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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-11
(45)【発行日】2023-09-20
(54)【発明の名称】光学素子及び指紋検出装置
(51)【国際特許分類】
   G06V 40/13 20220101AFI20230912BHJP
   G02B 1/115 20150101ALI20230912BHJP
   G02B 5/22 20060101ALI20230912BHJP
   H10K 50/10 20230101ALI20230912BHJP
【FI】
G06V40/13
G02B1/115
G02B5/22
H10K50/10
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2019207416
(22)【出願日】2019-11-15
(65)【公開番号】P2021081878
(43)【公開日】2021-05-27
【審査請求日】2022-08-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】中山 元志
(72)【発明者】
【氏名】塩野 和彦
(72)【発明者】
【氏名】島田 拓郎
(72)【発明者】
【氏名】折田 雄一朗
【審査官】粕谷 満成
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/043166(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/189072(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06V 40/13
G02B 1/115
G02B 5/22
H10K 50/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材及び前記基材の少なくとも一方の主面上に波長600~800nmに吸収極大を持つ色素層を有する樹脂層と、前記樹脂層の両主面上に形成された反射率調整膜と、を備え、
下記(1)及び(2)を満たす、光学素子。
(1)前記反射率調整膜の波長700~850nmにおける垂直入射反射率の最大値(R1max700~850nm)が、共に98%以下である。
(2)前記反射率調整膜の波長700~850nmにおける垂直入射反射率の平均値(R1avg700~850nm)が高い側の面において、前記光学素子の波長700~850nmにおける垂直入射反射率の平均値(R2avg700~850nm)に対して、(100-R2avg700~850nm)で表される値が3~70%である。
【請求項2】
前記反射率調整膜の前記波長700~850nmにおける垂直入射反射率の平均値(R1avg700~850nm)が、共に95%以下である、請求項1に記載の光学素子。
【請求項3】
前記反射率調整膜の波長350~400nmにおける垂直入射反射率の最大値(R1max350~400nm)が、共に60%以下である、請求項1又は2に記載の光学素子。
【請求項4】
前記反射率調整膜のうち少なくとも一方は、波長500~1000nmにおける垂直入射反射率の最大値と最小値の半値が波長580~700nmの範囲内にある、請求項1~3のいずれか1項に記載の光学素子。
【請求項5】
前記反射率調整膜のうち少なくとも一方は、波長500~580nmにおける垂直入射反射率の平均値(R1avg500~580nm)が4%以下の反射防止膜である、請求項1~4のいずれか1項に記載の光学素子。
【請求項6】
前記反射率調整膜のうち少なくとも一方は多層膜であり、前記反射率調整膜の両方の層数の合計が20層以下である、請求項1~5のいずれか1項に記載の光学素子。
【請求項7】
前記多層膜が、SiO、Al、ZrO、MgF、TiO、Ta、Nb、及びLaからなる群より選ばれる2種以上の誘電体膜から構成される誘電体多層膜である、請求項6に記載の光学素子。
【請求項8】
前記反射率調整膜のうち少なくとも一方はエネルギー硬化性樹脂の膜である、請求項1~7のいずれか1項に記載の光学素子。
【請求項9】
前記樹脂層の色素吸収分光が、下記(i)及び(ii)を満たす、請求項1~8のいずれか1項に記載の光学素子。
(i)波長500~600nmにおける垂直入射透過率の平均値が85%以上である。
(ii)波長700~850nmにおける垂直入射透過率の最大値が35%以下である。
【請求項10】
入射面側に位置する前記反射率調整膜の波長700~850nmにおける垂直入射反射率の平均値(R1avg700~850nm_1)を用いて、-log10(100-R1avg700~850nm_1)で表される反射由来の遮光性能をOD_r1とし、
出射面側に位置する前記反射率調整膜の波長700~850nmにおける垂直入射反射率の平均値(R1avg700~850nm_2)を用いて、-log10(100-R1avg700~850nm_2)で表される反射由来の遮光性能をOD_r2とし、
前記樹脂層の波長700~850nmにおける垂直入射透過率の平均値(T3avg700~850nm)を用いて、-log10(T3avg700~850nm)で表される前記色素層の吸収由来の遮光性能をOD_abとした場合に、
(OD_r1+OD_r2+OD_ab)>1、かつ
(OD_r1+OD_r2)<(2.5×OD_ab)
を満たす、請求項1~9のいずれか1項に記載の光学素子。
【請求項11】
指紋認証に用いられる、請求項1~10のいずれか1項に記載の光学素子。
