(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-11
(45)【発行日】2023-09-20
(54)【発明の名称】モータ用配線材
(51)【国際特許分類】
H02K 11/20 20160101AFI20230912BHJP
【FI】
H02K11/20
(21)【出願番号】P 2020134651
(22)【出願日】2020-08-07
【審査請求日】2022-12-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】株式会社プロテリアル
(74)【代理人】
【識別番号】110002583
【氏名又は名称】弁理士法人平田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐川 正憲
(72)【発明者】
【氏名】杉山 雄太
(72)【発明者】
【氏名】福地 圭介
(72)【発明者】
【氏名】池田 幸雄
【審査官】池田 貴俊
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-207605(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0036414(US,A1)
【文献】実開昭57-078264(JP,U)
【文献】特開2009-273354(JP,A)
【文献】特開2008-283755(JP,A)
【文献】特開2004-048823(JP,A)
【文献】特開2014-053516(JP,A)
【文献】特開平8-172758(JP,A)
【文献】中国実用新案第210839408(CN,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 11/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
三相交流電流をモータに供給するモータ用配線材であって、
前記モータにおけるステータのコイルエンドと接続される接続部を一端部に有する複数の導電線と、
前記複数の導電線の他端部に設けられ、端子台の電極と接続される端子と、
前記モータに過電圧が印加されることを抑制するためのサージ抑制部と、を備え、
前記サージ抑制部は、抵抗とコンデンサの直列回路を3つ有すると共に、3つの前記直列回路の一端部を各相の前記導電線にそれぞれ電気的に接続し、3つの前記直列回路の他端部同士を互いに電気的に接続して構成されており、
前記サージ抑制部は、前記端子の近傍の前記導電線に沿うように設けられており、かつ、前記端子と前記接続部との間に設けられている、
モータ用配線材。
【請求項2】
3つの前記直列回路の他端部同士が、バスバを介して電気的に接続されている、
請求項1に記載のモータ用配線材。
【請求項3】
前記サージ抑制部の前記各直列回路は、前記抵抗の一方のリード線を前記導電線に接続し、前記抵抗の他方のリード線を前記コンデンサの一方のリード線に電気的に接続し、前記コンデンサの他方のリード線を前記バスバに電気的に接続するようにそれぞれ構成されており、
前記抵抗を前記導電線に沿って配置すると共に、前記抵抗の他方のリード線または前記コンデンサの一方のリード線を前記導電線から離れるように折り曲げることで、前記コンデンサを前記抵抗よりも前記導電線から離間させるように構成されている、
請求項2に記載のモータ用配線材。
【請求項4】
前記バスバは、前記導電線との間で前記抵抗を挟み込む位置に配置されている、
請求項3に記載のモータ用配線材。
【請求項5】
前記サージ抑制部は、3つの前記直列回路を一括して覆うように樹脂をモールドしてなるカバー部を有し、
前記カバー部は、放熱用の複数のフィン部を有している、
請求項1乃至4の何れか1項に記載のモータ用配線材。
【請求項6】
前記複数の導電線の一部を一括して覆い、前記複数の導電線を連結した状態で保持する保持部を備え、
前記カバー部は、前記保持部に係止される係止部を有し、
前記係止部を前記保持部に係止させることで、前記サージ抑制部が前記保持部に固定されている、
請求項5に記載のモータ用配線材。
【請求項7】
前記サージ抑制部の3つの前記直列回路の前記一端部は、前記端子に加締め固定されて各相の前記導電線にそれぞれ電気的に接続されている、
請求項1乃至6の何れか1項に記載のモータ用配線材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータ用配線材に関する。
