(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-06
(45)【発行日】2023-09-14
(54)【発明の名称】硫化物の浸出方法
(51)【国際特許分類】
C22B 23/00 20060101AFI20230907BHJP
C22B 3/06 20060101ALI20230907BHJP
C22B 3/08 20060101ALI20230907BHJP
C22B 3/44 20060101ALI20230907BHJP
【FI】
C22B23/00 102
C22B3/06
C22B3/08
C22B3/44 101B
(21)【出願番号】P 2019211802
(22)【出願日】2019-11-22
【審査請求日】2022-06-14
(73)【特許権者】
【識別番号】504145342
【氏名又は名称】国立大学法人九州大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】岸田 昌浩
(72)【発明者】
【氏名】川田 寛之
(72)【発明者】
【氏名】山本 剛
(72)【発明者】
【氏名】平郡 伸一
【審査官】▲辻▼ 弘輔
(56)【参考文献】
【文献】特開昭50-061305(JP,A)
【文献】特開平09-324225(JP,A)
【文献】特開昭57-023041(JP,A)
【文献】特開2019-059984(JP,A)
【文献】特開2000-169116(JP,A)
【文献】特開2018-197368(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22B 23/00
C22B 3/06
C22B 3/08
C22B 3/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属硫化物を含む硫黄化合物を酸浸出する硫化物の浸出方法であって、
前記硫黄化合物と還元剤とを
水中で接触させて
、前記硫黄化合物の表面に存在する難溶性物質を還元する前処理工程と、
前記前処理工程での処理後の硫黄化合物に酸を加えて浸出する浸出工程と、を有
し、
前記還元剤は、前記金属硫化物を構成する金属イオンを還元可能なものである、
硫化物の浸出方法。
【請求項2】
前記金属硫化物は、ニッケル及び/又はコバルトを含む硫化物である、
請求項1に記載の硫化物の浸出方法。
【請求項3】
前記金属硫化物は、硫黄リッチな化合物である、
請求項1又は2記載の硫化物の浸出方法。
【請求項4】
前記ニッケル及び/又はコバルトを含む硫化物は、ニッケル酸化鉱石を硫酸により浸出して得られる水溶液に硫化剤を添加して生成される硫化物である、
請求項2に記載の硫化物の浸出方法。
【請求項5】
前記還元剤は、水素化ホウ素化合物である、
請求項1乃至4のいずれかに記載の硫化物の浸出方法。
【請求項6】
前記浸出工程における処理中の硫黄化合物を取り出し、再び還元剤と
水中で接触させて還元する還元処理工程と、
前記還元処理工程での処理後の硫黄化合物に再び酸を加えて浸出する再浸出工程と、をさらに有する、
請求項1乃至5のいずれかに記載の硫化物の浸出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硫化物の浸出方法に関するものであり、より詳しくは、金属硫化物を含む硫黄化合物を効率的に浸出させる硫化物の浸出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ニッケルの製錬方法としては、例えば特許文献1に記載されているように、ニッケル硫化物であるニッケルマット等の原料に塩素ガスを吹き込んで塩素浸出し、浸出されたニッケルを電解採取することにより、電気ニッケルを製造する方法が実用化されている。この方法は工程がシンプルであるうえ、電解採取により発生した塩素ガスを浸出に再利用することができるため、経済的に優位な方法である。特許文献1に記載されているニッケルマットとは、例えばニッケル硫化鉱石を炉で熔解して不純物と分離する工程や、硫黄と共に熔解する工程等からなる乾式溶錬法で製造される。
【0003】
