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特許7345939状態特定装置、状態特定方法、および状態特定プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-08
(45)【発行日】2023-09-19
(54)【発明の名称】状態特定装置、状態特定方法、および状態特定プログラム
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/64 20060101AFI20230911BHJP
【FI】
G01N21/64 B
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2022508416
(86)(22)【出願日】2021-03-17
(86)【国際出願番号】 JP2021010886
(87)【国際公開番号】W WO2021187536
(87)【国際公開日】2021-09-23
【審査請求日】2022-09-09
(31)【優先権主張番号】P 2020046932
(32)【優先日】2020-03-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成28年度 国立研究開発法人科学技術振興 機構戦略的創造研究推進事業 ACCEL、産業技術力強化法第17条の適用を受けるもの
(73)【特許権者】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】早川 智彦
(72)【発明者】
【氏名】池田 遼
(72)【発明者】
【氏名】岸 則政
(72)【発明者】
【氏名】石川 正俊
【審査官】嶋田 行志
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2005/062027(WO,A1)
【文献】特開2006-194770(JP,A)
【文献】特開2002-039943(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/00-G01N 21/83
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
JSTChina(JDreamIII)
Science Direct
ACS PUBLICATIONS
KAKEN
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の照射条件で、検査対象物に励起光を照射する照射部と、
前記励起光の照射に対して遅延して生じた前記検査対象物からの発光の発光データである第1発光データを測定する測定部と、
前記第1発光データと、前記検査対象物を構成する物質の状態ごとに前記第1発光データと共通する照射条件で前記励起光を照射した場合に測定された前記検査対象物からの発光の発光データである第2発光データとを照合して、前記検査対象物の状態を特定する特定部と、
を備え
前記第1発光データが、新品又は未使用の状態の前記検査対象物から測定される場合、前記第2発光データは、外部因子の印加により変化した状態の前記検査対象物を構成する物質から測定され、
前記第1発光データが、外部因子の印加により変化した状態の前記検査対象物から測定される場合、前記第2発光データは、新品又は未使用の状態の前記検査対象物を構成する物質から測定され、
前記第1発光データが、外部因子の印加中の状態の前記検査対象物から測定される場合、前記第2発光データは、新品又は未使用の状態、或いは外部因子の印加により変化した状態の前記検査対象物を構成する物質から測定される、
状態特定装置。
【請求項2】
前記検査対象物からの発光の発光データは、前記励起光の照射に応じて生じた前記検査対象物の遅延蛍光及び/または燐光の発光データである、
請求項1に記載の状態特定装置。
【請求項3】
前記測定部は、前記発光を100fps以上のフレームレートで撮影する高速カメラを含む、
請求項1または2に記載の状態特定装置。
【請求項4】
前記特定部は、記憶部に予め格納された前記検査対象物の参照発光データを読み出し、前記読み出した参照発光データと前記測定部により測定された前記第1発光データとを用いて前記検査対象物の状態を特定し、
前記第1発光データが、新品又は未使用の状態の前記検査対象物から測定される場合、前記参照発光データは、外部因子の印加により変化した状態の前記検査対象物を構成する物質から測定され、
前記第1発光データが、外部因子の印加により変化した状態の前記検査対象物から測定される場合、前記参照発光データは、新品又は未使用の状態の前記検査対象物を構成する物質から測定され、
前記第1発光データが、外部因子の印加中の状態の前記検査対象物から測定される場合、前記参照発光データは、新品又は未使用の状態、或いは外部因子の印加により変化した状態の前記検査対象物を構成する物質から測定される、
請求項1から3のいずれか1項に記載の状態特定装置。
【請求項5】
所定の照射条件で、検査対象物に励起光を照射する照射部と、
前記励起光の照射に対して遅延して生じた前記検査対象物からの発光の発光データとして変化前発光データを測定し、前記検査対象物の外的要因が変化した後に、前記励起光の照射に応じて生じた前記検査対象物からの発光の発光データとして変化後発光データを測定する測定部と、
前記変化前発光データに対する前記変化後発光データの変化度に基づいて、前記検査対象物の外的要因が変化したことに基づく前記検査対象物の状態を特定する特定部と、
を備え
前記外的要因の変化したことに基づく前記検査対象物の状態は、前記検査対象物に水分が添加されている状態、pH度の異なる状態、前記検査対象物に電磁波が加えられた状態、前記検査対象物が加熱された状態、前記検査対象物が空気や各種気体・ガスに晒された状態、及び前記検査対象物に機械的応力が加えられた状態のうちのいずれか、又はそれらが組み合わされた状態である、
状態特定装置。
【請求項6】
前記特定部は、記憶部に予め格納された前記検査対象物の劣化度合いごとの発光データと、前記測定部により測定された前記発光データとを照合して、前記検査対象物の状態として、前記検査対象物が劣化した度合いを特定する、
請求項1から5のいずれか1項に記載の状態特定装置。
【請求項7】
前記励起光の波長は、10nm以上である、
請求項1から6のいずれか1項に記載の状態特定装置。
【請求項8】
前記発光データは、前記励起光の照射を止めた後に生じる前記検査対象物からの発光の発光データを含む、
請求項1から7のいずれか1項に記載の状態特定装置。
【請求項9】
所定の照射条件で検査対象物に励起光を照射する照射工程と、
前記励起光の照射に対して遅延して生じた前記検査対象物からの発光の発光データである第1発光データを測定する測定工程と、
前記第1発光データと、前記検査対象物を構成する物質の状態ごとに前記第1発光データと共通の照射条件で前記励起光を照射した場合に測定された前記検査対象物からの発光の発光データである第2発光データとを照合して、前記検査対象物の状態を特定する特定工程と、
を含み、
前記第1発光データが、新品又は未使用の状態の前記検査対象物から測定される場合、前記第2発光データは、外部因子の印加により変化した状態の前記検査対象物を構成する物質から測定され、
前記第1発光データが、外部因子の印加により変化した状態の前記検査対象物から測定される場合、前記第2発光データは、新品又は未使用の状態の前記検査対象物を構成する物質から測定され、
前記第1発光データが、外部因子の印加中の状態の前記検査対象物から測定される場合、前記第2発光データは、新品又は未使用の状態、或いは外部因子の印加により変化した状態の前記検査対象物を構成する物質から測定される、
状態特定方法。
【請求項10】
前記特定工程においては、記憶部に予め格納された前記検査対象物の参照発光データを読み出し、前記読み出した参照発光データと前記測定部により測定された前記第1発光データとを用いて前記検査対象物の状態を特定し、
前記第1発光データが、新品又は未使用の状態の前記検査対象物から測定される場合、前記参照発光データは、外部因子の印加により変化した状態の前記検査対象物を構成する物質から測定され、
前記第1発光データが、外部因子の印加により変化した状態の前記検査対象物から測定される場合、前記参照発光データは、新品又は未使用の状態の前記検査対象物を構成する物質から測定され、
前記第1発光データが、外部因子の印加中の状態の前記検査対象物から測定される場合、前記参照発光データは、新品又は未使用の状態、或いは外部因子の印加により変化した状態の前記検査対象物を構成する物質から測定される、
請求項9に記載の状態特定方法。
【請求項11】
コンピュータに、
