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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-06
(45)【発行日】2023-09-14
(54)【発明の名称】管状ビトリゲル及びその使用
(51)【国際特許分類】
   A61L 27/52 20060101AFI20230907BHJP
   A61L 27/50 20060101ALI20230907BHJP
   A61L 27/54 20060101ALI20230907BHJP
   A61L 27/36 20060101ALI20230907BHJP
   A61L 27/38 20060101ALI20230907BHJP
【FI】
A61L27/52
A61L27/50 300
A61L27/54
A61L27/36 320
A61L27/38 100
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2018243681
(22)【出願日】2018-12-26
(65)【公開番号】P2020103459
(43)【公開日】2020-07-09
【審査請求日】2021-07-29
(73)【特許権者】
【識別番号】501203344
【氏名又は名称】国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100154852
【弁理士】
【氏名又は名称】酒井 太一
(72)【発明者】
【氏名】竹澤 俊明
【審査官】山村 祥子
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-178069(JP,A)
【文献】国際公開第2012/026531(WO,A1)
【文献】特開2015-203018(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61L 27/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
それぞれ貫通孔を有する複数の板状のガラス化後のハイドロゲルが、前記貫通孔を連続させるように厚さ方向に積層した積層体からなる、管状のガラス化後のハイドロゲルであって、
前記管の内表面の凹凸と比較して、前記管の外表面の凹凸が大きい、管状のガラス化後のハイドロゲル
【請求項2】
前記管の内径が5μm以上である、請求項に記載の管状のガラス化後のハイドロゲル
【請求項3】
請求項1又は2に記載の管状のガラス化後のハイドロゲルの外周にシート状のガラス化後のハイドロゲルが更に巻き付けられた、管状のガラス化後のハイドロゲル
【請求項4】
少なくとも一部に機能性材料を含む、請求項1~のいずれか一項に記載の管状のガラス化後のハイドロゲル
【請求項5】
前記機能性材料が、支持体、磁性体、蛍光物質、造影剤、免疫抑制剤、抗炎症剤、分化誘導因子を含む、請求項に記載の管状のガラス化後のハイドロゲル
【請求項6】
基台と、前記基台に固定可能な柱状構造体と、前記柱状構造体の基部に、前記柱状構造体よりも外径が大きい台座と、を有する、請求項1~のいずれか一項に記載の管状のガラス化後のハイドロゲルの製造装置。
【請求項7】
前記柱状構造体の外径が5μm以上である、請求項に記載の製造装置。
【請求項8】
管状のガラス化後のハイドロゲルの製造方法であって、
請求項6又は7に記載の製造装置の前記柱状構造体に、(i)それぞれ貫通孔を有する複数の板状のガラス化後のハイドロゲルの表面にゾルを塗布した後、前記貫通孔を貫通させて積層するか、又は、(ii)それぞれ貫通孔を有する複数の板状のガラス化後のハイドロゲルを、前記貫通孔を貫通させて積層した後に表面にゾルを塗布し、表面にゾルが塗布された、板状のガラス化後のハイドロゲルの積層体を得る工程(a)と、
前記ゾルをゲル化し、前記積層体を構成する各板状のガラス化後のハイドロゲルが連結した管状ハイドロゲルを得る工程(b)と、
前記管状のハイドロゲルを乾燥させ、管状のハイドロゲルの乾燥体を得る工程(c)と、
前記管状ハイドロゲルの乾燥体を再水和して前記柱状構造体から外し、管状のガラス化後のハイドロゲルを得る工程(d)と、を含む、製造方法。
【請求項9】
前記工程(c)の後、前記工程(d)の前に、前記管状ハイドロゲルの乾燥体に紫外線を照射する工程を更に備える、請求項に記載の製造方法。
【請求項10】
前記工程(a)の後、前記工程(b)の前に、前記積層体に、表面にゾルを塗布したシート状のハイドロゲルを巻き付ける工程を更に含むか、
前記工程(b)の後、前記工程(c)の前に、前記管状ハイドロゲルに、表面にゾルを塗布したシート状ハイドロゲルを巻き付け、当該ゾルをゲル化して、管状ハイドロゲルを得る工程を更に含むか、又は、
前記工程(c)の後、前記工程(d)の前に、前記管状ハイドロゲルの乾燥体に、表面にゾルを塗布したシート状ハイドロゲルを巻き付け、当該ゾルをゲル化して、管状ハイドロゲルを得て、当該管状ハイドロゲルを乾燥させて、管状ハイドロゲルの乾燥体を得る工程を更に含む、請求項又はに記載の製造方法。
【請求項11】
請求項1~のいずれか一項に記載の管状のガラス化後のハイドロゲルからなる人工管状組織。
【請求項12】
請求項1~のいずれか一項に記載の管状のガラス化後のハイドロゲルからなる細胞封入用デバイス。
【請求項13】
請求項12に記載の細胞封入用デバイスの長軸方向の中央部分に細胞を含む液体を保持し、長軸方向の両端部分には空気が存在している、細胞封入体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、管状ビトリゲル(登録商標)及びその使用に関する。より具体的には、本発明は、管状ビトリゲル(登録商標)、管状ビトリゲル(登録商標)の製造装置、管状ビトリゲル(登録商標)の製造方法、人工管状組織、細胞封入用デバイス及び細胞封入体に関する。なお、本明細書において、用語「ビトリゲル」を用いる際には、用語「(登録商標)」を省略して用いる場合がある。
【背景技術】
【0002】
容器内にコラーゲンのゾルを注入して至適な塩濃度とpHと温度を与えてゲル化した後、十分に乾燥してガラス化し、さらに再水和することで、コラーゲンゲルを、強度と透明性に優れた薄膜に再現性良く変換する技術が確立されている。ハイドロゲルであれば、コラーゲン以外の成分のゲルでも、ガラス化した後に再水和することで、ゲルを安定した新しい物性状態に変換することができる。ガラス化工程を経て作製された新しい物性状態のゲルのことをビトリゲル(登録商標)という(例えば、特許文献1を参照。)。
【0003】
特許文献1にはまた、薄膜形状以外の所望の形状のハイドロゲルを、ハイドロゲルの形状の長軸方向を水平に対して角度をつけて立てることにより、脱水・乾燥してガラス化することを特徴とする、所望の形状のビトリゲルの製造方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第4677559号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の製造方法では、ゾルから形成させたハイドロゲルより水分を除去してガラス化し、その後再水和してビトリゲルを作製する。このため、管状ビトリゲルの場合、管の厚みが厚くなればなるほどハイドロゲルより多量の水を除去しなければならず作製が困難になる。また、内径4mm未満の管状ビトリゲルの製造は内腔からの水分除去が極めて困難であるという欠点があった。また、特許文献1に記載の製造方法では、ハイドロゲルの形状の長軸方向を水平に対して角度をつけて立てる必要があるため、ネイティブコラーゲンよりも強度が劣るアテロコラーゲン等のハイドロゲルを用いて管状ビトリゲルを製造することはできない。そこで、本発明は、予め作製した板状ビトリゲルを利用して管状ビトリゲルを製造する新たな技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は以下の態様を含む。
[1]それぞれ貫通孔を有する複数の板状ビトリゲルが、前記貫通孔を連続させるように厚さ方向に積層した積層体からなる、管状ビトリゲル。