一方、近年は資源の有効活用として埋蔵量が豊富なラテライト鉱等の低品位ニッケル酸化鉱石の処理技術が開発されており、代表的な製錬法として、例えば特許文献2に記載されている高圧硫酸浸出法がある。この方法は、ニッケル酸化鉱石を高温高圧雰囲気下で硫酸により浸出し、得られた浸出液から鉄をはじめとする不純物を除去した後、硫化水素ガス等の硫化剤を浸出液中に吹き込んでニッケル硫化物を生成する。このようにして得られるニッケル硫化物は、ニッケルとコバルトとを含む混合硫化物(MS:Mixed Sulfide)であり、特許文献1に記載されている方法により処理が可能である。
【0004】
しかしながら、MS(ニッケル硫化物)は、ニッケルマットに比べて塩素浸出する際の浸出速度が遅いため、設備が大型化する問題がある。浸出速度の違いは、それぞれの製造方法に由来するニッケル硫化物の組成によると考えられている。具体的には、ニッケルマットはNiメタルやNi3S2等のNiリッチなものが主成分であるのに対し、MSはNiSやNi3S4等のSリッチなものが主成分であり、特に、このようなSリッチなニッケル硫化物は溶解しにくい特徴がある。
【0005】
MS等のニッケル硫化物の溶解性を向上させることにより、増処理や設備の小型化が可能となるため経済優位性が見込まれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特公平07-091599号公報
【文献】特開平6-116660号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであり、浸出速度を向上させることができる硫化物の浸出方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上述した課題を解決するために鋭意検討を重ねた。その結果、金属硫化物を含む硫黄化合物に、酸を添加して浸出処理するにあたっての前処理として、所定の還元剤と接触させて還元する処理を施すことで、その硫化物の浸出速度が向上することを見出し、本発明を完成させた。
【0009】
(1)本発明の第1の発明は、硫黄リッチな金属硫化物を含む硫黄化合物を酸浸出する硫化物の浸出方法であって、前記硫黄化合物と還元剤とを接触させて還元する前処理工程と、前記前処理工程での処理後の硫黄化合物に酸を加えて浸出する浸出工程と、を有する、硫化物の浸出方法である。
【0010】
(2)本発明の第2の発明は、第1の発明において、前記金属硫化物は、ニッケル及び/又はコバルトを含む硫化物である、硫化物の浸出方法である。
【0011】
(3)本発明の第3の発明は、第1又は第2の発明において、前記金属硫化物は、硫黄リッチな化合物である、硫化物の浸出方法である。
【0012】
(4)本発明の第4の発明は、第2の発明において、前記ニッケル及び/又はコバルトを含む硫化物は、ニッケル酸化鉱石を硫酸により浸出して得られる水溶液に硫化剤を添加して生成される硫化物である、硫化物の浸出方法である。
【0013】
(5)本発明の第5の発明は、第1乃至第4のいずれかの発明において、前記還元剤は、水素化ホウ素化合物である、硫化物の浸出方法である。
【0014】
(6)本発明の第6の発明は、第1乃至第5のいずれかの発明において、前記浸出工程における処理中の硫黄化合物を取り出し、再び還元剤と接触させて還元する還元処理工程と、前記還元処理工程での処理後の硫黄化合物に再び酸を加えて浸出する再浸出工程と、をさらに有する、硫化物の浸出方法である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、浸出速度を効果的に向上させることができ、硫化物に含まれる金属を効率的に浸出させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】実施例1(1-1~1-3)、比較例1における浸出処理時間に対するニッケル浸出率の測定結果のグラフ図である。
【
図2】実施例2における浸出処理時間に対するニッケル浸出率の測定結果のグラフを図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の具体的な実施形態について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲で種々の変更が可能である。また、本明細書において、「X~Y」(X、Yは任意の数値)との表記は、「X以上Y以下」の意味である。
