(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-11
(45)【発行日】2023-09-20
(54)【発明の名称】熱硬化性樹脂組成物、シート、及び金属ベース基板
(51)【国際特許分類】
C08L 63/00 20060101AFI20230912BHJP
B32B 27/38 20060101ALI20230912BHJP
C08K 3/013 20180101ALI20230912BHJP
C08K 3/22 20060101ALI20230912BHJP
C08K 3/38 20060101ALI20230912BHJP
C08K 7/00 20060101ALI20230912BHJP
【FI】
C08L63/00 C
B32B27/38
C08K3/013
C08K3/22
C08K3/38
C08K7/00
(21)【出願番号】P 2023060673
(22)【出願日】2023-04-04
【審査請求日】2023-04-13
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002886
【氏名又は名称】DIC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149445
【氏名又は名称】大野 孝幸
(74)【代理人】
【識別番号】100163290
【氏名又は名称】岩本 明洋
(74)【代理人】
【識別番号】100214673
【氏名又は名称】菅谷 英史
(74)【代理人】
【識別番号】100186646
【氏名又は名称】丹羽 雅裕
(72)【発明者】
【氏名】山本 広志
(72)【発明者】
【氏名】松浦 圭介
(72)【発明者】
【氏名】藤田 明
(72)【発明者】
【氏名】吉原 正道
(72)【発明者】
【氏名】糸谷 一男
(72)【発明者】
【氏名】飯田 正紀
【審査官】越本 秀幸
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-165401(JP,A)
【文献】特開2021-075630(JP,A)
【文献】特許第7289023(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 63/00
C08K 3/22
C08K 3/38
C08K 3/013
C08K 7/00
B32B 27/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エポキシ樹脂(A)と、アルミナ(B)と、凝集窒化ホウ素(C)を含むエポキシ樹脂組成物であって、
前記アルミナ(B)が、多面体、かつ、14面体以上であ
り、平均粒子径が25μm以上45μm以下であることを特徴とするエポキシ樹脂組成物。
【請求項2】
エポキシ樹脂(A)と、アルミナ(B)と、凝集窒化ホウ素(C)を含むエポキシ樹脂組成物であって、
前記アルミナ(B)が、多面体、かつ、14面体以上であり、
前記アルミナ(B)と凝集窒化ホウ素(C)の質量比が50:50~95:5であることを特徴とするエポキシ樹脂組成物。
【請求項3】
請求項1
又は2に記載のエポキシ樹脂組成物を含有するワニス。
【請求項4】
請求項
3に記載のワニスをキャリア材に塗布すると共に、前記ワニス層が未硬化の状態で100~200μmの厚みに形成して成る、無機複合シート。
【請求項5】
請求項
4に記載の無機複合シートを積層成形してなる金属ベース基板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱硬化性樹脂組成物、シート及び金属ベース基板に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子機器の小型化や高周波化、高出力化の要求に伴い、半導体の高集積化やプリント配線板の小型化等を図る為にビルドアップ工法によるプリント配線基板の製造が盛んに行われている。これらプリント配線基板には、高い放熱性能が求められており、熱伝導性に優れた材料を用いる開発が進んでいる。
【0003】
例えば、特許文献1には、エポキシ樹脂モノマーと、硬化剤と、フィラーと、を含有し、前記フィラーが、D50が20μm以上であり、かつ、一次粒子のアスペクト比の平均が30以下である窒化ホウ素粒子、又は前記窒化ホウ素粒子の凝集体を含む第一のフィラーと、D50が10μm未満、かつ、平均アスペクト比が5以下である窒化ホウ素粒子又は前記窒化ホウ素粒子の凝集体を含む第二のフィラーと、を含むことを特徴とするエポキシ樹脂組成物が開示されている。
