(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-12
(45)【発行日】2023-09-21
(54)【発明の名称】複合ケーブル及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
H01B 13/14 20060101AFI20230913BHJP
H01B 13/24 20060101ALI20230913BHJP
H01B 7/18 20060101ALI20230913BHJP
【FI】
H01B13/14 A
H01B13/24 Z
H01B7/18 H
(21)【出願番号】P 2022091493
(22)【出願日】2022-06-06
(62)【分割の表示】P 2019061383の分割
【原出願日】2019-03-27
【審査請求日】2022-06-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000005290
【氏名又は名称】古河電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002631
【氏名又は名称】弁理士法人イイダアンドパートナーズ
(74)【代理人】
【識別番号】100161469
【氏名又は名称】赤羽 修一
(74)【代理人】
【識別番号】100076439
【氏名又は名称】飯田 敏三
(74)【代理人】
【識別番号】100118809
【氏名又は名称】篠田 育男
(72)【発明者】
【氏名】山▲崎▼ 崇範
(72)【発明者】
【氏名】松村 有史
(72)【発明者】
【氏名】水野 晃一
(72)【発明者】
【氏名】西口 雅己
【審査官】木村 励
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-145307(JP,A)
【文献】特開2013-237428(JP,A)
【文献】特開2017-145370(JP,A)
【文献】特開2018-178029(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 13/14
H01B 13/24
H01B 7/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
導体の外周に樹脂層を有する、複数の太径電線と、導体の外周に樹脂層を有する、複数の細径電線とから少なくともなるコアの外面を囲繞するシースを備えた複合ケーブルの製造方法であって、
エチレンゴム及びスチレン系エラストマーの少なくとも1種を10~50質量%含有するベース樹脂と、前記ベース樹脂にグラフト化結合したシランカップリング剤と、シラノール縮合触媒とを含有するシラン架橋性樹脂組成物を、前記コアの外面に、成形する工程と、
成形された前記シラン架橋性樹脂組成物と水とを接触させる工程と、
を有する複合ケーブルの製造方法。
【請求項2】
前記シラン架橋性樹脂組成物が、前記ベース樹脂100質量部に対して、前記シランカップリング剤を1~15質量部含有している請求項1に記載の複合ケーブルの製造方法。
【請求項3】
前記ベース樹脂が、有機鉱物油を含有する請求項1又は2に記載の複合ケーブルの製造方法。
【請求項4】
前記エチレンゴム及びスチレン系エラストマーの含有率(C
E)と前記有機鉱物油の含有率(C
O)との比(C
E:C
O)が、50:50~75:25である請求項3に記載の複合ケーブルの製造方法。
【請求項5】
前記シラン架橋性樹脂組成物が、前記ベース樹脂100質量部に対して、無機フィラーを10~150質量部含有する請求項1~4のいずれか1項に記載の複合ケーブルの製造方法。
【請求項6】
前記無機フィラーが、シリカ、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、炭酸カルシウム及び三酸化アンチモンからなる群から選択される少なくとも1種である請求項5に記載の複合ケーブルの製造方法。
【請求項7】
導体の外周に樹脂層を有する、複数の太径電線と、導体の外周に樹脂層を有する、複数の細径電線とから少なくともなるコアの外面を囲繞するシースを備えた複合ケーブルであって、
前記シースが、下記シラン架橋性樹脂組成物のシラノール縮合硬化物からなる、複合ケーブル。
<シラン架橋性樹脂組成物>
エチレンゴム及びスチレン系エラストマーの少なくとも1種を10~50質量%含有するベース樹脂と、前記ベース樹脂にグラフト化結合したシランカップリング剤と、シラノール縮合触媒とを含有するシラン架橋性樹脂組成物
【請求項8】
前記シラン架橋性樹脂組成物が、前記ベース樹脂100質量部に対して、前記シランカップリング剤を1~15質量部含有している請求項7に記載の複合ケーブル。
【請求項9】
前記ベース樹脂が、有機鉱物油を含有する請求項7又は8に記載の複合ケーブル。
【請求項10】
前記エチレンゴム及びスチレン系エラストマーの含有率(C
E)と前記有機鉱物油の含有率(C
O)との比(C
E:C
O)が、50:50~75:25である請求項9に記載の複合ケーブル。
【請求項11】
前記シラン架橋性樹脂組成物が、前記ベース樹脂100質量部に対して、無機フィラーを10~150質量部含有している請求項7~10のいずれか1項に記載の複合ケーブル。
【請求項12】
前記無機フィラーが、シリカ、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、炭酸カルシウム及び三酸化アンチモンからなる群から選択される少なくとも1種である請求項11に記載の
複合ケーブル。
【請求項13】
前記複合ケーブルが、車両のブレーキ制御用である請求項7~12のいずれか1項に記載の複合ケーブル。
【請求項14】
前記複数の太径電線のうちの2本が、電動パーキングブレーキの制御デバイスからアクチュエータに電力を供給する一対の電源線として、
前記複数の細径電線のうち2本が、アンチロックブレーキシステムセンサからアンチロックブレーキシステム制御デバイスに信号を送信する一対の信号線として用いられる、
請求項13に記載の複合ケーブル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合ケーブル及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
産業機械、産業用ロボット、車両(自動車、電車等)等をはじめ種々の製品において、各種の動作や機能の制御に電子制御が採用されている。例えば、自動車では、急ブレーキ又は低摩擦路でのブレーキ操作において車輪のロックを防止して自動車の滑走を制御するアンチロックブレーキシステム(ABS)等が挙げられる。また、近年、従来の油圧や機械式に代えて電動で停車状態を制御(維持)する電動パーキングブレーキ(EPB)も普及している。これらの電子制御は、通常、制御デバイスと、センサと、これらを電気的に接続するケーブルとを備えている。ケーブルは、通常、コアとしての電線と、この電線を被覆するシースとからなる。
上記各種の製品において、電子制御を多用する傾向にあり、制御デバイスに接続されるケーブル数も増える一方である。多数のケーブルを配線するに際して、ケーブルを別々に配線するのではなく、いくつかのケーブルを一体とした複合ケーブル(ケーブルを構成する複数の電線からなるコアを一括してシースで被覆したケーブル)を用いることにより、ケーブル配線の省スペース化が可能になる(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
複合ケーブルには、用途等に応じて、種々の特性が求められる。例えば、耐熱性は、複合ケーブルが高温環境に晒される(配設される)場合に求められる。また、自己発熱が大きい電線をコアに用いる場合にも求められる。更に、高温環境に晒される複合ケーブルには、耐熱性だけでなく、耐フォギング性(複合ケーブルの配設部近傍を曇化若しくは汚濁させる現象を防止する特性)も求められる。例えば、照明装置や内装に用いた複合ケーブルが十分な耐フォギング性を示さないと、高温にさらされたときにガラスカバー、車窓等を曇化させる。また、十分な耐フォギング性を示さない複合ケーブルを上述のABSやEPBに配設すると、制御デバイス及びセンサを曇化、汚濁させる。
【0005】
また、複合ケーブルのコアを構成する電線は、用途に応じてその直径が適宜に選択され、通常、異径のものが用いられる。そのため、配設の際に、複合ケーブルの端末部のシースを皮むき加工しにくい(端末加工性に劣る)。シースの皮むきは、シースとコアとの間にセパレータが介装されていない場合は、特に加工しにくくなる。
【0006】
本発明は、耐熱性、耐フォギング性及び端末加工性に優れた複合ケーブル、並びにその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、複合ケーブルのシースを、特定のシラン架橋性樹脂組成物を用いてシラン架橋法により形成すると、耐熱性、耐フォギング性及び端末加工性を高い水準で兼ね備えた複合ケーブルを創出できることを見出した。本発明者らはこの知見に基づき、更に研究を重ね、本発明をなすに至った。
