(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-06
(45)【発行日】2023-09-14
(54)【発明の名称】養殖管理装置および養殖管理システム
(51)【国際特許分類】
A01K 61/10 20170101AFI20230907BHJP
A01K 61/95 20170101ALI20230907BHJP
A01K 63/04 20060101ALI20230907BHJP
【FI】
A01K61/10
A01K61/95
A01K63/04 A
A01K63/04 C
(21)【出願番号】P 2022178552
(22)【出願日】2022-11-08
【審査請求日】2022-11-08
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000000239
【氏名又は名称】株式会社荏原製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110002273
【氏名又は名称】弁理士法人インターブレイン
(72)【発明者】
【氏名】田中 英明
(72)【発明者】
【氏名】加藤 優志
(72)【発明者】
【氏名】出口 達也
(72)【発明者】
【氏名】小山 博央
【審査官】吉田 英一
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-170349(JP,A)
【文献】特開平05-076257(JP,A)
【文献】特開2021-016326(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0311974(US,A1)
【文献】特開2019-162085(JP,A)
【文献】石田善久、木村晴保,養殖魚の魚体長と魚体重,放養密度および酸素消費の関係,日本水産工学会誌,日本,日本水産工学会,2002年,Vol. 39, No. 2,pp. 169 - 172
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01K 61/10
A01K 61/95
A01K 63/04
JSTPlus(JDreamIII)
JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
生簀における水生生物の養殖を管理する養殖管理装置であって、
前記生簀内の水生生物を撮像する撮像部と、
撮像画像に基づいて前記水生生物の体長を計測する体長計測部と、
アンモニア濃度を直接測定するセンサによる計測結果を用いることなく、前記水生生物の体長と、前記生簀内に存在する水生生物の個体数に基づき、予め取得した前記水生生物の体長、体重およびアンモニア排出量の相関から、前記水生生物の活性度
として前記生簀内におけるアンモニア排出量を推測する活性度推測部と、
を備
え、
前記撮像部は、前記生簀の所定領域をサンプリング領域として前記水生生物を撮像し、
前記活性度推測部は、前記サンプリング領域について得られる撮像画像から換算された前記生簀内に存在する水生生物の個体数を用いて、前記生簀全体におけるアンモニア排出量を推測する、養殖管理装置。
【請求項2】
生簀における水生生物の養殖を管理する養殖管理装置であって、
前記生簀内の水生生物を撮像する撮像部と、
撮像画像に基づいて前記水生生物の体長を計測する体長計測部と、
溶存酸素量を直接測定するセンサによる計測結果を用いることなく、前記水生生物の体長と、前記生簀内に存在する水生生物の個体数に基づき、予め取得した前記水生生物の体長、体重および酸素消費量の相関から、前記水生生物の活性度として前記生簀内における酸素消費量を推測する活性度推測部と、
を備え、
前記撮像部は、前記生簀の所定領域をサンプリング領域として前記水生生物を撮像し、
前記活性度推測部は、前記サンプリング領域について得られる撮像画像から換算された前記生簀内に存在する水生生物の個体数を用いて、前記生簀全体における酸素消費量を推測する、養殖管理装置。
【請求項3】
前記水生生物の活性度に応じて変化する前記生簀内の環境パラメータを調整するための環境機器を制御する制御部と、
前記水生生物の活性度に基づき、前記生簀内における前記環境パラメータの変化量である環境変化量を算出する環境管理部と、
をさらに備え、
前記制御部は、前記環境変化量に応じて前記環境機器の制御量を演算し、前記環境機器を制御する、
請求項1又は2に記載の養殖管理装置。
【請求項4】
水生生物の養殖を管理する養殖管理システムであって、
水生生物を収容する水槽と、
前記水槽の水を循環させる循環路と、
前記水槽内の水生生物を撮像する撮像部と、
前記水生生物の養殖を管理する養殖管理装置と、
前記水生生物の活性度に応じて変化する前記水槽内の環境パラメータを調整するための環境機器と、
を備え、
前記養殖管理装置は、
撮像画像に基づいて前記水生生物の体長と個体数を計測する計測部と、
前記環境機器を制御する制御部と、
前記水槽内の前記環境パラメータの変化量である環境変化量を算出する環境管理部と、
予め取得した体長と体重との相関に基づき、前記水生生物について計測された体長を体重に換算する体重算出部と、
アンモニア濃度を直接測定するセンサによる計測結果を用いることなく、前記水生生物の体長と、前記水槽内に存在する水生生物の個体数に基づき、予め取得した前記水生生物の体長、体重およびアンモニア排出量の相関から、前記水生生物の活性度
として前記水槽内におけるアンモニア排出量を推測する活性度推測部と、
を含み、
前記撮像部は、前記水槽の所定領域をサンプリング領域として前記水生生物を撮像し、
前記活性度推測部は、前記サンプリング領域について得られる撮像画像から換算された前記水槽内に存在する水生生物の個体数を用いて、前記水槽全体におけるアンモニア排出量を推測し、
前記環境管理部は、推測された活性度に基づいて前記環境変化量を算出し、
