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  • 特許-クレーンおよび高潮対策方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-11
(45)【発行日】2023-09-20
(54)【発明の名称】クレーンおよび高潮対策方法
(51)【国際特許分類】
   B66C 13/00 20060101AFI20230912BHJP
   B66C 9/08 20060101ALI20230912BHJP
【FI】
B66C13/00 A
B66C9/08
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020048789
(22)【出願日】2020-03-19
(65)【公開番号】P2021147178
(43)【公開日】2021-09-27
【審査請求日】2022-12-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000005902
【氏名又は名称】株式会社三井E&S
(74)【代理人】
【識別番号】110001368
【氏名又は名称】清流国際弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100129252
【弁理士】
【氏名又は名称】昼間 孝良
(74)【代理人】
【識別番号】100155033
【弁理士】
【氏名又は名称】境澤 正夫
(72)【発明者】
【氏名】乾 龍馬
(72)【発明者】
【氏名】吉浦 慎一
【審査官】今野 聖一
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-060602(JP,A)
【文献】米国特許第05492067(US,A)
【文献】特開平9-144926(JP,A)
【文献】特開昭52-009229(JP,A)
【文献】特開2018-144962(JP,A)
【文献】欧州特許出願公開第03375749(EP,A1)
【文献】特開2013-162603(JP,A)
【文献】特開2004-067295(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B66C 9/00-11/26;
13/00-15/06;
17/00-17/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行装置の車輪に動力を伝達する走行用のモータを備えるクレーンにおいて、
前記モータと前記車輪との間に配置される分離機構を備えていて、高潮対策を行う際に前記走行装置から前記モータを分離可能とする構成を前記分離機構が有することを特徴とするクレーン。
【請求項2】
前記走行装置から分離される前記モータを上方に吊り上げる懸吊機構を有する請求項1に記載のクレーン。
【請求項3】
前記モータに接続されるケーブルを備えていて、前記懸吊機構により前記モータが吊り上げられる際に前記モータとの接続を維持できる程度の長さを前記ケーブルが備える請求項2に記載のクレーン。
【請求項4】
走行装置の車輪に動力を伝達する走行用のモータを備えるクレーンの高潮対策方法において、
前記モータと前記車輪との間に分離機構が配置されていて、高潮対策を行う際に前記分離機構により前記モータが前記走行装置から分離されることを特徴とする高潮対策方法。
【請求項5】
前記走行装置から分離される前記モータが、上方に吊り上げられた後に前記クレーンに固定される請求項4に記載の高潮対策方法。
【請求項6】
前記モータに接続されているケーブルの接続を維持したまま前記モータが上方に吊り上げられる請求項5に記載の高潮対策方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高潮の際に走行用のモータが保護されるクレーンおよび高潮対策方法に関するものであり、詳しくは結露の発生によるモータの内部の腐食を抑制できるクレーンおよび高潮対策方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
高潮対策を施したクレーンが種々提案されている(例えば特許文献1参照)。特許文献1に記載のクレーンは防水モータを備えていた。外部からの水の侵入を防止するこの防水モータは、防水モータの内部の水蒸気を外部に排出できない。そのため防水モータの内部で結露が発生する問題を有していた。コイルや端子などモータの内部が腐食する不具合があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】日本国特開2016-60602号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は上記の問題を鑑みてなされたものであり、その目的は高潮対策によりモータの水没を回避するとともに、モータの内部の腐食を抑制できるクレーンおよび高潮対策方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の目的を達成するためのクレーンは、走行装置の車輪に動力を伝達する走行用のモータを備えるクレーンにおいて、前記モータと前記車輪との間に配置される分離機構を備えていて、高潮対策を行う際に前記走行装置から前記モータを分離可能とする構成を前記分離機構が有することを特徴とする。
【0006】