【0008】
すなわち、本発明の上記課題は下記の手段により解決される。
<1>導体の外周に樹脂層を有する、複数の太径電線と、導体の外周に樹脂層を有する、複数の細径電線とから少なくともなるコアの外面を囲繞するシースを備えた複合ケーブルの製造方法であって、
ベース樹脂と、前記ベース樹脂にグラフト化結合したシランカップリング剤と、シラノール縮合触媒とを含有するシラン架橋性樹脂組成物を、前記コアの外面に、成形する工程と、
成形された前記シラン架橋性樹脂組成物と水とを接触させる工程と、
を有する複合ケーブルの製造方法。
<2>前記ベース樹脂が、エチレンゴム及びスチレン系エラストマーの少なくとも1種を含む<1>に記載の複合ケーブルの製造方法。
<3>シラン架橋性樹脂組成物が、上記ベース樹脂100質量部に対して、上記シランカップリング剤を1~15質量部含有している<1>又は<2>に記載の複合ケーブルの製造方法。
<4>前記ベース樹脂が、有機鉱物油を含有する<1>~<3>のいずれか1項に記載の複合ケーブルの製造方法。
<5>前記シラン架橋性樹脂組成物が、前記ベース樹脂100質量部に対して、無機フィラーを10~150質量部含有する<1>~<4>のいずれか1項に記載の複合ケーブルの製造方法。
<6>導体の外周に樹脂層を有する、複数の太径電線と、導体の外周に樹脂層を有する、複数の細径電線とから少なくともなるコアの外面を囲繞するシースを備えた複合ケーブルであって、
前記シースが、下記シラン架橋性樹脂組成物のシラノール縮合硬化物からなる、複合ケーブル。
<シラン架橋性樹脂組成物>
ベース樹脂と、前記ベース樹脂にグラフト化結合したシランカップリング剤と、シラノール縮合触媒とを含有するシラン架橋性樹脂組成物
<7>前記ベース樹脂が、エチレンゴム及びスチレン系エラストマーの少なくとも1種を含む<6>に記載の複合ケーブル。
<8>シラン架橋性樹脂組成物が、前記ベース樹脂100質量部に対して、前記シランカップリング剤を1~15質量部含有している<6>又は<7>に記載の複合ケーブル。
<9>ベース樹脂が、有機鉱物油を含有する<6>~<8>のいずれか1項に記載の複合ケーブル。
<10>前記シラン架橋性樹脂組成物が、前記ベース樹脂100質量部に対して、無機フィラーを10~150質量部含有している<6>~<9>のいずれか1項に記載の複合ケーブル。
<11>前記複合ケーブルが、車両のブレーキ制御用である<6>~<10>のいずれか1項に記載の複合ケーブル。
<12>前記複数の太径電線のうちの2本が、電動パーキングブレーキの制御デバイスからアクチュエータに電力を供給する一対の電源線として、
前記複数の細径電線のうち2本が、アンチロックブレーキシステムセンサからアンチロックブレーキシステム制御デバイスに信号を送信する一対の信号線として用いられる、
<11>に記載の複合ケーブル。
【0009】
本発明において、「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
また、「XXXから少なくともなる」とは、XXXで形成される態様に加えて、XXXとこれ以外の材料、成分等で形成される態様を包含する。
【発明の効果】
【0010】
本発明の複合ケーブルは耐熱性、耐フォギング性及び端末加工性に優れる。また、本発明の複合ケーブルの製造方法は上記の優れた特性を備えた複合ケーブルを製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、本発明の複合ケーブルの好ましい実施形態を模式化して示す端部斜視透視図である。
【
図2】実施例における屈曲耐久性試験に用いる装置の概略を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
[複合ケーブル]
本発明の複合ケーブルは、導体の外周に樹脂層を有する、複数の太径電線と、導体の外周に樹脂層を有する、複数の細径電線とから少なくともなるコアの外面を囲繞するシースを備えている。そして、このシースが後述するシラン架橋性樹脂組成物のシラノール縮合硬化物で形成されている。
本発明の複合ケーブルは、好ましくは後述する、本発明の複合ケーブルの製造方法により、製造することができ、耐熱性、耐フォギング性及び端末加工性を高い水準で兼ね備えている。本発明の複合ケーブルは、高い耐フォギング性を示すことから、耐フォギング性複合ケーブルということができる。
【0013】
本発明の複合ケーブルが耐熱性、耐フォギング性及び端末加工性を高い水準で兼ね備える理由の詳細は、まだ定かではないが、以下のように考えられる。
本発明の複合ケーブルは、シラン架橋性樹脂組成物を用いたシラン架橋法(シラン架橋性樹脂組成物のシラノール縮合硬化物)によりシースが形成されている。そのため、架橋による耐熱性の向上に加え、シラン架橋法の一連の化学反応において上述のフォギングを引き起こす分解物や副生物等の低分子量成分(揮発性物質)を発生させることなく、シラノール縮合硬化物中の低分子量成分の混入量は少ない。また、この硬化物は、皮むき加工しやすいうえに、シラン架橋法においてシース形成時に絶縁電線及びシラン架橋性樹脂組成物を過度に加熱することなく、セパレータを介装しない態様においても絶縁電線の樹脂層とシースとの強固な密着を防止できる(シース変形による樹脂層(絶縁電線)への応力を緩衝(変形追従性を低下)できる)。更には、成形時においても、皮むき加工性を損なうような加熱はヘッド内部における短時間であり、上記密着を軽微にできる。一方、化学架橋法では長い時間高温かつ高圧の環境に晒されるため、樹脂層とシースとが強固に密着して端末加工性を損なうと考えられる。
【0014】
本発明において、シースがコアの外面を囲繞するとは、シースがコアの外面に配置(被覆)されること、すなわち、シースがコアを一括して内蔵していることを意味する。本発明において、シースは、端末加工性を改善するセパレータと称される層(紙、布、ポリエチレンテレフタレート等の樹脂で形成された層)を介在してコアを一括して被覆(内蔵)していてもよいが、本発明の複合ケーブルは上述のように端末加工性に優れるため、コアを一括して直接被覆していることが好ましい。
本発明の複合ケーブルは、シースを形成する材料以外は、特に制限されず、2組以上の電線を一体化した公知の複合ケーブルと同じ構成を適用することができる。
本発明の複合ケーブルの好ましい形態は、
図1に示される複合ケーブル1のように、導体21の外周に樹脂層22を有する、2本1組(一対)の太径電線2と、導体31の外周に樹脂層32を有する、2本1組(一対)の細径電線3とから少なくともなるコアを有し、かつ、このコアの外面を囲繞するシース4を備えている。2本の太径電線2と2本の細径電線3とから少なくともなるコア(導体コアともいう。)は、細径電線3の撚線と、2本の太径電線2との3本を撚り合わせた撚線として、構成されている。
以下、本発明の複合ケーブル及びその実施形態について説明する。
【0015】
<コア>
本発明の複合ケーブルは、コアとして、径の異なる2種類の電線、具体的には、複数の太径電線と複数の細径電線とを少なくとも備えている。太径電線は導体コアを構成する電線のうち最も太径の電線であり、細径電線は導体コアを構成する電線のうち最も細径の電線である。
太径電線と細径電線とは、互いに異なる用途に用いられる。太径電線と細径電線とは、それぞれ、通常、一対1組として用いられるが、3本以上を1組として用いることもできる。太径電線及び細径電線がそれぞれ複数組を構成する場合は、各組が同じ用途に用いられても異なる用途に用いられてもよい。
導体コアにおける太径電線と細径電線との配置状態としては、特に制限されず、通常のコアに適用される配置状態を適宜に採用できる。例えば、互いに独立して平行に配置(並置)してもよく、撚り合わせて配置してもよい(撚線)。複合ケーブルとしての可撓性(柔軟性)及び耐屈曲性の点で、撚り合わせて配置することが好ましい。太径電線と細径電線とは、それぞれが撚線を構成していてもよいが、全体として1つの撚線を構成していることが好ましい。この場合、太径電線及び細径電線はそれぞれ撚線とされてもよいが、
図1に示されるように、対撚りにした一対の細径電線と太径電線とを撚り合わせて撚り込み率を均一にした撚線とすることが好ましい。電線を撚り合わせる際の、電線の本数、電線の配置、撚り方向、撚りピッチ等は、特に制限されず、用途等に応じて、適宜に設定される。電線を撚り合わせる際、ポリエチレンテレフタラート(PET)やポリプロピレン(PP)等の樹脂を介在させて撚り合わせることもできる。これにより、導体コアの形を自由に制御することができる。
【0016】
(太径電線)
太径電線は、導体の外周に樹脂層を有していればよく、通常の(絶縁)電線を特に制限されることなく用いることができる。
