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特許7346985希土類ボンド磁石用コンパウンドの製造方法、及び、希土類ボンド磁石の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-11
(45)【発行日】2023-09-20
(54)【発明の名称】希土類ボンド磁石用コンパウンドの製造方法、及び、希土類ボンド磁石の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01F 41/02 20060101AFI20230912BHJP
   H01F 1/057 20060101ALI20230912BHJP
   H01F 7/02 20060101ALI20230912BHJP
   B22F 3/00 20210101ALI20230912BHJP
【FI】
H01F41/02 G
H01F1/057 180
H01F7/02 A
H01F7/02 E
B22F3/00 F
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019142352
(22)【出願日】2019-08-01
(65)【公開番号】P2021027100
(43)【公開日】2021-02-22
【審査請求日】2022-06-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】株式会社レゾナック
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100169454
【弁理士】
【氏名又は名称】平野 裕之
(72)【発明者】
【氏名】竹内 一雅
(72)【発明者】
【氏名】前田 英雄
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 輝雄
(72)【発明者】
【氏名】福田 和真
【審査官】久保田 昌晴
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-034097(JP,A)
【文献】特開2000-348920(JP,A)
【文献】特表2013-509734(JP,A)
【文献】特開平05-234727(JP,A)
【文献】国際公開第2010/071111(WO,A1)
【文献】特開昭51-006290(JP,A)
【文献】特開2000-063492(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 1/053-1/08、7/02、41/02
B22F 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エポキシ樹脂、フェノール樹脂及び硬化促進剤を含む樹脂組成物と希土類磁石粉末とを、前記エポキシ樹脂、前記フェノール樹脂及び前記硬化促進剤を溶解可能な溶剤、並びに、プロトンを供与可能な物質の存在下で混合して混合物を得る混合工程と、
前記混合物を乾燥させる乾燥工程と、
を備え、
前記混合工程における前記プロトンを供与可能な物質の添加量が、前記溶剤及び前記プロトンを供与可能な物質の総量を基準として1~10質量%である、希土類ボンド磁石用コンパウンドの製造方法。
【請求項2】
前記硬化促進剤が、リン含有化合物を含む、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記硬化促進剤が、ボレート塩及びボラン化合物のうちの少なくとも一種を含む、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記プロトンを供与可能な物質が、水、安息香酸、フタル酸及び酢酸からなる群より選択される少なくとも一種を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項5】
前記希土類磁石粉末が、ネオジム鉄ボロン系希土類磁石粉末を含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項6】
前記乾燥工程において、前記混合物を20~80℃の温度で乾燥させる、請求項1~5のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一項に記載の希土類ボンド磁石用コンパウンドの製造方法により希土類ボンド磁石用コンパウンドを製造する工程と、前記希土類ボンド磁石用コンパウンドを圧縮成形する成形工程と、を備える、希土類ボンド磁石の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、希土類ボンド磁石用コンパウンド及びその製造方法、並びに、希土類ボンド磁石及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属粉末及び樹脂組成物を含むコンパウンドは、金属粉末の諸物性に応じて、例えば、インダクタ、電磁波シールド、又はボンド磁石等の多様な工業製品の原材料として利用される(下記特許文献1~3参照)。
【0003】
中でも、金属粉末として希土類磁石粉末を用いた希土類磁石は、高い磁気特性を有しており、今日様々な分野で使用されている。希土類磁石は、使用する原料粉末、製造方法等により希土類焼結磁石と希土類ボンド磁石に大きく分類される。希土類焼結磁石は焼結工程にて寸法変化が大きく、後加工を要する等形状に制約がある。これに対し、希土類ボンド磁石は熱硬化時の寸法変化が少なく、高寸法精度を維持でき、加工レスで異形状を呈するため、形状の自由度が大きい。また、希土類ボンド磁石は、磁石粉末同士の間に絶縁体である樹脂が存在しているため、電気抵抗が高いという利点を有している。
【0004】
希土類ボンド磁石は樹脂バインダを含むため、成形体密度が合金真密度(例えばネオジム鉄ボロン系ボンド磁石用粉末の合金真密度は7.6g/cm)に比べて低く、一般的に比較的バインダの量が少ない圧縮ボンド磁石であっても焼結磁石に比べて磁気特性が低くなる。その一方で、希土類ボンド磁石は、形状自由度、寸法精度、さらには他部材との一体成形が可能である等の特徴を生かし、幅広い環境下で使用される場面が増えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平8-273916号公報
【文献】特開2001-214054号公報
【文献】特開2004-31786号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
希土類ボンド磁石には、幅広い環境下での使用に耐えられる高い機械強度が要求される。そのため、より優れた機械強度を有する希土類ボンド磁石の開発が望まれている。
【0007】
そこで、本開示は、優れた機械強度を有する希土類ボンド磁石を作製することができる希土類ボンド磁石用コンパウンドの製造方法、希土類ボンド磁石の製造方法、希土類ボンド磁石用コンパウンド、及び、希土類ボンド磁石を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本開示は、エポキシ樹脂、フェノール樹脂及び硬化促進剤を含む樹脂組成物と希土類磁石粉末とを、上記エポキシ樹脂、上記フェノール樹脂及び上記硬化促進剤を溶解可能な溶剤、並びに、プロトンを供与可能な物質の存在下で混合して混合物を得る混合工程と、上記混合物を乾燥させる乾燥工程と、を備え、上記混合工程における上記プロトンを供与可能な物質の添加量が、上記溶剤及び上記プロトンを供与可能な物質の総量を基準として1~10質量%である、希土類ボンド磁石用コンパウンドの製造方法を提供する。
【0009】
上記希土類ボンド磁石用コンパウンドの製造方法によれば、混合工程において、エポキシ樹脂、フェノール樹脂及び硬化促進剤を溶解させる溶剤と、特定の添加量のプロトンを供与可能な物質とを用いることにより、プロトンを供与可能な物質を添加しなかった場合と比較して、得られたコンパウンドを用いた成形体(希土類ボンド磁石)の圧壊強度を向上させることができる。また、上記製造方法で得られたコンパウンドを用いた希土類ボンド磁石は、室温時の圧壊強度に対する高温時の圧壊強度の低下を抑制することができる。
【0010】
