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特許7349100FeGa単結晶育成用種結晶及びFeGa単結晶の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-13
(45)【発行日】2023-09-22
(54)【発明の名称】FeGa単結晶育成用種結晶及びFeGa単結晶の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C30B 29/52 20060101AFI20230914BHJP
   C30B 11/14 20060101ALI20230914BHJP
【FI】
C30B29/52
C30B11/14
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019061041
(22)【出願日】2019-03-27
(65)【公開番号】P2020158362
(43)【公開日】2020-10-01
【審査請求日】2021-12-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504180239
【氏名又は名称】国立大学法人信州大学
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】岡野 勝彦
(72)【発明者】
【氏名】太子 敏則
(72)【発明者】
【氏名】干川 圭吾
【審査官】宮崎 園子
(56)【参考文献】
【文献】特開平1-179796(JP,A)
【文献】泉聖志 他,垂直ブリッジマン(VB)法によるFeGa単結晶の育成,第47回結晶成長国内会議(JCCG-47)予稿集,2018年,02a-D01
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C30B 29/52
C30B 11/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
融液を坩堝中で固化させる一方向凝固結晶成長法によるFeGa単結晶育成に用いられるFeGa単結晶育成用種結晶であって、
結晶成長方向において一端から他端に向かってGa濃度が高くなるGa濃度分布を有し、
前記Ga濃度の濃度差は、2.0~6.0at%であるFeGa単結晶育成用種結晶。
【請求項2】
前記Ga濃度の濃度勾配は、前記Ga濃度が高くなるにつれて急になる請求項1に記載のFeGa単結晶育成用種結晶。
【請求項3】
結晶成長方向において一端から他端に向かってGa濃度が高くなるFeGa単結晶育成用種結晶を、一方向凝固結晶成長法によりFeGa単結晶を育成する結晶育成装置の坩堝の底面に、Ga濃度が高い方の端面が上面となるように配置する工程と、
FeGa単結晶育成用原料を前記坩堝内の前記FeGa単結晶育成用種結晶上に投入する工程と、
前記FeGa単結晶育成用種結晶の前記FeGa単結晶育成用原料と接触している部分を含めて一部を溶解させるシーディング工程と、
前記坩堝を下降させ、FeGa単結晶を成長させる工程と、を有するFeGa単結晶の製造方法。
【請求項4】
前記FeGa単結晶育成用種結晶の前記FeGa単結晶育成用原料と接触している端面の前記Ga濃度は、前記FeGa単結晶育成用原料のGa濃度よりも高く設定されている請求項に記載のFeGa単結晶の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、FeGa単結晶育成用種結晶及びその製造方法、並びにFeGa単結晶の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
FeGa合金は、機械加工が可能であり、100~350ppm程度の大きな磁歪を示すため、磁歪式振動発電やアクチュエータ等に用いられる素材として好適であり、近年、注目されている。さらに、FeGa合金は結晶の特定方位に大きな磁気歪みを現出させるため、磁歪部材の磁歪を必要とする方向と結晶の磁気歪みが最大となる方位を一致させた単結晶の部材として、磁歪式振動発電やアクチュエータ等に用いられる素材に最適であると考えられる。
【0003】
FeGa単結晶の製造方法には、例えば、特許文献1には、チョクラルスキー法による単結晶の育成方法が記載されている。チョクラルスキー法は、単結晶になる原料を充填した坩堝を高温に加熱してこの原料を溶融し、坩堝内の原料融液の液面に上方から種結晶を接触させた後に上昇させることで種結晶と同一方位の単結晶を育成する方法である。
