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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-06
(45)【発行日】2023-09-14
(54)【発明の名称】形状測定装置の制御方法
(51)【国際特許分類】
   G01B 5/20 20060101AFI20230907BHJP
【FI】
G01B5/20 C
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019188283
(22)【出願日】2019-10-14
(65)【公開番号】P2021063710
(43)【公開日】2021-04-22
【審査請求日】2022-09-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000137694
【氏名又は名称】株式会社ミツトヨ
(74)【代理人】
【識別番号】100143720
【弁理士】
【氏名又は名称】米田 耕一郎
(72)【発明者】
【氏名】榊原 昇太
【審査官】眞岩 久恵
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-228326(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01B 5/00-5/30
G01B 21/00-21/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
並進移動機構と回転駆動機構とによってプローブとワークとを相対移動させ、前記プローブが予め設定された倣い経路に沿って前記ワークを倣い測定する形状測定装置の制御方法であって、
オペレータが倣い経路とともに前記回転駆動機構の回転角指令を設定しておき、
前記倣い経路データを複数のセグメントに分割するとともに各前記セグメントの曲率に基づいて各前記セグメントに対して前記並進移動機構の並進速度パターンを設定し、
前記回転角指令に基づいて、前記セグメントごとにセグメント開始時の回転角度値とセグメント終了時の回転角度値を求め、さらに、前記セグメントごとに角速度パターンを生成し、
前記角速度パターンで与えられる回転指令の分を減じるように前記並進速度パターンを補正して補正後並進速度パターンを生成し、
前記補正後並進速度パターンに基づく合成速度ベクトルに基づいて前記並進移動機構を駆動制御すると同時に、前記角速度パターンに基づく角速度指令に基づいて前記回転駆動機構を駆動制御する
ことを特徴とする形状測定装置の制御方法。
【請求項2】
並進移動機構と回転駆動機構とによってプローブとワークとを相対移動させ、前記プローブが予め設定された倣い経路に沿って前記ワークを倣い測定する形状測定装置の制御方法であって、
オペレータが倣い経路とともに前記回転駆動機構の回転角指令を設定しておき、
前記回転角指令の分を減じるように前記倣い経路のデータを補正して補正後倣い経路データを生成し、
前記補正後倣い経路データを複数のセグメントに分割するとともに各前記セグメントの曲率に基づいて各前記セグメントに対して前記並進移動機構の並進速度パターンを設定し、
前記回転角指令と前記セグメントごとの前記並進速度パターンに基づいて、前記セグメントごとにセグメント開始時の回転角度値とセグメント終了時の回転角度値を求め、
さらに、前記セグメントごとに角速度パターンを生成し、
前記並進速度パターンに基づく合成速度ベクトルに基づいて前記並進移動機構を駆動制御すると同時に、前記角速度パターンに基づく角速度指令に基づいて前記回転駆動機構を駆動制御する
ことを特徴とする形状測定装置の制御方法。
【請求項3】
並進移動機構と回転駆動機構とによってプローブとワークとを相対移動させ、前記プローブが予め設定された倣い経路に沿って前記ワークを倣い測定する形状測定装置の制御方法であって、
オペレータが倣い経路を設定し、
前記倣い経路データを複数のセグメントに分割するとともに各前記セグメントの曲率に基づいて各前記セグメントに対して前記並進移動機構の並進速度パターンを設定し、
前記倣い経路のデータに基づいて、前記プローブが前記倣い経路に沿って移動するように前記並進移動機構を駆動制御する並進速度ベクトル指令を生成し、
前記並進速度ベクトル指令に基づいて前記回転駆動機構への回転指令を生成し、
前記回転角指令に基づいて、前記セグメントごとにセグメント開始時の回転角度値とセグメント終了時の回転角度値を求め、さらに、前記セグメントごとに角速度パターンを生成し、
前記角速度パターンで与えられる回転指令の分を減じるように前記並進速度パターンを補正して補正後並進速度パターンを生成し、
前記補正後並進速度パターンに基づく合成速度ベクトルに基づいて前記並進移動機構を
駆動制御すると同時に、前記角速度パターンに基づく角速度指令に基づいて前記回転駆動機構を駆動制御する
ことを特徴とする形状測定装置の制御方法。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれかに記載の形状測定装置の制御方法において、
前記セグメントごとに角速度パターンを生成する工程において、角加速度の大きさは所定の固定値とし、
先頭の前記セグメントから計算を開始して、角速度が一定であるパターンか、最初に加速してその後一定の角速度になるパターンか、最初に一定の角速度でその後減速するパターンか、のいずれかのパターンを各セグメントに当てはめて角速度パターンを生成する
ことを特徴とする形状測定装置の制御方法。
【請求項5】
請求項4に記載の形状測定装置の制御方法において、
最後の前記セグメントの前記角速度パターンを生成した後、
前記倣い経路の終点で前記角速度がゼロにならない場合、
前記回転駆動機構を前記倣い経路の終点で停止させるまでに必要な減速距離を計算して、前記終点から前記必要な減速距離だけ手前から減速するように前記角速度パターンを修正する
ことを特徴とする形状測定装置の制御方法。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれかに記載の形状測定装置の制御方法において、
前記セグメントごとに生成された前記角速度パターンをブロック化し、
前記ブロック化された前記角速度パターンの加減速領域に対してS字曲線化を適用する
ことを特徴とする形状測定装置の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、形状測定装置の制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
測定対象物の表面に沿って測定子を倣い移動させることで測定対象物の形状を測定する形状測定装置が知られている(例えば、特許文献1、2、3参照)。倣い測定にあたっては、倣い測定の経路を設定しておく必要がある。
【0003】
