(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-07
(45)【発行日】2023-09-15
(54)【発明の名称】角質中のセラミドの測定方法
(51)【国際特許分類】
G01N 33/50 20060101AFI20230908BHJP
G01N 33/48 20060101ALI20230908BHJP
G01N 33/15 20060101ALI20230908BHJP
【FI】
G01N33/50 Q
G01N33/50 D
G01N33/48 S
G01N33/15 Z
(21)【出願番号】P 2019179308
(22)【出願日】2019-09-30
【審査請求日】2022-08-16
(31)【優先権主張番号】P 2019036022
(32)【優先日】2019-02-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000186588
【氏名又は名称】小林製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124431
【氏名又は名称】田中 順也
(74)【代理人】
【識別番号】100174160
【氏名又は名称】水谷 馨也
(74)【代理人】
【識別番号】100175651
【氏名又は名称】迫田 恭子
(72)【発明者】
【氏名】浅田 尚紀
(72)【発明者】
【氏名】山村 達郎
(72)【発明者】
【氏名】小森園 正彦
(72)【発明者】
【氏名】表迫 真美
【審査官】下村 一石
(56)【参考文献】
【文献】特開昭63-113358(JP,A)
【文献】特開2012-206971(JP,A)
【文献】国際公開第2018/043636(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2005/0191709(US,A1)
【文献】国際公開第2018/228576(WO,A1)
【文献】特開2008-076249(JP,A)
【文献】特表2007-514951(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48-33/98
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明基材と、前記透明基材上に積層された接着性層とを含む角質採取具を用いて付着採取させた角質検体を、前記角質採取具に付着した状態で偏光顕微鏡観察に供し、偏光顕微鏡像の白光を測定する工程を含む、角質中のセラミドの測定方法。
【請求項2】
前記接着性層がエラストマーを含む、請求項1に記載の角質中のセラミドの測定方法。
【請求項3】
前記接着性層中の構成樹脂が
、合成ゴム及び/又は天然ゴム
のみである、または合成ゴム及び/又は天然ゴムと合成ゴム及び天然ゴム以外の他の樹脂とを含み、合成ゴム及び天然ゴム以外の他の樹脂の含有量は、合成ゴム及び天然ゴムの合計量100重量部に対して1重量部以下である、請求項1又は2に記載の角質中のセラミドの測定方法。
【請求項4】
前記透明基材が、合成樹脂のキャスト基材又は無機基材である、請求項1~3のいずれかに記載の角質中のセラミドの測定方法。
【請求項5】
前記透明基材の材料が、セルロースエステル及び熱可塑性ポリウレタンからなる群より選択される、請求項1~3のいずれかに記載の角質中のセラミドの測定方法。
【請求項6】
透明基材と、前記透明基材上に積層された接着性層とを含み、
前記透明基材及び前記接着性層が積層されている部分のリタデーションが20nm以下であり、偏光顕微鏡下で角質中のセラミドを測定するために用いられる、角質採取具。
【請求項7】
前記接着性層がエラストマーを含む、請求項6に記載の角質採取具。
【請求項8】
前記接着性層中の構成樹脂が
、合成ゴム及び/又は天然ゴム
のみである、または合成ゴム及び/又は天然ゴムと合成ゴム及び天然ゴム以外の他の樹脂とを含み、合成ゴム及び天然ゴム以外の他の樹脂の含有量は、合成ゴム及び天然ゴムの合計量100重量部に対して1重量部以下である、請求項6又は7に記載の角質採取具。
【請求項9】
前記透明基材が、合成樹脂のキャスト基材又は無機基材である、請求項6~8のいずれかに記載の角質採取具。
【請求項10】
前記透明基材の材料が、セルロースエステル及び熱可塑性ポリウレタンからなる群より選択される、請求項6~8のいずれかに記載の角質採取具。
【請求項11】
請求項1~4のいずれかに記載のセラミドの測定方法を行う工程と、
