(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-11
(45)【発行日】2023-09-20
(54)【発明の名称】非水系電解質二次電池用電極及びこれを備える非水系電解質二次電池
(51)【国際特許分類】
H01M 4/131 20100101AFI20230912BHJP
H01M 4/505 20100101ALI20230912BHJP
H01M 4/525 20100101ALI20230912BHJP
【FI】
H01M4/131
H01M4/505
H01M4/525
(21)【出願番号】P 2022019893
(22)【出願日】2022-02-10
(62)【分割の表示】P 2020199843の分割
【原出願日】2017-11-02
【審査請求日】2022-02-10
(31)【優先権主張番号】P 2016217973
(32)【優先日】2016-11-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000226057
【氏名又は名称】日亜化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【氏名又は名称】林 一好
(74)【代理人】
【識別番号】100160794
【氏名又は名称】星野 寛明
(72)【発明者】
【氏名】小川 篤
(72)【発明者】
【氏名】鋤柄 宜
(72)【発明者】
【氏名】前山 裕登
(72)【発明者】
【氏名】川村 壮史
(72)【発明者】
【氏名】小林 謙一
【審査官】鈴木 雅雄
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-123748(JP,A)
【文献】特開2004-355824(JP,A)
【文献】特開2015-043335(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/131
H01M 4/505
H01M 4/525
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
集電体と、前記集電体上に配置され正極活物質を含む正極活物質層と、を備える非水系電解質二次電池用電極であって、
前記正極活物質は、
電子顕微鏡観察に基づく平均粒径DSEMが1~7μmであり、
前記平均粒径DSEMに対する、体積基準による累積粒度分布における50%粒径D50の比(D50/DSEM)が1~4であり、且つ、
体積基準による累積粒度分布における10%粒径D10に対する、体積基準による累積粒度分布における90%粒径D90の比(D90/D10)が4以下である二種類以上の遷移金属による層状構造を有する化合物粒子を含んで構成され、
前記正極活物質層は、空孔分布曲線における空孔のピーク直径が0.12~0.25μmである非水系電解質二次電池用電極。
【請求項2】
前記正極活物質層は、空孔率が10~45%である請求項1に記載の非水系電解質二次電池用電極。
【請求項3】
前記正極活物質層は、密度が2.7~3.9g/cm
3である請求項1又は2に記載の非水系電解質二次電池用電極。
【請求項4】
前記正極活物質層は、空孔の平均直径が0.03~0.2μmである請求項1から3いずれかに記載の非水系電解質二次電池用電極。
【請求項5】
前記正極活物質層は、前記空孔の平均直径に対する前記空孔のピーク直径の比(ピーク直径/平均直径)が1.1~2.4である請求項4に記載の非水系電解質二次電池用電極。
【請求項6】
前記正極活物質は、Ni、Mn又はAlを主成分とする請求項1から5いずれかに記載の非水系電解質二次電池用電極。
【請求項7】
請求項1から6いずれかに記載の非水系電解質二次電池用電極を備える非水系電解質二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水系電解質二次電池用電極及びこれを備える非水系電解質二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電気自動車等の大型動力機器用途として、高い出力特性を備える非水系電解質二次電池用正極活物質が求められている。高い出力特性を得るには、正極活物質を構成する二次粒子中の一次粒子数を低減することや、一次粒子を単分散させてなる単粒子により正極活物質を構成することが有効である。
【0003】
ところで、電極を形成する際の加圧処理や充放電時の膨張収縮等により、正極活物質に割れが生じると、高い出力特性が得られなくなる。そのため、正極活物質の耐久性を向上させる技術が種々提案されている。
【0004】
例えば、密度が3.5g/cm3以上の高密度であり且つ空隙率が25%以下である正極活物質を備える非水二次電池が提案されている(特許文献1参照)。この非水二次電池によれば、正極中に多くの空隙の存在を許容することで、密度が高いにも関わらず集電体の破断を回避でき、高い出力特性が得られるとされている。
【0005】
また、例えば、空隙率が30~50%であり且つ細孔径が0.09~0.30μmである二次電池用正極が提案されている(特許文献2参照)。この二次電池用正極によれば、空隙率及び細孔径を好適な範囲とすることで、電極密度を改善でき、出力特性を向上できるとされている。
【0006】
また、例えば、0.1~1.0μmの細孔径を有する細孔の容積に対する、0.01~0.1μm未満の細孔径を有する細孔の容積の比が0.3以下である正極活物質を備える二次電池が提案されている(特許文献3参照)。この二次電池によれば、細孔分布を好適なものとすることで、出力特性を向上できるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2009-48876号公報
【文献】特開2010-15904号公報
【文献】特開2012-209161号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1~3の技術はいずれも二次粒子を使用したものであり、実際には正極のプレス成形時等に正極活物質を構成する二次粒子が崩壊し、空孔径が小さくなって抵抗が高くなる結果、高い出力特性が得られなかった。特に、正極活物質に割れが生じると、生成した新しい表面において電解液が酸化分解され、厚いSEIが形成される結果、高い出力特性が得られなかった。
