(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-08
(45)【発行日】2023-09-19
(54)【発明の名称】アンモニア貯蔵・供給システム及び燃料電池システム
(51)【国際特許分類】
H01M 8/04 20160101AFI20230911BHJP
H01M 8/0606 20160101ALI20230911BHJP
H01M 8/04225 20160101ALI20230911BHJP
H01M 8/04302 20160101ALI20230911BHJP
H01M 8/04746 20160101ALI20230911BHJP
C01C 1/02 20060101ALI20230911BHJP
C01B 3/04 20060101ALI20230911BHJP
B01J 7/02 20060101ALI20230911BHJP
H01M 8/12 20160101ALN20230911BHJP
【FI】
H01M8/04 J
H01M8/0606
H01M8/04225
H01M8/04302
H01M8/04746
C01C1/02 E
C01B3/04 B
B01J7/02 Z
H01M8/12 101
(21)【出願番号】P 2019138735
(22)【出願日】2019-07-29
【審査請求日】2022-07-07
(73)【特許権者】
【識別番号】591167430
【氏名又は名称】株式会社KRI
(73)【特許権者】
【識別番号】504136568
【氏名又は名称】国立大学法人広島大学
(72)【発明者】
【氏名】市川 貴之
(72)【発明者】
【氏名】宮岡 裕樹
(72)【発明者】
【氏名】市川 友之
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 達佳
(72)【発明者】
【氏名】佐竹 剛
(72)【発明者】
【氏名】山本 啓太
【審査官】加藤 昌人
(56)【参考文献】
【文献】特開昭60-208063(JP,A)
【文献】特開2009-40677(JP,A)
【文献】特開2009-190966(JP,A)
【文献】特開2009-242232(JP,A)
【文献】特開2016-134278(JP,A)
【文献】特開2019-53855(JP,A)
【文献】特開2017-166665(JP,A)
【文献】特開2017-168404(JP,A)
【文献】特表2010-513812(JP,A)
【文献】特表2016-536522(JP,A)
【文献】特表2005-525279(JP,A)
【文献】特開平8-245217(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/00-8/2495
C01C 1/00-1/28
C01B 3/00-6/34
B01J 4/00-7/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体アンモニアと混合されて混合物の沸点を上昇する沸点調整材が混合された調整済液体アンモニアとして、
前記沸点調整材の濃度が第1濃度にある第1調整済液体アンモニアと、
前記沸点調整材の濃度が前記第1濃度より高い第2調整済液体アンモニアとの間で動作し、
前記第1調整済液体アンモニアを貯蔵する貯蔵手段と、
前記貯蔵手段に貯蔵された前記第1調整済液体アンモニアを取出す取出し手段と、
前記取出し手段により取出された前記第1調整済液体アンモニアを受入れて前記第2調整済液体アンモニアとするとともに、発生するアンモニア蒸気を回収するアンモニア蒸気回収手段とを備え、
前記アンモニア蒸気回収手段より回収された前記アンモニア蒸気を外部に供給可能に構成され、
前記アンモニア蒸気回収手段から前記貯蔵手段へ前記第2調整済液体アンモニアを返送する返送路を備えるとともに、当該返送路より返送される前記第2調整済液体アンモニアを冷却する調整済液体アンモニア冷却手段を備え、外部から調整前液体アンモニアを受入れる受入路を前記貯蔵手段に備えたアンモニア貯蔵・供給システム。
【請求項2】
前記沸点調整材が、水素化ホウ素アルカリ金属、水素化ホウ素アルカリ土類金属及びハロゲン化アンモニウム化合物から選択される一種以上である請求項
1記載のアンモニア貯蔵・供給シ
ステム。
【請求項3】
前記貯蔵手段が、
前記返送路を介して前記第2調整済液体アンモニアを受入れるとともに、当該第2調整済液体アンモニアに前記調整前液体アンモニアを混合して前記第1調整済液体アンモニアとする混合部と、
前記混合部から前記第1調整済液体アンモニアを受入れて貯蔵する貯蔵部とを有する請求項1又は2記載のアンモニア貯蔵・供給シ
ステム。
【請求項4】
前記アンモニア蒸気回収手段が前記第1調整済液体アンモニアを加熱する加熱手段を備え、当該加熱手段の熱源として自己発熱により発生する熱と外部から供給される熱との何れか一方又は両方を使用可能とされている請求項1~3の何れか一項記載のアンモニア貯蔵・供給システム。
【請求項5】
前記アンモニア蒸気回収手段が、前記第1調整済液体アンモニアの圧力及び温度のいずれか一方、又は両方を調整して、前記アンモニア蒸気を回収する請求項1~3の何れか一項記載のアンモニア貯蔵・供給システム。
【請求項6】
前記受入路を介する前記調整前液体アンモニアの受入に際して、当該調整前液体アンモニアの温度を調整する調整前液体アンモニア温度調整手段を備えた請求項1~5の何れか一項記載のアンモニア貯蔵・供給システム。
【請求項7】
前記アンモニア蒸気回収手段から供給されるアンモニア蒸気の少なくとも一部から水素を得る水素化手段を備え、当該水素化手段により得られた水素も供給可能に構成されている請求項1~6の何れか一項記載のアンモニア貯蔵・供給システム。
【請求項8】
請求項1から7の何れか一項記載のアンモニア貯蔵・供給システムと、
当該アンモニア貯蔵・供給システムから供給されるアンモニア蒸気を燃料として働く燃料電池とを備えてなる燃料電池システム。
【請求項9】
請求項4記載のアンモニア貯蔵・供給システムと、当該アンモニア貯蔵・供給システムから供給されるアンモニア蒸気を燃料として働く燃料電池とを備えて構成され、
前記外部から供給される熱として、
前記燃料電池から排出される排ガスの保有する熱と、前記排ガス内に残存する燃焼成分の燃焼により発生する熱の何れか一方又は両方を使用する燃料電池システム。
【請求項10】
請求項7記載のアンモニア貯蔵・供給システムと、当該アンモニア貯蔵・供給システムから供給されるアンモニア蒸気を燃料として働く燃料電池とを備えて構成され、