得られたセラミド測定結果に基づいて、顧客の肌状態に応じた化粧品を選択する工程とを含む、化粧品の選択方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、角質中のセラミドの測定方法、及びその測定方法に用いられる角質採取具に関する。
【背景技術】
【0002】
皮膚状態を客観的に評価するための手法が種々開発されており、化粧品研究、化粧品販売、皮膚科又はエステティックサロンにおける問診等に適用されている。
【0003】
皮膚状態を評価する方法の例として、生体の皮膚表面に対し非接触的又は接触的に分析機器を用いて測定する方法が挙げられる。例えば、小型カメラを用いて皮膚表面の組織を拡大観察し、キメやシワなどの皮膚表面形状を評価する方法、皮膚に電極を接触させて電気抵抗から水分量を測定する方法が挙げられる。
【0004】
また、肌状態を評価する方法の他の例として、テープストリッピングで採取した角質(角層)を用いる方法が挙げられる。例えば、角層が皮膚内部の状態を反映しているという考えのもと、採取した角層について、角層形状の評価、角層細胞の組織学的評価、角層バリア能の評価(非特許文献1~3)、角層剥離パターンの数量化に基づく保湿状態の評価(非特許文献4)等を行う方法が挙げられる。また、採取した角層から炎症性サイトカイン(IL-1α)を抽出単離し、その定量結果に基づいて肌質を評価する方法(特許文献1)も挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【非特許文献】
【0006】
【文献】Skin Res. Technol., 8, 98-105 (2002)
【文献】Int. J. Cosmet. Sci., 36, 167-174 (2014)
【文献】Int. J. Cosmet. Sci., 36, 231-238 (2014)
【文献】J. Soc. Cosmet. Chem. Japan. Vol. 32, No. 1, 33-42(1998)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
これまでの皮膚状態を評価する方法のうち、生体の皮膚表面に対し非接触的又は接触的に分析機器を用いて測定する方法は、簡便である点で好ましい。しかし、このような方法は物理的な情報から皮膚の状態を間接的に推定するものであり、皮膚の状態を正確に評価することは困難である。
【0008】
また、テープストリッピングで採取した角質を用いる方法において、特許文献1~4に記載されるような方法も、簡便である点で好ましい。しかし、このような方法は採取した角質の外形的情報を基礎とした情報から皮膚の状態を間接的に推定するものであり、やはり、皮膚の状態を正確に評価することは困難である。
【0009】
一方、テープストリッピングで採取した角質を用いる方法において、特許文献1に記載されるような方法は、角質に含まれる成分を直接的に測定するため、皮膚の状態を正確に評価することができる点で好ましい。しかし、このような方法では、角質に含まれる成分を定量するために角質から当該成分を抽出単離する必要があり、非常に手間がかかる。
【0010】
仮に、角質に含まれる成分を抽出単離することなく測定しようとした場合、テープストリッピングで粘着層に付着した状態の角質に対し、当該成分と特異的に反応する試薬を加え、さらに反応生成物と特異的に反応するシグナル試薬を加え、シグナル強度に基づいて当該成分を定量するという方法が考えられる。しかしながらこの方法は、試薬が必要である点、複雑な反応系を構築しなければならない点で、到底簡易であるとは言えない。また、複雑な反応系を構築させる割に試料自体が生体組織そのものであることから、所定の反応を起こすためには、予め、余分な細胞成分又は細胞間成分に対する前処理が更に必要となることも考えられる。そうすると、このような方法は簡便さから一層遠のくこととなる。
【0011】
そこで本発明は、皮膚の状態を直接的に且つ簡便に測定できる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、皮膚のバリア機能の主役となるセラミドが光学異方性を有していることに着目し、テープストリッピングで採取した角質をそのまま偏光顕微鏡で観察するという斬新な発想に至った。さらに、角質の偏光顕微鏡像において観察される、セラミドに由来する白光の多寡が、実際のセラミド含有量に相関することを見出した。本発明は、この知見に基づいてさらに検討を重ねることにより完成したものである。