前記制御部は、前記環境変化量に応じて前記環境機器の制御量を演算し、前記環境機器を制御する、養殖管理システム。
【請求項5】
水生生物の養殖を管理する養殖管理システムであって、
水生生物を収容する水槽と、
前記水槽の水を循環させる循環路と、
前記水槽内の水生生物を撮像する撮像部と、
前記水生生物の養殖を管理する養殖管理装置と、
前記水生生物の活性度に応じて変化する前記水槽内の環境パラメータを調整するための環境機器と、
を備え、
前記養殖管理装置は、
撮像画像に基づいて前記水生生物の体長と個体数を計測する計測部と、
前記環境機器を制御する制御部と、
前記水槽内の前記環境パラメータの変化量である環境変化量を算出する環境管理部と、
予め取得した体長と体重との相関に基づき、前記水生生物について計測された体長を体重に換算する体重算出部と、
溶存酸素量を直接測定するセンサによる計測結果を用いることなく、前記水生生物の体長と、前記水槽内に存在する水生生物の個体数に基づき、予め取得した前記水生生物の体長、体重および酸素消費量の相関から、前記水生生物の活性度として前記水槽内における酸素消費量を推測する活性度推測部と、
を含み、
前記撮像部は、前記水槽の所定領域をサンプリング領域として前記水生生物を撮像し、
前記活性度推測部は、前記サンプリング領域について得られる撮像画像から換算された前記水槽内に存在する水生生物の個体数を用いて、前記水槽全体における酸素消費量を推測し、
前記環境管理部は、推測された活性度に基づいて前記環境変化量を算出し、
前記制御部は、前記環境変化量に応じて前記環境機器の制御量を演算し、前記環境機器を制御する、養殖管理システム。
【請求項6】
前記水槽への酸素の供給量を調整する酸素調整装置を前記環境機器として備え、
前記制御部は、前記環境変化量に応じて前記酸素調整装置による酸素供給量を制御する、
請求項4又は5に記載の養殖管理システム。
【請求項7】
前記循環路に設けられ、循環する水に含まれるアンモニアを分解するろ過槽と、
前記環境機器として前記循環路における水の循環量を調整する循環装置と、
を備え、
前記制御部は、前記環境変化量に応じて前記循環装置による水の循環量を制御する、
請求項4又は5に記載の養殖管理システム。
【請求項8】
前記水槽内の水生生物への給餌量を調整する給餌調整装置をさらに備え、
前記制御部は、前記環境変化量に応じて前記給餌調整装置による給餌量を制御する、
請求項7に記載の養殖管理システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水生生物の養殖を管理する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
水産資源の世界的な需要増加に伴い、水生生物の安定供給を実現する養殖技術の開発が進められている。地球温暖化の影響や海洋汚染が問題化している近年、これらの影響が少ない陸上養殖が注目されている。
【0003】
陸上養殖は、海面養殖のような場所の制限が少ない、屋内施設を利用することで天候や天災の影響を受けることも少ない、養殖が環境にもたらす負荷を低減できるなどの利点がある。しかし、限られたスペースで水生生物を効率よく育成するために、生簀の環境を常に最適な状態に維持しなければならない。例えば、生簀における酸素濃度を必要十分に保つとともに、排泄物によるアンモニア濃度の上昇を抑えるよう、生簀における水の循環量や給餌量を適切に管理しなければならない。
【0004】
そこで、生簀(水槽)に溶存酸素量やアンモニア濃度等を検出するための環境センサを設置し、その検出値に基づいて水の循環装置や給餌装置を制御する技術も提案されている(特許文献1参照)。この技術では、水生生物の育成状態に応じて水槽の環境や給餌量を最適化する養殖モデルを構築し、その養殖モデルに沿うように装置の制御が行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1の技術によれば、予め構築した養殖モデルに環境センサの検出情報である各種パラメータを入力することにより、水槽の環境や給餌を調整する装置を最適に制御できる。しかし、溶存酸素量やアンモニア濃度といった飼育環境を示すパラメータ(以下「環境パラメータ」ともよぶ)ごとにセンサが必要となる。このため、養殖システムの構築に際して多数のセンサが必要となり、イニシャルコストが高くなる。特にアンモニア濃度を直接検出できるセンサは、用途が特殊であるために一般に高価なものとなる。また、多数のセンサのメンテナンスのためにランニングコストも嵩む。
【0007】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、その目的の一つは、養殖管理に要するコストを低減することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のある態様は、生簀における水生生物の養殖を管理する養殖管理装置である。この養殖管理装置は、水生生物の体長を計測する体長計測部と、計測された体長に基づいて水生生物の活性度を推測する活性度推測部と、を備える。
【0009】
本発明の別の態様も養殖管理装置である。この養殖管理装置は、生簀内の水生生物を撮像する撮像部と、撮像画像に基づいて水生生物の活性度を推測する活性度推測部と、を備える。
【0010】