[2]前記管の内表面の凹凸と比較して、前記管の外表面の凹凸が大きい、[1]に記載の管状ビトリゲル。
[3]前記管の内径が5μm以上である、[1]又は[2]に記載の管状ビトリゲル。
[4][1]~[3]のいずれかに記載の管状ビトリゲルの外周にシート状ビトリゲルが更に巻き付けられた、管状ビトリゲル。
[5]ネイティブコラーゲン又はアテロコラーゲンを含む、[1]~[4]のいずれかに記載の管状ビトリゲル。
[6]少なくとも一部に機能性材料を含む、[1]~[5]のいずれかに記載の管状ビトリゲル。
[7]前記機能性材料が、支持体、磁性体、蛍光物質、造影剤、免疫抑制剤、抗炎症剤、分化誘導因子を含む、[6]に記載の管状ビトリゲル。
[8]基台と、前記基台に固定可能な柱状構造体とを有する、[1]~[7]のいずれかに記載の管状ビトリゲルの製造装置。
[9]前記柱状構造体の外径が5μm以上である、[8]に記載の製造装置。
[10]前記柱状構造体の基部に、前記柱状構造体よりも外径が大きい台座を更に有する、[8]又は[9]に記載の製造装置。
[11]管状ビトリゲルの製造方法であって、[8]~[10]のいずれかに記載の製造装置の前記柱状構造体に、(i)それぞれ貫通孔を有する複数の板状ビトリゲルの表面にゾルを塗布した後、前記貫通孔を貫通させて積層するか、又は、(ii)それぞれ貫通孔を有する複数の板状ビトリゲルを、前記貫通孔を貫通させて積層した後に表面にゾルを塗布し、表面にゾルが塗布された、板状ビトリゲルの積層体を得る工程(a)と、前記ゾルをゲル化し、前記積層体を構成する各板状ビトリゲルが連結した管状ハイドロゲルを得る工程(b)と、前記管状ハイドロゲルを乾燥させ、管状ハイドロゲルの乾燥体を得る工程(c)と、前記管状ハイドロゲルの乾燥体を再水和して前記柱状構造体から外し、管状ビトリゲルを得る工程(d)と、を含む、製造方法。
[12]前記工程(c)の後、前記工程(d)の前に、前記管状ハイドロゲルの乾燥体に紫外線を照射する工程を更に備える、[11]に記載の製造方法。
[13]前記工程(a)の後、前記工程(b)の前に、前記積層体に、表面にゾルを塗布したシート状ハイドロゲルを巻き付ける工程を更に含むか、前記工程(b)の後、前記工程(c)の前に、前記管状ハイドロゲルに、表面にゾルを塗布したシート状ハイドロゲルを巻き付け、当該ゾルをゲル化して、管状ハイドロゲルを得る工程を更に含むか、又は、前記工程(c)の後、前記工程(d)の前に、前記管状ハイドロゲルの乾燥体に、表面にゾルを塗布したシート状ハイドロゲルを巻き付け、当該ゾルをゲル化して、管状ハイドロゲルを得て、当該管状ハイドロゲルを乾燥させて、管状ハイドロゲルの乾燥体を得る工程を更に含む、[11]又は[12]に記載の製造方法。
[14][1]~[7]のいずれかに記載の管状ビトリゲルからなる人工管状組織。
[15][1]~[7]のいずれかに記載の管状ビトリゲルからなる細胞封入用デバイス。
[16][15]に記載の細胞封入用デバイスの長軸方向の中央部分に細胞を含む液体を保持し、長軸方向の両端部分には空気が存在している、細胞封入体。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、管状ビトリゲルを製造する新たな技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】(a)~(c)は、管状ビトリゲルの一例の構造を説明する模式図である。
図2】(a)~(c)は、管状ビトリゲルの一例の構造を説明する模式図である。
図3】(a)及び(b)は、それぞれ管状ビトリゲルの製造装置の一例を示す斜視図である。(c)は、(b)におけるc-c’線における断面図である。(d)は、製造装置の柱状構造体に、板状ハイドロゲルを複数貫通させて積層した状態を示す断面図である。
図4】管状ビトリゲルの内部に液体を保持した様子を示す断面模式図である。
図5】製造例1で使用した製造装置の構造を示す模式図である。
図6】(a)~(h)は、実験例1の過程を示す写真である。
図7】(a)~(n)は、実験例2の過程を示す写真である。
図8】(a)~(p)は、実験例1~4の管状ビトロゲルの写真である。
図9】(a)~(e)は、実験例5の過程を示す写真である。
図10】(a)~(c)は、実験例6の過程を示す写真である。
図11】(a)~(c)は、実験例7の過程を示す写真である。
図12】(a)~(c)は、実験例8の過程を示す写真である。
図13】(a)は、実験例9において、細胞封入体を培養液中に浮かべた状態を示す写真である。(b)は、(a)を拡大した写真である。(c)は、実験例9において、細胞封入体を培養液中に浮かべて5分後の状態を示す写真である。(d)は、(c)を拡大した写真である。
図14】(a)~(d)は、実験例9において、培養15分後の細胞封入体を位相差顕微鏡で観察した結果を示す顕微鏡写真である。
図15】実験例9において、培養15分後の細胞封入体を位相差顕微鏡で観察した結果を示す顕微鏡写真である。
図16】(a)及び(b)は、実験例9において、培養1時間後の細胞封入体を位相差顕微鏡で観察した結果を示す顕微鏡写真である。
図17】(a)~(d)は、実験例9において、培養3日後の細胞封入体を位相差顕微鏡で観察した結果を示す顕微鏡写真である。
図18】(a)~(d)は、実験例9において、培養7日後の細胞封入体を位相差顕微鏡で観察した結果を示す顕微鏡写真である。
図19】(a)~(n)は、実験例10の過程を示す写真である。
図20】(a)~(i)は、実験例10の過程を示す写真である。
図21】(a)~(i)は、実験例10で作製した管状ビトリゲルの写真である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、場合により図面を参照しつつ、本発明の実施形態について詳細に説明する。なお、図面中、同一又は相当部分には同一又は対応する符号を付し、重複する説明は省略する。なお、各図における寸法比は、説明のため誇張している部分があり、必ずしも実際の寸法比とは一致しない。
【0010】
[管状ビトリゲル]
1実施形態において、本発明は、それぞれ貫通孔を有する複数の板状ビトリゲルが、前記貫通孔を連続させるように厚さ方向に積層した積層体からなる、管状ビトリゲルを提供する。
【0011】
図1(a)~(c)は、本実施形態の管状ビトリゲルの一例の構造を説明する模式図である。図1(a)は、本実施形態の管状ビトリゲルの斜視図であり、図1(b)は、図1(a)のb-b’線における矢視断面図であり、図1(c)は、図1(a)のc-c’線における矢視断面図である。図1(a)~(c)に示すように、管状ビトリゲル100は、それぞれ貫通孔を有する複数の板状ビトリゲル110a又は110bが、前記貫通孔を連続させるように厚さ方向に積層した積層体からなる。
【0012】
本実施形態の管状ビトリゲルは、例えば、後述する製造方法により製造することができる。板状ビトリゲル110bは、後述する製造方法において、板状ビトリゲル110a同士を接着させるために用いるゾルがゲル化し、最終的にビトリゲルになったものであってもよい。なお、図1(a)~(c)の例では、板状ビトリゲル110aが管状ビトリゲル100の側面に露出している。しかしながら、板状ビトリゲル110bが管状ビトリゲル100の側面を覆い、板状ビトリゲル110aが管状ビトリゲル100の側面に露出しない構成としてもよい。
【0013】
本明細書において、管状ビトリゲルの内径とは、管状ビトリゲルの軸線方向に垂直な面における内腔の断面積のうち、最も狭い断面積と同じ面積の円を想定し、当該円の直径をいうものとする。ここで、管状ビトリゲルは、乾燥体であってもよいし、水和体であってもよい。
【0014】
また、本明細書において、管状ビトリゲルの外径とは、管状ビトリゲルの軸線方向に垂直な面における外縁の断面積のうち、最も広い断面積と同じ面積の円を想定し、当該円の直径をいうものとする。ここで、管状ビトリゲルは、乾燥体であってもよいし、水和体であってもよい。
【0015】
本実施形態の管状ビトリゲルは、従来の管状ビトリゲルよりも内径IDを小さくすることができる。例えば、管状ビトリゲルの内径IDを5μm程度にすることができる。管状ビトリゲルの内径には上限はなく、例えば、10m、1m(100cm)、10cm程度にすることもできる。また、従来製造することが困難であった4mm未満の内径とすることも容易である。
