(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-12
(45)【発行日】2023-09-21
(54)【発明の名称】流動接触分解用構造体及びその製造方法、並びに、これを備える流動接触分解用装置
(51)【国際特許分類】
B01J 29/035 20060101AFI20230913BHJP
C10G 11/18 20060101ALI20230913BHJP
【FI】
B01J29/035 M
C10G11/18
(21)【出願番号】P 2019521323
(86)(22)【出願日】2018-05-31
(86)【国際出願番号】 JP2018021083
(87)【国際公開番号】W WO2018221695
(87)【国際公開日】2018-12-06
【審査請求日】2021-04-20
(31)【優先権主張番号】P 2017108602
(32)【優先日】2017-05-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005290
【氏名又は名称】古河電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【氏名又は名称】上島 類
(74)【代理人】
【識別番号】100143959
【氏名又は名称】住吉 秀一
(72)【発明者】
【氏名】増田 隆夫
(72)【発明者】
【氏名】中坂 佑太
(72)【発明者】
【氏名】吉川 琢也
(72)【発明者】
【氏名】加藤 禎宏
(72)【発明者】
【氏名】福嶋 將行
(72)【発明者】
【氏名】高橋 尋子
(72)【発明者】
【氏名】馬場 祐一郎
(72)【発明者】
【氏名】関根 可織
【審査官】磯部 香
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-330055(JP,A)
【文献】特表2014-534902(JP,A)
【文献】国際公開第2010/097108(WO,A1)
【文献】特表2007-520337(JP,A)
【文献】特表2016-529190(JP,A)
【文献】特表2010-527769(JP,A)
【文献】国際公開第2015/155216(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/179735(WO,A1)
【文献】特開2002-255537(JP,A)
【文献】特開2005-239520(JP,A)
【文献】特表平10-502122(JP,A)
【文献】特開平06-285374(JP,A)
【文献】特開平05-138033(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00 - 38/74
C10G 11/18
JSTPlus/JST7580/JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゼオライト型化合物で構成される多孔質構造の担体と、
前記担体に内在する少なくとも1つの触媒物質と、
を備え、
前記担体が、互いに連通する通路を有し、
前記通路が、前記ゼオライト型化合物の骨格構造によって画定される一次元孔、二次元孔及び三次元孔のうちのいずれかと、前記一次元孔、前記二次元孔及び前記三次元孔のうちのいずれとも異なる拡径部と、を有し、
前記触媒物質が、金属微粒子または固体酸であり、前記通路の少なくとも前記拡径部に包接されて存在しており、
前記触媒物質が、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)、鉄(Fe)、白金(Pt)、酸化アルミニウム(AlO
x)及び酸化鉄(FeO
x)からなる群より選択される少なくとも1種であ
り、
前記触媒物質が金属微粒子の場合には当該金属微粒子の平均粒径が、前記触媒物質が固体酸の場合には当該固体酸が微粒子であり、その微粒子の平均粒径が、前記通路の平均内径よりも大きく、かつ前記拡径部の内径以下であり、ここで、前記通路の平均内径は、前記一次元孔、前記二次元孔及び前記三次元孔のうちのいずれかを構成する孔の短径及び長径の平均値から算出されるものであり、
前記通路の平均内径は、0.1nm~1.5nmであり、
前記触媒物質が金属微粒子である場合、前記通路の平均内径に対する前記金属微粒子の平均粒径の割合が、1.1~30であり、
前記触媒物質が固体酸である場合、前記通路の平均内径に対する前記固体酸の平均粒径の割合が、1.1~30であることを特徴とする流動接触分解用触媒構造体。
【請求項2】
前記担体が、ゼオライトY型化合物である請求項1記載の流動接触分解用触媒構造体。
【請求項3】
前記拡径部は、前記一次元孔、前記二次元孔及び前記三次元孔のうちのいずれかを構成する複数の孔同士を連通している、請求項1又は2記載の流動接触分解用触媒構造体。
【請求項4】
前記通路の平均内径が、0.5nm~0.8nmであることを特徴とする、請求項1~3のいずれか1項記載の流動接触分解用触媒構造体。
【請求項5】
前記金属微粒子または前記固体酸の金属元素(M)が、前記流動接触分解用触媒構造体に対して0.5~2.5質量%で含有されていることを特徴とする、請求項4記載の流動接触分解用触媒構造体。
【請求項6】
前記拡径部の内径は、0.5nm~50nmであることを特徴とする、請求項1~5のいずれか1項記載の流動接触分解用触媒構造体。
【請求項7】
前記触媒物質が金属微粒子であり、当該金属微粒子の平均粒径が、
0.4nm~30nmであることを特徴とする、請求項1~6のいずれか1項記載の流動接触分解用触媒構造体。
【請求項8】
前記金属微粒子の平均粒径が、
0.8nm~11.0nmであることを特徴とする、請求項7記載の流動接触分解用触媒構造体。
【請求項9】
前記触媒物質が金属微粒子であり、前記通路の平均内径に対する前記金属微粒子の平均粒径の割合が、
1.4~30であることを特徴とする、請求項1~
8のいずれか1項記載の流動接触分解用触媒構造体。
【請求項10】
前記触媒物質が金属微粒子であり、前記通路の平均内径に対する前記金属微粒子の平均粒径の割合が、1.4~3.6であることを特徴とする、請求項1~
9のいずれか1項記載の流動接触分解用触媒構造体。
【請求項11】
前記担体の外表面に、触媒物質が更に保持されていることを特徴とする、請求項1~
10のいずれか1項記載の流動接触分解用触媒構造体。
【請求項12】
前記担体に内在する前記触媒物質の含有量が、前記担体の外表面に保持されている前記触媒物質の含有量よりも多いことを特徴とする、請求項
11記載の流動接触分解用触媒構造体。
【請求項13】
前記ゼオライト型化合物は、ケイ酸塩化合物であることを特徴とする、請求項1~
12のいずれか1項記載の流動接触分解用触媒構造体。
【請求項14】
円柱状、葉状、ダンベル柱状、またはリング状のペレット形状を有することを特徴とする、請求項1~
13のいずれか1項記載の流動接触分解用触媒構造体。
【請求項15】
請求項1~
14のいずれか1項記載の流動接触分解用触媒構造体を備える流動接触分解用装置。
【請求項16】
ゼオライト型化合物で構成される多孔質構造の骨格体を得るための規則性メソ細孔物質である前駆体材料(A)に、金属微粒子の金属、または、固体酸の金属、を含む金属含有溶液が含浸された前駆体材料(B)を焼成する焼成工程と、
前記前駆体材料(B)を焼成して得られた前駆体材料(C)と構造規定剤とを混合し水熱処理する水熱処理工程と、
金属微粒子が内在する流動接触分解用触媒構造体を得る場合には、前記水熱処理された前駆体材料(C)に還元処理を行う工程と、
を有し、前記金属微粒子の金属、または前記固体酸の金属が、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)、鉄(Fe)、白金(Pt)及びアルミニウム(Al)からなる群より選択される少なくとも1種の金属であることを特徴とする
、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)、鉄(Fe)、白金(Pt)、酸化アルミニウム(AlO
x
)及び酸化鉄(FeO
x
)からなる群より選択される少なくとも1種が内在する流動接触分解用触媒構造体の製造方法。
【請求項17】
前記焼成工程の前に、非イオン性界面活性剤を、前記前駆体材料(A)に対して50~500質量%添加することを特徴とする、請求項
16記載の流動接触分解用触媒構造体の製造方法。
【請求項18】
前記焼成工程の前に、前記前駆体材料(A)に前記金属含有溶液を複数回に分けて添加することで、前記前駆体材料(A)に前記金属含有溶液を含浸させることを特徴とする、請求項
16又は
17記載の流動接触分解用触媒構造体の製造方法。
【請求項19】
