(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-11
(45)【発行日】2023-09-20
(54)【発明の名称】定着装置および画像形成装置
(51)【国際特許分類】
G03G 15/20 20060101AFI20230912BHJP
【FI】
G03G15/20 510
G03G15/20 515
G03G15/20 535
(21)【出願番号】P 2019133167
(22)【出願日】2019-07-18
【審査請求日】2022-01-19
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006747
【氏名又は名称】株式会社リコー
(73)【特許権者】
【識別番号】000110077
【氏名又は名称】デュポン・東レ・スペシャルティ・マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】加幡 利幸
(72)【発明者】
【氏名】藤本 一平
(72)【発明者】
【氏名】関 貴之
(72)【発明者】
【氏名】瀬戸 隆
(72)【発明者】
【氏名】島田 浩幸
(72)【発明者】
【氏名】石井 賢治
(72)【発明者】
【氏名】池澤 淳
【審査官】飯野 修司
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-222424(JP,A)
【文献】特開2018-178085(JP,A)
【文献】特開2010-156794(JP,A)
【文献】特開2005-317519(JP,A)
【文献】国際公開第2016/031860(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03G 15/20
F16C 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
無端状のベルトと、前記ベルトの外側に設けられ前記ベルトに対向配置された加圧部材と、前記ベルトを加熱する加熱部材と、前記ベルトの内側に設けられ前記ベルトと前記加圧部材との間に定着ニップを形成するニップ形成部材と、を有する定着装置において、
前記ベルトの内面と前記ニップ形成部材との間に潤滑剤組成物が介在され、
前記潤滑剤組成物が、
下記一般式(1)で表され、40℃における動粘度が92mm
2/秒以上310mm
2/秒以下であるパーフルオロポリエーテル油(A)と、平均一次粒子径が0.2μm以上0.4μm以下の範囲であるポリテトラフルオロエチレン粉末(B)と、を含有し、前記ポリテトラフルオロエチレン粉末(B)の含有量が5重量%以上17.5重量%以下であり、
前記潤滑剤組成物は、
25℃およびせん断速度10/秒における第1せん断粘度が1Pa・s以上15Pa・s以下であり、25℃およびせん断速度100/秒における第2せん断粘度に対する前記第1せん断粘度の比であるチキソトロピーインデックスが、1.2以上5.0以下の範囲であり、
前記潤滑剤組成物における前記パーフルオロポリエーテル油(A)および前記ポリテトラフルオロエチレン粉末(B)以外のその他の成分の含有量が0重量%以上10重量%以下である、
定着装置。
RfO(CF
2CF
2O)
m(CF
2O)
nRf 一般式(1)
〔一般式(1)中、Rfは炭素数1以上4以下のパーフルオロ低級アルキル基であり、mおよびnはそれぞれ0以上の整数であり、mとnとの和は40以上180以下であり、CF
2CF
2O基およびCF
2O基は主鎖中にランダムに結合されている。〕
【請求項2】
無端状のベルトと、前記ベルトの外側に設けられ前記ベルトに対向配置された加圧部材と、前記ベルトを加熱する加熱部材と、前記ベルトの内側に設けられ前記ベルトと前記加圧部材との間に定着ニップを形成するニップ形成部材と、を有する定着装置において、
前記ベルトの内面と前記ニップ形成部材との間に潤滑剤組成物が介在され、
前記潤滑剤組成物が、
下記一般式(1)で表され、40℃における動粘度が92mm
2/秒以上310mm
2/秒以下であるパーフルオロポリエーテル油(A)と、平均一次粒子径が0.2μm以上0.4μm以下の範囲であるポリテトラフルオロエチレン粉末(B)と、を含有し、前記ポリテトラフルオロエチレン粉末(B)の含有量が5重量%以上17.5重量%以下であり、
前記ポリテトラフルオロエチレン粉末(B)の平均二次粒子径が1μm以上10μm以下の範囲であり、
前記潤滑剤組成物における前記パーフルオロポリエーテル油(A)および前記ポリテトラフルオロエチレン粉末(B)以外のその他の成分の含有量が0重量%以上10重量%以下である、
定着装置。
RfO(CF
2CF
2O)
m(CF
2O)
nRf 一般式(1)
〔一般式(1)中、Rfは炭素数1以上4以下のパーフルオロ低級アルキル基であり、mおよびnはそれぞれ0以上の整数であり、mとnとの和は40以上180以下であり、CF
2CF
2O基およびCF
2O基は主鎖中にランダムに結合されている。〕
【請求項3】
前記潤滑剤組成物は、
150℃で30分加熱した後に25℃に冷却するヒートサイクルを5回繰り返したときの、前記ヒートサイクルの150℃における5回の各々の、レオメータで測定したトルクが2,000μNm未満である、
請求項1
または請求項2に記載の定着装置。
【請求項4】
前記パーフルオロポリエーテル油(A)の40℃における動粘度が50mm
2/秒以上400mm
2/秒以下である、
請求項1~請求項3の何れか1項に記載の定着装置。
【請求項5】
前記ポリテトラフルオロエチレン粉末(B)の含有量が5重量%以上10重量%以下の範囲にある、
請求項1~請求項4の何れか1項に記載の定着装置。
【請求項6】
前記ベルトにおける前記加熱部材による加熱領域と、前記ベルトにおける前記定着ニップの形成される領域と、が異なる領域である、
請求項1~請求項
5の何れか1項に記載の定着装置。
【請求項7】
請求項1~請求項
6の何れか1項に記載の定着装置を備えた画像形成装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、定着装置および画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
加熱部材によって加熱される無端状のベルトと、ベルトの内側に設けられ、ベルトの外側に配置された加圧部材とベルトとの間に定着ニップを形成するニップ形成部材と、を有する定着装置が知られている(例えば、特許文献1)。このような定着装置においては、ベルトの熱容量が低いため、ウォームアップ時間が短く、消費電力の少ない定着装置を実現することができる。このような定着装置において、ニップ形成部材とベルトとの間の摺動部に潤滑剤を介在させることで、潤滑性を向上させることが行われている。また、摺動部を構成する少なくとも一方の部材の駆動トルク低減の観点から、常温時や低温時に粘度の低い潤滑剤を用いた技術が開示されている。
【0003】
例えば、特許文献2には、潤滑剤として、分子量の異なる2種類の直鎖状パーフルオロポリエーテル油と、ポリテトラフルオロエチレンと、を含有した組成物が開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、定着装置の駆動および停止が繰り返されると、摺動部の加熱と冷却との対からなるヒートサイクルが繰り返されることとなり、摺動部の潤滑剤保持性が低下し、摺動部から潤滑剤が流出するポンプアウト現象が生じる場合があった。また、従来の潤滑剤を定着装置に用いた場合、潤滑剤の流動性増加が発生し、摺動部の潤滑剤保持性が低下する場合があった。このため、従来技術では、トルク低減とポンプアウト抑制との両立を図ることできず、画像品質の低下が発生する場合があった。