【0013】
即ち、本発明は、下記に掲げる態様の発明を提供する。
項1. 透明基材と、前記透明基材上に積層された接着性層とを含む角質採取具を用いて付着採取させた角質検体を、前記角質採取具に付着した状態で偏光顕微鏡観察に供し、偏光顕微鏡像の白光を測定する工程を含む、角質中のセラミドの測定方法。
項2. 前記接着性層がエラストマーを含む、項1に記載の角質中のセラミドの測定方法。
項3. 前記接着性層中の構成樹脂が、実質的に合成ゴム及び/又は天然ゴムからなる、項1又は2に記載の角質中のセラミドの測定方法。
項4. 前記透明基材が、合成樹脂のキャスト基材又は無機基材である、項1~3のいずれかに記載の角質中のセラミドの測定方法。
項5. 前記透明基材の材料が、セルロースエステル及び熱可塑性ポリウレタンからなる群より選択される、項1~3のいずれかに記載の角質中のセラミドの測定方法。
項6. 透明基材と、前記透明基材上に積層された接着性層とを含み、偏光顕微鏡下で角質中のセラミドを測定するために用いられる、角質採取具。
項7. 前記接着性層がエラストマーを含む、項6に記載の角質採取具。
項8. 前記接着性層中の構成樹脂が、実質的に合成ゴム及び/又は天然ゴムからなる、項6又は7に記載の角質採取具。
項9. 前記透明基材が、合成樹脂のキャスト基材又は無機基材である、項6~8のいずれかに記載の角質採取具。
項10. 前記透明基材の材料が、セルロースエステル及び熱可塑性ポリウレタンからなる群より選択される、項6~8のいずれかに記載の角質採取具。
項11. 項1~4のいずれかに記載のセラミドの測定方法を行う工程と、
得られたセラミド測定結果に基づいて、顧客の肌状態に応じた化粧品を選択する工程とを含む、化粧品の選択方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、皮膚の状態(具体的には角質に含まれるセラミドの多寡)を直接的に且つ簡便に測定できる技術が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【発明を実施するための形態】
【0016】
1.角質中のセラミドの測定方法
本発明の角質中のセラミドの測定方法は、所定の角質採取具を用いて付着採取させた角質検体を、角質採取具に付着した状態で偏光顕微鏡観察に供し、偏光顕微鏡像の白光を測定する工程を含むことを特徴とする。以下、本発明の角質中のセラミドの測定方法について詳述する。
【0017】
角質採取具
角質採取具は、透明基材と、前記透明基材上に積層された接着性層とを含む。透明基材は接着性層を保持し、接着性層は表面に角質を付着させることで、生体表皮からの角質採取を可能にする。角質採取具は、透明基材及び接着性層以外に、他の層が積層されていてもよい。また、透明基材及び接着性層は、それぞれ単層であってもよいし、複層であってもよい。
【0018】
接着性層は、透明基材の表面全体に積層されていてもよいし、透明基材の表面の一部に積層されていてもよい。透明基材上で接着性層が占める面積としては特に限定されないが、セラミドの測定が容易となる必要十分の角質を採取する観点から、例えば1.0~50.0cm2が挙げられる。接着性層が透明基材の表面の一部に積層される場合、接着性層が積層されていない透明基材の部分は、角質採取具の把持部及び/又は角質を採取する対象に関する情報の記録欄として用いることができる。
【0019】
透明基材の形状としては、接着性層を保持できる限りにおいて特に限定されず、例えば、平板状(硬質基材)及びシート状(軟質基剤)が挙げられる。
【0020】
透明基材の材料としては、透光性を有するものであれば特に限定されず、角質中のセラミドを偏光顕微鏡下で測定可能とすることを損なわない程度の光学的特性を有するものが適宜選択される。具体的な光学的特性としては、具体的には、セラミドよりも低複屈折であること、より好ましくは光学等方性であることが挙げられる。これによって、角質に付着した角質が偏光下に供された場合に、白光強度の大きいシグナルを角質中のセラミドとして容易に認識することができる。
【0021】
このような光学的特性の観点から、透明基材の材料の好ましい例としては、合成樹脂のキャスト基材及び無機基材が挙げられる。これらの基剤の中でも、入手容易性及びハンドリング容易性の観点から、好ましくは合成樹脂のキャスト基材が挙げられる。
【0022】
