(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-12
(45)【発行日】2023-09-21
(54)【発明の名称】端子付き電線の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01R 4/18 20060101AFI20230913BHJP
C09D 201/00 20060101ALI20230913BHJP
C09D 5/00 20060101ALI20230913BHJP
C09D 175/14 20060101ALI20230913BHJP
C09D 133/04 20060101ALI20230913BHJP
H01R 4/70 20060101ALI20230913BHJP
H01R 43/048 20060101ALI20230913BHJP
H01R 4/62 20060101ALN20230913BHJP
【FI】
H01R4/18 A
C09D201/00
C09D5/00 Z
C09D175/14
C09D133/04
H01R4/70 K
H01R43/048 Z
H01R4/62 A
(21)【出願番号】P 2022049628
(22)【出願日】2022-03-25
(62)【分割の表示】P 2018065278の分割
【原出願日】2018-03-29
【審査請求日】2022-03-30
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000005290
【氏名又は名称】古河電気工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】391045897
【氏名又は名称】古河AS株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100096091
【氏名又は名称】井上 誠一
(72)【発明者】
【氏名】河中 裕文
(72)【発明者】
【氏名】田中 広樹
(72)【発明者】
【氏名】須山 健一
(72)【発明者】
【氏名】中山 弘哲
【審査官】山下 寿信
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-181367(JP,A)
【文献】特開2003-279326(JP,A)
【文献】特開2015-181322(JP,A)
【文献】特開2015-159070(JP,A)
【文献】特開2013-133444(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01R 4/18
C09D 201/00
C09D 5/00
C09D 175/14
C09D 133/04
H01R 4/70
H01R 43/00-43/048
H01R 4/62
G01N 21/64
G01B 11/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被覆導線と端子とが接続される端子付き電線の製造方法であって、
前記被覆導線は、被覆部と、前記被覆部の先端から露出する導線とを具備し、
前記端子は、端子本体と圧着部とを有し、
前記圧着部は、前記導線が圧着される導線圧着部と、前記被覆部が圧着される被覆圧着部と、前記導線圧着部と前記被覆圧着部との間のバレル間部と、を具備し、
少なくとも、前記バレル間部から前記導線圧着部までの前記導線が露出する部位に光反応開始剤を含む被膜材を塗布して硬化させた後、前記被膜材に紫外線を照射して発生した蛍光の強度を測定することで前記被膜材の膜厚を判断
し、
前記被膜材は、母材の樹脂に対して、波長365nmにおける吸光係数が、80ml/g cm in MeOH以上の光反応開始剤が3%以下の添加量で添加されており、硬化後の-40℃の伸びが100%以上であり、
前記被膜材の母材の樹脂は、ウレタンアクリレートであり、
前記母材の樹脂に使用するオリゴマーは、重量平均分子量が500~5000であることを特徴とする端子付き電線の製造方法。
【請求項2】
前記被膜材は、紫外線硬化樹脂であることを特徴とする請求項
1記載の端子付き電線の製造方法。
【請求項3】
硬化させた後の前記被膜材に含まれる、反応前は前記光反応開始剤であった物質から発せられる蛍光強度を利用して、前記被
膜材の膜厚を算出することを特徴とする請求項
2記載の端子付き電線の製造方法。
【請求項4】
硬化させた後の前記被膜材の膜厚が20μm以上で測定可能なことを特徴とする請求項
