(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-13
(45)【発行日】2023-09-22
(54)【発明の名称】非水電解液、およびこれを備える非水電解液二次電池
(51)【国際特許分類】
H01M 10/0567 20100101AFI20230914BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20230914BHJP
【FI】
H01M10/0567
H01M10/052
(21)【出願番号】P 2021097960
(22)【出願日】2021-06-11
【審査請求日】2022-07-07
(73)【特許権者】
【識別番号】520184767
【氏名又は名称】プライムプラネットエナジー&ソリューションズ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100117606
【氏名又は名称】安部 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100136423
【氏名又は名称】大井 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100121186
【氏名又は名称】山根 広昭
(74)【代理人】
【識別番号】100130605
【氏名又は名称】天野 浩治
(72)【発明者】
【氏名】浅野 洋人
(72)【発明者】
【氏名】近藤 親平
(72)【発明者】
【氏名】金久保 光央
(72)【発明者】
【氏名】河野 雄樹
(72)【発明者】
【氏名】牧野 貴至
【審査官】梅野 太朗
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-102154(JP,A)
【文献】特開2020-107428(JP,A)
【文献】特開2018-200874(JP,A)
【文献】特開2014-139921(JP,A)
【文献】特開2008-071499(JP,A)
【文献】欧州特許出願公開第2952518(EP,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M10/05-10/0587;10/36-10/39
H01M6/00-6/22
H01M12/00-16/00
H01G11/00-11/86
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
[P(CH
3)
3R
1]
+(式中、R
1は炭素数2~4のアルキル基を示す)で表される四級ホスホニウムカチオン、およびN(SO
2F)
2
-で表されるアニオンから構成されるホスホニウム塩と、
カーボネート類と、
下記式(I)で表される軽金属塩、および下記式(II)で表されるリン化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種の添加剤と、
を含有する、非水電解液。
【化1】
【化2】
(式(I)中、R11は、-C(=O)-R21-C(=O)-基(R21は、アルキレン基、ハロゲン化アルキレン基、アリーレン基、またはハロゲン化アリーレン基を表す)、または-C(=O)-C(=O)-基を表し、R12は、ハロゲン原子、アルキル基、ハロゲン化アルキル基、アリール基、またはハロゲン化アリール基を表し、X11およびX12はそれぞれ、酸素原子または硫黄原子を表し、M11は、遷移金属元素または周期表における13族元素、14族元素、または15族元素を表し、M21は、周期表における1族元素、2族元素、またはAlを表し、aは1~4の整数であり、bは0~8の整数であり、c、d、e、およびfはそれぞれ1~3の整数であり、
式(II)中、M
n+は、周期表における1族元素イオン、2族元素イオン、Alイオン、またはオニウムイオンを表し、A1およびA2はそれぞれ、酸素原子または硫黄原子を表し、X1およびX2はそれぞれ、ハロゲン原子、炭素数が1~6の飽和もしくは不飽和の炭化水素基、またはヘテロ原子を有する炭素数が1~6の飽和もしくは不飽和の炭化水素基を表すか、相互に結合して環構造を形成し、nは価数である。)
【請求項2】
前記ホスホニウム塩および前記カーボネート類の合計に対する、前記ホスホニウム塩の割合が、5体積%以上30体積%未満である、請求項1に記載の非水電解液。
【請求項3】
正極と、
負極と、
請求項1または2に記載の非水電解液と、
を備える非水電解液二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水電解液に関する。本発明はまた、当該非水電解液を備える非水電解液二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、リチウムイオン二次電池等の非水電解液二次電池は、パソコン、携帯端末等のポータブル電源や、電気自動車(EV)、ハイブリッド自動車(HV)、プラグインハイブリッド自動車(PHV)等の車両駆動用電源などに好適に用いられている。
【0003】
非水電解液二次電池はその普及に伴い、さらなる高性能化が望まれている。非水電解液二次電池の高性能化の方策の一つとして、非水電解液の改良が挙げられる。非水電解液の改良方法の一つとして、溶媒としてのイオン液体(常温溶融塩とも呼ばれる)の使用が挙げられる。イオン液体としては、イミダゾリウム塩、ピリジニウム塩、四級アンモニウム塩などの窒素系カチオンを有する塩以外にも、リン系カチオンを有する四級ホスホニウム塩が知られている。
【0004】
