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特許7349109リチウムニッケル含有複合酸化物の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-13
(45)【発行日】2023-09-22
(54)【発明の名称】リチウムニッケル含有複合酸化物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01G 53/00 20060101AFI20230914BHJP
   H01M 4/525 20100101ALI20230914BHJP
【FI】
C01G53/00 A
H01M4/525
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2022089985
(22)【出願日】2022-06-02
(62)【分割の表示】P 2017544257の分割
【原出願日】2016-10-11
(65)【公開番号】P2022113734
(43)【公開日】2022-08-04
【審査請求日】2022-06-02
(31)【優先権主張番号】P 2015200817
(32)【優先日】2015-10-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504180239
【氏名又は名称】国立大学法人信州大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000811
【氏名又は名称】弁理士法人貴和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】金田 理史
(72)【発明者】
【氏名】手嶋 勝弥
(72)【発明者】
【氏名】是津 信行
(72)【発明者】
【氏名】君島 健之
【審査官】青木 千歌子
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-162700(JP,A)
【文献】国際公開第2014/010448(WO,A1)
【文献】特開2009-266712(JP,A)
【文献】SONG, M.Y. et al.,Electrochemical properties of LiNi1-yMyO2 (M = Ni, Ga, Al and/or Ti) cathodes,Ceramics International,2008年07月25日,Vol.35, No.3,p.1145-1150,DOI:10.1016/j.ceramint.2008.05.015
【文献】HWANG, B.J. et al.,Effect of synthesis conditions on electrochemical properties of LiNi1-yCoyO2 cathode for lithium rec,Journal of Power Sources,2002年11月27日,Vol.114, No.2,p.244-252,DOI:10.1016/S0378-7753(02)00584-0
【文献】PARK, T.J. et al.,Effect of Calcination Temperature of Size Controlled Microstructure of LiNi0.8Co0.15Al0.05O2 Cathode,Bulletin of the Korean Chemical Society,2014年02月,Vol.35, No.2,p.357-364,DOI:10.5012/bkcs.2014.35.2.357
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01G 53/00
H01M 4/525
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
層状岩塩型の結晶構造を備え、遷移金属として主としてニッケルを含有するリチウムニッケル含有複合酸化物粒子と、リチウム化合物と、リチウム以外のアルカリ金属の塩化物からなるアルカリ金属化合物とを、前記アルカリ金属化合物の物質量の、前記リチウムニッケル含有複合酸化物粒子を構成するリチウムを除く金属元素の物質量と該アルカリ金属化合物の物質量との合計に対する比率が、モル比で0.05~0.99の範囲となるように、かつ、前記リチウムニッケル含有複合酸化物粒子を構成するリチウムを除く金属元素の物質量に対する該リチウム化合物中のリチウムの物質量の比率が、モル比で0~0.30の範囲となるように、混合して、混合粉末を得る、混合工程と、
前記混合粉末を、酸素濃度が18容量%~100容量%の範囲にある雰囲気で、800℃~1000℃の範囲の焼成温度で、かつ、該焼成温度で保持する時間を10時間以下として、焼成して、焼結粒子を得る、第一の焼成工程と、
前記焼結粒子を洗浄し、前記リチウム以外のアルカリ金属を除去する、洗浄工程と、
前記洗浄工程後の焼結粒子を、リチウム化合物と混合し、酸素濃度が18容量%~100容量%の範囲にある雰囲気で、600℃~800℃の範囲の焼成温度でかつ、該焼成温度で保持する時間を1時間~20時間の範囲として、焼成して、層状岩塩型の結晶構造を備え、X線源としてCu-Kα線を用いたX線粉末回折から得られる(003)面と(104)面に帰属するピーク強度の比「(003)/(104)」が1.2以上である、リチウムニッケル含有複合酸化物を得る、第二の焼成工程と、
を備える、リチウムニッケル含有複合酸化物の製造方法。
【請求項2】
前記混合工程において、前記アルカリ金属化合物を、該アルカリ金属化合物の物質量の、前記リチウムニッケル含有複合酸化物粒子を構成するリチウムを除く金属元素の物質量と前記アルカリ金属化合物の物質量との合計に対する比率が、0.05~0.99の範囲となるように混合する、請求項1に記載のリチウムニッケル含有複合酸化物の製造方法。
【請求項3】
前記混合工程において、前記アルカリ金属化合物として、NaおよびKから選ばれる一種以上のアルカリ金属を含有する塩化物を用いる、請求項1または2に記載のリチウムニッケル含有複合酸化物の製造方法。
【請求項4】
前記混合工程において、前記リチウム化合物を、前記リチウムニッケル含有複合酸化物粒子を構成するリチウムを除く金属元素の物質量に対する前記リチウム化合物中のLiの物質量の比率が、0~0.30の範囲となるように混合する、請求項1~3のいずれかに記載のリチウムニッケル含有複合酸化物の製造方法。
【請求項5】
