IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 信越化学工業株式会社の特許一覧

特許7348142ビスマス置換希土類鉄ガーネット単結晶膜の製造方法
<>
  • 特許-ビスマス置換希土類鉄ガーネット単結晶膜の製造方法 図1
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-11
(45)【発行日】2023-09-20
(54)【発明の名称】ビスマス置換希土類鉄ガーネット単結晶膜の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C30B 29/28 20060101AFI20230912BHJP
   C30B 19/04 20060101ALI20230912BHJP
   G02B 27/28 20060101ALI20230912BHJP
【FI】
C30B29/28
C30B19/04
G02B27/28 A
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020115646
(22)【出願日】2020-07-03
(65)【公開番号】P2022013228
(43)【公開日】2022-01-18
【審査請求日】2022-07-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100166545
【弁理士】
【氏名又は名称】折坂 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 聡明
(72)【発明者】
【氏名】福田 悟
【審査官】西田 彩乃
(56)【参考文献】
【文献】特開昭63-270396(JP,A)
【文献】国際公開第2004/070091(WO,A1)
【文献】国際公開第03/000963(WO,A1)
【文献】国際公開第2012/086819(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C30B 29/28
C30B 19/04
G02B 27/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
組成式(Ln3-aBi)(Fe5-b)O12で表されるビスマス置換希土類鉄ガーネット単結晶膜を格子定数Lsの常磁性ガーネットの基板を用いて育成するビスマス置換希土類鉄ガーネット単結晶膜の製造方法であって、
前記基板の表面に平均格子定数Lb(ただし、Lb>Ls)のバッファ層を5~30μmの厚さで形成するステップと、
前記バッファ層に重ねて平均格子定数Lf(ただし、Lf>Lb)の目的とする前記ビスマス置換希土類鉄ガーネット結晶膜を100μm以上育成するステップとを備え、
前記バッファ層における格子定数変化率が前記ビスマス置換希土類鉄ガーネット結晶膜における格子定数変化率と比較して急峻であり、
前記バッファ層と目的とする前記ビスマス置換希土類鉄ガーネット結晶膜とは、共通のメルト組成で連続して結晶育成され、且つ、前記バッファ層の育成では、前記ビスマス置換希土類鉄ガーネット結晶膜の育成と比較して、短時間且つ急速に降温されることを特徴とするビスマス置換希土類鉄ガーネット単結晶膜の製造方法。ただし、前記組成式において、Lnは、LnはY,ランタノイド(La,Ce,Pr,Nd,Sm,Eu,Gd,Tb,Dy,Ho,Er,Tm,Yb,およびLu)から選択される元素およびCa,Mg,Zr、Hfから選択される微量元素から選択され、Aは、Al,Ga,In,Sc,Ti,Si,GeおよびSnから選択される1以上の元素である。
【請求項2】
常温において、Lb-Lsが+0.001~+0.005Åであり、Lf-Lsが+0.005~+0.015Åであることを特徴とする請求項1に記載のビスマス置換希土類鉄ガーネット単結晶膜の製造方法。
【請求項3】
前記バッファ層の格子定数変化率が10×10-4%/μm以上であることを特徴とする請求項1または2に記載のビスマス置換希土類鉄ガーネット単結晶膜の製造方法。
【請求項4】
