(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-11
(45)【発行日】2023-09-20
(54)【発明の名称】表面修飾磁性粒子及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
G01N 33/543 20060101AFI20230912BHJP
G01N 33/553 20060101ALI20230912BHJP
【FI】
G01N33/543 541A
G01N33/543 525U
G01N33/543 525W
G01N33/543 525G
G01N33/553
(21)【出願番号】P 2019151238
(22)【出願日】2019-08-21
【審査請求日】2022-07-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(72)【発明者】
【氏名】井上 洋
(72)【発明者】
【氏名】近藤 聡
(72)【発明者】
【氏名】常藤 透朗
【審査官】西浦 昌哉
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-112904(JP,A)
【文献】特開2014-156411(JP,A)
【文献】特表2010-504187(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0052664(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48-33/98
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁性粒子表面に、酸性多糖類コート層、ポリアミン架橋層、ポリカルボン酸コート層の順に三層を有することを特徴とする、表面修飾磁性粒子。
【請求項2】
少なくとも下記四工程を含むことを特徴とする、表面修飾磁性粒子の製造方法。
(第一工程)
磁性粒子表面にアミノ基を導入する工程。
(第二工程)
第一工程で得られた磁性粒子に酸性多糖類を吸着もしくは反応させ、磁性粒子表面に酸性多糖類コート層を形成させる工程。
(第三工程)
第二工程で得られた酸性多糖類コート層を有する磁性粒子にポリアミンを吸着もしくは反応させた後架橋させ、磁性粒子表面にポリアミン架橋層を形成させる工程。
(第四工程)
第三工程で得られたポリアミン架橋層を有する磁性粒子にポリカルボン酸を吸着もしくは反応させ、磁性粒子表面にポリカルボン酸コート層を形成させる工程。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面修飾磁性粒子及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、磁性粒子は、抗原と抗体との免疫反応ならびにDNA同士またはDNAとRNAとのハイブリダイゼーションにおいて優れた反応場を提供できることから、診断薬や医薬品研究用途への応用が活発になっている。この分野に用いられる磁性粒子には、高い生体関連物質結合能と非特異吸着抑制能、更に、pHの変動に対する安定性が要求される。
【0003】
上記の要求特性を満足させるため、粒子表面に糖類を導入し、抗体等の生理活性物質の非特異吸着を抑制することが提案されている(例えば、特許文献1,2参照)。しかしながら、これらの方法では、非特異吸着は抑制されるものの、抗体等の生理活性物質の粒子への結合も抑制されてしまい、感度が低下するといった問題や、pH低下時の磁性体の溶出を抑制できないといった問題点を有していた。
【0004】
一方、粒子表面にポリマーブラシを形成し、その末端に反応性官能基を導入することが提案されている(例えば、特許文献3参照)。この方法によると、ポリマーブラシとして親水性ポリマーを選定し、末端にカルボキシル基を導入することで、高い抗体導入量と非特異吸着の抑制が達成されているが、pH低下時の磁性体の溶出抑制が不十分であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2006-321932号公報
【文献】特開2007-145985号公報
【文献】特開2016-57106号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、従来技術では困難であった高い生体関連物質結合能と非特異吸着抑制能、更に、pHの変動に対する安定性が高い表面修飾磁性粒子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するべく鋭意検討を行った結果、磁性粒子表面に酸性多糖類コート層、ポリアミン架橋層、ポリカルボン酸コート層からなる三層を形成することで、高い生体関連物質結合能と非特異吸着抑制能、更に、pHの変動に対する安定性が高い表面修飾磁性粒子が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、