第一焼成工程における焼成時間を10時間以下とする、請求項1~4のいずれかに記載のリチウムニッケル含有複合酸化物の製造方法。
【請求項6】
第二の焼成工程における焼成時間を1時間~20時間の範囲とする、請求項1~5のいずれかに記載のリチウムニッケル含有複合酸化物の製造方法。
【請求項7】
最終的に得られる前記リチウムニッケル含有複合酸化物が、一般式:Li1+uNiCoAl(ただし、-0.03≦u≦0.10、x+y+z=1、0.50≦x≦1.00、0≦y≦0.50、0≦z≦0.10)で表される組成を有するように調整する、請求項1~6のいずれかに記載のリチウムニッケル含有複合酸化物の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水系電解質二次電池用正極活物質として用いられるリチウムニッケル含有複合酸化物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話やノート型パソコンなどの携帯電子機器の普及に伴い、高いエネルギ密度を有する小型で軽量な二次電池の開発が強く望まれている。また、モータ駆動用電源、特に輸送機器用電源の電池として高出力の二次電池の開発が強く望まれている。
【0003】
このような要求を満たす二次電池として、非水系電解質二次電池であるリチウムイオン二次電池がある。非水系電解質二次電池は、負極、正極、電解液などにより構成され、負極および正極の材料として、リチウムイオンを脱離および挿入することが可能な活物質が用いられている。
【0004】
このような非水系電解質二次電池の正極活物質として、現在、合成が比較的容易なリチウムコバルト複合酸化物(LiCoO)、コバルトよりも安価なニッケルを用いたリチウムニッケル複合酸化物(LiNiO)、リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物(LiNi1/3Co1/3Mn1/3)、マンガンを用いたリチウムマンガン複合酸化物(LiMn)、リチウムニッケルマンガン複合酸化物(LiNi0.5Mn0.5)などのリチウム遷移金属含有複合酸化物が提案されている。
【0005】
非水系電解質二次電池には、高容量、出力特性、保持特性、サイクル特性などのさまざまな特性が要求されている。このような非水系電解質二次電池の特性には、その正極材料に用いられる正極活物質の特性が影響することになる。このような優れた特性の非水系電解質二次電池を提供するために、これまでにも、さまざまな正極活物質が提案されている。
【0006】
たとえば、特開2001-266876号公報では、一般式LiNiCoAl(1-y-z)(ただし、0.05≦x≦1.10であり、0.7≦y≦0.9であり、0.05≦z≦0.18であり、0.85≦y+z≦0.98である。)で表され、比表面積が0.7m/g以下であり、タップ密度が2.3g/ml以上である、リチウムニッケル含有複合酸化物からなる正極活物質が提案されている。この正極活物質は、結晶構造が安定化しているため、正極材料として用いることにより、非水系電解質二次電池の高容量を達成しつつ、高温環境下での保存特性(保存状態での性能保持特性)を改善させることが可能であるとされている。
【0007】
また、特開2005-251716号公報では、リチウム遷移金属複合水酸化物からなる正極活物質において、非水系電解質二次電池の熱安定性や負荷特性、出力特性を向上させることを目的として、一次粒子の構造に着目し、プレス圧を上げても、一次粒子の粉砕による微粒子の発生が防止され、かつ、充填性に優れたリチウム遷移金属複合酸化物からなる正極活物質が提案されている。このリチウム遷移金属複合酸化物は、一次粒子およびその凝集体である二次粒子の一方または両方からなる粒子により構成され、一次粒子のアスペクト比を1~1.8とし、少なくとも表面に、モリブデン、バナジウム、タングステン、ホウ素、およびフッ素からなる群から選ばれる少なくとも1種を存在させている。これらの添加元素のうち、特にホウ素は,フラックスとして作用し、粒子の結晶成長を促進させ、この正極活物質を正極材料に用いた非水系電解質二次電池の保存特性を向上させることができるとされている。
【0008】
ただし、フラックスとしてホウ素を使用した場合、より結晶成長を促進させるためにホウ素添加量を増やしていくと、ホウ素が不純物として残留し、電気化学特性を悪化させるといった問題が生じると考えらえる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2001-266876号公報
【文献】特開2005-251716号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、充放電容量を損ねることなく、保持特性を改善可能な正極活物質、具体的には、従来のリチウムニッケル含有複合酸化物に比べて、一次粒子径が大きく、結晶性の高いリチウムニッケル含有複合酸化物からなる正極活物質を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の一態様は、遷移金属として主としてニッケル(Ni)を含有するリチウムニッケル含有複合酸化物に係り、該リチウムニッケル含有複合酸化物は、層状岩塩型の結晶構造を備え、X線源としてCu-Kα線を用いた粉末X線粉末回折から得られる(003)面と(104)面に帰属するピーク強度の比が1.2以上であることを特徴とする。
【0012】
本発明のリチウムニッケル含有複合酸化物において、X線源としてCu-Kα線を用いたX線粉末回折から得られる、(006)面、(102)面、および(101)面に帰属するピーク強度の関係が、[(006)+(102)]/(101)≦0.6を満たすことが好ましい。
【0013】
本発明のリチウムニッケル含有複合酸化物において、リートベルト解析法によって求められる、層状岩塩型の結晶構造の3aサイトにおけるLi席占有率が96%以上であることが好ましい。
【0014】
本発明のリチウムニッケル含有複合酸化物は、コバルト(Co)、あるいは、アルミニウム(Al)を添加元素として含むことが好ましい。さらに、該リチウムニッケル含有複合酸化物は、一般式:Li1+uNiCoAl(ただし、-0.03≦u≦0.10、x+y+z=1、0.50≦x≦1.0、0≦y≦0.50、0≦z≦0.10)で表される組成を有することが好ましい。
【0015】
本発明のリチウムニッケル複合酸化物は、その平均一次粒子径が2.0μm以上であり、かつ、そのBET比表面積が0.35m/g以下であることが好ましい。
