(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-06
(45)【発行日】2023-09-14
(54)【発明の名称】摩擦攪拌接合用ツール及び摩擦攪拌接合方法
(51)【国際特許分類】
B23K 20/12 20060101AFI20230907BHJP
【FI】
B23K20/12 344
B23K20/12 360
(21)【出願番号】P 2022565674
(86)(22)【出願日】2022-04-07
(86)【国際出願番号】 JP2022017227
(87)【国際公開番号】W WO2022215720
(87)【国際公開日】2022-10-13
【審査請求日】2022-10-26
(31)【優先権主張番号】P 2021065978
(32)【優先日】2021-04-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】523194617
【氏名又は名称】NTKカッティングツールズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【氏名又は名称】内藤 和彦
(73)【特許権者】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【氏名又は名称】内藤 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】110000497
【氏名又は名称】弁理士法人グランダム特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】竹内 雄基
(72)【発明者】
【氏名】茂木 淳
(72)【発明者】
【氏名】竹内 裕貴
(72)【発明者】
【氏名】勝 祐介
(72)【発明者】
【氏名】原 康
(72)【発明者】
【氏名】藤井 英俊
(72)【発明者】
【氏名】森貞 好昭
【審査官】山内 隆平
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/047376(WO,A1)
【文献】特開2016-132004(JP,A)
【文献】特開2011-011235(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第104646820(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 20/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ショルダ部と、前記ショルダ部の底面に設けられたプローブ部とを有する摩擦攪拌接合用ツールであって、
窒化珪素又はサイアロンを主相とするセラミックスを基材としており、
前記ショルダ部の直径は35mm以上
50mm以下であり、
前記ショルダ部の直径に対する前記プローブ部の根元の直径の比率は0.30以上0.67以下である摩擦攪拌接合用ツール。
【請求項2】
前記ショルダ部の直径に対する前記プローブ部の高さの比率は0.5以下である請求項1に記載の摩擦攪拌接合用ツール。
【請求項3】
TiNからなる被覆層を有する請求項1または2に記載の摩擦攪拌接合用ツール。
【請求項4】
前記プローブ部には、前記ショルダ部の底面に向かって拡がる裾領域が設けられ、
前記裾領域は、前記プローブ部における前記裾領域以外の領域と比較して外径の高さに対する拡大割合が大きくなる領域を有し、
前記プローブ部の中心軸を含む断面において、前記裾領域の外形線には、前記中心軸を対称軸とし、かつ下記条件(1)及び(2)を満たす直線部が少なくとも一対現れるように、前記裾領域が構成されている請求項1または2に記載の摩擦攪拌接合用ツール。
条件(1):前記断面において、前記直線部を含む直線と前記プローブ部における前記裾領域以外の領域の外形線を含む直線との交点と、前記プローブ部における前記裾領域以外の領域の外形線を含む一対の直線と前記ショルダ部の底面を含む直線とが交わる2点を通る直線との距離は、前記プローブ部の高さの12%以上55%以下である。
条件(2):一対の前記直線部間のテーパ角度が60°以上160°以下である。
【請求項5】
請求項1または2に記載の摩擦攪拌接合用ツールによって、厚さが15mm以上の板材を接合する摩擦攪拌接合方法。
【請求項6】
前記プローブ部には、前記ショルダ部の底面に向かって拡がる裾領域が設けられ、
前記裾領域は、前記プローブ部における前記裾領域以外の領域と比較して外径の高さに対する拡大割合が大きくなる領域を有し、
前記プローブ部の中心軸を含む断面において、前記裾領域の外形線には、前記中心軸を対称軸とし、かつ下記条件(1)及び(2)を満たす直線部が少なくとも一対現れるように、前記裾領域が構成されている請求項3に記載の摩擦攪拌接合用ツール。
条件(1):前記断面において、前記直線部を含む直線と前記プローブ部における前記裾 領域以外の領域の外形線を含む直線との交点と、前記プローブ部における前記裾領域以外 の領域の外形線を含む一対の直線と前記ショルダ部の底面を含む直線とが交わる2点を通る直線との距離は、前記プローブ部の高さの12%以上55%以下である。
条件(2):一対の前記直線部間のテーパ角度が60°以上160°以下である。
【請求項7】