PbOフリーのメルト組成で結晶育成することを特徴とする請求項1から3の何れか1項に記載のビスマス置換希土類鉄ガーネット単結晶膜の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光加工や光計測で用いられる光アイソレータ及びそのファラデー回転子用結晶に関する。
【背景技術】
【0002】
光加工機や光計測機に用いられるレーザ光源は、出射したレーザ光が伝送路途中に設けられた部材表面で反射して、その反射光がレーザ光源に入射すると、レーザ発振が不安定になってしまう。この反射戻り光を遮断するために、偏光面を非相反で回転させるファラデー回転子を用いた光アイソレータが用いられる。
【0003】
光アイソレータ等の磁気光学素子に用いられる材料としては、従来、液相エピタキシャル法で基板結晶に成長させたビスマス置換希土類鉄ガーネット結晶が用いられている(例えば、特許文献1を参照)。ガーネット結晶膜の組成は下地となる基板の格子定数の制約を大きく受ける。
【0004】
実際に1310nm、1550nm等の光通信の光波長で用いられる光アイソレータ用45degファラデー回転子には、250~600μm程度の厚さが必要であり、結晶膜の研磨加工代を加味すると350~700μm程度の結晶膜を育成する必要がある。結晶膜の育成には、基板と目的とするガーネット膜の化学組成、膜厚、熱膨張係数等の因子が影響する。単に格子定数を一致させるだけでは良質の単結晶厚膜を得ることが難しく、結晶膜の育成条件が適切でない場合、厚膜育成時に割れ等を生じる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2000-347135号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記事情に鑑みなされたものであり、割れ等が生じにくいビスマス置換希土類鉄ガーネット単結晶膜の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決すべく本発明の実施形態に係るビスマス置換希土類鉄ガーネット単結晶膜の製造方法は、組成式(Ln3-aBi)(Fe5-b)O12で表されるビスマス置換希土類鉄ガーネット単結晶膜を格子定数Lsの常磁性ガーネットの基板を用いて育成する。当該ビスマス置換希土類鉄ガーネット単結晶膜の製造方法は、基板の表面に平均格子定数Lb(ただし、Lb>Ls)のバッファ層を5~30μmの厚さで形成するステップと、バッファ層に重ねて平均格子定数Lf(ただし、Lf>Lb)の目的とするビスマス置換希土類鉄ガーネット結晶膜を100μm以上育成するステップとを備える。本発明では、バッファ層における格子定数変化率がビスマス置換希土類鉄ガーネット結晶膜における格子定数変化率と比較して急峻であることを特徴とする。バッファ層における格子定数変化率は10×10-4%/μm以上とするとよく、ビスマス置換希土類鉄ガーネット結晶膜における格子定数変化率は2.0×10-4%/μm以下とするとよい。
【0008】
本発明では、常温において、Lb-Lsが+0.001~+0.005Åであり、Lf-Lsが+0.005~+0.015Åであるとよい。本発明では、バッファ層の格子定数変化率が10×10-4%/μm以上であるとよい。本発明では、PbOフリーのメルト組成で結晶育成を行うとよい。
【0009】
また、本発明に係るファラデー回転子は、上記何れかの方法で製造されたビスマス置換希土類鉄ガーネット単結晶膜から、バッファ層を研磨除去して得られることを特徴とする。また、本発明に係る光アイソレータは、上記のファラデー回転子を用いて構成されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明の製造方法によれば、基板上に液相エピタキシャル法によりガーネット単結晶膜を成膜する際に、目的とする単結晶層の応力の発生を低減し、割れを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本実施形態に係るビスマス置換希土類鉄ガーネット単結晶の製造方法のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明するが、本発明は、これらに限定されるものではない。
【0013】