【0016】
本発明の一態様は、リチウムニッケル含有複合酸化物の製造方法に係り、該製造方法は、層状岩塩型の結晶構造を備え、遷移金属として主としてニッケル(Ni)を含有するリチウムニッケル含有複合酸化物粒子と、リチウム化合物と、アルカリ金属化合物とを混合して、混合粉末を得る、混合工程と、
前記混合粉末を、800℃~1000℃の範囲の温度で焼成して、焼結粒子を得る、第一の焼成工程と、
前記焼結粒子を洗浄し、前記リチウム以外のアルカリ金属元素を除去する、洗浄工程と、
前記洗浄工程後の焼結粒子を、リチウム化合物と混合し、酸化性雰囲気下にて、600℃~800℃の範囲の温度で焼成して、層状岩塩型の結晶構造を備え、X線源としてCu-Kα線を用いたX線粉末回折から得られる(003)面と(104)面に帰属するピーク強度の比が1.2以上である、リチウムニッケル含有複合酸化物を得る、第二の焼成工程と、
を備えることを特徴とする。
【0017】
前記混合工程において、前記アルカリ金属化合物を、該アルカリ金属化合物の物質量の、前記リチウムニッケル含有複合酸化物粒子を構成するリチウムを除く金属元素の物質量と該アルカリ金属化合物の物質量との合計に対する比率(モル比)が、0.05~0.99の範囲となるように混合することが好ましい。
【0018】
前記混合工程において、前記アルカリ金属化合物として、少なくともLi、Na、Kから選ばれる一種以上のアルカリ金属を含有する、塩化物、炭酸塩、硫酸塩、または、これらの混合物を用いることが好ましい。
【0019】
前記混合工程において、前記リチウム化合物を、前記リチウムニッケル含有複合酸化物粒子を構成するリチウムを除く金属元素の物質量に対する前記リチウム化合物中のLiの物質量の比率(モル比)が、0~0.30の範囲となるように混合することが好ましい。
【0020】
第一焼成工程における焼成時間として、所定の焼成温度における保持時間を10時間以下とすることが好ましい。
【0021】
第二の焼成工程における焼成時間を1時間~20時間の範囲とすることが好ましい。
【0022】
なお、最終的に得られるリチウムニッケル含有複合酸化物が、一般式:Li1+uNiCoAl(ただし、-0.03≦u≦0.10、x+y+z=1、0.50≦x≦1.0、0≦y≦0.50、0≦z≦0.10)で表される組成を有するように調整することが好ましい。
【0023】
本発明の一態様は、非水系電解質二次電池に係り、該二次電池は、正極と、負極と、セパレータと、非水系電解質とを備え、前記正極の正極材料として、上記の本発明のリチウムニッケル含有複合酸化物が用いられていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、従来技術と比較して粒径が大きく結晶性の高い一次粒子を含むリチウムニッケル含有複合酸化物を作製することができ、また、このようなリチウムニッケル含有複合酸化物からなる正極活物質を非水系電解質二次電池の正極材料として用いた場合、従来と比較して、充放電容量を損ねることなく、保持特性を改善可能な正極活物質を提供することができる。
【0025】
また、結晶性が高く、一次粒子の粒径が大きい正極活物質を用いることにより、充電状態、すなわちLiイオンが正極活物質から脱離した状態で保持しても、高い結晶の安定性に起因して、正極活物質からの元素の溶出が抑制され、その結果、自己放電が抑制されることにより、良好なリチウムイオン二次電池を提供することが可能となる。
【0026】
さらに、本発明によれば、このようなリチウムニッケル含有複合酸化物粉末を工業規模の生産においても、効率的に製造可能な方法を提供することができるため、本発明の工業的意義はきわめて大きい。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1図1は、本発明の実施例1で得られたリチウムニッケル含有複合酸化物を示すSEM写真(2000倍)である。
図2】本発明のリチウムニッケル含有複合酸化物の製造工程を示すフローチャートである。
図3図3は、従来の粒子形状を備え、かつ、本発明における出発材料となる、リチウムニッケル含有複合酸化物粒子を示すSEM像である。
図4図4は、電池評価に使用した2032型コイン電池の概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明者らは、出発材料として、前駆体ではなく、すでに得られた層状岩塩型の結晶構造を備えるリチウムニッケル含有複合酸化物粒子を用い、かつ、所定のフラックスを用いることにより、結晶構造の乱れが小さく、結晶性が高く、粒径も大きく、かつ、凝集の少ない一次粒子から主として構成される、リチウムニッケル含有複合酸化物を得ることができるとの知見を得た。
【0029】
本発明は、この知見に基づき完成したものである。以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0030】
(1)リチウムニッケル含有複合酸化物
本発明は、遷移金属として主としてニッケル(Ni)を含有するリチウムニッケル含有複合酸化物に係る。特に、本発明のリチウムニッケル含有複合酸化物は、層状岩塩型の結晶構造を備え、X線源としてCu-Kα線を用いたX線粉末回折から得られる(003)面と(104)面に帰属するピーク強度の比が1.2以上であることを特徴とする。
【0031】
[組成]
本発明は、上述の通り、リチウムニッケル含有複合酸化物の結晶性を高くすること、および、一次粒子径が大きい一次粒子で構成することに特徴があり、リチウムニッケル含有複合酸化物が、層状岩塩型の結晶構造を備える限り、その組成に限定されることはなく、遷移金属として主としてニッケル(Ni)を含有するリチウムニッケル含有複合酸化物に広く適用可能である。なお、ニッケルを主として含むとは、リチウムを除く、遷移金属および添加金属元素の総量に対して、原子比でニッケルが0.5以上の割合で含まれることを意味する。特に、本発明は、コバルト(Co)、あるいは、アルミニウム(Al)を添加元素として含むリチウムニッケル含有複合酸化物からなる正極活物質に好適に適用される。
【0032】
より具体的には、本発明のリチウムニッケル含有複合酸化物は、一般式:Li1+uNiCoAl(ただし、-0.03≦u≦0.10、x+y+z=1、0.50≦x≦1.0、0≦y≦0.50、0≦z≦0.10)で表される組成を有することが好ましい。
【0033】