【0004】
特許文献2には、モリブデンを含む酸化アルミニウム(A)と樹脂(B)とを含有する樹脂組成物であって、前記酸化アルミニウム(A)の平均粒子径が1000μm以下であることが開示されている。さらに、前記酸化アルミニウム(A)の形状は、限定されず、真球あるいは多面体粒子であることが示されている。
【0005】
特許文献3には、エポキシ樹脂モノマーと、2価のフェノール化合物をノボラック化したノボラック樹脂を含む硬化剤と、α-アルミナと窒化ホウ素との混合フィラー、とを含有したエポキシ樹脂組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2021-165401号公報
【文献】国際公開第2015-060125号
【文献】特開2016-155985号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1および2に示すように、高熱伝導性を付与することを目的に、窒化ホウ素あるいはアルミナをフィラーとして添加した樹脂組成物が広く研究されている。しかしながら、いずれの文献も同一種類のフィラーを添加することが主となり、異なるフィラー種を併用することにより得られる効果に着目した研究は多くない。
【0008】
特許文献3では、α-アルミナと窒化ホウ素の2種類のフィラーを併用した樹脂組成物が開示されているが、特にエポキシ樹脂モノマーの構造に着目したものであり、特徴的な構造を有するエポキシ樹脂モノマーを用いることで、アルミナを中心とした高い秩序性を有する高次構造の硬化体を得られ、優れた熱伝導性を示すものである。用いるα-アルミナは、粒径について開示する程度で特に制限がなく、フィラーに着目した研究としては不十分である。
【0009】
また、半導体の高集積化やプリント配線板の小型化等に伴い、微細な配線回路を形成することが求められるが、微細な粗化形状を形成した場合、密着性、すなわちピール強度が低下するという問題があるが、上記いずれの文献においても言及されておらず、更なる改善が必要である。
【0010】
以上のことから、本発明では、熱伝導性と絶縁信頼性、ピール強度の全てを兼備した樹脂組成物、及びワニス、その無機複合シート、金属ベース基板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決すべく、鋭意検討を行った。その結果、エポキシ樹脂と、アルミナと、凝集窒化ホウ素と、を含み、前記アルミナが多面体、かつ、14面体以上であることにより、熱伝導性と絶縁信頼性、ピール強度の全てを兼備した樹脂組成物が得られることを見出した。
【0012】
すなわち、本発明は、以下の態様を含む。
(1) エポキシ樹脂(A)と、アルミナ(B)と、凝集窒化ホウ素(C)を含むエポキシ樹脂組成物であって、
前記アルミナ(B)が、多面体、かつ、14面体以上であることを特徴とするエポキシ樹脂組成物。
(2) 上記1に記載のエポキシ樹脂組成物を含有するワニス。
(3) 上記2に記載のワニスをキャリア材に塗布すると共に、前記ワニス層が未硬化の状態で100~200μmの厚みに形成して成る、無機複合シート。
(4) 上記3に記載の無機複合シートを積層成形してなる金属ベース基板。
【発明の効果】
【0013】
本発明の樹脂組成物は、特定形状のアルミナと、凝集窒化ホウ素とを用いることで、熱伝導性と絶縁信頼に優れたものとなり、高熱伝導性プリント配線基板材料等に好適に使用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の一実施形態について詳細を説明する。本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の効果を阻害しない範囲で適宜変更を加えて実施することができる。
【0015】
<エポキシ樹脂組成物>
本実施形態のエポキシ樹脂組成物は、エポキシ樹脂(A)と、アルミナ(B)と、凝集窒化ホウ素(C)を含み、前記アルミナ(B)は多面体で、かつ、14面体以上である。
〔エポキシ樹脂(A)〕