1.磁性粒子表面に、酸性多糖類コート層、ポリアミン架橋層、ポリカルボン酸コート層の順に三層を有することを特徴とする、表面修飾磁性粒子。
2.少なくとも下記四工程を含むことを特徴とする、表面修飾磁性粒子の製造方法。
(第一工程)
磁性粒子表面にアミノ基を導入する工程。
(第二工程)
第一工程で得られた磁性粒子に酸性多糖類を吸着もしくは反応させ、磁性粒子表面に酸性多糖類からなるコート層を形成させる工程。
(第三工程)
第二工程で得られた酸性多糖類コート層を有する磁性粒子にポリアミンを吸着もしくは反応させた後架橋させ、磁性粒子表面にポリアミン架橋層を形成させる工程。
(第四工程)
第三工程で得られたポリアミン架橋層を有する磁性粒子にポリカルボン酸を吸着もしくは反応させ、磁性粒子表面にポリカルボン酸コート層を形成させる工程。
であり、以下、詳細に説明する。
【0009】
本発明でコートされる基材となる磁性粒子としては、様々な粒子を用いることができる。例えば、特開2015-192995号公報に記載されているような、微粒子表面にあるイオン性官能基と、磁性体表面にあり微粒子表面にあるイオン性官能基とは反対の電荷を有するイオン性官能基とを反応させて得られた磁性粒子や、特開2016-184703号公報に記載されているような、酸化鉄等の金属酸化物で被覆された微粒子と、表面にイオン性官能基を有する磁性体とを湿式法にて反応させて得られた磁性粒子が好ましく用いられる。磁性粒子の直径についても特に制約はないが、1~10μm程度が好ましく、特に好ましくは1~5μmである。また、上記の磁性粒子表面にはアミノ基が導入されており、その導入量は50~500μmol/gの範囲が好ましい。
【0010】
本発明の表面修飾磁性粒子は、磁性粒子表面に、酸性多糖類コート層、ポリアミン架橋層、ポリカルボン酸コート層の順に三層を有する。
【0011】
本発明において酸性多糖類コート層とは、酸性官能基を有する多糖類で形成されたコート層であり、タンパク質等の非特異吸着を抑制する機能を担っている。多糖類は非常に親水性が高く疎水部を有していないため、疎水吸着によって引き起こされるタンパク質等の非特異吸着を防止できる。ここで言う酸性官能基とは、カルボキシル基、スルホン酸基、フェノール性水酸基等の酸性を示す官能基であり、多糖類に共有結合を介して導入されている。これらの酸性官能基は、基材である磁性粒子の表面に導入されているアミノ基と、共有結合ないしはイオン結合を介して結合し、酸性多糖類コート層を磁性粒子表面に固定化する役割と、酸性多糖類コート層上に形成されるポリアミン架橋層中のアミノ基と、共有結合ないしはイオン結合を介して結合し、ポリアミン架橋層を酸性多糖類コート層の表面に固定化する役割とを担っている。本発明で用いられる酸性多糖類の若干の例としては、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルデキストラン、カラギナン、ペクチン、アラビアガム、キサンタンガム、ジェランガム、寒天、トラガントガム、アルギン酸、ヒアルロン酸、コンドロイチン硫酸等が挙げられる。酸性多糖類コート層の厚みは、特に制限はないが、5nm~50nmの範囲内で適宜選択できる。コート層厚みが5nm以上であれば、疎水吸着に起因するタンパク質等の非特異吸着を十分に抑制できる。一方、厚みが50nm以下であれば、集磁性に悪影響を及ぼさない。
【0012】
本発明においてポリアミン架橋層とは、ポリアミンをイソシアネート等の架橋剤で架橋させたものであり、クエン酸等の酸成分の磁性粒子への透過を抑制し、磁性体からの鉄溶出を防止する。ポリアミンとはアミノ基が3つ以上結合した直鎖状または分岐状脂肪族ポリマーであり、その若干の例としては、ポリエチレンイミン、ポリアリルアミン、ポリジメチルジアリルアンモニウムクロリドおよびそれらの共重合体等が挙げられる。これらポリアミンが酸性多糖類コート層に吸着ないしはイオン結合ないしは共有結合を介して固定化され、架橋剤で架橋されることでポリアミン架橋層が形成される。ポリアミン架橋層中の架橋部分の構造には特に制限はなく、例えば、架橋剤にイソシアネートを用いた場合には、ウレタン結合を介してポリアミンが架橋される。ポリアミン架橋層の厚みにも特に制限はなく、5nm~20nmの範囲内で適宜選択できる。架橋層厚みが5nm以上であると、酸成分の透過抑制が十分となるため好ましい。一方、厚みが20nm以下であれば、疎水性の増大による疎水吸着の懸念も少なくなるため好ましい。