前記燃料電池の起動時に前記水素化手段を働かせて、当該燃料電池の起動をアノード電極に供給する還元性ガスに水素を含めて実行する燃料電池システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、アンモニアを燃料とするシステムに利用可能なアンモニア貯蔵・供給システムに関するとともに、このシステムから供給されるアンモニアを燃料として働く燃料電池システムに関する。
【0002】
現今、注目されている技術として、アンモニアを直接燃料として電力を得る技術がある(特許文献1、2)。これらの技術は、アンモニアが炭素を含まないことからCO2削減の意味で注目に値する。また、電池電極に炭素デポジットが生成されることもないため、安定的に燃料電池の運転を継続できる。
アンモニアを直接燃料とする燃料電池としては、固体酸化物形燃料電池(以下 SOFCと記載することがある)等があり、今日、主にアノード側電極で、アンモニアを水素に分解し、出力の低下を避けることができる燃料電池を得る方向に開発が進んでいる(特許文献3、4)。
また、同じくアンモニアを燃料とする燃料電池としてアニオン交換膜形燃料電池(以下 AEMFCと記載することがある)があり、高分子電解質形燃料電池(PEFC)と同じく低温作動であるが、貴金属触媒が不要であり、今後の開発が期待されている。
【0003】
一方、特許文献5には、特定の金属ハロゲン化物を組み合わせたアンモニア吸脱着剤(固体)を使用する分離方法及び貯蔵方法に関する発明が記載されている。この文献に開示の発明を使用すると、オンサイトで合成したアンモニアも効率よくPSA、PTSA等の吸着分離法で分離し、貯蔵できる。分離に際しては、金属ハロゲン化物として、塩化カルシウムと臭化カルシウムの混合物を使用し、アンモニア吸着状態にある金属ハロゲン化物(金属ハロゲン化物のアンモニア錯体)を、アンモニアを脱離する圧力・温度に曝すことで、アンモニアを分離(脱離)させる。
【0004】
また、特許文献6には、大気圧下で各種金属ハロゲン化物(塩化カルシウム、臭化カルシウム、塩化マグネシウム、塩化ニッケル、塩化ストロンチウム、塩化コバルト等:いずれも固体)をアンモニア吸脱着材として使用し、各アンモニア吸脱着材のアンモニア脱離温度をコントロールすることで、アンモニアを外部に放出するアンモニア貯蔵供給装置及びアンモニア燃料タンクを開示している。同じく、特許文献7には、アンモニアを燃料として使用するSOFCシステムにおいて、アンモニア吸脱着材が収納されるアンモニア貯蔵部からアンモニアを放出するのに、SOFCの排熱を利用するという燃料電池システムを開示している。
【0005】
一方、非特許文献1には、「NaBH4を用いたNH3の蒸気圧制御」に関する開示がある。この文献では、20℃、0.09MPa付近に、NaBH4と液体のNaBH4-2NH3の二相共存を示すプラトー領域が観察されることが開示され、この領域におけるNH3吸蔵量は47%であることが示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2011-204416号公報
【文献】特開2011-204418号公報
【文献】特開2013-211117号公報
【文献】特開2013-211118号公報
【文献】特開2007-307558号公報
【文献】特開2017-166665号公報
【文献】特開2017-168404号公報
【非特許文献】
【0007】
【文献】中嶋啓太 他5名、「NaBH4を用いたNH3の蒸気圧制御」、日本エネルギー学会、日本エネルギー学会大会講演要旨集 25(0)、266-267, 2016.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
以上に述べた様に、今日、アンモニアをSOFC用燃料として採用することが注目されているが、通常、アンモニアは液体アンモニアとして流通されている。液体アンモニアを、そのままオンサイト(例えば定置用や車載用)で使用する場合、常温では0.8MPa程度の圧力となるため高圧タンクが必要で、高圧ガス保安法(液化ガスは常用の温度において0.2MPa以上※ゲージ圧)の対象となる。従って、この高圧ガス保安法を避ける為、常温でのアンモニアの保管・利用に関しては、既に金属ハロゲン化物等を使用したアンモニア貯蔵供給装置及びアンモニア燃料タンクが公開されている。この場合、常温、大気圧下でアンモニアを吸着させた金属ハロゲン化物を加熱することでアンモニアガスを脱離させ、供給している。
【0009】
しかし、先に紹介した特許文献5、6、7では、基本的には固体であるアンモニア吸脱着材(金属ハロゲン化物)によるアンモニアガスの吸着・脱離をその動作原理としており、アンモニア吸着時の吸脱着材の体積膨張、吸脱着繰り返しによる粉化等、固体由来の取扱いの困難さが問題となっている。
一方、非特許文献1には、NaBH4に対するアンモニアの蒸気圧―組成等温特性が示されているが、NaBH4によるアンモニア吸蔵状態は液体であると記載されているが、アンモニアの貯蔵・供給に関して、どのようにこの材料を利用するかに関する開示を見出すことはできない。
【0010】
本発明の目的は、今日、液体で流通されるアンモニアを、例えば、定置用や車載用として、常温・比較的低い圧力で効率よく貯蔵するとともに、供給することができるアンモニア貯蔵・供給システムを提供し、このシステムからアンモニアの供給を受けて働く燃料電池システムを提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の第1特徴構成は、
液体アンモニアと混合されて混合物の沸点を上昇する沸点調整材が混合された調整済液体アンモニアとして、
前記沸点調整材の濃度が第1濃度にある第1調整済液体アンモニアと、
前記沸点調整材の濃度が前記第1濃度より高い第2調整済液体アンモニアとの間で動作し、
前記第1調整済液体アンモニアを貯蔵する貯蔵手段と、
前記貯蔵手段に貯蔵された前記第1調整済液体アンモニアを取出す取出し手段と、
前記取出し手段により取出された前記第1調整済液体アンモニアを受入れて前記第2調整済液体アンモニアとするとともに、発生するアンモニア蒸気を回収するアンモニア蒸気回収手段とを備え、
前記アンモニア蒸気回収手段より回収された前記アンモニア蒸気を外部に供給可能に構成され、
前記アンモニア蒸気回収手段から前記貯蔵手段へ前記第2調整済液体アンモニアを返送する返送路を備えるとともに、当該返送路より返送される前記第2調整済液体アンモニアを冷却する調整済液体アンモニア冷却手段を備え、更に外部から調整前液体アンモニアを受入れる受入路を前記貯蔵手段に備えたアンモニア貯蔵・供給システムとされている点にある。
【0012】
本特徴構成のアンモニア貯蔵・供給システムでは、液体アンモニアに混合されて、その沸点を上昇させる沸点調整材を使用する。本発明において、この沸点調整材が混合された液体アンモニアを「調整済液体アンモニア」と呼ぶ。対して、沸点調整材が混合されていない液体アンモニアを「調整前液体アンモニア」と呼ぶことがある。
