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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-11
(45)【発行日】2023-09-20
(54)【発明の名称】光学フィルタ
(51)【国際特許分類】
   G02B 5/28 20060101AFI20230912BHJP
   G02B 5/22 20060101ALI20230912BHJP
   G02B 5/26 20060101ALI20230912BHJP
   B32B 7/023 20190101ALI20230912BHJP
【FI】
G02B5/28
G02B5/22
G02B5/26
B32B7/023
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2021509103
(86)(22)【出願日】2020-03-16
(86)【国際出願番号】 JP2020011524
(87)【国際公開番号】W WO2020196051
(87)【国際公開日】2020-10-01
【審査請求日】2022-08-04
(31)【優先権主張番号】P 2019063526
(32)【優先日】2019-03-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】長田 崇
(72)【発明者】
【氏名】坂上 貴尋
【審査官】酒井 康博
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-048402(JP,A)
【文献】特開2018-060163(JP,A)
【文献】国際公開第2018/043564(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/103921(WO,A1)
【文献】特開2006-078672(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 5/20 - 5/28
B32B 7/023
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光学フィルタであって、
430nm~650nmの波長範囲として定められる特定可視領域における光の平均透過率が80%以上であり、900nm~1000nmの波長範囲として定められる特定赤外領域における光の平均透過率が25%~85%のガラス基板と、
前記特定可視領域における光の平均透過率が80%以上であり、前記特定赤外領域における光の平均透過率が45%~65%の範囲であり、前記特定可視領域と前記特定赤外領域の間に、光を遮断する第1の遮断帯を有する第1の光学多層膜と、
前記特定可視領域における光の平均透過率が80%以上であり、前記特定赤外領域における光の平均透過率が45%~65%の範囲であり、前記特定赤外領域よりも長波長側に、光を遮断する第2の遮断帯を有する第2の光学多層膜と、
を有する、光学フィルタ。
【請求項2】
前記ガラス基板の前記特定赤外領域における光の平均透過率は、前記第1の光学多層膜と前記第2の光学多層膜との組み合わせによる前記特定赤外領域における光の平均透過率よりも低い、請求項1に記載の光学フィルタ。
【請求項3】
以下の(I)式で表される前記ガラス基板の吸収寄与度Pが32%以上である、請求項1または2に記載の光学フィルタ:

吸収寄与度P(%)=(V/V)×100 (I)式

ここで、Vは、

=100(%)-
前記ガラス基板の前記特定赤外領域における平均透過率(%) (II)式

で表され、Vは、

=100(%)-
当該光学フィルタの前記特定赤外領域における平均透過率(%) (III)式

で表される。
【請求項4】
当該光学フィルタは、第2特定赤外領域と称される1100nm~1200nmの波長範囲における光の平均透過率が2.5%以下であり、
以下の(IV)式で表される前記ガラス基板の第2の吸収寄与度Qが9%以上である、請求項1乃至3のいずれか一つに記載の光学フィルタ:

