(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-08
(45)【発行日】2023-09-19
(54)【発明の名称】粉体及び固体組成物
(51)【国際特許分類】
C01G 23/04 20060101AFI20230911BHJP
【FI】
C01G23/04 B
(21)【出願番号】P 2019130484
(22)【出願日】2019-07-12
【審査請求日】2022-06-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000002093
【氏名又は名称】住友化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100124062
【氏名又は名称】三上 敬史
(72)【発明者】
【氏名】土居 篤典
(72)【発明者】
【氏名】島野 哲
【審査官】大西 美和
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第06066585(US,A)
【文献】特開2012-056835(JP,A)
【文献】特開2000-095541(JP,A)
【文献】ISOBE, Toshihiro et al.,Preparation and properties of negative thermal expansion Zr2WP2O12 ceramics,Materials Research Bulletin,2009年11月
【文献】SHANG, Rui et al.,Effect of MgO and PVA on the Synthesis and Properties of Negative Thermal Expansion Ceramics of Zr2(WO4)(PO4)2,International Journal of Applied Ceramic Technology,2013年09月,Vol.10, No.5,p.849-856
【文献】CHEN, J. et al.,Applied Physics Letters,2006年,89,101914,10.1063/1.2347279
【文献】VIOLINI, M. A. et al.,Ceramics International,44(17),2018年,pp.21470-21477
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01G1/00-23/08
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
チタンを含有する金属酸化物粉であり、以下の要件1及び要件2を満たす、粉体。
要件1:-200℃~1200℃における少なくとも一つの温度T1で|dA(T)/dT|が10ppm/℃以上を満たす。
Aは(前記粉体中の結晶のa軸(短軸)の格子定数)/(前記粉体中の結晶のc軸(長軸)の格子定数)であり、各前記格子定数は前記粉体のX線回折測定から得られる。
要件2:レーザー回折散乱法により得られる体積基準累積粒子径分布曲線における、累積頻度が50%となる粒子径D50、累積頻度が10%となる粒子径D10、及び累積頻度が90%となる粒子径D90が、下記条件(I)及び(II)を満たす。
(I)D50に対するD10の比(D10/D50)が、0.05以上0.45以下である。
(II)D90が、0.5μm以上70μm以下である。
【請求項2】
前記チタンを含有する金属酸化物粉が、TiO
x(x=1.30~1.66)粉である、請求項
1に記載の粉体。
【請求項3】
D50が、0.5μm以上60μm以下である、請求項1
又は2に記載の粉体。
【請求項4】
請求項1~
3のいずれか1項に記載の粉体と第一の材料とを含む、固体組成物。
【請求項5】
前記第一の材料が、樹脂、アルカリ金属珪酸塩、セラミックス、及び、金属からなる群より選ばれる少なくとも1つである、請求項
4に記載の固体組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粉体及び固体組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、固体材料の熱線膨張係数を低減させるために、正の熱線膨張係数を示す固体材料に、負の熱線膨張係数を示す固体材料を添加することが知られている。
【0003】
例えば、特許文献1には、負の熱線膨張係数を示す材料としてのリン酸タングステンジルコニウムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の材料においては、必ずしも充分に熱線膨張係数を下げられているわけではない。
【0006】
ところで、膜形状の材料は、例えば、インク等の組成物を塗工することにより形成できる。このような組成物は、塗工性に優れることが求められる。
【0007】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、熱膨張制御特性に優れると共に、塗工性に優れる組成物を形成し得る粉体、及びこれを用いた固体組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、種々検討した結果、本発明に至った。すなわち本発明は、下記の発明を提供するものである。