所定の照射条件で検査対象物に励起光を照射する処理と、
前記励起光の照射に対して遅延して生じた前記検査対象物からの発光の発光データである第1発光データを測定する処理と、
前記第1発光データと、前記検査対象物を構成する物質の状態ごとに前記第1発光データと共通の照射条件で前記励起光を照射した場合に測定された前記検査対象物からの発光の発光データである第2発光データとを照合して、前記検査対象物の状態を特定する処理と、
を実行させる状態特定プログラムであって、
前記第1発光データが、新品又は未使用の状態の前記検査対象物から測定される場合、前記第2発光データは、外部因子の印加により変化した状態の前記検査対象物を構成する物質から測定され、
前記第1発光データが、外部因子の印加により変化した状態の前記検査対象物から測定される場合、前記第2発光データは、新品又は未使用の状態の前記検査対象物を構成する物質から測定され、
前記第1発光データが、外部因子の印加中の状態の前記検査対象物から測定される場合、前記第2発光データは、新品又は未使用の状態、或いは外部因子の印加により変化した状態の前記検査対象物を構成する物質から測定される、
状態特定プログラム。
【請求項12】
所定の照射条件で検査対象物に励起光を照射する照射部と、
前記励起光の照射に対して遅延して生じた前記検査対象物の発光に関する発光データである第1発光データを測定する測定部と、
前記第1発光データと、前記検査対象物を構成する物質の状態ごとに前記所定の照射条件で前記励起光を照射した場合に遅延して生じた発光に関する発光データである第2発光データとに基づいて、前記検査対象物の状態を特定する特定部と、
を備え
前記第1発光データが、新品又は未使用の状態の前記検査対象物から測定される場合、前記第2発光データは、外部因子の印加により変化した状態の前記検査対象物を構成する物質から測定され、
前記第1発光データが、外部因子の印加により変化した状態の前記検査対象物から測定される場合、前記第2発光データは、新品又は未使用の状態の前記検査対象物を構成する物質から測定され、
前記第1発光データが、外部因子の印加中の状態の前記検査対象物から測定される場合、前記第2発光データは、新品又は未使用の状態、或いは外部因子の印加により変化した状態の前記検査対象物を構成する物質から測定される、
状態特定装置。

【発明の詳細な説明】
【関連出願の相互参照】
【0001】
本出願は、2020年3月17日に出願された日本特許出願番号2020-046932号に基づくもので、ここにその記載内容を援用する。
【技術分野】
【0002】
本発明は、状態特定装置、状態特定方法、および状態特定プログラムに関する。
【背景技術】
【0003】
従来、検査対象物を構成する物質を、光を用いて特定することがある。例えば、検査対象物に光を照射して吸収スペクトルを測定し、検査対象物を構成する物質を特定する吸光分光法や、検査対象物をレーザによって電離させてプラズマ光を測定し、検査対象物を構成する物質を特定するレーザ誘起ブレークダウン分光法が用いられている。また、検査対象物に比較的長時間(数十秒)励起光を照射し、発生する遅延蛍光のスペクトルや蛍光寿命等の物性値を測定することがある。
【0004】
レーザ誘起ブレークダウン分光法に関して、例えば下記特許文献1には、第1レーザ部によりレーザ光を照射して散乱光を測定し、測定結果から物質が存在する範囲を抽出し、第1レーザ部と異なる第2レーザ部によりレーザ光を照射して、プラズマ光のスペクトルを測定する物質特定システムが記載されている。
【0005】
また、蛍光寿命の測定に関して、例えば下記特許文献2には、測定対象の蛍光体をステージに載せて一定の速度で移動させ、蛍光体に対して励起光を照射し、励起光により発する蛍光の残光を撮像した画像を用いて、経過時間と残光強度とを検出し、蛍光寿命を算出する蛍光寿命測定装置が記載されている。
【0006】
また、遅延蛍光の利用に関して、例えば下記特許文献3には、花卉に励起光を照射して、発生したクロロフィル蛍光及び遅延蛍光を撮像し、遅延蛍光の光量とクロロフィル蛍光の光量との比と花卉の日持ち性との相関に基づいて、花卉の日持ち性を判定する花卉の日持ち性判定装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】国際公開第2015/037643号
【文献】特開2010-164468号公報
【文献】特開2004-301638号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、従来の技術においては、検査対象物の状態を、光を用いて特定することについて検討されていなかった。
【0009】
そこで、本発明は、検査対象物の状態を、光を用いて特定することができる状態特定装置、状態特定方法、および状態特定プログラムを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一態様に係る状態特定装置は、所定の照射条件で、検査対象物に励起光を照射する照射部と、前記励起光の照射に対して遅延して生じた前記検査対象物からの発光の発光データを測定する測定部と、前記発光データと、前記検査対象物を構成する物質の状態ごとに前記発光データと共通する照射条件で前記励起光を照射した場合に測定された前記検査対象物からの発光の発光データとを照合して、前記検査対象物の状態を特定する特定部と、を備える。
【0011】
この態様によれば、所定の照射条件で励起光を検査対象物に照射し、それに対して遅延して生じた検査対象物からの発光の発光データに基づいて、検査対象物の状態を特定することができる。
【0012】
上記態様において、前記検査対象物からの発光の発光データは、励起光の照射に応じて生じた前記検査対象物の遅延蛍光及び/または燐光の発光データである。
【0013】
この態様によれば、所定の照射条件で励起光を検査対象物に照射し、それに応じて生じた検査対象物の遅延蛍光及び/または燐光の発光データに基づいて、検査対象物の状態を特定することができる。
【0014】
上記態様において、前記測定部は、前記発光を100fps以上のフレームレートで撮影する高速カメラを含んでもよい。
【0015】
この態様によれば、励起光照射直後の発光の発光強度が急峻に減衰する減衰特性に対し、高速カメラを適用することではじめて、時間分解画像とその発光強度の時間分解データ(時間依存性データ)を、高速かつ高精度に取得でき、検査対象物の状態に特有の発光の発光データを高精度で測定することができる。
【0016】
上記態様において、前記特定部は、記憶部に予め格納された前記検査対象物の参照発光データを読み出し、前記読み出した参照発光データと前記測定部により測定された前記発光データとを用いて前記検査対象物の状態を特定してもよい。
【0017】
この態様によれば、所定の照射条件で励起光を検査対象物に照射し、それに応じて生じた検査対象物からの発光の発光データと、記憶部に予め格納された検査対象物の参照発光データとを用いて、検査対象物の状態を特定することができる。
【0018】
本発明の一態様に係る状態特定装置は、所定の照射条件で、検査対象物に励起光を照射する照射部と、前記励起光の照射に応じて生じた前記検査対象物からの発光の発光データとして第1発光データを測定し、前記検査対象物の外的要因が変化した後に、前記励起光の照射に応じて生じた前記検査対象物からの発光の発光データとして第2発光データを測定する測定部と、前記第1発光データに対する前記第2発光データの変化度に基づいて、前記検査対象物の外的要因が変化したことに基づく前記検査対象物の状態を特定する特定部と、を備える。
【0019】
この態様によれば、処理前の検査対象物および処理後の検査対象物の各々に対して所定の照射条件で励起光を照射し、処理前の検査対象物の発光データに対する、処理後の検査対象物の発光データの変化量に基づいて、検査対象物の状態を特定することができる。
【0020】
上記態様において、前記特定部は、記憶部に予め格納された前記検査対象物の劣化度合いごとの発光データと、前記測定部により測定された前記発光データとを照合して、前記検査対象物の状態として、前記検査対象物が劣化した度合いを特定してもよい。
【0021】
この態様によれば、所定の照射条件で励起光を検査対象物に照射し、それに対して遅延して生じた検査対象物からの発光の発光データに基づいて、検査対象物が劣化した度合いを特定することができる。
【0022】
上記態様において、前記励起光の波長は、10nm以上であってもよい。
【0023】
この態様によれば、波長が10nm以上の励起光を用いることで、波長が10nm未満の励起光を用いる場合に比して、検査対象物に励起光を照射する場合の安全上の管理のみならず、電源制御の管理をも簡素化することができ、状態特定装置の運用コストを低く抑えることができる。