3記載の端子付き電線の製造方法。
【請求項5】
1種類の前記被膜材が塗布されることを特徴とする請求項
3または請求項
4記載の端子付き電線の製造方法。
【請求項6】
前記被膜材は、紫外線硬化と、湿気硬化または嫌気性硬化が付与されていることを特徴とする請求項
5記載の端子付き電線の製造方法。
【請求項7】
前記被膜材の硬化の際の紫外線照射工程と、前記被膜材の厚みを測定する際の紫外線照射工程とが同一工程となっているか、または、紫外線硬化工程後、端子の位置補正を行った後に膜厚検査を行うことを特徴とする請求項
3~
6のいずれか1項に記載の端子付き電線の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば自動車部品等の防食のために用いられる被膜材を用いた端子付き電線の製造方法等に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車、OA機器、家電製品等の分野では、電力線や信号線として、電気導電性に優れた銅系材料からなる電線が使用されている。特に、自動車分野においては、車両の高性能化、高機能化が急速に進められており、車載される各種電気機器や制御機器が増加している。したがって、これに伴い、使用される端子付き電線も増加する傾向にある。
【0003】
一方、環境問題が注目される中、自動車の軽量化が要求されている。したがって、ワイヤハーネスの使用量増加に伴う重量増加が問題となる。このため、従来使用されている銅線に代えて、軽量なアルミニウム電線が注目されている。
【0004】
ここで、このような電線同士を接続する際や機器類等の接続部においては、接続用端子が用いられる。しかし、アルミニウム電線を用いた端子付き電線であっても、接続部の信頼性等のため、端子部には、電気特性に優れる銅が使用される場合がある。このような場合には、アルミニウム電線と銅製の端子とが接合されて使用される。
【0005】
しかし、異種金属を接触させると、標準電極電位の違いから、いわゆる電食が発生する恐れがある。特に、アルミニウムと銅との標準電極電位差は大きいため、接触部への水の飛散や結露等の影響により、電気的に卑であるアルミニウム側の腐食が進行する。このため、接続部における電線と端子との接続状態が不安定となり、接触抵抗の増加や線径の減少による電気抵抗の増大、更には断線が生じて電装部品の誤動作、機能停止に至る恐れがある。
【0006】
このため、電線と端子との接続部を被膜材で被覆する方法が提案されている。この際、塗布される被覆電線の被膜材を有色として、照射した光の反射光の強度に応じた物理量によって、被膜の厚みを検査する方法がある(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1の方法によれば、膜厚が比較的厚い部分では、光が吸収され易いので、反射光の強度は小さくなり、膜厚が比較的薄い部分では、光が吸収されずにその下地で反射されやすく、反射光の強度は大きくなる。このため、有色の被膜による反射光の強度に応じた物理量(例えば、明度等)に基づいて、被膜の膜厚を検査することができる。
【0009】
しかし、特許文献1のように、光を照射して、その反射光の強度で膜厚を測定すると、特に、膜厚が比較的薄い部分では、下地の複雑形状の金属面からの乱反射の影響を受けやすい。また、複雑な形状でかつ光沢のある金属で構成された端子やアルミニウム線では、光の当たる角度によって、反射光の強度に大きく影響を与えるため、膜厚が比較的薄い部分の検出能力にばらつきが大きい。このように、特に、被膜の厚みが薄い場合には、外乱の影響が大きくなり、所望の厚みの被膜厚さを精度良く測定することは困難である。
【0010】
本発明は、このような問題に鑑みてなされたもので、精度良く被膜の厚みを測定することが可能な被膜材を用いた端子付き電線の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前述した目的を達するために本発明は、被覆導線と端子とが接続される端子付き電線の製造方法であって、前記被覆導線は、被覆部と、前記被覆部の先端から露出する導線とを具備し、前記端子は、端子本体と圧着部とを有し、前記圧着部は、前記導線が圧着される導線圧着部と、前記被覆部が圧着される被覆圧着部と、前記導線圧着部と前記被覆圧着部との間のバレル間部と、を具備し、少なくとも、前記バレル間部から前記導線圧着部までの前記導線が露出する部位に光反応開始剤を含む被膜材を塗布して硬化させた後、前記被膜材に紫外線を照射して発生した蛍光の強度を測定することで前記被膜材の膜厚を判断し、前記被膜材は、母材の樹脂に対して、波長365nmにおける吸光係数が、80ml/g cm in MeOH以上の光反応開始剤が3%以下の添加量で添加されており、硬化後の-40℃の伸びが100%以上であり、前記被膜材の母材の樹脂は、ウレタンアクリレートであり、前記母材の樹脂に使用するオリゴマーは、重量平均分子量が500~5000であることを特徴とする端子付き電線の製造方法である。