本実施形態において、エポキシ樹脂(A)は特に制限されるものではないが、好ましくは半導体封止材として好適に用いられるものが挙げられる。例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、ビスフェノールAD型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、オルトクレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ナフタレン骨格含有エポキシ樹脂、ビフェニル骨格含有エポキシ樹脂、線状脂肪族エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂、複素環式エポキシ樹脂などが好適である。溶融粘度の観点では、オルトクレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノール型エポキシ樹脂、ビフェニル骨格含有エポキシ樹脂が好ましく、耐湿性や耐ハンダリフロー性の観点では、オルトクレゾールノボラック型エポキシ樹脂が好ましい。また、Bステージのシートの取り扱い性の観点では軟化温度が80℃以下のフェノールビフェニルアラルキルエポキシ樹脂が好ましい。
これらのエポキシ樹脂はいずれか1種類を単独で使用しても、2種類以上を併用して用いても良い。
【0016】
本実施形態において、樹脂組成物中のエポキシ樹脂の配合量は、樹脂組成物の全質量に対して3質量%~15質量%であることが好ましく、4質量%~12質量%であることがより好ましい。配合量が4質量%~12質量%であることにより、得られるエポキシ樹脂組成物の成形性に優れ、硬化物とした際に、高熱伝導率となり好ましい。
【0017】
本実施形態において、さらに硬化剤を含むことができる。硬化剤としては、上記エポキシ樹脂と硬化反応するものであれば特に制限なく使用することができ、フェノール樹脂、アミン系化合物、アミド系化合物、酸無水物系化合物、シアネートエステル化合物、不飽和二重結合含有置換基を有する化合物、ジエン系ポリマーなどが挙げられる。
【0018】
フェノール樹脂の硬化剤としては、例えば、フェノールノボラック樹脂、クレゾールノボラック樹脂、芳香族炭化水素ホルムアルデヒド樹脂変性フェノール樹脂、ジシクロペンタジエンフェノール付加型樹脂、フェノールアラルキル樹脂(ザイロック樹脂)、レゾルシンノボラック樹脂に代表される多価ヒドロキシ化合物とホルムアルデヒドから合成される多価フェノールノボラック樹脂、ナフトールアラルキル樹脂、テトラフェニロールエタン樹脂、ナフトールノボラック樹脂、ナフトール-フェノール共縮ノボラック樹脂、ナフトール-クレゾール共縮ノボラック樹脂、ビフェニル変性フェノール樹脂(ビスメチレン基でフェノール核が連結された多価フェノール化合物)、ビフェニル変性ナフトール樹脂(ビスメチレン基でフェノール核が連結された多価ナフトール化合物)、アミノトリアジン変性フェノール樹脂(メラミン、ベンゾグアナミンなどでフェノール核が連結された多価フェノール化合物)やアルコキシ基含有芳香環変性ノボラック樹脂(ホルムアルデヒドでフェノール核及びアルコキシ基含有芳香環が連結された多価フェノール化合物)等の多価フェノール化合物が挙げられる。
【0019】
前記アミン系化合物としては、ジアミノジフェニルメタン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、ジアミノジフェニルスルホン、イソホロンジアミン、イミダゾ-ル、BF3-アミン錯体、グアニジン誘導体等が挙げられる。
【0020】
前記アミド系化合物としては、例えば、ジシアンジアミド、リノレン酸の2量体とエチレンジアミンとより合成されるポリアミド樹脂等が挙げられる。
【0021】
前記酸無水物系化合物としては、例えば、無水フタル酸、無水トリメリット酸、無水ピロメリット酸、無水マレイン酸、テトラヒドロ無水フタル酸、メチルテトラヒドロ無水フタル酸、無水メチルナジック酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸等が挙げられる。
【0022】