【0013】
アンモニア貯蔵・供給システムでは、この調整済液体アンモニアとして、沸点調整材の濃度が異なる(結果的に沸点が異なる)少なくとも二つの調整済液体アンモニア(第1調整済液体アンモニア、第2調整済液体アンモニア)を使用する。ここで、沸点調整材の混合量が多い程(沸点調整材濃度が高い程)、その調整済液体アンモニアの沸点は高い。第1調整済液体アンモニアは沸点調整材の濃度が低くアンモニアを比較的多く含む調整済液体アンモニアである。一方、第2調整済液体アンモニアは沸点調整材の濃度が高くアンモニアを比較的少なく含む調整済液体アンモニアである。
【0014】
また、アンモニア貯蔵・供給システムでは、アンモニア(アンモニア蒸気)の外部への供給はアンモニア蒸気回収手段で行うが、第1調整済液体アンモニアは、このアンモニア蒸気回収手段に取出し手段により貯蔵手段から取出されて供給される。そして、このアンモニア蒸気回収手段で蒸発によりアンモニア蒸気を回収することで、外部にアンモニアを供給する。アンモニア蒸気回収手段の液相側はアンモニアを失って、第2調整済液体アンモニアとなる。
【0015】
さて、第2調整済液体アンモニアは沸点調整材に関して濃溶液となっているが、この濃溶液は返送路を介して貯蔵手段に戻す。一方、この貯蔵手段には、少なくとも第1調整済液体アンモニアを貯蔵する必要があるが、受入路を介して外部から調整前液体アンモニアを受入れることで、沸点調整材に関して濃溶液である第2調整済液体アンモニアに、アンモニア供給元となる調整前液体アンモニアを必要量補給することで、第1調整済液体アンモニアを得ることができる。
【0016】
返送路を介する第2調整済液体アンモニアの返送に際しては、この調整済液体アンモニアを冷却する調整済液体アンモニア冷却手段を設けておくことにより、アンモニア蒸気回収手段でのアンモニアの回収において、第2調整済液体アンモニアが高温となる場合に調整済液体アンモニア冷却手段により適切に調整できる。結果、濃溶液である第2調整済液体アンモニアの温度を貯蔵手段内の液温と近い温度とすると、混合に伴う温度上昇を抑え、システムを良好に作動することができる。
【0017】
以上説明してきたように、本発明に係るアンモニア貯蔵・供給システムでは、貯蔵手段自体内、当該貯蔵手段とアンモニア蒸気回収手段との間のアンモニアの遣り取り(両者間における調整済アンモニアの循環)は、実質的に液体アンモニアの状態で行う。結果、容積的に軽減されるとともに、沸点調整材は液体アンモニアに溶解した状態に保持され、その形状保持等が問題となることもない。さらに、後にも示すように、ほぼ常温の状態で、比較的低い圧力である高圧ガス保安法適用圧力以下の圧力(35℃以下、300kPa未満)でもシステムを働かせることができるため、システムの構築が容易となる。
【0018】
本発明の第2特徴構成は、
前記沸点調整材が、水素化ホウ素アルカリ金属、水素化ホウ素アルカリ土類金属及びハロゲン化アンモニウム化合物から選択される一種以上である点にある。
従来、これら化合物を液体アンモニアに溶解して、その沸点を調整し、アンモニアの貯蔵・供給に積極的に利用しようとすることは行われてこなかった。さらに、後にも示すように、これらの化合物を使用することにより、実質的に常温・液体状での取り扱いが可能となる点も知られていない。そこで、本発明ではこれらの化合物を、それ単独若しくは混合状態で、沸点調整材として液体アンモニアに混合して利用するものとし、この沸点調整材の濃度が異なる少なくとも2状態をシステム内で実現して、アンモニアを蒸気として得ることができる。
【0019】
水素化ホウ素アルカリ金属の例は、水素化ホウ素ナトリウム(NaBH4)、水素化ホウ素リチウム(LiBH4)、水素化ホウ素カリウム(KBH4)等である。
水素化ホウ素アルカリ土類金属の例は、水素化ホウ素マグネシウム(Mg(BH4)2)、水素化ホウ素カルシウム(Ca(BH4)2)等である。
ハロゲン化アンモニウム化合物の例は沃化アンモニウム(NH4I)、臭化アンモニウム(NH4Br)、塩化アンモニウム(NH4Cl)等である。
【0020】
本発明の第3特徴構成は、
前記貯蔵手段が、
前記返送路を介して前記第2調整済液体アンモニアを受入れるとともに、当該第2調整済液体アンモニアに前記調整前液体アンモニアを混合して前記第1調整済液体アンモニアとする混合部と、
前記混合部から前記第1調整済液体アンモニアを受入れて貯蔵する貯蔵部とを有する点にある。
【0021】
本特徴構成では、混合部では、返送路を介して第2調整済液体アンモニア(濃溶液)を受入れ、この第2調整済液体アンモニアに調整前液体アンモニアを混合して第1調整済液体アンモニア(希溶液)とする。即ち、外部へのアンモニア供給で消費されるアンモニアを補給して、第1調整済液体アンモニアとする。この混合にあっては、熱(気化熱、吸着熱等)が発生し、内部圧力が上昇するとともに、濃度の均一化に時間を要する等の問題が発生する場合もあるが、混合部を貯蔵部に対して別個に設けておくことで、混合・均一化を良好に行える。
【0022】
一方、貯蔵部においては、混合部で均一化された調整済液体アンモニアを第1調整済液体アンモニアとして貯蔵する。この部位からアンモニア蒸気回収手段に第1調整済液体アンモニア(希溶液)を供給できる。
【0023】
本発明の第4特徴構成は、
前記アンモニア蒸気回収手段が前記第1調整済液体アンモニアを加熱する加熱手段を備え、当該加熱手段の熱源として自己発熱により発生する熱と外部から供給される熱との何れか一方又は両方を使用可能とされている点にある。
【0024】
本特徴構成によれば、アンモニア蒸気回収手段で第1調整済液体アンモニアを加熱して、アンモニアを蒸気として回収し、外部に供給することができる。
【0025】
本発明の第5特徴構成は、
前記アンモニア蒸気回収手段が、前記第1調整済液体アンモニアの圧力及び温度のいずれか一方、又は両方を調整して、前記アンモニア蒸気を回収する点にある。
【0026】
本特徴構成によれば、アンモニア蒸気回収手段におけるアンモニア蒸気の回収に際して、比較的高圧側において得ることができる第1調整済液体アンモニアからアンモニアを蒸発させる場合に、減圧、加熱等の操作により、良好に行うことができる。後述するように、本発明に係る第1調整済液体アンモニア及び第2調整済液体アンモニアは、基本的には、両者の圧力を適切に調整することで、常温(15℃以上25℃以下、例えば20℃)で得ることができる。この場合、第1調整済得液体アンモニアは貯蔵手段からアンモニア蒸気回収手段に比較的高圧で受け入れることとなるが、アンモニア蒸気回収手段において、高圧から、第2調整済液体アンモニアの圧力まで減圧して、加熱することでアンモニア蒸気を得ることができる。
