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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-12
(45)【発行日】2023-09-21
(54)【発明の名称】バルク弾性波共振器およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H03H 9/17 20060101AFI20230913BHJP
   H03H 3/02 20060101ALI20230913BHJP
【FI】
H03H9/17 F
H03H3/02 B
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2019179942
(22)【出願日】2019-09-30
(65)【公開番号】P2021057797
(43)【公開日】2021-04-08
【審査請求日】2022-07-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000191238
【氏名又は名称】日清紡マイクロデバイス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001896
【氏名又は名称】弁理士法人朝日奈特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100177493
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 修
(72)【発明者】
【氏名】口地 博行
(72)【発明者】
【氏名】桝本 尚己
(72)【発明者】
【氏名】竹内 治
(72)【発明者】
【氏名】菊池 利克
【審査官】石田 昌敏
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-045437(JP,A)
【文献】特開2007-006501(JP,A)
【文献】特開2007-189431(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0349747(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2018/0138885(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H03H 9/00- 9/74
H03H 3/007-3/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持基板と、該支持基板上に積層し、表面が平坦な下層電極膜と、該下層電極膜上に積層し、周縁部の表面に、該表面の一部を切り欠いた複数の凹部が形成された圧電膜と、圧電膜上に積層した上層電極膜とを備えたバルク弾性波共振器であって、
前記上層電極膜は、前記複数の凹部のうちの一部の前記凹部を被覆し、その結果、周縁部に、前記上層電極膜が前記凹部に充填された厚さの厚い部分を含みかつ長さがλ/4(λは弾性波の波長)の奇数倍であるフレーム部を備え、
前記複数の凹部のうち、前記フレーム部より前記圧電膜の外周側に配置される前記凹部は、前記上層電極膜で被覆されず露出していることを特徴とするバルク弾性波共振器。
【請求項2】
支持基板上に下層電極膜、圧電膜および上層電極膜を積層するバルク弾性波共振器の製造方法において、
支持基板を用意する工程と、
該支持基板上に、表面が平坦な前記下層電極膜を形成する工程と、
前記下層電極膜上に表面が平坦な前記圧電膜を積層形成し、所望の形状にパターニングするとともに、周縁部の表面に、該表面の一部を切り欠いた複数の凹部を形成する工程と、
前記圧電膜上に、前記凹部の一部を被覆する前記上層電極膜を形成する工程
み、
前記上層電極膜を形成する工程は、前記複数の凹部のうちの一部の前記凹部を被覆し、その結果、周縁部に、前記上層電極膜が前記凹部に充填された厚さの厚い部分を含みかつ長さがλ/4(λは弾性波の波長)の奇数倍であるフレーム部が形成され、かつ前記フレーム部より前記圧電膜の外周側に配置される前記凹部が、前記上層電極膜で被覆されず露出している、工程であることを特徴とするバルク弾性波共振器の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バルク弾性波共振器およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、スマートフォンの世界的な普及や、ウェアラブルやIoT(Internet of Things)と通称されるマイクロ波を用いた無線通信サービスの留まることのない旺盛な需要の拡大に伴い、限られた資源である電波(マイクロ波)を有効に利用するため、空間にあふれるマイクロ波の中から必要な周波数の電波を選択的に抽出することが求められている。例えば、現在、2.5GHz帯以下の周波数帯だけでなく3GHz以上の高周波帯を利用するサービスに拡大しており、所定の周波数帯域の電波を選択的に抽出するため高周波フィルタが使用されている。この種の高周波フィルタでは、温度ドリフトがなく、急峻なスカート特性を有する等、高性能化が要求されている。