合成樹脂のキャスト基材は、合成樹脂の配向が起らないように成形された基材をいう。合成樹脂の配向自体が起らないように成形する方法としては公知である。例えば平板状基材を作製する場合は、射出成形において、樹脂の溶融温度を上げる、及び/又は、金型内部で溶融樹脂を比較的高い温度で保つ時間を長くする等の手法により作製することができる。また、シート状基材を作製する場合は、樹脂を溶媒に溶解して得られた樹脂溶液を基板上に展開し、溶媒を乾燥除去すること(溶液流延製膜法)により作製することができる。
【0023】
透明基材の材料となる合成樹脂の具体的な例としては、例えば、ポリカーボネート、アクリル系樹脂(好ましくは、ポリメチルメタクリレート)、セルロースエステル、環状オレフィンコポリマー、熱可塑性ポリウレタン(TPU)等が挙げられる。また、セルロースエステルとしては、トリアセチルセルロース(TAC)、ジアセチルセルロース(DAC)、セルロースアセテートプロピオネート(CAP)、セルロースアセテートブチレート(CAB)、セルロースアセテートフタレート、セルロースアセテートトリメリテート、硝酸セルロース等が挙げられる。これらの合成樹脂は、1種を単独で、又は複数種を組み合わせて用いることができる。
【0024】
これらの合成樹脂の中でも、低複屈折性によりセラミド測定の感度を良好に確保する観点から、好ましくはセルロースエステル及び熱可塑性ポリウレタン(TPU)が挙げられ、より好ましくはセルロースエステルが挙げられ、更に好ましくはトリアセチルセルロース(TAC)が挙げられる。
【0025】
無機基材としては、それ自体が光学等方性を有する材料が特に限定されることなく選択され、具体的には、ガラス、石英、塩化ナトリウム結晶等が挙げられ、入手容易性及びハンドリング容易性の観点から、好ましくはガラスが挙げられる。
【0026】
透明基材の厚みとしては特に限定されず、材料が有する複屈折性にもよるが、取扱い性及び低リタデーションによるセラミド測定の感度をより良好に確保する観点から、例えば0.005~5mm、好ましくは0.01~3mm、より好ましくは0.05~1mmが挙げられる。また、透明基材の材料が合成樹脂である場合は、透明基材の厚みは、さらに好ましくは0.05~0.5mm、一層好ましくは0.07~0.12mmが挙げられ透明基材が無機基材である場合は、透明基材の厚みは、さらに好ましくは0.5~1mm、一層好ましくは0.8~1mmが挙げられる。
【0027】
接着性層の材料としては特に限定されず、透光性であり、角質中のセラミドを偏光顕微鏡下で測定可能とすることを損なわない程度の光学的特性を有するものが適宜選択される。接着性層は、樹脂及び溶剤を含む接着性樹脂組成物で構成される。
【0028】
接着性層中の構成樹脂、つまり接着性樹脂組成物中に含まれる樹脂としては、例えば、合成ゴム及び天然ゴム等のエラストマー、変性シリコーン樹脂、ウレタン樹脂、アクリル系樹脂、酢酸ビニル樹脂、エチレン酢酸ビニル樹脂等が挙げられる。これらの樹脂は、1種を単独で、又は複数種を組み合わせて用いることができる。
【0029】
これらの樹脂の中でも、透光性の観点から、好ましくは、エラストマー、変性シリコーン、ウレタン樹脂が挙げられる。また、低複屈折性の観点から、好ましくは、エラストマー、アクリル系樹脂が挙げられる。つまり、透光性及び低複屈折性の観点から、好ましくはエラストマーが挙げられ、より好ましくは合成ゴム及び天然ゴムが挙げられる。より具体的には、合成ゴムとしては、スチレンブタジエンゴム、ブタジエンゴム、イソプレンゴム、アクリルゴム、クロロプレンゴム、二トリルゴム、ブチルゴム、シリコーンゴム、変性シリコーンゴム、ウレタンゴムが挙げられ、好ましくは、スチレンブタジエンゴムが挙げられる。さらに、接着性層中の構成樹脂としてエラストマーが含まれている場合、透光性の観点から、構成樹脂は、実質的に合成ゴム及び/又は天然ゴムからなることがより好ましい。構成樹脂が実質的に合成ゴム及び/又は天然ゴムからなるとは、構成樹脂が合成ゴム及び/又は天然ゴムのみを含むことと、合成ゴム及び天然ゴム以外の他の樹脂が含まれる場合にあっては、他の樹脂が、合成ゴム及び天然ゴムによる透光性及び低屈折率性に影響を与えない程度の量(例えば、合成ゴム及び天然ゴムの合計量100重量部に対して1重量部以下、好ましくは0.1重量部以下)で含まれることと含む意である。
【0030】
接着性層中の構成溶媒、つまり接着性樹脂組成物中の溶媒としては特に限定されず、例えば、シクロヘキサン、n-ヘキサン、n-ヘプタン、アセトン、酢酸ブチル、石油ナフサ、ゴム揮発油、水等が挙げられ、好ましくは、シクロヘキサン、n-ヘキサン、n-ヘプタン、アセトン、石油ナフサ、ゴム揮発油が挙げられる。