【0027】
本発明の第6特徴構成は、
前記受入路を介する前記調整前液体アンモニアの受入に際して、当該調整前液体アンモニアの温度を調整する調整前液体アンモニア温度調整手段を備えた点にある。
【0028】
本特徴構成によれば、貯蔵手段における、第2調整済液体アンモニアと調整前液体アンモニアとの混合において発生する熱(気化熱、吸着熱等)を、調整前液体アンモニア冷却手段での温度調整(加熱、抜熱を含む)で適切に制御できる。後述するように、例えば、液体アンモニアが-33℃でオンサイトに搬入される場合、この液体アンモニア(調整前液体アンモニア)の温度を0℃とすることで、混合に伴って発生することがある加熱をほぼゼロに制御することができる(発明者による検討を示す段落〔0079〕~〔0083〕を参照のこと)。
【0029】
本発明の第7特徴構成は、
前記アンモニア蒸気回収手段から供給されるアンモニア蒸気の少なくとも一部から水素を得る水素化手段を備え、当該水素化手段により得られた水素も供給可能に構成されている点にある。
【0030】
本特徴構成によれば、これまで説明してきたアンモニアの供給に加えて、水素化手段を働かせて、水素の供給もできる。
先にも説明したように、例えば、アンモニアの供給先がアンモニアを直接燃料とする燃料電池システムである場合に、その加熱が十分でない立ち上げ初期に水素を供給し、定常運転時にアンモニアを直接燃料として供給することができる。
【0031】
本発明の第8特徴構成は、
これまで説明してきたアンモニア貯蔵・供給システムと、
当該アンモニア貯蔵・供給システムから供給されるアンモニア蒸気を燃料として働く燃料電池とを備え燃料電池システムを構築してある点にある。
【0032】
本特徴構成によれば、本発明に係るアンモニア貯蔵、供給システムから、直接燃料としてのアンモニアを受けて、発電を良好に行える。
【0033】
本発明の第9特徴構成は、
先に説明した第4特徴構成を備えたアンモニア貯蔵・供給システムと、当該アンモニア貯蔵・供給システムから供給されるアンモニア蒸気を燃料として働く燃料電池とを備えて構成され、
前記外部から供給される熱として、
前記燃料電池から排出される排ガスの保有する熱と、前記排ガス内に残存する燃焼成分の燃焼により発生する熱の何れか一方又は両方を使用する点にある。
【0034】
本特徴構成によれば、比較的高温で作動し、その排ガスの保有する熱、さらには当該排ガスに含まれる燃料成分を利用して、第1調整済液体アンモニアから燃料としてのアンモニア蒸気を得て作動することができる。
【0035】
本発明の第10特徴構成は、
先に説明した第7特徴構成を備えたアンモニア貯蔵・供給システムと、
当該アンモニア貯蔵・供給システムから供給されるアンモニア蒸気を燃料として働く燃料電池とを備えて構成され、
前記燃料電池の起動時に前記水素化手段を働かせて、当該燃料電池の起動をアノード電極に供給する還元性ガスに水素を含めて実行する点にある。
【0036】
本特徴構成によれば、燃料電池の起動時に、水素化手段から供給される水素を燃料電池に供給して、電池の立ち上げを迅速に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【
図1】本発明に係るアンモニア貯蔵・供給システムを備えた燃料電池システムの構成を示す図
【
図2】NaBH
4を沸点調整材とする例に於けるアンモニア蒸気圧―組成等温特性を示す図
【
図3】0.5NH
4Cl-1.5NH
4Brを沸点調整材とする例に於けるアンモニア蒸気圧―組成等温特性を示す図
【
図4】水素供給も可能なアンモニア貯蔵・供給システムを備えた燃料電池システムの構成を示す図
【
図5】本発明に係るアンモニア貯蔵・供給システムを備え、水素を燃料として働く燃料電池システムの構成を示す図
【
図6】本発明に係るアンモニア貯蔵・供給システムを備え、水素を燃料として働く燃料電池システムの構成を示す図
【発明を実施するための形態】
【0038】
本発明の実施形態について図面に基づいて説明する。
図1は、本発明に係る燃料電池システムFCSの全体を示しており、同図で、細一点鎖線で囲った部分が同じく本発明に係るアンモニア貯蔵・供給システムAFSである。
【0039】
この図に示す実施形態を例に、両システムFCS・AFS間の取り合いに関して、簡単に説明しておくと、アンモニア貯蔵・供給システムAFS側から燃料電池1(本例では、固体酸化物形燃料電池SOFC)には、その直接燃料となるアンモニアaが供給される。一方、燃料電池1からは、その排ガスg1が燃焼器2を介して、アンモニア貯蔵・供給システムAFS内に設けられた蒸発器3に供給される。
【0040】
ここで、燃焼器2から排出される排ガスg2の保有する熱、及び燃料電池1からの排ガスg1に含まれる燃料成分(アンモニア・水素)の燃焼により発生する熱が前記蒸発器3における蒸発の用に供される。燃焼器2で発生する熱は、燃料電池1の供給する空気airの予熱にも空気予熱器11で使用するが、この熱を
図1では「燃焼熱」と記載している。従って、蒸発器3において、被加熱液(本発明の第1調整済液体アンモニアal1)を加熱することにより、その液から目的物(アンモニアa)を蒸気として得ることができる。
【0041】
以下、本発明に係るアンモニア貯蔵・供給システムAFS、燃料電池システムFCSの順に説明する。
【0042】
〔アンモニア貯蔵・供給システム〕
このシステムAFSは、先にも説明したように、
液体アンモニアと混合されて混合物の沸点を上昇する沸点調整材dが混合された調整済液体アンモニアal1、al2として、少なくとも沸点調整材dの濃度が第1濃度にある第1調整済液体アンモニアal1と、沸点調整材dの濃度が前記第1濃度より高い第2調整済液体アンモニアal2との間で動作する。
【0043】
第1調整済液体アンモニアal1は、前記蒸発器3に導入される調整済液体アンモニアであり、アンモニアを比較的多く含み、沸点調整材dが希薄な希溶液である。
一方、第2調整済液体アンモニアal2は、前記蒸発器3の液相側から取出される調整済液体アンモニアであり、アンモニアが比較的少なく、沸点調整材dが濃い濃溶液である。
【0044】
後述する貯蔵槽4に関して、貯蔵槽4は混合部4a,貯蔵部4bとの少なくとも2部を有して構成するが、これら部位に括弧付きでdを示した。この記載は、第1調整済液体アンモニアal1及び第2調整済液体アンモニアal2に沸点調整材dが含まれていることを意味している。
【0045】
当該沸点調整材dとしては、水素化ホウ素アルカリ金属、水素化ホウ素アルカリ土類金属及びハロゲン化アンモニウム化合物から選択される一種以上を選択して使用する。その材料種及び働きに関しては、後述するアンモニア貯蔵・供給システムAFSの作動で、沸点調整材dを特定して具体的に説明する。
