金属等の材料からなる板材であり、蒸着物質3cとしては、有機材料、無機材料(金属、金属酸化物など)などの物質である。
【0018】
本実施形態では、複数の蒸着装置3が基板10の搬送方向に配置されている。蒸着装置3により異なる種類の蒸着物質を放出する場合、基板10に異なる蒸着物質を連続的に蒸着することができる。なお、蒸着装置3の数は3つに限られず、1つあるいは2つでもよいし、4つ以上であってもよい。
【0019】
成膜装置1は、制御装置4を備える。制御装置4は搬送ユニット2A~2Eに個別に割り当てられた制御ユニット4A~4Eを含む。制御ユニット4A~4Eは本実施形態の場合、PLC(プログラマブルコントローラ)である。各制御ユニット4A~4Eは、CPU等のプロセッサ、記憶デバイス、外部デバイスとのインタフェースを有し、プロセッサが記憶デバイスに格納されたプログラムを実行することで、対応するローラ群RG1~RG5の駆動制御を行う。制御ユニット4A~4Eは互いに通信可能に接続されている。
【0020】
ローラ群RG1~RG5はモータを駆動源とする。モータは、搬送ローラ2b毎に設けられてもよいし、ローラ群RG1~RG5毎に一つ設けられ、歯車機構等の伝達機構によって、同じローラ群内の各搬送ローラ2bに駆動力が伝達されてもよい。制御ユニット4A~4Eは、対応するローラ群RG1~RG5のモータを制御する。例えば、制御ユニット4Aはローラ群RG1のモータを制御し、制御ユニット4Bはローラ群RG2のモータを制御する。同じローラ群内の各搬送ローラ2bは同期的に回転する。例えばローラ群RG1の各搬送ローラ2bは同じ回転速度で駆動され、また、加速、減速も同期的に制御される。
【0021】
各制御ユニット4A~4Eは、対応するセンサ5A~5Eの検知結果に応じて対応するローラ群RG1~RG5のモータを制御する。センサ5A~5Eは、搬送ユニット2A~2Eに対応しており、例えば、センサ5Aは搬送ユニット2Aに設けられている。各センサ5A~5Eは、搬送ローラ2bの回転速度を検知するセンサ(例えばロータリエンコーダ)や、基板7の搬送方向の位置を検知するセンサ(例えばX方向に複数配置され、基板7の有無を検知する光学センサ等)を含む。
【0022】
入力装置6A、6Bは、オペレータによる指示を受け付ける受付ユニットであり、例えば、タッチパネルである。入力装置6Aは制御ユニット4Aに接続されており、入力装置6Bは制御ユニット4Eに接続されている。オペレータは、基板7の搬送速度を変更する場合、入力装置6Aや入力装置6Bから、その指示を行うことができる。
【0023】
<搬送速度の変更>
各制御ユニット4A~4Eは、ローラ群RG1~RG5を同じ搬送速度で制御する。入力装置6Aから搬送速度の変更指示があると、変更後の目標搬送速度に搬送速度を制御する。以下、制御ユニット4A及び4Bによるローラ群RG1~RG5の搬送速度の変更例について説明する。
図2はその説明図である。
【0024】
入力装置6Aを介してオペレータからPLC4Aに対して目標搬送速度の変更指示が行われると、PLC4Aは変更指示に応じてローラ群RG1の搬送速度を変更する。また、PLC4AはPLC4Bに対して目標搬送速度の変更指示を行う。PLC4Bは変更指示に応じてローラ群RG2の搬送速度を変更する。
【0025】
図2はローラ群RG1による基板7の搬送途中で搬送速度を変更する場合を想定している。ローラ群RG1ローラ群RG2との間に搬送速度の差が生じている段階で、基板7がローラ群RG2に到達してしまうと、基板7は速度差のあるローラ群RG1とローラ群RG2との双方に搬送される状態となり、搬送ローラ2bのスリップを招く。したがって、本実施形態では、基板7がローラ群RG2に到達する前にローラ群RG2の搬送速度が変更後の搬送速度に達するよう、ローラ群RG2を制御する。
【0026】