請求項3に記載の摩擦攪拌接合用ツールによって、厚さが15mm以上の板材を接合する摩擦攪拌接合方法。
【請求項8】
請求項4に記載の摩擦攪拌接合用ツールによって、厚さが15mm以上の板材を接合する摩擦攪拌接合方法。
【請求項9】
請求項
6に記載の摩擦攪拌接合用ツールによって、厚さが15mm以上の板材を接合する摩擦攪拌接合方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、摩擦攪拌接合用ツール及び摩擦攪拌接合方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、金属材料の接合方法として、摩擦攪拌接合(FSW:Friction Stir Welding)が知られている。摩擦攪拌接合は、回転ツールと被接合材の間で生じる摩擦熱及び加工発熱を用いて材料を軟化させ、回転ツールの回転力により生じる塑性流動を利用して接合を行う固相接合法である。
【0003】
特許文献1に開示される摩擦攪拌接合ツールは、ショルダ部を有する本体部と、本体部の底面に設けられたプローブ部と、を備えている。裏板と裏板の上に配置された被接合材とを接合する際に、回転させた摩擦攪拌接合ツールを被接合材の表面側から圧入して、ショルダ部を被接合材に接触させる。被接合材に塑性流動が生じ、裏板と被接合材とが接合される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
摩擦攪拌接合は、Al(アルミニウム)やMg(マグネシウム)等の比較的融点が低く塑性変形抵抗の小さい金属薄板の接合に対して実用段階にある。摩擦攪拌接合は、さらに鋼板などの比較的融点が高い金属材料で形成され、厚みのある板材の接合等への適用が求められている。したがって、摩擦攪拌接合用ツールは、十分な発熱量(入熱量)を生じさせる構成が求められている。
本開示は、上記実情に鑑みてなされたものであり、逃げる熱を小さくしつつ発熱量を大きくし得る摩擦攪拌接合用ツール及び摩擦攪拌接合方法を提供することを目的とする。本開示は、以下の形態として実現することが可能である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
〔1〕ショルダ部と、前記ショルダ部の底面に設けられたプローブ部とを有する摩擦攪拌接合用ツールであって、
窒化珪素又はサイアロンを主相とするセラミックスを基材としており、
前記ショルダ部の直径は35mm以上である摩擦攪拌接合用ツール。
【0007】
〔2〕前記ショルダ部の直径に対する前記プローブ部の高さの比率は0.5以下である〔1〕に記載の摩擦攪拌接合用ツール。
【0008】
〔3〕前記ショルダ部の直径に対する前記プローブ部の根元の直径の比率は0.67以下である〔1〕または〔2〕に記載の摩擦攪拌接合用ツール。
【0009】
〔4〕TiNからなる被覆層を有する〔1〕から〔3〕のいずれか一つに記載の摩擦攪拌接合用ツール。
【0010】
〔5〕前記プローブ部には、前記ショルダ部の底面に向かって拡がる裾領域が設けられ、
前記裾領域は、前記プローブ部における前記裾領域以外の領域と比較して外径の高さに対する拡大割合が大きくなる領域を有し、
前記プローブ部の中心軸を含む断面において、前記裾領域の外形線には、前記中心軸を対称軸とし、かつ下記条件(1)及び(2)を満たす直線部が少なくとも一対現れるように、前記裾領域が構成されている〔1〕から〔4〕のいずれか一つに記載の摩擦攪拌接合用ツール。
条件(1):前記断面において、前記直線部を含む直線と前記プローブ部における前記裾領域以外の領域の外形線を含む直線との交点と、前記プローブ部における前記裾領域以外の領域の外形線を含む一対の直線と前記ショルダ部の底面を含む直線とが交わる2点を通る直線との距離は、前記プローブ部の高さの12%以上55%以下である。
条件(2):一対の前記直線部間のテーパ角度が60°以上160°以下である。
【0011】
〔6〕〔1〕から〔5〕のいずれか一つに記載の摩擦攪拌接合用ツールによって、厚さが15mm以上の板材を接合する摩擦攪拌接合方法。
【発明の効果】
【0012】
本開示の摩擦攪拌接合用ツールは、ショルダ部の直径を35mm以上とすることで、発熱量(入熱量)を大きくできる。ショルダ部の直径を35mm以上とすることで、摩擦攪拌接合用ツールから逃げる熱の増大が懸念される。そこで、摩擦攪拌接合用ツールの基材が熱伝導率の比較的小さい窒化珪素又はサイアロンを主相とするセラミックスとしているため、摩擦攪拌接合用ツールから逃げる熱を小さくできる。
ショルダ部の直径に対するプローブ部の高さの比率が0.5以下である場合には、プローブ部のサイズが比較的小さくなり、摩擦攪拌接合用ツールが折損し難くなる。
ショルダ部の直径に対するプローブ部の根元の直径の比率が0.67以下である場合には、プローブ部の根元の直径を比較的に小さくでき、接合時のバリの発生を抑制することができる。ひいては、摩擦攪拌接合用ツールを用いた接合時の接合強度を高められる。
TiNからなる被覆層を有する場合には、摩擦攪拌接合用ツールの耐摩耗性を向上できる。