【0005】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、高品質の画像形成を長期に渡って行うことができる、定着装置および画像形成装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明の定着装置は、無端状のベルトと、前記ベルトの外側に設けられ前記ベルトに対向配置された加圧部材と、前記ベルトを加熱する加熱部材と、前記ベルトの内側に設けられ前記ベルトと前記加圧部材との間に定着ニップを形成するニップ形成部材と、を有する定着装置において、前記ベルトの内面と前記ニップ形成部材との間に潤滑剤組成物が介在され、前記潤滑剤組成物が、下記一般式(1)で表され、40℃における動粘度が92mm2/秒以上310mm2/秒以下であるパーフルオロポリエーテル油(A)と、平均一次粒子径が0.2μm以上0.4μm以下の範囲であるポリテトラフルオロエチレン粉末(B)と、を含有し、前記ポリテトラフルオロエチレン粉末(B)の含有量が5重量%以上17.5重量%以下であり、前記潤滑剤組成物は、25℃およびせん断速度10/秒における第1せん断粘度が1Pa・s以上15Pa・s以下であり、25℃およびせん断速度100/秒における第2せん断粘度に対する前記第1せん断粘度の比であるチキソトロピーインデックスが、1.2以上5.0以下の範囲であり、前記潤滑剤組成物における前記パーフルオロポリエーテル油(A)および前記ポリテトラフルオロエチレン粉末(B)以外のその他の成分の含有量が0重量%以上10重量%以下である。
【0007】
RfO(CF2CF2O)m(CF2O)nRf 一般式(1)
【0008】
一般式(1)中、Rfは炭素数1以上4以下のパーフルオロ低級アルキル基であり、mおよびnはそれぞれ0以上の整数であり、mとnとの和は30以上190以下であり、CF2CF2O基およびCF2O基は主鎖中にランダムに結合されている。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、高品質の画像形成を長期にわたって行うことができる、という効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、実施形態の画像形成装置の一例を示す模式図である。
【
図2】
図2は、実施形態の定着装置の一例を示す模式図である。
【
図3】
図3は、変形例1の定着装置の一例を示す模式図である。
【
図4】
図4は、変形例2の定着装置の一例を示す模式図である。
【
図5】
図5は、潤滑剤組成物の熱履歴によるトルクの変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本実施形態にかかる定着装置および画像形成装置について説明する。
【0012】
(第1の実施形態)
本実施形態の定着装置は、無端状のベルトと、ベルトの外側に設けられベルトに対向配置された加圧部材と、ベルトを加熱する加熱部材と、ベルトの内側に設けられベルトと加圧部材との間に定着ニップを形成するニップ形成部材と、を有する定着装置である。本実施形態の定着装置では、ベルトの内面とニップ形成部材との間に潤滑剤組成物が介在されてなる。
【0013】
まず、本実施形態の定着装置に用いる潤滑剤組成物について説明する。
【0014】
<潤滑剤組成物>
本実施形態の潤滑剤組成物は、下記一般式(1)で表され、40℃における動粘度が50mm2/秒以上400mm2/秒以下であるパーフルオロポリエーテル油(A)と、平均一次粒子径が0.15μm以上1.00μm以下の範囲であるポリテトラフルオロエチレン粉末(B)と、を含有し、前記ポリテトラフルオロエチレン粉末(B)の含有量が5重量%以上17.5重量%以下であり、150℃で30分加熱した後に25℃に冷却するヒートサイクルを5回繰り返したときの、前記ヒートサイクルの150℃における5回の各々のトルクが2,000μNm未満である。
【0015】
RfO(CF2CF2O)m(CF2O)nRf 一般式(1)
【0016】
本実施形態の潤滑剤組成物は、上記構成であることによって、トルク低減とポンプアウト抑制との両立を図ることができる。
【0017】
本実施形態の潤滑剤組成物は、例えば、部材同士が接触する部分である摺動部に介在されて用いられる。摺動部を構成する部材は、例えば、軸受と軸受の内側に配置されたシャフト、ベルト部材と該ベルト部材の内側または外側から該ベルト部材を加圧する加圧部材、などが挙げられる。なお、摺動部を構成する部材は、部材同士が接触する部分である領域(摺動部)を構成する部材であればよく、これらに限定されない。
【0018】
本実施形態の潤滑剤組成物は、定着装置における摺動部、すなわち、ベルトの内面とニップ形成部材との間に介在されて用いられる(詳細後述)。本実施形態では、ベルトの内面とニップ形成部材との間の領域を、摺動部と称して説明する。
【0019】
本実施形態では、トルクとは、摺動部を構成する部材(具体的には、後述する定着ベルト、詳細後述)の駆動トルクを表す。部材が軸受の内側に配置されたシャフト(回転体)である場合、トルクは、シャフトを駆動するモータの回転トルクを意味する。摺動部を構成する1対の部材の内、一方の部材が他方の部材に対して駆動(相対移動)する構成である場合、トルクは、該部材を駆動する駆動部の駆動トルクを意味する。
【0020】
ポンプアウトとは、摺動部を構成する部材(例えば、駆動される部材であるベルト)の駆動および停止が繰り返され、摺動部の加熱と冷却との対からなるヒートサイクルが繰り返されることにより、摺動部の潤滑剤保持性が低下し、摺動部から潤滑剤が流出する現象を意味する。ヒートサイクルは、熱履歴と称される場合もある。
【0021】
本実施形態の潤滑剤組成物は、上記パーフルオロポリエーテル油(A)と、上記ポリテトラフルオロエチレン粉末(B)を5重量%以上17.5重量%以下と、を含有した構成とすることで、トルク低減とポンプアウト抑制との両立を図る事が出来ることが明らかとなった。
【0022】
以下、各成分の詳細について説明する。
【0023】
<パーフルオロポリエーテル油(A)>
本実施形態に係るパーフルオロポリエーテル油(A)は、上記一般式(1)で表され40℃における動粘度が50mm2/秒以上400mm2/秒以下である。
【0024】
パーフルオロポリエーテル油(A)の40℃における動粘度は、好ましくは50mm2/秒以上400mm2/秒以下であり、さらに好ましくは80mm2/秒以上350mm2/秒であり、90mm2/秒以上320mm2/秒以下であることが更に好ましい。
【0025】
パーフルオロポリエーテル油(A)の動粘度の測定は、JIS Z8803の方法に従って行なうことができる。
【0026】
上記一般式(1)中、Rfは、炭素数1以上4以下のパーフルオロ低級アルキル基であり、炭素数1以上2以下であることが更に好ましい。Rfは、具体的には、トリフルオロメチル基、ペンタフルオロエチル基、などである。これらの中でも、Rfは、トリフルオロメチル基であることが好ましい。
【0027】
上記一般式(1)中、mとnとの和は、30以上190以下である。また、上記一般式(1)中、nに対するmの比(m/n)は、1以上であることが好ましい。
【0028】
上記一般式(1)で表されるパーフルオロポリエーテル油(A)のCF2CF2O基およびCF2O基は、パーフルオロポリエーテル油(A)の主鎖中にランダムに結合されてなる。
【0029】
CF2CF2O基およびCF2O基がランダムに結合されてなる、とは、直鎖状のパーフルオロポリエーテル油(A)の主鎖が、CF2CF2O基の1または複数の繰返し単位とCF2O基の1または複数の繰返し単位とを交互に配置した構成であり、CF2CF2O基の繰返し単位の数とCF2O基の繰返し単位の数との主鎖方向の配置に規則性が無い事を意味する。
【0030】