【0031】
接着性層の厚みとしては特に限定されないが、ストリッピングによる角質採取を容易にし、かつ、良好な透光性を備える観点から、例えば0.1~1.2mm、好ましくは0.3~0.8mm、より好ましくは0.4~0.6mmが挙げられる。
【0032】
更に、角質採取具は、偏光顕微鏡測定に供される部分(つまり、透明基材及び接着性層が積層されている部分)のリタデーションが、低複屈折性によりセラミド測定の感度を良好に確保する観点から、好ましくは200nm以下、より好ましくは100nm以下、更に好ましくは50nm以下、一層好ましくは20nm以下、特に好ましくは5nm以下、最も好ましくは1nm以下が挙げられる。本発明においてリタデーションとは面内リタデーションを意味しており、具体的には、523、543、及び575nmの波長それぞれを用いて上記部分の面方向のリタデーションイメージングを行い、1cm2の範囲内のリタデーション面分布におけるリタデーションの平均値MR525nm、MR543nm、MR575nmを求め、更に、平均値MR525nm、MR543nm、MR575nmの平均値を求めることで得られる。リタデーション測定は、例えばWPA-200(フォトニックラティス社製複屈折計測装置)を用いて測定することができる。なお、本発明において、リタデーションは小さければ小さいほど好ましいため、その下限値としては特に限定されず、好ましくは、1以下が挙げられる。上記のようにして得られるリタデーションが1以下の小さな値となる場合、測定誤差に鑑みると、リタデーションはほぼ0であるとみなすことができる。
【0033】
角質採取具を作製する方法としては特に限定されない。例えば、基材の片面に接着性層を構成するための接着性樹脂組成物を塗布し、乾燥させた後、所定の大きさに分割することで作製することができる。
【0034】
角質検体の付着採取
角質の採取法としては、角質採取具の接着性層に角質を付着させることができれば、どのような方法であってもよい。通常、角質採取具の接着性層を皮膚表面に貼って剥がすことで、角質を容易に剥がす(ストリッピング)ことができる。このようにして、角質検体を付着採取することができる。
【0035】
偏光顕微鏡観察
本発明の角質中のセラミドの測定方法においては、採取した角質中のセラミドを抽出単離することを行わず、角質採取具に付着した状態で直接、偏光顕微鏡観察に供する。生体内のセラミドはラメラ構造を有しているため、偏光顕微鏡像において、角質中のセラミドは白光シグナルを呈する。このため、白光シグナルを測定することで、角質中のセラミドを測定することができる。このように、本発明では、採取した角質から測定対象成分を抽出単離することなく、さらに、測定対象成分に対する反応試薬もシグナル試薬も用いないため、極めて簡便な測定が可能である。
【0036】
角質中のセラミドの定量
セラミドに由来する白光シグナル強度は、実際のセラミド含有量と良好に相関している。従って、白光シグナル強度の多寡に基づいて、角質中のセラミドを定量することができる。セラミドの定量を行うために、偏光顕微鏡像において、白光シグナルの数量化を行うことができる。
【0037】
白光シグナルの数量化を行う方法の一例として、偏光顕微鏡像をグレースケール化し、ピクセルごとに付される0(暗)~255(明)の輝度Lkを積算した値(Σ[k=0→
255]Lk)をセラミド含有量の相対値として得る方法が挙げられる。この場合、閾値法等で画像処理して白色シグナル部分を抽出選択し、抽出選択された白色シグナル部分のピクセルにおける輝度を積算することができる。白色強度が高いほど、積算値が高くなるため、このようにして得られるセラミド含有量の相対値は、実際のセラミド含有量と相関する。
【0038】
また、白光シグナルの数量化を行う方法の他の例として、偏光顕微鏡像をグレースケール化し、ピクセルごとに付される0(暗)~255(明)の輝度Lkと、それぞれの輝度を呈するピクセルの数Pとを掛け合わせ、LkとPとの積をすべての輝度について積算した値(Σ[k=0→255]Lk・P)(以下において、CIA: Ceramides Index of A
mountと記載する場合がある。)を、セラミド含有量の相対値として得る方法も挙げられる。白色強度が高いほど、輝度が高いピクセルが多く存在することで積算値が高くなるため、このようにして得られるセラミド含有量の相対値は、実際のセラミド含有量と相関する。
【0039】