プローブ部にショルダ部の底面に向かって拡がる裾領域が設けられ、裾領域以外の領域と比較して裾領域の外径の高さに対する拡大割合が大きくなる場合には、プローブ部とショルダ部のつなぎ目部分に肉盛りすることができ、耐摩耗性を向上できる。また、プローブ部の中心軸を含む断面において、裾領域の外形線に中心軸を対称軸とした直線部が少なくとも一対現れるように裾領域が構成され、上記断面において、直線部を含む直線とプローブ部における裾領域以外の領域の外形線を含む直線との交点と、プローブ部における裾領域以外の領域の外形線を含む一対の直線とショルダ部の底面を含む直線とが交わる2点を通る直線との距離が、プローブ部の高さの12%以上55%以下であり(条件(1))、一対の直線部間のテーパ角度が60°以上160°以下である場合(条件(2))には、次の効果が生じる。裾領域によってプローブ部の径が大きくなる部分が増えすぎることなく、ツールを動かす接合装置への負荷を抑制できるとともに、ショルダ部の底面が小さくなりすぎず、流動素材を抑え込みやすくなる。
摩擦攪拌接合用ツールを用いて、厚さが15mm以上の板材を接合する本開示の摩擦攪拌接合方法である場合、接合が難しい厚さが15mm以上の板材の接合を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】第1実施形態の摩擦攪拌接合用ツールの一例を示す斜視図である。
【
図2】
図1の摩擦攪拌接合用ツールの側面図である。
【
図3】
図1の摩擦攪拌接合用ツールの側断面図である。
【
図4】
図1とは異なる形状の摩擦攪拌接合用ツールの側断面図である。
【
図5】
図1、
図4とは異なる形状の摩擦攪拌接合用ツールの側断面図である。
【
図6】
図1の摩擦攪拌接合用ツールの使用状態を説明する斜視図である。
【
図7】第2実施形態の摩擦攪拌接合用ツールの一例を示す斜視図である。
【
図8】
図7に示す摩擦攪拌接合用ツールの一部を拡大して示す拡大図である。
【
図9】他の実施形態の摩擦攪拌接合用ツールの一例を示す斜視図である。
【
図10】他の実施形態の摩擦攪拌接合用ツールの一例を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、更に詳しく説明する。なお、本明細書において、数値範囲について「~」を用いた記載では、特に断りがない限り、下限値及び上限値を含むものとする。例えば、「10~20」という記載では、下限値である「10」、上限値である「20」のいずれも含むものとする。すなわち、「10~20」は、「10以上20以下」と同じ意味である。
【0015】
1.第1実施形態
(1)摩擦攪拌接合用ツール
図1は、第1実施形態の摩擦攪拌接合用ツール1の一例を示している。摩擦攪拌接合用ツール1は、
図1に示すように、本体部3と、プローブ部5と、を備えている。本体部3は、ショルダ部7を有している。プローブ部5は、ショルダ部7の底面(上底面)に設けられている。
【0016】
プローブ部5の直径は、ショルダ部7の底面(上底面)からプローブ部5の先端に向かって連続的に減少している。プローブ部5のテーパ角度は例えば10°とすることができるが、本発明の効果を損なわない限りにおいて特に限定されない。プローブ部5は、溝加工や面取り加工等が施されていないことが好ましい。もちろん、プローブ部5の直径は、ショルダ部7の底面(上底面)からプローブ部5のおよそ先端まで均一であってもよい。
【0017】
摩擦攪拌接合用ツール1は、窒化珪素又はサイアロンを主相とするセラミックスを基材としている。摩擦攪拌接合用ツール1の基材である窒化珪素又はサイアロンを主相とするセラミックスは、本発明の効果を損なわない限りにおいて特に限定されず、従来公知の種々の窒化珪素系セラミックス又はサイアロン系セラミックスとすることができる。なお、摩擦攪拌接合用ツール1は、焼結助剤を含んでも構わない。
【0018】
摩擦攪拌接合用ツール1は、被覆層(図示略)を備えることが好ましい。具体的には、プローブ部5及び/又はショルダ部7の表面が被覆層で被覆されることが好ましい。被覆層は、例えばPVDやCVD等によって形成された硬質膜である。被覆層は、TiNからなることが好ましい。
【0019】
図3は、
図1、
図2に示す摩擦攪拌接合用ツール1において、中心軸を含む平面で切断した断面を示している。
図3に示す摩擦攪拌接合用ツール1では、ショルダ部7の直径は、
図3に示す断面において、ショルダ部7の底面(上底面)の延長線と本体部3の側面(母線)の延長線とが交わる点P11,P12間の距離L11である。
図4、
図5は、
図3とは異なる形状の摩擦攪拌接合用ツール1における、
図3と同様の断面図である。
図4に示す摩擦攪拌接合用ツール1では、ショルダ部7Aは、外周から内周に向かうにつれて、プローブ部5の先端側に隆起している。ショルダ部7Aの直径は、
図4に示す断面において、ショルダ部7Aの底面(上底面)と、本体部3の側面(母線)とが交わる点P21,P22間の距離L21である。
図5に示す摩擦攪拌接合用ツール1では、ショルダ部7Bは、外周から内周に向かうにつれて、プローブ部5の先端と反対側に窪んでいる。ショルダ部7Bの直径は、
図5に示す断面において、ショルダ部7Bの底面(上底面)と、本体部3の側面(母線)とが交わる点P31,P32間の距離L31である。
【0020】
ショルダ部7の直径は、発熱量を大きくする観点から、35mm以上であり、37mm以上が好ましく、42mm以上がより好ましい。ショルダ部7の直径は、熱が逃げることを抑制する観点から、50mm以下であり、45mm以下が好ましい。これらの観点から、ショルダ部7の直径は、35mm以上50mm以下であり、37mm以上45mm以下が好ましく、42mm以上45mm以下がより好ましい。