【0016】
このため、本実施形態の管状ビトリゲルを、例えば、小口径の人工血管、中空糸等に利用することもできる。後述するように、少数の細胞を中空糸の内腔に保持することもできる。また、本実施形態の管状ビトリゲルを、より太い人工血管、人工尿管、人工気管、人工食道、人工腸管等に適用することもできる。また、切断された指、腕、足の融合のための外筒としても利用することができる。
【0017】
本実施形態の管状ビトリゲルにおいて、管状ビトリゲルの外径ODの大きさには特に制限はなく、例えば、10m、1m(100cm)、10cm程度にすることができるが、取り扱い性の観点から、例えば0.1mm~10cm程度であってよい。また、本実施形態の管状ビトリゲルの軸線方向の長さは、特に限定されず、例えば3mm~10mの範囲で適宜設定することができる。
【0018】
また、図1(a)~(c)の例では管状ビトリゲルの軸線方向に垂直な面における内腔の断面形状は円であるが、断面形状はこれに限定されず、例えば、三角形、四角形(正方形、長方形、台形含む)、五角形、六角形、七角形、八角形等の多角形;略円形、楕円形、略楕円形、半円形、扇形等であってもよい。また、1つの管状ビトリゲルにおいて、軸線方向に垂直な面における内腔の断面形状は一定であってもよく、途中で変化してもよい。
【0019】
また、図1(a)~(c)の例では管状ビトリゲルの軸線方向に垂直な面における外縁の断面形状は円であるが、外縁の断面形状はこれに限定されず、例えば、三角形、四角形(正方形、長方形、台形含む)、五角形、六角形、七角形、八角形等の多角形;略円形、楕円形、略楕円形、半円形、扇形等であってもよい。また、1つの管状ビトリゲルにおいて、軸線方向に垂直な面における外縁の断面形状は一定であってもよく、途中で変化してもよい。
【0020】
本実施形態の管状ビトリゲルは、ネイティブコラーゲン等の強度の高いハイドロゲルを材料とすることもできるし、ネイティブコラーゲンよりも強度が劣るアテロコラーゲン等のハイドロゲルを材料とすることもできる。
【0021】
本明細書において、「ゾル」とは、液体を分散媒とする分散質のコロイド粒子(粒径約1~数百nm程度)が、特に高分子化合物で構成されるものを意味する。より具体的なゾルとしては、天然物高分子化合物や合成高分子化合物の水溶液が挙げられる。そのため、これらの高分子化合物が化学結合によって網目構造をとった場合は、その網目に多量の水を保有した半固形状態の物質である、「ハイドロゲル」に転移する。すなわち、「ハイドロゲル」とは、ゾルをゲル化させたものを意味する。ハイドロゲルとして、より具体的には、天然物高分子化合物や合成高分子化合物の人工素材に架橋を導入してゲル化させたものが挙げられる。
【0022】
また、本明細書において、板状ビトリゲルは、膜状ビトリゲル、シート状ビトリゲル等といいかえることもできる。本実施形態の板状ビトリゲルの厚さは、必要に応じて適宜設定することができ、例えば0.1μm~5mmであってもよく、例えば2μm~1mmであってもよく、例えば20μm~400μmであってもよい。
【0023】
本実施形態の管状ビトリゲルの材料であるゾルとしては、例えば、ゲル化する細胞外マトリックス由来成分、フィブリン、寒天、アガロース、セルロース等の天然高分子化合物、及び、ポリアクリルアミド、ポリビニルアルコール、ポリエチレンオキシド、poly(II-hydroxyethylmethacrylate)/polycaprolactone等の合成高分子化合物が挙げられる。
【0024】
上記のゲル化する細胞外マトリックス由来成分としては、例えば、コラーゲン(I型、II型、III型、V型、XI型等)、マウスEHS腫瘍抽出物(IV型コラーゲン、ラミニン、ヘパラン硫酸プロテオグリカン等を含む)より再構成された基底膜成分(商品名「マトリゲル」)、グリコサミノグリカン、ヒアルロン酸、プロテオグリカン、ゼラチン等が挙げられ、これらに限定されない。それぞれのゲル化に至適な塩等の成分、その濃度、pH等を選択し所望のハイドロゲルを製造することができる。中でも、ゾルとしては、ゲル化する細胞外マトリックス由来成分が好ましく、コラーゲンがより好ましい。また、コラーゲンの中でも、ネイティブコラーゲン又はアテロコラーゲンが更に好ましい。
【0025】
上述したように、「ビトリゲル」とは、従来のハイドロゲルを乾燥させることによりガラス化(vitrification)したものを再水和して得られる安定した状態にあるゲルのことを指し、発明者によって、「ビトリゲル(vitrigel)(登録商標)」と命名されている。
【0026】
ガラス化工程、すなわち、ハイドロゲル内の自由水を完全に除去した後に結合水の部分除去を進行させる工程の期間を長くすればするほど、再水和した場合に、透明度及び強度が優れたビトリゲルを得ることができる。なお、必要に応じて短期間の乾燥後に再水和して得たビトリゲルをリン酸緩衝生理食塩水(PBS)等で洗浄し、再度ガラス化することもできる。
【0027】
乾燥方法としては、例えば、風乾、密閉容器内で乾燥(容器内の空気を循環させ、常に乾燥空気を供給する。)、シリカゲルを置いた環境下で乾燥する等、種々の方法を用いることができる。例えば、風乾の方法としては、10℃40%相対湿度で無菌に保たれた恒温恒湿器内で2日間程度乾燥させること、無菌状態のクリーンベンチ内で、24時間程度、室温で乾燥させること等が挙げられる。
【0028】
また、本明細書において、乾燥後、再水和していないハイドロゲルの乾燥体を、単に「ハイドロゲルの乾燥体」という場合がある。そして、ハイドロゲルの乾燥後に水和させて得られたゲルを「ビトリゲル」として区別して表す。本明細書では、ビトリゲルを乾燥させて得られた乾燥体(ビトリゲル乾燥体)、ビトリゲル乾燥体を更に再水和して得られたビトリゲル乾燥体の再水和物もビトリゲルという。また、場合により、ハイドロゲルとビトリゲルを区別せずにハイドロゲルという場合がある。
【0029】
本実施形態の管状ビトリゲルは、管状ビトリゲルの内腔の表面(内表面)の凹凸と比較して、前記管の外表面の凹凸が大きくてもよい。
【0030】
より詳細には、管状ビトリゲルの軸線方向に沿った内表面の凹凸と比較して、管状ビトリゲルの軸線方向に沿った外表面の凹凸が大きくてもよい。ここで、外表面の凹凸は、例えば、図1(a)~(c)における、個々の板状ビトリゲル110a、110bの外径がばらつくこと等により大きくなる場合がある。これに対し、本実施形態の管状ビトリゲルを後述する製造方法により製造した場合には、管状ビトリゲルの軸線方向に沿った内表面の凹凸は小さいものとなる。
【0031】
[変形例]
(第1実施形態)
1実施形態において、本発明は、上述した管状ビトリゲルの外周にシート状ビトリゲルが更に巻き付けられた、管状ビトリゲルを提供する。
【0032】
図2(a)~(c)は、本実施形態の管状ビトリゲルの一例の構造を説明する模式図である。図2(a)は、本実施形態の管状ビトリゲルの斜視図であり、図2(b)は、図2(a)のb-b’線における矢視断面図であり、図2(c)は、図2(a)のc-c’線における矢視断面図である。図2(a)~(c)に示すように、管状ビトリゲル200は、上述した管状ビトリゲル100の外周にシート状ビトリゲル210が更に巻き付けられた構造を有している。
【0033】
管状ビトリゲル200の内径は上述した管状ビトリゲル100と同様である。管状ビトリゲル200の外径は、上述した管状ビトリゲル100と比較して、シート状ビトリゲル210が更に巻き付けられている分大きくなっている。
【0034】
シート状ビトリゲルの厚さは、必要に応じて適宜設定することができ、例えば0.1μm~5mmであってもよく、例えば2μm~1mmであってもよく、例えば20μm~400μmであってもよい。
【0035】
管状ビトリゲル200は、シート状ビトリゲル210が更に巻き付けられていることにより、強度が向上している。このため、例えば動脈に適用する人工血管、人工気管、人工食道等として利用することができる。
【0036】
