(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-06
(45)【発行日】2023-09-14
(54)【発明の名称】測定開始条件判定装置
(51)【国際特許分類】
G01B 21/20 20060101AFI20230907BHJP
【FI】
G01B21/20 101
(21)【出願番号】P 2019133181
(22)【出願日】2019-07-18
【審査請求日】2022-06-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000137694
【氏名又は名称】株式会社ミツトヨ
(74)【代理人】
【識別番号】100143720
【氏名又は名称】米田 耕一郎
(74)【代理人】
【氏名又は名称】鈴木 征四郎
(72)【発明者】
【氏名】福田 満
(72)【発明者】
【氏名】熊谷 英樹
(72)【発明者】
【氏名】草間 隼人
【審査官】山▲崎▼ 和子
(56)【参考文献】
【文献】特表2016-524136(JP,A)
【文献】特開2004-163330(JP,A)
【文献】特開2019-013993(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01B 1/00-21/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定対象物の形状を形状測定機で測定するにあたって、前記測定対象物の測定開始の適否を判定する測定開始条件判定装置であって、
当該測定開始条件判定装置は、入力層と出力層とを有し、機械学習するニューラルネットワークで構成されており、
前記入力層に入力する入力データには、サーモカメラで取得した測定対象物の表面温度分布を含み、
前記出力層から出力される出力データは、測定対象物の測定開始の適否である
ことを特徴とする測定開始条件判定装置。
【請求項2】
請求
項1に記載の測定開始条件判定装置において、
前記測定開始条件判定装置を機械学習させるための入力データと出力データとの組み合わせである教師データを用意するにあたり、
加工精度の最終合否判定結果が合格であることが確認された測定対象物のサンプルを複数用意し、
前記サンプルを異なる温度に加熱または冷却し、
サーモカメラによって前記サンプルの各温度での表面温度分布を取得し、この表面温度分布を入力データとし、
各温度で前記サンプルを形状測定して形状データを得るとともに設計値データとの対比から前記各サンプルの各温度での加工度の合否判定結果を取得して、温度別合否判定結果とし、
前記温度別合否判定結果が前記最終合否判定結果に一致していた場合には、測定開始を許可する出力データにプラスの報酬を与え、測定開始を許可しない出力データにマイナスの報酬を与え、
前記温度別合否判定結果が前記最終合否判定結果に不一致の場合には、測定開始を許可する出力データにマイナスの報酬を与え、測定開始を許可しない出力データにプラスの報酬を与えるようにして機械学習させた
ことを特徴とする測定開始条件判定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は形状測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
測定対象物の形状や寸法を測定する三次元測定機(座標測定機)が広く使用されている。
【0003】
三次元測定機で測定対象物を測定するにあたっては、まず、測定対象物に応じた測定手順を予め測定パートプログラムとして組んで用意しておく。実際の測定作業では、定盤や移動ステージまたは回転テーブルの上に測定対象物を載置した後、オペレータは「測定開始」の指令を三次元測定機に与える。あとは、三次元測定機が測定パートプログラムに従って測定対象物を決められた手順で自動的に順々に測定していく。さらには、測定対象物を自動的に入れ替えるシステムも合わせて利用することで、次々と自動的に測定が継続的に実行される。近年では、三次元測定機を製造ラインの脇に設置して被加工物を順次測定していくインライン測定システムも利用されるようになってきている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2008-241420号公報