【0021】
図3に示す摩擦攪拌接合用ツール1において、プローブ部5の高さは、
図3に示す断面において、プローブ部5の直線部分の母線の延長線と、ショルダ部7の底面(上底面)の延長線とが交わる点をP13,P14としたとき、点P13,P14を通る直線とプローブ部5の先端(頂点)との距離(最短距離)L12である。
図4に示す摩擦攪拌接合用ツール1では、プローブ部5の高さは、
図4に示す断面において、プローブ部5の直線部分の母線の延長線と、ショルダ部7Aの底面(上底面)の延長線とが交わる点をP23,P24としたとき、点P23,P24を通る直線とプローブ部5の先端(頂点)との距離(最短距離)L22である。
図5に示す摩擦攪拌接合用ツール1では、プローブ部5の高さは、
図5に示す断面において、プローブ部5の直線部分の母線の延長線と、ショルダ部7Bの底面(上底面)の延長線とが交わる点をP33,P34としたとき、点P33,P34を通る直線とプローブ部5の先端(頂点)との距離(最短距離)L32である。
【0022】
ショルダ部7の直径に対するプローブ部5の高さの比率は、ツールの折損を抑制する観点から、0.5以下が好ましく、0.45以下がより好ましく、0.40以下が更に好ましい。ショルダ部7の直径に対するプローブ部5の高さの比率は、欠陥の発生を抑制する観点から、0.20以上が好ましく、0.30以上がより好ましく、0.35以上が更に好ましい。これらの観点から、ショルダ部7の直径に対するプローブ部5の高さの比率は、0.20以上0.5以下が好ましく、0.30以上0.45以下がより好ましく、0.35以上0.40以下が更に好ましい。
【0023】
図3に示す摩擦攪拌接合用ツール1において、プローブ部5の根元の直径は、
図3に示す断面において、プローブ部5の直線部分の母線の延長線と、ショルダ部7の底面(上底面)の延長線とが交わる点P13,P14間の距離L13である。
図4に示す摩擦攪拌接合用ツール1では、プローブ部5の根元の直径は、
図4に示す断面において、プローブ部5の直線部分の母線の延長線と、ショルダ部7Aの底面(上底面)の延長線とが交わる点P23,P24間の距離L23である。
図5に示す摩擦攪拌接合用ツール1では、プローブ部5の根元の直径は、
図5に示す断面において、プローブ部5の直線部分の母線の延長線と、ショルダ部7Bの底面(上底面)の延長線とが交わる点P33,P34間の距離L33である。
【0024】
ショルダ部7の直径に対するプローブ部5の根元の直径の比率は、バリの発生を抑制する観点から、0.67以下が好ましく、0.60以下がより好ましく、0.50以下が更に好ましい。ショルダ部7の直径に対するプローブ部5の根元の直径の比率は、プローブ部5の強度を確保する観点から、0.30以上が好ましく、0.40以上がより好ましい。これらの観点から、ショルダ部7の直径に対するプローブ部5の根元の直径の比率は、0.30以上0.67以下が好ましく、0.40以上0.60以下がより好ましく、0.40以上0.50以下が更に好ましい。
【0025】
(2)摩擦攪拌接合方法
図6は、第1実施形態の摩擦攪拌接合用ツール1を用いた摩擦攪拌接合方法の一例を示す説明図である。摩擦攪拌接合用ツール1は、図示しない接合装置に取り付けられて使用される。摩擦攪拌接合用ツール1のプローブ部5は、接合装置からの加圧を受けて、被接合部材11、12の境界である接合線WLへ回転しながら押し込まれる。その後、プローブ部5が被接合部材11、12に押し込まれた状態のまま、被接合部材11、12は、
図6において白抜きの矢印で示す方向に摩擦攪拌接合用ツール1に対して相対的に移動する。これにより、摩擦攪拌接合用ツール1は、接合線WLに沿って相対的に移動する。被接合部材11、12は、鋼の板材を用いることができるが、鋼に代えて他の任意の金属を用いてもよい。被接合部材11、12の接合線WL付近は、プローブ部5との間の摩擦熱によって塑性流動する。被接合部材11、12の塑性流動した部分をプローブ部5が攪拌することにより、接合領域WAが形成される。この接合領域WAによって、被接合部材11、12が互いに結合される。
【0026】
(3)効果
摩擦攪拌接合は、融点が比較的低く塑性変形抵抗が小さいAl(アルミニウム)やMg(マグネシウム)では実用段階にある。しかしながら、融点が比較的高く、厚みの大きい鋼板への適用には課題が残っている。例えば、特開2020-142293号公報には、鋼板の接合に関する摩擦攪拌接合方法が開示されている。この摩擦攪拌接合方法では、鋼板の厚みが10mm以下に限られており、用途は限定的である。実際に、特開2020-142293号公報に開示された摩擦攪拌接合用ツールを用いて、厚みが15mmの鋼板を実用的な接合速度(50mm/min)で接合したところ、接合状態は不十分であった。厚鋼板を欠陥なく接合するためには、プローブを長くすることが考えられるが、折損するリスクが高まる。そのため、摩擦攪拌接合用ツールの強度を高めることが求められている。
【0027】
摩擦攪拌接合用ツールの折損の理由の1つは、摩擦熱が不十分であり、鋼板が十分に軟化しない状態で摩擦攪拌接合用ツールが移動するためと考えられる。これにより、摩擦攪拌接合用ツール(特にプローブ部)に応力が掛かるため、鋼板への入熱量が重要となる。入熱量は、下記(1)式に示すように、撹拌部の圧力P(N/m3)、ツール回転数N(s-1)、ショルダ部の直径R(m)の3乗に比例する。(2)式は、(1)式を変換したものである。μは摩擦係数であり、Lは荷重(N)である。
