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  • 特許-フッ化物蛍光体の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-12
(45)【発行日】2023-09-21
(54)【発明の名称】フッ化物蛍光体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C09K 11/08 20060101AFI20230913BHJP
   C09K 11/59 20060101ALI20230913BHJP
   C09K 11/61 20060101ALI20230913BHJP
   C09K 11/64 20060101ALI20230913BHJP
【FI】
C09K11/08 A
C09K11/59
C09K11/61
C09K11/64
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021110955
(22)【出願日】2021-07-02
(65)【公開番号】P2023007852
(43)【公開日】2023-01-19
【審査請求日】2022-08-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000226057
【氏名又は名称】日亜化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100138863
【弁理士】
【氏名又は名称】言上 惠一
(74)【代理人】
【識別番号】100131808
【弁理士】
【氏名又は名称】柳橋 泰雄
(74)【代理人】
【識別番号】100145104
【弁理士】
【氏名又は名称】膝舘 祥治
(72)【発明者】
【氏名】吉田 雅人
【審査官】川嶋 宏毅
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-012091(JP,A)
【文献】特開2010-254933(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第105623656(CN,A)
【文献】特開2020-176250(JP,A)
【文献】特開2015-188075(JP,A)
【文献】国際公開第2022/255221(WO,A1)
【文献】国際公開第2022/138205(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 11/00-11/89
H01L 33/50
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第13族元素からなる群から選択される少なくとも1種を含む元素M、マンガン及びフッ素を含む第1溶液と、第4族元素及び第14族元素からなる群から選択される少なくとも1種を含む元素Mを含む第2溶液と、アルカリ金属元素からなる群から選択される少なくとも1種を含む第3溶液と、をそれぞれ準備することと、
前記第1溶液に、前記第2溶液と前記第3溶液とをそれぞれ略同時に時間的に重複して添加することと、を含むフッ化物蛍光体の製造方法。
【請求項2】
前記元素Mが少なくともアルミニウムを含む請求項1に記載のフッ化物蛍光体の製造方法。
【請求項3】
前記元素Mが少なくともケイ素を含む請求項1又は2に記載のフッ化物蛍光体の製造方法。
【請求項4】
前記第1溶液が、アルミニウム化合物、ヘキサフルオロマンガン酸塩及びフッ化水素酸を含む請求項1から3のいずれか1項に記載のフッ化物蛍光体の製造方法。
【請求項5】
前記第2溶液が、実質的にヘキサフルオロケイ酸及び水からなる請求項1から4のいずれか1項に記載のフッ化物蛍光体の製造方法。
【請求項6】
前記フッ化物蛍光体は、アルカリ金属からなる群から選択される少なくとも1種を含む元素と、第13族元素からなる群から選択される少なくとも1種を含む元素Mと、第4族元素及び第14族元素からなる群から選択される少なくとも1種を含む元素Mと、マンガンと、フッ素と、を含み、
前記アルカリ金属の総モル数を2とした場合に、前記元素Mと元素Mと前記マンガンの総モル数が0.9以上1.1以下であり、前記元素Mのモル数が0を超えて0.1以下であり、前記マンガンのモル数が0を超えて0.2以下であり、前記フッ素のモル数が5.9以上6.1以下である組成を有する請求項1から5のいずれか1項に記載のフッ化物蛍光体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、フッ化物蛍光体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
発光素子と蛍光体とを組み合わせた発光装置が、照明、車載照明、ディスプレイ、液晶用バックライト等の幅広い分野で利用されている。例えば、液晶用バックライト用途の発光装置に用いる蛍光体には、色純度が高い、すなわち発光ピークの半値幅が狭いことが求められている。発光ピークの半値幅の狭い赤色発光の蛍光体として、特許文献1には、4価のマンガンで賦活されたフッ化物蛍光体が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2010-254933号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
発光ピークの半値幅の狭い赤色発光の蛍光体には、発光装置を構成する場合に、より高い光束が達成できることが求められている。
【0005】