第2の吸収寄与度Q(%)=(W/W)×100 (IV)式

ここで、Wは、

=100(%)-
前記ガラス基板の前記第2特定赤外領域における平均透過率(%) (V)式

で表され、Wは、

=100(%)-
当該光学フィルタの前記第2特定赤外領域における平均透過率(%) (VI)式

で表される。
【請求項5】
前記ガラス基板は、鉄および/または銅を含有する、請求項1乃至4のいずれか一つに記載の光学フィルタ。
【請求項6】
前記ガラス基板は、相互に対向する第1の主面および第2の主面を有し、
前記第1の光学多層膜および前記第2の光学多層膜は、いずれも前記第1の主面の側に配置される、請求項1乃至5のいずれか一つに記載の光学フィルタ。
【請求項7】
前記ガラス基板は、相互に対向する第1の主面および第2の主面を有し、
前記第1の光学多層膜は、前記第1の主面の側に配置され、
前記第2の光学多層膜は、前記第2の主面の側に配置される、請求項1乃至5のいずれか一つに記載の光学フィルタ。
【請求項8】
前記特定可視領域において、光の平均透過率が80%以上である、請求項1乃至7のいずれか一つに記載の光学フィルタ。
【請求項9】
さらに、前記特定可視領域の光を遮断する第3の光学多層膜を備える、請求項1乃至8のいずれか一つに記載の光学フィルタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、赤外領域の波長の光を透過する光学フィルタに関する。
【背景技術】
【0002】
CCD(Charge Coupled Device)イメージセンサやCMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)イメージセンサ等の固体撮像素子は、人間の視感度特性に比べて赤外光に強い感度を有する。このため、例えばデジタルカメラやデジタルビデオ等では、赤外線カットフィルタ等の光学フィルタを用いることにより分光補正が行われている。
【0003】
一方、昼夜連続で撮像を行う監視カメラ等の撮像装置では、昼間は可視領域の波長を有する光が入射することで撮像を行うことができる。しかしながら、夜間は暗視下であるため、赤外領域の波長を有する光を取り込んで撮像を行う必要がある。このため、可視領域および赤外領域の両方の光を透過する光学フィルタを用いて分光補正を行うことが必要となる。
【0004】
なお、可視領域と赤外領域の両方の光を透過する光学フィルタは、基板の上に設置される光学多層膜を適正に設計することにより構成可能である。すなわち、高屈折率層と低屈折率層の繰り返し構造を有する光学多層膜を形成することにより、前述のような光学特性を発現させることができる。
【0005】
例えば、特許文献1、2には、高屈折率層と低屈折率層の繰り返し構造により、可視領域と赤外領域の両方の光を透過できる光学フィルタが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2006-10764号公報
【文献】特開2016-109809号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来の光学フィルタでは、光学多層膜に含まれる層の数が増加すると、量産時に光学フィルタごとの光学特性のばらつきが大きくなる傾向にある。これは、光学多層膜に含まれる層の数が多くなると、それぞれの層の厚さの変動が、光学特性に及ぼす影響が無視できなくなるからである。特に、赤外領域では、光学多層膜を構成する層の数が増加すると、透過率等の光学特性に無視できないほどのばらつきが生じ得る。
【0008】
本発明は、このような背景に鑑みなされたものであり、本発明では、光学多層膜に含まれる層の数が多くなっても、光学特性のばらつきを有意に抑制することが可能な光学フィルタを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明では、光学フィルタであって、
430nm~650nmの波長範囲として定められる特定可視領域における光の平均透過率が80%以上であり、900nm~1000nmの波長範囲として定められる特定赤外領域における光の平均透過率が25%~85%のガラス基板と、
前記特定可視領域における光の平均透過率が80%以上であり、前記特定赤外領域における光の平均透過率が45%~65%の範囲であり、前記特定可視領域と前記特定赤外領域の間に、光を遮断する第1の遮断帯を有する第1の光学多層膜と、
前記特定可視領域における光の平均透過率が80%以上であり、前記特定赤外領域における光の平均透過率が45%~65%の範囲であり、前記特定赤外領域よりも長波長側に、光を遮断する第2の遮断帯を有する第2の光学多層膜と、
を有する、光学フィルタが提供される。
【発明の効果】
【0010】
本発明では、光学多層膜に含まれる層の数が多くなっても、光学特性のばらつきを有意に抑制することが可能な光学フィルタを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の一実施形態による光学フィルタに含まれるガラス基板の透過率特性の一例を、模式的に示した図である。
図2】本発明の一実施形態による光学フィルタに含まれる第1の光学多層膜の透過率特性の一例を、模式的に示した図である。
図3】本発明の一実施形態による光学フィルタに含まれる第2の光学多層膜の透過率特性の一例を、模式的に示した図である。
図4】本発明の一実施形態による光学フィルタにおいて得られる透過率特性の一例を、模式的に示した図である。
図5】本発明の一実施形態による光学フィルタの断面を模式的に示した図である。
図6】本発明の別の実施形態による光学フィルタの断面を模式的に示した図である。
図7】本発明の一実施形態に使用されるガラスAの光学特性を示したグラフである。