上記パーフルオロポリエーテル油(A)は、1種を単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0031】
<ポリテトラフルオロエチレン粉末(B)>
ポリテトラフルオロエチレン粉末(B)は、平均一次粒子径が0.15μm以上1.00μm以下のポリテトラフルオロエチレン(PTFE)樹脂粉末である。
【0032】
平均一次粒子径とは、本実施形態では、個数平均一次粒子径を意味する。ポリテトラフルオロエチレン粉末(B)の平均一次粒子径は、例えばSEM(走査型電子顕微鏡)により観察することができる。
【0033】
なお、本実施形態に係るポリテトラフルオロエチレン粉末(B)の平均一次粒子径は、0.15μm以上1.00μm以下であり、好ましくは、0.2μm以上0.5μm以下である。
【0034】
ポリテトラフルオロエチレン粉末(B)の平均一次粒子径が0.15μmよりも小さいと、ポンプアウトが生じやすくなる。理論に拘束されるものではないが、上記の粒径範囲よりも小さいPTFE樹脂粉末を含有する潤滑剤は、高温時に膨張したパーフルオロポリエーテル油(A)と供に増稠剤であるPTFE樹脂粉末も摺動部から移動し易く、容易にポンプアウトが生じると考えられる。一方、平均一次粒子径が0.15μmよりも大きい粉末を用いた場合には、粉末粒子間の間隙が広くなるために高温時にパーフルオロポリエーテル油のみが移動し易くなる事から、パーフルオロポリエーテル油を保持する増稠剤が熱履歴による基油の膨張収縮に流されず摺動部近傍に留まり、パーフルオロポリエーテル油を保持することでポンプアウトによる潤滑剤の排出を抑制すると考えられる。
【0035】
一方で、ポリテトラフルオロエチレン粉末(B)の平均一次粒子径が1μmよりも大きいと増稠効果が低下する。これを解消するためにはポリテトラフルオロエチレン粉末(B)の添加量を増やさなければならず、摺動トルクが高くなる。
【0036】
また、ポリテトラフルオロエチレン粉末(B)の平均一次粒子径が1μmよりも大きいと、潤滑剤組成物のチキソ性が低下する。また、平均一次粒子径が1μmより大きいポリテトラフルオロエチレン粉末(B)を含む比較潤滑材組成物を摺動部に介在させた場合、摺動部を構成する部材であるベルト(後述する定着ベルト)に線状の凹凸が発生しやすくなり、形成される画像品質が低下すると考えられる。
【0037】
ポリテトラフルオロエチレン粉末(B)の平均二次次粒子径は1μm以上20μm以下であることが好ましく、さらに好ましくは1μm以上10μm以下である。平均二次粒子径がこの範囲内であると、潤滑剤組成物中へのポリテトラフルオロエチレン粉末(B)の分散が容易となり、均一な低トルクの潤滑剤樹脂組成物を提供することができる。
【0038】
なお、平均二次粒子径とは、本実施形態では、数平均二次粒子径を意味する。ポリテトラフルオロエチレン粉末(B)の平均二次粒子径は、例えばSEM(走査型電子顕微鏡)による観察、マイクロトラック法、または光透過法などによって測定することができる。
【0039】
本実施形態のポリテトラフルオロエチレン粉末(B)は、単量体を、乳化重合、懸濁重合、溶液重合などの方法によって重合して得られる。本発明では、乳化重合によって得られたポリテトラフルオロエチレン粉末(B)が好ましい。
【0040】
乳化重合で得られたポリテトラフルオロエチレン粉末(B)は、上記の平均一次粒子径を充足する小粒子径の粉末であり、かつ比表面積が大きく、吸油量も大きい。このため、乳化重合で得られたポリテトラフルオロエチレン粉末(B)は潤滑剤組成物中で分離しにくく、安定な潤滑剤組成物が得られるためである。
【0041】
本実施形態のポリテトラフルオロエチレン粉末(B)の重量平均分子量は、好ましくは1,000~1,000,000である。ポリテトラフルオロエチレン粉末(B)の重量平均分子量は、示差走査熱量分析あるいは、粘弾性やメルトフローレート測定で得られた値から計算することができる。
【0042】
潤滑剤組成物における上記ポリテトラフルオロエチレン粉末(B)の含有量は、潤滑剤組成物を基準として、5重量%以上17.5重量%以下であり、5重量%以上10重量%以下である事が更に好ましい。
【0043】
ポリテトラフルオロエチレン粉末(B)の含有量が5重量%未満であると、得られた潤滑剤組成物が柔らか過ぎ、流動性が大きくなり潤滑箇所からの流出が懸念される。一方でポリテトラフルオロエチレン粉末(B)の含有量が17.5重量%より多いと、得られた潤滑剤組成物が硬過ぎ、低摺動トルクの提供と熱履歴によるポンプアウトに対応することが困難となる。
【0044】
<その他成分>
本実施形態の潤滑剤組成物は、更にその他の成分を含んでいてもよい。潤滑剤組成物中における上記その他成分の含有量は0質量%以上10質量%以下であることが好ましい。ここで、「0質量%」とはその他の成分を含まない形態を意味する。
【0045】
該その他の成分としては、例えば、防錆剤、等が挙げられる。
【0046】
<潤滑剤組成物の調製方法>
本実施形態の潤滑剤組成物は、従来より公知の方法によって調製することができる。例えば、パーフルオロポリエーテル油(A)とポリテトラフルオロエチレン粉末(B)と、を撹拌・混合し、ロールミル等を通すことによって、本実施形態の潤滑グリース組成物を得ることができる。
【0047】
<潤滑剤組成物の測定>
本実施形態の潤滑剤組成物は、上記組成であれば、以下の特性を有している。本実施形態の潤滑剤組成物は、150℃に加熱し30分保持した後に25℃に冷却し30分保持するヒートサイクルを5回繰返したときの、ヒートサイクルの150℃における5回の各々のトルクが2000μNm未満である。
【0048】
また、本実施形態の潤滑剤組成物は、25℃およびせん断速度10/秒における第1せん断粘度(η10)が1Pa・s以上15Pa・s以下であり、25℃およびせん断速度10/秒における第2せん断粘度(η100)に対する上記第1せん断粘度(η100)の比(η10/η100)であるチキソトロピーインデックスが1.2以上5.0以下の範囲にある。
【0049】
潤滑剤組成物を、上記構成とすることで、本実施形態の潤滑剤組成物は、上記範囲の、トルク、第1せん断粘度(η10)、および上記チキソトロピーインデックス((η10)/(η100))を実現することができる。
【0050】
このため、本実施形態の潤滑剤組成物は、トルク低減とポンプアウト抑制との両立を図ることができると考えられる。
【0051】
なお、本実施形態の潤滑剤組成物の、せん断粘度(第1せん断粘度(η10)、第2せん断粘度(η100))、およびヒートサイクルの150℃における5回の各々のトルクは、コーン/プレート型回転粘度計(例えば、アントンパール社製回転式レオメータMCR302)を用いて測定することができる。
【0052】
<画像形成装置>
次に、本実施形態の画像形成装置について説明する。
【0053】
図1は、本実施形態の画像形成装置1の一例を示す模式図である。画像形成装置1は、本実施形態の定着装置20を備えた画像形成装置である。
【0054】
画像形成装置1は、カラーレーザープリンタであり、その装置本体の中央には、4つの作像部4Y,4M,4C,4Kが設けられている。各作像部4Y,4M,4C,4Kは、カラー画像の色分解成分に対応するイエロー(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)、ブラック(K)の異なる色の現像剤を収容している以外は同様の構成となっている。
【0055】
各作像部4Y,4M,4C,4Kは、潜像担持体としてのドラム状の感光体5と、感光体5の表面を帯電させる帯電装置6と、感光体5の表面にトナーを供給する現像装置7と、感光体5の表面をクリーニングするクリーニング装置8などを備える。なお、