本開示の一態様は、発光装置における光束を向上させることができるフッ化物蛍光体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第一態様は、第13族元素からなる群から選択される少なくとも1種を含む元素M、マンガン及びフッ素を含む第1溶液と、第4族元素及び第14族元素からなる群から選択される少なくとも1種を含む元素Mを含む第2溶液と、アルカリ金属元素からなる群から選択される少なくとも1種を含む第3溶液と、をそれぞれ準備することと、前記第1溶液に、前記第2溶液と前記第3溶液とをそれぞれ略同時に添加することと、を含むフッ化物蛍光体の製造方法である。
【発明の効果】
【0007】
本開示の一態様によれば、発光装置における光束を向上させることができるフッ化物蛍光体の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】フッ化物蛍光体を含む発光装置の一例を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本明細書において「工程」との語は、独立した工程だけではなく、他の工程と明確に区別できない場合であってもその工程の所期の目的が達成されれば、本用語に含まれる。また組成物中の各成分の含有量は、組成物中に各成分に該当する物質が複数存在する場合、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数の物質の合計量を意味する。さらに本明細書に記載される数値範囲の上限及び下限は、当該数値を任意に選択して組み合わせることが可能である。本明細書において、色名と色度座標との関係、光の波長範囲と単色光の色名との関係等は、JIS Z8110に従う。蛍光体および発光素子の半値幅は、蛍光体および発光素子の発光スペクトルにおいて、最大発光強度に対して発光強度が50%となる発光スペクトルの波長幅(半値全幅;FWHM)を意味する。蛍光体の中心粒径は、体積基準の中心粒径であり、体積基準の粒径分布において、小径側からの体積累積50%に対応する粒径を指す。蛍光体の粒度分布は、レーザー回折法により、レーザー回折式粒度分布測定装置を用いて測定される。蛍光体の平均粒径は、空気透過法で得られるF.S.S.S.No.(Fisher Sub Sieve Sizer's No.)であり、例えば、Fisher Scientific社製 Fisher Sub-Sieve Sizer Model95を用いて測定される。以下、本発明の実施形態を詳細に説明する。ただし、以下に示す実施形態は、本発明の技術思想を具体化するための、フッ化物蛍光体の製造方法を例示するものであって、本発明は、以下に示すフッ化物蛍光体の製造方法に限定されない。
【0010】
フッ化物蛍光体の製造方法
フッ化物蛍光体の製造方法は、第13族元素からなる群から選択される少なくとも1種を含む元素M、マンガン及びフッ素を含む第1溶液と、第4族元素及び第14族元素からなる群から選択される少なくとも1種を含む元素Mを含む第2溶液と、アルカリ金属元素からなる群から選択される少なくとも1種を含む第3溶液と、をそれぞれ準備する準備工程と、第1溶液に、第2溶液と第3溶液とをそれぞれ略同時に添加してフッ化物蛍光体を合成する合成工程と、を含む。
【0011】
成分の異なる3種の溶液を混合してフッ化物蛍光体を合成することで、得られるフッ化物蛍光体を含む蛍光部材を備える発光装置は、高い光束を達成でき、さらに耐久性に優れる。これは例えば、3種の溶液に分けられたフッ化物蛍光体を構成する各成分が、フッ化物蛍光体の合成時に揃うことで、特に第13族元素の分布がより均一に制御されるため、より均一な所望の組成を有するフッ化物蛍光体の結晶が形成されるためと考えることができる。
【0012】
準備工程
準備工程では、元素M、マンガン(Mn)及びフッ素(F)を含む第1溶液と、元素Mを含む第2溶液と、アルカリ金属元素を含む第3溶液と、をそれぞれ準備する。
【0013】
第1溶液は、元素M、マンガン及びフッ素を含む。元素Mは、第13族元素からなる群から選択される少なくとも1種を含み、必要に応じて第13族元素以外の元素をさらに含んでいてもよい。第13族元素としては、ホウ素(B)、アルミニウム(Al)、ガリウム(Ga)、インジウム(In)等を挙げることができる。第1溶液に含まれる元素Mは、好ましくは少なくともAlを含んでいてよい。第1溶液に含まれる元素Mの総モル数に対するAlのモル数の比は、例えば、90モル%以上であってよく、好ましくは95モル%以上、または98モル%以上であってよい。元素Mは、第1溶液にイオンまたは錯体イオンとして含まれていてもよく、元素Mを含む化合物として含まれていてもよい。
【0014】
第1溶液を構成する元素M源としては、元素Mの塩、元素Mの水酸化物、元素Mの酸化物等の元素Mを含む化合物を挙げることができる。元素Mの塩としては、フッ素、塩素等のハロゲンを含むハロゲン化物、硫酸塩、硝酸塩等を挙げることができる。第1溶液を構成する元素M源は、1種単独で用いても2種以上を併用してもよい。具体的には、M源がアルミニウム(Al)を含む場合、M源となるアルミニウム化合物として、例えば、Al(OH)等の水酸化物、KAlF等のヘキサフルオロアルミニウム酸塩等を挙げることができる。
【0015】
第1溶液における元素M源濃度は、例えば、0.01質量%以上15.0質量%以下であってよく、好ましくは0.05質量%以上、または0.1質量%以上であってよく、また好ましくは10.0質量%以下、または5.0質量%以下であってよい。
【0016】
