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特許7348182凹面回折格子の製造方法、製造装置及び凹面回折格子
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-11
(45)【発行日】2023-09-20
(54)【発明の名称】凹面回折格子の製造方法、製造装置及び凹面回折格子
(51)【国際特許分類】
   G02B 5/18 20060101AFI20230912BHJP
【FI】
G02B5/18
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020532248
(86)(22)【出願日】2019-07-02
(86)【国際出願番号】 JP2019026231
(87)【国際公開番号】W WO2020021989
(87)【国際公開日】2020-01-30
【審査請求日】2022-04-28
(31)【優先権主張番号】P 2018137685
(32)【優先日】2018-07-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】501387839
【氏名又は名称】株式会社日立ハイテク
(74)【代理人】
【識別番号】110001829
【氏名又は名称】弁理士法人開知
(72)【発明者】
【氏名】八重樫 健太
(72)【発明者】
【氏名】江畠 佳定
(72)【発明者】
【氏名】青野 宇紀
【審査官】横井 亜矢子
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-182301(JP,A)
【文献】特開2006-039450(JP,A)
【文献】特開2004-361635(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2009/0194913(US,A1)
【文献】特開平08-211214(JP,A)
【文献】特開2013-064836(JP,A)
【文献】国際公開第2012/165310(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/052748(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 5/18
B29C 35/00
B29C 59/00
G02B 1/118
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
凹面回折格子の製造方法であって、
押し当て面に回折格子の溝パターンを有する平面金型の前記押し当て面を、球面またはトロイド面である凹面に樹脂を塗布した凹面基板の前記凹面に対向させて、前記平面金型及び前記凹面基板を配置する工程と、
前記平面金型を流体によって加圧して変形させ、前記押し当て面を前記凹面に塗布された前記樹脂に押し当てる工程と、
前記押し当て面が押し当てられたことで前記溝パターンが転写された前記樹脂を硬化させる工程と、を含み、
前記押し当てる工程は、前記平面金型の前記押し当て面の側と、前記押し当て面の裏面の側との圧力差によって、前記押し当て面を前記樹脂に押し当てるものであり、前記押し当て面の側で排気し前記裏面の側の大気圧によって、前記押し当て面を前記樹脂に押し当てる、
ことを特徴とする凹面回折格子の製造方法。
【請求項2】
凹面回折格子の製造方法であって、
押し当て面に回折格子の溝パターンを有する平面金型の前記押し当て面を、球面またはトロイド面である凹面に樹脂を塗布した凹面基板の前記凹面に対向させて、前記平面金型及び前記凹面基板を配置する工程と、
前記平面金型を流体によって加圧して変形させ、前記押し当て面を前記凹面に塗布された前記樹脂に押し当てる工程と、
前記押し当て面が押し当てられたことで前記溝パターンが転写された前記樹脂を硬化させる工程と、を含み、
前記配置する工程では、
冶具に前記凹面基板を取り付けた状態で、前記平面金型を前記冶具に設置することで、前記平面金型及び前記凹面基板を配置し、
前記平面金型の中心を対称の中心とする点対称な位置に設けた固定用開口部を用いて前記平面金型と前記冶具とを固定する、
ことを特徴とする凹面回折格子の製造方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の凹面回折格子の製造方法において、
前記樹脂は紫外線硬化樹脂であり、