【0046】
アンモニア貯蔵・供給システムAFSには、貯蔵手段としての貯蔵槽4が備えられている。この貯蔵槽4は、
図1に示す様に、少なくとも2部を有する分割構成とされている。
【0047】
貯蔵槽4は、返送路5を介して第2調整済液体アンモニアal2を受入れ、当該第2調整済液体アンモニアal2に、受入路6を介して受け入れる調整前液体アンモニアal0を混合して第1調整済液体アンモニアal1とする混合部4aと、この混合部4aから第1調整済液体アンモニアal1を受入れて貯蔵する貯蔵部4bとを備えている。混合部4aに於ける調整済液体アンモニアの様態変化を〔al2→al1〕で示した。
【0048】
返送路5には、この返送路5内を流れる第2調整済液体アンモニアal2を冷却する調整済液体アンモニア冷却手段としての冷却装置7が備えらえている。
受入路6には、この受入路6内を流れる調整前液体アンモニアal0の温度を調整する調整前液体アンモニア温度調整手段としての温度調整装置8が備えられている。
【0049】
さらに、貯蔵部4bと蒸発器3との間には、蒸発器3への第1調整済液地アンモニアal1の取出すための取出し手段としてのポンプp1が設けられ、蒸発器3と冷却装置7との間、冷却装置7と混合部4aとの間には、これら機器内の圧力を所望の値に保ち、液送を適切に行うポンプp2a、p2bが設けられている。
【0050】
一方、調整前液体アンモニアal0の混合部4aへの送り込みに関しては、温度調整装置8の下手側(貯蔵槽4側)に設けられるポンプp0が、この役を担う。ここで、返送路5、受入路6を介する液体アンモニアの移送量は、マスフローコントローラ(図示省略)等により制御する。
【0051】
後に詳細に説明するように、混合部4aにおいては、第2調整済液体アンモニアal2に調整前液体アンモニアal0が混合されて第1調整済液体アンモニアal1となる。
図1には、この変化の様態を矢印で示している。このようにして生成された第1調整済液体アンモニアal1は貯蔵部4bに移動され、蒸発器3への供給の用に供される。
混合部4aにおける混合量割合、熱収支等に関しては後に詳述する。
【0052】
以上の構成を採用することにより、貯蔵部4bから蒸発器3に第1調整済液体アンモニアal1が取り込まれ、蒸発器3においてアンモニア蒸気としてアンモニアaが取出されて外部(具体的には燃料電池1)に供給される。この蒸発は、蒸発器3に於ける調整済液体アンモニアal1,al2の圧力・温度の調整によりおこなう。圧力は蒸発器3の圧力設定により制御され、加熱のための熱源は、先に示したように燃焼器2から排出される排ガスg2が保有する熱とされ、熱利用後の排ガスg3は外部に放散される。これら、燃料器2からの排ガスg2、蒸発器3から放散する排ガスg3は共に、燃焼器2で燃焼処理を受けているため、アンモニア、水素等がそのまま放出されることはなく、無害化されている。
【0053】
さらに、燃焼器2及び蒸発器3はそれぞれ起動用ヒータ(図示省略)を備え、少なくとも燃料電池システムFCSの起動時に、当該起動用ヒータにより所定の動作(燃焼器2の場合は可燃成分の加熱、後述する燃料予熱器10及び空気予熱器11の加熱、蒸発器3の場合は、この蒸発器3に送られてくる第1調整済液体アンモニアal1の加熱によるアンモニア蒸気の回収)を実行できる。
【0054】
〔燃料電池システム〕
燃料電池システムFCSは、アンモニア貯蔵・供給システムAFSと、当該アンモニア貯蔵・供給システムAFSから供給されるアンモニアaを燃料として働く燃料電池1(本例では、固体酸化物形燃料電池SOFC)を中核として構成されている。
【0055】
燃料電池システムFCSを構成する主要な機器に関して説明すると、燃料電池1に供給する燃料(アンモニアa)を予熱する燃料予熱器10、燃料電池1から排出する排ガスg1に含まれる燃焼成分(主には燃料であるアンモニアaで、発電で消費されることなくスリップして排出されるアンモニアaと、アンモニアaの分解により発生され、発電に消費されることなく排出される水素)を燃焼する燃焼器2、さらに、燃料電池1に供給する空気airを予熱する空気予熱器11が備えられている。空気予熱器11は、燃焼器2で、その燃焼により発生する熱を利用するほか、燃焼器2から排出される排ガスg2の保有する熱を、空気予熱の用に利用する。
【0056】
以上が燃料電池1側の主な機器であるが、以下順に説明する。
燃料電池1は固体電解質形燃料電池SOFCとされており、多数の燃料電池単セルfcを積層して構成されている。燃料電池1の右横に模式的に、この燃料電池単セルfcを示した。さらに、その上下に供給するガス(燃料であるアンモニアa,酸化性ガスである空気air)を示した。
【0057】
燃料電池単セルfcは、固体電解質1aと、当該固体電解質1aの一方の側にアノード電極1bを、他方の側にカソード電極1cを備えて構成されている。そして、アノード電極1b側にアンモニアaを、カソード電極1c側に空気airを供給することで発電する。従って、この実施形態の燃料電池1は直接アンモニア燃料電池となっている。
【0058】
前記固体電解質1aの材料は、所謂、酸素イオン伝導性セラミックス材料であり、具体的には、YSZ(イットリア安定化ジルコニア)、ScSZ(スカンジア安定化ジルコニア)、これらのジルコニアにさらにCe、Al等をドープしたジルコニア系粉末、SDC(サマリアドープドセリア)、GDC(ガドリアドープドセリア)等のドープセリア系粉末、LSGM(ランタンガレート)系粉末、酸化ビスマス系粉末等が使用される。
【0059】
前記アノード電極1bは、良く知られているように、アノード電極触媒と固体電解質粒子により形成される。
このようなアノード電極触媒の材料としては、具体的には、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)の合金である。
【0060】
カソード電極1cも、カソード電極触媒と固体電解質粒子により形成される。
カソード電極触媒としては、具体的には、マンガン系、フェライト系、コバルト系やニッケル系ペロブスカイト型構造の酸化物が好ましく、例えば、ストロンチウム(Sr)等の周期律表第2族元素が添加されたランタンストロンチウムマンガナイト(LaXSr1-XMnO3)、ランストロンチウムコバルタイト(LaXSr1-XCoO3)、ランストロンチウムコバルトフェライト(LaXSr1-XCoYFe1-YO3)、ランタンニッケルフェライト(LaNiYFe1-YO3)とされる。
【0061】
発電は、各電極1b、1cに所定のガスを供給して良好に起こすことができる。発電電力は、インバータIにより直交変換されて所望の用に供される。
【0062】
前記燃料予熱器10は、燃料電池1に供給する燃料としてのアンモニアaを予熱する。