第1溶液に含まれるマンガンは、マンガンイオンまたはマンガンイオンを含む第1錯イオンの形態であってよい。マンガンイオンは、例えば4価のマンガンイオンを含んでいてよい。マンガン源は、マンガンを含む化合物であればよく、具体的には例えば、KMnF、KMnO、KMnCl等を挙げることができる。中でも、フッ化物蛍光体を賦活することのできる酸化数(4価)を維持しながら、MnF錯イオンとしてフッ化水素酸中に安定して存在することができること等から、KMnF等のヘキサフルオロマンガン酸塩が好ましい。なお、マンガン源のうち、カリウム等のアルカリ金属等を含むものは、第3溶液に含まれるアルカリ金属源の一部を兼ねることができる。第1溶液を構成するマンガン源は、1種単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0017】
第1溶液におけるマンガン濃度の下限値は、例えば0.01質量%以上、好ましくは0.03質量%以上、0.05質量%以上、または0.1質量%以上であってよい。また、第1溶液におけるマンガン濃度の上限値は、例えば50質量%以下、好ましくは40質量%以下、30質量%以下、または10質量%以下であってよい。
【0018】
第1溶液に含まれるフッ素は、フッ化物イオン、フッ化水素またはフッ化物イオンを含む錯イオンの形態であってよい。第1溶液におけるフッ素の濃度は、例えば、フッ化水素濃度として、その下限値は、例えば20質量%以上、好ましくは25質量%以上、または30質量%以上であってよい。また、第1溶液におけるフッ化水素濃度の上限値は、例えば80質量%以下、好ましくは75質量%以下、または70質量%以下であってよい。フッ化水素濃度が30質量%以上であると、第1溶液を構成するマンガン源(例えば、KMnF)の加水分解に対する安定性が向上し、第1溶液における4価のマンガン濃度の変動が抑制される。これにより得られるフッ化物蛍光体に含まれるマンガン賦活量を容易に制御することができ、フッ化物蛍光体における発光効率のバラつき(変動)を抑制することができる傾向がある。またフッ化水素濃度が70質量%以下であると、第1溶液の沸点の低下が抑制され、フッ化水素ガスの発生が抑制される。これにより、第1溶液におけるフッ化水素濃度を容易に制御することができ、得られるフッ化物蛍光体の粒子径のバラつき(変動)を効果的に抑制することができる。
【0019】
第1溶液は、例えば、元素M源とマンガン源とフッ素源とを液媒体中で混合して溶解することで調製することができる。第1溶液を構成する液媒体は、少なくとも水を含んでいてよく、第1溶液におけるフッ素源を兼ねるフッ化水素酸水溶液であってよい。第1溶液は、好ましくは、元素M源とマンガン源とをフッ化水素酸水溶液に溶解することで調製することができる。
【0020】
第2溶液は、元素Mを含む。元素Mは、第4族元素及び第14族元素からなる群から選択される少なくとも1種を含み、必要に応じて第4族元素及び第14族元素以外の元素をさらに含んでいてもよい。第4族元素としては、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、ハフニウム(Hf)等を挙げることができる。第14族元素としては、炭素(C)、ケイ素(Si)、ゲルマニウム(Ge)、スズ(Sn)、鉛(Pb)等を挙げることができる。第2溶液に含まれる元素Mは、好ましくは少なくともTi、Zr、Hf、Si、Ge及びSnからなる群から選択される少なくとも1種を含んでいてよく、Si又はSi及びGeを含んでいてよく、少なくともSiを含んでいてよい。第2溶液に含まれる元素Mの総モル数に対するSiのモル数の比は、例えば、90%以上であってよく、好ましくは93%以上、または95%以上であってよい。元素Mは、第2溶液にイオン、錯体イオンまたは元素Mを含む化合物として含まれていてよい。
【0021】
第2溶液における元素M源濃度の下限値は、例えば1質量%以上、好ましくは2質量%以上、または3質量%以上であってよい。また、第2溶液における元素M源濃度の上限値は、例えば50質量%以下、好ましくは40質量%以下、30質量%以下、または10質量%以下であってよい。
【0022】
第2溶液は、元素M源として、元素Mとフッ素イオンとを含む第2錯イオンを少なくとも含んでいてもよい。例えば、第2錯イオンがSiを含む場合、第2錯イオン源は、ケイ素とフッ素とを含み、溶液への溶解性に優れる化合物であることが好ましい。第2錯イオン源として具体的には、HSiF、NaSiF、(NHSiF、RbSiF、CsSiF等を挙げることができる。これらの中でも、水への溶解度が高く、不純物としてアルカリ金属元素を含まないことにより、HSiFが好ましい。第2溶液を構成する第2錯イオン源は、1種を単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0023】
第2溶液が、元素M源としてHSiF(ヘキサフルオロケイ酸)を含む場合、元素M源の総含有量に対するヘキサフルオロケイ酸の含有率は、例えば80%以上であってよく、好ましくは90%以上、または95%以上であってよく、実質的にヘキサフルオロケイ酸のみであってよい。ここで、実質的とは不可避的に混入する不純物を許容することを意味する。
【0024】
第2溶液は、例えば、元素M源を液媒体に溶解することで調製することができる。液媒体は、例えば、少なくとも水を含んでいてよい。一態様として、第2溶液は、元素M源(例えば、ヘキサフルオロケイ酸)を水に溶解することで調製することができる。
【0025】
