(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-06
(45)【発行日】2023-09-14
(54)【発明の名称】コイルボビン、分布巻ラジアルギャップ型回転電機の固定子コア及び分布巻ラジアルギャップ型回転電機
(51)【国際特許分類】
H02K 3/34 20060101AFI20230907BHJP
H02K 3/46 20060101ALI20230907BHJP
【FI】
H02K3/34 C
H02K3/46 B
(21)【出願番号】P 2020020454
(22)【出願日】2020-02-10
【審査請求日】2022-07-07
(73)【特許権者】
【識別番号】501387839
【氏名又は名称】株式会社日立ハイテク
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】榎本 裕治
(72)【発明者】
【氏名】沖田 誠治
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 啓介
(72)【発明者】
【氏名】江藤 昂平
(72)【発明者】
【氏名】片山 英二
【審査官】宮崎 賢司
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-068567(JP,A)
【文献】国際公開第2020/017133(WO,A1)
【文献】特開2017-103987(JP,A)
【文献】特開2020-156130(JP,A)
【文献】国際公開第2019/064630(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/065827(WO,A1)
【文献】韓国公開特許第10-2019-0131663(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 3/34
H02K 3/04
H02K 1/18
H02K 15/085
H02K 3/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
分布巻ラジアルギャップ型回転電機の固定子コアに取り付けられるコイルボビンであって、
絶縁体から形成されるティース保持部及びスロット絶縁を備え、
前記ティース保持部は、
前記固定子コアのティースの第1の周方向側面を覆う第1の壁面と、前記ティースの第2の周方向側面の少なくとも一部を覆う第2の壁面と、前記ティースの軸方向側面の両方を覆う第3の壁面と、を有し、
前記スロット絶縁は、
前記ティース保持部の前記第1の壁面と一体で形成され、
前記軸方向に延伸し、径方向に配列された複数の貫通孔を有するコイルボビン。
【請求項2】
前記第2の壁面は、前記ティースの前記第2の周方向側面の径方向両端部のみを覆う請求項1記載のコイルボビン。
【請求項3】
前記スロット絶縁は、複数の前記コイルボビンが組み立てられた際に絶縁厚さが一定となるように、隣り合う前記コイルボビンの前記第2の壁面と組み立て可能に構成される請求項1記載のコイルボビン。
【請求項4】
前記第2の壁面は、前記ティースの前記第2の周方向側面の全面を覆う請求項1記載のコイルボビン。
【請求項5】
前記スロット絶縁は、
前記第1の壁面と対向する第4の壁面と、
前記第1の壁面と前記第4の壁面との間を仕切る複数の隔壁と、を有し、
前記複数の貫通孔は、前記第1の壁面、前記第4の壁面及び前記複数の隔壁により画定される請求項1記載のコイルボビン。
【請求項6】
前記複数の貫通孔は、それぞれコイル導体を挿入可能な寸法を有する請求項1記載のコイルボビン。
【請求項7】
前記第1の壁面の厚さ、前記第2の壁面の厚さ及び前記第3の壁面の厚さは、それぞれ0.2mm~0.4mmである請求項1記載のコイルボビン。
【請求項8】
前記第4の壁面の厚さ及び前記複数の隔壁の厚さは、それぞれ0.2mm~0.4mmである請求項5記載のコイルボビン。
【請求項9】
円環形状のコアバックと、
前記コアバックから径方向内側に突出する前記ティースと、
前記ティースに取り付けられる請求項1に記載のコイルボビンと、を備える分布巻ラジアルギャップ型回転電機の固定子コア。
【請求項10】
前記コアバックと前記ティースが一体の一体型固定子コアである請求項9記載の固定子コア。
【請求項11】
周方向に分割されたT型分割構造を有する請求項9記載の固定子コア。
【請求項12】
前記ティースを構成するティースコアと、前記コアバックを構成するバックヨークとに分割されたI型分割構造を有し、
前記バックヨークは、円環形状を有し、内周に沿って設けられた凹部を有し、
前記ティースコアは、前記径方向の内側から外側に向かって前記凹部に挿入される請求項9記載の固定子コア。
【請求項13】
前記バックヨークの内周面と前記ティースコアとの間の隙間を埋める柱状部と、前記ティースコア及び前記バックヨークの軸方向側面に跨る鍔部と、を有し、前記ティースコア及び前記バックヨークを接着する樹脂成型体をさらに備える請求項12記載の固定子コア。
【請求項14】
前記ティースコアは、軟磁性材料から形成される請求項12記載の固定子コア。
【請求項15】
前記コイルボビンと前記ティースとが接着されている請求項9記載の固定子コア。
【請求項16】
請求項9に記載の固定子コアと、
前記固定子コアに分布巻きされたコイル導体と、を備える分布巻ラジアルギャップ型回転電機。
【請求項17】
前記コイル導体は、U字形状を有する第1のセグメント導体及び第2のセグメント導体を備え、
前記第1のセグメント導体は、前記コイルボビンの前記貫通孔に前記軸方向の一方から挿入され、
前記第2のセグメント導体は、前記コイルボビンの前記貫通孔に前記軸方向の他方から挿入され、
前記第1のセグメント導体及び前記第2のセグメント導体は、前記貫通孔の内部で接続される請求項16記載の分布巻ラジアルギャップ型回転電機。
【請求項18】
前記第1のセグメント導体は、先端部に凸形状を有し、
前記第2のセグメント導体は、先端部に凹形状を有し、
前記凸形状と前記凹形状は、前記軸方向に垂直な面が接触面となる組み合わせ面を有する請求項17記載の分布巻ラジアルギャップ型回転電機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、コイルボビン、分布巻ラジアルギャップ型回転電機の固定子コア及び分布巻ラジアルギャップ型回転電機に関する。