【請求項12】
請求項11に記載の光学素子と、有機発光素子と、有機薄膜撮像素子と、を備える指紋検出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は光学素子及び前記光学素子を備える指紋検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
スマートフォンのディスプレイ内指紋認証方式の一つとして、光学式指紋認証がある。これは、例えば、有機薄膜撮像素子(CMOS)、近赤外線カットフィルタ、有機発光素子(OLED)が空気層を介してこの順に積層され、その最表面がカバーガラスで覆われた構成となっている。
【0003】
この指紋認証方式では、カバーガラス表面を指圧すると、OLEDから波長500~600nm程度の光が発光され、かかる光が指表面で反射される。この際、指表面の指紋による凹凸で反射率に差が生じ、この差をCMOSにて検知することで、指紋が認証される。
【0004】
しかしながら、例えば屋外で指紋認証を行うと、太陽光等の光のうち、波長600~1000nm程度の領域である近赤外域の光は、指を透過することから、ノイズとなって指紋認証の精度が低下する。そこで、波長600nm以上の光を選択的にカットするために、近赤外線カットフィルタ等の光学素子が使用される。
【0005】
近赤外域の光をカットする方法は、光学素子の表面に形成された誘電体多層膜の反射を用いることが一般的である。
例えば特許文献1では、基材の片面にSiO層とTiO層とが交互に積層されてなる誘電体多層膜(I)を形成し、もう一方の面にSiO層とTiO層とが交互に積層されてなる誘電体多層膜(II)を形成した光学フィルタ―を得ている。これにより、一方の面における誘電体多層膜の反射率を95%超とし、近赤外域の光の透過を抑制している。
また、特許文献2では、透明樹脂よりなる基体の両面にSiO層とTiO層とが交互に積層されてなるものを形成して光学フィルタ―を製造している。この光学フィルタ―では、波長750~1000nmの近赤外域における(両面の)透過率を5%以下とし、近赤外域の光の透過を抑制している。
これら近赤外域の光をカットする従来の光学素子の多くは、特許文献1及び2に記載されているように、カメラ等の撮像装置に備えられることを意図したものが多い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】国際公開第2016-158461号
【文献】特開2006-30944号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
スマートフォン等のディスプレイ内に設置された指紋認証装置では、OLED等の平板素子と光学素子とが対向するように配置される。この場合、平板素子の反射率が高いと、平板素子と光学素子との間で多重反射が発生し、かつ、その多重反射光が、平板素子と光学素子との間で散乱して迷光となる。この多重反射迷光は、指紋認証の際のノイズとなって、指紋認証の精度が低下する要因となり得る。
【0008】
そこで本発明は、近赤外域の光の透過を抑制しつつ、多重反射迷光の発生も抑制した光学素子、及び前記光学素子を備える指紋認証装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様に係る光学素子は、基材及び前記基材の少なくとも一方の主面上に波長600~800nmに吸収極大を持つ色素層を有する樹脂層と、前記樹脂層の両主面上に形成された反射率調整膜と、を備え、下記(1)及び(2)を満たす。
(1)前記反射率調整膜の波長700~850nmにおける垂直入射反射率の最大値(R1max700~850nm)が、共に98%以下である。
(2)前記反射率調整膜の波長700~850nmにおける垂直入射反射率の平均値(R1avg700~850nm)が高い側の面において、前記光学素子の波長700~850nmにおける垂直入射反射率の平均値(R2avg700~850nm)に対して、(100-R2avg700~850nm)で表される値が3~70%である。
【0010】
また、本発明の一態様に係る指紋検出装置は、指紋認証に用いられる前記光学素子と、有機発光素子と、有機薄膜撮像素子と、を備えるものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る光学素子は、近赤外域の光に対して、反射のみならず色素層による吸収によって、透過を抑制する。そのため、多重反射迷光の発生が抑制され、スマートフォン等の指紋認証として用いた際に、指紋認証精度を高く保つことができる。そのため、本発明は、指紋認証精度に優れた指紋検出装置をも提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、本実施形態に係る光学素子の構成の一態様を示す概略模式断面図である。
図2図2は、例1~例7の光学素子における色素層の透過スペクトルである。
図3図3は、例8の光学素子における色素層の透過スペクトルである。
図4図4は、例1~例8及び例10の光学素子における反射率調整膜の反射スペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、任意に変形して実施できる。
本明細書において、反射率、透過率とは、それぞれ垂直入射反射率、垂直入射透過率を意味する。すなわち、光の入射角が0°の垂直入射の場合の値を意味するものであり、偏光特性を加味しない値を示す。また透過率とは内部透過率のことを指し、内部透過率=透過率/(100%-反射率)で表される値を意味する。また、数値範囲を示す「~」とは、その前後に記載された数値を下限値及び上限値として含む意味で使用される。