この四級ホスホニウム塩は、化学的及び熱的に安定であることが知られており、さらに、リンを含有することによる難燃性(自己消火性)を有することも知られている(例えば、特許文献1参照)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、本発明者らが、イオン液体である四級ホスホニウム塩を含有する非水電解液について鋭意検討した結果、良好な出力特性と高い高温サイクル特性とを両立させることにおいて不十分であることを見出した。
【0007】
そこで本発明は、四級ホスホニウム塩を含有する非水電解液であって、非水電解液二次電池に良好な出力特性と高い高温サイクル特性とを付与できる非水電解液を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、特定の四級ホスホニウム塩が、イオン液体のように常温で溶融状態になくても、カーボネート類に溶解することによって、非水電解液の導電率を向上できることを見出した。さらに、特定の四級ホスホニウム塩を特定の添加剤と組み合わせることによって、これらを含む非水電解液二次電池の出力特性と高温サイクル特性とを改善できることを見出した。
【0009】
すなわち、ここに開示される非水電解液は、[P(CH3)3R1]+(式中、R1は炭素数2~4のアルキル基を示す)で表される四級ホスホニウムカチオン、およびN(SO2F)2
-で表されるアニオンから構成されるホスホニウム塩と、カーボネート類と、下記式(I)で表される軽金属塩、および下記式(II)で表されるリン化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種の添加剤と、を含有する。
【0010】
【0011】
【0012】
(式(I)中、R11は、-C(=O)-R21-C(=O)-基(R21は、アルキレン基、ハロゲン化アルキレン基、アリーレン基、またはハロゲン化アリーレン基を表す)、または-C(=O)-C(=O)-基を表し、R12は、ハロゲン原子、アルキル基、ハロゲン化アルキル基、アリール基、またはハロゲン化アリール基を表し、X11およびX12はそれぞれ、酸素原子または硫黄原子を表し、M11は、遷移金属元素または周期表における13族元素、14族元素、または15族元素を表し、M21は、周期表における1族元素、2族元素、またはAlを表し、aは1~4の整数であり、bは0~8の整数であり、c、d、e、およびfはそれぞれ1~3の整数であり、式(II)中、Mn+は、周期表における1族元素イオン、2族元素イオン、Alイオン、またはオニウムイオンを表し、A1およびA2はそれぞれ、酸素原子または硫黄原子を表し、X1およびX2はそれぞれ、ハロゲン原子、炭素数が1~6の飽和もしくは不飽和の炭化水素基、またはヘテロ原子を有する炭素数が1~6の飽和もしくは不飽和の炭化水素基を表すか、相互に結合して環構造を形成し、nは価数である。)
【0013】
このような構成によれば、四級ホスホニウム塩を含有する非水電解液であって、非水電解液二次電池に良好な出力特性と高い高温サイクル特性とを付与できる非水電解液を提供することができる。
【0014】
ここに開示される非水電解液の好ましい一態様においては、前記ホスホニウム塩および前記カーボネート類の合計に対する、前記ホスホニウム塩の割合が、5体積%以上30体積%未満である。このような構成によれば、非水電解液の導電率が高くなり、非水電解液二次電池により高い出力特性を付与することができる。
【0015】
別の側面から、ここに開示される非水電解液二次電池は、正極と、負極と、上記の非水電解液と、を備える。このような構成によれば、良好な出力特性と高い高温サイクル特性とを有する非水電解液二次電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の一実施形態に係るリチウムイオン二次電池の内部構造を模式的に示す断面図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係るリチウムイオン二次電池の捲回電極体の構成を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明による実施の形態を説明する。なお、本明細書において言及していない事柄であって本発明の実施に必要な事柄は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。本発明は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。
【0018】
なお、本明細書において「二次電池」とは、繰り返し充放電可能な蓄電デバイスをいい、いわゆる蓄電池、および電気二重層キャパシタ等の蓄電素子を包含する用語である。また、本明細書において「リチウムイオン二次電池」とは、電荷担体としてリチウムイオンを利用し、正負極間におけるリチウムイオンに伴う電荷の移動により充放電が実現される二次電池をいう。
【0019】
本実施形態に係る非水電解液は、[P(CH3)3R1]+(式中、R1は炭素数2~4のアルキル基を示す)で表される四級ホスホニウムカチオン、およびN(SO2F)2
-で表されるアニオンから構成されるホスホニウム塩と、カーボネート類と、下記式(I)で表される軽金属塩、および下記式(II)で表されるリン化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種の添加剤と、を含有する。
【0020】
【0021】
【0022】