【背景技術】
【0002】
産業機械の動力源や、自動車駆動用として用いられるモータ(回転電機)には、高効率化が求められる。モータを高効率化するためには、モータの損失を低減することが必要であり、モータの損失の2大要因であるコイル銅損と鉄心鉄損を低減するための設計を検討していく手法が一般的である。モータ要求仕様の出力特性(回転数とトルク)が決まると、機械損は一意に決まるため、鉄損と銅損を低減する設計が重要となる。
【0003】
鉄損は、軟磁性材料を使用することによって低減が可能である。一般的なモータでは鉄心部分には電磁鋼板が採用されており、その厚みやSiの含有量などによって損失レベルが異なるものが利用されている。軟磁性材料には、電磁鋼板よりも透磁率が高く、鉄損が低い鉄基アモルファス金属や、ファインメット、高磁束密度が期待できるナノ結晶材料などの高機能材料が存在するが、これらの材料系では、その板厚が0.025mmと非常に薄く、また、硬度がビッカース硬度で900と電磁鋼板の5倍以上に硬いなど、モータを安価に製造する上での課題が多いために、それらの高機能材料をモータに適用する事が出来ないでいる。一方、銅損は、主にコイルの抵抗値と電流の関係で決まり、冷却によってコイル抵抗値の低減や、磁石の残留磁束密度の低下を抑えることによって電流値を低減するといった対策を行う。
【0004】
さらに、近年の自動車駆動用モータ等では、固定子スロットの断面積に対する導体の比率(占積率)を高めて理論限界ぎりぎりまで抵抗値を小さくするような設計が行われている。スロット内の占積率を高くするために平角線コイルが用いられるものの、スロットの両端部のコイルエンド部分の引き回しが複雑な構造となり、それらの導体同士を溶接などの方法により接続することによって、コイルエンド部分のボリューム(線長)が大きくなってしまい、抵抗値が若干大きくなるなどの問題がある。
【0005】
例えば特許文献1には、モータの固定子コイルに2本脚のヘアピン形状導体セグメントを挿入して、挿入した側と反対側のコイルエンド部でそれぞれを曲げ成形して、周方向に配置された別のヘアピン形状導体セグメントの曲げ成形されたコイルエンド部と溶接して円環状のコイルを形成する方法が記載されている。しかしながら、特許文献1に記載の方法では、スロット占積率を大きくできる効果がある反面、製造時に太く硬い平角導体を曲げ成形する必要があるため、固定子コアへの応力や、スロット絶縁物へのダメージ、接続部にも曲げた際の残留応力が残ってしまう。そのため、溶接接合の信頼性の確保が困難といった課題があり、製造方法としては改善の余地がある。また、溶接を施すために溶接部の周囲の空間を取らなければならないため、溶接側ではコイルエンド部が大きくなってしまう。
【0006】
それらの改善を試みた方法に特許文献2が挙げられる。特許文献2には、セグメント導体挿入方式の固定子コイルを軸方向に分割し、分割した端面をV字形状として組合せ可能な形状とし、そのV形状の組合せ部に導電ペースト接着剤を用いて接合して導体コイルを形成する方法が示されている。この方法では、コイルエンド部での溶接が無くなるため、コイルエンド部の形状を最適に設計することによってコイルの抵抗値を低く抑えられる効果が期待できる。しかしながら、導体同士を接着剤の塗布によって一つずつ組み立てていく必要があるため、工数の増加と信頼性の確保に課題がある。導電ペースト接着剤を用いない場合には、V形状の嵌合部は、一般的に面で接触することが困難であり、V面のどこかで線接触となることが知られている。しかも、製造バラつきを考えるとすべての線が同一の軸方向面で保持されるとは考えにくく、コイル導体1本1本をしっかりと接続(接触)させられる位置に管理することは困難である。
【0007】
特許文献3には、軸方向に分割したコイルを突起と穴、又は、凸形状と凹形状で接続する構成が示されている。特許文献3においても、コイルの接続信頼性の確保のために、接続部が見える状態で接続することを特徴としている。接続処理を行った後に、分割した固定子コアの一部を周方向からはめ込んで組立てていくといった内容となっている。特許文献3においても、接触接続部の挿入の信頼性確認、工数の増加、コア組立工数の増大などの課題がある。
【0008】
特許文献4には、特許文献3と同様に凹凸のコイル端面同士を接続する工法が開示されている。スロットにコイルを挿入した後にコイルの一部に応力を加えることにより、挿入したコイルを拡幅させて、カシメ効果により信頼性の高い接続(導電性の確保)を満足することが記載されている。特許文献4においては、コイルをコアに挿入した後に拡幅する手段の記載が明確では無いが、接続箇所すべてで拡幅工程を実施するとなると、工数の増加が懸念される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2011-239651号公報
【文献】特開2015-23771号公報
【文献】特開2013-208038号公報
【文献】特開2016-187245号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献1~4においては、コイル導体の構造を改良することによりコイルエンド部を小型化したり、接触抵抗を低減したりする技術が開示されているものの、工数を増加せず、かつ高い位置精度でコイル導体を組み立てることについては検討されていない。
【0011】
また、特許文献3などに記載されるように、固定子コアを周方向に分割した分割コアは、電磁鋼板やその他の軟磁性材料の薄板を積層して形成され、カシメや接着を用いて、単独で形状を維持できる積層体とする必要がある。しかし、カシメや接着はティースコアに応力を印加することになるため、磁気特性を劣化させる要因となり、モータの鉄損の増大を招いてしまう。
【0012】
そこで本開示は、ラジアルギャップ型回転電機の固定子コアの鉄損を抑制し、かつ、分布巻き構造のコイル導体を信頼性高く容易に組み立てる技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するために、本開示のコイルボビンは、分布巻ラジアルギャップ型回転電機の固定子コアに取り付けられるコイルボビンであって、絶縁体から形成されるティース保持部及びスロット絶縁を備え、前記ティース保持部は、前記固定子コアのティースの第1の周方向側面を覆う第1の壁面と、前記ティースの第2の周方向側面の少なくとも一部を覆う第2の壁面と、前記ティースの軸方向側面の両方を覆う第3の壁面と、を有し、前記スロット絶縁は、前記ティース保持部の前記第1の壁面と一体で形成され、前記軸方向に延伸し、径方向に配列された複数の貫通孔を有することを特徴とする。