【0063】
前記燃焼器2は、燃料電池1から排出される排ガスg1を受入れるとともに、別途、外部からブロアーB、フローコントローラMFCを経て空気airを吸引して、排ガスg1内に含まれる燃焼成分であるアンモニア、水素等を燃焼する。従って、排ガスg1に含まれることがあるアンモニア、水素等を良好に除去できる。
【0064】
前記空気予熱器11は、外部からブロアーB、フローコントローラMFCを経て空気airを吸引するとともに、燃焼器2に於いて発生する燃焼熱及び排ガスg2が保有する熱により予熱して、燃料電池1のカソード電極1cへ供給する。
【0065】
以上の構成を採用することにより、この燃料電池システムFCSは、アンモニア貯蔵・供給システムAFSから燃料となるアンモニアaの供給を受けて、良好に発電することができる。発電電力はインバータIを介して、所要の形態(例えば、交流、数100V)に変換されて外部出力される。
【0066】
また、先に説明した蒸発器3では、燃料電池1から排出される排ガスg1の保有する熱と、排ガスg1内に残存する燃焼成分の燃焼により発生する熱の両方を使用して、第1調整済液体アンモニアal1からアンモニアaを蒸発させる熱源としている。従って、蒸発器3からの排ガスg3は清浄なガスとなる。
【0067】
〔沸点調整材dとアンモニア貯蔵・供給システムの動作〕
以下、本発明で使用する沸点調整材dとして、
(1)水素化ホウ素ナトリウム(NaBH4)を使用する場合
(2)塩化アンモニウム(NH4Cl)と臭化アンモニウム(NH4Br)との混合物を 使用する場合に関して説明する。
これまでも説明してきたように、本発明に係る燃料電池システムFCS(アンモニア貯蔵・供給システムAFSを含む)へ供給されるアンモニアは、今日、一般に流通している液体アンモニア(調整前液体アンモニアal0)であり、これは、混合部4aの圧力以上の条件で、液体アンモニアの温度-33℃でそのまま供給することができる。この温度で供給すれば、アンモニアの吸着熱を打ち消し、混合後の調整済液体アンモニアの温度上昇はない。
【0068】
(1)水素化ホウ素ナトリウム(NaBH4)を沸点調整材dとして使用する場合
この例では、第1調整済液体アンモニアal1及び第2調整済液体アンモニアal2を、それぞれ以下に示す条件下の調整済液体アンモニアal1,al2として使用する。
【0069】
ただし、本発明において、第1及び第2調整済液体アンモニアal1,al2は、それぞれ沸点調整材dの濃度との関係で定義する。
システム系内では、その圧力・温度に関して、異なった状態下に置かれるが、代表的な状態は以下の2状態である。
【0070】
貯蔵部4bに於ける第1調整済液体アンモニア;圧力 300kPa、温度 20℃
返送路5に於ける第2調整済液体アンモニア ;圧力 90kPa、温度 20℃
ここで、上記記載において「圧力 300kPa」と記載しているのは理解を容易するためであり、実際の運転においては、例えば、高圧ガス保安法適用以下の圧力(35℃以下・300kPa未満)の条件を満たし、第1調整済液体アンモニアal1の圧力を35℃で290kPaとすることもできる。実用上は、35℃以下・300kPa未満の要件を満たす条件での使用が好ましい。
【0071】
これら条件下でのアンモニアa(NH3)の吸蔵量(mass%)と、圧力(kPa)、NH3/NaBH4モル比との関係を、表1に示した。
【0072】
【0073】
圧力90kPa及び300kPaでの調整済液体アンモニアal1.al2全体に占めるアンモニアのモル比は、それぞれ0.67及び0.8となる。
【0074】
図2には、相対圧力(p/p
0:p
0=1000kPa)に対する、調整済液体アンモニア(〔NaBH
4-NH
3〕)におけるアンモニア(〔NH
3〕)のモル比(mol/mol)を示した。
【0075】
蒸発器3での挙動
蒸発器3は、第1調整済液体アンモニアal1を受入れ、これを、減圧・加熱し、一部をガス化する。結果、気相側にアンモニアaの蒸気を得ることができる。
この減圧・加熱操作において、調整済液体アンモニアは、沸点調整材dに関して濃縮され第2調整済液体アンモニアal2となる。処理圧力・温度は、減圧後の圧力を90kPaとして、蒸発器3で発生するアンモニアの気化熱を補うための加熱を行うことにより、内部温を常温(15℃以上25℃、例えば20℃)に調整することができる。
【0076】
貯蔵槽4での挙動
返送路5より返送される第2調整済液体アンモニアal2は冷却装置7により冷却され、混合部4aに受入れられる。一方、この混合部4aに、調整前液体アンモニアal0が温度調整装置8により温度調整され、もしくはそのまま受入られる。そして、混合され、適宜、均質化される。結果、第1調整済液体アンモニアal1として貯蔵部4bに送られ、適宜、アンモニア蒸気発生の用に使用される。
【0077】
混合部4aでの混合・均一化に際して、調整前液体アンモニアal0及び第2調整済液体アンモニアal2をそれぞれ受入るが、本発明では、この混合(沸点調整材dにあっては希釈化)において、混合部4a内の圧力・温度が不安定とならない様、適切な熱制御を行っている。
【0078】
以下、この点に関して、発明者らが行った検討について簡単に説明する。
調整前液体アンモニアal0の必要冷却量
沸点調整材d(NaBH4)に2モルの調整前液体アンモニアal0(-33℃;通常の液体アンモニア(調整前液体アンモニア)の流通温度)を混合する場合の発熱量は、調整前液体アンモニアal0の保有する冷熱をQ1,調整前液体アンモニアal0の気化熱をQ2,沸点調整材dへの吸着熱をQ3として、以下のように推定される。
【0079】
Q1+Q2+Q3=-4.9kJ/mol
Q1=-8.2kJ、Q2=-46.7kJ、Q3=50kJ
【0080】
この-4.9kJ/molをゼロにすれば、混合時の温度変化は実質ゼロとできる。
よって、Q1=-3.3kJ(-8.2+4.9)kJになるように、調整前液体アンモニアal0の温度を調整すると想定する。
【0081】
調整前液体アンモニアal0の比熱は、20℃の比熱と-30℃の比熱データから、1次式で仮定して、温度Kと比熱Y(J/mol・degree)の関係とした。
【0082】
温度がK度の時;比熱Y=0.1096×K+49.597
【0083】
温度K度と293度の温度差とその時の比熱の平均の積が、求める冷熱3300Jとなるとして、
3300={(293-K)×(0.1096×K+49.597+81.71)/2}×2
により、
K=273K=0℃
とでき、上記した温度調整装置8で調整前液体アンモニアal0の温度は0℃とすると熱収支をゼロとできる。勿論、上述のように搬入温度である-33℃の調整前液体アンモニアをそのまま混合すると温度は低下するが、システム上大きな問題とはならない。