式(I)中、R11は、-C(=O)-R21-C(=O)-基(R21は、アルキレン基、ハロゲン化アルキレン基、アリーレン基、またはハロゲン化アリーレン基を表す)、または-C(=O)-C(=O)-基を表し、R12は、ハロゲン原子、アルキル基、ハロゲン化アルキル基、アリール基、またはハロゲン化アリール基を表し、X11およびX12はそれぞれ、酸素原子または硫黄原子を表し、M11は、遷移金属元素または周期表における13族元素、14族元素、または15族元素を表し、M21は、周期表における1族元素、2族元素、またはAlを表し、aは1~4の整数であり、bは0~8の整数であり、c、d、e、およびfはそれぞれ1~3の整数であり、式(II)中、Mn+は、周期表における1族元素イオン、2族元素イオン、Alイオン、またはオニウムイオンを表し、A1およびA2はそれぞれ、酸素原子または硫黄原子を表し、X1およびX2はそれぞれ、ハロゲン原子、炭素数が1~6の飽和もしくは不飽和の炭化水素基、またはヘテロ原子を有する炭素数が1~6の飽和もしくは不飽和の炭化水素基を表すか、相互に結合して環構造を形成し、nは価数である。
【0023】
本実施形態において用いられる上記ホスホニウム塩は、非水電解液のイオン伝導性を向上させる成分であり、いわば、イオン伝導助剤とも呼べる機能を有する。このホスホニウム塩は、難燃性であるため、本実施形態に係る非水電解液を用いた非水電解液二次電池の安全性を高めることができる。
【0024】
上記ホスホニウム塩は、カチオンとして、[P(CH3)3R1]+で表される四級ホスホニウムカチオンを含む。R1は炭素数2~4のアルキル基である。よって、この四級ホスホニウムカチオンにおける合計炭素数は5~7であり、本実施形態において用いられる四級ホスホニウムカチオンは、合計炭素数が小さい、すなわちカチオンのサイズが小さいという特徴を有する。
【0025】
また、上記の四級ホスホニウムカチオンにおいては、4つのアルキル基のうち1つのアルキル基(すなわち、R1で表される基)が、他のアルキル基(すなわち、CH3基)と炭素数が異なっており、よって非対称である。このように、テトラメチルホスホニウムのように対称なカチオンと比較して、四級ホスホニウムカチオンが非対称であることによって、非水電解液への良好な溶解性を得ることができる。
【0026】
R1で表されるアルキル基は、直鎖状であっても分岐鎖状であってもよく、その例としては、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、t-ブチル基等が挙げられる。より高い出力特性の観点からは、R1の炭素数は2または3が好ましく、2がより好ましい。より高い高温サイクル特性の観点からは、R1の炭素数は3または4が好ましく、4がより好ましい。
【0027】
上記のホスホニウム塩は、アニオンとしてN(SO2F)2
-で表されるアニオンを含有する。イオン液体であるホスホニウム塩のアニオンとしては、N(SO2CF3)2
-が良く知られているが、本実施形態において用いられるアニオンは、それよりもサイズが小さいという特徴を有する。
【0028】
このように、サイズの小さいカチオンとアニオンとの組み合わせのホスホニウム塩は、常温で溶融状態に近く、イオン液体のように常温で溶融状態にならなくても、カーボネート類に溶解することによって、イオン伝導に寄与することができる。したがって、上記ホスホニウム塩の使用によって、非水電解液の導電率を高めることができ、これにより、非水電解液二次電池に良好な初期抵抗特性を付与することができ、その結果、良好な出力特性を付与することができる。
【0029】
上記カーボネート類は、非水溶媒として機能する。上記カーボネート類の例としては、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、メチルプロピルカーボネート等の鎖状カーボネート;エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ブチレンカーボネート等の環状カーボネートなどが挙げられる。カーボネート類としては、鎖状カーボネートと環状カーボネートとを組合わせて用いることが好ましい。
【0030】
カーボネート類として好ましくは、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、およびエチレンカーボネートからなる群より選ばれる少なくとも1種であり、より好ましくは、エチレンカーボネートと、ジメチルカーボネートおよびエチルメチルカーボネートの一方または両方との組み合わせである。
【0031】
上記ホスホニウム塩の、上記ホスホニウム塩および上記カーボネート類の合計に対する割合(具体的には、体積比)が小さ過ぎると、導電率向上効果が小さくなる傾向にある。そこで、この合計に対する上記ホスホニウム塩の割合は、好ましくは1体積%以上であり、より好ましくは3体積%以上であり、最も好ましくは5体積%以上である。一方、上記ホスホニウム塩の割合が大き過ぎると、非水電解液が高粘度化して、本発明の効果が小さくなる傾向にある。そこでこの合計に対する上記ホスホニウム塩の割合は、好ましくは40体積%以下であり、より好ましくは30体積%未満であり、最も好ましくは20体積%以下である。
【0032】
本実施形態においては、添加剤として、上記式(I)で表される軽金属塩および上記式(II)で表されるリン化合物の少なくとも一方を、上記ホスホニウム塩と組み合わせて使用する。このような組み合わせを非水電解液に採用することによって、良好な出力特性に加えて、高い高温サイクル特性を非水電解液二次電池に付与することができる。
【0033】
添加剤に関し、上記式(I)において、X11およびX12としては、酸素原子が好ましい。M11としては、ホウ素原子またはリン原子が好ましい。R12としては、ハロゲン原子が好ましい。M21としては、リチウム原子が好ましい。bは0~2の整数が好ましい。