【0014】
本開示に関連する更なる特徴は、本明細書の記述、添付図面から明らかになるものである。また、本開示の態様は、要素及び多様な要素の組み合わせ及び以降の詳細な記述と添付される特許請求の範囲の様態により達成され実現される。
本明細書の記述は典型的な例示に過ぎず、本開示の特許請求の範囲又は適用例を如何なる意味に於いても限定するものではない。
【発明の効果】
【0015】
本開示のコイルボビンによれば、ラジアルギャップ型回転電機の固定子コアの鉄損を抑制し、かつ、分布巻き構造のコイル導体を信頼性高く容易に組み立てることができる。
上記以外の課題、構成及び効果は、以下の実施の形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】ラジアルギャップ型回転電機の一体型固定子コアを示す斜視図(a)、一体型固定子コアに第1の実施形態に係るコイルボビンを取り付けた状態を示す斜視図(b)、及びすべてのティースにコイルボビンを取り付けた状態を示す斜視図(c)である。
【
図2】第1の実施形態に係るコイルボビンの構造例を示す斜視図(a)及びコイルボビンの他の構造例を示す斜視図(b)である。
【
図3】T型分割コアに
図2(b)のコイルボビンを取り付ける前の状態を示す斜視図(a)、T型分割コアにコイルボビンを取り付けた状態を示す斜視図(b)、及びすべてのT型分割コアにコイルボビンを取り付けて固定子コアを組み立てた状態を示す斜視図(c)である。
【
図4】I型分割コアのティースコアに
図2(b)のコイルボビンを取り付ける前の状態を示す斜視図(a)、I型分割コアのティースコアにコイルボビンを取り付けた状態を示す斜視図(b)、I型分割コアのバックヨークを示す斜視図(c)、及びすべてのティースコアにコイルボビンを取り付け、バックヨークに嵌合した状態を示す斜視図(d)である。
【
図5】I型分割コアのティースコアとコイルボビンとの固定方法の一例を示す斜視図(a)及び他の固定方法を示す斜視図(b)である。
【
図6】I型分割コアのティースコアとバックヨークの嵌合状態を示す平面図(a)及びその紙面に垂直な平面における断面図(b)である。
【
図7】I型分割コアを採用した回転電機について電磁界解析を行った結果を示す図である。
【
図8】I型分割コアの隙間に樹脂を注入するための射出成形装置を示す断面図(a)、樹脂の注入後の固定子コアを示す斜視図(b)及び樹脂成型体を示す斜視図(c)である。
【
図9】I型分割コアのティースコアの製造装置の一例を示す概略図である。
【
図10】従来の分布巻きモータ用の絶縁紙スロットライナーを示す図(a)、絶縁紙をスロットに挿入しコイル導体を挿入した状態を示す斜視図(b)、
図10(b)の上面図(c)及びコイル導体をすべて組み立てた状態を示す斜視図(d)である。
【
図11】従来の集中巻きモータ用のコイルボビンを説明するための斜視図(a)及び集中巻き構造の固定子を組み立てた状態を示す斜視図(b)である。
【
図12】セグメント導体をスロットに挿入する前の状態を示す斜視図(a)、セグメント導体の接続部近傍の拡大斜視図(b)及びコイルボビンへのセグメント導体の挿入方法を説明するための図(c)である。
【
図13】実施形態に係るコイルボビンを適用した固定子と回転子とを示す斜視図(a)及びモータの断面図(b)である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照して本開示の実施形態について説明する。以下の説明は本開示の技術の具体例を示すものであり、本開示の技術がこれらの説明に限定されるものではなく、本明細書に開示される技術的思想の範囲内において当業者による様々な変更及び修正が可能である。また、実施形態を説明するための全図において、同一の機能を有するものには同一の符号を付し、その繰り返しの説明は省略する場合がある。
【0018】
本明細書において、ラジアルギャップ型回転電機の回転子(不図示)の回転軸に沿った方向を「軸方向」とし、回転軸を中心としたときの回転子の動径方向(半径方向)を「径方向」とし、回転子の回転方向に沿った方向を「周方向」とする。
【0019】
[第1の実施形態]
<固定子コアの構造例>
図1(a)は、ラジアルギャップ型回転電機の一体型固定子コア5の一般的な構造を示す斜視図である。
図1(a)に示すように、一体型固定子コア5は、円環形状のコアバック51と、複数のティース52とが一体となって形成されており、例えばプレス打ち抜きした電磁鋼板又は軟磁性材料を軸方向に複数枚積層することにより形成される。ティース52は、コアバック51から径方向内側に向かって突出し、周方向に互いに離間して配置されている。隣り合う2つのティース52間の空間はスロット53となっている。ティース52は、軸方向に垂直な平面における断面形状が略等脚台形であり、径方向内側から外側に向かって広がっていく形状を有している。
図1(a)の一体型固定子コア5においては、48個のティース52及びスロット53が形成されているが、これらの数に限定はない。
【0020】
図1(b)は、一体型固定子コア5に本実施形態のコイルボビン1を1つだけ取り付けた状態を示す斜視図である。コイルボビン1の詳細については後述するが、コイルボビン1は、ティース保持部2及びスロット絶縁3を備え、これらが一体となって形成されている。ティース保持部2は、径方向内側から外側に向かって広がっていく形状を有しており、ティース52と同様の形状の空間を形成する。このような構造を有することにより、ティース保持部2を径方向内側から外側に向かってティース52に取り付けることができる。スロット絶縁3は、一体型固定子コア5のスロット53に配置される。
【0021】
図1(c)は、48個のティース52のすべてにコイルボビン1が取り付けられた状態を示す斜視図である。
図1(c)に示すように、すべてのティース52にコイルボビン1を取り付けた場合、隣り合うコイルボビン1同士は接触する。