図2は、時間T1において基板7がローラ群RG1のみで搬送された状態となっている。この状態から制御ユニット4Aは目標搬送速度にローラ群RG1の搬送速度を変更する。また、制御ユニット4Aから指示を受けた制御ユニット4Bも同じ目標搬送速度にローラ群RG2の搬送速度を変更する。基板7は距離Lだけ搬送されるとローラ群RG2に到達する。その到達時間T2までにローラ群RG1及びローラ群RG2の搬送速度の変更を完了する。
【0027】
図3(A)は、搬送速度を速度V0からV1へ加速する場合の、ローラ群RG1の搬送速度の速度プロファイルPF1と、ローラ群RG2の搬送速度の速度プロファイルPF2とを例示している。図示の例では速度プロファイルは線形であり、加速度は一定である(以下、他の例も同じ)。
【0028】
速度プロファイルPF1は、時間T1でローラ群RG1の加速が開始され、時間T2よりも速いタイミングで目標搬送速度への加速が完了している。速度プロファイルPF2は、時間T1’でローラ群RG2の加速が開始され、時間T2よりも速いタイミングで目標搬送速度への加速が完了している。時間T1と時間T1’の間のタイムラグは、制御ユニット4Bは制御ユニット4Aから変更指示を受信することにより制御を開始するため、その遅れを想定している。速度プロファイルPF2は、速度プロファイルPF1と同じプロファイルである。
【0029】
図3(B)は、搬送速度を速度V0からV2へ加速する場合の、ローラ群RG1の搬送速度の速度プロファイルPF1と、ローラ群RG2の搬送速度の速度プロファイルPF2とを例示している。速度V2は速度V1よりも速く、速度V0と速度V2との速度差は、速度V0と速度V1との速度差よりも大きい。この例において、速度プロファイルPF1、PF2として、
図3(A)と同じ速度プロファイルPF1、PF2を用いると、ローラ群RG1については、時間T2よりも速いタイミングで目標搬送速度への加速が完了しているが、ローラ群RG2については、時間T2に間に合わず、時間T2の時点での搬送速度は速度V2よりも遅いV2’である。よって、基板7は速度差のあるローラ群RG1とローラ群RG2とによって搬送される状況となり、搬送ローラ2bのスリップが生じる。
【0030】
そこで、
図3(B)のように変更前後の搬送速度の速度差が大きい場合、速度プロファイルPF2として速度プロファイルPF1と異なる速度プロファイルを用いる。
図3(C)はその一例を示す。速度プロファイルPF2は、速度プロファイルPF1よりも加速が急なプロファイルとしている。これによりローラ群RG2についても、時間T2よりも速いタイミングで目標搬送速度への加速を完了することができる。
図3(C)の例の場合、速度プロファイルPF1も同様に、加速が急なプロファイルに変更することも考えられるが、基板7の搬送速度の加減速はなるべく緩やかである方が搬送精度の点で有利である。したがって、速度プロファイルPF1、PF2としては可能な範囲で変化が緩やかな速度プロファイルを採用しつつ、速度差が大きく変速が間に合わない場合にのみ、変化が急な速度プロファイルを採用する方が有利である。
【0031】
搬送速度の減速時も同様である。
図4(A)は、
図2の状況において、変更前後の搬送速度の速度差が大きいため、ローラ群GR1とローラ群GR2とで速度プロファイルを異ならせた例を示しており、搬送速度を速度V0からV3へ減速する場合の、ローラ群RG1の搬送速度の速度プロファイルPF1と、ローラ群RG2の搬送速度の速度プロファイルPF2とを例示している。速度プロファイルPF2は、速度プロファイルPF1よりも減速が急なプロファイルとしている。これによりローラ群RG2についても、時間T2よりも速いタイミングで目標搬送速度への加速を完了することができる。
【0032】