【0034】
添加剤として用いられる上記式(I)で表される軽金属塩の例としては、ビス[オキソラト-O,O’]ホウ酸リチウム(リチウムビス(オキサラト)ボレート)、ジフルオロ[オキソラト-O,O’]ホウ酸リチウム(リチウムジフルオロオキサラトボレート)、ジフルオロビス[オキソラト-O,O’]リン酸リチウム、ジフルオロ[3,3,3-トリフルオロ-2-オキシド-2-トリフルオロメチルプロピオナト(2-)-O,O’]ホウ酸リチウム、ビス[3,3,3-トリフルオロ-2-オキシド-2-トリフルオロメチルプロピオナト(2-)-O,O’]ホウ酸リチウム、テトラフルオロ[オキソラト-O,O’]リン酸リチウム等が挙げられ、なかでも、リチウムビス(オキサラト)ボレート(LiBOB)、リチウムジフルオロオキサラトボレート(LiDFOB)が好ましく、リチウムビス(オキサラト)ボレートがより好ましい。
【0035】
上記式(II)において、Mn+としては、リチウムイオンが好ましい。A1およびA2としては、酸素原子が好ましい。X1およびX2としては、ハロゲン原子、炭素数1~4のアルキル基が好ましく、フッ素原子がより好ましい。
【0036】
添加剤として用いられる上記式(II)で表されるリン化合物の例としては、ジメチルリン酸リチウム、ジエチルリン酸リチウム、ジプロピルリン酸リチウム、ジブチルリン酸リチウム、ジペンチルリン酸リチウム、エチレンリン酸リチウム、ビナフチルリン酸リチウム、ジメチルリン酸ナトリウム、ジエチルリン酸ナトリウム、ジプロピルリン酸ナトリウム、ジブチルリン酸ナトリウム、ジペンチルリン酸ナトリウム、エチレンリン酸ナトリウム、ビナフチルリン酸ナトリウム、ジメチルリン酸マグネシウム、ジエチルリン酸マグネシウム、ジプロピルリン酸マグネシウム、ジブチルリン酸マグネシウム、ジペンチルリン酸マグネシウム、エチレンリン酸マグネシウム、ビナフチルリン酸マグネシウム、トリエチルメチルアンモニウムジメチルリン酸、トリエチルメチルアンモニウムジエチルリン酸、トリエチルメチルアンモニウムジプロピルリン酸、トリエチルメチルアンモニウムジブチルリン酸、トリエチルメチルアンモニウムジペンチルリン酸、トリエチルメチルアンモニウムエチレンリン酸、トリエチルメチルアンモニウムビナフチルリン酸、ジヨードリン酸リチウム、ジヨードリン酸ナトリウム、ジヨードリン酸カリウム、ジブロモリン酸リチウム、ジブロモリン酸ナトリウム、ジブロモリン酸カリウム、ジクロロリン酸リチウム、ジクロロリン酸ナトリウム、ジクロロリン酸カリウム、ジフルオロリン酸リチウム、ジフルオロリン酸ナトリウム、ジフルオロリン酸カリウム等が挙げられ、なかでも、ジフルオロリン酸リチウム、ジフルオロリン酸ナトリウムが好ましく、ジフルオロリン酸リチウムがより好ましい。
【0037】
上記添加剤の非水電解液中の含有量が少な過ぎると、添加剤の効果が十分に発揮されないおそれがある。したがって、含有量の下限に関し、上記式(I)で表される軽金属の非水電解液中の含有量は、0.05質量%以上が好ましく、0.1質量%以上がより好ましく、0.25質量%以上がさらに好ましい。上記式(II)で表されるリン化合物の非水電解液中の含有量は、0.05質量%以上が好ましく、0.1質量%以上がより好ましく、0.25質量%以上がさらに好ましい。一方、含有量の上限に関し、上記式(I)で表される軽金属塩の非水電解液中の含有量は、飽和濃度となる量以下であってよく、1.0質量%以下が好ましく、0.8質量%以下がより好ましく、0.7質量%以下がさらに好ましい。上記式(II)で表されるリン化合物の非水電解液中の含有量は、飽和濃度となる量以下であってよく、1.0質量%以下が好ましく、0.8質量%以下がより好ましく、0.7質量%以下がさらに好ましい。
【0038】
本実施形態に係る非水電解液は、通常、支持塩(すなわち、電解質塩)をさらに含有する。支持塩の例としては、LiPF6、LiBF4、LiClO4、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド(LiFSI)、リチウムビス(トリフルオロメタン)スルホンイミド(LiTFSI)等のリチウム塩が挙げられ、なかでも、LiPF6、およびリチウムビス(フルオロスルホニル)イミドが好ましい。
【0039】
電解液中の支持塩の濃度は、特に限定されないが、好ましくは0.5mol/L以上5mol/L以下であり、より好ましくは0.7mol/L以上2.5mol/L以下である。
【0040】
なお、本実施形態に係る非水電解液は、本発明の効果を著しく損なわない限りにおいて、例えば、ビフェニル(BP)、シクロヘキシルベンゼン(CHB)等のガス発生剤;分散剤;増粘剤等をさらに含んでいてもよい。
【0041】
従来のイオン液体であるホスホニウム塩を用いた非水電解液においては、粘度が高く、リチウムイオンの移動度を十分に向上させることができなかった。また、粘度を低く抑えることができた場合であっても、十分な電位窓を確保できなかった。そのため、従来のホスホニウム塩を用いた非水電解液を備える非水電解液二次電池では、従来の有機溶媒(カーボネート類)を用いた非水電解液を備えるリチウムイオン二次電池と同等以上の出力特性と高温サイクル特性とを両立することができなかった。
【0042】