前記硬化させる工程は、前記樹脂に紫外線を照射することで該樹脂を硬化させる、
ことを特徴とする凹面回折格子の製造方法。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の凹面回折格子の製造方法において、
前記樹脂は熱硬化樹脂であり、
前記硬化させる工程は、前記樹脂を加熱することで該樹脂を硬化させる、
ことを特徴とする凹面回折格子の製造方法。
【請求項5】
請求項1又は2に記載の凹面回折格子の製造方法において、
前記平面金型は、前記押し当て面を有する金属膜と、前記金属膜を支持するベース部材と、を備えて成る、
ことを特徴とする凹面回折格子の製造方法。
【請求項6】
押し当て面に回折格子の溝パターンを有する平面金型と、前記平面金型と対になる凹面基板と、を有する凹面回折格子の製造装置であって、
回折格子の溝パターンを有する平面金型の前記押し当て面を、凹面に樹脂を塗布した凹面基板の前記凹面に対向させて、前記平面金型及び前記凹面基板を配置する配置部と、
前記平面金型を流体によって加圧して、前記押し当て面を前記凹面に塗布された前記樹脂に押し当てる押し当て部と、
前記押し当て面が押し当てられたことで前記溝パターンが転写された前記樹脂を硬化させる硬化部と、を含み、
前記押し当て部は、前記平面金型の前記押し当て面の側と、前記押し当て面の裏面の側との圧力差によって、前記押し当て面を前記樹脂に押し当てるものであり、前記押し当て面の側で排気し前記裏面の側の大気圧によって、前記押し当て面を前記樹脂に押し当てる、
ことを特徴とする凹面回折格子の製造装置。
【請求項7】
押し当て面に回折格子の溝パターンを有する平面金型と、前記平面金型と対になる凹面基板と、を有する凹面回折格子の製造装置であって、
回折格子の溝パターンを有する平面金型の前記押し当て面を、凹面に樹脂を塗布した凹面基板の前記凹面に対向させて、前記平面金型及び前記凹面基板を配置する配置部と、
前記平面金型を流体によって加圧して、前記押し当て面を前記凹面に塗布された前記樹脂に押し当てる押し当て部と、
前記押し当て面が押し当てられたことで前記溝パターンが転写された前記樹脂を硬化させる硬化部と、を含み、
前記配置部は、
冶具に前記凹面基板を取り付けた状態で、前記平面金型を前記冶具に設置することで、前記平面金型及び前記凹面基板を配置し、
前記平面金型の中心を対称の中心とする点対称な位置に設けた固定用開口部を用いて前記平面金型と前記冶具とを固定する、
ことを特徴とする凹面回折格子の製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、凹面回折格子の製造方法、製造装置及び凹面回折格子に関する。
【背景技術】
【0002】
回折格子は、分析装置の分光器などに使用されている、様々な波長の混ざった光(白色光)を狭帯域の波長毎に分ける光学素子である。回折格子は、表面に反射膜が蒸着された光学材料表面に微細な溝が刻まれた素子である。
【0003】
回折格子の種類には、格子面が平面状の平面回折格子と、格子面が球面状またはトロイド面状の凹面回折格子がある。凹面回折格子は、平面回折格子とは異なり、光を分光する作用と、光を結像する作用の両方の作用を持つ。
【0004】
従来、凹面回折格子は、曲面基板に金属膜を形成しルーリングエンジン等の機械で溝パターンを刻線する方法でマスタを製作し、溝パターンを樹脂や金属に転写することで製造されていた。
【0005】
特開2014-182301号公報には、凹面回折格子の製造方法として、シリコン製の平面回折格子を非晶質媒質に転写して、非晶質材料基板を曲面化させて、曲面固定基板に実装する製造方法が記載されている。
【0006】
また、特開2017-211466号公報には、回折光学素子の製造方法として、ガラス基板を金型に押し当てることで、金型上に塗布した樹脂を押し広げ金型の形状を樹脂に転写させる方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2014-182301号公報
【0008】
【文献】特開2017-211466号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特開2014-182301号公報に記載の回折格子の製造方法では、荷重を印加する時に装置、冶具が傾いていた場合には、凹凸基板で片当たりが発生してしまうため、荷重分布を均一にすることが難しく、高い面精度を有する曲面回折格子を実現することが困難であるという問題があった。このため凹面回折格子の結像性能の低下や発生する迷光量の増加などを生じていた。