特許文献1に記載の装置では、CADデータ等に基づいた倣い経路の設計値(例えばNURBS(Non-UniformRationalB-Spline:非一様有理Bスプライン)データ)を所定次数の多項式曲線群に変換する。
この手順を簡単に説明する。
まず、外部のCADシステム等から経路情報を含んだCADデータ(例えばNURBSデータ)を受け取り、このCADデータを点群のデータに変換する。
各点のデータは、座標値(x、y、z)と法線方向(P、Q、R)とを組み合わせたデータである(つまり(x、y、z、P、Q、R)である)。本明細書では、(x、y、z、P、Q、R)の情報をもつ点群のデータを輪郭点データと称することにする。
【0004】
次に、各点の座標値を法線方向に所定量だけオフセットする。(所定量とは、具体的には、測定子半径r―基準押込み量E0である。)このようにして求めた点群データをオフセット済み輪郭点データと称することにする。
【0005】
そして、オフセット済み輪郭点データを所定次数の多項式曲線群に変換する。ここでは、多項式として三次関数を用い、PCC曲線群(Parametric Cubic Curves)とする。このPCC曲線を元にワークを測定する経路を生成する。さらに、PCC曲線を分割して分割PCC曲線群とする。
【0006】
分割PCC曲線群から速度曲線を算出してプローブの移動速度(移動ベクトル)を算出する。(例えば分割PCC曲線群の各セグメントの曲率などに基づいてプローブの移動速度(移動ベクトル)を設定する。)このように算出された移動速度に基づいてプローブを移動させ、測定対象物の表面に倣って測定子を移動させる(パッシブ設計値倣い測定)。
【0007】
さらに、プローブの押し込み量を一定にするように押込み修正ベクトルを時々刻々算出して、軌道修正しながら倣い測定する方法も知られている(特許文献2)。ここでは、このような設計値倣いを「アクティブ設計値倣い測定」と称することにする。
【0008】
特許文献2に開示された「アクティブ設計値倣い測定」を簡単に紹介しておく。
「アクティブ設計値倣い測定」では、次の(式1)で表わされる合成速度ベクトルVをプローブの移動指令とする。プローブが合成速度ベクトルVに基づく移動を行うと、プローブ(測定子)はPCC曲線に沿うように移動しつつ、押込み量を一定としたワーク表面倣い測定、つまり、「アクティブ設計値倣い測定」が実現される。
【0009】
V=Gf×Vf+Ge×Ve+Gc×Vc ・・・(式1)
【0010】
図1を参照しながら式の意味を簡単に説明する。図1において、設計データ(輪郭点データ)から所定量(測定子半径r―基準押込み量E0)オフセットしたところにPCC曲線(つまり、倣い経路)がある。(なお、図1においては、加工誤差等により、実際のワークが設計データから少しずれたように描いている。)
【0011】
ベクトルVfは経路速度ベクトルである。経路速度ベクトルVfは、PCC曲線上の補間点(i)から次の補間点(i+1)に向かう方向をもつ。
なお、経路速度ベクトルVfの大きさは、例えば、補間点(i)におけるPCC曲線の曲率に基づいて決定される(例えば特許文献3)。
【0012】
ベクトルVeは、押込み量修正ベクトルであり、プローブの押込み量Epが所定の基準押込み量E0(例えば0.3mm)になるようにするためのベクトルである。(押込み量修正ベクトルVeは、必然的に、ワーク表面の法線に平行となる。)
【0013】
ベクトルVcは、軌道修正ベクトルである。軌道修正ベクトルは、プローブ位置からPCC曲線に下ろした垂線に平行である。Gf、Ge、Gcはそれぞれ倣い駆動ゲイン、押込み方向修正ゲイン、軌道修正ゲインである。
【0014】
PCC曲線を図2に例示する。
点P1から点P7まで一続きのPCC曲線L_PCCがあり、PCC曲線L_PCCは、点Pにより複数のセグメントに分割されている。(各セグメントもPCC曲線である。)
各セグメントの終了点は、次のセグメント(PCC曲線)の開始点となっている。セグメントの開始点の座標を(KX0、KY0、KZ0)と表わし、そのPCC曲線における始点と終点との間の直線の長さをDとする。このように定義すると、PCC曲線上の任意の位置における座標{X(S)、Y(S)、Z(S)}は、3次曲線を表わすための係数(KX3、KX2・・・・KZ1、KZ0)を用い、次の式(2)で表される。
【0015】
X(S)=KX3+KX2+KX1S+KX0
Y(S)=KY3+KY2+KY1S+KY0
Z(S)=KZ3+KZ2+KZ1S+KZ0 ・・・(式2)
【0016】
測定対象物を倣い測定する経路を上記式(2)のように生成し、このPCC曲線に沿って合成速度ベクトルV(上記式(1))でプローブが倣い移動するように制御する。すると、測定対象物を倣い測定した測定結果が得られるわけである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【文献】特許5274782
【文献】特許6030339
【文献】特許6063161
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
近年、測定対象物の形状がかなり複雑になってきていると当時に、複雑な形状のワークに対しても高速かつ高精度に倣い測定を適用したいというニーズが高まっている。例えば、図3に例示するようなタービンのブレードを高速かつ高精度に倣い測定したいというニーズがある。現行の三次元測定機(特許文献1、2、3)は、X駆動軸、Y駆動軸およびZ駆動軸の互いに直交する3つの駆動軸を有し、直交する3つの駆動軸でプローブと測定対象物との相対移動を実現している。
しかし、現行の三次元測定機では、測定対象物が複雑になってくると、それだけプローブの動きが複雑になるため、プローブの移動速度が遅くなり、測定時間が非常に長く掛かってしまっていた。あるいは、ワークの形状によってはプローブのスタイラスがワークと干渉してしまって、測定できない場合も有り得る。
【0019】
本発明の目的は、複雑な形状の測定対象物であっても測定時間を短縮して測定効率の向上を図ることができる形状測定装置の制御方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明の形状測定装置の制御方法は、
並進移動機構と回転駆動機構とによってプローブとワークとを相対移動させ、前記プローブが予め設定された倣い経路に沿って前記ワークを倣い測定する形状測定装置の制御方法であって、
オペレータが倣い経路とともに前記回転駆動機構の回転角指令を設定しておき、
前記倣い経路データを複数のセグメントに分割するとともに各前記セグメントの曲率に基づいて各前記セグメントに対して前記並進移動機構の並進速度パターンを設定し、
前記回転角指令に基づいて、前記セグメントごとにセグメント開始時の回転角度値とセグメント終了時の回転角度値を求め、さらに、前記セグメントごとに角速度パターンを生成し、
前記角速度パターンで与えられる回転指令の分を減じるように前記並進速度パターンを補正して補正後並進速度パターンを生成し、