【文献】特開2013-238573号公報
【文献】特開2014-21004号公報
【文献】特開2017-062194
【文献】特許6482244
【文献】特公平02-062006
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
測定対象物の形状測定を行なうにあたっては測定対象物の温度が予め決められた温度になじんでいることが大切である。例えば、加工直後のワークの温度が高温である場合には、適正な温度になるまで待つことが必要になる。または、測定効率を上げるため、やや高い温度でも測定対象物の形状測定を開始する場合もあるが、この場合であっても、温度補正が効くことがわかっている温度まではなじませる必要はある。
【0006】
加工直後のワークを何度(℃)の部屋でどれぐらいの時間おいておくと形状測定を開始できる温度まで下がるかについては、製品の量産が始まるまでに試行錯誤で求める必要がある。ここで、ワークは表面から冷めていくので、表面のある箇所の温度が所定温度まで下がっていたとしても、ワーク全体として、あるいは、ワーク中心部の温度が所定温度になじんでいるとは限らない。
仮に、ワークが十分になじむ前に形状測定を開始してしまうと、線膨張の温度補正を加味してもなお不合格と判定されてしまうことになる。この場合、本来は合格のワークを廃棄してしまうことになる。
あるいは、時間をおいてもう一度形状測定すると、今度はワークの温度が所定温度になじんでいるので合格と判定されることも多い。この場合、再測定を行なう時間と手間が無駄になる。
一般的には、多少は無駄と分かっていても、無駄な廃棄や再測定を回避するため、必要以上に長いなじみ時間を設定することが多い(例えば2時間以上余計に待つなど)。
しかし、できることならこのような無駄を廃し、時間、コスト、手間等の観点でより一層の測定効率の向上を達成したいのは当然のことである。
【0007】
本発明の目的は、測定対象物の形状測定にあたって、より一層の測定効率の向上を図ることができる形状測定装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の形状測定装置は、
測定対象物を検出する検出器と、前記検出器と前記測定対象物とを相対移動させる移動機構と、を有し、前記検出器で前記測定対象物の形状を測定する形状測定装置であって、
さらに、
測定対象物の温度分布を取得するサーモカメラと、
前記サーモカメラによって取得した前記測定対象物の表面温度分布に基づいて前記測定対象物の形状測定の開始の適否を判定する測定開始条件判定部と、を備え、
前記測定開始条件判定部によって前記測定対象物の形状測定の開始が許可された場合に、当該測定対象物の形状測定を開始する
ことを特徴とする。
【0009】
本発明の一実施形態では、
前記測定開始条件判定部は、
前記測定対象物の表面に設定された一つ以上の温度評価点と、前記温度評価点ごとに設定された温度条件範囲と、を記憶した測定開始条件記憶部と、
前記サーモカメラによって取得した前記測定対象物の表面温度分布中の前記温度評価点の温度が前記温度条件範囲内にあるときに前記測定対象物の測定の開始を許可する測定開始許可部と、を備える
ことが好ましい。
【0010】
本発明の測定開始条件判定装置は、
測定対象物の形状を形状測定機で測定するにあたって、前記測定対象物の測定開始の適否を判定する測定開始条件判定装置であって、
当該測定開始条件判定装置は、入力層と出力層とを有し、機械学習するニューラルネットワークで構成されており、
前記入力層に入力する入力データには、サーモカメラで取得した測定対象物の表面温度分布を含み、
前記出力層から出力される出力データは、測定対象物の測定開始の適否である
ことを特徴とする。
【0011】
本発明の一実施形態では、
前記測定開始条件判定装置を機械学習させるための入力データと出力データとの組み合わせである教師データを用意するにあたり、
加工精度の最終合否判定結果が合格であることが確認された測定対象物のサンプルを複数用意し、
前記サンプルを異なる温度に加熱または冷却し、
サーモカメラによって前記サンプルの各温度での表面温度分布を取得し、この表面温度分布を入力データとし、