【0010】
また、特開2014-182301号公報に記載の回折格子の製造方法では、平面金型を凹凸基板で挟み込み面精度を向上させているが、この方法では凸面基板に平面金型を実装した状態で所望の曲率半径となるように、平面金型の厚みを考慮し凹面基板の曲率半径を(凹面基板の曲率半径)=(凸面基板の曲率半径)+(平面金型の厚み)とする必要があった。このため直交する2軸(水平方向と垂直方向)で曲率半径が異なるトロイド面回折格子を製造する場合には、所望の曲率半径を有する凹凸基板を製作することは困難であった。
【0011】
特開2017-211466号公報に記載の回折光学素子の製造方法では、金型が平坦な面とテーパー部で構成されており、平面光学素子を製造する方法であるため平面金型を曲面に倣わせ湾曲させることが考慮されていない。またテーパー部の深さは0.200mm~0.250mm程度であるが、これに対して凹面回折格子の製造に使用する曲面基板の曲率半径は10mm~3000mm程度であり、対象としている凹部の形状が明らかに異なるため、球面やトロイド面へ適用することは困難である。
【0012】
本発明はこのような課題を解決するためになされたものであり、荷重不均一性を改善することができ、高い面精度を有する凹面回折格子を製造することができる凹面回折格子の製造方法及び製造装置を提供することを主たる目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記した課題を解決するために本発明は、凹面回折格子の製造方法であって、押し当て面に回折格子の溝パターンを有する平面金型の前記押し当て面を、球面またはトロイド面である凹面に樹脂を塗布した凹面基板の前記凹面に対向させて、前記平面金型及び前記凹面基板を配置する工程と、前記平面金型を流体によって加圧して変形させ、前記押し当て面を前記凹面に塗布された前記樹脂に押し当てる工程と、前記押し当て面が押し当てられたことで前記溝パターンが転写された前記樹脂を硬化させる工程と、を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、荷重不均一性を改善することができ、高い面精度を有する凹面回折格子を製造することができる凹面回折格子の製造方法及び製造装置を提供することができる。
【0015】
上記した以外の本発明の課題、構成、作用及び効果は、以下の実施例の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1A】本発明の実施例1に係る凹面回折格子の製造方法を示す図である。
図1B】本発明の実施例1に係る凹面回折格子の製造方法を示す図である。
図1C】本発明の実施例1に係る凹面回折格子の製造方法を示す図である。
図1D】本発明の実施例1に係る凹面回折格子の製造方法を示す図である。
図1E】本発明の実施例1に係る凹面回折格子の製造方法を示す図である。
図2】本発明の実施例1に係る凹面回折格子の製造方法を示すフローチャートである。
図3A】本発明の実施例1に係る平面金型の製造方法を示す図である。
図3B】本発明の実施例1に係る平面金型の製造方法を示す図である。
図3C】本発明の実施例1に係る平面金型の製造方法を示す図である。
図3D】本発明の実施例1に係る平面金型の製造方法を示す図である。
図4A】本発明の実施例1に係る平面金型と冶具の固定方法を示す図である。
図4B】本発明の実施例1に係る平面金型と冶具の固定方法を示す図である。
図5】平面金型に設けた固定用開口部の位置を示す図である。
図6】球面回折格子を示す図である。
図7】トロイド面回折格子を示す図である。
図8A】本発明の実施例2に係る凹面回折格子の製造方法を示す図である。
図8B】本発明の実施例2に係る凹面回折格子の製造方法を示す図である。
図8C】本発明の実施例2に係る凹面回折格子の製造方法を示す図である。
図8D】本発明の実施例2に係る凹面回折格子の製造方法を示す図である。
図8E】本発明の実施例2に係る凹面回折格子の製造方法を示す図である。
図9】本発明の実施例2に係る凹面回折格子の製造方法を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態について図面を用いて詳細に説明するが、本発明は以下の実施形態に限定されることなく、本発明の技術的な概念の中で種々の変形例や応用例をもその範囲に含むものである。
【実施例1】
【0018】
