(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-08
(45)【発行日】2023-09-19
(54)【発明の名称】埋設鋼材検出装置、埋設鋼材検出方法および埋設鋼材検出プログラム
(51)【国際特許分類】
G01V 3/06 20060101AFI20230911BHJP
G01N 17/00 20060101ALI20230911BHJP
G01N 27/26 20060101ALI20230911BHJP
G01B 7/26 20060101ALI20230911BHJP
G01N 27/02 20060101ALI20230911BHJP
G01N 27/04 20060101ALI20230911BHJP
【FI】
G01V3/06
G01N17/00
G01N27/26 351F
G01N27/26 351P
G01B7/26
G01N27/02 Z
G01N27/04 Z
(21)【出願番号】P 2019151476
(22)【出願日】2019-08-21
【審査請求日】2022-07-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000173809
【氏名又は名称】一般財団法人電力中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】金光 俊徳
(72)【発明者】
【氏名】小野 新平
【審査官】山口 剛
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2015/0097589(US,A1)
【文献】特開平03-259782(JP,A)
【文献】特開2007-108084(JP,A)
【文献】特開平09-196876(JP,A)
【文献】特開2018-205125(JP,A)
【文献】特開2002-062362(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01V 1/00 - 99/00
G01N 17/00 - 17/04
G01N 27/02 - 27/04
G01N 27/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼材が埋設された土またはコンクリートの表面あるいは内部に直線状に配置された少なくとも4つの電極と、
前記少なくとも4つの電極のうち、2つ以上の電極が間に配置された2つの第1電極に
所定の周波数範囲で周波数を変えて交流電力を印加する電源部と、
前記電源部から
前記周波数範囲で周波数を変えて交流電力を印加した際の、前記第1電極の間に配置された前記2つ以上の電極のうち、2つの第2電極間の電位差を計測する計測部と、
前記計測部により計測される
周波数ごとの電位差から周波数ごとのインピーダンスを求め、周波数ごとのインピーダンスを複素数平面に示したコールコールプロットにおいて形成される高周波側と低周波側の半円のうち高周波側の半円から前記第2電極間の端子間溶液抵抗を算出し、算出した端子間溶液抵抗に基づき、前記鋼材を検出する検出部と、
を有することを特徴とする埋設鋼材検出装置。
【請求項2】
前記少なくとも4つの電極は、前記鋼材の検出を行う対象位置と前記鋼材から外れた位置とに順に配置され、
前記計測部は、前記対象位置と前記鋼材から外れた位置で、それぞれ前記電源部から前記周波数範囲で周波数を変えて交流電力を印加した際の前記電位差を計測し、
前記検出部は、
前記対象位置で計測される周波数ごとの電位差と、前記鋼材から外れた位置で計測される周波数ごとの電位差からそれぞれ前記端子間溶液抵抗を算出し、算出した
前記対象位置での端子間溶液抵抗を、
前記鋼材から外れた位置での端子間溶液抵抗と比較して前記鋼材を検出する
ことを特徴とする請求項
1に記載の埋設鋼材検出装置。
【請求項3】
前記検出部は、算出した
前記対象位置での前記端子間溶液抵抗が、
前記鋼材から外れた位置での端子間溶液抵抗の0.8倍よりも小さくなった場合、前記鋼材が埋設されていると検出する
ことを特徴とする請求項
2に記載の埋設鋼材検出装置。
【請求項4】
前記検出部は、前記2つの第1電極の間隔を順に狭めてそれぞれ算出した
前記対象位置での端子間溶液抵抗を、それぞれ同じ間隔の
前記鋼材から外れた位置での端子間溶液抵抗と比較し、算出した前記端子間溶液抵抗が鋼材の影響がない場合の端子間溶液抵抗の0.8倍よりも小さくなった際の前記第1電極の間隔の1/2を前記鋼材の埋設された深さと検出する
ことを特徴とする請求項2
又は3に記載の埋設鋼材検出装置。
【請求項5】
前記検出部は、前記コールコールプロットにおいて形成される高周波側と低周波側の半円のうち低周波側の半円から前記第2電極間の端子間分極抵抗を算出し、算出した端子間分極抵抗に基づいて鋼材の腐食を検出する
ことを特徴とする請求項
1~4の何れか1つに記載の埋設鋼材検出装置。
【請求項6】
前記周波数範囲は、500kHz~100mHzとする
ことを特徴とする請求項
1~5の何れか1つに記載の埋設鋼材検出装置。
【請求項7】
前記電極は、前記土または前記コンクリートの表面あるいは内部に直線状に5つ以上配置され、それぞれ第1配線が個別に接続され、
5つ以上の前記電極に個別に接続された各第1配線と前記電源部から印加される交流電力が流れる2つの第2配線とをそれぞれ個別に接続する第1スイッチと、
5つ以上の前記電極に個別に接続された各第1配線と前記計測部が電位差を検出する2つの第3配線とをそれぞれ個別に接続する第2スイッチと、
前記第1スイッチ及び前記第2スイッチのオン・オフを制御して、交流電力を印加する2つの前記2つの第1電極および電位差を計測する前記2つの第2電極を切り替える制御を行う制御部と、
ことを特徴とする請求項1~
6の何れか1つに記載の埋設鋼材検出装置。
【請求項8】
鋼材が埋設された土またはコンクリートの表面あるいは内部に直線状に配置され、それぞれ第1配線が個別に接続された5つ以上の電極と、
2つの第2配線を介して交流電力を印加する電源部と、
2つの第3配線間の電位差を計測する計測部と、
各第1配線と前記2つの第2配線とをそれぞれ個別に接続する第1スイッチと、
各第1配線と前記2つの第3配線とをそれぞれ個別に接続する第2スイッチと、
前記第1スイッチ及び前記第2スイッチのオン・オフを制御して、前記5つ以上の電極のうち、2つ以上の電極が間に配置され、前記交流電力を印加する2つの第1電極、および、前記第1電極の間に配置された前記2つ以上の電極のうち、電位差を計測する2つの第2電極を切り替える制御を行う制御部と、
前記計測部により計測される電位差に基づき、前記鋼材を検出する検出部と、
を有することを特徴とする埋設鋼材検出装置。
【請求項9】
鋼材が埋設された土またはコンクリートの表面あるいは内部に直線状に配置された少なくとも4つの電極のうち、2つ以上の電極が間に配置された2つの第1電極に
所定の周波数範囲で周波数を変えて交流電力を印加し、
前記周波数範囲で周波数を変えて交流電力を印加した際の、前記第1電極の間に配置された前記2つ以上の電極のうち、2つの第2電極間の電位差を計測し、
計測される
周波数ごとの電位差から周波数ごとのインピーダンスを求め、周波数ごとのインピーダンスを複素数平面に示したコールコールプロットにおいて形成される高周波側と低周波側の半円のうち高周波側の半円から前記第2電極間の端子間溶液抵抗を算出し、算出した端子間溶液抵抗に基づき、前記鋼材を検出する
を有することを特徴とする埋設鋼材検出方法。
【請求項10】
鋼材が埋設された土またはコンクリートの表面あるいは内部に直線状に配置された少なくとも4つの電極のうち、2つ以上の電極が間に配置された2つの第1電極に
所定の周波数範囲で周波数を変えて交流電力を印加した際の、前記第1電極の間に配置された前記2つ以上の電極のうち、2つの第2電極間の電位差を計測した計測データを取得し、
前記計測データにより示される
周波数ごとの電位差から周波数ごとのインピーダンスを求め、周波数ごとのインピーダンスを複素数平面に示したコールコールプロットにおいて形成される高周波側と低周波側の半円のうち高周波側の半円から前記第2電極間の端子間溶液抵抗を算出し、算出した端子間溶液抵抗に基づき、前記鋼材を検出する
処理をコンピュータに実行させることを特徴とする埋設鋼材検出プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、埋設鋼材検出装置、埋設鋼材検出方法および埋設鋼材検出プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、コンクリート中や地中に鋼材が埋設される場合がある。例えば、コンクリート構造物は、コンクリート内部に鉄筋等の鋼材が埋設される。また、電力線や電話線などの各種のケーブルを配設するため、管路等の鋼材が土壌に埋設される。