これらのセラミド含有量の相対値を、実際にHPLC等の生理学的測定法で定量した結果に基づく検量線と突き合わせることで、当該生理学的測定法で定量した場合に想定されるセラミド含有量に換算することができる。
【0040】
セラミドは、皮膚のバリア機能の主役を担っている。本発明は、角質中のセラミドの多寡を直接的に評価できるため、皮膚の状態の評価に利用することもできる。
【0041】
皮膚の状態を評価する方法としては、例えば、定量された白光シグナル量を剥離角質量で除することで算出される、剥離角質量当たりの白色シグナル強度を利用する方法が挙げられる。剥離角質量のパラメータとしては、既存のDIA:Desquamation Index of Amount(J. Soc. Cosmet. Chem. Japan. Vol. 32, No. 1, 33-42(1998))を用いることができる。さらに、剥離角質量当たりの白色シグナル強度に対応させた水分蒸散値(TEWL値)のモデルデータを予め作成しておき、剥離角質量当たりの白色シグナル強度の算出結果を当該モデルデータに当てはめることで、皮膚の水分蒸散値(TEWL値)を予測し、皮膚の状態の評価に利用することができる。さらに、剥離角質量当たりの白色シグナル強度が0.00以上0.03未満では「×」(皮膚状態が悪い)、0.03以上0.05未満では「△」(皮膚状態が普通)、0.05以上では「○」(皮膚状態が良好)といったように評価することができる。
【0042】
なお、本発明においては、セラミド量について上述のような具体的な定量値を得る場合だけでなく、セラミド量の具体的な定量値を得ず単にセラミド量の多寡の評価を行う場合も含まれる。セラミド量の多寡の評価は、セラミドに由来する白光シグナルの強弱の視認結果に基づいて行うことができる。具体的には、偏光顕微鏡像において、白色シグナルが強いほどセラミド量が多いと判断することができる。また、予め、セラミドに由来する白光シグナルの強弱の視認結果に対応させたセラミドの多寡を分類(例えば、セラミドが多い・普通・少ない、とする分類;セラミド量の多い方からレベル4・レベル3・レベル2・レベル1、とする分類等)したモデルを作成しておき、視認結果を当該モデルに当てはめることで、セラミド量の多寡を評価することができる。
【0043】
適用形態
本発明の角質中のセラミドの測定方法が適用される場合としては、皮膚の状態を評価する場合であれば特に限定されない。例えば、外用組成物の開発において皮膚への有効性評価を行う場合、化粧品の販売において顧客の肌状態に応じた商品の提案を行う場合、皮膚科の問診において外用医薬品を処方する場合、美容外科又はエステティックサロンのカウンセリングにおいて施術計画を立案する場合等が挙げられる。
【0044】
2.化粧品の選択方法
上述の角質中のセラミドの測定方法は、皮膚の状態(具体的には角質に含まれるセラミドの多寡)を直接的に且つ簡便に測定できるため、化粧品の適用対象に対し、その肌の状態に応じた化粧品を選択する方法に使用することができる。つまり、本発明は、上記のセラミドの測定方法を行う工程と、得られたセラミド測定結果に基づいて、顧客の肌状態に応じた化粧品を選択する工程とを含む、化粧品の選択方法も提供する。
【0045】
本発明の化粧品の選択方法が化粧品の販売において用いられる場合、顧客から採取した角質を用いて得られたセラミド測定結果に基づいて、販売用化粧品の中から、顧客の肌状態(角質中のセラミド量)に応じた化粧品を選択して顧客に提供することができる。
【0046】
販売形態としては、店頭販売及びインターネット販売を問わない。店頭販売においては、店頭で顧客から上記の角質採取具で角質を採取してセラミドを測定することで、顧客はその場で速やかに肌状態を知ることができるとともに、テーラーメイドに近い形でより肌質に適合するように選択された化粧品を購入することができる。また、インターネット販売では、顧客が自宅等で上記の角質採取具で角質を採取し、採取後の角質採取具を郵送して適切な施設がセラミドを測定し、その結果を顧客にフィードバックするとともにその結果に応じた化粧品を郵送で受け取ることができるため、自宅等に居ながらにして、テーラーメイドに近い形でより肌質に適合するように選択された化粧品を購入することができる。
【0047】
また、本発明の化粧品の選択方法が美容外科又はエステティックサロンのカウンセリングにおいて用いられる場合、顧客から採取した角質を用いて得られたセラミド測定結果に基づいて、施術用化粧品の中から、顧客の肌状態(角質中のセラミド量)に応じた化粧品を選択して顧客に施術することができる。顧客は、テーラーメイドに近い形でより肌質に適合するように選択された化粧品による施術を受けることができるため、より高い施術効果を期待できる。