前記シアネートエステル化合物としては、例えば、ビスフェノールA型シアネートエステル樹脂、ビスフェノールF型シアネートエステル樹脂、ビスフェノールE型シアネートエステル樹脂、ビスフェノールS型シアネートエステル樹脂、ビスフェノールスルフィド型シアネートエステル樹脂、フェニレンエーテル型シアネートエステル樹脂、ナフチレンエーテル型シアネートエステル樹脂、ビフェニル型シアネートエステル樹脂、テトラメチルビフェニル型シアネートエステル樹脂、ポリヒドロキシナフタレン型シアネートエステル樹脂、フェノールノボラック型シアネートエステル樹脂、クレゾールノボラック型シアネートエステル樹脂、トリフェニルメタン型シアネートエステル樹脂、テトラフェニルエタン型シアネートエステル樹脂、ジシクロペンタジエン-フェノール付加反応型シアネートエステル樹脂、フェノールアラルキル型シアネートエステル樹脂、ナフトールノボラック型シアネートエステル樹脂、ナフトールアラルキル型シアネートエステル樹脂、ナフトール-フェノール共縮ノボラック型シアネートエステル樹脂、ナフトール-クレゾール共縮ノボラック型シアネートエステル樹脂、芳香族炭化水素ホルムアルデヒド樹脂変性フェノール樹脂型シアネートエステル樹脂、ビフェニル変性ノボラック型シアネートエステル樹脂、アントラセン型シアネートエステル樹脂等が挙げられる。
【0023】
前記不飽和二重結合含有置換基を有する化合物としては、例えば、分子中に2個以上の不飽和結合含有置換基を有する化合物であれば特に限定されないが、前記不飽和結合含有置換基として、アリル基、イソプロペニル基、1-プロぺニル基、アクリロイル基、メタクリロイル基、スチリル基、スチリルメチル基などを有する化合物が挙げられる。
【0024】
前記ジエン系ポリマーとしては、例えば、極性基により変性されていない非変性ジエン系ポリマーが挙げられる。ここで、極性基とは、誘電特性に影響を及ぼす官能基であり、例えば、フェノール基、アミノ基、エポキシ基等が挙げられる。前記ジエン系ポリマーとしては、特に限定されず、例えば、1,2-ポリブタジエンや1,4-ポリブタジエン等を用いることができる。
【0025】
前記ジエン系ポリマーとして、ポリマー鎖中のブタジエン単位の50%以上が1,2-結合であるブタジエンのホモポリマー及びその誘導体を用いることもできる。
【0026】
前記エポキシ樹脂の使用量に対する前記硬化剤の使用量としては、前記エポキシ樹脂のエポキシ当量と前記硬化剤の活性水素当量の比(エポキシ当量/活性水素当量)が、0.7~1.3であることがより好ましく、0.8~1.2であることがより好ましい。前記(エポキシ当量/活性水素当量)が前記範囲外であると、得られる硬化物が、硬化不良を生じる恐れがある。
【0027】
本実施形態において、さらに硬化促進剤を含むことができる。硬化促進剤は、前記エポキシ樹脂と硬化剤との硬化反応を促進させる目的で含有することができ、例えば、リン系硬化促進剤、アミン系硬化促進剤、イミダゾール系硬化促進剤、グアニジン系硬化促進剤、尿素系硬化促進剤等が挙げられる。なお、前記硬化促進剤は、単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0028】
前記リン系硬化促進剤としては、トリフェニルホスフィン、トリブチルホスフィン、トリパラトリルホスフィン、ジフェニルシクロヘキシルホスフィン、トリシクロヘキシルホスフィン等の有機ホスフィン化合物;トリメチルホスファイト、トリエチルホスファイト等の有機ホスファイト化合物;エチルトリフェニルホスホニウムブロミド、ベンジルトリフェニルホスホニウムクロリド、ブチルホスホニウムテトラフェニルボレート、テトラフェニルホスホニウムテトラフェニルボレート、テトラフェニルホスホニウムテトラ-p-トリルボレート、トリフェニルホスフィントリフェニルボラン、テトラフェニルホスホニウムチオシアネート、テトラフェニルホスホニウムジシアナミド、ブチルフェニルホスホニウムジシアナミド、テトラブチルホスホニウムデカン酸塩等のホスホニウム塩等が挙げられる。
【0029】
前記アミン系硬化促進剤としては、トリエチルアミン、トリブチルアミン、N,N-ジメチル-4-アミノピリジン(4-ジメチルアミノピリジン、DMAP)、2,4,6-トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール、1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]-ウンデセン-7(DBU)、1,5-ジアザビシクロ[4.3.0]-ノネン-5(DBN)等が挙げられる。
【0030】