【0012】
前記被膜材は、母材の樹脂に対して、波長365nmにおける吸光係数が、80ml/g cm in MeOH以上の光反応開始剤が3%以下の添加量で添加されており、硬化後の-40℃の伸びが100%以上であることが望ましい。
【0013】
前記被膜材は、紫外線硬化樹脂であることが望ましい。
また、硬化させた後の前記被膜材に含まれる、反応前は前記光反応開始剤であった物質から発せられる蛍光強度を利用して、前記被覆材の膜厚を算出することが望ましい。
また、硬化させた後の前記被膜材の膜厚が20μm以上で測定可能なことが望ましい。
また、1種類の前記被膜材が塗布されることが望ましい。
また、前記被膜材は、紫外線硬化と、湿気硬化または嫌気性硬化が付与されていることが望ましい。
また、前記被膜材の硬化の際の紫外線照射工程と、前記被膜材の厚みを測定する際の紫外線照射工程とが同一工程となっているか、または、前記紫外線硬化工程後、端子の位置補正を行った後に膜厚検査を行うことが望ましい。
【0014】
前記被膜材の母材の樹脂は、ウレタンアクリレートであり、前記母材の樹脂に使用するオリゴマーは、重量平均分子量が500~5000であることが望ましい。
【0015】
本発明によれば、精度良く端子付き電線を製造することができる。
【0016】
特に、波長365nmにおける吸光係数が80ml/g cm in MeOH以上の被膜材を使用するため、塗布・硬化した被膜材に紫外線を照射すると、発生した蛍光強度が十分であるために、蛍光強度から膜厚を精度良く計算することができる。また、吸光係数が高いため、光反応開始剤の添加量を3%以下とすることができる。このため、硬化時の紫外線照射の際にも紫外線が光反応開始剤で吸収されにくく、深部硬化性にも優れる。また、硬化後の-40℃の伸びが100%以上であれば、低温時における割れ等を抑制することができる。
【0017】
また、被膜材が紫外線硬化樹脂であれば、短時間で被膜材を硬化させることができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、精度良く被膜の厚みを測定することが可能な被膜材を用いた端子付き電線の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図3】深部硬化性の測定治具19を示す図で、(a)は平面図、(b)は(a)のE-E線断面図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態について説明する。
図1は、端子付き電線10を示す斜視図であり、
図2は断面図である。なお、
図1は、被膜材17を透視した図である。端子付き電線10は、端子1と被覆導線11が接続されて構成される。
【0021】
被覆導線11は、アルミニウムまたはアルミニウム合金製である導線13と、導線13を被覆する被覆部15からなる。すなわち、被覆導線11は、被覆部15と、その先端から露出する導線13とを具備する。導線13は、例えば、複数の素線が撚り合わせられた撚り線である。
【0022】
端子1は、オ-プンバレル型であり、銅または銅合金製である。端子1には被覆導線11が接続される。端子1は、端子本体3と圧着部5とがトランジション部4を介して連結されて構成される。圧着部5と端子本体3の間に位置するトランジション部4は、上方が開口する。
【0023】
端子本体3は、所定の形状の板状素材を、断面が矩形の筒体に形成したものである。端子本体3は、内部に、板状素材を矩形の筒体内に折り込んで形成される弾性接触片を有する。端子本体3は、前端部から雄型端子などが挿入されて接続される。なお、以下の説明では、端子本体3が、雄型端子等の挿入タブ(図示省略)の挿入を許容する雌型端子である例を示すが、本発明において、この端子本体3の細部の形状は特に限定されない。例えば、雌型の端子本体3に代えて例えば雄型端子の挿入タブを設けてもよい。
【0024】