通常、希土類磁石粉末は、錆びを防ぐ等の観点から、水、酸素等との接触を極力避けることが好ましいと認識されており、湿度管理をするなど、特に水との接触を避けた取り扱いがなされていた。そのため、希土類磁石粉末と樹脂組成物との混合時に、水等のプロトンを供与可能な物質を添加するという発想はこれまでに無いものであった。しかしながら、本発明者らは鋭意検討を重ねた結果、混合時にプロトンを供与可能な物質を特定の添加量で添加することにより、驚くべきことに、得られたコンパウンドを用いた希土類ボンド磁石の機械強度を向上させることができることを見出した。かかる効果が奏される理由は定かではないが、本発明者らは以下のように推察する。すなわち、フェノール樹脂と硬化促進剤とプロトンを供与可能な物質とが希土類磁石粉末との間で錯体を形成し、この錯体の存在が、バインダ樹脂(エポキシ樹脂及びフェノール樹脂等)と希土類磁石粉末との間の接着強度を高めているためであると考えられる。
【0011】
上記製造方法において、上記硬化促進剤は、リン含有化合物を含んでいてもよい。硬化促進剤としてリン含有化合物を用いることで、得られたコンパウンドを用いた希土類ボンド磁石の機械強度をより一層向上させることができる。また、プロトンを供与可能な物質がリン含有化合物に作用し、得られたコンパウンドにおいて、フェノール樹脂とリン含有化合物とプロトンを供与可能な物質とが希土類磁石粉末との間で錯体を形成して、バインダ樹脂と希土類磁石粉末との間の接着強度をより向上させることができる。その結果、得られる希土類ボンド磁石のより優れた機械強度を実現することができる。
【0012】
上記製造方法において、上記硬化促進剤は、ボレート塩及びボラン化合物のうちの少なくとも一種を含んでいてもよい。硬化促進剤としてボレート塩及びボラン化合物のうちの少なくとも一種を用いることで、得られたコンパウンドにおいて、フェノール樹脂とボレート塩及びボラン化合物のうちの少なくとも一種とプロトンを供与可能な物質とが希土類磁石粉末との間で錯体を形成して、バインダ樹脂と希土類磁石粉末との間の接着強度をより向上させることができる。その結果、得られる希土類ボンド磁石のより優れた機械強度を実現することができる。
【0013】
上記製造方法において、上記プロトンを供与可能な物質は、水、安息香酸、フタル酸及び酢酸からなる群より選択される少なくとも一種を含んでいてもよい。これにより、得られたコンパウンドを用いた希土類ボンド磁石の機械強度をより一層向上させることができる。
【0014】
上記製造方法の上記乾燥工程において、上記混合物を20~80℃の温度で乾燥させてもよい。これにより、エポキシ樹脂の硬化を進めることなくコンパウンドを作製することができる。
【0015】
本開示はまた、上記本開示の希土類ボンド磁石用コンパウンドの製造方法により希土類ボンド磁石用コンパウンドを製造する工程と、上記希土類ボンド磁石用コンパウンドを圧縮成形する成形工程と、を備える、希土類ボンド磁石の製造方法を提供する。かかる希土類ボンド磁石の製造方法によれば、優れた機械強度を有する希土類ボンド磁石を製造することができる。
【0016】
本開示はまた、上記本開示の希土類ボンド磁石用コンパウンドの製造方法により製造された希土類ボンド磁石用コンパウンドを提供する。かかる希土類ボンド磁石用コンパウンドによれば、優れた機械強度を有する希土類ボンド磁石を製造可能である。
【0017】
本開示は更に、上記本開示の希土類ボンド磁石用コンパウンドを用いて形成された希土類ボンド磁石を提供する。かかる希土類ボンド磁石は、優れた機械強度を有する。
【発明の効果】
【0018】
本開示によれば、優れた機械強度を有する希土類ボンド磁石を作製することができる希土類ボンド磁石用コンパウンドの製造方法、希土類ボンド磁石の製造方法、希土類ボンド磁石用コンパウンド、及び、希土類ボンド磁石を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本開示の好適な実施形態について説明する。ただし、本開示は下記実施形態に何ら限定されるものではない。
【0020】
<コンパウンド>
本実施形態に係る希土類ボンド磁石用コンパウンド(本明細書中、単に「コンパウンド」とも言う)は、エポキシ樹脂、フェノール樹脂及び硬化促進剤を含む樹脂組成物と、希土類磁石粉末と、を備える。以下、コンパウンドを構成する各成分について詳細に説明する。
【0021】
[樹脂組成物]
本実施形態のコンパウンドに使用される樹脂組成物は、希土類ボンド磁石の結合材としての機能を有する。樹脂組成物は、エポキシ樹脂、フェノール樹脂及び硬化促進剤を配合することによって作製される。
【0022】
(エポキシ樹脂)
エポキシ樹脂は、例えば、1分子中に2個以上のエポキシ基を有するエポキシ樹脂である。そのようなエポキシ樹脂には、例えば、ビフェニル型エポキシ樹脂、スチルベン型エポキシ樹脂、ジフェニルメタン型エポキシ樹脂、硫黄原子含有型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、サリチルアルデヒド型エポキシ樹脂、ナフトール類とフェノール類との共重合型エポキシ樹脂、アラルキル型フェノール樹脂のエポキシ化物、ビスフェノール型エポキシ樹脂、アルコール類のグリシジルエーテル型エポキシ樹脂、パラキシリレン及び/又はメタキシリレン変性フェノール樹脂のグリシジルエーテル型エポキシ樹脂、テルペン変性フェノール樹脂のグリシジルエーテル型エポキシ樹脂、シクロペンタジエン型エポキシ樹脂、多環芳香環変性フェノール樹脂のグリシジルエーテル型エポキシ樹脂、ナフタレン環含有フェノール樹脂のグリシジルエーテル型エポキシ樹脂、グリシジルエステル型エポキシ樹脂、グリシジル型又はメチルグリシジル型のエポキシ樹脂、脂環型エポキシ樹脂、ハロゲン化フェノールノボラック型エポキシ樹脂、ハイドロキノン型エポキシ樹脂、トリメチロールプロパン型エポキシ樹脂及びオレフィン結合を過酢酸等の過酸で酸化して得られる線状脂肪族エポキシ樹脂等が挙げられる。これらを単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0023】
ビフェニル型エポキシ樹脂は、ビフェニル骨格を有するエポキシ樹脂であれば特に限定されないが、例えば、アルキル置換又は非置換のビフェノールのエポキシ樹脂である。
【0024】
スチルベン型エポキシ樹脂は、スチルベン骨格を有するエポキシ樹脂であれば特に限定さないが、例えば、スチルベン系フェノール類等のジグリシジルエーテル型エポキシ樹脂である。
【0025】
ジフェニルメタン型エポキシ樹脂は、ジフェニルメタン骨格を有するエポキシ樹脂であれば特に限定されない。
【0026】
ノボラック型エポキシ樹脂は、ノボラック樹脂をエポキシ化した樹脂であり、フェノール類及び/又はナフトール類とアルデヒド基を有する化合物とを酸性触媒下で縮合又は共縮合させて得られる。フェノール類には、例えば、フェノール、クレゾール、キシレノール、レゾルシン、カテコール、ビスフェノールA及びビスフェノールF等が挙げられる。ナフトール類には、例えば、α-ナフトール、β-ナフトール及びジヒドロキシナフタレン等が挙げられる。アルデヒド基を有する化合物には、例えば、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、ベンズアルデヒド及びサリチルアルデヒド等が挙げられる。ノボラック型エポキシ樹脂には、例えば、フェノールノボラック型エポキシ樹脂及びオルソクレゾールノボラック型エポキシ樹脂等が挙げられる。これらを単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0027】
ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂は、ジシクロペンタジエン骨格を有する化合物を原料としてエポキシ化したエポキシ樹脂であれば特に限定されない。
【0028】
サリチルアルデヒド型エポキシ樹脂は、サリチルアルデヒド骨格を持つ化合物を原料とするエポキシ樹脂であれば特に制限はない。
【0029】
ナフトール類とフェノール類との共重合型エポキシ樹脂は、ナフトール骨格を有する化合物及びフェノール骨格を有する化合物を原料とするエポキシ樹脂であれば、特に限定されない。
【0030】
アラルキル型フェノール樹脂のエポキシ化物には、例えば、フェノールアラルキル樹脂及びナフトールアラルキル樹脂等のエポキシ化物などが挙げられる。これらを単独で用いても2種を組み合わせて用いてもよい。
【0031】
