(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-12
(45)【発行日】2023-09-21
(54)【発明の名称】電力調整システム及びアグリゲーション装置
(51)【国際特許分類】
B60L 55/00 20190101AFI20230913BHJP
H02J 3/32 20060101ALI20230913BHJP
H02J 3/38 20060101ALI20230913BHJP
H02J 13/00 20060101ALI20230913BHJP
H02J 7/00 20060101ALN20230913BHJP
【FI】
B60L55/00
H02J3/32
H02J3/38 110
H02J13/00 301A
H02J13/00 311A
H02J7/00 P
(21)【出願番号】P 2021052218
(22)【出願日】2021-03-25
【審査請求日】2022-11-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000241485
【氏名又は名称】豊田通商株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003199
【氏名又は名称】弁理士法人高田・高橋国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小鮒 俊介
(72)【発明者】
【氏名】堀井 雄介
(72)【発明者】
【氏名】江原 雅人
(72)【発明者】
【氏名】根津 有希央
(72)【発明者】
【氏名】竹内 千夏
(72)【発明者】
【氏名】淀瀬 健司
【審査官】杉田 恵一
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-033732(JP,A)
【文献】特開2018-124674(JP,A)
【文献】特開2021-035207(JP,A)
【文献】特表2013-520942(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60L 55/00
G06Q 50/06
H02J 3/00
H02J 7/00
H02J 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の電動車をエネルギリソースとして用いる仮想発電所において、前記複数の電動車の充放電電力を調整する電力調整システムであって、
前記複数の電動車に含まれる個々の電動車の車両情報に基づいて前記複数の電動車の充放電を管理する上位アグリゲーション装置と、
前記上位アグリゲーション装置から供給される充放電情報に基づいて前記複数の電動車と配電網に接続された複数の充放電器との間で行われる充放電を制御する下位アグリゲーション装置と、を備え、
前記充放電情報は、前記個々の電動車の車両情報に基づいて生成され、前記複数の電動車からなる電動車群の充放電制約と、前記個々の電動車の充放電制約とを含む
ことを特徴とする電力調整システム。
【請求項2】
請求項1に記載の電力調整システムにおいて、
前記充放電情報は、前記電動車群の目標充電状態をさらに含む
ことを特徴とする電力調整システム。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の電力調整システムにおいて、
前記充放電情報は、前記個々の電動車の目標充電状態をさらに含む
ことを特徴とする電力調整システム。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載の電力調整システムにおいて、
前記上位アグリゲーション装置は、前記個々の電動車の車両情報に基づいて前記複数の電動車と前記複数の充放電器との間で行われる充放電を制御する
ことを特徴とする電力調整システム。
【請求項5】
請求項4に記載の電力調整システムにおいて、
前記下位アグリゲーション装置は、前記複数の充放電器に含まれる第1充放電器群に接続され、
前記上位アグリゲーション装置は、前記複数の充放電器に含まれる前記第1充放電器群とは異なる第2充放電器群に接続されている
ことを特徴とする電力調整システム。
【請求項6】
複数の電動車をエネルギリソースとして用いる仮想発電所において、前記複数の電動車の充放電電力を調整する電力調整システムを構成するアグリゲーション装置であって、
前記複数の電動車に含まれる個々の電動車の車両情報に基づいて前記複数の電動車の充放電を管理することと、
前記複数の電動車と配電網に接続された複数の充放電器との間で行われる充放電を制御する下位アグリゲーション装置と通信を行い、前記下位アグリゲーション装置に充放電の制御に必要な充放電情報を送信することと、を実行するように構成され
前記充放電情報は、前記個々の電動車の車両情報に基づいて生成され、前記複数の電動車からなる電動車群の充放電制約と、前記個々の電動車の充放電制約とを含む
ことを特徴とするアグリゲーション装置。
【請求項7】
請求項6に記載のアグリゲーション装置において、
前記充放電情報は、前記電動車群の目標充電状態をさらに含む
ことを特徴とするアグリゲーション装置。
【請求項8】
請求項6又は7に記載のアグリゲーション装置において、
前記充放電情報は、前記個々の電動車の目標充電状態をさらに含む
ことを特徴とするアグリゲーション装置。
【請求項9】
請求項6乃至8のいずれか1項に記載のアグリゲーション装置において、