本発明の複合ケーブルが有する太径電線は、少なくとも2本であればよく、好ましくは2~6本であり、より好ましくは2~4本である。また、複数の太径電線は、1組とされて内蔵されていてもよく、複数組に分けて内蔵されていてもよい。
太径電線の外径は、後述する細径電線よりも太ければ特に制限されず、用途等に応じて適宜に決定することができる。本発明の複合ケーブルは、高い耐熱性を示すため、自己発熱が大きな絶縁電線を用いることができ、具体的には、下記の、外径及び導体断面積の範囲内とすることができる。例えば、強度と可撓性の点で、1.0~5.0mmが好ましく、2.0~4.0mmがより好ましい。太径電線の導体断面積としては、用途等に応じて適宜に決定されるが、0.3~8.0SQが好ましく、0.5~3.0SQがより好ましい。
太径電線は、後述する細径電線よりも大電流が流れる用途に用いられる。
【0017】
- 導体 -
導体としては、特に制限されず、素線、又は複数本の素線を撚り合わせた撚線が挙げられ、撚線が好ましい。導体(素線)の断面形状としては、特に制限されず、断面円形(丸線)でも断面矩形(平角線)でもよい。導体(素線)を形成する材料は、特に制限されず、銅、アルミニウム又はこれらの合金等が挙げられる。
撚線を構成する素線の数としては、複数(2本以上)であれば特に制限されない。素線を撚り合わせる際の、素線の配置、撚り方向、撚りピッチ等は、用途等に応じて、適宜に設定される。
導体の外径は、特に制限されないが、後述する細径電線の導体よりも太径であることが好ましく、用途等に応じて適宜に決定することができる。例えば、強度と可撓性の点で、外径としては、0.5~4.0mmが好ましく、1.0~3.5mmがより好ましい。撚線を構成する素線の外径としては、上記導体の外径を満たす限り特に制限されないが、例えば、0.05~0.5mmが好ましく、0.05~0.3mmがより好ましい。
【0018】
- 樹脂層 -
樹脂層は、導体の外周面を囲繞(導体を被覆)していれば、単層でも複層でもよい。樹脂層は、通常、耐熱性樹脂で形成される。耐熱性樹脂としては、特に制限されず、通常の(絶縁)電線を形成する樹脂を特に制限されることなく用いることができる。例えば、熱可塑性樹脂及び熱硬化性樹脂が挙げられ、より具体的には、(架橋)ポリエチレン、ポリアミド、ポリアミドイミド(PAI)、ポリイミド(PI)、ポリウレタン、クロロプレンゴム、エチレン-酢酸ビニル共重合体からなるゴム(EVAゴム)等が挙げられる。樹脂層は、通常用いられる各種の添加剤を含有していてもよい。
樹脂層の(合計)層厚は、特に制限されず、用途等に応じて適宜に決定することができる。例えば、耐熱性、可撓性、耐摩耗性の点で、0.2~1.5mmが好ましく、0.2~1.0mmがより好ましい。
本発明において、樹脂層の層厚は、導体が撚線である場合、電線の軸線に垂直な断面において、導体を構成する全素線の仮想外接円と樹脂層の外側輪郭線との最短距離を意味する。
【0019】
(細径電線)
細径電線は、導体の外周に樹脂層を有していればよく、通常の(絶縁)電線を特に制限されることなく用いることができる。
本発明の複合ケーブルが有する細径電線は、少なくとも2本であればよく、好ましくは2~12本であり、より好ましくは2~6本である。また、複数の細径電線は、1組とされて内蔵されていてもよく、複数組に分けて内蔵されていてもよい。
細径電線は、その外径が上記太径電線よりも細径の電線であり、構成、材料等については上記太径電線と同じである。
細径電線の外径は、用途等に応じて適宜に決定することができ、例えば、強度と可撓性の点で、0.5~2.5mmが好ましく、1.0~2.0mmがより好ましい。太径電線との外径差は、特に制限されないが、例えば、0.5~2.0mmが好ましい。細径電線の導体断面積としては、用途等に応じて適宜に決定されるが、例えば、0.05~2.0SQが好ましく、0.05~1.25SQがより好ましい。細径電線における導体の外径は、用途等に応じて適宜に決定され、例えば、0.3~2.0mmが好ましく、0.3~1.5mmがより好ましい。導体が撚線である場合、撚線を構成する素線の外径としては、上記導体の外径を満たす限り特に制限されないが、例えば、0.05~0.4mmが好ましく、0.05~0.3mmがより好ましい。樹脂層の(合計)層厚は、特に制限されず、用途等に応じて適宜に決定することができる。例えば、耐熱性、可撓性、耐摩耗性の点で、0.2~1.0mmが好ましく、0.2~0.5mmがより好ましい。
【0020】
太径電線及び細径電線としては、架橋ポリエチレン電線を用いることが好ましい。このような電線としては、例えば、日本自動車技術会(JASO) D 611に規定されるような、自動車用架橋ポリエチレン絶縁耐熱低圧電線(AEX)や自動車用極薄肉形架橋ポリエチレン絶縁耐熱低圧電線(AESSX)に該当する、120℃相当の耐熱温度を持つ架橋ポリエチレンをベース樹脂とする電線が挙げられる。架橋ポリエチレン電線は、適宜に製造してもよいし、市販のものを使用してもよい。
【0021】
(その他の電線)
導体コアは、上記太径電線及び細径電線の他に(絶縁)電線を有していてもよい。この電線は、外径が太径電線よりも細く、細径電線よりも太いものであればよく、その構成及び材料は太径電線及び細径電線と同じである。
【0022】
<シース>
本発明の複合ケーブルは、上記導体コアの外面を被覆するシースを有している。このシースは、後述するシラン架橋性樹脂組成物のシラノール縮合硬化物で形成されていること以外は、通常の複合ケーブルにおけるシースを適用できる。
シースは単層でも複層でもよく、その層厚は用途等に応じて適宜に決定することができる。シースの層厚は、耐熱性、端末加工性及び耐フォギング性、更には可撓性、耐屈曲性及び耐摩耗性の点で、例えば、0.5~3.0mmが好ましく、0.8~2.0mmがより好ましい。本発明において、シースの層厚は、複合ケーブルの軸線に垂直な断面において、導体コアを構成する全導体の仮想外接円とシースの外側輪郭線との最短距離を意味する。
複合ケーブルの断面形状(外側輪郭線)は、特に制限されないが、通常、円形である。
シースの外径(複合ケーブルの直径と同義であり、外側輪郭線の直径に相当する)は、用途等に応じて適宜に決定することができ、特に制限されない。例えば、耐熱性、端末加工性及び耐フォギング性、更には可撓性、耐屈曲性及び耐摩耗性の点で、5.0~30.0mmが好ましく、5.0~15.0mmがより好ましい。
【0023】
シースは、シラン架橋性樹脂組成物のシラノール縮合硬化物からなる。これにより、上述のように、複合ケーブルに耐熱性、耐フォギング性及び端末加工性を高い水準で付与することができる。
ベース樹脂がエチレンゴム及びスチレン系エラストマーの少なくとも1種を含むシラン架橋性樹脂組成物の硬化物でシースを形成すると、耐熱性、耐フォギング性及び端末加工性に加えて、耐屈曲性、更には可撓性にも優れた複合ケーブルとすることができる。このような複合ケーブルは、複合ケーブル(端末部のシースを皮むき加工済)を安易に(弱い力で)屈曲させることができ、配線加工(組み付け加工)の効率を改善できる。また、無機フィラーを後述する含有量で含有するシラン架橋性樹脂組成物の硬化物でシースを形成すると、高い耐摩耗性を複合ケーブルに付与できる。
シラン架橋性樹脂組成物及びそのシラノール縮合硬化物の詳細は、後述する複合ケーブルの製造方法において、説明する。
【0024】
[複合ケーブルの用途]
本発明の複合ケーブルは、各種の製品、例えば、産業機械、産業用ロボット、車両等の電子制御用ケーブルとして好適に用いられる。中でも、耐熱性及び耐フォギング性に優れることから、高温環境に晒される(配設される)複合ケーブルとして、又は、フォギング性が要求される複合ケーブルとして、より好適に用いられる。特に、自動車のブレーキ制御(ABS及びEPB)、照明装置用、内装用、ロボット制御用等に好適に用いられる。
また、高い耐屈曲性を示す好ましい複合ケーブルは、相対的に可動する2つ以上の部材を有する製品の電子制御用ケーブルとしてより好適に用いられる。例えば、上述のABSやEPBのブレーキ制御装置に用いられるケーブルは、通常、走行による振動や、車体に対するタイヤ等の位置変動等に晒される。しかし、本発明の複合ケーブルは、ブレーキ制御装置等における振動や位置変動等に対して十分な耐性を発揮する。そのため、本発明の複合ケーブル、特に、高い耐屈曲性を示す好ましい複合ケーブルは、上述の自動車のブレーキ制御(ABS及びEPB)、産業ロボットの可動部等に好適に用いられる。
【0025】
自動車のブレーキシステムに用いる場合、複合ケーブルの太径電線2本を一対としてEPB用の電源線とし、細径電線2本を一対としてABS用の信号線として用いられることが好ましい。太径電線(電源線)は、車体に搭載された電動パーキングブレーキの制御デバイスと、タイヤ側に配設されたアクチュエータとに電気的に接続され、制御デバイスからアクチュエータに電力を供給する。一方、細径電線(信号線)は、車体に搭載されたABS制御デバイスと、タイヤ側に配設されたABSセンサとに電気的に接続され、ABSセンサからABS制御デバイスに(タイヤのロック状態を伝達する)信号を送信する。更に、この信号に基づいてブレーキキャリパーを制御する信号を送信するケーブルは、細径電線(信号線)と同じでも異なっていてもよく、適宜に決定される。