本発明において、リチウム(Li)量を示すuの値は、-0.03以上0.10以下、好ましくは-0.02以上0.05以下、より好ましくは0以上0.04以下の範囲に調整される。これにより、このリチウムニッケル含有複合酸化物を正極材料として用いた二次電池において、十分な充放電容量および出力特性を確保することができる。これに対して、uの値が-0.03未満では、二次電池の正極抵抗が大きくなり、出力特性が低下することとなる。一方、uの値が0.10を超えると、二次電池の充放電容量および出力特性が低下することとなる。
【0034】
ニッケル(Ni)は、二次電池の高電位化および高容量化に寄与する元素であり、その含有量を示すxの値は、0.50以上1.0以下、好ましくは0.75以上0.95以下、より好ましくは0.80以上0.85以下の範囲に調整される。xの値が0.50未満では、この正極活物質を用いた二次電池の充放電容量を向上させることができない。
【0035】
コバルト(Co)は、充放電サイクル特性の向上に寄与する元素であり、その含有量を示すyの値は、0.50以下、好ましくは0.10以上0.30以下、より好ましくは0.10以上0.20以下の範囲に調整される。yの値が0.50を超えると、この正極活物質を用いた二次電池の充放電容量が大幅に低下することとなる。
【0036】
アルミニウム(Al)は、熱安定性の向上に寄与する元素であり、その含有量を示すzの値は、0.10以下、好ましくは0.01以上0.08以下、より好ましくは0.01以上0.05以下の範囲に調整される。zの値が0.10を超えると、Redox反応に寄与する金属元素が減少するため、充放電容量が低下することとなる。
【0037】
本発明のリチウムニッケル含有複合酸化物においても、二次電池の耐久性や出力特性をさらに改善するため、ニッケル、コバルト、およびアルミニウムに加えて、追加的な添加元素を含有させることも可能である。このような添加元素としては、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、チタン(Ti)、バナジウム(V)マグネシウム(Mg)、ジルコニウム(Zr)、ストロンチウム(Sr)、ケイ素(Si)、W(タングステン)、Mo(モリブデン)、Cr(クロム)、Nb(ニオブ)の群から選択される1種以上を用いることができる。
【0038】
これらを含有させる場合には、添加元素の含有量を、遷移金属および添加元素の総量に対する原子比で、0.15以下、好ましくは0.10以下の範囲に調整することが好ましい。
【0039】
なお、アルミニウムおよび追加的な添加元素は、リチウムニッケル含有複合酸化物の粒子内部に均一に分散させてもよく、その粒子表面を被覆させてもよい。さらには、粒子内部に均一に分散させた上で、その表面を被覆させてもよい。
【0040】
また、リチウム、ニッケル、コバルト、アルミニウム、および追加的な添加元素の含有量は、ICP発光分光分析法により測定することができる。
【0041】
[結晶構造およびリチウム席占有率]
本発明のリチウムニッケル含有複合酸化物は、層状岩塩型の結晶構造を有し、高い結晶性を備えている。具体的には、本発明のリチウムニッケル含有複合酸化物を構成する粒子における3a、3b、6cの各サイトを[Li1+u3a[NiCoAl3b[O6cで表示した場合、X線回折のリートベルト解析から得られる3aサイトのリチウム席占有率が96.0%以上、好ましくは96.5%以上、より好ましくは97.0%以上、さらに好ましくは98.0%以上である。このような高いリチウム席占有率を有することにより、このリチウムニッケル含有複合酸化物を正極材料として用いた二次電池において、高い充放電容量を実現することが可能となる。
【0042】
[粒子性状]
本発明のリチウムニッケル含有複合酸化物において、一次粒子の平均粒径は、好ましくは2.0μm以上であり、より好ましくは2.5μm~50μmの範囲であり、さらに好ましくは3.0μm~10μmの範囲である。一次粒子の平均粒径を2.0μm以上とすることで、正極活物質を、粒界がなく比較的大きな一次粒子により構成することができ、もって、これを正極材料として用いた二次電池において、サイクル特性や保存特性を向上させることが可能となる。ただし、一次粒子の平均粒径が50μmを超えると、比表面積が小さくなりすぎるため、出力特性が著しく悪化することとなる。
【0043】
なお、一次粒子の平均粒径は、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いた観察により測定することができる。具体的には、2視野以上のSEM写真を撮影した後、1視野あたり100個以上の一次粒子について、その最大径を測定し、これらの測定値の平均値(相加平均)を算出することにより求めることができる。
【0044】
また、本発明のリチウムニッケル含有複合酸化物において、BET比表面積は、好ましくは0.35m/g以下であり、より好ましくは0.20m/g~0.35m/gの範囲であり、さらに好ましくは、0.25m/g~0.32m/gの範囲である。BET比表面積を適度に小さくすることにより、充放電の繰り返しによる表面性状の劣化を抑制することができ、得られる二次電池のサイクル特性を改善することが可能となる。
【0045】
[ピーク強度比]
本発明のリチウムニッケル含有複合酸化物の層状岩塩型の結晶構造において、X線源としてCu-Kα線を用いた粉末X線回折から得られる、(003)面と(104)面に帰属するピーク強度(ピークトップの強度からバックグラウンドを差し引いた強度)の比「(003)/(104)」が、1.2以上である。このピーク強度の比「(003)/(104)」から、結晶構造の乱れを判断することができる。たとえば、カチオンミキシングが生じている場合、すなわち、結晶構造が層状岩塩型から岩塩型へ近づく場合、(003)面に帰属するX線回折強度が小さくなる。このとき、このピーク強度の比「(003)/(104)」の値が小さくなる。したがって、このピーク強度比が大きいほど、乱れの少ない層状岩塩型構造であることを意味する。
【0046】
本発明においては、このピーク強度の比「(003)/(104)」は、1.5以上であることがより好ましく、1.7以上であることがさらに好ましい。
【0047】
また、本発明において、X線源としてCu-Kα線を用いた粉末X線粉末回折から得られる、(006)面、(102)面、および(101)面に帰属するピーク強度(ピークトップの強度からバックグラウンドを差し引いた強度)の関係が、[(006)+(102)]/(101)≦0.6を満たすことが好ましい。このピーク強度の比[(006)+(102)]/(101)により、層状岩塩型構造の乱れをさらに詳細に判定することが可能となる。