図1では、ブラックの作像部4Kが備える感光体5、帯電装置6、現像装置7、クリーニング装置8のみに符号を付しており、その他の作像部4Y,4M,4Cにおいては符号を省略している。
【0056】
各作像部4Y,4M,4C,4Kの下方には、感光体5の表面を露光する露光装置9が配設されている。露光装置9は、光源、ポリゴンミラー、f-θレンズ、反射ミラー等を有し、画像データに基づいて各感光体5の表面へレーザー光を照射するようになっている。
【0057】
各作像部4Y,4M,4C,4Kの上方には、転写装置3が配設されている。転写装置3は、転写体としての中間転写ベルト30と、一次転写手段としての4つの一次転写ローラ31と、二次転写手段としての二次転写ローラ36と、二次転写バックアップローラ32と、クリーニングバックアップローラ33と、テンションローラ34、ベルトクリーニング装置35を備える。
【0058】
中間転写ベルト30は、無端状、すなわち環状のベルトである。中間転写ベルト30は、二次転写バックアップローラ32、クリーニングバックアップローラ33、およびテンションローラ34によって内側から張架されている。本実施形態では、中間転写ベルト30は、二次転写バックアップローラ32の回転駆動によって、
図1中の矢印方向に周回走行(回転)する。
【0059】
4つの一次転写ローラ31は、それぞれ、各感光体5との間で中間転写ベルト30を挟み込んで一次転写ニップを形成している。また、各一次転写ローラ31には、図示しない電源が接続されており、所定の直流電圧(DC)及び/又は交流電圧(AC)が各一次転写ローラ31に印加されるようになっている。二次転写ローラ36は、二次転写バックアップローラ32との間で中間転写ベルト30を挟み込んで二次転写ニップを形成している。また、一次転写ローラ31と同様に、二次転写ローラ36にも図示しない電源が接続されており、所定の直流電圧(DC)及び/又は交流電圧(AC)が二次転写ローラ36に印加されるようになっている。
【0060】
ベルトクリーニング装置35は、中間転写ベルト30に当接するように配設されたクリーニングブラシとクリーニングブレードを有する。このベルトクリーニング装置35から伸びた図示しない廃トナー移送ホースは、図示しない廃トナー収容器の入り口部に接続されている。
【0061】
画像形成装置1の本体の上部には、ボトル収容部2が設けられており、ボトル収容部2には補給用のトナーを収容した4つのトナーボトル2Y,2M,2C,2Kが着脱可能に装着されている。各トナーボトル2Y,2M,2C,2Kと上記各現像装置7との間には、図示しない補給路が設けられており、この補給路を介して各トナーボトル2Y,2M,2C,2Kから各現像装置7へトナーが補給される。
【0062】
一方、画像形成装置1の本体の下部には、記録媒体としての用紙Pを収容した給紙トレイ10、および、給紙トレイ10から用紙Pを搬出する給紙ローラ11等が設けられている。記録媒体には、普通紙以外に、厚紙、はがき、封筒、薄紙、塗工紙(コート紙やアート紙等)、トレーシングペーパ、OHPシート等が含まれる。また、画像形成装置1には、手差し給紙機構 が設けられていてもよい。
【0063】
画像形成装置1の本体の内部には、用紙Pを給紙トレイ10から二次転写ニップを通過させて装置外へ排出するための搬送路Rが配設されている。搬送路Rにおいて、二次転写ローラ36の位置よりも用紙搬送方向上流側には、二次転写ニップへ用紙Pを搬送する搬送手段としての一対のレジストローラ12が配設されている。
【0064】
また、二次転写ローラ36の位置より用紙搬送方向下流側には、用紙Pに転写された未定着画像を定着するための定着装置20が配設されている。定着装置20の詳細は後述する。
【0065】
また、画像形成装置1の定着装置より搬送路Rの用紙搬送方向下流側には、用紙を装置外へ排出するための一対の排紙ローラ13が設けられている。また、画像形成装置1の本体の上面部には、装置外に排出された用紙をストックするための排紙トレイ14が設けられている。
【0066】
上述のように構成された画像形成装置1では、作像動作が開始されると、各作像部4Y,4M,4C,4Kにおける各感光体5が図示しない駆動装置によって図の時計回りに回転駆動され、各感光体5の表面が帯電装置6によって所定の極性に一様に帯電される。帯電された各感光体5の表面には、露光装置9からレーザー光がそれぞれ照射され、各感光体5の表面に静電潜像が形成される。このとき、各感光体5に露光する画像情報は所望のフルカラー画像をイエロー、マゼンタ、シアン及びブラックの色情報に分解した単色の画像情報である。このように各感光体5上に形成された静電潜像に、各現像装置7によってトナーが供給されることにより、静電潜像はトナー画像として顕像化(可視像化)される。
【0067】
また、作像動作が開始されると、二次転写バックアップローラ32が図の反時計回りに回転駆動し、中間転写ベルト30を図の矢印で示す方向に周回走行させる。そして、各一次転写ローラ31に、トナーの帯電極性と逆極性の定電圧又は定電流制御された電圧が印加される。これにより、各一次転写ローラ31と各感光体5との間の一次転写ニップにおいて転写電界が形成される。
【0068】
その後、各感光体5の回転に伴い、感光体5上の各色のトナー画像が一次転写ニップに達したときに、上記一次転写ニップにおいて形成された転写電界によって、各感光体5上のトナー画像が中間転写ベルト30上に順次重ね合わせて転写される。かくして中間転写ベルト30の表面にフルカラーのトナー画像が担持される。また、中間転写ベルト30に転写しきれなかった各感光体5上のトナーは、クリーニング装置8によって除去される。その後、図示しない除電装置によって各感光体5の表面が除電され、表面電位が初期化される。
【0069】
画像形成装置1の下部では、給紙ローラ11が回転駆動を開始し、給紙トレイ10から用紙Pが搬送路Rに送り出される。搬送路Rに送り出された用紙Pは、レジストローラ12によってタイミングを計られて、二次転写ローラ36と二次転写バックアップローラ32との間の二次転写ニップに送られる。このとき二次転写ローラ36には、中間転写ベルト30上のトナー画像のトナー帯電極性と逆極性の転写電圧が印加されており、これにより、二次転写ニップに転写電界が形成されている。
【0070】
その後、中間転写ベルト30の周回走行に伴って、中間転写ベルト30上のトナー画像が二次転写ニップに達したときに、上記二次転写ニップにおいて形成された転写電界によって、中間転写ベルト30上のトナー画像が用紙P上に一括して転写される。また、このとき用紙Pに転写しきれなかった中間転写ベルト30上の残留トナーは、ベルトクリーニング装置35によって除去され、除去されたトナーは図示しない廃トナー収容器へと搬送され回収される。
【0071】
その後、トナー画像が転写された用紙Pは定着装置20へと搬送され、定着装置20によって用紙P上のトナー画像が当該用紙Pに定着される。そして、用紙Pは、排紙ローラ13によって装置外へ排出され、排紙トレイ14上にストックされる。
【0072】
<定着装置>
次に、本実施形態の画像形成装置1に設けられた定着装置20について詳細に説明する。
【0073】
図2は、本実施形態の定着装置20の一例を示す模式図である。
【0074】
定着装置20は、定着ベルト21と、加圧ローラ22と、加熱源23と、ニップ形成部材27と、を備える。
【0075】
定着ベルト21は、無端状のベルトの一例である。定着ベルト21は、回転可能に支持されている。
【0076】