【0004】
しかしながら、この方法は、高周波誘導加熱方式により原料融解を行うため電源コストが高くなる。また装置構成が複雑であるため、装置コストも高く、結果的に製造コストが高くなってしまう。
【0005】
これに対して、一方向凝固結晶成長法であるVB(Vertical Bridgeman、垂直ブリッジマン)法やVGF(Vertical Gradient Freeze、垂直温度勾配凝固)法は、育成された単結晶を引き上げる必要がなく、装置内に単結晶引き上げのスペースは不要であるため、結晶育成装置の小型化や簡略化が可能であり、初期投資費用を抑えることができる。VB法やVGF法にて単結晶を育成する場合、坩堝の底に種結晶を配置し、その上にFeとGaの混合原料を必要量入れ、この原料を融解させる。そして、その後坩堝を加熱手段から遠ざけるように降下させることで単結晶を育成する。その過程の中で結晶方位を伝播させる目的で、シーディングを行う。シーディング時は、混合原料が融解しかつ種結晶の一部が融解する必要があり、これにより、種結晶の結晶方位が伝播した単結晶を育成することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2016-28831号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、シーディング時において、混合原料融液の温度と種結晶が融解する融点との差が大きく異なると問題が生じる。例えば、混合原料融液の温度が種結晶の融点より低い場合、種結晶は未融解のまま育成されるため多結晶化等の結晶欠陥が発生する。混合原料融液の温度が種結晶の融点より高すぎる場合、種結晶が完全融解し異方成長など不具合が発生する。つまり、一方向凝固結晶成長法では、種結晶の混合原料と接触している部分付近のみが融解し、種結晶の下部は融解しない状態とすることが求められる。よって、種結晶と混合原料との接触面付近の温度制御の許容制御幅は非常に小さい。また、種結晶と混合原料の接触面は坩堝の内部にあり、外から状態を観察することはできないため、微妙な温度制御を行うのは極めて困難である。
【0008】
そこで、本発明は、上述のような問題点に鑑み、VB法やVGF法によりシーディングした時に、種結晶近傍の原料融液温度と種結晶の融点とを容易に一致させることができ、シーディングによる多結晶化等の結晶欠陥や異方成長などの不具合を低減できるFeGa単結晶育成用種結晶及びその製造方法、並びにFeGa単結晶の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明の一態様に係るFeGa単結晶育成用種結晶は、融液を坩堝中で固化させる一方向凝固結晶成長法によるFeGa単結晶育成に用いられるFeGa単結晶育成用種結晶であって、
結晶成長方向において一端から他端に向かってGa濃度が高くなるGa濃度分布を有し、
前記Ga濃度の濃度差は、2.0~6.0at%である

【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、原料の融点と種結晶の融点に温度差がある場合であっても、双方を適切に融解させ、単結晶を育成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の実施形態に係るFeGa単結晶の製造方法を実施するために用いられる結晶育成装置の一例を示した図である。
図2】本発明の実施形態に係るFeGa単結晶の製造方法を実施するために用いられる結晶育成装置で増径部有する坩堝を使用した一例を示した図である。
図3】本発明の実施形態に係る種結晶の一例を示した図である。
図4】本発明の実施形態に係る種結晶のGa濃度分布の一例を示した図である。
図5】本発明の実施形態に係る種結晶を製造するための育成炉の一例を示した構造図である。
図6】本発明の実施形態に係る種結晶を製造するための育成炉で増径部を有する坩堝を使用した一例を示した構造図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照して、本発明を実施するための形態の説明を行う。
【0013】
一方向凝固結晶成長法では、種結晶が融解する融点と混合原料が融解された種結晶近傍の融点との差が大きく異なると、VB法では坩堝位置による調整、VGF法についてはヒータ出力の調整の制御が困難となり、適正なシーディングができず、種結晶の未融解や完全融解により、多結晶や異方成長などの結晶欠陥が発生することがある。