本発明のさらに別の態様は、水生生物の養殖を管理する養殖管理システムである。この養殖管理システムは、水生生物を収容する水槽と、水槽の水を循環させる循環路と、水槽内の水生生物を撮像する撮像部と、水生生物の養殖を管理する養殖管理装置と、水生生物の活性度に応じて変化する水槽内の環境パラメータを調整するための環境機器と、を備える。養殖管理装置は、撮像画像に基づいて水生生物の体長と個体数を計測する計測部と、環境機器を制御する制御部と、水槽内の環境パラメータの変化量である環境変化量を算出する環境管理部と、予め取得した体長と体重との相関に基づき、水生生物について計測された体長を体重に換算する体重算出部と、算出された体重と計測された個体数とに基づいて水生生物の活性度を推測する活性度推測部と、を含む。環境管理部は、推測された活性度に基づいて環境変化量を算出する。制御部は、環境変化量に応じて環境機器の制御量を演算し、環境機器を制御する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、養殖管理に要するコストを低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】実施形態に係る養殖管理システムの概要を表す図である。
【
図2】環境機器の制御方法を概略的に表す図である。
【
図3】活性度の推測に用いられるパラメータの相関を表す図である。
【
図4】活性度の推測に用いられるパラメータの相関を表す図である。
【
図5】活性度の推測に用いられるパラメータの相関を表す図である。
【
図7】養殖管理装置による計測処理を表すフローチャートである。
【
図8】計測データのデータ構造の例を表す図である。
【
図9】養殖管理装置による制御処理を表すフローチャートである。
【
図10】ある魚種の成長と活性度との関係を示す実験結果を表す図である。
【
図11】ある魚種の成長と活性度との関係を示す実験結果を表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照しつつ、本発明の一実施形態について説明する。なお、以下の実施形態およびその変形例において、ほぼ同一の構成要素については同一の符号を付し、その説明を適宜省略する。
【0014】
図1は、実施形態に係る養殖管理システムの概要を表す図である。
養殖管理システム1は、閉鎖循環式陸上養殖を実現するものであり、水生生物2の生簀である水槽4と、水槽4の水(「飼育水」ともよぶ)を循環させる循環路6と、循環路6に設けられたろ過槽8と、水生生物2の養殖を管理する養殖管理装置10を備える。循環路6にはポンプ12が設けられる。ポンプ12を駆動することにより飼育水が循環路6を循環する。ポンプ12は、水の循環量を調整する「循環装置」として機能する。これらの養殖設備は、屋内施設に配置される。
【0015】
陸上養殖の方式は一般に、かけ流し方式と閉鎖循環方式に大別される。かけ流し方式は、海や川からポンプで取水して水槽に供給し、水槽から汚れた水を排水すること、つまり換水により飼育水を清浄に保つ方式である。これに対し、閉鎖循環方式は、水槽に溜めた飼育水を使い回すための循環路を有し、その循環路に設けられたろ過槽に飼育水を通すことで清浄に保つ方式である。本実施形態では、陸上養殖のなかでも後者の閉鎖循環方式を採用することで、外部からの病原体の持ち込みをなくし、水温などに影響する季節要因を少なくしている。飼育水の温度として水生生物2の成長に好適な温度が設定されている。
【0016】
ところで、陸上養殖は、飼育水の浄化が必要となるためコストがかかる。浄化の負荷を高めることで水性生物の育成環境を良好に維持できるがコストが嵩む。逆に浄化を抑制すると、コストを抑えることはできるが飼育環境が悪化する。このため、水生生物にとって適切または許容できる程度の環境を自動的に維持できる運用が好ましい。
【0017】
水槽内の環境汚染の大きな要因は、水生生物の活性度にあると考えられる。ここでいう「活性度」は、個体の成長に伴って変化する飼育環境への影響度を示す指標であり、酸素消費量やアンモニア排出量などが該当する。例えば水生生物が魚である場合、稚魚から成魚へ成長する過程で酸素消費量やアンモニア排出量が変化する。活性度が高いほど酸素を多く消費し排泄物も多くなるため、環境に及ぼす影響も大きい。このため、活性度を「環境影響度」と捉えることもできる。
【0018】
しかし、水生生物の活性度を測定するのは難しい。一方、体重と活性度との間に相関があり、体長と体重との間に相関がある。水生生物の撮像画像を用いれば、体長の計測は比較的容易である。本実施形態ではこの点に着目し、まず水生生物2の体長を計測し、計測された体長に基づいて活性度を推測する。そして、推測された活性度にもとづいて生簀の環境を制御することとした。
【0019】
水生生物2は、本実施形態では海水魚であるが、淡水魚であってもよい。また、後述のような体長の計測が可能であれば、貝類や甲殻類その他の魚介類であってもよい。ただし養殖管理の都合上、本実施形態では単一種とされる。水生生物2が海水生物又は淡水生物のいずれであるかによって飼育水の成分は調整される。
【0020】
循環路6における水槽4の下流側にろ過槽8が設けられている。水槽4内で水生生物2の代謝活動や残餌などの有機物の分解により有毒なアンモニアが発生する。このため、飼育水を循環させてろ過槽8に通すことで生物ろ過させ、そのアンモニアを分解して毒性の低い硝酸に変化させる。ろ過槽8は、酸素を含む水中でアンモニアを酸化して亜硝酸ひいては硝酸に変化させる硝化細菌(微生物)を保持している。
【0021】
ろ過槽8には、泡沫分離装置14および脱窒槽16が接続されている。水槽4から排出されてろ過槽8に導かれた水は、ポンプ18の駆動により泡沫分離装置14に導かれる。泡沫分離装置14は、その水に含まれる汚濁物質を泡沫に吸着させ、浮上させることで汚濁物質を分離した後、ろ過槽8に戻す。
【0022】
ろ過槽8で硝化された水は、ポンプ20の駆動により脱窒槽16に導かれ、再びろ過槽8に戻される。脱窒槽16は、脱窒細菌を保持し、ろ過された水に含まれる硝酸を窒素ガスに還元して大気中に放出する。ろ過槽8の水は、このようにして無害化された後にポンプ12により組み上げられ、水槽4に供給される。
【0023】