前記個々の電動車の車両情報に基づいて前記複数の電動車と前記複数の充放電器との間で行われる充放電を制御すること、をさらに実行するように構成されている
ことを特徴とするアグリゲーション装置。
【請求項10】
請求項9に記載のアグリゲーション装置において、
前記複数の充放電器のうち前記下位アグリゲーション装置が接続されている充放電器群とは異なる充放電器群に接続されている
ことを特徴とするアグリゲーション装置。
【請求項11】
複数の電動車をエネルギリソースとして用いる仮想発電所において、前記複数の電動車の充放電電力を調整する電力調整システムを構成するアグリゲーション装置であって、
前記複数の電動車の充放電を管理する上位アグリゲーション装置と通信を行い、前記上位アグリゲーション装置から充放電情報を受信することと、
前記充放電情報に基づいて前記複数の電動車と配電網に接続された複数の充放電器との間で行われる充放電を制御することと、を実行するように構成され
前記充放電情報は、前記複数の電動車からなる電動車群の充放電制約と、前記複数の電動車に含まれる個々の電動車の充放電制約とを含む
ことを特徴とするアグリゲーション装置。
【請求項12】
請求項11に記載のアグリゲーション装置において、
前記充放電情報は、前記電動車群の目標充電状態をさらに含む
ことを特徴とするアグリゲーション装置。
【請求項13】
請求項11又は12に記載のアグリゲーション装置において、
前記充放電情報は、前記個々の電動車の目標充電状態をさらに含む
ことを特徴とするアグリゲーション装置。
【請求項14】
請求項11乃至13の何れか1項に記載のアグリゲーション装置において、
前記複数の充放電器のうち前記上位アグリゲーション装置が接続されている充放電器群とは異なる充放電器群に接続されている
ことを特徴とするアグリゲーション装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の電動車をエネルギリソースとして用いる仮想発電所において、それら複数の電動車の充放電電力を調整する電力調整システム、及びそのような電力調整システムを構成するアグリゲーション装置に関する。
【背景技術】
【0002】
今日、複数の電動車(電池のみをエネルギ源とする純電気自動車及びプラグインハイブリッド車が含まれる)をエネルギリソースとして用いる仮想発電所(VPP)についての研究が進んでいる。特許文献1には、その一例が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
VPPの実現時の課題の一つは、電力の調整手段を確実に且つできるだけ多く確保することである。エネルギリソースとしての電動車は、電池からの電力の放電と電池への余剰電力の充電とにより、配電網の需給の調整に寄与する。ゆえに、VPPのシステムに組み込まれる電動車の数は多いほうがよい。しかし、同時に管理される電動車の台数が増加すると、単独のシステムでの管理が難しく、複数のアグリゲータ間で連携することが必要になってくる。その場合、機密等の観点からアグリゲータ間での情報のやり取りをできるだけ限定しつつ、全体として適切な充放電を実現することが求められる。
【0005】
本開示は、多数の電動車をVPPのエネルギリソースとして用いることができる電力調整システム及びアグリゲーション装置を提供することを的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本開示に係る電力調整システムは、複数の電動車をエネルギリソースとして用いるVPPにおいて、複数の電動車の充放電電力を調整するシステムであって、上位アグリゲーション装置と下位アグリゲーション装置とを備える。上位アグリゲーション装置は、複数の電動車に含まれる個々の電動車の車両情報に基づいて複数の電動車の充放電を管理するように構成された装置である。下位アグリゲーション装置は、上位アグリゲーション装置から供給される充放電情報に基づいて複数の電動車と配電網に接続された複数の充放電器との間で行われる充放電を制御するように構成された装置である。ここで、上位アグリゲーション装置から下位アグリゲーション装置に供給される充放電情報は、個々の電動車の車両情報に基づいて生成され、複数の電動車からなる電動車群の充放電制約と、個々の電動車の充放電制約とを含む。
【0007】
本開示に係る電力調整システムにおいて、上位アグリゲーション装置から下位アグリゲーション装置に供給される充放電情報は、電動車群の目標充電状態を含んでもよいし、個々の電動車の目標充電状態をさらに含んでもよい。また、上位アグリゲーション装置は、個々の電動車の車両情報に基づいて複数の電動車と複数の充放電器との間で行われる充放電を制御するように構成されてもよい。また、下位アグリゲーション装置は、複数の充放電器に含まれる第1充放電器群に接続されてもよく、上位アグリゲーション装置は、複数の充放電器に含まれる第1充放電器群とは異なる第2充放電器群に接続されてもよい。
【0008】