【0014】
本発明者等は、単結晶育成用種結晶について鋭意研究を重ねた結果、結晶の成長方向(上側)がGa濃度が高く、その反対側(下側)のGa濃度が低い種結晶を用いることで、原料融液温度と種結晶の融点とを合わせやすくなることを見出した。即ち、このような種結晶を用いることにより、坩堝位置やヒータ出力の微調整が不要となり、また調整が前後に多少振れたとしても種結晶の融点に高低差があることからシーディングを確実に行うことができることの知見を得て、本発明を完成するに至ったものである。
【0015】
本発明の実施形態に係る種結晶は、FeGa単結晶育成に用いる種結晶である。FeGa結晶は、100~350ppm程度の大きな磁歪特性を有するため、磁歪式振動発電やアクチュエータ等に用いられている。この磁歪特性を、結晶の特定方位に現出させるためには、磁歪特性を必要とする方向と結晶の磁気歪みが最大となる方位を一致させた単結晶の部材が最適であると考えられている。
【0016】
FeGa単結晶は、引き上げ法(チョクラルスキー法)や一方向凝固結晶成長法に用いて製造することができる。本発明では、一方向凝固結晶成長法に用いる種結晶について説明する。一方向凝固結晶成長法には、例えば、VB法やVGF法の方法がある。
【0017】
図1は、本発明の実施形態に係るFeGa単結晶の製造方法を実施するために用いられる結晶育成装置の一例を示した図である。図1においては、一方向凝固結晶成長法のうち、VB法により単結晶を育成するための結晶育成装置の構成の一例が示されている。
【0018】
図1に示される結晶育成装置は、坩堝10と、坩堝台20と、坩堝軸30と、発熱体40とを備える。また、坩堝10の中には、本発明の実施形態に係る種結晶50と、原料60が貯留されている。
【0019】
坩堝10は、種結晶50及び原料60を貯留又は保持するための容器である。坩堝10は、耐熱性の高い材料から構成され、例えば、アルミナ製であってもよい。
【0020】
坩堝台20は、坩堝10を支持するための支持台である。坩堝台20も、耐熱性の高い材料から構成される。
【0021】
坩堝軸30は、坩堝台20を上下動させるための軸であり、上端で坩堝台20を支持している。
【0022】
発熱体40は、坩堝10を加熱し、その内部に貯留保持された種結晶50及び原料60を融解するための加熱手段である。発熱体40は、例えば、抵抗体を用いたヒータから構成されてもよい。発熱体40には、例えば、カーボン発熱体を用いてもよい。
【0023】
図1に示されるように、VB法は、坩堝10の底に種結晶50を配置し、その上にFeとGaの混合原料60を必要量入れ、この原料60を融解させ、その後坩堝10を加熱手段である発熱体40から離すように降下させることで単結晶を育成する方法である。
【0024】
また、VGF法は、原料60を融解させた後、坩堝10の上方が高く、下方が低い温度勾配を維持したまま加熱手段である発熱体40の出力を降下させて結晶を育成する方法である。これらの方法では、育成した結晶の方位を揃えるため、坩堝10の底に種結晶50を配置する。よって、種結晶の直径は、坩堝10の内径と同じ直径となり、例えば、100~150mm程度の直径となる。
【0025】
本発明は、この種結晶に関する発明である。
【0026】
FeGa単結晶は不一致組成結晶であり、液相と固相とのGa濃度が異なる。磁歪特性が良いとされるFeGa単結晶は、Ga濃度は18.5at%付近である。このため、単結晶育成の原料は、Ga濃度が18.5at%付近になるように混合される。種結晶は、育成原料のGa濃度に合わせた種結晶を用いる。この時の種結晶の濃度バラツキは1%以内とされるのが一般的である。
【0027】
本発明の実施形態に係る種結晶は、原料融液と接触する面側(結晶の成長方向・上面側)から反対面である坩堝底面側(下面側)に向かう方向においてGa濃度差を有している。このGa濃度差は、原料融液と接触する面側のGa濃度が高く、坩堝底面側のGa濃度が低くなるように設定される。この時のGa濃度差は2at%以上であり、好ましく3at%以上、より好ましくは6at%以上に設定される。上述のように、FeGa結晶の融点は、Ga濃度が高くなるに従い低下する。
【0028】