前記焼成工程の前に前記前駆体材料(A)に前記金属含有溶液を含浸させる際に、前記前駆体材料(A)に添加する前記金属含有溶液の添加量を、前記前駆体材料(A)に添加する前記金属含有溶液中に含まれる金属元素(M)に対する、前記前駆体材料(A)を構成するケイ素(Si)の比(原子数比Si/M)に換算して、10~1000となるように調整することを特徴とする、請求項
16~
18のいずれか1項記載の流動接触分解用触媒構造体の製造方法。
【請求項20】
前記水熱処理工程が塩基性雰囲気下で行われることを特徴とする、請求項
16記載の流動接触分解用触媒構造体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流動接触分解用構造体及びその製造方法、並びに、これを備える流動接触分解用装置に関する。
【背景技術】
【0002】
流動接触分解(Fluid Catalytic Cracking:FCC)プロセスは、石油精製の主要なプロセスのひとつとして知られており、減圧軽油、常圧残油などの高沸点炭化水素を、触媒存在下、500~550℃で分解し、高オクタン価ガソリンを製造するプロセスとして発展してきた。FCCプロセスに用いられる触媒としては、ゼオライトを主体とした固体酸が主流である。近年では、FCCプロセスは、重質油のアップグレーディング技術として重要な位置を占めており、また、ガソリンの生産と同時にプロピレンなどの石油化学基礎製品を増産するためにも利用されている。このため、このような多様な目的に対応するために、種々の触媒が開発及び検討されている。中でも、超安定性Y型ゼオライト(Ultra Stable Y Type Zeolite:USY)及び希土類(Rare Earth:RE)金属を付与した、いわゆるREUSYを主成分とする触媒が知られている。
【0003】
ゼオライト触媒は一般に、その微細孔性の構造に基づいて高い触媒活性、高い安定性等の特性を有する。しかしながらその一方で、その立体的な障害から、触媒作用時にゼオライト微細孔の容積のアクセス性を減少させ、そして、ゼオライト結晶は常に有効に使用されるものではない、という欠点も有している。
【0004】
このような欠点を改良するために種々の試みが行われている。
例えば、特許文献1には、希土類元素で交換されたITQ-7ゼオライト等の第1のゼオライト成分と、希土類元素で交換されたフォージャサイトゼオライト等の第2のゼオライト成分とを含有する炭化水素分解用触媒組成物が開示されている。特許文献1によれば、この触媒組成物によって、製造されるガソリンのバレルオクタン価を良好な値とし、C3オレフィンとC4オレフィンの収率を良好にすると共に、得られるガソリンの収率も良好にすると記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記のような触媒では、ゼオライトの表面又は表面近傍に触媒金属が存在しているため、触媒金属が外部からの力又は熱によって移動することがあり、その結果、触媒粒子同士の凝集(シンタリング)が発生し易い。触媒粒子同士の凝集が生じると、触媒としての有効表面積が減少することで触媒活性が低下する。また、相互接続している所定のネットワークが形成された構造をゼオライトが有しているとしても、ゼオライト触媒において、反応物又は生成物分子に対する活性部位のアクセス性を十分に確保して、触媒の有効性を最大化するという点では、改善の余地がある。
【0007】
したがって、本発明の目的は、優れた触媒活性を有し、触媒物質同士の凝集を抑制することによって長期にわたり良好な触媒活性を実現し得る流動接触分解用触媒構造体及びその製造方法、並びに、これを有する流動接触分解用装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は以下のとおりである。
[1] ゼオライト型化合物で構成される多孔質構造の担体と、前記担体に内在する少なくとも1つの触媒物質と、を備え、前記担体が、互いに連通する通路を有し、前記触媒物質が、金属微粒子または固体酸であり、前記担体の少なくとも前記通路に存在しており、前記触媒物質が金属微粒子の場合に、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)、鉄(Fe)、銅(Cu)、金(Au)、銀(Ag)、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、ロジウム(Rd)、イリジウム(Ir)、ルテニウム(Ru)、オスミウム(Os)及びモリブデン(Mo)からなる群より選択される少なくとも1種の金属の微粒子であることを特徴とする流動接触分解用触媒構造体。
[2] 前記担体が、ゼオライトY型化合物である[1]に記載の流動接触分解用触媒構造体。
[3] 前記通路が、前記ゼオライト型化合物の骨格構造によって画定される一次元孔、二次元孔及び三次元孔のうちのいずれかと、前記一次元孔、前記二次元孔及び前記三次元孔のうちのいずれとも異なる拡径部と、を有し、前記触媒物質が、前記通路の少なくとも前記拡径部に存在していることを特徴とする[1]又は[2]に記載の流動接触分解用触媒構造体。
[4] 前記拡径部は、前記一次元孔、前記二次元孔及び前記三次元孔のうちのいずれかを構成する複数の孔同士を連通している、[3]に記載の流動接触分解用触媒構造体。
[5] 前記触媒物質が金属微粒子の場合には当該金属微粒子の平均粒径が、前記触媒物質が固体酸の場合には当該固体酸が微粒子であり、その微粒子の平均粒径が、前記通路の平均内径よりも大きく、かつ前記拡径部の内径以下であることを特徴とする、[3]又は[4]に記載の流動接触分解用触媒構造体。
[6] 前記金属微粒子または前記固体酸の金属元素(M)が、前記流動接触分解用触媒構造体に対して0.5~2.5質量%で含有されていることを特徴とする、[5]に記載の流動接触分解用触媒構造体。
[7] 前記通路の平均内径は、0.1nm~1.5nmであり、前記拡径部の内径は、0.5nm~50nmであることを特徴とする、[3]~[6]のいずれか1に記載の流動接触分解用触媒構造体。
[8] 前記触媒物質が金属微粒子であり、当該金属微粒子の平均粒径が、0.08nm~30nmであることを特徴とする[1]~[7]のいずれか1に記載の流動接触分解用触媒構造体。
[9] 前記金属微粒子の平均粒径が、0.4nm~11.0nmであることを特徴とする、[8]に記載の流動接触分解用触媒構造体。
[10] 前記触媒物質が金属微粒子であり、前記通路の平均内径に対する前記金属微粒子の平均粒径の割合が、0.05~300であることを特徴とする[1]~[9]のいずれか1に記載の流動接触分解用触媒構造体。
[11] 前記触媒物質が金属微粒子であり、前記通路の平均内径に対する前記金属微粒子の平均粒径の割合が、0.1~30であることを特徴とする[1]~[10]のいずれか1に記載の流動接触分解用触媒構造体。
[12] 前記触媒物質が金属微粒子であり、前記通路の平均内径に対する前記金属微粒子の平均粒径の割合が、1.4~3.6であることを特徴とする[1]~[11]のいずれか1に記載の流動接触分解用触媒構造体。
[13] 前記担体の外表面に、触媒物質が更に保持されていることを特徴とする[1]~[12]のいずれか1に記載の流動接触分解用触媒構造体。
[14] 前記担体に内在する前記触媒物質の含有量が、前記担体の外表面に保持されている前記触媒物質の含有量よりも多いことを特徴とする[13]に記載の流動接触分解用触媒構造体。
[15] 前記ゼオライト型化合物は、ケイ酸塩化合物であることを特徴とする[1]~[14]のいずれか1に記載の流動接触分解用触媒構造体。
[16] 円柱状、葉状、ダンベル柱状、またはリング状のペレット形状を有することを特徴とする、[1]~[15]のいずれか1に記載の流動接触分解用触媒構造体。
[17] [1]~[16]のいずれか1に記載の流動接触分解用触媒構造体を備える流動接触分解用装置。
[18] ゼオライト型化合物で構成される多孔質構造の骨格体を得るための前駆体材料(A)に、金属微粒子の金属、または、固体酸の金属、を含む金属含有溶液が含浸された前駆体材料(B)を焼成する焼成工程と、前記前駆体材料(B)を焼成して得られた前駆体材料(C)を水熱処理する水熱処理工程と、前記水熱処理された前駆体材料(C)に還元処理を行う工程と、を有することを特徴とする流動接触分解用触媒構造体の製造方法。
[19] 前記焼成工程の前に、非イオン性界面活性剤を、前記前駆体材料(A)に対して50~500質量%添加することを特徴とする、[18]に記載の流動接触分解用触媒構造体の製造方法。
[20] 前記焼成工程の前に、前記前駆体材料(A)に前記金属含有溶液を複数回に分けて添加することで、前記前駆体材料(A)に前記金属含有溶液を含浸させることを特徴とする、[18]又は[19]に記載の流動接触分解用触媒構造体の製造方法。