本開示に係る第1のアグリゲーション装置は、複数の電動車をエネルギリソースとして用いるVPPにおいて、複数の電動車の充放電電力を調整する電力調整システムを構成するアグリゲーション装置である。本開示に係る第1のアグリゲーション装置は、複数の電動車に含まれる個々の電動車の車両情報に基づいて複数の電動車の充放電を管理することを実行するように構成される。また、本開示に係る第1のアグリゲーション装置は、下位アグリゲーション装置と通信を行い、下位アグリゲーション装置に充放電の制御に必要な充放電情報を送信することを実行するように構成される。ここで、下位アグリゲーション装置は、電力調整システムにおいて、第1のアグリゲーション装置に対して下位の階層に位置するアグリゲーション装置である。下位アグリゲーション装置は、複数の電動車と配電網に接続された複数の充放電器との間で行われる充放電を制御するように構成されている。第1のアグリゲーション装置から下位アグリゲーション装置に送信される充放電情報は、個々の電動車の車両情報に基づいて生成され、複数の電動車からなる電動車群の充放電制約と、個々の電動車の充放電制約とを含む。
【0009】
本開示に係る第1のアグリゲーション装置において、第1のアグリゲーション装置から下位アグリゲーション装置に送信される充放電情報は、電動車群の目標充電状態を含んでもよいし、個々の電動車の目標充電状態をさらに含んでもよい。また、本開示に係る第1のアグリゲーション装置は、個々の電動車の車両情報に基づいて複数の電動車と複数の充放電器との間で行われる充放電を制御することをさらに実行するように構成されてもよい。また、本開示に係る第1のアグリゲーション装置は、複数の充放電器のうち下位アグリゲーション装置が接続されている充放電器群とは異なる充放電器群に接続されてもよい。
【0010】
本開示に係る第2のアグリゲーション装置は、複数の電動車をエネルギリソースとして用いるVPPにおいて、複数の電動車の充放電電力を調整する電力調整システムを構成するアグリゲーション装置である。本開示に係る第2のアグリゲーション装置は、上位アグリゲーション装置と通信を行い、上位アグリゲーション装置から充放電情報を受信することを実行するように構成される。ここで、上位アグリゲーション装置は、電力調整システムにおいて、第2のアグリゲーション装置に対して上位の階層に位置するアグリゲーション装置であって、複数の電動車の充放電を管理するように構成される。また、本開示に係る第2のアグリゲーション装置は、充放電情報に基づいて複数の電動車と配電網に接続された複数の充放電器との間で行われる充放電を制御することを実行するように構成される。第2のアグリゲーション装置が上位アグリゲーション装置から受信する充放電情報は、複数の電動車からなる電動車群の充放電制約と、複数の電動車に含まれる個々の電動車の充放電制約とを含む。
【0011】
本開示に係る第2のアグリゲーション装置において、第2のアグリゲーション装置が上位アグリゲーション装置から受信する充放電情報は、電動車群の目標充電状態を含んでもよいし、個々の電動車の目標充電状態をさらに含んでもよい。また、本開示に係る第2のアグリゲーション装置は、複数の充放電器のうち上位アグリゲーション装置が接続されている充放電器群とは異なる充放電器群に接続されてもよい。
【発明の効果】
【0012】
本開示に係る電力調整システムでは、VPPのエネルギリソースとして用いられる複数の電動車の充放電の管理は上位アグリゲーション装置(第1のアグリゲーション装置)が行う。そして、それら複数の電動車と配電網に接続された複数の充放電器との間の充放電の制御は下位アグリゲーション装置(第2のアグリゲーション装置)が行う。つまり、本開示に係る電力調整システムは、上位アグリゲーション装置と下位アグリゲーション装置とを含む階層構造を有する。
【0013】
上位アグリゲーション装置による充放電の管理は個々の電動車の車両情報に基づいて行われるのに対し、下位アグリゲーション装置による充放電の制御は、個々の電動車の車両情報に基づいて生成された充放電情報に基づいて行われる。充放電情報は、複数の電動車からなる電動車群の充放電制約と、個々の電動車の充放電制約とを含む情報であり、情報の内容が個々の電動車の車両情報よりも限定されている。下位アグリゲーション装置は、制御上の制約、すなわち、電動車群の充放電制約と個々の電動車の充放電制約とを満たす範囲において、複数の電動車と複数の充放電器との間の充放電を制御する。
【0014】
以上のように、本開示に係る電力調整システムは、複数の電動車の充放電を管理する上位アグリゲーション装置とは別に下位アグリゲーション装置を備え、下位アグリゲーション装置に複数の電動車と複数の充放電器との間の充放電を制御させている。下位アグリゲーション装置は、課せられている制御上の制約を満たしさえすれば、複数の電動車に対して高い自由度をもって充放電の制御を行うことができる。このように構成された本開示に係る電力調整システムによれば、多数の電動車をVPPのエネルギリソースとして用いることができる。また、本開示に係る第1のアグリゲーション装置及び第2のアグリゲーション装置によれば、上記効果を有する電力調整システムを実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本開示の実施形態のVPPの全体構成を示す図である。
【
図2】本開示の実施形態の上位アグリゲーションサーバと下位アグリゲーションサーバのそれぞれの構成を示すブロック図である。
【
図3】本開示の実施形態の上位アグリゲーションサーバによるモデル予測制御の概要を示す図である。
【
図4】モデル予測制御によるSOCの最適解と最適解に基づき設定される許容SOC範囲の例を示す図である。
【
図5】充放電情報に含まれる車群目標SOC、車群SOC上限、及び車群SOC下限の例を示す図である。
【
図6】充放電情報に含まれる個車目標SOC、個車SOC上限、及び個車SOC下限の例を示す図である。
【
図7】本開示の実施形態の電力調整システムによる処理の流れを示すフローチャートである。