【0028】
【0029】
【0030】
撹拌部の圧力Pやツール回転数Nは、接合状態、ツールの摩耗、接合装置への負荷に大きな影響を与えるため、代わりに、ショルダ部の直径を大きくすることが有効である。そこで、第1実施形態の摩擦攪拌接合用ツール1は、ショルダ部7の直径を35mm以上とし、発熱量(入熱量)を大きくする。ショルダ部7の直径を大きくすることで、入熱量が大きくなり、実用的な接合速度であっても鋼板が十分に軟化する。そのため、摩擦攪拌接合用ツール1に生じる応力が小さくなり、摩擦攪拌接合用ツール1の折損を抑制した上で接合が可能となる。
【0031】
ショルダ部7の直径を比較的大きい値(35mm以上)とすることで、摩擦攪拌接合用ツール1から逃げる熱の増大が懸念される。しかし、摩擦攪拌接合用ツール1の基材が熱伝導率の比較的小さい窒化珪素又はサイアロンを主相とするセラミックスとしているため、摩擦攪拌接合用ツール1から逃げる熱を小さくできる。
【0032】
なお、摩擦攪拌接合用ツール1から逃げる熱を小さくために、摩擦攪拌接合用ツール1を構成する基材は、熱伝導率が33W/m・K以下であることが好ましく、23W/m・K以下であることがより好ましく、18W/m・K以下であることが更に好ましい。
【0033】
第1実施形態の摩擦攪拌接合用ツール1において、ショルダ部7の直径に対するプローブ部5の高さの比率が0.5以下である。このような構成によって、プローブ部5のサイズが比較的小さくなり、摩擦攪拌接合用ツール1が折損し難くなる。
【0034】
第1実施形態の摩擦攪拌接合用ツール1において、ショルダ部7の直径に対するプローブ部5の根元の直径の比率が0.67以下である。このような構成によって、プローブ部5の根元の直径を比較的に小さくでき、接合時のバリの発生を抑制することができる。ひいては、摩擦攪拌接合用ツール1を用いた接合時の接合強度を高められる。
【0035】
第1実施形態の摩擦攪拌接合用ツール1は、TiNからなる被覆層を有する。このような構成によって、摩擦攪拌接合用ツール1の耐摩耗性を向上できる。
【0036】
第1実施形態の摩擦攪拌接合方法は、摩擦攪拌接合用ツール1を用いて、厚さが15mm以上の板材を接合する。このような構成によって、接合が難しい厚さが15mm以上の板材の接合を実現できる。
【0037】
<実施例>
実施例により、第1実施形態を更に具体的に説明する。
【0038】
(1)摩擦攪拌接合用ツール
実施例1~2及び比較例1の摩擦攪拌接合用ツールの基材には、「サイアロン相」と「粒界相」とを含む材料を用いた。「サイアロン相」は、αサイアロン、及びSi6-ZAlZOZN8-Zで表されるβサイアロンを含む。Zの値は、0.2以上0.7以下である。「粒界相」は、結晶粒と結晶粒の境界が現れている部分である。
【0039】
実施例1~2及び比較例1の摩擦攪拌接合用ツールの形状に関するパラメータは、以下の表1に示す。実施例1の摩擦攪拌接合用ツールのショルダ部の直径は37.5mmであった。実施例2の摩擦攪拌接合用ツールのショルダ部の直径は42.5mmであった。比較例1の摩擦攪拌接合用ツールのショルダ部の直径は30.0mmであった。
【0040】
【0041】
(2)接合条件
実施例1~2及び比較例1の摩擦攪拌接合用ツールを用いて、15mm厚の鋼板(低炭素鋼)に対して摩擦攪拌接合を行った。2枚の鋼板の境界(突合せ面)に対する接合を行った。摩擦攪拌接合用ツールの回転数は200rpmであり、接合速度は50mm/minであり、前進角は1°であった。
【0042】
(3)結果
表1に結果を併記し、これについて検討する。
実施例1~2は、下記要件(a)を満たしている。比較例1は、下記要件(a)を満たしていない。
・要件(a):ショルダ部の直径が35mm以上である。
【0043】
実施例1は、要件(a)を満たすことで、ツール折損が生じることなく、表面欠陥なしに500mmの接合を行えた。実施例2は、要件(a)を満たすことで、ツール折損が生じることなく、表面欠陥なしに900mmの接合を行えた。一方で、比較例1は、要件(a)を満たさず、500mmまでの接合後、ツールの一部が破損した。以上の結果は、実施例1~2の方が、特に実施例2の方が、比較例1よりも鋼板に対する入熱量が大きかったためと考えられる。
【0044】
(4)実施例の効果
実施例1~2により、15mm厚の鋼板の接合が可能となり、産業用途が拡大した。
【0045】
2.第2実施形態
(1)摩擦攪拌接合用ツール
図7は、第2実施形態の摩擦攪拌接合用ツール201の一例を示している。
図7は、摩擦攪拌接合用ツール201において、中心軸Cを含む平面で切断した断面を示している。摩擦攪拌接合用ツール201は、
図7に示すように、本体部203と、プローブ部205と、を備えている。本体部203は、ショルダ部207を有している。プローブ部205は、ショルダ部207の底面(上底面)に設けられている。
【0046】
プローブ部205の直径は、ショルダ部207の底面(上底面)からプローブ部205の先端に向かって連続的に減少している。プローブ部205は、溝加工や面取り加工等が施されていないことが好ましい。