【0048】
なお、本発明の化粧品の選択方法における選択の基準としては特に限定されず、当業者によって適宜選択される。一例として、セラミド量が少ない人に対してはセラミドが配合された化粧品を選択することができ、セラミド量が十分であっても乾燥肌である人に対してはヘパリン類似物質、ヒアルロン酸、コラーゲン、尿素等のセラミド以外の保湿成分が配合された化粧品を選択することができる。
【実施例】
【0049】
以下に実施例を示して本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0050】
試験例1
(角質採取具の作製)
透明基材片面に、表1に記載する組成の接着性組成物を厚さ0.5mmとなるように塗布し、3時間乾燥させ、接着性層を得た。スライドガラス上で接着性層が占める面積は、15.9cm2であった。なお、実施例1及び2で用いた透明基材は武藤化学社製スターフロストスライドグラス水縁磨ホワイト5116(厚さ1.0mm)であり、実施例3で用いた透明基材は名村大成堂社製トリアセチルセルロース(A4サイズ、厚さ0.1mm)であり、実施例4で用いた透明基材は大倉工業社製熱可塑性ポリウレタンSNY97(厚さ0.08mm)である。また、実施例1で用いた接着性組成物はコニシ(株)製ボンドGクリヤーであり、実施例2、3、4で用いた接着性組成物はマルニ工業(株)製ゴムノリである。このようにして作製された角質採取具の接着面を両腕上腕部の皮膚表面に1回貼り付けてストリッピングすることにより、角質を採取した。
【0051】
(角質採取具のリタデーション及び複屈折性)
角質が付着採取される前の角質採取具の、透明基材と接着性層との積層部分におけるリタデーションを、WPA-200(フォトニックラティス社製複屈折計測装置、384×288ピクセル)を用いて測定した。具体的には、角質採取具の上記積層部分の面方向のリタデーションイメージングを、25℃で、523、543、及び575nmの波長にて行い、四方末端から少なくとも0.5cm内側に位置する1cm2の範囲内のリタデーション面分布における、リタデーションの平均値MR525nm、MR543nm、MR575nmを求め、更に、平均値MR525nm、MR543nm、MR575nmの平均値を、採取具のリタデーションとして得た。結果を表1に示す。なお、表1中、「≦1」は、リタデーションの平均値が1以下であり、測定誤差を鑑みるとほぼ0とみなすことができることを示す。
【0052】
また、角質が付着採取される前の角質採取具の、透明基材と接着性層との積層部分を、オリンパス(株)製BX53-Pを用い、直行ニコル(偏光板)条件下、シャッタースピード100ms、ISO200にて撮影し、偏光顕微鏡像1を得た。得られた偏光顕微鏡像1(角質採取具単独の像)について、以下の基準で低複屈折性の判定を行った。結果を表1に示す。
【0053】
<偏光顕微鏡像1(低複屈折性)>
×:セラミド由来の偏光と区別が困難となる程度に角質採取具自体から障害となる偏光が観察された。
△:角質採取具自体から偏光は若干確認されたが、障害となる程度ではなかった。
○:角質採取具自体から偏光がほとんど確認されなかった。
【0054】
(角質中のセラミド測定)
角質が付着採取された角質採取具を、オリンパス(株)製BX53-Pを用い、直行ニコル(偏光板)条件下、シャッタースピード100ms、ISO200にて撮影し、偏光顕微鏡像2を得た。得られた偏光顕微鏡像2(角質採取具及びそれに付着採取した角質の像)について、以下の基準で透光性の判定を行った。結果を表1に示す。
【0055】
<偏光顕微鏡像2(透光性)>
×:偏光観察が困難となる程度に角質採取具による遮光の程度が大きい。
△:角質採取具による遮光は若干確認されたが、偏光観察の障害となる程度ではなかった。
○:透光性が良好で容易に偏光観察できた。
【0056】
【0057】
表1に示すとおり、実施例1~4の角質採取具は、低複屈折性で透光性に優れる。そして、実施例1~4の偏光顕微鏡像2においては、セラミドに由来する白光(偏光)が確認された。つまり、本発明の角質採取具によって皮膚表面から角質をストリッピングし、採取した角質を角質採取具に付着させたまま偏光顕微鏡観察に供することで、角質中のセラミドを測定できることが分かった。更に、実施例1~3の角質採取具によると、セラミド由来の白光とバックグラウンドとのコントラストが特に明瞭であったため、より一層感度良くセラミドを測定できることが推察される。