【0009】
本発明に係る粉体は、以下の要件1及び要件2を満たす。
要件1:-200℃~1200℃における少なくとも一つの温度T1で|dA(T)/dT|が10ppm/℃以上を満たす。
Aは(前記粉体中の結晶のa軸(短軸)の格子定数)/(前記粉体中の結晶のc軸(長軸)の格子定数)であり、各前記格子定数は前記粉体のX線回折測定から得られる。
要件2:レーザー回折散乱法により得られる体積基準累積粒子径分布曲線における、累積頻度が50%となる粒子径D50、累積頻度が10%となる粒子径D10、及び累積頻度が90%となる粒子径D90が、下記条件(I)及び(II)を満たす。
(I)D50に対するD10の比(D10/D50)が、0.05以上0.45以下である。
(II)D90が、0.5μm以上70μm以下である。
【0010】
前記粉体は、金属酸化物粉であることができる。
【0011】
前記金属酸化物粉は、d電子を有する金属を含有する金属酸化物粉であることができる。
【0012】
前記金属酸化物粉は、チタンを含有する金属酸化物粉であることができる。
【0013】
前記チタンを含有する金属酸化物粉は、TiOx(x=1.30~1.66)粉であることができる。
【0014】
D50は、0.5μm以上60μm以下であることができる。
【0015】
本発明に係る固体組成物は、前記粉体と第一の材料とを含む。
【0016】
前記第一の材料は、樹脂、アルカリ金属珪酸塩、セラミックス、及び、金属からなる群より選ばれる少なくとも1つであることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、熱膨張制御特性に優れると共に、塗工性に優れる組成物を形成し得る粉体、及びこれを用いた固体組成物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】比較例1の粉体におけるa軸長/c軸長の温度Tとの関係を示す図である。
【
図2】実施例1~3及び比較例1~2の塗工性評価に係る図である。
【
図3】実施例1の粉体の粒子径分布を示す図である。
【
図4】実施例3の粉体の粒子径分布を示す図である。
【
図5】比較例1の粉体の粒子径分布を示す図である。
【
図6】比較例2の粉体の粒子径分布を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0020】
<粉体>
本発明に係る粉体は、以下の要件1及び要件2を満たす。
【0021】
要件1:-200℃~1200℃における少なくとも一つの温度T1で|dA(T)/dT|が10ppm/℃以上を満たす。
Aは(前記粉体中の結晶のa軸(短軸)の格子定数)/(前記粉体中の結晶のc軸(長軸)の格子定数)であり、各前記格子定数は前記粉体のX線回折測定から得られる。
【0022】
要件2:レーザー回折散乱法により得られる体積基準累積粒子径分布曲線における、累積頻度が50%となる粒子径D50、累積頻度が10%となる粒子径D10、及び累積頻度が90%となる粒子径D90が、下記条件(I)及び(II)を満たす。
(I)D50に対するD10の比(D10/D50)が、0.05以上0.45以下である。
(II)D90が、0.5μm以上70μm以下である。
【0023】
Aの定義における格子定数は、粉末X線回折測定により特定される。解析法としてはRietveld法や、最小二乗法によるフィッティングによる解析がある。
【0024】
本明細書においては、粉末X線回折測定により特定された結晶構造において、最も小さい格子定数に対応する軸をa軸、最も大きい格子定数に対応する軸をc軸とする。結晶格子のa軸の長さとc軸の長さを、それぞれ、a軸長、c軸長とする。
【0025】
A(T)は、結晶軸の長さの異方性の大きさを示すパラメータであり、温度T(単位は℃)の関数である。A(T)の値が大きいほど、a軸長がc軸長に対して大きく、Aの値が小さいほど、a軸長はc軸長に対して小さい。
【0026】
ここで、|dA(T)/dT|は、dA(T)/dTの絶対値を表し、dA(T)/dTは、A(T)のT(温度)による微分を表す。
ここで、本明細書においては、|dA(T)/dT|は、以下の式により定義される。
|dA(T)/dT|=|A(T+50)-A(T)|/50 …(D)
【0027】
上述のように、本実施形態に係る粉体は、-200℃~1200℃における少なくとも一つの温度T1で|dA(T)/dT|が10ppm/℃以上を満たすことが必要である。ただし、|dA(T)/dT|は、粉体が固体状態で存在する範囲内で定義される。したがって、(D)式におけるTの最高温度は、粉体の融点よりも50℃低い温度までである。すなわち、「-200℃~1200℃における少なくとも一つの温度T1」の限定が付された場合、(D)式におけるTの温度範囲は-200~1150℃となる。
【0028】
-200℃~1200℃における少なくとも一つの温度T1で|dA(T)/dT|は、20ppm/℃以上であることが好ましく、30ppm/℃以上であることがより好ましい。|dA(T)/dT|の上限は、1000ppm/℃以下であることが好ましく、500ppm/℃以下であることがより好ましい。