図4(B)は、搬送速度変更時の制御ユニット4A及び4Bの処理例を示すフローチャートである。制御ユニット4Aは、S1で入力装置6Aを介してオペレータによる搬送速度の変更指示を受け付ける。S2では変更後の搬送速度(制御の目標搬送速度)と共に、搬送速度の変更指示を制御ユニット4Bに送信する。S3で速度プロファイルPF1を設定する(本実施形態の場合、加速度又は減速度の設定)。S4でS3で設定した速度プロファイルPF1でローラ群GR1の速度変更を行う。
【0033】
制御ユニット4Bは、S11で制御ユニット4Aから搬送速度の変更指示を受信する。S12で速度プロファイルPF2を設定する(本実施形態の場合、加速度又は減速度の設定)。S13でS12で設定した速度プロファイルPF2でローラ群GR2の速度変更を行う。
【0034】
S3、S12の速度プロファイルの設定においては、変更の前後での搬送速度の速度差を演算し、速度差に応じて速度プロファイルを設定する。その際、速度差と速度プロファイルとの対応関係を示すテーブルを予め用意しておき、制御ユニット4A、4Bの記憶デバイスに記憶しておき、読み出して設定してもよい。
図5(A)は加速時に用いるテーブルの例を示している。「上流」はローラ群GR1の速度プロファイル(加速度)を示し、「下流」はローラ群GR2の速度プロファイル(加速度)を示している。
【0035】
速度差がv1未満の場合、ローラ群GR1及びGR2の加速度は同じである(α1)。速度差がv1以上になると、ローラ群GR1とローラ群GR2とで加速度が異なり、ローラ群GR2の方が加速度が大きくなる(β1>α1、β2>α2)。
【0036】
図5(B)は減速時に用いるテーブルの例を示している。加速時に用いるテーブルと同様の内容となっている。速度差がv1未満の場合、ローラ群GR1及びGR2の加速度は同じである(α11)。速度差がv1以上になると、ローラ群GR1とローラ群GR2とで加速度が異なり、ローラ群GR2の方が加速度が大きくなる(β11>α11、β12>α12)。
【0037】
図5(A)及び
図5(B)の例ではローラ群GR1の加速度、減速度も複数種類設定されているが、ローラ群GR1の加速度、減速度は一種類であってもよい(加速時はα1のみ、減速時はα11のみ)。但し、この場合、変更可能な搬送速度の範囲の制限が強くなる。
【0038】
以上の通り、本実施形態では、ローラ群GR1、GR2間の搬送速度差の発生を抑制しつつ、搬送速度の加速又は減速が可能な技術を提供することができる。
【0039】
<第二実施形態>
第一実施形態では、加速期間、減速期間として
図2の距離Lが固定の距離であることを想定した。しかし、距離Lは可変であってもよく、オペレータから変更指示を受けた任意のタイミングで設定される距離であってもよい。距離Lが異なることにより、加速期間、減速期間が異なることになる。この場合、距離Lに応じて速度プロファイルを設定することになる。したがって、距離Lに応じて
図5(A)及び
図5(B)に例示したテーブルを用意しておき、制御ユニット4A、4Bの記憶デバイスに記憶しておいてもよい。
【0040】
<第三実施形態>
第一実施形態では、基板7がローラ群RG2に到達する前にローラ群RG2の搬送速度が変更後の搬送速度に達するよう、ローラ群RG2の加速度又は減速度を制御した。しかし、加速度又は減速度は変更せず、加速開始タイミング、減速開始タイミングを変更してもよい。例えば、制御ユニット4Aが制御ユニット4Bに変更指示を出すタイミング(
図2の例では時間T1)を変更前後の速度差に応じて早めてもよい。
【0041】
<第四実施形態>
第一実施形態では、基板7がローラ群RG2に到達する前にローラ群RG2の搬送速度が変更後の搬送速度に達するよう、ローラ群RG2を制御した。しかし、ローラ群G2の搬送速度の変更が間に合わない場合、ローラ群RG1を基板7が通過した後に速度変更を開始してもよい。
図6(A)はその説明図である。
【0042】
基板7のローラ群GR1による搬送途中で、オペレータからの搬送速度の変更指示に対応して時間T1で搬送速度の変更を開始する場合を想定する。基板7がローラ群RG2に到達する前にローラ群RG2の搬送速度が変更後の搬送速度に達すると推定される場合(