各温度で前記サンプルを形状測定して形状データを得るとともに設計値データとの対比から前記各サンプルの各温度での加工度の合否判定結果を取得して、温度別合否判定結果とし、
前記温度別合否判定結果が前記最終合否判定結果に一致していた場合には、測定開始を許可する出力データにプラスの報酬を与え、測定開始を許可しない出力データにマイナスの報酬を与え、
前記温度別合否判定結果が前記最終合否判定結果に不一致の場合には、測定開始を許可する出力データにマイナスの報酬を与え、測定開始を許可しない出力データにプラスの報酬を与えるようにして機械学習させた
ことが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図2】測定開始条件判定部の構成の一例を示す図である。
【
図4】モーションコントローラとホストコンピュータの機能ブロック図である。
【
図5】形状測定装置の動作を説明するためのフローチャートである。
【
図6】ニューラルネットワークの一例を示す図である。
【
図7】ニューラルネットワークを学習させるためのサンプルデータのテーブルを例示する図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の実施形態を図示するとともに図中の各要素に付した符号を参照して説明する。
(第1実施形態)
本発明の形状測定装置100に係る第1実施形態について説明する。
図1は、形状測定装置100の一例を示す図である。
形状測定装置100は、温度管理などがされている測定専用に設けられた測定室に設置されていてもよい。あるいは、形状測定装置100は、例えば、加工機械(不図示)と並んで製造ライン(不図示)の脇に設置されていてもよい。この場合、搬送ベルトやロボットアームを有する搬入出装置によって被加工物を順次三次元測定機に自動で投入するようになっていてもよい。
【0014】
形状測定装置100は、三次元測定機200と、サーモカメラ610と、測定開始条件判定部620と、モーションコントローラ300と、ホストコンピュータ500と、を備える。
【0015】
三次元測定機(CMM,CoordinateMeasuringMachine)は、回転テーブル210と、プローブ220と、駆動機構230と、を有する。
回転テーブル210は、ワークを載置するワーク載物台であり、Z軸を回転中心として回転する。
プローブ220は、接触または非接触でワークの表面を検出する。
駆動機構230は、Z方向に沿ったZ駆動軸231と、Y方向に沿ったY駆動軸232と、X方向に沿ったX軸駆動軸233と、を有し、プローブ220を3次元的に移動させる。
回転テーブル210と駆動機構230との協働により移動機構が構成され、ワークとプローブ220とが三次元的に相対移動可能となっている。
駆動機構230および回転テーブル210には駆動モータ(不図示)およびエンコーダ(不図示)が設けられている。
【0016】
モーションコントローラ300からの駆動制御信号によって駆動モータが駆動され、エンコーダによってサンプリングされた座標値(や回転角)はモーションコントローラ300に送られる。
駆動機構230のX、Y、Z座標値と回転テーブル210の回転角とにより、ワークの表面形状の測定値が得られる。
【0017】
もちろん、移動機構としては、プローブ220をX方向、Y方向、Z方向の三次元的に移動させる機構であってもよいし、ワークをX方向、Y方向、Z方向の三次元的に移動させる機構であってもよいし、さらに、X軸回り回転、Y軸回り回転、Z軸回り回転などの回転機構があってもよい。
【0018】
サーモカメラ610は、例えば、三次元測定機200に付設されており、測定対象物が回転テーブル210や定盤に投入されたときに測定対象物を撮像範囲に捉えるように設置されている。サーモカメラ610は、いわゆる赤外線サーモグラフィカメラであり、測定対象物の表面温度を非接触で測定する。
【0019】
図2は、測定開始条件判定部620の構成の一例を示す図である。
測定開始条件判定部620は、サーモカメラ610で取得された測定対象物のサーモグラフィーに基づいて、測定対象物の形状測定の開始の適否を判定する。
測定開始条件判定部620は、サーモグラフィーの画像データを入力する画像データ入力部(画像データ入力インターフェース)と、CPU、ROM、RAM、等を備えたいわゆるコンピュータで構成されてもよい。