[21] 前記焼成工程の前に前記前駆体材料(A)に前記金属含有溶液を含浸させる際に、前記前駆体材料(A)に添加する前記金属含有溶液の添加量を、前記前駆体材料(A)に添加する前記金属含有溶液中に含まれる金属元素(M)に対する、前記前駆体材料(A)を構成するケイ素(Si)の比(原子数比Si/M)に換算して、10~1000となるように調整することを特徴とする、[18]~[20]のいずれか1項に記載の流動接触分解用触媒構造体の製造方法。
[22] 前記水熱処理工程において、前記前駆体材料(C)と構造規定剤とを混合することを特徴とする、[18]に記載の流動接触分解用触媒構造体の製造方法。
[23] 前記水熱処理工程が塩基性雰囲気下で行われることを特徴とする、[18]に記載の流動接触分解用触媒構造体の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、優れた触媒活性を有し、触媒物質同士の凝集を抑制することによって長期にわたり良好な触媒活性を実現し得る流動接触分解用触媒構造体及びその製造方法、並びに、これを有する流動接触分解用装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、本発明の実施形態に係る流動接触分解用触媒構造体の内部構造が分かるように概略的に示したものであって、
図1(a)は斜視図(一部を横断面で示す。)、
図1(b)は部分拡大断面図である。
【
図2】
図2は、
図1の流動接触分解用触媒構造体の機能の一例を説明するための部分拡大断面図であり、
図2(a)は篩機能、
図2(b)は触媒能を説明する図である。
【
図3】
図3は、
図1の流動接触分解用触媒構造体の製造方法の一例を示すフローチャートである。
【
図4】
図4は、
図1の流動接触分解用触媒構造体の変形例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の流動接触分解用触媒構造体は、ゼオライト型化合物で構成される多孔質構造の担体と、前記担体に内在する少なくとも1つの触媒物質と、を備え、前記担体が、互いに連通する通路を有し、前記触媒物質が、金属微粒子または固体酸であり、前記担体の少なくとも前記通路に存在しており、好ましくは前期担体の少なくとも通路に保持されており、前記触媒物質が金属微粒子の場合に、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)、鉄(Fe)、銅(Cu)、金(Au)、銀(Ag)、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、ロジウム(Rd)、イリジウム(Ir)、ルテニウム(Ru)、オスミウム(Os)及びモリブデン(Mo)からなる群より選択される少なくとも1種の金属の微粒子であることを特徴とする流動接触分解用触媒構造体である。
【0012】
上記構成とすることにより、所定の金属微粒子である触媒物質が、ゼオライト型化合物で構成される多孔質構造の担体の少なくとも通路に内在しているので、担体外部からの熱又は力による移動が抑制され、ひいては、触媒物質同士の凝集が抑制される。この結果、触媒としての有効表面積が減少することに起因した触媒活性の低下を回避することができ、また、FCC用構造体としての触媒活性の安定性を向上させることができる。
これにより、優れた触媒活性を有し、触媒物質同士の凝集を抑制することによって長期にわたり良好な触媒活性を実現することができる。
以下、本発明の実施形態を、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0013】
[触媒構造体の構成]
図1は、本発明の実施形態に係る流動接触分解(FCC)用触媒構造体(以下、単に「触媒構造体」と記す。)の構成を概略的に示す図であり、(a)は斜視図(一部を横断面で示す。)、(b)は部分拡大断面図である。なお、
図1における触媒構造体は、その一例を示すものであり、本発明に係る各構成の形状、寸法等は、
図1のものに限られないものとする。
【0014】
図1(a)に示されるように、触媒構造体1は、ゼオライト型化合物で構成される多孔質構造の担体10と、該担体10に内在する、少なくとも1つの触媒物質20とを備える。
【0015】
触媒構造体1において、複数の触媒物質20,20,・・・は、担体10の多孔質構造の内部に存在しており、好ましくは包接されている。触媒物質20は、触媒能(触媒活性)を有する金属微粒子または固体酸である。金属微粒子については、詳しくは後述する。
【0016】
固体酸は、単独で、又は担体10と協働することで、一又は複数の機能を発揮する物質である。また、上記機能の具体例としては、触媒機能、発光(又は蛍光)機能、吸光機能、識別機能等が挙げられる。固体酸は、例えば触媒機能を有する触媒物質であり、微粒子であることが好ましい。なお、固体酸が触媒物質であるとき、担体10は、触媒物質を担持する担体である。
【0017】
担体10は、多孔質構造であり、
図1(b)に示すように、好適には複数の孔11a,11a,・・・が形成されることにより、互いに連通する通路11を有する。ここで触媒物質20は、担体10の少なくとも通路11に存在しており、好ましくは担体10の少なくとも通路11に保持されている。
【0018】
このような構成により、担体10内での触媒物質20の移動が規制され、触媒物質20、20同士の凝集が有効に防止されている。その結果、触媒物質20としての有効表面積の減少を効果的に抑制することができ、触媒物質20の触媒活性は長期にわたって持続する。すなわち、触媒構造体1によれば、触媒物質20の凝集による触媒活性の低下を抑制でき、触媒構造体1としての長寿命化を図ることができる。また、触媒構造体1の長寿命化により、触媒構造体1の交換頻度を低減でき、使用済みの触媒構造体1の廃棄量を大幅に低減することができ、省資源化を図ることができる。
【0019】
通常、触媒構造体を、流体(例えば、重質油など)の中で用いる場合、流体から外力を受ける可能性がある。この場合、触媒物質が、担体10の外表面に付着状態で保持されているだけであると、流体からの外力の影響で担体10の外表面から離脱しやすいという問題がある。これに対し、触媒構造体1では、触媒物質20は担体10の少なくとも通路11に保持されているため、流体による外力の影響を受けたとしても、担体10から触媒物質20が離脱しにくい。すなわち、触媒構造体1が流体内にある場合、流体は担体10の孔11aから、通路11内に流入するため、通路11内を流れる流体の速さは、流路抵抗(摩擦力)により、担体10の外表面を流れる流体の速さに比べて、遅くなると考えられる。このような流路抵抗の影響により、通路11内に保持された触媒物質20が流体から受ける圧力は、担体10の外部において触媒物質が流体から受ける圧力に比べて低くなる。そのため、担体11に内在する触媒物質20が離脱することを効果的に抑制でき、触媒物質20の触媒活性を長期的に安定して維持することが可能となる。なお、上記のような流路抵抗は、担体10の通路11が、曲がりや分岐を複数有し、担体10の内部がより複雑で三次元的な立体構造となっているほど、大きくなると考えられる。
【0020】
また、通路11は、ゼオライト型化合物の骨格構造によって画定される一次元孔、二次元孔及び三次元孔のうちのいずれかと、上記一次元孔、上記二次元孔及び上記三次元孔のうちのいずれとも異なる拡径部12と、を有していることが好ましく、このとき、触媒物質20は、少なくとも拡径部12に存在していることが好ましく、少なくとも拡径部12に包接されていることがより好ましい。ここでいう一次元孔とは、一次元チャンネルを形成しているトンネル型またはケージ型の孔、もしくは複数の一次元チャンネルを形成しているトンネル型またはケージ型の複数の孔(複数の一次元チャンネル)を指す。また、二次元孔とは、複数の一次元チャンネルが二次元的に連結された二次元チャンネルを指し、三次元孔とは、複数の一次元チャンネルが三次元的に連結された三次元チャンネルを指す。
【0021】
これにより、触媒物質20の担体10内での移動がさらに規制され、触媒物質20の離脱や、触媒物質20、20同士の凝集をさらに有効に防止することができる。包接とは、触媒物質20が担体10に内包されている状態を指す。このとき触媒物質20と担体10とは、必ずしも直接的に互いが接触している必要はなく、触媒物質20と担体10との間に他の物質(例えば、界面活性剤等)が介在した状態で、触媒物質20が担体10に間接的に保持されていてもよい。
【0022】
図1(b)では触媒物質20が拡径部12に包接されている場合を示しているが、この構成だけには限定されず、触媒物質20は、その一部が拡径部12の外側にはみ出した状態で通路11に保持されていてもよい。また、触媒物質20は、拡径部12以外の通路11の部分(例えば通路11の内壁部分)に部分的に埋設され、または固着等によって保持されていてもよい。
【0023】
また、拡径部12は、上記一次元孔、上記二次元孔及び上記三次元孔のうちのいずれかを構成する複数の孔11a,11a同士を連通しているのが好ましい。これにより、骨格体10の内部に、一次元孔、二次元孔又は三次元孔とは異なる別途の通路が設けられるので、金属酸化物微粒子20の機能をより発揮させることができる。