第3溶液は、アルカリ金属を含む。アルカリ金属としては、リチウム(Li)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、ルビジウム(Rb)、セシウム(Cs)等が挙げられ、これらからなる群から選択される少なくとも1種を含んでいてよい。アルカリ金属は、少なくともKを含んでいてよい。第3溶液に含まれるアルカリ金属の総モル数に対するKのモル数の比は、例えば、0.8以上であってよく、好ましくは0.9以上、または0.95以上であってよい。アルカリ金属は、第3溶液にイオンとして含まれていてよい。
【0026】
第3溶液に含まれるアルカリ金属の一部は、アンモニウムイオン(NH )に置換されていてもよい。アルカリ金属の一部がアンモニウムイオンに置換される場合、第3溶液に含まれるアルカリ金属の総モル数に対するアンモニウムイオンのモル数の比は、例えば0.10以下であってよく、好ましくは0.05以下、又は0.03以下である。アンモニウムイオンのモル数の比の下限は、例えば0を超えていてよく、好ましくは0.005以上であってよい。
【0027】
第3溶液におけるアルカリ金属源濃度の下限値は、例えば3質量%以上、好ましくは5質量%以上、または10質量%以上であってよい。また、第3溶液におけるアルカリ金属源濃度の上限値は、例えば70質量%以下、好ましくは60質量%以下、50質量%以下、または40質量%以下であってよい。
【0028】
第3溶液は、例えば、アルカリ金属元素源を液媒体中に溶解することで調製することができる。アルカリ金属源としては、例えば、アルカリ金属のハロゲン化物、水酸化物、酢酸塩、炭酸塩等を挙げることができる。アルカリ金属源として具体的には、カリウム源として例示すると、KF、KHF、KOH、KCl、KBr、KI、CHCOOK、KCO等の水溶性カリウム塩を挙げることができる。中でも第3溶液中のフッ化水素濃度を下げることなく溶解することができ、また、溶解熱が小さく安全性が高いことから、KHFが好ましい。またカリウム源以外のアルカリ金属源としては、NaHF、RbCO、CsCO等を挙げることができる。第3溶液を構成するアルカリ金属源は、1種を単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0029】
第3溶液を構成する液媒体は、例えば、少なくとも水を含んでいてよい。また、第3溶液はフッ化水素をさらに含んでいてよく、液媒体がフッ化水素酸水溶液であってよい。第3溶液におけるフッ化水素濃度の下限値は、例えば5質量%以上であってよく、好ましくは10質量%以上、または15質量%以上であってよい。また、第3溶液におけるフッ化水素濃度の上限値は、例えば80質量%以下であってよく、好ましくは70質量%以下、60質量%以下または50質量%以下であってよい。
【0030】
第3溶液は、例えば、アルカリ金属源を液媒体に溶解することで調製することができる。一態様として、第3溶液は、アルカリ金属源(例えば、KHF)をフッ化水素酸水溶液に溶解することで調製することができる。
【0031】
合成工程
合成工程では、準備した第1溶液に、第2溶液と第3溶液とを略同時に添加してフッ化物蛍光体を合成する。第1溶液、第2溶液及び第3溶液を混合することにより、所定の割合でマンガンと、アルカリ金属イオンと、元素Mを含むイオンと、元素Mを含むイオンとが反応して目的のフッ化物蛍光体の結晶が析出する。
【0032】
合成工程では、第1溶液に、第2溶液と第3溶液とを略同時に添加する。ここで、略同時に添加するとは、第2溶液の添加と第3溶液の添加とが時間的に重複して行われることを意味する。すなわち、第2溶液の添加開始と第3溶液の添加開始とが必ずしも一致していなくてもよいし、第2溶液の添加終了と第3溶液の添加終了とが必ずしも一致していなくてもよい。また第2溶液の第1溶液への添加と、第3溶液の第1溶液への添加とは独立に行われてよい。すなわち、第2溶液の添加用流路と第3溶液の添加用流路とは別々であってよい。
【0033】
また合成工程では、第1溶液を撹拌しながら、第2溶液及び第3溶液を添加してもよい。撹拌方法は、製造規模、反応釜等に応じて通常用いられる方法から適宜選択すればよい。合成工程における温度は、例えば第1溶液の温度を5℃以上50℃以下に制御してよく、15℃以上30℃以下に制御してよい。
【0034】
合成工程における第2溶液及び第3溶液の添加は、第1溶液への滴下であってもよいし、連続的な添加であってもよい。また、添加速度は、例えば、準備した第2溶液及び第3溶液の1分間当たりのそれぞれの添加量を、それぞれの初期液量の1体積%以上20体積%以下としてよく、好ましくはそれぞれの初期液量の3体積%以上15体積%以下としてよい。また、合成工程における第2溶液の添加に要する時間と、第3溶液の添加に要する時間とは、準備したそれぞれの液量等に応じて適宜選択されてよい。第2溶液及び第3溶液の添加に要する時間は、例えば、1分以上20分以下であってよく、好ましくは2分以上15分以下であってよい。さらに第2溶液の添加に要する時間と、第3溶液の添加に要する時間とは、同一であっても異なっていてもよく、好ましくは同一であってよい。
【0035】
フッ化物蛍光体の製造方法の一態様においては、第1溶液に、第2溶液及び第3溶液をそれぞれ独立に、且つ略同時に添加して3種の溶液を混合する。また、フッ化物蛍光体の製造方法の別の態様においては、第3溶液に、第1溶液及び第2溶液をそれぞれ独立に、且つ略同時に添加して3種の溶液を混合してもよく、第2溶液に、第1溶液及び第3溶液をそれぞれ独立に、且つ略同時に添加して3種の溶液を混合してもよい。さらに、第1溶液、第2溶液及び第3溶液のそれぞれを、同一の容器に、独立に、且つ略同時に添加して3種の溶液を混合してもよい。
【0036】