【背景技術】
【0002】
インバータからの三相交流電流をモータに供給するモータ用配線材が知られている。モータ用配線材は、複数の導電線を備え、モータにおけるステータのコイルエンドと端子台の電極とを接続する。
【0003】
インバータからはパルス幅変調(PWM)によりパルス状の電圧が出力される。このパルス状の電圧の立ち上がり時にサージ電圧が発生し、モータに過電圧が印加されてしまうおそれがある。このようなサージ電圧を抑制して、モータに過電圧が印加されることを抑制するために、サージ抑制装置が用いられている(例えば、特許文献1参照)。従来、サージ抑制装置は、インバータやモータとは別体に設けられるのが一般的である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、インバータやモータとは別体にサージ抑制装置を設ける場合、サージ抑制装置を設けるための専用の設置スペースが必要となる。これらが搭載される車両内の狭いスペースにはサージ抑制装置専用の設置スペースの確保が困難となる場合があった。
【0006】
そこで、本発明は、サージ抑制装置専用の設置スペースの確保を不要とした、サージの抑制機能を有するモータ用配線材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記課題を解決することを目的として、三相交流電流をモータに供給するモータ用配線材であって、前記モータにおけるステータのコイルエンドと接続される接続部を一端部に有する複数の導電線と、前記複数の導電線の他端部に設けられ、端子台の電極と接続される端子と、前記モータに過電圧が印加されることを抑制するためのサージ抑制部と、を備え、前記サージ抑制部は、抵抗とコンデンサの直列回路を3つ有すると共に、3つの前記直列回路の一端部を各相の前記導電線にそれぞれ電気的に接続し、3つの前記直列回路の他端部同士を互いに電気的に接続して構成されており、前記サージ抑制部は、前記端子の近傍の前記導電線に沿うように設けられており、かつ、前記端子と前記接続部との間に設けられている、モータ用配線材を提供する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、サージ抑制装置専用の設置スペースの確保を不要とした、サージの抑制機能を有するモータ用配線材を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の一実施の形態に係るモータ用配線材を備えたモータの構成例を示し、(a)は全体図、(b)は(a)の部分拡大図である。
【
図2】(a),(b)は、サージ抑制部を省略したモータ用配線材の斜視図である。
【
図4】(a),(b)は、サージ抑制部の斜視図である。
【
図5】サージ抑制部においてカバー部を省略した図であり、(a)は斜視図、(b)は側面図である。
【
図7】(a)は本発明の実施例におけるサージ電圧を示す図であり、(b)はサージ抑制部を省略した比較例におけるサージ電圧を示す図である。
【
図8】本発明の一変形例に係るサージ抑制部を示す図であり、(a)はカバー部を省略した斜視図、(b)は斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[実施の形態]
以下、本発明の実施の形態を添付図面にしたがって説明する。
【0011】
(モータの説明)
図1は、本発明の一実施の形態に係るモータ用配線材を備えたモータの構成例を示し、(a)は全体図、(b)は(a)の部分拡大図である。モータ10は、電気自動車や所謂ハイブリッド車等の電力によって駆動される車両に搭載される。
【0012】
モータ10は、ロータ(回転子)12と、ロータ12を囲うように配置されたステータ(固定子)11と、端子台13と、を備えている。ロータ12は、軟磁性金属からなるロータコア121に複数の磁石122が埋め込まれて構成されており、中心部に挿通されたシャフト123と共に回転する。ステータ11は、軟磁性金属からなるステータコア111と、複数のコイル片112とを有している。
【0013】
以下の説明では、シャフト123の回転軸線Oに平行な方向を軸方向といい、回転軸線Oを通りかつ回転軸線Oに対して垂直な方向を径方向といい、軸方向及び径方向に対して垂直な方向を周方向という。また、以下の説明では、説明の便宜上、ステータコア111の軸方向両側のうち、モータ用配線材1が配置された側を上側といい、その反対側を下側という。ただし、この上側及び下側は、車両に搭載された状態における鉛直方向の上下を特定するものではない。