養殖管理システム1にはさらに酸素供給装置22、給餌装置24および撮像部26が設けられている。酸素供給装置22は、水槽4の水中に向けて酸素を供給する。酸素供給装置22は、水槽4への酸素の供給量を調整する「酸素調整装置」として機能する。給餌装置24は、水槽4内に餌を供給する。給餌装置24は、水槽内の水生生物への給餌量を調整する「給餌調整装置」として機能する。各ポンプ、酸素供給装置22および給餌装置24は、水槽4内の環境パラメータを調整するための「環境機器」として機能する。
【0024】
撮像部26は、本実施形態ではカメラであり、水槽4内の水生生物2を撮像できるよう設置されている。養殖管理装置10は、撮像部26の撮像画像に基づいて水生生物2の活性度を推測する。
【0025】
水生生物2の活性度が高くなるほど酸素消費量が多くなり、また排泄量ひいてはアンモニア排出量も多くなると考えられる。このため、活性度が高くなるほど水槽4内の溶存酸素量が少なくなり、またアンモニア濃度が高くなると推測できる。すなわち、酸素消費量やアンモニア排出量は、水生生物2の活性度を表すものであり、上述した環境パラメータを変化させる要素である。以下では、水槽4内の環境パラメータの変化量を「環境変化量」とも称す。
【0026】
養殖管理装置10は、水槽4全体でみた水生生物2の活性度に応じて各環境機器を適切に制御することで、水槽4内の環境パラメータを適正な状態に保つ。すなわち、養殖管理装置10は、水生生物2の活性度が高くなるほど、酸素供給量を多くするよう酸素供給装置22を制御する。それにより水槽4内の溶存酸素量を適正範囲に維持する。また、水生生物2の活性度が高くなるほど、循環水量を多くするようポンプ12の駆動を制御し、飼育水の生物ろ過を促進する。それにより水槽4内のアンモニア濃度を許容範囲に維持する。このようにすることで、水槽4内における水生生物2の適正な成育環境を維持できる。
【0027】
図2は、環境機器の制御方法を概略的に表す図である。
図3~
図5は、活性度の推測に用いられるパラメータの相関を表す図である。
図3は、水生生物2の体長と体重との相関を示す。
図4は、体重と酸素消費量との相関を示す。
図5は、体重とアンモニア排出量との相関を示す。各図の相関は、実験的に得られたものである。
【0028】
図2に示すように、本実施形態では、水生生物2の活性度に応じた環境変化量を算出し、その環境変化量に対して水槽4内の環境が適正範囲、つまり設定範囲に維持されるように環境機器30を制御する。ただし、例えばポンプを稼働することで水槽4内の環境は改善されるが電気代が嵩むといったトレードオフがある。そこで、この設定範囲には、環境機器30を不必要に稼働させることなく、水生生物2の育成を効率的に促進できる範囲が予め設定される。
【0029】
まず、水生生物2の活性度ひいてはそれによる環境影響度を推測するために、水槽4内の水生生物2の個体数を特定するとともに個体ごとの体長を計測する。具体的には、撮像部26により水槽4内の水生生物2を撮像する。その撮像画像に基づいて水槽4内に存在する水生生物2の個体数と体長を計測する。
【0030】
ただし、養殖の歩留まりを一定以上に確保するために水槽4内における水生生物2の密度(水槽4の体積に対する水生生物2の個体数の割合)が高くされるため、全ての個体を画像解析で特定するのは容易でない。そこで本実施形態では、水槽4内の一部をサンプリング領域として設定し、そのサンプリング領域の撮像画像に含まれる個体およびその数(個体数)を特定する。そして、画像解析によりその個体ごとの体長を算出する。
【0031】
なお、ここでいう「体長」は、水生生物2の種別に応じて体重との相関が得やすい範囲を適宜設定できる。水生生物2が魚である場合、頭部先端から尾ひれ後端まで(全長)を体長としてもよいし、頭部先端から尾ひれの手前までを体長としてもよい。あるいは、尾叉長や被鱗体長を体長としてもよい。魚種に応じて適宜設定してもよい。
【0032】
続いて、このとき算出された体長を合計し、これを個体数で除算することにより体長の平均値(平均体長)を算出する。この平均体長を水槽4に存在する水生生物2の「体長」として扱う。そして、予め設定した相関関数を用いて体長を体重に換算する。上述した活性度(酸素消費量やアンモニア排出量)と体重との相関が強く、体重を算出することで活性度を推測できるためである。
【0033】
図3に示すように、水生生物2の体長と体重との間には相関(図示の例では二次関数)がある。これを相関関数(「第1相関関数」ともよぶ)として定義しておくことで、体長を体重に換算できる。平均体長を第1相関関数に代入することで平均体重を算出できる。
【0034】
図2に戻り、続いて、算出された平均体重と水槽4内の全個体数に基づいて水槽4全体における酸素消費量とアンモニア排出量(つまり水槽4内の水生生物2の活性度)が算出される。水槽4内の全個体数は、水槽4内の飼育水の体積とサンプリング領域の体積との比(体積比)に基づき、サンプリング領域における合計個体数から換算できる。これらの活性度が水槽4における溶存酸素量やアンモニア濃度などの環境パラメータを変化させる。環境パラメータが適正範囲にある状態からの活性度の変化が環境変化量に影響を与えるためである。
【0035】
図4に示すように、単位重量あたりの単位時間での酸素消費量は、体重との間に相関(図示の例では一次関数)がある。これを相関関数(「第2相関関数」ともよぶ)として定義しておくことで、体重から酸素消費量を算出できる。本実施形態では、水生生物2の平均体重を第2相関関数に代入することで1個体あたりの酸素消費量を算出する。その酸素消費量に水槽4内の全個体数を乗算することにより、水槽4全体における単位時間あたりの酸素消費量を算出する。
【0036】
一方、
図5に示すように、単位重量あたりの単位時間でのアンモニア排出量は、体重との間に相関がある。これを相関関数(「第3相関関数」ともよぶ)として定義しておくことで、体重からアンモニア排出量を算出できる。本実施形態では、水生生物2の平均体重を第3相関関数に代入することで1個体あたりのアンモニア排出量を算出する。そのアンモニア排出量に水槽4内の全個体数を乗算することにより、水槽4全体における単位時間あたりのアンモニア排出量を算出する。