【0003】
鋼材は、コンクリート中や地中に埋設された場合、目視できないため、配置位置を特定することが困難である。そこで、特許文献1には、地中に向けて放射した探査用電磁波の反射波を処理して埋設物の配置位置を特定する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
電磁波は、水による減衰が大きい。このため、特許文献1の技術では、鋼材が埋設されたコンクリート中や土壌が多量の水分を含む場合、電磁波が減衰して鋼材の埋設位置が大きく異なって検出される場合や、鋼材を検出できない場合がある。
【0006】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、埋設鋼材を検出できる埋設鋼材検出装置、埋設鋼材検出方法および埋設鋼材検出プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明の埋設鋼材検出装置は、少なくとも4つの電極と、電源部と、計測部と、検出部とを有する。少なくとも4つの電極は、鋼材が埋設された土またはコンクリートの表面あるいは内部に直線状に配置される。電源部は、少なくとも4つの電極のうち、2つ以上の電極が間に配置された2つの第1電極に交流電力を印加する。計測部は、電源部から交流電力を印加した際の、第1電極の間に配置された2つ以上の電極のうち、2つの第2電極間の電位差を計測する。検出部は、計測部により計測される電位差に基づき、鋼材を検出する。
【発明の効果】
【0008】
本発明は、埋設鋼材を検出できるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1A】
図1Aは、実施例に係る検出手法で使用する電極の配置の一例を説明する図である。
【
図1B】
図1Bは、実施例に係る検出手法で使用する電極の配置の一例を説明する図である。
【
図2】
図2は、実施例に係るサウンディングロッドに電極を設けた一例を示す図である。
【
図3】
図3は、実施例に係る検出装置の概略構成の一例を示す図である。
【
図4】
図4は、鋼材が内部に設けられたコンクリートや土壌の電気的な特性を示す等価回路の一例を示す図である。
【
図5】
図5は、実施例に係るコールコールプロットの一例を示す図である。
【
図6】
図6は、実施例に係る電極の配置を説明する図である。
【
図7A】
図7Aは、鋼材の埋設深さと2つの第1電極間の間隔の関係に応じた電流の流れを説明する図である。
【
図7B】
図7Bは、鋼材の埋設深さと2つの第1電極間の間隔の関係に応じた電流の流れを説明する図である。
【
図8A】
図8Aは、電源部から印加した交流電力の周波数に応じた電流の流れを説明する図である。
【
図8B】
図8Bは、電源部から印加した交流電力の周波数および鋼材の腐食に応じた電流の流れを説明する図である。
【
図8C】
図8Cは、電源部から印加した交流電力の周波数および鋼材の腐食に応じた電流の流れを説明する図である。
【
図9】
図9は、CEBの腐食速度による腐食のグレーディングに、本実施例の正規化端子間分極抵抗NR
p-fourを対応させた一例を示す図である。
【
図10】
図10は、実施例に係る検出手法における電極の配置と試験体の概要を示す図である。
【
図11】
図11は、実施例に係る解析に用いたモデルの概要を示す図である。
【
図12】
図12は、実施例に係る試験体による実験結果および解析結果の一例を示す図である。
【
図13】
図13は、実施例に係る試験体による実験結果の一例を示す図である。
【
図14】
図14は、実施例に係る試験体による実験結果の一例を示す図である。
【
図15】
図15は、実施例に係る検出手法における電極の配置と試験体の概要を示す図である。
【
図16】
図16は、比較例に係る三電極法における電極の配置と試験体の概要を示す図である。
【
図17】
図17は、実施例に係る健全鉄筋の試験体および腐食鉄筋の試験体について、実施例に係る検出手法による端子間分極抵抗R
p-fourと、比較例に係る三電極法による単位面積あたりの分極抵抗R
pの比較結果の一例を示した図である。
【
図18】
図18は、実施例に係る試験体について実施例に係る検出手法における正規化端子間分極抵抗NR
p-fourと三電極法における正規化分極抵抗NR
pの比較結果の一例を示した図である。
【
図19】
図19は、実施例に係る検出手法における電極の配置と試験体の概要を示す図である。
【
図20】
図20は、実施例に係る試験体について実施例に係る検出手法における正規化端子間分極抵抗NR
p-fourと三電極法における正規化分極抵抗NR
pの一例を示した図である。
【
図21】
図21は、実施例に係る検出処理の手順の一例を示すフローチャートである。
【
図22】
図22は、実施例に係る検出装置の概略構成の他の一例を示す図である。
【
図23】
図23は、検出プログラムを実行するコンピュータを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に、本発明に係る埋設鋼材検出装置、埋設鋼材検出方法および埋設鋼材検出プログラムの実施例を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施例によりこの発明が限定されるものではない。そして、各実施例は、処理内容を矛盾させない範囲で適宜組み合わせることが可能である。
【実施例1】
【0011】
[検出装置]
最初に、実施例に係る検出手法で使用する電極の配置について説明する。
図1Aおよび
図1Bは、実施例に係る検出手法で使用する電極の配置の一例を説明する図である。従来から鉄筋や管路等の鋼材2がコンクリート中や地中に埋設される。
図1Aおよび
図1Bには、コンクリートや土壌などの検出対象物1に鋼材2が埋設されている状態が示されている。土壌は、土や砂などを含んで構成される。鋼材2は、例えば、鉄筋、管路、配管などである。実施例に係る検出手法では、鋼材2が埋設された検出対象物1の表面あるいは内部に少なくとも4つの電極11を直線状に配置する。
図1Aには、4つの電極11を検出対象物1の表面に直線状に配置した状態を示している。
図1Bには、検出対象物1にボーリングなどにより垂直方向に孔3を設けて、4つの電極11を検出対象物1の内部に直線状に配置した状態を示している。なお、検出対象物1の内部に電極11を配置する場合、電極11を設けた棒状の部材を検出対象物1に対して刺してもよい。例えば、地盤の固さの検査方式として、スウェーデン式サウンディング試験が知られている。スウェーデン式サウンディング試験では、サウンディングロッドを検査対象の土壌に刺して地盤の固さを検査する。このような棒状の部材に少なくとも4つの電極11を設けてよい。
図2は、実施例に係るサウンディングロッド4に電極11を設けた一例を示す図である。
図2には、サウンディングロッド4の先端部分が示されている。サウンディングロッド4の先端部分に4つの電極11を設けてもよい。この場合、サウンディングロッド4を用いて、地盤の固さの検査と埋設された鋼材2の検出を行うことができる。また、
図1A、
図1B、
図2では、電極11の数を4つとした場合を示しているが、電極11の数は、4つ以上であれば、何れであってもよい。以下では、説明を簡略化するため、電極11の数を4つとした場合の例を主に説明する。
【0012】
次に、実施例に係る検出装置の構成について説明する。
図3は、実施例に係る検出装置10の概略構成の一例を示す図である。検出装置10が、本開示の埋設鋼材検出装置に対応する。
図3には、検出対象物1が示されている。検出対象物1は、コンクリートまたは土壌である。検出対象物1は、鉄筋などの長尺な鋼材2が内部に表面からの深さが同一となるように設けられている。
【0013】
検出装置10は、少なくとも4つの電極11を有する。少なくとも4つの電極11は、コンクリートや土壌などの検出対象物1の表面あるいは内部に直線状に配置される。例えば、
図3に示す検出装置10は、4つの電極11a~11dを有する。電極11a~11dは、検出対象物1の表面に配置されている。電極11a~11dは、端子とも称する。電極11a~11dには、それぞれコード12a~12dが個別に接続されている。
【0014】
また、検出装置10は、電源部20と、計測部21と、制御部22とを有する。
【0015】