【0014】
図示していないが、ステータコア111は、円筒状のバックヨークと、バックヨークから径方向内方に向かって突出した複数のティースとを一体に有している。周方向に隣り合うティースの間には、スロットが形成されている。それぞれのコイル片112は、ステータコア111のスロットに収容され保持されている。
【0015】
また、コイル片112は、銅やアルミニウム等の良導電性を有する導電性金属112Mと、導電性金属112Mの表面を被覆する電気絶縁性の被覆層112Iからなる。本実施の形態では、導電性金属112Mが断面矩形状の平角単線であり、被覆層112Iがエナメル被覆からなる。コイル片112の端部であるコイルエンド113では、被覆層112Iが除去されて導電性金属112Mが露出している。各コイル片112は、コイルエンド113同士が溶接され、電気角の位相が所定角度ずれた2組の三相(U相,V相,及びW相)固定子巻線を構成している。
【0016】
また、モータ10は、ステータ11を収容するハウジング(図略)と、ハウジングに固定された端子台13と、を備えている。端子台13は、ハウジングに固定された樹脂からなる基台131と、インバータから三相交流電流(パルス幅変調によるパルス状の信号)が供給される3つの電極132とを有している。
【0017】
さらに、モータ10は、本実施の形態に係るモータ用配線材1を備えている。モータ用配線材1は、ステータ11のコイルエンド113と端子台13の電極132とを接続するための部材であり、インバータから端子台13の電極132を介して供給された三相交流電流を、モータ10の各相の固定子巻線に供給する。以下、モータ用配線材1の詳細について説明する。
【0018】
(モータ用配線材1の説明)
図2(a),(b)は、サージ抑制部を省略したモータ用配線材1の斜視図である。
図3は、サージ抑制部を含むモータ用配線材の斜視図である。
図2及び
図3に示すように、モータ用配線材1は、複数の導電線2と、複数の導電線2を保持する保持部3と、モータ10に(モータ10の各相の固定子巻線に)過電圧が印加されることを抑制するためのサージ抑制部6と、を備えている。
【0019】
本実施の形態では、モータ用配線材1は、6本の導電線2と3つの端子4とを備え、端子台13の3つの電極132と各相のコイル片112のコイルエンド113とをそれぞれ接続する。なお、モータ用の配線材としては、導電線が環状に形成された所謂バスリングが知られているが、本実施の形態に係るモータ用配線材1は、バスリングとは異なり、導電線2が環状に形成されていない非環状の配線材である。また、6本の導電線2は、自身の形状を保持できる程度に剛性が高い。また、6本の導電線2は、その長手方向に垂直な断面形状が円形状に形成されている。なお、導電線2の数は、6本に限らず、3の倍数本であればよい。
【0020】
6本の導電線2は、第1及び第2のU相リード線21,22と、第1及び第2のV相リード線23,24と、第1及び第2のW相リード線25,26と、からなる。各導電線2は、それぞれが導電性金属からなる導電体2Mと、導電体2Mの表面を被覆する電気絶縁性の被覆層2Iと、を有している。導電性金属としては、例えば銅あるいは銅合金を好適に用いることができる。被覆層2Iとしては、エナメル被膜を好適に用いることができる。導電体2Mは、単線(撚線ではない単一の金属導体)であり、本実施の形態では、断面円形状の丸単線がプレス加工により所定の形状に成形されている。ただし、断面矩形状の平角単線により導電体2Mを形成してもよい。
【0021】
3つの端子4は、U相端子41、V相端子42、及びW相端子43からなる。U相端子41は、端子台13におけるU相の電極132に接続される板部411と、第1及び第2のU相リード線21,22の一端部が共に加締められる加締め部412とを有している。板部411には、加締め部412と反対側に開口する切欠き410が形成されており、略U字状に形成されている。そして、切欠き410に挿通されるボルト(図略)によって、端子台13におけるU相の電極132に板部411が接続される。同様に、V相端子42は、端子台13におけるV相の電極132に接続される板部421と、第1及び第2のV相リード線23,24の一端部が共に加締められる加締め部422とを有している。板部421には、加締め部422と反対側に開口する切欠き420が形成されており、略U字状に形成されている。そして、切欠き420に挿通されるボルト(図略)によって、端子台13におけるV相の電極132に板部421が接続される。また同様に、W相端子43は、端子台13におけるW相の電極132に接続される板部431と、第1及び第2のW相リード線25,26の一端部が共に加締められる加締め部432とを有している。板部431には、加締め部432と反対側に開口する切欠き430が形成されており、略U字状に形成されている。そして、切欠き430に挿通されるボルト(図略)によって、端子台13におけるW相の電極132に板部431が接続される。