前記補正後並進速度パターンに基づく合成速度ベクトルに基づいて前記並進移動機構を駆動制御すると同時に、前記角速度パターンに基づく角速度指令に基づいて前記回転駆動機構を駆動制御する
ことを特徴とする。
【0021】
本発明の形状測定装置の制御方法は、
並進移動機構と回転駆動機構とによってプローブとワークとを相対移動させ、前記プローブが予め設定された倣い経路に沿って前記ワークを倣い測定する形状測定装置の制御方法であって、
オペレータが倣い経路とともに前記回転駆動機構の回転角指令を設定しておき、
前記回転角指令の分を減じるように前記倣い経路のデータを補正して補正後倣い経路データを生成し、
前記補正後倣い経路データを複数のセグメントに分割するとともに各前記セグメントの曲率に基づいて各前記セグメントに対して前記並進移動機構の並進速度パターンを設定し、
前記回転角指令と前記セグメントごとの前記並進速度パターンに基づいて、前記セグメントごとにセグメント開始時の回転角度値とセグメント終了時の回転角度値を求め、
さらに、前記セグメントごとに角速度パターンを生成し、
前記並進速度パターンに基づく合成速度ベクトルに基づいて前記並進移動機構を駆動制御すると同時に、前記角速度パターンに基づく角速度指令に基づいて前記回転駆動機構を駆動制御する
ことを特徴とする。
【0022】
本発明の形状測定装置の制御方法は、
並進移動機構と回転駆動機構とによってプローブとワークとを相対移動させ、前記プローブが予め設定された倣い経路に沿って前記ワークを倣い測定する形状測定装置の制御方法であって、
オペレータが倣い経路を設定し、
前記倣い経路データを複数のセグメントに分割するとともに各前記セグメントの曲率に基づいて各前記セグメントに対して前記並進移動機構の並進速度パターンを設定し、
前記倣い経路のデータに基づいて、前記プローブが前記倣い経路に沿って移動するように前記並進移動機構を駆動制御する並進速度ベクトル指令を生成し、
前記並進速度ベクトル指令に基づいて前記回転テーブル機構への回転指令を生成し、
前記回転角指令に基づいて、前記セグメントごとにセグメント開始時の回転角度値とセグメント終了時の回転角度値を求め、さらに、前記セグメントごとに角速度パターンを生成し、
前記角速度パターンで与えられる回転指令の分を減じるように前記並進速度パターンを補正して補正後並進速度パターンを生成し、
前記補正後並進速度パターンに基づく合成速度ベクトルに基づいて前記並進移動機構を駆動制御すると同時に、前記角速度パターンに基づく角速度指令に基づいて前記回転駆動機構を駆動制御する
ことを特徴とする。
【0023】
本発明の一実施形態では、
前記セグメントごとに角速度パターンを生成する工程において、角加速度の大きさは所定の固定値とし、
先頭の前記セグメントから計算を開始して、角速度が一定であるパターンか、最初に加速してその後一定の角速度になるパターンか、最初に一定の角速度でその後減速するパターンか、のいずれかのパターンを各セグメントに当てはめて角速度パターンを生成する
ことが好ましい。
【0024】
本発明の一実施形態では、
最後の前記セグメントの前記角速度パターンを生成した後、
前記倣い経路の終点で前記角速度がゼロにならない場合、
前記回転駆動機構を前記倣い経路の終点で停止させるまでに必要な減速距離を計算して、前記終点から前記必要な減速距離だけ手前から減速するように前記角速度パターンを修正する
ことが好ましい。
【0025】
本発明の一実施形態では、
前記セグメントごとに生成された前記角速度パターンをブロック化し、
前記ブロック化された前記角速度パターンの加減速領域に対してS字曲線化を適用する
ことが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】設計データと、PCC曲線と、合成ベクトルVと、の関係を模式的に示す図である。
図2】PCC曲線を例示する図である。
図3】測定対象物を例示する図である。
図4】形状測定システムの全体構成を示す図である。
図5】ホストコンピュータおよびモーションコントローラの機能ブロック図である。
図6】円柱状のワーク(測定対象物)Wの側面を蛇行しながら倣い測定する経路を例示した図である。
図7】倣い経路の区間に回転角(回転角指令)を設定した状態を模式的に例示する図である。
図8】モーションコントローラの機能ブロック図である。
図9】並進速度パターンを例示する図である。
図10】並進速度パターンに角度の情報を加えたパターンを例示する図である。
図11】並進速度パターンにおいて、各セグメントの移動距離Li、開始速度Vsi、加減速時間ta、定速時間tc、終速度VFi、開始時刻tsおよび終了時刻tfを加えた図である。
図12】各セグメントに当てはめる角速度パターンを例示した図である。
図13】並進移動機構によるプローブの移動に同期した回転テーブルの角速度パターンを例示する図である。
図14】倣い測定動作を例示する図である。
図15】倣い測定動作を例示する図である。
図16】修正が必要な角速度パターンを例示する図である。
図17】一次関数で与えられた速度パターンにS字加減速処理する様子を例示する図である。
図18】一次関数で与えられた速度パターンにS字加減速処理した様子を例示する図である。
図19】傾斜回転テーブル機構を例示する図である。
図20】回転軸を持ったプローブを例示する図である。
図21】第4実施形態において、測定指令データと補正後測定指令データとの関係を例示する図である。
図22】補正後PCC曲線を例示する図である。
図23】モーションコントローラの機能ブロック図である。
図24】速度パターンを例示する図である。
図25】第5実施形態のモーションコントローラの構成を示す図である。
図26】倣い測定の経路を例示する図である。
図27図26をZ軸に沿ってみた図である。
図28】第6実施形態を説明する図である。
図29】合成ベクトルVから回転角指令を求める様子を例示する図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明の実施形態を図示するとともに図中の各要素に付した符号を参照して説明する。
(第1実施形態)
図4は、形状測定システム100の全体構成を示す図である。
形状測定システム100は、三次元測定機200と、三次元測定機200の駆動を制御するモーションコントローラ300と、モーションコントローラ300を制御すると共に必要なデータ処理を実行するホストコンピュータ500と、を備える。
【0028】
三次元測定機200は、定盤210と、並進移動機構220と、プローブ230と、回転テーブル機構250と、を備える。
【0029】
並進移動機構220は、定盤210上をY方向にスライド可能に設けられた門型のYスライダ221と、Yスライダ221のX方向のビームに沿ってスライドするXスライダ222と、Xスライダ222に固定されたZ軸コラム223と、Z軸コラム223内をZ方向に昇降するZスピンドル224と、を備える。