本実施形態では、結晶基板上にエピタキシャル法により単結晶膜、特にビスマス置換希土類鉄ガーネット結晶を育成するにあたり、初期に基板表面に格子定数変化率の大きなバッファ層を形成し、その後、格子定数変化率が小さな形で目的とするガーネット膜を育成させることを特徴とする。バッファ層を形成することで、厚膜育成時に割れ等を生じることを低減することができる。以下、詳細を説明する。
【0014】
<ビスマス置換希土類鉄ガーネット単結晶の組成>
本実施形態に係る製造方法にて製造されるビスマス置換希土類鉄ガーネット単結晶について説明する。このビスマス置換希土類鉄ガーネット単結晶は、ファラデー回転子および光アイソレータに用いるのに好適である。ビスマス置換希土類鉄ガーネット単結晶は、下記の組成式(1)で表される。
(Ln3-aBi)(Fe5-b)O12 …(1)
【0015】
なお、組成式(1)中のLnは、LnはY,やランタノイド(La,Ce,Pr,Nd,Sm,Eu,Gd,Tb,Dy,Ho,Er,Tm,Yb,Lu)で構成される一種類以上の元素及びCa,Mg,Zr等の微量元素から選択される。なお、Lnとしてこれらの元素を複数種類同時に用いてもよい。また、Aは、Al,Ga,In,Sc、HfやTi,Si,Ge、Sn等の微量元素より選択される。なお、Aとしてこれらの元素を複数種類同時に用いてもよい。
【0016】
<ビスマス置換希土類鉄ガーネット単結晶の製造方法>
本発明に係るビスマス置換希土類鉄ガーネット単結晶は、PbOフリーのメルト組成で結晶育成されるとよい。以下、図1に示すフローチャートを参照して、本発明に係るビスマス置換希土類鉄ガーネット単結晶の製造方法の具体例について説明する。
【0017】
はじめに、ビスマス置換希土類鉄ガーネット単結晶の成長に下地として用いる基板を用意する(ステップS10)。用意する基板は、格子定数Lsの常磁性ガーネット基板とするとよい。具体的には、例えば、GdGa12(GGG;ガドリニウム、ガリウム、ガーネット)系単結晶基板に、Ca,Mg,Zr,Y等を添加したもの(NOG:信越化学製商標、SGGG:サンゴバン製商標)を用いるとよい。このような基板を用いることにより、液相エピタキシャル法で単結晶を引き上げることで得ることができる。
【0018】
続いて、ビスマス置換希土類鉄ガーネット単結晶の原材料となる金属酸化物を白金ルツボで溶融し、原料溶融液を用意する(ステップS20)。原材料となる金属酸化物は、例えば、Gd、Ho、Bi、Fe、Ga、TiO、MgOなどが挙げられる。これらの金属酸化物を所定のモル重量比で用意し、白金ルツボに入れて所定の温度で加熱溶融することで、原料溶融液を用意する。
【0019】
続いて、用意した原料溶融液に基板を接触させて引き上げる液相エピタキシャル法により、単結晶膜を成長させる(ステップS30)。液相エピタキシャル法では、基板表面に単結晶膜を継続して析出させるべく、育成温度を徐々に低下させる。本実施形態では、育成の初期に短時間で大きな降温幅とすることで、バッファ層を形成する(ステップS31)。バッファ層の平均格子定数Lbは下地基板の平均格子定数Lsより大きく、バッファ層の厚さは5~30μmが好適である。その後、長時間にわたり緩やかな降温幅として目的とする結晶(ガーネット結晶膜)を育成する(ステップS32)。これにより、バッファ層に重ねてガーネット結晶膜が形成される。ガーネット結晶膜の平均格子定数Lfはバッファ層の平均格子定数Lbより大きく、ガーネット結晶膜の厚さは100μm以上とするとよい。なお、バッファ層における格子定数変化率(厚さ方向における単位長さ当たりの格子定数の変化量)は、ガーネット結晶膜における格子定数変化率と比較して急峻である。バッファ層における格子定数変化率は10×10-4%/μm以上とするとよく、ビスマス置換希土類鉄ガーネット結晶膜における格子定数変化率は2.0×10-4%/μm以下とするとよい。
【0020】
その後、成長させた単結晶膜を切断・研磨加工をする(つまり、ビスマス置換希土類鉄ガーネット単結晶膜から、バッファ層および基板を研磨除去する)ことで、ファラデー回転子および光アイソレータに用いることのできるビスマス置換希土類鉄ガーネット単結晶を得る(ステップS40)。このようにして得られたビスマス置換希土類鉄ガーネット単結晶を用いて、ファラデー回転子を構成することができる。さらに、当該ファラデー回転子を用いて光アイソレータを構成することができる。