図3(A)と同様の場合)は、直ぐに搬送速度の変更を開始する。この推定は変更の前後での搬送速度の速度差を基準とすることができる(例えば
図5(A)及び
図5(B)の速度差v1を閾値とする)。
【0043】
ローラ群G2の搬送速度の変更が間に合わないと推定される場合(
図3(B)と同様の場合)は、搬送速度を変更せずに基板7の搬送を継続し、基板7がローラ群GR1を通過した時間T3のタイミングでローラ群G1及びG2の搬送速度を変更する。ローラ群GR2は搬送速度を変更しつつ基板7を搬送し、ローラ群GR1は次に搬入されてくる基板7を搬送速度を変更しつつ搬送することになる。
【0044】
図6(B)は基板7がローラ群GR1を通過した時間T3のタイミングでローラ群G1及びG2の搬送速度を変更する例であって、加速時の速度プロファイルPF1及びPF2を例示している。時間T1の段階では搬送速度の加速を行わず、時間T3の段階で搬送速度の加速を行う。ローラ群GR1の速度プロファイルPF1及びローラ群GR2の速度プロファイルPF2は同じ速度プロファイル(加速度)である。
図6(C)は減速時の例を示しており、加速時と同様である。
【0045】
図7は、本実施形態における搬送速度変更時の制御ユニット4A及び4Bの処理例を示すフローチャートである。制御ユニット4Aは、S21で入力装置6Aを介してオペレータによる搬送速度の変更指示を受け付ける。S22では変更の前後での搬送速度の速度差を演算し、閾値(v1)以上か否かを判定する。閾値以上であれば、ローラ群G2の搬送速度の変更が間に合わないと判断してS23へ進み、閾値未満であれば変更が間に合うと判断してS24へ進む。
【0046】
S23では基板7がローラ群GR1を通過するまで搬送速度を変更せずに搬送を継続する。S24で制御ユニット4Aは、変更後の搬送速度(制御の目標搬送速度)と共に、搬送速度の変更指示を制御ユニット4Bに送信する。S25で制御ユニット4Aは目標搬送速度までローラ群GR1の速度変更を行う。速度プロファイルは予め定めた一種類のプロファイルを使う。
【0047】
制御ユニット4Bは、S31で制御ユニット4Aから搬送速度の変更指示を受信する。S32で目標搬送速度までローラ群GR2の速度変更を行う。速度プロファイルはローラ群GR1と同じ、予め定めた一種類のプロファイルを使う。
【0048】
<電子デバイス>
次に、電子デバイスの一例を説明する。以下、電子デバイスの例として有機EL表示装置の構成を例示する。
【0049】
まず、製造する有機EL表示装置について説明する。
図8(A)は有機EL表示装置500の全体図、
図8(B)は1画素の断面構造を示す図である。
【0050】
図8(A)に示すように、有機EL表示装置500の表示領域51には、発光素子を複数備える画素52がマトリクス状に複数配置されている。詳細は後で説明するが、発光素子のそれぞれは、一対の電極に挟まれた有機層を備えた構造を有している。
【0051】
なお、ここでいう画素とは、表示領域51において所望の色の表示を可能とする最小単位を指している。カラー有機EL表示装置の場合、互いに異なる発光を示す第1発光素子52R、第2発光素子52G、第3発光素子52Bの複数の副画素の組み合わせにより画素52が構成されている。画素52は、赤色(R)発光素子と緑色(G)発光素子と青色(B)発光素子の3種類の副画素の組み合わせで構成されることが多いが、これに限定はされない。画素52は少なくとも1種類の副画素を含めばよく、2種類以上の副画素を含むことが好ましく、3種類以上の副画素を含むことがより好ましい。画素52を構成する副画素としては、例えば、赤色(R)発光素子と緑色(G)発光素子と青色(B)発光素子と黄色(Y)発光素子の4種類の副画素の組み合わせでもよい。
【0052】
図8(B)は、