圧着部5は、被覆導線11と圧着される部位であり、圧着前においては、端子1の長手方向に垂直な断面形状が略U字状のバレル形状を有する。端子1の圧着部5は、被覆導線11の先端側に被覆部15から露出する導線13を圧着する導線圧着部7と、被覆導線11の被覆部15を圧着する被覆圧着部9と、導線圧着部7と被覆圧着部9の間のバレル間部8からなる。
【0025】
導線圧着部7の内面の一部には、幅方向(長手方向に垂直な方向)に、図示を省略したセレーションが設けられる。このようにセレーションを形成することで、導線13を圧着した際に、導線13の表面の酸化膜を破壊しやすく、また、導線13との接触面積を増加させることができる。
【0026】
被覆導線11の先端は、被覆部15が剥離され、内部の導線13が露出する。被覆導線11の被覆部15は、端子1の被覆圧着部9によって圧着される。また、被覆部15が剥離されて露出する導線13は、導線圧着部7により圧着される。導線圧着部7において、導線13と端子1とが電気的に接続される。なお、被覆部15の端面は、被覆圧着部9と導線圧着部7の間のバレル間部8に位置する。
【0027】
本発明では、少なくとも、被覆部15から露出する導線13が、被膜材17で覆われる。すなわち、少なくとも、バレル間部8から導線圧着部7までの導線13が露出する部位が被膜材17で覆われており、導線13は、被膜材17によって外部に露出しない。被膜材17は防食材として機能し、被覆対象部材である端子付き電線に塗布して硬化させることで、防食構造を構成する。
【0028】
被膜材17の母材の樹脂には、光反応開始剤が添加される。光反応開始剤とは、例えば紫外線などの光を受けると、分裂してラジカルを生成する物質をいう。光反応開始剤は、光を吸収しやすい性質を持っており、例えば紫外線を照射すると、ラジカルという非常に不安定な反応しやすい状態に変化する。例えば、光反応開始剤が添加されている紫外線硬化樹脂では、ラジカルは、次に近くにある他の主剤(オリゴマーやモノマー)を非常に反応しやすいラジカルに変化させる。こうしてラジカルの連鎖反応が進み、小さな分子だったオリゴマー・モノマーは互いに結合し分子量の大きい高分子ポリマーの固体に変化する。固体に変化することを、紫外線硬化樹脂が硬化したと表現され、重合と呼ばれる。
【0029】
この硬化した後のポリマーの末端には反応前は光反応開始剤であった物質が付加しており、紫外線を吸収しやすい性質は、硬化後も引き継いでいる。硬化後は反応が終了し物質が安定な状態になっているため、硬化後に吸収した紫外線のエネルギ-は蛍光というエネルギ-に変換されて放出される。この放出された蛍光の強度は、硬化した被膜材17の膜厚や、使用する光反応開始剤の種類や添加量に応じて、その蛍光強度が変化しうる。
【0030】
従って、あらかじめ光反応開始剤の種類や添加量が決められた被膜材17の膜厚と、蛍光強度の関係式を算出しておけば、被覆対象部材に塗布されて硬化された被膜材17に紫外線を照射した際の蛍光強度から、その膜厚の分布を算出することができる。この際、被膜材17に含まれる光反応開始剤から発せられる蛍光強度を利用して膜厚を算出するため、反射光のように下地の金属面の状態に左右されず、ばらつきなく、安定的な膜厚検査が可能である。
【0031】
本発明では、照射する紫外線の波長(365nm)において、光反応開始剤のメタノール中における吸光係数が、80ml/g cm in MeOH以上とする。さらに好ましくは、150ml/g cm in MeOH以上である。ここで、吸光係数とは、光がある媒質(溶液)に入射したとき、その媒質がどれくらいの光を吸収するのかを示す定数である。ランベルト・ベールの法則に従えば、媒質をある距離通過した光の強度と入射した光の強度の比の対数(吸光度)は、通過距離と比例関係にあり、その比例係数を吸光係数と呼ぶ。媒質に入射する前の光の強度をI0としたとき、入射後の光の強度Iはランベルト・ベールの法則から吸収係数α、βおよびεを用いて以下の式で示される。
I=I0e-αx=I010-βx=I010-εcx
【0032】
なお、上記式において、xは媒質の距離、cは溶液のモル濃度である。したがって、次式で吸光係数が求められる。
α=-(1/x)・ln(I/I0)
β=-(1/x)・log10(I/I0)
ε=-(1/cx)・log10(I/I0)
以上により、溶液の吸光係数は、溶液層の厚さが既知のセルに光反応開始剤を溶解させた濃度既知の溶液を入れ、入射光と溶液を通過した光の強度の比から求めることができる。
【0033】