【0048】
本発明においては、(006)面、(102)面、(101)面に帰属するピーク強度の関係として、[(006)+(102)]/(101)が、0.55以下であることがより好ましく、0.5以下であることがさらに好ましい。
【0049】
(2)リチウムニッケル含有複合酸化物の製造方法
本発明のリチウムニッケル含有複合酸化物の製造方法は、
層状岩塩型の結晶構造を備え、遷移金属として主としてニッケル(Ni)を含有するリチウムニッケル含有複合酸化物粒子と、リチウム化合物と、アルカリ金属化合物とを混合して、混合粉末を得る、混合工程と、
前記混合粉末を、800℃~1000℃の範囲の温度で焼成して、焼結粒子を得る、第一の焼成工程と、
前記焼結粒子を洗浄し、前記リチウム以外のアルカリ金属を除去する、洗浄工程と、
前記洗浄工程後の焼結粒子を、リチウム化合物と混合し、酸化性雰囲気下にて、600℃~800℃の範囲の温度で焼成して、層状岩塩型の結晶構造を備え、X線源としてCu-Kα線を用いたX線粉末回折から得られる(003)面と(104)面に帰属するピーク強度の比が1.20以上である、リチウムニッケル含有複合酸化物を得る、第二の焼成工程と、
を備える。
【0050】
なお、最終的に得られるリチウムニッケル含有複合酸化物が、一般式:Li1+uNiCoAl(ただし、-0.03≦u≦0.10、x+y+z=1、0.50≦x≦1.00、0≦y≦0.50、0≦z≦0.10)で表される組成を有するように、混合工程や第二の焼成工程により混合される、リチウムニッケル含有複合酸化物粒子およびリチウム化合物の投入量を調整することが好ましい。
【0051】
[前駆体]
本発明では、最終的に得られるリチウムニッケル含有複合酸化物の前駆体として、ニッケル含有複合水酸化物、あるいは、このニッケル含有複合水酸化物を加熱処理することにより得られたニッケル含有複合酸化物に代替して、リチウムニッケル含有複合酸化物粒子それ自体を用いることを特徴とする。
【0052】
一般に、ニッケル含有複合酸化物またはニッケル含有複合水酸化物を前駆体としたリチウムニッケル複合酸化物の合成は、700℃以上の高温で行われる。電池性能に影響を与える一次粒子径の成長や結晶性の向上という観点から、温度が高く、反応時間が長いことが望ましい。一方で、加熱時間の長時間化は、カチオンミキシングを促進するため、電池性能を劣化させる傾向にある。これら二律背反にある課題を同時に達成するためには、ニッケル含有複合酸化物のリチオ化反応時間を短縮することが有効である。本発明では、この観点から、あらかじめリチウム含有複合酸化物微粒子を前駆体として用いることにより、短時間の反応でも目的のリチウムニッケル含有複合酸化物を得ることができ、不要なカチオンミキシングの抑制が図られている。
【0053】
[混合工程]
上記混合工程における、混合方法は、これらを均一に混合することができる限り、特に制限されることはなく、たとえば、乳鉢を用いて混合したり、シェーカーミキサ、レディーゲミキサ、ジュリアンミキサ、Vブレンダなどの混合機を用いて混合したりすることができる。
【0054】
(a)混合工程におけるアルカリ金属化合物の混合量
前記混合工程における、アルカリ金属化合物の混合量は、アルカリ金属化合物の物質量の、リチウムニッケル含有複合酸化物粒子を構成するリチウムを除く金属元素の物質量とアルカリ金属化合物の物質量との合計に対する比率(モル比)が、0.05~0.99の範囲となるように設定されることが好ましい。アルカリ金属化合物は、リチウムニッケル含有複合酸化物を溶質とした場合の融剤(フラックス)として用いられる。したがって、アルカリ金属化合物の混合量を設定するための前記比率(モル比)は、溶質の結晶成長の促進など、フラックス法の制御因子を考慮して、上記範囲で適宜設定することができる。前記比率(モル比)は、より好ましくは0.10~0.50の範囲になるように設定される。
【0055】
(b)混合工程で用いるフラックスの物質種
アルカリ金属化合物は、少なくともリチウム(Li)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)から選ばれる一種以上のアルカリ金属を含有する、塩化物、炭酸塩、硫酸塩、または、これらの混合物を用いることが好ましい。結晶成長に適したフラックスには,目的化合物と固溶体を形成しないこと、洗浄工程により容易に溶解除去できること、加えて、化学結合性やイオン結合性、イオン半径、イオンの価数などの類似性と相似性の適当なバランスが求められる。アルカリ金属化合物は、リチウムニッケル含有複合酸化物と固溶体を形成しない。加えて、水に可溶なため容易に溶解除去できる。その他、ナトリウム(1.02Å)やカリウム(1.38Å)は、リチウム(0.76Å)よりもイオン半径が大きいため、イオン交換による格子内リチウムイオンの脱離を起こしにくい。また、溶質であるリチウムニッケル含有複合酸化物と適度な類似性(Liイオン、アルカリ金属)と相違性(アニオン)を有しており、高温保持中における溶質の溶解力と冷却時の結晶析出能力を併せ持つことが予想される。このため、アルカリ金属化合物をフラックスとして使用することにより、高品質な一次粒子を育成することが可能になると考えられる。
【0056】
これらの化合物のうち、水への溶解度が高く、洗浄工程における洗浄除去が容易に行うことができること、適切な温度範囲に融点をもつことから、アルカリ金属の塩化物をフラックスとして用いることが好ましい。
【0057】
塩化物の例としては、塩化リチウム(融点605℃)、塩化ナトリウム(融点801℃)、塩化カリウム(融点776℃)、または、これらの混合物、たとえば共晶組成の混合物を挙げることができる。これらは、溶質の結晶成長度合いを制御する目的で、適宜選択して用いることができる。
【0058】
(c)混合工程におけるリチウム化合物の混合量
混合工程において、リチウム化合物の混合量は、前記リチウムニッケル含有複合酸化物粒子を構成するリチウムを除く金属元素の物質量に対する前記リチウム化合物中のLiの物質量の比率(モル比)が、0~0.30の範囲となるように設定されることが好ましい。リチウム化合物は、第一の焼成工程において、揮発するリチウムの成分を補うためのリチウム源である。取り扱い、入手の容易さなどから水酸化物、塩化物、酸化物、その他の無機塩、または任意の有機塩から選択して用いることができる。この点は、第二の焼成工程における場合も同様である。
【0059】
[第一の焼成工程]