前記イミダゾール系硬化促進剤としては、2-メチルイミダゾール、2-ウンデシルイミダゾール、2-ヘプタデシルイミダゾール、1,2-ジメチルイミダゾール、2-エチル-4-メチルイミダゾール、2-フェニルイミダゾール、2-フェニル-4-メチルイミダゾール、1-ベンジル-2-メチルイミダゾール、1-ベンジル-2-フェニルイミダゾール、1-シアノエチル-2-メチルイミダゾール、1-シアノエチル-2-ウンデシルイミダゾール、1-シアノエチル-2-エチル-4-メチルイミダゾール、1-シアノエチル-2-フェニルイミダゾール、1-シアノエチル-2-ウンデシルイミダゾリウムトリメリテート、1-シアノエチル-2-フェニルイミダゾリウムトリメリテート、2-フェニルイミダゾールイソシアヌル酸付加物、2-フェニル-4,5-ジヒドロキシメチルイミダゾール、2-フェニル-4-メチル-5ヒドロキシメチルイミダゾール、2,3-ジヒドロ-1H-ピロロ[1,2-a]ベンズイミダゾール、1-ドデシル-2-メチル-3-ベンジルイミダゾリウムクロライド、2-メチルイミダゾリン等が挙げられる。
【0031】
前記グアニジン系硬化促進剤としては、ジシアンジアミド、1-メチルグアニジン、1-エチルグアニジン、1-シクロヘキシルグアニジン、1-フェニルグアニジン、ジメチルグアニジン、ジフェニルグアニジン、トリメチルグアニジン、テトラメチルグアニジン、ペンタメチルグアニジン、1,5,7-トリアザビシクロ[4.4.0]デカ-5-エン、7-メチル-1,5,7-トリアザビシクロ[4.4.0]デカ-5-エン、1-メチルビグアニド、1-エチルビグアニド、1-ブチルビグアニド、1-シクロヘキシルビグアニド、1-アリルビグアニド、1-フェニルビグアニド等が挙げられる。
【0032】
前記尿素系硬化促進剤としては、3-フェニル-1,1-ジメチル尿素、3-(4-メチルフェニル)-1,1-ジメチル尿素、クロロフェニル尿素、3-(4-クロロフェニル)-1,1-ジメチル尿素、3-(3,4-ジクロルフェニル)-1,1-ジメチル尿素等が挙げられる。
【0033】
前記硬化促進剤のうち、リン系硬化促進剤、イミダゾール系硬化促進剤を用いることが硬化性の観点から好ましく、絶縁信頼性の観点から、リン系硬化促進剤が特に好ましい。
【0034】
前記硬化促進剤の使用量は、所望の硬化性を得るために適宜調整できるが、前記エポキシ樹脂と前記硬化剤の混合物の合計量100質量部に対して、0.01~10質量部であることが好ましく、0.1~5質量部であることがより好ましい。硬化促進剤の使用量が前記範囲内にあると、硬化性、及び、絶縁信頼性に優れ、好ましい。
【0035】
〔アルミナ(B)〕
本実形態において、「アルミナ」は酸化アルミニウムであり、γ、δ、θ、κ等の各種の結晶形の遷移アルミナであっても、または遷移アルミナ中のアルミナ水和物を含んであっても良いが、より安定性に優れる点で、基本的にα結晶形であることが好ましい。
【0036】
前記アルミナの形状は、多面体状であることが好ましく、特に14面体以上の多面体状である。14面体以上であることで、14面体未満の多面体と比較して、面接触に機会が大幅に向上し、優れた熱伝導率が得られるため好ましい。
【0037】
アルミナの形状は、走査型電子顕微鏡(SEM)によって確認することができる。JEOL社製JCM7000を用いて、サンプルの任意の視野からの複数SEM画像により得られたイメージを観察する。そして、無作為に選出した50個のアルミナ粒子の観察結果に対し、個数基準で60%以上の粒子の形状を、そのサンプルが有する形状と判断できる。
【0038】
本実施形態におけるアルミナ(B)の平均粒子径は、25μm以上45μm以下が好ましい。平均粒子径が25μm以上であると、ワニスとした際に粘度が上昇することを抑制し好ましい。平均粒子径が45μm以下であるとシートの加工性に優れ好ましい。
【0039】
本発明でいう「平均粒子径」は、レーザー回折・散乱式粒度分布測定装置により測定された体積基準の累積粒度分布から、体積基準メジアン径D50として算出された値とする。
【0040】
本実施形態のエポキシ樹脂組成物における、アルミナ(B)の含有量は、エポキシ樹脂組成物の全固形分100質量部中、30~80質量部であればよく、40~70質量部がであってもよい。好適なアルミナ(B)の含有量は後述する凝集窒化ホウ素(C)の含有量に応じて設定することができる。
【0041】
本実施形態のアルミナ(B)は市販されているアルミナ粒子を用いても良く、特開2016-028993号公報、国際公開第2021/070729号に記載の方法により製造したアルミナ粒子を用いても良い。
【0042】
市販されているアルミナ粒子としては、DAW45(デンカ社製)、CB-A20S、CB-AS30S、CB-P15(昭和電工社製)、AZシリーズ(日鉄マテリアル&ケミカル社製)、AH40-S(DIC社製)、AO-502(アドマテックス社製)が挙げられ、流動性では観点から、CB-A20S、CB-A30S、CB-P15(昭和電工社製)、AO-502(アドマテックス社製)、熱伝導性ではAH40-S(DIC社製)であると良いが、これらに限定されるものではない。