【0014】
[光学素子]
本実施形態に係る光学素子1は、図1に示すように、基材1及び前記基材1の少なくとも一方の主面上に波長600~800nmに吸収極大を持つ色素層2を有する樹脂層10と、前記樹脂層10の両主面上に形成された反射率調整膜20と、を備える。
ここで反射率調整膜20は下記(1)を、光学素子1は下記(2)をそれぞれ満たす。
(1)反射率調整膜20の波長700~850nmにおける垂直入射反射率の最大値(R1max700~850nm)が、共に98%以下である。
(2)反射率調整膜20の波長700~850nmにおける垂直入射反射率の平均値(R1avg700~850nm)が高い側の面において、光学素子1の波長700~850nmにおける垂直入射反射率の平均値(R2avg700~850nm)に対して、(100-R2avg700~850nm)で表される値が3~70%である。
【0015】
(樹脂層)
樹脂層10は、基材1及び基材1の少なくとも一方の主面上に波長600~800nmに吸収極大を持つ色素層2を有する。
【0016】
基材1は、有機発光素子(OLED)からの光に対する垂直入射透過率の平均値が高い基材であればよく、例えば、波長500~600nmにおける透過率の平均値が高い基材が好ましく、かかる透過率の平均値は95%以上が好ましく、99%以上がより好ましい。
また、光による黄変等の抑制の観点から、可視光の光を透過する透明基材が好ましく、例えば、波長350~500nmにおける垂直入射透過率の平均値が高い透明基材がより好ましく、かかる透過率の平均値は90%以上がさらに好ましい。
【0017】
基材は樹脂基材でもガラス基材でもよいが、割れにくい、軽量である、曲げた形状での使用も可能である、外形形状の加工が容易である、の点から樹脂基材が好ましい。
樹脂基材には、従来公知の樹脂を使用できる。例えば、ノルボルネン樹脂等のシクロオレフィンポリマー(COP)またはシクロオレフィンコポリマー(COC);ポリイミド樹脂(PI);ポリアミド樹脂;ポリカーボネート樹脂(PC);ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル樹脂;ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン酢酸ビニル共重合体等のポリオレフィン樹脂;ポリアクリレート、ポリメチルメタクリレート等のアクリル樹脂;エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、塩化ビニル樹脂;フッ素樹脂;ポリビニルブチラール樹脂;ポリビニルアルコール樹脂が挙げられる。
中でも、シクロオレフィンポリマー、シクロオレフィンコポリマー、ポリイミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル樹脂、からなる群より選ばれる少なくとも1種から選ばれる基材であることが好ましい。
【0018】
樹脂基材には、主成分となる樹脂の他、必要に応じて、他の樹脂や、密着性付与剤、レベリング剤、帯電防止剤、熱安定剤、光安定剤、酸化防止剤、分散剤、難燃剤、滑剤、可塑剤等の任意成分を含有してもよい。
【0019】
ガラス基材には、従来公知のガラスを使用できる。例えば、フツリン酸塩系ガラスやリン酸塩系ガラス等にCuO等を添加した吸収型のガラス(近赤外線吸収ガラス)、ソーダライムガラス、ホウケイ酸ガラス、無アルカリガラス、石英ガラスを使用できる。中でも、赤外線吸収フィルタとして使用されているフツリン酸塩系ガラスやリン酸塩系ガラス等にCuO等を添加した吸収型のガラス(近赤外線吸収ガラス)、もしくは光学用途として使用されることが多いホウケイ酸ガラス、石英ガラスから選ばれる基材であることが好ましい。
なお、「リン酸塩ガラス」には、ガラスの骨格の一部がSiOで構成されるケイリン酸塩ガラスも含む。また、CuOを添加した上記吸収型のガラスには2価のCuイオンが含まれる。
【0020】
基材は製造してもよいし、市販されているガラスフィルムや樹脂フィルムを用いてもよい。基材を製造する場合には、公知の製造方法を適用できる。
例えば、樹脂基材を製造する場合には、主成分となる樹脂と任意成分の混合物を溶融押出してフィルム状に成形して製造できる。
また、基材の主成分となる樹脂を、必要に応じて任意成分と共に溶媒または分散媒に溶解または分散させて調製した塗工液を、基材作製用の剥離性の基材に所望の厚さに塗工、乾燥させ、必要に応じて硬化させた後に、基材を前記剥離性の基材から剥離して製造できる。なお、塗工液は、微小な泡によるボイド、異物等の付着による凹み、乾燥工程でのはじき等の改善のため界面活性剤を含んでもよい。
塗工液を塗工する際には、例えば、浸漬コーティング法、キャストコーティング法、ダイコート法またはスピンコート法を使用できる。
【0021】
基材の厚さは、色素層形成、反射率調整層形成時の取り扱いやすさの点から10μm以上が好ましく、20μm以上がより好ましい。また、薄型化の点から、基板の厚さは100mm以下が好ましく、50mm以下がより好ましい。
【0022】
色素層2は、基材1の少なくとも一方の主面上に形成され、波長600~800nmに吸収極大を持つ。色素層は基材の両主面上に形成されることが反り抑制の点から好ましい。基材の両主面上に色素層を備える場合、両面の色素層は、同じ構成であっても異なる構成であってもよい。また、色素層は同一主面上に2層以上を積層した多層構造としてもよい。また、基材1の少なくとも一方の主面上に色素層2を形成し、もう一方の主面上に色素化合物を溶解または分散する樹脂の色素を含まない層を形成してもよい。