【0024】
上記態様において、前記発光データは、前記励起光の照射を止めた後に生じる遅延蛍光及び/または燐光の発光データを含んでもよい。
【0025】
この態様によれば、検査対象物の状態に特有の遅延蛍光及び/または燐光の発光データを測定することで、検査対象物の状態を特定することができる。
【0026】
本発明の一態様に係る状態特定方法は、所定の照射条件で検査対象物に励起光を照射する照射工程と、前記励起光の照射に対して遅延して生じた前記検査対象物からの発光の発光データを測定する測定工程と、前記発光データと、前記検査対象物を構成する物質の状態ごとに前記発光データと共通の照射条件で前記励起光を照射した場合に測定された前記検査対象物からの発光の発光データとを照合して、前記検査対象物の状態を特定する特定工程と、を含む。
【0027】
この態様によれば、所定の照射条件で励起光を検査対象物に照射し、それに対して遅延して生じた検査対象物からの発光の発光データに基づいて、検査対象物の状態を特定することができる。
【0028】
上記態様において、前記特定工程においては、記憶部に予め格納された前記検査対象物の参照発光データを読み出し、前記読み出した参照発光データと前記測定された発光データとを用いて前記検査対象物の状態を特定してもよい。
【0029】
この態様によれば、所定の照射条件で励起光を検査対象物に照射し、それに応じて生じた検査対象物からの発光の発光データと、記憶部に予め格納された検査対象物の参照発光データとを用いて、検査対象物の状態を特定することができる。
【0030】
本発明の一態様に係る状態特定プログラムは、コンピュータに、所定の照射条件で検査対象物に励起光を照射する処理と、前記励起光の照射に対して遅延して生じた前記検査対象物からの発光の発光データを測定する処理と、前記発光データと、前記検査対象物を構成する物質の状態ごとに前記発光データと共通の照射条件で前記励起光を照射した場合に測定された前記検査対象物からの発光の発光データとを照合して、前記検査対象物の状態を特定する処理と、を実行させる。
【0031】
この態様によれば、所定の照射条件で励起光を検査対象物に照射し、それに対して遅延して生じた検査対象物からの発光の発光データに基づいて、検査対象物の状態を特定することができる。
【0032】
本発明の一態様に係る状態特定装置は、所定の照射条件で検査対象物に励起光を照射する照射部と、前記励起光の照射に対して遅延して生じた前記検査対象物の発光に関する発光データを測定する測定部と、前記発光データと、前記検査対象物を構成する物質の状態ごとに前記所定の照射条件で前記励起光を照射した場合に遅延して生じた発光に関する発光データとに基づいて、前記検査対象物の状態を特定する特定部と、を備える。
【0033】
この態様によれば、所定の照射条件で励起光を検査対象物に照射し、それに対して遅延して生じた発光に関する発光データに基づいて、検査対象物の状態を特定することができる。
【発明の効果】
【0034】
本発明によれば、検査対象物の状態を、光を用いて特定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
図1】本発明の第1実施形態に係る状態特定装置の機能ブロックを示す図である。
図2】第1実施形態に係る状態特定装置の物理的構成を示す図である。
図3】第1実施形態に係る状態特定装置により測定された発光データを示す図である。
図4】第1実施形態に係る状態特定装置により測定された発光データの第1区間を示す図である。
図5】第1実施形態に係る状態特定装置により測定された発光データの第2区間を示す図である。
図6】物質の昇温時および降温時における発光強度の時間依存性の一例を示す図である。
図7】第1実施形態に係る状態特定装置により測定された発光データの一例を示す図である。
図8】第1実施形態に係る状態特定装置により測定された発光データの一例を示す図である。
図9】第1実施形態に係る状態特定装置により測定された発光データの一例を示す図である。
図10】第1実施形態に係る状態特定装置により実行される状態特定処理のフローチャートを示す図である。
図11】加熱前後の物質ごとの遅延蛍光及び/または燐光の発光強度と、遅延蛍光及び/または燐光の発光継続時間の変化の一例を示す図である。
図12】第2実施形態に係る状態特定装置により実行される状態特定処理のフローチャートを示す図である。
図13】本発明の第3実施形態に係る状態特定装置の機能ブロックを示す図である。
図14】発光強度の時間依存性の一例を示す図である。
図15】外部因子(加熱温度)と官能基の結合の大きさの一例を示す図である。
図16】外部因子(加熱時間)と劣化度の関係の一例を示す図である。
図17】耐久寿命年数と画素値との関係の一例を示す図である。
図18】第3実施形態に係る状態特定装置により実行される状態特定処理のフローチャートを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
(第1実施形態)
以下、本発明の一側面に係る第1実施形態を、図面に基づいて説明する。なお、各図において、同一の符号を付したものは、同一又は同様の構成を有する。
【0037】
図1は、第1実施形態に係る状態特定装置10の機能ブロックを示す図である。状態特定装置10は、設定部11、照射部12、測定部13、記憶部14及び特定部15を備える。状態特定装置10は、任意の照射条件で励起光を検査対象物100に照射し、それに応じて生じた遅延蛍光及び/または燐光の発光データに基づいて、検査対象物100を構成する物質の状態を特定する。物質の状態は、未処理(初期)状態の検査対象物100に対して外部因子が加わることにより変化するものである。物質の状態は、未処理状態の検査対象物100に対して外部因子が加わることにより一度変化したものが、検査対象物100に対して外部作用が更に加わることにより変化したものであってもよい。
【0038】
検査対象物100は、任意の物質で構成される物であってよく、気体、液体及び固体のいずれであってもよく、無機物であっても有機物であってもよく、例えば、紙、コンクリート、粉、樹脂、植物などを含んでもよい。検査対象物100の状態は、外部因子として、例えば、検査対象物100に水分が添加されている状態、pH(酸性度、塩基(アルカリ)度の異なる状態、検査対象物100に電磁波が加えられた状態、検査対象物100が加熱された状態、検査対象物100が空気や各種気体・ガスに晒された状態、および、検査対象物100に機械的応力が加えられた状態などを含む。また、自然環境下では、前記外部因子の組み合わせが一般的であることから、これらの組み合わせであってもよい。状態特定装置10は、検査対象物100を構成する物質の状態ごとに予め測定された発光データに基づいて、検査対象物100の状態を非接触、非破壊、非侵襲で特定することができる。
【0039】
設定部11は、励起光の照射条件を設定する。励起光の照射条件は、励起光の波長、励起光の強度及び励起光の照射時間の少なくともいずれかを含む。例えば、励起光の波長は、紫外線領域の200nm~400nmであってよいが、遠紫外線領域の200nm以下であってもよいし、可視光領域の400nm以上であってもよい。また、励起光の波長が短ければ短いほど(すなわち、エネルギー強度大)遅延蛍光及び/または燐光の発光寿命が長くなる傾向にあるため、発光寿命を物質の状態の特定に用いる場合、励起光の波長を比較的短く設定してよい。また、励起光の強度が強いほど遅延蛍光及び/または燐光の発光寿命が長くなる傾向にあるため、発光寿命を物質の状態の特定に用いる場合、励起光の強度を比較的強く設定してよい。また、励起光の照射時間が長いほど遅延蛍光及び/または燐光の発光寿命が長くなる傾向にあるため、発光寿命を物質の状態の特定に用いる場合、励起光の照射時間を比較的長く設定してよい。ただし、励起光の照射時間を一定時間以上長くしても、遅延蛍光及び/または燐光の発光寿命が変化しなくなる場合があるため、励起光の照射時間は、遅延蛍光及び/または燐光の発光寿命が最大値に近くなる時間のうち最も短い時間に設定してよい。励起光の波長、励起光の強度及び励起光の照射時間の少なくともいずれかを含む照射条件を設定することで、様々な条件で励起光を照射して遅延蛍光及び/または燐光の発光データを測定することができ、物質の状態に特有の発光データを測定して、高精度で物質の状態を特定することができる。
【0040】
照射部12は、設定部11により設定された照射条件で、検査対象物100に励起光を照射する。照射部12は、例えば紫外線レーザや紫外LED(Light Emitting Diode)により構成されてよい。また、照射部12により照射される励起光の波長は、10nm以上であってよい。波長が10nm以上の励起光を用いることで、波長が10nm未満の励起光を用いる場合に比して、検査対象物100に励起光を照射する場合の安全上の管理のみならず、電源制御の管理をも簡素化することができ、状態特定装置10の運用コストを低く抑えることができる。