【0030】
Yスライダ221、Xスライダ222およびZスピンドル224には、それぞれ駆動モータ(不図示)とエンコーダ(不図示)とが付設されている。
モーションコントローラ300からの駆動制御信号によって各駆動モータが駆動制御される。エンコーダは、Yスライダ221、Xスライダ222およびZスピンドル224それぞれの移動量を検出し、検出値をモーションコントローラ300に出力する。Zスピンドル224の下端にプローブ230が取り付けられている。
【0031】
プローブ230は、測定子232を先端側(-Z軸方向側)に有するスタイラス231と、スタイラス231の基端側(+Z軸方向側)を支持する支持部233と、を備える。測定子232は、球状であって、測定対象物に接触する。
【0032】
支持部233は、スタイラス231に外力が加わった場合、すなわち測定子232が測定対象物に当接した場合にはスタイラス231が一定の範囲内でX、Y、Z軸の各軸方向に移動可能となるようにスタイラス231を支持している。さらに、支持部233は、スタイラス231の各軸方向の位置をそれぞれ検出するためのプローブセンサー(不図示)を備える。プローブセンサは検出値をモーションコントローラ300に出力する。
【0033】
回転テーブル機構250は定盤上に設置されており、内蔵のモータ(不図示)で回転テーブル251を回転させる。なお、ここでは、回転テーブル251の回転軸はZ軸に平行である。回転テーブル機構250にはロータリーエンコーダ(不図示)が内蔵されており、検出値をモーションコントローラ300に出力する。
【0034】
(ホストコンピュータ500の構成)
次にホストコンピュータ500について説明する。
図5は、ホストコンピュータ500およびモーションコントローラ300の機能ブロック図である。
ホストコンピュータ500は、CPU511(Central Processing Unit)やメモリ等を備えて構成され、モーションコントローラ300を介して三次元測定機200を制御する。CPU511(中央処理装置)で測定制御プログラムを実行することにより本実施形態の測定動作が実現される。ホストコンピュータ500には、必要に応じて、出力装置(ディスプレイやプリンタ)および入力装置(キーボードやマウス)が接続されている。
【0035】
ホストコンピュータ500は、さらに、記憶部520と、形状解析部530と、を備える。記憶部520は、測定対象物(ワーク)Wの形状に関する設計データ(CADデータや、NURBSデータ等)、測定で得られた測定データ、および、測定動作全体を制御する測定制御プログラムを格納する。
【0036】
形状解析部530は、モーションコントローラ300から出力された測定データに基づいて測定対象物の表面形状データを算出し、算出した測定対象物の表面形状データの誤差や歪み等を求める形状解析を行う。
【0037】
また、形状解析部530は、倣い経路情報を含んだ設計データ(CADデータや、NURBSデータ等)からPCC曲線への変換等を行って測定指令データの生成を行う。ここで、測定指令データの生成について説明する。
【0038】
いま、例えば、図6に例示するような円柱状のワーク(測定対象物)Wの側面を蛇行しながら倣い測定したいとする。この場合、従来技術では、オペレータは、単に図6に示すような倣い経路(蛇行する経路)を設定するだけであり、倣い経路を例えばCADデータとして設定していた。本実施形態では、オペレータは、倣い経路の情報だけでなく、そのときの回転テーブル251の回転角度の値についても指令値として設定入力する。
【0039】
例えば、図7に例示するように、倣い経路をいくつかの区間(セクション)で区切っておく。
そして、区間ごとに、区間の始点を測定するときの回転テーブルの回転角度θS、区間の終点を測定するときの回転テーブル251の回転角度θF、を設定しておく。(区間の終点は、次の区間の始点でもある。)この回転角度指令は、CADデータとリンクするようにして倣い経路情報に埋め込まれるとする。図7の例では、最初の区間(セクション1)の始点PSでは"0度"、区間の終点PFでは"+10度"、というように回転テーブル251の回転角度を設定しておく。(実際の倣い測定動作では、測定子232が最初の区間を倣い移動する間に、回転テーブルが10度回転するということになる。)
【0040】
形状解析部530は、背景技術で説明した通りの方法で、CADデータを点群のデータ(輪郭点データ)→オフセット済み輪郭点データ→PCC曲線、とする。
ただし、回転角度の指令については、倣い経路情報から抜き出し、PCC曲線の生成後に、PCC曲線の対応する区間に前記回転角度指令を付け加えておく。
PCC曲線に回転角指令を加えたものを本実施形態の"測定指令データ"とする(図8参照)。
【0041】
(モーションコントローラ300の構成)
図8は、モーションコントローラ300の機能ブロック図である。モーションコントローラ300について説明する。モーションコントローラ300は、測定指令取得部310と、カウンタ部330と、駆動指令生成部340と、駆動制御部350と、を備える。
【0042】
測定指令取得部310は、ホストコンピュータ500から測定指令データを取得する。
(本実施形態では、測定指令データは、PCC曲線データに回転角指令が加わったものである。)
【0043】
カウンタ部330は、エンコーダから出力される検出信号をカウントして各スライダの変位量を計測するとともに、プローブセンサから出力される検出信号をカウントしてプローブ230(スタイラス231)の変位量を計測する。
計測されたスライダおよびプローブ230の変位から測定子232の座標位置PP(以下、プローブ位置PP)が得られる。
また、カウンタ部330にて計測されたスタイラス231の変位(プローブセンサの検出値(Px,Py,Pz))から、測定子232の押込み量(ベクトルEpの絶対値)が得られる。
同じく、カウンタ部330は、ロータリーエンコーダから検出される検出信号をカウントとして、回転テーブル機構250の回転角を得る。
【0044】
駆動指令生成部340は、並進速度パターン計画部341と、並進ベクトル指令生成部342と、回転指令生成部344と、並進ベクトル指令補正部と、を備える。
【0045】
測定指令データは、PCC曲線データに回転角度指令が加わったものであった。
まず、並進速度パターン計画部341および並進ベクトル指令生成部342は、従来通り、PCC曲線から合成速度ベクトルVを生成するものである。すなわち、本実施形態では、並進速度パターン計画部341および並進ベクトル指令生成部342は、PCC曲線から合成速度ベクトルVを生成するものである。並進速度パターン計画部341は、PCC曲線を分割して分割PCC曲線群とし、さらに、分割PCC曲線群から速度曲線を算出して並進移動機構220によるプローブ230の移動速度(移動ベクトル)を算出する(図9参照)。すなわち、分割PCC曲線群の各セグメントの曲率などに基づいて並進移動機構220によるプローブ230の移動速度(移動ベクトル)が設定され、これにより図9に例示する並進速度パターンが生成される。PCC曲線を分割したPCC曲線群の各セグメントに対し、速度パターンをどのように当てはめて図9のような一連の速度パターン(速度計画)を生成するかについては本出願人が例えば特許6063161などに詳しく開示している。