【0043】
なお、これらアルミナ粒子は単独で用いても良く複数組み合わせて用いてもよいが、複数組み合わせて用いることが好ましい。複数組み合わせて使用する場合、多面体形状のアルミナ粒子が全アルミナ(B)中、50質量%以上含有することが好ましく、60質量%以上含有するとより好ましい。前記範囲内にあることで、得られる無機複合シート、金属ベース基板の熱伝導性が特に優れるため好ましい。
【0044】
〔凝集窒化ホウ素(C)〕
本実施形態の凝集窒化ホウ素(C)は、鱗片状の窒化ホウ素をランダムに配向させた凝集窒化ホウ素である。凝集窒化ホウ素(C)を用いることで、面方向に窒化ホウ素が配向することを抑制し、後述する無機複合シートとした際に、厚み方向の熱伝導率が向上する為、好ましい。
【0045】
前記凝集窒化ホウ素(C)の平均粒子径は、5μm以上50μm以下が好ましく、更に10μm以上40μm以下が好ましい。5μm以上であると粘度上昇が抑制され、50μm以下であると成形性に優れ好ましい。
【0046】
前記凝集窒化ホウ素(C)の比表面積は、1~4cm2/gであるとよく、1.5~3.5cm2/gであると好ましい。比表面積が前記範囲内にあると、粘度上昇が抑制され好ましい。なお、比表面積は、BET法により求められる。
【0047】
前記凝集窒化ホウ素(C)の粒子強度は、20MPa以下であるとよく、18MPa以下であると好ましく、15MPa以下であると特に好ましい。20MPa以下であると、放熱シート中の空気含有量が抑制され熱伝導率を向上させることができる。なお、粒子強度は5MPa以上であると、製造工程上、凝集窒化ホウ素の破損が抑制され好ましい。
【0048】
粒子強度は、JIS R1639-5:2007に準拠して測定することができる。凝集窒化ホウ素粒子を微小圧縮試験器(「MCT-W500」株式会社島津製作所製)の試料台に散布後、凝集窒化ホウ素粒子を5個選び出し、1粒ずつ圧壊試験を行い粒子強度を算出する。粒子強度(σ:MPa)は、粒子内の位置によって変化する無次元数(α=2.48)と圧壊試験力(P:N)と粒径(d:μm)からσ=α×P/(π×d2)の式を用いて算出した。JIS R1625:2010に準拠して5個の無機フィラー成分の圧壊強度をワイブルプロットし、累積破壊率が63.2%となる圧壊強度を凝集窒化ホウ素粒子の粒子強度とする。
【0049】
本実施形態の凝集窒化ホウ素(C)は、市販されているものを用いることができ、HP-40MF、HP40-J2(水島合金鉄株式会社製)、PTX60(モメンティブ社製)、Agglomerates50(スリーエム社製)などが挙げられる。好ましいのは内部ボイドのない焼成して凝集体に作製されたHP-40MF、HP40-J2(水島合金鉄株式会社製)である。
【0050】
本実施形態のエポキシ樹脂組成物における、凝集窒化ホウ素(C)の含有量は、エポキシ樹脂組成物の全固形分100質量部中、10~75質量部であればよく、40~70質量部が好ましい。
【0051】
本実施形態のエポキシ樹脂組成物における、アルミナ(B)および凝集窒化ホウ素(C)の合計含有量は、エポキシ樹脂組成物の全固形分100質量部中70~95質量部であればよく、75~90質量部好ましい。前記範囲内にあることで、エポキシ樹脂組成物またはそのワニスの粘度上昇を抑制し、均一な塗膜を形成することができる。
【0052】
前記範囲内であれば、アルミナ(B)と凝集窒化ホウ素(C)の含有量は、どのような組み合わせであってもよいが、アルミナ(B)と凝集窒化ホウ素(C)の質量比が50:50~95:5であるとよく、55:45~90:10であると好ましく、60:40~85:15であると特に好ましい。前記範囲内であると、熱伝導率および絶縁信頼性の両方を優れた水準で兼備できることから好ましい。
【0053】
アルミナ(B)と凝集窒化ホウ素(C)を組み合わせることにより、従来より優れた熱伝導率を取得することができるため、エポキシ樹脂組成物中の充填量を低減することができる。また、充填量が低減されることにより、エポキシ樹脂組成物の絶縁破壊電圧が高くなり、さらに、絶縁破壊電圧のばらつきが抑制され、電気特性を安定化することができる。
【0054】
<ワニス>
本発明は、前記エポキシ樹脂組成物を含有したワニスに関する。前記ワニスの調製方法としては、公知の方法を使用でき、前記エポキシ樹脂組成物を、有機溶媒に溶解(希釈)し、ワニスとすることができる。