シート状ビトリゲル210は、一方面と他方面とを貫通した複数の貫通孔を有していてもよい。貫通孔を有するシート状ビトリゲルは、凹凸面への密着が良好である傾向にあるため、管状ビトリゲル100の周囲に巻き付けた場合に、より良好に密着することができる。また、管状ビトリゲル200が、シート状ビトリゲル210の部分で生体に接触する場合においても、より良好に密着することができる。
【0037】
(第2実施形態)
1実施形態において、本発明は、上述した管状ビトリゲルの少なくとも一部に機能性材料を含む、管状ビトリゲルを提供する。管状ビトリゲルは、外周にシート状ビトリゲルが更に巻き付けられたものであってもよい。
【0038】
例えば、図1(a)~(c)に示した管状ビトリゲル100又は図2(a)~(c)に示した管状ビトリゲル200において、板状ビトリゲル110aの一部又は全部が機能性材料を含んでいてもよいし、板状ビトリゲル110bの一部又は全部が機能性材料を含んでいてもよいし、シート状ビトリゲル210の一部又は全部が機能性材料を含んでいてもよい。
【0039】
機能性材料としては、例えば、支持体、磁性体、蛍光物質、造影剤、免疫抑制剤、抗炎症剤、分化誘導因子等が挙げられる。
【0040】
支持体としては、例えばメッシュ状構造体が挙げられる。メッシュ状構造体により、気管や消化管等の強度補強と形状保持の機能を奏することができる。支持体の材質としては、生体適合性有機化合物、生体適合性無機化合物等が挙げられ、より具体的には、プラスチック、金属、セラミック等が挙げられる。
【0041】
磁性体としては、例えば磁気ビーズが挙げられる。管状ビトリゲルが一部に磁性体を含む場合、例えば生体内に移植した後に、生体の外部から磁場を与えることにより、移動させること等が可能になる。
【0042】
また、管状ビトリゲルが一部に蛍光物質、造影剤等を含む場合、例えば生体内に移植した後に、近赤外蛍光イメージング、Magnetic Resonanse Imaging(MRI)、Computed Tomography(CT)等により、生体の外部から管状ビトリゲルを観察することが可能になる。
【0043】
また、管状ビトリゲルが一部に免疫抑制剤、抗炎症剤等を含む場合、例えば生体に移植した場合の炎症反応等を抑制することができる。
【0044】
また、管状ビトリゲルが一部に分化誘導因子等を含む場合、本実施形態の管状ビトリゲルを細胞の分化に用いることができる。詳細は後述する。
【0045】
管状ビトリゲルの少なくとも一部に機能性材料を含有させる方法としては、例えば、管状ビトリゲルの製造工程において材料に用いる板状ハイドロゲルに機能性材料を含有させる方法が挙げられる。板状ハイドロゲルの材料となるゾルに機能性材料を含有させた状態でゲル化することにより、機能性材料を含有した板状ハイドロゲルを得ることができる。
【0046】
あるいは、管状ビトリゲルを、機能性材料を含有した液体に浸漬することにより、管状ビトリゲルを構成するビトリゲルの内部に機能性材料を取り込ませてもよい。
【0047】
[管状ビトリゲルの製造装置]
1実施形態において、本発明は、基台と、前記基台に固定可能な柱状構造体とを有する、上述した管状ビトリゲルの製造装置を提供する。本実施形態の製造装置において、柱状構造体は基台に固定されていてもよい。
【0048】
後述するように、柱状構造体の外径は、管状ビトリゲルの内径に対応することになる。このため、管状ビトリゲルの内径は5μm以上であることができる。柱状構造体の外径が小さい場合、例えば1mm以下、例えば数百μm以下、例えば数十μm以下である場合、柱状構造体は単繊維状構造体であるということができる。柱状又は単繊維状構造体は、直線状の構造体であってもよいし、少なくとも一部が曲がった形状の構造体であってもよい。
【0049】
図3(a)は、本実施形態の製造装置の一例を示す斜視図である。図3(a)に示すように、製造装置300aは、基台310と、基台310に固定可能な柱状又は単繊維状構造体320とを有する。
【0050】
基台310の材質は特に限定されず、シリコン樹脂等の樹脂が挙げられる。柱状又は単繊維状構造体320の材質も特に限定されず、金属、樹脂、ガラス、生体由来物質等が挙げられる。金属としては、例えばステンレスが挙げられる。すなわち、柱状又は単繊維状構造体320としては、上記の材質の材料で形成された、棒、管、単繊維等を用いることができる。
【0051】
後述するように、本実施形態の製造装置300aの柱状又は単繊維状構造体320に、貫通孔を有する板状ハイドロゲルを貫通させて積層することにより、上述した管状ビトリゲルを製造することができる。
【0052】
このため、柱状又は単繊維状構造体320の外径は、管状ビトリゲルの内径に対応することになる。上述したように、管状ビトリゲルの内径は5μm以上であることができる。したがって、柱状又は単繊維状構造体320の外径は、5μm以上であってよい。上限値としては、10m、1m(100cm)、10cm等が挙げられる。
【0053】
実施例において後述するように、本実施形態の製造装置は、柱状又は単繊維状構造体320の基部(基台310に近接した部分)に、柱状又は単繊維状構造体320よりも外径が大きい台座を更に有していてもよい。
【0054】
図3(b)は、台座330を更に有する製造装置300bを示す斜視図である。製造装置300bにおいて、台座330の材質は特に限定されず、樹脂、ガラス、金属等が挙げられる。
【0055】
台座330の基台310と反対側の端部331の外径は、製造する管状ハイドロゲルの外径ODよりも小さいことが好ましい。ここで、台座330の端部331の外径とは、台座330の端部331の、柱状又は単繊維状構造体320に垂直な面における断面積と同じ面積の円を想定し、当該円の直径をいうものとする。
【0056】
図3(c)は、図3(b)におけるc-c’線における断面図であり、製造装置300bの柱状又は単繊維状構造体320に、貫通孔を有する板状ハイドロゲル110aを貫通させ、台座330に接した状態を示す。
【0057】
図3(c)に示すように、台座330の端部331の外径が、製造する管状ハイドロゲルの外径OD(板状ハイドロゲル110aの外径OD)よりも小さいことにより、板状ハイドロゲル110aの外縁部は重力によりわずかに基台310側に近接する。そして、柱状又は単繊維状構造体320に板状ハイドロゲル110aを更に貫通させて積層すると、それぞれの板状ハイドロゲル110aの外縁部が基台310側に近接した状態で積層されることになる。発明者は、製造装置300bで製造した管状ハイドロゲルは、製造装置300aで製造した管状ハイドロゲルよりも、板状ハイドロゲル110a同士の密着強度に優れることを見出した。
【0058】
図3(d)は、製造装置300bの柱状又は単繊維状構造体320に、板状ハイドロゲル110aを複数貫通させて積層した状態を示す断面図である。なお、図3(d)では、板状ハイドロゲル110aにゾル110b’を塗布した状態を示す。ゾル110b’については後述する。
【0059】
(変形例)
台座330の端部331と反対側の端部の形状は特に限定されない。例えば、台座330のみで製造装置300bを自立させてもよい。この場合、台座330は基台310を兼ねているということができる。
【0060】
[管状ビトリゲルの製造方法]
1実施形態において、本発明は、管状ビトリゲルの製造方法であって、上述した製造装置の柱状又は単繊維状構造体に、(i)それぞれ貫通孔を有する複数の板状ビトリゲルの表面にゾルを塗布した後、前記貫通孔を貫通させて積層するか、又は、(ii)それぞれ貫通孔を有する複数の板状ビトリゲルを、前記貫通孔を貫通させて積層した後に表面にゾルを塗布し、表面にゾルが塗布された、板状ビトリゲルの積層体を得る工程(a)と、前記ゾルをゲル化し、前記積層体を構成する各板状ビトリゲルが連結した管状ハイドロゲルを得る工程(b)と、前記管状ハイドロゲルを乾燥させ、管状ハイドロゲルの乾燥体を得る工程(c)と、前記管状ハイドロゲルの乾燥体を再水和して前記柱状又は単繊維状構造体から外し、管状ビトリゲルを得る工程(d)と、を含む、製造方法を提供する。以下、各工程について説明する。
【0061】
(工程(a))