【0023】
色素層で波長600~800nmの領域の光を吸収することで、反射率調整膜表面での反射率を小さくしても、光学素子全体として近赤外域の光の透過を抑制できる。そのため、光学素子をOLED等の平板素子と対向させても、多重反射が起こりにくく、多重反射迷光の発生が抑制される。
【0024】
色素層は、波長600~800nmに吸収極大を持てば特に色素の種類には限定されず、色素層を構成する色素の数も任意である。例えば、波長600~750nmに吸収極大を持つ色素化合物を用いてもよいし、波長750~800nmに吸収極大を持つ色素化合物を用いてもよいし、それら色素化合物を併用してもよい。さらには、例えば波長800~1000nm等、他の波長域に吸収極大を持つ色素化合物をさらに併用してもよい。
これら色素化合物を適切に組み合わせることで、所望する光学特性を有する色素層を設計することができる。
【0025】
色素化合物は、従来公知の化合物を使用できる。具体的には、ポリメチン骨格を伸ばしたシアニン色素、アルミニウムや亜鉛を中心に持つフタロシアニン色素、ナフタロシアニン化合物、平面四配位構造を有するニッケルジチオレン錯体、スクアリリウム色素、キノン系化合物、ジインモニウム化合物、アゾ化合物、イモニウム色素、ジケトピロロピロール色素、クロコニウム色素等が挙げられる。
中でも、波長600~750nmに吸収極大を持つ色素化合物として、スクアリリウム色素やシアニン色素、フタロシアニン色素等が挙げられる。
波長750~800nmに吸収極大を持つ色素化合物として、スクアリリウム色素やシアニン色素、フタロシアニン色素、ジケトピロロピロール色素、クロコニウム色素等が挙げられる。
波長800~1000nmに吸収極大を持つ色素化合物として、スクアリリウム色素やシアニン色素、イモニウム色素、ジインモニウム色素、クロコニウム色素、フタロシアニン色素等が挙げられる。
【0026】
色素層は、これら色素化合物を樹脂中に均一に溶解または分散した層である。色素化合物を溶解または分散する樹脂は、例えば、先述した基材を構成する樹脂を使用できる。
色素層は、色素化合物以外の吸収剤をさらに含有していてもよい。例えば、UV吸収剤や密着性付与剤、色調補正色素、レベリング剤、帯電防止剤、熱安定剤、光安定剤、酸化防止剤、分散剤、難燃剤、滑剤、可塑剤の任意成分が挙げられる。
【0027】
色素層の製造には、公知の製造方法を適用できる。
例えば、1種または2種以上の色素化合物と、前記色素化合物を溶解または分散する樹脂と、必要に応じて任意成分との混合物を押出成形することで、フィルム状に成形された色素層が得られる。得られたフィルム状の色素層を基材の主表面上に積層し、熱圧着等により一体化することで、樹脂層が得られる。
【0028】
また、1種または2種以上の色素化合物と、前記色素化合物を溶解または分散する樹脂と、必要に応じて任意成分とを、溶媒または分散媒に溶解または分散させて調製した塗工液を、基材の主表面上に塗工、乾燥させ、必要に応じて硬化させることでも色素層を含む樹脂層を形成できる。上記基材が剥離性の基材の場合には、当該剥離性の基材から色素層を剥離した後、樹脂層の基材の主表面上に圧着等で一体化させることで、樹脂層が得られる。
なお、塗工液は、微小な泡によるボイド、異物等の付着による凹み、乾燥工程でのはじき等の改善のため界面活性剤を含んでもよい。塗工液を塗工する際には、例えば、浸漬コーティング法、キャストコーティング法、ダイコート法、インクジェットコート法、グラビアコート法、またはスピンコート法を使用できる。
【0029】
色素層の厚さは、塗工膜厚の安定性の点から0.3μm以上が好ましく、0.5μm以上がより好ましく0.8μm以上がより好ましい。また、乾燥後の残留溶媒の抑制の点から、色素層の厚さは30μm以下が好ましく、20μm以下がより好ましく、10μm以下がより好ましい。
【0030】
上記基材と色素層とを有する樹脂層の色素吸収分光は、下記(i)及び(ii)の少なくともいずれか一方を満たすことが好ましく、両方を満たすことがより好ましい。
(i)波長500~600nmにおける垂直入射透過率の平均値が85%以上である。
(ii)波長700~850nmにおける垂直入射透過率の最大値が35%以下である。
【0031】
上記(i)を満たせば、指紋認証に用いられるOLEDより発光された光が色素層によって遮られることなく、十分に樹脂層を透過する。かかる透過率の平均値は90%以上がより好ましく、93%以上がさらに好ましい。上限は高いほど好ましいため特に限定されないが、通常99%以下となる。
【0032】
上記(ii)を満たせば、指紋認証時のノイズとなる指を透過する波長域の光が、色素層により十分に吸収される。すなわち、色素層の吸収由来の遮光性能が非常に良好であることを意味する。かかる透過率の最大値は30%以下がより好ましく、15%以下がさらに好ましい。下限は低いほど好ましいため特に限定されないが、通常0.1%以上となる。
【0033】
(反射率調整膜)
樹脂層の両主面上には、反射率を調整する機能を有する反射率調整膜が形成される。両反射率調整膜の波長700~850nmにおける垂直入射反射率の最大値(R1max700~850nm)は共に98%以下である。
【0034】
反射率を調整する機能とは、膜を構成する材料や、多層膜である場合にはその積層する態様によって、波長域選択性を付与したり、反射率または透過率を所望の値にできることを意味する。