【
図8】本開示の実施形態の電力調整システムの構成の変形例を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照して本開示の実施形態について説明する。ただし、以下に示す実施形態において各要素の個数、数量、量、範囲等の数に言及した場合、特に明示した場合や原理的に明らかにその数に特定される場合を除いて、その言及した数に、本開示に係る思想が限定されるものではない。また、以下に示す実施形態において説明する構造等は、特に明示した場合や明らかに原理的にそれに特定される場合を除いて、本開示に係る思想に必ずしも必須のものではない。
【0017】
1.VPPの全体構成
図1は、本開示の実施形態のVPP(Virtual Power Plant)2の全体構成を示す図である。本実施形態のVPP2は、複数の電動車8をエネルギリソースとして用いるVPPである。VPP2で用いられる電動車8は、電池8aと充放電システムとを備えた車両である。電動車8には、例えば、電気自動車(EV)とプラグインハイブリッド車(PHV)とが含まれる。EVは、電池8aのみをエネルギ源として電気モータで走行する電動車である。EVは、レンジエクステンダーを有していてもよい。PHVは、電気モータと内燃機関とを有し、電気モータのエネルギ源である電池8aに外部から直接充電することできる電動車である。電動車8は単一種類の電動車でも良いし、複数種類の電動車の混成であってもよい。電動車の種類には、EVとPHVとの違いだけでなく、電池8aの容量の違いも含まれる。
【0018】
VPP2では、配電網4に接続された複数の充放電器6が用意されている。VPP2のエネルギリソースとなる電動車8は、充放電器6を介して配電網4に接続される。配電網4から電動車8の電池8aへの充電、及び電動車8の電池8aから配電網4への放電は充放電器6を用いて行われる。ただし、全ての電動車が配電網4に接続可能ではない。配電網4に接続可能な電動車は、VPP2に所属する電動車群80に含まれる電動車8に限られる。
【0019】
本実施形態のVPP2は、EMSサーバ20、運転行動情報サーバ30、車両情報サーバ40、及び電力調整システム10を備える。EMSサーバ20は、VPP2のエネルギマネージメントシステムを構成するサーバである。EMSサーバ20は、配電網4を監視し、需給予測を行い、後述する電力調整システム10に対して電力量の調整を要求する。なお、エネルギマネージメントシステムは、例えば、工場向けのFEMS(Factory Energy Management System)でもよいし、地域向けのCEMS(Community Energy Management System)でもよい。
【0020】
運転行動情報サーバ30は、電動車群80に含まれる各電動車8の運転者の運転行動を管理するサーバである。運転行動情報サーバ30には、運転者毎に過去の運転行動の履歴と今後の運行予定が記録されている。運行予定は運転者自身により登録されてもよいし、運転行動の履歴から推定されてもよい。運転行動情報サーバ30は、各運転者に紐づけられた電動車8毎の運行予定情報を後述する電力調整システム10に送信する。
【0021】
車両情報サーバ40は、電動車群80に含まれる各電動車8の車両情報を管理するサーバである。車両情報には、各電動車8を識別するための車両ID、各電動車8の現在位置、各電動車8の走行距離、各電動車8の電池8aの充電状態(SOC)等の情報が含まれる。車両情報サーバ40は、4Gや5G等の移動体通信によって電動車群80に含まれる各電動車8から車両情報を個別に吸い上げ、記憶している各電動車8の車両情報を最新の情報に更新する。車両情報サーバ40は、更新される各電動車8の車両情報を所定の周期で後述する電力調整システム10に送信する。
【0022】
電力調整システム10は、電動車群80に属する電動車8の充放電電力を調整するシステムである。電力調整システム10による充放電電力の調整は、EMSサーバ20からの電力量の調整要求に基づいて行われる。具体的には、EMSサーバ20から不足電力の供給が要求される場合、電力調整システム10は、要求されている量の電力が電動車群80から配電網4に放電されるように各電動車8の充放電電力を調整する。EMSサーバ20から余剰電力の蓄電がされる場合、電力調整システム10は、要求されている量の電力が配電網4から電動車群80に充電されるように各電動車8の充放電電力を調整する。
【0023】
電力調整システム10は、上位アグリゲーションサーバ11と下位アグリゲーションサーバ12とを含む階層構造を有する。本実施形態では、上位アグリゲーション装置の1つの実施形態としてサーバが用いられ、同様に、下位アグリゲーション装置の1つの実施形態としてサーバが用いられている。上位アグリゲーションサーバ11と下位アグリゲーションサーバ12とは、インターネットを含む通信ネットワークによって接続されている。また、一つの例として、上位アグリゲーションサーバ11と下位アグリゲーションサーバ12とは、異なるアグリゲータによって運用される。
【0024】
上位アグリゲーションサーバ11は、電動車群80に属する電動車8の充放電を管理するサーバである。前述のEMSサーバ20、運転行動情報サーバ30、及び車両情報サーバ40は、インターネットを含む通信ネットワークによって上位アグリゲーションサーバ11に接続されている。上位アグリゲーションサーバ11は、電動車群80に属する個々の電動車8の電池8aのSOCと充電量或いは放電量を管理する。上位アグリゲーションサーバ11による充放電の管理は、車両情報サーバ40から送信される個々の電動車8の車両情報に基づいて行われる。充放電の管理に用いられる車両情報には、SOCと劣化量との関係に関する情報が含まれる。また、詳細については後述するが、上位アグリゲーションサーバ11は、個々の電動車8の車両情報に基づいて充放電情報を生成する機能を有する。