第一の焼成工程は、混合工程で得られた、リチウムニッケル含有複合酸化物粒子と、リチウム化合物と、アルカリ金属化合物との混合粉末を、800℃~1000℃の範囲の温度で焼成し、焼結粒子(リチウムニッケル含有複合酸化物粒子の焼結体)を得る工程である。
【0060】
なお、焼成工程で用いる炉は、大気ないしは酸素気流中において、混合工程で得られた混合粉末を焼成することができる限り、特に制限されることはなく、バッチ式または連続式の炉のいずれも用いることができる。この点は、第二の焼成工程においても同様である。
【0061】
(a)焼成雰囲気
第一の焼成工程における雰囲気は、通例、大気雰囲気であるが、カチオンミキシングの生じにくさから、酸化性雰囲気とすることが好ましい。酸素濃度が18容量%~100容量%の範囲にある雰囲気とすることがより好ましく、上記酸素濃度の酸素と不活性ガスの混合雰囲気とすることが特に好ましい。すなわち、焼成は、大気ないしは酸素気流中で行うことが好ましく、電池特性を考慮すると、酸素気流中で行うことがより好ましい。
【0062】
(b)焼成温度
第一の焼成工程における焼成温度は、混合するフラックスの融点近傍以上の温度が好ましく、800℃~1000℃の範囲、好ましくは830℃~900℃の範囲とする。焼成温度が800℃未満では、アルカリ金属化合物からなるフラックスの溶融が不十分であり、ひいては、溶質であるリチウムニッケル複合酸化物の結晶成長が促進されないおそれがある。一方、焼成温度が1000℃を超えると、一次粒子を大きくすることはできるものの、カチオンミキシングが生じ、その結晶性が低下することとなる。また、リチウムニッケル複合酸化物からリチウム成分の過剰揮発が生じ、所定の組成からのずれが大きくなり特性面に悪影響を与えるおそれがある。
【0063】
なお、本発明においては、第一の焼成工程における、室温(25℃)から焼成温度までの昇温中における昇温速度、並びに、焼成温度から室温(25℃)までの降温中における降温速度は、任意であり、本発明はこれらの要素によって限定されることはないが、昇温速度は、30℃/h~1500℃/hの範囲に、好ましくは、60℃/h~1000℃/hの範囲にすることが好ましい。昇温速度が速い場合は、試料の温度が不均一に上昇するため、フラックスによる溶質の溶解が不均一となりやすく、昇温速度が遅い場合は、焼成工程の時間が長くなるために、生産性に問題が生じる。降温速度は、30℃/h~1000℃/hの範囲に、好ましくは、60℃/h~500℃/hの範囲にすることが好ましい。降温速度が速い場合は、溶質の再析出速度が速くなるために、リチウムニッケル複合酸化物の結晶性が低下するおそれがあり、降温速度が遅い場合は、生産性に問題が生じる。
【0064】
(c)焼成時間
第一の焼成工程において、焼成温度で保持する時間(焼成時間)は、好ましくは10時間以下、より好ましくは4時間以下とすることが好ましい。10時間を超えて焼成した場合、粒子サイズは増大するが、リチウムニッケル複合酸化物からのリチウム成分の揮発が過度に進行し、結晶性の低下を招くおそれがある。なお、本発明においては、前駆体であるリチウムニッケル含有複合酸化物粒子がすでに焼結しているため、混合粉末を焼成温度で保持するか否かについては任意であり、焼成時間が0であっても、昇温中に、上記の所定焼成温度(800℃以上)に達すれば、リチウムの適正な補充とともに、フラックスによる溶質の溶解および再析出による結晶成長促進効果が得られるため、一次粒子径を大きくすることが可能となる。したがって、上述の通り、焼成温度が800℃~1000℃の範囲に達している限り、焼成時間が0の場合も、混合粉末を800℃~1000℃の範囲の温度で焼成して焼結粒子を得る第一の焼成工程に含まれる。
【0065】
[洗浄工程]
洗浄工程は、焼成工程で得られた焼結粒子を洗浄し、フラックスであるアルカリ金属化合物に由来する成分(アルカリ金属元素)を除去する工程である。
【0066】
洗浄方法としては、特に制限されることなく、公知の方法を利用することができる。たとえば、アルカリ金属元素を溶解可能な液体、具体的には、水やアルコール中に焼結粒子を投入するとともに撹拌し、アルカリ金属元素の残渣を溶解した後、焼結粒子を公知の方法により濾別する方法を採用することができる。
【0067】
[第二の焼成工程]
第二の焼成工程は、上記洗浄工程後に、焼結粒子または焼結粒子とリチウム化合物との混合物を、酸化性雰囲気下にて、600℃~800℃の範囲の温度で再度焼成することとしている。これにより、第一の焼成工程において、カチオンミキシングにより乱れた結晶構造が回復し、充放電容量の低下などの特性低下を防止することができる。
【0068】
(a)焼成雰囲気
第二の焼成工程における雰囲気は、カチオンミキシングの防止のために、第一の焼成工程における雰囲気と同様に、酸化性雰囲気とすることが好ましく、酸素濃度が18容量%~100容量%の範囲にある雰囲気とすることがより好ましく、上記酸素濃度の酸素と不活性ガスの混合雰囲気とすることが特に好ましい。
【0069】
(b)焼成温度
第二の焼成工程における焼成温度は、洗浄後の焼結粒子とリチウム化合物とが固相反応を生じ、リチウムの拡散が進行する温度以上とすることが必要なる。ただし、リチウムの揮発を抑制するために、焼成温度は600℃~800℃の範囲に設定されることが好ましい。
【0070】
この温度範囲で焼結粒子または焼結粒子とリチウム化合物との混合物を焼成することにより、層状岩塩型構造における3aサイトへのニッケルの混入の防止を図りながら、リチウム化合物が融解しつつリチウムが拡散することができるため、一旦乱れた結晶構造を効果的に回復することができる。これに対して、焼成温度が600℃未満では、このような効果を十分に得ることができない。一方、焼成温度が800℃を超えると、リチウム成分の過剰揮発が生じるおそれがある。
【0071】
なお、本発明においては、第二の焼成工程における、室温(25℃)から焼成温度までの昇温中における昇温速度、並びに、焼成温度から室温(25℃)までの降温中における降温速度は、任意であり、本発明はこれらの要素によって限定されることはないが、昇温速度は、30℃/h~1500℃/hの範囲に、好ましくは、60℃/h~1000℃/hの範囲に、および、降温速度は、30℃/h~1000℃/hの範囲に、好ましくは、60℃/h~500℃/hの範囲にすることが好ましい。昇温速度および降温速度が速い場合は、昇温及び降温中の試料の熱分布が不均一となりやすく、リチウムニッケル複合酸化物の結晶性にばらつきが生じやすくなると考えられ、昇温速度および降温速度が遅い場合は、生産性に問題が生じる。
【0072】
(c)焼成時間