なお、第1溶液、第3溶液及び第3溶液の混合に際しては、第1溶液、第2溶液及び第3溶液の仕込み組成と、得られるフッ化物蛍光体の化学組成とのずれを考慮して、生成物としてのフッ化物蛍光体の化学組成が目的の化学組成となるように、第1溶液、第2溶液及び第3溶液の混合割合を適宜調整することが好ましい。
【0037】
合成工程において析出したフッ化物蛍光体は、濾過等により固液分離して回収することができる。またエタノール、イソプロピルアルコール、水、アセトン等の溶媒で洗浄してもよい。更に乾燥処理を行ってもよく、通常50℃以上、好ましくは55℃以上、より好ましくは60℃以上、また、通常150℃以下、好ましくは120℃以下、より好ましくは110℃以下で乾燥する。乾燥時間としては、フッ化物蛍光体に付着した水分の少なくとも一部を蒸発させることができる時間であればよく、例えば、10時間程度である。
【0038】
フッ化物蛍光体の製造方法は、得られたフッ化物蛍光体を、フッ素含有物質と接触させた状態で、400℃以上の熱処理温度で熱処理をして熱処理されたフッ化物蛍光体を得る熱処理工程をさらに含んでいてよい。
【0039】
フッ化物蛍光体を、フッ素含有化合物と接触させた状態で熱処理することで、フッ化物蛍光体の結晶構造中でフッ素原子が不足している領域にフッ素原子が供給されて、結晶構造の欠陥がより低減されると考えられる。これにより輝度がより向上されると考えられる。またフッ化物蛍光体の耐久性がより向上すると考えられる。
【0040】
熱処理工程で用いられるフッ素含有物質は、常温で固体状態、液体状態又は気体状態のいずれであってもよい。固体状態又は液体状態のフッ素含有物質としては、例えば、NHF等が挙げられる。また、気体状態のフッ素含有物質としては、例えば、F、CHF、CF、NHHF、HF、SiF、KrF、XeF、XeF、NF等が挙げられ、これらからなる群から選択される少なくとも1種であってよく、好ましくはF及びHFからなる群から選択される少なくとも1種であってよい。
【0041】
フッ素含有物質が、常温で固体状態又は液体状態のものである場合、フッ化物蛍光体とフッ素含有物質とを混合することで、これらを接触させた状態とすることができる。フッ化物蛍光体は、例えば、フッ化物蛍光体とフッ素含有物質の合計量100質量%に対して、フッ素原子の質量換算で1質量%以上20質量%以下、好ましくは2質量%以上10質量%以下のフッ素含有物質と混合してよい。
【0042】
フッ化物蛍光体とフッ素含有物質とを混合する際の温度は、例えば、室温(20℃±5℃)から熱処理温度よりも低い温度でもよく、熱処理温度でもあってもよい。具体的には、20℃以上400℃未満の温度でもよく、400℃以上の温度であってもよい。フッ化物蛍光体と常温で固体状態又は液体状態のフッ素含有物質とを接触させる温度が20℃以上400℃未満の場合は、フッ化物蛍光体とフッ素含有物質とを接触させてから400℃以上の温度で熱処理を行なう。
【0043】
フッ素含有物質が気体である場合には、フッ素含有物質を含む雰囲気中にフッ化物蛍光体を配置して接触させてもよい。フッ素含有物質を含む雰囲気は、フッ素含有物質に加えて希ガス、窒素等の不活性ガスを含んでいてもよい。この場合、雰囲気中のフッ素含有物質の濃度は、例えば、3体積%以上35体積%以下であってよく、好ましくは5体積%以上又は10体積%以上であってよく、また好ましくは30体積%以下又は25体積%以下であってよい。
【0044】
熱処理は、フッ化物蛍光体とフッ素含有物質とを接触させた状態で、熱処理温度を所定時間に亘って保持することで実施してよい。熱処理温度は、例えば400℃以上であってよく、好ましくは400℃より高い温度、425℃以上、450℃以上又は480℃以上であってよい。第二熱処理温度の上限は、例えば600℃未満であってよく、好ましくは580℃以下、550℃以下又は520℃以下であってよい。
【0045】
熱処理温度が前記下限値以上であると、フッ化物蛍光体に充分にフッ素原子が供給され、熱処理して得られるフッ化物蛍光体の輝度がより向上する傾向がある。また熱処理温度が前記上限値以下であると、熱処理して得られるフッ化物蛍光体の分解がより効果的に抑制され、得られるフッ化物蛍光体の輝度がより向上する傾向がある。
【0046】
熱処理工程における熱処理時間、すなわち、熱処理温度を保持する時間は、例えば、1時間以上40時間以下であってよく、好ましくは2時間以上又は3時間以上であってよく、また好ましくは30時間以下、10時間以下又は8時間以下であってよい。熱処理温度での熱処理時間が前記範囲内であれば、フッ化物蛍光体に、十分にフッ素原子を供給することができる。これによりフッ化物蛍光体の結晶構造がより安定となり、輝度が高いフッ化物蛍光体が得られる傾向がある。
【0047】
熱処理工程における圧力は、大気圧(0.101MPa)であってもよく、大気圧を超えて5MPa以下でもよく、大気圧を超えて1MPa以下でもよい。
【0048】
フッ化物蛍光体の製造方法は、熱処理工程後に得られる熱処理物に解砕、粉砕、分級操作等の処理を組合せて行う整粒工程を含んでいてもよい。整粒工程により所望の粒径の粉末を得ることができる。
【0049】
フッ化物蛍光体