【0025】
下位アグリゲーションサーバ12は、充放電器6に接続された電動車8と充放電器6との間で行われる充放電を制御するサーバである。下位アグリゲーションサーバ12による充放電の制御は、上位アグリゲーションサーバ11から供給される充放電情報に基づいて行われる。充放電情報は、上位アグリゲーションサーバ11から下位アグリゲーションサーバ12に対する充放電に関する指示である。充放電情報は、電動車群80の目標SOC及び充放電制約と、個々の電動車8の充放電制約とを含む。電動車群80のSOCとは、電動車群80に含まれる全ての電動車8の電池容量を足し合わせたものを100%したときにある時刻において実際に充電されている電力量である。充放電情報は、個々の電動車8の目標SOCをさらに含んでもよい。
【0026】
下位アグリゲーションサーバ12は、その管理下にある充放電器6に対して充放電制御を行うことができる。以下、下位アグリゲーションサーバ12の管理下にある充放電器6のグループを第1充放電器群61と称する。下位アグリゲーションサーバ12による充放電制御の実績は、上位アグリゲーションサーバ11に対して充放電実績として報告される。充放電実績には、下位アグリゲーションサーバ12によって充放電が行われた電動車8ごとの充電量或いは放電量が含まれる。
【0027】
充放電器6に対して充放電制御を行う機能は、上位アグリゲーションサーバ11にも備えられる。ただし、下位アグリゲーションサーバ12では、充放電情報に基づいて充放電制御が行われるのに対し、上位アグリゲーションサーバ11では、個々の電動車8の車両情報に基づいて充放電制御が行われる。上位アグリゲーションサーバ11は、その管理下にある充放電器6に対して充放電制御を行うことができる。上位アグリゲーションサーバ11の管理下にある充放電器6のグループを第2充放電器群62と称する。
【0028】
充放電器6は第1充放電器群61と第2充放電器群62の何れか一方に属している。第1充放電器群61に属する各充放電器6は、ゲートウェイ(GW)6aを介し、インターネットを含む通信ネットワークによって下位アグリゲーションサーバ12に接続されている。第2充放電器群62に属する各充放電器6は、ゲートウェイ6aを介し、インターネットを含む通信ネットワークによって上位アグリゲーションサーバ11に接続されている。電動車群80に属する電動車8は、第1充放電器群61に属する充放電器6と第2充放電器群62に属する充放電器6のどちらにも接続することができる。
【0029】
2.電力調整システムの構成と機能の詳細
次に、電力調整システム10の構成と機能の詳細について説明する。
図2は、電力調整システム10を構成する上位アグリゲーションサーバ11と下位アグリゲーションサーバ12のそれぞれの構成を示すブロック図である。
【0030】
上位アグリゲーションサーバ11は、1又は複数のプロセッサ111(以下、単にプロセッサ111と呼ぶ)とプロセッサ111に結合された1又は複数のメモリ112(以下、単にメモリ112と呼ぶ)とを含んでいる。メモリ112は主記憶装置と補助記憶装置とを含む。メモリ112には、プロセッサ111で実行可能なプログラムとそれに関連する種々の情報とが記憶されている。プロセッサ111がプログラムを実行することにより、プロセッサ111による各種処理が実現される。プログラムは、主記憶装置に記憶されることもできるし、補助記憶装置であるコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記憶されることもできる。
【0031】
メモリ112には、車両情報113と充放電情報114とが記憶されている。車両情報113は電動車群80に含まれる全ての電動車8について存在し、電動車8毎にメモリ112に記憶されている。車両情報113は、少なくとも電池8aのSOCと劣化量との関係に関するSOC-劣化量情報113aを含む。充放電情報114は、前述のとおり、車両情報113から生成された情報である。充放電情報114は、車群目標SOC114a、車群SOC上限114b、車群SOC下限114c、個車SOC上限114e、及び個車SOC下限114fを含む。車群目標SOC114aは、電動車群80の目標SOCである。車群SOC上限114b及び車群SOC下限114cは、電動車群80の充放電制約である。個車SOC上限114e及び個車SOC下限114fは、個々の電動車8の充放電制約である。充放電情報114には、個々の電動車8の目標SOCである個車目標SOC114dが含まれていてもよい。
【0032】
下位アグリゲーションサーバ12は、1又は複数のプロセッサ121(以下、単にプロセッサ121と呼ぶ)とプロセッサ121に結合された1又は複数のメモリ122(以下、単にメモリ122と呼ぶ)とを含んでいる。メモリ122は主記憶装置と補助記憶装置とを含む。メモリ122には、プロセッサ121で実行可能なプログラムとそれに関連する種々の情報とが記憶されている。プロセッサ121がプログラムを実行することにより、プロセッサ121による各種処理が実現される。プログラムは、主記憶装置に記憶されることもできるし、補助記憶装置であるコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記憶されることもできる。