測定開始条件判定部620は、測定開始条件記憶部630と、測定開始許可部640と、を有する。
【0020】
測定開始条件記憶部630には、測定対象物の表面に設定された温度評価点の位置(座標)と、温度評価点ごとに設定された温度条件範囲と、が設定されている。
温度評価点というのは、測定対象物が形状測定の開始に適した温度になっているかどうかを判定するにあたって適切であると選ばれた測定対象物表面の点である(例えば
図3を参照)。そして、温度評価点ごとに温度範囲が設定されている。例えば、第1温度評価点については、温度条件範囲が28℃から10℃とする。第2温度評価点については、温度条件範囲が25℃から15℃とする。第3温度評価点については、温度条件範囲が23℃から18℃とする。
【0021】
温度評価点をどこに設定すればよいか、温度評価点ごとの温度範囲をどのように設定するかは、例えば、適切に決められた所定の実験と検証を踏まえて、オペレータが設定する。
例えば、まず、設定値データ通りに加工された測定対象物のサンプルを用意する。このサンプルは、加工後、形状測定に適した所定の温度(例えば標準温度)になるまで十分に冷ましてなじませた上で、形状測定機で形状測定して、正確な形状データを得ておく。設計値データからの加工誤差が公差内であって、サンプルの加工精度は製品として合格であることを確認しておく。
【0022】
次に、このサンプルを加工後の温度に相当する温度まで加熱した後、異なる待ち時間でサンプルを冷ます。
そして、サンプルの表面に複数の接触式温度センサ(熱電対やサーミスタ)を貼り付け、サンプル表面上の複数点(20点とか30点とかの複数点)で温度データを取得しておく。あるいは、サーモカメラでサンプルを撮像し、撮像データのなかから温度評価点の候補をいくつか(例えば20点とか30点とか)指定しておいてもよい。
温度を測定したら、その温度状態のまま、引き続き、サンプルを形状測定機で形状測定し、形状データを得る。形状測定で得た形状データと設計値データとの対比からそのサンプルが合格であると判定できるかどうか検証する。
(サンプルの表面の温度が取得できているので、温度補正を考慮にいれてもよい。)
【0023】
このとき、加熱から測定開始までの待ち時間を変化させながら上記の実験を繰り返すと、サンプル表面上のどの点が何度以下になれば、サンプルの合否判定が適切に行えるかが把握できる。
測定対象物は表面から冷えていくので、測定対象物が大きいものであったり複雑な形状であったりする場合、測定対象物の表面上の数点で所定温度まで冷えていたとしても、測定対象物の中心部ではまだ熱を持っている。測定対象物の大きさや形状から表面上どの点が中心部の温度を反映するかは一概には言えないし、表面上のどの点が何度以下になれば測定対象物全体として測定開始に適した温度まで冷めたと言えるかは一概に言えない。
そこで、適切に決められた所定の実験と検証によって、測定対象物の表面上の数点で測定開始の適否が判断できる条件を見いだす。
このようにして見いだされた条件が測定開始条件として測定開始条件記憶部630に設定される。
【0024】
測定開始許可部640は、実際に測定対象物を形状測定するにあたって、測定対象物の温度が測定開始条件を満たしているか照合し、測定対象物が測定対象物の温度が測定開始条件を満たしていれば、モーションコントローラに測定開始の指令を与える。測定開始条件判定部620には、サーモカメラ610で取得される測定対象物のサーモグラフィーがリアルタイムで時々刻々入力される。測定開始許可部640は、測定対象物のサーモグラフィーから各温度評価点の温度を取得し、各温度が温度条件範囲を満たしているか判定する。
【0025】
なお、測定対象物が定盤あるいは回転テーブル210に置かれたときに、サーモカメラ610と測定対象物との相対位置や向きが常に決まったものであれば、温度評価点の指定は2次元的な画像データ中での座標指定でよいだろう。
もし、測定対象物とサーモカメラ610との相対位置や向きが一意に固定できないのであれば、画像認識によって測定対象物の表面上で三次元的な位置として温度評価点を認識させるようにしてもよい。例えば、測定対象物の特徴的な幾何学形状に基づいて測定対象物のワーク座標系を認識させるようにすればよい。