上述したフッ化物蛍光体の製造方法で得られるフッ化物蛍光体は、アルカリ金属と、元素Mと、元素Mと、マンガン(Mn)と、フッ素(F)とを含む組成を有する。フッ化物蛍光体の組成は、アルカリ金属の総モル数を2とする場合に、元素Mと元素MとMnの総モル数が0.9以上1.1以下であってよく、好ましくは0.95以上1.05以下、又は0.97以上1.03以下であってよい。また、アルカリ金属の総モル数2に対する元素Mのモル数の比は、例えば0を超えて0.2以下であってよく、好ましくは0を超えて0.1以下、0.002以上0.07以下、又は0.003以上0.05以下であってよい。また、アルカリ金属の総モル数2に対するMnのモル数の比は、例えば0を超えて0.2以下であってよく、好ましくは0.005以上0.15以下、0.01以上0.12以下、又は0.015以上0.1以下であってよい。さらに、アルカリ金属の総モル数2に対するFのモル数の比は、例えば5.9以上6.1以下であってよく、好ましくは5.92以上6.05以下、又は5.95以上6.025以下である。フッ化物蛍光体の組成において、アルカリ金属の総モル数2に対する元素Mのモル数の比は、例えば0.7以上1.1以下であってよく、好ましくは0.8以上1.03以下0.85以上1.01以下、又は0.90以上0.96未満であってよい。フッ化物蛍光体の組成において、元素Mのモル数に対する元素Mのモル数の比は、例えば0.001以上0.1以下であってよく、好ましくは0.002以上0.07以下、又は0.003以上0.05以下であってよい。
【0050】
フッ化物蛍光体は、下記式(I)で表される組成を有していてもよい。
[M Mn] (I)
【0051】
式(I)中、Mは、第13族元素からなる群から選択される少なくとも1種を含む。Mは、第4族元素及び第14族元素からなる群から選択される少なくとも1種を含む。Mはアルカリ金属からなる群から選択される少なくとも1種含む。Mnは4価のMnイオンであってよい。p、q、rおよびsは、0.9≦p+q+r≦1.1、0<q≦0.2、0<r≦0.2、5.9≦s≦6.1を満たしていてよい。好ましくは、0.95≦p+q+r≦1.05又は0.97≦p+q+r≦1.03、0<q≦0.1、0.002≦q≦0.07又は0.003≦q≦0.05、0.005≦r≦0.15、0.01≦r≦0.12又は0.015≦r≦0.1、5.92≦s≦6.05又は5.95≦s≦6.025であってよい。
【0052】
は、第13族元素からなる群から選択される少なくとも1種であってよい。第13族元素としては、B、Al、Ga、In等を挙げることができる。Mは、好ましくは少なくともAlを含んでいてよい。フッ化物蛍光体の組成におけるMの総モル数に対するAlのモル数の比は、例えば、0.85以上であってよく、好ましくは0.9以上、または0.95以上であってよい
【0053】
は、第4族元素及び第14族元素からなる群から選択される少なくとも1種であってよい。第4族元素としては、Ti、Zr、Hf等を挙げることができる。第14族元素としては、C、Si、Ge、Sn、Pb等を挙げることができる。Mは、好ましくは少なくともTi、Zr、Hf、Si、Ge及びSnからなる群から選択される少なくとも1種であってよく、Si又はSi及びGeであってよく、Siであってよい。フッ化物蛍光体の組成におけるMの総モル数に対するSiのモル数の比は、例えば、0.8以上であってよく、好ましくは0.85以上、または0.9以上であってよい。
【0054】
は、アルカリ金属からなる群から選択される少なくとも1種であってよい。アルカリ金属としては、Li、Na、K、Rb、Cs等が挙げられ、これらからなる群から選択される少なくとも1種であってよい。Mは、少なくともKを含んでいてよい。フッ化物蛍光体の組成におけるMの総モル数に対するKのモル数の比は、例えば、0.7以上であってよく、好ましくは0.8以上、または0.85以上であってよい。
【0055】
においては、アルカリ金属の一部がアンモニウムイオン(NH )に置換されていてもよい。アルカリ金属の一部がアンモニウムイオンに置換される場合、フッ化物蛍光体の組成に含まれるアルカリ金属の総モル数に対するアンモニウムイオンのモル数の比は、例えば0.10以下であってよく、好ましくは0.05以下、又は0.03以下である。アンモニウムイオンのモル数の比の下限は、例えば0を超えていてよく、好ましくは0.005以上であってよい。
【0056】
フッ化物蛍光体の平均粒径は、例えば、発光装置の発光強度の向上の観点から、5μm以上90μm以下であってよく、好ましくは10μm以上、又は15μm以上であってよく、また好ましくは70μm以下、又は50μm以下であってよい。
【0057】
フッ化物蛍光体の体積基準の中心粒径は、例えば、発光装置の発光強度の向上の観点から、5μm以上90μm以下であってよく、好ましくは10μm以上、15μm以上、又は20μm以上であってよく、また好ましくは70μm以下、60μm以下、又は50μm以下であってよい。フッ化物蛍光体の粒度分布は、例えば、発光装置の発光強度の向上の観点から、単一ピークの粒度分布を示してよい。
【0058】
フッ化物蛍光体は、例えば、4価のマンガンで賦活された蛍光体であり、可視光の短波長領域の光を吸収して赤色発光する。励起光は、主に青色領域の光であってよく、励起光のピーク波長は、例えば、380nm以上485nm以下の波長範囲内であってよい。フッ化物蛍光体の発光スペクトルにおける発光ピーク波長は、例えば、610nm以上650nm以下の波長範囲内であってよい。フッ化物蛍光体の発光スペクトルにおける半値幅は、例えば、10nm以下であってよい。
【0059】
フッ化物蛍光体は、立方晶系の結晶構造を含んでいてもよく、立方晶系の結晶構造に加えて六方晶系等の他の結晶系の結晶構造を含んでいてもよく、実質的に立方晶系の結晶構造のみから構成されていてもよい。ここで「実質的に」とは立方晶系以外の結晶構造の含有率が0.5%未満であることを意味する。フッ化物蛍光体が立方晶系の結晶構造を含む場合、その格子定数は例えば、0.81380nm以上であってよく、好ましくは0.81400nm以上、又は0.81425nm以上であってよい。格子定数の上限は例えば、0.81500nm以下であってよい。フッ化物蛍光体が立方晶系の結晶構造を含むこと、及びその格子定数はフッ化物蛍光体のX線回折パターンを測定することで評価することができる。X線回折パターンは例えば、X線源としてCuKα線(λ=0.15418nm、管電圧40kV、管電流40mA)を用いて測定される。