図8】本発明の一実施形態に使用される第1の光学多層膜の、シミュレーション計算によって得られた光学特性を示したグラフである
図9】本発明の一実施形態に使用される第2の光学多層膜の、シミュレーション計算によって得られた光学特性を示したグラフである
図10】本発明の一実施形態に係る光学フィルタの、シミュレーション計算によって得られた光学特性を示したグラフである。
図11】本発明の別の実施形態に使用されるガラスBの光学特性を示したグラフである。
図12】本発明の別の実施形態に係る光学フィルタの、シミュレーション計算によって得られた光学特性を示したグラフである。
図13】比較例に使用されるガラスCの光学特性を示したグラフである。
図14】比較例に係る光学フィルタの、シミュレーション計算によって得られた光学特性を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照して、本発明の一実施形態について説明する。
【0013】
なお、本発明の一実施形態におけるガラス基板および光学フィルタの透過率は、特に記載がない限り、基板と空気との界面の反射を考慮した値である。また、光学多層膜の透過率は、白板ガラスに光学多層膜を設けた場合の透過率を表し、この透過率は、白板ガラスの光学多層膜が設けられていない裏面側の反射を考慮した値である。
【0014】
本発明の一実施形態では、
光学フィルタであって、
430nm~650nmの波長範囲として定められる特定可視領域における光の平均透過率が80%以上であり、900nm~1000nmの波長範囲として定められる特定赤外領域における光の平均透過率が25%~85%のガラス基板と、
前記特定可視領域における光の平均透過率が80%以上であり、前記特定赤外領域における光の平均透過率が45%~65%の範囲であり、前記特定可視領域と前記特定赤外領域の間に、光を遮断する第1の遮断帯を有する第1の光学多層膜と、
前記特定可視領域における光の平均透過率が80%以上であり、前記特定赤外領域における光の平均透過率が45%~65%の範囲であり、前記特定赤外領域よりも長波長側に、光を遮断する第2の遮断帯を有する第2の光学多層膜と、
を有する、光学フィルタが提供される。
【0015】
本願において、「特定可視領域」とは、波長が430nm~650nmの範囲を表し、「特定赤外領域」とは、波長が900nm~1000nmの範囲を表す。また、後述するように、波長1100nm~1200nmの範囲を、特に「第2特定赤外領域」と称する。
【0016】
本発明の一実施形態による光学フィルタは、ガラス基板を有する。該ガラス基板は、特定可視領域における光の平均透過率が80%以上であり、特定赤外領域における光の平均透過率が25%~85%であるという特徴を有する。
【0017】
図1には、本発明の一実施形態による光学フィルタに使用されるガラス基板の透過率特性の一例を、模式的に示す。
【0018】
図1に示すように、このガラス基板は、特定可視領域における透過率が高くなっており、特定可視領域における平均透過率は、80%以上である。
【0019】
また、ガラス基板は、特定赤外領域では、特定可視領域に比べて透過率が低下する特徴を有し、特定赤外領域における平均透過率は、25%~85%の範囲である。
【0020】
また、本発明の一実施形態による光学フィルタは、第1の光学多層膜を有する。
【0021】
該第1の光学多層膜は、特定可視領域における光の平均透過率が80%以上であり、特定赤外領域における光の平均透過率が45%~65%の範囲である。また、第1の光学多層膜は、前記特定可視領域と前記特定赤外領域の間に、光を遮断する第1の遮断帯を有するという特徴を有する。
【0022】
図2には、本発明の一実施形態による光学フィルタに使用される第1の光学多層膜の透過率特性の一例を、模式的に示す。
【0023】
図2に示すように、第1の光学多層膜は、特定可視領域に第1の透過帯Bt1を有し、特定赤外領域に第2の透過帯Bt2を有する。また、第1の光学多層膜は、第1の透過帯Bt1と、第2の透過帯Bt2との間に、第1の遮断帯Ct1を有する。
【0024】
第1の光学多層膜において、第1の透過帯Bt1は、高い透過率を有し、例えば、特定可視領域の平均透過率は、80%以上である。
【0025】
また、第2の透過帯Bt2は、中程度以上の透過率を有し、例えば、特定赤外領域の平均透過率は、45%~65%の範囲である。
【0026】
一方、第1の遮断帯Ct1は、低い透過率を有し、例えば、波長780nm~830nmの範囲における平均透過率は、3%以下である。
【0027】
なお、第1の光学多層膜において、特定赤外領域よりも高い波長における光学特性は、特に限られない。従って、図2に示した曲線は、単なる一例である。
【0028】
さらに、本発明の一実施形態による光学フィルタは、第2の光学多層膜を有する。
【0029】
該第2の光学多層膜は、特定可視領域における光の平均透過率が80%以上であり、特定赤外領域における光の平均透過率が45%~65%の範囲である。また、第2の光学多層膜は、特定赤外領域よりも長波長側に、光を遮断する第2の遮断帯を有するという特徴を有する。
【0030】
図3には、本発明の一実施形態による光学フィルタに使用される第2の光学多層膜の透過率特性の一例を、模式的に示す。
【0031】
図3に示すように、第2の光学多層膜は、特定可視領域に第1の透過帯Bu1を有し、特定赤外領域に第2の透過帯Bu2を有する。また、第2の光学多層膜は、第2の透過帯Bu2よりも長波長側に、第2の遮断帯Cu2を有する。
【0032】
第2の光学多層膜において、第1の透過帯Bu1は、高い透過率を有する。例えば、特定可視領域の平均透過率は、80%以上である。
【0033】