【0037】
図2に戻り、以上のようにして算出された酸素消費量とアンモニア排出量に基づいて環境変化量を算出し、環境パラメータが適正範囲に収まるように環境機器30の制御量を決定する。すなわち、水槽4における酸素消費量に対して溶存酸素量が基準値以上に確保できるよう酸素供給量が算出される。本実施形態では、酸素消費量を入力値として所定の方程式に代入することにより、水槽4への適切な酸素供給量(目標値)が算出できる制御量算出モデルが構築されている。
【0038】
また、水槽4におけるアンモニア排出量に対してアンモニア濃度が許容範囲に収まるよう循環水量が算出される。なお、ろ過槽8にはアンモニアを餌とする微生物が存在する。このため、循環水量を上げてろ過槽8を通る水の量を増やすことで単位時間当たりの硝化量が増やすことができ、アンモニア濃度を下げることができる。本実施形態では、アンモニア排出量を入力値として所定の方程式に代入することにより、ろ過槽8への適切な循環水量(目標値)が算出できる制御量算出モデルが構築されている。
【0039】
図6は、養殖管理装置10の機能ブロック図である。
養殖管理装置10の各構成要素は、CPU(Central Processing Unit)および各種コプロセッサ(Co-processor)などの演算器、メモリやストレージといった記憶装置、それらを連結する有線または無線の通信線を含むハードウェアと、記憶装置に格納され、演算器に処理命令を供給するソフトウェアによって実現される。コンピュータプログラムは、デバイスドライバ、オペレーティングシステム、それらの上位層に位置する各種アプリケーションプログラム、また、これらのプログラムに共通機能を提供するライブラリによって構成されてもよい。以下に説明する各ブロックは、ハードウェア単位の構成ではなく、機能単位のブロックを示している。
【0040】
養殖管理装置10は、入出力インタフェース部110、データ処理部112およびデータ格納部114を含む。入出力インタフェース部110は、外部装置とのデータのやりとりを含む入出力インタフェースに関する処理を担当する。データ処理部112は、入出力インタフェース部110により取得されたデータおよびデータ格納部114に格納されているデータに基づいて各種処理を実行する。データ処理部112は、入出力インタフェース部110およびデータ格納部114のインタフェースとしても機能する。データ格納部114は、各種プログラムと設定データを格納する。
【0041】
入出力インタフェース部110は、入力部120および出力部122を含む。入力部120は画像取得部124を含む。画像取得部124は、撮像部26による撮像画像を取得する。出力部122は、環境機器30に対して制御指令を出力する。
【0042】
データ格納部114は、計測データ格納部140および相関データ格納部142を含む。計測データ格納部140は、データ処理部112により計測されたデータを格納する。相関データ格納部142は、上述した相関関数(
図3~
図5参照)を含む相関データや各制御量算出モデルを格納する。データ格納部114は、データ処理部112が演算処理を行う場合のワーキングエリアとして機能するメモリを含む。
【0043】
データ処理部112は、体長計測部130、個体数計測部132、体重算出部134、活性度推測部136、環境管理部138および制御部139を含む。
体長計測部130は、撮像部26から取得した撮像画像に基づき、上述したサンプリング領域に存在する水生生物2の体長を個体ごとに計測する。
【0044】
個体数計測部132は、その撮像画像に基づき、サンプリング領域に存在する水生生物2の個体数を計測し、これを水槽4全体での個体数に換算する。上述のように、この換算は、サンプリング領域に対応する飼育水の体積と、水槽4内の飼育水の全体積との比(体積比)に基づいて行われる。
【0045】
体長計測部130は、サンプリング領域について計測した個体ごとの体長を合計し、その合計値をサンプリング領域の個体数で除算することにより水生生物2の平均体長を算出する。
【0046】
体重算出部134は、体長と体重との相関に基づき、水生生物2について計測された体長を体重に換算する。すなわち、算出された平均体長を上記第1相関関数に代入することにより平均体重に換算する。
【0047】
活性度推測部136は、算出された体重に基づいて水生生物2の活性度を推測する。すなわち、算出された平均体長を上記第2相関関数に代入することにより1個体あたりの酸素消費量を算出し、その酸素消費量に全個体数を乗算することにより、水槽4における酸素消費量を算出(推測)する。また、平均体長を上記第3相関関数に代入することにより1個体あたりのアンモニア排出量を算出し、そのアンモニア排出量に全個体数を乗算することにより、水槽4におけるアンモニア排出量を算出(推測)する。
【0048】
環境管理部138は、算出された酸素消費量およびアンモニア排出量(水槽4における水生生物2の活性度)に基づいて環境変化量を算出する。
【0049】
制御部139は、環境変化量に応じて環境機器30の制御量を演算し、環境機器30を制御する。すなわち、環境変化量に応じて酸素供給装置22による酸素供給量を制御する。また、環境変化量に応じてポンプ12による水の循環量を制御する。さらに、環境変化量に応じて給餌装置24による給餌量を制御する。なお、ここでいう「給餌量」は、一日当たりの給餌量(供給エネルギー)であって、一回当たりの給餌量を変化させてもよいし、給餌回数を変化させてもよい。餌の種類を変化させてもよい。
【0050】
図7は、養殖管理装置10による計測処理を表すフローチャートである。
以下、養殖管理装置10による計測処理を、
図6に示した各機能を適示しながら説明する。本実施形態では、水槽4における環境変化量を算出するために必要な水生生物2の体長や個体数を事前計測し、その計測データを記憶する。
【0051】