【0026】
複合ケーブルは、通常、細径電線及び太径電線の端部(端末)を加工して、所定の制御デバイス及びセンサに接続される。このとき、本発明の複合ケーブルは、端末のシースを所望のように除去(皮むき)することができる(端末加工性に優れる)。例えば、シースの一部がむき取れずに導体コア上に残存し、若しくは、シースの切断端面から延びるヒゲが生じることを防止でき、所定のシースを安易に除去できる。ここで、ヒゲとは、シースを厚さ方向に導体コア表面まで切断できずにシースの切断端面に残存する(切断端面から延在する)、シースに由来する線状体(毛状体)をいう。
本発明の好ましい複合ケーブルは、耐屈曲性や可撓性にも優れているから、端末加工した複合ケーブルを安易に屈曲させて配線作業できる。
【0027】
[複合ケーブルの製造方法]
本発明の複合ケーブルの製造に用いる材料若しくは成分について説明する。
<電線>
本発明の複合ケーブルを製造するに当たり、径が異なる2種類以上の電線、例えば、上記太径電線及び細径電線として上記架橋ポリエチレン電線を、準備する。この電線は、通常の方法に準じて適宜に製造してもよく、市販品を用いてもよい。
【0028】
<シラン架橋性樹脂組成物>
シースを形成するのに用いられるシラン架橋性樹脂組成物は、ベース樹脂と、ベース樹脂にグラフト化結合したシランカップリング剤と、シラノール縮合触媒とを含有する。
【0029】
(ベース樹脂)
ベース樹脂は、シラン架橋(後述する有機過酸化物から発生したラジカルの存在下)においてシランカップリング剤のグラフト化反応部位とグラフト化反応可能な部位を主鎖中又はその末端に有する樹脂であれば特に制限されない。この架橋可能な部位又はグラフト化反応可能な部位としては、例えば、炭素鎖の不飽和結合部位、水素原子を有する炭素原子等が挙げられる。
ベース樹脂としては、シラン架橋に通常用いられる各種樹脂が挙げられ、例えば、ポリオレフィン系樹脂、エチレンゴム、スチレン系エラストマー等が挙げられる。ベース樹脂はエチレンゴム及びスチレン系エラストマーの少なくとも一方を含有していることが好ましい。
ベース樹脂は、有機鉱物油を含有してもよい。
【0030】
- エチレンゴム -
エチレンゴムは、エチレン性不飽和結合を有する化合物を共重合して得られる共重合体からなるゴム(エラストマーを含む)であれば特に限定されず、公知のものを使用することができる。エチレンゴムとしては、好ましくは、エチレンとα-オレフィンとの二元共重合体ゴム、エチレンとα-オレフィンとジエンとの三元共重合体ゴム等が挙げられる。三元共重合体のジエン構成成分は、共役ジエン構成成分であっても非共役ジエン構成成分であってもよいが、非共役ジエン構成成分が好ましい。
α-オレフィン構成成分としては、炭素数3~12の各α-オレフィン構成成分が好ましい。共役ジエン構成成分としては、例えば、ブタジエン、イソプレン、1,3-ペンタジエン、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン等の各構成成分が挙げられ、ブタジエン構成成分等が好ましい。非共役ジエン構成成分の具体例としては、例えば、ジシクロペンタジエン(DCPD)、エチリデンノルボルネン(ENB)、1,4-ヘキサジエン等の各構成成分が挙げられる。
二元共重合体ゴムとしては、エチレン-プロピレンゴム(EPM)が好ましく、三元共重合体ゴムとしては、エチレン-プロピレン-ジエンゴム(EPDM)が好ましい。
エチレンゴムは、1種を単独で用いても2種以上を用いてもよい。
【0031】
- スチレン系エラストマー -
スチレン系エラストマーとしては、分子内に芳香族ビニル化合物を構成成分とする重合体からなるものをいう。このようなスチレン系エラストマーとしては、共役ジエン化合物と芳香族ビニル化合物とのブロック共重合体及びランダム共重合体、又は、それらの水素添加物等が挙げられる。このようなスチレン系エラストマーとしては、例えば、スチレン-エチレン-ブチレン-スチレンブロック共重合体(SEBS)、スチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体(SIS)、水素化SIS、スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体(SBS)、水素化SBS、スチレン-エチレン-エチレン-プロピレン-スチレンブロック共重合体(SEEPS)、スチレン-エチレン-プロピレン-スチレンブロック共重合体(SEPS)、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)、水素化スチレン-ブタジエンゴム(HSBR)等が挙げられる。
スチレン系エラストマーは、1種を単独で用いても2種以上を用いてもよい。
【0032】
- ポリオレフィン系樹脂 -
ポリオレフィン系樹脂は、エチレン性不飽和結合を有する化合物の単独重合体又は共重合体からなる樹脂であれば特に制限されず、通常の電線若しくはケーブルに使用されるものを使用することができる。例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-α-オレフィン共重合体、酸共重合成分もしくは酸エステル共重合成分を有するポリオレフィン共重合体等の各樹脂、及び、これら重合体のゴム若しくはエラストマー等が挙げられる。ゴム若しくはエラストマーとしては、エチレンゴム及びスチレン系エラストマー以外のものであればよく、例えば、アクリル酸アルキルとエチレンとの共重合ゴム(エチレンアクリルゴム)等が挙げられる。中でも、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-α-オレフィン共重合体、酸共重合成分を有するポリオレフィン共重合体等の各樹脂が好ましい。エチレンゴム又はスチレン系エラストマーと併用されることにより、耐屈曲性、更には耐摩耗性の改善効果が大きい点で、ポリエチレン樹脂がより好ましい。
ポリエチレン樹脂は、エチレン構成成分を含む重合体の樹脂であればよく、例えば、高密度ポリエチレン(HDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)、超高分子量ポリエチレン(UHMW-PE)、直鎖型低密度ポリエチレン(LLDPE)、超低密度ポリエチレン(VLDPE)が挙げられる。中でも、直鎖型低密度ポリエチレン、低密度ポリエチレンが好ましい。
酸共重合成分若しくは酸エステル共重合成分を有するポリオレフィン共重合体の樹脂としては、例えば、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-(メタ)アクリル酸共重合体、エチレン-(メタ)アクリル酸アルキル共重合体(好ましくは炭素数1~12)共重合体等からなる各樹脂が挙げられる。
ポリオレフィン系樹脂は、1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。
【0033】
- 有機鉱物油 -
有機鉱物油としては、樹脂組成物に通常用いられるものを特に制限されることなく用いることができ、パラフィン系オイル及びナフテン系オイルが挙げられ、パラフィン系オイルが好ましい。有機鉱物油は、1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。
【0034】
- ベース樹脂中の各成分の含有率 -
ベース樹脂中の各成分の含有率は、特に制限されず、用途や特性に応じて適宜に決定される。
例えば、ベース樹脂がエチレンゴム及びスチレン系エラストマーを含有する場合、ベース樹脂中のこれらの合計含有率は、10質量%以上が好ましく、30質量%以上が好ましく、40質量%以上がより好ましい。合計含有率の上限値は、50質量%以下が好ましく、45質量%以下がより好ましい。
ベース樹脂中の、エチレンゴム又はスチレン系エラストマーの含有率は、それぞれ、上記合計含有率を満たす範囲内で適宜に設定されればよく、例えば、エチレンゴム又はスチレン系エラストマーの含有率は、それぞれ、5~25質量%が好ましく、10~20質量%がより好ましい。
【0035】
ベース樹脂がポリオレフィン系樹脂を含有する場合、ベース樹脂中のこれらの合計含有率は、特に制限されないが、10~50質量%が好ましく、20~40質量%がより好ましい。本発明において、ポリオレフィン系樹脂に包含される上記各樹脂の、ベース樹脂中の含有率は、それぞれ、ポリオレフィン系樹脂の上記含有率を満足する範囲で適宜に設定される。例えば、ポリエチレン樹脂の含有率は、0~50質量%が好ましく、20~30質量%がより好ましい。