本実施形態のように、光反応開始剤の吸光係数が、80ml/g cm in MeOH以上であれば、光反応開始剤が、十分な蛍光強度を発するに足りる量の紫外線を吸収することができる。このように、吸光係数の大きな光反応開始剤を用いることで、光反応開始剤の添加量を減らすことができる。本発明では、光反応開始剤の添加量は3%以下とすることが望ましい。すなわち、本実施形態では、被膜材17の母材の樹脂に対して、波長365nmにおける吸光係数が、80ml/g cm in MeOH以上の光反応開始剤が3質量%以下の添加量で添加されることが望ましい。
【0034】
前述したように、光反応開始剤は紫外線を吸収する性質があるため、蛍光強度を強めるために光反応開始剤の添加量を増やすと、端子に塗布した被膜材17に紫外線を照射して硬化せしめる際に、紫外線が深部に到達せず、塗布した被膜材17の深部に未硬化部分が残り、防食性が劣る場合がある。これに対し、本発明では、高い吸光係数の光反応開始剤を少ない添加量で被膜材17へ添加するため、硬化時には紫外線が深部まで届き、かつ、硬化後には蛍光を効率よく発せさせることができる。したがって、端子の深部に浸透した被膜材17を硬化することができ、より高度な防食性を付与することができる。なお、十分な蛍光強度を得るためには、光反応開始剤の添加量は少なくとも0.5質量%以上であることが望ましい。光反応開始剤の添加量は、例えば紫外線吸収スペクトル分析で光反応開始剤の吸収波長を測定することで特定することができる。
【0035】
このような光反応開始剤としては、ベンジルジメチルケタール系、ヒドロキシケトン系、α-アミノケトン系、アシルフォスフィンオキサイド系、オキシムエステル系などが適用可能である。特に365nmの吸光係数の高い光反応開始剤として、ベンジルジメチルケタール系としては、2,2-ジメトキシ-1,2-ジフェニルエタン-1-オンが挙げられる。市販品ではIRGACURE651(商品名、BASF社製)を挙げることができる。
【0036】
また、ヒドロキシケトン系としては、1-ヒドロキシ-シクロヘキシル-フェニル-ケトン、1-ヒドロキシ-シクロヘキシル-フェニル-ケトン+ベンゾフェノン、 2-ヒロドキシ-1-{4-[4-(2-ヒドロキシ-2-メチル-プロピオニル)-ベンジル]フェニル}-2-メチル-プロパン-1-オンを挙げることができる。市販品ではIRGACURE184、IRGACURE500およびIRGACURE127(いずれも商品名、BASF社製)を挙げることができる。
【0037】
またα-アミノケトン系としては、2-メチル-1-(4-メチルチオフェニル)-2-モルフォリノプロパン-1-オン、2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-モルフォリノフェニル)-ブタノン-1、2-(ジメチルアミノ)-2-[(4-メチルフェニル)メチル]-1-[4-(4-モルホリニル)フェニル]-1-ブタノンが挙げられる。市販品ではIRGACURE907、IRGACURE369、IRGACURE379(いずれも商品名、BASF社製)が挙げられる。
【0038】
また、前記2-メチル-1-(4-メチルチオフェニル)-2-モルフォリノプロパン-1-オン(907)、2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-モルフォリノフェニル)-ブタノン-1(369)、2-(ジメチルアミノ)-2-[(4-メチルフェニル)メチル]-1-[4-(4-モルホリニル)フェニル]-1-ブタノン(379)とチオキサントン系の260~410nmに吸収を持つ2,4-ジエチルチオキサントン(市販品としては、カヤキュアDETX-S(商品名、日本化薬社製))を併用することで、405nmにおける吸光係数(ε)が高くなり、より深部硬化に寄与し、より効率良く反応させることができる。
【0039】
また、アシルフォスフィンオキサイド系としては、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニルフォスフィンオキサイド、2,4,6-トリメチルベンゾイル-ジフェニル-フォスフィンオキサイドが挙げられる。市販品ではLucirin-TPO、DAROCUR-TPOやIRGACURE819(いずれも商品名、BASF社製)を挙げることができる。260~440nmに吸収ピークを持ち、分解により吸収がなくなるブリーチング効果が得られ、表面だけではなく、内部の硬化度も高くすることができる。さらには、ヒドロキシケトン系、1-ヒドロキシ-シクロヘキシル-フェニル-ケトン(市販品ではIrugacure184(商品名、BASF社製))と組み合わせることで表面から深部までの硬化が得られる。
【0040】