【0024】
また、通路11は、担体10の内部に、分岐部又は合流部を含んで三次元的に形成されており、拡径部12は、通路11の上記分岐部又は合流部に設けられるのが好ましい。
【0025】
担体10に形成された通路11の平均内径DFは、上記一次元孔、二次元孔及び三次元孔のうちのいずれかを構成する孔11aの短径及び長径の平均値から算出され、例えば0.1~1.5nmであり、好ましくは0.5~0.8nmである。また、拡径部12の内径DEは、例えば0.5~50nmであり、好ましくは1.1~40nm、より好ましくは1.1~3.3nmである。拡径部12の内径DEは、例えば後述する前駆体材料(A)の細孔径、及び包接される触媒物質20の平均粒径DCに依存する。拡径部12の内径DEは、触媒物質20を包接し得る大きさである。
【0026】
担体10は、ゼオライト型化合物で構成される。ゼオライト型化合物としては、例えば、ゼオライト(アルミノケイ酸塩)、陽イオン交換ゼオライト、シリカライト等のケイ酸塩化合物、アルミノホウ酸塩、アルミノヒ酸塩、ゲルマニウム酸塩等のゼオライト類縁化合物、リン酸モリブデン等のリン酸塩系ゼオライト類似物質などが挙げられる。中でも、ゼオライト型化合物はケイ酸塩化合物であることが好ましい。
【0027】
ゼオライト型化合物の骨格構造は、FAU型(Y型又はX型)、MTW型、MFI型(ZSM-5)、FER型(フェリエライト)、LTA型(A型)、MWW型(MCM-22)、MOR型(モルデナイト)、LTL型(L型)、BEA型(ベータ型)などから選択され、触媒物質20が金属微粒子の場合には、FCC用触媒としての触媒活性の点で、好ましくはFAU型であり、Y型であることがより好ましい。また、触媒物質20が固体酸の場合には、好ましくはMFI型であり、より好ましくはZSM-5である。
ゼオライト型化合物には、各骨格構造に応じた孔径を有する孔が複数形成されており、例えばFAU型ゼオライトの最大孔径は0.80nm(8.0Å)、平均孔径0.74nm(7.4Å)である。
【0028】
以下、触媒物質20について詳しく説明する。
触媒物質20は、金属微粒子又は固体酸である。触媒物質20が固体酸である場合、微粒子であることが好ましい。金属微粒子または固体酸の微粒子(以下、「固体酸微粒子」と称する。)は一次粒子である場合と、一次粒子が凝集して形成した二次粒子である場合とがあるが、金属微粒子または固体酸微粒子の平均粒径DCは、好ましくは通路11の平均内径DFよりも大きく、かつ拡径部12の内径DE以下である(DF<DC≦DE)。このような触媒物質20は、通路11内では、好適には拡径部12に包接されており、担体10内での触媒物質20の移動が規制される。よって、触媒物質20が流体から外力を受けた場合であっても、担体10内での触媒物質20の移動が抑制され、担体10の通路11に分散配置された拡径部12、12、・・のそれぞれに包接された触媒物質20、20、・・同士が接触するのを有効に防止することができる。
【0029】
金属微粒子の平均粒径DCは、一次粒子及び二次粒子のいずれの場合も、好ましくは0.08nm~30nmであり、より好ましくは0.08nm以上25nm未満であり、更に好ましくは0.4nm~11.0nmであり、特に好ましくは0.8nm~2.7nmである。また、通路11の平均内径DFに対する金属微粒子の平均粒径DCの割合(DC/DF)は、好ましくは0.05~300であり、より好ましくは0.1~30であり、更に好ましくは1.1~30であり、特に好ましくは1.4~3.6である。
【0030】
固体酸微粒子の平均粒径DCは、一次粒子及び二次粒子のいずれの場合も、好ましくは0.1nm~50nmであり、より好ましくは0.1nm以上30nm未満であり、さらに好ましくは0.45nm~14.0nm、特に好ましくは1.0nm~3.3nmである。また、通路11の平均内径DFに対する固体酸20の平均粒径DCの割合(DC/D
F)は、好ましくは0.06~500であり、より好ましくは0.1~36であり、更に好ましくは1.1~36であり、特に好ましくは1.7~4.5である。
【0031】
金属微粒子または固体酸の金属元素(M)は、触媒構造体1に対して0.5~2.5質量%で含有されているのが好ましく、触媒構造体1に対して0.5~1.5質量%で含有されているのがより好ましい。例えば、金属元素(M)がCoである場合、Co元素の含有量(質量%)は、(Co元素の質量)/(触媒構造体1の全元素の質量)×100で表される。
【0032】
上記金属微粒子は、酸化されていない金属で構成されていればよく、例えば、単一の金属で構成されていてもよく、あるいは2種以上の金属の混合物で構成されていてもよい。なお、本明細書において、金属微粒子を構成する(材質としての)「金属」は、1種の金属元素(M)を含む単体金属と、2種以上の金属元素(M)を含む金属合金とを含む意味であり、1種以上の金属元素を含む金属の総称である。
【0033】
また、触媒物質20としての金属微粒子は、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)、鉄(Fe)、銅(Cu)、金(Au)、銀(Ag)、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、ロジウム(Rd)、イリジウム(Ir)、ルテニウム(Ru)、オスミウム(Os)及びモリブデン(Mo)からなる群より選択される少なくとも1種の金属の微粒子である。触媒物質20としての金属微粒子は、これらの金属のうち1種以上を主成分とする金属の微粒子である。
【0034】
これらの金属のなかでも、FCC用触媒としての触媒活性の点で、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)、鉄(Fe)、銅(Cu)、白金(Pt)及びモリブデン(Mo)からなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましく、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)、鉄(Fe)及び白金(Pt)からなる群より選択される少なくとも1種であることがより好ましい。これらの好ましい金属の微粒子又はより好ましい金属の微粒子を、それぞれY型ゼオライトと組み合わせて用いることが更に好ましい。
【0035】
一方、触媒物質20としての固体酸は、具体的に、金属酸化物及びその水和物、硫化物、金属塩、複合酸化物、並びにヘテロポリ酸が挙げられる。金属酸化物としては、酸化鉄(FeOx)、酸化亜鉛(ZnO)、酸化アルミニウム(Al2O3)、酸化ジルコニウム(ZrO2)、酸化チタン(TiO2)、三酸化セレン(SeO3)、二酸化セレン(SeO2)、三酸化テルル(TeO3)、二酸化テルル(TeO2)、二酸化スズ(SnO2)、酸化マンガン(Mn2O7)、酸化テクネチウム(Tc2O7)及び酸化レニウム(Re2O7)が挙げられる。また、硫化物としては、硫化カドミウム(CdS)及び硫化亜鉛(ZnS)が挙げられる。また、金属塩としては、硫酸マグネシウム(MgSO
4)、硫酸鉄(FeSO4)及び塩化アルミニウム(AlCl3)が挙げられる。また、複合酸化物としては、SiO2-TiO2、SiO2-MgO及びTiO2-ZrO2が挙げられる。さらに、ヘテロポリ酸としては、リンタングステン酸、ケイタングステン酸、リンモリブデン酸及びケイモリブデン酸が挙げられる。これらの固体酸は、1種のみを用いてもよく、複数の種類を組み合わせて用いてもよい。固体酸としては、これらの金属酸化物の中でも、酸化アルミニウム(Al2O3)、酸化ジルコニウム(ZrO2)及び酸化亜鉛(ZnO)からなる群から選択された少なくとも1種が好ましい。なお、固体酸は、担体10を構成するゼオライト型化合物とは区別されるものである。固体酸には、例えば、ゼオライトは含まれない。
【0036】
金属微粒子または固体酸を構成する金属元素(M)に対する、担体10を構成するケイ素(Si)の割合(原子数比Si/M)は、10~1000であるのが好ましい。上記割合が1000以下の場合、活性が高く、触媒物質としての作用を十分に得ることができる。一方、上記割合が10以上の場合、金属微粒子の割合が大きくなりすぎることがなく、担体10の強度の低下を抑えることができる。なお、ここでいう金属微粒子は、担体10の内部に保持され、または担持された微粒子をいい、担体10の外表面に付着した金属微粒子を含まない。
【0037】
[触媒構造体の機能]