また、第2の透過帯Bu2は、中程度の透過率を有し、例えば、特定赤外領域の平均透過率は、45%~65%の範囲である。
【0034】
第2の遮断帯Cu2は、低い透過率を有し、例えば、波長1050nm~1200nmの範囲における平均透過率は、5%以下である。
【0035】
なお、第2の光学多層膜において、特定可視領域~特定赤外領域の間の光学特性は、特に限られない。従って、図3に示した曲線は、単なる一例である。
【0036】
本発明の一実施形態による光学フィルタは、前述のような特徴を有するガラス基板、第1の光学多層膜および第2の光学多層膜を有するため、光学フィルタの光学特性は、各部材の光学特性の組み合わせとして、図4のように表される。
【0037】
図4には、本発明の一実施形態による光学フィルタにおいて得られる透過率特性の一例を、模式的に示す。
【0038】
図4に示すように、本発明の一実施形態による光学フィルタの透過率曲線は、特定可視領域に第1の透過帯Ba1を有し、特定赤外領域に第2の透過帯Ba2を有する。
【0039】
また、本発明の一実施形態による光学フィルタの透過率曲線は、第1の透過帯Ba1と第2の透過帯Ba2の間に、第1の遮断帯Ca1を有し、第2の透過帯Ba2よりも長波長側に第2の遮断帯Ca2を有する。
【0040】
第1の透過帯Ba1は、高い透過率を有し、例えば、特定可視領域における平均透過率は、80%以上である。また、第2の透過帯Ba2は、中程度の透過率を有し、例えば、特定赤外領域における平均透過率は、40%~90%の範囲である。
【0041】
第1の遮断帯Ca1は、低い透過率を有し、例えば、波長700nm~850nmの範囲における平均透過率は、5%以下である。また、第2の遮断帯Ca2は、低い透過率を有し、例えば、波長1050nm~1200nmの範囲における平均透過率は、5%以下である。
【0042】
なお、図4に示した例では、第1の透過帯Ba1は、波長430nm~650nmの範囲にわたって認められ、第2の透過帯Ba2は、波長900nm~1000nmの範囲にわたって認められている。
【0043】
しかしながら、これは単なる一例であり、特定可視領域における平均透過率が80%以上である限り、第1の透過帯Ba1は、より狭い領域に存在してもよい。同様に、特定赤外領域における平均透過率が40%~60%の範囲である限り、第2の透過帯Ba2は、より狭い領域に存在してもよい。
【0044】
また、図4に示した例では、第1の遮断帯Ca1は、波長700nm~850nmの範囲に認められ、第2の遮断帯Ca2は、波長1000nm以上の領域に認められる。
【0045】
しかしながら、これは単なる一例であって、波長700nm~850nmの範囲における平均透過率が5%以下である限り、第1の遮断帯Ca1は、より狭い領域に存在してもよい。
【0046】
第2の遮断帯Ca2についても同様のことが言える。
【0047】
ここで、図4から明らかなように、本発明の一実施形態による光学フィルタは、特定可視領域および特定赤外領域の両方において、光を透過できる。このため本発明の一実施形態による光学フィルタは、例えば、昼夜連続で撮像を行う撮像装置等に利用できる。
【0048】
また、本発明の一実施形態による光学フィルタにおいて、ガラス基板は、特定赤外領域における光の平均透過率が25%~85%であるという特徴を有する。
【0049】
従来の光学フィルタでは、光学多層膜に含まれる層の数が増加すると、これに伴い、光学特性のばらつきが大きくなる傾向にある。これは、光学多層膜に含まれる層の数が多くなると、それぞれの層の厚さが僅かに変動しただけでも、光学特性に及ぼす影響が無視できなくなるからである。特に、特定赤外領域では、光学多層膜を構成する層の数が増加すると、透過率等の光学特性に、無視できないほどの大きなばらつきが生じてしまう。
【0050】
しかしながら、光学フィルタの一部材として、前述の特徴を有するガラス基板を使用した場合、特定赤外領域において、光の一部が吸収される。このため、第1の光学多層膜における第2の透過帯Bt2、および第2の光学多層膜における第2の透過帯Bu2に生じ得る特性ばらつきの影響は、ガラス基板による光の吸収特性により、有意に軽減または排除される。
【0051】
従って、本発明の一実施形態による光学フィルタでは、第1の光学多層膜および/または第2の光学多層膜に含まれる層の数が多くなっても、ガラス基板、第1の光学多層膜、および第2の光学多層膜の組み合わせによって発現する、第2の透過帯Ba2における光学特性のばらつきを有意に抑制することが可能となる。
【0052】
なお、本発明の一実施形態による光学フィルタでは、ガラス基板による光の吸収特性のため、特定赤外領域における光学フィルタの透過率は、幾分低下する。しかしながら、それでも、本発明の一実施形態による光学フィルタの第2の透過帯Ba2の透過率は、例えば40%~60%の範囲に維持することができる。
【0053】
さらに、本発明の一実施形態による光学フィルタでは、前述の特徴により、第2の透過帯Ba2に生じ得る、入射光の角度依存性の問題も有意に抑制できる。
【0054】
すなわち、従来の光学フィルタでは、光学多層膜の好適な組み合わせにより、特定赤外領域に透過帯が発現される。しかしながら、そのような光学多層膜の光学特性は、光の入射角度によって変化するという問題がある。
【0055】
一方、本発明の一実施形態による光学フィルタでは、特定赤外領域における第2の透過帯Ba2は、ガラス基板の吸収特性により、例えば40%~60%の範囲まで低下される。また、このようなガラス基板の吸収特性は、入射角度依存性が比較的小さいという特徴を有する。
【0056】
このため、本発明の一実施形態による光学フィルタでは、第2の透過帯Ba2の光学特性が入射光の角度に影響を受け難くなり、角度依存性の問題を軽減することができる。