詳細には、定着ベルト21は、ニッケルまたはSUSなどの金属ベルト、または、ポリイミドなどの樹脂材料を用いた無端ベルト(もしくはフィルム)である。定着ベルト21の表層はMPFAまたはPTFE層などの離型層を有し、トナーが付着しないように離型性を有する。定着ベルト21の基材とPFAまたはPTFE層の間にはシリコンゴムの層などで形成される弾性層があってもよい。シリコンゴム層がない場合は熱容量が小さくなり、定着性が向上するが、未定着画像を押し潰して定着させるときに定着ベルト21表面の微小な凹凸が画像に転写されて画像のベタ部にユズ肌状の光沢ムラ(ユズ肌画像)が残るという不具合が生じる。これを改善するにはシリコンゴム層を100[μm]以上設ける必要がある。シリコンゴム層の変形により、微小な凹凸が吸収されユズ肌画像が改善する。
【0077】
加圧ローラ22は、加圧部材の一例である。加圧ローラ22は、定着ベルト21の外側に設けられ、定着ベルト21の外側の面に対向配置されている。なお、定着ベルト21の外側とは、無端状、すなわち環状の定着ベルト21の外周面側を意味する。
【0078】
加圧ローラ22は、円環状または円柱状とされており、加圧ローラ22の回転に伴い、加圧ローラ22に対向配置された定着ベルト21も回転する。回転する加圧ローラ22と定着ベルト21との間の定着ニップNを用紙Pが通過することで、用紙Pに転写されたトナー像が該用紙Pに定着される。
【0079】
加圧ローラ22は例えば図示しない芯金の外周に弾性ゴム層を設け、離型性を得るために表面に離型層(PFAまたはPTFE層)が設けられている。加圧ローラ22は画像形成装置1に設けられたモータなどの駆動源からギヤを介して駆動力が伝達され回転する。また、加圧ローラ22はスプリングなどにより定着ベルト21側に押し付けられており、弾性ゴム層が押し潰されて変形することにより、所定のニップ幅を有している。加圧ローラ22は中空のローラであっても良く、加圧ローラ22にハロゲンヒータなどの加熱源を有していても良い。弾性ゴム層はソリッドゴムでも良いが、加圧ローラ22内部にヒータが無い場合は、スポンジゴムを用いても良い。スポンジゴムの方が、断熱性が高まり定着ベルトの熱が奪われにくくなるので、より望ましい。
【0080】
定着ベルト21および加圧ローラ22は、いずれも、回転軸に対し垂直、つまり
図2において紙面に対し垂直方向に、用紙Pの幅より長く延びた形状を有し、その間に用紙Pを挟んで搬送する。
【0081】
加熱源23は、定着ベルト21を加熱する加熱部材の一例である。加熱源23は、定着ベルト21を加熱する。本実施形態では、加熱源23として、2つの加熱源23(加熱源23A、加熱源23B)を備える。本実施形態では、定着ベルト21の内側に設けられている。定着ベルト21の内側とは、定着ベルト21の内周面側を意味する。加熱源23は、例えば、ハロゲンヒータである。加熱源23Aおよび加熱源23Bは、各々長手方向に長い棒状部材であり、長手方向の両端部を、定着装置20の側板またはホルダに固定保持されている。
【0082】
ニップ形成部材27は、ニップ形成部材の一例である。ニップ形成部材27は、定着ベルト21の内側に設けられ、定着ベルト21と加圧ローラ22との間に定着ニップNを形成する。
【0083】
定着ベルト21は、内側に設けられた複数の加熱源23(23A、23B)としてのハロゲンヒータの輻射熱によって加熱される。なお、加熱源23は、ハロゲンヒータに限定されない。反射板28(28A、28B)は、加熱源23の輻射熱を反射し、効率的に定着ベルト21を加熱することができる。
【0084】
ニップ形成部材27は、定着ベルト21の内側に配置されている。ニップ形成部材27は、定着ベルト21の内周面に当接され、加圧ローラ22による押圧によって厚みが変化せず、かつ熱移動を行う。
【0085】
ニップ形成部材27には、熱伝導性、機械的強度を考慮し、鉄、ニッケル、チタン、アルミ、銅等の金属、ステンレス鋼、真鍮、アルミニウム合金等の合金が用いられる。また、ニップ形成部材27の表面は、摺動性の向上、耐食性の付与及び物理的形状形成によるグリースの保持を目的に、塗装が施されていてもよい。塗装としては、フィラーとして炭素材料、グラファイト、ポリテトラフルオロエチレン、窒化ホウ素、に硫化モリブデン等の固体潤滑剤を含有し、ポリアミドイミド樹脂・エポキシ樹脂・アクリル系樹脂等の耐熱性樹脂をバインダーとした塗装が用いられる。
【0086】
ニップ形成部材27における、定着ベルト21との当接面の反対側の面には、ベース部材24と、ベース部材24を補強するステー部材25と、が設けられている。
【0087】
ステー部材25は、ベース部材24を補強する部材である。ステー部材25は、定着ベルト21の幅方向に渡って配設され、ベース部材24を固定支持する。ベース部材24がステー部材25によって固定支持されることで、加圧ローラ22からの圧力によってベース部材24に撓みが生じることを防止し、加圧ローラ22の軸方向(長手方向)に渡って均一なニップ幅が得られる。
【0088】
ベース部材24は、機械的強度が高く耐熱温度200℃以上の耐熱性部材、特に耐熱性樹脂、例えばポリイミド(PI)樹脂、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)樹脂、それらをガラス繊維で強化したもので構成することが好ましい。これにより、トナー定着温度域で、熱によるベース部材24の変形が防止され、安定した定着ニップ部の状態が確保される。
【0089】
また、定着ベルト21の外側には、温度検知部29設けられている。温度検知部29は、定着ベルト21の表面温度(定着温度)を検知する。表面温度の検知結果は、加熱源23(加熱源23A、加熱源23B)の温度制御に用いられる。
【0090】
また、定着ニップNの用紙Pの排出側には、分離ユニット40が配置されている。分離ユニット40は、定着ニップNへの用紙Pの搬送を案内すると共に、用紙Pを定着ベルト21から分離する。
【0091】
本実施形態では、定着ベルト21の内面とニップ形成部材27との間の摺動部Sには、上述した本実施形態の潤滑剤組成物が介在されている。
【0092】
すなわち、摺動部Sは、定着ベルト21の内面とニップ形成部材27との間の領域であり、ニップ形成部材27における定着ベルト21の内周面との当接領域である。言い換えると、摺動部Sは、定着ベルト21の内周面における、ニップ形成部材27との当接領域である。
【0093】
摺動部Sに潤滑剤組成物が介在されている、とは、摺動部S(すなわち、定着ベルト21の内面とニップ形成部材27との間)に、潤滑剤組成物が塗布されていることを意味する。
【0094】
なお、潤滑剤組成物は、ニップ形成部材27における定着ベルト21との当接面全面に塗布されていることが好ましい。
【0095】
ここで、
図2には、潤滑剤組成物を貯留する貯留部を備えない構成の定着装置20を一例として示した。このため、本実施形態の定着装置20は、潤滑剤組成物を蓄えておく構成ではないため、潤滑剤組成物の使用量を抑制することが可能となり、コスト削減を図ることができる。しかし、潤滑剤組成物の使用量が少ないため、潤滑剤組成物の加熱および冷却に伴う流出、すなわち、摺動部Sから潤滑材組成物が流出するポンプアウト現象を抑制する必要がある。特に、ニップ形成部材27の端部における、定着ベルト21に対して非接触な領域に潤滑剤組成物が流出すると、摺動部Sにおける潤滑剤組成物の枯渇に繋がる場合がある。
【0096】
また、
図2に示す定着装置20は、定着ベルト21の内面における、加熱源23によって加熱される加熱領域Qと、定着ベルト21における定着ニップNの形成される領域と、が異なる領域となっている。このため、定着ベルト21の内面における、加熱源23によって加熱されない領域に存在する潤滑剤組成物は、加熱領域Qに存在する潤滑剤組成物に比べて低粘度となる。このため、摺動部Sから潤滑剤組成物が流出すると、ニップ形成部材27の当接によって定着ベルト21の内面に摩耗が生じやすくなる。
【0097】