ベース樹脂が有機鉱物油を含有する場合、ベース樹脂中の有機鉱物油の含有率は、特に制限されないが、0~40質量%が好ましく、10~35質量%がより好ましい。
ベース樹脂において、エチレンゴム及びスチレン系エラストマーの(合計)含有率(CE)と有機鉱物油の含有率(CO)との比(CE:CO)は、50:50~75:25が好ましく、55:45~65:35がより好ましい。
【0036】
樹脂組成物は、上記ベース樹脂以外の他の樹脂、酸化防止剤等の各種添加剤を含有していてもよい。他の樹脂及び添加剤は、1種類を用いても、2種類以上を用いてもよい。
【0037】
(ベース樹脂にグラフト化結合したシランカップリング剤)
シランカップリング剤は、シラン架橋性樹脂組成物においてベース樹脂にグラフト化反応している。
このようなシランカップリング剤は、好ましくは、有機過酸化物の存在下でベース樹脂にグラフト化反応させて得られる。グラフト化反応の詳細については後述する。
グラフト化反応に用いるシランカップリング剤及び有機過酸化物は、1種類を用いても、2種類以上を用いてもよい。
【0038】
- シランカップリング剤 -
グラフト化反応に用いるシランカップリング剤としては、後述する有機過酸化物の分解により生じたラジカルの存在下で、ベース樹脂のグラフト化反応可能な部位にグラフト化反応しうるグラフト化反応部位(基又は原子)と、シラノール縮合可能な加水分解性シリル基とを有するものであれば、特に限定されない。このようなシランカップリング剤としては、通常のシラン架橋法に用いられるシランカップリング剤が挙げられる。このようなシランカップリング剤としては、グラフト化反応部位として、ビニル基若しくは(メタ)アクリロイル基を有するシランカップリング剤が挙げられる。具体的には、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリブトキシシラン、ビニルジメトキシエトキシシラン、ビニルジメトキシブトキシシラン、ビニルジエトキシブトキシシラン、アリルトリメトキシシラン、アリルトリエトキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン等のビニルシラン、メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン等の(メタ)アクリロキシシラン等が挙げられる。中でも、ビニルトリメトキシシラン又はビニルトリエトキシシランが特に好ましい。
【0039】
- 有機過酸化物 -
グラフト化反応に用いる有機過酸化物は、少なくとも熱分解によりラジカルを発生して、触媒として、シランカップリング剤のベース樹脂へのラジカル反応によるグラフト化反応(シランカップリング剤のグラフト化反応部位とベース樹脂のグラフト化反応可能な部位との共有結合形成反応であって、(ラジカル)付加反応ともいう。)を生起させる働きをする。このような有機過酸化物としては、上記機能を有し、ラジカル重合又は通常のシラン架橋法に用いられるものを特に制限されずに用いることができる。例えば、ベンゾイルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド(DCP)、2,5-ジメチル-2,5-ジ-(tert-ブチルパーオキシ)ヘキサン又は2,5-ジメチル-2,5-ジ-(tert-ブチルペルオキシ)ヘキシン-3が好ましい。
有機過酸化物の分解温度は、80~195℃が好ましく、125~180℃が特に好ましい。分解温度は、DSC法等の熱分析により、窒素ガス雰囲気下で5℃/分の昇温速度で、室温から加熱したとき、吸熱又は発熱を開始する温度をいう。
【0040】
- シランカップリング剤がグラフト化結合したベース樹脂 -
シラン架橋性樹脂組成物において、上記ベース樹脂、及びベース樹脂にグラフト化結合したシランカップリング剤として、適宜に合成した、又は市販の、シランカップリング剤がグラフト化結合したベース樹脂(シラングラフト樹脂)を用いることができる。
【0041】
(シラノール縮合触媒)
シラノール縮合触媒は、ベース樹脂にグラフト化反応したシランカップリング剤を水の存在下でシラノール縮合反応(促進)させる。
このようなシラノール縮合触媒としては、特に制限されず、例えば、有機スズ化合物、金属石けん、白金化合物等が挙げられる。有機スズ化合物としては、例えば、ジブチルスズジラウレート、ジオクチルスズジラウレート、ジブチルスズジオクチエート、ジブチルスズジアセテート等の有機スズ化合物が挙げられる。
【0042】
- キャリア樹脂 -
シラノール縮合触媒は、樹脂(キャリア樹脂)との混合物(触媒マスターバッチ)として用いることが好ましい。樹脂としては、特に制限されないが、上記ベース樹脂で説明した各樹脂を用いることができる。
【0043】
(無機フィラー)
シラン架橋性樹脂組成物は、1種又は2種以上の無機フィラーを含有していてもよい。
無機フィラーとしては、特に制限されないが、耐熱性、更には耐摩耗性の点で、その表面に、シランカップリング剤の加水分解性シリル基と水素結合等が形成できる部位もしくは共有結合による化学結合しうる部位を有するものが好ましい。シランカップリング剤の加水分解性シリル基と化学結合しうる部位としては、OH基(水酸基、含水若しくは結晶水の水分子、カルボキシ基等のOH基)、アミノ基、SH基等が挙げられる。
無機フィラーとしては、例えば、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ケイ酸カルシウム、ケイ酸マグネシウム、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、ほう酸アルミニウムウイスカ、水和ケイ酸アルミニウム、水和ケイ酸マグネシウム、塩基性炭酸マグネシウム、ハイドロタルサイト等の水酸基若しくは結晶水を有する化合物のような金属水和物、更には、窒化ほう素、シリカ(結晶質シリカ、非晶質シリカ等)、カーボン、クレー、酸化亜鉛、酸化錫、酸化チタン、酸化モリブデン、三酸化アンチモン、シリコーン化合物、石英、タルク、ほう酸亜鉛、ホワイトカーボン、硼酸亜鉛、ヒドロキシスズ酸亜鉛、スズ酸亜鉛が挙げられる。中でも、シリカ、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、炭酸カルシウム及び三酸化アンチモンからなる群から選択される少なくとも1種が好ましい。
無機フィラーは、粒子であることが好ましく、その平均粒径は適宜に設定される。
無機フィラーは、通常の表面処理剤で表面処理されたものを用いることもできる。
【0044】
- シラン架橋性樹脂組成物中の各成分の含有量 -
シラン架橋性樹脂組成物中の、ベース樹脂の含有率は、特に制限されないが、例えば、30~80質量%が好ましく、40~70質量%がより好ましい。
ベース樹脂以外の各成分の含有量は、ベース樹脂100質量部に対して、設定される。ベース樹脂100質量部とは、ベース樹脂を構成する各成分の合計含有量を意味し、通常、樹脂成分(例えば、エチレンゴム、スチレン系エラストマー及びポリオレフィン系樹脂)と有機鉱物油との合計量を意味する。
シラン架橋性樹脂組成物において、ベース樹脂を構成する各成分の、ベース樹脂中の含有率は上述した通りである。
シラン架橋性樹脂組成物中の、シランカップリング剤の含有量は、ベース樹脂100質量部に対して、1~15質量部が好ましく、3~12質量部がより好ましく、4~12質量部が更に好ましい。シランカップリング剤の含有量は、グラフト化反応前のシランカップリング剤の含有量に換算した含有量とする。
シラン架橋性樹脂組成物中の、シラノール縮合触媒の含有量は、特に制限されないが、ベース樹脂100質量部に対して、好ましくは0.001~0.6質量部、より好ましくは0.01~0.4質量部である。
シラン架橋性樹脂組成物が無機フィラーを含有する場合、無機フィラーの含有量は、ベース樹脂100質量部に対して、10~150質量部が好ましく、30~120質量部がより好ましく、50~100質量部が更に好ましい。
【0045】
上記成分の他に用いることができる他の樹脂や上記添加物の配合量は、本発明の目的を損なわない範囲で、適宜に設定される。
【0046】
本発明の複合ケーブルの製造方法(本発明の製造方法)を説明する。
本発明の製造方法は、導体コアの外面にシラン架橋性樹脂組成物を配置(成形)し、次いで、このシラン架橋性樹脂組成物と水とを接触させる工程を有する。
本発明の製造方法を実施するに際して、導体コア及びシラン架橋性樹脂組成物を調製する。シラン架橋性樹脂組成物の調製を含む本発明の製造方法における好ましい形態は、下記工程(1)~(3)を有する。
工程(1):上記ベース樹脂と、上記シランカップリング剤と、シラノール縮合触媒と、好ましくは無機フィラーとを、有機過酸化物の存在下で有機過酸化物の分解温度以上の温度において溶融混合する工程
工程(2):シラン架橋性樹脂組成物を導体コアの外周面に配置する工程
工程(3):シラン架橋性樹脂組成物を水と接触させて架橋する工程
【0047】
<導体コアの作製>