【0022】
各導電線2の他端部(端子4と反対側の端部)では、所定の長さ範囲にわたって被覆層2Iが除去され、導電体2Mが露出した接続部5が設けられている。接続部5は、不活性ガスを用いたアーク放電による溶接方法の一種であるTIG(Tungsten Inert Gas)溶接により、対応するコイル片112のコイルエンド113に溶接される。なお、接続部5におけるコイルエンド113との対向面は、プレス加工により平面状とされている。
【0023】
保持部3は、複数の導電線2の一部を一括して覆い、全ての導電線2を連結した状態で保持するように構成されている。保持部3は、各導電線2を所定の配線形状に保持するホルダ31と、ホルダ31及び導電線2の一部を覆うように樹脂をモールドしてなる樹脂モールド部32と、を有している。ホルダ31は、樹脂モールド部32のモールドの際に樹脂圧による導電線2の位置ずれを抑制し、導電線2を所定の配線形状に保持する役割を果たしている。なお、保持部3(ホルダ31)は、複数の導電線2の屈曲部分(略L字状部分)を一括して覆い、全ての導電線2を連結した状態で保持するように構成されているようにしてもよい。
【0024】
ホルダ31は、後述する第1の樹脂モールド部321に覆われる本体部(不図示)と、第1の樹脂モールド部321から延出される第1乃至第3の延出部312~313と、を一体に有している。ホルダ31は、例えばPPS(ポリフェニレンサルファイド)からなる。
【0025】
第1の延出部312は、保持部3からコイルエンド113側に延出される第1のU相リード線21に沿って形成されており、第1のU相リード線21の位置を規制する溝を有する規制部312aを有している。第2の延出部313は、保持部3からコイルエンド113側に延出される第2のV相リード線24及び第1のW相リード線25に沿って形成されており、両リード線24,25の位置を規制する溝を有する一対の規制部313a.313bと、両規制部313a,313bを連結する板状の連結部313cと、を有している。一方の規制部313aは本体部の縁部に連結されており、他方の規制部313bは連結部313cを介して一方の規制部313aに連結されている。同様に、第3の延出部314は、保持部3からコイルエンド113側に延出される第2のU相リード線22、第1のV相リード線23、及び第2のW相リード線26に沿って形成されており、各リード線22,23,26の位置を規制する溝を有する一対の規制部314a,314bと、両規制部314a,314bを連結する板状の連結部314cと、を有している。一方の規制部314aは本体部の縁部に連結されており、他方の規制部314bは連結部314cを介して一方の規制部314aに連結されている。
【0026】
樹脂モールド部32は、ホルダ31の本体部と、6本の導電線2とを一括して覆う第1の樹脂モールド部321と、第1の樹脂モールド部321と離間して設けられた第2及び第3の樹脂モールド部322,323と、を有している。第2の樹脂モールド部322は、第2の延出部313における規制部313bの中央部と、第2のV相リード線24と、第1のW相リード線25と、を覆うように形成されており、両リード線24,25を規制部313bに固定する役割を果たしている。同様に、第3の樹脂モールド部323は、第3の延出部314における規制部314bの中央部と、第2のU相リード線22と、第1のV相リード線23と、第2のW相リード線26と、を覆うように形成されており、各リード線22,23,26を規制部314bに固定する役割を果たしている。樹脂モールド部32は、ホルダ31と同じ材料からなるものを用いることが望ましく、例えばPPS(ポリフェニレンサルファイド)からなる。
【0027】