【実施例
【0021】
[実施例1]
Gd、Ho、Fe、およびGaにフラックスとしてBiを加えたものを白金ルツボ中で1080℃で溶融加熱した後に815℃に温度を降下させた。溶融させる原料の重量(メルト組成)は、それぞれ、Gd:68g、Ho:72.8g、Fe:520.8g、Ga:17.4g、Bi:7800gとした。
【0022】
この融液に、格子定数12.498Åの3インチのNOG基板を浸し、結晶育成を開始するとともに、更に温度幅4℃を1時間で急速に降温し基板を取り出した。この急速な降温によりバッファ層が形成された。バッファ層の結晶膜は10μm、膜表面の格子定数は12.502Å(平均格子定数は12.500Å)であった。厚さ方向(基板表面に垂直な方向)について、格子定数の変化率は32.0×10-4%/μmであった。
【0023】
育成した結晶の基板面/結晶成長面を研磨し、基板面/結晶成長面に各々、対空気の無反コートを施した。1550nmレーザ光源を用いて測定したところ、挿入損失は0.08dBとなり、基板と結晶界面の反射の影響を計算により除去すると0.04dBとなった。単位長さ当たりの挿入損失としては大きな損失となった。このようにバッファ層は損失が大きいため、低挿入損失が求められるファラデー回転子には当該バッファ層を研磨除去して使用することが、実用的である。
【0024】
上記と同様の初期の融液組成を、1080℃溶融加熱した後に815℃に温度を降下させた。この融液に、格子定数12.498Åの3インチのNOG基板を浸し、結晶育成を開始するとともに、更に温度幅4℃を1時間で急速降温した。その後温度幅10℃を40時間かけて緩やかに降温する形で結晶を育成した。このようにして得られた結晶の総育成膜厚は610μmであり、バッファ層を除く膜厚は600μmであった。膜表面の格子定数は12.510Å(平均格子定数は12.506Å)であった。厚さ方向(基板表面に垂直な方向)について、格子定数の変化率は1.6×10-4%/μmであった。この膜厚に成長するまで割れは生じなかった。
【0025】
続いて、育成した結晶から基板とバッファ層を研磨除去した。そして、結晶成長面を45degのファラデー回転角となる440μmまで研磨した。研磨した結晶の両面に対空気の無反コートを施した。このようにして得られたファラデー回転子を、1550nmレーザ光源を用いて測定したところ挿入損失は0.02dBとなり、実用上問題無い損失であることが分かった。
【0026】
[比較例1]
実施例1と同様の初期の融液組成を、1080℃溶融加熱した後に815℃に温度を降下させた。この融液に、格子定数12.498Åの3インチのNOG基板を浸し、開始から終了まで14℃の温度幅を、42時間かけて緩やかに降温する形で結晶を育成した。このようにして得られた結晶の総育成膜厚は625μmであった。膜表面の格子定数は12.511Å(平均格子定数は12.507Å)であった。このようにして成長させた結晶には、基板外周辺部でクラックが確認された。また、同様にして総育成膜厚475μmの結晶を育成した場合にもクラックが散見された。
【0027】
[実施例2]
Gd、Y、Fe、およびGaにフラックスとしてBi、およびBを加えたものを白金ルツボ中で1080℃で溶融加熱した後に812℃に温度を降下させた。溶融させる原料の重量(メルト組成)は、それぞれ、Gd:22.2g、Y:44.4g、Fe:512.4g、Ga:14.0g、Bi:7820g、B:14.0gとした。
【0028】
この融液に、格子定数12.497Åの3インチのNOG基板を浸し、結晶育成を開始するとともに、更に温度幅2℃を0.5時間で急速降温し基板を取り出した。この急速な降温によりバッファ層が形成された。バッファ層の結晶膜は6μm、膜表面の格子定数は12.498Å(平均格子定数は12.498Å)であった。厚さ方向(基板表面に垂直な方向)について、格子定数の変化率は13.3×10-4%/μmであった。
【0029】