【0041】
測定部13は、励起光の照射に対して遅延して生じた検査対象物100の発光に関する発光データを測定する。より具体的には、測定部13は、励起光の照射に応じて生じた検査対象物100の遅延蛍光及び/または燐光の発光データを測定する。なお、励起光の照射に対して遅延して生じた検査対象物100の発光は、遅延蛍光及び/または燐光のみならず、他の遅延発光、残光又は蓄光を含んでよい。なお、本明細書において、遅延蛍光は、励起光の照射を停止した直後から発光が長時間継続される現象のほか、励起光の照射を停止した直後からの発光の寿命が数ナノ秒程度と短い現象も含む。また、燐光は、励起光の照射を停止した直後から発光が一定時間継続される現象であり、発光の寿命が10-3~10秒程度であるものを含む。測定部13は、カメラ13aと解析部13bを含む。カメラ13aは、励起光の照射に応じて生じた検査対象物100の遅延蛍光及び/または燐光を撮影する。カメラ13aは、遅延蛍光及び/または燐光を100fps以上のフレームレートで撮影する高速カメラであってよい。高速カメラのフレームレートは、1000fpsや1万fps以上であってもよい。高速カメラを用いることで、励起光照射直後の遅延蛍光及び/または燐光の発光強度が急峻に減衰する現象に対し、高速カメラを適用することではじめて、時間分解画像とその発光強度の時間依存性データを高速かつ高精度に取得でき、物質に特有の遅延蛍光及び/または燐光の発光データを高精度で測定することができる。高速カメラで検査対象物100の遅延蛍光及び/または燐光を撮影する場合、イメージインテンシファイアによって光を増倍した画像を撮影してもよい。また、ビニング機能によって隣接画素を1画素として扱い、感度を向上させて遅延蛍光及び/または燐光の画像を撮影してもよい。また、検査対象物100の光強度に応じて露光時間を動的に変化させてもよい。この場合、カメラ13aの露光時間を長く設定することで、より一層発光強度が低い検査対象物100の遅延蛍光及び/または燐光を検出することができる。なお、カメラ13aの高速撮像の機能を担保するために、カメラ13aの露光時間に上限(例えば、10ms)を設定してもよい。また、撮影した画像に対して縮小処理または膨張処理を施して、S/N比を向上させた画像を生成してもよい。なお、高速カメラで検査対象物100の遅延蛍光及び/または燐光を撮影する場合、フレームレートに応じて励起光の強度を強くしてもよい。また、カメラ13aを使用することで、検査対象物100の二次元または三次元座標上の遅延蛍光及び/または燐光の測定が可能になる。これにより、画素配列に基づいて高分解能で座標位置を特定し、各座標位置に応じて検査対象物100を構成する物質の状態を特定することができる。そのため、従来の蛍光寿命測定と比較して、高速な計測が可能となる。このように本発明の装置では、検査対象物100への短時間(例えば、0.01ミリ秒~500ミリ秒)の励起光照射によって、遅延蛍光や燐光強度の時間依存性データを高い時間分解能(例えば、0.01ミリ秒~10ミリ秒毎)で測定できるというメリットを有する。また、本発明の装置では、短時間の露光で遅延蛍光及び/または燐光を撮影するため、長時間の露光では撮像フレーム間において検査対象物100が移動してしまう状況やモーションブラーが生じてしまう状況においても用いることができるという特徴を有する。
【0042】
なお、カメラ13aのセンサや測定対象の物質の経年劣化が生じた場合、経年劣化の要因を取り除かなければ、経年劣化時における物質の状態を特定することが困難となると考えられる。そこで、カメラ13aにより得られる画像の輝度値を絶対値(物理量)として扱うために、カメラ13aの輝度値と物理量(例えば照度等)を変換可能とするキャリブレーションを事前に実施することが好ましい。例えば、校正済みの照度計や輝度計、経年劣化していない紙のキャリブレーションボード等を組み合わせることで、経年劣化の影響を考慮した補正パラメータを設定し、設定した補正パラメータを用いてカメラ13aの輝度値を補正したうえでキャリブレーションを実施してもよい。
【0043】
解析部13bは、カメラ13aにより撮影された画像に基づき、検査対象物100の遅延蛍光及び/または燐光の発光データを解析する。ここで、発光データは、励起光の照射を止めた後に生じる遅延蛍光及び/または燐光の発光データを含んでよい。もっとも、発光データは、励起光を照射している間に生じる遅延蛍光及び/または燐光の発光データを含んでもよい。励起光の照射中に生じる遅延蛍光及び/または燐光の発光データを用いることなく、励起光の照射を止めた後に生じる遅延蛍光及び/または燐光の発光データのみを用いることで、物質の状態を特定することができる。
【0044】
また、発光データは、カメラ13aにより撮影された画像の輝度分布から求められる発光強度の時間依存性データ及び発光強度の時間減衰曲線の少なくともいずれかを含んでよい。発光強度の時間依存性データ及び発光強度の時間減衰曲線の例は、図3から図8を用いて詳細に説明する。遅延蛍光及び/または燐光について、発光強度の時間依存性データ及び発光強度の時間減衰曲線の少なくともいずれかを測定することで、物質を特徴付ける発光データを測定して、高精度で物質の状態を特定することができる。
【0045】
また、測定部13は、励起光の照射中に生じた検査対象物100の蛍光に関するデータを含む発光データを測定してもよい。すなわち、測定部13は、検査対象物100の遅延蛍光及び/または燐光の発光データのみならず、通常の蛍光に関するデータを測定してもよい。その場合、発光データは、蛍光に関するデータと、遅延蛍光及び/または燐光に関するデータとを含む。このように、遅延蛍光及び/または燐光のみならず、蛍光に関するデータを含む発光データを測定することで、物質の状態を特定することができる。
【0046】
記憶部14は、ある照射条件において、検査対象物100に励起光を照射した場合に測定された遅延蛍光及び/または燐光の発光データ14aと、既知の物質について、1または複数の照射条件で励起光を照射した場合に、様々な物質の様々な状態ごとに測定された遅延蛍光及び/または燐光の発光データ14bとを記憶する。発光データ14a及び発光データ14bは、新品または未処理の検査対象物100から取得されてもよいし、外部因子を印加した検査対象物100から取得されてもよい。例えば、発光データ14aが新品または未処理の検査対象物100から取得されたデータである場合、外部因子を印加した検査対象物100から取得されたデータが発光データ14bとして用いられる。この場合、事例としては、例えば、食品製造プロセス、部品製造プロセスが含まれる。また、発光データ14aが外部因子を印加した検査対象物100から取得されたデータである場合、新品または未処理の検査対象物100から取得されたデータが発光データ14bとして用いられる。この場合、事例としては、例えば、トンネルや橋梁の点検が含まれる。また、外部因子を印加している検査対象物100の状態をリアルタイムに特定する場合、外部因子を印加している検査対象物100から取得したデータが発光データ14aとして用いられ、新品または未処理の検査対象物100から取得されたデータ、あるいは、外部因子が印加された検査対象物100から過去に取得されたデータが発光データ14bとして用いられる。この場合、事例としては、食品製造プロセス、部品製造プロセス、液体や粉体の混合プロセスが含まれる。
【0047】
特定部15は、ある照射条件で励起光を検査対象物100に照射した場合に測定された発光データ14a及び既知の物質に同様の照射条件で励起光を照射した場合に測定された遅延蛍光及び/または燐光の発光データ14bに基づいて、検査対象物100を構成する物質の状態を特定する。より具体的には、まず、検査対象物100の種別を指定した上で、ある照射条件で励起光を検査対象物100に照射した場合に測定された発光データ14aを、指定した種別の物質に同様の照射条件で物質の状態ごとに励起光を照射した場合に測定された遅延蛍光及び/または燐光の発光データ14bと照合して、検査対象物100を構成する物質の状態を特定する。なお、前記種別とは、例えば、紙類(種別1)、樹脂(種別2)、コンクリート(種別3)のように、検査対象物100を構成する物質を大分類したラベルである。特定部15は、設定部11により設定された照射条件を特定し、その照射条件と同一又は最も近い照射条件で測定された既知物質の発光データ14bを特定する。そして、検査対象物100の発光データ14aと、特定された既知物質の発光データ14bとを照合して、発光データの類似度に基づいて、検査対象物100を構成する物質の状態を特定する。