【0018】
本実施の形態に係る浸出方法は、硫化物の浸出方法(以下、単に「浸出方法」という)である。より詳しくは、ニッケル硫化物等の金属硫化物を含む硫黄化合物(以下、この硫黄化合物を「硫化物」ともいう)を酸により浸出させる方法である。
【0019】
具体的に、この浸出方法は、金属硫化物を含む硫黄化合物と所定の還元剤とを接触させて還元する前処理工程と、前処理工程での処理後の硫黄化合物に酸を加えて浸出する浸出工程と、を有することを特徴としている。このような方法によれば、硫化物の浸出速度を向上させることができ、効率的にその硫化物から金属成分を浸出させた溶液を得ることができる。
【0020】
[浸出対象の硫化物について]
浸出対象となる硫化物は、上述したように金属硫化物を含む硫黄化合物である。その中でも特に、硫黄リッチな金属硫化物を含む硫黄化合物を好適に用いることができる。具体的には例えば、ニッケル酸化鉱石を高温高圧下で硫酸により浸出して得られる水溶液(浸出液)に、硫化剤を添加して硫化反応を生じさせて生成される、ニッケル及び/又はコバルトの硫化物を用いることができる。なお、ここで用いる硫化剤は、特に限定されず、硫化水素ガスや硫化水素ナトリウム、硫化水素カリウム等の工業的に広く用いられている薬剤を使用できる。
【0021】
例えば、原料のニッケル酸化鉱石を硫酸で浸出して得られる浸出液に対して硫化処理を施して生成される、ニッケル及び/又はコバルトを含む硫化物(「MS」とも呼ばれる)は、NiSやNi3S4等の硫黄リッチな金属硫化物を含む硫黄化合物である。このような硫黄リッチな金属硫化物を主成分として含む硫黄化合物は、塩酸等の酸による浸出速度が遅い。したがって、特に、このような硫黄リッチな金属硫化物を含む硫黄化合物を対象とすることで、本実施の形態に係る浸出方法の効果をより有効に発揮させることができる。ここで、「硫黄リッチな金属硫化物」とは、金属硫化物中における硫黄原子の含有割合が50原子%以上であるものをいう。また、「主成分」とは、含有割合が50質量%以上であることをいう。
【0022】
なお、浸出対象である硫化物は、硫黄リッチな金属硫化物に限られない。
【0023】
[浸出方法について]
上述したように、本実施の形態に係る浸出方法は、硫黄リッチな金属硫化物を含む硫黄化合物と還元剤とを接触させて還元する前処理工程S1と、前処理工程S1での処理後の硫黄化合物に酸を加えて浸出する浸出工程S2と、を有する。
【0024】
また、必須の態様ではないが、浸出工程S2における処理中の硫黄化合物を取り出し、再び還元剤と接触させる還元処理工程S3と、還元処理工程S3での処理後の硫黄化合物に再び酸を加えて浸出する再浸出工程S4と、をさらに有していてもよい。
【0025】
(前処理工程S1)
前処理工程S1では、浸出対象である硫黄リッチな金属硫化物を含む硫黄化合物に所定の還元剤を接触させて還元処理を行う。より具体的には、その硫黄化合物を純水等の水中に投入して混合し、そこに還元剤を添加してさらに混合することによって還元する。
【0026】
このように、浸出処理に先立つ前処理として、硫黄リッチな金属硫化物を含む硫黄化合物に還元剤を接触させて還元処理を施すようにすることで、硫化物の表面に存在して浸出反応を阻害している難溶性物質を還元して表面から脱離させることができる。例えば、硫黄化合物には、一部酸化された硫黄が含まれていることがあり、還元剤と接触させてその硫黄を還元することで、硫黄により浸出反応が阻害されることを抑えることができる。これにより、金属硫化物が酸と接触しやすい状態となって反応が進行するようになる。
【0027】
また、例えば、その浸出対象の硫化物が、原料のニッケル酸化鉱石を硫酸で浸出して得られる浸出液に対して硫化処理を施して生成される、ニッケル及び/又はコバルトを含む硫化物である場合、接触させた還元剤の作用によって、硫化物の一部のニッケル及び/又はコバルトが還元され、メタル等の溶解しやすい形態へと変化するようになる。これによっても、酸による浸出反応が有効に進行するようになり、浸出速度が向上する。
【0028】