ビスフェノール型エポキシ樹脂には、例えば、ビスフェノールA、ビスフェノールF及びビスフェノールS等が挙げられる。これらを単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0032】
アルコール類のグリシジルエーテル型エポキシ樹脂は、例えば、ブタンジオール、ポリエチレングリコール及びポリプロピレングリコール等のグリシジルエーテル型エポキシ樹脂である。これらを単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0033】
グリシジルエステル型エポキシ樹脂は、例えば、フタル酸、イソフタル酸及びテトラヒドロフタル酸等のカルボン酸類のグリシジルエステル型エポキシ樹脂である。これらを単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0034】
グリシジル型又はメチルグリシジル型のエポキシ樹脂は、例えば、アニリン及びイソシアヌル酸等の窒素原子に結合した活性水素をグリシジル基で置換したグリシジル型又はメチルグリシジル型のエポキシ樹脂である。
【0035】
脂環型エポキシ樹脂には、例えば、分子内のオレフィン結合をエポキシ化して得られるビニルシクロヘキセンジエポキシド、3,4-エポキシシクロヘキシルメチル-3,4-エポキシシクロヘキサンカルボキシレート及び2-(3,4-エポキシ)シクロヘキシル-5,5-スピロ(3,4-エポキシ)シクロヘキサン-m-ジオキサン等が挙げられる。これらを単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0036】
上記エポキシ樹脂の中でも、耐水性、耐溶剤性及び耐オイル性の観点から、ビフェニル型エポキシ樹脂、スチルベン型エポキシ樹脂、ジフェニルメタン型エポキシ樹脂、硫黄原子含有型エポキシ樹脂、及び、アラルキル型フェノール樹脂のエポキシ化物がより好ましい。硫黄原子含有型エポキシ樹脂は、硫黄原子を含有するエポキシ樹脂であれば特に限定されない。より好ましいアラルキル型フェノール樹脂のエポキシ化物には、例えば、フェノールアラルキル樹脂、ナフトールアラルキル樹脂及びビフェニル型フェノールアラルキル樹脂等のアラルキル型フェノール樹脂のエポキシ化物等が挙げられる。このアラルキル型フェノール樹脂のエポキシ化物は、フェノール及びクレゾール等のフェノール類及び/又はナフトール及びジメチルナフトール等のナフトール類と、ジメトキシパラキシレン、ビス(メトキシメチル)ビフェニル及びこれらの誘導体等とから合成されるフェノール樹脂を原料とするエポキシ樹脂であれば、特に限定されない。これらを単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0037】
上記エポキシ樹脂の中でも、高温機械強度の観点からは、ノボラック型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、サリチルアルデヒド型エポキシ樹脂及びナフトール類とフェノール類との共重合型エポキシ樹脂がより好ましい。より好ましいノボラック型エポキシ樹脂には、例えば、フェノールノボラック、クレゾールノボラック及びナフトールノボラック等のノボラック型フェノール樹脂をグリリシジルエーテル化等の手法を用いてエポキシ化したエポキシ樹脂等が挙げられる。これらを単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0038】
また、耐熱性の観点から、ナフタレン構造を有するエポキシ樹脂を用いてもよい。ナフタレン構造を有するエポキシ樹脂としては、例えばナフタレン骨格にグリシジル基が結合したものが挙げられる。ナフタレン構造を有するエポキシ樹脂は、2官能型、3官能型又は4官能型であってもよい。ナフタレン構造を有するエポキシ樹脂におけるナフタレン骨格の数は1以上とすることができるが、2以上であることが好ましい。また、当該ナフタレン骨格の数の上限は8とすることができる。ナフタレン構造を有するエポキシ樹脂を樹脂組成物中に含めることで、高温における希土類ボンド磁石の機械強度の低下を抑制することができる。
【0039】
ナフタレン構造を有するエポキシ樹脂としては、室温及び高温での機械強度により優れる観点から、例えばナフタレンジエポキシ化合物、ナフチレンエーテル型エポキシ樹脂、ナフタレンノボラック型エポキシ樹脂、ナフタレンジエポキシ化合物のメチレン結合二量体、ナフタレンモノエポキシ化合物とナフタレンジエポキシ化合物のメチレン結合体等が挙げられる。ナフタレン構造を有するエポキシ樹脂としては、具体的には、HP-4032、HP-4032D、HP-4700、HP-4750、EXA-7311-G4、EXA-7734-G4、EXA-9540(以上、DIC株式会社製、商品名)等が挙げられる。これらを単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0040】
エポキシ樹脂は、上述のより好ましいエポキシ樹脂以外のエポキシ樹脂を含んでもよい。しかし、上述のより好ましいエポキシ樹脂の性能を十分に発揮させるために、エポキシ樹脂中の上述のより好ましいエポキシ樹脂の含有量は、エポキシ樹脂全体の質量に対して、好ましくは30質量%以上であり、より好ましくは、50質量%以上である。
【0041】
ビフェニル型エポキシ樹脂は、さらに好ましくは、下記一般式(II)で示されるエポキシ樹脂である。下記一般式(II)で示されるエポキシ樹脂の中で市販されているものには、例えば、YX-4000H(三菱ケミカル株式会社製、商品名、Rのうち酸素原子が置換している位置を4及び4’位とした時の3,3’,5,5’位がメチル基でそれ以外が水素原子である化合物)及びYL-6121H(三菱ケミカル株式会社製、商品名、全てのRが水素原子である4,4’-ビス(2,3-エポキシプロポキシ)ビフェニルと、Rのうち酸素原子が置換している位置を4及び4’位とした時の3,3’,5,5’位がメチル基でそれ以外が水素原子である化合物との混合品)等が挙げられる。
【化1】

(式(II)中、Rは水素原子又は炭素数1~12のアルキル基又は炭素数4~18のアリール基を示し、それぞれ全てが同一でも異なっていてもよく、nは平均値であり、0~20の整数、小数又は帯小数を示す。)
【0042】
スチルベン型エポキシ樹脂は、さらに好ましくは、下記一般式(III)で示されるエポキシ樹脂である。下記一般式(III)で示されるエポキシ樹脂の中で市販されているものは、例えば、ESLV-210(住友化学工業株式会社製、商品名、Rのうち酸素原子が置換している位置を4及び4’位とした時の3,3’,5,5’位がメチル基でそれ以外が水素原子であり、R10の全てが水素原子である化合物と、3,3’,5,5’位のうちの3つがメチル基、1つがtert-ブチル基でそれ以外が水素原子であり、R10の全てが水素原子である化合物との混合品)等が挙げられる。
【化2】

(式(III)中、R及びR10は、それぞれ独立して、水素原子又は炭素数1~18の1価の有機基を示し、それぞれ全てが同一でも異なっていてもよく、nは平均値であり、0~20の整数、小数又は帯小数を示す。)
【0043】
「炭素数1~18の1価の有機基」は、炭素数1~18を有し、かつ置換されても又は非置換であってもよい脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基、脂肪族炭化水素オキシ基、芳香族炭化水素オキシ基、カルボニル基、オキシカルボニル基及びカルボニルオキシ基からなる群から選択される少なくとも1種類を含むことを意味する。
【0044】
上記脂肪族炭化水素オキシ基には、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、n-ブトキシ基、sec-ブトキシ基、tert-ブトキシ基、シクロプロピルオキシ基、シクロヘキシルオキシ基、シクロペンチルオキシ基、アリルオキシ基及びビニルオキシ基等の上述の脂肪族炭化水素基に酸素原子が結合した構造のオキシ基並びにそれらをアルキル基、アルコキシ基、アリール基、アリールオキシ基、アミノ基及びハロゲン原子等で置換したものなどが挙げられる。上記芳香族炭化水素オキシ基には、例えば、フェノキシ基、メチルフェノキシ基、エチルフェノキシ基、メトキシフェノキシ基、ブトキシフェノキシ基及びフェノキシフェノキシ基等の上述の芳香族炭化水素基に酸素原子が結合した構造のオキシ基など、並びにそれらをアルキル基、アルコキシ基、アリール基、アリールオキシ基、アミノ基及びハロゲン原子等で置換したものなどが挙げられる。