なお、本発明の実施形態に係るFeGa単結晶の製造方法を実施するために用いられる結晶育成装置は、図2に示すよう増径部112を有する坩堝110を使用した結晶育成装置であってもよい。図2は、本発明の実施形態に係るFeGa単結晶の製造方法を実施するために用いられる結晶育成装置で増径部112を有する坩堝110を使用した一例を示した図である。図1の坩堝10は、円柱状であり、これに使用する種結晶50は育成される単結晶と同径である。これに対し、図2で示す結晶育成装置の坩堝110は、種結晶150を設置する井戸状の細径部113、該細径部113から上方に向けて直径が大きくなる逆円錐形の管状の増径部112、および該増径部112から上方に結晶成長部として続く円筒状の定径部111で構成されている。種結晶150は直径がφ10mm前後であり、細径部113に設置される。図1の態様では、種結晶50は100mm程度の直径を有する場合が多いので、図2の態様では、種結晶150の直径を大幅に縮小することができる。増径部112の内壁は、水平方向に対して30~60度の角度を有する。シーディング後、結晶は増径部112で直径を大きくしながら育成され、その後定径部111で一定の直径となり育成される。この様な坩堝110を使用することで、種結晶150の形状を小さくすることができ、種結晶150の製造コストを削減することができる。
【0029】
なお、他の構成要素については、図1と同様であるので、図1に対応する構成要素に同一の符号を付してその説明を省略する。
【0030】
図3は、本発明の実施形態に係る種結晶の一例を示した図である。図3に示されるように、原料と接触する上面51のGa濃度が高く設定され、坩堝10の底面に接触する下面52のGa濃度が低く設定される。
【0031】
図1を参照して説明したように、VB法やVGF法での結晶育成方法では、坩堝10の底に種結晶50を配置し、その上にFeとGaの混合原料60を必要量入れ、この原料60を融解させて、その後、シーディングを行う。シーディングは、混合した原料60が融解し、かつ種結晶50の一部が融解した状態にすることである。原料60のGa濃度は、磁歪特性が良いとされる18.5at%付近に設定されることが多く、一般的に種結晶50は、Ga濃度に合わせて18~19at%の種結晶50を使用することが多い。
【0032】
本発明の実施形態に係る種結晶50は、例えばGa濃度差を3at%とし、16.5~19.5at%とすることができる。種結晶50がGa濃度差を有しているため、従来の種結晶を用いた場合と比較すると、幅広い温度に対応して種結晶50の一部を融解してシーディングを行うことができる。つまり、原料60が融解する温度に合わせて種結晶50を加熱しても、融点差があるため、種結晶50の下部は融解しない。よって、加熱温度を高くし過ぎて種結晶50が融解し過ぎてしまう事態や、そのような事態を懸念して原料60が融解する温度まで加熱していない、といった事態を防ぐことができる。このため、シーディング時にVB法における坩堝10の位置やVGF法でのヒータ出力の微調整が必要なく、また多少調整がずれたとしても、濃度差を設けていることで調整誤差を許容できる。これにより、種結晶50の未融解や完全融解を防止することができ、多結晶化や異方成長を抑制することができる。
【0033】
種結晶50のGa濃度範囲は、FeとGaの混合原料のGa濃度を中央値として上下均等に設定してもよいが、種結晶50のGa濃度上限をFeとGaの混合原料のGa濃度+1at%とし、種結晶50のGa濃度下限側を広く設定してもよい。シーディング時は、少なくともFeとGaの混合原料を融解させる必要があり限定される。このため、混合原料偏析等のバラツキを含めて種結晶50のGa濃度上限は混合原料のGa濃度+1at%と設定することで種結晶50の未融解を防止できる。種結晶50のGa濃度下限を広く設定することで、混合原料60の融点より高い温度でも種結晶50の完全融解をより防止することができる。好ましくは、種結晶50のGa濃度差を6at%以上としGa濃度範囲の上限を混合原料60のGa濃度+1at%とし、下限を混合原料60のGa濃度-5at%以下に設定するとよい。
【0034】
種結晶50の厚さは、10mm~50mm程度である。この厚さの範囲で均等に濃度勾配があることが好ましいが、濃度勾配は均一でなくてもよい。
【0035】
図4は、本実施形態に係る種結晶のGa濃度分布の一例を示した図である。
【0036】
図4においては、本実施形態に係る種結晶50のGa濃度分布の一例が示されているが、13.0at%から20.0未満の19.5at%付近までGa濃度の分布が見られる。
【0037】