導体コアを撚り線構造とする場合、準備した電線を用いて、通常の方法により、撚り合わせて撚線を形成する。例えば、実施例での作製方法が挙げられる。
【0048】
<シラン架橋性樹脂組成物の調製>
シラン架橋性樹脂組成物は、ベース樹脂と、ベース樹脂にグラフト化結合したシランカップリング剤と、シラノール縮合触媒とを含有する。
このシラン架橋性樹脂組成物は、市販のシラングラフト樹脂を用いて各成分を混合することにより、調製することができる。混合する方法は、組成物の調製に通常用いられる方法であれば、特に制限されず、各種の混合装置を用いることができる。混合条件も特に制限されず、適宜に設定されるが、通常、ベース樹脂の溶融下で混合する。
シラン架橋性樹脂組成物における各成分の含有量(配合量)は上述の通りである。
【0049】
上記調製は、下記工程(1)により行うことが好ましい。
工程(1):上記ベース樹脂と、上記シランカップリング剤と、シラノール縮合触媒と、好ましくは無機フィラーとを、有機過酸化物の存在下で有機過酸化物の分解温度以上の温度において溶融混合する工程
【0050】
工程(1)において、各成分の混合順は、特に制限されず、どのような順で混合してもよい。溶融混合条件は後述する工程(1-1b)における条件を適用できる。
この工程により、有機過酸化物から発生したラジカルによってベース樹脂とシランカップリング剤とをグラフト化反応させる。これにより、シラングラフト樹脂が合成され、反応組成物として、このシラングラフト樹脂を含むシラン架橋性樹脂組成物が調製される。合成されるシラングラフト樹脂はシラン架橋性樹脂ともいう。このシラン架橋性樹脂組成物は、後述の工程(2)により成形可能な程度にシランカップリング剤がベース樹脂にグラフトしたシラングラフト樹脂を含有している。
【0051】
工程(1)では、各成分を一度に溶融混合(溶融混練、混練りともいう。)することもできるが、上記各成分を、下記工程(1-1)及び(1-2)により、溶融混合することが好ましい。
工程(1-1):上記ベース樹脂と、上記シランカップリング剤と、好ましくは無機フィラーとを、有機過酸化物の存在下で有機過酸化物の分解温度以上の温度において溶融混合する工程
工程(1-2):シランマスターバッチとシラノール縮合触媒とを溶融混合して、シラン架橋性樹脂組成物を調製する工程
【0052】
工程(1-1)の溶融混合により、ベース樹脂とシランカップリング剤とをグラフト化反応させる。これにより、シラングラフト樹脂を含むシランマスターバッチ(シランMB)が調製される。シランMBは、後述の工程(2)により成形可能な程度にシランカップリング剤がベース樹脂にグラフトしたシラングラフト樹脂を含有している。
【0053】
工程(1-1)において、各成分の混合順は、特に制限されず、どのような順で混合してもよく、上記各成分を一度に溶融混合することもできる。この場合、上記成分を予めドライブレンドした後に溶融混合することが好ましい。ドライブレンド及び溶融混合の方法及び条件は下記工程(1-1a)及び工程(1-1b)で説明する方法及び条件を採用できる。
【0054】
シラン架橋性樹脂組成物の調製方法においては、次いで、シランMBとシラノール縮合触媒とを溶融混合する工程(1-2)を行う。
工程(1-2)においては、上記工程(1-1)又は工程(1-1b)でベース樹脂の一部を溶融混合した場合、シラノール縮合触媒としてキャリア樹脂との混合物(触媒マスターバッチ)を用いることができる。触媒マスターバッチ(触媒MB)は、例えば、ベース樹脂の残部とシラノール縮合触媒とを溶融混合して調製できる。このときの溶融混合は、キャリア樹脂の溶融下で行う方法であればよく、例えば、上記工程(1-1b)の溶融混合と同様に行うことができる。混合温度は、例えば、80~250℃、より好ましくは100~240℃に設定できる。
シランMBと、シラノール縮合触媒又は触媒MBとの混合は、ベース樹脂の溶融下で行う方法であればよく、例えば、工程(1-1b)の溶融混合と同様に行うことができる。混合温度は、例えば、80~250℃、より好ましくは100~240℃に設定できる。
シラノール縮合触媒の配合量は、上述の通りである。
本工程においては、ベース樹脂以外の樹脂、無機フィラー等を混合することもできる。
【0055】
このようにして、シランMBとシラノール縮合触媒又は触媒MBとの溶融混合物としてシラン架橋性樹脂組成物が得られる。このシラン架橋性樹脂組成物は、シランカップリング剤由来の加水分解性シリル基がシラノール縮合していない未架橋体である。実際的には、工程(1-2)の溶融混合により、一部架橋(部分架橋)は避けられないが、後述する工程(2)での成形性が保持されたものとすることが好ましい。
【0056】
シラン架橋性樹脂組成物の調製方法において、無機フィラーを用いる場合、工程(1-1)として、下記工程(1-1a)及び(1-1b)の2段階で各成分を混合することが好ましい。
工程(1-1a):無機フィラー及びシランカップリング剤を前混合して混合物を調製する工程
工程(1-1b):工程(1-1a)で得られた混合物と、ベース樹脂とを、有機過酸化物の存在下で有機過酸化物の分解温度以上の温度において溶融混合する工程
【0057】
上記工程(1-1)又は工程(1-1b)において、ベース樹脂の全部を溶融混合することもできるが、その一部を溶融混合し、残部を後述する工程(1-2)においてキャリア樹脂として溶融混合することが好ましい。この場合、ベース樹脂100質量部とは、工程(1-1)又は工程(1-1b)で配合するベース樹脂と、工程(1-2)で配合するベース樹脂との合計配合量を意味する。配合するベース樹脂の一部は、その全量に対して、好ましくは50~98質量%であり、残部は、好ましくは2~50質量%である。
【0058】
工程(1-1a)において、無機フィラーとシランカップリング剤を前混合する方法としては、特に限定されず、湿式混合でも乾式混合でもよい。本発明においては、無機フィラー中にシランカップリング剤を加熱又は非加熱で加え混合する乾式混合(ドライブレンド)が好ましい。混合温度としては、好ましくは10~60℃、より好ましくは室温(25℃)付近(例えば20~35℃)で、数分~数時間程度の条件に設定できる。
この混合により、表面(化学結合しうる部位)に(シラノール縮合可能な加水分解性シリル基を介して)強い結合でシランカップリング剤が結合又は吸着した無機フィラーと、表面に弱い結合でシランカップリング剤が結合又は吸着した無機フィラーとを調製できる。弱い結合としては、水素結合による相互作用、イオン、部分電荷若しくは双極子間での相互作用、吸着による作用等が挙げられ、強い結合としては、無機フィラー表面の化学結合しうる部位との化学結合等が挙げられる。この結合により、後の工程(1-2)での溶融混合の際にシランカップリング剤の揮発を低減できる。
【0059】
工程(1-1)及び工程(1-1a)においては、有機過酸化物の分解温度未満の温度で混合する限り、有機過酸化物が存在していてもよく、またベース樹脂が存在していてもよい。
【0060】
次いで、工程(1-1a)で得られた混合物と、ベース樹脂(全部又は一部)と、工程(1-1a)で混合されていない残余の成分とを、有機過酸化物の存在下で、有機過酸化物の分解温度以上の温度において溶融混合する。
有機過酸化物は、工程(1-1b)を行う際に存在していればよく、工程(1-1a)で混合してもよく、工程(1-1b)で混合してもよい。有機過酸化物の配合量は、特に制限されないが、ベース樹脂100質量部に対して、0.01~0.6質量部が好ましく、0.05~0.3質量部がより好ましい。
【0061】
工程(1-1b)において、上記成分を溶融混合する温度は、有機過酸化物の分解温度以上、好ましくは有機過酸化物の分解温度+(25~110)℃の温度であり、例えば150~230℃の温度である。その他の溶融混合条件、例えば混合時間は適宜設定することができる。これにより、有機過酸化物が分解し、シランカップリング剤に作用して、シランカップリング剤のベース樹脂へのグラフト化反応が進行する。
混合方法としては、ゴム、プラスチック等で通常用いられる方法であれば、特に限定されない。混合装置は、例えば無機フィラーの配合量に応じて適宜に選択される。混合装置として、一軸押出機、二軸押出機、ロール、バンバリーミキサー又は各種のニーダー等が用いられる。樹脂成分の分散性、及び架橋反応の安定性の面で、バンバリーミキサー又は各種のニーダー等の密閉型ミキサーが好ましい。
【0062】
このようにして、工程(1-1b)を行い、ベース樹脂とシランカップリング剤とをグラフト化反応させる。これにより、シラングラフト樹脂を含むシランMBが調製される。
無機フィラーを用いる上記工程(1-1a)においては、シランカップリング剤は、その加水分解性シリル基で、無機フィラーの化学結合しうる部位と結合又は吸着する。更に、このシランカップリング剤は、上記工程(1-1b)の溶融混合において、そのグラフト化反応部位でベース樹脂のグラフト化反応可能な部位とグラフト化反応する。グラフト化反応の態様としては、無機フィラーと弱い結合で結合又は吸着したシランカップリング剤が無機フィラーから脱離してベース樹脂にグラフト化反応する態様、無機フィラーと強い結合で結合又は吸着したシランカップリング剤が無機フィラーとの結合を保持した状態でベース樹脂にグラフト化反応する態様等が挙げられる。