【0055】
前記溶媒としては、例えば、メチルエチルケトン、メトキシプロパノール、N,N-ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド当の極性溶媒を用いることができ、前記溶媒は1種のみでもよいし、2種以上併用してもよい。
【0056】
前記溶媒の使用量は特に限定されるものではなく、例えば、シート加工性を加味して適宜決定することができる。具体的には、得られるワニスの粘度は3000mPa・s~15000mPa・sとなるように調製することが好ましい。粘度が3000mPa・s以上であると、塗工時のはじきによる外観不良が抑制され好ましい。粘度が15000mPa・s以下であると、塗工時のスジむらによる外観不良が抑制され好ましい。
【0057】
〔その他成分〕
本実施形態のワニスは、本発明の目的を損なわない範囲で、その他成分を含有することができる。例えば、シランカップリング剤や分散剤などが挙げられる。
【0058】
前記シランカップリング剤としては、エポキシシラン等やなどが挙げられる。
【0059】
前記分散剤としては、塗料用に使用されている分散剤であれば特に限定されるものではないが、例えばDisperbyk-110、111、180、161、BYK-W996、W9010、W903などが挙げられる。分散剤を用いることにより、アルミナ(B)の分散性を向上させるだけでなく、ワニスの粘度を上述の範囲内に調製することが可能となる。
【0060】
<無機複合シート>
本発明のワニスは、無機複合シートに好適に用いられる。無機複合シートは、上述のワニスをキャリア材に塗布し、加熱乾燥させたものである。
なお、前記無機複合シートが、キャリア材表面において半硬化状態で形成される。すなわち、前記加熱乾燥とは、Bステージ化することであり、キャリア材に塗布されたワニスを加熱することにより、ワニス中のエポキシ樹脂の反応を一部行わせているものである。したがって、本実施形態の無機複合シートは、積層成形の加熱加圧によって一旦溶融した後に硬化する性質を備えているものである。
【0061】
ワニスの塗布方法は特に制限されず、公知の方法により実施することができる。例えば、コンマコート、ダイコート、リップコート、グラビアコート等の方法が挙げられる。所定の厚さの無機複合シートを形成する方法としては、ギャップ間に被塗工物を通過させるコンマコート法、ノズルから流量を調節したワニスを塗布するダイコート法等が好ましい。
【0062】
キャリア材に形成される前記無機複合シートの厚みは、100~200μmであることが好ましい。厚みが100μm以上であると、熱抵抗が小さくなり好ましい。厚みが200μmに近づくでほど、絶縁破壊電圧が大きくなり好ましい。
【0063】
前記キャリア材としては、高分子フィルムや金属シートを用いることが好ましい。前記高分子フィルムとしては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル等のポリオレフィン、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル、ポリカーボネート、アセチルセルローズ、テトラフルオロエチレン等が挙げられる。前記金属シートとしては、金属シートとしては、銅箔、アルミニウム箔、ニッケル箔のような金属箔等を例示することができる。さらには、キャリア材としては、離型紙等が挙げられる。
【0064】
<金属ベース基板>
本発明の無機複合シートは、積層成形し金属ベース基板として好適に用いることができる。具体的には、上述で得られた無機複合シートを2枚以上積層させ、所望の厚みとした後に、その片側又は両側の最外層に金属箔を配置して積層物を構成し、この積層物をプレス成形の様な加熱加圧により積層一体化することで得られる。ここで金属箔としては、銅、アルミニウム、真鍮、ニッケル等の単独、合金、複合の金属箔を用いることができる。積層物を加熱加圧する条件としては、本発明のワニスが硬化する条件で適宜調整して加熱加圧すればよいが、加圧の圧力があまりに低いと、得られる金属ベース基板の内部に気泡が残留し、電気的特性が低下する場合があるため、成形性を満足する条件で加圧することが好ましい。例えば、加熱温度100~200℃、圧力0.98~4.9MPaの条件下で10分~2時間加熱加圧成形することにより一体成形して金属ベース基板を得ることができる。
【0065】