図8(A)のA-B線における部分断面模式図である。画素52は、基板53上に、第1の電極(陽極)54と、正孔輸送層55と、赤色層56R・緑色層56G・青色層56Bのいずれかと、電子輸送層57と、第2の電極(陰極)58と、を備える有機EL素子で構成される複数の副画素を有している。これらのうち、正孔輸送層55、赤色層56R、緑色層56G、青色層56B、電子輸送層57が有機層に当たる。赤色層56R、緑色層56G、青色層56Bは、それぞれ赤色、緑色、青色を発する発光素子(有機EL素子と記述する場合もある)に対応するパターンに形成されている。
【0053】
また、第1の電極54は、発光素子ごとに分離して形成されている。正孔輸送層55と電子輸送層57と第2の電極58は、複数の発光素子52R、52G、52Bにわたって共通で形成されていてもよいし、発光素子ごとに形成されていてもよい。すなわち、
図8(B)に示すように正孔輸送層55が複数の副画素領域にわたって共通の層として形成された上に赤色層56R、緑色層56G、青色層56Bが副画素領域ごとに分離して形成され、さらにその上に電子輸送層57と第2の電極58が複数の副画素領域にわたって共通の層として形成されていてもよい。
【0054】
なお、近接した第1の電極54の間でのショートを防ぐために、第1の電極54間に絶縁層59が設けられている。さらに、有機EL層は水分や酸素によって劣化するため、水分や酸素から有機EL素子を保護するための保護層60が設けられている。
【0055】
図8(B)では正孔輸送層55や電子輸送層57が一つの層で示されているが、有機EL表示素子の構造によって、正孔ブロック層や電子ブロック層を有する複数の層で形成されてもよい。また、第1の電極54と正孔輸送層55との間には第1の電極54から正孔輸送層55への正孔の注入が円滑に行われるようにすることのできるエネルギーバンド構造を有する正孔注入層を形成してもよい。同様に、第2の電極58と電子輸送層57の間にも電子注入層を形成してもよい。
【0056】
赤色層56R、緑色層56G、青色層56Bのそれぞれは、単一の発光層で形成されていてもよいし、複数の層を積層することで形成されていてもよい。例えば、赤色層56Rを2層で構成し、上側の層を赤色の発光層で形成し、下側の層を正孔輸送層又は電子ブロック層で形成してもよい。あるいは、下側の層を赤色の発光層で形成し、上側の層を電子輸送層又は正孔ブロック層で形成してもよい。このように発光層の下側又は上側に層を設けることで、発光層における発光位置を調整し、光路長を調整することによって、発光素子の色純度を向上させる効果がある。
【0057】
なお、ここでは赤色層56Rの例を示したが、緑色層56Gや青色層56Bでも同様の構造を採用してもよい。また、積層数は2層以上としてもよい。さらに、発光層と電子ブロック層のように異なる材料の層が積層されてもよいし、例えば発光層を2層以上積層するなど、同じ材料の層が積層されてもよい。
【0058】
こうした電子デバイスの製造において、上述した成膜装置1が適用可能であり、当該製造方法は、搬送装置2により基板53を搬送する搬送工程と、搬送されている基板53に蒸着装置3によって各層の少なくともいずれか一つの層を蒸着する蒸着工程と、を含むことができる。
【0059】
<他の実施形態>
本発明は、上述の実施形態の1以上の機能を実現するプログラムを、ネットワーク又は記憶媒体を介してシステム又は装置に供給し、そのシステム又は装置のコンピュータにおける1つ以上のプロセッサがプログラムを読出し実行する処理でも実現可能である。また、1以上の機能を実現する回路(例えば、ASIC)によっても実現可能である。
【0060】
発明は上記実施形態に制限されるものではなく、発明の精神及び範囲から離脱することなく、様々な変更及び変形が可能である。従って、発明の範囲を公にするために請求項を添付する。
【符号の説明】
【0061】
1 成膜装置、2 搬送装置、4 制御装置、7 基板、RG1~RG5 ローラ群