具体的には、特定の波長領域を反射する反射膜や、特定の波長領域の反射を防止する反射防止膜、反射と透過に光量を振り分けるハーフミラーや偏光膜等が挙げられる。より具体的には、赤外線反射膜(赤外線カットフィルタ)、紫外線反射膜(紫外線カットフィルタ)、可視光バンドパスフィルタ、可視光反射防止膜、高反射膜等が挙げられる。
【0035】
両反射率調整膜の構成は、同一でも異なっていてもよい。
反射率調整膜は従来公知の構成を適用できる。例えば、単層の膜でも、2層以上積層した多層膜でもよい。また、無機材料の誘電体膜でもよく、有機材料のエネルギー硬化性樹脂の膜でもよい。
【0036】
反射率調整膜のうち少なくとも一方が多層膜である場合、反射率調整膜の両方の層数の合計は、コストや基材の反り防止等の点から、20層以下が好ましく、15層以下がより好ましく、10層以下がさらに好ましい。本実施形態においては、反射率調整膜の層数の合計が20層以下となることでR1max700~850nmの値が小さくなっても、色素層における吸収により近赤外域の光の透過を抑制できるため、光学素子としての機能が十分に発揮される。
反射率調整膜の一方あたりの層数は10層以下が好ましく、7層以下がより好ましく、5層以下がさらに好ましい。
【0037】
反射率調整膜を多層膜とする場合、異なる2種以上の膜を繰り返し積層すると、所望する光学特性が得られる。例えば、低屈折率材料を用いた膜(低屈折率膜)と高屈折率材料を用いた膜(高屈折率膜)とを交互に積層することで、反射膜や反射防止膜が得られる。また、中間屈折率材料を用いた膜も反射防止膜等に好適に用いられる。
【0038】
反射率調整膜が無機材料の誘電体膜から構成される多層膜である場合、無機材料としては、SiO、NaAl14、NaAlF、MgF、CaF、ZrO、Al、LaF、CF、MgO、Y、TiO、Ta、Nb、La、ZnS、ZnSe、CeO、LaTiO、SiON、SiN、HfO等が挙げられる。中でも、SiO、Al、ZrO、MgF、TiO、Ta、Nb及びLaからなる群より選ばれる2種以上の誘電体膜から構成される誘電体多層膜が好ましい。
【0039】
誘電体多層膜は、屈折率差を一定以上有する組を選択することが、反射率調整膜に付与する光学特性の点から好ましい。上記材料の中では、例えばSiO及びTiOを含む2種以上の誘電体膜から誘電体多層膜が構成されることが好ましく、SiO及びTiOの誘電体膜を交互に積層した誘電体多層膜がより好ましい。
【0040】
誘電体膜または誘電体多層膜は、樹脂層に対して、例えば、CVD法、スパッタリング法、真空蒸着法の真空成膜プロセスを用いて成膜することが一般的である。
【0041】
反射率調整膜は、無機材料のみならず、有機材料の膜でもよく、例えばエネルギー硬化性樹脂の膜が挙げられる。エネルギー硬化性樹脂の膜とは、可視光、紫外線、赤外線、高周波などの光エネルギーや熱エネルギーにより硬化する樹脂の膜である。
エネルギー硬化性樹脂の膜は、樹脂の膜でもよく、樹脂にSiO、TiO、ZrO等の無機材料等を加えて屈折率等を調整した膜でもよい。また、単層膜でも積層膜でもよい。
【0042】
エネルギー硬化性樹脂を構成する樹脂は、従来公知のものを適用できる。例えばアクリル樹脂、メタクリル樹脂、エポキシ樹脂、エンチオール樹脂が挙げられる。
【0043】
このようなエネルギー硬化性樹脂の膜は、主成分となる樹脂を、必要に応じて任意成分と共に溶媒または分散媒に溶解または分散させて調製した塗工液を、色素層の主面上に所望の厚さに塗工し、乾燥させ、光照射もしくは加熱等のエネルギーを付与することで硬化させて形成できる。
また、上記塗工液を、剥離性の基材に所望の厚さに塗工、乾燥させ、必要に応じて硬化させて膜とした後に、得られた膜を前記剥離性の基材から剥離し、樹脂層の主面上に圧着等で一体化させることで、エネルギー硬化性樹脂の膜を形成してもよい。
なお、塗工液は、微小な泡によるボイド、異物等の付着による凹み、乾燥工程でのはじき等の改善のため界面活性剤を含んでもよい。また塗工液を塗工する際には、例えば、浸漬コーティング法、キャストコーティング法、ダイコート法、インクジェットコート法、グラビアコート法またはスピンコート法を使用できる。
【0044】
反射率調整膜は、下記(1)の光学特性を満たす。
(1)反射率調整膜の波長700~850nmにおける垂直入射反射率の最大値(R1max700~850nm)が、共に98%以下である。
R1max700~850nmの値を従来と比して低くすると、光学素子をOLED等の平板素子と対向させた際の、多重反射の絶対量を小さくできる。
反射率調整膜のR1max700~850nmの値は、90%以下が好ましく、60%以下がより好ましい。一方、光学素子全体での近赤外域の光の透過抑制の点から、R1max700~850nmの値は30%以上が好ましく、50%以上がより好ましい。
【0045】
また、同様の理由により、反射率調整膜の波長700~850nmにおける垂直入射反射率の平均値(R1avg700~850nm)は、両面共に95%以下が好ましく、90%以下がより好ましく、60%以下がさらに好ましい。また、R1avg700~850nmの値は、25%以上が好ましく、45%以上がより好ましい。
かかるR1max700~850nmの値やR1avg700~850nmの値は、反射率調整膜を構成する材料の種類や、積層数、成膜時の条件等により調整できる。なお、成膜時の条件とは、例えば、成膜時の真空度、基材の加熱温度、材料に付与するエネルギーが挙げられる。また、これらの値に限らず、その他の光学特性についても、反射率調整膜を構成する材料の種類や、積層数、成膜時の条件等により調整できる。
【0046】