また、定着ベルト21の内面の摩耗粉が潤滑剤組成物に混入すると、潤滑剤組成物の粘度はさらに上昇し、摺動部Sにおける潤滑性の低下が起きやすい。さらに、摩耗粉は、ニップ形成部材27端部にも溜まりやすく、摩耗粉が潤滑剤組成物を吸い上げやすくなり、さらに摺動部Sの潤滑性が低下する。
【0098】
ここで、上述したように、本実施形態の潤滑剤組成物は、上記特有の構成である。
【0099】
すなわち、上述したように、本実施形態の潤滑剤組成物は、上述したヒートサイクルを5回繰返したときの、ヒートサイクルの150℃における5回の各々のトルクが2000μNm未満である。
【0100】
このように、本実施形態の定着装置20の摺動部Sに介在される潤滑剤組成物は、ヒートサイクルを繰り返しても、トルクの変化が非常に少ない。これは、摺動部Sから潤滑剤組成物が流出する現象(ポンプアウト)が生じにくいことを示している。よって、本実施形態の潤滑剤組成物は、摺動部Sの加熱と冷却との対からなるヒートサイクルの繰返しによる摺動部Sの潤滑剤保持性の低下を抑制することができる。このため、本実施形態の定着装置20は、定着装置20の駆動、放置による冷却を繰り返しても、摺動部Sからの潤滑剤組成物の流出が少なくなるため、定着装置20の寿命を大幅に延ばすことが可能となる。
【0101】
また、本実施形態の潤滑剤組成物は、25℃およびせん断速度10/秒における第1せん断粘度(η10)が1Pa・s以上15Pa・s以下であり、25℃およびせん断速度100/秒における第2せん断粘度(η100)に対する前記第1せん断粘度(η10)の比((η10)/(η100))であるチキソトロピーインデックスが、1.2以上5.0以下である。
【0102】
第1せん断粘度(η10)およびチキソトロピーインデックスが上記範囲内であれば、潤滑剤組成物を定着ベルト21の摺動部Sに介在させた際に、重力の影響による移動によって潤滑剤組成物の流出が発生することが抑制され、良好な摺動性を実現することができる。また、低温および常温時の定着ベルト21のトルク低減を図ることができる。
【0103】
このため、定着装置20における、ニップ形成部材27と定着ベルト21との間の領域である摺動部Sに本実施形態の潤滑剤組成物を介在させることで、本実施形態の定着装置20および定着装置20を備えた画像形成装置1は、定着ベルト21の摩耗抑制、摩耗粉の発生、およびトルク低減を図ることができる。
【0104】
従って、本実施形態の画像形成装置1および定着装置20は、高品質の画像形成を長期にわたって行うことができる。
【0105】
また、本実施形態の画像形成装置1および定着装置20では、トルク低減を図ることができるため、消費電力の低減、および、信頼性の向上を図ることができる。また、画像形成装置1および定着装置20の寿命を大幅に延ばすことができる。
【0106】
また、本実施形態の画像形成装置1および定着装置20では、ポンプアウト抑制を図ることができるため、潤滑剤組成物の流出による汚染の抑制された画像形成装置1および定着装置20を提供することができる。なお、本実施形態の定着装置20のベース部材24に加熱機構を備えた構成としても良い。この場合、加熱源23の出力を低く設定することができる。
【0107】
(変形例1)
定着装置20の構成は、上記実施形態に示す構成に限定されない。
図3は、本変形例の定着装置20Bの一例を示す模式図である。定着装置20Bは、定着装置20の変形例である。なお、
図3において、
図2に示す定着装置20と同じ機能および同じ構成部分には、同じ符号を付与して詳細な説明を省略する。
【0108】
定着装置20Bは、定着ベルト21と、加圧ローラ22と、加熱源23と、ベース部材24と、ステー部材25と、ニップ形成部材27と、温度検知部29と、分離ユニット40と、を備える。定着装置20Bは、1つの加熱源23を備える点、および反射板28(28A、28B)を備えない点以外は、
図2の定着装置20と同様の構成である。
【0109】
また、本変形例の定着装置20Bは、上記実施形態の定着装置20と同様に、定着ベルト21の内面とニップ形成部材27との間の摺動部Sには、上述した本実施形態の潤滑剤組成物が介在されている。
【0110】
このため、定着装置20Bは、上記実施形態の定着装置20と同様に、定着装置20Bにおけるトルク低減およびポンプアウト抑制を図ることができる。すなわち、本変形例の定着装置20Bおよび定着装置20Bを備えた画像形成装置1は、定着ベルト21の摩耗抑制、摩耗粉の発生、およびトルク低減を図ることができる。
【0111】
また、上述したように、本変形例の定着装置20Bには、反射板28が設けられていない構成である。このため、加熱源23は、定着ベルト21のみではなく、ステー部材25も加熱する。よって、ニップ形成部材27は、ベース部材24およびステー部材25Bを介して、加熱源23によって加熱されることとなる。
【0112】
このため、定着装置20Bの稼働直後の摺動部Sの摺動性を、上記実施形態の定着装置20(
図2参照)に比べて良好とすることができる。
【0113】
従って、本変形例の定着装置20Bは、上記実施形態の定着装置20の効果に加えて、更に、高品質の画像形成を長期にわたって行うことができる。
【0114】
なお、本変形例の定着装置20Bのベース部材24に、加熱機構を備えた構成としてもよい。この場合、加熱源23の出力を低く設定、または、加熱源23を備えない構成とすることができる。
【0115】
(変形例2)
定着装置20の構成は、上記実施形態および上記変形例に示す構成に限定されない。
図4は、本変形例の定着装置20Cの一例を示す模式図である。定着装置20Cは、定着装置20の変形例である。なお、
図4において、
図2に示す定着装置20と同じ機能および同じ構成部分には、同じ符号を付与して詳細な説明を省略する。
【0116】
定着装置20Cは、定着ベルト121と、加圧ローラ22と、IH(Induction Heating)コイルユニット44と、ベース部材24と、ステー部材25と、ニップ形成部材27と、温度検知部29と、分離ユニット40と、を備える。
【0117】
定着装置20Cは、定着ベルト21に代えて定着ベルト121を備え、加熱源23に代えてIHコイルユニット44を備える。また、定着装置20Bは、ソフトフェライト45と、温感磁性合金50と、磁場遮蔽板51と、を備える。
【0118】
定着ベルト121は、無端状のベルトの一例である。定着ベルト121は、回転可能に支持されている。なお、定着ベルト121は、IH定着用の層構成である点以外は、定着ベルト21と同様である。
【0119】
詳細には、定着ベルト121は、IH定着用の構成となっており、例えば、内側からベース層、発熱層、複合機能層、弾性層、離形層から成る多層構造のエンドレスベルトである。例えば、ベース層はΦ30mmのシームレスポリイミド、発熱層は薄膜非磁性金属である銅、複合機能層はニッケル、弾性層はシリコンゴム、離形層はPFA樹脂で構成され、全体の厚みは約300μmである。定着ベルト121の離型層によってトナーに対する離型性が担保される。
【0120】
上記実施形態と同様に、ベース部材24は、定着ベルト121の幅方向に渡って配設され、ステー部材25によって固定支持されている。このため、加圧ローラ22からの圧力によってベース部材24、ニップ形成部材27に撓みが生じることが防止され、加圧ローラ22の軸方向(長手方向)に渡って均一なニップ幅が得られる。加圧ローラ22が不図示の駆動部によって
図2の矢印方向に回転されることで、この回転に伴って定着ベルト121も矢印方向に回転する。
【0121】
IHコイルユニット44は、加熱源の一例であり、定着ベルト121を定着ベルト121の外側から加熱する。IHコイルユニット44は、定着ベルト121の外側における、定着ニップNの反対側の領域に、定着ベルト121に対して非接触に配置されている。定着ベルト121の内側における、IHコイルユニット44との対向領域には、温感磁性合金50および磁場遮蔽板51が設けられている。温感磁性合金50および磁場遮蔽板51は、定着ベルト121の内周面に対して非接触に配置されている。磁場遮蔽板51は、例えば、アルミで構成される。