この計測処理においては、まず、画像取得部124が撮像部26による撮像画像を取得する(S10)。個体数計測部132は、その撮像画像のサンプリング領域に含まれる水生生物2の個体を特定し(S12)、その個体数を計測する(S14)。そして、サンプリング領域の個体数から水槽4内の全個体数を推測する(S16)。
【0052】
一方、体長計測部130は、サンプリング領域における個体ごとの体長を計測する(S18)。体長計測部130は、それらの平均値である平均体長を算出する(S20)。体重算出部134は、その平均体長を平均体重に換算する(S22)。これらの算出データは、計測データ格納部140に格納される(S24)。
【0053】
図8は、計測データのデータ構造の例を表す図である。
本実施形態では、上記計測処理が一日に一回の割合で行われるが、計測値のばらつきやエラーを抑制するために、制御量の演算に際しては、数日ごと(例えば三日ごと)の加重平均が用いられる(点線枠、一点鎖線枠参照)。そのため、計測データを取得した日付に対応させるように水生生物2の個体数(全個体数)、平均体長、平均体重などが記憶される。本実施形態では直近の値の比重を高くする加重移動平均が用いられるが、単純移動平均を用いてもよい。
【0054】
図9は、養殖管理装置10による制御処理を表すフローチャートである。
以下、養殖管理装置10による制御処理を、
図6に示した各機能を適示しながら説明する。活性度推測部136は、上述のようにして得られた個体数(全個体数)および平均体重の加重平均を算出する(S30)。その加重平均された個体数および平均体重に基づいて水槽4内における水生生物2の活性度を算出する。すなわち、まず、上述した第2相関関数(
図4)および第3相関関数(
図5)のそれぞれにその平均体重を代入して1個体あたりの酸素消費量およびアンモニア排出量(活性度)を算出する。続いて、それらの算出結果に全個体数を乗算することにより、水槽4における酸素消費量およびアンモニア排出量(活性度)を算出する(S32)。環境管理部138は、水生生物2の活性度に基づいて環境変化量を算出する(S34)。
【0055】
制御部139は、その環境変化量に応じて環境機器30の制御量を演算する(S36)。すなわち、酸素供給量および飼育水の循環水量を算出する。制御部139は、算出した制御量にしたがって環境機器30を制御する(S38)。すなわち、算出された酸素供給がなされるよう酸素供給装置22を制御する。また、算出された水量が循環するようポンプ12等を駆動制御する。必要に応じて給餌量を調整するよう給餌装置24を制御する。
【0056】
以上に説明したように、本実施形態では、水生生物2の体長と体重との相関、体重と活性度との相関を予め取得しておき、これらの相関を用いて水生生物2の活性度を推測する。水生生物2を撮像して体長を計測し、その体長と相関がある体重に換算し、さらにその体重と相関がある活性度を推測することとした。活性度として、水生生物2による酸素消費量やアンモニア排出量が含まれる。
【0057】
本実施形態によれば、撮像部による撮像画像に基づいて体長の計測を行い、体重への換算、活性度の推測といった判断を行うため、溶存酸素量やアンモニア濃度を直接測定するための特殊なセンサを設ける必要がない。このため、養殖システムの構築に要するイニシャルコストを低減できる。
【0058】
また、センサ数を削減することでその管理運用費を抑えることができる。日常的に養殖現場で試薬を用いてアンモニア濃度を測定する必要もないため、遠隔監視にも都合がよく、省人化により人件費を抑えることもできる。水生生物2の活性度に基づいて水槽4内の環境変化量を算出し、必要な循環水量、酸素供給量および最適な給餌量を導くことができる。それにより環境機器30を最適に制御することで、その稼働を必要最小限に抑えることもできる。ポンプを無用に稼働させないことで省電力化を図ることもできる。水生生物2の活性度に基づいて給餌量を最適化することで餌の節約ができ、水質の悪化を防ぐこともできる。これらの結果、養殖システムの稼働に要するランニングコストも低減できる。環境パラメータ管理のための人手を減らすことができ、養殖システムの自動化にも都合がよい。
【0059】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明はその特定の実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術思想の範囲内で種々の変形が可能であることはいうまでもない。
【0060】
[変形例]
水生生物の成長に伴って活性度が変化するのは上述のとおりであるが、一日のライフサイクルの中でも活性度の変化がある。このようなライフサイクルにおける活性度の変化も考慮しつつ綿密な養殖管理を行ってもよい。
【0061】
図10および
図11は、ある魚種の成長と活性度との関係を示す実験結果を表す図である。
図10は、給餌からの時間と酸素消費量との関係を示す。ここでいう「酸素消費量」は、単位重量あたりの単位時間での酸素消費量である。横軸が時間の経過を示し、縦軸が酸素消費量を示す。図中の点線が生後1月以内、一点鎖線が生後1~2月、二点鎖線が生後2~3月、実線が生後3~4月にそれぞれ対応する。
【0062】
本実験によれば、生後間もない時期では給餌後に酸素消費量が顕著に増加すること、生後数か月までは給餌後の酸素消費量の変化は小さくなるが消費量そのものは大きくなること、生後3ヶ月を経過すると単位重量あたりの酸素消費量が下がること、などの傾向が分かる。稚魚のほうが成魚よりも活発で代謝が高いとも考えられる。また、成長過程によって給餌からの時間に対する酸素消費量の増加の度合いが異なる。このような傾向を活性度の推測に反映させてもよい。
【0063】
すなわち、活性度推測部は、水生生物の生後の期間に応じて、給餌時点からの活性度(酸素消費量)の変化を推測してもよい。水生生物の生後の期間に応じた相関関数を取得しておき、養殖期間に応じて相関関数を切り替えてもよい。制御部は、水生生物の生後の期間に応じて、給餌後所定時間の酸素供給量を設定してもよい。