【0009】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、高い出力特性が得られる非水系電解質二次電池用電極及びこれを備える非水系電解質二次電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため本発明は、集電体と、前記集電体上に配置され正極活物質を含む正極活物質層と、を備える非水系電解質二次電池用電極であって、前記正極活物質は、電子顕微鏡観察に基づく平均粒径DSEMが1~7μmであり、前記平均粒径DSEMに対する、体積基準による累積粒度分布における50%粒径D50の比(D50/DSEM)が1~4であり、且つ、体積基準による累積粒度分布における10%粒径D10に対する、体積基準による累積粒度分布における90%粒径D90の比(D90/D10)が4以下である二種類以上の遷移金属による層状構造を有する化合物粒子を含んで構成され、前記正極活物質層は、空孔率が10~45%である非水系電解質二次電池用電極を提供する。
【0011】
前記正極活物質層は、密度が2.7~3.9g/cm3であることが好ましい。これにより、より高い出力特性が得られる。二次粒子ではプレスをすることで割れが生じてしまい、助剤が塗られていない部分が表面化するが、単粒子であればそもそも割れは生じないため、比較して出力特性が高い。
【0012】
前記正極活物質層は、空孔分布曲線における空孔のピーク直径が0.06~0.3μmであることが好ましい。
【0013】
前記正極活物質層は、空孔の平均直径が0.03~0.2μmであることが好ましい。
【0014】
前記正極活物質層は、前記空孔の平均直径に対する前記空孔のピーク直径の比(ピーク直径/平均直径)が1.1~2.4であることが好ましい。
【0015】
前記正極活物質は、Ni、Mn又はAlを主成分とすることが好ましい。
【0016】
上記非水系電解質二次電池用電極を備える非水系電解質二次電池を提供する。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、従来よりも高い出力特性が得られる非水系電解質二次電池用電極及びこれを備える非水系電解質二次電池を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本実施形態に係る正極活物質の空孔分布曲線の例を示す図である。
【
図2】従来の二次粒子により構成される正極活物質の空孔分布曲線の例を示す図である。
【
図3】本実施形態に係る正極活物質のDSEMとD50/DSEMとの関係を示す図である。
【
図4】本実施形態に係る正極活物質のSEM画像である。
【
図5】従来の二次粒子により構成される正極活物質のSEM画像である。
【
図6】実施例、参考例及び比較例の正極活物質層の空孔率と出力との関係を示す図である。
【
図7】実施例、参考例及び比較例の正極活物質層の密度と出力との関係を示す図である。
【
図8】実施例、参考例及び比較例の正極活物質層の空孔分布曲線における空孔のピーク直径と出力との関係を示す図である。
【
図9】実施例、参考例及び比較例の正極活物質層の空孔の平均直径と出力との関係を示す図である。
【
図10】実施例、参考例及び比較例の正極活物質の空孔のピーク直径/平均直径と出力との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の一実施形態について、図面を参照して詳しく説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。また、本明細書において、各成分の含有量は、組成物中に各成分に該当する物質が複数存在する場合、特に断りの無い限り組成物中に存在する当該複数の物質の合計量を意味する。
【0020】
[非水系電解質二次電池用電極]
本実施形態に係る非水系電解質二次電池用電極は、集電体と、該集電体上に配置され活物質層を含む電極活物質層と、を備える。本実施形態に係る非水系電解質二次電池用電極は、非水系電解質二次電池の正極として好ましく用いられ、特にリチウムイオン二次電池の正極として好ましく用いられる。そのため、本実施形態に係る非水系電解質二次電池用電極をリチウムイオン二次電池の正極として用いた非水系電解質二次電池用正極について、以下に詳しく説明する。
【0021】
本実施形態に係る非水系電解質二次電池用正極は、集電体と、集電体上に配置され正極活物質を含む正極活物質層と、を備える。
集電体としては、例えば、アルミニウム、ニッケル、ステンレス等を用いることができる。
正極活物質層は、正極活物質の他、導電助剤、結着剤等を含んで構成される。
【0022】
本実施形態に係る正極活物質層は、空孔率が10~45%である。後述するように、本実施形態に係る正極活物質層は、単粒子からなる正極活物質で構成されるため、リチウムイオンが拡散する大通り(通り道)が十分確保されているうえ、より高い出力特性を得るために正極活物質層を高密度化し、空孔率を10~45%の範囲に下げたとしても、正極活物質層に割れが生じることがない。即ち、従来の二次粒子からなる正極活物質のように高密度化により割れが生じることで、導電助剤で被覆(付着)されていない部分が新しく表面化する(新しい表面が生成する)ことがなく、本実施形態によれば表面全体が導電助剤で被覆された単粒子で構成されるため、高い出力特性が得られる。より好ましい空孔率は、20~35%である。
【0023】
ここで、本実施形態における空孔率は、水銀圧入法により測定可能である。また、空孔率は、正極活物質の粒径を調整したり、後述する正極活物質層の製造方法において加圧条件を調整することにより調整可能である。
【0024】
本実施形態に係る正極活物質層は、密度が2.7~3.9g/cm3であることが好ましい。上述したように、本実施形態に係る正極活物質層は、単粒子からなる正極活物質で構成されるため、高い出力特性を得るために正極活物質層を2.7~3.9g/cm3の範囲で高密度化したとしても、空孔率が10~45%の範囲に制限されているため、正極活物質層に割れが生じることがない。即ち、従来の二次粒子からなる正極活物質のように高密度化により割れが生じることで、導電助剤で被覆(付着)されていない部分が新しく表面化する(新しい表面が生成する)ことがなく、本実施形態によれば表面全体が導電助剤で被覆された単粒子で構成されるため、高い出力特性が得られる。より好ましい密度は、3.0~3.6g/cm3である。