【0003】
圧電膜を上層電極膜と下層電極膜で挟むように配置し、下層電極膜の下部に空気層(キャビティ部)を設けて音響反応器とする薄膜バルク弾性波共振器や、キャビティ部の代わりに支持基板上に異なる材料の反射層を積層し音響ミラーを設けたミラー型バルク弾性波共振器は、上記の要求を満たす可能性を有している。
【0004】
ところで、この種のバルク弾性波共振器では、縁部から横方向伝搬波が漏洩し、特性(Q値)が劣化することが知られている。そのため縁部の下層電極の一部を厚くすることで音響インピーダンスの不整合を大きくして縁部での反射率を上げる方法が開示されている(特許文献1、図14)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2007-6501号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来提案されているバルク弾性波共振器のうち、下層電極の一部を厚くする構造のバルク弾性波共振器では、その製造工程において凹凸のある下層電極上に圧電膜が積層形成されることになる。一般的に、凹凸のある表面に圧電膜を形成すると、配向性が悪化して特性劣化を招いてしまう。そこで本発明は、平坦な表面を有する下層電極表面に圧電膜を形成し、特性向上を図ることができるバルク弾性波共振器およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本願請求項1に係る発明は、支持基板と、該支持基板上に積層し、表面が平坦な下層電極膜と、該下層電極膜上に積層し、周縁部の表面に、該表面の一部を切り欠いた複数の凹部が形成された圧電膜と、圧電膜上に積層した上層電極膜とを備えたバルク弾性波共振器であって、前記上層電極膜は、前記複数の凹部のうちの一部の前記凹部を被覆し、その結果、周縁部に、前記上層電極膜が前記凹部に充填された厚さの厚い部分を含みかつ長さがλ/4(λは弾性波の波長)の奇数倍であるフレーム部を備え、前記複数の凹部のうち、前記フレーム部より前記圧電膜の外周側に配置される前記凹部は、前記上層電極膜で被覆されず露出していることを特徴とする。
【0009】
本願請求項に係る発明は、支持基板上に下層電極膜、圧電膜および上層電極膜を積層するバルク弾性波共振器の製造方法において、支持基板を用意する工程と、該支持基板上に、表面が平坦な前記下層電極膜を形成する工程と、前記下層電極膜上に表面が平坦な前記圧電膜を積層形成し、所望の形状にパターニングするとともに、周縁部の表面に、該表面の一部を切り欠いた複数の凹部を形成する工程と、前記圧電膜上に、前記凹部の一部を被覆する前記上層電極膜を形成する工程とをみ、前記上層電極膜を形成する工程は、前記複数の凹部のうちの一部の前記凹部を被覆し、その結果、周縁部に、前記上層電極膜が前記凹部に充填された厚さの厚い部分を含みかつ長さがλ/4(λは弾性波の波長)の奇数倍であるフレーム部が形成され、かつ前記フレーム部より前記圧電膜の外周側に配置される前記凹部が、前記上層電極膜で被覆されず露出している、工程であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明のバルク弾性波共振器は、平坦な表面を有する下層電極膜上に積層した圧電膜を備える構成となっているため、配向性の揃った圧電膜となり、特性劣化を招くことはない。
【0011】
また本発明のバルク弾性波共振器は、周縁部に、凹部を配置することで圧電膜の厚さが異なる部分が配置されるとともに、この凹部内を充填するように上層電極膜を形成することで一部の厚さが厚くなりインピーダンスの不整合を容易に形成することができる。さらに、圧電膜の外周部の表面に配置された凹部のすべてを上層電極膜で被覆する代わりに、凹部の外周側の一部に、上層電極膜で被覆されない領域を設けることで、周縁部においてインピーダンスの不整合をさらに形成することができ、周縁部での反射率を上げることが可能となる。その結果、弾性波をFBAR(Film Bulk Acoustic Resonator)部に閉じ込めることができ、Q値の大きいバルク弾性波共振器となる。
【0012】
本発明のバルク弾性波共振器の製造方法は、圧電膜の外周部の表面に配置された凹部のすべてを覆うように、あるいは凹部の一部を覆うように適宜選択することで、所望のインピーダンスの不整合を容易に形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の第1の実施例のバルク弾性波共振器の製造工程の説明図である。
図2】本発明の第1の実施例のバルク弾性波共振器の製造工程の説明図である。
図3】本発明の第1の実施例のバルク弾性波共振器の製造工程の説明図である。
図4】本発明の第1の実施例のバルク弾性波共振器の製造工程の説明図である。
図5】本発明の第1の実施例のバルク弾性波共振器の製造工程の説明図である。
図6】本発明の第1の実施例のバルク弾性波共振器の説明図である。
