(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-08
(45)【発行日】2023-09-19
(54)【発明の名称】糖尿病によって誘発される知覚過敏または知覚異常の予防又は治療用組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 36/07 20060101AFI20230911BHJP
A61P 25/02 20060101ALI20230911BHJP
A23L 33/10 20160101ALI20230911BHJP
A61P 3/10 20060101ALI20230911BHJP
C12N 1/14 20060101ALI20230911BHJP
【FI】
A61K36/07
A61P25/02
A23L33/10
A61P3/10
C12N1/14 F
(21)【出願番号】P 2018122544
(22)【出願日】2018-06-27
【審査請求日】2021-05-31
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000125347
【氏名又は名称】学校法人近畿大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000186588
【氏名又は名称】小林製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118924
【氏名又は名称】廣幸 正樹
(72)【発明者】
【氏名】西田 升三
(72)【発明者】
【氏名】椿 正寛
(72)【発明者】
【氏名】武田 朋也
【審査官】横田 倫子
(56)【参考文献】
【文献】特開昭50-157570(JP,A)
【文献】特開2005-213211(JP,A)
【文献】特開2002-087981(JP,A)
【文献】特開昭59-205325(JP,A)
【文献】国際公開第2018/117103(WO,A1)
【文献】特開2000-159683(JP,A)
【文献】特開2000-159686(JP,A)
【文献】特開2003-155249(JP,A)
【文献】Bioscience, Biotechnology, and Biochemistry, 2002, Vol.66 No.5, p.937-942
【文献】Life Sciences, 2018 May, Volume 205, p.113-124
【文献】J Neuroinflammation., 2018 Jun 22, Vol.15 No.1, p.189(p.1-17)
【文献】Front Cell Neurosci., 2017, Vol.11, Article73, p.1-16. (doi: 10.3389/fncel.2017.00073.)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 36/00
A61P
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
子実体が発生する前のシイタケ菌糸体
を80℃の水で抽出した抽出物を含有することを特徴とする、糖尿病によって誘発される知覚過敏または知覚異常の予防又は治療用組成物。
【請求項2】
子実体が発生する前のシイタケ菌糸体
を80℃の水で抽出した抽出物を含有することを特徴とする、糖尿病によって誘発される知覚過敏または知覚異常の予防又は治療用医薬組成物。
【請求項3】
子実体が発生する前のシイタケ菌糸体
を80℃の水で抽出した抽出物を含有することを特徴とする、糖尿病によって誘発される知覚過敏または知覚異常の予防又は治療用加工食品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、糖尿病によって誘発される末梢神経障害(以下、糖尿病性末梢神経障害と記載することがある)を予防又は治療する組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