電源部20は、少なくとも4つの電極11のうち、2つ以上の電極11が間に配置された2つの電極11に交流電力を印加する。実施例に係る電源部20は、電極11a~11dのうち、2つ以上の電極11b、11cが間に配置された2つの電極11a、11dに交流電力を印加する。例えば、電源部20は、コード12a、12dを介して電極11a、11dに接続されている。電源部20は、周波数が変更可能な交流電源とされている。電源部20は、鋼材2の検出を行う際、コード12a、12dを介して、電極11a、11dに交流電力を印加する。例えば、電源部20は、所定の周波数範囲で周波数を変えながら電極11a、11dに交流電力を印加する。周波数範囲は、例えば、500kHz~100mHzとする。コンクリートや土壌などの検出対象物1は、電極11a、11dから印加される交流電力に伴い、電極11a、11dの間となる検出対象物1の内部や鋼材2の内部に電流13が流れる。
【0016】
計測部21は、電源部20から交流電力を印加した際の、交流電力が印加される電極11の間に配置された2つ以上の電極11のうち、2つの電極11間の電位差を計測する。実施例に係る計測部21は、交流電力が印加される電極11a、11dの間に配置された2つの電極11b、11c間の電位差を計測する。例えば、計測部21は、コード12b、12cを介して電極11b、11cに接続されている。計測部21は、電源部20から交流電力を印加した際の電極11b、11c間の電位差を計測する。電極11b、11cの間の区間が、電位差の計測区間となる。計測部21は、計測した電位差を示す計測データを制御部22へ出力する。
【0017】
制御部22は、検出装置10の動作を統括的に制御する。制御部22は、例えば、コンピュータであり、コントローラ30と、ユーザインターフェース31と、記憶部32とを有する。
【0018】
コントローラ30は、CPU(Central Processing Unit)を備え、電源部20を制御する。
【0019】
ユーザインターフェース31は、検出装置10を操作するコマンドの入力操作を行うキーボードや、検出結果を可視化して表示するディスプレイ等から構成されている。
【0020】
記憶部32には、コントローラ30で実行される各種プログラムを記憶する。例えば、記憶部32は、後述する検出処理を実行するプログラムを記憶する。さらに、記憶部32は、コントローラ30で実行されるプログラムで用いられる各種データを記憶する。なお、各種のプログラムや各種データは、コンピュータで読み取り可能なコンピュータ記録媒体(例えば、ハードディスク、DVDなどの光ディスク、フレキシブルディスク、半導体メモリ等)に記憶されていてもよい。また、各種のプログラムや各種データは、他の装置に記憶され、例えば専用回線を介してオンラインで読み出して利用されてもよい。
【0021】
コントローラ30は、プログラムやデータを格納するための内部メモリを有し、記憶部32に記憶されたプログラムを読み出し、読み出したプログラムの処理を実行する。コントローラ30は、プログラムが動作することにより各種の処理部として機能する。例えば、コントローラ30は、検出部30aと、出力制御部30bの機能を有する。
【0022】
ところで、鉄筋などの鋼材2が内部に設けられ、電流が鋼材2の内部を経由する場合のコンクリートや土壌などの検出対象物1の電気的な特性を示す等価回路は、
図4に示す等価回路として解釈することができる。等価回路50は、土壌やコンクリートなどの検出対象物1側の電気的な特性を示す第1回路51と、鋼材2側の電気的な特性を示す第2回路52とが直列に接続した回路として示すことができる。電源部20から印加した電流が鋼材2の内部を経由しない場合、等価回路は、第1回路51のみで示される。
【0023】
第1回路51は、抵抗Rc2とコンデンサCcとを並列に接続した並列回路53に抵抗Rc1を直列に接続した回路として示すことができる。ここで、抵抗Rc1と抵抗Rc2の抵抗値を加算した抵抗値が、土壌やコンクリートなどの検出対象物1の溶液抵抗Rs[Ωcm]と相関のある端子間溶液抵抗Rs-fourとなる。検出対象物1側は、周波数に応じてインピーダンスが変化する。
【0024】
第2回路52は、端子間分極抵抗Rp-fourとコンデンサCdlを並列に接続した回路として示すことができる。鋼材2側に関しては、土壌やコンクリートなどの検出対象物1と鋼材2との界面に電荷の分離が生じコンデンサと抵抗の並列回路が形成される。コンデンサCdlは、検出対象物1と鋼材2との界面の電気容量を表している。
【0025】
等価回路50から、コールコール(Cole-Cole)プロットは、
図5のように表される。
図5は、実施例に係るコールコールプロットの一例を示す図である。
図5の例は、鋼材2が内部に設けられた検出対象物1において、印加電流が鋼材を経由する場合のコールコールプロットを示している。コールコールプロットとは、周波数ごとのインピーダンスZを虚数Im(Z)と実数Re(Z)の成分に分けて複素数平面にプロットしたものである。コールコールプロットは、虚数軸の正負が反転している。
【0026】
回路内にコンデンサ成分が含まれる場合、高周波ほどインピーダンスの実数値が小さくなる。このため、コールコールプロットでは、左側ほど高周波で計測したインピーダンスがプロットされ、右側ほど低周波で計測したインピーダンスがプロットされる。また、鋼材2が内部に設けられた検出対象物1の場合、コールコールプロットには、
図5のように、高周波側と低周波側に2つの半円が形成される。高周波側の半円は、主に土壌やコンクリートなどの検出対象物1の構成物の影響によるものである。低周波側の半円は、鋼材2と検出対象物1との界面の性状を表している。
【0027】
図3に戻る。検出部30aは、計測部21により計測される電位差から鋼材2とコンクリートや土壌などの検出対象物1の電気化学的性状を検出する。例えば、検出部30aは、計測部21により計測される周波数ごとの電位差から周波数ごとのインピーダンスを求める。そして、検出部30aは、周波数ごとのインピーダンスを複素数平面に示したコールコールプロットを求める。コールコールプロットには、
図5に示したように、鋼材2内部に印加電流が経由する場合は、高周波側と低周波側の半円の一部が形成される。
【0028】
検出部30aは、コールコールプロットに形成される高周波側と低周波側の半円から端子間分極抵抗Rp-fourと端子間溶液抵抗Rs-fourを算出する。例えば、検出部30aは、コールコールプロットに形成される低周波側の半円の一部を示すプロットに、半円のカーブフィッティングを行って、カーブの実数軸との2交点の幅から端子間分極抵抗Rp-fourを算出する。また、検出部30aは、コールコールプロットに形成される高周波側の半円の一部を示すプロットに、半円のカーブフィッティングを行って、カーブの実数軸との2交点のうち、大きい方の交点の値から端子間溶液抵抗Rs-fourを算出する。なお、検出部30aは、低周波側の半円の一部を示すプロットに、半円のカーブフィッティングを行い、カーブの実数軸との2交点のうち、小さい方の交点の値から端子間溶液抵抗Rs-fourを算出してもよい。
【0029】
電源部20から印加する交流電力の電流が小さい場合、インピーダンスの誤差が大きくなり、カーブフィッティングから求まる端子間分極抵抗Rp-fourの誤差が大きくなる場合がある。そこで、検出部30aは、端子間分極抵抗Rp-fourの誤差を小さくするため、次のような処理を実施してもよい。例えば、検出部30aは、コールコールプロットの低周波側の半円の一部を示すプロットに対して半円のカーブフィッティングを行って鋼材2の端子間分極抵抗を算出する。また、検出部30aは、低周波側の半円の一部の周波数のインピーダンスを除いてカーブフィッティングを行って鋼材2の端子間分極抵抗を算出する。そして、検出部30aは、コールコールプロットの低周波側の半円に対してカーブフィッティングを行って算出した鋼材2の端子間分極抵抗と、低周波側の半円の一部の周波数のインピーダンスを除いてカーブフィッティングを行って算出した鋼材2の端子間分極抵抗との差を算出する。検出部30aは、算出した差が所定の許容レベルよりも大きい場合、電源部20から印加する交流電力を増加させて、計測部21により電極11b、11cの電位差を再度計測することを差が許容レベル以下となるまで繰り返してもよい。許容レベルは、許容誤差に応じて予め定めておいてもよく、ユーザインターフェース31から入力させてもよい。なお、電源部20から印加される交流電力によって鋼材2に流れる電流が増加すると、鋼材2の電気化学的な状態が変化する場合がある。このため、電源部20から印加する交流電力の電流は、上限を設けてもよい。検出部30aは、算出した差が所定の許容レベルよりも大きい場合、電源部20から印加する交流電力の電流を所定の上限以下で増加させて、計測部21により電極11b、11cの電位差を再度計測することを差が許容レベル以下となるまで繰り返してもよい。