本実施の形態では、ホルダ31の本体部及び第1の樹脂モールド部321は、複数の導電線2を一括して覆い連結する連結部を構成している。また、本実施の形態では、第2の樹脂モールド部322及び第2の延出部313、並びに、第3の樹脂モールド部323及び第3の延出部314は、複数の導電線2のうち一部の導電線2を一括して覆う個別保持部を構成している。
【0028】
(サージ抑制部6の説明)
図4(a),(b)は、サージ抑制部6の斜視図である。
図5は、サージ抑制部6においてカバー部を省略した図であり、(a)は斜視図、(b)は側面図である。
図6は、サージ抑制部6の回路図である。
図4~6に示すように、本実施の形態に係るモータ用配線材1は、モータ10に過電圧が印加されることを抑制するためのサージ抑制部6を備えている。
【0029】
サージ抑制部6は、端子4の近傍の導電線2に沿うように設けられており、かつ、端子4(端子台13側)よりも接続部5側(コイルエンド113側、ステータ11の中心側)に設けられて、モータ用配線材1と一体化されている。すなわち、サージ抑制部6は、端子4(端子台13)と接続部5の間に設けられて、モータ用配線材1と一体化されている。これにより、インバータやモータとは別体にサージ抑制装置を設ける必要が無く、モータ用配線材1を取り付けるだけなので、組立工程が簡単となる。また、端子4よりも外方(ステータ11における径方向外方)にサージ抑制部6が突出してしまうことが抑制されると共に、端子4の近傍の空きスペースを有効利用することが可能になり、サージ抑制部6を含むモータ用配線材1全体を小型に維持して、狭いスペースへの設置が可能になる。さらに、サージ抑制部6は、端子4の最も近くで複数の導電線2が連結される連結部である第1の樹脂モールド部321と、端子4の間に設けられていることが望ましい。これにより、第1の樹脂モールド部321の近傍の空きスペースを有効利用することが可能になり、サージ抑制部6を含むモータ用配線材1全体を小型に維持して、狭いスペースへの設置が可能になる。
【0030】
なお、例えばサージ抑制部6を接続部5の直近に設けた場合、接続部5をコイルエンド113に溶接する際の熱により、サージ抑制部6が破損してしまうおそれが生じる。また、サージ抑制部6が接続部5の近傍に存在すると、接続部5のコイルエンド113への溶接作業がしにくくなってしまうおそれもある。そのため、サージ抑制部6は、なるべく接続部5(コイルエンド113との溶接部)から離れた位置に設けることが望ましく、端子4の近傍に設けることが最も望ましい。
【0031】
サージ抑制部6は、抵抗611とコンデンサ612とを直列に接続した直列回路61を3つ有すると共に、3つの直列回路61の一端部を各相の導電線2にそれぞれ電気的に接続し、3つの直列回路61の他端部同士を互いに電気的に接続したスター結線構造となっている(
図6参照)。本実施の形態では、3つの直列回路61の他端部同士が、バスバ62を介して電気的に接続されている。
【0032】
抵抗611としては、導電ゴムまたは導電プラスチックにより構成されたものを用いることができる。例えば、導電ゴムまたは導電プラスチックからなる棒状体の両端部分にそれぞれリード線611a,611bを差し込むことで、抵抗611を構成することができる。これに限らず、カーボンなどの高抵抗材料でパターン形成することで抵抗611を構成してもよいし、電気回路等で使用されるリード付き抵抗を組み合わせて抵抗611を構成してもよい。本実施の形態では、抵抗611は、直方体状に形成されており、その長手方向の両端部からリード線611a,611bがそれぞれ延出されている。抵抗611の一方のリード線611aは、上方へ延出されると共に端子4側へと90度折り曲げられ、さらに下方へと90度折り曲げられており、その先端部(下端部)が、端子4の加締め部412,422,432により導電線2と共に加締め固定され電気的に接続されている。加締め固定に加えて溶接を行ってもよい。抵抗611の他方のリード線611bは、下方へ延出されると共に導電線2から離れる方向に90度折り曲げられ、さらに上方へと90度折り曲げられており、その先端部(上端部)が、コンデンサ612の一方のリード線612aに電気的に接続されている。後述するカバー部63のモールド時の熱に耐えられるように、抵抗611のリード線611bとコンデンサ612のリード線612aとは溶接により接続することが望ましい。
【0033】
コンデンサ612のリード線612a,612bは、上方に延びるように設けられており、一方のリード線612aが抵抗611のリード線611bに電気的に接続され、他方のリード線612bがバスバ62に電気的に接続されている。カバー部63のモールド時の熱に耐えられるように、コンデンサ612のリード線612bとバスバ62とは、溶接により接続することが望ましい。