【0013】
本発明においてポリカルボン酸コート層とは、ポリカルボン酸を含むポリマーで形成されたコート層であり、抗体との結合箇所を提供する機能を担っている。抗体はアミノ基を有しているため、ポリカルボン酸中のカルボキシル基と反応し、アミド結合を介して磁性粒子表面に固定化される。一方、ポリカルボン酸コート層中のカルボキシル基は、ポリアミン架橋層中のアミノ基ともイオン結合もしくは共有結合を介して結合し、ポリカルボン酸コート層を磁性粒子表面に安定的に固定化している。本発明で用いられるポリカルボン酸の若干の例としては、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリイタコン酸、ポリ安息香酸ビニル、ポリフマル酸、ポリマレイン酸、スチレン-無水マレイン酸共重合体、イソブテン-無水マレイン酸共重合体、及びそれらの塩等が挙げられる。ポリカルボン酸コート層の厚みは、特に制限はないが、5nm~20nmの範囲内で適宜選択できる。コート層厚みが5nm以上であると、カルボキシル基導入量が十分であり抗体導入量も低下しないため好ましい。一方、厚みが20nm以下であると、疎水性の増大による疎水吸着の懸念が生じないため好ましい。また、ポリカルボン酸コート層が磁性粒子最外層に導入されるため、磁性粒子表面には5~200μmol/g程度のカルボキシル基が導入されている。
【0014】
次に、本発明の表面修飾磁性粒子の製造方法について説明する。本発明の表面修飾磁性粒子の製造方法の特長は、少なくとも下記四工程を含むことにある。以下、各工程について説明する。
(第一工程)
磁性粒子表面に、アミノ基を導入する工程である。アミノ基の導入方法は、特に限定されないが、磁性粒子にアミノシランを反応させて導入する方法が簡便で好ましい。用いられるアミノシランとしては、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジメトキシシランやこれらの混合物を用いることができる。反応溶媒としては、メタノールやエタノール等のアルコールに水を加えた含水アルコールが好ましく、反応を促進するため、アンモニア等を添加しても良い。反応条件は幅広く設定可能で、反応温度は室温~80℃、反応時間は1時間~24時間の範囲で任意に設定できる。磁性粒子に導入されたアミノ基量は、基材である磁性粒子の表面積によっても異なるが、50~500μmol/g程度を導入することができる。
(第二工程)
第一工程で得られた磁性粒子に酸性多糖類を吸着もしくは反応させ、磁性粒子表面に酸性多糖類からなるコート層を形成させる工程である。磁性粒子表面のアミノ基と酸性多糖類中のカルボキシル基を反応させ、アミド結合を介して酸性多糖類を磁性粒子表面に固定化する反応では、縮合剤を用いることが好ましい。用いられる縮合剤としては、N,N-ジシクロヘキシルカルボジイミド、N,N-ジイソプロピルカルボジイミド、1-[3-(ジメチルアミノ)プロピル]-3-エチルカルボジイミド(以下EDCと略す)、EDC塩酸塩(以下EDC・HCLと略す)等のカルボジイミド系縮合剤;N,N’-カルボニルジイミダゾール、1,1’-カルボニルジ(1,2,4-トリアゾール)等のイミダゾール系縮合剤;4(4,6-ジメトキシ-1,3,5-トリアジン-2-イル)-4-メチルモルホリニウムクロリド(以下DMT-MMと略す)等のトリアジン系縮合剤;1H-ベンゾトリアゾール-1-イルオキシトリス(ジメチルアミノ)ホスホニウムヘキサフルオロリン酸塩、1H-ベンゾトリアゾール-1-イルオキシトリピロリジノホスホニウムヘキサフルオロリン酸塩等のホスホニウム系縮合剤;O-(ベンゾトリアゾール-1-イル)-N,N,N’,N’-テトラメチルウロニウムヘキサフルオロリン酸塩、O-(7-アザベンゾトリアゾール-1-イル)-N,N,N’,N’-テトラメチルウロニウムヘキサフルオロリン酸塩等のウロニウム系縮合剤等が挙げられる。縮合剤を用いる場合、縮合剤とカルボキシル基との反応で生成するアシルイソウレア等の活性中間体は不安定で加水分解等により副反応が進行しやすいため、N-ヒドロキシスクシンイミドを併用することが好ましい。N-ヒドロキシスクシンイミド(以下、NHSと略す)はアシルイソウレアと反応し、活性中間体をより安定なNHSエステルに変換できるため、収率向上に寄与する。用いられる溶媒は、酸性多糖類が溶解する水が好ましく、反応時のpH変化を抑制できる緩衝液が特に好ましい。反応条件に制約はないが、10~60℃で5~24時間反応させることが好ましい。
(第三工程)