【0033】
メモリ122には、充放電情報123が記憶されている。別の言い方をすれば、メモリ122には、車両情報は記憶されておらず、充放電情報123のみが記憶されている。メモリ122に記憶された充放電情報123は、上位アグリゲーションサーバ11から送信された充放電情報114である。上位アグリゲーションサーバ11は、メモリ112に記憶された充放電情報114を所定の周期で下位アグリゲーションサーバ12に送信するとともに、所定の周期で更新する。下位アグリゲーションサーバ12は、上位アグリゲーションサーバ11から送信された充放電情報114によって、メモリ122に記憶された充放電情報123を更新する。充放電情報123は、車群目標SOC123a、車群SOC上限123b、車群SOC下限123c、個車SOC上限123e、及び個車SOC下限123fを含む。充放電情報114に個車目標SOC114dが含まれる場合、充放電情報123にも個車目標SOC123dが含まれる。
【0034】
上位アグリゲーションサーバ11は、充放電情報114の生成において、まず、個々の電動車8の目標SOC、すなわち、個車目標SOC114dを計算する。個車目標SOC114dの計算には、例えば、モデル予測制御コントローラ(MPCコントローラ)が用いられる。
図3は、上位アグリゲーションサーバ11によるモデル予測制御の概要を示す図である。MPCコントローラは、予測モデルと最適化ソルバーとを含む。予測モデルは、現時刻から所定時間(予測ホライズン)を経過した時刻までのSOCと電池8aの劣化状態の各挙動を予測する。最適化ソルバーは、制約を遵守しつつ最適化問題を解くことによって制御対象である個車、すなわち、個々の電動車8の制御入力を求める。制約には、電欠の防止と利用者が指定するSOCの確保とに加え、電動車群80の全体に対する要求充放電電力の満足が含まれる。MPCコントローラは、個々の電動車8の制御入力として個車目標SOCを計算する。制御出力である個車SOC、すなわち、個々の電動車8のSOCは個々の電動車8の充放電電力とともにMPCコントローラにフィードバックされる。なお、ここでは、個車目標SOC114dの計算にモデル予測制御を用いたが、将来状態の推定・制約の考慮が可能なモデルベース制御であれば、個車目標SOC114dの計算手段はモデル予測制御には限定されない。
【0035】
上位アグリゲーションサーバ11は、モデル予測制御によって計算されたSOCの最適解である個車目標SOC114dと、SOC-劣化量情報113aとに基づいて許容SOC範囲を計算する。許容SOC範囲は、電池8aの劣化の観点から許容されるSOCの範囲である。許容SOC範囲の上限が個車SOC上限114eであり、許容SOC範囲の下限が個車SOC下限114fである。
図4は、モデル予測制御によるSOCの最適解と最適解に基づき設定される許容SOC範囲の例を示す図である。
【0036】
図4に示す各例のグラフは、SOC-劣化量情報113aの内容が表されている。グラフの横軸は電池のSOCであり、グラフの縦軸は電池の容量の劣化量である。グラフ中には、SOCと劣化量との関係の一例が点線で描かれている。この点線で描かれたSOCと劣化量との関係がSOC-劣化量情報113aである。SOCと劣化量との関係は電池8aの使用履歴、使用環境、個体差等によって電池毎に異なっている。ゆえにSOC-劣化量情報113aは電動車8毎に異なっている。グラフには、SOCの最適解が丸印で描かれ、許容SOC範囲が両矢印で描かれている。ここでは、SOCの最適解における劣化量に対して劣化量の悪化割合が許容値(例えば、1%)以下に収まる範囲が許容SOC範囲に設定されている。
【0037】
例1乃至3について簡単に説明する。例1では、SOCの最適解は、劣化量が最小になるSOC(最小劣化量SOC)よりも低い。この場合、SOCの最適解よりもSOCが低くなると、劣化量は増大して悪化割合はすぐに許容値に達する。一方、SOCの最適解よりもSOCが高くなると、劣化量は低下していく。SOCがさらに高くなり最小劣化量SOCよりも高くなると、劣化量は増大していきやがて許容値に達する。つまり、例1の場合には、SOCの最適解に対してSOCが低い側にはSOCのずれに余裕は無いが、SOCの最適解に対してSOCが高い側にはSOCのずれに余裕はある。
【0038】
例2では、最小劣化量SOCがSOCの最適解である。この場合、SOCの最適解よりもSOCが低くなると、劣化量は増大していき悪化割合はやがて許容値に達する。一方、SOCの最適解よりもSOCが高くなっても、劣化量は増大していき悪化割合はやがて許容値に達する。つまり、例2の場合には、SOCの最適解に対してSOCが低い側にはSOCのずれにある程度の余裕はあり、SOCの最適解に対してSOCが高い側にもSOCのずれにある程度の余裕はある。
【0039】
例3では、SOCの最適解は、最小劣化量SOCよりも高い。
図4に例示するSOC-劣化量特性は、SOCが高くなると劣化量が急激に増大する特性である。このため、SOCの最適解よりもSOCが高くなると、劣化量は急増して悪化割合はすぐに許容値に達する。一方、SOCの最適解よりもSOCが低くなると、劣化量は低下していく。SOCがさらに低くなり最小劣化量SOCよりも低くなると、劣化量は増大していくもののSOCの最適解における劣化量よりは低く維持される。つまり、例3の場合には、SOCの最適解に対してSOCが高い側にはSOCのずれに余裕は無いが、SOCの最適解に対してSOCが低い側にはSOCのずれに十分な余裕がある。