第二の焼成工程において、上記焼成温度にて一定保持する時間(焼成時間)は、1時間~20時間の範囲、好ましくは、2時間~8時間の範囲に設定することが好ましい。この焼成時間が1時間未満では、結晶構造を十分に回復させることができず、その結果、十分な充放電容量を得ることができなくなる。
【実施例
【0073】
以下、本発明について、実施例および比較例を用いて、さらに詳細に説明する。なお、本実施例は本発明の例示の一つであり、本発明の要旨を逸脱しない限りこれらに限定されることはない。
【0074】
(実施例1)
(1)リチウムニッケル含有複合酸化物粒子の作製
まず、硫酸ニッケル六水和物と硫酸コバルト七水和物とを、Ni:Co=82:15となる原子比で水に溶解し、1.9mol/Lの原料水溶液を調製した。この原料水溶液に、pH調整剤としての水酸化ナトリウム水溶液と、アンモニウムイオン供給体としてのアンモニア水を滴下しながら、液温を50℃、液温25℃基準でのpH値を12.0に調整し、ニッケルコバルト複合水酸化物粒子を共沈させた。
【0075】
次に、このニッケルコバルト複合水酸化物粒子に水を加えてスラリー化した。このスラリーを撹拌しながら、1.7mol/Lのアルミン酸ナトリウム水溶液とpH調整剤としての64質量%の硫酸を、Ni:Co:Al=82:15:3となる原子比で加えるとともに、液温25℃基準でのpH値を9.5に調整し、さらに1時間ほど撹拌を続けることで、ニッケルコバルト複合水酸化物粒子の表面をアルミニウム化合物で被覆した。
【0076】
得られたアルミニウム被覆ニッケルコバルト複合水酸化物粒子(以下、「複合水酸化物粒子」という)を水洗、濾過、および乾燥し、粉末状の複合水酸化物粒子を得た。ICP発光分光分析法によるNi、Co、およびAl成分の分析の結果、この複合水酸化物粒子は、一般式:Ni0.82Co0.15Al0.03(OH)で表されることが確認された。
【0077】
この複合水酸化物粒子と、水酸化リチウム一水和物とを所定の物質量比で混合し、このリチウム混合物を、酸素雰囲気にて、730℃の温度で24時間焼成することにより、本発明における出発材料としての、リチウムニッケル含有複合酸化物粒子、より具体的には、リチウムニッケルコバルトアルミニウム複合酸化物粒子を得た。焼結粒子の元素分率(原子数比)を、ICP発光分光分析法によりLi、Ni、Co、およびAlの成分分析を行った結果、この焼結粒子は、Li1.03Ni0.82Co0.15Al0.03
で表されることが確認された。
【0078】
(2)リチウムニッケル含有複合酸化物の作製
(2-1)混合工程
上記で得られたリチウムニッケル含有複合酸化物粒子と、リチウム化合物としての水酸化リチウム一水和物(和光純薬工業株式会社製、純度98.0%~102.0%)と、アルカリ金属化合物としての塩化ナトリウム(和光純薬工業株式会社製、純度99.5%)とを、リチウムニッケル含有複合酸化物粒子の、ニッケルとコバルトとアルミニウム元素の物質量の合計に対するリチウム化合物中のLiの物質量の比率が0.2となるように、かつ、塩化ナトリウムの物質量の、リチウムニッケル含有複合酸化物粒子のニッケルとコバルトとアルミニウム元素と塩化ナトリウムの物質量の合計に対する比率が0.2となるように、それぞれ秤量し、乳鉢を用い混合し、混合粉末を得た。
【0079】
(2-2)第一の焼成工程
上記混合粉末を、酸素雰囲気下にて、室温(25℃)から830℃まで、1000℃/hの昇温速度で昇温し、830℃で2時間保持し、その後、200℃/hの降温速度で降温することにより、焼成して、焼結粒子を得た。
【0080】
(2-3)洗浄工程
続いて、得られた焼結粒子をビーカーに入れ、焼結粒子2gに対して約1000mlの水(温度90℃)を加えて、洗浄し、その後、吸引濾過によってフラックス成分を除去した後、真空定温乾燥器にて120℃の温度で5時間乾燥させた。この乾燥後の焼結粒子の元素分率(原子数比)を、ICP発光分光分析法によりLi、Ni、Co、Alの成分分析を行った結果、この焼結粒子は、Li0.97Ni0.82Co0.15Al0.03であった。
【0081】
(2-4)第二の焼成工程
洗浄後の焼結粒子に、水酸化リチウム一水和物を、リチウムニッケルコバルト含有複合酸化物粒子(焼結粒子)に対して、ICP発光分光分析法により得られた組成式におけるLiの不足分を補う量として、0.05の物質量となるよう秤量し、乳鉢を用いて混合した後、酸素雰囲気下にて、室温(25℃)から750℃まで、1000℃/hの昇温速度で昇温し、750℃で5時間保持し、その後、200℃/hの降温速度で降温することにより、焼結粒子を焼成して、正極活物質としてのリチウムニッケル含有複合酸化物(リチウムニッケルコバルトアルミニウム複合酸化物)を得た。
【0082】
ICP発光分光分析法によりLi、Ni、Co、Alの成分分析をした結果、最終的に得られた粒子の元素分率(原子比)は、見積もられた構成元素比(原子数比)と同様に、Li1.02Ni0.8Co0.2Al0.022であることが確認された。
【0083】
粉末X線回折測定(使用機器:スペクトリス株式会社製 X’pert Pro MPD、測定条件:Cu-Kα線、加速電圧45kV)より層状岩塩型の結晶構造(α-NaFeO構造)を有することが確認された。粉末X線回折強度から得られた、ピーク強度比[(003)/(104)]は、1.91であり、[(006)+(102)]/(101)は、0.48であった。また、リートベルト解析により得られたLi席占有率は、98.0%であった。
【0084】
SEM(使用機器:JEOL社製、JCM-5700)による観察より、一次粒子の平均粒子径が3.4μmであることが確認された。また、粉末のBET比表面積は0.31m/gであり、かつ、フラックス成分に由来するナトリウムの含有量は、0.51原子%(Ni、Co、Alの合計原子数を100とした場合)であることが確認された。
【0085】
(3)二次電池の作製および評価
得られたリチウムニッケル含有複合酸化物からなる正極活物質を、二次電池の正極材料として用い、その電池特性の評価、具体的には充放電特性と保持特性を測定し、正極活物質として用いた場合における適性の良否判定を行った。
【0086】
図4に示すような2032型コイン電池1を作製した。この2032型コイン電池1は、ケース2と、ケース2内に収容された電極3とから構成される。
【0087】
ケース2は、中空かつ一端が開口された正極缶2aと、この正極缶2aの開口部に配置される負極缶2bとを有しており、負極缶2bを正極缶2aの開口部に配置すると、負極缶2bと正極缶2aとの間に電極3を収容する空間が形成されるように構成されている。