糖尿病性末梢神経障害は、糖尿病の合併症であり、糖尿病の進行に伴い、知覚過敏又は知覚鈍麻等の末梢神経障害が生ずることが知られており、この末梢神経障害により、患者の日常生活の質が低下するため、大きな問題となっている。しかしながら、糖尿病性末梢神経障害に対して有効な治療法は確立されていないのが現状であり、糖尿病性末梢神経障害を予防および/又は治療方法が求められている。
【0003】
例えば、特許文献1には、ラクタム化合物が糖輸送増強作用剤として効果があり、糖尿病、糖尿病性末梢神経障害、糖尿病性腎症、糖尿病性大血管症、耐糖能異常、又は肥満症の予防および/又は治療薬として利用できることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1には、ラクタム化合物が糖輸送能力を有する点については、実施例を含め開示されているが、末梢神経障害についての具体的な記載はなく、血糖値を下げる効果があるという開示にとどまる。
【0006】
糖尿病によって誘発される末梢神経障害の原因はまだ明らかではなく、まずは糖尿病の進行を止めることが重要とされていることから、一度発症した糖尿病性末梢神経障害は、特許文献1に記載されるように一時的に血糖値を下げても治癒することは少なく、長期にわたる糖尿病の治療の間、手足の痛みは継続することになる。
【0007】
また、対処療法として、三環系抗うつ薬、α2δリガンドであるプレガバリン、およびセロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害剤であるデュロキセチン等が推奨されているが、副作用も無視できない。また、これらの薬剤は糖尿病性末梢神経障害の予防組成物として利用することはできない。
【0008】
本発明の目的は、糖尿病性末梢神経障害を予防および治療できる、末梢神経障害の予防又は治療用組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記の課題に鑑みて糖尿病性末梢神経障害を予防又は治療することができる素材を探索したところ、シイタケ菌糸体を見出した。シイタケ菌糸体には、糖尿病性末梢神経障害に対して優れた予防又は治療効果を示すことを明らかにし、本発明を完成させた。
【0010】
より具体的に、本発明に係る糖尿病によって誘発される知覚過敏または知覚異常の予防又は治療用組成物は、シイタケ菌糸体抽出物を含有することを特徴とする。
【0011】
即ち、本発明は、下記に掲げる態様の発明を提供する。
項1. 子実体が発生する前のシイタケ菌糸体を80℃の水で抽出した抽出物を含有することを特徴とする、糖尿病によって誘発される知覚過敏または知覚異常の予防又は治療用組成物。
項2. 医薬組成物である、項1に記載の糖尿病によって誘発される知覚過敏または知覚異常の予防又は治療用組成物。
項3. 加工食品である、項1に記載の糖尿病によって誘発される知覚過敏または知覚異常の予防又は治療用組成物。
項4. 項1~4のいずれかに記載の組成物を対象に投与することを含む、糖尿病によって誘発される知覚過敏または知覚異常を予防又は治療する方法(人を手術・治療・診断する方法を除く)。
項5. シイタケ菌糸体抽出物の1日あたりのヒトへの投与量が、乾燥粉末重量として、4mg/kg体重以上となるよう用いられることを特徴とする、項4に記載の方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明は、糖尿病によって誘発される知覚過敏または知覚異常を予防又は治療することができる。すなわち、シイタケ菌糸体抽出物を投与することで、糖尿病によって誘発される四肢のしびれ、四肢の痛み、深部腱反射の低下、筋力の低下、アロディニア、痛覚過敏、手指の巧緻機能障害、歩行障害、躓き、転倒、屈曲障害(正座、あぐら、横座り又は椅子座り等の困難又は不能)、又は四肢の麻痺等が改善される。
【0013】
また、本発明に係る糖尿病によって誘発される知覚過敏または知覚異常の予防又は治療用組成物は経口摂取することで効果を奏することができる。したがって、通院する必要がなく、患者への負担が少ない。そして、糖尿病性末梢神経障害が改善されることによって患者の生活の質も向上する。
【0014】