以下、本発明の実施例1に係る凹面回折格子の製造方法について図1A図1Eを用いて説明する。図1A図1Eは、本発明の実施例1に係る凹面回折格子の製造方法を示す図である。
【0019】
先ず本実施例では、平面金型101と、紫外線が照射されることにより硬化する紫外線硬化樹脂103を凹面104aに塗布した凹面基板104と、を冶具102に設置する(図1A参照)。このとき、平面金型101の押し当て面101bを凹面基板104の凹面104aに対向させて配置する。
【0020】
次に、冶具102に設けた排気口105から排気する(例えば、不図示の吸引装置によって吸引する)ことにより、冶具102内部の圧力を減圧し大気圧により平面金型101を湾曲させながら凹面基板104に押し当てる(図1B参照)。平面金型101の押し当て面101bには、回折格子の溝パターンである溝パターン101cが設けられており、平面金型101を湾曲させながら凹面基板104に押し当てることにより、溝パターン101cが紫外線硬化樹脂103に転写される。
【0021】
なお、図1Bでは平面金型101の押し当て面101b側を真空にし、押し当て面101bの裏面である裏面101a側を大気圧としているが、押し当て面101b側を減圧せずに、平面金型101の裏面101a側を加圧しても良い。また、この加圧は、空気やそのほかのガスなどの気体及び、水や油などの液体を含む流体により加圧しても良い。
【0022】
続いて、平面金型101の押し当て面101bにより紫外線硬化樹脂103が所望の形状になった時点で、冶具102の底面から紫外線照射装置106を用いて紫外線を照射し(図1C参照)、この紫外線により、紫外線硬化樹脂103を硬化させる。本実施例によれば、平面回折格子マスタの溝パターン101cを有する平面金型101を、大気圧を用いて表面に紫外線硬化樹脂103を塗布した凹面基板104に押し当て、押し当てた状態で凹面基板104に紫外線を照射し紫外線硬化樹脂103を硬化させる。
【0023】
続いて、平面金型101と凹面基板104とを剥離する(図1D参照)。
【0024】
最後に、溝パターン101cが転写されて硬化した紫外線硬化樹脂103上にAl(アルミニウム)などの反射膜107を例えば蒸着により成膜して、凹面回折格子108を作製する(図1E参照)。
【0025】
なお、図1Aに示す凹面基板104には、紫外線の透過率が高い材質(例えば合成石英ガラスやフッ化カルシウム)を用いる。
【0026】
本実施例によれば、図1Bに示すように、平面金型101の押し当て面101b側とその裏面101a側との圧力差により、平面金型101を湾曲させ凹面基板104に倣わせることで、荷重分布を均一にすることができるため、高い面精度を有する凹面回折格子108を提供することが可能となる。
【0027】
また、本実施例によれば、特開2014-182301号公報に示されている凸面基板が不要となるため、トロイド面回折格子や自由曲面への回折格子パターンの転写も可能となる。
【0028】
また、本実施例によれば、冶具102の内部を減圧するときに、同時に紫外線硬化樹脂103内部の気泡を除去することができるため、製造時の歩留まりを改善することができる。
【0029】
更に、本実施例によれば、紫外線硬化樹脂103を用いた光硬化反応を適用することで、従来の接着剤(樹脂)を用いた方法と比べて硬化時間を短縮することも可能である。なお、紫外線以外で硬化する光硬化樹脂を用いてもよい。
【0030】
図2は、本発明の実施例1に係る凹面回折格子の製造方法を示すフローチャートである。
【0031】
先ず、押し当て面101bに回折格子の溝パターン101cを有する平面金型101の押し当て面101bを、凹面104aに紫外線硬化樹脂103を塗布した凹面基板104の凹面104aに対向させて、平面金型101及び凹面基板104を配置する(ステップS210)。
【0032】
次に、平面金型101を大気圧によって加圧して、押し当て面101bを凹面104aに塗布された紫外線硬化樹脂103に押し当てる(ステップS211)。
【0033】
次に、押し当て面101bが押し当てられたことで溝パターン101cが転写された紫外線硬化樹脂103に紫外線を照射して硬化させる(ステップS212)。
【0034】
本実施例によれば、荷重不均一性を改善することができ、高い面精度を有する凹面回折格子を製造することができる。
【0035】
なお、ステップS211では、例えば、平面金型101の押し当て面101bの側と、押し当て面101bの裏面101aの側との圧力差によって、押し当て面101bを紫外線硬化樹脂103に押し当てる。このようにすることによって、簡単な構成で、押し当て面101bを紫外線硬化樹脂103側に寄せることができる。