【0045】
上記カルボニル基には、例えば、ホルミル基、アセチル基、エチルカルボニル基、ブチリル基、シクロヘキシルカルボニル基及びアリルカルボニル等の脂肪族炭化水素カルボニル基、フェニルカルボニル基及びメチルフェニルカルボニル基等の芳香族炭化水素カルボニル基など、並びにそれらをアルキル基、アルコキシ基、アリール基、アリールオキシ基、アミノ基及びハロゲン原子等で置換したものなどが挙げられる。
【0046】
上記オキシカルボニル基には、例えば、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、ブトキシカルボニル基、アリルオキシカルボニル基及びシクロヘキシルオキシカルボニル基等の脂肪族炭化水素オキシカルボニル基、フェノキシカルボニル基及びメチルフェノキシカルボニル基等の芳香族炭化水素オキシカルボニル基など、並びにそれらをアルキル基、アルコキシ基、アリール基、アリールオキシ基、アミノ基及びハロゲン原子等が置換したものなどが挙げられる。
【0047】
上記カルボニルオキシ基としては、例えば、メチルカルボニルオキシ基、エチルカルボニルオキシ基、ブチルカルボニルオキシ基、アリルカルボニルオキシ基及びシクロヘキシルカルボニルオキシ基等の脂肪族炭化水素カルボニルオキシ基、フェニルカルボニルオキシ基及びメチルフェニルカルボニルオキシ基等の芳香族炭化水素カルボニルオキシ基など、並びにそれらをアルキル基、アルコキシ基、アリール基、アリールオキシ基、アミノ基及びハロゲン原子等で置換したものなどが挙げられる。
【0048】
一般式(II)~(III)及び以下の一般式(IV)~(XI)中のR~R21及びR37~R41について、「それぞれ全てが同一でも異なっていてもよい」とは、例えば、式(II)中の8~168個のRの全てが同一でも異なっていてもよいことを意味している。他のR~R21及びR37~R41についても、式中に含まれるそれぞれの個数について全てが同一でも異なっていてもよいことを意味している。また、R~R21及びR37~R41はそれぞれが同一でも異なっていてもよい。例えば、RとR10の全てについて同一でも異なっていてもよい。また、本明細書において、他の「それぞれ全てが同一でも異なっていてもよい」の部分についても、上記と同じことを意味している。
【0049】
ジフェニルメタン型エポキシ樹脂は、さらに好ましくは、下記一般式(IV)で示されるエポキシ樹脂である。下記一般式(IV)で示されるエポキシ樹脂の中で市販されているものは、例えば、YSLV-80XY(日鉄ケミカル&マテリアル株式会社製、商品名、R11の全てが水素原子であり、R12のうち酸素原子が置換している位置を4及び4’位とした時の3,3’,5,5’位がメチル基でそれ以外が水素原子である化合物)等が挙げられる。
【化3】

(式(IV)中、R11及びR12は、それぞれ独立して、水素原子又は炭素数1~18の1価の有機基を示し、それぞれ全てが同一でも異なっていてもよく、nは平均値であり、0~20の整数、小数又は帯小数を示す。)
【0050】
硫黄原子含有型エポキシ樹脂は、さらに好ましくは、下記一般式(V)で示されるエポキシ樹脂である。下記一般式(V)で示されるエポキシ樹脂の中で市販されているものは、例えば、YSLV-120TE(日鉄ケミカル&マテリアル株式会社製、商品名、R13のうち酸素原子が置換している位置を4及び4’位とした時の3,3’位がtert-ブチル基で6,6’位がメチル基でそれ以外が水素原子である化合物)等が挙げられる。
【化4】

(式(V)中、R13は水素原子又は炭素数1~18の1価の有機基を示し、それぞれ全てが同一でも異なっていてもよく、nは平均値であり、0~20の整数、小数又は帯小数を示す。)
【0051】
フェノールノボラック、クレゾールノボラック、ナフトールノボラック等のノボラック型フェノール樹脂をグリリシジルエーテル化等の手法を用いてエポキシ化したエポキシ樹脂は、さらに好ましくは、下記一般式(VI)で示されるエポキシ樹脂がより好ましい。下記一般式(VI)で示されるエポキシ樹脂の中で市販されているものには、例えば、ESCN-190、ESCN-195(住友化学株式会社製、商品名、どちらも、R14の全てが水素原子であり、R15がメチル基であり、i=1である化合物)等が挙げられる。
【化5】

(式(VI)中、R14及びR15は、それぞれ独立して、水素原子又は炭素数1~18の1価の有機基を示し、それぞれ全てが同一でも異なっていてもよく、iは0~3の整数を示し、nは平均値であり、0~20の整数、小数又は帯小数を示し、iはそれぞれ全て同一でも異なっていてもよい。)
【0052】
ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂は、さらに好ましくは、下記一般式(VII)で示されるエポキシ樹脂である。下記一般式(VII)で示されるエポキシ樹脂の中で市販されているものは、例えば、HP-7200(DIC株式会社製、商品名、i=0である化合物)等が挙げられる。
【化6】

(式(VII)中、R16は水素原子又は炭素数1~18の1価の有機基を示し、それぞれ全てが同一でも異なっていてもよく、iは0~3の整数を示し、nは平均値であり、0~20の整数、小数又は帯小数を示し、iはそれぞれ全て同一でも異なっていてもよい。)
【0053】
サリチルアルデヒド型エポキシ樹脂は、さらに好ましくは、サリチルアルデヒド骨格を持つ化合物とフェノール性水酸基を有する化合物との反応物(ノボラック型フェノール樹脂等のサリチルアルデヒド型フェノール樹脂)をグリシジルエーテル化したエポキシ樹脂などのサリチルアルデヒド型エポキシ樹脂であり、例えば、下記一般式(VIII)で示されるエポキシ樹脂である。下記一般式(VIII)で示されるエポキシ樹脂の中で市販されているものには、例えば、EPPN-502H(日本化薬株式会社製、商品名)、1032H60(三菱ケミカル株式会社製、商品名、i=0、k=0である化合物)及びEPPN-502H(日本化薬株式会社製、商品名)等が挙げられる。
【化7】

(式(VIII)中、R17及びR18は、それぞれ独立して、水素原子又は炭素数1~18の1価の有機基を示し、それぞれ全てが同一でも異なっていてもよく、iは0~3の整数を示し、kは0~4の整数を示し、nは平均値であり、0~20の整数、小数又は帯小数を示し、i及びkはそれぞれ全て同一でも異なっていてもよい。)
【0054】
ナフトール類とフェノール類との共重合型エポキシ樹脂は、さらに好ましくは、ナフトール骨格を有する化合物及びフェノール骨格を有する化合物を用いたノボラック型フェノール樹脂をグリシジルエーテル化したものであり、例えば、下記一般式(IX)で示されるエポキシ樹脂である。下記一般式(IX)で示されるエポキシ樹脂の中で市販されているものは、例えば、NC-7300(日本化薬株式会社製、商品名、R21がメチル基でi=1であり、j=0、k=0である化合物)等が挙げられる。
【化8】

(式(IX)中、R19~R21は、それぞれ独立して、水素原子又は炭素数1~18の1価の有機基を示し、それぞれ全てが同一でも異なっていてもよく、iは0~3の整数を示し、jは0~2の整数を示し、kは0~4の整数を示し、pは平均値で0~1の整数又は小数を示し、l、mはそれぞれ平均値で0~21の整数、小数又は帯小数であり、(l+m)は1~21の整数又は帯小数を示し、j及びkはそれぞれ全て同一でも異なっていてもよい。)
【0055】
上記一般式(IX)で示されるエポキシ樹脂としては、l個の構成単位及びm個の構成単位をランダムに含むランダム共重合体、交互に含む交互共重合体、規則的に含む共重合体、ブロック状に含むブロック共重合体が挙げられ、これらのいずれか1種を単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0056】