工程(a)では、(i)それぞれ貫通孔を有する複数の板状ビトリゲルの表面にゾルを塗布した後、製造装置の柱状又は単繊維状構造体に、板状ビトリゲルの貫通孔を貫通させて積層し、板状ビトリゲルの積層体を得るか、又は、(ii)それぞれ貫通孔を有する複数の板状ビトリゲルを、製造装置の柱状又は単繊維状構造体に、板状ビトリゲルの貫通孔を貫通させて積層した後に表面にゾルを塗布し、表面にゾルが塗布された、板状ビトリゲルの積層体を得る。
【0062】
図3(d)は、製造装置300bの柱状又は単繊維状構造体320に、板状ハイドロゲル110aを複数貫通させて積層した状態を示す断面図である。図3(d)では、板状ハイドロゲル110aにゾル110b’を塗布した状態を示す。ここで、板状ハイドロゲル110aは、ガラス化工程を経た板状ビトロゲルであってもよい。
【0063】
ゾル110b’がコラーゲンゾルである場合、コラーゲンゾルは至適な塩濃度を有するものとして、例えば、生理食塩水、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)、HBSS(Hank’s Balanced Salt Solution)、基礎培養液、無血清培養液、血清含有培養液等を用いて、調製したものを用いることができる。また、コラーゲンのゲル化の際の溶液のpHは、例えば6~8とすることができる。また、コラーゲンゾルの調製は例えば4℃程度で行えばよい。
【0064】
特に無血清培養液を用いる場合、他動物血清成分中に含まれる、生体への適用に適さない物質(例えば、抗原、病原因子等)がハイドロゲルに含まれることを回避できる。このため、無血清培養液を用いて得られたハイドロゲルは、医療用に好適に用いられる。
【0065】
また、ハイドロゲルを製造するためのコラーゲンゾルの濃度は、0.1~1.0質量%であることが好ましく、0.2~0.6質量%であることがより好ましい。コラーゲンゾルの濃度が上記下限値以上であることにより、ゲル化が弱すぎず、また、コラーゲンゾルの濃度が上記上限値以下であることにより、均一なコラーゲンゲルからなるハイドロゲルを得ることができる。
【0066】
板状ハイドロゲル110aの少なくとも一部又はゾル110b’に上述した機能性材料を含有させてもよい。これにより、少なくとも一部に機能性材料を含む管状ビトリゲルを製造することができる。
【0067】
(工程(b))
工程(b)では、ゾル110b’をゲル化し、前記積層体を構成する各板状ビトリゲルが連結した管状ハイドロゲルを得る。ゾル110b’を保温する温度は、用いるゾルの種類に応じて適宜調整することができる。例えば、ゾルがコラーゲンゾルである場合、ゲル化する際の保温は、用いるコラーゲンの動物種に依存したコラーゲンの変性温度より低い温度とすることができ、一般的には20℃以上37℃以下の温度で保温することで数分から数時間でゲル化を行うことができる。
【0068】
(工程(c))
工程(c)では、工程(b)で得られた管状ハイドロゲルを乾燥させ、管状ハイドロゲルの乾燥体を得る。乾燥方法としては、上述したものと同様であり、例えば、風乾、密閉容器内で乾燥、シリカゲルを置いた環境下で乾燥する等、種々の方法を用いることができる。
【0069】
1実施形態において、本工程で得られた管状ハイドロゲルの乾燥体に紫外線を照射してもよい。紫外線の照射には、公知の紫外線照射装置を使用することができる。管状ハイドロゲルの乾燥体への紫外線の照射エネルギーは、単位面積あたりの総照射量が、0.1mJ/cm~6000mJ/cmであることが好ましく、10mJ/cm~4000mJ/cmであることがより好ましく、100mJ/cm~3000mJ/cmであることが更に好ましい。総照射量が上記の範囲であることにより、続く再水和により得られる管状ビトリゲルの透明度及び強度を特に好ましいものとすることができる。
【0070】
また、管状ハイドロゲルの乾燥体への紫外線の照射は、複数回繰り返し行ってもよい。管状ハイドロゲルの乾燥体への紫外線の照射を繰り返す場合、1度目の紫外線の照射を行った後に、紫外線照射処理を施した管状ハイドロゲルの乾燥体の再水和及び再ガラス化の工程を行い、その後2度目以降の再ガラス化後の管状ビトリゲルの乾燥体への紫外線の照射を行ってもよい。
【0071】
単位面積あたりの紫外線総照射量が同一であるとき、管状ハイドロゲルの乾燥体への紫外線の照射を、複数回に分割して繰り返して行うことで、続く再水和工程において得られる管状ビトリゲルの透明度及び強度をより高めることができる。また分割の回数は多いほど好ましい。例えば、管状ハイドロゲルの乾燥体への紫外線の照射の単位面積あたりの総照射量が、1000mJ/cm~4000mJ/cmの範囲であるとき、該範囲内での照射回数が2~10回であってもよく、2~6回であってもよい。
【0072】
また、管状ハイドロゲルの乾燥体への紫外線の照射を繰り返す場合、例えば、管状ハイドロゲルの乾燥体を回転させ、紫外線の照射面を変えながら照射して、全ての照射面の単位面積あたりの照射量の合計を、管状ハイドロゲルの乾燥体への紫外線総照射量としてもよい。
【0073】
紫外線の照射を、管状ハイドロゲルの乾燥体に行うことで、続く再水和工程において得られる管状ビトリゲルの強度と透明度が高まるのは、管状ビトリゲル内の高分子化合物同士が、紫外線によって架橋されるためであると考えられる。つまり、当該操作により、高い透明度及び強度を管状ビトリゲルに付与することができる。
【0074】
さらに、得られた紫外線照射処理を施した管状ハイドロゲルの乾燥体をPBSや培養液等で再水和することで、管状ビトリゲルとしてもよい。さらに、得られた管状ビトリゲルを乾燥することで、再ガラス化させて、管状ビトリゲルの乾燥体としてもよい。
【0075】
(工程(d))
工程(d)では、工程(c)で得られた管状ハイドロゲルの乾燥体を再水和して、製造装置の柱状又は単繊維状構造体から外し、管状ビトリゲルを得る。得られた管状ビトリゲルは、乾燥工程と水和工程を1回又は複数回更に繰り返してもよい。
【0076】
[変形例]
(第1実施形態)
上述したように、管状ビトリゲルの外周にシート状ビトリゲルを更に巻き付けてもよい。この場合、上記工程(a)の後、上記工程(b)の前に、板状ビトリゲルの積層体に、表面にゾルを塗布したシート状ハイドロゲルを巻き付ける工程を更に含んでもよい。
【0077】
あるいは、上記工程(b)の後、上記工程(c)の前に、管状ハイドロゲルに、表面にゾルを塗布したシート状ハイドロゲルを巻き付け、当該ゾルをゲル化して、管状ハイドロゲルを得る工程を更に含んでもよい。
【0078】
あるいは、上記工程(c)の後、上記工程(d)の前に、管状ハイドロゲルの乾燥体に、表面にゾルを塗布したシート状ハイドロゲルを巻き付け、当該ゾルをゲル化して、管状ハイドロゲルを得て、当該管状ハイドロゲルを乾燥させて、管状ハイドロゲルの乾燥体を得る工程を更に含んでいてもよい。
【0079】
この場合、シート状ハイドロゲルを巻き付け、管状ハイドロゲルの乾燥体を得るのは、上記工程(c)の後、上述した紫外線照射の前であってもよいし、上述した紫外線照射の後、上記工程(d)の前であってもよい。
【0080】
(第2実施形態)
1実施形態において、本発明は、巻いたシート状ビトリゲルからなる管状ビトリゲルを提供する。
【0081】
本実施形態の管状ビトリゲルは、例えば、シート状ビトリゲルの一方面にゾルを塗布する工程と、柱状構造体に、前記シート状ビトリゲルの前記一方面側を接触させて巻きつける工程と、前記ゾルをゲル化し、管状ハイドロゲルを得る工程と、前記管状ハイドロゲルを乾燥させ、管状ハイドロゲルの乾燥体を得る工程と、前記管状ハイドロゲルの乾燥体を再水和して前記柱状構造体から外し、管状ビトリゲルを得る工程とを含む製造方法により製造することができる。
【0082】
上述したように、特許文献1に記載の製造方法では、内径4mm未満の管状ビトリゲルの製造は困難である。また、特許文献1に記載の製造方法では、ネイティブコラーゲンよりも強度が劣るアテロコラーゲン等のハイドロゲルを用いて管状ビトリゲルを製造することはできない。
【0083】
これに対し、実施例において後述するように、本実施形態の製造方法によれば、内径4mm未満の管状ビトリゲルを製造することもできる。また、本実施形態の製造方法によれば、内径4mm以上の管状ビトリゲルを製造することもできる。