第二工程で得られた酸性多糖類コート層を有する磁性粒子にポリアミンを吸着もしくは反応させた後架橋させ、磁性粒子表面にポリアミン架橋層を形成させる工程である。ポリアミン架橋層は、ポリアミンを酸性多糖類コート磁性粒子表面に水層中で吸着させ、架橋剤を油層側に溶解させ、(水/油)界面で架橋反応を行って、ポリアミン架橋薄膜を磁性粒子表面に形成させる。乳化剤に油溶性乳化剤を用い、w/oエマルションを生成させることで、架橋密度の高いポリアミン架橋薄膜が形成できる。本工程で用いられる架橋剤としては、ポリイソシアネートが好ましく用いられる。その理由は、ポリイソシアネートが高い反応性と水に対する安定性を兼備しているためである。本発明で用いられるポリイソシアネートの例としては、トルエンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、ペンタメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート等が挙げられる。本工程で用いられる乳化剤は油溶性乳化剤であり、HLBが3~6を示す。若干の具体例としては、ソルビタンモノオレエート、ソルビタントリオレエート、ソルビタンモノステアレート、ソルビタントリステアレート、ソルビタンモノパルミテート等が挙げられる。反応は低温・短時間で進行し、反応温度としては0℃~室温、反応時間は5~30分程度で十分である。
(第四工程)
第三工程で得られたポリアミン架橋層を有する磁性粒子にポリカルボン酸を吸着もしくは反応させ、磁性粒子表面にポリカルボン酸コート層を形成させる工程である。ポリカルボン酸コート層を磁性粒子表面に安定的に保持するためには、ポリアミン架橋層中のアミノ基とポリカルボン酸中のカルボキシル基を反応させ、アミド結合により両者を結合・固定化することが好ましい。この反応は第二工程の反応と同様であり、縮合剤を用いることが好ましい。用いられる縮合剤は第二工程で用いられたものと同様であり、反応条件も同様である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、高い生体関連物質結合能と非特異吸着抑制能、更に、pHの変動に対する安定性が高い表面修飾磁性粒子を提供することができる。
【0016】
本発明の表面修飾磁性粒子は、高い生体関連物質結合能と非特異吸着抑制能、更に、pHの変動に対する高い安定性を示すため、診断薬用担体や医薬品研究用途分野に応用でき、実用性に優れたものである。
【実施例】
【0017】
以下に、本発明を更に詳細に実施例に基づき説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0018】
実施例1
(第一工程)磁性粒子表面へのアミノ基の導入
特開2015-192995号公報に記載されている方法で製造した磁性粒子(平均粒径2.5μm、鉄含有量22%)0.5gをエタノール10gに分散させ、3-アミノプロピルトリメトキシシラン0.3gを添加し、室温で5分間撹拌した。次いで28%アンモニア水85μL、純水31μLを添加し、密封下60℃で3時間反応した。反応終了後、集磁により磁性粒子を回収し、エタノールで洗浄した後、減圧乾燥して単離した。
【0019】
導入されたアミノ基の定量は、先行文献(今田清久 日本化学会誌 407(1990))の方法に従って定量した。アミノ基導入前の磁性粒子のアミノ基量は30μmol/gであったのに対し、導入後のアミノ基量は185μmol/gであった。
【0020】
(第二工程)酸性多糖類コート層の形成
酸性多糖類としてアルギン酸を用い、以下の方法でコート層を形成した。アルギン酸ナトリウム(I-3G、株式会社キミカ製)1.0gをMESバッファ100mlに溶解させ、次いでEDC・HCL0.96gとN-ヒドロキシスクシンイミド0.58gを添加し、溶解させた。更に、上記アミノ基導入磁性粒子0.2gを純水20mlに分散させたスラリーを徐々に添加し、室温にて一夜反応を行った。反応終了後、集磁により磁性粒子を回収し、純水で洗浄した。この粒子のゼータ電位を測定したところ、-40.7mVとマイナスの値を示しており、磁性粒子表面にアルギン酸コート層が形成されていることを確認した。一方、酸性多糖類コート層形成後のアミノ基量は60μmol/gに減少しており、磁性粒子表面のアミノ基とアルギン酸ナトリウムが反応し、酸性多糖類コート層が形成されていることが確認できた。
【0021】
(第三工程)ポリアミン架橋層の形成