なお、フォトブリーチング(photobleaching)とは、光退色、光脱色とも書き、環境効果の一つで、励起蛍光分子でまれにみられる光化学的性質を指す。この反応は、励起状態にある蛍光物質が基底状態に比べて化学的に活性化され不安定になるために起こる。この反応の結果、蛍光分子が最終的に低蛍光性の構造に変化することを意味する。本実施形態に係る発明では、光反応開始剤が、ある紫外線領域において光を吸収し、ラジカルを発生させて紫外線硬化樹脂に重合を開始させる際に、ラジカル発生後の光反応開始剤の分子の共役結合が切断され、該紫外線領域における吸光度が低下することを、フォトブリーチングという。その結果、その紫外線領域における光を内部まで透過させることができるため、厚い膜であっても硬化をスムーズに進ませることができる。
【0041】
また、オキシムエステル系としては、1.2-オクタンジオン,1-[4-(フェニルチオ)-,2-(0-ベンゾイルオキシム)]、エタノン,1-[9-エチル-6-(2-メチルベンゾイル)-9H-カルバゾール-3-イル]-,1-(0-アセチルオキシム)が挙げられる。市販品ではIRGACURE OXE01やIRGACURE OXE02(いずれも商品名、BASF社製)を挙げることができるが、IRGACURE OXE01(商品名、BASF社製)はフォトブリーチングするため、より良い。また、ヒドロキシケトン系、1-ヒドロキシ-シクロヘキシル-フェニル-ケトン(市販品ではIrugacure184(商品名、BASF社製))と組み合わせることで表面から深部までの硬化が得られる。
【0042】
なお、前述したように、紫外線硬化樹脂の主反応はラジカル重合であり、紫外線の作用で、光反応開始剤が分解して生じたラジカルが変性アクリレートの二重結合を攻撃し、ラジカル重合が開始される。ベース樹脂は、変性アクリレートであって、エポキシ、ポリエステル、ウレタンなどの主鎖の両末端にアクリル基を付加させたもので、このアクリル基が紫外線により重合する反応基となる。また、紫外線硬化樹脂の主成分である変性アクリレートが持つ他の機能を付与することにより、紫外線が届き難い部分も紫外線照射と同時に硬化させたり、あるいは工程中に硬化させることができる。例えば、変性アクリレートは、紫外線硬化と湿気硬化、熱硬化、嫌気性硬化をそれぞれ付与することが可能である。紫外線硬化と、湿気硬化乃至は、嫌気硬化、この両方の性質をバランスよく付与させることで、深部硬化性を付与することができる。
【0043】
湿気硬化はシリコーン変性アクリレートが好適に使用され、紫外線硬化終了後に、湿気によりさらに硬化させることができる。また、熱硬化は、熱硬化性のエポキシ変性アクリレートを併用することによって、紫外線を照射することによって、熱硬化しにくい樹脂表面を硬化させ、さらに加熱により、紫外線が届き難い部分を短時間で完全硬化させることができる。嫌気硬化については、金属イオンが介在する条件で、紫外線による硬化の際の照射熱による嫌気硬化促進や、紫外線硬化による表面部分の空気遮断により、比較的速やかに硬化が完了する。
【0044】
このような硬化方法は、紫外線の照射による硬化工程が最も硬化時間が短くなるため、製造上最もコスト的に有利であるが、湿気硬化または嫌気硬化であれば、特別な硬化工程を設けることなく、紫外線硬化の後に、自然硬化させることができるためより望ましい方法である。なお、熱硬化は紫外線硬化とは別に熱硬化工程が必要であり、また、嫌気硬化は、金属の介在する環境のみ硬化するため、被膜材などの高分子材料との接触面も硬化できる湿気硬化が最も望ましい。
【0045】
また、紫外線硬化樹脂に限らず、他の硬化タイプの樹脂であっても透明・半透明であれば、同じような添加剤をいれることで蛍光測定により膜厚検査が可能である。例えば、熱可塑性樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、シアノアクリレート、ポリエチレンテレフタレート、塩化ビニル、ポリスチレン、ABS樹脂、アクリル樹脂、ポリアミド、ポリカーボネート、四フッ化エチレン、エチレン-酢酸ビニル共重合体。エチレン-アクリレート共重合体、エチレン-アクリル酸エステル共重合体、など、非結性ポリマーもしくは、結晶性ポリマーでも結晶性の低いグレードの樹脂が透明もしくは半透明となり照射する紫外線の透過を妨げ難く、好適に使用することができる。また、熱硬化性樹脂としては、フェノール樹脂、メラミン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂が挙げられる。その他、常温で液状の樹脂であって、湿気や熱や溶剤の揮散などにより硬化する樹脂として、シアノアクリレートや、ポリウレタン樹脂、酢酸ビニル、クロロプレン、イソプレン、スチレン-ブチレンゴム、シリコーンゴム、二トリルゴムなどが挙げられる。