【0022】
<コイルボビンの構造例>
図2(a)は、第1の実施形態に係るコイルボビン1の構造例を示す斜視図である。本実施形態のコイルボビン1は、ラジアルギャップ型回転電機の固定子コア(例えば
図1(a)に示した一体型固定子コア)に取り付けられ、分布巻き平角線コイルを組み立てるために用いられる。
【0023】
図2(a)に示すように、コイルボビン1は、ティース保持部2と、スロット絶縁3とを備え、これらが一体となって形成されている。ティース保持部2は固定子コアのティースに取り付けられ、スロット絶縁3は固定子コアのスロットに配置される。
【0024】
ティース保持部2は、第1の壁面21、第2の壁面22及び2つの第3の壁面23を有し、これらの第1~第3の壁面21~23で囲まれる空間にティースが収容される。第1の壁面21は、ティースの周方向側面の一方(ティースの第1の周方向側面)を覆い、第2の壁面22は、ティースの周方向側面の他方(ティースの第2の周方向側面)を覆う。2つの第3の壁面23は、それぞれティースの軸方向側面を覆う。なお、
図2(a)に示す例においては、ティース保持部2は、ティースの径方向内側の側面を覆う壁面を有していないが、これを有していてもよい。
【0025】
スロット絶縁3は、ティース保持部2の第1の壁面21と一体として形成され、複数の貫通孔31、複数の隔壁32及び第4の壁面33を有する。複数の隔壁32は径方向に配列され、それぞれ軸方向に延設される。第4の壁面33は、第1の壁面21に対向する。第1の壁面21、複数の隔壁32及び第4の壁面33により、それぞれ軸方向に延伸する複数の貫通孔31が画定される。各貫通孔31は、平角線コイル導体を挿入可能な形状及び大きさを有する。このような貫通孔31により、スロットに対してコイル導体を軸方向に平行に挿入しやすくなる。
【0026】
コイルボビン1の材質は、例えばPBT樹脂、PPS樹脂、LCP樹脂、ポリアミド樹脂、ABS樹脂などの絶縁性の高い樹脂(高分子化合物)、ガラス、マイカ、セラミックなどの絶縁体である。絶縁性樹脂、特にPPS樹脂及びLCP樹脂は成型性に優れ、コイルボビン1を射出成型で製造することができるため、高い寸法精度で絶縁厚みを薄くすることができる。絶縁体のコイルボビン1をティースに取り付けることにより、コイル導体と固定子コアとの短絡を防止できる。
【0027】
ティース保持部2及びスロット絶縁3の各構成要素は、例えば0.2mm~0.4mmの肉厚(「絶縁厚さ」又は「絶縁距離」という場合がある)で構成される。このように、絶縁厚さを小さくすることにより、占積率が向上し、熱伝導性能も向上する。
図1(c)を参照して上述したように、すべてのティースにコイルボビン1を取り付けた場合、あるコイルボビン1の第1の壁面21と、隣り合うコイルボビン1の第4の壁面33とが接触する。したがって、第1の壁面21と第4の壁面33との接触箇所において、絶縁体の合計の厚さ(絶縁厚さ)が厚くなる。
【0028】
図2(b)は、コイルボビン1の他の構造例を示す斜視図である。
図2(b)のコイルボビン1においては、ティースの一方の周方向側面(第2の周方向側面)の全面を覆う第2の壁面22の代わりに、径方向両端部のみを覆う2本の柱状の第2の壁面22a及び22bを有する点で、
図2(a)のコイルボビン1と異なっている。また、スロット絶縁3の第4の壁面33の径方向両端部には切欠き部34が設けられており、隣り合うコイルボビン1の第2の壁面22a及び22bとの組み立てが可能になっている。このような構成とすることにより、隣り合う2つのコイルボビン1の接触箇所における絶縁体の厚さ(絶縁厚さ)の増大を防止し、また、コイルボビン1間に隙間が生じることを防止することができる。換言すれば、ティースの周方向側面を覆う絶縁体の厚さ(絶縁厚さ)を一定とすることができる。
【0029】
<固定子コアの他の構造例>
図3(a)は、T型分割コア54に
図2(b)のコイルボビン1を取り付ける前の状態を示す斜視図である。
図3(a)に示すように、一体型固定子コアに限らず、固定子コアが周方向に1極分ずつ分割されたT型分割コア54にも、本実施形態のコイルボビン1を適用できる。
【0030】
図3(b)は、T型分割コア54に
図2(b)のコイルボビン1を取り付けた状態を示す斜視図である。
図3(b)に示すように、第2の壁面22a及び22bがティースの径方向両端部にのみに位置していても、ティースを保持できることが理解できる。
【0031】
図3(c)は、すべてのT型分割コア54にコイルボビン1を取り付けて固定子コアを組み立てた状態を示す斜視図である。
図3(c)に示すように、予めコイルボビン1とT型分割コア54とが一体化されたものを組み立てることにより、固定子コアが得られる。
【0032】
図4(a)は、I型分割コアのティースコア55に
図2(b)のコイルボビン1を取り付ける前の状態を示す斜視図である。
図4(a)に示すように、1極分ずつ分割されたティースコア55にも、本実施形態のコイルボビン1を適用できる。ティースコア55の材質は、電磁鋼板であってもよいが、例えば鉄基アモルファス金属、ファインメット、ナノ結晶材料などの軟磁性材料とすることもできる。I型分割コアのティースコア55を軟磁性材料とすることにより、モータの損失を低減できる。
【0033】
図4(b)は、I型分割コアのティースコア55に
図2(b)のコイルボビン1を取り付けた状態を示す斜視図である。
図4(b)に示すように、第2の壁面22a及び22bがティースの径方向両端部にのみ配置されていても、ティースを保持できることが理解できる。
【0034】
図4(c)は、I型分割コアのバックヨーク56を示す斜視図である。バックヨーク56は、円環形状を有し、内周に沿って設けられた複数の凹部57を有する。バックヨーク56の凹部57にティースコア55を嵌合することができ、これにより、ティースコア55が径方向内側に突出して、固定子コアのティースを構成する。
【0035】
バックヨーク56の材質は、例えば電磁鋼板とすることができる。ティースコア55を軟磁性材料で形成し、バックヨーク56を電磁鋼板で形成することで、いずれも軟磁性材料で形成する場合と比較して、材料コストを低減することができる。なお、ティースコア55とバックヨーク56を同じ材料で形成してもよい。
【0036】