還元剤としては、特に限定されず、金属硫化物を構成する金属イオンを還元可能なものを用いることができる。例えば、金属硫化物がニッケル硫化物を含む場合、2価のニッケルイオンを還元可能な還元剤を用いることができる。その中でも、水素化ホウ素化合物を好適に用いることができる。水素化ホウ素化合物としては、水素化ホウ素ナトリウム、水素化ホウ素カリウム、水素化ホウ素リチウム等の水素化ホウ素塩が挙げられる。
【0029】
還元剤の添加量としては、特に限定されず、添加量が多いほど効果が得られ好ましいが、使用する還元剤の種類に応じて適宜調整するとよい。例えば、還元剤として水素化ホウ素化合物を用いて、ニッケル及び/又はコバルトを含む硫化物に対する前処理を行うにあたっては、その硫化物中に含まれるニッケル及び/又はコバルトの量に対してモル比で0.1倍以上の割合で添加することが好ましい。
【0030】
(浸出工程S2)
浸出工程S2では、前処理工程S1での処理後の硫黄化合物に酸を加えて浸出する。これにより、例えばニッケル及び/又はコバルトを含む硫化物の場合には、その硫化物に含まれるニッケル及び/又はコバルトが溶液中に溶解する。
【0031】
使用する酸としては、浸出対象とする硫化物を溶解することができるものであれば特に限定されない。具体的には、工業的に広く用いられており、取り扱いや調達が容易である点から、硫酸や塩酸を用いることが好ましい。なお、ニッケル酸化鉱石を硫酸により浸出して得られる浸出液から硫化剤を添加して生成される硫化物であるニッケル及び/又はコバルトの硫化物に対する酸浸出においても、硫酸や塩酸を好適に用いることができる。
【0032】
硫酸や塩酸等の添加する酸としては、固体であっても、溶液であってもよい。あるいは、酸として塩素ガスを用いてもよい。
【0033】
(還元処理工程S3)
必須の態様ではないが、本実施の形態に係る浸出方法では、浸出工程S2における処理中の硫黄化合物を取り出し、再び還元剤と接触させる工程(還元処理工程S3)を有するようにしてもよい。
【0034】
具体的には、浸出工程S2での浸出処理途中の浸出スラリーを固液分離し、未溶解の硫黄化合物を回収し、上述した前処理工程S1における処理と同様の方法で、その硫黄化合物を水中で混合し、水素化ホウ素化合物等の還元剤を添加してさらに混合することにより還元処理を行う。そして、再度の還元処理後の硫黄化合物を、後述する再浸出工程S4における浸出処理に供する。なお、浸出スラリーを固液分離して未溶解の硫黄化合物を分離して後の浸出液は、再浸出工程S4における浸出処理に供され、例えば浸出処理のベース溶液となる。
【0035】
このように、浸出工程S2における浸出処理途中で、未溶解の硫黄化合物を回収して再度の還元処理を行う操作を加えることで、硫黄化合物に含まれる金属の浸出率を高めて、浸出速度の向上効果をより一層に向上させることができる。
【0036】
(再浸出工程S4)
再浸出工程S4では、還元処理工程S3にて未溶解の硫黄化合物に対する再度の還元処理を行ったのち、その処理後の硫黄化合物に対して酸による浸出処理を施す。
【0037】
浸出処理の方法は、上述した浸出工程S2における処理と同様とすることができる。具体的には、例えば、還元処理工程S3にて浸出スラリーを固液分離して得られた浸出液を容器に装入し、そこに、再度の還元処理後の硫黄化合物を添加するとともに、塩酸や硫酸等の酸を添加し、所定の温度に維持しながら撹拌する。
【実施例】
【0038】
以下、本発明の実施例を示してより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0039】
[実施例1]
ニッケル、コバルト、及び不純物を含有する硫酸ニッケル溶液に硫化剤として硫化水素ガスを吹き込むことによって生成したニッケル及びコバルトを含む硫化物(以下、単に「ニッケル硫化物」という)を使用し、その硫化物に対して以下のように浸出処理を行った。なお、使用した硫化物は、その硫化物中における硫黄原子の含有割合が50原子%以上である、硫黄リッチは金属硫化物を主成分として含むものであった。また、下記表1に、ニッケル硫化物における元素成分の質量割合を示す。
【0040】
【0041】
(前処理工程)
具体的には、先ず、浸出処理に先立って前処理を行った。すなわち、容器に230mlの純水を装入し、ニッケル硫化物2gと、水素化ホウ素ナトリウムとを添加して、1時間混合した。水素化ホウ素ナトリウムの添加量は0.08g~1.5g(NaBH4/Niモル比で0.01~2)の間で変えて処理した。なお、NaBH4/Ni=2を「実施例1-1」、NaBH4/Ni=1を「実施例1-2」、NaBH4/Ni=0.1を「実施例1-3」、NaBH4/Ni=0.01を「参考例1」とした。