【0084】
また、本実施形態の製造方法によれば、ハイドロゲルの形状の長軸方向を水平に対して角度をつけて立てる必要がないため、ネイティブコラーゲンよりも強度が劣るアテロコラーゲン等のシート状ビトリゲルを用いて管状ビトリゲルを製造することもできる。
【0085】
柱状構造体としては、例えば、ステンレス、ガラス、樹脂等で形成された棒や管等を用いることができる。柱状構造体の外径は、管状ビトリゲルの内径に対応することになる。したがって、例えば、管状ビトリゲルの内径が1~4mmである場合、柱状構造体の外径は、1~4mmとすることができる。
【0086】
[人工管状組織]
1実施形態において、本発明は、上述した管状ビトリゲルからなる人工管状組織を提供する。人工管状組織としては、人工血管、人工尿管、人工気管、人工消化管等が挙げられる。また、上述した管状ビトリゲルを、切断された指、腕、足の融合のための外筒としても利用することができる。本明細書では、このような外筒も人工管状組織に含めるものとする。
【0087】
上述したように、本実施形態の人工管状組織は、内径を5μm~数cm以上にすることができる。上限値としては、10m、1m(100cm)、10cm等が挙げられる。このため、小口径の人工血管のみならず、より太い人工血管、人工尿管、人工気管、人工食道、人工腸管等に適用することもできる。
【0088】
また、本実施形態の人工血管は、例えば、管状ビトリゲルの周囲にシート状ビトリゲルを更に巻き付ける等の方法により強度を向上させることができる。このため、動脈に適用することもできる。
【0089】
また、上述したように、本実施形態の人工血管には、例えば、支持体、磁性体、蛍光物質、造影剤、免疫抑制剤、抗炎症剤、分化誘導因子等を含ませることができる。
【0090】
[細胞封入用デバイス及び細胞封入体]
1実施形態において、本発明は、上述した管状ビトリゲルからなる細胞封入用デバイスを提供する。
【0091】
発明者は、管状ビトリゲルの内径が、特に1.5mm以下であると、管状ビトリゲルの内部に液体を保持することができる傾向にあることを見出した。
【0092】
図4は、管状ビトリゲル100の内部に液体(細胞懸濁液410)を保持した細胞封入体400の構造を示す断面模式図である。図4において、管状ビトリゲルは長軸方向が鉛直方向となるように保持されている。細胞懸濁液410の上部及び下部には空気が存在する。本実施形態の細胞封入用デバイスによれば、図4に示す状態で安定に細胞懸濁液を保持し、細胞を封入することができる。
【0093】
細胞懸濁液410は、例えば次のようにして細胞封入用デバイスに保持することができる。まず、細胞封入用デバイスを長軸方向が鉛直方向となるように保持する。続いて、細胞封入用デバイスの上端から吸引し、細胞懸濁液410を吸い上げる。続いて、細胞封入用デバイスの上端から更に吸引し、空気420を吸い上げる。この結果、細胞封入用デバイスの長軸方向の中央部分に細胞を含む液体を保持し、長軸方向の両端部分には空気が存在している、細胞封入体を得ることができる。
【0094】
あるいは、実施例において後述するように、ニードル付きシリンジ等を用いて、細胞封入用デバイスの長軸方向の中央部分に細胞懸濁液410を注入することによっても、細胞封入用デバイスの長軸方向の中央部分に細胞を含む液体を保持し、長軸方向の両端部分には空気が存在している、細胞封入体を得ることができる。
【0095】
細胞封入体において、空気420は、細胞を封入する栓として機能する。また、実施例において後述するように、細胞封入体の両端にゾルを注入してゲル化することにより、より強固な栓を形成することもできる。
【0096】
本実施形態の細胞封入体に、例えば治療用細胞を封入して、生体に移植することができる。治療用細胞としては特に制限されないが、例えば、膵島細胞、ドーパミン産生細胞等が挙げられる。
【0097】
また、上述したように、本実施形態の細胞封入体には、例えば、支持体、磁性体、蛍光物質、造影剤、免疫抑制剤、抗炎症剤、分化誘導因子等の機能性材料を含ませることができる。機能性材料については上述したものと同様である。このため、生体の外部から細胞封入体に磁場を与えて移動させる、生体の外部から細胞封入体を観察する、細胞封入体を生体に移植した場合の炎症反応等を抑制する等の機能を持たせることができる。
【0098】
本実施形態の細胞封入体によれば、細胞封入用デバイス側に機能性材料を含ませることができる。このため、例えば、細胞内に磁性体等の機能性材料を導入する場合と比較して、細胞に対する毒性を低減することができる。
【0099】
また、本実施形態の細胞封入体に、例えば、胚性幹細胞(ES細胞)、人工多能性幹細胞(iPS細胞)等の多能性幹細胞を封入し、分化誘導因子を作用させて所望の細胞に分化させることができる。
【0100】
分化誘導因子は、予め管状ビトリゲルに含有させておき、管状ビトリゲルから徐放性に供給して細胞に作用させてもよい。あるいは、分化誘導因子を含む培養液中に、本実施形態の細胞封入体を浸漬することにより、培養液中の分化誘導因子が管状ビトリゲルを透過して細胞に作用する構成としてもよい。
【0101】
ここで、複数種類の分化誘導因子が、予め管状ビトリゲルに含有されており、所定のタイミングで所定の分化誘導因子が順次供給される構成としてもよい。あるいは、それぞれ異なる分化誘導因子を含む複数の培養液を用意しておき、本実施形態の細胞封入体を所定のタイミングで所定の分化誘導因子を含む培養液に順次浸漬する構成としてもよい。これにより、多能性幹細胞を所望の細胞に分化させることができる。
【実施例
【0102】
次に実施例を示して本発明を更に詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0103】
[製造例1]
図5に示す製造装置を用いて、貫通孔を有する板状ビトリゲルを製造した。図5は、本製造例で使用した製造装置の構造を示す模式図である。図5に示すように、製造装置500は、底面部510と側面部520とを有する容器部530と、底面部510に接して配置可能な複数の柱状治具540とを有していた。柱状治具540として、直径1mmの円柱状のステンレス製シャフトを使用した。
【0104】
まず、製造装置を70%エタノールで殺菌し、クリーンベンチ内で乾燥させた。続いて、氷上で無血清培養液16mLを50mLコニカルチューブに分注した。続いて、ブタアテロコラーゲン(関東化学社製、コラーゲン濃度1質量%)16mLを添加し、均一なコラーゲンゾルを調製した。無血清培養液としては、DMEM培地(カタログ番号「11885-084」、サーモフィッシャーサイエンティフィック社製)に、20mM HEPES(カタログ番号「15630-080」、サーモフィッシャーサイエンティフィック社製)及び100ユニット/mL ペニシリン、100μg/mL ストレプトマイシン(カタログ番号「15140-148」、サーモフィッシャーサイエンティフィック社製)を含有させたものを使用した。
【0105】
続いて、製造装置500の容器部にゾル26.7mLを注入した。続いて、製造装置を37℃、5%COに設定したインキュベーター内に2時間静置してゲル化させ、ハイドロゲルを得た。
【0106】
続いて、ハイドロゲル内の自由水を容器の底面部と側面部の間隙より脱水させるとともに上面から乾燥させ、ハイドロゲルの高さが6mmになった時点で製造装置から多孔質のハイドロゲルを取り出し、10℃40%相対湿度で無菌に保たれた恒温恒湿器で乾燥させガラス化させた。
【0107】
続いて、ガラス化後、恒温恒湿器から取り出し、PBS中で再水和させた。更に、新鮮なPBSで再水和による洗浄工程を繰り返し、合計3回洗浄した後、10℃40%相対湿度で無菌に保たれた恒温恒湿器で乾燥させることで再ガラス化させ、製造例1の「直径1mmの貫通孔を有する板状ビトリゲル乾燥体」を得た。
【0108】
[実験例1]
本実験例では、まず、管状ビトリゲルの製造装置を作製し、続いて、管状ビトリゲルを作製した。図6(a)~(h)は本実験例の過程を示す写真である。
【0109】
(管状ビトリゲルの製造装置の作製)