これに対し、本実施形態に係る非水電解液では、特定のカチオンと特定のアニオンの組み合わせのイオン液体を用いることで、非水電解液の粘度を低く抑えながらも、十分な電位窓を確保することができる。その結果、従来の有機溶媒(カーボネート類)を用いた非水電解液よりも導電率を向上させることができる。これにより、非水電解液二次電池の初期抵抗を低減でき、出力特性に優れた非水電解液二次電池を提供することができる。また、これに加え、特定の添加剤を電解液が含有することにより、非水電解液二次電池の高温サイクル特性(特に60℃程度で充放電を繰り返した際の容量劣化耐性)を、従来の有機溶媒(カーボネート類)を用いた非水電解液を備えるリチウムイオン二次電池と同等以上に高めることができる。
【0043】
なお、本実施形態に係る非水電解液は、公知方法に従い、非水電解液二次電池に用いることができる。よって、非水電解液は、典型的には、非水電解液二次電池用の非水電解液であり、好適には、リチウムイオン二次電池用の非水電解液である。
【0044】
そこで、別の側面から、本実施形態に係る非水電解液二次電池は、正極と、負極と、上記の非水電解液と、を備える。
【0045】
本実施形態に係る非水電解液二次電池の構成例として、上記の非水電解液を備えるリチウムイオン二次電池の概略を以下、図面を参照しながら説明する。以下説明するリチウムイオン二次電池は、あくまで例示であり、本実施形態に係る非水電解液二次電池をなんら限定するものではない。以下の図面においては、同じ作用を奏する部材・部位には同じ符号を付して説明している。また、各図における寸法関係(長さ、幅、厚さ等)は実際の寸法関係を反映するものではない。
【0046】
図1に示すリチウムイオン二次電池100は、扁平形状の捲回電極体20と非水電解液80とが扁平な角形の電池ケース(即ち外装容器)30に収容されることにより構築される密閉型電池である。電池ケース30には外部接続用の正極端子42および負極端子44と、電池ケース30の内圧が所定レベル以上に上昇した場合に該内圧を開放するように設定された薄肉の安全弁36とが設けられている。また、電池ケース30には、非水電解質80を注入するための注入口(図示せず)が設けられている。正極端子42は、正極集電板42aと電気的に接続されている。負極端子44は、負極集電板44aと電気的に接続されている。電池ケース30の材質としては、例えば、アルミニウム等の軽量で熱伝導性の良い金属材料が用いられる。
【0047】
捲回電極体20は、
図1および
図2に示すように、正極シート50と、負極シート60とが、2枚の長尺状のセパレータシート70を介して重ね合わされて長手方向に捲回された形態を有する。正極シート50は、長尺状の正極集電体52の片面または両面(ここでは両面)に長手方向に沿って正極活物質層54が形成された構成を有する。負極シート60は、長尺状の負極集電体62の片面または両面(ここでは両面)に長手方向に沿って負極活物質層64が形成されている構成を有する。正極活物質層非形成部分52a(すなわち、正極活物質層54が形成されずに正極集電体52が露出した部分)および負極活物質層非形成部分62a(すなわち、負極活物質層64が形成されずに負極集電体62が露出した部分)は、捲回電極体20の捲回軸方向(すなわち、上記長手方向に直交するシート幅方向)の両端から外方にはみ出すように形成されている。正極活物質層非形成部分52aおよび負極活物質層非形成部分62aには、それぞれ正極集電板42aおよび負極集電板44aが接合されている。
【0048】
正極シート50を構成する正極集電体52としては、リチウムイオン二次電池に用いられる公知の正極集電体を用いてよく、その例としては、導電性の良好な金属(例えば、アルミニウム、ニッケル、チタン、ステンレス鋼等)製のシートまたは箔が挙げられる。正極集電体52としては、アルミニウム箔が好ましい。
【0049】
正極集電体52の寸法は特に限定されず、電池設計に応じて適宜決定すればよい。正極集電体52としてアルミニウム箔を用いる場合には、その厚みは、特に限定されないが、例えば5μm以上35μm以下であり、好ましくは7μm以上20μm以下である。
【0050】
正極活物質層54は、正極活物質を含有する。正極活物質としては、リチウムイオン二次電池に用いられる公知の正極活物質を用いてよい。具体的に例えば、正極活物質として、リチウム複合酸化物、リチウム遷移金属リン酸化合物等を用いることができる。正極活物質の結晶構造は、特に限定されず、層状構造、スピネル構造、オリビン構造等であってよい。
【0051】
リチウム複合酸化物としては、遷移金属元素として、Ni、Co、Mnのうちの少なくとも1種を含むリチウム遷移金属複合酸化物が好ましく、その具体例としては、リチウムニッケル系複合酸化物、リチウムコバルト系複合酸化物、リチウムマンガン系複合酸化物、リチウムニッケルマンガン系複合酸化物、リチウムニッケルコバルトマンガン系複合酸化物、リチウムニッケルコバルトアルミニウム系複合酸化物、リチウム鉄ニッケルマンガン系複合酸化物等が挙げられる。これらの正極活物質は、1種単独で用いてよく、または2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0052】
なお、本明細書において「リチウムニッケルコバルトマンガン系複合酸化物」とは、Li、Ni、Co、Mn、Oを構成元素とする酸化物の他に、それら以外の1種または2種以上の添加的な元素を含んだ酸化物をも包含する用語である。かかる添加的な元素の例としては、Mg、Ca、Al、Ti、V、Cr、Y、Zr、Nb、Mo、Hf、Ta、W、Na、Fe、Zn、Sn等の遷移金属元素や典型金属元素等が挙げられる。また、添加的な元素は、B、C、Si、P等の半金属元素や、S、F、Cl、Br、I等の非金属元素であってもよい。このことは、上記したリチウムニッケル系複合酸化物、リチウムコバルト系複合酸化物、リチウムマンガン系複合酸化物、リチウムニッケルマンガン系複合酸化物、リチウムニッケルコバルトアルミニウム系複合酸化物、リチウム鉄ニッケルマンガン系複合酸化物等についても同様である。