【0088】
電極3は、正極3a、セパレータ3cおよび負極3bとからなり、この順で並ぶように積層されており、正極3aが正極缶2aの内面に接触し、負極3bが負極缶2bの内面に接触するようにケース2に収容されている。
【0089】
なお、ケース2は、ガスケット2cを備えており、このガスケット2cによって、正極缶2aと負極缶2bとの間が電気的に絶縁状態を維持するように固定されている。また、ガスケット2cは、正極缶2aと負極缶2bとの隙間を密封して、ケース2内と外部との間を気密かつ液密に遮断する機能も有している。
【0090】
この2032型コイン電池1を、以下のようにして作製した。はじめに、上述の正極活物質を90質量%、アセチレンブラックを5質量%、PVDFを5質量%ずつ秤量し、これらを混合した後、これにNMP(n-メチルピロリドン)を適量加えてペースト状にした。この正極合材ペーストを、アルミニウム箔上に、正極活物質の面密度が3mg/cm~5mg/cmの範囲内となるように塗布し、120℃で真空乾燥した後、直径が14mmの円板状に打ち抜くことで、正極3aを作製した。なお、負極3bにはリチウム金属を、電解液には、1MのLiPFを支持塩とするエチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)を3:7の比で含む混合液を使用し、露点が-80℃に管理されたAr雰囲気のグローブボックス内で、2032型コイン電池1を組み立てた。
【0091】
[充放電容量]
2032型コイン電池1を作製してから24時間程度放置し、開回路電圧OCV(Open Circuit Voltage)が安定した後、25℃で、正極に対する電流密度を正極活物質重量に対して10mA/gとして、カットオフ電圧が4.3Vとなるまで充電し、1時間の休止後、カットオフ電圧が3.0Vになるまで放電したときの放電容量を測定する充放電試験を行い、初期放電容量を求めることにより、充放電容量を評価した。この際、充放電容量の測定には、マルチチャンネル電圧/電流発生器(株式会社アドバンテスト製、R6741A)を用いた。
【0092】
[保持特性]
2032型コイン電池1を作製してから24時間程度放置し、開回路電圧OCV(Open Circuit Voltage)が安定した後、60℃で、正極に対する電流密度を正極活物質重量に対して100mA/gとして、カットオフ電圧が4.300Vとして定電流充電を行い、その後、電圧を4.300Vに保持したまま、電流値が10mA/gとなるまで、定電圧充電を行った。その後60℃で70時間保持した時点での電池電圧を測定した。
【0093】
実施例1の製造条件および二次電池の特性の評価結果について、表1および表2に示す。
【0094】
(実施例2)
第一の焼成工程における、焼成温度を850℃、および焼成時間を0時間に変更したこと以外は、実施例1と同様の条件で、リチウムニッケル含有複合酸化物からなる正極活物質を得た。得られた正極活物質のリチウム席占有率および平均一次粒子径を測定するとともに、この正極活物質を正極材料として用いた二次電池を同様に作製し、その初期放電容量を測定した。
【0095】
(実施例3)
第一の焼成工程における、焼成温度を850℃、および焼成時間を2時間に変更したこと以外は、実施例1と同様の条件で、リチウムニッケル含有複合酸化物からなる正極活物質を得た。得られた正極活物質のリチウム席占有率および平均一次粒子径を測定するとともに、この正極活物質を正極材料として用いた二次電池を同様に作製し、その初期放電容量を測定した。
【0096】
(実施例4)
第一の焼成工程における、焼成温度を900℃、および焼成時間を0時間に変更したこと以外は、実施例1と同様の条件で、リチウムニッケル含有複合酸化物からなる正極活物質を得た。得られた正極活物質のリチウム席占有率および平均一次粒子径を測定するとともに、この正極活物質を正極材料として用いた二次電池を同様に作製し、その初期放電容量を測定した。
【0097】
(比較例1)
第一の焼成工程における、焼成温度を900℃、および焼成時間を5時間とし、さらに第二の焼成工程を実施しなかったこと以外は、実施例1と同様の条件で、リチウムニッケル含有複合酸化物からなる正極活物質を得た。得られた正極活物質のリチウム席占有率および平均一次粒子径を測定した。
【0098】
(比較例2)
混合工程における水酸化リチウム一水和物の投入量を、出発材料としてのリチウムニッケル含有複合酸化物粒子の物質量に対して0.1倍の物質量とし、第一の焼成工程における、焼成温度を900℃、および焼成時間を5時間とし、さらに第二の焼成工程を実施しなかったこと以外は、実施例1と同様の条件で、リチウムニッケル含有複合酸化物からなる正極活物質を得た。得られた正極活物質のリチウム席占有率および平均一次粒子径を測定した。
【0099】
(比較例3)
混合工程において水酸化リチウム一水和物を投入せず、第一の焼成工程における、焼成温度を900℃、および焼成時間を5時間とし、さらに第二の焼成工程を実施しなかったこと以外は、実施例1と同様の条件で、リチウムニッケル含有複合酸化物からなる正極活物質を得た。得られた正極活物質のリチウム席占有率および平均一次粒子径を測定するとともに、この正極活物質を正極材料として用いた二次電池を同様に作製し、その初期放電容量を測定した。
【0100】
(比較例4)
実施例1における(1)リチウムニッケル含有複合酸化物粒子の作製と同様の条件で、リチウムニッケル含有複合酸化物からなる正極活物質を得た。得られた正極活物質のリチウム席占有率、平均一次粒子径、およびBET比表面積を測定するとともに、この正極活物質を正極材料として用いた二次電池を同様に作製し、その初期放電容量および保存後電圧を測定した。
【0101】
【表1】
【0102】
【表2】
【0103】
以上の評価の結果、実施例1のリチウムニッケル含有複合酸化物からなる正極活物質は、比較例4の従来のリチウムニッケル含有複合酸化物からなる正極活物質と比較して、初期放電容量を同程度に保持しつつ、優れた保存特性を示すことが理解される。本発明における、高い初期放電容量と、保存特性の向上は、本発明により合成された正極活物質では、その一次粒子径が大きいために、粒界の影響を受けにくいことや、特定のフラックスを用いた合成によって結晶性が高くなったためと考えられる。
【符号の説明】
【0104】
1 コイン型電池
2 ケース
2a 正極缶
2b 負極缶
2c ガスケット
3 電極
3a 正極
3b 負極
3c セパレータ

図1
図2
図3
図4