Ga濃度分布は、用途に応じて種々設定することが可能である。例えば、図4に示すように、Gaの濃度が低い側の濃度勾配が緩く、Gaの濃度が高い側の濃度勾配が急になっていても良い。この時、種結晶長さとGa濃度差を考慮する。図4では結晶長17mm~42mm間で種結晶を採取することで、種結晶長さ25mm、Ga濃度13.5at%~19.5at%のGa濃度差6%の種結晶を得ることができる。このように、必要な濃度勾配と種結晶長さを適宜設定し、必要な箇所より採取することができる。そして、Ga濃度分布の高い端面が原料60に接触する位置に配置され、Ga濃度分布の低い端面が坩堝10の底面と接触するように坩堝10内に配置される。このように、Ga濃度の高低差が6.0at%もあると、融点差を大きく設定することができ、シーディングを非常に容易に行うことができる。
【0038】
次に、本発明の実施形態に係る種結晶50の製造方法について説明する。本発明の実施形態に係る種結晶50の製造方法では、一方向凝固結晶成長法を用いて結晶を育成する。一方向凝固結晶成長法には、VB法やVGF法の方法がある。上述のように、VB法は、坩堝10の底に種結晶50を配置し、その上にFeとGaの混合原料60を必要量入れ、この原料60を融解させ、その後坩堝10を加熱手段である発熱体40から離すように降下させることで単結晶を育成する方法である。VGF法は、原料60を融解させた後、坩堝10の上方が高く、下方が低い温度勾配を維持したまま加熱手段である発熱体40の出力を降下させて結晶を育成する方法である。
【0039】
以下、図5を参照して、VB法を例に挙げ、FeGa種結晶の製造方法の詳細を説明する。図5は、VB法を用いた本発明の実施形態に係る種結晶を製造するための育成炉の構造図である。図1と結晶育成装置の構造は同一であり、種結晶55のみが図1と異なっている。
【0040】
坩堝台20の上に坩堝10を載置し、坩堝10内に種結晶55を収納する。この時の種結晶55は、Ga濃度が一定のものを使用する。その上には融解したGaにFe粉を所望量入れ、混合させた原料60を必要量入れる。坩堝10の周りにはカーボン製発熱体40があり、この発熱体40は上方が高く、下方が低い温度分布となるよう整備されている。なお炉内は不活性ガス雰囲気(Arガス等)としてもよい。この状態で種結晶55の高さが半分位融解するよう坩堝軸30を徐々に上昇させながら調整し、シーディングを行う。シーディング後、種結晶55を融解した固液界面形状を安定させて目的で1時間程度保持させた後、坩堝軸30を一定の速度で降下させる。坩堝10内の融液をすべて固化させた後、約300℃/hの速度で炉冷を行い、室温程度になったことを確認した後、結晶を取り出すと、Ga濃度勾配を有する結晶を得ることができる。
【0041】
この時に用いる種結晶55は、混合原料のGa濃度±1at%以内のものとする。また、この時の混合原料及び種結晶55の濃度は、17.5at%にする。FeGa単結晶は、一般には磁歪特性が良いとされる18.5at%の単結晶を目標とするが、本種結晶の製造方法では、18.5at%より1.0at%低い目標値とする。FeGa単結晶は不一致組成結晶であり、液相と固相とのGa濃度が異なり、育成された単結晶はGa濃度勾配を有する単結晶を育成できる。
【0042】
また、Ga濃度勾配の濃度差と育成の長さは、VB法では坩堝の降下速度、VGF法では出力の調整により適宜調整することができる。降下速度を速くあるは、出力を速く小さくすることで結晶のGa濃度差が小さくなる傾向にある。
【0043】
例えば、Ga濃度が13.5~19.5at%の種結晶を作製する場合、初期の種結晶のGa濃度を13.5at%に設置し、坩堝の降下速度を2.0mm/時の速度で降下すれば良い。Ga濃度が16.5~19.5at%の種結晶を作製する場合は、初期の種結晶のGa濃度を16.0at%に設置し、坩堝の降下速度を5.0mm/時の速度で降下すれば良い。
【0044】
そこを狙う結晶に対し、図3に示すように結晶長25mmにおいて、Ga濃度差がある種結晶を用いることで、Ga濃度差がある種結晶の作製方法として、FeGaは不一致組成であるため、育成中にGa濃度が変動する。これらの利点を活かし、VB法により坩堝10の降下速度2mm/hrで育成したものである。今回は濃度差を6at%にしたが、坩堝10の降下速度を振ることで濃度差を小さくしたり、大きくしたりすることは可能である。また、狙い濃度についても原料の濃度を変えることで対応は可能である。なお、育成方法についてはVGF法でもよい。
【0045】
図6は、本発明の実施形態に係る種結晶を製造するための育成炉で増径部を有する坩堝を使用した一例を示した構造図である。図6に示すように、増径部112を有する坩堝110も使用することができる。