また、本発明に係る糖尿病によって誘発される知覚過敏または知覚異常の予防又は治療用組成物は、糖尿病によって誘発される知覚過敏または知覚異常の予防効果を奏するので、日常の食品と共に摂取することで、糖尿病によって誘発される知覚過敏または知覚異常の予防にも効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明に係る糖尿病性末梢神経障害の予防又は治療用組成物をストレプトゾトシンと共に投与した場合のコールドプレート試験の結果を示す図である。
【
図2】本発明に係る糖尿病性末梢神経障害の予防又は治療用組成物をストレプトゾトシンと共に投与した場合のフォン・フライ試験の結果を示す図である。
【
図3】本発明に係る糖尿病性末梢神経障害の予防又は治療用組成物をストレプトゾトシン投与後21日目から投与した場合のコールドプレート試験の結果を示す図である。
【
図4】本発明に係る糖尿病性末梢神経障害の予防又は治療用組成物をストレプトゾトシン投与後21日目から投与した場合のフォン・フライ試験の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に本発明に係る糖尿病性末梢神経障害の予防又は治療用組成物について図面および実施例を示し説明を行う。なお、以下の説明は、本発明の一実施形態および一実施例を例示するものであり、本発明が以下の説明に限定されるものではない。以下の説明は本発明の趣旨を逸脱しない範囲で改変することができる。
【0017】
本発明において「予防」とは、未然防止、早期治療、機能低下防止の概念が含まれる。また、「治療」とは必ずしも罹患者の症状改善に限定されるものではなく、健常者(予備群)の症状の緩和や改善も含まれる概念である。
【0018】
本発明に係る糖尿病性末梢神経障害の予防又は治療用組成物において使用されるシイタケ菌糸体抽出物の原料となる「シイタケ菌糸体」(Lentinus edodes mycelium)は、特に限定はされないが、例えば食用にされる子実体の前段階の菌糸の状態のものを使用することができる。本発明においては、例えば、シイタケ菌(Lentinus edodes)を固体培地で培養して得られる抽出物(シイタケ菌糸体抽出物)を用いることができる。
【0019】
本発明に係る糖尿病性末梢神経障害の予防又は治療用組成物において用いられるシイタケ菌糸体抽出物は、当該技術分野において公知の方法により調製することができるが、菌糸体を粉砕後に抽出して得られる抽出物を用いることができる。さらに、例えば、菌糸体を含む固体培地を水の存在下で粉砕、分解して得られる抽出物を用いることもできる。抽出物の調製に用いられる溶媒としては、例えば、水、エタノール、メタノール、ブタノール、イソプロパノールなどが挙げられ、好ましくは水を用いることができる。抽出は溶媒の加熱下(例えば、85~105℃程度)で行うこともできるが、より低温(例えば、25~50℃、好ましくは30~45℃)で超音波処理により行うこともできる。
【0020】
この「シイタケ菌糸体抽出物」は、限定されるものではないが、例えば以下の方法により得られたものを使用することができる。すなわち、バガス(サトウキビのしぼりかす)と脱脂米糠を基材とする固体培地上にシイタケ菌を接種し、次いで菌糸体を増殖させて得られる菌糸体を含む固体培地を、12メッシュ通過分が30重量%以下となるようほぐし、ほぐした固体培地に水を添加し、30~55℃の温度に保ちながら前記固体培地を粉砕、すりつぶしてバガス繊維の少なくとも70重量%以上が12メッシュ通過分であるようにし、次いで80℃にまで温度を上昇させたのち、得られた懸濁状液をろ過することによってシイタケ菌糸体抽出液を得る。
【0021】
本発明においては、このようにして得られた抽出液をそのままシイタケ菌糸体抽出物として使用してもよいが、これを濃縮・凍結乾燥やスプレードライにより粉末として保存し、使用時に種々の形態で使用するのが便宜的である。
【0022】
このようにして得られるシイタケ菌糸体抽出物はフェノール-硫酸法による糖質分析により糖質を15~50%、好ましくは20~40%(w/w)、Lowry法によるタンパク質分析によりタンパク質を10~40%、好ましくは13~30%(w/w)、没食子酸を標準とするFolin-Denis法によりポリフェノール類を1~5%、好ましくは2.5~3.5%(w/w)含む。シイタケ菌糸体抽出物にはそのほかに脂質約0.1%、繊維約0.4%、灰分約20%などを含む。