【0029】
少なくとも一つの温度T1で|dA(T)/dT|の値が10ppm/℃以上であることは、温度変化に伴う結晶構造の異方性の変化が大きいことを意味する。
【0030】
少なくとも一つの温度T1において、dA(T)/dTは正でも負でもよいが、負であることが好適である。
【0031】
粉体中の結晶の種類によっては、或る温度範囲で構造相転移により結晶構造が変化する物が有る。本明細書においては或る温度における結晶構造において、結晶格子定数が最も大きい軸をc軸、結晶格子定数が最も小さい軸をa軸とする。三斜晶系、単斜晶系、直方晶系、正方晶系、六方晶系、菱面体晶系いずれの晶系においても、a軸、c軸については上記の定義とする。
【0032】
レーザー回折散乱法による体積基準累積粒子径分布曲線の測定方法を以下に示す。
前処理として、粉体1重量部に対して水を99重量部加えて希釈し、超音波洗浄機により超音波処理を行う。超音波処理時間は10分間とする。超音波洗浄機としては、日本精機製作所製のNS200-6Uを用いることができる。超音波の周波数としては、28kHz程度で実施する。
測定はレーザー回折散乱法により、体積基準の粒子径分布を測定する。例えば、Malvern Instruments Ltd. 製 レーザー回折式粒度分布測定装置 Mastersizer 2000を用いることができる。
粉体がTi2O3粉である場合、Ti2O3粒子の屈折率を2.40として測定することができる。
本明細書では、体積基準累積粒子径分布曲線において、累積頻度を粒子径の小さい方から計算して、累積頻度が10%となる粒子径をD10、累積頻度が50%となる粒子径をD50、累積頻度が90%となる粒子径をD90とする。
上述のように、本実施形態に係る粉体において、D10/D50は、0.05以上0.45以下である必要がある。D10/D50は、0.10以上であることが好ましく、0.20以上であることがより好ましい。D10/D50は、0.44以下であることが好ましく、0.43以下であることがより好ましい。D10/D50が、このような範囲であると、熱膨張抑制特性が向上する。D10/D50が0.05以上であると、樹脂などのマトリックス材料に混合した際の均一分散性を保ち易い。
【0033】
D10/D50が小さいほど、粉体における粒子径のばらつきは大きいことを示し、D10/D50が大きいほど、粉体における粒子径のばらつきが小さいことを示すものと考えられる。本発明者らは、このようなばらつきとD90の値との組み合わせが、熱線膨張係数の制御特性に影響しているものと推測している。
【0034】
上述のように、本実施形態に係る粉体において、D90は、0.5μm以上70μm以下である必要がある。D90は、0.6μm以上であることが好ましく、0.7μm以上であることがより好ましい。D90は、60μm以下であることが好ましく、40μm以下であることがより好ましい。D90がこのような範囲であると、塗工性が向上する。D90が0.5μm以上であると、凝集粒を作りにくく、樹脂などのマトリックス材料と混錬した際の均一性が向上し易い。
【0035】
D50は0.5μm以上60μm以下であることが好ましい。D50が60μm以下であると、塗工性が向上し易い傾向にある。D50が0.5μm以上であると、凝集粒を作りにくく、樹脂などのマトリックス材料と混錬した際の均一性が向上し易い。D50は、40μm以下であることがより好ましく、30μm以下であることが更に好ましく、20μm以下であることが特に好ましい。
【0036】
本実施形態に係る粉体のBET比表面積は、0.1m2/g以上5.0m2/g以下であることが好ましく、0.2m2/g以上4.5m2/g以下であることがより好ましく、0.22m2/g以上3.0m2/g以下であることが更に好ましい。粉体のBET比表面積がこのような範囲であると、樹脂などのマトリックス材料に混合した際の均一性分散性が保ち易い。
BET比表面積の測定方法を以下に示す。
前処理として窒素雰囲気中で200℃、30分間乾燥した後、測定を実施する。測定法としてはBET流動法を用いる。測定条件としては、窒素ガス及びヘリウムガスの混合ガスを用いる。混合ガス中の窒素ガスの割合は30体積%とし、混合ガス中のヘリウムガスの割合は70体積%で実施する。測定装置としては、例えばBET比表面積測定装置 Macsorb HM-1201(マウンテック社製)を用いることができる。
【0037】
粉体は、酸化物粉であることが好ましい。特に、粉体は金属酸化物粉であることがより好ましい。金属酸化物粉は、複数の金属を含有してもよい。
【0038】
金属酸化物粉としては、特に限定はされないが、d電子を有する金属を含有する金属酸化物粉であることが好ましく、より好ましくはd電子のうち3d電子のみを有する金属を含有する金属酸化物粉が好ましい。
【0039】
d電子を有する金属を含有する金属酸化物粉としては、特に限定はされないが、例えば、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Y、Zr、Nb、Moを含有する金属酸化物粉が挙げられる。
【0040】