【0025】
ここで、本実施形態における密度は、密度測定装置により測定可能である。また、密度は、正極活物質の粒径を調整したり、後述する正極活物質層の製造方法において加圧条件を調整することにより調整可能である。
【0026】
本実施形態に係る正極活物質層は、空孔分布曲線(細孔分布曲線)における空孔のピーク直径が、0.06~0.3μmであることが好ましい。正極活物質層中の空孔のピーク直径がこの範囲内であれば、上述したような高い出力特性をより確実に得ることができる。より好ましい空孔のピーク直径は、0.12~0.25μmである。
【0027】
本実施形態における空孔のピーク直径は、上述した空孔率の測定と同様に水銀圧入法による測定で得られた空孔分布曲線、より詳しくはlog微分細孔容積分布(dV/dlogD)において、極大となる細孔の直径Dを意味する。log微分細孔容積分布(dV/dlogD)は、差分細孔容積dVを、細孔径の対数扱いの差分値dlogDで割った値を求め、これを平均細孔直径に対してプロットしたものである。
【0028】
ここで、
図1は、本実施形態に係る正極活物質の空孔分布(log微分細孔容積分布)曲線の例を示す図である。また、
図2は、従来の二次粒子により構成される正極活物質の空孔分布(log微分細孔容積分布)曲線の例を示す図である。これら
図1及び
図2中、横軸は細孔直径D(μm)を示しており、縦軸はlog微分細孔容積分布(dV/dlogD)を示している。いずれの図においても、3つの例を実線、破線、1点鎖線でそれぞれ示している。
これらの図から明らかであるように、単粒子からなる正極活物質を用いた本実施形態ではシャープなピークが確認されるのに対して、二次粒子からなる正極活物質を用いた従来ではブロードなピークが確認されることが分かる。
【0029】
本実施形態に係る正極活物質層は、空孔の平均直径が0.03~0.2μmであることが好ましい。正極活物質層中の空孔の平均直径がこの範囲内であれば、上述したような高い出力特性をより確実に得ることができる。より好ましい空孔の平均直径は、0.05~0.18μmである。なお、空孔の平均直径は、上述した空孔率の測定と同様の測定条件に従った水銀圧入法による測定で得られる。
【0030】
また、本実施形態に係る正極活物質層は、上記空孔の平均直径に対する上記空孔のピーク直径の比(ピーク直径/平均直径)が1.1~2.4であることが好ましい。空孔の平均直径に対する空孔のピーク直径の比(ピーク直径/平均直径)がこの範囲内であれば、上述したような高い出力特性をより確実に得ることができる。より好ましい空孔の平均直径に対する空孔のピーク直径の比(ピーク直径/平均直径)は、1.1~1.8である。
【0031】
本実施形態のように単粒子からなる正極活物質を用いることにより、ピーク直径/平均直径の値が小さくなり、上記範囲内となる。そのため、粒子同士の間隙が小さくなりすぎず、電解液が全体に染み渡ることができるため、高い出力特性が得られる。
【0032】
正極活物質層は、正極活物質、導電助剤及び結着剤等を溶媒と共に混合して得られる正極合剤を、集電体上に塗布した後、乾燥、加圧処理することで形成される。
導電助剤としては、例えば、天然黒鉛、人造黒鉛、アセチレンブラック等を用いることができる。
結着剤としては、例えば、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリアミドアクリル樹脂等を用いることができる。
【0033】
次に、正極活物質について詳しく説明する。
本実施形態に係る正極活物質は、電子顕微鏡観察に基づく平均粒径DSEMが1~7μmであり、前記平均粒径DSEMに対する、体積基準による累積粒度分布における50%粒径D50の比(D50/DSEM)が1~4であり、且つ、体積基準による累積粒度分布における10%粒径D10に対する、体積基準による累積粒度分布における90%粒径D90の比(D90/D10)が4以下である二種類以上の遷移金属による層状構造を有する化合物粒子を含んで構成される。
【0034】
二種類以上の遷移金属による層状構造を有する化合物粒子としては、Ni、Mn又はAlを主成分とすることが好ましい。中でも、Niを含む層状構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物粒子(以下、「複合酸化物粒子」ともいう。)が好ましく用いられる。
【0035】
DSEMが1~7μmであり且つD50/DSEMが1~4であることは、正極活物質を構成する複合酸化物粒子が単一の粒子からなる単一粒子であるか、数少ない一次粒子から構成された粒子であることを意味する。即ち、本実施形態では、全粒子が単一粒子であるか、数少ない一次粒子から構成された粒子であることを併せて「単粒子」という。なお、本実施形態に係る正極活物質は、単粒子活物質の割合が80%以上であることが好ましい。
【0036】
ここで、
図3は、本実施形態に係る正極活物質のDSEMとD50/DSEMとの関係を示す図である。
図3において、横軸はDSEM(μm)を示しており、縦軸はD50/DSEMを示している。
図3中、破線で囲まれた領域が、DSEMが1~7μmであり且つD50/DSEMが1~4である領域であり、本実施形態で定義する単粒子の領域である。このような領域内に位置する単粒子は、一次粒子が凝集して形成される二次粒子と比べて、一次粒子間の接触粒界が少ない状態となっている。
【0037】
図4は、本実施形態に係る正極活物質のSEM画像である。
図5は、従来の二次粒子により構成される正極活物質のSEM画像である。
図4に示すように、本実施形態に係る正極活物質を構成する単粒子では、粒子が凝集していないため、各粒子の表面全体を導電助剤が被覆(付着)できる。そのため、効率良く導電助剤を用いることができ、出力特性を向上できる。これに対して、