【0023】
また、上述のようにして得られるシイタケ菌糸体抽出物の構成糖組成(質量%)の一例は、以下の通りであったが、この組成は培養条件などによって変動しうる:キシロース:15.2;アラビノース:8.2;マンノース:8.4;グルコース:39.4;ガラクトース:5.4;アミノ糖(グルコサミン):12.0;ウロン酸:11.3。
【0024】
本発明に係る糖尿病性末梢神経障害の予防又は治療用組成物は上述のシイタケ菌糸体抽出物を含む。本発明に係る糖尿病性制末梢神経障害の予防又は治療用組成物中のシイタケ菌糸体抽出物の含有量は特に限定されず、投与対象者(動物を含む)と、症状(原因)によって適宜変更することができるが、糖尿病性末梢神経障害の予防又は治療用組成物中にシイタケ菌糸体抽出物は、通常10質量%以上、好ましくは20質量%以上、より好ましくは30質量%以上含有される。また、本発明に係る糖尿病末梢神経障害の予防又は治療用組成物は、シイタケ菌糸体抽出物の含有量が100質量%であってもよい。
【0025】
本発明に係る糖尿病性末梢神経障害の予防又は治療用組成物は、糖尿病性末梢神経障害用治療薬(医薬組成物)として提供することが可能である。本発明に係る医薬組成物は、内用剤(経口投与製剤)として提供することができる。例えば、カプセル剤、顆粒剤、散剤、錠剤、液剤、ゼリー剤等に製剤化して提供されうる。その際、結合剤、滑沢剤、崩壊剤、着色剤、矯味剤、防腐剤、抗酸化剤、安定化剤といった成分を含有させることが可能である。また、制酸剤、健胃剤、消化剤、整腸剤、鎮痙剤、粘膜修復剤、抗炎症剤、収斂剤、鎮吐剤、鎮咳剤、去痰剤、消炎酵素剤、鎮静催眠剤、抗ヒスタミン剤、カフェイン類、強心利尿剤、抗菌剤、血管収縮剤、血管拡張剤、局所麻酔剤、生薬、生薬エキス末、ビタミン類、メントール類、グルコサミン化合物、キチン、キトサン等を適宜含有させることができる。
【0026】
さらに、本発明に係る医薬組成物は、外用剤(経皮投与製剤)として提供することができる。例えば、液剤、軟膏剤、クリーム剤、ゲル剤、貼付剤、エアゾール剤等に製剤化して提供されうる。その際、水、低級アルコール、多価アルコール、溶解補助剤、界面活性剤、乳化安定剤、ゲル化剤、粘着剤、安定化剤、pH調整剤、防腐剤、殺菌剤、脂、油といった成分を含有させることができる。また、抗炎症剤、鎮痛剤、局所麻酔剤、血管膨張剤、副腎皮質ホルモン、角質溶解剤、保湿剤、殺菌剤、抗酸化剤、清涼化剤、香料、色素などを適宜含有させることができる。
【0027】
なお、本発明に係る医薬組成物において、シイタケ菌糸体抽出物は、組成物全量に対して通常10質量%以上、好ましくは20質量%以上、より好ましくは30質量%以上含有される。また、本発明に係る医薬組成物は、シイタケ菌糸体抽出物の含有量が100質量%であってもよい。
【0028】
また、本発明に係る糖尿病性末梢神経障害の予防又は治療用組成物は食品として提供することも可能である。
【0029】
食品としては、例えば、飴、ガム、ゼリー、ビスケット、クッキー、煎餅、パン、麺、魚肉・畜肉練製品、茶、清涼飲料、コーヒー飲料、乳飲料、乳清飲料、乳酸菌飲料、ヨーグルト、アイスクリーム、プリン等といった嗜好食品や健康食品を含む一般加工食品だけでなく、厚生労働省の保健機能食品制度に規定された特定保健用食品や栄養機能食品などの保健機能食品を含み、さらに、栄養補助食品(サプリメント)、飼料、食品添加物等も含まれる。
【0030】
これらの食品に、シイタケ菌糸体抽出物を含有することで本発明に係る食品を調製することができる。なお、本発明に係る食品において、シイタケ菌糸体抽出物は、通常10質量%以上、好ましくは20質量%以上、より好ましくは30質量%以上含有される。また、本発明に係る食品は、シイタケ菌糸体抽出物の含有量が100質量%であってもよい。
【0031】