【0040】
上位アグリゲーションサーバ11は、個々の電動車8について計算された個車目標SOC114d、個車SOC上限114e、及び個車SOC下限114fに基づき、車群目標SOC114a、車群SOC上限114b、及び車群SOC下限114cを計算する。車群目標SOC114aは、電動車群80に含まれる全ての電動車8の個車目標SOC114dの平均値として計算される。車群SOC上限114bは、電動車群80に含まれる全ての電動車8の個車SOC上限114eの平均値として計算される。車群SOC下限114cは、電動車群80に含まれる全ての電動車8の個車SOC下限114fの平均値として計算される。
【0041】
図5は、上位アグリゲーションサーバ11から下位アグリゲーションサーバ12に送信される充放電情報に含まれる車群目標SOC、車群SOC上限、及び車群SOC下限の例を示す図である。
図5に示すように、車群目標SOC、車群SOC上限、及び車群SOC下限は時間によって変化する変数である。上位アグリゲーションサーバ11は所定の時間間隔でこれらの数値を下位アグリゲーションサーバ12に送信する。
【0042】
図6は、上位アグリゲーションサーバ11から下位アグリゲーションサーバ12に送信される充放電情報に含まれる個車目標SOC、個車SOC上限、及び個車SOC下限の例を示す図である。
図6に示すように、個車目標SOC、個車SOC上限、及び個車SOC下限は時間によって変化する変数である。上位アグリゲーションサーバ11は所定の時間間隔でこれらの数値を下位アグリゲーションサーバ12に送信する。ただし、前述のとおり個車目標SOCの送信はオプションであって、必ずしも充放電情報に個車目標SOCが含まれる必要はない。
【0043】
下位アグリゲーションサーバ12は、第1充放電器群61に属する充放電器6に接続された電動車8に対し、全体としてのSOCを車群SOC上限123bから車群SOC下限123cまでの範囲に収めつつ、車群目標SOC123aに近付けるように充放電制御を行う。また、下位アグリゲーションサーバ12は、個々の電動車8のSOCを個車SOC上限123eから個車SOC下限123fまでの範囲に収めるように、個々の電動車8に対する充放電制御を行う。充放電情報に個車目標SOC123dが含まれる場合、下位アグリゲーションサーバ12は、個々の電動車8のSOCを個車SOC上限123eから個車SOC下限123fまでの範囲に収めつつ、個車目標SOC123dに近づけるように、個々の電動車8に対する充放電制御を行う。
【0044】
上位アグリゲーションサーバ11が充放電制御を行う場合、上位アグリゲーションサーバ11は個々の電動車8の車両情報113に基づいて充放電制御を行う。この充放電制御で用いられる車両情報113には、少なくとも上記のSOC-劣化量情報113aと個車目標SOC114dとが含まれる。SOC-劣化量情報113aに基づいて個々の電動車8に対する充放電制御を行うことで、電池8aの急激な劣化や、電池8aが満充電になったり電欠になったりすることを防止しながら、個々の電動車8のSOCを個車目標SOC123dに精度よく近づけることができる。
【0045】
図7は、以上の構成と機能を有する電力調整システム10に処理の流れを示すフローチャートである。フローチャートには、ステップS1からS5までの5つのステップが表されている。電力調整システム10では、これらのステップの処理が順に繰り返し実行されている。
【0046】
ステップS1では、上位アグリゲーションサーバ11は、モデル予測制御(MPC)によって各電動車8の電池8aの劣化を最小にするSOCの最適値を算出する。モデル予測制御によるSOCの最適値の算出方法は
図3を用いて説明したとおりである。
【0047】
ステップS2では、上位アグリゲーションサーバ11は、SOCの最適値から劣化量の悪化割合が許容値以下で収まるSOCの範囲、すなわち、許容SOC範囲を電動車8毎に探索する。許容SOC範囲の探索方法は
図4を用いて説明したとおりである。
【0048】
ステップS3では、上位アグリゲーションサーバ11は、ステップS1で算出されたSOCの最適値とステップS2で探索した許容SOC範囲とに基づいて充放電情報114を生成する。充放電情報114は、車群目標SOC114a、車群SOC上限114b、車群SOC下限114c、個車SOC上限114e、及び個車SOC下限114fを含む。充放電情報には個車目標SOC114dが含まれてもよい。上位アグリゲーションサーバ11は、下位アグリゲーションサーバ12へ充放電情報114を送信する。
【0049】
ステップS4では、上位アグリゲーションサーバ11から受信した充放電情報123に基づき、下位アグリゲーションサーバ12と電動車8との間でアグリゲーション制御が実行される。ただし、下位アグリゲーションサーバ12によるアグリゲーション制御の対象となる電動車8は、第1充放電器群61に属する充放電器6につながれた電動車8である。第2充放電器群62に属する充放電器6につながれた電動車8は、上位アグリゲーションサーバ11との間でアグリゲーション制御が実行される。
【0050】