【0064】
図11は、給餌タイミングとアンモニア排出量との関係を示す。横軸が時刻を示し、縦軸がアンモニア排出量を示す。「給餌」は給餌時刻を示す。図中の点線が生後1月以内、一点鎖線が生後1~2月、二点鎖線が生後2~3月、実線が生後3~4月にそれぞれ対応する。
【0065】
本実験によれば、給餌から次の給餌までの間におけるアンモニア排出量の時間変化の傾向が、生後の期間に応じて異なることが分かる。このような傾向を活性度の推測に反映させてもよい。すなわち、活性度推測部は、水生生物の生後の期間に応じて、給餌時点からの活性度(アンモニア排出量)の変化を推測してもよい。水生生物の生後の期間に応じた相関関数を取得しておき、養殖期間に応じて相関関数を切り替えてもよい。制御部は、水生生物の生後の期間に応じて、給餌時刻を基準とした飼育水の循環量を設定してもよい。また、水生生物の生後の期間に応じて給餌量を変化させてもよい。
【0066】
[その他の変形例]
上記実施形態では、撮像部26としてカメラを採用する例を示した。変形例においては超音波センサなど、水生生物の個体を特定可能であり、その体長を計測可能な他の撮像部を採用してもよい。あるいは、撮像画像の画像解析による計測ではなく、超音波やレーザを用いて水生生物の体長を計測してもよい。
【0067】
上記実施形態では、水槽4に設定したサンプリング領域の水生生物2を撮像してその個体数を計測し、その個体数を水槽4の全個体数に換算した。そして、サンプリング領域の水生生物2の平均体重に全個体数を乗算することで、水槽4内の水生生物2の総体重を算出した。変形例においては、サンプリング領域の水生生物2の個体数と平均体重からサンプリング領域における合計体重を算出し、その合計体重を水槽4内の水生生物2の総体重に換算してもよい。
【0068】
上記実施形態では、水槽4に設定したサンプリング領域の水生生物2を撮像して活性度を推測し、水槽4の全体に換算する例を示した。体長についてもサンプリング領域の平均体長を算出して平均体重を算出する例を示した。変形例においては、平均値をとることなく水槽内の水生生物の全個体を特定し、各個体の活性度をそれぞれ推測して積算してもよい。その場合、サンプリング領域の設定は不要となる。より高精細なカメラなどを利用することで実現できる。
【0069】
具体的には、各個体の体長を計測して体重に換算し、それらの総和を総体重としてもよい。また、個体ごとに活性度を推測し、それらを積算して水槽全体の活性度してもよい。このように全個体について個別に計測するようにすれば、水槽内で複数種の水生生物を養殖する場合にもトータルの活性度を正確に推測できる。
【0070】
上記実施形態では、水生生物の平均体重と個体数に基づいて水槽内の水生生物の活性度を推測し、その活性度に基づいて環境変化量を算出する例を示した。すなわち、算出された平均体重を第2相関関数(
図4)および第3相関関数(
図5)のそれぞれに代入して1個体あたりの活性度を算出した。そして、算出された活性度に水槽内の全個体数を乗算することで、水槽内の水生生物の活性度を算出した。変形例においては、水生生物の平均体重と個体数に基づいて水槽内における水生生物の総体重を算出し、その総体重を第2相関関数および第3相関関数のそれぞれに代入することにより、水槽内の水生生物の活性度を算出してもよい。
【0071】
上記実施形態では、サンプリング領域の飼育水の体積と、水槽4全体の飼育水の体積との比に基づき、サンプリング領域の個体数を水槽4全体での個体数に換算する例を示したが、単純な体積比での換算が困難な場合も想定される。例えば、体積比では小さいが、個体数では大きな割合で密集しいている領域が存在し、その領域をサンプリング領域として利用する可能性が考えられる。このような場合には、その体積比に所定の係数をかけるなどして換算を行ってもよい。この係数については、実験等に基づいて設定できる。
【0072】
上記実施形態では述べなかったが、ろ過槽8におけるアンモニアの分解に際しても酸素が消費されるため、ろ過槽8にも酸素供給装置(第2の酸素調整装置)を設けてもよい。
【0073】
上記実施形態では、水生生物の活性度として酸素消費量およびアンモニア排出量を例示したが、二酸化炭素排出量を含めてもよい。
【0074】
上記実施形態では述べなかったが、水生生物2の成長に応じて水槽内の飼育密度が変わるため、その飼育密度の大きさによっては分槽を行う必要が生じる。ここでいう「飼育密度」は、例えば水槽内の飼育水の体積に対する水生生物の総体重として定義できる。あるいは、水槽内の飼育面積に対する水生生物の総体重として定義してもよい。総体重は、水槽における水生生物の平均体重と全個体数に基づいて算出することができる。この飼育密度を考慮して環境パラメータの適正範囲を設定してもよい。
【0075】
上記実施形態では、養殖管理装置10を閉鎖循環式陸上養殖に適用する例を示したが、かけ流し方式の陸上養殖に適用してもよい。その場合、飼育水は循環ではなく、海や川などから適宜換水されることになる。生簀は上記実施形態のように水槽であってもよいし、陸上に設けた溜池のようなものでもよい。生簀に存在する水生生物を撮像して体長を計測し、体長を体重に換算して活性度を推測してもよい。その活性度に基づいて飼育水の換水量や換水頻度を制御することで、上記実施形態と同様の効果(コスト低減効果)を得ることができる。
【0076】
あるいは、飼育水を循環させつつその一部を換水させる半循環式の陸上養殖に適用してもよい。水生生物の活性度に基づいて飼育水の換水量、換水頻度、換水割合(生簀の水量に対する換水量の割合)を制御することで、上記実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0077】