本発明に係る糖尿病性末梢神経障害の予防又は治療用組成物の投与量は、症状、年齢、体重、発症後の経過時間、併用される治療的措置などにより、適宜選択することができるが、シイタケ菌糸体抽出物の乾燥粉末重量としてヒト成人への投与量は、例えば1日あたり、4mg/kg体重以上であり、好ましくは8mg/kg体重以上であり、より好ましくは8~1700mg/kg体重であり、更に好ましくは25~1700mg/kg体重である。
【0032】
後述する本実施例において、モデルマウスを用いた実験により、本発明に係る糖尿病性末梢神経障害の予防又は治療用組成物を、1日あたり、50mg/kg体重、100mg/kg体重、500mg/kg体重、1000kg体重、および2000mg/kg体重投与したことが示されている。かかる投与量は、マウスにおけるヒト等価用量(HED)12.3(「Guidance forIndustry Estimating the Maximum Safe Starting Dose in Initial ClinicalTrials for Therapeutics in Adult Healthy Volunteers」参照)に基づき、ヒト成人(体重60kg)への1日あたりの投与量に換算した場合、それぞれ、約4mg/kg体重、約8mg/kg体重、約41mg/kg体重、約81mg/kg体重、約163mg/kg体重である。この変換は、より一般的な式HED=動物用量mg/kg×(動物体重(kg)/ヒト体重(kg))0.33に基づく。
【0033】
本発明に係る糖尿病性末梢神経障害の予防又は治療用組成物は、ヒトの他、家畜・愛玩動物などの動物用に使用することもできる。
【0034】
なお、本発明は、シイタケ菌糸体抽出物を、糖尿病性末梢神経障害患者又はその予備群である投与対象者に投与することで、当該症状を予防、改善又は治療する方法(人を手術、治療、診断する方法を除く)であるといってよい。
【実施例】
【0035】
<シイタケ菌糸体の培養>
シイタケ菌糸体の培養を行う培地は、バガス80重量部、脱脂米糠10重量部からなる固体培地に適度な純水を加えたものを用いた。この培地にシイタケ菌糸体を接種し、温度および湿度を管理した培養室内に放置し、菌糸体を増殖させた。
【0036】
<シイタケ菌糸体抽出物の乾燥粉末の製造>
シイタケ菌糸体が蔓延した培地に8等量の純水を加えて粉砕し、80℃±3℃で2時間加熱を行い、液循環抽出をした後100メッシュろ過した。ろ過抽出物をBrix値が27%±2%となるように濃縮した。ヘリコイド式滅菌機を用いて135℃15秒で滅菌し、滅菌抽出物に滅菌水を加えてBrix値が25%±1%となるように調整した後、凍結乾燥を行った。この凍結乾燥粉末を粉砕後42メッシュ通過させ、シイタケ菌糸体の乾燥粉末を得た。
【0037】
(実施例1)<ストレプトゾトシン誘発糖尿病マウス末梢神経障害に対する予防効果>
糖尿病によって誘発される、機械的刺激によるアルディニア(通常痛みを引き起こさない感覚刺激で惹起される激痛)等の知覚過敏および低温刺激における知覚異常に対するシイタケ菌糸体抽出物の予防効果を調べた。ストレプトゾトシン投与と同時にシイタケ菌糸体抽出物を被検物としてマウスに経口投与し、以下の試験(Cold plate testおよびvon Frey test)を行った。
【0038】
(1)被検物の投与
6~7週齢のC57BL/6J雄性マウスを用い、コントロール群、ストレプトゾトシン投与群、ストレプトゾトシンおよび被検物投与群(ストレプトゾトシン+被検物投与群)の3群に群構成した。
【0039】
(2)コールドプレート試験(Cold plate test)
コールドプレート試験を行い、低温刺激における知覚異常に対するシイタケ菌糸体抽出物の効果を試験した。上記(1)の3群のマウスを4℃に設定したコールドプレート上にのせ、回避までの反応時間(潜時)を測定した。潜時が短いほどコールドプレートによる低温刺激を、より忌避していると考えられる。結果を
図1に示す。
【0040】
図1の、横軸は投与経過期間(日)であり、縦軸は逃避反応時間(秒)である。有意水準5%の検定でコントロールとの差が有意であると判断できるものには「*」を付した。以下のグラフでも同様に有意水準5%の検定でコントロールとの差が有意であると判断できるものには「*」を付した。