図6(a)に示すように、5mm厚のシリコンシート、直径1mm×長さ5cmのステンレス棒、1000μLのマイクロピペット用チップの先端を用意した。続いて、シリコンシートを3×3cmに切断して基台とし、中央に直径1mmの穴を開けた。
【0110】
続いて、図6(b)に示すように、シリコンシートに開けた穴にステンレス棒(柱状構造体)を立て、ステンレス棒の基部に1000μLのマイクロピペット用チップの先端で作製した台座を配置した。
【0111】
(管状ビトリゲルの作製)
まず、製造例1で製造した「直径1mmの貫通孔を有する板状ビトリゲル乾燥体」をPBS中で再水和させた。図6(c)は、直径1mmの貫通孔を有する板状ビトリゲルの写真である。続いて、図6(d)に示すように、直径2.5mmのトレパンを用いて板状ハイドロゲルの貫通孔の周囲を切り出し、貫通孔を有する板状ビトリゲルを多数作製した。
【0112】
続いて、氷上で製造例1と同様の無血清培地2mLとブタアテロコラーゲン2mLを混合し、均一なコラーゲンゾルを調製した。続いて、上述した貫通孔を有する板状ビトリゲルを上述したコラーゲンゾルに浸し、図6(b)に示す製造装置のステンレス棒に板状ビトリゲルの貫通孔を貫通させた。この操作を繰り返し、合計24枚の板状ビトリゲルを積層した積層体を得た。図6(e)は、板状ビトリゲルを積層した状態を示す写真である。
【0113】
続いて、板状ビトリゲルの積層体の周囲のゾルを少し除き、室温のクリーンベンチ内でゲル化させ、管状ハイドロゲルを得た。続いて、図6(f)に示すように、製造装置ごと、管状ハイドロゲルを、10℃40%相対湿度で無菌に保たれた恒温恒湿器で乾燥させガラス化させ、管状ハイドロゲルの乾燥体を得た。続いて、管状ハイドロゲルの乾燥体に紫外線を照射した。紫外線の照射量は、1方向あたり800mJ/cmとし、90°ずつ回転させて4方向から照射した。
【0114】
続いて、図6(g)に示すように、管状ハイドロゲルの乾燥体をPBS中で再水和してステンレス棒から外し、水和体の管状ビトリゲルを得た。続いて、図6(h)に示すように、得られた水和体の管状ビトリゲルを10℃40%相対湿度で無菌に保たれた恒温恒湿器で再度乾燥させ再ガラス化し、管状ビトリゲルの乾燥体を得た。
【0115】
[実験例2]
本実験例では、外径4.57mmのステンレス管に板状ビトリゲルを巻き付けて管状ビトリゲルを作製した。図7(a)~(n)は本実験例の過程を示す写真である。
【0116】
予め作製しておいたアテロコラーゲンビトリゲル膜(コラーゲン量:5mg/cm)乾燥体をPBS中で再水和することで板状ビトリゲルを調製した。図7(a)は、板状ビトリゲルの写真である。続いて、図7(b)に示すように、再水和した板状ビトリゲルを矩形状(20mm×32mm)に切断した。続いて、図7(c)に示すように、矩形状に切断した板状ビトリゲルを再度乾燥させ再ガラス化し、片面のみに紫外線を200mJ/cm照射した。続いて、図7(d)に示すように、紫外線を照射した板状ビトリゲルをPBS中で再水和した。
【0117】
続いて、氷上で製造例1と同様の無血清培地2.5mLとブタアテロコラーゲン2.5mLを混合し、均一なコラーゲンゾルを調製した。続いて、図7(e)に示すように、上述した板状ビトリゲル上にコラーゲンゾル200μLを載せた。続いて、図7(f)に示すように、コラーゲンゾルを板状ビトリゲルの表面全体に広げた。
【0118】
続いて、外径4.57mmのステンレス管の外表面上に、片面をシリコン処理したポリエチレンテレフタレート(PET)膜を両面テープで貼り付けた。この時外側をシリコン処理面とした。続いて、図7(g)~(i)に示すように、ステンレス管に板状ビトリゲルを巻き付けた。
【0119】
続いて、図7(j)に示すように、室温のクリーンベンチ内でゲル化させ、管状ハイドロゲルを得た。続いて、ステンレス管ごと、管状ハイドロゲルを、10℃40%相対湿度で無菌に保たれた恒温恒湿器で乾燥させガラス化させ、管状ハイドロゲルの乾燥体を得た。続いて、図7(k)に示すように、管状ハイドロゲルの乾燥体に紫外線を照射した。紫外線の照射量は、1方向あたり200mJ/cmとし、90°ずつ回転させて4方向から照射した。
【0120】
続いて、図7(l)に示すように、管状ハイドロゲルの乾燥体をPBS中で再水和した。続いて、図7(m)に示すように、ステンレス管から外し、水和体の管状ビトリゲルを得た。続いて、図7(n)に示すように、得られた水和体の管状ビトリゲルを10℃40%相対湿度で無菌に保たれた恒温恒湿器で再度乾燥させ再ガラス化し、管状ビトリゲルの乾燥体を得た。
【0121】
[実験例3、4]
外径2.41mmのステンレス管を用いた点以外は、実験例2と同様にして、実験例3の管状ビトリゲルを作製した。また、外径1.26mmのステンレス管を用いた点以外は、実験例2と同様にして、実験例4の管状ビトリゲルを作製した。実験例4の管状ビトリゲルは、ステンレス管に板状ビトリゲルを巻き付けるのが困難であった。
【0122】
図8(a)~(p)は、実験例1~4の管状ビトリゲルの写真である。図8(a)、(b)は、実験例1の管状ビトリゲル乾燥体の写真である。図8(c)、(d)は、実験例1の水和体の管状ビトリゲルの写真である。
【0123】
図8(e)、(f)は、実験例2の管状ビトリゲル乾燥体の写真である。図8(g)、(h)は、実験例2の水和体の管状ビトリゲルの写真である。
【0124】
図8(i)、(j)は、実験例3の管状ビトリゲル乾燥体の写真である。図8(k)、(l)は、実験例3の水和体の管状ビトリゲルの写真である。
【0125】
図8(m)、(n)は、実験例4の管状ビトリゲル乾燥体の写真である。図8(o)、(p)は、実験例4の水和体の管状ビトリゲルの写真である。
【0126】
その結果、実験例1の管状ビトリゲルは、乾燥体の状態であっても水和体の状態であっても、ピンセットで容易に挟むことができ、取り扱い性が良好であることが明らかとなった。一方、実験例2~4の管状ビトリゲルは、乾燥体の状態であっても水和体の状態であっても、ピンセットで挟むと滑りやすい傾向にあった。また、管の軸方向に対して垂直な方向からピンセットで挟むと、管を容易に潰してしまう傾向にあった。
【0127】
以上の結果から、実験例1の管状ビトリゲルは、実験例2~4の管状ビトリゲルよりも内径を小さくすることが容易であり、また取り扱い性にも優れている傾向があることが明らかとなった。
【0128】
[実験例5]
(管状ビトリゲルへの通液)
実験例1の管状ビトリゲルに滅菌水を通液できることを確認した。図9(a)~(e)は本実験例の過程を示す写真である。
【0129】
まず、図9(a)に示すように、実験例1の管状ビトリゲルに、留置針カテーテル(品番「NIC*26×3/4」、カテーテル(ゲージ26G)、内針(ゲージ27G)、いずれもニプロ社)を挿入した。
【0130】
続いて、図9(b)に示すように、留置針カテーテルの挿入部をパラフィルムで固定した。続いて、図9(c)に示すように、1mLシリンジを装着した。続いて、図9(d)に示すように、シリンジで滅菌水を吸い上げた。続いて、シリンジで滅菌水を押し出した。その結果、図9(e)に示すように、実験例1の管状ビトリゲルに滅菌水を通液できることが確認された。
【0131】
[実験例6]
(管状ビトリゲルへのPBSの注入)
実験例1の管状ビトリゲルの内部に液体を保持できることを確認した。図10(a)~(c)は本実験例の過程を示す写真である。
【0132】
図10(a)は、実験例1の管状ビトリゲル乾燥体の写真である。図10(b)に示すように、実験例1の管状ビトリゲルに、留置針カテーテルを挿入し、管状ビトリゲルの中央部分にPBSを注入した。
【0133】
図10(c)は、PBSを注入後の管状ビトリゲルの写真である。その結果、長軸方向の中央部分にPBSを保持し、長軸方向の両端部分には空気が存在している、PBSの封入体が得られたことが確認された。
【0134】
[実験例7]
(管状ビトリゲルへの無血清培養液の注入)
実験例1の管状ビトリゲルの内部に液体を保持できることを確認した。図11(a)~(c)は本実験例の過程を示す写真である。
【0135】