【0058】
試験例2
(検量線の作成)
まず、実施例2の角質採取具を用いて、被験者17名それぞれの両腕上腕部の皮膚表面から角質を試験例1と同様にストリッピングし、1名の片腕当たり5サンプルの角質検体を採取した。各サンプルを試験例1と同様の条件で観察し、偏光顕微鏡像(拡大倍率100倍)を得た、得られた偏光顕微鏡像を、画像処理ソフトウェアImage Jを用いて処理した。処理の方法としては以下の(i)及び(ii)の2パターン行った。
【0059】
(i)偏光顕微鏡像をモノクロ画像(グレースケール)に変換し、閾値法(Triangle法)を用いた画像処理によって白光シグナル部分を抽出選択した。白光シグナル部分のピクセルごとに付される0~255の輝度Lkを積算した値(Σ[k=0→255]L
k)を、セラミド含有量の相対値として得た。被験者1名の片腕から採取した5サンプルごとに、得られたセラミド含有量の相対値を総計した。このようにして得られたセラミド相対値を、セラミド相対値1と記載する。
【0060】
(ii)偏光顕微鏡像をモノクロ画像(グレースケール)に変換し、ピクセルごとに付される0~255の輝度Lkと、それぞれの輝度を呈するピクセルの数Pとを掛け合わせ、LkとPとの積をすべての輝度について積算したCIA値(Σ[k=0→255]Lk・P
)を、セラミド含有量の相対値として得た。被験者1名の片腕から採取した5サンプルごとに、得られたセラミド含有量の相対値を総計した。このようにして得られたセラミド相対値を、セラミド相対値2と記載する。
【0061】
次に、ヘキサンを用いてサンプルから角質ごと接着性層を回収し、角質を含む試料液を得た。試料液を遠心分離し、沈殿物を得た。沈殿物を、クロロホルム:メタノール=2:1(体積比)の混合溶媒を用いた抽出に供し、セラミドを含む脂質を得た。得られた脂質をSphingolipid ceramide N-deacylase(SCDase;タカラバイオ株式会社製)と反応させ、脂質中のセラミドをスフィンゴイド塩基と脂肪酸とに分解し、さらに、オルトフタルアルデヒド溶液と反応させてスフィンゴイド塩基を蛍光修飾し、定量用試料液を得た。得られた定量用試料液を以下の条件でHPLCに供し、セラミドを定量した。定量値は、内部標準10μMに対する相対量(以下、実際のセラミド定量値と記載する。)として得た。
【0062】
カラム: CAPCELLPAK C18 5μL、4.6×150mm
流速: 1mL/min
移動相: A:0.1v/v%酢酸 B:メタノール
B比率:80v/v%(0~20分)、100v/v%(20~40分)
80v/v%(40~50分)
カラム温度:40℃
波長: 励起:335nm 蛍光:440nm
注入量: 5μL
内部標準: C16スフィンゴシン(スフィンゴイド塩基)10μM
【0063】
図1に、(i)の方法で得られたセラミド相対値1(x)と、HPLCで得られた実際のセラミド定量値(y)との相関及び当該相関から得られた検量線を示す。
図1では、相関係数は0.6126、ピアソンの相対係数の検定結果はp<0.01、検量線の方程式はy=(6.9858×10
-6)x+1.2853であった。また、
図2に、(ii)の方法で得られたセラミド相対値2(x)と、HPLCで得られた実際のセラミド定量値(y)との相関及び当該相関から得られた検量線を示す。
図2では、相関係数は0.5894、ピアソンの相対係数の検定結果はp<0.01、検量線の方程式はy=(1.8118×10
-10)x+2.0054であった。
【0064】
(検量線からのセラミド含有量の導出)
検量線作成に用いた被験者とは別の被験者a~cから、それぞれ、両腕上腕部の皮膚表面から角質を試験例1と同様にストリッピングし、1名の片腕当たり5サンプルの角質検体を採取した。採取した角質について、上述と同様にしてセラミド相対値1及びセラミド相対値2を算出し、それぞれ、
図1及び
図2の検量線に基づいて、HPLC測定した場合に想定されるセラミド量を導出した。さらに、採取した角質について、上述と同様にしてセラミド含有量をHPLCで定量し、実際のセラミド定量値も得た。結果を表2及び表3に示す。
【0065】
【0066】
【0067】
表2及び表3から明らかなとおり、本発明の角質採取具を用いたセラミドの測定結果とHPLCで測定した実際のセラミド定量値とは良好な一致を示していることが分かった。つまり、本発明によって、皮膚の状態を直接的に且つ簡便に、しかも精度良く測定できることが分かった。