【0034】
バスバ62は、板状の導電性部材であり、例えば銅や銅合金からなる。本実施の形態では、直列回路61の他端部(導電線2への接続側と反対側の端部)同士をバスバ62により接続しているが、これに限らず、例えば銅線等の線材によって直列回路61の他端部同士を接続するように構成してもよい。ただし、本実施の形態ではカバー部63のモールド時の熱に耐えられるように、コンデンサ612のリード線612bとバスバ62とを溶接するため、溶接作業が容易な板状のバスバ62を用いることがより望ましく、さらにコンデンサ612のリード線612bとの位置合わせを容易にするために、絶縁被覆されていない状態の板状のバスバ62を用いることが望ましい。また、溶接作業を容易にするために、コンデンサ612のリード線612bの先端部分をU字状に加工し(例えば、U字状の接続端子を取り付け)、このU字部分で板状のバスバ62を挟み込んでからU字部分とバスバ62とを溶接してもよい。
【0035】
本実施の形態では、抵抗611を導電線2に沿って配置すると共に、抵抗611の他方のリード線611b(コンデンサ612の一方のリード線612aでもよい)を導電線2から離れるように折り曲げることで、コンデンサ612を抵抗611よりも導電線2から離間させるように構成されている。さらに、バスバ62は、導電線2との間で抵抗611を挟み込む位置に配置されている。このように構成することで、抵抗611とコンデンサ612とバスバ62とが、導電線2の長手方向に対して垂直方向に並んだ状態となるため、サージ抑制部6の導電線2に沿った長さ(上下方向の高さ)を小さくし、サージ抑制部6の小型化が図れる。
【0036】
サージ抑制部6は、3つの直列回路61及びバスバ62を一括して覆うように樹脂をモールドしてなるカバー部63を有している。放熱性を高めるために、カバー部63としては、なるべく熱伝導率の高い樹脂をもちいることが望ましい。具体的には、成形性に優れるPA6(ポリアミド6)やPBT(ポリブチレンテレフタレート)などのエンジニアリングプラスチック、またはPPS(ポリフェニレンサルファイド)などのスーパーエンジニアリングプラスチックに、絶縁性が高く熱伝導率が良いセラミックス材料(熱伝導性フィラー)を混ぜた絶縁放熱材料を用いるとよい。これらの絶縁放熱材料は一般的なプラスチック材料の熱伝導率(約0.2W/m/K)に比べて、1~10W/m/Kと5~50倍程度の良好な熱伝導率を有するため、抵抗611で生じたサージ電圧吸収分の熱をそのフィン形状とも相まって効率良く放熱することができる。
【0037】
カバー部63は、全体として略直方形状に設けられている。カバー部63の導電線2側の面、及び導電線2と反対側の面には、放熱用の複数のフィン部631が形成されているが、これに限定されない。カバー部63の天頂面、側面、あるいは底面にフィン部631が形成されてもよい。ここでは、フィン部631の形状を板状の突起としているが、フィン部631の形状はこれに限定されない。また、カバー部63は、放熱性をよくするため、導電線2に接触しないように取り付けられていることが好ましい。
【0038】
カバー部63の下面には、第1の樹脂モールド部321に形成された突起321a(
図2(a)参照)が挿入される位置決め用孔633が形成されている。突起321aを位置決め用孔633に挿入することで、第1の樹脂モールド部321に対するサージ抑制部6の位置決めが行われる。なお、カバー部63の下面に突起を設け、この突起が挿入される位置決め用孔を第1の樹脂モールド部321側に設けてもよい。
【0039】
また、カバー部63には、保持部3の第1の樹脂モールド部321に係止される係止部632が一体に形成されている。係止部632は、カバー部63の導電線2側の面から突出する一対の上側ラッチ632aと、カバー部63の下面から下方に突出する下側ラッチ632bと、を有している。一対の上側ラッチ632aは、隣り合う各相の導電線2の間に挿入され、第1の樹脂モールド部321の上面における角部に係止される。下側ラッチ632bは、U相リード線22とW相リード線25との間(第2の延出部313と第3の延出部314との間)に挿入され、第1の樹脂モールド部321の下面における角部に係止される。係止部632を第1の樹脂モールド部321(保持部3)に係止する構成とすることで、サージ抑制部6をワンタッチで容易に第1の樹脂モールド部321(保持部3)へと固定することが可能になる。なお、上側ラッチと同様に一対の下側ラッチを設けてもよく、隣り合う各相の導電線2の間に挿入されるようにしてもよい。