図5に示すような従来の正極活物質を構成する二次粒子では、一次粒子が凝集して二次粒子が形成されるため、導電助剤が一次粒子間の隙間に入り込むことができず、一次粒子の表面全体を導電助剤が被覆(付着)できない。そのため、効率良く導電助剤を用いることができず、出力特性を向上できない。
【0038】
また、D90/D10が4以下であることは、複合酸化物粒子の体積基準による累積粒度分布における分布幅が狭く、粒子サイズが揃っていることを意味する。このような特徴を備えることで、高い耐久性が得られる結果、高い出力特性が得られる。
【0039】
ここで、従来の単粒子からなるリチウム遷移金属複合酸化物粒子を含む正極活物質は、一次粒子が多数凝集した二次粒子からなるリチウム遷移金属複合酸化物粒子を含む正極活物質と比べて、充放電サイクル時に二次粒子の粒界解離によるリチウムイオンの導電パス断絶による容量維持率低下、リチウムイオンの拡散移動抵抗増大を抑制できるため、優れた耐久性を示す。
一方、凝集粒子からなる正極活物質のような三次元的な粒界ネットワークがほとんど形成されず、粒界伝導を利用した高出力設計をすることができないため、出力特性が不十分になる傾向にあった。出力特性を高くするためには単粒子の粒径(DSEM)を小さくする事で改善すると考えられるが、小さすぎると粉体同士の相互作用が増大し、極板充填性の悪化が顕著になる傾向があり、また粉体流動性が減少する事でハンドリング性が著しく悪化する場合があった。一方で特に実用的なエネルギー密度を得るためには、ある程度の粒子サイズが必要であるが、粒径を大きくした場合には、出力不足がより顕著になる傾向があると考えられる。
【0040】
本実施形態に係るリチウム遷移金属複合酸化物粒子は、従来の単粒子よりも粒子サイズが揃っていることから、高電流密度で充放電を行った場合でも一部の粒子に電流が集中することによる粒子ごとの充放電深度のムラを抑えられるため、電流集中による抵抗増大を抑制しつつサイクルによる局所劣化が抑えられると考えられる。
【0041】
さらに粒界の少ないリチウム遷移金属複合酸化物粒子の粒径が揃っていることで、電極を作製する際に、高圧でプレスした場合でも粒子が崩壊しないことから、粒子間の空隙を均質化することができると考えられる。また電池を構成した場合、粒子問の空隙には電解質が充填されてリチウムイオンの拡散経路となるが、その拡散経路の大きさが揃うことで粒子ごとの充放電ムラを抑えることができると考えられる。これにより一次粒子問の接触粒界が少ないリチウム遷移金属複合酸化物粒子でも極板充填性を担保しつつ優れた出力特性を達成することができると考えられる。
【0042】
また、一般に単粒子を合成する場合、粒子成長させるために熱処理温度は高温を必要とする。特にNi比率の高い組成においては、高温焼成を行うとLiサイトへのNi元素の混入、いわゆるディスオーダーが生じる場合がある。ディスオーダーは、複合酸化物粒子中のLiイオンの拡散を阻害し抵抗となり、実用電流密度での充放電容量低下、出力特性低下等の影響を与えるため、抑制することが好ましい。ディスオーダーを抑えることで、単粒子においてより優れた容量及び出力特性を達成することができる。
【0043】
正極活物質を構成する複合酸化物粒子においては、電子顕微鏡観察に基づく平均粒径DSEMが、耐久性の観点から1~7μmである。また、出力密度及び極板充填性の観点から、後述するxの範囲が0.3≦x<0.6の場合は、1.1μm以上が好ましく、1.3μm以上がより好ましく、4μm以下が好ましく、2μm以下がより好ましい。xの範囲が0.6≦x≦0.95の場合は、1.1μm以上が好ましく、1.3μm以上がより好ましく、5μm以下が好ましく、4μm以下がより好ましい。
【0044】
電子顕微鏡観察に基づく平均粒径DSEMは、走査型電子顕微鏡(SEM)を用い、粒径に応じて1000~10000倍の範囲で観察し、粒子の輪郭が確認できる粒子を100個選択し、選択された粒子について画像処理ソフトウエアを用いて球換算径を算出し、得られた球換算径の算術平均値として求められる。
【0045】
複合酸化物粒子は、体積基準による累積粒度分布における50%粒径D50の電子顕微鏡観察に基づく平均粒径DSEMに対する比D50/DSEMが1~4である。D50/DSEMが1の場合、全て単一粒子であることを示し、1に近づくほど、構成される一次粒子の数が少ないことを示す。D50/DSEMは、耐久性の観点からD50/DSEMは、1以上4未満が好ましく、出力密度の観点から、3以下が好ましく、特に2.5以下が好ましい。
【0046】
また、複合酸化物粒子の50%粒径D50は、例えば1~21μmであり、出力密度の観点から1.5μm以上が好ましく、3μm以上がより好ましく、また8μm以下が好ましく、5.5μm以下がより好ましい。
【0047】
50%粒径D50は、レーザー回折式粒径分布測定装置を用いて、湿式条件で測定される体積基準の累積粒度分布において、小径側からの累積50%に対応する粒径として求められる。同様に、後述する90%粒径D90及び10%粒径D10は、それぞれ小径側からの累積90%及び累積10%に対応する粒径として求められる。
【0048】
複合酸化物粒子は、体積基準による累積粒度分布における90%粒径D90の10%粒径D10に対する比は、粒度分布の広がりを示し、値が小さいほど粒子の粒径がそろっていることを示す。D90/D10は4以下であり、出力密度の観点から、3以下が好ましく、2.5以下がより好ましい。D90/D10の下限は、例えば1.2以上である。
【0049】
リチウム遷移金属複合酸化物は、組成にNiを含む層状構造を有する。このようなリチウム遷移金属複合酸化物としては、例えばリチウムニッケル複合酸化物、リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物等を挙げることができる。中でもリチウム遷移金属複合酸化物は、下記式(1)で表される組成を有することが好ましい。
[化1]
LipNixCoyM1zO2+α ・・・式(1)
[式(1)中、p、x、y、z及びαは、1.0≦p≦1.3、0.3≦x≦0.95、0≦y≦0.4、0≦z≦0.5、x+y+z=1、-0.1≦α≦0.1を満たし、M1は、Mn及びA1の少なくとも一方を示す。]