【0030】
検出部30aは、算出した端子間溶液抵抗Rs-fourに基づいて鋼材2を検出する。また、検出部30aは、算出した端子間分極抵抗Rp-four、端子間溶液抵抗Rs-four、および鋼材2の影響がない場合の端子間溶液抵抗Rs-four-Nに基づいて鋼材2の腐食を検出する。検出の詳細な内容は、後述する。
【0031】
出力制御部30bは、各種の出力制御を行う。例えば、出力制御部30bは、検出部30aによる検出結果に基づく情報をユーザインターフェース31に表示させる。例えば、出力制御部30bは、検出部30aにより鋼材2が埋設されていることが検出された場合、鋼材2が埋設されている旨をユーザインターフェース31に表示させる。また、例えば、検出部30aにより鋼材2の埋設深さを検出した場合、検出された埋設深さをユーザインターフェース31に表示させる。また、例えば、検出部30aにより鋼材2が腐食していることが検出された場合、鋼材2が腐食している旨をユーザインターフェース31に表示させる。なお、出力制御部30bは、検出部30aによる検出結果に基づく情報を不図示のネットワークを介して外部の端末装置へ出力してもよい。
【0032】
[検出手順]
ここで、実施例に係る検出装置10による鋼材2の検出手順の一例を説明する。
図6は、実施例に係る電極11の配置を説明する図である。
図6(A)には、検出対象物1の断面図が示されている。
図6(B)には、検出対象物1の側面図が示されている。
図6(A)の示すように、検出対象物1の表面に電極11a~11dを配置する。電極11a~11dを置いた面を電極設置面5と呼ぶ。電極11a~11dのうち最も外側の電極11a、11dの間の間隔をdとする。電極設置面5と鋼材2との間の距離(埋設深さ)をcとする。事前に予測した埋設深さをc
pとする。埋設深さc
pは、例えば、検出対象物1の設計図面や、鋼材2の標準的な埋設深さなどから求める。鋼材2の影響がない場合の端子間溶液抵抗をR
s-four-N[Ω]とする。
【0033】
検出装置10は、検出対象物1の鋼材2の影響がない場合の端子間溶液抵抗R
s-four-Nを算出する。例えば、検出装置10は、電極11a、11dの間隔d=4c
pとし、鋼材2から明らかに外れた位置で端子間溶液抵抗R
s-four-Nを算出する。例えば、
図6(B)の破線で示した位置11a1~11d1に電極11a~11dを配置して端子間溶液抵抗R
s-four-Nを算出する。また、検出装置10は、鋼材2があると思われる位置の端子間溶液抵抗R
s-fourを算出する。例えば、
図6(B)の実線で示したように電極11a~11dを配置して端子間溶液抵抗R
s-fourを算出する。
【0034】
電極11a~11dを平行、軸方向に移動、あるいは回転させてそれぞれ端子間溶液抵抗R
s-fourを算出し、端子間溶液抵抗R
s-fourが最小となる位置を特定する。
図6(B)には、破線で示した位置11a2~11d2に回転させた電極11a~11dの配置位置の一例を示している。電極11a~11dが鋼材2直上にある場合、印加電力が鋼材2を経由することにより、端子間溶液抵抗R
s-fourは、最小となる。
【0035】
検出装置10は、電極11a、11dの間隔dを変えてそれぞれ鋼材2の影響がない場合の端子間溶液抵抗Rs-four-Nを算出する。検出装置10は、鋼材2が影響しない位置において、電極11a、11dの間隔dを変えて端子間溶液抵抗Rs-four-Nを算出する。例えば、間隔dを4cp、3cp、2cp、1cpと変えて、間隔dごとに、端子間溶液抵抗Rs-four-Nを算出する。また、検出装置10は、鋼材2があると思われる位置、例えば、電極11a~11dが鋼材2の直上の位置において、電極11a、11dの間隔dを4cp、3cp、2cp、1cpと同様に変えて端子間溶液抵抗Rs-fourを算出する。なお、鋼材2の影響がない場合の間隔dごとの端子間溶液抵抗Rs-four-Nは、予め実験等で求めて記憶部32に記憶させてもよい。また、鋼材2の影響がない場合の間隔dごとの端子間溶液抵抗Rs-four-Nは、ユーザインターフェース31からユーザが入力してもよい。
【0036】
ここで、電極11a、11d間に交流電力を印加した場合、電極11a、11dの間隔dと、鋼材2の埋設深さcとに応じて、鋼材2に流れる電流量が変化する。
図7Aおよび
図7Bは、鋼材2の埋設深さcと電極11a、11d間の間隔dの関係に応じた電流の流れを説明する図である。例えば、
図7Aに示すように、d>2cの場合、鋼材2側に多くの電流が流れる。一方、
図7Bに示すように、d<2cの場合、土壌やコンクリートなどの検出対象物1側に多くの電流が流れ、鋼材2側に流れる電流は少ない。
【0037】
よって、同じ間隔dで算出された鋼材2の影響がない場合の端子間溶液抵抗Rs-four-Nと、鋼材2がある位置の端子間溶液抵抗Rs-fourとを比較すると、鋼材2側に電流が流れているかに応じて比率が変化する。例えば、鋼材2の埋設深さcに対して、間隔dが十分に小さい場合、検出対象物1側に電流が流れ、鋼材2が電極11a、11dの直下にあっても鋼材2には電流がほとんど流れない。この場合、端子間溶液抵抗Rs-four-Nと端子間溶液抵抗Rs-fourは、同程度となる。一方、例えば、鋼材2の埋設深さcに対して、間隔dが十分に大きい場合、鋼材2側に多くの電流が流れ、端子間溶液抵抗Rs-four-Nに対して端子間溶液抵抗Rs-fourは、大きく低下する。例えば、以下の(1)式のようになる。
【0038】
Rs-four/Rs-four-N < 0.8 ・・・(1)
【0039】
Rs-four/Rs-four-N < 0.8となる際、d≧2cとなる。すなわち、間隔dを小さくしながら、間隔dごとに、端子間溶液抵抗Rs-four-Nと端子間溶液抵抗Rs-fourを比較し、Rs-four/Rs-four-N = 0.8となる時の間隔dを求めることで、間隔d=2cという関係から、鋼材2の埋設深さcを検出できる。
【0040】
検出部30aは、算出した端子間溶液抵抗Rs-fourに基づいて鋼材2を検出する。例えば、検出部30aは、算出した端子間溶液抵抗Rs-fourを、鋼材2の影響がない場合の端子間溶液抵抗Rs-four-Nと比較して鋼材2を検出する。検出部30aは、算出した端子間溶液抵抗Rs-fourが、端子間溶液抵抗Rs-four-Nの0.8倍よりも小さくなった場合、鋼材2が埋設されていると検出する。
【0041】
例えば、検出装置10は、鋼材2の埋設された深さを求める場合、電極11a、11dの間隔dを順に狭めて配置し、間隔dごとに電源部20から電極11a、11dに交流電力を印加する。計測部21は、間隔dごとに、電極11b、11c間の電位差を計測し、計測した電位差を示す計測データを制御部22へ出力する。
【0042】
検出部30aは、間隔dごとに、端子間溶液抵抗Rs-fourを算出する。検出部30aは、間隔dを順に狭めてそれぞれ算出した端子間溶液抵抗Rs-fourを、それぞれ同じ間隔dの鋼材2の影響がない場合の端子間溶液抵抗Rs-four-Nと比較する。検出部30aは、算出した端子間溶液抵抗Rs-fourが、鋼材2がない位置の端子間溶液抵抗Rs-four-Nの0.8倍よりも小さくなった際の間隔dの1/2を鋼材2の埋設深さcと検出する。
【0043】
ところで、端子間分極抵抗Rp-fourは、鋼材2の腐食の進行速度と反比例の関係にある。このことから、端子間分極抵抗Rp-fourの大きさにより、鋼材2の腐食の進行速度を非破壊かつ定量的に検出できる。例えば、d≧2cを満たす場合の端子間分極抵抗Rp-four、端子間溶液抵抗Rs-four、および鋼材2の影響がない場合の端子間溶液抵抗Rs-four-Nから腐食の進行速度の度合いを示す指標として、以下の(2)式により、正規化端子間分極抵抗NRp-four(Normalized Polarization Resistance between probes)を算出する。
【0044】
NRp-four = Rp-four/(Rs-four-N-Rs-four) ・・・(2)
【0045】
検出部30aは、算出した端子間分極抵抗Rp-four、端子間溶液抵抗Rs-fourと、鋼材2の影響がない場合の端子間溶液抵抗Rs-four-Nから鋼材2の腐食を検出する。例えば、検出部30aは、端子間溶液抵抗Rs-four-N、端子間分極抵抗Rp-four、端子間溶液抵抗Rs-fourから、上述の(2)式の演算を行って正規化端子間分極抵抗NRp-fourを算出する。