かけ流し方式や半循環式を採用する場合、水生生物の活性度に水温変化などの季節要因が影響することがある。例えば水温が低くなることで、活性度が低下する可能性がある。このため、季節要因をパラメータに含めて体重と酸素消費量との相関、体重とアンモニア排出量との相関を取得しておくとよい。
【0078】
上記実施形態では、水槽4に飼育水を常時循環させることを前提とし、「循環水量」として循環水の流量(流速)を例示した。変形例においては、予め設定した時間あるいは時間間隔で飼育水を循環させてもよい。つまり、飼育水を間欠的に循環させてもよい。その場合、所定時間内に流れる循環水のトータルの量を「循環水量」としてもよい。
【0079】
上記実施形態では、水生生物2の体長を体重に換算した後、その体重に基づいて活性度(酸素消費量やアンモニア排出量)を算出する構成を例示した。変形例においては、体長と体重との相関があること、体重と活性度との相関があることを前提に、中間パラメータである体重への換算を省略し、体長に基づいて活性度を推測してもよい。体長と体重との相関関数と、体重と活性度との相関関数とを重畳的に結び付けた第4相関関数を用いることで実現できる。第4相関関数は、体長を入力すれば活性度を出力する関数である。
【0080】
上記実施形態では、酸素調整装置として酸素供給装置22を例示した。変形例においては、水槽に酸素調整装置としてエアレーション等を設け、それらの出力を制御することで溶存酸素濃度を調整してもよい。
【0081】
上記実施形態では、撮像画像に基づいて水槽4内の水生生物2の個体数を計測する例を示した。変形例においては、個体数は既知であるとして処理してもよい。養殖を開始する時点で水槽に入れた水生生物の個体数が多く、養殖過程において病死などで減少する個体数を無視できるような場合、当初に把握した個体数を水槽における全個体数と仮定する。その場合、個体数計測部は不要となる。また、個体数や体長の測定は撮像装置に限らず、目視カウントやメジャーを当てた目視の計測でも可能である。
【0082】
ある飼育条件での減耗量(斃死割合、生残率、等)が把握できている場合は、池入れした数から適宜差し引く演算を加え、現状の個体数を微調整してもよい。また、実際に魚を掬い上げてカウントしてもよい。
【0083】
上記実施形態では、制御部139を養殖管理装置10の一機能として例示したが、制御装置として養殖管理装置とは別に独立させてもよい。その場合、制御装置は、養殖管理装置から受け取り管理情報に基づいて制御を実行する。
【0084】
上記実施形態では述べなかったが、アンモニアは水生生物の排泄物や残餌など有機物から発生するほか、代謝によって体内で産生されたアンモニアはエラから排出される。これらのアンモニアを考慮して給餌量を制御したり、水槽の清掃頻度を調整してもよい。
【0085】
上記実施形態では、水性生物の活性度として酸素消費量およびアンモニア排出量を推測する例を示した。変形例においては、撮像画像に基づき、水性生物の活性度として水性生物の活きの良さや健康状態そのものを推測してもよい。それらにより水生生物の品質や価値を評価してもよい。水生生物の新鮮さや美味さを推測してもよい。水性生物の活性度が基準値以上に保てるよう環境機器を制御してもよい。
【0086】
上記実施形態では述べなかったが、水生生物の撮像画像に基づいて、水生生物の活性度を機械学習モデルにより推測してもよい。具体的には、上述したデータ処理部がさらに学習部を含む。学習段階においては、ユーザが、活性度が既知の水生生物とその撮像画像を教師データとして機械学習モデルに入力する。まず、ある水生生物X1の活性度をA、B、Cの3ランクのいずれかに分類しておく。水生生物X1の活性度は、ユーザが目視で判断してもよいし、酸素あるいはアンモニアを検出可能なセンサによる計測値に基づいて判定されてもよい。ユーザは、水生生物X1の撮像画像を入力データ、水生生物X1の活性度を出力データとして機械学習モデルに読み込ませる。多数の水生生物についての教師データを機械学習モデルに読み込ませることで、学習部は、機械学習モデルの内部パラメータを調整しておく。
【0087】
学習後、画像取得部は、活性度を知りたい水生生物Y1の撮像画像を取得し、その撮像画像を機械学習モデルに入力データとして与える。活性度推測部は、この入力データに基づく機械学習モデルの出力により水生生物Y1の活性度を推測する。このような制御方法によれば、生簀で泳ぐ水生生物の撮像画像を機械学習モデルに読み込ませることで、水生生物の健康状態を簡易に判定できるため、陸上養殖における水生生物の管理負担が軽減される。
【0088】
なお、本発明は上記実施形態や変形例に限定されるものではなく、要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化することができる。上記実施形態や変形例に開示されている複数の構成要素を適宜組み合わせることにより種々の発明を形成してもよい。また、上記実施形態や変形例に示される全構成要素からいくつかの構成要素を削除してもよい。
【符号の説明】
【0089】
1 養殖管理システム、2 水生生物、4 水槽、6 循環路、8 ろ過槽、10 養殖管理装置、12 ポンプ、14 泡沫分離装置、16 脱窒槽、18 ポンプ、20 ポンプ、22 酸素供給装置、24 給餌装置、26 撮像部、30 環境機器、110 入出力インタフェース部、112 データ処理部、114 データ格納部、120 入力部、122 出力部、124 画像取得部、130 体長計測部、132 個体数計測部、134 体重算出部、136 活性度推測部、138 環境管理部、139 制御部、140 計測データ格納部、142 相関データ格納部。
【要約】
【課題】養殖管理に要するコストを低減するための装置を提供する。
【解決手段】ある態様は、生簀における水生生物の養殖を管理する養殖管理装置10である。養殖管理装置10は、水生生物の体長を計測する体長計測部と、計測された体長に基づいて水生生物の活性度を推測する活性度推測部と、を備える。
【選択図】
図2