上記アルギン酸コート磁性粒子をポリエチレンイミン(分子量70000、和光純薬製)4%水溶液120mlに分散させ室温にて30分間撹拌後、集磁して磁性粒子を回収した。Span85 5mlをn-ヘキサン100mlに溶解させ、上記の集磁・回収した磁性粒子を添加・分散させた後5℃に冷却し、トルエンジイソシアネート0.25gをn-ヘキサン50mlに溶解させた溶液を滴下し、更に30分間撹拌・反応させた。反応終了後、エタノール、純水で順次洗浄し、単離した。上記と同様の方法(今田清久 日本化学会誌 407(1990))で測定したアミノ基導入量は270μmol/gであり、ポリアミン架橋層が形成されていることが確認できた。
【0022】
(第四工程)ポリカルボン酸コート層の形成
ポリアクリル酸(平均分子量約5,000、和光純薬製)0.36gをMESバッファ100mlに溶解させ、更にDMT-MM2.77gを加えて室温で撹拌し、均一溶液とした。そこに、上記工程で得られたポリアミン架橋層導入磁性粒子0.1gを純水20mlに分散させたスラリーとして添加し、室温にて一夜反応させた。反応終了後、純水で洗浄し、単離した。導入されたカルボキシル基の定量は、先行文献(Bing Yan et al.,Anal.Chem.71,4564(1999))の方法に従って定量した。導入されたカルボキシル基量は17μmol/gであり、磁性粒子最表層にポリカルボン酸コート層が形成されていることを確認した。
【0023】
表面修飾磁性粒子の評価;磁気応答性
下記方法で表面修飾磁性粒子の磁気応答性を評価した。
【0024】
上記方法で得られた表面修飾磁性粒子5mgを純水10mlに分散させた後、2mlをセルに分取した。磁石を装着した吸光光度計にセルをセットし、波長550nmにて2秒毎に吸光度を測定し、吸光度が初期吸光度の1/10となるまでの時間(集磁時間)を測定した。集磁時間は79秒であり、良好な磁気応答性を示した。
【0025】
表面修飾磁性粒子の評価;クエン酸溶出試験
pH変動に対する耐久性を評価するため、以下の方法でクエン酸溶出試験を行った。
【0026】
エッペンドルフマイクロチューブに上記方法で得られた表面修飾磁性粒子10mgを分取し、0.1Mクエン酸溶液1mlを加え、ミックスローターにて37℃で17時間撹拌した。撹拌終了後、磁性粒子を集磁・除去し、溶液部分をセルに移し、波長460nmにて吸光度を測定した。吸光度は0.023でクエン酸による磁性体の溶出はほとんど認められなかった。
【0027】
実施例2
第四工程において、平均分子量5,000のポリアクリル酸に代えて平均分子量25,000のポリアクリル酸(和光純薬製)を用いたことを除いて、実施例1と同様の操作を行い、表面修飾磁性粒子を得た。磁性粒子表面に導入されたカルボキシル基量は33μmol/gであった。集磁時間は54秒であり、良好な磁気応答性を示した。また、クエン酸溶出試験における吸光度は0.019であり、クエン酸による磁性体の溶出は認められなかった。
【0028】
実施例3
第三工程において、架橋剤としてトルエンジイソシアネートに代えてヘキサメチレンジイソシアネートを用いたことと、平均分子量5,000のポリアクリル酸に代えて平均分子量25,000のポリアクリル酸(和光純薬製)を用いたことを除いて、実施例1と同様の操作を行い、表面修飾磁性粒子を得た。ポリアミン架橋層形成後のアミノ基量は450μmol/g、ポリカルボン酸コート層形成後の表面カルボキシル基量は86μmol/gであった。集磁時間は68秒であり、良好な磁気応答性を示した。また、クエン酸溶出試験における吸光度は0.012であり、クエン酸による磁性体の溶出は認められなかった。
【0029】
比較例1
実施例で用いた出発原料である未コートの磁性粒子について、集磁性評価とクエン酸溶出試験を行った。集磁時間は97秒であり、良好な磁気応答性を示したが、クエン酸溶出試験における吸光度は0.050であり、クエン酸による磁性体の溶出が認められた。表面修飾を行わないと、クエン酸が磁性体と接触し、磁性体が溶出してしまうことがわかる。
【0030】
比較例2
磁性粒子へのアミノ基導入反応と酸性多糖類コート層の形成までは実施例1と同様の方法で行ったが、ポリアミン架橋層とポリカルボン酸コート層は形成せずに集磁性評価とクエン酸溶出試験を行った。集磁時間は97秒であり、良好な磁気応答性を示したが、クエン酸溶出試験における吸光度は0.052であり、クエン酸による磁性体の溶出が認められた。酸性多糖類コート層のみではクエン酸の磁性粒子への透過・拡散が阻止できず、磁性体とクエン酸が接触し、磁性体が溶出してしまうことがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明の表面修飾磁性粒子は、高い生体関連物質結合能と非特異吸着抑制能、更に、pHの変動に対する高い安定性を示すため、診断薬用担体等の生化学用担体、特に自動診断システム用診断薬用担体に応用できる。