上記と同様の初期の融液組成を、1080℃溶融加熱した後に812℃に温度を降下させた。この融液に、格子定数12.497Åの3インチNOG基板を浸し、結晶育成を開始するとともに、更に温度幅4℃を0.5時間で急速降温した。その後、温度幅10℃を56時間かけて緩やかに降温する形で結晶を育成した。このようにして得られた結晶の総育成膜厚は575μmであり、バッファ層を除く膜厚は569μmであった。膜表面の格子定数は12.511Å(平均格子定数は12.505Å)であった。厚さ方向(基板表面に垂直な方向)について、格子定数の変化率は1.9×10-4%/μmであった。この膜厚に成長するまで割れは生じなかった。
【0030】
[比較例2]
実施例2と同様に初期の融液組成を、1080℃溶融加熱した後に811℃に温度を降下させた。この融液に、格子定数12.498Åの3インチNOG基板を浸し、開始から終了まで12℃の温度幅を、43時間かけて緩やかに降温する形で結晶を育成した。このようにして得られた結晶の総育成膜厚は595μmであった。膜表面の格子定数は12.512Å(平均格子定数は12.505Å)であった。このようにして育成した結晶中でクラックが確認された。また、同様にして総育成膜厚345μmの結晶を育成した場合にクラックは見られなかったが、総育成膜厚425μmの結晶を育成した場合にはクラックが散見された。
【0031】
[実施例3]
Eu、Tb、Fe、およびGaにフラックスとしてBiを加えたものを白金ルツボ中で1090℃で溶融加熱した後に790℃に温度を降下させた。溶融させる原料の重量(メルト組成)は、それぞれ、Eu:21.5g、Tb:174.0g、Fe:525.5g、Ga:24.0g、Bi:10570gとした。
【0032】
この融液に、格子定数12.497Åの3インチのNOG基板を融液に浸し、結晶育成を開始するとともに、更に温度幅6℃を1.5時間で急速降温し基板を取り出した。この急速な降温によりバッファ層が形成された。バッファ層の結晶膜は30μm、膜表面の格子定数は12.502Å(平均格子定数は12.500Å)であった。厚さ方向(基板表面に垂直な方向)について、格子定数の変化率は13.3×10-4%/μmであった。
【0033】
上記と同様の初期の融液組成を、1090℃溶融加熱した後に790℃に温度を降下させた。この融液に、格子定数12.497Åの3インチのNOG基板を浸し、結晶育成を開始するとともに、更に温度幅6℃を1.5時間で急速降温した。その後、温度幅12℃を39時間かけて緩やかに降温する形で結晶を育成した。このようにして得られた結晶の総育成膜厚は625μmであり、バッファ層を除く膜厚は595μmであった。膜表面の格子定数は12.512Å(平均格子定数は12.507Å)であった。厚さ方向(基板表面に垂直な方向)について、格子定数の変化率は1.9×10-4%/μmであった。この膜厚に成長するまで割れは生じなかった。
【0034】
[比較例3]
実施例3と同様に初期の融液組成を、1090℃溶融加熱した後に789℃に温度を降下させた。この融液に、格子定数12.498Åの3インチのNOG基板を浸し、開始から終了まで16℃の温度幅を、41時間かけて緩やかに降温する形で結晶を育成した。総育成膜厚は635μmであった。膜表面の格子定数は12.513Å(平均格子定数は12.506Å)であった。このようにして育成した結晶中でクラックが確認された。また、同様にして総育成膜厚345μmの結晶を育成した場合にクラックは見られなかったが、総育成膜厚500μmの結晶を育成した場合にはクラックが散見された。
【0035】
以上で説明した通り、本発明によれば、基板上に液相エピタキシャル法によりガーネット単結晶膜を成膜する際に、目的とする単結晶層の応力の発生を低減し、割れを防止することができる。
【0036】
なお、上記に本実施形態を説明したが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。例えば、ガーネット中のイオン価数を制御する観点や格子定数を調整する観点でLn部にCa,Mg,Zr,Hfと言った元素を微量添加したり、AにAl,Ga,In,Sc,Ti,Si,Ge,Snを加えたりすることができる。このようにすれば、イオン価数を制御することで挿入損失を更に小さくすることができる。その他、前述の実施形態に対して、当業者が適宜、構成要素の追加、削除、設計変更を行ったものや、各実施形態の特徴を適宜組み合わせたものも、本発明の要旨を備えている限り、本発明の範囲に含有される。
図1