【0122】
すなわち、本変形例の定着装置20Cは、IH定着方式の定着装置20である。IH定着方式では、定着ベルト121とIHコイルユニット44とを、二つの強磁性体であるソフトフェライト45と温感磁性合金50とで挟み込み、IHコイルユニット44から発生する磁束を効率よく熱エネルギーにすることで定着ベルト121を加熱する。
【0123】
本変形例では、温度検知部29は、IHコイルユニット44の近傍に配置され、定着ベルト121上の表面温度を検知する。表面温度の検知結果は、IHコイルユニット44の温度制御に用いられる。
【0124】
本変形例の定着装置20Cは、上記実施形態の定着装置20と同様に、定着ベルト121の内面とニップ形成部材27との間の摺動部Sには、上述した本実施形態の潤滑剤組成物が介在されている。
【0125】
このため、定着装置20Cは、上記実施形態の定着装置20と同様に、定着装置20Cにおけるトルク低減およびポンプアウト抑制を図ることができる。すなわち、本変形例の定着装置20Cおよび定着装置20Cを備えた画像形成装置1は、定着ベルト121の摩耗抑制、摩耗粉の発生、およびトルク低減を図ることができる。
【0126】
従って、本変形例の定着装置20Cは、上記実施形態の定着装置20と同様に、高品質の画像形成を長期に渡って行うことができる。なお、本変形例の定着装置20Cのベース部材24に、加熱機構を備えた構成としても良い。
【0127】
以下に本発明をさらに詳細に説明するために実施例を示すが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、符号は、上記に図を参照して説明した各構成に対応している。
【実施例】
【0128】
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に制限されるものではない。
【0129】
<パーフルオロポリエーテル油(A)の調整>
パーフルオロポリエーテル油(A)として、以下のA1、A2、A3の3種類を用意した。
・A1:パーフルオロポリエーテル
40℃の動粘度:92mm2/秒
一般式(1)中、Rf=トリフルオロメチル基,m+n=40~180
・A2:パーフルオロポリエーテル
40℃の動粘度:159mm2/秒
一般式(1)中、Rf=トリフルオロメチル基,m+n=40~180
・A3:パーフルオロポリエーテル
40℃の動粘度:310mm2/秒
一般式(1)中、Rf=トリフルオロメチル基,m+n=40~180
【0130】
<ポリテトラフルオロエチレン粉末(B)の調整>
ポリテトラフルオロエチレン粉末(B)として、以下のB1、B2の2種類を用意した。
・B1:ポリテトラフルオロエチレン
乳化重合品
平均一次粒子径:0.2μm~0.4μm
平均二次粒子径:5μm
・B2:ポリテトラフルオロエチレン
乳化重合品
平均一次粒子径:0.125μm
平均二次粒子径:4μm
【0131】
<潤滑剤組成物1~潤滑剤組成物5,比較潤滑剤組成物1~比較潤滑剤組成物4>
上記に調整したパーフルオロポリエーテル油(A)であるA1、A2、A3の何れか1つと、ポリテトラフルオロエチレン粉末(B)であるB1またはB2とを、表1に示す含有量(重量%)で均一に混合し、三本ロールミルで混練し、脱泡を行い、実施例1~実施例5の潤滑剤組成物1~潤滑剤組成物5と、比較例1~比較例4の比較潤滑剤組成物1~比較潤滑剤組成物4と、を得た。なお、表1に示す含有量(重量%)は、潤滑剤組成物(比較潤滑剤組成物)100重量%に対する含有量を示す。
【0132】
<評価>
潤滑剤組成物1~潤滑剤組成物5、および、比較潤滑剤組成物1~比較潤滑剤組成物4、の各々について、せん断粘度(第1せん断粘度(η10)、第2せん断粘度(η100))、チキソトロピーインデックス((η10)/(η100))、ヒートサイクルの150℃における5回の各々のトルクを測定した。なお、各種試験方法については以下の通りである。
【0133】
測定は、アントンパール社製回転式レオメータMCR302を用い、以下の条件で行った。
【0134】
せん断粘度:ギャップを0.1mmとしたパラレルプレートを用いて測定した。具体的には、直径25mmのプレート(可動プレート)と、相対するプレート(固定プレート)との間隔(ギャップ)を0.1mmとし、温度を25℃に設定し、恒温(25℃)環境下で該ギャップに潤滑剤組成物1を介在させ、せん断速度10/秒で可動プレートを2分間回転させたときの、最後の10秒間のせん断粘度の平均値を、潤滑剤組成物1の第1せん断粘度(η10)として測定した。同様に、温度を25℃に設定したまま、せん断速度100/秒で可動プレートを2分間回転させたときの、最後の10秒間のせん断粘度の平均値を、潤滑剤組成物1の第2せん断粘度(η100)として測定した。なお、せん断粘度(第1せん断粘度、第2せん断粘度)の記録は毎秒行い、1分51秒から2分までに得られた10点のせん断粘度の平均値を算出した。
【0135】
チキソトロピーインデックス:測定温度25℃でせん断速度10/秒の第1せん断粘度(η10)およびせん断速度100/秒の第2せん断粘度(η100)を上述のように測定し、これらのせん断粘度の比率をチキソトロピーインデックスとした。
チキソトロピーインデックス(TI値)=[η10]/[η100]
【0136】
上記測定および算出を、潤滑剤組成物1~潤滑剤組成物5、および、比較潤滑剤組成物1~比較潤滑剤組成物4、の各々について行った。せん断粘度(第1せん断粘度(η10)、第2せん断粘度(η100))の測定結果、および、チキソトロピーインデックス(TI値)((η10)/(η100))の算出結果を、表1に示した。
【0137】
【0138】
熱履歴測定
潤滑剤組成物1~潤滑剤組成物5、および、比較潤滑剤組成物1~比較潤滑剤組成物4、の各々について、熱履歴を測定した。上記と同様に、直径25mmのプレートを用いて、アントンパール社製回転式レオメータMCR302を用いた。ギャップは0.1mmに設定した。
【0139】
上記25℃におけるせん断粘度の測定後、以下の(1)と(2)の工程からなるヒートサイクルを5回繰り返した。
【0140】
(1)プレートの回転駆動を停止した状態で、プレートの温度を150℃に加熱し、150℃を30分間温度保持した後のトルク(150℃のトルク)を測定。
(2)プレートの温度を下降させて25℃に冷却した後、25℃を30分間保持。
【0141】
トルク値は、せん断粘度と同様に直径25mmのパラレルプレートを用いて、アントンパール社製回転式レオメータMCR302を用いて測定した。ギャップを0.1mm、温度を25℃に設定し、せん断速度10/秒で2分間回転させたときの最終10秒間のトルク値の平均値を算出した。
【0142】
潤滑剤組成物1~潤滑剤組成物5、および、比較潤滑剤組成物1~比較潤滑剤組成物4、の各々の、ヒートサイクル1~5回の各々の150℃のトルクの測定結果を、表2および
図1に示した。また、表2には、潤滑剤組成物1~潤滑剤組成物5、および、比較潤滑剤組成物1~比較潤滑剤組成物4、の各々の、ヒートサイクル1~5回の150℃のトルクの最大値を示した。
【0143】
【0144】
表1に示すように、潤滑剤組成物1~潤滑剤組成物5の第1せん断粘度(η10)は1Pa・s以上15Pa・s以下であり、チキソトロピーインデックス(TI値:(η10)/(η100))は、1.2以上5.0以下であった。一方、比較潤滑剤組成物1、2および4は、第1せん断粘度(η10)およびチキソトロピーインデックス(TI値:(η10)/(η100))の少なくとも一方が、上記範囲外であった。
【0145】
また、表2および