【0050】
リチウム遷移金属複合酸化物粒子は、リチウム遷移金属複合酸化物を構成する元素以外の元素がドープされていてもよい。ドープされる元素としては例えば、B,Na,Mg,Si,P,S,K,Ca,Ti,V,Cr,Zn,Sr,Y,Zr,Nb,Mo,In,Sn,Ba,La,Ce,Nd,Sm,Eu,Gd,Ta,W及びBiが挙げられる。中でも、Mg、Ti、Wが好ましく例示される。これらの元素のドープに用いられる化合物としては、これらの元素からなる群から選択される少なくとも1種を含む酸化物及びフッ化物、並びにそのLi複合酸化物等が挙げられる。ドープ量は例えば、リチウム遷移金属複合酸化物粒子に対して、例えば0.005モル%以上10モル%以下とすることができる。
【0051】
また、リチウム遷移金属複合酸化物粒子は、リチウム遷移金属複合酸化物を含むコア粒子と、コア粒子の表面に配置される付着物とを有するものであってもよい。付着物はコア粒子の表面の少なくとも一部の領域に配置されていればよく、コア粒子の表面積の1%以上の領域に配置されていることが好ましい。付着物の組成は目的等に応じて適宜選択され、例えば、B,Na,Mg,Si,P,S,K,Ca,Ti,V,Cr,Zn,Sr,Y,Zr,Nb,Mo,In,Sn,Ba,La,Ce,Nd,Sm,Eu,Gd,Ta,W及びBiからなる群から選択される少なくとも1種を含む酸化物及びフッ化物、並びにそのLi複合酸化物等を挙げることができる。付着物の含有量は例えば、リチウム遷移金属複合酸化物粒子中に、0.03質量%以上10質量%以下とすることができ、0.1質量%以上2質量%以下が好ましい。
【0052】
リチウム遷移金属複合酸化物は組成にNiを含む。リチウム遷移金属複合酸化物は、非水系電解質二次電池における初期効率の観点から、X線回折法により求められるNi元素のディスオーダーが4.0%以下であることが好ましく、2.0%以下がより好ましく、1.5%以下がさらに好ましい。ここで、Ni元素のディスオーダーとは、本来のサイトを占有すべき遷移金属イオン(Niイオン)の化学的配列無秩序(chemical disorder)を意味する。層状構造のリチウム遷移金属複合酸化物においては、Wyckoff記号で表記した場合に3bで表されるサイト(3bサイト、以下同様)を占有すべきリチウムイオンと3aサイトを占有すべき遷移金属イオンの入れ替わりが代表的である。Ni元素のディスオーダーが小さいほど、初期効率が向上するので好ましい。
【0053】
リチウム遷移金属複合酸化物におけるNi元素のディスオーダーは、X線回折法により求めることができる。リチウム遷移金属複合酸化物について、CuKα線によりX線回折スペクトルを測定する。組成モデルをLi1-dNidMeO2(Meは、リチウム遷移金属複合酸化物中のNi以外の遷移金属)とし、得られたX線回折スペクトルに基づいて、リートベルト解析により構造最適化を行う。構造最適化の結果として算出されるdの百分率をNi元素のディスオーダーの値とする。
【0054】
リチウム遷移金属複合酸化物が式(1)で表される組成を有する場合、本発明の一実施形態においては、式(1)におけるxの値に応じて、aの範囲、DSEM、D50、D90及びD10で表される粒径の範囲、並びにNi元素のディスオーダーのより好ましい範囲が変動する場合があり、以下にそれらを例示する。
【0055】
式(1)において、xが0.3≦x<0.8を満たす場合、出力密度の観点から、D50/DSEMは、1以上2以下が好ましい。
【0056】
式(1)において、xが0.3≦x<0.6を満たす場合、出力密度の観点から、以下の態様の少なくとも1つを満たすことが好ましい。
(i)リチウム遷移金属複合酸化物粒子のx線回折法により求められるNi元素のディスオーダーは、充放電容量の観点から、1.5%以下であることが好ましい。
(ii)D90/D10は、3.0以下が好ましく、2.5以下がより好ましい。
(iii)D50は、極板充填性の観点から、1μm以上5.5μm以下が好ましく、1μm以上3μm以下がより好ましい。
(iv)式(1)におけるaは、1.1<a<1.2を満たすことが好ましい。
【0057】
式(1)において、xが0.6≦x<0.8を満たす場合、出力密度の観点から、以下の態様の少なくとも1つを満たすことが好ましい。
(i)リチウム遷移金属複合酸化物粒子のx線回折法により求められるNi元素のディスオーダーは充放電容量の観点から、2.0%以下であることが好ましい。
(ii)D90/D10は、2.3以下が好ましい。
(iii)D50は、極板充填性の観点から、1μm以上5.5μm以下が好ましい。
【0058】
式(1)において、xが0.8≦x<0.95を満たす場合、出力密度の観点から、以下の態様の少なくとも1つを満たすことが好ましい。
(i)リチウム遷移金属複合酸化物粒子のx線回折法により求められるNi元素のディスオーダーは、充放電容量の観点から、4.0%以下であることが好ましい。
(ii)D90/D10は、3.0以下が好ましい。
(iii)D50は、極板充填性の観点から、1μm以上5.5μm以下が好ましい。
【0059】
本実施形態に係る正極活物質に含まれるリチウム遷移金属複合酸化物粒子は、リチウム化合物と所望の組成を有する酸化物とを混合して原料混合物を得ることと、得られた原料混合物を熱処理することと、を含む製造方法で製造することができる。熱処理後に得られる熱処理物については、解砕処理を行ってもよく、水洗等によって未反応物、副生物等を除去する処理を行ってもよい。また、さらに分散処理、分級処理等を行ってもよい。
【0060】
所望の組成を有する酸化物を得る方法としては、原料化合物(水酸化物や炭酸化合物等)を目的組成に合わせて混合し熱処理によって酸化物に分解する方法、溶媒に可溶な原料化合物を溶媒に溶解し、温度調整、pH調整、錯化剤投入等で目的の組成に合わせて前駆体の沈殿を得て、それら前駆体を熱処理によって酸化物を得る共沈法等を挙げることができる。
以下、リチウム遷移金属複合酸化物が式(1)で表される場合を例として正極活物質の製造方法の一例について説明する。
【0061】
原料混合物を得る方法は、共沈法により、Niと、Coと、Mn及びAlの少なくとも一方と、を含む複合酸化物を得ることと、得られた複合酸化物と炭酸リチウム、水酸化リチウム等のリチウム化合物とを混合することと、を含むことが好ましい。