【0046】
ここで、検出対象物1のインピーダンス成分をZc、鋼材2と検出対象物1との界面のインピーダンス成分をZsと定義する。すなわち、それぞれのインピーダンス成分には、以下の(3)式の関係が成り立つ。
【0047】
Z = Zc +Zs ・・・(3)
【0048】
図8A、
図8Bおよび
図8Cは、電源部20から印加した交流電力の周波数に応じた電流の流れを説明する図である。例えば、
図8Aに示すように、電極11a、11d間に周波数100Hzから1kHz程度の高周波の交流電力を印加した場合、検出対象物1の内部に鋼材2があると、鋼材2の内部には多くの電力が流れる。この場合、インピーダンスZ
cはR
s-fourに近づき、インピーダンスZ
sは0に近づき、インピーダンスZはほぼ端子間溶液抵抗R
s-fourとなる。
【0049】
鋼材2の端子間分極抵抗R
p-fourは、健全な鋼材2では大きく、鋼材2が腐食すると小さくなる。このため、例えば、
図8Bに示すように、電極11a、11d間に低周波の交流電力を印加した場合、鋼材2が腐食して鋼材2の端子間分極抵抗R
p-fourが小さいほど鋼材2側に多くの電流が流れる。この場合、インピーダンスZ
cはR
s-fourに近づき、インピーダンスZ
sはR
p-fourに近づき、インピーダンスZは端子間溶液抵抗R
s-fourと端子間分極抵抗R
p-fourの合計となる。一方、例えば、
図8Cに示すように、電極11a、11d間に低周波の交流電力を印加した場合、鋼材2が腐食していない健全な状態であると、土壌やコンクリートなどの検出対象物1側に主に電流が流れる。この場合、インピーダンスZは、鋼材2の影響がない場合の端子間溶液抵抗R
s-four-Nと等しくなる。
【0050】
低周波数域で鋼材2の内部に全く電流が流れなければ、端子間溶液抵抗Rs-four-N、端子間溶液抵抗Rs-four、端子間分極抵抗Rp-fourには、以下の(4)式の関係が成り立つ。
【0051】
Rs-four + Rp-four = Rs-four-N ・・・(4)
【0052】
すなわち、端子間分極抵抗Rp-fourの最大値は、Rs-four-N-Rs-fourである。端子間分極抵抗Rp-fourは、鋼材2が腐食するにつれて小さくなる。ここで、正規化端子間分極抵抗NRp-fourを、上述の(2)式とした場合、正規化端子間分極抵抗NRp-fourは、0<NRp-four≦1の値をとる指標となる。
【0053】
正規化端子間分極抵抗NRp-fourは、従来の三電極法により求まる正規化分極抵抗NRpとほぼ1対1で対応する。三電極法の詳細は、後述する。三電極法では、正規化分極抵抗NRpは、分極抵抗Rp[kΩcm2]に基づき、NRp=Rp/Rp-max :(Rp-max=150[kΩcm2])から算出される。
【0054】
よって、上述の(2)式から求まる本実施例の正規化端子間分極抵抗NR
p-fourは、CEB(ヨーロッパコンクリート委員会)の腐食グレーディングに対応させることができる。
図9は、CEBの腐食速度による腐食のグレーディングに、本実施例の正規化端子間分極抵抗NR
p-fourを対応させた一例を示す図である。
図9には、CEBでの腐食グレードごとの電流密度I
corrの範囲と正規化端子間分極抵抗NR
p-fourの範囲の関係を示している。例えば、CEBでの腐食グレードでは、I
corr=0.2が腐食と健全の境界となる。本実施例では、例えば、NR
p-four=0.5を境界として、NR
p-four≦0.5の場合、鋼材2が腐食していると判定し、0.5<NR
p-fourの場合、鋼材2が健全であると判定する。
【0055】
検出部30aは、算出した正規化端子間分極抵抗NRp-fourに基づいて鋼材2の腐食を検出する。例えば、検出部30aは、NRp-four≦0.5の場合、鋼材2が腐食していると検出し、0.5<NRp-fourの場合、鋼材2が健全であると検出する。なお、検出部30aは、算出した正規化端子間分極抵抗NRp-fourを鋼材2の腐食の度合いと検出してもよい。
【0056】
[具体例]
ここで、実施例に係る検出装置10により、土やコンクリートなどの検出対象物1の内部に設けられた鋼材2の腐食を検出した実験の具体例を説明する。
【0057】
検出対象となる試験体の概要について説明する。以下に示す実験では、コンクリート構造物を模した試験体70を用いて鋼材2の腐食を検出した。鋼材2は、鉄筋とした。試験体70としては、鋼材2の有無、鋼材2がある場合の鋼材2の腐食の有無を変化させたコンクリート試験体を用いた。
【0058】
図10は、実施例に係る検出手法における電極11の配置と試験体70の概要を示す図である。
図10(A)には、試験体70の断面図が示されている。
図10(B)には、試験体70の側面図が示されている。試験体70は、200mm×200mm×176mmのサイズと直方体の形状とした。試験体70は、200mm×176mmの4つの面70a~70dが周囲を囲むように形成される。鋼材2は、公称直径10mmの異形鉄筋を用いた。鋼材2は、面70aからの埋設深さcが150mmとなり、面70bからの埋設深さcが110mmとなり、面70cからの埋設深さcが40mmとなり、面70dからの埋設深さcが80mmとなるように埋設した。実験では、鋼材2なし、腐食していない鋼材2(健全鋼材)、および腐食した鋼材2(腐食鋼材)の試験体70をそれぞれ作成した。鋼材2は、腐食鋼材の場合、鋼材2を40℃、相対湿度80%の雰囲気下で、1日1回3分間、3%のNaCl水溶液の噴霧を行う環境負荷装置内に2週間暴露して腐食を促進させた。
【0059】
実験では、試験体70の4つの面70a~面70dに、4つの電極11a~11dを直線状に順に配置し、埋設深さcを40mm、80mm、110mm、150mmと変化させて鋼材2の位置検出を実施した。
図10(A)は、面70aに電極11a~11dを直線状に順に配置して埋設深さcを150mmとした状態を示している。外側の電極となる電極11a、11dの間隔dは、140mmとした。電極11a~11dは、等間隔に配置した。なお、電極11a~11dは、必ずしも等間隔に配置する必要はない。
【0060】
電極11a~11dには、10mm×40mm×20mmのステンレス片(SUS404)を用い、10mm×40mmの面を試験体70との接触面とした。電極11a~11dと試験体70の接触には、導電性のシート(例えば、ハイドロゲルシート)を用いた。
【0061】
電源部20からの電流印加は、電位差制御とし、FRA(周波数応答解析器)付きのポテンショスタットを用いた。電源部20から電極11a~11dに印加する交流電力は、
電位差ΔV=1.0[V]とし、周波数fをf=500kHz~100mHzの範囲で変化させた。
【0062】
また、試験体70を用いた実験と同様の条件でのFEM(Finite Element Method)解析を行い、実験結果と比較した。解析では、鋼材2の有無、鋼材2が有る場合の鋼材2の腐食の有無についてそれぞれ実施した。
図11は、実施例に係る解析に用いたモデルの概要を示す図である。
図11に示したモデル80では、
図10と対応する部分に同様の符号を付している。
図11は、鋼材2が有る場合のモデル80を示している。鋼材2が無い場合のモデル80は、
図11の鋼材2を削除している。解析では、電極11a、11dのうちの一方に直流1.0[A]を印加し、他方を接地とした。コンクリートの体積抵抗R
sは、
図10の鋼材2がない試験体70から算出し、80.0[Ωm]とした。鋼材2の表面の分極抵抗R
pは、高周波の交流電力の印加時に1×10
-7[kΩcm
2]とし、低周波の交流電力の印加時は、健全鋼材の場合、150[kΩcm
2]とし、腐食鋼材の場合、1.0[kΩcm
2]とした。以下の(5)式に示すスカラーポテンシャルφを用いたラプラス方程式によりFEM解析を実施する。FEMの解析ソフトは、COMSOLを用いた。
【0063】
【0064】
図12は、実施例に係る試験体による実験結果および解析結果の一例を示す図である。
図12には、健全な鋼材2と腐食した鋼材2を埋設した試験体70での埋設深さcが40mm、80mm、110mm、150mmの端子間溶液抵抗R
s-fourが示されている。また、
図12には、FEM解析により得られた埋設深さcごとの端子間溶液抵抗R
s-fourが示されている。
【0065】
図12に示すように、埋設深さcを増加させると、端子間溶液抵抗R
s-fourが増加するが、埋設深さcが80mm以上の場合、一定値に収束する。収束値は、鋼材2がない場合の解析で求めた端子間溶液抵抗R