【0046】
種結晶150の製造に使用する種結晶155は、Ga濃度が均一に分布したものである。図5との相違点は、細径部113に種結晶155を設置し、単結晶を育成しながら増径部112、定径部113を経て大径でGa濃度勾配を有する種結晶を得るという点である。製造の手順自体は、図5で説明した内容と同様であり、また、装置の構成自体は図2と同様であるので、Ga濃度勾配を有する種結晶の製造方法の詳細な説明は省略する。
【実施例
【0047】
以下、VB法を用いた本実施形態に係るFeGa単結晶の製造方法の実施例について説明する。なお、今まで実施形態で説明した構成要素と対応する構成要素には、理解の容易のため、実施形態と同一の参照符号を付して説明する。
【0048】
まず、図3に示すような、結晶成長方向においてGa濃度差を有する長さ25mm、直径50mmφのFeGa単結晶用種結晶50を用意した。
【0049】
図1に示すように、本実施例に係る種結晶50を用いて育成試験を実施した。なお、坩堝10はアルミナ製で内径51mmφ、高さ150mm、厚み3mmであった。坩堝台20の上に坩堝10を置き、坩堝10内に本実施例に係る種結晶50を収納した。
【0050】
その際、融点が低いGa濃度の高い方を原料60と向き合う上側とし、融点が高いGa濃度の低い方を坩堝10の底面に向き合う下側とした。その上には融解したGaにFe粉を所望量入れ、混合させた原料60を必要量入れた。坩堝10の周りにはカーボン製発熱体40を配置し、この発熱体40は上方が高く、下方が低い温度分布となるよう設定した。なお炉内は不活性ガス雰囲気(Arガス)で行った。この状態で種結晶50の高さが半分位融解するよう坩堝軸30を徐々に上昇させながら調整し、シーディングを行った。
【0051】
シーディング後、1時間程度保持させた後、坩堝軸30を降下させ結晶育成を開始した。坩堝10内の融液をすべて固化させた後、約300℃/hの速度で炉冷を行い、室温程度になったことを確認した後、結晶を取り出した。このサイクルにて、種結晶の濃度差とシーディング時のるつぼ位置を上下させた条件を振って、シーディング可否の試験を実施した。その結果を表1に示す。
【0052】
【表1】
(評価)
種結晶長25mmに対し、上面より4.5mm付近でシーディングされている坩堝位置を適正として、適正位置から下げる(-方向)と発熱体40から遠ざかるため、原料融液の温度は低くなり種結晶50は融解され難くなり、逆に適正位置から上げる(+方向)と発熱体40に近くなるため、原料融液の温度は高くなり種結晶50は融解されやすくなる。
【0053】
試験は、坩堝位置を適正位置から4mm刻みで-8mm~+16mm変化させた結果、実施例1に係るGa濃度差が6.0at%の種結晶50については-4mm~+12mmまでは問題なくシーディングされた。一方、実施例2に係る濃度差が3.0at%の種結晶については-4mm~+4mmと良好な範囲が狭くなった。
【0054】
これに対し、比較例に係るGa濃度差が0at%の種結晶については、±4mmですでに異方成長が見られていた。以上の結果から、Ga濃度差を振った種結晶を用いることでシーディングの良好範囲が広くなることが確認された。
【0055】
このように、本実施形態に係るFeGa単結晶育成用種結晶及びその製造方法、並びにFeGa単結晶の製造方法によれば、シーディング時における種結晶と原料の融点との差が抑制されることでるつぼ位置やヒータ出力などの微調整が必要とされず、多結晶化や異方成長を低減できる。
【0056】
また、本実施形態に係るFeGa単結晶育成用種結晶及びその製造方法、並びにFeGa単結晶の製造方法によれば、VB法やVGF法によりシーディングを行う場合、Ga濃度の成長方向側が高く、下側が低い種結晶を用いることで、原料融液温度に合うところまで種結晶が自己調整的に融解するため、るつぼ位置やヒータ出力の微調整が要らず、また調整が前後に多少振れたとしても種結晶に濃度差がある、すなわち融点差があることから、双方の融点を容易に一致させることが可能となる。また、これにより、育成時の多結晶や異方成長を低減できる。
【0057】
以上、本発明の好ましい実施形態及び実施例について詳説したが、本発明は、上述した実施形態及び実施例に制限されることはなく、本発明の範囲を逸脱することなく、上述した実施形態及び実施例に種々の変形及び置換を加えることができる。
【符号の説明】
【0058】
10 坩堝
20 坩堝台
30 坩堝軸
40 発熱体
50 種結晶
60 原料
図1
図2
図3
図4
図5
図6