【0062】
共沈法により複合酸化物を得る方法には、所望の構成で金属イオンを含む混合水溶液のpH等を調整して種晶を得る種生成工程と、生成した種晶を成長させて所望の特性を有する複合水酸化物を得る晶析工程と、得られる複合水酸化物を熱処理して複合酸化物を得る工程と、を含むことができる。複合酸化物を得る方法の詳細については、特開2003-292322号公報、特開2011-116580号公報等を参照することができる。
【0063】
共沈法により得られる複合酸化物は、粒度分布の指標となるD90/D10が、例えば3以下であり、2以下が好ましい。また、D50は、例えば12μm以下であり、6μm以下が好ましく、4μm以下がより好ましく、また、例えば1μm以上であり、2μm以上が好ましい。
【0064】
複合酸化物におけるNiと、Coと、Mn及びAlとの含有比Ni/Co/(Mn+A1)は、例えば1/1/1、6/2/2、8/1/1等とすることができる。
【0065】
原料混合物は、複合酸化物に加えてリチウム化合物を含むことが好ましい。リチウム化合物としては、炭酸リチウム、水酸化リチウム、酸化リチウム等を挙げることができる。用いるリチウム化合物の粒径は、D50として例えば、0.1~100μmであり、2~20μmが好ましい。原料混合物におけるリチウムの含有量は、例えばLi/(Ni+Co+Mn+A1)として1.0以上であり、また1.3以下とすることができ、1.2以下であることが好ましい。複合酸化物とリチウム化合物の混合は例えば、高速せん断ミキサー等を用いて行うことができる。
【0066】
得られた原料混合物を熱処理することで、リチウム遷移金属複合酸化物粒子を得ることができる。熱処理の温度は例えば、700℃~1100℃である。熱処理は単一の温度で行ってもよく、複数の温度で行ってもよい。複数の温度で熱処理する場合、例えば700~925℃の範囲で第一熱処理を行い、次いで930~1100℃の範囲で第二熱処理を行うことができる。さらに700~850℃の範囲で第三熱処理を追加で行ってもよい。
【0067】
熱処理の時間は、例えば1~40時間であり、複数の温度で熱処理を行う場合は、それぞれ1~10時間とすることができる。熱処理の雰囲気は、大気中であっても、酸素雰囲気であってもよい。
【0068】
熱処理物には、解砕処理、分散処理、分級処理等を行ってもよい。これにより所望のリチウム遷移金属複合酸化物粒子を得ることができる。
【0069】
また熱処理物に解砕処理、分散処理、分級処理等を行った後、さらにリチウム化合物を混合して混合物を得て、追加の熱処理を行ってもよい。さらにリチウム化合物を混合する場合、混合物におけるリチウムの含有量は、例えばLi/(Ni+Co+Mn+Al)として1.05~1.3とすることができ、1.1~1.2であることが好ましい。また追加の熱処理の温度は850~1000℃の範囲とすることができ、870~950℃の範囲が好ましく、原料混合物の熱処理温度よりも低い温度であることが好ましい。追加の熱処理の熱処理時間は、例えば2~15時間とすることができる。追加の熱処理を行った後には、解砕処理、分散処理、分級処理等を行ってもよい。
【0070】
[非水系電解質二次電池]
本実施形態に係る非水系電解質二次電池は、正極として上述の非水系電解質二次電池用電極を備える。また、本実施形態に係る非水系電解質二次電池は、負極として従来公知の非水系電解質二次電池用負極を備える他、非水系電解質、セパレータ等を含んで構成される。
【0071】
非水系電解質二次電池用負極、非水系電解質、セパレータ等については、例えば、特開2002-075367号公報、特開2011-146390号公報、特開2006-12433号公報等に記載されたものを適宜用いることができ、その製造方法もこれら公報に記載された製造方法を用いることができる。
【0072】
なお、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良は本発明に含まれる。
【実施例】
【0073】
次に、本発明の実施例について説明する。ただし、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0074】
<正極活物質の製造例1>
(種生成工程)
まず、反応槽内に、水を10kg入れて撹拌しながら、アンモニウムイオン濃度が1.8質量%になるよう調整した。槽内温度を25℃に設定し、窒素ガスを流通させ、反応槽内空間の酸素濃度を10体積%以下に保持した。この反応槽内の水に、25質量%水酸化ナトリウム水溶液を加えて、槽内の溶液のpH値を13.5以上に調整した。
次に、硫酸ニッケル溶液、硫酸コバルト溶液及び硫酸マンガン溶液を混合してモル比で1:1:1の混合水溶液を調製した。
前記混合水溶液を、溶質が4モル分になるまで加え、水酸化ナトリウム溶液で反応溶液中のpH値を12.0以上に制御しながら種生成を行った。
【0075】
(晶析工程)
前記種生成工程後、晶析工程終了まで槽内温度を25℃以上に維持した。また溶質1200モルの混合水溶液を用意し、アンモニア水溶液と共に、溶液中のアンモニウムイオン濃度を2000ppm以上に維持しながら、反応槽内に新たに種生成が起こらないよう5時間以上かけて同時に投入した。反応中は水酸化ナトリウム溶液で反応溶液中のpH値を10.5~12.0を維持するように制御した。反応中に逐次サンプリングを行い、複合水酸化物粒子のD50が約4.5μmとなった所で投入を終了した。
次に生成物を水洗、濾過、乾燥させて複合水酸化物粒子を得た。得られた水酸化物前駆体を大気雰囲気下、300℃で20時間、熱処理を行い、Ni/Co/Mn=0.33/0.33/0.33組成比率を有し、D10=3.4μm、D50=4.5μm、D90=6.0μm、D90/D10=1.8である複合酸化物を得た。
【0076】
(合成工程)
得られた複合酸化物と炭酸リチウムとをLi/(Ni+Co+Mn)=1.15となるように混合し、原料混合物を得た。得られた原料混合物を大気中925℃で7.5時間焼成の後、1030℃で6時間焼成し、焼結体を得た。得られた焼結体を解砕し、樹脂製ボールミルにて10分間の分散処理を行い乾式篩にかけて粉状体を得た。得られた粉状体を乾式分級機にて大中小に3分級し中粒子を分取した。分級前に対して分級後中粒子の割合は46wt%であった。