フェノールアラルキル樹脂、ナフトールアラルキル樹脂、ビフェニル型フェノールアラルキル樹脂等のアラルキル型フェノール樹脂のエポキシ化物は、好ましくは、フェノール及びクレゾール等のフェノール類及び/又はナフトール及びジメチルナフトール等のナフトール類とジメトキシパラキシレン、ビス(メトキシメチル)ビフェニル及びこれらの誘導体等とから合成されるフェノール樹脂をグリシジルエーテル化したものであり、例えば、下記一般式(X)及び(XI)で示されるエポキシ樹脂である。下記一般式(X)で示されるエポキシ樹脂の中で市販されているものは、例えば、NC-3000(日本化薬株式会社製、商品名、i=0、R38が水素原子である化合物)及びCER-3000(日本化薬株式会社製、商品名、i=0、R38が水素原子であるエポキシ樹脂と、一般式(II)の全てのRが水素原子であるエポキシ樹脂とを質量比80:20で混合した混合品)等が挙げられる。また、下記一般式(XI)で示されるエポキシ樹脂の中で市販されているものは、例えば、ESN-175(日鉄ケミカル&マテリアル株式会社製、商品名、i=0、j=0、k=0である化合物)等が挙げられる。
【化9】

(式(X)及び(XI)において、R37~R41は、それぞれ独立して、水素原子又は炭素数1~18の1価の有機基を示し、それぞれ全てが同一でも異なっていてもよく、iは0~3の整数を示し、jは0~2の整数を示し、kは0~4の整数を示し、nは平均値であり、0~20の整数、小数又は帯小数を示し、i、j及びkはそれぞれ全て同一でも異なっていてもよい。)
【0057】
上記一般式(II)~(XI)中のnは、平均値で、好ましくは0~20の整数、小数又は帯小数である。nが0~20であると、エポキシ樹脂の溶融粘度を低減でき、希土類ボンド磁石用コンパウンドの溶融成形時の粘度も低減できるため、粘度が高いことに起因した成形性の悪化の発生を抑制することができる。1分子中の平均nは0~10の範囲に設定されることがより好ましい。
【0058】
上記一般式(II)~(XI)で示されるエポキシ樹脂の中で、より好ましいエポキシ樹脂は、高温機械強度の観点からは、上記一般式(VI)~(VIII)で示されるエポキシ樹脂である。
【0059】
(フェノール樹脂)
フェノール樹脂は、エポキシ樹脂の硬化剤として機能する。フェノール樹脂としては特に制限はないが、例えば、硬化剤として一般に使用される1分子中に2個以上のフェノール性水酸基を有するフェノール樹脂が挙げられる。フェノール樹脂には、例えば、1分子中に2個のフェノール性水酸基を有する化合物、アラルキル型フェノール樹脂、ジシクロペンタジエン型フェノール樹脂、サリチルアルデヒド型フェノール樹脂、ノボラック型フェノール樹脂、ベンズアルデヒド型フェノールとアラルキル型フェノールとの共重合型フェノール樹脂、パラキシリレン及び/又はメタキシリレン変性フェノール樹脂、メラミン変性フェノール樹脂、テルペン変性フェノール樹脂、ジシクロペンタジエン型ナフトール樹脂、シクロペンタジエン変性フェノール樹脂、多環芳香環変性フェノール樹脂、ビフェニル型フェノール樹脂、トリフェニルメタン型フェノール樹脂、並びにこれらの2種以上を共重合して得たフェノール樹脂等が挙げられる。これらを単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。なお、1分子中に2個のフェノール性水酸基を有する化合物には、例えば、レゾルシン、カテコール、ビスフェノールA、ビスフェノールF及び置換又は非置換のビフェノール等が挙げられる。
【0060】
上述のフェノール樹脂の中で、耐水性、耐溶剤性及び耐オイル性の観点から、好ましくは、アラルキル型フェノール樹脂及びベンズアルデヒド型フェノールとアラルキル型フェノールとの共重合型フェノール樹脂である。また、上述のフェノール樹脂の中で、高温機械強度の観点からは、好ましくは、ジシクロペンタジエン型フェノール樹脂、サリチルアルデヒド型フェノール樹脂及びノボラック型フェノール樹脂である。これらアラルキル型フェノール樹脂、ジシクロペンタジエン型フェノール樹脂、サリチルアルデヒド型フェノール樹脂、ベンズアルデヒド型フェノールとアラルキル型フェノールとの共重合型フェノール樹脂及びノボラック型フェノール樹脂を、1種を単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0061】
また、フェノール樹脂の全部が上述の好ましいフェノール樹脂である必要はなく、フェノール樹脂の一部が上述の好ましいフェノール樹脂であってもよい。この場合、フェノール樹脂中の上述の好ましいフェノール樹脂の含有量は、その性能を十分に発揮する観点から、フェノール樹脂の全質量に対して、好ましくは、30質量%以上であり、より好ましくは、50質量%以上である。
【0062】
アラルキル型フェノール樹脂は、フェノール類及び/又はナフトール類と、ジメトキシパラキシレン、ビス(メトキシメチル)ビフェニル又はこれらの誘導体とから合成されるフェノール樹脂であれば特に限定されない。アラルキル型フェノール樹脂は、好ましくは、下記一般式(XII)~(XIV)で示されるフェノール樹脂である。
【0063】
【化10】

(式(XII)~(XIV)において、R22~R28は、それぞれ独立して、水素原子又は炭素数1~18の1価の有機基を示し、それぞれ全てが同一でも異なっていてもよく、iは0~3の整数を示し、kは0~4の整数を示し、jは0~2の整数を示し、nは平均値であり、0~20の整数、小数又は帯小数を示し、i、j、k及びnはそれぞれ全て同一でも異なっていてもよい。)
【0064】
上記一般式(XII)で示されるフェノール樹脂の中で市販されているものは、例えば、MEH-7851(明和化成株式会社、商品名、i=0、R23が全て水素原子である化合物)等が挙げられる。
【0065】
上記一般式(XIII)で示されるフェノール樹脂の中で市販されているものには、例えば、XLC(三井化学株式会社製、商品名、i=0、k=0である化合物)、XL-225(三井化学株式会社製、商品名)及びMEH-7800(明和化成株式会社製、商品名)等が挙げられる。
【0066】
上記一般式(XIV)で示されるフェノール樹脂の中で市販されているものは、例えば、SN-170(日鉄ケミカル&マテリアル株式会社製、商品名、j=0、R27のk=0、R28のk=0である化合物)等が挙げられる。
【0067】
ジシクロペンタジエン型フェノール樹脂は、ジシクロペンタジエン骨格を有する化合物を原料として用いたフェノール樹脂であれば特に限定されない。ジシクロペンタジエン型フェノール樹脂は、好ましくは、下記一般式(XV)で示されるフェノール樹脂である。下記一般式(XV)で示されるフェノール樹脂の中で市販されているものは、例えば、DPP(新日本石油化学株式会社製、商品名、i=0である化合物)等が挙げられる。
【化11】

(式(XV)中、R29は水素原子又は炭素数1~18の1価の有機基を示し、それぞれ全てが同一でも異なっていてもよく、iは0~3の整数を示し、nは平均値であり、0~20の整数、小数又は帯小数を示し、iはそれぞれ全て同一でも異なっていてもよい。)
【0068】
サリチルアルデヒド型フェノール樹脂は、サリチルアルデヒド骨格を有する化合物を原料として用いたフェノール樹脂であれば特に限定されない。サリチルアルデヒド型フェノール樹脂は、好ましくは、下記一般式(XVI)で示されるフェノール樹脂である。下記一般式(XVI)で示されるフェノール樹脂の中で市販されているものは、例えば、MEH-7500(明和化成株式会社製、商品名、i=0、k=0である化合物)等が挙げられる。
【化12】

(式(XVI)中、R30及びR31は、それぞれ独立して、水素原子又は炭素数1~18の1価の有機基を示し、それぞれ全てが同一でも異なっていてもよく、iは0~3の整数を示し、kは0~4の整数を示し、nは平均値であり、0~20の整数、小数又は帯小数を示し、i及びkはそれぞれ全て同一でも異なっていてもよい。)
【0069】
ベンズアルデヒド型とアラルキル型との共重合型フェノール樹脂は、ベンズアルデヒド骨格を有する化合物を原料として用いたフェノール樹脂とアラルキル型フェノール樹脂との共重合型フェノール樹脂であれば特に限定されない。ベンズアルデヒド型とアラルキル型との共重合型フェノール樹脂は、好ましくは、下記一般式(XVII)で示されるフェノール樹脂である。下記一般式(XVII)で示されるフェノール樹脂の中で市販されているものは、例えば、HE-510(エア・ウォーター・ケミカル株式会社製、商品名、i=0、k=0、q=0である化合物)等が挙げられる。
【化13】

(式(XVII)中、R32~R34は、それぞれ独立して、水素原子又は炭素数1~18の1価の有機基を示し、それぞれ全てが同一でも異なっていてもよく、iは0~3の整数を示し、kは0~4の整数を示し、qは0~5の整数を示し、l、mはそれぞれ平均値で0~21の整数、小数又は帯小数であり(l+m)は1~21の正数を示し、iはそれぞれ全て同一でも異なっていてもよい。)