【0036】
なお、ステップS211では、例えば、押し当て面101b側で排気し裏面101a側の大気圧によって、押し当て面101bを紫外線硬化樹脂103に押し当てる。このようにすることによって、簡単な構成で、押し当て面101bを紫外線硬化樹脂103側に寄せることができる。
【0037】
なお、ステップS212では、紫外線照射装置106で紫外線を照射して紫外線硬化樹脂103を硬化させる。このようにすることによって、樹脂の効果時間を短縮することができる。
【0038】
なお、凹面104aは、球面またはトロイド面である。このようにすることによって、球面またはトロイド面を有する凹面回折格子を製造することができる。
【0039】
なお、平面金型101は、押し当て面101bを有する金属膜203(図3A図3D参照)と、金属膜203を支持するベース部材205(図3A図3D参照)と、を備えて成る。このようにすることによって、溝パターン101cを有する金属膜203を確実に支持することができ、溝パターン101cを正確に紫外線硬化樹脂103に転写することができる。
【0040】
次に、図1に示した平面金型101の製造方法について、図3A図3Dを用いて説明する。図3A図3Dは、本発明の実施例1に係る平面金型の製造方法を示す図である。
【0041】
先ず、平面回折格子マスタ201に剥離層202及び金属膜203を形成する(図3A参照)。
【0042】
次に、図3Aで形成した金属膜203の上から接着剤204を塗布する(図3B参照)。
【0043】
続いて、平面回折格子マスタ201における接着剤204を塗布した面にベース部材205を載せ、金属膜203とベース部材205とを接着する(図3C参照)。ベース部材205は、押し当て面101bを有する金属膜203を支持する。ベース部材205は、凹面基板104の凹面104aに塗布した紫外線硬化樹脂103に倣って湾曲可能な例えばホイル状の部材であり、本実施例において、ベース部材205の材質としては、紫外線硬化樹脂103を硬化させるために紫外線を反射する材質であることが望ましく、具体的には、アルミニウムやニッケルなどの金属または、シリコンなどを用いることができる。また、ベース部材205は湾曲可能であることが必要であるので、アルミニウムやニッケルなどの金属を用いることができるし、シリコンは降伏点に達しない範囲であれば使用することができる。ベース部材205は、湾曲した後に元に戻る弾性力を有する部材であってもよいし、湾曲した形状を維持する部材であってもよい。
【0044】
続いて、剥離層202によって、平面回折格子マスタ201から金属膜203を剥離して、平面金型101を作製する(図3D参照)。
【0045】
なお、図3Aで使用する平面回折格子マスタ201は、平面回折格子として十分な光学性能を有していればよく、その平面回折格子の加工方法については限定しない(例えば、機械刻線方式、フォトリソグラフィー方式、ホログラフィック露光方式など)。
【0046】
本実施例において、剥離層202は、金属膜203と平面回折格子マスタ201との接触を防止し、剥離しやすくするために設けている。
【0047】
次に、平面金型101と冶具102の固定方法について、図4A及び図4Bを用いて説明する。図4A及び図4Bは、本発明の実施例1に係る平面金型と冶具の固定方法を示す図であって、図4Aは、平面金型101を冶具102に固定した状態を示す斜視図であり、図4Bは、図4AのA-A’断面図である。
【0048】
図4Bに示すように、冶具102に凹面基板104を取り付けた状態で、平面金型101を冶具102に設置する。平面金型101には固定用の開口部102aが複数設けており、開口部102aに固定用ネジ301を挿入し、さらに平面金型101の固定用開口部401に固定用ネジ301を貫通させて、平面金型101を冶具102に固定する。冶具側面部303の材質は、平面金型101を固定でき、また冶具102の内部と外部との圧力差によって変形しない材質であればよく、例えば、ステンレス鋼を用いる。また冶具底面部304については紫外線を透過する材質であればよく、例えば合成石英ガラスやフッ化カルシウムを用いる。
【0049】
次に、平面金型101に設けた固定用開口部401の位置について図5を用いて説明する。図5は、平面金型101に設けた固定用開口部401の位置を示す図であって、平面金型101を上から見た平面図である。
【0050】