【0057】
(本発明の一実施形態による光学フィルタ)
以下、図5を参照して、本発明の一実施形態についてより詳しく説明する。
【0058】
図5には、本発明の一実施形態による光学フィルタ(以下、「第1の光学フィルタ」と称する)100の断面を模式的に示す。
【0059】
図5に示すように、第1の光学フィルタ100は、ガラス基板110と、第1の光学多層膜130と、第2の光学多層膜160と、を有する。
【0060】
ガラス基板110は、相互に対向する第1の主面112および第2の主面114を有し、第1の光学多層膜130および第2の光学多層膜160は、いずれもガラス基板110の第1の主面112上に配置される。
【0061】
なお、図1に示した例では、第2の光学多層膜160は、第1の光学多層膜130に比べてより基板側に設置されている。しかしながら、第1の光学多層膜130および第2の光学多層膜160は、逆の順番で配置されてもよい。
【0062】
ガラス基板110は、特定可視領域における光の平均透過率が80%以上である。また、ガラス基板110は、特定赤外領域における光の平均透過率が25%~85%の範囲にある。ガラス基板110は、例えば、前述の図1に示したような透過率特性を有する。
【0063】
第1の光学多層膜130は、特定可視領域における光の平均透過率が80%以上である。また、第1の光学多層膜130は、特定赤外領域における光の平均透過率が45%~65%の範囲であり、特定可視領域と特定赤外領域の間に、光を遮断する第1の遮断帯を有する。
【0064】
第1の光学多層膜130は、例えば、前述の図2に示したような透過率特性を有してもよい。
【0065】
第1の光学多層膜130は、「高屈折率層」と「低屈折率層」との繰り返し構造を有する。なお、「高屈折率層」とは、波長500nmにおける屈折率が2.0以上の層を意味し、「低屈折率層」とは、波長500nmにおける屈折率が1.6以下の層を意味する。
【0066】
例えば、図5に示した例では、第1の光学多層膜130は、第1の高屈折率層132-1、第1の低屈折率層132-2、第2の高屈折率層132-3、第2の低屈折率層132-4、……、第mの低屈折率層132-mを有する。ここで、mは、例えば2~100の整数である。
【0067】
一方、第2の光学多層膜160は、特定可視領域における光の平均透過率が80%以上である。また、第2の光学多層膜160は、特定赤外領域における光の平均透過率が45%~65%の範囲であり、特定赤外領域よりも長波長側に、光を遮断する第2の遮断帯を有する。
【0068】
第2の光学多層膜160は、例えば、前述の図3に示したような透過率特性を有してもよい。
【0069】
第2の光学多層膜160も、第1の光学多層膜130と同様、「高屈折率層」と「低屈折率層」との繰り返し構造を有する。
【0070】
例えば、図5に示した例では、第2の光学多層膜160は、第1の高屈折率層162-1、第1の低屈折率層162-2、第2の高屈折率層162-3、第2の低屈折率層162-4、……、第nの低屈折率層162-nを有する。ここで、nは、例えば、2~130の整数である。
【0071】
ただし、後述するように、第2の光学多層膜160の構成、例えば各層の厚さは、第1の光学多層膜130とは異なっている。
【0072】
このような構成を有する第1の光学フィルタ100では、前述の図4に示したような透過率特性を得ることができる。
【0073】
第1の光学フィルタ100では、前述のように、第1の光学多層膜130および第2の光学多層膜160に生じ得る特性ばらつきの影響は、ガラス基板110による光の吸収特性により、有意に軽減または排除される。
【0074】
従って、第1の光学フィルタ100では、第1の光学多層膜130および/または第2の光学多層膜160に含まれる層の数が多くなっても、第2の透過帯Ba2における光学特性のばらつきを、有意に抑制することができる。
【0075】
また、第1の光学フィルタ100では、特定赤外領域における光の入射角度依存性を有意に抑制できる。
【0076】
(光学フィルタの各構成部材について)
次に、本発明の一実施形態による光学フィルタに使用される各部材について、より詳しく説明する。
【0077】
なお、以下の説明では、明確化のため、各部材を表す際に、図5に示した参照符号を使用する。
【0078】
(ガラス基板110)
ガラス基板110は、前述のような特徴を有する限り、いかなる組成を有してもよい。
【0079】
ガラス基板110は、赤外線吸収成分を含有する、赤外線吸収ガラスであってもよい。
【0080】
赤外線吸収成分は、例えば、鉄および/または銅であってもよい。赤外線吸収成分の量は、0.05カチオン%以上であってもよい。
ガラス基板110は、例えば、銅を含有するフツリン酸ガラス、銅を含有するリン酸ガラス、鉄を含有するリン酸ガラスなどが挙げられるが、これらに限らない。
【0081】
ガラス基板110は、前述のように、特定可視領域において、80%以上の平均透過率を有する。特定可視領域における平均透過率は、81%以上であることが好ましく、82%以上であることがより好ましい。
【0082】
また、ガラス基板110は、特定赤外領域において、25%~85%の平均透過率を有する。特定赤外領域における平均透過率は、30%~80%の範囲であることが好ましく、35%~75%の範囲であることがより好ましい。
【0083】
ガラス基板110の厚さは、特に限られない。ただし、第1の光学フィルタ100が小型デバイスに使用される場合、第1の光学フィルタ100の薄肉化のため、ガラス基板110の厚さは、0.05mm~2mmの範囲であることが好ましい。
【0084】
なお、ガラス基板110は、特定赤外領域における平均透過率をTglass(%)としたとき、