以上により、電子顕微鏡観察に基づく平均粒径DSEMが3.6μmであり、D10=3.7μm、D50=5.1μm、D90=6.7μm、平均粒径DSEMに対するD50の比D50/DSEMが1.4であり、粒度分布における比D90/D10が1.8であり、Niディスオーダー量が0.3%あり、組成式:Li1.15Ni0.33Co0.33Mn0.33O2で表されるリチウム遷移金属複合酸化物粒子を得た。
【0077】
<正極活物質の製造例2>
製造例1の晶析工程における混合水溶液の投入終了タイミングを、複合水酸化物粒子のD50が約3.0μmとなったときに変更した以外は同じ条件にて行い、Ni/Co/Mn=0.33/0.33/0.33組成比率を有し、D10=2.2μm、D50=3.0μm、D90=4.1μm、D90/D10=1.9である複合酸化物を得た。
得られた複合酸化物と炭酸リチウムとをLi/(Ni+Co+Mn)=1.05となるように混合し、原料混合物を得た。得られた原料混合物を大気中925℃で7.5時間焼成の後、1030℃で6時間焼成し、焼結体を得た。得られた焼結体を解砕し、樹脂製ボールミルにて30分間の分散処理を行い乾式篩にかけ粉状体を得た。得られた粉状体と炭酸リチウムをLi/(Ni+Co+Mn)=1.17となるように混合し大気中900℃で10時間焼成し、焼結体を得た。得られた焼結体を解砕し、樹脂製ボールミルにて30分間の分散処理を行い乾式篩にかけ粉状体を得た。
以上により、平均粒径DSEMが1.2μmであり、D10=1.5μm、D50=3.3μm、D90=5.1μm、平均粒径DSEMに対するD50の比D50/DSEMが2.8であり、粒度分布におけるD90/D10比が3.4であり、Niディスオーダー量が0.9%であり、組成式:Li1.17Ni0.33Co0.33Mn0.33O2で表されるリチウム遷移金属複合酸化物粒子を得た。
【0078】
<正極活物質の製造例3>
製造例2と同じ条件にて複合酸化物を得た。得られた複合酸化物と炭酸リチウムとをLi/(Ni+Co+Mn)=1.05となるように混合し、原料混合物を得た。得られた原料混合物を大気中925℃で7.5時間焼成の後、1030℃で6時間焼成し、焼結体を得た。得られた焼結体を解砕し、樹脂製ボールミルにて30分間の分散処理を行い乾式篩にかけ粉状体を得た。得られた粉状体と炭酸リチウムをLi/(Ni+Co+Mn)=1.17となるように混合し大気中900℃で10時間焼成し、焼結体を得た。得られた焼結体を解砕し、ジェットミルを用いて一次粒子が粉砕されない様に供給圧0.4MPa、粉砕圧0.55MPaに調整し分散処理を2回行い乾式篩にかけ粉状体を得た。
以上により、平均粒径DSEMが1.4μmであり、D10=1.1μm、D50=1.9μm、D90=2.8μm、平均粒径DSEMに対するD50の比D50/DSEMが1.4であり、粒度分布におけるD90/D10比が2.5であり、Niディスオーダー量が1.0%であり、組成式:Li1.17Ni0.33Co0.33Mn0.33O2で表されるリチウム遷移金属複合酸化物粒子を得た。
【0079】
<正極活物質の製造例4>
製造例2と同じ条件にて複合酸化物を得た。得られた複合酸化物と炭酸リチウムとをLi/(Ni+Co+Mn)=1.05となるように混合し、原料混合物を得た。得られた原料混合物を大気中925℃で7.5時間焼成の後、1030℃で6時間焼成し、焼結体を得た。得られた焼結体を解砕し、樹脂製ボールミルにて10分間の分散処理を行い乾式篩にかけ粉状体を得た。得られた粉状体と炭酸リチウムをLi/(Ni+Co+Mn)=1.14となるように混合し大気中900℃で10時間焼成し、焼結体を得た。得られた焼結体を解砕し、樹脂製ボールミルにて10分間の分散処理を行い乾式篩にかけ粉状体を得た。
以上により、平均粒径DSEMが1.25μmであり、D10=2.7μm、D50=4.5μm、D90=6.7μm、一次粒子の平均粒径DSEMに対するD50の比D50/DSEMが3.6であり、粒度分布におけるD90/D10比が2.5であり、Niディスオーダー量が1.0%であり、組成式:Li1.14Ni0.33Co0.33Mn0.33O2で表されるリチウム遷移金属複合酸化物粒子を得た。
【0080】
<正極活物質の製造例5>
製造例2と同じ条件にて複合酸化物を得た。得られた複合酸化物と炭酸リチウムとをLi/(Ni+Co+Mn)=1.15となるように混合し、原料混合物を得た。得られた原料混合物を大気中950℃で15時間焼成し、焼結体を得た。得られた焼結体を解砕し、樹脂製ボールミルにて10分間の分散処理を行い乾式篩にかけ粉状体を得た。
以上により、平均粒径DSEMが0.49μmであり、D10=3.0μm、D50=4.4μm、D90=7.6μm、平均粒径DSEMに対するD50の比D50/DSEMが9.0であり、粒度分布におけるD90/D10比が2.5であり、Niディスオーダー量が0.9%であり、組成式:Li1.15Ni0.33Co0.33Mn0.33O2で表されるリチウム遷移金属複合酸化物粒子を得た。
【0081】
<正極活物質の製造例6>
製造例1における硫酸ニッケル溶液、硫酸コバルト溶液及び硫酸マンガン溶液の混合比をモル比で8:1:1に変更して混合水溶液を得たこと、晶析工程における混合水溶液の投入終了タイミングを複合水酸化物粒子のD50が3.2μmとなったときに変更した以外は同じ条件にて行い、Ni/Co/Mn=0.80/0.10/0.10組成比率を有しD10=2.2μm、D50=2.9μm、D90=4.0μm、D90/D10=1.8である複合酸化物を得た。得られた複合酸化物と水酸化リチウム一水和物をLi/(Ni+Co+Mn)=1.04となるように混合し、原料混合物を得た。得られた原料混合物を酸素気流中780℃で5時間焼成の後、900℃で10時間焼成し、さらに780℃で5時間焼成し、焼結体を得た。得られた焼結体を解砕し、樹脂製ボールミルにて10分間の分散処理を行い、粉状体を得た。さらに回転羽根式の高速撹拌ミキサー中に粉状体と、粉状体に対して10質量%の水とを加え、2000rpmで撹拌することで粒界の残留アルカリを溶出させて分散処理を行い、350℃で乾燥後に乾式篩にかけ粉状体を得た。