触媒構造体1は、上記のとおり、多孔質構造の担体10と、担体に内在する少なくとも1つの触媒物質20とを備える。触媒構造体1は、担体に内在する触媒物質20が流体と接触することにより、触媒物質20の機能に応じた触媒能を発揮する。具体的に、触媒構造体1の外表面10aに接触した流体は、外表面10aに形成された孔11aから担体10内部に流入して通路11内に誘導され、通路11内を通って移動し、他の孔11aを通じて触媒構造体1の外部へ出る。流体が通路11内を通って移動する経路において、通路11に保持された触媒物質20と接触することによって、触媒物質20に応じた触媒反応が生じる。また、触媒構造体1は、担体が多孔質構造であることにより、分子篩能を有する。
【0038】
まず、触媒構造体1の分子篩能について、
図2(a)を用いて、流体がベンゼン、プロピレン及びメシチレンを含む液体である場合を例として説明する。
図2(a)に示すように、孔11aの孔径以下、言い換えれば、通路11の内径以下の大きさを有する分子で構成される化合物(例えば、ベンゼン、プロピレン)は、担体10内に浸入することができる。一方、孔11aの孔径を超える大きさを有する分子で構成される化合物(例えば、メシチレン)は、担体10内へ浸入することができない。このように、流体が複数種類の化合物を含んでいる場合に、担体10内に浸入することができない化合物の反応は規制され、担体10内に浸入することができる化合物を反応させることができる。
【0039】
反応によって担体10内で生成した化合物のうち、孔11aの孔径以下の大きさを有する分子で構成される化合物のみが孔11aを通じて担体10の外部へ出ることができ、反応生成物として得られる。一方、孔11aから担体10の外部へ出ることができない化合物は、担体10の外部へ出ることができる大きさの分子で構成される化合物に変換させれば、担体10の外部へ出すことができる。このように、触媒構造体1を用いることにより、特定の反応生成物を選択的に得ることができる。
【0040】
触媒構造体1では、
図2(b)に示すように、通路11の拡径部12に触媒物質20が包接されている。触媒物質20である金属微粒子の平均粒径D
Cが、通路11の平均内径D
Fよりも大きく、拡径部12の内径D
Eよりも小さい場合には(D
F<D
C<D
E)、金属微粒子と拡径部12との間に小通路13が形成される。そこで、
図2(b)中の矢印に示すように、小通路13に浸入した流体が金属微粒子と接触する。各金属微粒子は、拡径部12に包接されているため、担体10内での移動が制限されている。これにより、担体10内における金属微粒子同士の凝集が防止される。その結果、金属微粒子と流体との大きな接触面積を安定して維持することができる。
【0041】
本実施形態では、触媒構造体1をFCC処理に用いることにより、アルキルベンゼン等の高沸点炭化水素を原料として、高オクタン価のガソリンを、プロピレンなどと共に製造することができる。上述したように、触媒構造体1では、触媒物質20同士の凝集が抑制されているため、従来の触媒よりも長期にわたり触媒活性を維持することができ、触媒構造体1の長寿命化を図ることができる。
【0042】
[触媒構造体の製造方法]
図3は、
図1の触媒構造体1の製造方法を示すフローチャートである。以下、担体に内在する触媒物質が金属微粒子である触媒構造体の製造方法の一例を説明する。
【0043】
(ステップS1:準備工程)
図3に示すように、先ず、ゼオライト型化合物で構成される多孔質構造の担体を得るための前駆体材料(A)を準備する。前駆体材料(A)は、好ましくは規則性メソ細孔物質であり、触媒構造体の担体を構成するゼオライト型化合物の種類(組成)に応じて適宜選択できる。
【0044】
ここで、触媒構造体の担体を構成するゼオライト型化合物がケイ酸塩化合物である場合には、規則性メソ細孔物質は、細孔径1~50nmの細孔が1次元、2次元又は3次元に均一な大きさかつ規則的に発達したSi-O骨格からなる化合物であることが好ましい。このような規則性メソ細孔物質は、合成条件によって様々な合成物として得られるが、合成物の具体例としては、例えばSBA-1、SBA-15、SBA-16、KIT-6、FSM-16、MCM-41等が挙げられ、中でもMCM-41が好ましい。なお、SBA-1の細孔径は10~30nm、SBA-15の細孔径は6~10nm、SBA-16の細孔径は6nm、KIT-6の細孔径は9nm、FSM-16の細孔径は3~5nm、MCM-41の細孔径は1~10nmである。また、このような規則性メソ細孔物質としては、例えばメソポーラスシリカ、メソポーラスアルミノシリケート、メソポーラスメタロシリケート等が挙げられる。
【0045】
前駆体材料(A)は、市販品及び合成品のいずれであってもよい。前駆体材料(A)を合成する場合には、公知の規則性メソ細孔物質の合成方法により行うことができる。例えば、前駆体材料(A)の構成元素を含有する原料と、前駆体材料(A)の構造を規定するための鋳型剤とを含む混合溶液を調製し、必要に応じてpHを調整して、水熱処理(水熱合成)を行う。その後、水熱処理により得られた沈殿物(生成物)を回収(例えば、ろ別)し、必要に応じて洗浄及び乾燥し、さらに焼成することで、粉末状の規則性メソ細孔物質である前駆体材料(A)が得られる。ここで、混合溶液の溶媒としては、例えば水、アルコール等の有機溶媒、これらの混合溶媒などを用いることができる。また、原料は、担体の種類に応じて選択されるが、例えばテトラエトキシシラン(TEOS)等のシリカ剤、フュームドシリカ、石英砂などが挙げられる。また、鋳型剤としては、各種界面活性剤、ブロックコポリマー等を用いることができ、規則性メソ細孔物質の合成物の種類に応じて選択することが好ましく、例えばMCM-41を作製する場合にはヘキサデシルトリメチルアンモニウムブロミド等の界面活性剤が好適である。水熱処理は、例えば、密閉容器内で、80~800℃、5時間~240時間、0~2000kPaの処理条件で行うことができる。焼成処理は、例えば、空気中で、350~850℃、2~30時間の処理条件で行うことができる。
【0046】
(ステップS2:含浸工程)
次に、準備した前駆体材料(A)に、金属含有溶液を含浸させ、前駆体材料(B)を得る。
【0047】
金属含有溶液は、触媒構造体の金属微粒子または固体酸を構成する金属元素(M)に対応する金属成分(例えば、金属イオン)を含有する溶液であればよく、例えば、溶媒に、金属元素(M)を含有する金属塩を溶解させることにより調製できる。このような金属塩としては、例えば、塩化物、水酸化物、酸化物、硫酸塩、硝酸塩等が挙げられ、中でも硝酸塩が好ましい。溶媒としては、例えば水、アルコール等の有機溶媒、これらの混合溶媒などを用いることができる。
【0048】
前駆体材料(A)に金属含有溶液を含浸させる方法は、特に限定されないが、例えば、後述する焼成工程の前に、粉末状の前駆体材料(A)を撹拌しながら、金属含有溶液を複数回に分けて少量ずつ添加することが好ましい。また、前駆体材料(A)の細孔内部に金属含有溶液がより浸入し易くなる観点から、前駆体材料(A)に、金属含有溶液を添加する前に予め、添加剤として界面活性剤を添加しておくことが好ましい。このような添加剤は、前駆体材料(A)の外表面を被覆する働きがあり、その後に添加される金属含有溶液が前駆体材料(A)の外表面に付着することを抑制し、金属含有溶液が前駆体材料(A)の細孔内部により浸入し易くなると考えられる。
【0049】
このような添加剤としては、例えばポリオキシエチレンオレイルエーテル等のポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルなどの非イオン性界面活性剤が挙げられる。これらの界面活性剤は、分子サイズが大きく前駆体材料(A)の細孔内部には浸入できないため、細孔の内部に付着することは無く、金属含有溶液が細孔内部に浸入することを妨げないと考えられる。非イオン性界面活性剤の添加方法としては、例えば、後述する焼成工程の前に、非イオン性界面活性剤を、前駆体材料(A)に対して50~500質量%添加するのが好ましい。非イオン性界面活性剤の前駆体材料(A)に対する添加量が50質量%未満であると、上記の抑制作用が発現し難く、非イオン性界面活性剤を前駆体材料(A)に対して500質量%よりも多く添加すると粘度が上がりすぎるので好ましくない。よって、非イオン性界面活性剤の前駆体材料(A)に対する添加量を上記範囲内の値とする。
【0050】
また、前駆体材料(A)に添加する金属含有溶液の添加量は、前駆体材料(A)に含浸させる金属含有溶液中に含まれる金属元素(M)の量(すなわち、前駆体材料(B)に内在させる金属元素(M)の量)を考慮して、適宜調整することが好ましい。例えば、後述する焼成工程の前に、前駆体材料(A)に添加する金属含有溶液の添加量を、前駆体材料(A)に添加する金属含有溶液中に含まれる金属元素(M)に対する、前駆体材料(A)を構成するケイ素(Si)の比(原子数比Si/M)に換算して、10~1000となるように調整することが好ましく、50~200となるように調整することがより好ましい。例えば、前駆体材料(A)に金属含有溶液を添加する前に、添加剤として界面活性剤を前駆体材料(A)に添加した場合、前駆体材料(A)に添加する金属含有溶液の添加量を、原子数比Si/Mに換算して50~200とすることで、金属酸化物微粒子の金属元素(M)を、触媒構造体1に対して0.5~2.5質量%で含有させることができる。