d電子のうち3d電子のみを有する金属を含有する金属酸化物粉としては、例えばSc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cuを含有する金属酸化物粉が挙げられる。中でも、資源性の観点から、チタンを含有する金属酸化物粉が好ましい。
【0041】
より具体的には、チタンを含有する金属酸化物粉は、組成式としてTiOx(x=1.30~1.66)で表される粉体であることが好ましく、TiOx(x=1.40~1.60)という組成式で表される粉体であることが更に好ましい。TiOxにおいて、Ti原子の一部が他の元素で置換されていてもよい。
【0042】
なお、チタンを含有する金属酸化物粉は、TiOx粉以外に、LaTiO3のようなチタン及びチタン以外の金属原子を含む酸化物粉であってもよい。
【0043】
粉体を構成する粒子の結晶構造としては、ペロブスカイト構造またはコランダム構造を有することが好ましく、コランダム構造を有することがより好ましい。
【0044】
結晶系としては特に限定はされないが、菱面体晶系であることが好ましい。空間群としては、R-3cに帰属されることが好ましい。
【0045】
粉体が金属酸化物粉である場合、-200℃~1200℃における|dA(T)/dT|が、少なくとも一つの温度で10ppm/℃以上である。
【0046】
粉体がd電子を有する金属を含有する金属酸化物粉である場合、-100℃~1000℃における|dA(T)/dT|が、少なくとも一つの温度で10ppm/℃以上であることが好適である。
【0047】
粉体がd電子のうち3d電子のみを有する金属を含有する金属酸化物粉である場合、-100℃~800℃における|dA(T)/dT|が、少なくとも一つの温度で10ppm/℃以上であることが好適である。
【0048】
粉体がTiOx(x=1.30~1.66)である場合、0℃~500℃における|dA(T)/dT|が、少なくとも一つの温度で10ppm/℃以上であることが好適である。
【0049】
<固体組成物>
本実施形態に係る固体組成物は、本実施形態に係る粉体と第一の材料とを含む。
【0050】
[第一の材料]
第一の材料としては、特に限定はされないが、樹脂、アルカリ金属珪酸塩、セラミックス、金属などを挙げることができる。第一の材料は、上記の粉体同士を結合させるバインダ材料、又は、上記の粉体を分散状態で保持するマトリクス材料であることができる。
【0051】
樹脂の例は、熱可塑性樹脂及び熱硬化性樹脂である。
【0052】
熱硬化性樹脂の例は、エポキシ樹脂、オキセタン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、フェノール樹脂(ノボラック樹脂、レゾール樹脂など)、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、シリコーン樹脂、ポリイミド樹脂、及びメラミン樹脂等である。
【0053】
熱可塑性樹脂の例は、ポリオレフィン(ポリエチレン、ポリプロピレンなど)、ABS樹脂、ポリアミド(ナイロン6、ナイロン6,6など)、ポリアミドイミド、ポリエステル(ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート)、液晶性樹脂、ポリフェニレンエーテル、ポリアセタール、ポリカーボネート、ポリフェニレンサルファイド、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリエーテルスルフォン、ポリケトン、ポリスチレン、及びポリエーテルエーテルケトンである。
【0054】
第一の材料は、上記樹脂を1種含んでいてもよく、2種以上含んでいてもよい。
【0055】
耐熱性を高くできる観点から、第一の材料は、エポキシ樹脂、ポリエーテルサルフォン、液晶ポリマー、ポリイミド、ポリアミドイミド、シリコーンであることが好ましい。
【0056】
アルカリ金属珪酸塩としては、ケイ酸リチウム、ケイ酸ナトリウム、ケイ酸カリウムが挙げられる。第一の材料は、アルカリ金属珪酸塩を1種含んでいてもよく、2種以上含んでいてもよい。これらの材料は耐熱性が高いので好ましい。
【0057】
セラミックスとしては、特に限定はされないが、アルミナ、シリカ(珪素酸化物、シリカガラスを含む)、チタニア、ジルコニア、マグネシア、セリア、イットリア、酸化亜鉛、酸化鉄等の酸化物系セラミックス;窒化ケイ素、窒化チタン、窒化ホウ素等の窒化物系セラミックス;シリコンカーバイド、炭酸カルシウム、硫酸アルミニウム、硫酸バリウム、水酸化アルミニウム、チタン酸カリウム、タルク、カオリンクレー、カオリナイト、ハロイサイト、パイロフィライト、モンモリロナイト、セリサイト、マイカ、アメサイト、ベントナイト、アスベスト、ゼオライト、ケイ酸カルシウム、ケイ酸マグネシウム、ケイ藻土、ケイ砂等のセラミックスが挙げられる。第一の材料は、セラミックスを1種含んでいてもよく、2種以上含んでいてもよい。
セラミックスは、耐熱性を高くできるので好ましい。放電プラズマ焼結などによって焼結体を作ることができる。
【0058】