以上により、平均粒径DSEMが1.5μmであり、D10=2.2μm、D50=3.6μm、D90=6.0μm、平均粒径DSEMに対するD50の比D50/DSEMが2.4であり、粒度分布におけるD90/D10比が2.7であり、Niディスオーダー量が1.6%であり、組成式:Li1.04Ni0.80Co0.10Mn0.10O2で表されるリチウム遷移金属複合酸化物粒子を得た。
【0082】
<評価>
上述のようにして得た各製造例のリチウム遷移金属複合酸化物を正極活物質として、以下の手順で評価用電池を作製した。
【0083】
先ず、上述のようにして得た各正極活物質を96質量部、アセチレンブラック3質量部及びポリフッ化ビニリデン(PVDF)1質量部を、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)に分散させて正極合剤を調製した。得られた正極合剤を、集電体としてのアルミニウム箔に塗布し、乾燥後ロールプレス機で圧縮成形した後、所定のサイズに裁断することにより、正極を作製した。
【0084】
上述のようにして得た正極と、負極としてのグラファイトに、各々リード電極を取り付けた後、正極と負極との間にセパレータを配し、袋状のラミネートパックにそれらを収納した。セパレータとしては、厚みが16μmのPEセパレータを用いた。
次いで、これを65℃で真空乾燥させて、各部材に吸着した水分を除去した。その後、アルゴン雰囲気下でラミネートパック内に電解液を注入し、封止した。
【0085】
こうして得られた電池を25℃の恒温槽に入れ、微弱電流でエージングを行った。電解液としては、エチレンカーボネート(EC)とエチルメチルカーボネート(EMC)とジメチルカーボネート(DMC)を体積比3:3:4で混合したものにビニレンカーボネート(VC)を1.5質量%添加した後、六フッ化リン酸リチウム(LiPF6)を濃度が1.2mol/lになるように溶解させたものを用いた。
【0086】
各正極活物質のD10、D50及びD90は、レーザー回折式粒径分布測定装置((株)島津製作所製SALD-3100)を用いて、体積基準の累積粒度分布を測定し、小径側からの累積に対応してそれぞれの粒径を求めた。
【0087】
各正極活物質のDSEMは、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて、1000~10000倍で観察した画像において、粒子の輪郭が確認できる粒子を100個選択し、選択された粒子について画像処理ソフトウエア(ImageJ)を用いて球換算径を算出し、得られた球換算径の算術平均値として求めた。
【0088】
ニッケル元素のディスオーダーの値(Niディスオーダー量)については、X線回折法により以下の手順で求めた。
得られたリチウム遷移金属複合酸化物粒子について、CuKα線によりX線回折スペクトルを測定した。得られたX線回折スペクトルに基づいて、組成モデルをLi1-dNidMeO2(Meは、リチウム遷移金属複合酸化物中のニッケル以外の遷移金属)として、リチウム遷移金属複合酸化物について、リートベルト解析により、構造最適化を行った。構造最適化の結果算出されるdの百分率を、Niディスオーダー量とした。
【0089】
水銀圧入法を用いて、空孔率、空孔のピーク直径、空孔の平均直径を測定した。直径約5μmを超える直径域を、測定上のノイズと推測してカットした。密度は電極重量と電極体積から求めた。
【0090】
また、上述のようにして得た評価用電池について、出力密度を評価した。具体的には、評価用電池を放電してSOC50%の状態に設定し、25℃の環境下に2時間保持した。続いてSOC50%の状態から定電流放電を行い、10秒目の直流抵抗を測定し、出力密度を算出した。なお、放電下限電圧は2.7Vとした。結果を表1に示す。
【0091】
【0092】
また、各評価結果を、
図6~
図10にまとめて示した。
図6は、本実施例、参考例及び比較例の正極活物質層の空孔率と出力との関係を示す図である。
図7は、本実施例、参考例及び比較例の正極活物質層の密度と出力との関係を示す図である。
図8は、本実施例、参考例及び比較例の正極活物質層の空孔分布曲線における空孔のピーク直径と出力との関係を示す図である。
図9は、本実施例、参考例及び比較例の正極活物質層の空孔の平均直径と出力との関係を示す図である。
図10は、本実施例、参考例及び比較例の正極活物質の空孔のピーク直径/平均直径と出力との関係を示す図である。
【0093】
表1に示すように、本実施例は、比較例1~12や参考例1~13と比較して高い出力特性を有することが確認された。
図6中、横軸は空孔率(%)を示しており、縦軸は出力(W/kg)を示している。この
図6から、正極活物質層の空孔率が10~45%であることにより、高い出力特性が得られることが確認された。
図7中、横軸は密度(g/cm
3)を示しており、縦軸は出力(W/kg)を示している。この
図7から、正極活物質層の密度が2.7~3.9g/cm
3であることにより、高い出力特性が得られることが確認された。
図8中、横軸はピーク直径(μm)を示しており、縦軸は出力(W/kg)を示している。この
図8から、空孔分布曲線における空孔のピーク直径が0.06~0.3μmであることにより、高い出力特性が得られることが確認された。
図9中、横軸は平均直径(μm)を示しており、縦軸は出力(W/kg)を示している。この
図9から、空孔の平均直径が0.03~0.2μmであることにより、高い出力特性が得られることが確認された。
図10中、横軸は空孔ピーク直径/空孔平均直径を示しており、縦軸は出力(W/kg)を示している。この
図10から、空孔の平均直径に対する空孔のピーク直径の比(ピーク直径/平均直径)が1.1~2.4であることにより、高い出力特性が得られることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0094】
本開示の正極活物質を用いた非水系電解質二次電池用電極を備える非水系電解質二次電池は、優れた出力密度と耐久性とを有することから、電気自動車等の大型動力機器に好適に利用できる。