光学素子をOLEDからの光を使用する指紋認証に用いる場合には、OLEDから紫外線の発光が無い事、OLEDの紫外線透過率が低いため太陽光等の紫外線を既に十分遮光している事から、紫外域の光の透過を抑制せずとも耐久性を損なうことはない。積極的に紫外線領域の反射率を高くするためには反射調整層の層数を増やす必要があり、コストや反り防止の観点から、反射率調整膜の波長350~400nmにおける垂直入射反射率の最大値(R1max350~400nm)は、共に60%以下が好ましく、50%以下がより好ましく、40%以下がさらに好ましい。
【0047】
反射率調整膜のうち少なくとも一方は、波長500~1000nmにおける垂直入射反射率の最大値と最小値の半値が波長580~700nmの範囲内にあることが好ましく、両方の反射率調整膜の前記半値が波長580~700nmの範囲内にあることがより好ましい。これは、前記半値より低波長側の領域の光は透過し、半値より長波長側の領域の光は反射するというカットオフとなる波長が580~700nmの範囲内にあることで、近赤外域の光を選択的に反射することを意味する。
【0048】
光学素子をOLEDからの光を使用する指紋認証に用いる場合、OLEDからの光を検出するため、反射率調整膜のうち少なくとも一方は、波長500~580nmにおける垂直入射反射率の平均値(R1avg500~580nm)が4%以下の反射防止膜であることが好ましく、2%以下がより好ましく、1.5%以下がさらに好ましい。また、両方の反射率調整膜のR1avg500~580nmの値が共に上記範囲を満たすことがより好ましい。
R1avg500~580nmの値は低いほど好ましく、その下限は特に限定されないが、通常0.1%以上である。
【0049】
(光学素子)
光学素子は、前記樹脂層及び前記反射率調整膜の他に、本実施形態の効果を妨げない範囲で、さらに任意の層を備えていてもよい。例えば、樹脂層と反射率調整膜との間に、両者の密着性を向上させる目的でさらにハードコート層を有してもよい。その他に、帯電防止層等を備えることもできる。
【0050】
ハードコート層は、前記樹脂層や反射率調整膜の光学特性を損なわなければ特に限定されず従来公知のものを使用できる。例えば、ガラス転移温度Tgが170℃以上の樹脂の層が、熱や応力による変形が生じにくく、かつ密着性の効果に優れることから好ましい。ガラス転移温度は200℃以上がより好ましく、250℃以上がさらに好ましい。ガラス転移温度の上限は特に限定されないが、成形加工性等の観点から、400℃以下が好ましい。
【0051】
ハードコート層を構成する樹脂として、例えばアクリル樹脂、エポキシ樹脂、エンチオール樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエーテル樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリサルホン樹脂、ポリエーテルサルホン樹脂、ポリパラフェニレン樹脂、ポリアリーレンエーテルフォスフィンオキシド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリシクロオレフィン樹脂、ポリエステル樹脂が挙げられる。中でも、アクリル樹脂、ポリイミド樹脂、エポキシ樹脂が硬度や反射率調整層との密着性の点から好ましい。
【0052】
ハードコート層は、公知の製造方法を適用できる。
例えば、ハードコート層を構成する樹脂と、必要に応じて任意成分との混合物を押出成形によりフィルム状に成形されたハードコート層が得られる。得られたフィルム状のハードコート層を樹脂層の上方に、最外層となるように積層し、熱圧着等により一体化できる。
【0053】
また、ハードコート層を構成する樹脂と、必要に応じて任意成分とを、溶媒または分散媒に溶解または分散させて調製した塗工液を、樹脂層の主表面上に塗工、乾燥させ、必要に応じて硬化させることでもハードコート層を形成できる。また樹脂層の主表面上ではなく、剥離性の基材上に塗工した場合には、当該剥離性の基材からハードコート層を剥離した後、樹脂層の上方に、最外層となるように積層し、圧着等で一体化させることでハードコート層を形成できる。
なお、塗工液は、微小な泡によるボイド、異物等の付着による凹み、乾燥工程でのはじき等の改善のため界面活性剤を含んでもよい。塗工液を塗工する際には、例えば、浸漬コーティング法、キャストコーティング法、ダイコート法、インクジェットコート法、グラビアコート法またはスピンコート法を使用できる。
【0054】
本実施形態に係る光学素子は、下記(2)の光学特性を満たす。なお、光学素子の光学特性は、光学素子を構成する色素層を含む樹脂層や反射率調整膜の構成、それらの組み合わせによって調整できる。
(2)反射率調整膜の波長700~850nmにおける垂直入射反射率の平均値(R1avg700~850nm)が高い側の面において、光学素子の波長700~850nmにおける垂直入射反射率の平均値(R2avg700~850nm)に対して、(100-R2avg700~850nm)で表される値が3~70%である。
【0055】
(100-R2avg700~850nm)で表される値を70%以下とすると、色素層による吸収に加えて、反射率調整膜による反射によって、一定以上、近赤外域の光の透過を抑制することを意味する。(100-R2avg700~850nm)で表される値は60%以下が好ましく、50%以下がより好ましい。
(100-R2avg700~850nm)で表される値を3%以上とすると、反射率調整膜による反射を従来と比して低く抑え、光学素子をOLED等の平板素子と対向させた際の、多重反射の絶対量を小さくできる。(100-R2avg700~850nm)で表される値は10%以上が好ましく、30%以上がより好ましい。