図4(d)は、すべてのティースコア55にコイルボビン1を取り付け、バックヨーク56に嵌合した状態を示す斜視図である。
図4(d)に示すように、予めコイルボビン1とティースコア55とが一体化されたものを組み立てることにより、固定子コアが得られる。
【0037】
上述の一体型固定子コア、T型分割コア及びI型分割コア(
図1、
図3及び
図4)は、いずれも同一の機能を有するものである。スロット絶縁3の貫通孔31にコイル導体を挿入組立することで固定子を構成することができる。
【0038】
従来、T型分割コアやI型分割コアにおいて、電磁鋼板やその他の軟磁性材料の薄板を積層して形成されるティースコアは、カシメや接着を用いて、単独で形状を維持できる積層体とする必要がある。しかし、カシメや接着はティースコアに応力を印加することになるため、磁気特性を劣化させる要因となり、モータの鉄損の増大を招いてしまう。これに対し、本実施形態のコイルボビン1によれば、ティース保持部2とティースとの軸方向の摩擦や周方向面の摩擦により、応力を印加することなくT型分割コアやI型分割コアのティースを保持できる。ティース保持部2は、ティースを強固に保持することができるため、ティースとコイルボビン1とを一意に良好な位置関係で精度高く構成できる。
【0039】
また、本実施形態のコイルボビン1は、ティース保持部2とスロット絶縁3とが一体で形成されており、コイル導体が挿入される貫通孔31を組立ガタなく配置できるため、高い位置精度でコイル導体を組み立てることができる。これにより、モータの信頼性が向上する。以上のように、本実施形態のコイルボビン1は、ティースの保持と、コイル導体及び固定子コア間の絶縁とを両立することができる。
【0040】
図5(a)は、I型分割コアのティースコア55とコイルボビン1との固定方法の一例を示す図である。
図5(a)に示すように、まず、コイルボビン1のティース保持部2の内面に熱可塑性の接着層7をスプレー塗布する。接着層7としては、例えば、モータの駆動限界温度(例えばF種であれば155℃など)よりも高い温度で溶融するものを使用することができる。次に、ティースコア55をコイルボビン1のティース保持部2に挿入した後に、恒温槽又は連続炉などでの加温処理により接着層7の溶融温度まで加熱し、冷却する。これにより、ティースコア55とコイルボビン1とを強固に一体化することができる。このとき、コイルボビン1の材質としては、接着層7の溶融温度よりもガラス転移点及び軟化温度の高い材料を用いる必要がある。
【0041】
図5(b)は、I型分割コアのティースコア55とコイルボビン1との固定方法の他の例を示す図である。本方法においては、まず、
図5(b)に示すように、コイルボビン1のティース保持部2にティースコア55を挿入する。次に、粘度の低い接着剤8をティースコア55に塗布する。ティースコア55は、例えば軟磁性材料の積層体であるため、隙間を有しており、毛細管現象によって粘度の低い液体を吸収することができる。接着剤8の塗布の際に、ティースコア55やコイルボビン1の表面の寸法変化を起こすことのない適量を塗布することで、ティースコア55とコイルボビン1とを強固に一体化することができる。接着剤8としては、例えばアクリル樹脂系、エポキシ樹脂系など公知のものを使用できる。
【0042】
次に、固定子コアの組み立てについて説明する。
図6(a)は、コイルボビン1を取り付けたティースコア55をバックヨーク56に組み立てた状態を示す平面図である。ティースコア55をバックヨーク56に嵌合するためには、これらの間に隙間が必要である。したがって、
図6(a)の状態とする前に、若干の隙間を有するようにティースコア55をバックヨーク56に取り付けたのちに、径方向外側に向かってティースコア55を移動させ、ティースコア55の周方向側面とバックヨーク56の周方向側面とを密着させる。その際に、
図6(a)に示すように、径方向におけるティースコア55とバックヨーク56との間には、隙間6が発生することになる。
【0043】
図6(b)は、
図6(a)の紙面(軸方向)に垂直な平面における断面図である。
図6(b)に示すように、コイルボビン1の第1の壁面21の寸法A、隔壁32の寸法Bは、上述のように0.2~0.4mmとすることができる。このように、できるだけコイルボビン1を薄く成型することにより、占積率の向上と、熱伝導性能の向上が期待できる。また、ティースコア55とバックヨーク56との隙間6の径方向の寸法C、バックヨーク56とスロット絶縁3との隙間61の径方向の寸法Dもまた、できるだけ小さくすることが望ましい。また、
図6(b)に示すように、第2の壁面22a及び22bが隣り合うコイルボビン1に接触する箇所において、スロット絶縁3が切欠き部34を有しているため、第2の壁面22a及び22bとスロット絶縁3とが重なっても、ティースとコイル導体との間の絶縁厚さが増大せず一定となる。
【0044】
図7は、I型分割コアを採用した回転電機について電磁界解析を行った結果を示す図である。
図6に示したように、I型分割コアのティースコア55にコイルボビン1を取り付け、該ティースコア55をバックヨーク56に組み立てて固定子コアを形成し、コイル導体13を貫通孔31に挿入した。その後、回転子コア11及び永久磁石12を設置して、電磁界解析を行い、モータとしての性能を予測した。永久磁石12から回転子コア11へ流れる磁束線、永久磁石12から固定子コアへ流れる磁束線は、
図7に示すようになる。ティースコア55からバックヨーク56へ流れる磁束線を見ると、ほとんどが周方向に流れ、径方向に流れる磁束は少ないことがわかる。このように、前述した隙間6が存在してもモータの性能に問題が無いことがわかる。
【0045】
図8(a)は、I型分割コアのティースコア55とバックヨーク56とを一体化するための射出成型装置100を示す断面図である。
図8(a)に示すように、射出成型装置100は、下金型15、上金型16、ポット17及びプランジャ18を備える。下金型15及び上金型16は、それぞれ円環形状の凹部151及び161を有する。ポット17には樹脂を充填可能であり、プランジャ18の操作により樹脂を射出して加圧成型することができる。コイルボビン1、ティースコア55及びバックヨーク56が組み立てられた固定子コアは、下金型15と上金型16との間に設置され、ティースコア55とバックヨーク56との間の隙間6に樹脂が注入される。