【0040】
モータ用配線材1を製造する際には、予めサージ抑制部6と、サージ抑制部6以外の部分のモータ用配線材1とを別体に形成しておく。このとき、導電線2には端子4を接続しない状態としておく。サージ抑制部6を形成する際には、予め抵抗611、コンデンサ612、及びバスバ62を溶接しておき、溶接した抵抗611、コンデンサ612、及びバスバ62を金型にセットして金型に樹脂を流し込むことでカバー部63を形成するとよい。その後、得られたサージ抑制部6を、係止部632を用いて第1の樹脂モールド部321へと固定し、端子4の加締め部412,422,432により導電線2と共にリード線611aを加締め固定して、端子4を設ける。以上により、モータ用配線材1が得られる。
【0041】
なお、ここでは溶接した抵抗611、コンデンサ612、及びバスバ62を金型に直接セットする場合について説明したが、これに限らず、抵抗611、コンデンサ612、バスバ62の接続部を保護するために、抵抗611、コンデンサ612、及びバスバ62をホルダに収容した状態で金型にセットして、カバー部63を形成してもよい。
【0042】
本実施の形態に係るモータ用配線材1を実施例とし、実施例のモータ用配線材1の端子4に500Vの電圧を付与した際に、接続部5に生じる電圧波形をシミュレーションにより求めた。シミュレーション結果を
図7(a)に示す。同様に、サージ抑制部6を省略した以外は実施例と全く同じ構成の比較例のモータ用配線材の端子4に500Vの電圧を付与した際に、接続部5に生じる電圧波形をシミュレーションにより求めた。シミュレーション結果を
図7(b)に示す。
【0043】
図7(a),(b)に示すように、比較例ではサージ電圧のピーク値が約780Vと非常に大きくなっているのに対し、実施例ではサージ電圧のピーク値が約520Vと小さくなっており、サージ抑制部6を設けることでサージ電圧を大幅に抑えられていることが確認できた。
【0044】
(実施の形態の作用及び効果)
以上説明したように、本実施の形態に係るモータ用配線材1は、モータ10に過電圧が印加されることを抑制するためのサージ抑制部6を備えており、サージ抑制部6は、抵抗611とコンデンサ612の直列回路61を3つ有すると共に、3つの直列回路61の一端部を各相の導電線2にそれぞれ電気的に接続し、3つの直列回路61の他端部同士を互いに電気的に接続して構成されており、サージ抑制部6は、端子4の近傍の導電線2に沿うように設けられており、かつ、端子4と接続部5との間に設けられている。
【0045】
モータ用配線材1にサージ抑制部6を備えることで、モータ10とインバータとの間に別途サージ抑制装置を設ける必要がなくなる。サージ抑制装置を別途設ける場合には、サージ抑制装置専用の設置スペースの確保が必要になるが、本実施の形態によれば、このような専用の設置スペースの確保が不要となる。さらに、サージ抑制部6を、端子4の近傍の導電線2に沿うように設け、かつ、端子4と接続部5との間に設けることで、サージ抑制部6が外方に大きく突出してしまうことが抑制され、狭いスペースでも設置可能なモータ用配線材1を実現できる。
【0046】
(変形例)
上記実施の形態では、直列回路61において抵抗611を導電線2側に配置し、抵抗611のリード線611aを導電線2に接続する場合について説明したが、これに限らず、
図8(a),(b)に示すように、直列回路61における抵抗611とコンデンサ612の配置を入れ替え、コンデンサ612を導電線2側に配置してもよい。また、
図8(a),(b)に示すように、抵抗611とコンデンサ612とバスバ62とを、導電線2の長さ方向に沿って並ぶように配置してもよい。これにより、サージ抑制部6の厚さ(導電線2の長さ方向及び配列方向に対して垂直な方向の厚さ)を小さくすることができる。このように、サージ抑制部6の具体的な形状は、導電線2の配線形状等に応じて適宜変更可能である。コンデンサ612の一方のリード線は、端子4の加締め部412,422,432により導電線2と共に加締め固定され電気的に接続されていることが望ましい。また、コンデンサ612と抵抗611のリード線同士、及び抵抗611のリード線とバスバ62とは、それぞれ溶接により接続されていることが望ましい。
【0047】