【0051】
前駆体材料(B)の状態で、その細孔内部に存在する金属元素(M)の量は、金属含有溶液の金属濃度や、上記添加剤の有無、その他温度や圧力等の諸条件が同じであれば、前駆体材料(A)に添加する金属含有溶液の添加量に概ね比例する。また、前駆体材料(B)に内在する金属元素(M)の量は、触媒構造体の担体に内在する金属微粒子を構成する金属元素の量と比例関係にある。したがって、前駆体材料(A)に添加する金属含有溶液の添加量を上記範囲に制御することにより、前駆体材料(A)の細孔内部に金属含有溶液を十分に含浸させることができ、ひいては、触媒構造体の担体に内在させる金属微粒子の量を調整することができる。
【0052】
前駆体材料(A)に金属含有溶液を含浸させた後は、必要に応じて、洗浄処理を行ってもよい。洗浄溶液として、水、アルコール等の有機溶媒、又はこれらの混合溶液を用いることができる。また、前駆体材料(A)に金属含有溶液を含浸させ、必要に応じて洗浄処理を行った後、さらに乾燥処理を施すことが好ましい。乾燥処理としては、一晩程度の自然乾燥や、150℃以下の高温乾燥が挙げられる。なお、金属含有溶液に含まれる水分や、洗浄溶液の水分が、前駆体材料(A)に多く残った状態で、後述の焼成処理を行うと、前駆体材料(A)の規則性メソ細孔物質としての骨格構造が壊れる恐れがあるので、十分に乾燥するのが好ましい。
【0053】
(ステップS3:焼成工程)
次に、ゼオライト型化合物で構成される多孔質構造の担体を得るための前駆体材料(A)に金属含有溶液が含浸された前駆体材料(B)を焼成して、前駆体材料(C)を得る。
【0054】
焼成処理は、例えば、空気中で、350~850℃、2~30時間の処理条件で行うことが好ましい。このような焼成処理により、規則性メソ細孔物質の孔内に含浸された金属成分が結晶成長して、孔内で金属微粒子が形成される。
【0055】
(ステップS4:水熱処理工程)
次いで、前駆体材料(C)と構造規定剤とを混合した混合溶液を調製し、前記前駆体材料(B)を焼成して得られた前駆体材料(C)を水熱処理して、触媒構造体を得る。
【0056】
構造規定剤は、触媒構造体の担体の骨格構造を規定するための鋳型剤であり、例えば界面活性剤を用いることができる。構造規定剤は、触媒構造体の担体の骨格構造に応じて選択することが好ましく、例えばテトラメチルアンモニウムブロミド(TMABr)、テトラエチルアンモニウムブロミド(TEABr)、テトラプロピルアンモニウムブロミド(TPABr)等の界面活性剤が好適である。
【0057】
前駆体材料(C)と構造規定剤との混合は、本水熱処理工程時に行ってもよいし、水熱処理工程の前に行ってもよい。また、上記混合溶液の調製方法は、特に限定されず、前駆体材料(C)と、構造規定剤と、溶媒とを同時に混合してもよいし、溶媒に前駆体材料(C)と構造規定剤とをそれぞれ個々の溶液に分散させた状態にした後に、それぞれの分散溶液を混合してもよい。溶媒としては、例えば水、アルコール等の有機溶媒、これらの混合溶媒などを用いることができる。また、混合溶液は、水熱処理を行う前に、酸又は塩基を用いてpHを調整しておくことが好ましい。
【0058】
水熱処理は、公知の方法で行うことができ、例えば、密閉容器内で、80~800℃、5時間~240時間、0~2000kPaの処理条件で行うことが好ましい。また、水熱処理は、塩基性雰囲気下で行われることが好ましい。
ここでの反応メカニズムは必ずしも明らかではないが、前駆体材料(C)を原料として水熱処理を行うことにより、前駆体材料(C)の規則性メソ細孔物質としての骨格構造は次第に崩れるが、前駆体材料(C)の細孔内部での金属微粒子の位置は概ね維持されたまま、構造規定剤の作用により、触媒構造体の担体としての新たな骨格構造(多孔質構造)が形成される。このようにして得られた触媒構造体は、多孔質構造の担体と、担体に内在する金属微粒子を備え、さらに担体はその多孔質構造により複数の孔が互いに連通した通路を有し、金属微粒子はその少なくとも一部分が担体の通路に保持されている。
また、本実施形態では、上記水熱処理工程において、前駆体材料(C)と構造規定剤とを混合した混合溶液を調製して、前駆体材料(C)を水熱処理しているが、これに限らず、前駆体材料(C)と構造規定剤とを混合すること無く、前駆体材料(C)を水熱処理してもよい。
【0059】
水熱処理後に得られる沈殿物(触媒構造体)は、回収(例えば、ろ別)後、必要に応じて洗浄、乾燥及び焼成することが好ましい。洗浄溶液としては、水、アルコール等の有機溶媒、又はこれらの混合溶液を用いることができる。乾燥処理としては、一晩程度の自然乾燥や、150℃以下の高温乾燥が挙げられる。なお、沈殿物に水分が多く残った状態で、焼成処理を行うと、触媒構造体の担体としての骨格構造が壊れる恐れがあるので、十分に乾燥するのが好ましい。また、焼成処理は、例えば、空気中で、350~850℃、2~30時間の処理条件で行うことができる。このような焼成処理により、触媒構造体に付着していた構造規定剤が焼失する。また、触媒構造体は、使用目的に応じて、回収後の沈殿物を焼成処理することなくそのまま用いることもできる。例えば、触媒構造体の使用する環境が、酸化性雰囲気の高温環境である場合には、使用環境に一定時間晒すことで、構造規定剤は焼失し、焼成処理した場合と同様の触媒構造体が得られるので、そのまま使用することが可能となる。
【0060】
以上説明した製造方法は、前駆体材料(A)に含浸させる金属含有溶液に含まれる金属元素(M)が、酸化され難い金属種(例えば、貴金属)である場合の一例である。
【0061】
前駆体材料(A)に含浸させる金属含有溶液中に含まれる金属元素(M)が、酸化され易い金属種(例えば、Fe、Co、Cu等)である場合には、上記水熱処理工程後に、水熱処理された前駆体材料(C)に還元処理を行うことが好ましい。金属含有溶液中に含まれる金属元素(M)が、酸化され易い金属種である場合、含浸処理(ステップS2)の後の工程(ステップS3~4)における熱処理により、金属成分が酸化されてしまう。そのため、水熱処理工程(ステップS4)で形成される担体には、金属酸化物微粒子が内在することになる。そのため、担体に金属微粒子が内在する触媒構造体を得るためには、上記水熱処理後に、回収した沈殿物を焼成処理し、さらに水素ガス等の還元ガス雰囲気下で還元処理することが望ましい。還元処理を行うことにより、担体に内在する金属酸化物微粒子が還元され、金属酸化物微粒子を構成する金属元素(M)に対応する金属微粒子が形成される。その結果、担体に金属微粒子が内在する触媒構造体が得られる。なお、このような還元処理は、必要に応じて行えばよく、例えば、触媒構造体の使用する環境が、還元雰囲気である場合には、使用環境に一定時間晒すことで、金属酸化物微粒子は還元されるため、還元処理した場合と同様の触媒構造体が得られるので、担体に酸化物微粒子が内在した状態でそのまま使用することが可能となる。
【0062】
[触媒構造体1の変形例]
図4は、
図1の触媒構造体1の変形例を示す模式図である。
図1の触媒構造体1は、担体10と、担体10に内在する触媒物質20とを備える場合を示しているが、この構成だけには限定されず、例えば、
図4に示すように、触媒構造体2が、担体10の外表面10aに保持された他の触媒物質30を更に備えていてもよい。
【0063】
この触媒物質30は、一又は複数の触媒能を発揮する物質である。他の触媒物質30が有する触媒能は、触媒物質20が有する触媒能と同一であってもよいし、異なっていてもよい。また、触媒物質20,30の双方が同一の触媒能を有する物質である場合、他の触媒物質30の材料は、触媒物質20の材料と同一であってもよいし、異なっていてもよい。本構成によれば、触媒構造体2に保持された触媒物質の含有量を増大することができ、触媒物質の触媒活性を更に促進することができる。
【0064】
この場合、担体10に内在する触媒物質20の含有量は、担体10の外表面10aに保持された他の触媒物質30の含有量よりも多いことが好ましい。これにより、担体10の内部に保持された触媒物質20による触媒能が支配的となり、安定的に触媒物質の触媒能が発揮される。
【0065】
以上、本発明の実施形態に係る触媒構造体について述べたが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術思想に基づいて各種の変形及び変更が可能である。