【0046】
回転指令生成部344は、回転テーブル機構250に対する回転駆動指令を生成する。
ここで、回転テーブル機構250に対する回転駆動指令というのは、座標値(角度値)でなく、時々刻々の"角速度"で与えられる必要がある。
回転指令生成部344は、測定指令データに含まれる"回転角指令"を角速度指令に変換しなければならない。
さらに、回転指令生成部344は、オペレータが設定した倣い経路に沿ってプローブ230がワーク上を倣い測定するように、並進移動機構220によるプローブ230の移動に対して回転テーブル251の回転を同期させるように回転角指令を生成する必要がある。
【0047】
回転指令生成部344は、測定指令取得部310から回転角指令を含む測定指令データを取得するとともに、並進速度パターン計画部341から並進速度パターン(図9)を取得する。回転指令生成部344が取得した並進速度パターンを図10に示す。これは、並進速度パターン計画部341で生成された図9の並進速度パターンを再掲するものであるが、さらに、角度の情報が加わっている。測定指令データにおいて、セクション1の始点における回転テーブルの角度は-10°で、セクション1の終点(セクション2の始点)における回転テーブル251の角度は+10°と設定されていた。ここで、並進速度パターン計画部341により、倣い経路(補正後PCC曲線)は複数のセグメントに分割され、セグメントごとに並進速度パターンの当てはめが行なわれていた。回転指令生成部344は、並進移動機構220によるプローブ230の並進移動と回転テーブル251の回転移動とを同期させるため、並進速度パターンのセグメントごとに角速度パターンを設定する。
【0048】
並進速度パターン計画部341で並進速度パターンが生成されるときに、セグメントSeg(i)ごとに、移動距離Li、開始速度Vsi、加減速時間ta、定速時間tc、および、終速度VFiが求められている(図11参照)。
セグメントSeg(i)ごとに加減速時間ta、定速時間ts、が求められているので、各セグメントの開始時刻tsと終了時刻tfが分かるし、各セグメントSeg(i)に要する時間T(セグメント移動時間Tseg)も分かっている。
回転指令生成部344は、これらの情報をもとに、セグメントSeg(i)ごとに角度情報を割り振っていく。
回転指令生成部344は、セグメントごとに、セグメント開始時の回転角度値θsとセグメント終了時の回転角度値θfとを求める。
セクション1の始点における回転テーブル251の角度は0°で、セクション1の終点における回転テーブル251の角度は+10°と設定されていた。
ここで、セクション1は、並進速度パターン計画部341によりセグメント1からセグメント4に分割されている。そこで、回転指令生成部344は、セクション1の間の総回転量(ここでは10°)をセグメントごとに要する時間(セグメント移動時間T)に応じて比例配分していく。
これにより、図10に例示するように、各セグメントの開始時点と終了時点とにおける回転テーブルの回転角度θ1、θ2、θ3、・・・が得られる。すると、セグメントごとの回転テーブルの回転量Θ(セグメント回転量Θ)も得られる。
【0049】
回転指令生成部344は、各セグメントに対して角速度指令パターンを当てはめていく。
このとき、回転指令生成部344は、先頭のセグメントSeg1から順に角速度指令パターンを当てはめていく。これは、一つ前のセグメントSeg(i-1)の終角速度ωが次のセグメントSeg(i)の開始角速度ωsになるためである。
【0050】
いま、各セグメントに当てはめる角速度パターンとして、図12の五つのパターンが用意されている。
第1角速度パターンは、ずっと一定の角速度ωで回転テーブルを回転させる角速度パターンである。
セグメントの開始角速度ωsは、一つ前のセグメントSeg(i-1)の角速度パターンにより決まってしまう。つまり、一つ前のセグメントSeg(i-1)の終角速度ωFが次のセグメントSeg(i)の開始角速度であり、第1角速度パターンを適用する場合は開始角速度ωsが一定で続くことになる。もし、ωs×T=Θが成立する場合には第1角速度パターンを適用できる。
【0051】
第2、第3角速度パターンは、最初に加速して、そのあと角速度ωを一定にする角速度パターンである。
ここで、「加速」とは、角速度の絶対値を大きくすることを意味するとする。
仮に左回転方向を正方向の回転とすると、右回転方向に加速するのは"減速"ということになるが、ここでは、負の方向に"加速"と考えて頂きたい。そして、例えば角速度ωの大きさ(回転速さ)を考えると、第2、第3角速度パターンは、いずれも最初に回転速さを大きくする調整期間taがあって、その後一定の回転速さになるということで同じと考えて頂いてもよい(回転方向が反対になるだけである)。
【0052】
いま、あるセグメントSeg(i)に第1角速度パターンを適用したときにセグメント回転量Θに足りなかったとする。
このとき、加速時間をta、等速時間をtc、として次の連立方程式を解く。
【0053】
ta+tc=T
ωs・ta+(α・ta/2)+ω・tc=Θ
ω=ωs+α・ta
【0054】
いま、αは回転テーブル251の加速度(の大きさ)であって、回転テーブル251の加速度の大きさは所定の値に固定されているとする。つまり、回転テーブル251はできる限り速く加減速して目標の角速度に達し、角速度が一定の時間をできる限り長くする。(加速度の大きさを調整することはしない。)ちなみに、ここでいう加速度の大きさαは、回転テーブル251の耐加速度の約半分に設定しておくとよい。これは、角速度パターン(速度パターン)の生成時には直線的に加速することを前提として計算するのが便利であるが、実際の動作制御では滑らかな加減速制御のために加減速カーブをS字曲線に変換するためである。
【0055】
上記の式を解くことにより、加速時間ta、定速時間tc、終角速度ωFが得られる。
なお、第2、第3パターンにおいては、ずっと加速である場合を許容する。
これは、すなわち、ta=T(tc=0)の場合のことである。
【0056】
第4、第5角速度パターンは、最初は角速度ωsで等速回転し、そのあと減速する角速度パターンである。
いま、あるセグメントSeg(i)に第1角速度パターンを適用したときにセグメント回転量Θが超過していたとする。
このとき、等速時間をtc、減速時間をta、として次の連立方程式を解く。
【0057】
ta+tc=T
ωs・tc+ω・ta-(α・ta/2)=Θ
ω=ωs-α・ta
【0058】
上記の式を解くことにより、定速時間tc、減速時間ta、終角速度ωFが得られる。