【0026】
図4に、モーションコントローラ300とホストコンピュータ500の機能ブロック図を示す。
モーションコントローラ300は、測定指令取得部310と、カウンタ部320と、移動指令生成部330と、駆動制御部340と、測定開始指令部350と、を備える。
【0027】
測定指令取得部310は、ホストコンピュータ500から測定指令を取得する。
測定指令は、測定対象物の設計データや測定対象箇所をもとにしてホストコンピュータ500による演算処理等により生成される。測定指令にはプローブ軌道上の目標点や目標移動速度が含まれている。
【0028】
カウンタ部320は、エンコーダから出力される検出信号をカウントして駆動機構230および回転テーブル210の変位量を計測するとともに、プローブセンサから出力される検出信号をカウントしてプローブ220の変位を計測する。これにより、プローブ220の現在位置、すなわち、ワーク表面の座標値を得る。
【0029】
移動指令生成部330は、プローブ220で測定対象物表面を測定するためのプローブ220の移動経路を算出し、その移動経路に沿った速度ベクトルを算出する。例えば、自律的に押込み量を調整しながらプローブ220を現在位置から次の目標点に移動させるためのベクトル指令を生成する。
【0030】
駆動制御部340は、移動指令生成部330によって算出されたベクトル指令に基づいて、駆動機構230および回転テーブル210を駆動制御する。
【0031】
測定開始指令部350は、測定開始条件判定部620からから送られてくる測定許可指令を受けて、移動指令生成部330に測定開始の許可を与える。
【0032】
ホストコンピュータ500は、いわゆるパソコンで構成できる。ホストコンピュータ500は、CPU(CentralProcessingUnit)やメモリ等を備えて構成され、モーションコントローラ300を介して三次元測定機200を制御する。ホストコンピュータ500は、さらに、記憶部520と、形状解析部530と、を備える。記憶部520は、測定対象物(ワーク)の形状に関する設計データ(CADデータや、NURBSデータ等)、測定で得られた測定データ、および、測定動作全体を制御する測定制御プログラム(測定パートプログラム)を格納する。
【0033】
図5を参照して、形状測定装置100の動作を簡単に説明する。
搬入出装置等によって測定対象物が三次元測定機200に投入される(ST110)。
すると、測定開始条件判定部620は、サーモカメラ610から測定対象物のサーモグラフィーを取得する(ST120)。
そして、測定開始条件判定部620は、サーモグラフィー中で各温度評価点を認識し、各温度評価点の温度を取得する(ST130)。
【0034】
測定開始許可部640は、各温度評価点の温度を測定開始条件として設定されている温度条件範囲と対比し、すべての温度評価点の温度が温度条件範囲内に入っていれば、測定開始の許可をモーションコントローラ300に与える。
一方、温度評価点の温度が温度条件範囲内に入っていない場合、測定開始許可部640は、ST120に戻って測定対象物のサーモグラフィーを更新しながら、測定開始条件が満たされるまでモーションコントローラ300に待機を指示する。
測定すべきワークが三次元測定機200に順次投入される間は終了条件を満たすまでST110からST160を繰り返す。
【0035】
なお、測定開始許可部640において、複数ある温度評価点の温度をどのように評価して測定開始条件を満たすと判断するか(温度条件範囲内にあると判断するか否か)についてはいくつかバリエーションが有り得る。例えば、適当な評価関数をつくっておいて、評価関数のスコアに基づいて測定対象物の温度が温度条件範囲内にあると判断するようにしてもよい。
【0036】
上記実施形態の形状測定装置100によれば、オペレータが接触式温度センサを測定対象物に逐一付ける必要がないので、例えばインライン測定において次々に測定対象物を自動測定する無人オペレーションが可能になる。
オペレータが手作業で接触式温度センサを測定対象物に付ける必要がないので、温度評価点の数を所望の数だけ十分に多くすることができる。これにより、測定対象物の温度評価の精度が高まることが期待できる。