【0084】
アンモニア貯蔵・供給システムAFSでのアンモニア収支
この系において必要となるアンモニア量を31.2Kgとした場合の検討結果は以下の通りである。ここで、31.2Kgは、日産自動車バイオエタノールEV車に搭載されるエタノール量と同等の熱量を得るために必要となるアンモニア量であり、5kWSOFC補助電源によるEV充電で、600km以上走行できる量である。
【0085】
以下、このアンモニア量を供給するために必要となる諸元について順次記載する。
()内には、要件を略記している。
【0086】
1)NaBH4量:34.7Kg
(2モルのアンモニアNH3に対して1モルのNaBH4が必要)
2)アンモニア供給速度=26.7g・NH3/分=35.1NL・NH3/分
3)第1調整済液体アンモニアal1の蒸発器3への供給速度:83.1g/分
(蒸発するアンモニアモル数=1.57モル/分)
(NaBH4モル数=0.785モル/分)
4)第2調整済液体アンモニアal2の蒸発器3からの回収速度:56.4g/分
(残存アンモニアモル数=1.57モル/分)
(NaBH4モル数=0.785モル/分)
以上の前提から混合部4aに投入する調整前液体アンモニアal0が31.2Kgで、この混合部4aに65.9Kgの第2調整済液体アンモニアal2が充填されているとの条件のもとに、両者al0,al2の混合を想定すると、混合に従って、第2調整済液体アンモニアal2を第1調整済液体アンモニアal1とすることができ、その重量は97.1Kgとなる。
【0087】
(2)塩化アンモニウム(NH4Cl)と臭化アンモニウム(NH4Br)との混合物を 使用する場合、
この例では、沸点調整材dとして、塩化アンモニウム(NH4Cl)と臭化アンモニウム(NH4Br)とを、1:3の割合で混合した混合物を使用する。
従って、この系は、液体アンモニアに0.5NH4Cl-1.5NH4Brが添加された系となる。
【0088】
第1調整済液体アンモニアal1及び第2調整済液体アンモニアal2、それぞれ以下に示す条件下の調整済液体アンモニアとしてシステムを運用する。
【0089】
第1調整済液体アンモニアal1;圧力 300kPa、温度 20℃
第2調整済液体アンモニアal2;圧力 200kPa、温度 20℃
これら条件下でのアンモニア(NH3)の吸蔵量(mass%)と、圧力、NH3/HM4Xモル比との関係を、表2に示した。同表において、XはCl及びBrとなる。
【0090】
【0091】
この例に関しては、詳細な説明は省略するが、
図3に、この系のアンモニア蒸気圧-組成等温線を示すとともに、本発明で利用する第1調整済液体アンモニアal1(希溶液)と第2調整済液体アンモニアal2(濃溶液)の状態を示した。このような2状態間で、本発明に係るアンモニア貯蔵・供給システムAFSを作動することができる。
そして、燃料電池1は、アンモニアaの供給を受けて良好に作動できる。
【0092】
さて、以上が本発明に係るアンモニア貯蔵・供給システムAFSを備えた燃料電池システムFCSの構成及びその作動原理であるが、以下、システムの起動及び停止時の操作を簡単に説明しておく。
【0093】
(起動操作)
1 貯蔵部4bにおける第1調整済液体アンモニアal1の状態(温度、圧力)を確認する。
2 蒸発器3及び燃焼器2の温度を起動用ヒータで予め所定温度まで加熱しておく。
この加熱は、先に説明した液体アンモニアの気化熱に対応するものである。
3 ポンプp0を作動して、貯蔵部4bから蒸発器2へ第1調整済液体アンモニアal1を所定量の速度で送り込む。
4 蒸発器3で発生したアンモニアaの蒸気を、燃焼器2に所定量流す。同時に所定量の空気airも燃焼器2に流し着火する。
5 燃焼器2で発生する熱で燃料予熱器10と空気予熱器11を加熱昇温する。
6 燃料電池1に予熱後の空気airを送り、燃料電池1を加熱昇温する。
7 燃料予熱器10が所定温度に達している状態で、当該燃料予熱器10から直接燃料であるアンモニアaを燃料電池1に供給する。この状態で燃料電池1は起動(発電開始)する。
8 燃料電池1が発電開始すれば、燃焼器2へのアンモニアa及び空気airの供給を停止し、蒸発器3と燃焼器2の起動用ヒータも停止する。
9 蒸発器3に溜まった第2調整済液体アンモニアal2、ポンプp2a,p2bを働かせて適宜、混合部4aへ送る。
10 以降、適宜、システム全体の熱バランスを取る。
ここで、熱バランスとは、蒸発器3の温度をアンモニア気化熱とSOFC及び燃焼器2からの排熱をバランスさせ、常温に保つことを意味する。
【0094】
(停止操作)
1 第1調整済液体アンモニアal1の蒸発器3への供給を停止する。
2 燃料予熱器10へのアンモニアaの供給を停止し、燃料電池1の発電を停止する。
3 蒸発器3から燃焼器2へのアンモニアa及び空気airの供給を再開し、蒸発器3内の余分なアンモニアaの蒸気を燃焼器2で燃焼する。
4 蒸発器3からのアンモニアaの発生が停止され、燃焼器2での残留アンモニアaの処理が終われば、蒸発器3と燃焼器2間に於けるガスの流通を停止する。
5 蒸発器3に残った第2調整済液体アンモニアal2は、混合部4aに戻す。
6 燃料電池1から排気される空気airで、燃料電池システムFCS全体の温度を常温まで下げる。以上より、本システムAFS、FCSの停止が完了する。
【0095】
〔別実施形態〕
【0096】
(1)沸点調整材dの別実施形態
上記の実施形態では、水素化ホウ素ナトリウム(NaBH4)を単独で使用する場合
塩化アンモニウム(NH4Cl)と臭化アンモニウム(NH4Br)とを所定の割合で混合して使用する場合について述べたが、沸点調整材dとして水素化ホウ素アルカリ金属、水素化ホウ素アルカリ土類金属及びハロゲン化アンモニウム化合物から選択される一種以上を、単独若しくは混合して使用することができる。
【0097】
(2)水素供給が可能な別実施形態
上記の実施形態では、燃料電池システムFCSの構成として、本発明に係るアンモニア貯蔵・供給システムAFSからアンモニアaを直接燃料として供給されて働くシステムに関して説明した。先にも説明したように、このシステムでは、燃料電池1は高温に達しており、そのアノード極1b側で、アンモニアaから水素H2を生成して、その水素が発電の用を果たす。しかしながら、例えば、燃料電池1の立上げ時或いは停止時で、電池温度が低い状態では、電池に水素として燃料を供給するほうが好ましい状態もある。
【0098】
そこで、
図4に示す燃料電池システムFCSでは、アンモニア蒸気回収手段である蒸発器3から供給されるアンモニアaの蒸気の少なくとも一部から水素H
2を得る水素化手段も備え、当該水素化手段により得られた水素も供給可能に構成されている。