なお、第4、第5パターンにおいては、ずっと減速である場合を許容する。
これは、すなわち、ta=T(tc=0)の場合のことである。
【0059】
このようにして先頭のセグメントから順に角速度パターンを求めていくと、例えば図13に例示するように、並進移動機構220によるプローブ230の移動に同期した回転テーブル251の角速度パターンが得られる。
【0060】
ここで、並進速度パターン計画部341は、並進速度パターンを生成したあと、隣り合うセグメントを結合してブロック化する処理を行なうが(特許6063161)、回転指令生成部344は、ブロック化処理される前の並進速度パターンに基づいてセグメントごとに角速度パターンを当てはめることが好ましい。
ブロック化処理後の並進速度パターンのブロック単位で角速度パターンを当てはめる考え方も有り得るが、ブロックが大きくなると回転テーブル251の角速度パターンが適切に求められない可能性が出てくる。角加速度αを可変にしたり、もっと多くの種類の角速度パターンを用意したりしておいてもいいかもしれないが(例えば特許6063161)、計算がとても複雑になる。
本実施形態では、ブロック化処理される前の並進速度パターンに基づいてセグメントごとに角速度パターンを当てはめることとし、角速度パターンの種類を少なく、かつ、加速度の大きさを一定として、簡単な計算で角速度パターンを割り当てるようにした。
また、セグメントごとに角速度パターンを割り当てた方が区切りが多くなるので、同期を合わせやすくなる。なお、回転テーブル251によってワークを回転させることの主目的としては、プローブ230とワークWとの干渉を回避することにあり、基本的には一定時間、一定の方向に一定の角速度で回転してくれれば十分であると考えられる。複雑で繊細な動きは、主として並進移動機構220により、補正後PCC曲線に沿ったプローブ移動およびアクティブ倣い測定による押込み制御で実現される。
【0061】
なお、回転テーブル251の駆動制御にあたっては、角速度パターンをブロック化した方がよい。
例えば、図13に表れているセグメントSeg1からセグメントSeg6のすべてをブロック化してしまってもよい。例えば、セグメントSeg4の後半の減速とセグメントSeg5の前半の加速は同じ加速度であるから一連の加速時間として扱った方がよい。
【0062】
並進ベクトル指令生成部342は、背景技術で説明したように、設定された倣い経路情報(ここでは補正後PCC曲線)と図11の並進速度パターン(並進速度計画)に基づいて合成速度ベクトルVを生成する。
【0063】
V=Gf×Vf+Ge×Ve+Gc×Vc ・・・(式1)
【0064】
並進ベクトル指令補正部343は、並進ベクトル指令生成部342が生成した合成ベクトルVに対し、回転テーブル251の回転分を減じるように補正処理を行って、回転補正後合成ベクトルVAMDを生成する。いま、図14において、移動機構220によってプローブ230が右方向に移動(矢印A)する代わりに、回転テーブル251が左に回転(矢印B)する場合を考えるとする。
このとき、合成ベクトルVに対して、回転テーブル251の回転分を減じるように補正を行えばよい。
【0065】
そこで、図14の状態で、回転テーブル251の回転軸からプローブ230(測定子232)に向かうベクトルを半径ベクトルRとする。
また、回転テーブル251の角速度ベクトルをωとする。
プローブ230(測定子232)の位置における回転テーブル251の速度(ベクトル)は、Vθ=ω×R、で表わされるので、合成ベクトルVからこのVθを減じることで回転補正後合成ベクトルVAMDは次のようになる。
【0066】
回転補正後合成ベクトルVAMD=Gf×Vf+Ge×Ve+Gc×Vc-Gθ×Vθ
【0067】
駆動制御部350は、並進移動機構220を駆動制御する並進移動機構制御部351と、回転テーブル機構250を駆動制御する回転駆動制御部352と、を備える(図8参照)。
並進移動機構制御部351には、並進ベクトル指令補正部343から回転補正後合成速度ベクトルVAMDが与えられる。
回転駆動制御部352には、回転指令生成部344から回転駆動指令として角速度指令が与えられる。
並進速度パターンに基づく合成速度ベクトルと角速度パターンに基づく回転駆動指令(角速度指令)との対応(リンク)は維持されているので、回転補正後合成速度ベクトルVAMDと回転駆動指令とは同期した状態を保ってそれぞれ並進移動機構制御部351と回転駆動制御部352とに与えられる。そして、並進移動機構制御部351からは並進移動機構220に対して回転補正後合成速度ベクトルVAMDに基づく並進移動信号が与えられ、回転駆動制御部352からは回転テーブル機構250に対して回転駆動指令に基づく回転駆動信号が与えられ、両者は同期している。
【0068】
このようにして生成された移動信号と回転駆動信号とで移動機構220と回転テーブル機構250とが駆動される結果として、例えば、図15のような倣い測定動作が得られる。すなわち、一例として、並進移動機構220によるプローブ230の移動は、ぼほまっすぐZ軸方向に降りていくだけになる。これに合わせて回転テーブル251が左右に回転する。その結果、円柱状のワークWの側面を蛇行するような経路で倣い測定が実行される。
【0069】
測定データとしては、プローブ230のエンコーダおよび並進移動機構220のエンコーダによって測定子232の三次元座標が得られるのであるが、さらに、回転テーブル機構250の回転量がロータリーエンコーダで取得される。
ワーク(測定対象物)の形状解析にあたっては、回転テーブル機構250の回転量を加味しなければならないのはもちろんである。
【0070】
このような構成を備える本実施形態によれば、回転テーブル機構250の回転も利用しながら倣い測定を行うことができる。
従来の三次元測定機では、互いに直交する3つの駆動軸でプローブ230とワークWとを相対移動させていたが、本実施形態では、さらに、回転テーブル機構250の回転軸を加えて、4軸でプローブ230とワークWとを相対移動させることができる。このように直交3軸の移動機構220と回転駆動の回転テーブル機構250とを協働させることにより、プローブ230の動きを少なくし、プローブ230の動きを単純化することができる。このことは、複雑な形状のワークを複雑な倣い経路で倣い測定しようとする場合に測定時間を短縮して測定効率を向上させるという効果を奏する。
【0071】
従来でも並進移動機構と回転機構とを併せ持つ三次元測定機はあった。