【0041】
グラフの線種において、白丸(「vehicle」と記した。)と、縦棒(「50mg/kgLEM」と記した。)と、米印(「100mg/kgLEM」と記した。)と、白菱形(「500mg/kgLEM」と記した。)と、白三角(「1000mg/kgLEM」と記した。)と、白四角(「2000mg/kgLEM」と記した。)は、コントロール群である。
【0042】
「vehicle」は何も投与しないマウスであり、「50mg/kgLEM」、「100mg/kgLEM」、「500mg/kgLEM」、「1000mg/kgLEM」、「2000mg/kgLEM」は、それぞれ被検物を、1日あたり50mg/kg体重、100mg/kg体重、500mg/kg体重、1000mg/kg体重、2000mg/kg体重与えたという意味である。つまり、これらは健康なマウスが被検物を投与された場合の結果を示す。
【0043】
黒丸(「200mg/kgSTZ」と記した。)は、ストレプトゾトシン投与群である。ストレプトゾトシンを、1日あたり200mg/kg体重与えた結果を示す。ストレプトゾトシンの投与によって、マウスは糖尿病を患うことになる。
【0044】
黒バツ印(50mg/kgLEM+200mg/kgSTZ(0日目よりLEM投与))と、二点鎖線のみ(100mg/kgLEM+200mg/kgSTZ(0日目よりLEM投与))と、黒菱形(500mg/kgLEM+200mg/kgSTZ(0日目よりLEM投与))と、黒三角(1000mg/kgLEM+200mg/kgSTZ(0日目よりLEM投与))と、黒四角(2000mg/kgLEM+200mg/kgSTZ(0日目よりLEM投与))は、ストレプトゾトシン及び被検物投与群である。これらは、一日あたり、それぞれストレプトゾトシン200mg/kg体重と共に、被検物を50mg/kg体重、100mg/kg体重、500mg/kg体重、1000mg/kg体重、2000mg/kg体重投与した結果を示す。
【0045】
コントロール群は全て逃避反応時間が約15秒から18秒であり、安定していた。ストレプトゾトシン投与群は、6日目から逃避反応時間が短くなり、14日目には、コールドプレートにおける冷刺激に対してストレプトゾトシン投与群(グラフ中「STZ」と記した。)では著しく潜時が短縮された。なお、グラフ中ストレプトゾトシン200mg/kg体重と共に被検物を50mg/kg体重投与したマウスを「50LS」と記した。
【0046】
(3)フォン・フライ試験(von Frey test)
ケージに、上記(1)の3群のマウスを入れ、強度0.16gのフィラメントを後肢裏に押し付けて回避反応の回数を測定した。ストレプトゾトシン投与群では、コントロール群に比べて著しく回避行動スコアが上昇し、ストレプトゾトシン+被検物投与群では、コントロール群と同程度の回避行動スコアを示した。ストレプトゾトシン+被検物投与群は、ストレプトゾトシン投与群と比較して有意に回避行動スコアの上昇を抑制した。結果を
図2に示す。
【0047】
図2の、横軸は投与後経過期間(日)であり、縦軸は回避反応(スコア)である。回避回数が多ければ、フィラメントによる刺激をより忌避していると考えられる。
図2中の線種については、
図1の場合と同じである。コントロール群では、安定して回避スコアが1以下であった。
【0048】
一方、ストレプトゾトシン投与群は、6日目から回避スコアが高くなった。ストレプトゾトシン+被検物投与群は、ほとんどコントロール群と同じ回避スコアであった。
【0049】
以上のことより、被検物(シイタケ菌糸体抽出物)は、ストレプトゾトシンによる糖尿病性末梢神経障害を予防する効果がある。
【0050】
(実施例2)<ストレプトゾトシン誘発糖尿病マウス末梢神経障害に対する治療効果>
糖尿病よって誘発される、機械的刺激によるアロディニア等の知覚過敏および低温刺激における知覚異常に対するシイタケ菌糸体抽出物の治療効果を調べた。ストレプトゾトシン投与後21日目からシイタケ菌糸体抽出物を被検物としてマウスに経口投与し、以下の試験(Cold plate testおよびvon Frey test)を行った。
【0051】
(1)被検物の投与