【0046】
なお、被膜材17には、例えばオリゴマーに使用しているポリオールにソフトセグメントが導入され、硬化後の-40℃での伸び率が、100%以上であることが望ましい。オリゴマーとしてポリエーテル系ウレタンアクリレートを使用する場合は、ポリオールは、例えば、ポリプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリテトラメチレングリコール等のポリオールを使用することができる。ポリテトラメチレングリコールを中間ブロックとし、骨格成分として、その両末端の水酸基に、芳香族系ジイソシアネートを介して、紫外線に対して反応性を有する不飽和二重結合を有するヒドロキシ化合物を結合させたオリゴマーを使用することが好ましい。使用するオリゴマーは、重量平均分子量が500~5000のものを使用することが好ましく、2000~5000のものを使用することが特に好ましい。これにより、低温での伸びを維持することができ、このようにすることで、耐サーマルショック性を確保することができる。
【0047】
次に、端子付き電線10の製造方法について説明する。まず、被覆導線11と端子1とを圧着により接続する。次に、少なくとも、バレル間部8から導線圧着部7までの導線13が露出する部位に、前述したような光反応開始剤を含む被膜材17を塗布する。次に、例えば被膜材17が紫外線硬化樹脂である場合には、被膜材17へ紫外線を照射して被膜材17を硬化させる。その後、被膜材17に紫外線を照射し、発生した蛍光の強度を集光レンズで集光し、センサによって測定することで被膜材17の膜厚を判断する。被膜材17の厚みが十分であれば合格品として判断する。以上により、端子付き電線10を得ることができる。
【0048】
なお、被膜材17の硬化の際の紫外線照射工程と、被膜材17の厚みを測定する際の紫外線照射工程とは同一工程としてもよいが、紫外線硬化工程後、必要に応じて端子の位置補正を行い、その後に膜厚検査を行ってもよい。すなわち、膜厚検査工程における紫外線照射と、硬化工程における紫外線照射とは別装置および別工程で行われてもよい。
【0049】
以上説明したように、本実施形態によれば、端子付き電線の防食を行うための被膜材17に光反応開始剤が添加されるため、被膜材17を塗布して硬化した後に、紫外線を照射することで、容易に精度良く膜厚を測定することができる。このため、防食性能に対して信頼性の高い端子付き電線10を得ることができる。
【0050】
特に、光反応開始剤の波長365nmにおける吸光係数が80ml/g cm in MeOH以上であれば、発生する蛍光強度が十分であるために、精度良く、蛍光強度から膜厚を計算することができる。また、吸光係数が高いため、3%以下の少ない添加量とすることができるため、硬化時の紫外線照射の際にも紫外線が光反応開始剤で吸収されにくく、深部硬化性にも優れる。このため、防食性の高い防食構造を得ることができる。
【0051】
また、硬化後の-40℃の伸びが100%以上であれば、低温時における割れ等を抑制することができる。
【0052】
なお、本実施形態においては、被覆対象部材が、被覆導線11と端子1とが接続される端子付き電線10であり、被膜材17が、被覆対象部材である端子付き電線10に塗布されて硬化する例について説明したが、本発明はこれに限られない。防食や保護のために樹脂皮膜を形成し、その被膜厚みを判断する必要があるような被覆対象部材であれば、被膜材17は、その他の分野にも利用可能である。例えば、光ファイバの被覆工程、電子部品や光ピックアップの樹脂塗布工程、プリントレジスト硬化工程、各種部材の貼り合せ時における樹脂塗布工程など、被覆対象部材に樹脂を塗布する工程であれば、いずれの分野でも利用可能である。特に、被覆対象部材が溝部を有し、被膜材17を溝部に浸透させて硬化させた構造の場合は、深部硬化性に優れた被膜材17とすることで、防食性や防水性に優れた被膜構造を得ることができる。
【実施例】
【0053】
各種の被膜材を用いて、蛍光強度検査の可否と深部硬化性について評価した。各種条件および結果を表1、表2に示す。
【0054】
【0055】
【0056】