【0063】
次いで、上記工程(1-2)を行うことにより、シラン架橋性樹脂組成物を調製する。
【0064】
シラン架橋性樹脂組成物の調製方法において、工程(1)、工程(1-1)、特に工程(1-1b)においては、シラノール縮合触媒の非存在下(例えば樹脂組成物100質量部に対して0.01質量部以下の割合)で溶融混合して、シランカップリング剤の縮合反応を抑えることが好ましい。
【0065】
<シースの形成>
- シラン架橋性樹脂組成物を成形する工程 -
本発明の製造方法においては、次いで、調製したシラン架橋性樹脂組成物を導体コアの外周面に成形(配置)する工程(2)を行う。
工程(2)は、シラン架橋性樹脂組成物で導体コアを被覆できる方法であればよく、適宜の成形方法が適用される。例えば、成形方法としては、押出機を用いた押出成形、射出成形機を用いた射出成形、その他の成形機を用いた成形が挙げられる。本発明においては、導体コアとシラン架橋性樹脂組成物とを共押出する押出成形が好ましい。
押出成形は、汎用の押出成形機を用いて、行うことができる。押出成形温度は、ベース樹脂又はキャリア樹脂の種類、押出速度(引取り速度)の諸条件に応じて適宜に設定され、例えば、好ましくは80~250℃に設定することが好ましい。
工程(2)において、導体コアの外周面にタルク等の粉状の滑材や、シリコーン等の液体状の滑材、更にはテープ等での抑え巻きを施すことで、導体コアとシース間の密着力を適切に制御することができる。シースの断面形状及び厚さは適切な構造の口金を用いて調整できる。
工程(2)は工程(1-2)と同時に又は連続して実施することが好ましい。例えば、シランMBとシラノール縮合触媒(又は触媒MB)とを被覆装置内で溶融混合し、次いで、導体コアの外周面に押出して成形する一連の工程を採用できる。
工程(2)又は工程(1-1b)の溶融混合に先立って、各MBをベース樹脂又はキャリア樹脂の非溶融下で混合、例えばドライブレンドすることができる。ドライブレンドの方法及び条件は、特に限定されず、例えば、工程(1-1a)での乾式混合及びその条件が挙げられる。
工程(2)においては、シラノール縮合反応を避けるため、シランMBとシラノール縮合触媒が混合された状態で高温状態に長時間保持されないことが好ましい。
【0066】
- シラン架橋性樹脂組成物を架橋する工程 -
本発明の製造方法においては、次いで、成形したシラン架橋性樹脂組成物を水と接触させて架橋する工程(3)を行う。これにより、シランカップリング剤の加水分解性シリル基を加水分解してシラノール(ケイ素原子に結合するOH基)とし、シラン架橋性樹脂組成物中に存在するシラノール縮合触媒により、シラノールの水酸基同士を縮合させる。
【0067】
工程(3)は、通常の方法によって行うことができる。上記縮合反応はシラノール縮合触媒の存在下では常温で進行する。したがって、導体コアの外周面に配置されたシラン架橋性樹脂組成物を水に積極的に接触させる必要はない。この架橋反応を促進させるために、シラン架橋性樹脂組成物を水分と接触させることもできる。
【0068】
本工程において、無機フィラーと強く結合したシランカップリング剤は、シラノール縮合反応しにくく、無機フィラーとの結合を維持して、ベース樹脂と無機フィラーとの強固な密着(高い親和性)を可能とする。一方、無機フィラーと弱く結合したシランカップリング剤は、シラノール縮合反応して、シラノール結合(シロキサン結合)を介してベース樹脂同士を架橋させる。
【0069】
このようにして、本発明の製造方法が実施され、導体コアの外周面にシラン架橋性樹脂組成物のシラン架橋物(シラノール縮合硬化物)からなるシースが形成される。
シラン架橋物は、エチレンゴム又はスチレン系エラストマーを含むベース樹脂に対して特定量のシランカップリング剤がグラフト化反応したシラングラフト樹脂について、シラングラフト樹脂に結合したシランカップリング剤の加水分解性シリル基をシラノール縮合により架橋させたものである。このシラングラフト樹脂は、ベース樹脂同士がシランカップリング剤(シロキサン結合)を介して結合した架橋樹脂を含んでいる。
無機フィラーを含有するシラン架橋性樹脂組成物のシラノール縮合硬化物は、上記工程(1-1a)における、無機フィラーとシランカップリング剤との結合力に応じた少なくとも2種の架橋樹脂、すなわち、上記架橋樹脂に加えて、ベース樹脂がシランカップリング剤を介して無機フィラーに結合(架橋)した架橋樹脂を含んでいる。
シラン架橋物は、構成成分として、エチレンゴム及びスチレン系エラストマーの少なくとも一方に由来する構成成分、シランカップリング剤に由来する構成成分、好ましくは無機フィラーに由来する構成成分を有している。
【0070】
上記製造方法における各工程、更にはシラン架橋法における反応及び得られる縮合硬化物の形態については、例えば、特開2017-145370号公報の記載を適宜に適用でき、この公報に記載の内容はそのまま本明細書の記載の一部として取り込まれる。
【実施例】
【0071】
以下、本発明を実施例に基づき更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
表1において、各例の配合量に関する数値は特に断らない限り質量部を表す。また、各成分欄において「-」は対応する成分の配合量が0質量部であることを意味する。
【0072】
表1中に示す各成分(化合物)の詳細を以下に示す。
<ベース樹脂>
- エチレンゴム -
三井3092M:商品名、エチレン-プロピレン-ジエンゴム、三井化学社製
- スチレン系エラストマー -
セプトン4077:商品名、SEPS、クラレ社製
- ポリオレフィン系樹脂 -
エボリューSP1540:商品名、LLDPE、プライムポリマー社製)
- 有機鉱物油 -
ダイアナプロセスPW-90:商品名、パラフィン系オイル、出光興産社製
<無機フィラー>
マグシーズLN-6:商品名、水酸化マグネシウム、神島化学工業社製
<シランカップリング剤>
KBM-1003:商品名、ビニルトリメトキシシラン、信越化学工業社製
<有機過酸化物>
パーヘキサ25B:商品名、2,5-ジメチル-2,5-ジ(tert-ブチルパーオキシ)ヘキサン、分解温度179℃、日本油脂社製
<シラノール縮合触媒>
アデカスタブOT-1:商品名、ジオクチルスズジラウレート、ADEKA社製
【0073】
<導体コアの作製>
まず、導体断面積が0.25SQの架橋ポリエチレン電線(細径電線:導体外径1.4mm、樹脂層の厚さ0.3mm)2本を対撚りして、細径電線の撚線(撚り込み率1%)を得た。得られた細径電線の撚線と、導体断面積が1.8SQの架橋ポリエチレン電線(太径電線:導体外径2.6mm、樹脂層の厚さ0.3mm)2本とを撚り合わせて、
図1に示す導体コア(撚り込み率1.5%、各細径電線の撚り込み率は合計で約2.5%)を作製した。
【0074】
実施例1~11及び参考例12において、ベース樹脂として、表1の各実施例欄及び参考例欄に示す合計100質量%の95質量%をシランMBの調製に用い、残部の5質量%を触媒MBの調製に用いた。
【0075】
<実施例1>
以下のようにして、
図1に示す4芯複合ケーブルを製造した。
(シランMBの調製)
表1の実施例1欄に示す配合量で、シランカップリング剤と有機過酸化物を25℃で混合(ドライブレンド)し、次いでそこへ無機フィラーを投入して30℃で混合(ドライブレンド)した(工程(1-1a))。次いで、得られた混合物と、表1の実施例1欄に示す配合量(キャリア樹脂として用いる残部を除く。)で、ベース樹脂とをバンバリーミキサーに投入して120~200℃で10分溶融混合した後、材料排出温度200℃で排出し、フィーダールーダーを通して、シランMBのペレットを得た(工程(1-1b))。
上記バンバリーミキサーでの溶融混合により、シラングラフト化反応を惹起させて、シラングラフト樹脂を合成した。
【0076】
(触媒MBの調製)
キャリア樹脂(表1の実施例1欄に示す配合量のうちの残部)と、表1の実施例1欄に示す配合量のシラノール縮合触媒をバンバリーミキサーに投入して170℃で溶融混合した後、材料排出温度180℃で排出し、フィーダールーダーを通して、触媒MBのペレットを得た。
【0077】
(押出被覆)
次いで、調製した、シランMBのペレットと触媒MBのペレットを表1の実施例1欄に示す配合割合でドライブレンドした。得られたドライブレンド物を、直径が90mmのスクリューを備えた押出機(スクリュー有効長Lと直径Dとの比:L/D=24、圧縮部スクリュー温度190℃、ヘッド温度200℃)に導入した。この押出機内にてドライブレンド物を溶融混合(シラン架橋性樹脂組成物を調製)しつつ、撚り合わせた導体コアの外周面に肉厚1mmで直接押出(配置)して、外径8mmの被覆導体を得た(工程(1-2)及び工程(2))。