【0070】
ノボラック型フェノール樹脂には、例えば、フェノール、クレゾール、キシレノール、レゾルシン、カテコール、ビスフェノールA、ビスフェノールF、フェニルフェノール及びアミノフェノール等のフェノール類及び/又はα-ナフトール、β-ナフトール及びジヒドロキシナフタレン等のナフトール類とホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、ベンズアルデヒド及びサリチルアルデヒド等のアルデヒド類とを酸性触媒下で縮合又は共縮合させて得られるものなどが挙げられる。ノボラック型フェノール樹脂は、上記フェノール類及び/又は上記ナフトール類と上記アルデヒド類とを酸性触媒下で縮合又は共縮合させて得られるフェノール樹脂であれば特に限定されない。ノボラック型フェノール樹脂は、好ましくは、下記一般式(XVIII)で示されるフェノール樹脂である。下記一般式(XVIII)で示されるフェノール樹脂の中で市販されているものには、例えば、タマノル758、759(荒川化学工業株式会社製、商品名、i=0、R35が全て水素原子である化合物)及びHP-850N(日立化成株式会社製、商品名)等が挙げられる。
【化14】

(式(XVII)中、R35及びR36は、それぞれ独立して、水素原子又は炭素数1~18の1価の有機基を示し、それぞれ全てが同一でも異なっていてもよく、iは0~3の整数を示し、kは0~4の整数を示し、nは平均値であり、0~20の整数、小数又は帯小数を示し、iはそれぞれ全て同一でも異なっていてもよい。)
【0071】
上記一般式(XII)~(XVIII)におけるnは、好ましくは0~20の範囲である。nが0~20の範囲であると、フェノール樹脂の溶融粘度が高くなりすぎないようにし、コンパウンドの成形性を良好にすることができる。平均nは0~10の範囲であることがより好ましい。
【0072】
本実施形態の希土類ボンド磁石用コンパウンドにおいて、エポキシ樹脂とフェノール樹脂との配合比率は、全エポキシ樹脂のエポキシ当量に対する全フェノール樹脂の水酸基当量の比率(フェノール樹脂中の水酸基数/エポキシ樹脂中のエポキシ基数)で、0.5~2.0であることが好ましく、0.7~1.5であることがより好ましく、0.8~1.3であることがさらに好ましい。上記比率が0.5~2.0であると、エポキシ樹脂は十分に硬化し、硬化物の耐熱性及び機械強度が良好になる。
【0073】
(硬化促進剤)
硬化促進剤は、例えば、エポキシ樹脂と反応してエポキシ樹脂の硬化を促進させる組成物であれば限定されない。硬化促進剤は、1種を単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0074】
硬化促進剤は、例えば、リン含有化合物を含んでいてもよい。機械強度がより優れた希土類ボンド磁石が得られ易いことから、上記リン含有化合物は、リン酸塩であることが好ましい。また、硬化促進剤は、例えば、ボレート塩及びボラン化合物のうちの少なくとも一種を含んでいてもよい。上記リン含有化合物とボレート塩又はボラン化合物とは、共通の化合物であってもよい。すなわち、硬化促進剤は、リンを含有するボレート塩及びリンを含有するボラン化合物のうちの少なくとも一種を含んでいてもよい。硬化促進剤としてボレート塩及びボラン化合物のうちの少なくとも一種を含むコンパウンドは、他の硬化促進剤(例えば、イミダゾール類)を含むコンパウンドに比べて、流動性、保存安定性及び成形性に優れている。また、機械強度がより優れた希土類ボンド磁石が得られ易いことから、硬化促進剤は、ボレート塩を含むことがより好ましい。
【0075】
硬化促進剤として用いられるボレート塩は、下記一般式(I-1)で表される化合物であってよい。
(R) (I-1)
(一般式(I-1)中、Xは、アルキルホスホニウム塩、アリールホスホニウム塩、イミダゾール塩、イミダゾール誘導体の塩、3級アミン塩及び4級アンモニウム塩からなる群より選ばれる少なくとも一種を示し、Bはホウ素を示し、Rは、アルキル基、アリール基及びフルオロ基からなる群より選ばれる少なくとも一種を示す。)
【0076】
一般式(I-1)で表されるボレート塩は、例えば、テトラブチルホスフォニウムテトラフェニルボレート、テトラフェニルホスホニウム・テトラキス(4-メチルフェニル)ボレート、テトラフェニルホスホニウム・テトラフェニルボレートテトラフェニルホスホニウム・テトラ-p-トリルボレート、及びトリ-tert-ブチルホスホニウム・テトラフェニルボレート、トリフェニルホスフィン-ベンゾキノン・テトラフェニルホスホニウム、テトラフェニルホスホニウム・テトラキス(4-メチルフェニル)ボレート、テトラ(n-ブチル)ホスホニウムテトラフェニルボレートから選ばれる少なくとも一種であってよい。
【0077】
硬化促進剤として用いられるボラン化合物は、下記一般式(I-2)で表される化合物であってよい。
Y・B(R) (I-2)
(一般式(I-2)中、Yはアルキルホスフィン、アリールホスフィン、イミダゾール、イミダゾール誘導体及び3級アミンからなる群より選ばれる少なくも一種を示し、Bはホウ素を示し、Rはアルキル基、アリール基及びフルオロ基からなる群より選ばれる少なくとも一種を示す。)
【0078】
一般式(I-2)で表されるボラン化合物は、例えば、トリフェニルホスフィントリフェニルボラン、2-メチルイミダゾールトリフェニルボラン、及びトリエタノールアミントリフェニルホスフィンから選ばれる少なくとも一種であってよい。
【0079】
硬化促進剤は、例えば、イミダゾール類を含んでいてもよい。硬化促進剤として用いられるイミダゾール類は、アルキル基置換イミダゾール、又はベンゾイミダゾール等であってよい。イミダゾール類の活性化温度は、上述のボレート塩及びボラン化合物の活性化温度に比べて低い傾向がある。したがって、イミダゾール類を含むコンパウンドは、ボレート塩又はボラン化合物を含むコンパウンドに比べて、より低温度において短時間で硬化し易い。よって、成形体を短時間で硬化させる場合、イミダゾール類は硬化促進剤に適している。コンパウンドは、イミダゾール系硬化促進剤として、例えば、1-シアノエチル-2-ウンデシルイミダゾール、2-ウンデシルイミダゾール、2-ヘプタデシルイミダゾール、2-エチル-4-メチルイミダゾール、及び1-シアノエチル-2-フェニルイミダゾールから選ばれる少なくとも一種を含んでよい。イミダゾール系硬化促進剤の市販品としては、例えば、2MZ-H、C11Z、C17Z、1,2DMZ、2E4MZ、2PZ-PW、2P4MZ、1B2MZ、1B2PZ、2MZ-CN、C11Z-CN、2E4MZ-CN、2PZ-CN、C11Z-CNS、2P4MHZ、TPZ、及びSFZ(以上、四国化成工業株式会社製の商品名)等が挙げられる。
【0080】
硬化促進剤の配合量は、硬化促進効果が得られる量であればよく、特に限定されない。ただし、エポキシ樹脂の吸湿時の硬化性及び流動性を改善する観点からは、硬化促進剤の配合量は、100質量部のエポキシ樹脂に対して、好ましくは0.1~30質量部、より好ましくは1~15質量部であってよい。硬化促進剤の含有量は、エポキシ樹脂及び硬化剤(例えばフェノール樹脂)の質量の合計に対して0.001質量部以上5質量部以下であることが好ましい。硬化促進剤の配合量が0.1質量部未満である場合、十分な硬化促進効果が得られ難い。硬化促進剤の配合量が30質量部以下である場合、コンパウンドの保存安定性が向上し易い。ただし、硬化促進剤の配合量及び含有量が上記範囲外である場合であっても、本開示に係る効果は得られる。
【0081】
樹脂組成物において、硬化促進剤は、エポキシ樹脂及びフェノール樹脂に配合した際の構造、並びに、エポキシ樹脂及び/又はフェノール樹脂と反応した構造のいずれか、又は混合物として存在しており、その構造は、核磁気共鳴装置(NMR)等の方法で分析することが可能である。
【0082】
(他の成分)
樹脂組成物は、必要に応じて上述したエポキシ樹脂、フェノール樹脂及び硬化促進剤以外の他の成分を含んでもよい。他の成分としては、例えば、上記以外の樹脂、カップリング剤、エラストマー変性剤、フィラー、難燃剤等が挙げられる。
【0083】
(カップリング剤)