【0048】
例えば、遅延蛍光及び/または燐光の発光スペクトルを用いて物質を特定する場合、検査対象物100について測定されたスペクトルのピークの幅(例えば半値幅)とテールの幅(例えばピークの半値幅より外側であって、ピーク強度の0.1%となるまでの幅)との比率を算出し、既知物質のスペクトルのピークの幅とテールの幅との比率と比較することで、正規化した発光データを用いてロバスト性の高い照合を行うことができる。
【0049】
特定部15は、所定の波長の励起光を検査対象物100に照射して得られた遅延蛍光または燐光の発光強度の時間減衰曲線に基づいて、発光強度の時間減衰曲線を近似する減衰曲線を算出してもよい。特定部15は、例えば、発光強度の時間減衰曲線を、I(t)=Iexp(-t/τ)によって示される関数として近似し、関数の係数であるI及びτを、例えば最小二乗法によって求めてもよい。なお、Iは励起停止時の発光強度を示す係数であり、τは遅延蛍光または燐光の発光寿命を示す係数である。特定部15は、例えば、発光強度の時間減衰曲線から算出される発光寿命を用いて、検査対象物100を構成する物質の状態を特定してもよい。また、特定部15は、例えば、検査対象物100に関する発光の半減期τ/2を、既知物質に関する発光の半減期と比較することにより、検査対象物100を構成する物質の状態を特定してもよい。なお、特定部15は、一般には、発光強度の時間減衰曲線を、I(t)=Σj=1 Iexp(-t/τ)によって示される関数として近似し、関数の係数であるIおよびτを、例えば最小二乗法によって求めてもよい。ここで、Nは1以上の整数である。このように、複数の指数関数の重ね合わせによって発光強度の時間減衰曲線を近似することで、時間減衰曲線を精度良く近似することができる。
【0050】
特定部15は、単一の波長の励起光を検査対象物100に照射して得られた遅延蛍光または燐光の発光スペクトルに関し、異なる波長での遅延蛍光または燐光の発光強度の比率を算出して、検査対象物100を構成する物質の状態を特定してもよい。すなわち、特定部15は、異なる波長での遅延蛍光または燐光の発光強度の相対値を利用することで、検査対象物100を構成する物質の状態を特定してもよい。特定部15は、例えば、検査対象物100について測定された第1波長λ1における発光強度I(λ1)と、第2波長λ2における発光強度I(λ2)との比率I(λ1)/I(λ2)を、既知物質について測定された発光強度の比率I(λ1)/I(λ2)と比較することにより、検査対象物100を構成する物質の状態を特定してもよい。異なる波長での遅延蛍光または燐光の発光強度の比率を取得する方法としては、例えば、カラーカメラにより取得されるRGB画素値をカラーフィルタを通して得られたパラメータとして利用する方法、モノクロカメラにバンドパスフィルタを装着して得られた画素値を利用する方法、ハイパースペトルカメラを利用する方法などが挙げられる。また、特定部15は、異なる波長の励起光を照射して得られた発光スペクトルのピーク波長の差やピーク強度比等を算出し、既知物質の発光スペクトルのピーク波長の差やピーク強度比等と比較して、検査対象物100を構成する物質の状態を特定してもよい。また、特定部15は、遅延蛍光及び/または燐光の発光寿命を用いて物質の状態を特定する場合、検査対象物100について発光寿命が飽和する励起光の強度を特定し、既知物質について発光寿命が飽和する励起光の強度と比較することで、ロバスト性の高い照合を行うことができる。
【0051】
特定部15は、ある照射条件で励起光を検査対象物100に照射した場合に測定された発光データ14aをニューラルネットワーク等の学習モデルに入力し、既知物質におけるいずれの状態の発光データ14bに類似しているかを学習モデルによって特定してもよい。この場合、学習モデルは、様々な発光データを学習データとした教師有り学習で生成されたり、クラスタリング等の教師無し学習によって生成されたりしてよい。ここで、学習モデル、学習データ、発光データ14a及び既知物質の発光データ14bは、通信ネットワークを介してアクセス可能であればよく、必ずしも状態特定装置10の記憶部に記憶されていなくてもよい。
【0052】
このように、第1実施形態に係る状態特定装置10によれば、検査対象物100の種別を事前に指定した上で、任意の照射条件で励起光を検査対象物100に照射し、それに応じて生じた遅延蛍光及び/または燐光の発光データ及び事前に指定した種別の物質について同様の照射条件で測定された遅延蛍光及び/または燐光の発光データに基づいて、物質の状態を特定することができる。
【0053】
例えば、検査対象物100が可視光において見た目が同じだとする。そうした条件で、検査対象物100を構成する物質の状態の同定を蛍光、可視光、及び赤外光によって行うと、物質の状態を判別できない場合がある。一方、検査対象物100が遅延蛍光及び/または燐光の発光現象において状態ごとに異なる特性を有し、遅延蛍光及び/または燐光の発光スペクトルや発光寿命が異なるとすれば、その情報を用いて物質の状態の判別が可能となる。例えば、物質に水分が加わった場合には、物質に水分が加わる前に比して、遅延蛍光及び/または燐光の発光スペクトルや発光寿命が異なることがある。また、物質を加熱した場合には、物質を加熱する前に比して、遅延蛍光及び/または燐光の発光スペクトルや発光寿命が異なることがある。また、物質の性質が劣化した場合には、物質の性質が劣化する前に比して、遅延蛍光及び/または燐光の発光スペクトルや発光寿命が異なることがある。ちなみに、加熱した紙類をFT-IRにより解析すると、C=O結合(C=O伸縮)に由来する1730cmー1付近に吸収ピークが見られることから、紙類のセルロース骨格が酸化劣化していることが示唆された。また、検査対象物100の構成物質にもよるが、加水分解による劣化では特定の官能基、例えば、-OH結合に由来する吸収が認められることが知られ、特に樹脂等においては、-NH結合や-COOH結合等に由来する吸収が認められることが知られている。そのため、これらの結合生成またはそれらの増大する現象に着目し、物質の劣化を考察してもよい。なお、物質の劣化とは、物質に対する外部因子の付与が継続することで、物質の性質が非連続的に変化することである。物質の劣化とは、一般には、物質の性質が不可逆的に変化することを示すが、物質の性質が可逆的に変化することを含めてもよい。
【0054】
また、第1実施形態に係る状態特定装置10によれば、検査対象物100に励起光を照射することで、検査対象物100の状態を非接触、非破壊、非侵襲で特定することができる。そのため、状態特定装置10は、例えば、同じ特性を持つ製品をベルトコンベアで運ぶ際に、水分を誤って含んでしまった製品を異常のある製品として検知することができる。また、状態特定装置10は、例えば、同じ特性を持つ製品をオーブンで熱する際に、オーブンの内部における熱の伝わりやすさにムラが生じた場合、加熱ムラが生じた製品を異常のある製品として検知することができる。
【0055】
また、第1実施形態に係る状態特定装置10によれば、検査対象物100が移動している状況においても、検査対象物100の状態を検出することができる。そのため、状態特定装置10は、例えば、状態特定装置10を搭載した車両の走行時に、トンネルや橋桁等の異常を検知して点検を行うことができる。さらに、状態特定装置10は、高速な画像処理性、および、ロバスト性を有する。そのため、状態特定装置10は、カメラ13aに望遠レンズや広角レンズ等を装着し、遠方に位置するダム、橋梁、防波堤、高層ビル等を対象として、構造物の発光画像を定点観測あるいは移動観測することで、構造物の耐久年数(寿命)を推定することも可能である。
【0056】
図2は、第1実施形態に係る状態特定装置10の物理的構成を示す図である。状態特定装置10は、演算部に相当するCPU(Central Processing Unit)10aと、記憶部に相当するRAM(Random Access Memory)10bと、記憶部に相当するROM(Read Only Memory)10cと、通信部10dと、入力部10eと、表示部10fと、を有する。これらの各構成は、バスを介して相互にデータ送受信可能に構成される。なお、本例では状態特定装置10が一台のコンピュータで構成される場合について説明するが、状態特定装置10は、複数のコンピュータが組み合わされて実現されてもよい。また、図2で示す構成は一例であり、状態特定装置10はこれら以外の構成を有してもよいし、これらの構成のうち一部を有さなくてもよい。
【0057】