【0053】
正極活物質としては、リチウムニッケルコバルトマンガン系複合酸化物が好ましい。リチウムニッケルコバルトマンガン系複合酸化物としては、下式(I)で表される組成を有するものが好ましい。
Li1+xNiyCozMn(1-y-z)MαO2-βQβ (I)
【0054】
式(I)中、x、y、z、α、およびβはそれぞれ、0≦x≦0.7、0.1<y<0.9、0.1<z<0.4、0≦α≦0.1、0≦β≦0.5を満たす。Mは、Zr、Mo、W、Mg、Ca、Na、Fe、Cr、Zn、Sn、およびAlからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素である。Qは、F、ClおよびBrからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素である。エネルギー密度および熱安定性の観点から、yおよびzはそれぞれ、0.3≦y≦0.5、0.20≦z<0.4を満たすことが好ましい。xは、好ましくは0≦x≦0.25を満たし、より好ましくは0≦x≦0.15を満たし。さらに好ましくは0である。αは、好ましくは0≦α≦0.05を満たし、より好ましくは0である。βは、好ましくは0≦β≦0.1を満たし、より好ましくは0である。
【0055】
正極活物質の平均粒子径(メジアン径:D50)は、特に限定されないが、例えば、0.05μm以上25μm以下であり、好ましくは1μm以上20μm以下であり、より好ましくは3μm以上15μm以下である。なお、正極活物質の平均粒子径(D50)は、例えば、レーザ回折散乱法により求めることができる。
【0056】
正極活物質層54は、正極活物質以外の成分、例えば、リン酸三リチウム、導電材、バインダ等を含んでいてもよい。導電材としては、例えばアセチレンブラック(AB)等のカーボンブラックやその他(例、グラファイトなど)の炭素材料を好適に使用し得る。バインダとしては、例えばポリフッ化ビニリデン(PVDF)等を使用し得る。
【0057】
正極活物質層54中の正極活物質の含有量(すなわち、正極活物質層54の全質量に対する正極活物質の含有量)は、特に限定されないが、70質量%以上が好ましく、より好ましくは80質量%以上97質量%以下であり、さらに好ましくは85質量%以上96質量%以下である。正極活物質層54中のリン酸三リチウムの含有量は、特に制限はないが、1質量%以上15質量%以下が好ましく、2質量%以上12質量%以下がより好ましい。正極活物質層54中の導電材の含有量は、特に制限はないが、1質量%以上15質量%以下が好ましく、3質量%以上13質量%以下がより好ましい。正極活物質層54中のバインダの含有量は、特に制限はないが、1質量%以上15質量%以下が好ましく、1.5質量%以上10質量%以下がより好ましい。
【0058】
正極活物質層54の厚みは、特に限定されないが、例えば、10μm以上300μm以下であり、好ましくは20μm以上200μm以下である。
【0059】
負極シート60を構成する負極集電体62としては、リチウムイオン二次電池に用いられる公知の負極集電体を用いてよく、その例としては、導電性の良好な金属(例えば、銅、ニッケル、チタン、ステンレス鋼等)製のシートまたは箔が挙げられる。負極集電体62としては、銅箔が好ましい。
【0060】
負極集電体62の寸法は特に限定されず、電池設計に応じて適宜決定すればよい。負極集電体62として銅箔を用いる場合には、その厚みは、特に限定されないが、例えば5μm以上35μm以下であり、好ましくは7μm以上20μm以下である。
【0061】
負極活物質層64は負極活物質を含有する。当該負極活物質としては、例えば黒鉛、ハードカーボン、ソフトカーボン等の炭素材料を使用し得る。黒鉛は、天然黒鉛であっても人造黒鉛であってもよく、黒鉛が非晶質な炭素材料で被覆された形態の非晶質炭素被覆黒鉛であってもよい。
【0062】
負極活物質の平均粒子径(メジアン径:D50)は、特に限定されないが、例えば、0.1μm以上50μm以下であり、好ましくは1μm以上25μm以下であり、より好ましくは5μm以上20μm以下である。なお、負極活物質の平均粒子径(D50)は、例えば、レーザ回折散乱法により求めることができる。
【0063】
負極活物質層64は、活物質以外の成分、例えばバインダや増粘剤等を含み得る。バインダとしては、例えばスチレンブタジエンラバー(SBR)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)等を使用し得る。増粘剤としては、例えばカルボキシメチルセルロース(CMC)等を使用し得る。
【0064】
負極活物質層中の負極活物質の含有量は、90質量%以上が好ましく、95質量%以上99質量%以下がより好ましい。負極活物質層中のバインダの含有量は、0.1質量%以上8質量%以下が好ましく、0.5質量%以上3質量%以下がより好ましい。負極活物質層中の増粘剤の含有量は、0.3質量%以上3質量%以下が好ましく、0.5質量%以上2質量%以下がより好ましい。
【0065】
負極活物質層64の厚みは、特に限定されないが、例えば、10μm以上300μm以下であり、好ましくは20μm以上200μm以下である。
【0066】
セパレータ70としては、例えばポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリエステル、セルロース、ポリアミド等の樹脂から構成される多孔性シート(フィルム)が挙げられる。かかる多孔性シートは、単層構造であってもよく、二層以上の積層構造(例えば、PE層の両面にPP層が積層された三層構造)であってもよい。セパレータ70の表面には、耐熱層(HRL)が設けられていてもよい。