【0078】
(シラノール縮合反応)
得られた被覆導体を、温度60℃、相対湿度95%の雰囲気に24時間放置して、水と接触させた(工程(3))。
【0079】
こうして、シラン架橋性樹脂組成物のシラノール縮合硬化物で形成した、層厚1mmのシースを備えた実施例1の複合ケーブル(外径8mm)を製造した。
【0080】
<実施例2~11及び参考例12>
表1に示す組成のシラン架橋性樹脂組成物を調製したこと以外は、実施例1と同様にして、実施例2~11及び参考例12の各複合ケーブルを製造した。
【0081】
<比較例1>
以下のようにして、化学架橋法によりシースを形成して、
図1に示す4芯複合ケーブルを製造した。
表1の比較例1欄に示すように、各成分をバンバリーミキサーに投入して180℃で10分間溶融混合した後、得られた混合物と有機過酸化物とを混ぜ合わせ、100℃3分間ブレンドし、フィーダールーダーを通して、樹脂組成物のペレットを得た。有機過酸化物は、パーカドックスBCFF(商品名、化薬アクゾ社製)をベース樹脂100質量部に対して0.5質量部用いた。
次いで、調製した樹脂組成物のペレットを、直径が90mmのスクリューを備えた押出機(スクリュー有効長Lと直径Dとの比:L/D=24、圧縮部スクリュー温度190℃、ヘッド温度200℃)に導入した。この押出機内にて樹脂組成物のペレットを溶融混合しつつ、撚り合わせた導体コアの外周面に肉厚1mmで直接押出(配置)して、外径8mmの被覆導体を得た。
次いで、架橋管を用いて、200℃、水蒸気圧1.5MPa、反応時間5分の条件で、被覆導体(樹脂組成物)を化学架橋した。
こうして、化学架橋法で形成した層厚1mmのシースを備えた比較例1の複合ケーブル(外径8mm)を製造した。
【0082】
<比較例2>
以下のようにして、電子線架橋法によりシースを形成して、
図1に示す4芯複合ケーブルを製造した。
表1の比較例2欄に示すように、各成分をバンバリーミキサーに投入して120~200℃で10分溶融混合した後、材料排出温度200℃で排出し、フィーダールーダーを通して、樹脂組成物のペレットを得た。
調製した導体コア及び得られたペレットを用いて次のようにしてシースを形成した。すなわち、得られたペレットを、直径が90mmのスクリューを備えた押出機(スクリュー有効長Lと直径Dとの比:L/D=24、圧縮部スクリュー温度190℃、ヘッド温度200℃)に導入した。この押出機内にてペレットを溶融しつつ、導体コアの外周面に肉厚1mmで直接押出(配置)して、外径8mmのケーブルを得た。
次いで、導体コアの外周面に配置した樹脂組成物に、電子線を加速電圧500kV条件で照射した。
こうして、電子線架橋物で形成した層厚1mmのシースを備えた比較例2の複合ケーブル(外径8mm)を製造した。
【0083】
<比較例3>
以下のようにして、非架橋の樹脂組成物によりシースを形成して、
図1に示す4芯複合ケーブルを製造した。
導体コアの外周面に配置した樹脂組成物に電子線を照射しないこと以外は、比較例2と同様にして、非架橋の樹脂組成物で形成した層厚1mmのシースを備えた比較例3の複合ケーブル(外径8mm)を製造した。
【0084】
製造した実施例、参考例及び比較例の複合ケーブルは、太径電線をEPBケーブル(電源線)、細径電線をABSケーブル(信号線)とする4芯の複合ケーブルである。
【0085】
製造した複合ケーブルについて下記評価をし、その結果を表1に示した。
<耐熱性試験>
UL758に規定の加熱変形試験に則って加熱変形量として外径変化量を測定した。具体的には、製造した複合ケーブルを用いて、温度を121℃、荷重を0.4kgfの条件で耐熱性試験を行い、試験前後の外径変化量をシース厚さから算出し、得られた値を加熱変形量とした。シース厚さはケーブル外径と導体コアのよりあがりの径から算出した。
各ケーブルの耐熱性を、測定した加熱変形量(%)により、下記基準で評価した。本試験の合格は「△」及び「○」である。
「〇」:30%未満
「△」:30%以上、50%未満
「×」:50%以上
【0086】
<端末加工性>
ケーブルの端部100mmにおいて、シースを剥ぎ取る際の皮むき性を評価した。
具体的には、複合ケーブルの軸線方向に対して垂直な周方向に一周する切込みを、複合ケーブルの被覆厚の90%の深さに入れた。次いで、この切込みを境に一方の複合ケーブルのシースを把持して、他方の複合ケーブルを引き抜いた。
こうして引き抜いた複合ケーブルについて、シースの端末加工性試験を下記基準により評価した。本参考試験の合格は「△」である。
「〇」:引き抜いたケーブルに、引き抜かれるべきシースの残りがなく、引き抜いたケーブルのシース端部の伸びが1.0mm未満である場合
「△」:引き抜いたケーブルに、引き抜かれるべきシースの残りがなく、引き抜いたケーブルのシース端部の伸びが1.0mm以上5mm以下である場合
「×」:引き抜いたケーブルに、引き抜かれるべきシースが残存する場合
【0087】
<耐フォギング性>
ISO6452に規定の方法に則って試験した。
具体的には、各ケーブルのシースから試験片(約31g)を採取し、試験温度を120℃、試験時間を24時間に設定して試験した。冷却板の温度を21℃で一定に保った。冷却板の曇価の変化を測定することで、判定を行った。
下記基準により評価した。本試験の合格は「○」である。
「〇」:10%未満
「△」:10%以上、20%未満
「×」:20%以上
【0088】
<参考試験:耐屈曲性試験>
図2は、本試験に用いる装置の概略を、マンドレルの軸方向から見た概略図である。
図2に示すように、水平かつ互いに平行に配置された2本のマンドレル51、52間、及び揺れ防止用の押え61、62間に、ケーブル102を鉛直方向に通し、ケーブル102の下方に重り7を取り付けた。この状態で、ケーブル102の上端を左右のマンドレル51又は52の上側外周に交互に接するように(左右交互に繰り返し)屈曲させた。屈曲回数は、ケーブル102を左右のマンドレル51、52のいずれかの外周に接するように屈曲させた場合を1回として、カウントした。なお、試験条件は、マンドレル径10mm、左右曲げ角度90°、速度60屈曲/分で行い、重りは500g、ケーブルとマンドレルとのクリアランスは1mmとし、ケーブル102の上方の側面が各マンドレルの上方外周に接するように、屈曲させる長さを調製して、25℃の雰囲気で、試験を行った。ケーブルをループ状に直列につないで通電し、断線が生じるまでの屈曲回数を測定した。
評価は、絶縁電線に最初に断線が生じるまでの屈曲回数が下記基準のいずれに含まれるかで行い、本試験の合格は「△」及び「○」である。
○:10万回以上
△: 7万回以上、10万回未満
×: 5万回未満
【0089】
【0090】
表1に示されるように、本発明で規定するシラン架橋性樹脂組成物を用いてシラン架橋法により形成したシースをコアの外面に備えていると、複合ケーブルは、耐熱性、耐フォギング性及び端末加工性を高い水準で兼ね備えていることが分かる。
化学架橋法により架橋性樹脂組成物を架橋させて形成したシースをコアの外面に備えている比較例1の複合ケーブルは、端末加工性、更には耐屈曲性に劣る。すなわち、シースをコア(樹脂層)から皮むきにしにくく、シースの屈曲応力が絶縁電線に直接的に伝達しやすく導体の速やかな断線を引き起こした。これは、コアの外面に成形した架橋性樹脂組成物をコアごと架橋管(を通過させること)により架橋したことにより、絶縁電線の樹脂層とシースとが強固に密着しているためと考えられる。
また、電子線架橋により架橋性樹脂組成物を架橋させて形成したシースをコアの外面に備えている比較例2の複合ケーブルは、耐フォギング性に劣る。これは、架橋時に副生した低分子量成分がシースから揮散したためと考えられる。
更に、未架橋の樹脂組成物で形成したシースをコアの外面に備えている比較例3の複合ケーブルは、耐熱性に劣る。
【0091】
これに対して、シラン架橋性樹脂組成物のシラノール縮合硬化物により形成したシースをコアの外面に備えている実施例及び参考例の複合ケーブルは、耐熱性及び耐フォギング性、更には、シースとコアとの間にセパレータが介装されていなくても端末加工性を優れたレベルに改善できる。これは、シースの形成に際してシラン架橋を比較的穏やかな条件で実施できるため、曇化若しくは汚濁させる低分子量成分(揮発性物質)の副生を抑えることができ、しかも絶縁電線の樹脂層とシースとの過度な密着を防止できるためと考えられる。
特に、ベース樹脂がエチレンゴム及びスチレン系エラストマーの少なくとも1種を含むと、外径8mmの大径ケーブルとしても、樹脂層とシースとの過度な密着の防止効果と相まって耐屈曲性も向上させることができる。
【符号の説明】
【0092】
1 複合ケーブル
2 太径電線
21 導体
22 樹脂層
3 細径電線
31 導体
32 樹脂層
4 シース
51、52 マンドレル
61、62 揺れ防止用の押え
7 おもり
102 ケーブル