金属としては特に限定はされないが、アルミニウム、タンタル、ニオブ、チタン、モリブデン、鉄、ニッケル、コバルト、クロム、銅、銀、金、プラチナ、鉛、錫、タングステン、等の金属単体、ステンレス鋼(SUS)等の合金、及びこれらの混合物を挙げることができる。第一の材料は、金属を1種含んでいてもよく2種以上含んでいてもよい。このような金属は、耐熱性を高くできるので好ましい。
【0059】
[その他の成分]
本実施形態の固体組成物は、第一の材料及び粉体以外のその他の成分を含んでいてもよい。例えば、触媒が挙げられる。触媒としては、特に限定はされないが、酸性化合物、アルカリ性化合物、有機金属化合物などが挙げられる。酸性化合物としては、塩酸、硫酸、硝酸、燐酸、燐酸、蟻酸、酢酸、蓚酸等の酸を用いることができる。アルカリ性化合物としては、水酸化アンモニウム、水酸化テトラメチルアンモニウム、水酸化テトラエチルアンモニウム等を用いることができる。有機金属化合物触媒としては、アルミニウム、ジルコニウム、スズ、チタン、亜鉛を含むもの等が挙げられる。
【0060】
固体組成物中の粉体の含有量は、例えば、1重量%以上とすることができる。固体組成物中の粉体の含有量は、3重量%以上であってもよく、5重量%以上であってもよく、10重量%以上であってもよく、20重量%以上であってもよく、40重量%以上であってもよく、70重量%以上であってもよい。固体組成物中の粉体の含有量は、例えば、99重量%以下とすることができる。固体組成物中の粉体の含有量は、95重量%以下であってもよく、90重量%以下であってもよい。粉体の含有量がこのような範囲にあると、熱線膨張係数の低減効果が発揮され易い。
【0061】
固体組成物中の第一の材料の含有量は、例えば、1重量%以上とすることができる。固体組成物中の第一の材料の含有量は、5重量%以上であってもよく、10重量%以上であってもよい。固体組成物中の第一の材料の含有量は、例えば、99重量%以下とすることができる。固体組成物中の第一の材料の含有量は、97重量%以下であってもよく、95重量%以下であってもよく、90重量%以下であってもよく、80重量%以下であってもよく、60重量%以下であってもよく、30重量%以下であってもよい。
【0062】
本発明者らは、要件1、すなわち温度変化に応じて結晶格子の大きさが大きく異方的に変化をする粉体において、要件2を具備すると、熱膨張制御特性と塗工性とを両立し得ることを見出した。
【0063】
本実施形態の粉体によれば、当該粉体を用いた固体組成物の熱線膨張係数を充分に低くすることができる。本実施形態の粉体によれば、塗工性に優れるインク組成物を形成し得る。本実施形態の粉体を用いたインク組成物から形成された固体組成物は、充分に低い熱線膨張係数を有すると共に、かすれ等、塗工に起因する欠陥が低減されたものとなる。
【0064】
本実施形態に係る固体組成物は、本実施形態に係る粉体を含むことにより、充分に低い熱線膨張係数を有すると共に、塗工に起因する欠陥が低減されたものとなる。
【0065】
本実施形態に係る粉体及び固体組成物によれば、温度変化した際の寸法変化が極めて少ない部材を得ることができる。したがって、温度による寸法変化に特に敏感な光学部材や半導体製造装置用部材に好適に利用できる。
【0066】
また、本実施形態に係る粉体及び固体組成物によれば、負の熱線膨張係数を有する固体材料を得ることもできる。負の熱線膨張係数を有するとは、熱線膨張に伴って体積が収縮することを意味する。負の熱線膨張係数を有する固体組成物の板の端面(側面)に、正の熱線膨張係数を有する他の材料の板の端面を接合した板では、板全体における厚み方向と直交する方向の熱線膨張係数を実質的にゼロにすることが可能である。
【0067】
<粉体の製造方法>
本実施形態に係る粉体の製造方法は特に限定はされないが、例えば、焼成等の処理により原料粉を準備した後、得られた粉体の粒子径分布を調整することにより製造できる。
【0068】
粉体の粒子径分布は、例えば、ふるい分け、粉砕等の操作により調整できる。以下、原料粉を粉砕して粒子径分布を調整する場合の、粉砕工程の一例について説明する。
【0069】
[粉砕工程]
粉砕工程は、例えば、ボールミル、遊星ボールミル、ビーズミル等で原料粉を粉砕する工程であることができる。
【0070】
粉砕工程においては、例えば、粉砕容器と回転体とを備えた媒体撹拌型粉砕機を用いて、ビーズにより粉体を粉砕する。粉体は分散媒の存在下で粉砕されることが好ましい。分散媒を用いることで、粉体の粒子表面を濡らして粒子同士の相互作用を弱めることができる。これにより、粉体の凝集及び粉体の粉砕容器、ビーズ、又は回転体への付着を抑制できる。
【0071】
上記回転体は、回転運動によりビーズに運動エネルギーを直接伝達する部分である。ビーズミルやアトライタなどの媒体攪拌式ミルにおいて、回転体はシャフトとアームとからなる攪拌翼である。ボールミルなどの粉砕容器自体を自転及び/又は公転させて内容物の粉体とビーズとを流動させる回転円筒式ボールミルにおいて、回転体は粉砕容器である。一実施形態において、回転体は、攪拌翼である。
【0072】
ビーズは粉体を粉砕するための粉砕媒体である。平均粒子径の大きな粉砕媒体をボールと呼称することがあるが、本明細書では、平均粒子径によらず固体の粉砕媒体をビーズと呼称する。ビーズは、粉砕機の粉砕容器自体の回転やアームのついたシャフトの回転などによって、粉砕容器内を高速で流動し粉体に衝突する。これにより、粉体は破砕され、平均粒子径のより小さな粉体が得られる。