本発明のエポキシ樹脂組成物は、絶縁信頼性と熱伝導性を兼備するものであり、それらを含有する無機複合シートは半導体ウエハーや高輝度LED、パワー半導体デバイス等を実装する放熱基板等のプリント配線板に好適に用いることができる。
【実施例】
【0066】
次に本発明を、実施例、比較例により具体的に説明するが、これらに限定されるものではない。
【0067】
(粘度の評価)
後述する実施例・比較例で得られたワニスの粘度を、E型粘度計TVE-20H(東機産業社製)を用いて粘度(25℃)を測定した。
【0068】
(熱伝導率の評価)
後述する実施例・比較例で得られた金属ベース基板を1cm角にカットした後、両面にカーボンブラックをスプレーすることで測定サンプルを作製した。得られた測定サンプルを用いて、レーザーフラッシュ法により熱伝導率を算出した。
【0069】
(90度ピール強度(引きはがし強さ)の評価)
後述する実施例・比較例で得られた金属ベース基板を50mm×120mmの大きさに切り出して、テストサンプルを得た。得られたテストサンプルの中央幅10mmの銅箔が残るように銅箔をはがし、中央幅10mmの銅箔に対して、JIS C 6481に準拠して、銅箔の引きはがし強さを測定した。ピール強度測定装置としては、島津製作所社製「オートグラフ」を用いた。20個のテストサンプルについて、銅箔の引きはがし強さを測定した。20個のテストサンプルにおける銅箔の引きはがし強さの測定値の平均値を、90度ピール強度とした。
【0070】
(長期絶縁信頼性)
後述する実施例・比較例で得られた金属ベース基板における銅箔をエッチングすることにより、直径2.5cmの円形に銅箔をパターニングして、テストサンプルを得た。得られたテストサンプル20個を用いて、テストサンプル間に3kVの交流電圧を、温度85℃及び湿度85%の環境下で1000時間印加して、絶縁破壊が発生するか否かを評価した。長期絶縁信頼性を以下の基準で判定した。
[長期絶縁信頼性の判定基準]
○:絶縁破壊が発生したテストサンプルが0個
△:絶縁破壊が発生したテストサンプルが1個以上10個未満
×:絶縁破壊が発生したテストサンプルが10個以上
【0071】
(実施例1~3、比較例1~3)
以下に示す、エポキシ樹脂、アルミナ、凝集窒化ホウ素を原料とし、表1に示す配合にて樹脂組成物を調製し、そのままワニスとして用いた。
〔エポキシ樹脂(A)〕
エピクロン850(DIC社製、ビスフェノールA型エポキシ樹脂)
NC-3000(日本化薬社製、フェノールビフェニルアラルキルエポキシ樹脂)
VG-3101(プリンテック社製、3官能エポキシ樹脂)
〔アルミナ(B)〕
AH40-S(DIC社製、平均粒子径32μm、14面体)
DAW45FC(デンカ社製、平均粒子径36μm)
〔凝集窒化ホウ素(C)〕
HP-40MF(水島合金鉄株式会社製、平均粒子径36μm)
HP40-J2(水島合金鉄株式会社製、平均粒子径16μm)
〔その他成分〕
YP50(日鉄マテリアル&ケミカル社製、フェノキシ樹脂)
ジシアンジアミド(日本カーバイド社製、硬化剤)
2E4MZ(四国化成社製、硬化促進剤)
BYK-W903(ビッグケミージャパン社製、分散剤)
KBE-403(信越化学工業社製、カップリング剤、γ―グリシドキシプロピルトリエトキシシラン)
【0072】
(金属ベース基板の作製)
得られたワニスを、プラネタリーミキサーにて混練し、所定量の溶剤(メチルエチルケトンとジメチルホルムアミドの混合液)を配合することにより粘度を3000mPa・sに調製したワニスを得た。次に、このワニスを厚み75μmのポリエチレンテレフタレート(PET)製フィルムに塗布し、130℃で8分間加熱乾燥することにより、キャリア材の一面に厚み150μmでBステージ状態の無機複合シートを形成した。
【0073】
得られた無機複合シートを10枚重ね、銅箔18μmを両側に配置し、真空中で加熱温度175℃、加圧力2.94MPaで90分間、加熱加圧成形し金属ベース基板を作製した。
【0074】
上記で得られたワニスおよび金属ベース基板の評価結果を表1に示した。
【0075】
【要約】
【課題】 熱伝導性と絶縁信頼性、ピール強度の全てを兼備した樹脂組成物、及びワニス、その無機複合シート、金属ベース基板を提供することを目的とする。
【解決手段】 エポキシ樹脂(A)と、アルミナ(B)と、凝集窒化ホウ素(C)を含むエポキシ樹脂組成物であって、前記アルミナ(B)が、多面体、かつ、14面体以上であることを特徴とするエポキシ樹脂組成物を提供する。
【選択図】 なし