【0067】
セパレータ70の厚みは特に限定されないが、例えば5μm以上50μm以下であり、好ましくは10μm以上30μm以下である。セパレータ70のガーレー試験法によって得られる透気度は特に限定されないが、好ましくは350秒/100cc以下である。
【0068】
非水電解液80には、上述の本実施形態に係る非水電解液が用いられる。なお、
図1は、電池ケース30内に注入される非水電解液80の量を厳密に示すものではない。
【0069】
リチウムイオン二次電池100においては、良好な出力特性と、高い高温サイクル特性(特に60℃程度で充放電を繰り返した際の容量劣化耐性)とが両立されている。
【0070】
リチウムイオン二次電池100は、各種用途に利用可能である。好適な用途としては、電気自動車(EV)、ハイブリッド自動車(HV)、プラグインハイブリッド自動車(PHV)等の車両に搭載される駆動用電源が挙げられる。また、リチウムイオン二次電池100は、小型電力貯蔵装置等の蓄電池として使用することができる。リチウムイオン二次電池100は、典型的には複数個を直列および/または並列に接続してなる組電池の形態でも使用され得る。
【0071】
なお、一例として扁平形状の捲回電極体20を備える角形のリチウムイオン二次電池100について説明した。しかしながら、ここに開示される非水電解質二次電池は、積層型電極体(すなわち、複数の正極と、複数の負極とが交互に積層された電極体)を備えるリチウムイオン二次電池として構成することもできる。また、ここに開示される非水電解質二次電池は、円筒形リチウムイオン二次電池、ラミネートケース型リチウムイオン二次電池、コイン型リチウムイオン二次電池等として構成することもできる。また、ここに開示される非水電解液二次電池は、公知方法に準じて、リチウムイオン二次電池以外の非水電解液二次電池として構成することもできる。
【0072】
以下、本発明に関する実施例を説明するが、本発明をかかる実施例に示すものに限定することを意図したものではない。
【0073】
<電解液の準備>
溶媒として表1に記載のホスホニウム塩およびカーボネート類を表1に示す体積比で混合した。これに、表1に記載の支持塩を表1に示す濃度で溶解させて電解液を得た。この電解液について、25℃で、導電率を測定した。なお、導電率の測定には、METTLER TOLEDO社製の導電率計「SevenMulti」を用いた。結果を表1に示す。
【0074】
なお、使用したホスホニウム塩は、公知方法に従い合成した。例としてエチルトリメチルホスホニウム(P1112)-ビス(フルオロスルホニル)イミド(FSI)を合成した手順を次に記す。フラスコ内を窒素置換した後、トリメチルホスフィン(Sigma-Aldrich社製、1.0mol/dm3、トルエン溶液)7.61gを加えた。窒素ガス雰囲気下で、1.5倍量のブロモエタン16.35gを滴下ロートからフラスコ内(トリメチルホスフィン)に滴下した。トルエン200mLを加え、60℃で48時間撹拌下した。反応混合物をジエチルエーテルで精製した後、濾過した。濾別した固体生成物を真空乾燥することによって、P1112-Brを得た。P1112-Br33.63gをイオン交換水50mLに溶解し、P1112-Br水溶液を調製した。1.1倍量のLiFSI36.42gをイオン交換水50mLに溶解させ、これをP1112-Br水溶液と混合した。得られた固体生成物を回収後、ジクロロメタンに溶解させ、分液ロートを用いて水で洗浄した。有機相からエバポレータによってジクロロメタンを除去し、室温で約1週間真空乾燥することにより、P1112-FSIを得た。
【0075】
【0076】
DMC:ジメチルカーボネート
EC:エチレンカーボネート
EMC:エチルメチルカーボネート
*:ホスホニウム塩およびカーボネート類の成分の記載順の体積比
【0077】
表1の結果より、カーボネート類にホスホニウム塩を添加することによって、導電率を高めることができることがわかる。また、ホスホニウム塩の体積比を増加させた場合、体積比が5%~20%である電解液3~6では、ほぼ一定の高い導電率を示したが、ホスホニウム塩の体積比が30%以上になると、電解液1および2の結果が示すように導電率が低下する傾向が見られた。
【0078】
<評価用リチウムイオン二次電池の作製>
正極活物質粉末としてのLiNi1/3Co1/3Mn1/3O2(LNCM)と、導電材としてのアセチレンブラック(AB)と、バインダとしてのポリフッ化ビニリデン(PVdF)とを、LNCM:AB:PVdF=87:10:3の質量比でN-メチルピロリドン(NMP)と混合し、正極活物質層形成用スラリーを調製した。このスラリーを、アルミニウム箔に塗布して乾燥することにより、正極シートを作製した。
【0079】
負極活物質として、平均粒子径15μmの天然黒鉛系炭素材(C)と、バインダとしてのスチレンブタジエンゴム(SBR)と、増粘剤としてのカルボキシメチルセルロース(CMC)とを、C:SBR:CMC=98:1:1の質量比でイオン交換水と混合して、負極活物質層形成用スラリーを調製した。このスラリーを、銅箔に塗布して乾燥することにより、負極シートを作製した。
【0080】
また、セパレータとして、ガーレー試験法によって得られる透気度が200秒/100ccの、PP/PE/PPの三層構造を有するポリオレフィン多孔質膜を用意した。
【0081】