【0073】
ビーズの形状は、ビーズの摩耗に起因した不純物の混入を低減する観点から、球状又は楕円体状が好ましい。
【0074】
ビーズの直径は、粉砕後の粉体の平均粒子径より大きいものが好ましい。このようなビーズを用いることで、大きな粉砕エネルギーを粉体に与えることができる。これにより、短時間で効率的に目的の粉体を得ることができると考えられる。ここで、ビーズの直径は、ビーズの平均粒子径をいう。
【0075】
ビーズの直径は、例えば、0.03mm~2mmである。ビーズの直径がこの範囲であると、効果的にD90の値を下げることができ、塗工性が向上し易いと考えられる。粉砕容器に入れるビーズの直径は均一でもよく、異なっていてもよい。
【0076】
ビーズの材質としては、例えば、ガラス、メノー、アルミナ、ジルコニア、ステンレス、クローム鋼、タングステンカーバイド、炭化ケイ素及び窒化ケイ素が挙げられる。これらの材質のビーズによれば、効率的に粉体が粉砕されると考えられる。中でも、比較的高い硬度を有しているため摩耗し難いこと、及び比重が比較的大きいため大きな粉砕エネルギーを得られることから、ジルコニアが好ましい。
【0077】
粉砕工程において、粉体の質量とビーズの質量との比((粉体の質量)/(ビーズの質量))は特に限定されないが、例えば、0.02~0.10とすることができる。粉体の質量とビーズの質量との比は、0.02~0.09が好ましく、0.02~0.06がより好ましい。粉体の質量とビーズの質量との比がこの範囲であると、効果的にD90の値を下げることができると考えられる。
【0078】
回転体の周速は特に限定はされないが、一般的に0.5~10m/sである。
【0079】
ビーズの充填率は、媒体撹拌型粉砕機の備える粉砕容器の容積の10体積%以上74体積%以下であることが好ましい。
【0080】
分散媒を用いる場合、例えば、水、有機溶媒等の液体の分散媒を用いてもよい。有機溶媒は、任意に水を含んでいてもよい。有機溶媒としては、例えば、アルコール溶媒、エーテル溶媒、ケトン溶媒、グリコール溶媒、炭化水素系溶媒及び非プロトン性極性溶媒が挙げられる。
【0081】
粉砕時間は、粉体の再凝集を抑制する観点から、好ましくは0.01時間~10時間であり、より好ましくは0.01時間~5時間であり、更に好ましくは0.01時間~2時間である。
【0082】
粉砕時間は、上記要件2を満たす粉体を得やすい観点から、例えば、0.1~1時間であってもよく、0.1~0.5時間であってもよい。
【0083】
粉砕時間を変化させることで、粉体の粒子径分布を制御することが可能である。例えば、0.17時間~1時間といった範囲で粉砕時間を変化させ、粒子径分布を微調整することにより、粉体を用いて作製される組成物の熱線膨張係数を-40ppm/℃~0ppm/℃といったオーダーで制御できる場合がある。
【0084】
粉体の粒子径分布は、回転速度を変化させることによっても調整可能である。例えば、100rpm~1500rpmといった範囲で回転数を制御し、粒子径分布を微調整することにより、粉体を用いて作製される組成物の熱線膨張係数を-40ppm/℃~0ppm/℃といったオーダーで制御できる場合がある。
【0085】
粉砕に伴って発熱することから、粉砕装置の運転中は、粉砕容器の内部を一定の温度範囲に維持するように粉砕容器を冷却することが好ましい。
【0086】
分散媒を用いた湿式粉砕では、粉砕容器内の温度は分散媒の融点よりも充分に高く、分散媒の沸点よりも充分に低いことが好ましい。
【0087】
粉砕工程において、粉砕容器内の温度は、好ましくは0℃~100℃であり、より好ましくは5℃~50℃である。
【0088】
粉砕工程の後、ビーズは、フィルターなどを用いて粉体及び分散媒から分離する。
【0089】
<固体組成物の製造方法>
固体組成物の製造方法は特に制限されない。
【0090】
例えば、粉体と、第一の材料の原料とを混合して混合物を得た後、混合物中の第一の材料の原料を第一の材料に転化することにより、粉体と第一材料とを複合化した固体組成物を製造することができる。
【0091】
例えば、第一の材料が樹脂又はアルカリ金属珪酸塩の場合には、溶媒と、樹脂またはアルカリ金属珪酸塩と、粉体と、を含む混合物を調製し、混合物から溶媒を除去することにより、粉体と第一の材料とを含む固体組成物を得ることができる。溶媒の除去方法は、自然乾燥、真空乾燥、加熱などにより溶媒を蒸発させる方法を適用できる。粗大な気泡の発生を抑制する観点から、溶媒を除去する際には、混合物の温度を溶媒の沸点以下に維持しつつ溶媒を除去することが好適である。
【0092】
第一の材料が樹脂の場合の溶媒は例えば、アルコール溶媒、エーテル溶媒、ケトン溶媒、グリコール溶媒、炭化水素溶媒、非プロトン性極性溶媒などの有機溶媒、水である。また、アルカリ金属珪酸塩の場合の溶媒は例えば水である。
【0093】
また、樹脂が、硬化性樹脂である場合には、溶媒の除去後に、混合物中の樹脂の架橋処理を行うことが好ましい。具体的には、溶媒が除去された混合物を、溶媒の沸点以上に加熱すること、又は、溶媒が除去された混合物に紫外線等のエネルギー線の照射等を行えばよい。また、アルカリ金属珪酸塩の場合には、溶媒の除去後に、更に加熱することにより硬化処理を行ってもよい。