図7】本発明の第2の実施例のバルク弾性波共振器の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明に係るバルク弾性波共振器は、平坦な下層電極膜上に積層された配向性の揃った圧電膜を備える構成とし、さらに周縁部にインピーダンスの界面が形成され、横方向伝搬波が漏洩することもないので、特性の優れたバルク弾性波共振器を得ることができる。以下本発明の実施例について製造工程に従い詳細に説明する。
【実施例1】
【0015】
本発明の第1の実施例について、キャビティ部を備えた薄膜バルク弾性波共振器を例にとり説明する。まずシリコン基板等からなる支持基板1上のキャビティ部形成予定領域に犠牲層となるシリコン窒化膜5を堆積させる。シリコン窒化膜5の厚さは1ミクロン程度とする。その後全面にシリコン酸化膜等の絶縁膜6を形成し、エッチバックすることにより平坦化する(図1)。この工程は、表面が平坦となることと、キャビティ部形成予定領域に犠牲層を形成し、後工程で犠牲層を除去することでキャビティ部を形成することができれば、別の材料を選択したり、その他の方法を採用してもよい。例えば、キャビティ部形成予定領域の支持基板1の表面を凹状に除去し、その凹部内に犠牲層を充填する方法であってもよい。
【0016】
次にバルク弾性波共振器を構成する多層膜を形成する。この多層膜は、キャビティ部形成予定領域となるシリコン窒化膜5を覆い、絶縁膜6上に達するように形成する。例えば、モリブデン(Mo)からなる下層電極膜2、窒化アルミニウム(AlN)からなる圧電膜3を積層形成する。図2に示すように下層電極膜2の表面は平坦となっており、この平坦な下層電極膜2上に表面が平坦な圧電膜3を積層する。このように積層形成される圧電膜3は、結晶配向(c軸)が基板表面に対して垂直方向に揃った柱状多結晶とすることができ、均一で高品質な膜となる。
【0017】
その後、圧電膜3と下層電極膜2の積層膜を所望の形状にパターニングするとともに、圧電膜3の周縁部に複数の凹部7を形成する(図3)。凹部7は、通常のドライエッチング法を採用することで、圧電膜3の特性を劣化させることなく形成することができる。
【0018】
ここで凹部7の形状は、周縁部に沿って延出する溝や、独立した孔部を周縁部に沿って整列させる形状等適宜設定することができる。また凹部7の開口幅、深さは、後述する上層電極膜を積層形成した際、上層電極膜が凹部7内に充填され、この凹部7内の上層電極膜の厚さが厚くなるように設定するのが好ましい。
【0019】
その後、全面にモリブデンなどからなる上層電極膜4を形成し、所望の形状にパターニングする。図4に示す例では、上層電極膜4が凹部7内に充填され、表面が平坦となっている。
【0020】
その後、シリコン窒化膜5を図示しない開口から除去することで、キャビティ部8を備えたバルク弾性波共振器が完成する(図5)。
【0021】
このように形成したバルク弾性波共振器は、図6に示す圧電膜3の周縁部を覆う上層電極膜4のフレーム部の長さを弾性波(ラム波)の波長λのとき、λ/4の奇数倍とすることでインピーダンスが大きくなる。その結果、弾性波(ラム波)はフレーム部で反射し、FBAR部に閉じ込めることができ、Q値が大きくなることが確認できた。
【実施例2】
【0022】
次に第2の実施例について説明する。上記第1の実施例では、圧電膜3の周縁部に形成した凹部7をすべて上層電極膜4で覆う形状とした。しかしながら、凹部7の一部を露出した構造とすることで、インピーダンスの異なる領域を形成することができる。
【0023】
具体的には、図7に示すように一部の凹部7を露出する構造とする。このような形状のバルク弾性波共振器では、フレーム部により形成されるインピーダンスの異なる領域に加えて、その周縁部に凹部7が露出する領域からなるインピーダンスの異なる領域が形成されることになる。その結果、インピーダンスの界面が形成され特性改善が期待される。
【0024】
以上本発明について説明したが本発明はこれらに限定されるものでないことは言うまでもない。例えば、幅の異なる凹部が混在するなど凹部7の形状によっては上層電極膜4の表面が全面にわたり平坦とならない場合であっても、凹部7内に上層電極膜4が充填され、かつその厚さがFBAR部上の上層電極膜4の厚さより厚く形成されることで、インピーダンスの界面が形成されるのであれば問題ない。
【0025】
また圧電膜として窒化アルミニウムに限定されるものでなく、窒化スカンジウムアルミニウム(Al1-xScxN)、酸化亜鉛(ZnO)、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)も利用することが可能である。また、上部電極膜あるいは下部電極膜は、モリブデンの代わりに、プラチナ(Pt)、チタン(Ti)、イリジウム(Ir)、ルテニウム(Ru)等の金属薄膜で形成することができる。
【0026】
また、キャビティ型バルク弾性波共振器に限らず、多層薄膜ミラー型バルク弾性波共振器に適用することも可能である。
【符号の説明】
【0027】
1: 支持基板、2:下層電極膜、3:圧電膜、4:上層電極膜、5:シリコン窒化膜、6:絶縁膜、7:凹部、8:キャビティ部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7