CPU10aは、RAM10b又はROM10cに記憶されたプログラムの実行に関する制御やデータの演算、加工を行う制御部である。CPU10aは、発光データに基づいて物質を特定するプログラム(状態特定プログラム)を実行する演算部である。CPU10aは、入力部10eや通信部10dから種々のデータを受け取り、データの演算結果を表示部10fに表示したり、RAM10bやROM10cに格納したりする。
【0058】
RAM10bは、記憶部のうちデータの書き換えが可能なものであり、例えば半導体記憶素子で構成されてよい。RAM10bは、CPU10aが実行する状態特定プログラムや複数の物質に関する遅延蛍光及び/または燐光の発光データ等を記憶してよい。なお、これらは例示であって、RAM10bには、これら以外のデータが記憶されていてもよいし、これらの一部が記憶されていなくてもよい。
【0059】
ROM10cは、記憶部のうちデータの読み出しが可能なものであり、例えば半導体記憶素子で構成されてよい。ROM10cは、例えば状態特定プログラムや、書き換えが行われないデータを記憶してよい。
【0060】
通信部10dは、状態特定装置10を他の機器に接続するインターフェースである。通信部10dは、インターネット等の通信ネットワークに接続されてよい。
【0061】
入力部10eは、ユーザからデータの入力を受け付けるものであり、例えば、キーボード及びタッチパネルを含んでよい。
【0062】
表示部10fは、CPU10aによる演算結果を視覚的に表示するものであり、例えば、LCD(Liquid Crystal Display)により構成されてよい。表示部10fは、物質を特定した結果や測定した発光データを表示してよい。
【0063】
状態特定プログラムは、RAM10bやROM10c等のコンピュータによって読み取り可能な記憶媒体に記憶されて提供されてもよいし、通信部10dにより接続される通信ネットワークを介して提供されてもよい。状態特定装置10では、CPU10aが状態特定プログラムを実行することにより、図1を用いて説明した様々な動作が実現される。なお、これらの物理的な構成は例示であって、必ずしも独立した構成でなくてもよい。例えば、状態特定装置10は、CPU10aとRAM10bやROM10cが一体化したLSI(Large-Scale Integration)を備えていてもよい。
【0064】
図3は、第1実施形態に係る状態特定装置10により測定された発光データLを示す図である。発光データLは、検査対象物100である普通紙に対して特定の波長のレーザを励起光として500msにわたって照射し、カメラ13a(高速カメラ)によって250fpsで照射中及び照射前後の画像を撮像して、撮像結果の画素から励起光が照射されていた中心座標の画素の画素値を8ビット(0~255)で表したものである。同図の横軸は、画像フレーム数であり、横軸の数値を4倍するとms単位に換算できる。また、同図の縦軸は、励起光であるレーザの照射位置における画素値であり、輝度値に相当するものである。
【0065】
発光データLによると、励起光の照射を開始してからすぐに、画素値が最大値(255)に達して、照射中は最大値のまま一定であり、励起光の照射を終了してから遅延蛍光及び/または燐光を発して、画素値が最大値から最小値へ徐々に減衰していることが読み取れる。以下では、励起光の照射を開始した前後の画素値の変化を表す第1区間Aと、励起光の照射を終了した前後の画素値の変化を表す第2区間Bと、についてそれぞれ詳細に説明する。
【0066】
図4は、第1実施形態に係る状態特定装置10により測定された発光データLの第1区間Aを示す図である。同図においても、横軸は画像フレーム数であり、縦軸はレーザ照射位置における画素値である。
【0067】
発光データLの第1区間Aによれば、励起光の照射を開始してから1フレーム(4ms)程度で画素値が最大値に達して、その後一定となる。
【0068】
図5は、第1実施形態に係る状態特定装置10により測定された発光データLの第2区間Bを示す図である。同図においても、横軸は画像フレーム数であり、縦軸はレーザ照射位置における画素値である。
【0069】
発光データLの第2区間Bは、指数減衰区間B1と緩やかな減衰区間B2とを含む。励起光の照射を終了すると、ただちに指数減衰区間B1が始まり、画素値が指数的に減衰する。本例の場合、指数減衰区間B1は、励起光の照射を終了してから5フレーム(20ms)程度にわたって続いており、その間に画素値は最大値から70%ほど減衰している。
【0070】
指数減衰区間B1に続いて、緩やかな減衰区間B2は、24フレーム(96ms)程度にわたって続いており、その間に画素値は最小値まで減衰している。
【0071】
本例では、1台のカメラ13aによって250fpsで励起光を照射した後の画像を撮像しているが、測定部13は、検査対象物100の遅延蛍光及び/または燐光を100fpsより低いフレームレートで撮影するカメラ及び高速カメラを含んでよく、時間変化が比較的速い期間における遅延蛍光及び/または燐光を高速カメラで撮影し、時間変化が比較的遅い期間における遅延蛍光及び/または燐光をカメラで撮影してもよい。ここで、時間変化が比較的速い期間は、例えば指数減衰区間B1であり、時間変化が比較的遅い期間は、例えば減衰区間B2である。この場合、高速カメラは、10nsecオーダーの明るさの変化を捉えられるもの、すなわち108fps程度で画像を撮影するものであってよい。このように、高速カメラと比較的低速なカメラと2台のカメラを用いることで、遅延蛍光及び/または燐光の時間変化が比較的速い期間及び遅い期間いずれにおいても、十分な時間分解能で連続画像を撮影できる。
【0072】
なお、本例では、励起光の照射時間を500msとしているが、この値は任意に設定できる。検査対象物100が普通紙の場合、励起光の照射時間を200ms程度以上とすれば、遅延蛍光及び/または燐光の寿命が飽和する傾向にある。このように、検査対象物100に対する励起光の照射時間は、遅延蛍光及び/または燐光の寿命が飽和する照射時間以上となるように設定されてよい。
【0073】
図6は、物質の昇温時および降温時における発光強度の時間依存性の一例を示す図である。図6に示すように、時刻t1においては、物質は未処理となっており、物質の温度は室温と同程度となっている。また、時刻t2において物質の昇温が開始され、時刻t4において物質の昇温が停止されている。また、時刻t5において物質の降温が開始され、時刻t7において物質の降温が停止されている。時刻t0から時刻t1の間には、励起光をオンにするための出力信号が出力されている。時刻t1から時刻t2の間には、カメラ13aの撮像信号が連続して出力されている。そして、物質の未処理時において、励起光が照射された直後の物質の発光画像に基づいて、時刻t1から発光強度が次第に減少するように、発光強度の時間依存性が観測されている。時刻t2から時刻t3の間には、励起光をオンにするための出力信号が出力されている。時刻t3から時刻t4の間には、カメラ13aの撮像信号が連続して出力されている。そして、物質の昇温時において、励起光が照射された直後の物質の発光画像に基づいて、時刻t3から発光強度が次第に減少するように、発光強度の時間依存性が観測されている。時刻t5から時刻t6の間には、励起光をオンにするための出力信号が出力されている。時刻t6から時刻t7の間には、カメラ13aの撮像信号が連続して出力されている。そして、物質の降温時において、励起光が照射された直後の物質の発光画像に基づいて、時刻t6から発光強度が次第に減少するように、発光強度の時間依存性が観測されている。このように、状態特定装置10は、物質の昇温時及び降温時における物質の状態をリアルタイムに特定することが可能である。その他、状態特定装置10は、吸水時や応力印加時などにも適用することが可能である。
【0074】
図7は、第1実施形態に係る状態特定装置10により測定された発光データの一例を示す図である。発光データは、検査対象物100の一例であるティッシュに対して励起光を照射した後に測定された遅延蛍光及び/または燐光の発光強度の時間依存性データである。同図では、紙類に対して水分を添加していない状態、紙類に対して水分を添加した状態、および、紙類に対して水分を添加した後に紙類を自然乾燥させた状態の各々における遅延蛍光及び/または燐光の発光強度の時間依存性データを示す。
【0075】
特定部15は、例えば、発光強度の時間依存性データの形状を用いて、検査対象物100を構成する物質の状態を特定する。本例の場合、紙類に対して水分を添加した場合には、紙類に対して水分を添加する前に比して、発光強度が低くなる。また、本例の場合、紙類に対して水分を添加した後に紙類を自然乾燥させたとしても、紙類に対して水分を添加する前の水準まで遅延蛍光及び/または燐光の発光強度は戻らない。特定部15は、このような発光強度の時間依存性データの形状の特徴を抽出して、既知物質の発光強度の時間依存性データの形状の特徴と比較することにより、検査対象物100を構成する物質に水分が添加されたか否かを特定する。