【0056】
また、R1avg700~850nmの値が低い側の面においても同様に、(100-R2avg700~850nm)で表される値が上記範囲を満たすことがより好ましい。
【0057】
光学素子は、OD値で表される光学濃度を用いて、
(OD_r1+OD_r2+OD_ab)>1、かつ
(OD_r1+OD_r2)<(2.5×OD_ab)
の関係を満たすことが好ましい。
OD_r1とは、入射面側に位置する反射率調整膜の波長700~850nmにおける垂直入射反射率の平均値(R1avg700~850nm_1)を用いて、-log10(100-R1avg700~850nm_1)で表される反射由来の遮光性能である。
OD_r2とは、出射面側に位置する反射率調整膜の波長700~850nmにおける垂直入射反射率の平均値(R1avg700~850nm_2)を用いて、-log10(100-R1avg700~850nm_2)で表される反射由来の遮光性能である。
OD_abとは、樹脂層の波長700~850nmにおける垂直入射透過率の平均値(T3avg700~850nm)を用いて、-log10(T3avg700~850nm)で表される色素層の吸収由来の遮光性能である。
【0058】
上記において、OD=αである場合、光の減衰率が(1/10α)であることを意味する。
また、光学素子が、例えば、有機薄膜撮像素子(CMOS)、光学素子、有機発光素子(OLED)の順に空気層を介して積層される場合、光学素子のOLED側が入射面側、CMOS側が出射面側となる。
【0059】
すなわち、(OD_r1+OD_r2+OD_ab)が1超とは、波長700~850nmの領域の光の減衰率が1/10未満であり、かかる光の透過率が10%未満であることを意味する。これにより、近赤外域の光の透過を十分に抑制できる。(OD_r1+OD_r2+OD_ab)の値は1.5以上がより好ましく、2以上がさらに好ましい。
(OD_r1+OD_r2+OD_ab)の値の上限は特に限定されないが、通常4以下である。
【0060】
(OD_r1+OD_r2)<(2.5×OD_ab)とは、波長700~850nm領域の光に対して、反射率調整膜による反射により透過を抑制する光学濃度が、樹脂層の色素層による吸収により透過を抑制する光学濃度の2.5倍未満であることを意味する。これにより、反射率調整膜とOLED等の平板素子との対向による多重反射迷光を十分に抑制できる。(OD_r1+OD_r2)の値はOD_abの値の2倍以下がより好ましく、1倍以下がさらに好ましい。
(OD_r1+OD_r2)の値の下限は、反射率調整膜の反射により波長700~850nmの領域の光の透過をある程度抑制する点から、OD_abの値の0.3倍以上が好ましく、0.5倍以上がより好ましい。
【0061】
本実施形態に係る光学素子は、指紋認証に用いられることが好ましく、特に近赤外域の光が入りやすい屋外で使用される指紋認証に用いられることがより好ましく、スマートフォンにおける指紋認証に用いられることがさらに好ましい。
【0062】
[指紋検出装置]
本実施形態に係る指紋検出装置は、前記[光学素子]に記載の光学素子と、有機発光素子と、有機薄膜撮像素子と、を備えるものである。光学素子の好ましい態様は、上記[光学素子]に記載の好ましい態様と同様である。
有機発光素子と有機薄膜撮像素子は、従来公知のものを適用できる。また、光学素子、有機発光素子及び有機薄膜撮像素子以外の構成も、従来公知の構成であればよい。
【実施例
【0063】
次に、本発明を実施例によりさらに具体的に説明する。以下の各光学特性の測定には、紫外可視分光光度計((株)日立ハイテクノロジーズ社製、U-4100形)を用いた。
【0064】
(例1~例8)
透明のポリイミド樹脂(三菱ガス化学株式会社製、L-3G30、厚さ30μm)を基材とし、その両主面上に厚さ1μmの色素層をそれぞれ成膜して樹脂層を得た。色素層は、下記に示す5種の色素化合物(A)~(E)と、ポリイミド樹脂(三菱ガス化学株式会社製、C-3G30G)とを、シクロヘキサノンとγ―ブチロラクトンの混合液(溶媒または分散媒の名称)に溶解させて塗工液を調製した。これを、基材の主表面上に塗工、乾燥、硬化させることで色素層を形成した。
色素化合物(A)~(E)は、最大吸収波長λmaxが順に707nm、753nm、772nm、809nm、845nmの化合物である。例1~例7の色素層の透過スペクトルを図2に示すが、色素化合物(A)~(E)の添加量の比は、順に2.25:1.2:1.2:2.1:4.2(質量比)である。また、例8の色素層の透過スペクトルを図3に示すが、色素化合物(A)~(E)の添加量の比は、順に1.275:0.66:0.30:1.20:2.10(質量比)である。例1~例7と、例8とは、用いる色素化合物は同じであるが、それらの添加量の違いから透過スペクトルも異なるものである。
得られた樹脂層の両主面上に、SiO及びTiOの誘電体膜を順に積層し、誘電体多層膜の反射率調整膜を形成することで光学素子を得た。反射率調整膜の構成と、各誘電体膜の厚さを表1に示す。
【0065】
【化1】
【0066】
【表1】
【0067】
(例9)
反射率調整膜を形成しなかった以外は、例1と同様にして、基材及び色素層を備える樹脂層の光学素子を得た。色素層の透過スペクトルは、図2に示した例1~7の透過スペクトルと同じである。
(例10)
例1と同様の基材を用い、その主表面に色素層を形成しないものをそのまま樹脂層とした。この樹脂層の両主面上に、SiO及びTiOの誘電体膜を順に積層し、誘電体多層膜の反射率調整膜を形成することで光学素子を得た。反射率調整膜の構成と、各誘電体膜の厚さを表1に示す。