上記の目的を達成するための高潮対策方法は、走行装置の車輪に動力を伝達する走行用のモータを備えるクレーンの高潮対策方法において、前記モータと前記車輪との間に分離機構が配置されていて、高潮対策を行う際に前記分離機構により前記モータが前記走行装置から分離されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、走行装置からモータを分離して高所等に退避させることができるため、モータの水没を回避するには有利である。また内部の水蒸気を外部に排出できるモータを採用できるため、モータの内部の腐食を抑制するには有利である。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】クレーンを例示する説明図である。
図2図1のクレーンの高潮対策時の状態を例示する説明図である。
図3図2のA-A矢視を例示する説明図である。
図4図2の変形例を例示する説明図である。
図5図2の変形例を例示する説明図である。
図6】分離機構の変形例を例示する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、クレーンおよび高潮対策方法を図に示した実施形態に基づいて説明する。図中ではクレーンの走行方向を矢印y、この走行方向を直角に横断する横行方向を矢印x、上下方向を矢印zで示している。
【0010】
図1に例示するようにクレーン1は、脚構造体2の下方に設置される走行装置3を備えている。クレーン1は例えば岸壁クレーンで構成される。クレーン1はこれに限らず走行装置3を備えているクレーンであればよい。クレーン1は例えば門型クレーンやアンローダで構成されてもよい。脚構造体2は水平部材2aと柱状部材2bとを備えている。クレーン1は例えば四つの走行装置3を備えている。一つの走行装置3は、脚構造体2の下方に設置される主イコライザ4と、主イコライザ4の下方に設置される二つの中間イコライザ5と、中間イコライザ5の下方に二つずつ設置される合計四つのボギー6とを備えている。
【0011】
ボギー6には二つずつ車輪7が設置されている。この実施形態では走行装置3は四つのボギー6と、八つの車輪7とを備えている。走行装置3は、車輪7に動力を伝達するための複数の走行用のモータMを備えている。この実施形態では四つの車輪7にモータMが設置されていて、他の車輪7にはモータMが設置されていない。モータMは複数の車輪7のうち少なくとも一部に設置される。モータMが設置される数は上記に限らない。三つ以下の車輪7にモータMが設置される構成でもよく、五つ以上の車輪7にモータMが設置される構成でもよい。
【0012】
モータMは減速機8に連結されている。モータMの動力は減速機8を介して車輪7に伝達される。クレーン1が走行する際には、モータMが設置されている車輪7は駆動輪となり、モータMが設置されていない車輪7は従動輪となる。
【0013】
モータMにはケーブル9が接続されている。ケーブル9は例えばモータMに電力を供給する電源ケーブルで構成される。またケーブル9は、モータMに設置されるパルスジェネレータ等からの信号をモータMから制御装置に送るための通信ケーブルで構成されてもよい。
【0014】
モータMと減速機8との間には分離機構10が配置されている。分離機構10は、減速機8に対してモータMを分離可能な状態で連結する構成を有している。分離機構10が設置される場所は上記に限定されない。分離機構10はモータMと車輪7との間に配置されていればよい。例えば減速機8と車輪7との間に分離機構10が配置される構成にしてもよい。分離機構10により走行装置3からモータMを分離させることが可能となる。
【0015】
脚構造体2を構成する水平部材2aの側面には、モータMを上方に吊り上げる構成を有する懸吊機構11が設置されている。この実施形態では水平部材2aの側面のうち走行方向yと平行となる側面に懸吊機構11が設置されている。懸吊機構11は例えばチェーンブロックで構成することができる。懸吊機構11が設置される場所は上記に限定されない。懸吊機構11はモータMより上方となる位置に配置されていればよい。例えば主イコライザ4の側面に懸吊機構11が配置される構成にしてもよい。また懸吊機構11は使用時にのみ水平部材2a等に設置されて、使用しないときはクレーン1から取り外した状態となる構成としてもよい。つまり懸吊機構11が、クレーン1に対して着脱可能に構成されていてもよい。このとき懸吊機構11は例えば管理棟などで保管される。
【0016】
図2および図3に例示するように高潮が発生する可能性があるときは、高潮対策を行う。高潮対策としてまず分離機構10を操作してモータMと減速機8との連結を解除する。その後、懸吊機構11によりモータMを上方に吊り上げる。モータMは減速機8に連結されている通常時よりも高い位置となる。吊り上げられたモータMはクレーン1に固定される状態となる。ここでモータMの固定とは、モータMが懸吊機構11により吊り上げられている状態をいう。またモータMが水平部材2aや主イコライザ4にバンド等により固縛されている状態をいう。
【0017】
この実施形態ではモータMは、ケーブル9の接続が維持されたまま懸吊機構11で吊り上げられる。モータMが懸吊機構11で吊り上げられる際に、モータMとの接続を維持できる程度の長さをケーブル9は備えている。ケーブル9の着脱作業が不要となるため、高潮対策のための作業時間を短縮するには有利である。一方で作業時間は増加するが、ケーブル9の接続を解除する構成としてもよい。この場合はケーブル9を比較的短く構成することができる。
【0018】
減速機8からモータMを分離させると、減速機8の上面が開口した状態となる。この減速機8の上面を水密に閉止する蓋体を減速機8が備える構成にしてもよい。高潮により水位が上昇する際に、減速機8の内部に水が侵入することを回避できる。蓋体は本発明の必須要件ではない。