【0046】
図8(b)は、樹脂の注入後の固定子コアを示す斜視図である。
図8(b)に示すように、隙間6に樹脂を注入して加圧成型することにより、樹脂成型体9が形成される。樹脂成型体9は、下金型15及び上金型16の凹部151及び161に由来する円環形状の鍔部91を有する。鍔部91は、ティースコア55とバックヨーク56との境界を覆うように、ティースコア55及びバックヨーク56の軸方向側面に跨っている。
【0047】
図8(c)は、樹脂成型体9を示す斜視図である。
図8(c)に示すように、樹脂成型体9は、ティースコア55とバックヨーク56との間の隙間6に由来する柱状部92と、下金型15及び上金型16の凹部151及び161に由来する円環形状の鍔部91と、を有する。このように、樹脂成型体9は、固定子コアの内部でかご状となっており、それぞれの面がティースコア55及びバックヨーク56と接着されるため、これらを強固に一体化することができる。
【0048】
図9は、I型分割コアのティースコア55の製造装置200の一例を示す概略図である。
図9に示すように、製造装置200は、下型ホルダ201、上型ホルダ202、下切断刃203a及び203b、上切断刃204a及び204b、ローラ205及び206を備える。ティースコア55の材料となる軟磁性材料20は、箔帯又は薄板の形態でローラ205及び206の間に挟持され、ローラ25及び26の回転により下型ホルダ201と上型ホルダ202との間に一定量送り出される。上型ホルダ202は上下動可能に構成され、下切断刃203a及び203bと上切断刃204a及び204bにより軟磁性材料20がせん断切断される。ティースコア55は略台形状であるため、同時に2枚を切断することにより、毎回同一の動作で互い違いに2つのティースコア55が製造できる。
【0049】
<従来のコイルの挿入方法>
本実施形態の固定子コアに対し分布巻構造のコイルを組み立てる方法について明確に理解するために、まず、従来の固定子コアへのコイル導体の挿入方法について説明する。
図10(a)は、固定子コアのスロットに設置される従来の絶縁紙19を示す斜視図である。
図10(a)に示すように、従来、例えばノーメックス(登録商標)などのアラミドから形成される絶縁紙19を、間隔を空けて谷折りし、断面がB字形状のスロットライナーを形成して、このスロットライナーを固定子コアのスロットに複数配置している。このようなスロットライナーにヘアピン形状(U字形状)のコイル導体を挿入することにより、分布巻き構造のコイルを形成することができる。
【0050】
図10(b)は、絶縁紙19及びコイル導体13を固定子コア5のスロット53に挿入した状態を示す斜視図である。
図10(b)に示すように、スロットライナーとしての絶縁紙19が径方向に3つスロット53内に配置され、3本のコイル導体13を挿入した状態が示されている。コイル導体13はヘアピン形状を有しており、一方の脚が挿入されるスロットと、他方の脚が挿入されるスロットとが離れている。スロット及びティースが48個設けられている場合、ひとつのスロット角度は7.5度であり、コイル導体13の開き角は45度となっている。これにより、コイル導体13は、一方の脚が挿入されるスロットの6つ先のスロットに他方の脚が挿入される。
【0051】
図10(c)は、コイル導体13の配置を示す軸方向上面図である。
図10(c)においては、第1象限のみ図示する。スロット53は7.5度ピッチで設けられており、第1象限のスロット53の番号を角度0度の位置から順に1番~12番とする。また、1つのスロット53におけるコイル導体13の挿入孔(貫通孔31)の番号を径方向内側から順に1層目~6層目とする。最も径方向内側に位置するコイル導体13は、右側の脚が5番スロットの1層目に配置され、左側の脚が11番スロットの2層目に配置されている。同様に、径方向2つめのコイル導体13は、右側の脚が5番スロットの3層に配置され、左側の脚が11番スロットの4層目に配置されている。同様に、最も径方向外側のコイル導体13は、右側の脚が5番スロットの5層に配置され、左側の脚が11番スロットの6層目に配置されている。
【0052】
図示は省略しているが、固定子コア5の軸方向反対側においては、コイルの接続後の形状が全体として波状となるように、コイル導体13が配置される。
図10(b)及び(c)から明らかなように、ヘアピン形状のコイル導体13をひとつだけ挿入した状態では、隣り合うスロットにコイル導体13を挿入できないことが理解できる。具体的には、
図10(c)に示す状態において、例えば6番スロットの1層目にコイル導体13を挿入しようとすると、すでに挿入されている5番スロットのコイル導体13により挿入孔が塞がれており、コイル導体13を挿入できないことがわかる。9番スロット以降の1層目などにはかろうじて挿入可能といえる。したがって、波巻のコイル導体をスロット53に挿入するためには、周方向のコイル導体をすべて組み合わせた状態としてから軸方向に平行に挿入する必要があることがわかる。
【0053】
図10(d)は、すべてのスロット53にコイル導体13を挿入した固定子を示す斜視図である。
図10(d)に示すように、コイル導体13が重なって配置されている。
【0054】
図10に示した絶縁紙19を用いる方法では、コイル導体13間の絶縁紙19や、コイル導体13及び固定子コア5間の絶縁紙19が二重となるため厚くなり、コイルの占積率を低下させ、かつ、コイル導体13から固定子コア5への熱伝導率も低下させてしまう。また、絶縁紙19は、軸方向に固定ができないために、コイル導体13の挿入時に軸方向の位置ずれや紙の破断を引き起こし、モータの製造不良の原因となる。
【0055】
図11(a)は、従来の集中巻きモータ用のコイルボビンを説明するための斜視図である。
図11(a)の左側は、I型分割コアのティースコア55に集中巻き構造用のコイルボビン10を取り付けた状態を示し、右側はコイルボビン10にコイル14を巻きつけた状態を示している。
図11(a)に示すように、集中巻き構造の場合、一つのティースコア55にコイル14を巻きつけるため、コイルボビン10は軸方向から見て略H字形状となっている。この場合、コイル14がオープンな状態で巻きつけられ、コイル14の被膜にエナメルが露出した部分が無くなるため、コイル14を1本1本絶縁する必要はない。しかしながら、コイルボビン10はティースコア55を保持することはできるが、コイル14を1本1本保持することができず、コイル14の位置精度にバラつきが生じる虞がある。