s-four-Nの値にほぼ一致し、鋼材2の内部にほとんど電流が流れていないことがわかる。また、鋼材2ありについて、解析結果と試験体70の実験結果は、ほぼ一致しており解析の再現性は高い。
【0066】
鋼材2が影響しない場合の端子間溶液抵抗R
s-four-Nと、端子間溶液抵抗R
s-fourにある程度差がなければ、腐食、健全の判定に必要な抵抗差が得られない。そこで、端子間溶液抵抗R
s-four-N×0.8を閾値として鋼材2への電流流入の有無の境界とした。
図12において、端子間溶液抵抗R
s-four-Nが閾値(端子間溶液抵抗R
s-four-N×0.8)となる埋設深さcは、70mmである。試験体70や解析での電極11a、11dの間隔dは、140mmである。よって、d=2cが成り立つ。このように、d=2cは、鋼材2に電流が流れるか否かの境界となることが確認できる。d>2cの場合、鋼材2側に多くの電流が流れる。一方、d<2cの場合、土壌やコンクリートなどの検出対象物1側に多くの電流が流れ、鋼材2側にはほとんど電流は流れない。
【0067】
図13は、実施例に係る試験体70による実験結果の一例を示す図である。
図13には、健全な鋼材2(健全鋼材)と腐食した鋼材2(腐食鋼材)を埋設した試験体70において、埋設深さcが40mm、80mm、110mm、150mmでの鋼材2の端子間分極抵抗R
p-fourがグラフに示されている。埋設深さcが、c<70mmでは、健全鋼材と腐食鋼材に有意な差が得られている。なお、埋設深さcが、70mm<cでは、健全鋼材、腐食鋼材によらず端子間分極抵抗R
p-four<10[Ω]となり、腐食を計測できていない。このことからも、d>2cの場合、鋼材2側に多くの電流が流れる。一方、d<2cの場合、鋼材2側にはほとんど電流は流れないが確認できる。
【0068】
図14は、実施例に係る試験体70による実験結果の一例を示す図である。
図14には、健全な鋼材2(健全鋼材)と腐食した鋼材2(腐食鋼材)を埋設した試験体70において、埋設深さcを40mmとして、電極11a、11dの間隔dを、50mm、80mm、110mm、140mmと変化させた場合での鋼材2の端子間分極抵抗R
p-fourがグラフに示されている。間隔dが、80mm<dでは、健全鋼材と腐食鋼材に有意な差が得られている。d≦80mmでは、健全鋼材、腐食鋼材によらず、端子間分極抵抗R
p-four<10[Ω]となり、腐食を計測できていない。これらの検討から、実施例に係る検出手法における鋼材2内部への電流流入の境界は、d=2cであると特定できる。この関係を利用して埋設深さを算出することができる。また、腐食の検出の際には、d>2cとする必要がある。
【0069】
次に、実施例に係る検出手法と従来の三電極法による腐食の検出を比較した実験の一例を説明する。
【0070】
検出対象となる試験体の概要について説明する。以下に示す実験では、コンクリート構造物を模した試験体100を用いて鋼材2の腐食を検出した。鋼材2は、鉄筋とした。試験体100としては、鋼材2の有無、鋼材2が有る場合の鋼材2の腐食の有無を変化させた複数の小型モルタルを用いた。
【0071】
図15は、実施例に係る検出手法における電極11の配置と試験体100の概要を示す図である。
図15(A)には、試験体100の断面図が示されている。
図15(B)には、試験体100の側面図が示されている。試験体100は、40mm×40mm×160mmのサイズとした。鋼材2は、直径10mmで長さ140mmの黒皮のない丸鋼(SS400)を用い、両端から20mmずつエポキシ樹脂102で被覆することで、中央の100mmを試験区間とした。試験体100は、スペイサーとして内径12mmの塩化ビニル製の六角ナット103を用いて、かぶりを確保した。実験では、健全鋼材、腐食鋼材の試験体100を複数作成した。腐食鋼材は、上述した手法で腐食を促進させた。
【0072】
実験では、実施例に係る検出手法により、電極11a、11dの間の間隔d=110(mm)とし、電極11a~11dは等間隔で配置した。試験体100に対して、電極11a、11d間に交流電力の電圧をΔV=30(mV)とし、周波数500kHz~100mHzの範囲で高周波から低周波へと変化させながら交流電力を印加して、電極11b、11cの電位差を計測した。そして、試験体100ごとに、試験体100での周波数ごとの電位差の計測結果からコールコールプロットを求め、コールコールプロットに形成される低周波側の半円の一部に対して半円のカーブフィッティングを行って鋼材2の端子間分極抵抗Rp-four、端子間溶液抵抗Rs-fourを算出した。また、鋼材が入っていない試験体から鋼材が影響しない場合の端子間溶液抵抗Rs-four-Nを算出した。
【0073】
また、比較例として、実施例に係る検出手法により計測した後、試験体100と同一の試験体110を用いて、三電極法により、腐食の検出を実施した。
図16は、比較例に係る三電極法における電極11の配置と試験体110の概要を示す図である。試験体100と試験体110は同一の試験体であるため、上述の形状である。
【0074】
三電極法では、鋼材2に計測用のコードを接続する必要がある。そこで、比較例の試験体110は、三電極法による計測が可能なように、鋼材2の一端側の一部を破壊して鋼材2の一端を露出させ、鋼材2の一端に計測用の配線116を接続している。
【0075】
また、三電極法では、鋼材2の上部となる試験体110の表面に、電極112を配置する。電極112には、40mm×140mm×2mmのステンレス板(SUS404)を用い、40mm×140mmの面を試験体110との接触面としている。電極112は、配線113が接続されている。また、三電極法では、試験体110の表面に電極114を配置する。電極114には、鉛照合電極(PRE)を用いている。電極114は、配線115が接続されている。三電極法では、不図示の計測器から配線113、116を介して電極112と鋼材2に交流電力を印加する。交流電力の印加によって、電極112と鋼材2の間には、電流が流れる。鋼材2は、交流電力が印加されることで作用極として機能する。電極112は、対極として機能する。電極114は、照合電極として機能する。三電極法では、電極112と鋼材2の間に流す交流電力の周波数を変えながら交流電力を印加し、鋼材2と電極114間の電位差を計測して、鋼材2の単位面積あたりの分極抵抗Rp[kΩcm2]を算出した。被測定面積は、鋼材2の試験区間の全表面積と仮定し、30.8[cm2]とした。
【0076】
図17は、実施例に係る健全鋼材の試験体および腐食鋼材の試験体について、実施例に係る検出手法による端子間分極抵抗R
p-fourと、比較例に関わる三電極法による単位面積あたりの分極抵抗R
pの比較結果の一例を示した図である。縦軸は、実施例に係る検出手法により算出した端子間分極抵抗R
p-fourである。横軸は、三電極法により算出した単位面積あたりの分極抵抗R
pである。
図17に示すように、実施例に係る検出手法と三電極法は、線形の相関関係を示す。
【0077】
実施例に係る検出手法による計測値には、様々な変化要因がある。例えば、電極11a、11dの間隔d、検出対象物1の形状、鋼材2の径、鋼材2の埋設深さc、土壌やコンクリートなどの検出対象物1の溶液抵抗Rs、鋼材表面の分極抵抗Rpなどが挙げられる。
【0078】
そこで、実施例に係る検出手法では、統一的に腐食、健全を判定できる指標として、上述した(2)式に示した正規化端子間分極抵抗NRp-fourを算出する。
【0079】
一方、三電極法により求まる鋼材2の単位面積あたりの分極抵抗Rpが、Rp>150[kΩcm2]となる場合、鋼材2は、腐食が発生しておらず、電流の流れ方も変化しないことが経験的に明らかになっている。そこで、三電極法により求まる正規化分極抵抗NRpは、分極抵抗Rp[kΩcm2]に基づき、NRp=Rp/Rp-max :(Rp-max=150[kΩcm2])から算出する。
【0080】
図18は、実施例に係る試験体について実施例に係る検出手法における正規化端子間分極抵抗NR
p-fourと三電極法における正規化分極抵抗NR
pの一例を示した図である。縦軸は、実施例に係る検出手法を用いて算出した試験体100の正規化端子間分極抵抗NR
p-fourである。横軸は、三電極法により算出した試験体110の正規化分極抵抗NR
pである。正規化端子間分極抵抗NR
p-fourと正規化分極抵抗NR
pは、線形の相関関係を示しており、ほぼ1対1で対応する。CEBでの腐食グレードでは、正規化分極抵抗NR
pは、NR
p≦0.5の場合、腐食と判定され、0.5<NR
pの場合、健全と判定される。正規化端子間分極抵抗NR
p-fourと正規化分極抵抗NR