例えば、上記実施形態では、触媒構造体の外観は粉体であるが、これに限らず、円柱状、葉状、ダンベル柱状、またはリング状のペレット形状であってもよい。上記形状を得るため触媒構造体の成形方法は、特に限定されないが、例えば押出成形、打錠成形あるいは油中造粒等の一般的な方法を用いることができる。また、例えば、触媒粉を一軸加圧器で成形して触媒構造体を作製した後、該触媒成形体を砕きながら篩に通して、目的とする二次粒子径を有する少なくとも1つの二次粒子で構成される触媒構造体を得る方法でもよい。上記のような方法にて触媒構造体を造粒した状態のものを、触媒構造体あるいは触媒成形体と称することができる。触媒構造体を造粒する場合、例えば平均粒径(あるいは円相当径の平均)が、例えば 0.01μm~15μmである触媒構造体を成形することができる。触媒構造体を数センチ以上に大型化する際には、アルミナなどのバインダーを混ぜて成型しても良い。触媒構造体あるいは触媒成形体が上記形状、寸法を有することにより、例えば、減圧軽油、常圧残油などの高沸点炭化水素を分解し、高オクタン価ガソリンを製造する際に、不純物や留分等が触媒層に詰まるのを防止することができる。
【0066】
なお、本発明の触媒構造体は、粉体でも成形体でもよく、その形態は特に限定されないが、例えばFCC原料油中に含まれるバナジウム, ニッケル等の有機金属化合物の成分が多い場合、これら金属成分が触媒上に沈着し、圧力損失により反応が停止する場合があり、この点から、成形体の方が好ましい。
【0067】
また、例えば、上記触媒構造体を備える流動接触分解用装置が提供されてもよい。このような装置としては、例えば、FCC用装置、これを備えたプロピレンの精留装置又は分解ガソリンの脱硫装置などが挙げられる。このような装置を用いた触媒反応に本発明の触媒構造体を用いることで、上記同様の効果を奏することができる。
【実施例】
【0068】
(実施例1~415)
[前駆体材料(A)の合成]
シリカ剤(テトラエトキシシラン(TEOS)、和光純薬工業株式会社製)と、鋳型剤としての界面活性剤とを混合した混合水溶液を作製し、適宜pH調整を行い、密閉容器内で、80~350℃、100時間、水熱処理を行った。その後、生成した沈殿物をろ別し、水及びエタノールで洗浄し、さらに600℃、24時間、空気中で焼成して、表1~8に示される種類及び孔径の前駆体材料(A)を得た。なお、界面活性剤は、前駆体材料(A)の種類に応じて(「前駆体材料(A)の種類:界面活性剤」)以下のものを用いた。・MCM-41:ヘキサデシルトリメチルアンモニウムブロミド(CTAB)(和光純薬工業株式会社製)
・SBA-1:Pluronic P123(BASF社製)
【0069】
[前駆体材料(B)及び(C)の作製]
次に、表1~9に示される種類の金属微粒子(酸化物を除く)を構成する金属元素(M)、あるいは、金属酸化物微粒子を構成する金属元素(M)に応じて、該金属元素(M)を含有する金属塩を、水に溶解させて、金属含有水溶液を調製した。なお、金属塩は、金属微粒子の種類に応じて(「金属微粒子:金属塩」)以下のものを用いた。
・Co:硝酸コバルト(II)六水和物(和光純薬工業株式会社製)
・Ni:硝酸ニッケル(II)六水和物(和光純薬工業株式会社製)
・Fe:硝酸鉄(III)九水和物(和光純薬工業株式会社製)
・Pt:塩化白金酸六水和物(和光純薬工業株式会社製)
・AlOx:硝酸アルミニウム九水和物(和光純薬工業株式会社製)
・FeOx:硝酸鉄(III)九水和物(和光純薬工業株式会社製)
【0070】
次に、粉末状の前駆体材料(A)に、金属含有水溶液を複数回に分けて少量ずつ添加し、室温(20℃±10℃)で12時間以上乾燥させて、前駆体材料(B)を得た。
【0071】
なお、表1~9に示す添加剤の有無の条件が「有り」の場合は、金属含有水溶液を添加する前の前駆体材料(A)に対して、添加剤としてのポリオキシエチレン(15)オレイルエーテル(NIKKOL BO-15V、日光ケミカルズ株式会社製)の水溶液を添加する前処理を行い、その後、上記のように金属含有水溶液を添加した。また、添加剤の有無の条件が「無し」の場合については、上記のような添加剤による前処理は行っていない。
【0072】
また、前駆体材料(A)に添加する金属含有水溶液の添加量は、該金属含有水溶液中に含まれる金属元素(M)に対する、前駆体材料(A)を構成するケイ素(Si)の比(原子数比Si/M)に換算したときの数値が、表1~9の値になるように調整した。
【0073】
次に、上記のようにして得られた金属含有水溶液を含浸させた前駆体材料(B)を、600℃、24時間、空気中で焼成して、前駆体材料(C)を得た。
【0074】
上記のようにして得られた前駆体材料(C)と、表1~9に示す構造規定剤とを混合して混合水溶液を作製し、密閉容器内で、80~350℃、表1~8に示すpH及び時間の条件で、水熱処理を行った。その後、生成した沈殿物をろ別し、水洗し、100℃で12時間以上乾燥させ、さらに600℃、24時間、空気中で焼成した。実施例1~384では、焼成処理の後、焼成物を回収し、水素ガスの流入下で、400℃、350分間、還元処理を施すことにより、表1~9に示す担体と金属微粒子(Co微粒子、Ni微粒子、Fe微粒子、Pt微粒子)または固体酸微粒子(AlOx微粒子、FeOx微粒子)とを有する触媒構造体を得た。
【0075】
(比較例1)
比較例1では、MFI型シリカライトに平均粒径50nm以下の酸化コバルト粉末(II,III)(シグマ アルドリッチ ジャパン合同会社製)を混合し、実施例と同様にして水素還元処理を行って、骨格体としてのシリカライトの外表面に、触媒物質としてコバルト微粒子を付着させたシリカライトを得た。MFI型シリカライトは、金属を添加する工程以外は、実施例52~57と同様の方法で合成した。
【0076】
(比較例2)
比較例2では、コバルト微粒子を付着させる工程を省略したこと以外は、比較例1と同様の方法にてMFI型シリカライトを合成した。
【0077】
[評価]
実施例1~419の触媒構造体及び比較例1~2のシリカライトについて、以下に示す条件で、各種特性評価を行った。
【0078】
[A]断面観察
実施例1~419の触媒構造体及び比較例1~2のシリカライトについて、粉砕法にて観察試料を作製し、透過電子顕微鏡(TEM)(TITAN G2、FEI社製)を用いて、断面観察を行った。
その結果、上記実施例の触媒構造体では、シリカライト又はゼオライトからなる担体の内部に触媒物質が内在し、保持されていることが確認された。一方、比較例1のシリカライトでは、触媒物質が担体の外表面に付着しているのみで、担体の内部には存在していなかった。
【0079】
また、上記実施例のうち金属が鉄微粒子(Fe)である触媒構造体について、FIB(集束イオンビーム)加工により断面を切り出し、SEM(SU8020、株式会社日立ハイテクノロジーズ製)、EDX(X-Max、株式会社堀場製作所製)を用いて断面元素分析を行った。その結果、担体内部からFe元素が検出された。
上記TEMとSEM/EDXによる断面観察の結果から、担体内部に鉄微粒子が存在していることが確認された。
【0080】
[B]担体の通路の平均内径及び触媒物質の平均粒径
上記評価[A]で行った断面観察により撮影したTEM画像にて、担体の通路を、任意に500個選択し、それぞれの長径及び短径を測定し、その平均値からそれぞれの内径を算出し(N=500)、さらに内径の平均値を求めて、担体の通路の平均内径DFとした。また、触媒物質についても同様に、上記TEM画像から、触媒物質を、任意に500個選択し、それぞれの粒径を測定して(N=500)、その平均値を求めて、触媒物質の平均粒径DCとした。結果を表1~9に示す。
【0081】
また、触媒物質の平均粒径及び分散状態を確認するため、SAXS(小角X線散乱)を用いて分析した。SAXSによる測定は、Spring-8のビームラインBL19B2を用いて行った。得られたSAXSデータは、Guinier近似法により球形モデルでフィッティングを行い、粒径を算出した。粒径は、金属が鉄微粒子である触媒構造体について測定した。また、比較対象として、市販品である鉄微粒子(Wako製)をSEMにて観察、測定した。
【0082】
この結果、市販品では粒径約50nm~400nmの範囲で様々なサイズの酸化鉄微粒子がランダムに存在しているのに対し、TEM画像から求めた平均粒径が1.2nm~2.0nmの各実施例の触媒構造体では、SAXSの測定結果においても粒径が10nm以下の散乱ピークが検出された。SAXSの測定結果とSEM/EDXによる断面の測定結果から、担体内部に、粒径10nm以下の触媒物質が、粒径が揃いかつ非常に高い分散状態で存在していることが分かった。
【0083】
[C]金属含有溶液の添加量と担体内部に包接された金属量との関係
原子数比Si/M=50,100,200,1000(M=Co、Ni、Fe、Cu)の添加量で、金属微粒子を担体内部に包接させた触媒構造体を作製し、その後、上記添加量で作製された触媒構造体の担体内部に包接された金属量(質量%)を測定した。尚、本測定において原子数比Si/M=100,200,1000の触媒構造体は、それぞれ実施例1~384のうちの原子数比Si/M=100,200,1000の触媒構造体と同様の方法で金属含有溶液の添加量を調整して作製し、原子数比Si/M=50の触媒構造体は、金属含有溶液の添加量を異ならせたこと以外は、原子数比Si/M=100,200,1000の触媒構造体と同様の方法で作製した。