【0056】
図11(b)は、集中巻き構造の固定子を組み立てた状態を示す斜視図である。
図11(b)に示すように、ティースコア55に取り付けたコイルボビン10に予めコイル14を巻きつけてからバックヨーク56に嵌合することにより、集中巻き構造の固定子が組み立てられる。
【0057】
<本実施形態のコイルの挿入方法>
次に、本実施形態のコイルボビン1を取り付けた固定子コアへのコイル導体の挿入方法について説明する。以下に示す例においては、分布巻き構造のコイル導体が軸方向に分割されたセグメント導体を採用することとする。詳細は後述するが、セグメント導体を軸方向の両側からコイルボビン1の貫通孔31に挿入し、貫通孔31の内部でセグメント導体同士を接続することにより、固定子コイルが組み立てられる。なお、本実施形態のコイルボビン1を用いて分布巻き構造の固定子コイルを組み立てる方式としては、以下に説明される方式に限定されず、あらゆる方式を採用することができる。
【0058】
図12(a)は、セグメント導体13a及び13bをスロットに挿入する前の状態を示す斜視図である。
図12(a)に示すように、セグメント導体13a(第1のセグメント導体)及びセグメント導体13b(第2のセグメント導体)は、2つの脚を持つヘアピン形状(U字形状)である。セグメント導体13aの先端部は凸形状であり、セグメント導体13bの先端部は凹形状である。セグメント導体13a及び13bは、軸方向反対側からスロットに挿入される。セグメント導体13aとセグメント導体13bは、波巻が形成されるようにコイルボビン1の軸方向の貫通孔の中で接続される。
【0059】
図12(b)は、セグメント導体13aとセグメント導体13bとの接続部近傍の拡大斜視図である。
図12(b)の左側が接続前の状態を示し、右側が接続後の状態を示す。セグメント導体13aとセグメント導体13bの接続部は、凸形状と凹形状が略同一形状で噛み合うように形成され、軸方向と平行な面がセグメント導体の断面積よりも大きくなるような形状となっている。これにより、軸方向に平行な面で接触接続が行えるようになっている。セグメント導体13a及び13bの接続部を
図12(b)に示す構造とすることで、セグメント導体13a及び13bの全体に均一に、軸方向と平行に応力を加えることができるため、強固かつ安定に接続できる。
【0060】
周方向及び径方向に多数配置されるコイル導体の軸方向の長さが異なっている場合など、複数のコイル導体のすべてにおいて軸方向の同一箇所でセグメント導体13a及び13bを接続することが困難であっても、軸方向に応力を加えることにより接触させることができるため、製造誤差や組立誤差を抑制することができる。
【0061】
なお、セグメント導体13a及び13bの接続部の形状は、
図12(b)に示す凸形状及び凹形状に限定されず、V字形状として軸方向に対し斜めの面が接触するようにしてもよい。
【0062】
図12(c)は、コイルボビン1へのセグメント導体13a及び13bの挿入方法を説明するための図である。
図12(c)に示すように、セグメント導体13aの右側の脚とセグメント導体13bの左側の脚とが、コイルボビン1の1層目の貫通孔31に軸方向に挿入される。このように、セグメント導体13aの左側の脚とセグメント導体13bの右側の脚はそれぞれ周方向反対側に位置しており、セグメント導体13a及び113bが接続されたときに波状のコイルを形成する。
【0063】
貫通孔31の寸法は、セグメント導体13a及び13bの平角の外形寸法とほぼ同等である。これにより、セグメント導体13a及び13bを軸方向に平行に挿入して接続できるため、高い位置精度でコイルを組み立てることができ、信頼性の高い接続ができる。また、スロットに対するセグメント導体13a及び13bの占積率を高くすることができる。
【0064】
セグメント導体13a及び13bの接続部においては、平角線のエナメルが剥離された部分が露出することになるので、固定子コアのティースコア55との間の絶縁距離(空間距離、沿面距離)をしっかり確保する必要がある。このため、コイル導体1本1本が配置される部分は、絶縁物で覆われている必要がある。これに対し、本実施形態のコイルボビン1を用いることにより、セグメント導体13a及び13bとティースコア55との絶縁距離を確保することができ、短絡を防止できる。さらに、セグメント導体13a及び13bのような形状とすることにより、コイルエンド部の溶接が不要であるため、抵抗値を小さくすることができる。
【0065】
図12のようなコイルの構造は、特願2018-134662に記載されている。当該特許出願の開示内容は、本明細書の一部を構成するものとして援用される。
【0066】
このように、本実施形態のコイルボビン1は、軸方向に延伸する貫通孔31を有しているため、軸方向へのコイル応力付与が組立に必須である分割コイルの組み立て工法に特に適している。本実施形態のコイルの組み立て工法は、従来のヘアピンコイル挿入、反挿入側部曲げ、溶接工法に比べて、コイルが絶縁部材や固定子コアに与える影響が極めて少ない。固定子コアは、応力に対して敏感であり鉄損が増大することもあるので、本実施形態の手法は高グレードの電磁鋼板や、アモルファスなどの低損失材料に対して優位となり得る。また、コイルの挿入時におけるコイルや絶縁物の損傷、コイル変形などの防止にも効果があるほか、必要なコイルの種類を低減でき、必要な組立治具や設備投資が低減できる。さらに組立プロセスが簡略化できるので、モータのコスト削減に効果が期待できる。
【0067】
<分布巻ラジアルギャップ型モータの構成>
次に、本実施形態のコイルボビン1を適用した固定子を有する分布巻ラジアルギャップ型モータについて説明する。本実施形態のモータには、
図12に示したセグメント導体13a及び13bを組み立てた分布巻構造の固定子を使用する。
【0068】
図13(a)は、回転子400及び固定子500を示す斜視図である。