【0019】
高潮対策時には、クレーン1で荷役作業を行う通常時よりもモータMの位置を高所とすることができる。モータMの水没を回避するには有利である。モータMを高所に移動させることで水没を回避する構成であるため、モータMを防水モータで構成する必要がない。
【0020】
モータMの内部の水蒸気を外部に排出する換気口などを有するモータMを利用することができる。そのためモータMの内部の腐食を抑制するには有利である。
【0021】
懸吊機構11を設置する位置により、モータMが固定される位置の高さを容易に高くすることができる。環境の変化等により高潮発生時に想定される水位が引き上げられる可能性がある。このような場合であっても懸吊機構11の設置位置を変更することで、モータMの退避位置をより高所とすることができる。
【0022】
通常時にモータMは車輪7の近傍に配置されているため、モータMのメンテナンス性が低下する不具合がない。
【0023】
高潮対策からの復旧を行う際には、懸吊機構11によりモータMを降下させて減速機8と連結させる。モータMとケーブル9との接続が解除されている場合には、ケーブル9の接続を行う。
【0024】
図2および図3に例示するように減速機8に連結されるモータMの真上となる位置に、懸吊機構11を設置することが望ましい。この構成によれば懸吊機構11により上下移動させられるモータMは、上下方向zとほぼ平行となる方向に移動する。モータMを水平方向に移動させる必要がないため、モータMの分離および復旧の作業を行いやすくなる。
【0025】
図4に例示するようにクレーン1が懸吊機構11を備えていない構成としてもよい。この実施形態ではケーブル9の接続を解除するとともに減速機8から分離されるモータMが、水平部材2aの上面に保管される。ここでモータMの保管とは、水平部材2aの上面にモータMが載置されている状態をいう。またモータMが水平部材2aにバンド等により固定されている状態をいう。モータMが保管される位置は通常時の位置よりも高所であればよい。例えば水平部材2aの上面に設置される発電機室や、クレーン1の機械室にモータMが保管されてもよい。
【0026】
ケーブル9の端部はまとめて樹脂製の袋などで構成される防水カバー12をかぶせておくことが望ましい。ケーブル9の端部が水没する不具合を回避するには有利である。
【0027】
クレーン1が懸吊機構11を備えている方が、モータMを減速機8から分離させる作業や、その後の固定や保管などが容易になるので有利である。
【0028】
図5に例示するように懸吊機構11が、水平部材2aの下面に設置される構成にしてもよい。懸吊機構11が柱状部材2bの側面に設置される構成にしてもよい。高潮発生時に想定される水位に応じて、懸吊機構11を設置する位置は変更することができる。
【0029】
クレーン1の脚構造体2や走行装置3などに予めアイプレート13を設置する構成にしてもよい。高潮対策を行う際にこのアイプレート13にチェーンブロック等の懸吊機構11を設置する構成にしてもよい。複数のアイプレート13を予め設置しておいて、天気予報等から想定される水位に応じて、懸吊機構11が設置されるアイプレート13を変更する構成としてもよい。
【0030】
想定される水位が比較的低い場合は、水平部材2aの側面に設置されているアイプレート13に懸吊機構11を設置することができる。モータMの分離および復旧の作業を行いやすくなる。想定される水位が比較的高い場合は、柱状部材2bの側面に設置されるアイプレート13に懸吊機構11を設置することができる。高潮対策時にモータMをより高い位置に固定できるので、モータMの水没を回避するには有利である。
【0031】
この実施形態では高潮対策時にケーブル9はモータMから接続を解除される。ケーブル9の端部は防水カバー12に収納される。ケーブル9の接続を維持したままであっても、モータMをその固定される場所まで移動させることができる場合は、モータMはケーブル9の接続が維持されたままとすることが望ましい。
【0032】
図6に例示するようにクレーン1が懸吊機構11を備えない構成としてもよい。この実施形態では分離機構10が、モータMを上方に移動させて支持する支持部14を備えている。支持部14は例えば上下方向zに延設されていてモータMの周囲を囲むように配置される複数の柱状部材を組み合わせて構成することができる。
【0033】
高潮対策時にモータMは分離機構10により減速機8から分離された後に、支持部14の上方となる位置で支持部14に固定される。図6では説明のため右方の二つのモータMが高潮対策を完了していて、左方の二つのモータMが高潮対策を完了していない状態を示している。
【0034】
支持部14の構成は上記に限定されない。分離機構10により分離されるモータMをより上方となる位置で支持できる構成を有していればよい。支持部14は減速機8の真上に限らず、水平方向にずれた位置でモータMを支持する構成を有していてもよい。
【0035】
また支持部14はクレーン1に対して着脱自在に構成されていてもよい。支持部14は高潮対策時に分離機構10に設置されて、高潮対策を行っていないときは分離機構10から外される構成を有していても良い。
【符号の説明】
【0036】
1 クレーン
2 脚構造体
2a 水平部材
2b 柱状部材
3 走行装置
4 主イコライザ
5 中間イコライザ
6 ボギー
7 車輪
8 減速機
9 ケーブル
10 分離機構
11 懸吊機構
12 防水カバー
13 アイプレート
14 支持部
x 横行方向
y 走行方向
z 上下方向
M モータ
図1
図2
図3
図4
図5
図6