回転機構としては本実施形態のように回転テーブルの場合もあれば、回転駆動軸を持った多軸プローブも知られている。しかしながら、オペレータが回転動作を含めた倣い測定指令をパートプログラムとして組み上げるのは難しく、かなりの制約があった。そのなかで難しかったのが回転指令を角速度で与える点にあった。並進移動機構と回転機構とを組み合わせてワークを倣い測定する場合、並進移動機構でプローブを所望の位置まで移動させて並進移動を停止状態にし、それから回転機構でプローブまたは回転テーブルを所定の角速度で回転させるという測定パートプログラムを組むのが通常であった。並進移動と回転移動とを同期させながらやや複雑な経路に沿って三次元測定機に倣い測定動作を行なわせるにあたっては、倣い経路情報に埋め込む角度の情報が三次元測定機の座標指令と同じように角度値であることが望ましい。ただし、回転テーブル機構250に与える回転指令は角速度であるから、回転指令生成部344で角速度指令を生成する必要がある。
この点、本実施形態によれば、オペレータが倣い経路に角度の情報を設定しておけば、回転指令生成部344が並進速度パターンに同期した角速度パターンを生成して、自動的に並進駆動と回転駆動とが同期した倣い測定が実行される。
【0072】
(第2実施形態)
第1実施形態において回転指令生成部344が角速度パターンを生成する工程を説明した。
ここで、倣い測定の終了点について考えてみる。
プローブ230の先端(測定子232)が設定された倣い経路の終点に達したときに、並進移動機構220によるプローブ230の移動も回転テーブル251の回転駆動もピタッと停止するのが望ましいことはもちろんである。
倣い経路の終点で並進移動機構220も回転テーブル251も停止するように最終のセグメントで減速する速度パターンを生成するのであるが、倣い経路の終了点で角速度がゼロになるように最後のセグメントで角速度を減速し切れるとは限らない。そこで、回転指令生成部344は、最後のセグメントまで角速度パターンを一旦生成したあと、もし終了点で角速度ゼロまで減速し切れないときは、停止に必要な減速時間(減速距離)を計算し、角速度パターンを修正する。例えば、図16において、最初に生成された角速度パターンが実線だとして、終了点で速度超過になっているとする。この場合、終了点で角速度がゼロになるようにもう一つ前、さらに必要であれば、二つ前のセグメントから減速を開始するように角速度パターンを修正するようにする。この角速度パターンの修正工程により、プローブ230が倣い経路の終点に達したときに、並進移動機構220によるプローブ230の移動も回転テーブル251の回転駆動もオペレータが意図した通りに停止する。
【0073】
(第3実施形態)
第3実施形態ではS字加減速処理を説明する。
第1実施形態では角加速度αを所定の一定値とし、加減速時の角速度は時間に関して一次関数となっていた。しかしながら、実施の回転テーブルの制御では徐々に加速し、徐々に減速するのが好ましい。一次関数で与えられた速度パターンに対してS字加減速処理することは本出願人により特許6050636にも開示されている(例えば図17参照)。S字加減速処理によって回転テーブルを滑らかに回転させることができ、さらに、例えば図13の角速度パターンにおいてセグメントSeg4とセグメントSeg5とをブロック化で連結してからS字加減速処理することで図18に例示するように滑らかに回転方向を変えられる角速度パターンが得られる。
【0074】
(変形例1)
上記実施形態の説明では、回転軸は、回転テーブル機構の一つの回転軸だけであったが、回転軸が二つ以上あってもよい。
例えば、図19に例示するように、回転テーブルをさらに傾斜させることができる傾斜回転テーブル機構を採用してもよい。この場合、回転軸は二つになる。あるいは、図20に例示するように、回転軸を二つ持ったプローブが知られており、回転軸が一つの一軸プローブを採用してもよいし、回転軸が二つの二軸プローブを採用してもよい。あとは、組み合わせのバリエーションとして、回転軸が一つの一軸プローブと回転テーブル機構とを組み合わせて採用してもよい。もちろん、回転軸が二つの二軸プローブと傾斜回転テーブル機構とを組み合わせてもよい。
【0075】
測定指令となる倣い経路をオペレータが設定する際にオペレータが回転軸ごとの回転角指令を設定しておけばよい。回転軸ごとの角速度パターンは上記で説明したように回転指令生成部344で角速度パターンを求めればよい。回転軸が複数になっても、その回転分を並進ベクトル指令から減じる補正自体は可能である。
【0076】
(第4実施形態)
次に本発明の第4実施形態を説明する。
第4実施形態の基本的な構成は第1実施形態と同じであるが、第4実施形態では、ホストコンピュータ500の形状解析部530でPCC曲線を補正しておく点に特徴がある。
【0077】
図21を参照いただきたい。
形状解析部530において、PCC曲線の生成後に、PCC曲線の対応する区間に回転角指令を付け加えて"測定指令データ"を生成するところまでは第1実施形態と同じである。第4実施形態においては、形状解析部530において、PCC曲線を回転角指令の分だけ回転移動させ、回転テーブル機構250の回転分を減じた補正後PCC曲線を求めてしまっておく。(このような座標変換処理はモーションコントローラ300よりもホストコンピュータ500で行った方が処理が速い。)
【0078】
PCC曲線から回転角指令の回転分を減じると、図22に例示するように、補正後PCC曲線はより滑らかな曲線になる。(つまり、カーブが少ない、全体的に曲率が小さい、あるいは、曲率の変化が少ないような曲線が得られると期待できる。うまく回転角指令を与えておけば、極端な場合、補正後PCC曲線を直線にすることもできるだろう。)補正後PCC曲線に区間ごとの回転角指令を加えたものを"補正後測定指令データ"とする。"補正後測定指令データ"は、ホストコンピュータ500(形状解析部)からモーションコントローラ300に送られる。
【0079】
次にモーションコントローラ300での処理を説明する。
図23を参照いただきたい。
第1実施形態(図8)との違いは、第4実施形態のモーションコントローラ300には並進ベクトル指令補正部343が無い、ということである。並進速度パターン計画部341および並進ベクトル指令生成部342は、補正後PCC曲線から従来通りの方法で合成ベクトルVを生成する。つまり、並進速度パターン計画部341は、補正後PCC曲線を分割して分割PCC曲線群とし、さらに、分割PCC曲線群から速度曲線を算出してプローブ230の移動速度(移動ベクトル)を算出する(図24参照)。並進ベクトル指令生成部342は、背景技術で説明したように、合成ベクトルVを生成する。
【0080】
これらの処理自体は従来通りであり、第1実施形態とも同じであるが、第4実施形態ではPCC曲線が既に補正されて滑らかになっている。そのため、同じ処理で速度パターンを生成したとしても、図24に例示するように、速度パターンの速度が全体的に大きくなる。このあとの処理は第1実施形態で説明した通りであるから冗長な説明は割愛する。
【0081】
この第4実施形態によれば、測定時間をさらに短縮できると期待できる。
【0082】
(第5実施形態)
次に本発明の第5実施形態を説明する。
第5実施形態が特徴とする点は、オペレータが回転角指令を設定するのではなく、モーションコントローラ300(あるいはホストコンピュータ500)が倣い経路のPCC曲線から自動的に回転角指令を生成する点にある。