図13(a)に示すように、回転子400は、回転する回転子コア11をシャフト37に固定することにより構成される。本実施形態においては永久磁石同期モータを例として示しており、永久磁石12が回転子コア11の内部又は表面に配置されている。回転子400は固定子500の内側に配置され、ギャップを介して回転子400の表面と固定子500の内面が対向し、磁束のやり取りを行うことによりモータとして動作する。なお、回転子は、誘導モータの籠型導体回転子であってもよいし、リラクタンスモータの磁性体突極回転子であってもよい。
【0069】
固定子500は、固定子コア5、セグメント導体13a及び13b、樹脂モールドリング部303a及び303bを備える。セグメント導体13aは、周方向に挿入される状態で整列させた状態で、コイルエンドの頂点部を含む部分を樹脂モールドリング部303aによりモールドされる。これにより、樹脂モールドリング部303aとセグメント導体13aのコイル群が一体化される。
【0070】
ヘアピンコイル群のコイルエンドの一部を固定されることで、コイル群は、大掛かりな治具を使用することなく安定してハンドリングすることができる。樹脂モールドリング部303aにより一体化されたヘアピンコイル群が、固定子コア5のティースに取り付けられた本実施形態のコイルボビン(
図13には不図示)の貫通孔に挿入される。
【0071】
一方、軸方向反対側のセグメント導体13bによるコイル群も同様に、コイルエンドの頂点部を含む部分が樹脂モールドリング部303bによりモールドされる。これにより、樹脂モールドリング部303bとセグメント導体13bのコイル群が一体化される。樹脂モールドリング部303bにより一体化されたコイル群が固定子コア5のティースに取り付けられたコイルボビン(
図13には不図示)の貫通孔に挿入される。その後、さらにプレスなどの加圧装置によって所定の位置まで押し込むことにより、セグメント導体13aとセグメント導体13bとが接続される。
【0072】
図13(b)は、モータ300を組み立てた構造を示す断面図である。
図13(b)に示すように、モータ300は、回転子400、固定子500、出力側軸受保持部301、反出力側軸受保持部302、ボールベアリング304及び305、ボルト306及び307、ハウジング308を備える。
【0073】
ボールベアリング304は、回転子400のシャフト401の出力側に接触され、ボールベアリング305は反出力側に接触される。ボールベアリング304及び305の外周が固定された状態でボールベアリング304及び305の内周面がシャフト401と一体となって回転可能に保持される。
【0074】
ボールベアリング304の外周は、出力側軸受保持部301により保持される。ボールベアリング305の外周は、反出力側軸受保持部302により保持される。出力側軸受保持部301及び反出力側軸受保持部302は、ボルト306及び307によりハウジング308に対し軸方向に応力を加えて締め付けることで保持され、これにより同軸度が保たれる。
【0075】
樹脂モールドリング部303a及び303bは、それぞれ出力側軸受保持部301及び反出力側軸受保持部302の軸方向内面と接触し、軸方向に応力をかけた状態で保持される。これによって、回転子400がトルク脈動や負荷変動により振動して、固定子500に振動や応力が加わった場合においても、セグメント導体13a及び13bが抜け出ることをハウジング308が防止することができる。
【0076】
図13(b)に示す構造により、セグメント導体13a及び13bで発生したジュール損失による発熱を、コイルエンド部から出力側軸受保持部301及び反出力側軸受保持部302に熱伝導させて冷却することもできる。また、一般に、樹脂モールドされていないコイルエンド部には、冷却油(潤滑油)をかける冷却法が採用されることが多く、樹脂で囲われていないコイルエンドに直接塗布することができるため、油冷効果を減少させることが無い。
【0077】
<まとめ>
以上のように、本実施形態のコイルボビン1は、ティース保持部2とスロット絶縁3とが一体となって形成されており、ティースを強固に保持することを部品単体で行うことができる。スロット絶縁3はコイル導体を1本ごとに軸方向に挿入可能な貫通孔を複数有している。これにより、コイルをしっかりと軸方向に保持し続けることで、コイルの完全な固定ができるので、従来コイルの固定に必要であったワニス処理(樹脂によるコイルの固定)工程が不要となり、モータの製造工程を短縮することができる。ワニス処理は、ワニスを乾燥させる乾燥炉(通常は連続炉)が必要となるため、その乾燥炉の投資費用、製造時の熱量(電気代)などの費用の低減にもつながる。
【0078】
また、本実施形態のコイルボビン1は、コイル導体同士を絶縁しつつ保持することができるので、沿面距離、絶縁距離ともに確保が可能である。
【0079】
[変形例]
本開示は、上述した実施形態に限定されるものでなく、様々な変形例を含んでいる。例えば、上述した実施形態は、本開示を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備える必要はない。また、ある実施形態の一部を他の実施形態の構成に置き換えることができる。また、ある実施形態の構成に他の実施形態の構成を加えることもできる。また、各実施形態の構成の一部について、他の実施形態の構成の一部を追加、削除又は置換することもできる。
【符号の説明】
【0080】
1 コイルボビン
2 ティース保持部
21 第1の壁面
22 第2の壁面
23 第3の壁面
3 スロット絶縁
31 貫通孔
32 隔壁
33 第4の壁面
34 切欠き部
5 固定子コア
51 コアバック
52 ティース
53 スロット
54 T型分割コア
55 I型分割コアのティースコア
56 I型分割コアのバックヨーク
57 凹部
6 隙間
61 隙間
7 接着層
8 接着剤
9 樹脂成型体
10 集中巻き用コイルボビン
11 回転子コア
12 永久磁石
13 コイル導体
13a、13b セグメント導体
14 コイル
15 下金型
16 上金型
151 凹部
161 凹部
17 ポット
18 プランジャ
19 絶縁紙
20 軟磁性材料
201 下型ホルダ
202 上型ホルダ
203 下切断刃
204 上切断刃
205、206 ローラ
301 出力側軸受保持部
302 反出力側軸受保持部
303a、303b 樹脂モールドリング部
304、305 ボールベアリング
306、307 ボルト
308 ハウジング
401 シャフト
100 射出成型装置
200 ティースコアの製造装置
300 モータ
400 回転子
500 固定子