図5の例では、四角形の板状部材である平面金型101の4つの辺のそれぞれに固定用開口部401を設けており、固定用開口部401を4か所に設けた場合を示している。
【0051】
固定用開口部401の加工には機械加工、エッチングまたはレーザー加工を用いる。固定用開口部401は、平面金型101と冶具102とが固定でき、ネジの締め付けにより冶具102の変形が発生しないように、例えば、平面金型101の中心を対称の中心としたとき、ある固定用開口部401を他の固定用開口部401と点対称な位置に設けることが好ましい。
【0052】
本実施例によれば、凹面回折格子108として、球面回折格子、トロイド面回折格子を製造することができる。ここで、凹面回折格子108の具体的な形状の例について説明する。
【0053】
図6は、球面回折格子を示す図である。図6の凹面回折格子108aは球面回折格子である。球面回折格子は、軸方向で一様の曲率半径を有する球面状の回折格子である。
【0054】
図7は、トロイド面回折格子を示す図である。図7の凹面回折格子108bはトロイド面回折格子である。トロイド面回折格子は、球面回折格子とは異なり、直交する2軸で曲率半径が異なるトロイド面を有する。図7に示すA-A方向とB-B方向では曲率半径が異なる。
【0055】
したがって、トロイド面に関して、特開2014-182301号公報では凹凸面の基板で挟み込み、曲面回折格子を作製するため、均一に押しつけることのできる凹凸面のトロイド面を有する基板を作製する必要がある。一方、本実施例の図1に示した方法では、凹面基板104に、平面金型101の平面回折格子を倣わせて転写するため、凸面基板を作製する必要がない。
【0056】
なお、凹面回折格子の製造装置は、押し当て面101bに回折格子の溝パターン101cを有する平面金型101の押し当て面101bを、凹面104aに紫外線硬化樹脂103を塗布した凹面基板104の凹面104aに対向させて、平面金型101及び凹面基板104を配置する配置部(例えば、冶具102)と、平面金型101を大気圧によって加圧して、押し当て面101bを凹面104aに塗布された紫外線硬化樹脂103に押し当てる押し当て部(例えば、排気口105及び不図示の吸引装置)と、押し当て面101bが押し当てられたことで溝パターン101cが転写された紫外線硬化樹脂103に紫外線を照射して硬化させる硬化部(例えば、紫外線照射装置106)と、を含む。
【0057】
なお、凹面回折格子108は、上述の製造方法によって製造されたものである。
【実施例2】
【0058】
以下、本発明の実施例2に係る凹面回折格子の製造方法について図8A図8Eを用いて説明する。図8A図8Eは、本発明の実施例2に係る凹面回折格子の製造方法を示す図である。本実施例では、実施例1とは異なり、平面金型101の溝パターン101cを凹面基板104に転写させるときに用いる樹脂として、加熱により硬化する熱硬化樹脂701を用いる例を示す。
【0059】
先ず本実施例では、平面金型101と、熱硬化樹脂701を凹面104aに塗布した凹面基板104と、を冶具102に設置する(図8A参照)。このとき、平面金型101の押し当て面101bを凹面基板104の凹面104aに対向させて配置する。
【0060】
次に、冶具102に設けた排気口105から排気することにより、冶具102内部の圧力を減圧し大気圧により平面金型101を湾曲させながら凹面基板104に押し当てる(図8B参照)。平面金型101の押し当て面101bには、回折格子の溝パターンである溝パターン101cが設けられており、平面金型101を湾曲させながら凹面基板104に押し当てることにより、溝パターン101cが熱硬化樹脂701に転写される。
【0061】
なお、図8Bでは平面金型101の押し当て面101b側を真空にし、その裏面101a側を大気圧としているが、押し当て面101b側を減圧せずに、平面金型101の裏面101a側を加圧しても良い。また、この加圧は、空気やそのほかのガスなどの気体により加圧しても良いし、水や油などの液体により加圧しても良い。
【0062】
続いて、平面金型101の押し当て面101bにより熱硬化樹脂701が所望の形状になった時点で、冶具102の上面から熱発生装置702を用いて平面金型101を加熱し(図8C参照)、この加熱により、熱硬化樹脂701を硬化させる。
【0063】
続いて、平面金型101と凹面基板104とを剥離する(図8D参照)。
【0064】
最後に、溝パターン101cが転写されて硬化した熱硬化樹脂701上にAl(アルミニウム)などの反射膜107を例えば蒸着により成膜して、凹面回折格子108´を作製する(図8E参照)。