【0076】
図8は、第1実施形態に係る状態特定装置10により測定された発光データの一例を示す図である。発光データは、検査対象物100の一例である紙類に対して励起光を照射した後に測定された遅延蛍光及び/または燐光の発光強度の時間依存性データである。同図では、二種類の紙類(「紙類1」、「紙類2」)の各々を加熱していない状態、および、二種類の紙類(「紙類1」、「紙類2」)の各々に対して2つのパターンの加熱時間(「60秒」、「120秒」)で加熱した直後の状態の各々における遅延蛍光及び/または燐光の発光強度の時間依存性データを示す。
【0077】
特定部15は、例えば、発光強度の時間依存性データの形状を用いて、検査対象物100を構成する物質の状態を特定する。本例の場合、二種類の紙類の各々を加熱した場合には、二種類の紙類の各々を加熱する前に比して、発光強度が強くなる。また、本例の場合、二種類の紙類の各々に対する加熱時間が長くなるほど、発光強度が強くなる。特定部15は、このような発光強度の時間依存性データの形状の特徴を抽出して既知物質の発光強度の時間依存性データの形状の特徴と比較することにより、検査対象物100を構成する物質が加熱されたか否かを特定する。
【0078】
図9は、第1実施形態に係る状態特定装置10により測定された発光データの一例を示す図である。発光データは、検査対象物100の一例である紙類に対して励起光を照射した後に測定された遅延蛍光及び/または燐光の発光強度の時間依存性データである。同図では、紙類を加熱していない状態、紙類を一定時間(例えば、60秒)だけ加熱した状態、および、紙類を一定時間だけ加熱した後に一定時間(例えば、30分)の間だけ自然放熱させた状態の各々における遅延蛍光及び/または燐光の発光強度の時間依存性データを示す。
【0079】
特定部15は、例えば、発光強度の時間依存性データの形状を用いて、検査対象物100を構成する物質の状態を特定する。本例の場合、紙類を加熱した場合には、紙類を加熱する前に比して、発光強度が強くなる。また、本例の場合、紙類を加熱した後に一定時間の間だけ自然放熱させると、発光強度は紙類を加熱する前の水準まで低下する。特定部15は、このような発光強度の時間依存性データの形状の特徴を抽出して既知物質の発光強度の時間依存性データの形状の特徴と比較することにより、検査対象物100を構成する物質が加熱され、かつ、加熱された直後であるかどうかを特定する。
【0080】
図10は、第1実施形態に係る状態特定装置10により実行される状態特定処理のフローチャートである。はじめに、状態特定装置10は、検査対象物100の種別を指定する(S10)。次に、状態特定装置10は、励起光の照射条件を設定する(S11)。そして、設定された照射条件で検査対象物100に励起光を照射する(S12)。
【0081】
状態特定装置10は、励起光の照射に応じて生じた検査対象物100の遅延蛍光及び/または燐光をカメラ13aで撮影する(S13)。そして、状態特定装置10は、撮影された画像に基づき、遅延蛍光及び/または燐光の発光データを解析する(S14)。ここで、発光データは、発光強度の時間依存性データ及び発光強度の時間減衰曲線を含んでよい。
【0082】
状態特定装置10は、得られた発光データと、予め指定された種別の物質に同様の照射条件で励起光を照射した場合に測定された遅延蛍光及び/または燐光の発光データとを照合する(S15)。そして、状態特定装置10は、発光データの類似度に基づいて、検査対象物100を構成する物質の状態を特定する(S16)。以上により、状態特定処理が終了する。
【0083】
(第2実施形態)
以下、本発明の一側面に係る第2実施形態を、図面に基づいて説明する。第2実施形態は、検査対象物の状態を特定する方法が第1実施形態と異なる。したがって、以下の説明においては、第1実施形態と相違する構成について主に説明し、第1実施形態と同一のまたは相当する構成については重複する説明を省略する。
【0084】
第2実施形態に係る特定部15は、外的要因が変化する前の検査対象物100、および、外的要因が変化した後の検査対象物100に対し、所定の照射条件で励起光を照射し、励起光の照射に応じて生じた検査対象物100の発光データを処理の前後で比較することにより、検査対象物100の状態を特定する。外的要因は、例えば、検査対象物100に対して施される所定の処理を含む。所定の処理は、例えば、検査対象物100に対する水分の添加や加熱を含む。特定部15は、例えば、処理前の検査対象物100に対する処理後の検査対象物100の発光データの変化量に基づいて、検査対象物100の状態を特定する。処理前の検査対象物100は、未処理の検査対象物100であってもよいし、所定の処理が過去に施された検査対象物100であってもよい。特定部15は、例えば、検査対象物100の種別、および、検査対象物100の処理の前後における発光データの変化の傾向が事前に取得されていることを前提として、処理の前後における検査対象物100の発光データの変化量に基づいて、検査対象物100の状態を特定する。特定部15は、例えば、検査対象物100が加熱により発光データが強まる傾向にある場合には、処理の前後における検査対象物100の発光データの増加量に基づいて、検査対象物100の状態を特定する。特定部15は、例えば、処理の前後における検査対象物100の発光データの増加量が所定の閾値以上である場合、検査対象物100が加熱により劣化したことを特定する。特定部15は、例えば、処理の前後における検査対象物100の発光データの増加量に基づいて、検査対象物100が加熱により劣化した度合いを定量的に評価してもよい。
【0085】
図11は、加熱温度200℃で加熱した直後の物質ごとの遅延蛍光及び/または燐光の発光強度と、遅延蛍光及び/または燐光の発光継続時間の変化の一例を示す図である。同図では、複数の物質(「物質1」、「物質2」、「物質3」、「物質4」、「物質5」、「物質6」、「物質7」)について、加熱温度200℃で加熱した直後の遅延蛍光及び/または燐光の発光強度および遅延蛍光及び/または燐光の発光継続時間の変化の一例を示している。この例では、蛍光強度は、いずれの物質も加熱の前後で大きな変化は見られない。その一方で、遅延蛍光及び/または燐光の発光継続時間は、「物質1」、「物質2」、「物質3」、「物質4」、「物質5」、および、「物質7」については、加熱前後で変化が見られるものの、「物質6」については、加熱前後で大きな変化は見られない。また、遅延蛍光及び/または燐光の発光継続時間は、「物質1」、「物質2」、「物質3」、「物質4」、「物質5」、および、「物質7」の各々について、加熱前後の変化量は互いに異なる。
【0086】
特定部15は、加熱前後の検査対象物100の遅延蛍光及び/または燐光の発光継続時間の変化量に基づいて、検査対象物100の状態を特定する。特定部15は、例えば、検査対象物100の種別を「物質1」~「物質7」の中から指定する。また、特定部15は、指定した種別の検査対象物100について、加熱前後における検査対象物100の遅延蛍光及び/または燐光の発光継続時間の変化量に基づいて、検査対象物100の状態を特定する。特定部15は、例えば、予め決められた加熱条件で検査対象物100を加熱した場合の検査対象物100の遅延蛍光及び/または燐光の発光継続時間の変化量と、同様の加熱条件で指定した種別の物質を加熱した場合の遅延蛍光及び/または燐光の発光継続時間の変化量とを比較することで、検査対象物100の状態を特定する。特定部15は、例えば、予め決められた加熱条件で検査対象物100を加熱した場合の検査対象物100の遅延蛍光及び/または燐光の発光継続時間の変化量と、指定した種別に対応する閾値とを比較し、遅延蛍光及び/または燐光の発光継続時間の変化量が閾値以上である場合に検査対象物100が加熱により劣化したことを特定する。
【0087】