glass<Tt1+t2(1)式

を満たしてもよい。ここで、Tt1+t2(%)は、第1の光学多層膜130と第2の光学多層膜160の組み合わせによって得られる、特定赤外領域における平均透過率である。
【0085】
(1)式を満たす場合、第1の光学フィルタ100において、量産上の透過率のばらつきを少なくすることができるという効果が得られる。
【0086】
(第1の光学多層膜130)
第1の光学多層膜130は、前述のような特徴を有する限り、いかなる層構成を有してもよい。
【0087】
第1の光学多層膜130は、前述のように、高屈折率層と低屈折率層の繰り返し構造を有してもよい。
【0088】
繰り返しの回数は、特に限られないが、例えば、1回~50回の範囲である(すなわち層数は、2~100)。繰り返しの回数は、20回以下であることが好ましく、15回以下であることがより好ましい。
【0089】
なお、前述のように、第1の光学フィルタ100では、第1の光学多層膜130における繰り返し回数を、例えば20回以上に高めても、光学特性のばらつきを有意に抑制することができる。このため、従来に比べて、繰り返し回数を有意に増やすことができ、これにより、より精密な光学フィルタの光学設計を行うことが可能となる。
【0090】
高屈折率層としては、例えば、酸化チタン、酸化タンタル、および酸化ニオブなどが挙げられる。低屈折率層としては、例えば、酸化ケイ素およびフッ化マグネシウムなどが挙げられる。例えば、波長500nmにおける酸化チタンの屈折率は、結晶状態にもよるが、一般に、2.3~2.8の範囲であり、酸化ケイ素の屈折率は、一般に1.4~1.5の範囲である。
【0091】
第1の光学多層膜130において、前述の図2に示したような透過率特性は、各高屈折率層および各低屈折率層の厚さを調整することにより、得ることができる。
【0092】
(第2の光学多層膜160)
第2の光学多層膜160は、前述のような特徴を有する限り、いかなる層構成を有してもよい。
【0093】
第2の光学多層膜160は、前述のように、高屈折率層と低屈折率層の繰り返し構造を有してもよい。
【0094】
繰り返しの回数は、特に限られないが、例えば、1回~70回の範囲である(すなわち層数は、2~140)。繰り返しの回数は、50回以下であることが好ましく、26回以下であることがより好ましい。
【0095】
なお、前述のように、第1の光学フィルタ100では、第2の光学多層膜160における繰り返し回数を、例えば20回以上に高めても、光学特性のばらつきを有意に抑制することができる。このため、従来に比べて、繰り返し回数を有意に増やすことができる。
【0096】
高屈折率層としては、例えば、酸化チタンが挙げられ、低屈折率層としては、例えば、酸化ケイ素が挙げられる。
【0097】
第2の光学多層膜160において、前述の図3に示したような透過率特性は、各高屈折率層および各低屈折率層の厚さを調整することにより、得ることができる。
【0098】
(第1の光学フィルタ100)
第1の光学フィルタ100は、例えば、図4に示したような透過率特性を有する。
【0099】
第1の光学フィルタ100は、特定可視領域における平均透過率が80%以上であってもよい。特定可視領域における平均透過率は、85%以上であることが好ましく、90%以上であることがより好ましい。
【0100】
第1の光学フィルタ100は、特定可視領域に第1の透過帯Ba1を有する。第1の透過帯Ba1は、波長430nm~650nmの範囲全体にわたって存在してもよい。
【0101】
また、第1の光学フィルタ100は、特定赤外領域に第2の透過帯Ba2を有する。第2の透過帯Ba2は、波長900nm~1000nmの範囲全体にわたって存在してもよい。また、第2の透過帯Ba2は、中心波長が920nm~980nmの範囲にあってもよく、あるいは、中心波長が930nm~960nmの範囲にあってもよい。
【0102】
また、第1の光学フィルタ100は、波長780nm~830nmの範囲における平均透過率が、3%未満であってもよい。さらに、第1の光学フィルタ100は、第2特定赤外領域における平均透過率が、2.5%以下であってもよい。
【0103】
ここで、第1の光学フィルタ100において、以下の(2)式で表されるガラス基板110の吸収寄与度Pは、32%以上であってもよい:

吸収寄与度P(%)=(V/V)×100 (2)式

ここで、Vは、

=100(%)-Tglass(%) (3)式

で表され、Vは、

=100(%)-
第1の光学フィルタ100の特定赤外領域における平均透過率(%) (4)式

で表される。
【0104】
また、第1の光学フィルタ100において、以下の(5)式で表されるガラス基板110の第2の吸収寄与度Qは、9%以上であってもよい:

第2の吸収寄与度Q(%)=(W/W)×100 (5)式

ここで、Wは、

=100(%)-
ガラス基板110の第2特定赤外領域における平均透過率(%) (6)式

で表され、Wは、

=100(%)-
第1の光学フィルタ100の第2特定赤外領域における平均透過率(%) (7)式

で表される。
【0105】
前述のように、「第2特定赤外領域」とは、波長1100nm~1200nmの範囲を表す。
【0106】
(本発明の別の実施形態による光学フィルタ)
次に、図6を参照して、本発明の別の実施形態による光学フィルタについて説明する。
【0107】
図6には、本発明の別の実施形態による光学フィルタ(以下、「第2の光学フィルタ」と称する)200の断面を模式的に示す。
【0108】
図6に示すように、第2の光学フィルタ200は、ガラス基板110と、第1の光学多層膜130と、第2の光学多層膜160とを有する。
【0109】
ただし、第2の光学フィルタ200においては、第1および第2の光学多層膜の配置が、前述の第1の光学フィルタ100とは異なっている。すなわち、第2の光学フィルタ200では、ガラス基板110の第1の主面112の側に、第1の光学多層膜130が設置され、ガラス基板110の第2の主面114の側に、第2の光学多層膜160が設置される。
【0110】
このような構成の第2の光学フィルタ200においても、前述の図4に示したような透過率特性を得ることができる。
【0111】
また、第2の光学フィルタ200においても、第1の光学フィルタ100の場合と同様の効果、すなわち、第1の光学多層膜130および/または第2の光学多層膜160に含まれる層の数が多くなっても、第2の透過帯Ba2における光学特性のばらつきを、有意に抑制することができるという効果が得られる。
【0112】
さらに、第2の光学フィルタ200においても、特定赤外領域における光の入射角度依存性を有意に抑制できる。
【0113】
以上、第1の光学フィルタ100および第2の光学フィルタ200を例に、本発明の一実施形態による構成について説明した。
【0114】
しかしながら、本発明において、光学フィルタが別の構成を有し得ることは、当業者には明らかである。
【0115】
例えば、第1の光学フィルタ100または第2の光学フィルタ200において、さらに、特定可視領域に第3の遮断帯を有する第3の光学多層膜を設置してもよい。この場合、特定可視領域に透過帯を有さず、特定赤外領域のみに透過帯(例えば、第2の透過帯Ba2)を有する光学フィルタを得ることができる。
【0116】
このような特徴を有する第1および第2の光学フィルタ100、200は、例えば、監視カメラ、車載カメラ、およびウェブカメラなどの撮像装置等に適用できる。
【実施例
【0117】
以下、本発明の実施例について説明する。
【0118】
なお、以下の説明において、例1および例2は実施例であり、例3は比較例である。また、シミュレーション計算は、光学薄膜設計ソフト(TF Calc、Software Spectra Inc製)を用いて行った。また、第2の主面114には反射防止膜(不図示)がある。
【0119】
(例1)
ガラス基板、第1の光学多層膜、および第2の光学多層膜を組み合わせて、前述の図5に示したような光学フィルタ(以下、「例1に係る光学フィルタ」と称する)を構成した。
【0120】
ガラス基板には、以下の表1における「ガラスA」の組成を有する赤外線吸収ガラスを使用した。ガラス基板の厚さは、0.3mmである。
【0121】
【表1】

図7には、ガラスAの光学特性を示す。
【0122】
ガラスAの特定赤外領域における平均透過率Tglassは、46.9%であった。また、ガラスAの第2特定赤外領域における平均透過率は、38.3%であった。
【0123】
以下の表2および表3には、それぞれ、ガラス基板の上に積層される第1の光学多層膜および第2の光学多層膜の構成を示す。
【0124】
【表2】
【0125】
【表3】

第1の光学多層膜は、高屈折率層と低屈折率層の繰り返し構造とし、層数は、22とした。また、第2の光学多層膜は、高屈折率層と低屈折率層の繰り返し構造とし、層数は、52とした。第1の光学多層膜および第2の光学多層膜のいずれにおいても、高屈折率層はTiOとし、低屈折率層はSiOとした。
【0126】
なお、第1の光学多層膜は、第2の光学多層膜の上に積層した。すなわち、ガラス基板、第2の光学多層膜、および第1の光学多層膜の順に積層して、例1に係る光学フィルタを構成した。
【0127】
ここで、表2および表3の記載において、層番号が小さい層ほど、ガラス基板に近いことを意味する。従って、例1では、ガラス基板の一方の主面上に、第2の光学多層膜を構成する、厚さ26.75nmの第1の層から順に、合計52層を積層し、その後、さらに第1の光学多層膜を構成する、厚さ107.45nmの第1の層から順に、合計22層を積層する構成とした。
【0128】
図8には、シミュレーション計算によって得られた第1の光学多層膜の光学特性を示す。また、図9には、シミュレーション計算によって得られた第2の光学多層膜の光学特性を示す。
【0129】
第1の光学多層膜と第2の光学多層膜の組み合わせの特定赤外領域における平均透過率Tt1+t2(%)は、79.4%であった。
【0130】
図10には、シミュレーション計算によって得られた例1に係る光学フィルタの光学特性を示す。
【0131】
例1に係る光学フィルタの特定可視領域における平均透過率は、96.9%であった。また、特定赤外領域における平均透過率は、40.1%であり、第2特定赤外領域における平均透過率は、1.0%であった。
【0132】
前述の(2)式に基づき、ガラス基板の吸収寄与度Pを求めた。その結果、