【0065】
本実施例においては、平面金型101のベース部材205の材料としては、紫外線を反射する必要はないが、熱をかけたときに変形が少ない(線膨張係数が小さい)材料であることが望ましく、具体的にはアルミニウム、ニッケル、銅などの金属を用いることができる。
【0066】
なお、本実施例によれば、紫外線硬化樹脂103に代えて熱硬化樹脂701を用いることで、凹面基板104に紫外線の透過率が高い材料を使用する必要がなくなるため、安価な材料で凹面基板104を作製できるようになるため製造原価を低減することができる。
【0067】
本実施例のように、熱硬化樹脂701を用いた場合でも、平面金型101の押し当て面101b側と裏面101a側との圧力差により、平面金型101を湾曲させ凹面基板104に倣わせることで、荷重分布を均一にするこができるため、高い面精度を有する凹面回折格子108´を提供することが可能となる。
【0068】
また、本実施例によれば、特開2014-182301号公報に示されている凸面基板が不要となるため、トロイド面回折格子や自由曲面への回折格子パターンの転写も可能となる。
【0069】
また、本実施例によれば、冶具102の内部を減圧するときに、同時に熱硬化樹脂701内部の気泡を除去することができるため、製造時の歩留まりを改善することができる。
【0070】
図9は、本発明の実施例2に係る凹面回折格子の製造方法を示すフローチャートである。
【0071】
先ず、押し当て面101bに回折格子の溝パターン101cを有する平面金型101の押し当て面101bを、凹面104aに紫外線硬化樹脂103を塗布した凹面基板104の凹面104aに対向させて、平面金型101及び凹面基板104を配置する(ステップS910)。
【0072】
次に、平面金型101を大気圧によって加圧して、押し当て面101bを凹面104aに塗布された熱硬化樹脂701に押し当てる(ステップS911)。
【0073】
次に、押し当て面101bが押し当てられたことで溝パターン101cが転写された熱硬化樹脂701を加熱して硬化させる(ステップS912)。
【0074】
なお、ステップS912では、熱発生装置702で熱硬化樹脂701を加熱して硬化させる。このようにすることによって、凹面基板104の材料を紫外線透過部材とする必要がなく、安価な材料を用いて製造コストを低減することができる。
【0075】
以上説明したように、本発明によれば、平面金型を凹面基板に押し当てる際に、平面金型の押し当て面と裏面との間の圧力差を用いるため平面金型を湾曲させて均一の荷重で凹面基板及び凹面基板上に塗布した紫外線硬化樹脂を押すことができる。したがって、従来の課題である片当たりによる荷重不均一性を改善することができ、高い面精度を有する凹面回折格子の製造が可能となる。更に、作製が困難なトロイド面や自由曲面を有する凹凸基板を作製することなく、平面金型の溝パターンを直接、トロイド面や自由曲面を有する凹面基板及び凹面基板上に塗布した紫外線硬化樹脂に転写することができる。また、紫外線硬化樹脂を用いることで、硬化時間を従来の接着剤(樹脂)を用いた方法に比べて、製造時間を短縮できる。
【0076】
尚、本発明は上記した実施形態に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施形態は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施形態の構成の一部を他の実施形態の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施形態の構成に他の実施形態の構成を加えることも可能である。また、各実施形態の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である
【符号の説明】
【0077】
101…平面金型、102…冶具、103…紫外線硬化樹脂、104…凹面基板、105…排気口、106…紫外線照射装置、107…反射膜、108…凹面回折格子、201…平面回折格子マスタ、202…剥離層、203…金属膜、204…接着剤、205…ベース部材、301…固定用ネジ、302…冶具上面開口部、303…冶具側面部、304…冶具底面部、401…固定用開口部、701…熱硬化樹脂、702…熱発生装置
図1A
図1B
図1C
図1D
図1E
図2
図3A
図3B
図3C
図3D
図4A
図4B
図5
図6
図7
図8A
図8B
図8C
図8D
図8E
図9