【0060】
フッ化物蛍光体は、赤外吸収スペクトルにおいて、例えば、590cm-1以上610cm-1以下の波数範囲に吸収ピークを有してよく、好ましくは593cm-1以上607cm-1以下、又は595cm-1以上605cm-1以下の波数範囲に吸収ピークを有していてよい。所定の波数範囲における吸収ピークは、例えば、立方晶系の結晶構造におけるAl-F結合に由来すると考えられる。赤外吸収スペクトルは例えば、全反射(ATR)法によって測定される。
【0061】
フッ化物蛍光体は、その粒子表面に凹凸、溝等を有していてもよい。粒子表面の状態は、例えば、フッ化物蛍光体からなる粉体の安息角を測定することで評価することができる。フッ化物蛍光体からなる粉体の安息角は例えば、70°以下であってよく、好ましくは65°以下、又は60°以下であってよい。安息角の下限は例えば30°以上である。安息角は、例えば、注入法によって測定される。
【0062】
発光装置
発光装置は、フッ化物蛍光体を含む第一蛍光体と、380nm以上485nm以下の波長範囲に発光ピーク波長を有する発光素子とを含む。
【0063】
発光装置の一例を図面に基づいて説明する。図1は、本実施形態に係る発光装置の一例を示す概略断面図である。この発光装置は、表面実装型発光装置の一例である。発光装置100は、発光素子10と、発光素子10を載置する成形体40と、を有する。成形体40は第一のリード20と第二のリード30とを有しており、熱可塑性樹脂若しくは熱硬化性樹脂により一体成形されている。成形体40は底面と側面を持つ凹部が形成されており、凹部の底面に発光素子10が載置されている。発光素子10は一対の正負の電極を有しており、その一対の正負の電極は第一のリード20及び第二のリード30とワイヤ60を介して電気的に接続されている。発光素子10は蛍光部材50により封止されている。蛍光部材50は、発光素子10からの光を波長変換するフッ化物蛍光体を含む蛍光体70を含有している。蛍光体70は、前記フッ化物蛍光体を含む第一蛍光体と、発光素子10からの励起光によりフッ化物蛍光体とは異なる波長範囲に発光ピーク波長を有する光を発する第二蛍光体を含んでいてもよい。
【0064】
蛍光部材は、樹脂と蛍光体を含んでいてよい。蛍光部材を構成する樹脂としては、例えば、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂を挙げることができる。蛍光部材は、樹脂及び蛍光体に加えて、光拡散材をさらに含んでいてもよい。
【0065】
発光素子は、可視光の短波長領域である380nm以上485nm以下の波長範囲に発光ピーク波長を有する光を発する。発光素子は、フッ化物蛍光体を励起する励起光源であってよい。発光素子は、380nm以上480nm以下の範囲内に発光ピーク波長を有することが好ましい。発光素子としては、例えば、窒化物系半導体を用いた半導体発光素子を用いることができる。発光素子の発光スペクトルにおける発光ピークの半値幅は、例えば、30nm以下であることが好ましい。
【0066】
フッ化物蛍光体は、例えば、励起光源を覆う蛍光部材に含有される。励起光源がフッ化物蛍光体を含有する蛍光部材で覆われた発光装置は、励起光源から発せられた光の一部がフッ化物蛍光体に吸収されて、赤色光として放射される。
【0067】
第二蛍光体は、例えば、第一蛍光体と同様に蛍光部材に含有させることができる。第二蛍光体は、下記式(IIa)、(IIb)、(IIc)、(IId)、(IIe)、(IIf)、(IIg)又は(IIh)で表される組成を有していてよい。
【0068】
Si6-tAl8-t:Eu (IIa)
(式中、tは、0<t≦4.2を満たす数である。)
(Ca,Sr,Ba)MgSi16(F,Cl,Br):Eu (IIb)
(Ba,Sr,Ca,Mg)SiO:Eu (IIc)
(Y,Lu,Gd,Tb)(Al,Ga)12:Ce (IId)
CsPb(F,Cl,Br,I) (IIe)
(La,Y,Gd)SiN11:Ce (IIf)
(Sr,Ca)LiAl:Eu (IIg)
(Ca,Sr)AlSiN:Eu (IIh)
【0069】
上記式において、蛍光体の組成を表す式中、カンマ(,)で区切られて記載されている複数の元素は、これらの複数の元素のうち少なくとも1種の元素を組成中に含有することを意味する。また、蛍光体の組成を表す式中、コロン(:)の前は母体結晶を表し、コロン(:)の後は賦活元素を表す。
【実施例
【0070】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0071】
(実施例1)
準備工程
MnFを3.93g、Al(OH)を3.90g秤量し、フッ化水素酸(55重量%)220gと純水20gとの混合溶液に溶解させて第1溶液を調製した。またHSiF水溶液(40重量%)97.3gと、純水20gと、を混合して第2溶液を調製した。続いてKHFを63.10g秤量し、フッ化水素酸(55重量%)57.8gと純水20gとの混合溶液に溶解させて第3溶液を調製した。
【0072】
合成工程