6~7週齢のC57BL/6J雄性マウスを用い、コントロール群、ストレプトゾトシン投与群、ストレプトゾトシンおよび被検物投与群(ストレプトゾトシン+被検物投与群;被検物は21日目から投与開始)の3群に群構成した。
【0052】
(2)コールドプレート試験(Cold plate test)
コールドプレート試験を行い、低温刺激における知覚異常に対するシイタケ菌糸体抽出物の効果を試験した。上記(1)の3群のマウスを4℃に設定したコールドプレート上にのせ、回避までの反応時間(潜時)を測定した。潜時が短いほどコールドプレートによる低温刺激を、より忌避していると考えられる。結果を
図3に示す。
【0053】
図3を参照して、横軸は投与経過期間(日)であり、縦軸は逃避反応時間(秒)である。また、グラフ中の線種はコントロール群とストレプトゾトシン投与群は
図1の場合と同じである。ストレプトゾトシン及び被検物投与群については、「0日より投与」を「21日目より投与」に読み替えたものである。
【0054】
また、
図3では、グラフ中に以下の記号を付した。ストレプトゾトシン投与群を「STZ」と示した。また、ストレプトゾトシン及び被検物投与群については、二点鎖線のみ(100mg/kgLEM+200mg/kgSTZ(21日目よりLEM投与))を「100LS」とし、黒菱形(500mg/kgLEM+200mg/kgSTZ(21日目よりLEM投与))を「500LS」とし、黒三角(1000mg/kgLEM+200mg/kgSTZ(21日目よりLEM投与))を「1000LS」とし、黒四角(2000g/kgLEM+200mg/kgSTZ(21日目よりLEM投与))を「2000LS」とした。
【0055】
図3を参照して、コントロール群は約15秒から18秒程度の逃避反応時間であった。一方、ストレプトゾトシン+被検物投与群およびストレプトゾトシン投与群は投与経過期間が延びるほど逃避反応時間が短くなった。そしてほぼ14日で逃避反応時間は一定となった。
【0056】
21日目に被検物の投与を開始し(
図3中では、「LEM投与」と示した。)、この日よりストレプトゾトシン+被検物投与群は、逃避反応時間が延びた。
【0057】
(3)フォン・フライ試験(von Frey test)
ケージに、上記(1)の3群のマウスを入れ、強度0.16gのフィラメントを後肢裏に押し付けて回避反応の回数を測定した。ストレプトゾトシン投与群では、コントロール群に比べて著しく回避行動スコアが上昇した。ストレプトゾトシン+被検物投与群では、被検物を投与しない間は、ストレプトゾトシン投与群同様に、回避スコアは上昇した。しかし、投与日以後は、回避行動スコアは減少し、コントロール群と同程度の回避行動スコアまで回復した。ストレプトゾトシン+被検物投与群は、ストレプトゾトシン投与群と比較して有意に回避行動スコアの上昇を抑制した。結果を
図4に示す。
【0058】
図4を参照して、横軸は投与後経過期間(日)であり、縦軸は回避反応(スコア)であ
る。回避回数が多ければ、フィラメントによる刺激をより忌避していると考えられる。
図4中の線種については、
図3の場合と同じである。また、グラフ中の記号についても
図3と同じものを用いた。
【0059】
コントロール群では、安定して回避スコアが1以下であった。一方、ストレプトゾトシン+被検物投与群およびストレプトゾトシン投与群は投与経過期間が延びるほど回避行動スコアが高くなり、約14日で逃避反応時間は一定となった。これにより、ストレプトゾトシンの投与によって、糖尿病性末梢神経障害を発症したと考えられた。
【0060】
21日目に被検物の投与を開始し(
図4中では、「LEM投与」と示した。)、この日よりストレプトゾトシン+被検物投与群は、回避行動スコアが減少した。
【0061】
以上のことから、本発明に係る糖尿病性末梢神経障害の予防又は治療用組成物は、糖尿病性末梢神経障害を発症した後であっても、末梢神経障害が改善され、治療効果があることを示している。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明に係る組成物は、糖尿病によって誘発される末梢神経障害の予防又は治療に利用することができる。