図11(a)は、実験例1の管状ビトリゲル乾燥体の写真である。図11(b)に示すように、実験例1の管状ビトリゲルに、留置針カテーテルを挿入し、管状ビトリゲルの中央部分に無血清培養液を注入した。その結果、長軸方向の中央部分に無血清培養液を保持し、長軸方向の両端部分には空気が存在している、無血清培養液の封入体が得られたことが確認された。
【0136】
図11(c)は、無血清培養液を注入後の管状ビトリゲルをピンセットで挟んで鉛直方向に担持した状態を示す写真である。その結果、鉛直方向に担持しても、封入した無血清培養液が漏れ出ないことが確認された。
【0137】
この結果は、医療現場等において、細胞懸濁液を管状ビトリゲルに封入した状態で、容易にピンセット等で取り扱えることを示す。したがって、管状ビトリゲルは培養液等に懸濁した細胞の移植に利用できることが期待された。
【0138】
[実験例8]
(管状ビトリゲルへの細胞の注入)
実験例1の管状ビトリゲルの内部に細胞を封入した。図12(a)~(c)は本実験例の過程を示す写真である。
【0139】
図12(a)に示すように、ゲルローディングチップ(品番「2-4493-06」、アズワン社)を用いて、実験例1の管状ビトリゲルの中央部分にヒト真皮由来線維芽細胞の懸濁液7μL(1×10個)を注入した。
【0140】
続いて、図12(b)に示すように、管状ビトリゲルの両端に0.5%アテロコラーゲンゾルを3~4μLずつ注入した。続いて、図12(c)に示すように、37℃の細胞培養用5%炭酸ガスインキュベーター内で5分間静置した。その結果、アテロコラーゲンゾルがゲル化し、細胞封入体が得られた。
【0141】
[実験例9]
(細胞封入体を用いた細胞の培養)
実験例8で作製した細胞封入体中の細胞を培養した。まず、細胞封入体を培養液中に浮かべた。図13(a)は、細胞封入体を培養液中に浮かべた状態を示す写真である。また、図13(b)は図13(a)を拡大した写真である。また、図13(c)は、細胞封入体を培養液中に浮かべて5分後の状態を示す写真である。また、図13(d)は図13(c)を拡大した写真である。
【0142】
図14(a)~(d)は、培養15分後の細胞封入体を位相差顕微鏡で観察した結果を示す顕微鏡写真である。図15は、培養15分後の細胞封入体の全体を位相差顕微鏡で観察した結果を示す写真である。図16(a)及び(b)は、培養1時間後の細胞封入体を位相差顕微鏡で観察した結果を示す顕微鏡写真である。図17(a)~(d)は、培養3日後の細胞封入体を位相差顕微鏡で観察した結果を示す顕微鏡写真である。図18(a)~(d)は、培養7日後の細胞封入体を位相差顕微鏡で観察した結果を示す顕微鏡写真である。
【0143】
以上の結果から、管状ビトリゲルに封入した細胞は、培養することで良好に増殖できることが明らかとなった。
【0144】
[実験例10]
本実験例では、まず、管状ビトリゲルの製造装置を作製し、続いて、管状ビトリゲルの外周にシート状ビトリゲルが更に巻き付けられた、管状ビトリゲルを作製した。図19(a)~(n)及び図20(a)~(i)は本実験例の過程を示す写真である。
【0145】
(管状ビトリゲルの製造装置の作製)
図19(a)に示すように、1mLピペット(外径4.6mm)の先端5cmを切断し柱状構造体とした。また、15mLコニカルチューブの下端1cmを切断して中心に穴を開け、基台を兼ねた台座とした。続いて、図19(b)に示すように、柱状構造体と台座を70%エタノールで殺菌し、両者を組み合わせて製造装置を作製した。
【0146】
(管状ビトリゲルの作製)
図19(c)は、再水和したアテロコラーゲンビトリゲル膜(コラーゲン量5mg/cm)の写真である。図19(d)に示すように、直径5mmのトレパンを用いてアテロコラーゲンビトリゲル膜を切り抜いた。この結果、直径5mmの板状ビトリゲルが得られた。続いて、図19(e)に示すように、直径5mmの板状ビトリゲルの中心部分を直径3.5mmのトレパンを用いて切り抜き、貫通孔を有する板状ビトリゲルを得た。同様にして、貫通孔を有する板状ビトリゲルを合計32枚作製した。
【0147】
続いて、氷上で製造例1と同様の無血清培地2mLとブタアテロコラーゲン2mLを混合し、均一なコラーゲンゾルを調製した。続いて、図19(f)に示すように、上述した貫通孔を有する板状ビトリゲルを上述したコラーゲンゾルに浸した。
【0148】
続いて、図19(g)に示すように、製造装置の柱状構造体に板状ビトリゲルの貫通孔を貫通させた。この操作を繰り返し、合計32枚の板状ビトリゲルを積層した積層体を得た。図19(h)は、板状ビトリゲルを積層した状態を示す写真である。
【0149】
続いて、板状ビトリゲルの積層体の周囲のゾルを少し除き、室温のクリーンベンチ内でゲル化させ、管状ハイドロゲルを得た。続いて、製造装置ごと、管状ハイドロゲルを、10℃40%相対湿度で無菌に保たれた恒温恒湿器で乾燥させガラス化させ、図19(i)に示すように、管状ハイドロゲルの乾燥体を得た。続いて、管状ハイドロゲルの乾燥体に紫外線を照射した。紫外線の照射量は、1方向あたり800mJ/cmとし、90°ずつ回転させて4方向から照射した。
【0150】
続いて、図19(j)に示すように、管状ハイドロゲルの乾燥体をPBS中で再水和して台座を外した。
【0151】
図19(k)は、一方面と他方面とを貫通した複数の貫通孔を有するシート状ビトリゲル(コラーゲン量5mg/cm)を再水和した状態を示す写真である。続いて、図19(l)に示すように、シート状ビトリゲルを矩形状(5cm×2cm)に切断した。続いて、図19(m)に示すように、矩形状に切断したシート状ビトリゲルの一方面上にコラーゲンゾル300μLを塗布した。
【0152】
続いて、図19(n)に示すように、上述した、柱状構造体に巻き付いた状態の管状ハイドロゲルを、シート状ビトリゲルのコラーゲンゾルを塗布した面に接触させて巻きつけた。
【0153】
図20(a)~(e)は、管状ハイドロゲルの外周にシート状ビトリゲルを巻きつけていく過程を示す写真である。続いて、巻き終わりの部分を下にした状態で、柱状構造体ごと、管状ハイドロゲルを、10℃40%相対湿度で無菌に保たれた恒温恒湿器で乾燥させガラス化させ、管状ハイドロゲルの乾燥体を得た。図20(f)は管状ハイドロゲルの乾燥体を示す写真である。
【0154】
続いて、管状ハイドロゲルの乾燥体に紫外線を照射した。紫外線の照射量は、1方向あたり800mJ/cmとし、90°ずつ回転させて4方向から照射した。
【0155】
続いて、図20(g)に示すように、管状ハイドロゲルの乾燥体をPBS中で再水和して柱状構造体を外し、管状ビトリゲルの外周にシート状ビトリゲルが更に巻き付けられた、管状ビトリゲルを得た。
【0156】
図20(h)は、得られた管状ビトリゲルの写真である。図20(i)は、管状ビトリゲルを10℃40%相対湿度で無菌に保たれた恒温恒湿器で乾燥させガラス化させた管状ビトリゲル乾燥体の写真である。図21(a)~(i)は作製した管状ビトリゲルの写真である。図21(a)に示すように、再水和して管状ビトリゲルの巻き終わりのひだ部分を切断して除去した。図21(b)~(e)は、ひだ部分を除去した管状ビトリゲルを10℃40%相対湿度で無菌に保たれた恒温恒湿器で乾燥させガラス化させた管状ビトリゲル乾燥体の写真である。また、図21(f)~(i)は水和体の管状ビトリゲルの写真である。
【0157】
その結果、実験例9の管状ビトリゲルは、乾燥体の状態であっても水和体の状態であっても、ピンセットで容易に挟むことができ、取り扱い性が良好であることが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0158】
本発明によれば、管状ビトリゲルを製造する新たな技術を提供することができる。
【符号の説明】
【0159】
100,200…管状ビトリゲル、110a,110b…板状ビトリゲル、110b’…ゾル、210…シート状ビトリゲル、300a,300b,500…製造装置、310…基台、320…柱状構造体、330…台座、331…端部、400…細胞封入体、410…細胞懸濁液、411…細胞、420…空気、510…底面部、520…側面部、530…容器部、540…柱状治具、ID…内径、OD…外径。
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