作製した正極シートと負極シートとを、セパレータを介して対向させて電極体を作製した。作製した電極体に集電体を取り付け、非水電解液と共にラミネートケースに収容し、封止した。非水電解液には、表2に示すものを用いた。具体的には、表2に記載のホスホニウム塩およびカーボネート類を表2に示す体積比で混合し、これに、表2に記載の支持塩を表2に示す濃度で溶解させて、さらに表2に記載の添加剤を表2に記載の濃度で溶解させた非水電解液を用いた。ただし、比較例8においては、ホスホニウム塩がカーボネート類に溶解も混和もせずに非水電解液を調製できず、リチウムイオン二次電池の作製を断念した。このようにして、実施例1~7および比較例1~7の評価用リチウムイオン二次電池を作製した。
【0082】
<活性化と初期特性評価>
上記作製した各評価用リチウムイオン二次電池を25℃の恒温槽内に置き、初回充電を行った。初回充電は、各評価用リチウムイオン二次電池を、0.3Cの電流値で4.10Vまで定電流充電した。その後、0.3Cの電流値で3.00Vまで定電流放電した。
【0083】
さらに、この各評価用リチウムイオン二次電池に定電流-定電圧充電(0.2Cの電流値で4.10Vまで定電流充電した後、電流値が1/50Cになるまで定電圧充電)を行い、満充電状態とした。その後、0.2Cの電流値で3.00Vまで定電流放電した。このときの放電容量を測定し、初期容量とした。
【0084】
また、上記の初期容量をSOC100%として、25℃の恒温槽中にて0.3Cの電流値で充電深度(SOC)が30%になるまで各評価用リチウムイオン二次電池を充電した。次いで、25℃の恒温槽中にて、5C、15C、30C、および45Cの電流値で10秒間放電を行い、各電流値で放電した後の電池電圧を測定した。各電流値と各電池電圧とをプロットして放電時におけるI-V特性を求め、得られた直線の傾きから放電時におけるIV抵抗(Ω)を初期抵抗として求めた。比較例1の評価用リチウムイオン二次電池の初期抵抗を1.00とした場合の比較例1の評価用リチウムイオン二次電池に対するその他の評価用リチウムイオン二次電池の初期抵抗の比を求めた。結果を表2に示す。
【0085】
<高温サイクル特性評価>
続いて、各評価用リチウムイオン二次電池を60℃の恒温槽内に置いた。各評価用リチウムイオン二次電池に対して、4.10Vまで2Cで定電流充電および3.00Vまで2Cで定電流放電を1サイクルとする充放電を200サイクル繰り返した。その後上記と同じ方法で放電容量を測定し、このときの放電容量を、200サイクル充放電後の電池容量として求めた。(200サイクル充放電後の電池容量/初期容量)×100として、容量維持率(%)を求めた。結果を表2に示す。
【0086】
<非水電解液の粘度測定>
実施例1~7および比較例1~4の非水電解液の粘度を、25℃にてThermo Fisher Scientific社製「HAAKE RheoStress 6000」を用いて測定した。結果を表2に示す。
【0087】
【0088】
P1112:エチルトリメチルホスホニウム
P1114:ブチルトリメチルホスホニウム
P2222:テトラエチルホスホニウム
P2224:ブチルトリエチルホスホニウム
P4441:トリブチルメチルホスホニウム
P1111:テトラメチルホスホニウム
FSI:ビス(フルオロスルホニル)イミド
TFSI:ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド
DMC:ジメチルカーボネート
EC:エチレンカーボネート
EMC:エチルメチルカーボネート
LiBOB:リチウムビス(オキサラト)ボレート
*:ホスホニウム塩およびカーボネート類の成分の記載順の体積比
【0089】
比較例1のリチウムイオン二次電池では、従来一般的なカーボネート類(即ち、ECとDMCとEMCの混合溶媒)を溶媒に用いた電解液を使用した。比較例1との比較より、本実施形態に係る非水電解液に該当する電解液を使用した実施例1~7のリチウムイオン二次電池は、初期抵抗が従来の電解液を用いたものと比べて同等以下であり、高温サイクル特性が従来の電解液を用いたものと比べて高かった。
【0090】
一方、添加剤を含有するがホスホニウム塩を含有しない比較例2のリチウムイオン二次電池では、比較例1よりも高温サイクル特性が改善するが、初期抵抗が高くなった。ホスホニウム塩を含有するが添加剤を含有しない比較例3のリチウムイオン二次電池では初期抵抗が高く高温サイクル特性が低かった。ホスホニウム塩のアニオンとして、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドを用いた比較例4のリチウムイオン二次電池では、高温サイクル特性の改善が見られたが、初期抵抗が高くなった。ホスホニウム塩のカチオン種を変えた比較例5~7のリチウムイオン二次電池では、初期抵抗が顕著に高く、高温サイクル特性が顕著に低かった。
【0091】
以上の結果より、ここに開示される非水電解液によれば、四級ホスホニウム塩を含有しながらも、非水電解液二次電池に良好な出力特性と高い高温サイクル特性とを付与できることがわかる。
【0092】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、請求の範囲を限定するものではない。請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。
【符号の説明】
【0093】
20 捲回電極体
30 電池ケース
36 安全弁
42 正極端子
42a 正極集電板
44 負極端子
44a 負極集電板
50 正極シート(正極)
52 正極集電体
52a 正極活物質層非形成部分
54 正極活物質層
60 負極シート(負極)
62 負極集電体
62a 負極活物質層非形成部分
64 負極活物質層
70 セパレータシート(セパレータ)
80 非水電解液
100 リチウムイオン二次電池