図12は、第2実施形態に係る状態特定装置10により実行される状態特定処理のフローチャートである。はじめに、状態特定装置10は、検査対象物100の種別を指定する(S20)。次に、状態特定装置10は、検査対象物100に施す処理の種別を指定する(S21)。次に、状態特定装置10は、処理の前後における検査対象物100の発光強度の変化の傾向を取得する(S22)。状態特定装置10は、例えば、処理の前後において検査対象物100の発光強度が増加傾向にあるのか、又は、減少傾向にあるのかについて取得する。次に、状態特定装置10は、励起光の照射条件を設定する(S23)。次に、状態特定装置10は、処理前の検査対象物100に対し、予め設定された照射条件で励起光を照射する(S24)。状態特定装置10は、励起光の照射に応じて生じた検査対象物100の遅延蛍光及び/または燐光をカメラ13aで撮影する(S25)。そして、状態特定装置10は、撮影された画像に基づき、遅延蛍光及び/または燐光の発光データ(第1発光データ)を解析する。ここで、第1発光データは、発光強度の時間依存性データ及び発光強度の時間減衰曲線を含んでよい。次に、状態特定装置10は、処理後の検査対象物100に対し、予め設定された照射条件で励起光を照射する(S26)。状態特定装置10は、励起光の照射に応じて生じた検査対象物100の遅延蛍光及び/または燐光をカメラ13aで撮影する(S27)。そして、状態特定装置10は、撮影された画像に基づき、遅延蛍光及び/または燐光の第2発光データを解析する。ここで、第2発光データは、発光強度の時間依存性データ及び発光強度の時間減衰曲線を含んでよい。状態特定装置10は、処理の前後における発光強度の変化量に基づいて、検査対象物100の状態を特定する(S28)。以上により、状態特定処理が終了する。
【0088】
(第3実施形態)
以下、本発明の一側面に係る第3実施形態を、図面に基づいて説明する。第3実施形態は、検査対象物の状態を特定する方法が第1実施形態と異なる。したがって、以下の説明においては、第1実施形態と相違する構成について主に説明し、第1実施形態と同一のまたは相当する構成については重複する説明を省略する。
【0089】
図13は、第3実施形態に係る状態特定装置10の記憶部14は、第1記憶部14Aと、第2記憶部14Bとを備える。
【0090】
第1記憶部14Aは、ある照射条件において、検査対象物100に励起光を照射した場合に測定された遅延蛍光及び/または燐光の発光データ14Aaと、既知の物質について、1又は複数の照射条件で励起光を照射した場合に、様々な物質の様々な状態ごとに測定された遅延蛍光及び/または燐光の発光データ14Abとを記憶する。
【0091】
第2記憶部14Bは、既知の物質について、1又は複数の照射条件で励起光を照射した場合に測定された吸収スペクトルデータ14Baと、既知の物質について、1又は複数の照射条件で励起光を照射した場合に測定された既知物質の劣化した度合いを示す劣化度データ14Bbとを記憶する。吸収スペクトルデータ14Baと劣化度データ14Bbとは、既知の物質の種別と励起光の照射条件との組み合わせごとに既知データベースとして対応付けられている。なお、吸収スペクトルとしては、例えば、赤外吸収スペクトルやラマンスペクトル等を挙げることができる。
【0092】
特定部15は、予め指定された種別の物質の劣化度合いごとの吸収スペクトルデータ14Baと測定部13により測定された検査対象物100の吸収スペクトルデータとを照合して、検査対象物100が劣化した度合いを特定する。特定部15は、例えば、測定部13により測定された発光データ14Aaに基づいて検査対象物100の吸収スペクトルデータを算出し、算出した吸収スペクトルデータと第2記憶部14Bに予め格納された既知の物質の種別ごとの吸収スペクトルデータ14Baとを照合する。そして、特定部15は、照合された吸収スペクトルデータ14Baに対応付けられた劣化度データ14Bbに基づいて、検査対象物100が劣化した度合いを特定する。
【0093】
次に、検査対象物100が劣化した度合いを特定する処理について説明する。
【0094】
図14は、発光強度の時間依存性の一例を示す図である。同図に示す例では、検査対象物100が紙類であって、紙類を加熱した直後からの発光時間と画素値との相関関係を示している。この例では、画像フレームにおける紙類の発光強度を示す輝度値を画素値として評価し、紙類を加熱した直後からの画像フレーム数を発光時間として評価し、紙類の加熱温度をRT(室温)、T1、T2、T3の四段階に分類している。加熱温度は、RT<T1<T2<T3の関係を満たしている。この例では、紙類の加熱温度が高いほど、発光時間の経過に伴う発光強度の減衰の度合いが小さいことを示している。
【0095】
図15は、外部因子と官能基の結合の大きさの一例を示す図である。同図に示す例では、検査対象物100が紙類であって、紙類の加熱時間と紙類の酸化劣化により生じる官能基の一例であるC=O結合の大きさとの相関関係を示している。この例では、加熱した紙類をFT-IRにより解析したときのC=O結合に由来する1730cm-1付近の吸収ピークの大きさをC=O結合の大きさとして評価し、紙類の加熱温度をRT、T1、T2、T3の四段階に分類している。この例では、紙類の加熱温度が高いほど、紙類の加熱に伴う酸化劣化が進行することを示している。
【0096】
図16は、外部因子と劣化度の関係の一例を示す図である。同図に示す例では、検査対象物100が紙類であって、紙類の加熱時間と紙類の劣化度との相関関係を示している。この例では、図15に示した紙類の加熱に伴うC=O結合の大きさを紙類の劣化度として評価し、紙類の加熱温度をRT、T1、T2、T3の四段階に分類している。この例では、紙類の加熱温度が高いほど、紙類の劣化度が劣化閾値に達するまでの加熱時間が短いことを示している。
【0097】
図17は、耐久寿命年数と画素値との関係の一例を示す図である。同図に示す例では、検査対象物100が紙類であって、紙類を加熱してからの経過年数と画素値との相関関係を示している。この例では、紙類の発光強度を示す輝度値を画素値として評価し、紙類の加熱温度をRT、T1、T2、T3の四段階に分類している。この例では、グラフの横軸の原点が紙類を加熱した直後(例えば、20m秒後)の時点を示しており、紙類を加熱してからの画素値が低くなるほど、紙類の劣化が進行していることを示している。また、この例では、紙類の加熱温度が高いほど、紙類を加熱してからの経過年数に伴う紙類の劣化の進行が早く、紙類の発光強度が耐久寿命年数に相当する閾値に達するまでの経過年数が短いことを示している。状態特定装置10は、紙類を加熱してから所定期間内の画素値の推移から紙類の劣化予測線を算出し、劣化予測線と耐久寿命に相当する閾値との交点を求めることで、紙類の耐久寿命年数を推定することが可能である。
【0098】
図18は、第3実施形態に係る状態特定装置10により実行される状態特定処理のフローチャートである。はじめに、状態特定装置10は、検査対象物100の種別を指定する(S30)。次に、状態特定装置10は、励起光の照射条件を設定する(S31)。そして、設定された照射条件で検査対象物100に励起光を照射する(S32)。
【0099】
状態特定装置10は、励起光の照射に応じて生じた検査対象物100の遅延蛍光及び/または燐光をカメラ13aで撮影する(S33)。そして、状態特定装置10は、撮影された画像に基づき、遅延蛍光及び/または燐光の発光データを解析する(S34)。ここで、発光データは、発光強度の時間依存性データ及び発光強度の時間減衰曲線を含んでよい。
【0100】
状態特定装置10は、得られた発光データと、予め指定された種別の物質に同様の照射条件で励起光を照射した場合に測定された遅延蛍光及び/または燐光の発光データとを照合する(S35)。
【0101】
状態特定装置10は、予め指定された種別の物質の吸収スペクトルの測定データ、または既知データベースから読み出した吸収スペクトルのデータに基づいて、特定結合分子の生成の有無や大きさを照合する(S36)。特定結合分子は、例えば、C=O結合、-OH結合、-NH結合、-COOH結合など、検査対象物100の劣化により生成される特定の官能基を含む。
【0102】
そして、状態特定装置10は、先のステップS36において照合された特定結合分子の生成の有無や大きさに基づいて、検査対象物100を構成する物質の劣化した度合い(劣化度)を特定する(S37)。以上により、状態特定処理が終了する。
【0103】
以上説明した実施形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定して解釈するためのものではない。実施形態が備える各要素並びにその配置、材料、条件、形状及びサイズ等は、例示したものに限定されるわけではなく適宜変更することができる。また、異なる実施形態で示した構成同士を部分的に置換し又は組み合わせることが可能である。
【符号の説明】
【0104】
10…状態特定装置、10a…CPU、10b…RAM、10c…ROM、10d…通信部、10e…入力部、10f…表示部、11…設定部、12…照射部、13…測定部、13a…カメラ、13b…解析部、14…記憶部、14A…第1記憶部、14B…第2記憶部、14a,14Aa,14Ab…発光データ、14b…既知物質の発光データ、14Ba…既知物質の吸収スペクトルデータ、14Bb…既知物質の劣化した度合い(劣化度)データ、15…特定部、100…検査対象物。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18