【0094】
また、第一の材料がセラミックス又は金属の場合には、第一の材料の原料粉と、粉体との混合物を調製し、混合物を熱処理して第一の材料の原料粉を焼結することにより、焼結体としての第一の材料と、粉体と、を含む固体組成物が得られる。必要に応じて、アニーリング等の熱処理により、固体組成物の細孔の調整を行うことができる。焼結方法としては、通常の加熱、ホットプレス、放電プラズマ焼結などの方法が採用できる。
【0095】
放電プラズマ焼結とは、第一の材料の原料粉と、粉体との混合物を加圧しながら、混合物にパルス状の電流を通電させる。これにより、第一の材料の原料粉間で放電が生じ、第一の材料の原料粉を加熱させて焼結させることができる。
【0096】
得られる化合物が空気と触れて変質することを防止するために、プラズマ焼結工程は、アルゴン、窒素、真空などの不活性雰囲気下で行うことが好ましい。
【0097】
プラズマ焼結工程における加圧圧力は、0MPaを超え100MPa以下の範囲が好ましい。高密度の第一の材料を得るため、プラズマ焼結工程における加圧圧力は10MPa以上とすることが好ましく、30MPa以上とすることがより好ましい。
【0098】
プラズマ焼結工程の加熱温度は、目的物である第一の材料の融点よりも十分に低いことが好ましい。
【0099】
なお、基板上に混合物を塗布し、その後、溶媒の除去又は焼結を行うと、シート状の固体組成物を得ることができる。また、型内に混合物を供給し、その後溶媒の除去/焼結を行うと、型の形状に対応した任意の形状の固体組成物を得ることができる。
【0100】
さらに、得られた固体組成物の熱処理によって、細孔の大きさや分布などの調整を行うことができる。
【実施例】
【0101】
以下、本発明を実施例により更に詳しく説明する。
【0102】
<粉体の結晶構造解析>
結晶構造の解析として、粉末X線回折測定装置SmartLab(リガク社製)を用いて、下記の条件で温度を変えて粉体を粉末X線回折測定し、粉末X線回折図形を得た。得られた図形に基づいて、PDXL2(リガク社製)ソフトウェアを用い、最小二乗法による格子定数の精密化を行い、2つの格子定数、すなわち、a軸長、及び、c軸長を求めた。
測定装置: 粉末X線回折測定装置SmartLab(Rigaku製)
X線発生器: CuKα線源 電圧45kV、電流200mA
スリット: スリット幅2mm
スキャンステップ:0.02deg
スキャン範囲:5-80deg
スキャンスピード:10deg/min
X線検出器:一次元半導体検出器
測定雰囲気:Ar 100mL/min
試料台:専用のガラス基板SiO2製
【0103】
[a軸長とc軸長の温度依存変化]
比較例1の粉体について、25℃、100℃、150℃、200℃、250℃、300℃、350℃、及び、400℃でそれぞれX線回折測定を行った。その結果、比較例1の粉体はコランダム構造のTi
2O
3に帰属され、空間群はR-3cであった。上記各温度におけるa軸長、c軸長及びc軸長に対するa軸長の比(a軸長/c軸長)を表1にまとめる。また、a軸長/c軸長の温度Tとの関係、すなわちA(T)を
図1に示す。
【0104】
【0105】
得られたa軸長とc軸長を用いて、以下の(D)式により、T1=150℃における|dA(T)/dT|を求めたところ、49ppm/℃であった。なお、dA(T)/dTは、負であった。
|dA(T)/dT|=|A(T+50)-A(T)|/50 … (D)
【0106】
実施例1~3の粉体について、150℃と200でX線回折測定を行い、格子定数の値からT1=150℃におけるdA(T)/dTを算出した。
実施例1のT1=150℃におけるdA(T)/dT=(A(T+50)-A(T))/50は、-44ppm/℃であった。また、T1=150℃において、|dA(T)/dT|は、44ppm/℃であった。
実施例2のT1=150℃におけるdA(T)/dT=(A(T+50)-A(T))/50は、-42ppm/℃であった。また、T1=150℃において、|dA(T)/dT|は、42ppm/℃であった。
実施例3のT1=150℃におけるdA(T)/dT=(A(T+50)-A(T))/50は、-45ppm/℃であった。また、T1=150℃において、|dA(T)/dT|は、45ppm/℃であった。
実施例1~3、及び比較例1の結果から、後述の粉砕においてa軸長及びc軸長は大きく変化しないものと推定できる。このことより、比較例2の粉体のT1=150℃でのdA(T)/dT=(A(T+50)-A(T))/50は負であり、かつ、|dA(T)/dT|は少なくとも10ppm/℃以上であると推測される。
また、実施例1~3及び比較例2の粉体はいずれもコランダム構造のTi2O3に帰属され、空間群はR-3cであった。
【0107】
<粉体の粒子径分布測定>
以下の方法により粒子径分布について測定した。
前処理:粉体1重量部に対して水を99重量部加えて希釈し、超音波洗浄機により超音波処理を行った。超音波処理時間は10分間とし、超音波洗浄機としては、日本精機製作所製のNS200-6Uを用いた。超音波の周波数としては、約28kHzで実施した。
測定:レーザー回折散乱法により、体積基準の粒子径分布を測定した。