【0047】
プローブ部205は、裾領域205Aと、先端側領域205Bと、を含んでいる。裾領域205Aは、プローブ部205における基端側(本体部203側)に設けられている。裾領域205Aは、ショルダ部207の底面(上底面)に向かって拡がっている。裾領域205Aは、先端側からショルダ部207の底面に向かうにつれて外径が次第に大きくなる略円錐台形状をなしている。
【0048】
先端側領域205Bは、裾領域205A以外の領域である。先端側領域205Bは、プローブ部205における裾領域205Aよりも上端側に設けられている。先端側領域205Bは、先端側からショルダ部207の底面に向かうにつれて外径が次第に大きくなり、先端が丸みを帯びた略円錐台形状をなしている。
【0049】
裾領域205Aは、プローブ部205における先端側領域205Bと比較して外径の高さに対する拡大割合が大きくなっている。
【0050】
図7に示す断面において、裾領域205Aの外形線には、中心軸Cを対称軸とした直線部205Lが一対現れている。直線部205Lは、下記条件(1)及び(2)を満たしている。
条件(1):中心軸Cを含む平面で切断した断面(
図7に示す断面)において、直線部205Lを含む直線L1とプローブ部205における裾領域205A以外の領域(先端側領域205B)の外形線を含む直線L2との交点P1と、プローブ部205における裾領域以外の領域(先端側領域205B)の外形線を含む一対の直線L2とショルダ部207の底面(上底面)を含む直線L3とが交わる2点(点P213,P214)を通る直線L4との間の距離は、プローブ部205の高さの12%以上55%以下である。
条件(2):一対の直線部205L間のテーパ角度が60°以上160°以下である。
【0051】
条件(1)において、プローブ部205の高さは、
図7に示す断面において、プローブ部205の先端側領域205Bの母線の延長線(外形線を含む直線)L2と、ショルダ部207の底面(上底面)の延長線L3とが交わる点をP213,P214としたとき、点P213,P214を通る直線L4とプローブ部205の先端(頂点)との距離(最短距離)L212である。直線部205Lを含む直線L1と先端側領域205Bの外形線を含む直線L2との交点P1と、点P213,P214を通る直線L4との間の距離(最短距離)を、距離L212Aとする。距離L212に対する距離L212Aの割合は、12%以上55%以下であり、15%以上45%以下が好ましく、17%以上41%以下が更に好ましい。
【0052】
条件(2)において、一対の直線部205L間のテーパ角度θは、相交わる2つの直線部205Lの延長線の広がり角度である。直線部205L間のテーパ角度は、プローブ部205における先端側領域205Bの割合が小さくなり過ぎないようにする観点から、60°以上であり、70°以上が好ましく、80°以上がより好ましい。直線部205L間のテーパ角度は、ショルダ部207の底面(上底面)が小さくなり過ぎないようにする観点から、160°以下であり、155°以下が好ましく、150°以下がより好ましい。これらの観点から、直線部205L間のテーパ角度は、60°以上160°以下であり、70°以上155°以下が好ましく、80°以上150°以下がより好ましい。
【0053】
摩擦攪拌接合用ツール201では、ショルダ部207の直径は、
図7に示す断面において、ショルダ部207の底面(上底面)の延長線L3と本体部203の側面(母線)の延長線とが交わる点P211,P212間の距離L211である。
図7に示す断面において、直線部205Lを含む直線L1と、ショルダ部207の底面(上底面)の延長線L3とが交わる点をP2とする。点P2と中心軸Cとの距離は、L211Aである。ショルダ部207の半径(距離L211×1/2)に対する距離L211Aの割合は、50%以上90%以下であり、53%以上88%以下が好ましく、53%以上86%以下が更に好ましい。
【0054】
図8は、
図7における右側の裾領域205Aの直線部205L及びその周辺を拡大して示す拡大図である。
図8に示す断面において、裾領域205Aの外形線には、直線部205Lの両側につなぎ部205C,205Dが設けられている。つなぎ部205Cは、直線部205Lの上端と先端側領域205Bの下端との間に設けられている。つなぎ部205Cは、直線部205Lと先端側領域205Bとを滑らかにつなぐように円弧状になっている。つなぎ部205Dは、直線部205Lの下端とショルダ部207の底面(上底面)との間に設けられている。つなぎ部205Dは、直線部205Lとショルダ部207の底面(上底面)とを滑らかにつなぐように円弧状になっている。なお、205C,205Dは、曲率が一定の円弧状でなくてもよい。
図7における左側の裾領域205Aも、同様につなぎ部205C,205Dが設けられている。
【0055】
図8を用いて裾領域205Aにおいて直線部205Lが設けられる範囲について説明する。
図8に示す断面において、点P1(直線部205Lを含む直線L1と先端側領域205Bの外形線を含む直線L2との交点)の位置を原点Aとし、水平方向(中心軸Cに直交する方向)で外側(中心軸Cとは反対側)に向かう座標を設定する。この座標における、点P2(直線部205Lを含む直線L1と、ショルダ部207の底面(上底面)の延長線L3とが交わる点)の位置をBとする。AからBまでの距離を100%としたとき、座標における直線部205Lが設けられる範囲Raは、摩擦攪拌接合用ツール201の耐摩耗性を向上させるとともに折損を抑制する観点から、20%以上90%以下が好ましく、25%以上80%以下がより好ましく、30%以上80%以下が更に好ましい。