【0037】
サーモカメラ610で取得したサーモグラフィーで測定対象物の温度を正確にかつ効率的に測定し、測定開始条件と正しく照合できる。これにより、測定対象物の温度が適正温度になるまで(冷えるまで)過剰に待つ必要がなく、測定開始条件が満たされたならばすぐに測定対象物の形状測定を開始できる。
【0038】
(第2実施形態)
本発明の第2実施形態としては、機械学習するニューラルネットワークで測定開始条件判定部700を構成する。
機械学習するニューラルネットワーク自体は知られたものであり、
図6に例示するように、入力層、中間層、出力層からなる。
【0039】
測定開始条件判定部700を機械学習させるための入力データと出力データとの組み合わせである教師データを例えば次のようにして用意する。
まず、設定値データ通りに加工された測定対象物のサンプルを用意する。
サンプルは、加工後、形状測定に適した所定の温度(例えば標準温度)になるまで十分に冷ましてなじませた上で、形状測定機で形状測定して、正確な形状データを得ておく。
設計値データからの加工誤差が公差内であって、サンプルは製品として合格であることを確認しておく。このようなサンプルを複数用意しておくとよい。
【0040】
サンプルを加工後の温度に相当する温度まで加熱した後、異なる待ち時間でサンプルを冷ます。
サーモカメラでサンプルを撮像し、撮像データを記録する。
このサーモグラフィー画像が入力層に入力するデータである。入力層に入力できる入力データとして解像度が細かすぎる場合には適宜フィルタ処理しておく。
【0041】
サーモグラフィー画像の取得後、サンプルを形状測定機で形状測定し、形状データを得る。
形状測定で得た形状データと設計値データとの対比からそのサンプルが合格であると判定できるかどうか検証する。(サンプルの表面の温度が取得できているので、温度補正を考慮にいれてもよい。)
待ち時間ごと(つまり温度ごと)に得られた合否判定結果を温度別合否判定結果と称することにする。
【0042】
加熱から測定開始までの待ち時間を変化させながら上記の実験を繰り返すと、例えば
図7に示すようなテーブルが得られる。
いま、すべてのサンプルは最終的には合格であることが分かっている。
したがって、温度別合否判定結果が合格の場合には、測定開始を許可する出力データにプラスの報酬を与え、測定開始を許可しない出力データにマイナスの報酬を与える。
逆に、温度別合否判定結果が不合格の場合には、測定開始を許可する出力データにマイナスの報酬を与え、測定開始を許可しない出力データにプラスの報酬を与える。
このような教師データよって、入力であるサーモグラフィー画像と出力である測定開始の許可/不許可の関係を機械学習させたニューラルネットワークを得て、これを測定開始条件判定部700とする。
このように学習した学習済み測定開始条件判定部700に測定対象物のサーモグラフィー画像を入力として与えると、測定開始の許可または不許可(待機指令)が出力データとして得られる。
【0043】
この第2実施形態では、オペレータが温度評価点を特段指定する必要がなく、サーモグラフィー画像と温度別合否判定結果との組みがあれば誰でも精度の高い測定開始条件判定部700が得られる。
【0044】
なお、本発明は上記実施の形態に限られたものではなく、趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更することが可能である。
第1実施形態でも第2実施形態でも、測定対象物の表面温度だけを測定開始の判断材料(測定開始条件)としていたが、このほか、例えば、室内温度(環境温度)も測定開始条件(入力データ)に含めるようにしてもよい。
【符号の説明】
【0045】
100…形状測定装置、
200…三次元測定機、
210…回転テーブル、220…プローブ、
230…駆動機構、
231…Z駆動軸、232…Y駆動軸、233…X軸駆動軸、
300…モーションコントローラ、
310…測定指令取得部、320…カウンタ部、330…移動指令生成部、340…駆動制御部、350…測定開始指令部、
500…ホストコンピュータ、
520…記憶部、530…形状解析部、
610…サーモカメラ、
620、700…測定開始条件判定部、
630…測定開始条件記憶部、
640…測定開始許可部。