次に第1溶液を室温(25℃)で撹拌しながら、約5分かけて第2溶液と第3溶液とを各独立に且つ略同時に滴下した。得られた沈殿物を固液分離後、エタノール洗浄を行い、100℃で10時間乾燥した。次いでフッ素ガス(F)濃度が20体積%、窒素ガス(N)濃度が80体積%である雰囲気中にて、フッ素ガスと接触させつつ、温度を500℃、熱処理時間を5時間として熱処理を行って、実施例1のフッ化物粒子を作製した。
【0073】
(実施例2)
第1溶液の調製において、純水を用いずにKMnFとAl(OH)をフッ化水素酸220gのみに溶解したこと、第2溶液の調製において、純水の量を20gから15gに変更したこと、及び第3溶液の調製において、純水の量を20gから15gに変更したこと以外は実施例1と同様にして、実施例2のフッ化物蛍光体を作製した。
【0074】
(実施例3)
MnFを4.32g、Al(OH)を13.70g秤量し、フッ化水素酸(55重量%)263gに溶解させて第1溶液を調製したこと、HSiF水溶液(40重量%)95.0gを第2溶液としたこと、第3溶液の調製において、純水を用いずにKHFをフッ化水素酸(55重量%)57.8gに溶解させたこと以外は実施例1と同様にして、実施例3のフッ化物蛍光体を作製した。
【0075】
(比較例1)
KHFを29.20g、KAlFを11.13g秤量し、フッ化水素酸(55重量%)195gに溶解させて溶液Aを調製した。またKMnFを4.74g秤量し、HSiF水溶液(40重量%)60.8gとフッ化水素酸(55重量%)225gと純水45gとの混合溶液に溶解させて溶液Bを調製した。
【0076】
次に溶液Bを、室温で撹拌しながら、約2分かけて溶液Aを滴下した。得られた沈殿物を固液分離後、エタノール洗浄を行い、100℃で10時間乾燥することで、比較例1のフッ化物粒子を作製した。
【0077】
(比較例2)
KHFを21.42g、KAlFを20.34g秤量し、フッ化水素酸(55重量%)205gに溶解させて溶液Aを調製したこと、KMnFを4.74g秤量し、HSiF水溶液(40重量%)60.8gとフッ化水素酸(55重量%)190gと純水30gとの混合溶液に溶解させて溶液Bを調製したこと以外は比較例1と同様にして、比較例2のフッ化物蛍光体を作製した。
【0078】
(比較例3)
KHFを5.86g、KAlFを38.74g秤量し、フッ化水素酸(55重量%)225gに溶解させて溶液Aを調製したこと、KMnFを4.74g秤量し、HSiF水溶液(40重量%)60.8gとフッ化水素酸(55重量%)120gとの混合溶液に溶解させて溶液Bを調製したこと以外は比較例1と同様にして、比較例3のフッ化物蛍光体を作製した。
【0079】
平均粒径
上記で得られたフッ化物蛍光体について、Fisher Sub-Sieve Sizer Model95(Fisher Scientific社製)を用いて平均粒径を測定した。結果を表1に示す。
【0080】
中心粒径
上記で得られたフッ化物蛍光体について、レーザー回折式粒度分布測定装置(MALVERN社製MASTER SIZER 2000を用いて中心粒径を測定した。結果を表1に示す。
【0081】
組成
上記で得られたフッ化物蛍光体について、誘導結合プラズマ発光分光分析法(ICP-AES)により、それぞれの組成分析を行い、組成に含まれるカリウムを2モルとした場合の各元素のモル含有比を算出した。また、フッ素のモル含有比は、フッ素とアルミニウムの総モル含有比を6モルとして、アルミニウムのモル含有比を差し引いて算出した。結果を表1に示す。
【0082】
発光装置の製造
上記で得られた各フッ化物蛍光体を第一蛍光体として使用した。また、第二蛍光体として、Si5.81Al0.190.197.81:Euで表される組成を有し、540nm付近に発光ピーク波長を有するβサイアロン蛍光体を使用した。CIE1931表色系における色度座標でxが0.280、yが0.270付近となるように第一蛍光体及び第二蛍光体を配合した蛍光体70と、シリコーン樹脂とを混合して樹脂組成物を得た。次に、図1に示すような凹部を有する成形体40を準備し、凹部の底面に発光ピーク波長が451nmである、窒化ガリウム系化合物半導体を材料とする発光素子10を第一のリード20に配置した後、発光素子10の電極と第一のリード20、第二のリード30とをそれぞれワイヤ60で接続した。さらに、成形体40の凹部に発光素子10を覆うようにシリンジを用いて樹脂組成物を注入し、樹脂組成物を硬化させて蛍光部材を形成して発光装置を製造した。
【0083】
相対光束
積分球を使用した全光束測定装置を用いて、各フッ化物蛍光体を用いた発光装置の光束をそれぞれ測定した。比較例1に係るフッ化物蛍光体を用いた発光装置の光束を100%として、他のフッ化物蛍光体を用いた発光装置の光束を相対光束(初期光束)として求めた。結果を表1に示す。
【0084】
耐久性評価
上記で得られた発光装置を、85℃の高温の環境試験機内にて電流150mAで連続点灯させ、500時間経過後の色度座標におけるx値の初期値からの差分をΔxとして、発光装置の耐久性を評価した。結果を表1に示す。
【0085】
【表1】
【0086】
表1に示すように、実施例の製造方法で得られたフッ化物蛍光体を用いて製造した発光装置では、比較例よりも初期光束が高く、耐久性に優れていた。
【産業上の利用可能性】
【0087】
本開示の製造方法によって得られるフッ化物蛍光体は、特に発光ダイオードを励起光源とする発光装置に用いて、例えば、照明用光源、LEDディスプレイ又は液晶バックライト用途等の光源、信号機、照明式スイッチ、各種センサ、各種インジケータ、及び小型ストロボ等に好適に利用できる。
【符号の説明】
【0088】
10:発光素子、20:第一のリード、30:第二のリード、40:成形体、50:蛍光部材、60:ワイヤ、70:蛍光体、100:発光装置。
図1