【0042】
このような前処理後、固液分離してニッケル硫化物を回収した。
【0043】
(浸出工程)
次に、容器に230mlの純水を装入し、70℃に昇温した後、回収した前処理後のニッケル硫化物2gと、35%塩酸48gと、塩化銅(II)13gとを添加して、撹拌しながら温度を維持して浸出処理を行った。
【0044】
浸出処理開始から所定の時間経過ごとに、溶液中のニッケル濃度を測定し、ニッケル浸出率を算出した。なお、ニッケル浸出率は、以下の式[1]により算出した。
ニッケル浸出率(%)=
(溶液中のニッケル濃度(g/L)×溶液の液量(L))÷(ニッケル硫化物中のニッケル濃度(%)÷100×ニッケル硫化物の添加量(g))×100
・・・・・[1]
【0045】
[比較例1]
比較例1では、実施例1と同じニッケル硫化物を使用して以下の浸出処理を行った。具体的には、容器に230mlの純水を装入し、70℃に昇温した後、ニッケル硫化物2gと、35%塩酸48gと、塩化銅(II)13gとを添加して、撹拌しながら温度を維持して浸出処理を行った。すなわち、比較例1では、実施例1と異なり、ニッケル硫化物に対して水素化ホウ素ナトリウムを用いた前処理を行わず、そのまま浸出処理に供した。
【0046】
実施例1と同様に、浸出処理開始から所定の時間経過ごとに、溶液中のニッケル濃度を測定し、ニッケル浸出率を算出した。なお、ニッケル浸出率は、上記式[1]により算出した。
【0047】
図1に、実施例1(1-1~1-3)、参考例1、比較例1における浸出処理時間に対するニッケル浸出率の測定結果のグラフを示す。
図1のグラフ図に示すように、還元剤である水素化ホウ素ナトリウムを用いて還元する前処理を行った場合(実施例1-1~1-3)、特に反応初期のニッケルの浸出率が大幅に上昇するとともに、浸出速度が向上する結果となった。
【0048】
なお、NaBH4/Ni=0.01とした参考例1では、浸出速度の向上効果は得られなかった。
【0049】
[実施例2]
実施例1と同じニッケル硫化物を使用して以下の浸出処理を行った。
【0050】
(前処理工程)
具体的には、先ず、浸出処理に先立って前処理を行った。すなわち、容器に230mlの純水を装入し、ニッケル硫化物2gと、水素化ホウ素ナトリウム0.75(NaBH4/Niモル比で1.0)とを添加して、1時間混合した。このような前処理後、固液分離してニッケル硫化物を回収した。
【0051】
(浸出工程)
次に、容器に230mlの純水を装入し、70℃に昇温した後、回収した前処理後のニッケル硫化物2gと、35%塩酸48gと、塩化銅(II)13gとを添加して、撹拌しながら温度を維持して浸出処理を行った。浸出処理開始から所定の時間経過ごとに、溶液中のニッケル濃度を測定し、ニッケル浸出率を算出した。浸出処理開始から30分経過後に撹拌を止めて固液分離し、浸出液と、未溶解のニッケル硫化物とを分離した。
【0052】
(還元処理工程)
容器に230mlの純水を装入し、分離して回収した未溶解のニッケル硫化物と、水素化ホウ素ナトリウム0.75g(NaBH4/Niモル比で1.0)とを添加し、1時間混合した。還元処理後、固液分離して、再度の還元処理後のニッケル硫化物を得た。
【0053】
(再浸出工程)
分離して回収した浸出液を70℃に昇温した後、再度の還元処理後のニッケル硫化物を添加し、撹拌しながら温度を維持して再度浸出処理を行った。浸出処理開始から所定の時間経過ごとに、溶液中のニッケル濃度を測定し、ニッケル浸出率を算出した。再度の浸出処理開始から30分経過後(浸出累計時間で60分後)に、再び、還元処理工程~再浸出工程を行った。
【0054】
図2に、実施例2における浸出処理時間に対するニッケル浸出率の測定結果のグラフを示す。なお、図中の矢印は、その時間の点において還元処理工程と再浸出工程とを繰り返したことを意味する。
図2のグラフ図に示すように、浸出処理後に再度還元剤による還元処理を行った実施例2では、実施例1(1-2)と比べても、ニッケル浸出率が大幅に上昇するとともに、浸出速度がより向上する結果となった。