カップリング剤は、コンパウンドの樹脂組成物と希土類磁石粉末との密着性を高めるために、コンパウンドに配合してもよい。カップリング剤としては、エポキシシラン、メルカプトシラン、アミノシラン、アルキルシラン、ウレイドシラン及びビニルシラン等のシラン系化合物、チタン系化合物、アルミニウムキレート類、並びに、アルミニウム/ジルコニウム系化合物などの公知のカップリング剤が挙げられる。
【0084】
(エラストマー変性剤)
エラストマー変性剤は、コンパウンドの樹脂組成物と希土類磁石粉末との密着性を高めるため、樹脂組成物の強靱化のため及び樹脂成分の内部応力を低減させるために、コンパウンドに配合してもよい。エラストマー変性剤としては、液状ゴム変性剤、ゴム粒子径変性剤、コアシェル粒子径変性剤、シリコーン系変性剤及びウレタンプレポリマー変性剤等が挙げられる。
【0085】
(フィラー)
フィラーは、吸水性、寸法安定性、耐薬品性、機械強度向上及び熱膨張係数向上等のために、コンパウンドに配合してもよい。フィラーとしては、シリカ、炭酸カルシウム、カオリンクレー、酸化チタン、硫酸バリウム、酸化亜鉛、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、タルク及びマイカ等が挙げられる。
【0086】
(難燃剤)
難燃剤は、環境安全性、リサイクル性、成形加工性及び低コストのために、コンパウンドに配合してもよい。難燃剤としては、臭素系難燃剤、鱗茎難燃剤、水和金属化合物系難燃剤、シリコーン系難燃剤、窒素含有化合物、ヒンダードアミン化合物、有機金属化合物及び芳香族エンプラ等が挙げられる。
【0087】
[希土類磁石粉末]
本実施形態のコンパウンドに使用される希土類磁石粉末は、希土類磁石の粉末であれば特に限定されない。希土類磁石粉末としては、例えば、サマリウム-コバルト系希土類磁石粉末、ネオジム鉄ボロン系希土類磁石粉末及びサマリウム鉄窒素系希土類磁石粉末等が挙げられる。これらの中でも、本開示の効果が得られ易いことから、特にネオジム鉄ボロン系希土類磁石粉末が好ましい。
【0088】
希土類磁石粉末は、例えば、急冷凝固法により製造される。急冷凝固法では、磁石合金の溶湯を回転する水冷ロールの表面に放出することにより、磁石合金の溶湯を急冷して凝固させることにより急冷合金を作製する。そして、急冷合金を粉砕することにより希土類磁石粉末を作製する。また、HDDR(Hydrogenation Disproportionation Desorption Recombination)法により作製した希土類磁石粉末を使用してもよい。
【0089】
好適な希土類磁石粉末の個々の粒子の形状は扁平形状(例えば粉末粒子のアスペクト比=短径/長径が0.3以下)であることが好ましい。このような粉末としては、例えば、国際公開第2006/064794号パンフレット及び国際公開第2006/101117号パンフレットに記載のTi含有ナノコンポジット磁石用粉末及び米国特許第4802931号明細書等に記載の希土類系急冷合金粉末が挙げられる。扁平形状を有する希土類磁石粉末を希土類ボンド磁石用コンパウンドに用いると、圧縮成形のとき、希土類磁石粉末が比較的整然と積層する。これにより、希土類磁石粉末間に空隙及び樹脂溜りができにくくなり、希土類磁石粉末を高密充填しやすくなる。したがって、希土類磁石粉末は扁平形状を有することが好ましい。
【0090】
希土類磁石粉末の粒度は、好ましくは全体の80質量%以上が20~300μmであり、より好ましくは40~250μmである。本明細書において、希土類磁石粉末の粒度は、ロータップ型ふるい振盪機((株)飯田製作所製)により測定した値である。
【0091】
コンパウンドにおける希土類磁石粉末の含有量は、コンパウンドの固形分全量を基準として、90質量%以上100質量%未満、93質量%以上99.5質量%以下、94質量%以上99.5質量%以下、又は、96質量%以上99.5質量%以下であってよい。希土類磁石粉末の含有量の増加に伴い、コンパウンドの比透磁率が増加する傾向がある。一方、希土類磁石粉末の含有量の増加に伴い、コンパウンドの流動性が低下する傾向がある。コンパウンドにおける希土類磁石粉末の含有量は、コンパウンドにおける希土類磁石粉末の充填率と言い換えられてよい。コンパウンドにおける希土類磁石粉末の充填率は、コンパウンドにおける希土類磁石粉末の占積率と言い換えられてよい。コンパウンドにおける樹脂組成物の含有量は、コンパウンド全体の質量に対して、0質量%より大きく10質量%以下、0.5質量%以上7質量%以下、0.5質量%以上6質量%以下、又は、0.5質量%以上4質量%以下であってよい。
【0092】
好ましい実施形態において、コンパウンド中の樹脂組成物は希土類磁石粉末の粒子を90%以上の被覆率で被覆する。被覆率が90%未満であると、樹脂組成物によって被覆されていない希土類磁石粉末の粒子同士が接することで導通してしまい、高い電気抵抗値が得られない確率が高くなる。被覆率の上限は100%である。
【0093】
以上説明したコンパウンドは、以下に示す本実施形態の希土類ボンド磁石用コンパウンドの製造方法により製造される。
【0094】
<コンパウンドの製造方法>
本実施形態の希土類ボンド磁石用コンパウンドの製造方法では、まず、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、硬化促進剤、及び必要に応じて他の成分を配合して樹脂組成物を作製する(配合工程)。また、希土類磁石粉末を用意する。次に、樹脂組成物を溶剤で希釈した後、希土類磁石粉末と溶剤で希釈した樹脂組成物とを、プロトンを供与可能な物質の存在下で混合し、混合物を得る(混合工程)。混合工程では、混合中に溶剤の一部を揮発(乾燥)させてもよい。また、プロトンを供与可能な物質が液体である場合には、混合工程においてプロトンを供与可能な物質の一部を揮発(乾燥)させてもよい。その後、混合物を乾燥させ(乾燥工程)、必要に応じて乾燥品を所望の大きさに解砕することで(解砕工程)、希土類磁石粉末と、希土類磁石粉末を被覆する樹脂組成物とを含む希土類ボンド磁石用コンパウンドを作製することができる。
【0095】
混合工程で用いられる溶剤は、エポキシ樹脂、フェノール樹脂及び硬化促進剤を溶解可能な溶剤である。また、混合工程では、溶剤と共に、プロトンを供与可能な物質(本明細書中、「プロトン供与体」とも言う)が用いられる。混合工程において、プロトン供与体の添加量は、溶剤及びプロトン供与体の総量を基準として1~10質量%である。
【0096】
溶剤は、作業性の面から常温で気体となる揮発性の有機溶剤が好ましい。好適に使用され得る溶剤としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ベンゼン、トルエン及びキシレン等が挙げられる。これらの中でも、安全性及び取り扱い性の観点から、メチルエチルケトンが好ましい。これらは1種を単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0097】
プロトン供与体としては、水、安息香酸、フタル酸、酢酸等が挙げられる。プロトン供与体としては、溶剤に可溶でエポキシ樹脂との反応性が低い観点から、特に水が好ましい。これらは1種を単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。なお、本明細書において、エポキシ樹脂、フェノール樹脂及び硬化促進剤を溶解可能な溶剤と、プロトンを供与可能な物質との両方の性質を有する物質は、プロトンを供与可能な物質に分類する。
【0098】
混合工程において添加されるプロトン供与体の添加量は、溶剤及びプロトン供与体の総量を基準として1~10質量%であるが、2~8質量%であってもよく、4~6質量%であってもよい。プロトン供与体の添加量が上記範囲内であることで、得られたコンパウンドを用いた希土類ボンド磁石の機械強度を向上させることができる。プロトン供与体の添加量が1質量%未満であると、希土類ボンド磁石の機械強度を向上させる効果が十分に得られず、10質量%を超えると、エポキシ樹脂及びフェノール樹脂の溶解を妨げ、希土類磁石粉末への樹脂成分の均一なコーティングができない場合がある。
【0099】
溶剤は、コンパウンドを構成する組成比で配合されたエポキシ樹脂、フェノール樹脂及び硬化促進剤の混合材料を、10質量%以上、8質量%以上、又は、6質量%以上の濃度で溶解可能であることが好ましい。これにより、希土類磁石粉末への樹脂成分の均一なコーティングができ易く、均質なコンパウンドが得られ易い傾向がある。