吸収寄与度P(%)=(V/V)×100={(100-46.9)/(100-40.1)}×100=88.6%

となった。
【0133】
また、前述の(5)式に基づき、ガラス基板の第2の吸収寄与度Qを求めた。その結果、

第2の吸収寄与度Q(%)=(W/W)×100={(100-38.3)/(100-1.0)}×100=62.3%

となった。
【0134】
(例2)
例1と同様の方法により、光学フィルタ(以下、「例2に係る光学フィルタ」と称する)を構成した。
【0135】
ただし、この例2では、ガラス基板として、前述の表1における「ガラスB」の組成を有する赤外線吸収ガラスを使用した。
【0136】
その他の条件は、例1と同様である。
【0137】
図11には、ガラスBの光学特性を示す。
【0138】
ガラスBの特定赤外領域における平均透過率Tglassは、80.0%であった。また、ガラスBの第2特定赤外領域における平均透過率は、84.2%であった。
【0139】
図12には、シミュレーション計算によって得られた例2に係る光学フィルタの光学特性を示す。
【0140】
例2に係る光学フィルタの特定可視領域における平均透過率は、94.3%であった。また、特定赤外領域における平均透過率は、42.5%であり、第2特定赤外領域における平均透過率は、1.8%であった。
【0141】
前述の(2)式および(5)式に基づき、ガラス基板の吸収寄与度Pおよび第2の吸収寄与度Qを求めた。その結果、吸収寄与度Pは34.8%であり、第2の吸収寄与度Qは15.4%であった。
【0142】
(例3)
例1と同様の方法により、光学フィルタ(以下、「例3に係る光学フィルタ」と称する)を構成した。
【0143】
ただし、この例3では、ガラス基板として、市販のガラス(D263、Schott社製)を使用した。以下、このガラス基板を「ガラスC」と称する。
【0144】
その他の条件は、例1と同様である。
【0145】
図13には、ガラスCの光学特性を示す。
【0146】
ガラスCの特定赤外領域における平均透過率Tglassは、92.0%であった。また、ガラスCの第2特定赤外領域における平均透過率は92.0%であった。
【0147】
図14には、シミュレーション計算によって得られた例3に係る光学フィルタの光学特性を示す。
【0148】
例3に係る光学フィルタの特定可視領域における平均透過率は、98.0%であった。また、特定赤外領域における平均透過率は、74.3%であり、第2特定赤外領域における平均透過率は、2.6%であった。
【0149】
前述の(2)式および(5)式に基づき、ガラス基板の吸収寄与度Pおよび第2の吸収寄与度Qを求めた。その結果、吸収寄与度Pは31.3%であり、第2の吸収寄与度Qは8.2%であった。
【0150】
以下の表4には、例1~例3に係る光学フィルタの主要な光学特性をまとめて示した。
【0151】
【表4】

(評価)
例1~例3に係る光学フィルタにおいて、いくつかの仮定の下、透過率特性に生じ得るばらつきをモンテカルロシミュレーションにより評価した。
【0152】
前提条件として、ガラス基板上に、前述の表2に示した構成の第1の光学多層膜および前述の表3に示した構成の第2の光学多層膜(全体層数74層)を積層する際に、各層の厚さに3σ=2.6%のばらつきが生じると仮定した。また、ガラス基板の厚さにも、±12μmのばらつきが生じると仮定した。
【0153】
上記の仮定の下、シミュレーションにより、100通りの光学フィルタを構成した。また、得られた光学フィルタの100通りの透過率特性から、特定赤外領域における平均透過率のばらつき度合いを評価した。
【0154】
結果を以下の表5に示す。
【0155】
【表5】

表5から、例3に係る光学フィルタの場合、特定赤外領域における平均透過率の標準偏差σは、4.002であった。これに対して、例1および例2に係る光学フィルタの場合、標準偏差σは、いずれも2未満となった。
【0156】
このように、例1および例2に係る光学フィルタでは、特定赤外領域における光学特性のばらつきが有意に抑制されることがわかった。
【0157】
本願は、2019年3月28日に出願した日本国特許出願第2019-063526号に基づく優先権を主張するものであり、同日本国出願の全内容を本願に参照により援用する。
【符号の説明】
【0158】
100 第1の光学フィルタ
110 ガラス基板
112 第1の主面
114 第2の主面
130 第1の光学多層膜
132-1 第1の高屈折率層
132-2 第1の低屈折率層
132-3 第2の高屈折率層
132-4 第2の低屈折率層
132-m 第mの低屈折率層
160 第2の光学多層膜
162-1 第1の高屈折率層
162-2 第1の低屈折率層
162-3 第2の高屈折率層
162-4 第2の低屈折率層
162-n 第mの低屈折率層
200 第2の光学フィルタ
a1 光学フィルタの第1の透過帯
a2 光学フィルタの第2の透過帯
t1 第1の光学多層膜の第1の透過帯
t2 第1の光学多層膜の第2の透過帯
u1 第2の光学多層膜の第1の透過帯
u2 第2の光学多層膜の第2の透過帯
a1 光学フィルタの第1の遮断帯
a2 光学フィルタの第2の遮断帯
t1 第1の光学多層膜の第1の遮断帯
u2 第2の光学多層膜の第2の遮断帯
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14