ここで、水素化手段は、その部位にクラッキング用の触媒(具体的にはルテニウム系触媒、ニッケル系触媒)を備え、アンモニアaをクラッキングする部位9である。クラッキングは吸熱反応であるため熱を必要とするが、この熱としては、定常運転時には、燃焼器2の熱を利用したり、燃料電池1の排熱を利用することができる。
結果、この構成を採用することで、燃料電池1側で好ましい燃料を選択的に供給することができる。
その運転方法は、燃料電池1の起動時に前記水素化手段9を働かせて、当該燃料電池1の起動をアノード電極に供給する還元性ガスに水素を含めて実行することとなる。
【0099】
また、水素化手段9にも起動用ヒータ(図示省略)を備えておき、少なくとも燃料電池システムFCSの起動時に、当該起動用ヒータにより所定の加熱動作(アンモニアの水素化に必要な加熱)を行えるようにする。
【0100】
従って、先に説明した、アンモニアを直接燃料とするFCSの起動操作において、起動初期のみ水素化手段9で生成される水素を燃料電池1に供給しようとする場合は、起動動作のステップ2で、水素化手段9における起動用ヒータによる加熱を行い、ステップ7で、初期的には水素化手段9を経て、アンモニアaを水素に変換して燃料電池1に供給する。その後、燃料極1bでのアンモニアaの水素への変換が十分行われる温度の達した状態で、水素化手段9へのアンモニアaの供給を断ち、アンモニアaを直接燃料電池1に供給して、発電を継続できる。
【0101】
さらに、
図1に示すシステムにおいて、燃料電池1には、クラッキング後の燃料(水素H
2)のみを供給するよう、燃料予熱器10と燃料電池1との間に、水素化手段9を設けておいてもよい。この例を
図5に示した。この例の場合は、燃料電池1への燃料は水素のみとなるため、先に説明した、アンモニアを直接燃料とするFCSの起動操作において、起動動作のステップ2で、水素化手段9における起動用ヒータによる加熱を行い、ステップ7で、常時水素化手段9を経て、アンモニアaを水素に変換して燃料電池1に供給することとなる。即ち、水素H
2からアンモニアaへの燃料ガスの切り換えは行わない。
【0102】
さらに、
図5に示すシステムにおいて、燃焼器2に直接アンモニアを送り込んで燃焼させるのではなく、一度水素化手段9でアンモニアをクラッキングさせてから、燃焼器2に送っても良い。この例を
図6に示した。
この例の場合は、システムの始動に際して、水素化手段9と燃焼器2との間にラインを繋ぎ、燃焼器2へアンモニアをクラッキングした水素を送り、同時に燃料電池1を経由した空気を燃焼器2に送り着火する。この始動方法では、アンモニア直接燃料より着火し易いという利点がある。燃焼器2により、予熱器10や熱交換器11の温度が十分上がり、更に熱交換器11を経由した空気で燃料電池1の温度が十分上がれば、水素化手段9と燃料電池1の間のラインを開き、水素化手段9と燃焼器2の間のラインを閉じる。この運転では、燃料電池1には、電池1には発電用及び燃焼器2での燃焼用に必要となる両方の水素を供給する。この場合も、燃料電池1は、クラッキング水素のみでの発電となる。燃料電池1へ供給する水素量は、発電に必要とする水素量と燃焼器2で必要とする水素量の合計以上とする。無論燃料電池1と燃焼器2とに別個に水素を供給してもよい。
【0103】
(3)上記の実施形態においては、受入路6を介する調整前液体アンモニアの受入に関して、搬入される液体アンモニアをそのまま(温度-33℃)混合部4aに受入れる場合と、検討結果に示すように0℃として受け入れる場合との両方を示した。そこで、前者の運用形態を採る場合は、調整前液体アンモニア温度調整手段8は必ずしも必要とはされない。一方、後者の場合は、混合部4aでの温度変化を適切に制御できるため好ましい。この場合、主には昇温操作となるが、その目的温度に関しては本明細書の開示に限られるものではない。また、その昇温には、調整前液体アンモニア温度調整手段8にヒータ等の自己発熱機構を備えたり、システム内に設けられている燃焼器2の排熱等を利用することもできる。さらに、使用環境条件等によって混合部4aから外部への放熱量が低下する場合(例えば夏場)、搬入される液体アンモニアを降温操作して混合部4aに受入れる必要も想定される。このような状況では、例えば20℃程度、調整前液体アンモニア温度調整手段8で降温操作することが好ましい。
【0104】
(4)上記の実施形態では、蒸発器3においては、主に外部から供給される熱を利用する形態を示したが、このような蒸発操作において、蒸発器3にヒータ等の独自の自己発熱型の機器(図外)を備えて、これら機器の発生する熱により蒸発を行わせてもよい。
【0105】
(5)上記の実施形態においては、調整済液体アンモニアとして、第1調整済液体アンモニア(希溶液)と第2調整済液体アンモニア(濃溶液)との2溶液間で、混合部4aでの混合・均一化を説明したが、等温での取り扱いの場合、溶液の希釈に従って圧力上昇が必要となるが、このような圧力の処理に関しては混合部を多段としても良い。また、混合部4aへの第2調整済液体アンモニア(濃溶液)の受入れ、調整前液体アンモニアal0の投入を昇圧しながら行ってもよい。さらに、低圧側で、混合・均一化を撹拌を伴って実行し、その後、昇圧を実行してもよい。
【0106】
(6)これまでの実施形態では、燃料電池が固体酸化物形燃料電池SOFCである場合に関して主に説明したが、水素化手段9を備えたシステムでは、燃料電池として、アニオン交換膜形燃料電池(AEMFC)でも、本発明に係るアンモニア貯蔵・供給システムを採用し、燃料電池システムを構築できる。先に説明した
図6では、このような意味から燃料電池1を〔SOFC/AEMFC〕と記載した。容易に理解できるように、
図5に示すシステムでも採用可能である。
アニオン交換膜形燃料電池は、高分子電解質形燃料電池(PEFC)と同じく低温作動形であり、安価な構成材料が使用可能である点である。なお、PEFCと異なり、触媒に貴金属を使う必要が無く、上述の水素化手段9を燃料極に燃料を供給する燃料供給部に備えて、アンモニアをクラッキングすれば、そのまま燃料として使える点である。
【符号の説明】
【0107】
1 燃料電池(SOFC・AEMFC)
2 燃焼器
3 蒸発器(アンモニア蒸気回収手段)
4 貯蔵槽(貯蔵手段)
4a 混合部(貯蔵手段)
4b 貯蔵部(貯蔵手段)
5 返送路
6 受入路
7 冷却装置(調整済液体アンモニア冷却手段)
8 温度調整装置(調整前液体アンモニア温度調整手段)
9 分解器(水素化手段)
10 燃料予熱器
11 熱交換器
al0 調整前液体アンモニア
al1 第1調整済液体アンモニア(調整済液体アンモニア)
al2 第2調整済液体アンモニア(調整済液体アンモニア)
d 沸点調整材
p0 ポンプ
p1 ポンプ(取出し手段)
p2a ポンプ
p2b ポンプ