実施例1~実施例4および比較例1~比較例4は、いずれも光反応開始剤を1種のみ添加したものであり、実施例5~実施例7は、2種の光反応開始剤を混合して添加したものである。光反応開始剤としては、実施例7のカヤキュアDETX-Sのみが日本化薬社製の商品名であり、その他は全てBASF社製の商品名である。
【0057】
蛍光度強度検査は、同じ樹脂を用いて作成した膜厚既知のサンプルを作成し、蛍光強度と膜厚の検量線を作成して、測定可能な最小膜厚を評価した。50μmの膜厚を測定可能であったものを「○」評価とし、50μmの膜厚を測定できなかったものを「×」評価とした。なお、比較例4のみ、蛍光強度による膜厚測定ではなく、反射光による測定とした。すなわち、樹脂を用いて作成した膜厚既知のサンプルを作成し、反射光強度(明度)と膜厚の検量線を作成して、測定可能な最小膜厚を評価した(特開2012-209051号公報参照)。
【0058】
また、深部硬化性は、
図3(a)に示した測定治具19を用いて評価した。なお、
図3(a)は測定治具19を示す平面図であり、
図3(b)は
図3(a)のE-E線断面図である。
【0059】
測定治具19は、アルミニウム製であり、中央部に所定の深さの穴21が形成される。穴21の下端からは穴21の同一幅の間隙25が長手方向に向けて形成される。なお、穴21の径は1mmφとし、穴21の深さ(
図3(b)のF)は、1mmとし、間隙25の高さ(
図3(b)のG)は、100μmとした。
【0060】
穴21および間隙25に被膜材17を充填し、穴21の上方からLED23によって紫外線を照射した(
図3(b)矢印H)。LED23で照射する紫外線は、波長365nmであって、1000mW/cm
2とした。また、照射時間は10秒とした。
【0061】
LED23によって紫外線を照射した後、測定治具19を分解して洗浄し、残った硬化物の距離(図中矢印Iであって、硬化物の長さから穴21の径を除いた距離)を深部硬化性として測定した。深部硬化性は、2mm以上を「◎」とし、1mm以上2mm未満を「○」とし、0.1mm以上1mm未満を「△」とし、0.1mm未満を「×」とした。
【0062】
なお、被膜材17の材質としては、硬化後の-40℃の引張破断伸びが100%以上であることが望ましい。硬化後の-40℃での引張破断伸びは、200μm厚さの被膜材を用いて、JISK6251に準じて硬化後の-40℃における引張破断伸びを測定することで得ることができる。200μm厚さの被膜材は、硬化前の液状の被膜材を、基材に均一に塗布し、紫外線照射して200μmの厚さとなるように被膜材を調整することで得ることができる。照射する紫外線は、波長365nmであって、照度は1000mW/cm2とした。また、照射時間は10秒とした。この結果、詳細は割愛するが、実施例1~7および比較例1~4のいずれも、-40℃の引張破断伸びが100%以上であった。
【0063】
結果より、実施例1~7は、いずれも蛍光強度検査が○評価であった。これは、光反応開始剤の吸光係数が高いためである。また、実施例1~7は、いずれも深部硬化性が△以上であった。これは、光反応開始剤の添加量が少ないため、硬化時に照射した光が、光反応開始剤で吸収される量が少なかったためである。
【0064】
特に、2種の光反応開始剤を混合した実施例5~実施例7は、フォトブリーチングによって、紫外線硬化後には、光反応開始剤が光を吸収しなくなるため、より深部まで光が行き届くようになり、深部硬化性は全て◎評価となった。
【0065】
一方、比較例1、比較例2は、光反応開始剤の添加量が多いため、紫外線硬化時において光反応開始剤によって紫外線が吸光されて、深部まで紫外線が十分に透過せず、深部硬化性が×となった。
【0066】
また、比較例3は、吸光係数が低いため、蛍光強度検査において蛍光の強度が弱く、薄い膜厚を精度良く測定することができずに、蛍光強度検査が×となった。
【0067】
また、比較例4は、反射光を利用した膜厚測定であり、外乱の影響から、薄い膜厚を精度良く測定することができずに、蛍光強度検査が×となった。
【0068】
以上、添付図を参照しながら、本発明の実施の形態を説明したが、本発明の技術的範囲は、前述した実施の形態に左右されない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【符号の説明】
【0069】
1………端子
3………端子本体
4………トランジション部
5………圧着部
7………導線圧着部
8………バレル間部
9………被覆圧着部
10………端子付き電線
11………被覆導線
13………導線
15………被覆部
17………被膜材
19………測定治具
21………穴
23………LED
25………間隙