【0100】
混合工程において、プロトン供与体は、プロトン供与体を溶剤に予め溶解した溶液として用いてもよく、溶剤とは別に添加してもよい。プロトン供与体を溶剤とは別に添加する場合、溶剤で樹脂組成物を希釈した後、希土類磁石粉末を加える前にプロトン供与体を添加してもよく、溶剤で樹脂組成物を希釈し、そこに希土類磁石粉末を加えた後にプロトン供与体を添加してもよい。いずれの場合でも、プロトン供与体を添加する前の材料をある程度混合しておいてもよいが、プロトン供与体の添加後、更に混合される。
【0101】
混合工程における混合時の温度は特に限定されないが、所定時間で均一に溶解し、エポキシ樹脂の反応を進めない観点から、20~80℃であってもよく、30~60℃であってもよい。
【0102】
混合工程後、得られた混合物を乾燥させる乾燥工程を行う。乾燥工程では、混合物中に含まれる溶剤を除去する。また、プロトン供与体の少なくとも一部を乾燥工程において除去してもよい。乾燥工程は、加熱することなく常温で行ってもよく、加熱しながら行ってもよい。乾燥工程における乾燥温度は、エポキシ樹脂とフェノール樹脂との反応を進めず、残存揮発分を低減する観点から、20~80℃であってもよく、30~80℃であってもよく、40~60℃であってもよい。また、乾燥工程は、残存揮発分を十分に低減する観点から、減圧下で行ってもよい。減圧下で乾燥させる場合、例えば、真空乾燥機を用いることができる。
【0103】
<希土類ボンド磁石の製造方法>
本実施形態の希土類ボンド磁石の製造方法は、上記コンパウンドの製造方法によりコンパウンドを製造する工程と、上記コンパウンドを圧縮成形する成形工程と、を備える。また、本実施形態の希土類ボンド磁石の製造方法は、成形工程で得られた圧縮成形体を熱処理する熱処理工程を更に含んでいてもよい。
【0104】
コンパウンドを圧縮成形する工程(成形工程)では、好ましくは500~2500MPaの圧力で、より好ましくは1400~2000MPaの圧力で、コンパウンドを圧縮成形して、コンパウンドの圧縮成形体を作製する。コンパウンドを圧縮するときの圧力が500~2500MPaであると、希土類ボンド磁石を緻密にでき、実用的な磁気特性を得ることができるとともに、金型の負担を低減できる。圧縮成形体の密度は、希土類磁石粉末の真密度に対して、好ましくは75%以上86%以下、より好ましくは80%以上86%以下である。コンパウンドの圧縮成形体の密度が75%以上86%以下であると、磁気特性が良好で、機械強度が高い希土類ボンド磁石を製造することができる。
【0105】
圧縮成形体を熱処理する工程(熱処理工程)では、好ましくは150~400℃の温度で、より好ましくは175~350℃の温度で圧縮成形体を熱処理する。圧縮成形体を熱処理する温度が150~400℃の温度であると、樹脂組成物が十分に硬化した希土類ボンド磁石を製造することができる。また、熱処理の時間は、好ましくは1分~4時間であり、より好ましくは5分~3時間である。
【0106】
<希土類ボンド磁石>
本実施形態の希土類ボンド磁石は、本実施形態の希土類ボンド磁石の製造方法により製造される。
【0107】
希土類ボンド磁石における、樹脂組成物が硬化して形成した硬化樹脂組成物のガラス転移温度は、好ましくは150℃以上であり、より好ましくは175℃以上であり、さらに好ましくは200℃以上である。希土類ボンド磁石における、樹脂組成物が硬化して形成した硬化樹脂組成物のガラス転移温度が150℃以上であると、耐熱性が優れた希土類ボンド磁石を得ることができる。なお、ガラス転移温度は、例えば、動的粘弾性測定において、tanδがピークになる温度である。
【0108】
50℃における希土類ボンド磁石の弾性率に対する、150℃における希土類ボンド磁石の弾性率の比率は、好ましくは70%以上であり、より好ましくは80%以上であり、さらに好ましくは90%以上である。上記弾性率の比率が70%以上であると、耐熱性が優れた希土類ボンド磁石を得ることができる。なお、弾性率を測定する方法には、三点曲げ試験を50℃及び150℃の温度で測定する方法及び動的粘弾性測定による50℃及び150℃の弾性率を測定する方法等が挙げられる。
【0109】
希土類ボンド磁石の相対密度は、希土類磁石粉末の真密度に対して、好ましくは70%以上であり、より好ましくは80%であり、さらに好ましくは90%以上である。希土類ボンド磁石の相対密度が、希土類磁石粉末の真密度に対して、70%以上であると、優れた磁気特性を有する希土類ボンド磁石を得ることができる。また、希土類ボンド磁石の密度は、希土類磁石粉末の真密度に対して、好ましくは95%以下である。
【0110】
希土類ボンド磁石の120℃の温度における圧壊強度は、好ましくは100MPa以上であり、より好ましくは150MPaであり、さらに好ましくは160MPa以上である。希土類ボンド磁石の120℃の温度における圧壊強度が100MPa以上であると、高温において機械強度の高い希土類ボンド磁石を得ることができる。
【実施例
【0111】
以下、本開示について実施例によってより具体的に説明するが、本開示の範囲は以下に示す実施例によって制限されるものではない。
【0112】
(実施例1)
500mLナス型フラスコに、エポキシ樹脂(サリチルアルデヒド型エポキシ樹脂、商品名:EPPN-502H、日本化薬株式会社製、エポキシ当量:168g/eq)2.45g、フェノール樹脂(ノボラック型フェノール樹脂、商品名:HP-850N、日立化成株式会社製、水酸基当量:108g/eq)1.55g、及び、硬化促進剤(テトラブチルホスホニウム・テトラフェニルボレート、商品名:PX-4PB、北興化学株式会社製)0.118gを計り取り、メチルエチルケトン(MEK、和光純薬株式会社製、商品名)6gに溶解した。溶解後、フラスコに水0.3g(溶剤及びプロトン供与体の総量を基準として4.8質量%)を加えて撹拌した後、NdFeB粉(希土類磁石粉末、日立金属株式会社製)196gをフラスコに投入して30分混合した(混合工程)。その後、エバポレータによりMEK及び水を常温(25℃)で減圧留去した。得られた混合物をバット上に広げ、真空乾燥機中、常温(25℃)で24時間乾燥した。得られた乾燥品を解砕し、希土類磁石粉末の含有量(占積率)が98質量%であるコンパウンドを得た。
【0113】
(実施例2~3)
混合工程で加えた水の量を表1に示す量に変更したこと以外は実施例1と同様にして、コンパウンドを得た。
【0114】
(実施例4)
エポキシ樹脂としてビフェニル型エポキシ樹脂(商品名:YX-4000H、三菱ケミカル株式会社製、エポキシ当量:192g/eq)を用いたこと以外は実施例1と同様にして、コンパウンドを得た。
【0115】
(比較例1)
混合工程において水0.3gを加えなかったこと以外は実施例1と同様にして、コンパウンドを得た。
【0116】
(比較例2~3)
混合工程で加えた水の量を表1に示す量に変更したこと以外は実施例1と同様にして、コンパウンドを得た。但し、比較例3では、樹脂が析出して均一なコンパウンドが得られず、希土類ボンド磁石の作製が困難であった。
【0117】
<希土類ボンド磁石の作製>
実施例及び比較例で得られたコンパウンドを所定の金型に充填し、油圧プレス機により成形圧力2000MPaで成形し、直径11.3mm、高さ8mmの円柱状の成形体を作製した。その後、成形体に対し、乾燥機中200℃の温度で10分間の熱処理を施して、コンパウンド中の樹脂組成物を硬化させ、希土類ボンド磁石(円柱状試験片)を作製した。得られた希土類ボンド磁石は、いずれの実施例及び比較例でも同等の磁束密度及び保磁力を有していた。
【0118】
<圧壊強度の測定>
万能圧縮試験機(株式会社島津製作所製、AG-10TBR)を用いて、大気中でクロスヘッド速度0.5mm/分で、円柱状試験片の高さ方向から圧縮圧力を印加し、円柱状試験片が破壊した時の圧縮圧力の最大値を圧壊強度(MPa)とした。圧壊強度の測定は、室温(25℃)状態、及び、恒温槽中で120℃で10分間加熱した状態の円柱状試験片を用いて行った。結果を表1に示す。
【0119】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0120】
本開示に係る希土類ボンド磁石用コンパウンドの製造方法によれば、優れた機械強度を有する希土類ボンド磁石を製造可能な希土類ボンド磁石用コンパウンドを得ることができ、その工業的価値は高い。