【0056】
摩擦攪拌接合用ツール201は、第1実施形態の摩擦攪拌接合用ツール1と同様の材料によって構成されている。摩擦攪拌接合用ツール201は、第1実施形態と同様の構成の被覆層(図示略)を備えることが好ましい。
【0057】
ショルダ部207の直径は、発熱量を大きくする観点から、35mm以上であり、37mm以上が好ましく、42mm以上がより好ましい。ショルダ部207の直径は、熱が逃げることを抑制する観点から、50mm以下であり、49mm以下が好ましく、48mm以下がより好ましい。これらの観点から、ショルダ部207の直径は、35mm以上50mm以下であり、37mm以上49mm以下が好ましく、42mm以上48mm以下がより好ましい。
【0058】
ショルダ部207の直径に対するプローブ部205の高さの比率は、ツールの折損を抑制する観点から、0.50以下が好ましく、0.40以下がより好ましく、0.35以下が更に好ましい。ショルダ部207の直径に対するプローブ部205の高さの比率は、欠陥の発生を抑制する観点から、0.15以上が好ましく、0.18以上がより好ましく、0.20以上が更に好ましい。これらの観点から、ショルダ部207の直径に対するプローブ部205の高さの比率は、0.15以上0.50以下が好ましく、0.18以上0.40以下がより好ましく、0.20以上0.35以下が更に好ましい。
【0059】
摩擦攪拌接合用ツール201において、プローブ部205の根元の直径は、
図7に示す断面において、プローブ部205の直線部分の母線の延長線と、ショルダ部207の底面(上底面)の延長線L3とが交わる点P213,P214間の距離L213である。
【0060】
ショルダ部207の直径に対するプローブ部205の根元の直径の比率は、バリの発生を抑制する観点から、0.67以下が好ましく、0.60以下がより好ましく、0.50以下が更に好ましい。ショルダ部207の直径に対するプローブ部205の根元の直径の比率は、プローブ部205の強度を確保する観点から、0.30以上が好ましく、0.32以上がより好ましく、0.35以上が更に好ましい。これらの観点から、ショルダ部207の直径に対するプローブ部205の根元の直径の比率は、0.30以上0.67以下が好ましく、0.32以上0.60以下がより好ましく、0.35以上0.50以下が更に好ましい。
【0061】
ショルダ部207の直径が35mm以上50mm以下であり、ショルダ部207の直径に対するプローブ部205の高さの比率が0.20以上0.35以下であり、ショルダ部207の直径に対するプローブ部205の根元の直径の比率が0.35以上0.50以下であることが好ましい。
【0062】
(2)摩擦攪拌接合方法
第2実施形態の摩擦攪拌接合用ツール201を用いた摩擦攪拌接合方法は、第1実施形態の摩擦攪拌接合用ツール1を用いた摩擦攪拌接合方法と同様である。
【0063】
(3)効果
第2実施形態の摩擦攪拌接合用ツール201は、第1実施形態の摩擦攪拌接合用ツール1と同様の効果を奏し、さらに以下の効果を奏する。
プローブ部205にショルダ部207の底面(上底面)に向かって拡がる裾領域205Aが設けられ、先端側領域205Bと比較して裾領域205Aの外径の高さに対する拡大割合が大きくなる構成であるため、プローブ部205とショルダ部207のつなぎ目部分に肉盛りでき、耐摩耗性を向上できる。また、プローブ部205の中心軸Cを含む断面において、裾領域205Aの外形線に中心軸Cを対称軸とした直線部205Lが少なくとも一対現れるように裾領域205Aが構成され、上記断面において、直線部205Lを含む直線L1と先端側領域205Bの外形線を含む直線L2との交点P1と、プローブ部205の裾領域以外の領域(先端側領域205B)の外形線を含む一対の直線L2とショルダ部207の底面(上底面)を含む直線L3とが交わる2点(点P213,P214)を通る直線L4との距離が、プローブ部205の高さの12%以上55%以下であり(条件(1))、一対の直線部205L間のテーパ角度が60°以上160°以下である場合(条件(2))には、次の効果が生じる。裾領域205Aによってプローブ部205の径が大きくなる部分が増えすぎることなく、ツールを動かす接合装置への負荷を抑制できるとともに、ショルダ部207の底面が小さくなりすぎず、流動素材を抑え込みやすくなる。
【0064】
<実施例>
実施例により、第2実施形態を更に具体的に説明する。
【0065】
(1)摩擦攪拌接合用ツール
実施例1~10及び比較例1の摩擦攪拌接合用ツールの基材には、「サイアロン相」と「粒界相」とを含む材料を用いた。「サイアロン相」は、αサイアロン、及びSi6-ZAlZOZN8-Zで表されるβサイアロンを含む。Zの値は、0.2以上0.7以下である。「粒界相」は、結晶粒と結晶粒の境界が現れている部分である。
【0066】
実施例1~10及び比較例1の摩擦攪拌接合用ツールの形状に関するパラメータは、以下の表2に示す。実施例6~10の摩擦攪拌接合用ツールのプローブ部の裾領域には、一対の直線部が設けられていた。
【0067】