pは、ほぼ1対1で対応する。このため、CEBでの腐食グレードに対応させた場合、正規化端子間分極抵抗NR
p-fourは、
図9に示したように、NR
p-four≦0.5の場合、腐食と判定することができ、0.5<NR
p-fourの場合、健全と判定することができる。
【0081】
このように、実施例に係る検出手法を用いて算出した正規化端子間分極抵抗NRp-fourでも、健全であるか、腐食しているかを判定できる。
【0082】
次に、土壌に埋設された鋼材2を検出した実験の一例を説明する。
【0083】
検出対象となる試験体の概要について説明する。以下に示す実験では、鋼材2を地中に埋設した場合を模した試験体120を用いて鋼材2の腐食を検出した。鋼材2は、鉄筋とした。試験体120としては、土壌中に腐食した鋼材2と、健全な鋼材2を埋設した複数の土壌模擬試験体を用いた。
【0084】
図19は、実施例に係る検出手法における電極11の配置と試験体120の概要を示す図である。
図19(A)には、試験体120の断面図が示されている。
図19(B)には、試験体120の側面図が示されている。試験体120は、200mm×200mm×176mmのサイズの直方体とした。試験体120は、200mm×176mmの4つの面120a~120dが周囲を囲むように形成される。鋼材2は、直径10mmの鉄筋を用いた。鋼材2は、面120aから深さ40mmで、面120aの幅が200mmの方向の一方から80mm、他方から110mmの位置に埋設した。実験では、腐食していない鋼材2(健全鋼材)、および腐食した鋼材2(腐食鋼材)の試験体121をそれぞれ作成した。腐食鉄筋の鋼材2は、上述した手法で腐食を促進させた。
【0085】
実験では、試験体120の面120aに、4つの電極11a~11dを直線状に順に配置し、埋設深さcを40mmとして鋼材2の腐食の検出を実施した。外側となる電極11a、11dの間隔dは、140mmとした。電極11a~11dは、等間隔に配置した。なお、電極11a~11dは、必ずしも等間隔に配置する必要はない。
【0086】
実験では、実施例に係る検出手法により、試験体120に対して、電極11a、11d間に交流電力の電圧をΔV=1.0[V]とし、周波数500kHz~100mHzの範囲で高周波から低周波の交流電力を印加して、電極11b、11cの電位差を計測した。そして、試験体120ごとに、試験体120での周波数ごとの電位差の計測結果からコールコールプロットを求め、コールコールプロットに形成される低周波側の半円に対してカーブフィッティングを行って端子間溶液抵抗Rs-four-N、端子間溶液抵抗Rs-four、端子間分極抵抗Rp-fourを算出した。そして、算出した端子間溶液抵抗Rs-four-N、端子間溶液抵抗Rs-four、端子間分極抵抗Rp-fourから(2)式により正規化端子間分極抵抗NRp-fourを算出した。
【0087】
また、比較例として、三電極法により各試験体120の正規化分極抵抗NR
pを算出した。
図20は、実施例に係る試験体について実施例に係る検出手法における正規化端子間分極抵抗NR
p-fourと三電極法における正規化分極抵抗NR
pの一例を示した図である。縦軸は、実施例に係る検出手法を用いて算出した試験体120の正規化端子間分極抵抗NR
p-fourである。横軸は、三電極法により算出した試験体120の正規化分極抵抗NR
pである。三電極法により算出される正規化分極抵抗NR
pでは、土壌中に鋼材を埋設した試験体120の場合でも、NR
p≦0.5の場合、腐食と判定され、0.5<NR
pの場合、健全と判定される。実施例に係る検出手法を用いて算出した正規化端子間分極抵抗NR
p-fourでも、NR
p-four≦0.5の場合、腐食と判定でき、0.5<NR
p-fourの場合、健全と判定することができる。
【0088】
[処理の流れ]
検出装置10がコンクリートや土壌などの検出対象物1に埋設された鋼材2を検出する検出処理の流れについて説明する。
図21は、実施例に係る検出処理の手順の一例を示すフローチャートである。
【0089】
検出部30aは、計測部21から対象となる計測領域における計測データを取得する(ステップS10)。
【0090】
検出部30aは、計測データに基づき、電極11b、11cの電位差から鋼材2の端子間分極抵抗Rp-four、端子間溶液抵抗Rs-fourおよび鉄筋が影響しない場合の端子間溶液抵抗Rs-four-Nを算出する(ステップS11)。例えば、検出部30aは、計測部21により計測される周波数ごとの電位差から周波数ごとのインピーダンスを求める。そして、検出部30aは、周波数ごとのインピーダンスを複素数平面に示したコールコールプロットを求める。検出部30aは、コールコールプロットに形成される高周波側と低周波側の半円から鋼材2の端子間分極抵抗Rp-four、端子間溶液抵抗Rs-fourおよび鉄筋が影響しない場合の端子間溶液抵抗Rs-four-Nを算出する。
【0091】
検出部30aは、算出した端子間溶液抵抗Rs-fourに基づいて鋼材2を検出する(ステップS12)。例えば、検出部30aは、算出した端子間溶液抵抗Rs-fourを、鋼材2が影響しない場合の端子間溶液抵抗Rs-four-Nと比較して鋼材2を検出する。検出部30aは、算出した端子間溶液抵抗Rs-fourが、鋼材がない位置の端子間溶液抵抗Rs-four-Nの0.8倍よりも小さくなった場合、鋼材2が埋設されていると検出する。
【0092】
検出部30aは、算出した端子間分極抵抗Rp-fourに基づいて鋼材2の腐食を検出する(ステップS13)。検出部30aは、算出した端子間分極抵抗Rp-four、端子間溶液抵抗Rs-fourと、鋼材2が影響しない場合の端子間溶液抵抗Rs-four-Nから、(2)式の演算を行って正規化端子間分極抵抗NRp-fourを算出する。検出部30aは、NRp-four≦0.5の場合、鋼材2が腐食していると検出し、0.5<NRp-fourの場合、鋼材2が健全であると検出する。
【0093】
出力制御部30bは、検出結果を出力し、(ステップS14)、処理を終了する。例えば、出力制御部30bは、鋼材2の有無や鋼材2が腐食している否かをユーザインターフェース31に表示させる。
【0094】
実施例では、検出装置10が、4つの電極11a~11dを有し、電極11a~11dを移動させることで、電極11a、11dの間の間隔dなどを変更する場合を説明したが、これに限定されるものではない。例えば、検出装置10が、電極11を5つ以上とし、交流電力を印加する2つの電極11および電位差を計測する2つの電極11を切り替える切替部をさらに有してもよい。
図22は、実施例に係る検出装置10の概略構成の他の一例を示す図である。
図22には、検出装置10が、8つの電極11a~11hを有する場合を示している。電極11の数は、4つ以上であれば、何れであってもよい。電極11a~11hには、それぞれコード12a~12hが個別に接続されている。
【0095】
電源部20は、配線L1、L2が接続されている。電源部20は、配線L1、L2に交流電力を供給する。計測部21は、配線L3、L4が接続されている。計測部21は、配線L3、L4の電位差を検出する。コード12a~12hは、それぞれスイッチ15(スイッチ15a1~15h4)を介して配線L1~L4に個別に接続されている。例えば、コード12aは、スイッチ15a1を介して配線L1に接続され、スイッチ15a2を介して配線L2に接続され、スイッチ15a3を介して配線L3に接続され、スイッチ15a4を介して配線L4に接続されている。スイッチ15は、制御部22の制御により個別にオン・オフが切り替え可能されている。
図22の例では、スイッチ15が切替部に対応する。
【0096】
制御部22は、各スイッチ15を制御することにより、交流電力を印加する2つの電極11および電位差を計測する2つの電極11を切り替える。
図22の例では、スイッチ15a1とスイッチ15h2をオンとして、電源部20が配線L1、L2、コード12a、12hを介して電極11a、11hに交流電力を供給している。また、
図22の例では、スイッチ15d3とスイッチ15e4をオンとして、計測部21が配線L3、L4、コード12d、12eを介して電極11d、11eの電位差を計測している。検出装置10は、スイッチ15により、交流電力を印加する2つの電極11を切り替えることにより、交流電力を印加する電極11間の間隔dを切り替えることがきる。例えば、検出装置10は、スイッチ15b1とスイッチ15g2をオンとすることで、電源部20から電極11b、11gに交流電力を供給できる。また、検出装置10は、スイッチ15により、電位差を計測する2つの電極11を切り替えることにより、電位差を計測する電極11間の間隔を切り替えることがきる。例えば、検出装置10は、スイッチ15c1とスイッチ15f2をオンとすることで、電極11c、11f間を計測区間とすることができる。