この結果、少なくとも原子数比Si/Mが50~1000の範囲内で、金属含有溶液の添加量の増加に伴って、担体に包接された金属量が増大していることが確認された。
【0084】
[D]性能評価
上記実施例の触媒構造体及び比較例のシリカライトについて、金属微粒子(触媒物質)がもつ触媒能(性能)を評価した。結果を表1~9に示す。
【0085】
(1)触媒活性
触媒活性は、以下の条件で評価した。
まず、触媒構造体を、常圧流通式反応装置に0.2g充填し、窒素ガス(N2)をキャリアガス(5ml/min)とし、400℃、2時間、ブチルベンゼン(重質油のモデル物質)の分解反応を行った。
反応終了後に、回収した生成ガス及び生成液を、ガスクロマトグラフィー質量分析法(GC/MS)により成分分析した。なお、生成ガスの分析装置には、TRACE 1310GC(サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社製、検出器:熱伝導度検出器)を用い、生成液の分析装置には、TRACE DSQ(サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社製、検出器:質量検出器、イオン化方法:EI(イオン源温度250℃、MSトランスファーライン温度320℃、検出器:熱伝導度検出器))を用いた。
【0086】
さらに、上記成分分析の結果に基づき、ブチルベンゼンよりも分子量が小さい化合物(具体的には、ベンゼン、トルエン、エチルベンゼン、スチレン、クメン、メタン、エタン、エチレン、プロパン、プロピレン、ブタン、ブテン等)の収率(mol%)を求めた。上記化合物の収率は、反応開始前のブチルベンゼンの物質量(mol)に対する、生成液中に含まれるブチルベンゼンよりも分子量が小さい化合物の物質量の総量(mol)の百分率(mol%)として算出した。
【0087】
本実施例では、生成液中に含まれるブチルベンゼンよりも分子量が小さい化合物の収率が、40mol%以上である場合を触媒活性(分解能)が優れていると判定して「◎」、25mol%以上40mol%未満である場合を触媒活性が良好であると判定して「○」、10mol%以上25mol%未満である場合を触媒活性が良好ではないものの合格レベル(可)であると判定して「△」、そして10mol%未満である場合を触媒活性が劣る(不可)と判定して「×」とした。
【0088】
(2)耐久性(寿命)
耐久性は、以下の条件で評価した。
まず、上記評価(1)で使用した触媒構造体を回収し、650℃で、12時間加熱して、加熱後の触媒構造体を作製した。次に、得られた加熱後の触媒構造体を用いて、上記評価(1)と同様の方法により、ブチルベンゼン(重質油のモデル物質)の分解反応を行い、さらに上記評価(1)と同様の方法で、生成ガス及び生成液の成分分析を行った。
得られた分析結果に基づき、上記評価(1)と同様の方法で、ブチルベンゼンよりも分子量が小さい化合物の収率(mol%)を求めた。さらに、加熱前の触媒構造体による上記化合物の収率(上記評価(1)で求めた収率)と比較して、加熱後の触媒構造体による上記化合物の収率が、どの程度維持されているかを比較した。具体的には、加熱前の触媒構造体による上記化合物の収率(上記評価(1)で求めた収率)に対する、上記加熱後の触媒構造体による上記化合物の収率(本評価(2)で求めた収率)の百分率(%)を算出した。
【0089】
本実施例では、加熱後の触媒構造体による上記化合物の収率(本評価(2)で求めた収率)が、加熱前の触媒構造体による上記化合物の収率(上記評価(1)で求めた収率)に比べて、80%以上維持されている場合を耐久性(耐熱性)が優れていると判定して「◎」、60%以上80%未満維持されている場合を耐久性(耐熱性)が良好であると判定して「○」、40%以上60%未満維持されている場合を耐久性(耐熱性)が良好ではないものの合格レベル(可)であると判定して「△」、そして40%未満に低下している場合を耐久性(耐熱性)が劣る(不可)と判定して「×」とした。
【0090】
比較例1~2についても、上記評価(1)及び(2)と同様の性能評価を行った。尚、比較例2は、骨格体そのものであり、金属微粒子は有していない。そのため、上記性能評価では、触媒構造体に替えて、比較例2の骨格体のみを充填した。結果を表8に示す。
【0091】
また、触媒物質として固体酸微粒子を用いた触媒構造体については、石油精製の主要なプロセスである流動接触分解(Fluid Catalytic Cracking:FCC)についても適用可能性を、以下の評価により確認した。
触媒構造体を、常圧流通式反応装置に0.2g充填し、650℃、1時間でヘキサン(モデル物質)の分解反応を行った。反応終了後に、回収した生成ガス及び生成液を、ガスクロマトグラフィー質量分析法(GC/MS)により成分分析した。なお、生成ガスの分析装置には、TRACE 1310GC(サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社製、検出器:熱伝導度検出器)を用い、生成液の分析装置には、TRACE DSQ(サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社製、検出器:質量検出器、イオン化方法:EI(イオン源温度250℃、MSトランスファーライン温度320℃、検出器:熱伝導度検出器))を用いた。
【0092】
上記成分分析の結果に基づき、ヘキサンよりも分子量が小さい化合物(C5以下の炭化水素)の収率(mol%)を求め、10mol%以上である場合を触媒活性(分解能)が優れていると判定して「○」、5mol%以上10mol%未満である場合を触媒活性が良好であると判定して「△」、そして5mol%未満である場合を触媒活性が劣る(不可)と判定して「×」とした。
【0093】
【0094】
【0095】
【0096】
【0097】
【0098】
【0099】
【0100】
【0101】
【0102】
表1~9から明らかなように、断面観察により担体の内部に触媒物質が保持されていることが確認された触媒構造体(実施例1~419)は、単に触媒物質が担体の外表面に付着しているだけのシリカライト(比較例1)または触媒物質を何ら有していないシリカライトそのもの(比較例2)と比較して、ブチルベンゼンの分解反応において優れた触媒活性を示し、触媒としての耐久性にも優れていることが分かった。また、ゼオライト型化合物としてFAU型(Y型)を用いた実施例はそれ以外の型のゼオライトを用いる場合よりも相対的に良好であった。
【0103】
また、上記評価[C]で測定された触媒構造体の担体内部に包接された金属量(質量%)と、上記評価(1)で求めた収率(mol%)との関係を評価した。評価方法は、上記[D]「性能評価」における「(1)触媒活性」で行った評価方法と同じとした。
【0104】
その結果、各実施例において、前駆体材料(A)に添加する金属含有溶液の添加量が、原子数比Si/Mに換算して50~200(触媒構造体に対する金属微粒子の金属元素(M)の含有量が0.5~2.5質量%)であると、生成液中に含まれるブチルベンゼンよりも分子量が小さい化合物の収率が、32mol%以上となり、ブチルベンゼンの分解反応における触媒活性が特に優れていることが分かった。
【0105】
一方、担体の外表面にのみ触媒物質を付着させた比較例1の触媒構造体は、触媒物質を何ら有していない比較例2の担体そのものと比較して、ブチルベンゼンの分解反応における触媒活性は改善されるものの、実施例1~419の触媒構造体に比べて、触媒としての耐久性は劣っていた。
【0106】
また、機能性物質を何ら有していない比較例2の骨格体そのものは、ブチルベンゼンの分解反応において触媒活性は殆ど示さず、実施例1~419の触媒構造体と比較して、触媒活性および耐久性の双方が劣っていた。
【0107】
実施例385~419において、固体酸触媒は優れたヘキサンの分解能を示し、特にAlOxはFeOxより優れた分解能を示すことがわかった。
【0108】
なお、渣油(常圧残渣油や減圧残渣油)を原料とした重質油に本発明の触媒構造体を500~550℃の条件で使用し、重質油を接触分解することで、高オクタン価のガソリンが製造される。この際には、プロピレンも3~5重量%程度で併産されることが確認されたこのような渣油から高オクタン価のガソリンを製造するなどのFCC処理にも本発明の触媒構造体を使用した場合にも、上記と同様に触媒活性と耐久性が良好であることが認められる。
【符号の説明】
【0109】
1 触媒構造体
10 担体
10a 外表面
11 通路
11a 孔
12 拡径部
20 触媒物質
30 触媒物質
DC 平均粒径
DF 平均内径
DE 内径