第5実施形態において、オペレータは従来通り倣い経路を設定するだけである。
ホストコンピュータ500の形状解析部530は、その倣い経路をPCC曲線に変換して、測定指令データとし、モーションコントローラ300に与える。
ここまでは従来通りである。
【0083】
さて、図25に第5実施形態のモーションコントローラ300の構成を示す。
第1実施形態との違いは、回転指令生成部344が回転テーブル機構250に対する回転角指令を演算で求める点である。
【0084】
いま、図26に例示するような倣い測定の経路をオペレータが設定したとする。PCC曲線上の補間点として、P1、P2、P3・・・が設定されたとする。このとき、補間点P1から補間点P2に向かう経路速度ベクトルをVf1とする。ここまでは、並進ベクトル指令生成部342で求められる。(並進ベクトル指令生成部342は、このあと合成ベクトルVを生成する。これも従来通りである。)
【0085】
回転指令生成部344は、並進ベクトル指令生成部342で生成される経路速度ベクトルVf1、Vf2・・・を用いて、回転テーブル機構250に対する回転角指令を生成する。経路速度ベクトルVf1、Vf2・・・は、設計値に基づいたプローブ230の進行方向である。例えば、経路速度ベクトルVf1と経路速度ベクトルVf2とを対比すれば、進行方向の変化量が分かる。この進行方向の変化分の全部または一部を回転テーブル機構250の回転で補ってやれば、移動機構220の駆動量はそれだけ少なくなる。
【0086】
経路速度ベクトルVf1、Vf2・・から回転テーブル機構250に対する回転角指令を生成する方法の例を紹介する。図26をZ軸に沿ってみた図が図27である。(つまりXY平面上に投影して考える。)いま、Z軸に平行なベクトルをベクトルZとする。そして、ベクトルZと経路速度ベクトルVf1との外積ベクトルをVR1で表わすとする。XY平面上において、ベクトルVR1と経路速度ベクトルVf2とのなす角をθ1とする。このθ1から90°を減じ、"θ1-90°"を求めると、経路速度ベクトルVf1からVf2の進行方向の変化に対応している。(XY平面上でみたときの経路速度ベクトルの向きの変化ということ。)
【0087】
そこで、回転テーブル機構250に対する回転角指令は、θ1の関数としてf(θi)とする。(ここで、添え字をiとした。i=1,2、3、・・・。関数fの係数等は適宜決めればよい。)回転角指令が決まれば、その分をベクトル指令補正部343が合成ベクトルVから減じて回転補正後合成ベクトルVAMDを生成する。このあとの処理は第1実施形態で説明済みであるから割愛する。
【0088】
(第6実施形態)
第5実施形態では、経路速度ベクトルVfを用いたが、第6実施形態では、押込み修正ベクトルVeを用いて回転テーブル機構250に対する回転角指令を求める。
図28を参照しながら第6実施形態を説明する。
【0089】
この例では、右から左の方向(つまり、"-X方向")を所定のアプローチ方向APと称することにする。
XY面上でみたときに、プローブ230(測定子232)とワークWとの接触点において、ワークWの法線方向が前記アプローチ方向APと平行となる状態を維持すれば、プローブ230(測定子232)でワークWを測定することができる。
【0090】
さて、押込み量修正ベクトルVeは、プローブ230の押込み量Epが所定の基準押込み量E0(例えば0.3mm)になるようにするためのベクトルであり、プローブ230(測定子232)の変位方向から求められる。押込み量修正ベクトルVeは、必然的に、ワーク表面の法線に平行なベクトルとなる。そこで、回転指令生成部344は、アプローチ方向のベクトルAP(アプローチベクトルAP)と押込み量修正ベクトルVeとがなす角を求め、両者が平行になるように回転テーブル251を回転させる回転角指令を生成する。回転角指令が決まれば、その分をベクトル指令補正部343が合成ベクトルVから減じて回転補正後合成ベクトルVAMDを生成する。このあとの処理は第1実施形態で説明済みであるから割愛する。
【0091】
(第7実施形態)
第5実施形態では経路速度ベクトルVfを用い、第6実施形態では押込み修正ベクトルVeを用いて回転テーブル機構250に対する回転角指令を求めたが、第7実施形態としては、合成ベクトルVから回転テーブル機構250に対する回転角指令を求める。
XY投影面で考える。
図29において、PCC曲線上の補間点としてP1、P2、P3・・・が設定されており、ベクトル指令生成部342は、合成ベクトルV1、V2・・・を生成するとする。
ここで、合成ベクトルV1の成分のうち、回転テーブル機構250の回転方向の成分については回転テーブル機構250で行えばよいわけである。
【0092】
回転指令生成部344は例えば次のようにして回転角指令を生成する。回転テーブル機構250の回転中心をOCとし、点P1と中心Ocとの距離を半径r1とする仮想円C1を考える。点P1における仮想円C1の接線L1を引き、合成ベクトルV1の成分のうち接線L1に沿う方向の成分を求める。(正確には、合成ベクトルV1をXY面に投影し、さらに、接線L1に射影したベクトルを求める。)このようにして求まるベクトルを回転方向ベクトルVL1とする。
【0093】
この回転方向ベクトルVL1の分だけ回転テーブル機構250を逆向きに回転させれば、移動機構220としては回転テーブルの回転方向の成分はゼロになる。つまり、回転指令生成部344は、向きが回転方向ベクトルVL1と反対で、かつ、大きさが回転方向ベクトルVL1と同じだけ回転テーブル251を回すように回転角指令を生成する。回転角指令が決まれば、その分をベクトル指令補正部343が合成ベクトルVから減じて回転補正後合成ベクトルVAMDを生成する。このあとの処理は第1実施形態で説明済みであるから割愛する。
【0094】
なお、本発明は上記実施形態に限られたものではなく、趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更することが可能である。
【符号の説明】
【0095】
100…形状測定システム、
200…三次元測定機、
210…定盤、
220…移動機構、221…Yスライダ、222…Xスライダ、223…Z軸コラム、224…Zスピンドル、
230…プローブ、
231…スタイラス、232…測定子、233…支持部、
250…回転テーブル機構、251…回転テーブル、
300…モーションコントローラ、
310…測定指令取得部、330…カウンタ部、
340…駆動指令生成部、341…並進速度パターン計画部、342…並進ベクトル指令生成部、343…並進ベクトル指令補正部、344…回転指令生成部、
350…駆動制御部、351…並進移動機構制御部、352…回転駆動制御部、500…ホストコンピュータ、520…記憶部、530…形状解析部。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24
図25
図26
図27
図28
図29