測定条件:Ti2O3粒子の屈折率を2.40とした。
測定装置:Malvern Instruments Ltd.製 レーザー回折式粒度分布測定装置 Mastersizer 2000
【0108】
これにより得られた体積基準累積粒子径分布曲線から、粒子径の小さい方から計算して累積頻度が50%となる粒子径D50、累積頻度が10%となる粒子径D10、及び累積頻度が90%となる粒子径D90を算出した。また、D10及びD50より、D50に対するD10の比(D10/D50)を算出した。
【0109】
<BET比表面積の測定>
以下の方法により、BET比表面積を測定した。
前処理:窒素雰囲気中で200℃、30分間乾燥を行った。
測定:BET流動法により測定した。
測定条件:窒素ガス及びヘリウムガスの混合ガスを用いた。混合ガス中の窒素ガスの割合は30体積%であり、混合ガス中のヘリウムガスの割合は70体積%で実施した。
測定装置:BET比表面積測定装置 Macsorb HM-1201(マウンテック社製)
【0110】
<熱膨張制御特性の評価>
以下の方法により、熱膨張制御特性を評価した。
粉体を80重量部と、富士化学社製の一号珪酸ソーダを20重量部と、純水を10重量部添加し混合することで混合物を得た。
得られた混合物をポリテトラフルオロエチレン製の鋳型に入れ、以下の硬化プロファイルで硬化させた。
80℃まで15分で昇温、80℃で20分保持、その後、150℃まで20分で昇温、150℃で60分保持する。
さらに、その後320℃まで昇温させ10分保持し、降温する処理を行い、以上の工程から固体組成物を得た。
得られた固体組成物の熱線膨張係数を、以下の装置を用いて測定した。
測定装置:Thermo plus EVO2 TMAシリーズ Thermo plus 8310
温度領域:25℃-320℃とし、代表値として190-210℃における熱線膨張係数の値を算出した。
リファレンス固体:アルミナ
固体組成物の測定試料の典型的な大きさとしては、15mm×4mm×4mmとした。
15mm×4mm×4mmの固体組成物について、最長辺を試料長Lとして温度Tにおける試料長L(T)を測定した。30℃の試料長(L(30℃)に対する寸法変化率ΔL(T)/L(30℃)を下記式により算出した。
ΔL(T)/L(30℃)=(L(T)-L(30℃))/L(30℃)
190℃-210℃の温度範囲で、寸法変化率ΔL(T)/L(30℃)を求め、190℃-210℃における熱線膨張係数α(1/℃)を下記式により算出した。
α(1/℃)=(ΔL(210℃)-ΔL(190℃))/(L(30℃)×20℃)
【0111】
熱線膨張係数の値が6.0ppm/℃以下である場合に、熱膨張制御特性が良好であると評価した。
【0112】
<塗工性の評価>
以下の方法により、塗工性を評価した。
50重量部の粉体に対して富士化学社製の一号珪酸ソーダを50重量部加えて、混合物を作製した。得られた混合物を、100μmの深さの粒ゲージ(日本シーダースサービス社製)を用いて、基材に塗工した。塗工後の状態を目視で確認し、ゲージ目盛りの80~100μmの範囲でかすれがなかったものを「A」、ゲージ目盛りの80~100μmの範囲でかすれがあったものを「B」と判定した。塗工後の状態は、
図2に示す。
【0113】
<実施例1>
Ti
2O
3粉(高純度化学社製、150μmPass、純度99.9%)を以下の条件でビーズミルにより粉砕して、粉体を得た。
粉砕条件:ビーズミルとして、アイメックス株式会社製のバッチ式レディーミル(RM B-08)を用いた。800cm
3のベッセルを用い、1348rpm、周速5m/sの条件で粉砕をした。1mmの粒子径のZrO
2ビーズを用い、水217g、ZrO
2を613g、Ti
2O
3(高純度化学社製、150μmPass、24.9g)の割合で混合し、10分間粉砕した。得られた粉体の粒子径分布を
図3に示す。体積基準累積粒子径分布曲線は、
図3に示す粒子径分布を累積粒子径分布曲線に換算することにより得られる。
【0114】
<実施例2>
粉砕時間を20分としたこと以外は実施例1と同様の方法で、実施例2の粉体を作製した。
【0115】
<実施例3>
粉砕時間を40分としたこと以外は実施例1と同様の方法で、実施例3の粉体を作製した。得られた粉体の粒子径分布を
図4に示す。体積基準累積粒子径分布曲線は、
図4に示す粒子径分布を累積粒子径分布曲線に換算することにより得られる。
【0116】
<比較例1>
Ti
2O
3粉(高純度化学社製、150μmPass、純度99.9%)を比較例1の粉体とした。得られた粉体の粒子径分布を
図5に示す。体積基準累積粒子径分布曲線は、
図5に示す粒子径分布を累積粒子径分布曲線に換算することにより得られる。
【0117】
<比較例2>
粉砕時間を60分としたこと以外は実施例1と同様の方法で、比較例2の粉体を作製した。得られた粉体の粒子径分布を
図6に示す。体積基準累積粒子径分布曲線は、
図6に示す粒子径分布を累積粒子径分布曲線に換算することにより得られる。
【0118】
得られた実施例、比較例の結果を表2にまとめる。
【表2】
【0119】
実施例の粉体は、熱膨張制御特性に優れると共に、塗工性に優れる組成物を形成し得ることを確認した。