ステップS5では、下位アグリゲーションサーバ12から上位アグリゲーションサーバ11へ充放電実績が報告される。上位アグリゲーションサーバ11は、下位アグリゲーションサーバ12から報告された充放電実績をアグリゲーション実績として取得する。上位アグリゲーションサーバ11自体が充放電制御を行っている場合、上位アグリゲーションサーバ11による充放電実績もまとめてアグリゲーション実績として取得される。上位アグリゲーションサーバ11は、アグリゲーション実績、すなわち、電動車群80によって充放電できた電力量の実績値をEMSサーバ20に報告する。
【0051】
3.電力調整システムの作用及び効果
本実施形態の電力調整システム10では、VPP2のエネルギリソースとして用いられる全ての電動車8の充放電の管理は上位アグリゲーションサーバ11が行う。そして、充放電器6につながれた電動車8と充放電器6との間の充放電制御は、上位アグリゲーションサーバ11と下位アグリゲーションサーバ12とが行う。
【0052】
上位アグリゲーションサーバ11により行われる個々の電動車8の充放電の管理と、第2充放電器群62に属する充放電器6に接続された電動車8に対する充放電制御は、個々の電動車8の車両情報113に基づいて行われる。上位アグリゲーションサーバ11は、車両情報113に含まれるSOC-劣化量情報113aを参照しながら、個々の電動車8のSOCが個車目標SOC114dを達成するように充放電制御を行う。
【0053】
下位アグリゲーションサーバ12により行われる第1充放電器群61に属する充放電器6に接続された電動車8に対する充放電制御は、個々の電動車8の車両情報113に基づいて生成された充放電情報123に基づいて行われる。下位アグリゲーションサーバ12は、充放電情報123に含まれる制御上の制約、すなわち、車群SOC上限123b、車群SOC下限123c、個車SOC上限123e、及び個車SOC下限123fを満たす範囲において、車群目標SOC123aを達成するように充放電制御を行う。
【0054】
以上のように、電力調整システム10は、上位アグリゲーションサーバ11とは別に下位アグリゲーションサーバ12を備え、下位アグリゲーションサーバ12にも電動車8と充放電器6との間の充放電を制御させている。上位アグリゲーションサーバ11は、SOC-劣化量情報113aを含む個々の電動車8の車両情報113に基づき充放電制御を行うことで、個々の電動車8について電池8aの劣化を最小限に抑えつつ、全体として要求充放電電力を満足させることができる。一方、下位アグリゲーションサーバ12は、上位アグリゲーションサーバ11で用いられる詳細な車両情報113を用いることはできないが、逆に言えば、車両情報113の内容に充放電制御が拘束されることもない。つまり、下位アグリゲーションサーバ12は、課せられている制御上の制約を満たしさえすれば、高い自由度をもって充放電制御を行うことができる。
【0055】
また、上位アグリゲーションサーバ11から見た場合、下位アグリゲーションサーバ12に対してSOC-劣化量情報113aを含む個々の電動車8の車両情報113を渡す必要はない。このことは、上位アグリゲーションサーバ11を運用するアグリゲータと、下位アグリゲーションサーバ12を運用するアグリゲータとが異なる主体である場合においてメリットが大きい。例えば車両情報113に秘密性の高い情報が含まれている場合、上位アグリゲーションサーバ11を運用するアグリゲータにとって、下位アグリゲーションサーバ12を運用するアグリゲータに対して車両情報113を公開することのデメリットは大きい。しかし、上述の内容に限定された充放電情報であれば、下位アグリゲーションサーバ12を運用するアグリゲータに対して情報を公開することのデメリットは少ない。寧ろ、必要最小限の情報の公開によって、下位アグリゲーションサーバ12を運用するアグリゲータをVPP2に組み込むことができる。これにより、上位アグリゲーションサーバ11を運用するアグリゲータだけでVPP2を構築する場合に比較して、より多くの電動車8をVPP2のエネルギリソースとして用いることが可能となる。
【0056】
4.電力調整システムの変形例
図8は、電力調整システム10の構成の変形例を示すブロック図である。
図8に示す変形例では、電力調整システム10は、1つの上位アグリゲーションサーバ11と複数の下位アグリゲーションサーバ12-1,12-2,・・・,12-nとで構成されている。これらの下位アグリゲーションサーバ12-1,12-2,・・・,12-nは、それぞれが異なるアグリゲータによって運用されていてもよい。各下位アグリゲーションサーバ12-1,12-2,・・・,12-nには、互いに独立した第1充放電器群61-1,61-2,・・・,61-nが接続されている。このように複数の下位アグリゲーションサーバ12-1,12-2,・・・,12-nを上位アグリゲーションサーバ11に接続することで、より多くの電動車8をVPP2のエネルギリソースとして用いることができる。
【0057】
また、図示は省略するが、上位アグリゲーションサーバ11は、電動車8の充放電の管理のみを行うように構成されてもよい。つまり、電力調整システム10は、電動車8と充放電器6との間の充放電の制御は専ら下位アグリゲーションサーバ12によって担われるように構成されてもよい。
【符号の説明】
【0058】
2 仮想発電所(VPP)
4 配電網
6 充放電器
6a ゲートウェイ
61 第1充放電器群
62 第2充放電器群
8 電動車
8a 電池
80 電動車群
10 電力調整システム
11 上位アグリゲーションサーバ
111 プロセッサ
112 メモリ
12 下位アグリゲーションサーバ
121 プロセッサ
122 メモリ
20 EMSサーバ
30 運転行動情報サーバ
40 車両情報サーバ