図1に示すように、潤滑剤組成物1~潤滑剤組成物5の、150℃で加熱した後に25℃に冷却するヒートサイクルを5回繰り返した時の、ヒートサイクルの150℃における5回の各々のトルクは、何れも2000μNm未満であった。一方、比較潤滑剤組成物1~比較潤滑剤組成物4の、ヒートサイクルの150℃における5回のトルクには、2000μNmを超える値が含まれていた。
【0146】
このため、これらの評価結果から、潤滑剤組成物1~潤滑剤組成物5は、比較潤滑剤組成物1~比較潤滑剤組成物4に比べて、トルク低減と、ポンプアウト抑制と、の両立を図ることができることが確認できた。
【0147】
<実施例1~実施例3,比較例1~比較例2>
カラーレーザープリンタSP C840(リコー社製)の定着装置を取り出し、
図2に示す定着装置20を組み込んだ試験機を作製した。
【0148】
(実施例1)
定着装置20における定着ベルト21の内面とニップ形成部材27との間の摺動部Sに、上記に調整した潤滑剤組成物1を塗布した。詳細には、ニップ形成部材27における定着ベルト21との対向面の全面に渡って、単位面積当たりの塗布量10~45mg/cm2となるように、潤滑剤組成物1を塗布した。そして、塗布後の定着装置20を上記カラーレーザープリンタSP C840に組み付け、15℃の温度環境でランニング試験を行った。ランニング試験は、6枚連続印刷を行った後に50秒休止する一連の処理を複数回繰返し、定着の(定着ベルト21の)トルクの推移を測定した。トルク測定には、トルク検出器SS-050(小野測器製)を用いた。そして、定着のトルクの推移から、規定枚数(300000枚)の印刷が可能か否かを評価した。
【0149】
(実施例2~実施例3,比較例1~比較例2)
また、潤滑剤組成物1に代えて、潤滑剤組成物2、潤滑剤組成物4、比較潤滑剤組成物2、比較潤滑剤組成物3、の各々を用いた点以外は、実施例1と同様にして、トルク測定を行い、評価を行った。
【0150】
評価結果を表3に示した。
【0151】
なお、表3中、A、B、C、は、各々、以下を示す。
A:余裕をもって規定枚数を印刷可能
B:規定枚数を印刷可能
C:規定枚数を印刷できない
【0152】
【0153】
なお、上記評価結果“A”の“余裕をもって規定枚数を印刷可能”とは、規定枚数(上記300000枚)を印刷しても、画質劣化が全く発生しない事を意味する。また、上記評価結果“B”の規定枚数を印刷可能とは、印刷した規定枚数の内、規定枚数(上記300000枚)以内で、薄れ、色ズレが僅かに発生するものの、画像品質として許容範囲である状態を意味する。また、上記評価結果“C”の“規定枚数を印刷できない”とは、印刷した規定枚数の内、規定枚数(上記300000枚)以内で、許容できない異常画像が発生する。または、紙詰まりが発生し、印刷不能となる状態を意味する。
【0154】
表3に示すように、潤滑剤組成物1、潤滑剤組成物2、潤滑剤組成物4、の各々を摺動部Sに介在させた場合、比較潤滑剤組成物2および比較潤滑剤組成物3の各々を摺動部Sに介在させた場合に比べて、画質向上が図れた。
【0155】
<実施例4~実施例6,比較例3~比較例4>
カラーレーザープリンタSP C841(リコー社製)の定着装置を取り出し、
図4の構成の定着装置20Cを組み込んだ試験機を作製した。
【0156】
(実施例4)
定着装置20Cにおける定着ベルト121の内面とニップ形成部材27との間の摺動部Sに、上記に調整した潤滑剤組成物2を塗布した。詳細には、ニップ形成部材27における定着ベルト121との対向面の全面に渡って、単位面積当たりの塗布量10~45mg/cm2となるように、潤滑剤組成物2を塗布した。そして、塗布後の定着装置20Cを上記カラーレーザープリンタSP C841に組み付け、28℃の温度環境でランニング試験を行った。ランニング試験は、18枚連続印刷を行った後に110秒休止する一連の処理を複数回繰返し、定着の(定着ベルト121の)トルクの推移を測定した。トルク測定には、トルク測定にはトルク検出器SS-050(小野測器製)を用いた。そして、定着のトルクの推移から、規定枚数(300000枚)の印刷が可能か否かを評価した。
【0157】
(実施例5~実施例6,比較例3~比較例4)
また、潤滑剤組成物2に代えて、潤滑剤組成物3、潤滑剤組成物5、比較潤滑剤組成物1、比較潤滑剤組成物4、の各々を用いた点以外は、実施例4と同様にして、トルク測定を行い、評価を行った。
【0158】
評価結果を表4に示した。なお、表4中、A、B、C、の評価基準は、表3と同様である。
【0159】
【0160】
表4に示すように、潤滑剤組成物2、潤滑剤組成物3、潤滑剤組成物5の各々を摺動部Sに介在させた場合、比較潤滑剤組成物1および比較潤滑剤組成物4の各々を摺動部Sに介在させた場合に比べて、画質向上が図れた。
【0161】
<実施例7,比較例5>
カラーレーザープリンタSP C840(リコー社製)の定着装置を取り出し、
図3の構成の定着装置20Bを組み込んだ試験機を作製した。
【0162】
(実施例7)
定着装置20Bにおける定着ベルト21の内面とニップ形成部材27との間の摺動部Sに、上記に調整した潤滑剤組成物2を塗布した。詳細には、ニップ形成部材27における定着ベルト21との対向面の全面に渡って、単位面積当たりの塗布量10~45mg/cm2となるように、潤滑剤組成物2を塗布した。そして、塗布後の定着装置20Bを上記カラーレーザープリンタSP C840に組み付け、15℃の温度環境でランニング試験を行った。ランニング試験は、4枚連続印刷を行った後に60秒休止する一連の処理を複数回繰返し、定着の(定着ベルト21の)トルクの推移を測定した。トルク測定には、トルク検出器SS-050(小野測器製)を用いた。そして、定着のトルクの推移から、規定枚数(300000枚)を用いた。そして、定着のトルクの推移から、規定枚数(300000枚)の印刷が可能か否かを評価した。
【0163】
(比較例5)
また、潤滑剤組成物2に代えて、比較潤滑剤組成物3を用いた点以外は、実施例7と同様にして、トルク測定を行い、評価を行った。
【0164】
評価結果を表5に示した。なお、表5中、A、C、の評価基準は、表3と同様である。
【0165】
【0166】
表5に示すように、潤滑剤組成物2を摺動部Sに介在させた場合、比較潤滑剤組成物3を摺動部Sに介在させた場合に比べて、画質向上が図れた。
【0167】
<実施例8>
上記に調整したパーフルオロポリエーテル油(A)であるA2を90.5質量%と、(B)ポリテトラフルオロエチレン粉末(乳化重合品、平均一次粒子径0.40μm、平均二次粒子径5μm)9.5質量%を、三本ロールミルにより混練し、脱泡することで、潤滑剤組成物6を調整した。
【0168】
実施例1と同様に、カラーレーザープリンタSP C840(リコー社製)の定着装置を取り出し、潤滑剤組成物1に代えて潤滑剤組成物6を用いる点以外は、実施例1と同様にして、摺動部Sに潤滑剤組成物6を塗布した。
【0169】
そして、塗布後の定着装置20を上記カラーレーザープリンタSP C840に組み付け、24℃の温度環境でランニング試験を行った。ランニング試験は、10枚連続印刷を行った後に60秒休止する一連の処理を複数回繰返し、定着の(定着ベルト21の)トルクの推移を測定した。トルク測定には、トルク検出器SS-050(小野測器製)を用いた。そして、定着のトルクの推移から、規定枚数(300000枚)の印刷が可能か否かを評価した。
【0170】
その結果、“余裕をもって規定枚数を印刷可能”を示す評価結果“A”が得られた。このため、潤滑剤組成物6を用いた場合についても、画質向上が図れた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0171】
【文献】特開2008-096929号公報
【文献】特開2003-206491号公報