実施例6~10において、プローブ部の高さに対する、直線部を含む直線とプローブ部における裾領域以外の領域(先端側領域)の外形線を含む直線との交点と、プローブ部における裾領域以外の領域(先端側領域)の外形線を含む一対の直線とショルダ部の底面(上底面)を含む直線とが交わる2点を通る直線との間の距離の割合(プローブ部における裾領域の高さ割合)は、それぞれ50%、32%、23%、23%、17%であった。
実施例6~10において、ショルダ部の半径に対する、直線部を含む直線とショルダ部の底面(上底面)の延長線とが交わる点と中心軸との距離の割合は、それぞれ55%、55%、62%、82%、86%であった。
【0068】
【0069】
(2)接合条件
実施例1~10及び比較例1の摩擦攪拌接合用ツールを用いて、15mm厚の鋼板(低炭素鋼)に対して摩擦攪拌接合を行った。2枚の鋼板の境界(突合せ面)に対する接合を行った。摩擦攪拌接合用ツールの回転数は200rpmであり、接合速度は50mm/minであり、前進角は1°であった。
【0070】
(3)結果
表2に結果を併記し、これについて検討する。
実施例1~10は、下記要件(a)を満たしている。比較例1は、下記要件(a)を満たしていない。
・要件(a):ショルダ部の直径が35mm以上である。
【0071】
実施例1~10は、要件(a)を満たすことで、ツール折損が生じることなく、表面欠陥なしに500mm~2000mmの接合を行えた。一方で、比較例1は、要件(a)を満たさず、500mmまでの接合後、ツールの一部が破損した。以上の結果は、実施例1~10の方が、比較例1よりも鋼板に対する入熱量が大きかったためと考えられる。
【0072】
実施例6~10は、下記要件(b)(c)を満たしている。実施例1~5、比較例1は、下記要件(b)(c)を満たしていない。
・要件(b):プローブ部の中心軸を含む断面において、直線部を含む直線とプローブ部における裾領域以外の領域の外形線を含む直線との交点と、プローブ部における裾領域以外の領域の外形線を含む一対の直線とショルダ部の底面(上底面)を含む直線とが交わる2点を通る直線との間の距離が、プローブ部の高さの12%以上55%以下である。
・要件(c):一対の直線部間のテーパ角度が60°以上160°以下である。
【0073】
実施例6~10は、要件(b)(c)を満たすことで、900mm以上の接合を行えた。一方で、実施例1~5、比較例1は、要件(b)(c)を満たさず、900mm以下の接合を行えた。以上の結果は、実施例6~10の方が、特に実施例7,8の方が、プローブ部に要件(b)(c)を満たす裾領域を設けたことで、実施例1~5、比較例1よりも摩擦攪拌接合用ツールの摩耗耐性が効率良く向上したためと考えられる。
【0074】
(4)実施例の効果
実施例1~10により、15mm厚の鋼板の接合が可能となり、産業用途が拡大した。実施例1~10により、PCBNを用いたツールに比べて安価に摩擦攪拌接合用ツールを提供できるようになった。
【0075】
3.他の実施形態
本開示は上記で詳述した実施形態に限定されず、様々な変形又は変更が可能である。
上記第2実施形態の摩擦攪拌接合用ツールとは異なり、裾領域に複数対の直線部が設けられていてもよい。例えば、
図9に示す摩擦攪拌接合用ツール301の断面(プローブ部205の中心軸Cを含む断面)のように、裾領域205Aに、二対の直線部(直線部305L1,305L2)が設けられていてもよい。摩擦攪拌接合用ツールは、複数対の直線部のうち少なくとも一対の直線部(
図9では例えば直線部305L2)が、上記条件(1)(2)を満たせばよい。
【0076】
上記第2実施形態の摩擦攪拌接合用ツールでは、プローブ部の裾領域に直線部が設けられていたが、裾領域の形状はこれに限定されない。例えば、プローブ部の裾領域は、プローブ部の中心軸を含む断面において、裾領域の外形線には、中心軸を対称軸とした円弧部が少なくとも一対現れるように、裾領域が構成されていてもよい。この円弧部は、プローブ部とショルダ部の底面とに接する円の一部である。例えば、
図10に示す摩擦攪拌接合用ツール401の断面(プローブ部405の中心軸Cを含む断面)のように、裾領域405Aの外形線には、中心軸Cを対称軸とした円弧部405Rが一対現れるように、裾領域405Aが構成されていてもよい。円弧部405Rは、プローブ部405とショルダ部207の底面(上底面)とに接する円(
図10の一点鎖線で示す円)の一部である。
【0077】
図10に示す摩擦攪拌接合用ツール401において、円弧部405Rの曲率半径は、耐摩耗性の向上、及びツール折損の抑制の観点から、2mm以上12mm以下が好ましく、3mm以上11mm以下がより好ましく、4mm以上10mm以下が更に好ましい。
【0078】
上記第2実施形態の摩擦攪拌接合用ツールにおいて、プローブ部の形状は、
図7に示す形状以外に、
図4、
図5に示すように、中心軸Cに対して傾斜する形状であってもよい。
【符号の説明】
【0079】
1…摩擦攪拌接合用ツール
3…本体部
5…プローブ部
7…ショルダ部
201…摩擦攪拌接合用ツール
203…本体部
205…プローブ部
205A…裾領域
205B…先端側領域(裾領域以外の領域)
205L…直線部
207…ショルダ部
301…摩擦攪拌接合用ツール
305L1,305L2…直線部
401…摩擦攪拌接合用ツール
405…プローブ部
405A…裾領域
405R…円弧部