【0068】
例1~例10の光学素子における反射率調整膜の反射スペクトルを図4に示す。
図4中、3L、5L、7L及び9Lとは、それぞれ積層数が3層、5層、7層及び9層の反射率調整膜を意味する。すなわち、3Lとは例1の入射面側、及び例1と例2の出射面側に位置する反射率調整膜の反射スペクトルである。5Lとは例2と例3の入射面側、及び例3と例4の出射面側に位置する反射率調整膜の反射スペクトルである。7Lとは例4と例5と例8の入射面側、及び例5と例6と例8の出射面側に位置する反射率調整膜の反射スペクトルである。9Lとは例6と例7の入射面側、及び例7の出射面側に位置する反射率調整膜の反射スペクトルである。
また、図4中、13L-1とは、積層数が13層である例10の入射面側に位置する反射率調整膜の反射スペクトルである。13L-2とは、積層数が13層である例10の出射面側に位置する反射率調整膜の反射スペクトルである。
【0069】
例1~例10の光学素子における反射率調整膜(入射面側)の光学特性を表2に、反射率調整膜(出射面側)の光学特性を表3に、樹脂層の光学特性を表4に、光学素子の光学特性を表5に、それぞれ示す。なお、例1~例8が実施例であり、例9が参考例、例10が比較例である。
表2において、R1_max700-850nmとは、波長700~850nmにおける垂直入射反射率の最大値を表す。R1_avg700-850nmとは、波長700~850nmにおける垂直入射反射率の平均値を表す。OD_r1とは、波長700~850nmにおける垂直入射反射率の平均値(R1avg700~850nm_1)を用いて、-log10(100-R1avg700~850nm_1)で表される反射由来の遮光性能を意味する光学濃度を表す。R1_max350-400nmとは、波長350~400nmにおける垂直入射反射率の最大値を表す。λ_HM(半値)とは、波長500~1000nmにおける垂直入射反射率の最大値と最小値の半値となる波長(nm)を表す。R1_avg500-580nmとは、波長500~580nmにおける垂直入射反射率の平均値を表す。
表3における各表記は、表2の対応する各表記と同じものを表す。
表4において、Tdye_avg500-600nmとは、樹脂層の波長500~600nmにおける垂直入射透過率の平均値を表す。Tdye_max700-850nmとは、樹脂層の波長700~850nmにおける垂直入射透過率の最大値を表す。OD_abとは、樹脂層の波長700~850nmにおける垂直入射透過率の平均値(T3avg700~850nm)を用いて、-log10(T3avg700~850nm)で表される、色素層の吸収由来の遮光性能を意味する光学濃度を表す。
表5において、OD(A)とは、光学素子単体の遮光性能を示す光学濃度であり、OD(B)とは、実使用に近い構成での遮光性能を示す光学濃度である。実使用に近い構成とは、反射率50%である平板が厚さ0.1mmの空気層を介して対向させた場合の光学濃度である。また、耐久性とは、擦傷性や一般環境放置下での色素の劣化等などを考慮した指標で、実使用に耐え得ると判断したものは良好であるとして「○」、実使用に耐え得ないと判断したものは「×」とした。
【0070】
【表2】
【0071】
【表3】
【0072】
【表4】
【0073】
【表5】
【0074】
例1~7を比較すると反射率調整膜による近赤外域の光の反射が多くなるほど素子単体の遮光性能OD(A)と実使用配置での遮光性能OD(B)の差が大きくなり、実使用配置での遮光性能の低下量が大きくなることが分かる。これは多重反射により撮像素子側に抜けてくる光量が増加していることを意味している。
例9は色素層の表面に誘電体多層膜による反射率調整層の無い構成で、遮光性能のほとんどが色素の吸収に由来する。例9では、実使用配置での遮光性能の低下がきわめて少なく、素子反射率を抑えることが多重反射迷光抑制に有効であることを示唆している。一方で、色素層がむき出しの構成となっているため、光学素子を作製する際に素子の表面に傷がつきやすく外観上の問題が生じやすい。また色素層がむき出しになっていることで色素が劣化しやすいという問題がある。
例10は、色素層を持たず、片側で10層以上、両側で合計20層以上の誘電体多層膜を形成すると、ほとんどが反射により近赤外線域を遮光する構成であるが、実使用配置における遮光性能の低下率{OD(B)-OD(A)}/OD(A)が15%以上となることから、多重反射により遮光性能の低下が大きいことが分かる。
また例3と例8及び例10とを比較すると、素子としての遮光性能OD(A)はいずれも大凡2程度であるが、色素層の吸収由来の遮光性能OD_abが高い程、実使用配置における遮光性能の低下量、遮光性能の低下率が少ない。このことは色素の吸収で遮光性能を上げると多重反射迷光を抑えられていることを意味する。
以上の結果より、波長600~800nmに吸収極大を持つ色素層を有する樹脂層を用いると、反射率調整膜による近赤外域の光の反射を抑えても、光学素子全体として、当該近赤外域の光の透過を十分に抑制できることが分かった。さらに、反射率調整膜による反射を抑えると、多重反射迷光の発生も抑制できる。
【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明に係る光学素子は、近赤外域の光の透過を十分に低く抑えながら、多重反射迷光の発生も抑制できる。そのため、指紋認証の精度を高くでき、屋外でも使用されるスマートフォンに搭載される指紋検出装置等の用途に非常に有用である。
【符号の説明】
【0076】
1:光学素子
10:樹脂層
11:基材
12:色素層
20:反射率調整膜
図1
図2
図3
図4