(実施の形態のまとめ)
次に、以上説明した実施の形態から把握される技術思想について、実施の形態における符号等を援用して記載する。ただし、以下の記載における各符号等は、特許請求の範囲における構成要素を実施の形態に具体的に示した部材等に限定するものではない。
【0048】
[1]三相交流電流をモータ(10)に供給するモータ用配線材(1)であって、前記モータ(10)におけるステータ(11)のコイルエンド(113)と接続される接続部(5)を一端部に有する複数の導電線(2)と、前記複数の導電線(2)の他端部に設けられ、端子台(13)の電極(132)と接続される端子(4)と、前記モータ(10)に過電圧が印加されることを抑制するためのサージ抑制部(6)と、を備え、前記サージ抑制部(6)は、抵抗(611)とコンデンサ(612)の直列回路(61)を3つ有すると共に、3つの前記直列回路(61)の一端部を各相の前記導電線(2)にそれぞれ電気的に接続し、3つの前記直列回路(61)の他端部同士を互いに電気的に接続して構成されており、前記サージ抑制部(6)は、前記端子(4)の近傍の前記導電線(2)に沿うように設けられており、かつ、前記端子(4)と前記接続部(5)との間に設けられている、モータ用配線材(1)。
【0049】
[2]3つの前記直列回路(61)の他端部同士が、バスバ(62)を介して電気的に接続されている、[1]に記載のモータ用配線材(1)。
【0050】
[3]前記サージ抑制部(6)の前記各直列回路(61)は、前記抵抗(611)の一方のリード線(611a)を前記導電線(2)に接続し、前記抵抗(611)の他方のリード線(611b)を前記コンデンサ(612)の一方のリード線(612a)に電気的に接続し、前記コンデンサ(612)の他方のリード線(612b)を前記バスバ(62)に電気的に接続するようにそれぞれ構成されており、前記抵抗(611)を前記導電線(2)に沿って配置すると共に、前記抵抗(611)の他方のリード線(611b)または前記コンデンサ(612)の一方のリード線(612a)を前記導電線(2)から離れるように折り曲げることで、前記コンデンサ(612)を前記抵抗(611)よりも前記導電線(2)から離間させるように構成されている、[2]に記載のモータ用配線材(1)。
【0051】
[4]前記バスバ(62)は、前記導電線(2)との間で前記抵抗(611)を挟み込む位置に配置されている、[3]に記載のモータ用配線材(1)。
【0052】
[5]前記サージ抑制部(6)は、3つの前記直列回路(61)を一括して覆うように樹脂をモールドしてなるカバー部(63)を有し、前記カバー部(63)は、放熱用の複数のフィン部(631)を有している、[1]乃至[4]の何れか1項に記載のモータ用配線材(1)。
【0053】
[6]前記複数の導電線(2)の一部を一括して覆い、前記複数の導電線を連結した状態で保持する保持部(3)を備え、前記カバー部(63)は、前記保持部(3)に係止される係止部(632)を有し、前記係止部(632)を前記保持部(3)に係止させることで、前記サージ抑制部(6)が前記保持部(3)に固定されている、[5]に記載のモータ用配線材(1)。
【0054】
[7]前記サージ抑制部(6)の3つの前記直列回路(61)の前記一端部は、前記端子(4)に加締め固定されて各相の前記導電線(2)にそれぞれ電気的に接続されている、[1]乃至[6]の何れか1項に記載のモータ用配線材(1)。
【0055】
以上、本発明の実施の形態を説明したが、上記に記載した実施の形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。また、実施の形態の中で説明した特徴の組合せの全てが発明の課題を解決するための手段に必須であるとは限らない点に留意すべきである。また、本発明は、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変形して実施することが可能である。
【符号の説明】
【0056】
1…モータ用配線材
2…導電線
3…保持部
31…ホルダ
32…樹脂モールド部
4…端子
5…接続部
6…サージ抑制部
61…直列回路
611…抵抗
611a,611b…リード線
612…コンデンサ
612a,612b…リード線
62…バスバ
63…カバー部
631…フィン部
632…係止部
632a…上側ラッチ
632b…下側ラッチ
10…モータ
11…ステータ
13…端子台
132…電極
111…ステータコア
113…コイルエンド