【0097】
このように、検出装置10が、スイッチ15を切り替えることにより、電極11a~11hを移動させることなく、交流電力を印加する電極11間の間隔dや電位差を計測する電極11間の間隔を変更することができる。
【0098】
[効果]
このように、本実施例に係る検出装置10は、少なくとも4つの電極11と、電源部20と、計測部21と、検出部30aとを有する。少なくとも4つの電極11は、鋼材2が埋設された土またはコンクリートの表面あるいは内部に直線状に配置される。電源部20は、少なくとも4つの電極11のうち、2つ以上の電極11(例えば、電極11b、11c)が間に配置された2つの第1電極(例えば、電極11a、11d)に交流電力を印加する。計測部21は、電源部20から交流電力を印加した際の、第1電極の間に配置された2つ以上の電極のうち、2つの第2電極(例えば、電極11b、11c)間の電位差を計測する。検出部30aは、計測部21により計測される電位差に基づき、鋼材2を検出する。これにより、検出装置10は、埋設された鋼材2を検出できる。例えば、検出装置10は、コンクリート中や水分を含む土壌に鋼材2が埋設された場合であっても、鋼材2を検出できる。
【0099】
また、電源部20は、所定の周波数範囲で周波数を変えて第1電極に交流電力を印加する。計測部21は、電源部20から周波数範囲で周波数を変えて交流電力を印加した際の第2電極間の電位差を計測する。検出部30aは、計測部21により計測される周波数ごとの電位差から周波数ごとのインピーダンスを求め、周波数ごとのインピーダンスを複素数平面に示したコールコールプロットにおいて形成される高周波側と低周波側の半円のうち高周波側の半円から第2電極間の端子間溶液抵抗Rs-fourを算出し、算出した端子間溶液抵抗Rs-fourに基づいて鋼材2を検出する。これにより、検出装置10は、埋設された鋼材2を検出できる。
【0100】
また、検出部30aは、算出した端子間溶液抵抗Rs-fourを、鋼材2の影響がない場合の端子間溶液抵抗Rs-four-Nと比較して鋼材2を検出する。これにより、検出装置10は、埋設された鋼材2を精度よく検出できる。
【0101】
また、検出部30aは、算出した端子間溶液抵抗Rs-fourが、鋼材2の影響がない場合の端子間溶液抵抗Rs-four-Nの0.8倍よりも小さくなった場合、鋼材2が埋設されていると検出する。これにより、検出装置10は、2つの第1電極の間隔dに応じた範囲内で鋼材2を精度よく検出できる。
【0102】
また、検出部30aは、2つの第1電極の間隔を順に狭めてそれぞれ算出した端子間溶液抵抗Rs-fourを、それぞれ同じ間隔の鋼材2の影響がない場合の端子間溶液抵抗Rs-four-Nと比較し、算出した端子間溶液抵抗Rs-fourが、鋼材の影響がない場合の端子間溶液抵抗Rs-four-Nの0.8倍よりも小さくなった際の第1電極の間隔の1/2を鋼材2の埋設された深さと検出する。これにより、検出装置10は、鋼材2が埋設された深さを検出できる。
【0103】
また、検出部30aは、コールコールプロットにおいて形成される高周波側と低周波側の半円のうち低周波側の半円から第2電極間の端子間分極抵抗Rp-fourを算出し、算出した端子間分極抵抗Rp-fourに基づいて鋼材2の腐食を検出する。これにより、検出装置10は、鋼材2の腐食を検出できる。
【0104】
また、検出部30aは、コールコールプロットの低周波側の半円に対してカーブフィッティングを行って算出した電極間の端子間分極抵抗Rp-fourと、低周波側の半円の一部の周波数のインピーダンスを除いてカーブフィッティングを行って算出した電極間の端子間分極抵抗Rp-fourとの差が所定の許容レベルよりも大きい場合、電源部20から印加する交流電力の電流を増加させて、計測部21により2つの第2電極間の電位差を再度計測することを差が許容レベル以下となるまで繰り返す。これにより、検出装置10は、端子間分極抵抗Rp-fourを精度よく求めることができる。
【0105】
また、電源部20は、500kHz~100mHzの範囲で周波数を変えて2つの第1電極に交流電力を印加する。これにより、検出装置10は、端子間溶液抵抗Rs-fourおよび端子間分極抵抗Rp-fourを算出できる。
【0106】
また、本実施例に係る検出装置10は、少なくとも4つの電極11のうち、2つの第1電極および2つの第2電極を切り替える切替部(スイッチ15)をさらに有する。これにより、検出装置10は、電極11を移動させることなく、交流電力を印加する電極11間の間隔dや電位差を計測する電極11間の間隔を変更することができる。
【実施例2】
【0107】
さて、これまで開示の装置に関する実施例について説明したが、開示の技術は上述した実施例以外にも、種々の異なる形態にて実施されてよいものである。そこで、以下では、本発明に含まれる他の実施例を説明する。
【0108】
例えば、上記の実施例では、コンクリート中や地中に埋設された鉄筋を検出する場合について説明したが、開示の装置はこれに限定されない。例えば、コンクリート中や地中に埋設された金属鋼管を検出してもよい。
【0109】
また、図示した各装置の各構成要素は機能概念的なものであり、必ずしも物理的に図示の如く構成されていることを要しない。すなわち、各装置の分散・統合の具体的状態は図示のものに限られず、その全部または一部を、各種の負荷や使用状況などに応じて、任意の単位で機能的または物理的に分散・統合して構成することができる。例えば、検出部30aおよび出力制御部30bの各処理部が適宜統合されてもよい。また、各処理部の処理が適宜複数の処理部の処理に分離されてもよい。さらに、各処理部にて行なわれる各処理機能は、その全部または任意の一部が、CPUおよび当該CPUにて解析実行されるプログラムにて実現され、あるいは、ワイヤードロジックによるハードウェアとして実現され得る。
【0110】
[検出プログラム]
また、上記の実施例で説明した各種の処理は、あらかじめ用意されたプログラムをパーソナルコンピュータやワークステーションなどのコンピュータシステムで実行することによって実現することもできる。そこで、以下では、上記の実施例と同様の機能を有するプログラムを実行するコンピュータシステムの一例を説明する。
図23は、検出プログラムを実行するコンピュータを示す図である。
【0111】
図23に示すように、コンピュータ300は、CPU(Central Processing Unit)310、HDD(Hard Disk Drive)320、RAM(Random Access Memory)340を有する。これら300~340の各部は、バス400を介して接続される。
【0112】
HDD320には上記の検出部30aおよび出力制御部30bと同様の機能を発揮する検出プログラム320aが予め記憶される。なお、検出プログラム320aについては、適宜分離してもよい。
【0113】
また、HDD320は、各種情報を記憶する。例えば、HDD320は、上述の計測データなど検出に用いる各種データを記憶する。
【0114】
そして、CPU310が、検出プログラム320aをHDD320から読み出して実行することで、実施例の各処理部と同様の動作を実行する。すなわち、検出プログラム320aは、検出部30aおよび出力制御部30bと同様の動作を実行する。
【0115】
なお、上記した検出プログラム320aについては、必ずしも最初からHDD320に記憶させることを要しない。
【0116】
例えば、コンピュータ300に挿入されるフレキシブルディスク(FD)、CD-ROM、DVDディスク、光磁気ディスク、ICカードなどの「可搬用の物理媒体」にプログラムを記憶させておく。そして、コンピュータ300がこれらからプログラムを読み出して実行するようにしてもよい。
【0117】
さらには、公衆回線、インターネット、LAN、WANなどを介してコンピュータ300に接続される「他のコンピュータ(またはサーバ)」などにプログラムを記憶させておく。そして、コンピュータ300がこれらからプログラムを読み出して実行するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0118】
1 検出対象物
2 鋼材
10 検出装置
11、11a~11h 電極
15、スイッチ15a1~15h4 スイッチ
20 電源部
21 計測部
22 制御部
30 コントローラ
30a 検出部
30b 出力制御部
31 ユーザインターフェース
32 記憶部